
(トルコ・イスタンブールのサウジアラビア領事館前で、行方不明となっているサウジ人記者ジャマル・カショギ氏の写真を掲げて抗議する人々(2018年10月5日撮影)【10月6日 AFP】
トルコ・アラブメディア協会主催の抗議で、一般国民の動向とはまた別もののようにも)
【サウジ皇太子「トルコ官憲が立ち入り、隅々まで調べてもらって結構」】
大使館や領事館は現地の当局でも立ち入りが困難で、映画・TVドラマでは、しばしば事件の舞台ともなります。
トルコ・イスタンブールのサウジアラビア総領事館で起きた“反政府ジャーナリスト行方不明”事件もそんなドラマを思わせるような展開です。
****サウジ批判のジャーナリストが行方不明 訪問先トルコで****
サウジアラビア政府を批判してきた同国の著名ジャーナリストが、訪問先のトルコ・イスタンブールで行方不明になり、両国の対立を招いている。
トルコ政府は「イスタンブールのサウジ総領事館内にいる」と主張し、サウジ政府は「総領事館を出た後、行方不明になった」と反論。両政府の言い分は真っ向から食い違うため、外交問題に発展することが懸念されている。
行方不明になったのは、サウジ国籍のジャマル・カショギ氏。米国を拠点にワシントン・ポスト紙などに寄稿し、サウジのイエメンへの軍事介入やムハンマド皇太子が主導する改革に批判的な論調で知られる。
AP通信などによると、カショギ氏は2日、結婚の手続きのためにイスタンブールのサウジ総領事館に入った後、行方がわからなくなったという。
カショギ氏の婚約者が総領事館の外で同氏が出てくるのを待っていたが、入館から数時間経っても出てくる姿を確認できなかったという。
トルコ大統領府のカルン報道官は3日の記者会見で、カショギ氏はサウジ総領事館内にいるとの見解を示した。だが、サウジ側はこれを即座に否定した。
トルコとサウジは昨年6月、サウジがカタールと断交したことをめぐり、トルコがカタールを支持し、外交関係が一時ぎくしゃくした経緯がある。
中東の地域大国であるトルコとサウジが、カショギ氏の行方不明問題をめぐって再び外交関係をこじらせれば、二国間だけでなく地域全体に影響が及ぶことが危惧される。【10月5日 朝日】
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TVニュースによれば、カショギ氏はこのような事態になることも懸念していたようで、総領事館に入る前に、外で待つ婚約者に「もし、自分が出てこないときは・・・・」と、そうした場合の対応を指示していたとか。
総領事館前では5日、カショギ氏の「解放」を求める支持者の集会が行われたとも。
この件に関して、サウジアラビアの実力者ムハンマド皇太子は、「トルコ官憲が立ち入り、隅々まで調べてもらって結構」と語っているとか。
****スパイ小説並みのサウディ・ジャーナリストの消息****
(中略)アラビア語メディアはサウディの皇太子が5日、
「総領事館の施設はサウディの主権下にあるがサウディ側としては何も隠すことはないので、トルコ官憲が立ち入り、隅々まで調べてもらって結構である」と語ったとのことです。【10月6日 中東の窓】
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なお、【中東の窓】を書かれている野口氏は外交官として働いていらしたので、サウジ皇太子の“総領事館の施設はサウディの主権下”云々に関して、以下のようにも。
“国際法上は不正確。総領事館施設等は不可侵権を有するが、その国の主権下にあるわけではない。
また同じく不可侵権を有する大使館とは違って、火災等の際には、施設団の長の許可なしに官憲が立ち入ることができることになっていて、若干不可侵権も制限されている。”
上記記事によれば、al jzeera netなどでは、“khshoiggi は素早く総領事館から表に連れ出され、さらにトルコ外に移送され、現在はジェッダの牢獄に閉じ込めらている”といった情報も流れているとか。
そのように、すでに移送済みのために“トルコ官憲が立ち入り、隅々まで調べてもらって結構”と開き直っているのか、あるいは、いくらトルコ・エルドアンが怒っても、さすがにサウジアラビア総領事館に立ち入ることはしないだろう・・・と考えているのか(実際に立ち入って見つけることができなければ、トルコ側としては振り上げたこぶしの下ろしどころがなくなります。)。
