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(頻繁に会談を重ねるネタニヤフ首相とプーチン大統領【8月14日 WEDGE】)
【軍事協力を中心に“アフリカ大陸に戻り始めた”ロシア】
アメリカのプレゼンスの空白を埋めるように、ロシアがシリアでその存在感を強めていることはかねてより言われていることですが、アフリカとなると、もっぱら中国の影響力拡大が取りざたされています。
そのアフリカでもロシアの存在感が高まっているという、ちょっと意外な感じの記事。
****「軍事協力」「投資」「指導員」 アフリカで存在感高めるロシア****
軍事協力や武器売買、投資などの働きかけを通じて、ロシアがアフリカへの関与を再び強め始めている。このロシアの動向について専門家らは、欧州諸国、さらには中国をもしのぐ勢いだと分析している。
ロシア政府は過去3年にわたって、アフリカでの存在感を高めようとさまざまな取り組みを行ってきたが、ここ数か月は、そのペースが一気に増しているようだというのが専門家らの見方だ。
その取り組みが最も顕著に見られるのが、中央アフリカだ。貧困と不安定な政情とに苦しんできた同国はこれまで、旧宗主国のフランスに支援を求めてきた。
しかし、今年に入ってからは、ロシアが国連の承認を得た上で中央アフリカ政府軍への武器供与を行っている。ロシアは、フォスタンアルシャンジュ・トゥアデラ大統領に保安業務を提供しており、大統領の安全保障担当補佐官もロシア人だ。
ロシアはさらに、軍の指揮官5人と、中央アフリカ軍の「指導員」を務める民間人170人を派遣した。だが、同国部隊はすでに欧州連合によって軍事訓練を提供されている。
こうした「指導員」は、民間軍事会社ワグネルから派遣されていると専門家らは考えている。同社の戦闘員らは、シリアの戦闘にも参加していると報じられている。6月にはロシア人記者3人が、現地での彼らの活動の調査中に殺害された。
これ以外にも、カメルーンに対しては、イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」と戦うために武器を輸出し、コンゴ民主共和国、ブルキナファソ、ウガンダ、アンゴラとは軍事的に提携している。スーダンとは核開発での協力だ。ジンバブエとギニアでは、中国が新興勢力となっていた鉱業分野にも進出している。
■ネットワークの復活
ロシア外交において、アフリカの優先順位は最も低いものとなっているが、それでも最近は「重要性を増し始めている」と、ロシア科学アカデミーのドミトリー・ボンダレンコ氏は指摘する。
「2014年のクリミア併合によりロシアは西側と対立し、再び世界の大国となる野望を隠さなくなった。そうした過程において、アフリカを無視できなくなっている」
ボンダレンコ氏によると、ロシアの関心は経済的利益よりも「政治的発展」にあるという。
旧体制時代、ロシアは西側とのイデオロギー戦争の一環で、アフリカで非常に強い存在感を示していた。アフリカの解放運動を支援し、植民地支配が終わった国に対して、何万人ものアドバイザーを送り込んでいた。
だが、旧体制が崩壊した後は、経済問題と内部対立を抱えることとなり、ロシア政府は1990年代に一旦、アフリカでのプロジェクトを断念した。
しかし、10年ほど前からロシアは古いネットワークを再構築し、徐々にアフリカ大陸に戻り始めた。
ウラジーミル・プーチン大統領はまず、それまでも親密な関係にあったアルジェリア、南アフリカ、モロッコ、エジプトを訪問した。その後、1期だけ大統領を務めたドミトリー・メドベージェフ氏は、400人の経済視察団と共にアンゴラ、ナミビア、ナイジェリアを訪問し、ロシア企業を売り込んだ。
そして今年、セルゲイ・ラブロフ外相はアフリカ5か国を歴訪し、プーチン大統領も南アフリカ・ヨハネスブルクでの新興5か国首脳会議に出席した。また、サンクトペテルブルクで開催された国際経済フォーラムでは、アフリカでの事業を紹介した。
■欧州と中国に対する交渉カード
アフリカの一部の国にとって、ロシアとの関係強化は欧州や中国に対する交渉カードになると専門家たちは指摘する。
つまり、「投資と開発の別チャンネル、すなわち別のパートナーを持つことを意味する。そして、国際ステージで大きな力を持つ国の後ろ盾も得られる」と、旧ソ連とロシアでアフリカ諸国の大使を務めた政治専門家、エフゲニー・コレンジャコフ氏は指摘する。
