孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシアの中距離ミサイル配備にアメリカは強い警告 深まるアメリカと中ロの対立

2018-10-03 22:39:49 | ロシア

(2017年の演習で発射されたロシアの核弾頭搭載可能な単距離弾道ミサイル「イスカンデル」。今回問題となっているノバトル9M729ミサイル(NATOの呼称ではSSC-X-8)はその発展形といわれる。【10月3日 Newsweek】)

INF条約(中距離核戦力全廃条約)を形骸化させるロシアのミサイル開発
アメリカ(レーガン大統領)とソ連(ゴルバチョフ書記長)は東西冷戦中の1987年に、射程500〜5500キロの地上発射型弾道ミサイルと巡航ミサイルの保有を禁じるINF条約(中距離核戦力全廃条約)を締結しています。

米ソ両国は条約を履行し、配備していたミサイルを退役・撤去しています。

しかしプーチン大統領は、中国など他の国はこの条約に縛られない不平等性に不満を表明し、中距離射程の地上発射型巡航ミサイル開発を進めています。

アメリカ・オバマ政権は、INF条約違反の恐れがあると抗議していましたが、ロシアの開発・発射試験は続けられ、実戦配備の段階にあるとも。

こうしたロシアの動きに対抗してアメリカも同種のミサイル開発のに着手。米ロが核ミサイルの軍拡競争に再突入することが懸念されてきました。

****米ロが核ミサイルの軍拡競争に再び突入する危険性****
くすぶり続けるINF問題
(中略)欧州全域には届くが米本土には届かないソ連のミサイルが欧州に大量配備されたことにより、欧州での限定核戦争に現実味が出てきたのではないか・・・。
 
このような懸念から、米ソが互いの本土を狙う戦略核戦力(射程5500キロ以上)と、戦場で使用される戦術核戦力(射程500キロ未満)以外の中距離核戦力(戦域核戦力)は全廃してしまおうというのがINF条約の趣旨であった。
 
ただし、対象となるのは地上発射型の巡航ミサイルと弾道ミサイルであり、艦艇や航空機から発射される巡航ミサイルは規制を受けない。
 
また、INF条約では既存のミサイルを全廃するだけでなく、該当するカテゴリーのミサイルの配備を今後も無期限に禁止している。ミサイル自体の生産はもちろん、その発射装置を製造したり、発射試験を行うことも認められない。
 
ところがロシアは近年、この条約に反して、米国が「SS-C-8」と呼ぶ地上発射型巡航ミサイル(GLCM)を開発してきたと見られている。
 
SS-C-8は「イスカンデル-M戦術ミサイル・システム」に似た移動式発射機から発射されるGLCMであり、その射程は1000キロから数千キロに及ぶと見られる。したがって、その生産や発射試験は明らかな条約違反だ。
 
それどころか、今年2月にはついにSS-C-8 GLCMが実戦配備されたのではないかという報道(『ニューヨーク・タイムズ』2月14日付)まで登場し、ロシアの条約違反問題はいよいよ深刻になってきた。
 
だが、ロシア政府はこのような疑惑を一切認めておらず、それどころか条約に違反しているのは米国であると主張し(例えば欧州に配備されたミサイル防衛システムからは巡航ミサイルも発射できるではないか、など)、双方の主張は全く噛み合っていない。

米国もGLCMを「研究」へ
こうした中で、米国としてもロシアのINF条約違反に何らかの対抗措置を示すべきではないかという機運が高まっている。
 
例えば今年6月、米下院軍事委員会は、ロシアの違反行為に対抗して米国もINF全廃条約の無効を宣言し、同様のGLCMを開発することを2018年の国防授権法に盛り込むよう勧告した。
 
11月8日付の『ザ・ヒル』紙によれば、国防授権法には実際にGLCM研究開発のために5800万ドル(約60億円)の予算が盛り込まれる見通しであるという。ただし、INF全廃条約の無効を宣言するという点は結局盛り込まれないようだ。
 
