孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロヒンギャ帰還が進まないのはバングラ側の責任と突き放すスーチー氏 ロイター記者裁判判決は延期

2018-08-27 22:34:32 | ミャンマー

(バングラデシュ南東部コックスバザールのクトゥパロン難民キャンプで、大量流出につながったミャンマー軍の大弾圧から1年を迎えて実施された行事に参加するため、歩いて会場へ向かうロヒンギャ難民たち(2018年8月25日撮影)【8月25日 ロイター】)

ロヒンギャの武装集団による警察施設襲撃から1年 つのる不信と警戒
ミャンマーを国軍等による虐殺・レイプ・放火などの民族浄化で追われた70万人を超えるイスラム系少数民族ロヒンギャのミャンマー帰国が一向に進まない現状については、8月17日ブログ“ミャンマー ロヒンギャ問題の独立調査委員会に日本人起用 真価を問われる日本外交”でも取り上げました。

弾圧の発端となったロヒンギャの武装集団による警察施設襲撃から1年ということで、あらためてロヒンギャの状況に関する報道も多くなっています。(なお、国軍による「掃討作戦」は襲撃前の8月の初めから始まっていた可能性も指摘されています)

****大弾圧から1年、警察襲撃のロヒンギャ武装組織が声明 難民らはデモ****
ミャンマー軍の弾圧によってイスラム系少数民族ロヒンギャ70万人が国外へ流出するきっかけとなった、ロヒンギャ武装組織による警察施設襲撃から、25日で1年を迎えた。

ミャンマーと国境を接するバングラデシュ南東部コックスバザールでは、ロヒンギャ難民ら数万人が「正義」を求めてデモ行進した一方、武装組織も声明を発表し、襲撃はロヒンギャを迫害から守るためだったと主張した。
 
ミャンマー西部ラカイン州では昨年8月25日、ロヒンギャの武装集団「アラカン・ロヒンギャ救世軍」が警察施設を襲撃。これが苛烈な弾圧を招き、国際医療支援団体「国境なき医師団」によれば、7000人近いロヒンギャが最初の1か月間で死亡した。
 
この事態を受けて約70万人のロヒンギャが隣国バングラデシュに殺到。徒歩、もしくは脆弱(ぜいじゃく)な船で流入した難民たちは、レイプや拷問、家屋の焼き討ちなどの被害を受けたと訴えている。
 
こうした中、ARSAは25日、ツイッターで声明を発表。ロヒンギャの保護と祖先伝来の地への安全かつ尊厳ある帰還を確かなものとすることは、ARSAの「正当な権利」だと主張した。
 
ただ、ロヒンギャの人々がバングラデシュにある難民キャンプで劣悪な生活を強いられるという人道危機の一因を担ったARSAが、幅広い支持を得られているかどうかは分かっていない。
 
その一方、コックスバザールのクトゥパロン難民キャンプでは、「二度と繰り返すな:ロヒンギャ大量虐殺(ジェノサイド)の日、2018年8月25日」と書かれた巨大な横断幕を掲げ、「我々はロヒンギャ、我々は正義を求める」などと声を上げながら行進した。
 
地元の警察署長はAFPに対し、推定4万人が行進及び集会に参加したと語った。
 
世界最大の難民キャンプとされる同キャンプはバングラデシュ当局の厳格な統制下に置かれているものの、平和裏にとはいえ、ロヒンギャの人々が怒りの声を上げて行進や集会を実施するのは例がないという。【8月25日 AFP】*******************

ミャンマー側は、ARSAによる再度の攻撃への警戒を強めています。

****<ミャンマー>ロヒンギャの武装集団を警戒****
ミャンマーの少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の武装集団「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)が、ミャンマーの警察施設を襲撃してから25日で1年。ミャンマー政府はバングラデシュとの国境付近で、ARSAによる襲撃が再び発生する可能性があるとして警戒を強めている。
 
ミャンマーのインターネットメディア「イラワジ」によると、昨年の襲撃発生から1年を前にミャンマー警察は、ラカイン州北部のバングラとの国境沿いに160を超える警察官詰め所を設置し、1000人を派遣。

さらに、最初に事件が起きたマウンドーなどでは24時間態勢でパトロールにあたり、国軍の協力も受けている。また、地元警察の話として、7月にマウンドーにあるロヒンギャの国内避難民キャンプで、30丁以上の手製の小銃が押収されたと伝えた。
 