サウジアラビアでは、2012年に米国務省の「勇気ある国際的な女性賞」を受賞した女性権利活動家サマル・バダウィ氏が拘束され、解放を求めるカナダ(【8月6日 Bloomberg】ではバダウィ氏自身がカナダ国籍を有するとされていますが、【8月30日 朝日】では、やはり反政府的ブロガーでサウジ政府に拘束されている弟の妻がカナダで解放を求めて活動しており、カナダ国籍を取得したとも。)との間で、サウジ側が「露骨な内政干渉」だと猛反発、駐カナダ大使の召還や、新規の貿易や投資の凍結を表明するなど外交問題に発展しています。
上記のようなサウジアラビアの政治体質を考えれば、今回“事件”も、ありそうな話です。
なお、上記【中東の窓】によれば、中東ではこの種の拉致事件は珍しくないとも。
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小説そのものみたいになってきますが、中東関連ではこの種の話は必ずしも珍しくなく、ふと思いつくだけでも、
イスラエルの核施設で働いていた技術者が英国に亡命し、核兵器の秘密を暴露した時に、モサドが美人スパイを使って罠にかけ(こういうのをhoney trap 蜜の罠と言うが)誘拐して、イスラエルに連れ帰り、裁判にかけて有罪とした事件
逆に失敗した事件では、1966年だったか、エジプト情報局がイスラエルとの2重スパイの嫌疑で、情報員1名を拉致して外交荷物と書いた木の箱に入れて、カイロに送ろうとして、彼が空港で騒ぎだして・・麻酔が切れたか?・・ばれた事件(中略)
等があり、もう少し思い出せれば、いろいろと出てくるかと思いますが、この記事が事実であれば、サウディ情報局等は、周到に用意の上、結婚手続きの書類を渡すという口実でkhasshoggi を総領事館におびき出し、拉致したものでしょう。(後略)【10月6日 中東の窓】
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【政府批判派拉致では似たような体質のトルコ】
なお、仮にサウジアラビアが反政府ジャーナリストを在トルコ総領事館で拉致したとしても、もう一方の当事国トルコも似たようなことをやっており、あまりサウジを非難できる立場でもないようにも。
****外国で批判派を拉致するエルドアンの国際感覚****
トルコのエルドアン大統領は9月28日、訪問先のドイツでメルケル首相と会談。アメリカ在住のイスラム教宗教指
導者フェトフッラー・ギュレン師を支持する「ギュレン運動」関係者の引き渡しを求めた。
エルドアンは16年7月のクーデター未遂事件をギュレン派の仕業と断定。徹底した弾圧と権力強化を図ってきた。既に何千人ものジャーナリスト、政治家、公務員が職を追われ、刑務所に送られた。
ギュレン本人の身柄についてもアメリカに引き渡しを要求しているが、オバマ前政権もトランプ現政権も十分な証拠がないとして拒否。
ドイツ政府当局者も、この問題を分析するための時間がもっと必要だと述べた。
ギュレン運動は世界100カ国以上に宗教学校を設立。支持者が教師を務めている。トルコ政府は外交ルートを通て学校の閉鎖と教師の引き渡しを求めているが、時には力ずくで拉致しようとすることもある。
今年7月には、モンゴルでトルコ人教師が拉致されて飛行機に乗せられ、離陸直前に事件を知ったモンゴル当局に阻止されるという出来事があった。
3月にはコソボで、6人のトルコ人が正当な法的手続き抜きで突然、国外追放になった。トルコ側の報道によれば、この身柄引き渡しにはコソボ当局も協力したが、後に同国政府内部で意見対立が表面化。コソボのハラディナイ首相は内相と情報機関のトップを解任した。
コソボ政府当局者は本誌に対し、同国でエルドアンは100人前後の拉致を計画していたと語った。
関係者の引き渡しを求めるエルドアンをメルケルは「証拠不十分」といなした。アメリカとの対立や通貨危機による苦境を打開したいエルドアンだが、ドイツで明らかになったのは人権感覚をめぐる世界との溝だった。【10月9日号 Newsweek日本語版】
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サウジアラビアにしても、トルコにしても、似たり寄ったりの政治体質です。
【サウジアラビア 国営石油会社「サウジアラムコ」の株式上場は2年延期】
その両国に関する話題を1件ずつ。
サウジアラビア関連では、以前も取り上げたことがある、世界最大の国営石油会社「サウジアラムコ」の株式上場の件。
