孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

右傾化する欧州  寛容なメルケル時代から、よりナショナリズムの強い時代ヘ

2018-08-29 23:14:24 | 欧州情勢

(画像は【8月8日 産経】 オーストリア・クルツ首相は8月で32歳 反難民・移民を掲げる右派政治家ですが、西欧首脳やリベラル系の西欧メディアにまで、受け入れられているとも。)

寛容と進歩的政治の手本であり続けたスウェーデンでも極右政党台頭
EUを基軸に結束する欧州の政治体制が、イギリスのEU離脱、反EU・反難民移民の流れに乗った極右・ポピュリズム政党の台頭、西欧的価値観とは一線を画す中東欧諸国との東西対立・・・などで大きく揺らいでいることは今更の話です。

昨年2017年の政治状況では、オランダ、フランス、ドイツで主要な選挙がありましたが、極右勢力は票を伸ばしたものの、従来の政治体制をひっくり返すほどの状況は起こらず、そこそこ落ち着いた結果となったこと、仏「国民戦線」や「イギリス独立党」などの勢力に内部混乱が見られたこと、また、イギリスに続く「離脱ドミノ」は全く起こらなかったことなどから、EU求心力低下の流れには一定に歯止めがかかったようにも見えました。

しかし、やはり求心力低下の流れは続いており、具体的には各国における反EU極右勢力の政権参加が増えているという現象に、その流れが表れています。

****欧州、極右の政権入り相次ぐ****
欧州では極右政党の政権入りが相次いでいる。2017年12月にオーストリア、18年6月にイタリアで極右政党が参加する連立政権が発足した。デンマークのように、閣外協力するケースも目立つ。
 
欧州では内戦が続くシリアなどからの移民や難民多数が押し寄せたことなどをきっかけに、移民らの排斥を掲げる極右勢力が台頭している。
 
オーストリアでは中道右派の国民党と極右の自由党による連立政権が発足。イタリアでも大衆迎合主義(ポピュリズム)政党「五つ星運動」と、極右政党「同盟」の連立政権が誕生。ともに移民・難民の受け入れ厳格化を鮮明にしている。
 
オーストリアは7月から半年間の任期で欧州連合(EU)議長国を務めており、EUの難民・移民政策にも極右政党は影響を及ぼす。ノルウェーでは極右の進歩党が13年から中道右派の保守党との連立政権に参加する。
 
少数与党が極右政党に閣外協力を求める事例もある。デンマークでは極右のデンマーク国民党が中道右派の自由党を軸とする政権に協力する見返りとして難民・移民政策の厳格化で影響力を発揮。オランダでも10~12年にかけて極右の自由党が閣外協力した。
 
一方、スウェーデンでは主要政党が極右の民主党と手を組まない戦略で連携してきた。14年12月には中道左派の連立政権と中道右派の野党4党が政治を安定化させる枠組みで合意。総選挙へ政権を追い込もうとしていた極右の排除で一致した。
 
オランダでも17年3月の下院選で極右の自由党が第2党に躍進すると、連立交渉に入れないことで主要政党が一致。約7カ月かけて中道右派の自由民主党を軸とする第3次ルッテ政権を誕生させた。
 
極右政党の政権入りを主要政党が連携して阻む手法は「防疫線」と呼ばれるが、効果に疑問の声も根強い。スウェーデンでも極右の伸長を防げていない。【8月8日 日経】
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極右勢力台頭をもたらしているのは、反移民・難民感情が一番大きな要因でしょう。
ひと頃の移民・難民が爆発的に押し寄せる事態からは落ち着いたものの、移民・難民受け入れへの不満は沈静化することなく、欧州政治全体を揺さぶり続けています。

極右政党の政権入りを主要政党が連携して阻む手法「防疫線」が指摘されていますが、極右政党に対抗して既存保守政党自身が右傾化を強める現象も見られ、極右政党の政権参加を阻んでも、政治全体としては右傾化が進むという形にもなっています。

記事最後にあるように、欧州民主主義の優等生的な存在とも思われてきたスウェーデンでも極右政党台頭が見られます。

****スウェーデンに極右政権誕生****
9月9日に迫ったスウェーデン議会選挙で、極右政党が第1党になる見込みが高まっている。

スウェーデンでは約1世紀にわたり中道左派の社会民主労働党が第1党を占めてきた。だが最新の世論調査によれば、ネオナチの系譜を継ぐ反イスラム・反EUのスウェーデン民主党が25%もの票を得る可能性がある。
 
