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(激化する米中の高関税措置の応酬【8月3日 朝日】)
【中国:不透明ながら、「強国路線」への批判も】
アメリカ・トランプ政権と中国は、互いに関税を拡大強化する“叩きあい”に突入しています。
第1弾の340億ドル相当は7月6日発動、第2弾の160億ドル相当も8月23日に発動予定、9月にはアメリカ側は2000億相当へ25%関税を拡大することを表明していますが、対抗する中国側は(もともと、アメリカからの輸入額がそこまで大きくないため)600億ドルと、やや“弾切れ”の感も。
両国がどこまで本気でやるつもりなのか・・・は、これからの話ですが(トランプ・習近平両氏とも、このまま叩きあいを続けるほど愚かではないとは思いますが)、すでにいろんな影響が出ています。
まず中国。
中国では、高級避暑地として知られる河北省秦皇島市のビーチリゾート北戴河は、毎年夏に共産党の最高指導部や長老らが集まり、今後の政策や党人事を話し合う非公式の重要会議「北戴河会議」が開催されている。
この“政治の季節”に向けて、個人崇拝的な傾向を強め、米中貿易戦争という強硬路線を走ってきた習近平国家主席への不満・批判が強まっている・・・・という話は、7月31日ブログ「中国 “政治の季節”北戴河会議を前に飛び交う“ウワサ”は変化の予兆か?」でも取り上げました。
****過度な国威発揚、中国で批判「国をミスリード」****
中国の 習近平 ( シージンピン )政権が、貿易問題などで圧力をかけ続けるトランプ米政権との対決姿勢を強めている。
共産党の長老らから苦言を受け、習国家主席にとって逆風となる動きも相次いでいるものの、自らの「強国路線」を堅持する構えのようだ。
中国政府は8日、約160億ドル(約1・8兆円)相当の米国製品を対象に、23日から25%の関税を上乗せする報復措置を発動すると発表した。米国が中国製品に対する関税上乗せ措置の第2弾を、同じ23日に発動させることに対抗するものだ。中国商務省は「正当な権益を守るため、必要な反撃をせざるを得ない」と、改めて強い姿勢で臨むと強調した。
出口の見えない米中貿易摩擦を巡っては、7月末の党政治局会議が国内経済への影響を認め、長期化に備えて景気を下支えするためのインフラ投資強化など積極財政策を打ち出した。
こうした中、習氏の母校・清華大の1000人に及ぶとされる卒業生が、同大の調査研究機関「国情研究院」の 胡鞍鋼 ( フーアンガン )院長の辞職を求める書簡をネット上に公開した。
胡氏は習政権のブレーンの一人とされ、力を隠して国際協調を優先するトウ小平氏の外交戦略「 韜光養晦 ( とうこうようかい )」を脱却した政権に歩調を合わせ、「中国の国力はすでに米国を上回っている」との見解を表明してきた。
中国共産党機関紙の人民日報も10日、米国との貿易摩擦が激化した背景について、米国が中国を自らの覇権を脅かす「最強のライバル」とみているとする評論を掲載し、米国の対中国認識の誤りが原因だと主張した。
これに対し、清華大卒業生による書簡は、胡氏の見解が「国家と国民をミスリードしてきた」と非難した。過度な国威発揚が米国を警戒させ、米中関係の悪化を招いたとする政権への一部の批判も背景にある模様だ。【8月12日 読売】
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ただ、こうした“習近平路線への批判”がどこまで真相に沿ったものかについては異論もあり、大げさに取り上げすぎているとの見方も多々あります。北戴河はもちろん、中南海での出来事は外部の人間にはわかりません。
【中国によるトランプ支持層の農家揺さぶりは一定に効果】
そこで、中国よりは透明性の高いアメリカ側の話。
中国は、トランプ政権の支持基盤でもある農業部門への揺さぶりを狙って、農産物を中心とした品目に追加関税をかけていますが、牛肉などの取引はもともと量が少なく、中心となるのは大豆。
その効果は一定に出ているようです。
****「トランプが大豆産業を壊滅させた」──悲鳴を上げるアメリカの大豆農家****
<中国からの報復関税に追い打ちをかける価格下落、トランプ政権が打ち出した支援策も焼け石に水でしかない>
