孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  和平交渉の動き 選挙を前にタリバンの攻勢が強まる 一方で、干ばつの脅威も

2018-10-18 22:44:47 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタンの首都カブールで、タブロイド紙と同程度の大きさで15ページもある投票用紙を披露する独立選挙委員会のスタッフ【10月18日 AFP】 この新聞のような投票用紙は、識字率が高くないアフガニスタンでは有効な選挙にとって大きな障害にもなるのでは・・・)

タリバンとの直接交渉に乗り出すアメリカ
2001年9.11後のアフガにスタン侵攻以来、アメリカにとって最も長い戦争となっているアフガニスタンでの戦いですが、戦闘での解決は期待できない情勢で、アメリカは反政府勢力タリバンと和平協議に乗り出しています。

****タリバン、アフガン紛争終結に向け米と協議 初めて公式に認める****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンは13日、タリバンの代表者と米国のザルメイ・ハリルザドアフガン和平担当特別代表が、アフガン紛争終結に向けてカタールで会談したと明らかにした。米・タリバン間の協議がいずれかの当事者によって公式に認められたのは今回が初めて。
 
以前からタリバンは米国との直接交渉を求めていた。ハリルザド氏はアフガン最大の武装勢力であるタリバンとの会談に向けて、パキスタンやサウジアラビアといった周辺諸国に根回しを行っていた。
 
タリバンのザビフラ・ムジャヒド報道官は、ハリルザド氏ら米代表との会談はカタールの首都ドーハで12日に行われたと発表した。
 
発表によると、タリバンと米代表は、タリバン政権崩壊につながった2001年の米主導の「アフガン侵攻の平和的解決」について話し合った。

タリバンは外国軍のアフガン駐留は和平への「大きな障害」だと明言したという。また同報道官は、双方が「今後も協議を続けることで合意した」と述べたが、詳細は明らかにしなかった。
 
米国のハリルザド特別代表は声明で、この和平プロセスにはすべてのアフガン人が関与しなければならないと述べたが、タリバンとの会談には言及しなかった。AFPは在アフガニスタン米大使館にコメントを求めたが、回答は得られなかった。【10月14日 AFP】
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“両者の非公式会談は7月に続き2度目。米国は表向き、和平協議は「アフガン政府とタリバンの間で行われるべきだ」との立場だが、タリバンがアフガン政府との交渉を拒否していることから、タリバンとの正式な和平協議に直接乗り出す意向を固め、動きを加速させている。”【10月13日 毎日】

アフガニスタン政府にまかせていては、いつになるかわからない・・・ということで、直接交渉に乗り出したようです。

議会選挙を前に攻勢を強めるタリバン
協議がまとまるかどうかはこれからの話ですが、アメリカ側からは当面の事案として、今月20日に実施予定のアフガニスタン下院選に合わせた停戦の申し出もあったようです。

しかし、選挙を認めないタリバン側の攻勢はむしろ強まっており、連日のように選挙妨害を意図したテロ等が報じられています。

****アフガンで選挙集会狙った爆発・襲撃事件 複数人が死亡****
今月20日に下院の総選挙を予定しているアフガニスタンで13日、選挙活動の妨害を図る爆発・襲撃事件が続いた。
 
地元警察によると、北部タカール州で選挙集会を狙った爆発があり、少なくとも市民ら14人が死亡、35人が負傷した。自爆テロとみられる。

また、西部ヘラート州では選挙事務所で武装した男らが銃を撃ち、市民2人が死亡した。いずれも候補者にけがはなかった。現地時間の13日夜時点で犯行声明は出ていない。
 
同国では選挙に反対する反政府勢力タリバーンや過激派組織「イスラム国(IS)」の支部による攻撃が続いており、7月以降に少なくとも候補者8人が死亡している。(後略)【10月13日 朝日】
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候補者殺害はさらに増加して10人となっています。

****下院選の候補殺害=登録開始後10人目―アフガン****
アフガニスタン南部ヘルマンド州の州都ラシュカルガで17日、下院選(20日投票)候補者の選挙事務所に置かれた爆発物がさく裂し、州当局者によると候補者を含む3人が死亡、7人が負傷した。選管によると、選挙人登録が始まった7月以降に殺害された候補者は10人目。
 
ロイター通信は州当局者の話として「候補者の椅子の下に爆弾が仕掛けられていた」と報じた。反政府勢力タリバンがツイッターで犯行声明を出した。【10月17日 時事】 
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和平の動きが出ると、交渉を有利に進めるために攻勢を強める・・・というのは、これまでも見られた現象です。

