孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロヒンギャ難民の海上漂流問題で一定の前進 抜本的な対策は望めないながらも、注目される29日の会合

2015-05-20 22:01:16 | 難民・移民

(タイ南部リペ島近くのアンダマン海で、密航船に乗って漂流するロヒンギャ族を尋問するタイ海軍当局者=タイ海軍提供(EPA=時事)【5月20日 時事】)

現在もおよそ4000人が海上で漂流
ロヒンギャ難民については、5月16日ブログ“漂流するロヒンギャ難民 アンダマン海で繰り広げられる「人間ピンポン」ゲーム”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150516)で取り上げたように、市民権を認めないミャンマーやバングラデシュから密航業者の手引きで海上に脱出したものの、タイ・マレーシア・インドネシアなど周辺国は受け入れを拒否して船を領海外に追い返すという、「人間ピンポン」とも形容される悲惨な状況にあります。

****ロヒンギャの人たち“4000人が漂流****
ミャンマーの少数民族のロヒンギャの人たちなどを乗せた船がインドネシアやマレーシアの沖合にたどり着いたものの受け入れを拒まれ行き場を失っている問題で、国連は、現在もおよそ4000人が海上で漂流しているとして早急な対応を求めています。

ミャンマーで抑圧されているイスラム教徒の少数民族ロヒンギャの人たちなどを乗せた船は、今月、相次いでインドネシアやマレーシアの沖合にたどり着いたものの受け入れを拒まれ、多くが行き場を失って海上で漂流しています。

UNHCR=国連難民高等弁務官事務所は、19日、ことしに入って、船でミャンマーなどから逃れようとしたロヒンギャなどの人たちはおよそ2万5000人に上り、このうち少なくとも300人が海への転落や飢えによって死亡したことを明らかにしました。

また、現在もおよそ4000人が行き場を失って海上で漂流し、なかには40日以上にわたって漂流している船もあるということです。

国連やIOM=国際移住機関などは共同声明を発表し、インドネシアやマレーシア、タイなどの周辺国に対して人間としての尊厳を守るため上陸を認めるよう求めました。(後略)【5月20日 NHK】
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当然ながら、船内は筆舌に尽くしがたい状況です。

“衛生状態は劣悪で、数百メートル離れた海上まで異臭が漂っていた”【5月18日 読売】

“ミャンマーを出てから3か月間、海上をさまよったという35歳のロヒンギャの男性は「人々はすし詰めで身動きは取れず、トイレにも行けなかった」と船の中の過酷な状況を説明しました。

そして、「食料がほとんどなくなり、一緒に乗っていたバングラデシュ人との間で争いになった。殴られ、海に突き落とされ、私の友人も亡くなった」と述べ、涙を流していました。”【5月20日 NHK】

上記の争いでは100人が死亡したとも。狭い船内で100人が死亡する争いというのは想像しがたい生き地獄です。

****インドネシア沖で沈没した難民船で水や食料をめぐる死闘、少なくとも100人死亡****
インドネシア沖で沈没した船の上で14日、ミャンマーで迫害を受けている少数民族ロヒンギャ人とバングラデシュ人の難民の間で水や食料をめぐる激しい戦闘が発生していた。

斧やナイフ、金属棒などで戦い、少なくとも100人が死亡した。生存者が明らかにした。両陣営ともに相手側が先に攻撃を仕掛けたと主張している。(後略)【5月20日 AFP】
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【「時間切れが迫っている」 高まる国際批判
迫害が続くミャンマーの状況にしても、周辺国の難民受入問題にしても、政治的には難しい問題ではありますが、まずは現在漂流している数千人の命をなんとか救うことが最優先課題です。

****漂流者の救命優先を=ロヒンギャ密航急増で警告―国際機関****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は19日、女性や子供を含む約2000人が密航船5隻に分乗し、ミャンマー・バングラデシュ沖合の洋上を40日以上も漂流しているとして、周辺の東南アジア諸国が早期救助に着手するよう呼び掛けた。

他の密航者を加えるとこの海域での漂流者は計4000人に上ると推定され、船内の水や食料の蓄えが欠乏する中、UNHCRは「時間切れが迫っている」と警告している。

アンダマン海やベンガル湾では、迫害や貧困から逃れようと密航を企てたミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ族やバングラデシュ人を乗せた船が最近、相次いで発見されている。

周辺各国は水や食料などの支援物資を提供するが、大半は接岸を拒んで追い返している。
UNHCR報道官は「物資が少なくなると密航者の間で小競り合いが起き、死亡したり、船外に投げ出されたりする人もいるとの未確認情報がある」と述べ、劣悪な環境下で命懸けの航海が長期化することに懸念を示した。