さらにロシアは欧州のようにアフリカの植民地化に関わっていない。これがアフリカの国にとっては魅力的に映ることもある。他方、旧ソ連で大学教育を受けた経験を持つ、アフリカの国の政府高官も多い。
「スーダンやジンバブエなど、欧米諸国が協力に消極的な国々はこれまで、中国を頼らざるを得なかった」と、ボンダレンコ氏は言う。「しかし、今や一つの選択肢としてロシアがその存在感を高めつつある」
そして、このような新たな状況が、「アフリカ大陸の地政学的立ち位置に変化を与えることは十分にあり得るだろう」との見解を示した。【8月25日 AFP】
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上記記事を読む限り、ロシアのアフリカでの存在感拡大は軍事面が中心にあるように見えます。
ロシアの経済力を考えれば、経済的にアフリカの成長を支えるような資金力・技術力はないでしょう。
【「影の軍隊」 プーチン政権とつながる政権民間軍事会社の暗躍も ロシアの“闇”】
そして軍事的関与の中核にはワグネルのような民間軍事会社もあるようです。
“民間”とは言いながらもプーチン政権と強いつながりを持つワグネルに関しては、記事にもあるように最近“不可解な事件”があったばかりです。
****ロシア人記者3人殺害で波紋=疑惑の軍事会社取材****
中央アフリカで7月末、シリア内戦などへの関与を指摘されるロシア民間軍事会社「ワグネル」の動向を取材していたロシア人記者3人が殺害された。
ロシアでは4月にもプーチン政権との関係を取り沙汰される同社を取材していた記者が不審死しており、波紋がさらに広がっている。
ワグネルは、ロシアによる米大統領選介入で米当局に起訴された実業家エフゲニー・プリゴジン氏が財政支援しているとされる。プリゴジン氏はプーチン大統領と近く、政権の意向を受けてウクライナ東部やシリアにロシア人雇い兵を送り込んだ疑いがある。
米軍主導の有志連合が2月にシリア東部を空爆した際、ロシア人数百人が死亡したとされるが、多くはワグネルの雇い兵だったとみられている。
ロシアの調査サイトなどによると、ワグネルは最近、資源獲得を狙って中央アフリカで暗躍。
記者3人は、プーチン氏と対立して英国に亡命した元石油王ホドルコフスキー氏の呼び掛けに応じ取材活動に入ることを決め、7月27日、中央アフリカに到着。同30日に首都バンギの北東約180キロの道路で襲撃を受け、殺害された。(攻略)【8月2日 時事】
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更に、今年4月、シリアでのワグネルの活動について調査していたジャーナリストが、ロシア・エカテリンブルクの自宅アパートで、5階のバルコニーから転落して死亡しているのが発見されるという事件については、4月17日ブログ“ロシア 政府の陰の組織として活用される民間軍事会社を調査していたジャーナリストが転落死”でも取り上げました。
ワグネルを探ろうとする者には“不審な死”が待ち受けているようにも見えます。
そこにはロシアの抱える闇があるようにも。
“シリアなど世界中の紛争地域で活動しているワグネルは、ロシア政府の「陰の軍隊」と評されており、ロシア政府がワグネルを利用することで、シリアやウクライナなどでの軍事活動を目立ちにくくさせ、犠牲者数を抑制させていると専門家らは指摘している。”【8月1日 AFP】
“暗躍”という言葉が似つかわしい民間軍事会社ワグネルの活動であり、それを利用するロシア・プーチン政権の不透明さです。
それにしても、“邪魔者は消す”という粗暴なロシア政治の体質は、直接の関与の有無は別にしても、プーチン大統領が育ててきたものであり、民主主義とか人権といった価値観にそぐわないロシアの異質性を示すものです。
【シリアでは成功を収めつつあるロシア】
一方、シリアにおいてはプーチン大統領の積極的な軍事介入政策が成功を収めています。
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2015年9月にロシアがシリア紛争に介入してから、まもなく丸3年が経とうとしている。
この間、ロシアは空軍、特殊部隊、軍事顧問団をシリアに送り込み、合わせて大量の軍事援助を行うことでシリアのアサド政権を支え続けてきた。