INF全廃条約を遵守しながら禁止対象のミサイルを開発するというのは、一見矛盾するようだが、条約の文言をよく読むとおかしなことではない。
 
INF全廃条約第6条の規定によると、同条約が禁止しているのは、射程500〜5500キロの地上発射型ミサイルやその発射装置を生産したり、実際に飛行試験することである。つまり、研究・開発レベルにとどまっている限りは条約違反ではないのだ。
 
そして米国が懸念を募らせているのは、ロシアがこうした研究・開発レベルを明らかに踏み越え、ミサイルの生産と飛行試験(ことによっては実戦配備)にまで至っていると見られていることによる。
 
そこで米国が考えているのは、まずは条約違反にならない範囲でGLCM研究に手をつけ、そのことによってロシアに条約違反をやめるよう圧力をかけるという戦略であるようだ。(中略)

ロシアの思惑
だが、ロシアの条約違反が仮に事実だとして、それはいかなる意図によるものなのだろうか。
 
一面において、米国によるGLCMの再配備はロシアにとって困った事態である。
INF全廃条約が破綻し、欧州に米露のINFが配備されれば、ロシアを攻撃し得る核弾頭の数は増加する一方、ロシアのINFは米本土には届かないという不均衡が発生する。(中略)

その一方、INFの配備は、ロシアにとっての核オプションを増加させるものという考え方もできる。
戦術レベルと戦略レベルの間に戦域レベルの核兵器が存在していれば、全面核戦争へのエスカレーションを抑制しつつ戦術核兵器を使用できる可能性が出てくるためである。(中略)

中国を意識しているのではないかという論者もいる。
ロシアが中国を潜在的脅威と見做していることは事実だ。特に近年の人民解放軍の急速な近代化は、ロシアのこうした脅威認識をさらに高めている。(中略)

ロシアはこの種の不満を2000年代半ばから提起しており、2007年2月にはウラジーミル・プーチン大統領自らがミュンヘン国際安保サミットでINF全廃条約の不平等性を訴えた。
 
さらにゲーツ米国防長官の回想録によると、ロシア政府は同年、「イラン、パキスタン、中国に対抗するために」米露がINF全廃条約を同時脱退することを提案してきたという。(中略)
 
だが、ロシアの対中安全保障戦略の基本は、中国を明示的に脅威視しないという点にある。中国が脅威として顕在化した場合の政治・経済・軍事的コストは、あまりにも膨大なものであるためだ。
 
このような観点からすると、対中関係が比較的良好に推移している今、中国向けにINFを配備しなければならない必然性には若干の疑問が残る。
 
西側との関係悪化に反比例して対中依存が深まるなか、中国に従属させられないための抑止力が必要なのだという考え方もできなくはないが、今のところ想像の域を出るものではない。(後略)【2017年11月27日 JB Press】
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上記のように、ロシアによるINF開発の問題は今に始まった話ではなく、特にトランプ政権になってから米ロの間で批判の応酬がなされてきたところです。

【「全廃しなければ排除する」・・・・「先制攻撃について話したのではない」】
ここにきて、NATO米代表部のハッチソン大使が、ロシアが新型の地上発射型巡航ミサイル開発を進めていると指摘、中距離核戦力(INF)廃棄条約違反であり、配備するなら「ミサイルを除去する対抗措置が取られるだろう」と「破壊」を示唆する強い言葉で訴えたことで、さらに問題はヒートアップしそうな気配です。

****ロシアのミサイル開発で、NATO軍事行動も辞さず****
<新たな核軍拡競争の始まりか? 欧米に到達可能なロシアの新型中距離核ミサイル「全廃しなければ排除する」>

NATO(北大西洋条約機構)米代表部のケイ・ベイリー・ハッチソン大使は、欧州の加盟国を攻撃可能なロシアの新型ミサイルシステムに対して、アメリカは軍事行動を起こす用意があると警告した。

ハッチソンは記者団に対し、ロシアが開発を進めている地上発射型の核搭載可能なノバトル9M729ミサイル(NATOの呼称ではSSC-X-8)は、1987年にアメリカとソ連が締結した中距離核戦力(INF)全廃条約の禁止対象あたると述べた。

