孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

改善しないパレスチナ情勢 形骸化するオスロ合意の枠組み アラブ・世界にひろがる現状是認の動き

2018-10-30 22:01:33 | パレスチナ

(アラビア語が堪能なユダヤ人俳優の夫と、ヘブライ語ニュース番組のキャスターでアラブ系イスラム教徒の妻のセレブ婚 二人は「平和協定に調印」したようですが・・・【10月19日 ロイターより】)

イスラエル 結婚した5万8000組のうち、ユダヤ系とアラブ系のカップルはわずか23組
イスラエルには約2割のアラブ系市民が存在しますが、イスラエル国会が自らを、ユダヤ人だけが自決権を持つ「ユダヤ人国家」と定める法案を可決したことは、7月28日ブログ“イスラエル 多数派の権利行使、「ユダヤ人国家」法 ガザ地区とゴラン高原方面双方で脅威も”で取り上げました。

****自らを「ユダヤ人国家」と定めたイスラエルは、建国の理念も捨て去った****
イスラエル国会は19日、「イスラエルではユダヤ人だけが自決権を持つ」ことを定めた「国民国家法」を可決した。全人口の2割近くを占めるアラブ系住民は「人種差別、アパルトヘイト(人種隔離政策)を合法化するもの」と猛反発している。

新法では、アラビア語が公用語から「特別な地位」に格下げされたほか、パレスチナ自治政府が将来の首都と主張する東エルサレムをも含む「統一エルサレム」がイスラエルの首都と宣言。またイスラエルは「ユダヤ人の歴史的な国土」だと明記した。

ユダヤ人に「唯一の民族自決権」があると定めたこの法律を、反対派は人種差別的だと猛反発し、イスラエルが「アパルトヘイト(人種隔離)国家」になりつつある証拠だと糾弾している。(後略)【7月20日 Newsweek】
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“アラブ系イスラエル人は法律上は平等の扱いを得ているものの、活動家によればアラブ系はあくまで「2級市民」で、雇用、教育、医療、住宅取得などあらゆる面で差別を受けているという”【同上】という実態は、ある程度は想像できるところです。

そんなイスラエルでは、ユダヤ教徒とイスラム教徒の結婚はやはり非常にまれなようで、先日もあるセレブカップルの結婚がニュースとなっていました。

****ユダヤ教徒とイスラム教徒のセレブが結婚、イスラエルで賛否****
アラビア語が堪能なユダヤ人俳優ツァヒ・ハレビさんと、ヘブライ語ニュース番組のキャスターでアラブ系イスラム教徒のルーシー・アハリシュさんが10日に挙式し、こうした結婚が極めて珍しいイスラエルでは賛否両論が飛び交った。

友人によると、2人は4年前から交際していたが、文化的に微妙な衝突を避けるため秘密を守ってきた。
フリーペーパーのイスラエル・ハヨム(今日のイスラエル)に掲載された招待状には、2人は「われわれは平和協定に調印する」とジョークが書かれていた。

入手可能な最新データである2015年のイスラエルの統計によると、結婚した5万8000組のうち、ユダヤ系とアラブ系のカップルはわずか23組だった。イスラエルにおけるアラブ系市民の割合は20%程度。

国内最大の販売部数を持つイスラエル紙イディオト・アハロノトは一面に祝福の言葉を掲載。一方、超正統派ユダヤ教のラビであるデリ内相は、軍ラジオとのインタビューで「これは2人自身の私的な問題。だがユダヤ人(ユダヤ教徒)として、こうしたことには反対といわざるを得ない。われわれはユダヤ人であり続けなければならない。彼らの子どもたちが成長し、就学し、結婚したいと思ったとき、困難な問題に直面するだろう」と述べた。【10月19日 ロイター】
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遠のくオスロ合意に基づくパレスチナ和平
「われわれは平和協定に調印する」というジョークは、残念ながら23年前よりも現実離れしたものになっているようです。

****ラビン暗殺23周年記念式典****
あれからもう23年もたつのですね!!

y net news は、ラビンがイスラエル過激派の手で暗殺されてから23年を記念し、多くの記念式典が開かれていると報じています(彼の暗殺は11月4日だったとのことで何故今週かは不明)。

ラビンは参謀総長をやった軍人ですが、その後労働党を率いて首相になるや、PLOとのオスロ合意に署名し、その後ヨルダンとの平和条約にも署名した人です。

その彼がパレスチナとの和平に反対するイスラエルの過激派に暗殺され、その後の選挙で当然圧勝すると思われていた労働党が、直前のパレスチナ勢力のテロで政権を失い、以来労働党は見る影もなくなり、ネタニアフの下でイスラエルはひたすら占領地併合の既成事実化を進めてきました。