ミャンマー政府はARSAを「テロリスト」に認定。21日に訪問先のシンガポールで講演したアウンサンスーチー国家顧問兼外相は「ラカイン州の人道危機を生み出す最初の要因となったテロ活動の脅威は、今も残っている」と指摘。「この安全上の課題に取り組まない限り、相互の暴力の危険は続く」と強調した。
 
ARSA関係者によると、ARSAは現在もバングラに近い山間部に拠点を維持。ミャンマー政府がロヒンギャ迫害に関する国際刑事裁判所(ICC)への捜査協力に同意するかどうかを注視してきたという。
 
だが、ミャンマー政府は今月9日にICCへの捜査協力を拒否。ARSA関係者は「ミャンマー政府の対応には失望している。再び政府側を襲撃する可能性はある」と話す。【8月24日 毎日】
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ARSAによる再度の攻撃は、ミャンマー政府が“テロ活動の脅威”をアピールするのに役立つだけだとは思いますが、武装勢力にはそうした“常識”は通用しないことも。

スー・チー氏 難民帰還の遅れはバングラデシュに責任
スー・チー国家顧問は“テロ活動の脅威”を強調する一方で、バングラデシュに逃れているロヒンギャ難民の帰還の遅れに関しては、「バングラデシュが送り出さなければならない。われわれは出迎えるだけだ」と述べ、バングラデシュに責任があるとの認識を示し、帰還時期を問われると、バングラデシュ側と調整中で「回答は難しい」と述べるにとどめています。

そのように言うしかない事情はあるにしても、事態打開への思いが感じられない対応です。
そもそもミャンマー側は“ロヒンギャ”という呼称すら認めていません。

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ミャンマー政府は、ロヒンギャの多くを「不法移民」と位置づけ、自国民族とも認めない。

そのため、スー・チー氏の(21日の訪問先シンガポールでの)講演や質疑でも、ロヒンギャという用語は使われず、「ラカイン州の人道問題」と呼称され、犠牲となった仏教徒のラカイン族なども含めた問題として扱われた。【8月21日 産経】
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しかし、ロヒンギャの問題の根幹は、そうしたミャンマー政府のロヒンギャの存在を認めない(不法移民として国籍も付与しない)対応にあることは明らかであり、そこが改善されない限り、衝突は再燃しますし、難民の帰還も進みません。

両親が虐殺される瞬間を目の当たりにした子供たち
国連事務総長や国連人権高等弁務官によるミャンマー側の民族浄化やジェノサイドに言及する非難、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)による「ロヒンギャを国外に追放するだけでなく、帰還を阻むため、ミャンマー国軍が意図的に家屋や田畑を破壊・放火した」とする調査報告書(2017年10月11日)、国連人権理事会での、ミャンマーによるロヒンギャへの「組織的かつ大規模な人権侵害」に対する「強い非難」(2017年12月5日)等々に対し、ミャンマー国軍は、「ベンガル人」への迫害はしていなかったとし、殺害、放火、略奪、強姦などの迫害とされるものは全て「テロリストによるプロパガンダ」とする調査結果を出しています。

もちろん暴力は国軍・警察・ラカイン人側にだけでなく、ARSAなどのロヒンギャ側からのラカイン人やヒンズー教徒への暴力も指摘されてはいますが、ロヒンギャへの暴力が圧倒的規模であったことは間違いないと思われます。

****ロヒンギャ難民の「迷子」6千人超、半数はミャンマーで親殺された孤児****
ミャンマー軍の弾圧を逃れて隣国バングラデシュに逃げてきたイスラム系少数民族ロヒンギャの人々のうち、親が不在の子どもたちの半数は、祖国を脱出する際に親とはぐれたのではなく、既にミャンマー国内で迫害を受け孤児になっていたことが分かった。
 
バングラデシュに設けられた世界最大の難民キャンプに暮らす「迷子」の子どもたち数千人をめぐっては、いつか親と再会できる日が来るのではないかとの希望がこれまで語られてきた。だが、23日に発表された国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」の調査結果は、そうした望みを打ち砕く内容だ。

