孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カタールW杯の「闇」 外国人労働者の人権侵害問題など 国家に搾取される北朝鮮労働者も投入

2022-11-21 23:10:17 | 中東情勢
(2022年11月12日にベルリンで開催された独ブンデスリーガのヘルタ・ベルリとFCケルンの試合では、スタジアムで観戦する大勢のファンが、「ボイコット・カタール」というバナーを掲げた【11月16日 クーリエ・ジャポン】)

【カタールを選んだのは「悪い選択だった」(ブラッターFIFA元会長)】
サッカーのワールドカップ(W杯)がカタールで開幕しましたが、初めての中東イスラム圏での開催ということで、議論が大きくなっています。

問題点は、施設建設に携わった外国人労働者の労働環境、同性愛に対する不寛容、飲酒の禁止、更に選定時の賄賂の問題。

最初に“結論じみたこと”を言ってしまえば、「今頃、こんなこと言っても遅すぎる。全部以前から指摘されていた事柄で、本来は選定前に問題とすべき話。あるいは選定時にFIFAに認識を問うべき話。今となっては中止もできないでしょう」といったところでしょうか。

飲酒の問題は「文化」の問題ですから、現地の方針に従うべきものでしょう。
賄賂の話は、カタールだけの問題ではないでしょう。W杯やオリンピックみたいな巨大イベントで「カネ」が動くのはある意味常識。東京オリンピックだって・・・。

もちろん、だからといって「問題にしない」なんて言いません。カタールの問題というより、こういう巨大イベントのあり方を再度見直す必要があります。

カタール固有の問題としては、外国人労働者の労働環境、同性愛に対する不寛容・・・一言で言えば、人権に関する問題です。そこには中東イスラム圏との価値観の違いではすまされないものも。

****カタールW杯 劣悪な労働環境、飲酒制限 イスラム圏で初開催****
サッカーのワールドカップ(W杯)が20日に開幕するカタールは、出稼ぎ外国人を劣悪な環境下で働かせたとして批判されてきた。イスラム圏でのW杯開催は初めて。LGBTQ(性的少数者)への対応や飲酒制限も議論の的になった。

英BBC放送(電子版)によると、カタールは2010年のW杯開催決定以降、7つのスタジアムの建設にバングラデシュやインド、ネパールなどの外国人労働者3万人を動員した。国際人権団体は16年、旅券を取り上げて不衛生な住居をあてがい、強制的に労働させていると非難した。

カタールは真夏、セ氏40度を超える猛暑になる。17年前には炎天下での労働を制限する制度ができたが、その後も給料の不払いなどの問題は続いたといわれる。

英紙ガーディアンは21年、開催決定以降に6500人の外国人労働者が死亡したと報じた。カタール政府は「すべてがW杯に関連するものではなく、高齢などによるものが大半だ」とし、14年から20年の間に労働に関連して死亡したのは3人だとしている。

ロイター通信によると10月末、観戦に訪れるファンの宿泊施設の周辺に住む労働者数千人が居住先から締め出された。突然通告されてシャツも持たずに追い出された人もいたという。

欧米メディアの報道を受け、国際サッカー連盟(FIFA)は参加する各チームに「スポーツにイデオロギー(政治宣伝)や政治的争いを持ち込まず、サッカーに集中するように」と要請。

これに対し、イングランドなど欧州10カ国のサッカー協会が労働者の人権状況の改善をFIFAに求めるなど反発が広がった。

カタールのW杯大使は最近、同性愛は「精神の傷」だとし、訪れる外国人は「この国のルールを受け入れるべきだ」と述べ、欧米メディアは批判的に報じた。

カタールでは公共の場での飲酒は禁じられており、開催期間中の飲酒もスタジアム周辺などに限定される見通しだ。いずれもイスラム教の教えが影響したものとみられる。

カタールは否定しているが、開催地を選ぶ投票の際には賄賂の授受があったとの見方も絶えない。当時、FIFAの会長だったブラッター氏は、カタールを選んだのは「悪い選択だった」と述べている。【11月16日 産経】
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外国人労働者に関しては、カタール政府は「労働に関連して死亡したのは3人だ」としているものの、実際にはカタール政府がW杯の業務関連死と認めていない事例も多いとみられ、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは10月、「数千人の死者について調査が実施されていない」と批判しています。

カタールを含め、中東各国における外国人労働者の人権への意識・配慮の欠如、もっとストレートに言えば「人間扱いしない」差別意識は、フィリピン・インドネシアなど南アジア・東南アジアからの家政婦などの出稼ぎ労働でも常に問題とされてきたところです。

犠牲になった外国人労働者はインド、バングラデシュ、ネパール、スリランカ、パキスタンなどがあげられています。

【超現代的な競技場や豪華ホテル建設には、「搾取」の象徴たる北朝鮮労働者も参加】
そうした劣悪環境での労働災害といった話以外に、全く別の「外国人労働者問題」の存在も指摘されています。