あの当時、今後さしも長かったパレスチナ問題にも両者の歩み寄りで、平和的な解決が訪れるだろうという、明るい希望がパレスチナ(イスラエルとパレスチナ)にあふれていたのは、何処かへ行ってしまったようです。

23年という時間の間に占領地の状況は大きく変わってしまったし、なによりも常に和平の仲介者であった米国に、トランプなどと言う一方的なイスラエル支持者が大統領として出てきて、当面パレスチナ問題の平和的解決など夢の又夢になりそうです。【10月22日 「中東の窓」】
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冒頭のイスラエル「国民国家法」では、「統一エルサレム」をイスラエルの首都とするほか、パレスチナ問題の中核となっている「ユダヤ人入植の拡大」について、イスラエル政府が「奨励して促進する国家的価値」と明確に支持しています。

ガザ地区をめぐるパレスチナ情勢が、パレスチナ及びイスラエル双方のフラストレーションが高まるなかで緊張の度合いを強めていることは、10月22日ブログ“中東 サウジ人記者殺害事件に関心が集まる中で、緊張が高止まりしているシリア・パレスチナ情勢”でも取り上げました。

さすがにイスラエルもガザ地区への侵攻といった事態は控えていますが、両者の衝突は止んでいません。

****デモ隊に攻撃、5人死亡=ガザからロケット弾40発―イスラエル****
パレスチナ自治区ガザの対イスラエル境界付近で26日、イスラエルの経済封鎖に反発するデモ隊が同国軍の攻撃に遭い、ガザの保健省は27日、少なくとも5人が死亡、200人以上が負傷したと明らかにした。保健省は「多数が実弾で撃たれた」と指摘している。
 
26日のデモには約1万6000人が参加したとされる。ガザのデモは3月末から続いており、イスラエル軍の攻撃などでこれまでに210人以上の死者が出た。軍はデモ隊の一部が手投げ弾や火炎瓶を使うことから、抗議行動を「暴動」と見なしている。
 
一方、ガザのイスラム原理主義組織「イスラム聖戦」は26日から27日にかけ、イスラエルに向けロケット弾約40発を発射。ロケット弾の一部はイスラエルの対空防衛システムに迎撃され、残りは空き地に着弾したとみられる。イスラエル軍はガザにあるイスラム聖戦の関連施設などに空爆を加えた。【10月27日 時事】 
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****イスラエルのドローン攻撃で少年3人死亡…ガザ****
パレスチナ自治区ガザの保健当局によると、ガザ南部のイスラエルとの境界付近で28日夜、13〜14歳の少年3人がイスラエル軍の無人機(ドローン)の攻撃で死亡した。軍は攻撃の理由について読売新聞の取材に、「境界フェンスに爆発物を仕掛けていた」と説明した。
 
遺族によると、3人は鳥を捕獲するためのワナを仕掛けていたという。少年の死亡を受け、ガザ各地で大規模な抗議デモが起きた。【10月29日 読売】
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“LAWS(「殺人ロボット」と呼ばれる自律型致死兵器システム)反対派は、米国、中国、イスラエル、韓国、ロシア、英国が軍用ドローンや人間の関与を減らした自律型兵器システムの開発、利用を進めていると訴える。”【4月12日 SWI】と、イスラエルは「殺人ロボット」開発では最先端を行っていますが、上記少年を殺害したドローンは人間がコントロールしていたのでしょうか?

パレスチナ関連で注目されるニュースでは、隣国ヨルダンの対応が報じられています。

****平和条約の一部、延長せず ヨルダン、イスラエルに通知****
ヨルダンのアブドラ国王は21日、1994年にイスラエルと結んだ平和条約で、イスラエルの土地所有者にヨルダン領の土地2カ所の使用権を25年間認めた合意について、期限が切れる来年、延長しないことを決めた。イスラエルに通知したことをヨルダンの国営ペトラ通信などが伝えた。
 