ハッチソンがロシアに冷戦時代の合意を遵守するよう要請したのは、ジェームズ・マティス米国防長官がベルギー・ブリュッセルのNATO本部で10月2〜3日の両日に行われるNATO国防相会議に参加する前日だった。

「今こそロシアは交渉のテーブルにつき、条約違反を止めるべきだ」と、ハッチソンはブリュッセルのNATO本部で記者団に語った。

この欧米に届くこのミサイルが「使用可能になった」とすれば、アメリカは「排除措置を検討することになる」と述べた。

アメリカは2014年以降、射程500~5500キロの地上発射型ミサイルの製造を禁じるINF条約に違反していると、ロシアを非難している。

軍事的選択肢の検討も
この条約に署名した旧ソ連の指導者ミハイル・ゴルバチョフは、ドナルド・トランプ米大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領は新たな軍拡競争を起こす前に、問題を解決しなければならないと警告した。

だが、ロシアはINF条約違反を否定し、欧州全体にミサイルを配備しているアメリカこそ条約に違反していると主張している。

9M729についてはあまり知られていないが、ロシアが西側との国境地域に配備を進めている短距離弾道ミサイル「イスカンデル」と同じ発射装置を使用できると考えられている。

NATOはロシアに隣接するエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国およびポーランドで、ロシアの侵略に対する防衛を強化するための多国籍戦闘群を設立した。

ロシアが2014年にウクライナの政情不安に乗じてクリミア半島を占領して以降、NATOとの関係は悪化している。そして双方とも、軍備を強化し、即時に戦闘態勢をとるための演習を重ねてきた。

ところがトランプはNATOを公然と「タダ乗り」批判。加盟国に対し、より多くの資金負担を要求している。今のNATOがロシアの攻撃に対抗できるのか、不安視する専門家も多い。【10月3日 Newsweek】
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さすがにトーンがきつすぎたと思ったのか、ハッチソン大使は「先制攻撃について話したのではない」と軌道修正してはいます。

****米NATO大使、露中距離巡航ミサイル破壊示唆 「先制攻撃についてでない」と軌道修正****
北大西洋条約機構(NATO)米代表部のハッチソン大使は2日、ブリュッセルでの記者会見で、ロシアが中距離核戦力(INF)全廃条約の禁止対象であるミサイル開発を進めているとし、「ロシアが条約に違反して開発中のミサイルを除去するため対抗措置が取られるだろう」と述べた。破壊を示唆したと報じられたが、大使はその後、ツイッターで「先制攻撃について話したのではない」と軌道修正した。

(中略)ロシアのタス通信によると、ロシア外務省のザハロワ報道官はハッチソン氏の発言に対して、「攻撃的な発言の危険性を自覚していない」とする声明を出して反発した。

ハッチソン氏はツイッターで自らの発言について米国がNATO加盟国とともに相応の能力を持つ必要性を強調したものだと説明し、攻撃を意図したものではないとした。米国務省のナウアート報道官も2日の記者会見で、大使は「抑止態勢の向上について話した」と述べた。(後略)【10月3日 産経】
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“排除措置を検討”とは「攻撃を意図したものではない」というのは、やや苦しい弁明ですが・・・・。
先制攻撃はなくとも、アメリカも欧州へのミサイル配備を進める・・・という流れにも。

米ロ間では、ウクライナ問題やアメリカへの内政干渉をめぐる対ロシア制裁に加え、今年3月に英ソールズベリーで起きた神経ガス「ノビチョク」による元ロシアスパイ父娘に対する暗殺未遂事件を受けて、生物化学兵器法の規定に基づき、アメリカ議会はロシアに対し制裁を実施しています。

ロシアの対応改善が見られない場合(ロシアが事件を否定している以上、まず確実にそうなるでしょう)、11月には対ロシア融資の禁止、対ロシア輸出入の禁止、ロシア航空機の米国乗り入れ禁止、外交関係の格下げなどが含まれ得るより厳格な第2弾にステップアップされることにもなっています。