ドナルド・トランプ米大統領と中国との間の貿易戦争に巻き込まれたアメリカの大豆農家を、さらに価格下落が襲った。先週末10日に大豆先物は4.5%以上も値を下げた。
トランプ政権による25%の追加関税への報復として、中国が7月にアメリカ産大豆に同様の25%の追加関税を科したことで、大豆農家はすでに「壊滅的な」影響を被っている。
「貿易戦争がここの大豆農家に与えた影響は壊滅的だ」と、オハイオ州の大豆農家クリス・ギブスは経済専門チャンネルCNBCに10日、語った。「(これまでに)価格は20%も下落している」
そこへさらに追い打ちをかけたのが、米農務省が10日に発表した2018〜19年度の大豆の生産量予測。過去最高水準の1.2億トン以上になる見込みで、大豆相場は大幅下落した。
「貿易戦争で大豆農家が最大の顧客を失ったところに、さらに悪化させる事態だ」とギブスは言う。
食用油や家畜飼料の原料となる大豆は、アメリカから中国への農産物輸出(総額で200億ドル)の約60%を占める。量にして3750万トンだ。
もはや補助金が頼みの綱
この数カ月の間に、トランプは中国製品に対する多額の関税を発動してきた。また、ヨーロッパやカナダ、メキシコからの鉄鋼やアルミニウム製品にも追加関税をかけた。
アメリカの保護貿易措置が6月に発動されて以降、トウモロコシや大豆の価格は大幅に下落。米北東部のロブスター漁などの産業も大きな打撃を受けている。
トランプ政権が仕掛けた貿易戦争によって、アメリカで40万人の雇用が失われるという予測も出ている。
トランプは相変わらずツイッターで自らの政策を自己弁護している。先月には「関税は最高だ!」と、ツイッターで投稿した。「アメリカに損をさせてきた国は、交渉で公平な取引を決めるか、関税をかけられるかのどちらかだ。今のアメリカは金をむしり取られる、ブタの貯金箱のようなものだ。(関税で)すべてがうまく行く!」
農家に対する総額120億ドルの支援策が打ち出されたが、これが実現したとしても、生産者が被った収入減のすべてを埋め合わせることはできない。(中略)
「中国からの報復、ひいてはアメリカ産大豆の価格下落を招いたのはアメリカの政府だ。自国民に犠牲を強いるような政策について、納税者が支援をしようと思うだろうか」とギブスは言う。
ギブスは大統領選で、トランプは「実行する男」で、やるべきことをきちんとやりとげることができる人物だと考えてトランプに投票した。しかしよもや、望んでもいない戦いの渦中に自分たちが放り込まれるとは予想していなかった。
「自分たちが貿易戦争の最前線に立たされ、1番の顧客と対峙させられるとは考えてもいなかった」とギブスは言う。「このうえ大豆の値段が下がったら、もう立ち上がることもできない」【8月13日 Newsweek】
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今年秋に収穫を迎える米国産大豆の買い付けでは、中国勢の比率がわずか17%と、過去10年間の平均である60%を大きく下回っています。
もちろん、中国が手を引き価格が下がれば、他国からの買いも入ります。
大豆が値下がりしていることを受けて、中国以外の国、パキスタン、メキシコ、バングラデシュ、タイなどが買い付けを増やしている・・・という動きも出ていますが、「価格の下支え要因になっているが、中国勢以外の買いも、いずれは細ることになる」(米国の大豆輸出業者)【7月13日 ロイターより】とも。
やはりアメリカ大豆を輸入している日本の名前がでてこないのは、遺伝子組み換えの関係でしょうか。
また、アメリカが追加関税を課せば、中国の需要は他国へ向かう・・・というのは当然の話で、中国が大豆をどこから調達するのかは知りませんが(ブラジルから代替調達し、南米からの調達で不足する分は国内備蓄、ロシアなどからの輸入、大豆代替品で補うとの見方も4月頃出ていました)、食肉については以下のようにも。
****米国産牛・豚肉の対中輸出、貿易戦争が裏目に?中国が代替調達の動き****
ドナルド・トランプ米大統領が掲げる「貿易戦争」の重要な目的は中国政府に圧力をかけ、米国製品を「買わせる」ことだ。
しかし米国からの食肉の輸入に関して言えば、中国は単に他の相手と取引するという結果になる可能性もある。
米国の追加関税措置に対し、中国政府は米国産の農作物をはじめとする輸入品に関税を上乗せする報復措置を発動したことで、米国産牛・豚肉の輸入価格は急騰。他の輸入品と同様に、中国の食肉輸入業者も他の国々からの調達を模索している。
