(【11月1日 読売】)
【進展著しい中国の宇宙開発技術 35年までには月面基地 ロシアも協力】
冷戦時代はアメリカとソ連が国威をかけて宇宙開発を競っていましたが、今や宇宙開発の中心に躍り出たのが中国。
中国・習近平政権は「宇宙強国」を目指して宇宙開発に積極的に取り組んでおり、昨年にはアメリカに次ぎ2カ国目となる火星の地表探査を実施。2020年には無人月面探査機「嫦娥(じょうが)5号」が帰還し、米ソに次いで44年ぶりとなる月面の土壌サンプルの回収に成功しました。
中国が独自に建設を進める「中国宇宙ステーション」(CSS)の運用も進んでいます。
また、ロケット打ち上げの「数」の面でも世界最多となっています。
****中国、2021年は55機のロケットを打ち上げ 年間の打ち上げ数は世界最多****
(中略)中国では2021年の1年間に合計55機のロケットが打ち上げられており、同国における過去最多の年間打ち上げ数を記録するとともに、CNSAによると同年に実施された国別の打ち上げ数でも世界1位となりました。この記録には中国国内の民間企業による打ち上げも含まれています。
なお、2021年は長征ロケットシリーズが打ち上げ通算400回のマイルストーンを迎えました。1970年から運用されている長征ロケットは、小型から大型、有人打ち上げ用までバリエーションが豊富であることが特徴の一つです。
2021年にCASC(中国で宇宙開発を推進する中国航天科技集団)が打ち上げた長征ロケットは48機(成功率100%)を数え、今回の長征3B打ち上げによって長征ロケットシリーズの合計打ち上げ数は405機となっています。
また、2021年は中国の宇宙開発が大きく前進した年でもありました。4月29日には中国が独自に建設を進める「中国宇宙ステーション」(CSS)のコアモジュール「天和」が「長征5B」ロケットによって地球低軌道に運ばれており、続く5月29日にはCSSへ物資を輸送する補給船「天舟2号」が天和モジュールへのドッキングに成功しています。
6月17日には中国にとって5年ぶりとなる有人宇宙船「神舟12号」の打ち上げが実施され、3人の宇宙飛行士がCSSへ乗船するなど、同国は宇宙ステーション建設への一歩を踏み出しました。10月には有人宇宙船「神舟13号」のミッションが始まっており、2022年1月4日現在も天和モジュールには3人の飛行士が滞在しています。【1月5日 Sorae】
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アメリカとそれぞれ対立する中国・ロシアが関係を強化するというのは最近の国際情勢一般の流れですが、宇宙開発においても同様の流れがあります。ロシアとしては対立するアメリカと共同作業するするより、資金力が豊富で、技術的に進展が著しい中国と組んだ方が・・・といったところでしょう。
****ロシア、中国と月面基地建設で合意 研究協力へ、米計画からは脱退****
ロシア国営宇宙開発企業ロスコスモスは9日、ロシアと中国が月面などでの科学研究基地建設の政府間合意に署名したと発表した。
インタファクス通信によると、ロシアは1月、米国の月研究計画から脱退しており、この分野で中国との関係強化に乗り出したとみられる。
中国国家宇宙局も9日、ロシア側と基地建設などに関する覚書に署名したと発表した。月面探査は米中など各国が強化している。
発表によると、基地は月面か月の周辺軌道上に建設する。月に関するさまざまな科学研究のほか、月での長期滞在などを視野に研究を進めることを想定している。
ロスコスモスのロゴジン社長は昨年7月、中国側との協議で共同基地建設を提案していた。【2021年3月10日 産経】
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この中ロ共同の月面基地計画は2035年までの完成を目標としています。
****月基地、35年までに建設 ロシアと共同計画―中国****
中国国家宇宙局の呉艶華副局長は28日の記者会見で、中国とロシアが共同建設することで昨年3月に合意した月基地について、2035年までの完成を目標としていることを明らかにした。