UNHCRと国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)、国際移住機構(IOM)などは19日、インドネシア、マレーシア、タイ3カ国の指導者に対し、漂流を続ける密航者の安全な入国や救命活動、人間としての尊厳の尊重などを最優先するよう求める共同声明を発表した。【5月20日 時事】 
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この問題では、対応策を話し合うため29日にバンコクで関係国会合が開催される予定ですが、そこまで何もせずに待つことは許されない状況です。

インドネシアとマレーシアが一時収容施設を設置
そうした「時間切れが迫っている」状況、「人間ピンポン」ゲームへの高まる国際批判を受けて、タイ・マレーシア・インドネシアが当面の救済策を明らかにしています。

****漂流難民、一時収容所設置へ=ロヒンギャ族、追い返さず―3カ国が会合・マレーシア****
ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ族ら密航者多数を乗せた船が海上で漂流している問題をめぐり、マレーシア、タイ、インドネシア3カ国の外相は20日、マレーシアのプトラジャヤで会合を開き対応策を協議した。

共同声明によれば、当面の対策として、現在海上にいるとみられる約7000人の一時収容所をインドネシアとマレーシアが設置。1年以内に本国送還か本国以外への移住を進めることなどで合意した。

アンダマン海やベンガル湾を漂流する密航船に対し、周辺各国はこれまで水や食料などを提供するものの、大半は接岸を拒んでいた。

一時収容施設の設置で、従来の「追い返し政策」を転換することになる。
ただ、ミャンマー政府はロヒンギャ族を自国民とは認めておらず、送還を受け入れるかどうか不透明だ。【5月20日 時事】
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一時収容所をインドネシアとマレーシアが設置ということ、また、“協議に参加したタイのタナサック・パティマパコーン外相は共同会見には出席しなかった。”【5月20日 AFP】ということで、かねてより難民発生源となっているミャンマー政府の責任を強く主張しているタイと、ロヒンギャと同じイスラム教徒が多いインドネシア・マレーシアとでは、温度差があったのでしょうか。

もちろん今回対策は、“1年以内に本国送還か本国以外への移住を進める”という前提の一時的な対応ですが、とにもかくにも一定の前進でしょう。

ただ、1年後のどうなるのか・・・という問題は残りますが。
“本国以外への移住”ということでは、日本も無関係ではないのですが・・・・人道問題にせよ、経済問題にせよ、難民・移民を受け入れる寛容さは今の日本には望めません。

ミャンマーも“態度を軟化”】
最大の責任を有しているミャンマーはロヒンギャを自国民として認めておらず、国内に強い反ロヒンギャ感情がありますので、難民の流出を防ぐ、あるいは帰国を促す抜本的な解決策は現在のところ望めません。

そうしたなかにあって、さすがにミャンマー政府も国際批判への一定の配慮は示しています。

****海上難民に「人道支援の用意」=ミャンマー政府が表明****
ミャンマーから周辺国を目指すイスラム系少数民族ロヒンギャ族ら多数の密航者を乗せた船が漂流している問題で、ミャンマー外務省は20日、国営メディアを通じて声明を発表し、海上難民に「人道支援を提供する用意がある」と表明した。

ロヒンギャ族を自国民と認めていないミャンマー政府は当初、この問題への対応策を話し合うため29日にバンコクで開催される関係国会合をボイコットする可能性を示唆するなど、強硬姿勢を示していた。

しかし、ミャンマー政府に対する国際社会の反発が強まっているのを受け、態度を軟化させたとみられる。【5月20日 時事】 
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ミャンマーはこれまで29日の会合について、「(地域の国際犯罪としての)人身取引問題の協議であるなら出席する」が「“ロヒンギャ”がテーマなら参加はしない」という頑なな姿勢で、「根本的な原因は人身売買の増加だ」と、「賄賂により長年、人身売買を黙認してきた」(AP)とされるタイ政府を批判していました。

今回明らかにした「人道支援を提供する用意がある」というのが、どういう内容なのかは知りませんが、“態度を軟化させたとみられる”ということであれば、それも一定の前進でしょう。

【“内政不干渉”では済まされない問題
これまでASEAN加盟の東南アジア諸国は、他国の人道問題などに関して“内政不干渉”を原則とすることで“波風を立てずに”やってきましたが、ロヒンギャの問題は他国の政策のつけが自国にまわってくるという問題でもあります。

29日の関係国会議で、“ミャンマーがロヒンギャを自国民として認めて、今後の生活の安全を保障する・・・・”といったことはありえませんが、現状改善に資する何らかの対応がとられることを強く期待します。
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