孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  スー・チー氏の言に反して「報道の自由」侵害を懸念させる事件が再び 日本外交の在り様

2018-10-12 23:11:46 | ミャンマー

(スー・チー氏側近が関与する 地方政府の財政運営に対する批判記事が、植民地時代の法律によって“「公衆に恐怖または不安」を引き起こす意図または可能性がある”として逮捕され、ヤンゴンの法廷を後にするチョー・ゾー・リン氏(手前)とピョー・ワイ・ウィン氏(左から4人目)【10月11日 AFP】)

スー・チー氏「現状を知りもしない人が多い」「長期的に対応しなければならない」】
ミャンマー西部ラカイン州におけるイスラム系少数民族ロヒンギャに対するミャンマー国軍による虐殺・暴行・レイプ・放火などの「民族浄化」(隣国バングラデシュへの避難民は70万人超)あるいは「ジェノサイド」とも言える弾圧に対する国連等の批判、それに対するミャンマー国軍の否定、スー・チー政権の消極的対応あるいは沈黙については、これまでも再三取り上げてきたところですので、先日来日したスー・チー国家顧問のインタビュー記事のみを。

****アウン・サン・スー・チー氏 ロヒンギャ問題での非難に反論****
日本を訪れているミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問はNHKの単独インタビューに応じ、少数派のロヒンギャの人たちをめぐる問題で国際的な非難が高まり、ノーベル平和賞を取り消すべきだという声さえあがっていることについて「賞や栄誉のことは気にしていない。現状を知りもしない人が多い」と述べて反論しました。

(中略)これについてスー・チー氏はインタビューで「現状を知りもしない人が多い。近ごろは何でもすぐに解決するよう求められるが、私たちは長期的に対応しなければならない。賞や栄誉のことは気にしていない」と反論し、ロヒンギャの人たちに対する差別意識が根強く、軍が強い影響力を保つなか、問題解決には時間がかかるという考えを示しました。(後略)【10月6日 NHK】
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もちろん、スー・チー氏には国軍を動かす権限がないこと、国民世論は圧倒的に“不法移民”ロヒンギャを嫌悪し、国軍の対応を支持していることなどから、スー・チー氏の対応も困難なこと、対応には時間を要することは理解できますが、民主化運動の旗手として輝いていた存在だけに期待も大きく、その分失望も大きなものがあります。

ロヒンギャ対応、報道の自由に関するスー・チー氏の認識への懸念
気になるのは、単に身動きがとれないということだけでなく、彼女の言葉の端々に感じ取れる、彼女自身がロヒンギャの境遇に対してあまり大きな共感を持っていないのでは・・・、世論と似たようなロヒンギャ嫌悪を共有しているのでは・・・との懸念です。

そのような懸念を大きくしているのが、ロヒンギャの人たちの問題を取材していたロイター通信のミャンマー人記者2人が、機密文書を不正に入手したとして禁錮7年の有罪判決を受けた事件への対応です。

両記者は、国家機密の文書を所持していたとして逮捕されましたが、警察当局の罠であるとして無罪を主張しており、“罠”に関する警察官当事者の証言もあります。しかし有罪判決は変わりませんし、スー・チー氏による恩赦等の対応もありません。

スー・チー氏は両記者のことを「裏切り者」と呼んだそうで。隠ぺいすべきロヒンギャ虐殺を国外に知らしめようとしたことが、国家への「裏切り」ということになるのでしょうか。【9月5日 WSJ“スー・チー氏の選択:記者恩赦か沈黙維持か スー・チー氏は収監された記者には「非同情的」”より】

その言葉に、彼女のロヒンギャ問題への認識がうかがわれるようにも思えます。

“判決はミャンマーの報道の自由を揺るがすものだとして国内外で懸念が広がり、国連や欧米諸国、ジャーナリスト団体が2人の釈放を求めています。

しかしスー・チー氏は先月、判決について「裁判所が法律に違反したと判断した。報道の自由の問題とは無関係だ」と述べていて、スー・チー氏が掲げてきた民主主義の在り方が疑問視される事態になっています。”【10月6日 NHK】