人類の月面再訪を目指す米国の「アルテミス計画」に対抗するもので、中ロ主導の月開発を急ぐ。【1月28日 時事】
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上記の呉氏は「基地は小さな村を作るようなもので、エネルギーや通信、運搬システムなどが必要になる」と指摘。ソーラー発電や、地球と通信して月面での装置を動かす機能、物資運搬システムなどを指すとみられています。
また宇宙飛行士の短期滞在のための生活環境も必要だという見通しを示し、これらは「35年までの重点的な任務だ」と語っています。
アメリカの「アルテミス計画」(2019年5月計画発表)は、アポロ計画以来の有人月探査で、2025年以降に男女の飛行士を着陸させ、将来的には月を回る軌道に宇宙ステーション「ゲートウェー」や、月面基地を建設することにしている。
日本も同計画に参加しており、宇宙ステーションに物資を運ぶ新型の無人補給船や、有人の月面車の開発を進めています。
アメリカ航空宇宙局(NASA)は「アルテミス計画」の最初のミッションとなる「アルテミス1」打ち上げは、早ければ今年11月中旬~下旬に実施するとのことです。同打ち上げは、ハリケーンの接近・上陸にともなって延期されていました。
【「中国宇宙ステーション」(CSS)も着実に進展】
中国の宇宙開発の話に戻ると、「中国宇宙ステーション」(CSS)の方も着々と進んでいます。
****天宮号宇宙ステーションまたは中国宇宙ステーション(CSS)****
中国が天宮計画で建設中の宇宙ステーションである。三つのモジュールで設計されており、総質量は80トンに達すると予想されている。天和コアモジュールは2021年4月に打ち上げられ、問天実験棟モジュールは2022年7月に打ち上げられた。
2022年までに完成予定の宇宙ステーション。試験機ではなく、旧ソ連のミールに匹敵するサイズの完成した宇宙ステーションと位置づけられている。
コアモジュール「天和」(てんわ)、2つの実験モジュール「問天」(もんてん) と「夢天」(むてん)、無人補給船「天舟」(てんしゅう) といった構成要素が公表されている。打ち上げには長征5号B型ロケットが用いられる。【ウィキペディア】
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昨日、宇宙実験施設と宇宙ステーションのドッキングに成功しています。
*****中国打ち上げの“宇宙実験施設”と“宇宙ステーション”がドッキングに成功 米中の覇権争い宇宙でも****
中国がきのう打ち上げた宇宙実験施設と宇宙ステーションがきょう、ドッキングに成功。現地では「アメリカは脅威に思うはず」という声も聞かれています。宇宙でも激しくなりそうな米中の覇権争いです。
きのう、中国南部の海南島から打ち上げられた実験施設「夢天」。日本時間のきょう午前5時半ごろ、中国の有人宇宙ステーション「天宮」とのドッキングに成功しました。(中略)
習近平国家主席の3期目入りに花を添えた形の今回の打ち上げ成功。
ただ、中国は宇宙空間の軍事利用を否定していません。他国の人工衛星に接近して、攻撃・捕獲する「キラー衛星」の開発も進めているとされ、官・軍・民が密接に連携しながら、急速に進む中国の宇宙活動はアメリカの優位を脅かすおそれがあると指摘されています。
一方、アメリカは…。
宇宙を「明確な戦闘領域」と位置付けていて、「宇宙軍」の強化などを図っています。
着実に進む中国の宇宙開発。今後、宇宙空間をめぐる米中の覇権争いは激しさを増しそうです。【11月1日 TBS NEWS DIG】
きのう、中国南部の海南島から打ち上げられた実験施設「夢天」。日本時間のきょう午前5時半ごろ、中国の有人宇宙ステーション「天宮」とのドッキングに成功しました。(中略)
習近平国家主席の3期目入りに花を添えた形の今回の打ち上げ成功。