****<アフガン>タリバン攻撃強化 下院選を前に妨害狙い****
内戦下のアフガニスタンで8年ぶりとなる下院選(定数250)が20日に実施されるのを前に、旧支配勢力タリバンが選挙妨害を狙って攻勢を強めている。

タリバンは今月12日、和平に向けて米国と2度目の直接会談を行っており、攻勢を強化することで米国との交渉を有利に運ぶ意図があるとみられる。

過激派組織「イスラム国」(IS)のテロも想定され、選挙の円滑な実施に懸念が出ている。
 
「選挙はイスラム教やアフガンのものではなく、支配を続けようとする外国の陰謀だ」。タリバンは17日の声明で選挙をこう批判した。

この日、南部ヘルマンド州の候補者の選挙事務所で爆発があり、候補者ら計3人が死亡。さらに同日、東部パルワン州の駐留米軍基地近くでも爆発があり市民2人が死亡。いずれもタリバンが犯行声明を出した。
 
下院選は2015年に実施予定だったが、治安の悪化から繰り返し延期になってきた。ガニ大統領は下院選を成功させることで統治能力を内外に示し、来年4月の大統領選に弾みをつけたい考えだが、治安の悪化に歯止めがかかっていない。
 
タリバン関係者によると、ガニ政権を支援する米国は、タリバンとの直接交渉で下院選に向けて停戦を求めた。タリバン内では停戦に賛成する意見もあったが、タリバン指導部への国連制裁の解除など、米国への要求が認められていない段階での停戦に否定的な声が多く、攻勢を強めているという。【10月18日 毎日】
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乱立する候補者
このような状況で、どれだけの国民が投票所に足を運ぶのか・・・懸念されるところですが、その投票自体もなかなかに厄介なしろもののようです。

****投票用紙がまるで新聞、候補者800人超から1人選ぶアフガン下院選****
全15ページにも及ぶ投票用紙に、800人以上の候補者の顔写真がずらりと並び、その中からたった1人を選んで投票する──20日にアフガニスタンで行われる議会下院選挙で、首都カブールの有権者はこんな難題と取っ組み合わなければならない。しかも、投票所は過激派に狙われやすい危険な場所だ。
 
3年も先送りされてきたアフガニスタン下院選には、全土で2500人超が立候補している。うち3分の1が、全人口の約2割が集中するカブール州選挙区からの出馬だ。一選挙区からの立候補者数として国内最多で、投票用紙はさながら新聞のようだ。
 
有権者1人が投じられるのは1票だけ。タブロイド判とほぼ同サイズの分厚い投票用紙から、これだと思う候補者を選び出す作業には、相当の時間がかかるだろう。
 
旧支配勢力タリバンやイスラム過激派組織「イスラム国」が投票所を襲う危険の高い状況では、理想的な選挙環境とは到底いえない。

過激派は、選挙を「悪意に満ちた米国の謀略」と呼び、投票所や選挙管理委員会を標的に攻撃を仕掛けると宣言している。

■「ライオンの絵」で有権者にアピール
候補者たちも有権者にすんなり選んでもらえるよう、さまざまな工夫を凝らしている。州内各地の街灯や掲示板、塀などに選挙ポスターを貼り、各自の届出番号や投票用紙の記載ページを宣伝。デジタル処理で見栄えを良くした顔写真をポスターに使っている候補者も珍しくない。
 
届出番号と一緒に、ヤシの木やライオン、眼鏡などのイラストが描かれているのは、読み書きのできない有権者のためだ。

「変化」や「正義」を推進するという高尚なスローガンから、「道路は金ぴかに、学校はダイヤモンドで建て、大学はエメラルドからつくる」などというばかばかしい提言まで、多彩な公約を掲げた候補者たちは、わずか33議席の割り当てをめぐって激しい選挙戦を繰り広げている。
 
独立選挙委員会によると、カブール州の有権者数は160万人を超え、有権者数でも国内最多の選挙区となっている。だが、登録有権者のうち相当数は偽の身分証明書を使った不正行為によるもので、投票を偽造するのが目的ではないかと多くの人が疑っている。
 
1人が2回以上投票する不正は生体認証機器で回避する予定だが、作動不良や、そもそも全国5000か所の投票所の全てには機器が行き渡らないのではないかとの恐れが指摘されている。【10月18日 AFP】
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すでに候補者10人が殺害されているという状況にもかかわらず、2500人が立候補しているというのは、“民主主義実現に向けた固い決意の表れ”・・・・という訳でもないでしょう。