この“ミャンマーの報道の自由”に関する批判・懸念に対するスー・チー氏の反論は以下のようにも。

****アウン・サン・スー・チー氏 「報道の自由ある」と主張****
(中略)スー・チー氏は「もし裁判に間違いがあったというのならもちろん調査するが、言論の自由の問題とは区別しなければならない」と指摘したうえで「ミャンマーには多くの報道の自由がある」と述べ、懸念はあたらないと主張しました。

さらに、国家機密法はイギリス植民地時代に制定されたもので、民主化が進むミャンマーにはそぐわないのではないかという批判に対しては「現代にそぐわないといわれたことは一度もない。同じような法律は世界の多くの国にもある」と述べ、法律そのものにも問題は感じていないことを明らかにしました。

また、ロヒンギャの人たちに対する迫害の問題については、国連をはじめとする国際機関に事実を調査させるべきだという国際社会からの圧力が強まっています。

これについてスー・チー氏は、ミャンマー政府がことし7月、外国人の委員を含む調査委員会をみずから設置したことに触れ、「国連の機関とミャンマー政府の委員会にどんな違いがあるのか。私たちは、自分たちで調査する意志と能力があることを示すチャンスが与えられるべきだ」と述べ、あくまで政府が設置した委員会に調査させる考えを示しました。

一方、国連などによる調査については、「人権の大切さを心から信じているが、人権は法の支配と国内的な合意がなければ確保できない。政府が設置した調査委員会でさえよく思わない人もいる」と述べ、国内で反発が強まるおそれがあり受け入れがたいという考えを示しました。(後略)【10月7日 NHK】
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頑なに“守りの姿勢”を強めているようにも見えます。しかし、いったい何を守ろうとしているのか?

地方政府の財政運営に対する批判記事でジャーナリスト逮捕
上記のロイター記者の問題が注目されているなかで、再び“報道の自由”への懸念を感じさせる事件も。

****ミャンマーで新聞編集長ら3人逮捕 スー・チー氏側近の財政運営批判****
報道の自由への懸念を呼ぶ出来事が相次ぐミャンマーで10日、最大都市ヤンゴンの財政運営を批判した新聞の編集長ら3人が警察に逮捕された。

ヤンゴン市のあるヤンゴン管区の地域首相は、アウン・サン・スー・チー国家顧問の側近が務めており、批判記事はこの側近が所管する市のバス交通計画を取り上げていた。
 
逮捕されたのは、新聞の発行元「イレブンメディア」で編集長を務めるチョー・ゾー・リン、ネイ・ミンの両氏と、報道部長を務めるピョー・ワイ・ウィン氏。3氏は10日午前、手錠を掛けられて出廷し、聴聞後に拘置所に移送された。(中略)
 
記事の掲載に「公衆に恐怖または不安」を引き起こす意図または可能性があったと裁判所が判断した場合、被告らは罰金と最高2年の禁錮刑を受ける可能性がある。
 
ミャンマーでは長期にわたり、曖昧で時代遅れの法律の下でメディアが訴追される事例が続いており、人権団体は今回の逮捕を批判している。
 
同国では先月、ロイター通信の記者2人に禁錮7年の判決が言い渡されたばかり。公判中、被告らはわなにはめられたとする警官の証言があり、裁判は見せかけだったとの見方が広がった。
 
スー・チー氏は9日公開されたNHKとのインタビューで、「ミャンマーには多くの報道の自由がある」と発言。同氏の政権を批判する人らに対し、ミャンマーで「報道機関が毎日何をしているのか調べる」よう促した。【10月11日 AFP】
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地方政府の財政運営に対する批判記事が“「公衆に恐怖または不安」を引き起こす意図または可能性”として処罰されるのであれば、スー・チー氏が保証するミャンマーにおける「報道の自由」とは一体何なのか?