(中略)英経済調査会社キャピタルエコノミクスの中国担当エコノミスト、ジュリアン・エバンスプリチャード氏は、中国の報復関税の対象品目が国際市場で調達が容易に穴埋めできる肉や大豆、小麦、石油製品などの商品(コモディティー)であるのは明らかだと指摘。
「相手を傷つけつつ、自分はあまり傷つかないようにするのが関税の狙いだ」と説明した。その上で「どの国がどこから何を調達するかという取引の流れに、(貿易戦争は)大幅な変化をもたらすかもしれない」との見方を示した。
国有食品輸入会社を前身とする上海新尚実国際貿易有限公司は2017年に4000万ドル(約44億円)相当の米国産豚肉と牛肉を買い付け、今年は買付額を1億ドル(約110億円)に引き上げる計画だった。
しかし米国と貿易戦争状態になったため、同社の社長は欧州や豪州、南米からの代替調達を進めており、「間もなく穴埋めを達成する」との見通しを示す。
「貿易戦争において、われわれのような中国の輸入業者が調達量を引き続き維持しようとするなら、一番損失を被るのは米国の供給業者や輸出業者になるだろう」【8月12日 AFP】
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【複雑に関連する経済関係 関税引き上げは世界経済に悪影響】
一方、トランプ米大統領とEUのユンケル欧州委員長との会談で、EUが米国産品の輸入拡大を表明したように、アメリカにとっての“助け舟”の動きもあります。EU側の狙いは、アメリカによる自動車輸入制限の回避です。
経済は、アメリカ・中国の二国間だけに限らず、そこで生じた変化は他国にも広く拡散し、そしてその影響がフィードバックします。
最終的にどのような結果になるかは複雑な多次元連立方程式の解を求めるような問題ですが、関税上昇が世界経済に悪影響を及ぼすことは間違いないでしょう。
****関税上昇、主要新興国に打撃 1人当たりGDP40年で18%減=OECD****
経済協力開発機構(OECD)が12日に公表した長期経済見通しによると、世界で関税が1990年代の水準まで上昇した場合、中国やインドなどの主要な新興国経済への打撃は先進国よりも大きくなる見込みだ。
これによると、輸入関税の平均が上昇した場合、世界の実質国内総生産(GDP)の伸びは0.5%ポイント低下するという。
OECDの予測期間である2060年末までに、平均的な生活水準は、関税が上昇しなかった場合に比べ約14%低下するとみられる。
ただ、ブラジル、ロシア、インド、インドネシア、中国では2060年までに国民1人当たりの実質GDPが18%減少すると予想した。(中略)
大幅な改革がない場合、世界経済の成長率は今後40年間で現在の年率3.4%から2.0%まで徐々に鈍化するとみられる。【7月13日 ロイター】
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“今後40年間で・・・”というのも、今日・明日が問題となる経済の話としては、えらく長期の視点になりますが・・・。
まあ、“流れ”という意味では、これから経済規模を拡大しようとする新興国経済への影響が大きくなるのでしょう。
【アメリカ経済失速の要因にも】
“中間選挙ファースト”のトランプ大統領としては、農家の票離れをなんとか食い止めたいところ。
****米、1.3兆円の農民支援 トランプ氏の貿易政策 米国民に痛手****
米国のソニー・パーデュー農務長官は24日、ドナルド・トランプ大統領の貿易政策に対する諸外国の報復措置で第一の標的になっている農民に対し、120億ドル(約1兆3000億円)の支援を実施すると発表した。
トランプ大統領の貿易政策で米国民が痛手を受けていることを政権が初めて認めた形となった。
パーデュー農務長官は報道陣に対し、この支援プログラムは「違法な報復関税によって被った貿易損害に対処する農民を支援」するものだと説明。農務省はこの損害額を110億ドル(約1兆2000億円)と推計している。
またパーデュー氏は、同プログラムは農民支援の「短期的」な解決策であり、中国をはじめとする各国の不公正な貿易活動によって損害を受けている農業やその他の産業を支える長期的な貿易協定について交渉する時間をトランプ大統領に与えるものだと述べた。