民族浄化」の疑いが指摘されるミャンマー軍の激しい弾圧を逃れ、バングラデシュの難民キャンプにたどり着いた人々のうち、親を伴っていない子どもたちは援助関係者が把握しているだけでも6000人を超える。(中略)
 
ロヒンギャ70万人がミャンマーを追われ難民となった弾圧の開始から1年、「迷子」の子どもたちを両親と再会させる試みが続けられているが、100人以上の子どもたちを調査した過去最大・最新のデータ分析結果によれば、「迷子」たちの半数はバングラデシュ到着前に孤児になっており、しかもその多くは両親が虐殺される瞬間を目の当たりにしたとみられる。

「ひどいことは分かっていたが、これほどとは思っていなかった。児童保護の経験豊富な専門家でさえ、この調査結果には衝撃を受けている」と、バングラデシュ南東部コックスバザールで人道支援活動に当たっているセーブ・ザ・チルドレンのベアトリス・オチョア氏は語った。(後略)【8月23日 AFP】
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民族浄化批判を強めるアメリカ
人権問題に関しては関心を示さないアメリカ・トランプ政権も、ロヒンギャ問題については“民族浄化”として制裁措置を発表しています。(ミャンマー軍事政権の人権侵害を強く批判していたローラ・ブッシュ米大統領夫人以来の名残でしょうか)

****米国、ロヒンギャ問題でミャンマー軍幹部らに制裁発動****
米政府は17日、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャに対する迫害疑惑を巡り、「民族浄化」や人権侵害などに関与したとし、ミャンマーの軍・警察幹部4人、および軍の2部隊に対する制裁措置を発動させたと発表した。

今回の措置はロヒンギャ問題を巡る米政府の対応としてはこれまでで最も厳しいものとなる。ただ米政府はミャンマー軍の最高司令官レベルは制裁対象には含めず、ロヒンギャの人々を巡り起きている問題を非人道的犯罪とも、虐殺とも位置付けることは避けた。

ミャンマー軍は民族浄化の疑惑は否定しており、テロリズムとの戦いの一環であるとの立場を示している。【8月18日 ロイター】
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アメリカ政府は昨年12月21日にも、ロヒンギャへの迫害を指揮したとして、ミャンマー軍のマウン・マウン・ソー少将に対し、米国内の資産凍結や米国人との取引を禁じる独自制裁を科しています。

ポンペオ米国務長官は25日、ミャンマーにおけるロヒンギャ族に対する行為は「忌まわしい民族浄化」だとし、関与した者たちの責任を今後も追及していくと述べています。

ロイター記者裁判の判決は1週間延期 安保理での協議の結果待ち
こうした国際的な批判のなかで、国軍兵士によるロヒンギャ虐殺を取材中に逮捕され、国家機密法違反の罪で裁判にかけられているロイター通信のミャンマー人記者2人に対する地方裁判所の判決が注目されていましたが、判決言い渡しは1週間「延期」されました。

****ロイター記者判決、1週間延期=「判事が体調不良」―ミャンマー****
ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャに対する迫害を取材していたロイター通信のミャンマー人記者2人が国家機密法違反で起訴された問題で、ヤンゴンの裁判所は27日、予定していた判決を9月3日に1週間延期した。
 
裁判所は判事の体調不良を理由にしている。弁護団は、国連安保理が28日に行うミャンマーに関する協議の結果を待つため、延期した可能性があるという見方を示した。
 
昨年9月にロヒンギャ10人が虐殺された事件を調べていた記者2人は12月に逮捕された。2人は警官から食事に誘われ、飲食店で「機密文書」を渡された直後に逮捕されたと説明。証人として出廷した警官も「警察のわなだった」と証言した。
 
ロイターは「2人は犯していない罪で8カ月以上も収監されている。判決が言い渡されず、失望している」との声明を発表。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチのロバートソン・アジア局長代理は「判決を読み上げる人物が他にいないという理由で収監を延ばすのは、ミャンマーの司法制度がいかに常識と公正さを欠いているかを示している」と批判した。【8月27日 時事】 
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“国連安保理が28日に行うミャンマーに関する協議”で、ミャンマー側への配慮が見られれば、量刑も一定に配慮するとのミャンマー側の“取引”でしょうか?