これも、政権批判を「フェイクニュース」として切り捨てる昨今の風潮の一端でしょうか、あるいは、古くて変わらないミャンマーの国家体質でしょうか。

圧力を強める欧米 支援姿勢の日本
ロヒンギャ問題へのスー・チー政権の対応を批判する欧米は厳しい姿勢を強めています。

****ロヒンギャ迫害で徹底調査要求 米国務長官、ミャンマーに****
米国務省は28日、ポンペオ国務長官がミャンマーのチョー・ティン・スエ国家顧問府相と27日にニューヨークで会談し、イスラム教徒少数民族ロヒンギャの迫害について徹底調査と関係者の責任追及を求めたと発表した。

国務省は、ロヒンギャ迫害はミャンマー国軍によって「事前に計画、調整された動きだった」と非難する報告書をまとめ、近く公表するとみられている。

ポンペオ氏は会談でミャンマーの民主化を支援する立場を強調した上で、米国や国連が指摘するロヒンギャへの人権侵害について具体的な調査を進め、迫害に関与した関係者の責任を明確にすべきだと伝えたという。【9月29日 共同】
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****EU、カンボジアに経済制裁検討 ミャンマーも対象****
カンボジアの野党弾圧、ミャンマーでのイスラム教徒少数民族ロヒンギャ迫害を受け、欧州連合(EU)の通商担当閣僚に当たるマルムストローム欧州委員は5日、両国産品輸入の際の関税優遇措置の停止を検討していると明らかにした。事実上の経済制裁に当たる。

カンボジア側に同日、停止に向けた手続きに着手したと伝達した。ミャンマーには近日中に調査団を派遣し、実情を把握した上で手続きを開始するか否かを決める。

EUは、途上国の中でも特に発展の遅れた後発発展途上国(LDC)の産品の輸入関税を減免するなどして、各国の産業振興を後押ししている。【10月6日 共同】
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一方、日本は基本的にはミャンマー政府を支援する姿勢です。国際批判よりは中国の影響力拡大阻止という思惑が優先しているようです。これは、日本外交のいつもの対応でもあります。

****日本、ロヒンギャ居住地域支援へ 中国の影響拡大阻止****
日本が対ミャンマー支援の一環として、迫害を受けるイスラム教徒少数民族ロヒンギャが住む西部ラカイン州でインフラ整備に乗り出すことが7日、分かった。

金額は50億〜60億円程度で検討しており、ミャンマーでの中国の影響力拡大を食い止める狙いがある。日本政府関係者が明らかにした。
 
日本が2016年に表明した8千億円規模の支援の一部を割り当てる。このほか、700億円を最大都市ヤンゴンの下水処理などのインフラ整備に使う方針も決めた。いずれも、安倍晋三首相がアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相と東京で会談する9日に表明する。【10月7日 共同】
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****ミャンマーの民主化支援表明 安倍 スー・チー会談****
安倍首相は9日夕方、ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家最高顧問と都内で会談し、ミャンマーの民主化を支援する考えを表明した。

安倍首相は、「民主的な国づくりの努力を、官民挙げて最大限協力して支援する」と述べた。(中略)

安倍首相は、ミャンマーから隣国に逃れたイスラム系少数民族のロヒンギャをめぐる問題について、スー・チー氏の取り組みを評価したうえで、「ミャンマー政府による問題の解決に向けた取り組みを支えていく」と表明した。

現地で住宅建設などの環境整備や、給水分野での支援を行っていくという。

さらに両首脳は、日本人観光客がミャンマーに渡航する際のビザが、10月から不要になったことにも触れ、観光分野でも交流を拡大させることを確認した。【10月9日 FNN】
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“ロヒンギャをめぐる問題について、スー・チー氏の取り組みを評価”・・・・安倍首相はどのように評価しているのでしょうか?国連等の批判的な報告書についてはどのように認識しているのでしょうか?

日本としてできるのは、安全な帰還のために何が必要か、ミャンマー政府に提案していくことではないか
****ロヒンギャの人々が「日本に感謝」する理由 ミャンマー政府を支持した事情 それでも「他人事」ですか****
(中略)
実は日本にも住んでいる、イスラム教徒ロヒンギャの人たち
日本に約200人のロヒンギャが住んでいる地域があることを知っていますか?群馬県の真ん中にある、館林(たてばやし)市です。1990年代、当時の軍事政権による迫害によって逃げ出したロヒンギャが日本にたどり着き、その後もネットワークを頼ってこの地域に集まったと言います。(中略)