この発表に対する反応はさまざまで、議員の多くが「農家に対する生活保護」だと批判する一方、農業団体らからはより長期的な解決策を求める声が上がっている。【7月25日 AFP】
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トランプ大統領が貿易戦争に突っ走っているのは、好調なアメリカ経済への自信が背景にあるようですが、貿易摩擦はそのアメリカ経済減速の要因ともなります。
****トランプ経済「絶好調」はただの幻想? 見えてきた失速の要因****
<政権発足当初は好調な滑り出しに見えたが、移民締め出しや貿易戦争などのアメリカ・ファースト路線が逆効果を生み始めた>
昨年1月、ドナルド・トランプが大統領に就任したとき、アメリカ経済は空前の好景気を謳歌し、大不況のどん底から目を見張る回復を遂げつつあった。
それでも物足りなく感じたトランプは、アメリカ経済をフル充電すると請け合った。与党の共和党が総額1.5兆ドルの景気刺激策を成立させると、約束を果たすことは簡単に見えた。
トランプに経済政策を助言していたローレンス・カドロー(現在はホワイトハウスの国家経済会議委員長)は、「見通せる限りの未来にわたり3〜4%の経済成長」が見込めると、昨年12月に語った。「アメリカ経済は絶好調だ。空前の好景気だ」と、トランプも今年春にツイッターに投稿している。「今後、もっとよくなる」
しかし、風向きが変わってきた。失業率とインフレ率は抑えられていて、今年第2四半期のGDP成長率も「3〜4%」を超す可能性があるが、一部のエコノミストはバラ色の予測を修正し始めている。
原因は、トランプその人だ。「アメリカ・ファースト」の政策が逆効果になりつつあるように見える。(中略)
貿易赤字解消にこだわるトランプの姿勢も、経済成長を脅かす要因の1つだ。カナダ、中国、メキシコ、ヨーロッパとの貿易戦争が長引く可能性が現実味を帯びてきたことで、アメリカの産業界は不安に駆られ始めた。
貿易戦争に負けることは許されないと、トランプは考えている。5660億ドルもの貿易赤字を抱えるアメリカが貿易戦争に敗れつつあるように見えているのだろう。
大半のエコノミストの考えは違う。全米納税者連盟が5月に発表した大統領宛ての書簡は、貿易戦争に突き進むことの危険性に警鐘を鳴らしている。この書簡には、ノーベル経済学賞受賞者14人を含む1100人以上のエコノミストが賛同した。
鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税が課されれば、メーカーがコスト増を価格に転嫁する結果として、消費者の負担が総額75億ドル増えると、中道右派系シンクタンクのアメリカン・アクション・フォーラム(AAF)は指摘している。
貿易戦争が雇用を減らす
この関税によりアメリカの鉄鋼関連の労働者は恩恵に浴するが、国内全体の雇用は減る。コンサルティング会社トレード・パートナーシップの分析によれば、鉄鋼関税で失われる雇用は、差し引きで40万人を超す。鉄鋼関連の職が1人増えるごとに、16人の職が失われる計算だ。
自動車など、鉄鋼とアルミニウムを原料に用いる製品の価格が上昇すれば、需要は落ち込む。そうすると、サービス業の業績低下、製造業の雇用減少など、さまざまな負の連鎖反応が生まれる。
サプライチェーンと戦略的パートナーシップが国境を超える時代のビジネスは、国単位での勝ちか負けかという単純なものではなくなっている。(中略)
ほかの国に関税を課せば、相手国による対抗措置が避けられない。カナダは総額128億ドル相当、メキシコは総額30億ドル相当のアメリカからの輸入品に関税を課すことを計画している。これにより打撃を被るのは、トランプの主要な支持基盤である農業と製造業だ。
16年の米大統領選でトランプがペンシルベニア州、オハイオ州、ミシガン州といった「ラストベルト地帯」で圧勝した一因は、アメリカの製造業を復活させると訴えたからだった。トランプが他国に仕掛ける貿易戦争は、これらの地域を苦しめる結果を招く。
それでもトランプは、歴史家や経済学者、そしてもしかすると自らの支持者たちが抱いている不安もどこ吹く風。相変わらず、「建国以来最高の好景気」を自画自賛し続けている。【7月10日 Newsweek】
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