そうなれば、同国にとっては劇的な変化だろう。極右ポピュリスムが台頭する近年のヨーロッパにおいて、スウェーデンは寛容と進歩的政治の手本であり続けた。前回の14年の総選挙では、社会民主労働党や緑の党が支持を集めた。
 
だが15年からの難民危機の際の積極的な受け入れ政策で状況は一変。人目1000万の国に年間20万人もの移民・難民が押し寄せ、それは人目当たりでは世界最大規模の受け入れ数たった。

これに反感を抱き、右傾化する有権者が増えた。
 
反移民を掲げるスウェーデン民主党は、受け入れ政策は過ちだったと攻撃。支持者はスウェーデン伝統文化の保護を叫び、イスラム文化の侵食を激しく非難している。

同党は反EUも訴え、ブレグジット(イギリスのEU離脱)に続く「スウェグジット(スウェーデンのEU離脱)」の是非を問う国民投票の実施も求めている。
 
ジミー・オーケソン党首はEUを「巨大な腐敗の網」と糾弾し、政権を握れば早ければ9月中にも国民投票を行うと発言した。

トランプ米大統領の元側近スティーブ・バノンはヨーロッパ各国の極右勢力を結束させるべく基盤固めに動いており、スウェーデン民主党とも接触したと報じられている。
 
もちろん、選挙の結果はまだ不透明だ。スウェーデン民主党の得票率は16%ほどにとどまるとの世論調査もあるが、それでも連立交渉で影響力を持つのは間違いない。主要政党は軒並み同党との連携に否定的だが、彼らの主張に引っ張られて右寄りになる可能性は十分にある。【9月4日号 Newsweek日本語版】
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もっとも、スウェーデンの推理小説作家ヘニング・マンケルが描く1990年代の「ヴァランダー警部シリーズ」でも、移民流入に伴う排外的な動きの拡大という社会現象が事件の背景としてよく登場しますので、極右勢力拡大はここ数年の爆発的移民難民流入だけによるものでもないでしょう。

前出【日経】にもあるように、同じ北欧でもデンマークはすでに極右勢力が一定の影響力を獲得しています。

そのデンマークは、これまでの経緯のなかでEUとの関係では司法内務分野でEU共通政策に加わらなくてもよいというオプトアウト(適用除外)の権利を持っています。

下記は、その件に関するニュースですが、私には意味不明です。

****デンマーク、EU適用除外討議必要 国民投票は実施せず=首相****
デンマークのラスムセン首相は28日、デンマークは欧州連合(EU)に認められている4分野の適用除外について討議する必要があるとの考えを示した。ただ来年秋までの自身の任期中に離脱の是非を巡る国民投票は実施されないと述べた。

ラスムセン首相は記者会見で「デンマークに適用除外の選択肢があることを完全に尊重している」と指摘。ただ「国民投票の実施ではなく、議論を行うことを呼び掛けている」と述べた。

デンマークは安全保障・防衛、市民権、警察・司法などの分野で適用除外を認められている。【8月28日 ロイター】
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“4分野の適用除外について討議する必要”・・・どういう方向の討議でしょうか?
デンマークの政治情勢に知識があれば自明のことなのかもしれませんが、その前提知識がないので全く方向性がわかりません。

デンマークは2015年にEUとの警察協力などに関わる司法内務分野の連携拡大を提起した国民投票が行われ、反対多数で否決された経緯があります。

しかし、極右勢力が閣外協力するような政治情勢で、同じ方向(EUとの協力拡充)の提案・討議がなされるとは考えにくいし、“離脱の是非を巡る国民投票”という文言もありますので、逆方向(EUとの関係をこれまで以上に薄める方向)の討議という意味合いでしょうか?

“(極右のデンマーク国民党は)ヴェンスタ政権(ラスムセン首相)に閣外協力している。(中道右派の)ヴェンスタは少数与党であり、デンマーク国民党の支持を得るため、デンマーク国民党からの提案のほとんどを受け入れており、デンマークの政策を管理しているのはもはやデンマーク国民党だとする意見が多い。”【ウィキペディア】

リード役不在 メルケル独首相の求心力低下 マクロン仏大統領も・・・・
極右・ポピュリズム勢力拡大の流れに歯止めがかからないのは、EU結束の基軸となるリード役の国・指導者が見当たらないことも大きく影響しています。