それにしても、800人の候補者から1名を選んで投票というのは・・・・。

日本の場合は衆議院選挙(選挙区)の場合、立候補には300万円の供託金が必要で、有効投票数の10分の一に満たないと没収されます。この供託金制度によって、売名や選挙妨害を目的とした候補者乱立が防止されています。

ただ、日本の供託金は外国に比べて桁違いに高く、“高額の供託金制度は「立候補の自由」を保障する憲法15条1項や、国会議員資格について、財産・収入で差別することを禁ずる憲法44条の規定に反し「違憲無効である」として、いくつかの訴訟が起こされている”【ウィキペディア】という状況にもあります。

“供託金制度を導入している他国と比較しても、日本の供託金額は極めて高いため、立候補の権利を不当に抑制しているとの批判が根強い。そのためアメリカ合衆国やフランスなどのように「住民による署名を一定数集める」といった代替案が提案されている”【同上】とも。

選挙、戦闘・和平交渉の陰で進行する干ばつの脅威、さらには冬の寒さも
話をアフガニスタンに戻します。

議会選挙、タリバンの戦闘と和平交渉・・・・というのも今後のアフガニスタンにとって重要であるのは間違いありませんが、それとは別の脅威が国民に迫っています。

****アフガニスタンで深刻な干ばつ、26万人が避難 「戦火より多く****
アフガニスタンで深刻な干ばつが起き、人道的な危機が迫っている。

今年、干ばつによって避難を余儀なくされた人の数は、アフガニスタン政府と反政府勢力タリバンによる戦争での避難民を超えたという。BBCのセクンデル・ケルマニ記者が報告する。

シャディ・モハメド氏(70)は家族と共に、アフガニスタン西部ヘラート郊外に作られたその場しのぎの避難キャンプに住んでいる。キャンプを案内しながら、モハメド氏は涙ながらに話した。

「のどが渇いて、空腹だ。持ち出せたものはほんの少しだったし、その大半もここまでの道のりで失ってしまった。もう何もない。家族8人で小さなテントに住んでいる」
「妻と兄弟は死んだ。子供たちの半数はここにいるが、残りは置き去りにされた」

モハメド氏は、アフガニスタン北部や西部での深刻な干ばつによって家を追われた推計26万人の1人だ。
アフガニスタンでは、2014年に国際部隊が正式に撤退した後に暴力の発生率が高まっているが、今回の干ばつはこれにさらなる悲劇を加えている。

タリバンは現在、2001年に米国が主導する介入部隊によって政権の座から転落して以降で最も勢力を広げていると報じられている。

しかし国連によると、干ばつによって家を追われた人々の数は今年、タリバンと政府の摩擦による避難者の数を上回った。

国連世界食糧計画(WFP)のカディル・アッセミー氏は、避難民が流入するヘラートで救援活動を支援している。
アッセミー氏はBBCに対し「災害の規模が大きく、状況は厳しい」と話した。

国連は干ばつの影響を受けた220万人を支援するために3460万ドル(約38億9000万円)を拠出している。
WFPは現在、現地の人に食糧を買うための金銭を供給している。

キャンプの登録センターの外では、多くの人が絶望しているように見えた。
4人の子供と一緒に座っていたある女性は、北部ファルヤブ州から来たと話した。

「お金さえあればここには来なかった。運が悪かったからここに来ることになった」
「1年以上雨が降らず、全てが乾いてしまった。子供に飲ませる水もなかった。そこにタリバンと政府軍の戦いがあって、めちゃくちゃだった」

生き延びるために家畜を売ったり、お金を借りたりしなくてはならなかったと訴える人もいた。農業は、この国の主要な収入源の一つだ。

アフガニスタンでは10月20日、長らく延期されていた議会選挙が行われる。
しかし多くの国民は、自分たちが直面している問題に政治家たちがあまりに無関心だと批判している。

ヘラートの何十万もの人々には、冬の到来というさらに差し迫った懸念がある。
アッセミー氏は、避難民は向こう数カ月は家に戻れる可能性が低いため、寒さは「大きな懸念」になると話した。

「気候はとても厳しいものになる。テントではとても生き延びられない」
「このような大災害は過去18年見たことがない」【10月17日 BBC】
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“別の脅威”と書きましたが、住民を干ばつの危機にさらしている原因は気候の問題だけではなく、いつまでも続く戦闘、住民の生命・財産を守ってくれない政治の貧困も重大な要因です。

現在の干ばつに苦しむ住民は、戦闘と政治の貧困の結果でもあります。

その意味でも、1日も早く戦闘を停止し、しっかりした議会・政府を構築していくことが求められています。
まあ、先を急いでも、遠くの目標を望んでも仕方ありませんので、まずは20日の選挙が無事に終わることを願います。
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