ただ、中国は宇宙空間の軍事利用を否定していません。他国の人工衛星に接近して、攻撃・捕獲する「キラー衛星」の開発も進めているとされ、官・軍・民が密接に連携しながら、急速に進む中国の宇宙活動はアメリカの優位を脅かすおそれがあると指摘されています。
一方、アメリカは…。
宇宙を「明確な戦闘領域」と位置付けていて、「宇宙軍」の強化などを図っています。
着実に進む中国の宇宙開発。今後、宇宙空間をめぐる米中の覇権争いは激しさを増しそうです。【11月1日 TBS NEWS DIG】
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中国は昨年4月、ステーションの中核的な施設となる「天和」を打ち上げ、今年7月には実験棟「問天」をドッキングさせていました。今回の「夢天」のドッキング成功で、三つの主要施設が組み上がったことになります。
今後は、今月下旬に補給船、12月下旬に有人宇宙船をそれぞれ打ち上げ、ステーションの本格運用を始める計画です。滞在できる宇宙飛行士は通常3人、最大6人。国際宇宙ステーション(ISS)の半数程度と小型ですが、長期滞在や科学実験ができる施設を備えています。
中国は、アメリカ議会が安全保障上の懸念から2011年に米航空宇宙局(NASA)が宇宙開発で中国と協力することを禁じ、ISSから排除された経緯があります。
それにより中国は自力での技術開発を迫られました。宇宙ステーション「天宮」は、宇宙の国際協調の枠組みから外されてきた中国にとって、悲願の有人拠点となります。
【米主導の国際宇宙ステーション(ISS)は老朽化 ロシアの離脱の穴埋めが必要】
一方、米ロなどで運営されてきた国際宇宙ステーション(ISS)は、ウクライナ侵攻などの影響もあり、ロシアが離脱する方向にあります。
ISSに宇宙飛行士を運べるのは米ロだけで、11年にアメリカのスペースシャトルが退役してからは、ロシアの宇宙船「ソユーズ」が人員輸送の重要な役割を担ってきました。高度400キロメートルにあるISSの軌道維持もロシアが担当しています。
多くの実績をあげてきたいISSですがが、老朽化が進み、現在の運用期限は2024年とされています。
アメリカは、30年までISSの運用期限を延長し、その後は民間がつくる宇宙ステーションに移行したい考えを示していますが、今のところ参加国の合意がとれておらず、日本も対応を検討中とのこと。
アメリカもロシア離脱のフォローを検討はしているようです。
****ロシア離脱のISS、米が密かに対策 ウクライナ侵攻前から****
米航空宇宙局(NASA)と米ホワイトハウスが昨年終盤から密かに国際宇宙ステーション(ISS)の緊急時対応計画を練っていたことが分かった。事情を知る関係者9人が明らかにした。ロシアのウクライナ侵攻前に対ロシア関係が悪化し始めていたことを踏まえた動き。
NASAの緊急計画からは、ISSの重要なパートナーであるロシアへの対応に米国が苦慮している様子が読み取れる。NASAは2つの超大国の間に残された数少ない民間協力の1つとして、ISSにおけるロシアとの20年来の協力関係を維持しようと努めてきたが、それが揺らいでいる。
米当局が作成した緊急計画には、ロシアが突然ISS計画から撤退した場合、対応策として(1)全ての宇宙飛行士を撤退させる手順、(2)ロシアの宇宙機関から提供される重要な機器や資材なしでISSを稼働させる方法、(3)ISSを計画より数年早く廃棄する可能性――などが盛り込まれている。
NASAとホワイトハウスの高官は以前から緊急対応策の存在を認めていたが、ロシアとの緊張が高まるのを避けるため、公の場で論じるのは避けてきた。むしろNASAの当局者はロシアの国営宇宙開発企業ロスコスモスとの緊密な関係を強調している。(中略)
ロシアのメディアが先週、新たにロスコスモスのトップに指名されたボリソフ氏の話として報じたところによると、ロシアはISSから撤退する日程を決めていないが、撤退の手続きは「われわれに課されている条件に厳格に従って」行うという。