イスラエルのネタニヤフ首相は、合意の延長を求めてヨルダンと交渉する考えを示したが、両国関係が悪化する可能性がある。
 
ヨルダンはエジプトとともにイスラエルと国交を持つ中東では数少ない国だが、人口の約7割がパレスチナ系とされ、イスラエルに対する国民感情は良くない。

イスラエルとの国境付近にある2カ所の農地などの使用権を認めないよう求める声が強まっており、アブドラ国王は「我々の領土に対する完全な主権を行使する」と述べた。
 
同国とイスラエルの関係は近年、ヨルダンが管理するエルサレム旧市街の聖地をめぐる対立や、イスラエルとパレスチナの和平交渉再開のめどが立たないことなどから、ぎくしゃくしている。【10月23日 朝日】
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イスラエルとパレスチナの2国家共存を目指したオスロ合意の枠組みが形骸化しつつあることを示すもののようにも思えます。

アラブ世界に広がる現状是認、イスラエルとの関係改善の動き
ヨルダンの動きは、オスロ合意形骸化であるにしても、イスラエルへの反発が中核にありますが、一向に改善しないパレスチナ情勢の現実を受けて、アラブ世界の中にはイスラエルの存在を認め、イスラエルとの関係を改善していこうとする“現実的”動きもあるように思えます。

そのひとつは、アメリカ・イスラエルと協調してイランを封じ込めようとするサウジアラビアの“例の”ムハンマド皇太子の路線でもある訳ですが、サウジ以外にも。

****イスラエル首相がオマーン訪問、地域諸国との関係拡大か****
イスラエル首相府は26日、同国のベンヤミン・ネタニヤフ首相がオマーンを訪問したと発表した。前回イスラエルの首相がオマーンを訪問したのは20年以上前で、今回の訪問はイスラエルと地域諸国との関係拡大を示唆する動きとみられる。

両国には外交関係がないが、ネタニヤフ首相は25日夜、オマーンのカブース・ビン・サイド国王と会談した。この会談は事前発表なしで実施され、同首相の帰国まで秘密とされた。イスラエル首相府の発表によると、会談では中東和平や「共に関心を有する他の問題」について話し合った。(中略)

パレスチナ解放機構の公式通信社、パレスチナ通信によると、パレスチナ自治政府のマハムード・アッバス議長も今週、オマーンを訪問した。アラブ諸国のうち、現在イスラエルと正式な外交関係があるのはエジプトとヨルダンのみ。【10月27日 AFP】
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このネタニヤフ首相のオマーン訪問については、イスラエル高官筋の話として、「今後オマーンがイスラエルにとって、イランやアサドとのチャネルになる可能性がある」といった話も出ているとか。【10月28日 「中東の窓」より】

ネタニヤフ首相は、利害を共にするイランと対立しているアラブ諸国との同盟関係構築によってパレスチナとの和平が実現可能になると強調しています。

ただ、2002年にアラブ連盟が採択した和平イニシアチブでは、イスラエルが占領地から「1967年6月4日時点の境界線まで完全撤退」し、さらにパレスチナ国家が樹立して初めて、アラブ連盟に加盟する22か国がイスラエルと関係正常化すると、パレスチナ国家樹立を“アラブの大義”として掲げています。

この和平イニシアチブを無視した形のイスラエル接近に関し、“パレスチナ立法評議会のハッサン・フレイシェ副議長は27日、「アラブ諸国はイスラエルとの関係正常化を前例のない迅速さで実現しようとしている」と遺憾の意を示した。”【10月28日 AFP】

オスロ合意実現を目指す現実基盤も形骸化し、パレスチナを“表向き”支援してきた「アラブの大義」も薄れ・・・パレスチナ側にとっては厳しい現実です。

イスラエルとの関係改善の動きを示すのはオマーンだけではないようです。

****イスラエル国歌、UAEで初演奏 関係改善を示唆か****
28日にアラブ首長国連邦(UAE)で開かれた柔道の国際大会で、国交のないイスラエルの選手が優勝した際、表彰式で同国の国歌が演奏された。イスラエルとアラブ諸国の関係改善を示唆するとの見方が出ている。
 
イスラエルのメディアなどによると、UAEで公にイスラエル国歌が流れるのは初めてという。イスラエルのレゲブ文化・スポーツ相も表彰式に出席、「歴史をつくった」とツイート。

ネタニヤフ首相は優勝したサギ・ムキ選手を「イスラエルの外交努力にも貢献した」と電話でねぎらった。
 
昨年の大会もイスラエル選手が優勝したが、国歌演奏がなく、国際柔道連盟が平等に扱うよう警告。主催者側が受け入れた形だ。
 
イスラエルはエジプトとヨルダンを除き、アラブ諸国と国交を持たないが、近年、イランを共通の脅威とみなして関係改善の動きを強めている。ネタニヤフ首相はオマーンを首相として22年ぶりに訪問し国王と会談、26日に帰国した。別の閣僚も近く湾岸アラブ諸国の会議に出席予定だ。【10月30日 朝日】
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オーストラリア、中国も・・・
こうしたイスラエルの存在を現実として認め、(それはいいとしても)イスラエルが占領を続ける現状を前提とした“和平”を・・・・というのが、アメリカ・トランプ大統領のもくろむ「世紀のディール」でもある訳ですが、その流れはアラブ世界だけでなく、世界全体にも広がるかも。