従来はドイツ・メルケル首相がそのリード役でしたが、ドイツ自体でメルケル首相の難民・移民政策への批判が強まり、極右勢力AfDが拡大。これに対抗するため与党内でも右傾化が強まり、強硬な難民政策を求める姉妹政党CSUのゼーホーファー内相との間で激しいバトルがあったことは周知のところです。

一応、キリスト教民主同盟とCSU、そして中道左派の社会民主党の連立3党は、流入する難民認定希望者の数を減らす政策で合意しましたが、メルケル首相の求心力低下は否めません。

****独メルケル氏の与党連合、支持率が12年ぶり低水準に=世論調査****
ドイツの調査会社エムニドが29日公表した世論調査結果によると、メルケル首相率いる保守系与党連合、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の支持率が29%と、前回調査から1%ポイント低下し、2006年以来の低水準となった。

調査結果はビルト紙日曜版で公表された。昨年9月の連邦議会選挙時は33%だった。

CSUは10月にバイエルンで州議会選挙を控えており、同調査に基づけば絶対多数を失う可能性がある。

CDU・CSUと大連立を組む中道左派、社会民主党(SPD)の支持率も1%ポイント低下の18%。

極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持率は変わらずの15%。緑の党は2%ポイント上昇の14%と、今年に入って最高水準となった。

エムニドは支持率変化の要因には言及していない。【7月30日 ロイター】
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国内における求心力低下から、欧州全体をリードするような力をメルケル首相に期待するのは難しくなっています。

なお、国内の反難民・移民世論の高まりを受けて、メルケル首相は難民政策の変更を余儀なくされています。

****メルケル独首相、難民の本国送還強化を表明 極右のデモ受け****
ドイツのメルケル首相は16日、受け入れを拒否した難民を巡る本国送還の迅速化に向け、取り組みを強化すると表明した。首相の難民政策を巡って数百人の極右活動家が首相辞任を求めるデモを行ったことを受けた。

反イスラム運動「ペギーダ(PEGIDA)」がデモ活動を組織。メルケル首相が自身率いるキリスト教民主同盟(CDU)の地方議員と面会するため東部ザクセン州のドレスデンに到着すると、デモ隊は「メルケルはやめろ」などと連呼した。(後略)【8月17日 ロイター】
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ドイツ・メルケル首相の低迷に対し、ひところはフランス・マクロン大統領がEUリード役で大きな存在感を見せていましたが、こちらもどうでしょうか・・・。

****仏マクロン氏支持率34%に低下 就任後最低、警護官事件影響か****
26日付のフランス紙ジュルナル・デュ・ディマンシュは、マクロン大統領の支持率が昨年5月の就任後最低の34%になったとの世論調査結果を報じた。7月に発覚した大統領警護官の暴行事件などが影響したとみられている。
 
世論調査は大手調査機関IFOPが8月23、24日に実施。大統領としてマクロン氏に満足しているとの回答は34%、不満足は66%だった。

支持率低下は4カ月連続で、満足とした回答は7月の調査から5ポイント下落。昨年6月は64%に上っていた。【8月27日 共同】
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“7月に発覚した大統領警護官の暴行事件”とは、マクロン大統領のボディーガードなどを務める男が職務に関わりなく、労組デモの参加者に激しい暴行を加える様子が会員制交流サイト(SNS)などに出回り、警察当局が傷害、職権乱用などの容疑で警護官ら2人の身柄を拘束して取り調べた・・・・という事件です。

大統領の尊大というか、反対意見に耳をかさない強気の姿勢への不満が出ているようにも見えます。
大統領府(エリゼ宮)への支出に加え、福祉給付金の削減が批判を集め、大統領は実態を把握しておらず、傲慢だとの批判も強まっているとか。【6月25日 ロイターより】

反難民・移民を掲げる右派政治家、32歳のオーストリア・クルツ首相が期待されることが示す右傾化
欧州を取りまとめるのがメルケル首相でも、マクロン大統領でもなければ、誰が・・・という点について、オーストリアの弱冠32歳のクルツ首相への期待があるとか。(ドイツで5月に行われた「どの首相候補に投票するか?」という世論調査で、隣国首相、しかも弱小国(人口900万人弱)首相のクルツ氏がメルケル首相を抑えてトップだったとか)

ただ、クルツ首相は反難民・移民を掲げる右派政治家であり「人種差別主義ではないが、移民に寛容でもない」というスタンスとか。この若手右派政治家が期待を集めるということが欧州の右傾化を如実に表しています。