これによってアサド政権は不完全ながらも支配領域を回復し、もはや同政権を軍事的に打倒することは極めて困難な状況になりつつある。この意味では、ロシアの戦略目標はほぼ成功したと考えられよう。【8月14日 WEDGE】
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ロシアはシリアに約6万3000人のロシア軍兵士を派遣したそうです。
****ロシア、シリア内戦に兵士6万3000人派遣****
ロシア国防省は22日、内戦下のシリアにこれまで約6万3000人のロシア軍兵士を派遣したことを明らかにした。
ロシア国防省が同日公開した2015年9月開始のシリア政府支援作戦に関する動画で明らかになったもので、動画によるとシリア国内で合計6万3012人のロシア兵が「戦闘を経験」し、うち2万5738人が将校、434人が将官、4349人が重火器・ミサイルの専門家だという。
また、ロシア空軍が行った作戦出撃は3万9000回以上に上り、「8万6000人超の戦闘員」を殺害し、12万1466か所の「テロリストの拠点」を破壊したとしている。
セルゲイ・ショイグ国防相は昨年12月の時点で、シリアでの作戦に参加した兵士の数について4万8000人以上と述べていた。
ウラジーミル・プーチン大統領は昨年12月、シリア駐留部隊の一部撤退を命じたが、後に完全に撤退する計画はないと明言し、「有益である限り」ロシア軍はシリアにとどまるとの考えを示した。【8月23日 AFP】
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上記の数字には、民間軍事会社ワグネルのような「陰の軍隊」の数字は含まれていないでしょう。
犠牲者が不可避な地上作戦では、もっぱら「陰の軍隊」が活用され、その犠牲者数などは隠ぺいされています。
「陰の軍隊」はともかく、ロシアがこうした数字を公表するのは、シリア内戦も“終わりに近い”という認識があるのかも。シリア・アサド政権も、これまで秘密にしてきた“拘束者”の“病死”等の死亡を家族など連絡し始めているとか。
【成功者ロシアにとっても厄介なイラン・イスラエル間の「調停」】
政府軍・ロシアによる最後の反体制派拠点イドリブの攻略は時間の問題でしょうが、複雑に絡み合った関係国のシリアでの利害の調整は、ロシアにとっては厄介な問題です。
その一番の問題は、シリアに勢力を広げたイランと、これを警戒するイスラエルの対立をどのように“調停”するかという問題です。
イランはかねてよりロシアと協調する形でアサド政権を支えてきましたが、最近はイスラエル・ネタニヤフ首相がプーチン大統領と頻繁に階段を重ねながら、シリア領内のイラン勢力への攻撃を行っています。
その点では、ロシアはイスラエルに配慮して、一定にイランとの距離を置こうとしているようにも見えます。
ただ、ロシアとしても全面的にイスラエルに与する訳にもいきません。
****イスラエルとイランの間で板挟みになるロシア****
(中略)
第一に、イスラエルによる革命防衛隊への攻撃を全面的に認めてしまえば、ロシアとイランの関係が確実に悪化する。
中東における最重要友好国であるイランが完全に離反する事態はロシアとしては避けなければならない。ことにロシアがシリア全土を制圧できるだけの地上兵力を提供できない以上、ここでイランの支持を失えばロシアのシリア戦略が破綻しかねない。米国がイランに対する姿勢を硬化させている現状ではなおさらである。
第二の、そしてさらに深刻なシナリオは、シリアを舞台としてイランとイスラエルの全面衝突が始まってしまう可能性である。(中略)
シリア発第5次中東戦争が勃発すれば、これはこれでロシアのシリア戦略を崩壊させる可能性をはらんでいるためである。
いうなればイスラエルとイランの間で板挟みの状態に置かれているのが現在のロシアであると言える。そして、これに対してロシアが打ち出したのが、冒頭で述べた「調停者」として振舞うという戦略であった。【8月14日 WEDGE】
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しかし、シリアにおける「調停者」の役割がロシアにつとまるかどうか・・・疑問も指摘されています。