先日ブラジル新大統領に当選が決まった「ブラジルのトランプ」ことボルソナロ氏は、アメリカ同様に、在イスラエル大使館をエルサレムに移転する考えを示しています。【10月29日 産経より】

それはともかくとして、オーストラリアでも・・・・。

****豪も在イスラエル大使館のエルサレム移転検討 首相「理にかなう****
オーストラリアのスコット・モリソン首相は16日、在イスラエル大使館をテルアビブからエルサレムに移転することを検討すると明らかにした。実現すればドナルド・トランプ政権が移転に踏み切った米国などに続く動きとなる。
 
モリソン首相は記者会見で、エルサレムをイスラエルの首都と正式に認定し、オーストラリア大使館をエルサレムに移転することに関して「偏見を持っていない」と述べ、歴代豪政権の政策と決別する姿勢をうかがわせた。
 
モリソン首相はイスラエルとパレスチナの「2国家共存」による解決策は支持する考えを示しながらも、「率直に言って、この解決策はさほどうまくいっておらず、あまり進展が見られない。同じことを続けても違う結果は期待できない」と語った。
 
エルサレムを首都と認定して大使館を移す案については「理にかなう」し「説得力がある」と評価し、政府で検討する考えを示した。
 
モリソン首相による突然の発表は、ユダヤ人住民が多いシドニーの選挙区で重要な下院補欠選挙を数日後に控えるなかで行われた。モリソン首相の自由党は元駐イスラエル大使を擁立しているが、世論調査では支持率で上位候補に後れを取っている。
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の選挙で敗れると、自由党は過半数割れになる。野党・労働党は「スコット・モリソンは職にしがみつこうと必死になっている。オーストラリアの国益を犠牲にしてでも、さらに数票得られるものなら何でも言おうという構えだ」と批判している。【10月16日 AFP】
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ずいぶんと露骨な国内選挙目当ての外交政策変更ですが、まあ、トランプ大統領の決定にしても国内キリスト教福音派からの支持を目当てにしたものですから、同じようなものでしょう。

もっとも、モリソン首相のなりふり構わぬユダヤ系住民選挙対策も結局奏功せず、与党は議席を失い過半数割れに追い込まれています。今後、実際にアメリカ追随で動くのかは知りません。

イスラエルへの接近ということでは、従来、パレスチナ・アラブ世界を支援してきたこの国も・・・。

****親アラブの中国、イスラエルに急接近 狙うは先端技術****
中国が「中東のシリコンバレー」とも言われるイスラエルとの関係を深めている。中国は歴史的にパレスチナと親交が深く、イスラエルも中国との関係が悪化している米国の事実上の同盟国。

それでも実利で一致し、貿易や投資額は増加。米中の対立が深まるなか、「蜜月関係」は強まっている。(中略)
 
中国は1988年にパレスチナをいち早く国家として承認した親アラブ国だが、92年にイスラエルとも国交を結んだ。ネタニヤフ氏が2013年に訪中し、習氏と会談して以降、急速に関係を強化している。
 
中国政府側の統計によると、17年の両国の貿易額は前年から約15%伸びて130億ドル(約1兆4600億円)。シルクロード経済圏構想「一帯一路」の後押しもあり、中国の対イスラエル投資は70億ドル(約7800億円)を超え、港湾建設など大型インフラ事業も次々と落札している。
 
最近は特に先端分野への投資が増えており、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)や小米科技(シャオミー)はイスラエルに研究開発センターを設立している。双方の大学や研究機関の協力も相次ぐ。
 
中国が狙うのは先端技術だ。イスラエルは、サイバーセキュリティーや人工知能、ロボット、医療機器、バイオテクノロジーなどの分野で世界の先端を走る。低価格製品を輸出する「世界の工場」から脱却を図りたい中国は、イスラエルとの協力で独自技術の開発を強化する狙いがある。

「知的財産が中国に盗まれている」と主張する米国との協力が見通せなくなった今、イスラエルの技術への期待はさらに高まっている。【10月30日 朝日】
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現実というのはこういうものでしょうが、それぞれの利害から現状是認の流れがひろがるようにも見えます。
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