非難浴びるミャンマーを「全面的に支援する」日本政府
(スーチー氏が軍や警察に自分で命令したり、動かしたりできないのが実情なのです。)とはいっても、「スーチーさん、どうにかして」という思いを持っている人は多いはず。

そんなアウンサンスーチー国家顧問に今年1月、河野太郎外相がミャンマーの首都ネピドーに会いにいきました。(中略)河野大臣は、「日本政府は問題解決のためにミャンマーを全面的に支援する」と述べました。(中略)

河野大臣はその後、ラカイン州を訪れ、ヘリで上空から視察するなどした後、焼け落ちたロヒンギャらの村を見て、「事態は深刻だ」と報道陣に話しました。(中略)

確かに、「ロヒンギャを迫害している」と責められているミャンマー政府に財政的な援助をして「全面的に支援する」というのは、釈然としないものが残ります。

「賛成」でも「反対」でもなく「棄権」票
そもそも、国際社会がミャンマー政府への批判を続けていた際、国連などで次々と「ロヒンギャへの迫害をやめなさい」といった決議が採択されましたが、日本は「賛成」でも「反対」でもなく、「棄権」票を投じていました。

日本はあくまでもこの問題は「ミャンマーの国内的な問題であり、解決はミャンマー政府に委ねるべきだ」という考え方です。

一方、こういった決議に「反対」してミャンマー政府を完全に擁護していたのが、中国。ミャンマー政府の安全保障に関わるある幹部は、「中国が味方についてくれているから、国連でこれ以上問題が大きくなることはない」と語りました。(中略)

日本政府の人も公には言ってくれませんが、中国の動きを警戒した「棄権」票。つまり、ミャンマー政府との接点を中国政府が独り占めしないようにするという側面もあるといえます。

ちらつく中国の影 日本の立場は……
(中略)丸山(ミャンマー)大使は、「日本の対応が批判されたことは、軍事政権下でもあった」と話します。

1988年から続いた軍事政権時代。欧米などが経済制裁を下す中、日本は援助を続けていました。欧米からは「軍事政権に塩を送る行為」に対して批判されました。

当時もミャンマーに勤務していた丸山大使は、「日本が軍事政権と一定の関係を持ってつき合ったことは『生ぬるい』と国内外から言われた。だが、軍事政権が民主化するためにいろいろな形で話していく必要がある」と語ります。

「本当に国の成長や発展を望むなら、将来に備えた支援が必要だ」

決して他人事として片付けられない
(中略)もちろん、「国益」という考えもあるでしょう。「これからどんどん発展していくミャンマーに対して良い関係をつくっていくことは、日本企業が進出しやすい土壌をつくる」(日本企業関係者)という意味もあるはずです。

記者としては、70万人近くの難民を出した点については、ミャンマー政府を厳しく批判するべきだと思います。一方で、今求められているのは、彼らが安心して帰還すること、その後も安全にミャンマーで暮らすこと。

ロヒンギャが戻る予定のミャンマー政府ラカイン州を何度か訪れましたが、立派な「受け入れ施設」はつくられたものの、多くが村を焼かれた難民がどう暮らしていくのか、明確なプランはなく準備はほとんど進んでいませんでした。

日本としてできるのは、安全な帰還のために何が必要か、ミャンマー政府に提案していくことではないかと思います。(後略)【10月2日 withnews】
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圧力を強める欧米と支援の姿勢の日本、「良い警官と悪い警官」の役割分担で、ロヒンギャ問題や報道の自由に関してミャンマー政府をあるべき方向へ誘導する・・・・というなら、それも一策ですが・・・・。

単に、中国の影響力拡大を阻止したいから・・・、日本企業が進出しやすい土壌をつくるため・・・・というだけでは、やや寂しい感も。そうした外交は、ことを荒立てることを好まない日本人の気質には似合っているのでしょうが。

ミャンマーやカンボジアなど、本来日本が影響力を行使できる問題で現状に目をつぶりながら、中国などとの関係で日本の利益が侵害されそうなときだけ「正義」を主張する・・・というのでは、都合がよすぎるとの感も。国家の「品格」の問題でしょう。
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