中ロを同時に相手とする二正面作戦?
一方、ロシアは中国との経済・軍事関係の強化を進めています。

****ロシア軍、冷戦後最大の演習=中国が初参加―極東・シベリア****
ロシア軍は(9月)11日、冷戦後最大規模となる軍事演習「ボストーク(東方)2018」を極東やシベリアなどで開始した。4年に1度の「ボストーク」に今回は中国軍が初参加。

11日にはウラジオストクでプーチン大統領と中国の習近平国家主席が会談しており、中ロの軍事的連携を誇示する狙いがありそうだ。(後略)【9月11日 時事】
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こうした流れのなかでアメリカは、中国がロシアから軍用機と地対空ミサイルを購入したとして、中国の人民解放軍に制裁を科すと発表。貿易摩擦が激しさを増すアメリカ・中国の対立もさらにヒートアップしています。

****米、中国軍に制裁 ロシアの軍用機・ミサイル購入で****
米国政府は20日、ロシアから軍用機と地対空ミサイルを購入したとして、中国の人民解放軍に制裁を科すと発表した。

中国は先に、スホーイ製の戦闘機「SU-35」と、「S-400」型ミサイルを購入。米国はこれが、ウクライナ問題や米国への内政干渉をめぐる対露制裁の禁止事項に抵触しているとしている。

米国や西洋諸国が2014年に科したこの制裁に、中国は参加していない。(後略)【9月21日 BBC】
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中ロの接近をけん制するものとも言えますが、少なくとも今のところは米中の対立を煽る形になっています。

この問題を含め、アメリカ・中国のチキンレース的な対立が激化しているのは(今回の本旨ではないので詳細は省きますが)周知のところです。

力自慢のトランプ政権らしい対応とも言えます。
ただ、中国を相手にするならロシアと組み、ロシアを相手にするなら中国と組む・・・という方策が得策ですが、同時にロシアと中国を相手にして、ロシア・中国は接近するという二正面作戦というのはどうなんでしょうか?

中ロの「二正面」どころか、欧州をぼろくそにけなし、日本には自動車で恫喝し・・・と、関係国すべてを同時に相手にしようとしているようにも見えます。

ミサイル供与を拡大するロシア
一方、ロシアはこのところ関係国へのミサイル供与を拡大して、関係強化を図っています。これはアメリカの神経を逆撫ですることにもなります。

シリアでは、ロシア軍の偵察機がイスラエル軍機を狙ったシリア軍の地対空ミサイルによって誤って撃墜された事件を受けて、イスラエルが反対していた高性能の地対空ミサイルシステム「S300」をシリアに供与すると発表、イスラエルだけでなくアメリカもこのロシア対応を批判しています。

****トルコの露S400導入に反対 米国務省報道官「NATOの兵器相互運用性損なう*****
ロシアの国営武器輸出企業が最新鋭防空システム「S400」のトルコへの引き渡しを2019年に始めるとの報道があり、米国務省のナウアート報道官は23日の記者会見で、「トルコのような北大西洋条約機構(NATO)加盟国がS400を使用することはわれわれの政策に反し、懸念している」と述べた。(中略)
 
米国とトルコの関係は、トルコで米国人牧師の自宅軟禁が続いていることなどで悪化しており、米政府は今月、成立した19会計年度(18年10月〜19年9月)国防権限法で、トルコによるS400導入計画を理由に最新鋭ステルス戦闘機F35の売却を当面、凍結した。【8月24日 産経】
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****ロシア、印とS400供与契約へ 大統領訪問時、5千億円****
ロシアのウシャコフ大統領補佐官は2日、プーチン大統領の今月4〜5日のインド訪問時に、ロシアの最新鋭地対空ミサイルシステム「S400」5基をインドに供与する契約が締結されると語った。契約額は50億ドル(約5690億円)以上。インタファクス通信が伝えた。

インドへの地対空ミサイルシステム供与を巡ってはロシアと米国が激しく競い合い、米政府は、インドがS400を購入すれば米国の制裁対象になると圧力をかけていた。

米欧の厳しい経済制裁にさらされるロシアは、インドや中国など主要新興国との戦略的関係の強化を重視している。【10月3日 共同】
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アメリカとロシア・中国の力比べ・軍拡競争の流れにどこかで歯止めがかかるのか?
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