****ロシアが「中東の警察官」なれない理由****
(中略)前回述べたように、シリアにおいてイランとイスラエルが直接衝突する事態はなんとしても避けなければならないものであった。そこでロシアは、両者の間に入って衝突を避けようとする動きを盛んに見せている。
たとえば、イスラエルが5月にシリア領内のイラン革命防衛隊を空爆したのち、ロシアのラヴロフ外相は、「シリア南部にはシリア共和国軍の部隊だけが展開すべきである」と述べ、イラン革命防衛隊の撤退が望ましいことを示唆したことがある(ただし、ラヴロフ外相は「これは双方向の措置でなければならない」として、イスラエルによる空爆も暗に非難した)。
また、この日、レバノン上空でロシア空軍のSu-34戦闘爆撃機がイスラエル空軍のF-16戦闘機に接近したと報じられている。
イスラエル側の報道によると、ロシアは5月初めからレバノン上空に軍用機を侵入させ始めていたとされ、レバノンを拠点とするイスラエルのシリア領内での活動(偵察及び爆撃)をけん制する狙いがあったと見られる。
このラヴロフ発言に続き、英国に本拠を置くシリア人権監視団は、イラン革命防衛隊及びヒズボラはゴラン高原から撤退する用意があるようだと述べており、ロシアの調停による兵力の引き離しが実を結ぶかに見えた。
しかし、現実にはロシアの調停が機能しているとは言い難い。結局、イラン革命防衛隊はシリア南部から撤退していないと見られており、(ロシアのけん制にもかかわらず)イスラエルによるシリア領内での空爆も継続されている。
(中略)さらに7月23日、イスラエルを訪問したラヴロフ外相が、ゴラン高原のイスラエル国境から100km以内にイラン部隊を立ち入らせないようにするとの提案を行ったが、イスラエルは不十分であるとして拒絶したとも報じられている。
イランが一度固めたシリア領内の地歩を完全に放棄させることはロシアにとっても困難であり、かといって部分的撤退ではイスラエルも納得しないという状況が見て取れよう。
ゴラン高原へのロシア軍展開
それでも、ロシアとしてはシリアにおけるイラン・イスラエル対立を放置することはできない。こうした中で8月、ロシアは、国連平和維持部隊の一部としてゴラン高原にロシア軍憲兵隊を展開させ始めた。
同国南部において反体制派の掃討が進み、同地域にイラン革命防衛隊が展開してくることを懸念するイスラエルを宥める意図があると見られる。(中略)ロシアの措置はイスラエルの対イラン脅威認識を抜本的に払拭するものとはならないだろう。
「調停者」にはなれないロシア
以上のように、ロシアは中東において圧倒的な力を持つ「調停者」として振舞うことはできておらず、近い将来にそのような振る舞いが可能となる見込みは薄い。
煎じ詰めるならば、これはロシアが中東において発揮しうる力の限界に帰結しよう。秩序を乱す者に対して受け入れがたい懲罰をもたらす存在でなければ「調停者」たりえないためである。
たしかにロシアは旧ソ連近隣地域(ロシアが「勢力圏」とみなす地域)においては圧倒的な軍事大国であり、政治的にも経済的にも強い影響力を発揮し得るが、中東はその限りではない。
もともと外征軍ではないロシア軍が中東に展開できる軍事力には限りがあり(米軍の持つ巨大な空輸・海上輸送力をロシアは欠いている)、そのような大規模作戦を支える経済力となるとさらに小さい。
エネルギーや経済をテコとしてイスラエルやイランを従わせるというオプションもロシアにはない。2015年のシリア介入以降、ロシアが中東情勢における影響力をかつてなく高めたことは事実であるが、その限界は正しく認識されるべきであろう。
同じことは、中東全体の秩序についても言える。米国が中東へのコミットメントを低下させるなか、ロシアが米国に代わる新たな「警察官」になりつつあるとの論調が我が国内外には見られるが、これは明らかに過大評価であると言わざるを得まい。
そのような限界のなかでロシアが何をしようとしており、どこまでできるのか。中東に復帰してきたロシアの役割を見通す上で必要なのは、こうした過不足ないロシア像であるように思われる。【8月23日 WEDGE】
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ロシアに「調停者」としての力量がないなら、だれがシリアの混乱をコントロールするのか・・・という問題が残ります。