****サウジアラビア 国営石油会社の株式上場計画を2年延期****
サウジアラビアのムハンマド皇太子は、史上最大規模になるとして注目されてきた国営石油会社「サウジアラムコ」の株式上場の計画について、ことし予定されていた計画を2年程度、延期する考えを示しました。
サウジアラビアは、世界最大の国営石油会社「サウジアラムコ」の株式を上場させ、売却で得たばく大な資金をもとに、石油以外の分野への投資を加速させる計画を進めています。
アメリカの大手メディア、ブルームバーグは5日、計画を主導するムハンマド皇太子が、ことし予定されていた株式の上場を早くても再来年の後半まで2年程度、延期する考えを示したと伝えました。
その理由についてムハンマド皇太子は、「サウジアラムコ」に政府系の石油化学会社を事実上統合させて企業価値を高めるためだとしています。
この計画は、上場後の時価総額の見通しが日本円で200兆円規模に上ることから、世界最大規模の株式上場として日本はじめ各国で注目を集めていますが、上場先の海外の取引所も決まっておらず、実現には懐疑的な見方が出ていました。
ムハンマド皇太子は、こうした見方を否定したうえで、「石油化学の需要はまだ伸びる」と述べて、計画の実現に自信を示しました。
上場計画が実現しなければ、脱石油の経済改革が看板倒れに終わるおそれも指摘されているだけに、ムハンマド皇太子としては、新たな上場の時期をみずから明らかにすることで、不安を払拭(ふっしょく)したい狙いがあるものとみられます。【10月6日 NHK】
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以前取り上げた際(9月1日ブログ“サウジアラビア 対外的強硬路線を突き進む皇太子 国内改革の中核事業に国王反対”)には、皇太子の父親でもあるサルマン国王が同計画に反対している・・・との反皇太子派からのリーク情報を取り上げましたが、そのあたりはどうなったのでしょうか?
いかに“実力者”皇太子とは言え、国王が正式に反対を表明していては実現できません。
なお、「サウジアラムコ」の株式上場は皇太子が進める改革の財源となる中核事業ですが、ムハンマド皇太子がたとえ国王の反対にあっても、あるいは反皇太子派の妨害があっても、この脱石油の改革にまい進するのは、電気自動車の普及など、「いずれ石油に対する需要は先細る、そのとき石油しかないということではサウジアラビアは立ち行かない」との危機感があるようです。
邪魔するものは、たとえ王族であろうが切り捨ててでも改革を実現する・・・との覚悟のようですが。
【トルコ EU加盟交渉の継続問う国民投票検討】
トルコ関連では、ほとんど形骸化しているEU加盟交渉の話。
****トルコ大統領、EU加盟交渉の継続問う国民投票検討へ****
トルコのエルドアン大統領は4日、長らく行き詰まっている欧州連合(EU)加盟交渉を今後も継続するかどうかを問う国民投票の実施を検討すると明らかにした。
トルコのEU加盟交渉は2005年に正式に始まった。国民投票の結果次第では交渉が打ち切られ、トルコは欧米諸国と一段と距離を置くことになるかもしれない。
エルドアン氏はイスタンブールでの会合で「もう2018年になったが、EUはまだわれわれを待たせている」と指摘。8100万人がどのような決定をするか、国民投票にかけることを検討する考えを明らかにした。
国民投票の実施が決まれば、すぐにそれに向けた措置を実施すると説明した。【10月5日 ロイター】
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EU側に人権などの価値観が異なる(あえて“宗教が異なる”とは言いませんが)トルコを本気でEUに迎え入れる考えはないでしょう。特に、イスラム主義を鮮明にしつつあるエルドアン政権では。
トルコより後から加盟交渉に入った国が、トルコを追い抜いて加盟への手続きを進めています。
ただ、あえて加盟交渉打ち切りの国民投票実施となると、EUとの間でまた波風が大きく立ちそうです。
加盟交渉を行っているということが、EUとトルコの関係を調整するうえでの枠組みともなってきました。
国内的にも、EUとの関係を重視する世俗派・反エルドアン勢力との対決姿勢が鮮明になります。
EUとしては、難民問題で防波堤となっているトルコとの関係は必要不可欠なものにもなっています。メルケル首相がギュレン派関係者の引き渡しを求めるエルドアン大統領と会談を続けているのも、そうした事情あっての話です。