政府間協定では、どのパートナーも撤退の意向を1年前に通知することが義務付けられている。
4日時点でロスコスモスのコメントは得られていない。(後略)【8月5日 ロイター】
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【BRICS諸国と中国の協調など流れは中国に 軍事利用でもアメリカにとって深刻な脅威に】
激しさを増す米中の宇宙開発競争・・・ということですが、独自開発で着々と前進する中国に対し、老朽化したISSを抱え、ロシアが抜けた穴をどうするのか対策に追われるアメリカ・・・(素人目からすれば)勢いに差があるようにも。
また、今更の話ではありますが、宇宙開発は軍事利用とも直結しています。
米中が激しく競うのも、単に国威発揚や科学・技術の話だけでなく、軍事利用という実用面があってのことでしょう。
****決戦場は宇宙に移った 中国宇宙ステーション正式稼働****
(中略)
◆ロシアが国際宇宙ステーションから抜けて中国と協力
(中略)アメリカは2020年まで宇宙飛行士を宇宙ステーションに送るための役割をロシアのソユーズに頼っていたが、2020年にはスペースXのカプセル型宇宙船クルードラゴンがNASAの有人宇宙飛行能力を復活させ、フロリダから定期的な飛行を開始してはいる。したがって(ロシアがISSから離脱しても)大きな変化はないと思っていたところ、ウクライナ戦争により事態は一変した。
今年7月26日、ロシアは「国際宇宙ステーションの運営が終了する2024年までに、国際宇宙ステーションから撤退する」と宣言したのだ。撤退したあとに行きつく先は中国宇宙ステーションに決まっているだろう。
事実、中国宇宙ステーションには「ロシア、インド、ドイツ、ポーランド、ベルギー、イタリア、フランス、オランダ・・・」など数多くの国がすでに国際協力プロジェクトを立ち上げている。
また今年5月26日にはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカなど新興5ヵ国を中心としたBRICS諸国が「BRICS宇宙協力連合委員会」を発足させた。
実は中国国家航天局は2015年に、BRICSリモートセンシング衛星ネットワークの協力を提案し、5ヶ国の宇宙機関は2021年8月に「BRICSリモートセンシング衛星ネットワーク協力に関する協定」にも署名していた。
6月26日のコラム<習近平が発したシグナル「BRICS陣営かG7陣営か」>に書いたように、G7陣営を除いた、人類の85%を含めた「発展途上国と新興国」を中心とした「BRICS陣営」諸国が、宇宙で中国を中心に活躍する時代に入ったということだ。
日本が習近平に関して権力闘争だと大合唱し、しかもこのたびの胡錦涛事件(参照:10月30日のコラム<胡錦涛中途退席の真相:胡錦涛は主席団代表なので全て事前に知っていた>)などに妄想を逞しくして「楽しんでいる」間に、中国は軍事大国になり宇宙大国になってしまったのだ。(中略)
米中覇権の決戦場は宇宙に移った。中国が勝者となるフェイズに入ってしまったのだ。
そして、はっきり言おう。日本には、すでに挽回の余地はない!(後略)
追記(11月2日):今年9月18日付のワシントン・タイムズ・ジャパンは<中国の宇宙兵器は深刻な脅威 次期宇宙軍トップが危機感>というタイトルで、「米宇宙軍のチャンス・サルツマン作戦副部長は、中国の宇宙兵器は軌道上の米国のすべての人工衛星を妨害、破壊する能力を持ち、米国にとって最も深刻な脅威との見方を示した」と書いている。
またサルツマンは、米国にとっての最大のリスクは「米国の宇宙での能力に対抗する中露の意思と能力を過小評価すること」だと警告しているとのこと。
これを実行してきたのが習近平のハイテク国家戦略であり、この国家戦略を断行するために反腐敗運動を強行してきたのだということに日本人は気が付かなければならない。【11月1日 遠藤誉氏 YAHOO!ニュース】
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