****オーストリアが「欧州右傾化」の主役に****
若き首相の「移民制限」に各国が共鳴

(中略)クルツ首相の連立パートナーは極右の自由党。首相自身の強硬姿勢と合わせて、少し前ならば「ナショナリスト」「ポピュリスト」とレッテルを貼られるはずだが、首相に限っては、西欧首脳やリベラル系の西欧メディアにまで、受け入れられている。
 
ドイツ保守系紙の論説委員は、「メルケル首相を含めて、EUの中道政治家の移民に対するスタンスが、『流入制限』に大きく傾き、クルツ首相の立場に近づいているからだ」と言う。

二〇一五年に百万人以上がドイツに流入した時に、国内で沸き起こった人道王義や難民歓迎論は姿を消し、有権者はポピュリストたちの「本音トーク」に耳を傾ける。

クルツ氏の断固たる姿勢が、「不寛容」「非人道的」と批判されるムードではなくなった。(中略)

クルツ首相は、東側からも西側からも歓迎される稀有な存在になった。偶然にも、オーストリアは今年七月一日から、半年間EU議長国を務めることになり、EU各国のみか、EU離脱を決めている英国や、ロシアのウラジーミループーチン大統領からさえも、「首相の議長役に期待」という異例の待望論が寄せられた。(中略)

EU加盟各国の世論が、移民制限に傾き、国境管理を求める中で、クルツ首相はその象徴的存在として現れた。

寛容なメルケル時代から、よりナショナリズムの強い時代ヘ。ドイツ国民を筆頭に、欧州各国民は若い首相に背中を押してもらいたいようだ。【「選択」8月号】
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“若い指導者たちの特徴は、「本音の論議」だ”“もう人道主義で片付けられない”“トランプ米政権の登場、中国の台頭、移民流入という危機に直面し、EUはどう体制を立て直すのか。新興勢力に「反EU派」「ポピュリスト」というレッテルを貼って異端視していては、水面下の地殻変動を見失うかもしれない。”【8月8日 産経】
(個人的には、「本音」が重視され、「価値観」「理想」が軽視される風潮には違和感を感じますが)

オーストリアに関しては、極右・自由党から外相に指名されたカリン・クナイスル氏(女性)が18日、自身の結婚式にロシア・プーチン大統領を招待し、一緒にダンスを踊る写真が広く拡散したこと、また、その際に膝を曲げてプーチン大統領に深くお辞儀をしたことが、波紋を広げました。

まあ、ダンスやお辞儀はともかく(ロシアはウクライナ問題で制裁対象国という問題はありますが)、より深刻な問題は極右政党・自由党とプーチン大統領と機密情報を共有している可能性があるということでしょう。

****オーストリア情報機関に伸びる、ロシア・プーチン大統領の影****

(自身の結婚式で踊るクナイスル墺外相(左)とロシアのウラジーミル・プーチン大統領(右、2018年8月18日撮影)
オーストリアの情報機関が収集した情報が、ロシア政府の手に渡っているのではないか?――オーストリアの野党やメディアの間で、こんな臆測が乱れ飛んでいる。
 
オーストリアの連立与党の一角、極右政党・自由党が、つながりを深めているロシアのウラジーミル・プーチン大統領と機密情報を共有している可能性が懸念される中、欧州諸国の情報機関はオーストリアと距離を置いていると報じられている。(中略)

報道によると、欧米諸国がオーストリアとの情報機関の協力に慎重になっているのは、自由党と同党のヘルベルト・キクル内相が情報機関への影響力を強めようとしているのではないかと疑っているからだ。

自由党は2016年からロシアの与党・統一ロシアと「協力協定」を結んでいる。

■共有情報、「翌日にはプーチン氏の机の上」?
(中略)オーストリア日刊紙プレッセは23日、匿名のBVT筋の話として、オーストリア政府に共有された情報は、翌日にはプーチン氏のテーブルの上に載っていると報じた。(後略)【8月24日 AFP】
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ロシアとの関係でいえば、トランプ米大統領の欧州への冷淡な姿勢が、ドイツなどをロシアとの関係強化に向かわせているといった話もあります。

また、欧州政治・EUの将来を左右する難民問題に関して、防波堤となっているトルコが経済危機のなかで持ちこたえることができるのかという話もあります。

イギリスの“合意なき”EU離脱の可能性も最近よく目にします。

イタリア・ポピュリズム政権の難民対応も。

欧州政治の動向に関しては論点は尽きませんが、冗長になるので今日はここまでにしておきます。
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