舞台が国連安保理となると、批判を強めるアメリカに対し、中国・ロシアはミャンマー批判にコミットしない立場ですから、ミャンマーにとっては強い批判は避けられるとも推測されます。

ただ、この記者2人については、事件そのものが“警察のわな”だったことを警察官が証言しています。
こうした当局側の謀略が許されている限り、スー・チー政権が本気でロヒンギャ問題に立ち向かうこともないでしょう。

なお、国連人権理事会の調査団は、ミャンマー国軍総司令官らの国際刑事裁判所(ICC)への付託を求めています。

****ロヒンギャ迫害で国連委が報告書 軍高官の捜査と訴追求める****
ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャ迫害に関し国連人権理事会が設置した国際調査団は27日、迫害行為へのミャンマー国軍の関与は明白だとして、ミン・アウン・フライン国軍総司令官ら軍高官らへの捜査と訴追を求める報告書を公表した。人道犯罪などで訴追権限を持つ国際刑事裁判所(ICC)に問題を付託するように要請した。
 
またアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が迫害を防ぐために「自身の地位と道徳的権威を用いなかった」と非難した。【8月27日 共同】
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批判を強めるだけではミャンマー側を頑なにするだけ・・・という“大人の論理”が日本外交の立場なのでしょうが、問題によっては白黒をはっきりさせるべきものもあります。

難民の大量流入に苦しむバングラデシュ ビジネスチャンスとする人も
ロヒンギャに関しては、70万人超の難民の帰還をどうするのかという問題、ミャンマー政府がどのように対応するのかという問題、国軍の責任をどう問うのかという問題がメインとなりますが、付随する形でいろいろな問題も起きています。

ひとつは、難民受け入れ側のバングラデシュの問題

****ロヒンギャ流入、おびえる少数派=人口バランス激変―バングラ****
(中略)バングラデシュ南東部コックスバザールに押し寄せたロヒンギャは膨大な数に達する。一方で、コックスバザールには少数派の仏教徒やヒンズー教徒も暮らしており、増え続けるロヒンギャにおびえる人もいる。
 
この1年間、バングラデシュに逃れたロヒンギャは70万人近い。主要な難民キャンプがあるコックスバザール県の二つの郡には、それまでの人口とほぼ同じ人数のロヒンギャが流入し、人口バランスは激変した。
 
ロヒンギャ難民キャンプで支援に当たる国際機関関係者の運転手を務めるバングラデシュ人の男性(40)は、少数派の仏教徒。これまでは「イスラム教徒と衝突もなく、家の窓やドアを開けたまま暮らせるほど平和だった」と昔を振り返った。
 
しかし、昨年8月からのロヒンギャの大量流入で、恐怖を覚えるようになったと語る。「仏教徒にミャンマーを追い出されてきた人たちだ。自分たちに仕返しをしないか不安だ」と心情を打ち明けた。(後略)【8月25日 時事】
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一方で、難民発生の状況をビジネスとして活用する人々も。

****全てがビジネス」、ロヒンギャ難民危機で駆動する経済 バングラ****
ミャンマー出身のラカイン人仏教徒であるミンミンさんはバングラデシュで、自身が船長を務める船から、イスラム教徒の少数民族であるロヒンギャの労働者たちが、ショウガを詰めた袋を担いで荷下ろしする様子を見つめていた。ミンミンさんは難民危機がつくり出したビジネスチャンスをつかんだ一人だ。
 
ミンミンさんは「争いについては心配していない…全てがただのビジネスだ」と言い、船から積み荷が降ろされるのを待ちながらウイスキーやたばこを差し出し、ビンロウの実によって赤く染まった歯を見せて笑った。
 
(中略)ロヒンギャの人々のためのキャンプは今や、丘陵地帯や農地にまで拡大したテント村の様相を呈している。
だがその中では、支援金が呼び水となって、さらには食料、住まい、仕事を必要とする多くの人々、そして消費財を購入する余裕がある人々が形成した市場によって、新しく、かつダイナミックな経済が駆動している。
 
数世代にわたって続けられてきた貿易によって、ラカイン人とロヒンギャ人、さらには両国を往来するバングラデシュ人の間に存在する宗教的な対立関係が希薄化した面もある。(後略)【8月19日 AFP】A
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難民ビジネスのなかには、麻薬密輸のような違法ビジネスもあって、地域を不安定化させる問題ともなっています。
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