****W杯開催カタールの「北朝鮮コネクション」****
<競技場などの建設現場での人権侵害が問題視されているが、そこには北朝鮮の労働者も含まれる。北朝鮮にとっては制裁回避と外貨獲得の手段。カタールにとっては使い勝手のいい存在だった>

サッカーワールドカップ(W杯)カタール大会が11月20日に開幕した。世界各地から観戦に訪れる大勢の人はおそらく知らないだろうが、彼らがイベントを楽しむ超現代的な競技場や豪華ホテルは、北朝鮮の労働者を駆り出して建設されたものだ。

4年に1度開催されるサッカー界最大の祭典の裏には、建設現場での劣悪な生活・労働環境と政府による搾取という醜い現実が潜んでいる。

北朝鮮にとって、国外への労働者派遣は国際社会の制裁を回避し、外貨を獲得する格好の手段だ。一方でカタールにとっては、北朝鮮の労働者は使い勝手のいい存在だった。

カタールがW杯開催地に決定したのは、賄賂などの腐敗行為の結果だと言われている。開催準備期間中、同国の印象はさらに悪化した。特に問題視されたのが、独特の労働契約制度「カファラ」だ。

現代の奴隷制とされるカファラの下では、雇用主が出稼ぎ労働者に対してほぼ絶対的な権限を持つ。近年、国際社会の圧力を受けて改革されたが、虐待・搾取横行の下地になっている現実は変わらない。

カタールの国際労働基準無視に乗じた国の1つが北朝鮮だ。英紙ガーディアンは2014年、カタールの首都ドーハ近郊のルサイルの建設現場4カ所で、北朝鮮人が働いていると報じた。同地に誕生したルサイル・スタジアムは、今回のW杯の決勝戦会場だ。

カタール政府が国連安全保障理事会に提出した報告書によれば、2016年1月時点で同国に在留する北朝鮮人労働者は約2500人。その数は2019年3月までに70人に減少した。

労働者の国外派遣は北朝鮮にとって、国連安保理決議で禁止された核・ミサイル開発の資金を稼ぎ、国内エリート層の懐柔に必要な外国製の贅沢品を賄う手段だ。北朝鮮人の出稼ぎ労働者の給与は政府管理下の口座に振り込まれる仕組みで、本人に支払われるのはそのごく一部だという。

「北朝鮮政府は国外労働者の賃金の最大90%を徴収し、それによる年間収入は数億ドルに上る」と、バイデン米政権は今年5月に発表した報告書で指摘している。

中国では最大10万人が
ガーディアン紙による告発があった2014年当時、カタール政府は国内で北朝鮮人労働者約2800人が働いていると認めた。その一方で「記録上、賃金や待遇に関する苦情は皆無だ」と主張している。

北朝鮮の労働者の搾取は、かなり前からはびこっている。
国連安保理は2017年、北朝鮮の核・ミサイル開発の資金源を断つための制裁決議を採択。その一環として、2019年12月22日までに自国にいる北朝鮮の労働者・監督者を送還することを、各国に義務付けた。

この点で、カタールは大きな違反はしていない。国連安保理への報告書によれば、同国で働く北朝鮮人は昨年1月までにゼロになった。

だが残念なことに、制裁は成功とは言い切れない。中国とロシアが当初の賛同にもかかわらず、取り決めを無視していることが大きな原因だ。

米国務省が7月に発表した「2022年人身取引報告書」によると、中国には今も、北朝鮮人労働者推定2万~10万人が公式命令で派遣されている。ロシアや中国の人権状況を考えれば、北朝鮮の搾取体制の存続に、両国が加担するのも不思議ではない。

4年前のW杯ロシア大会決勝戦は世界各地で35億人以上が視聴した。アメリカや同盟国は、今回のW杯を北朝鮮政府の犯罪行為と北朝鮮国民が強いられる苛酷な現実に対して、国際社会の注目を集める機会として活用すべきだ。
北朝鮮の人々の生活に確かな変化を生み出すことは可能だ。私たちは、もう一刻も無駄にしてはならない。【11月21日 Newsweek】
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「北朝鮮政府は国外労働者の賃金の最大90%を徴収し、それによる年間収入は数億ドルに上る」ということは以前からも指摘されているところです。究極の搾取というか、奴隷労働です。

【北朝鮮労働者のロシア・中国への派遣】
北朝鮮労働者の海外派遣に関しては、ロシア・中国への派遣が報じられています。

****北朝鮮のウクライナ派遣「労働者」は軍人? ロシアへの後方支援!****
北朝鮮はウクライナ情勢では国際社会に向けて外務省のホームページを通じて一貫してロシア支持を表明している。(中略)
 
世界で唯一一貫してロシア支持を表明している北朝鮮がいつ、どの時点で、どのような形でウクライナ事態に介入するのか注目していたが、崔善姫(チェ・ソンヒ)外相は13日にウクライナ東部を実効支配している親ロシア派の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の両外相に書簡を送り、「両国の独立を認定した」ことを通報し、関係強化を打ち出していた。

北朝鮮が親露派が支配した地域を国家として承認したことに絡み、ロシアのマツェゴラ駐北朝鮮大使がロシア紙「イズベスチヤ」とのインタビューで「北朝鮮の建設労働者が戦火で破壊された二つの地域での復旧作業で重要な役割を担える」と述べたのはそれから5日後である。

マツェゴラ大使はウクライナ東部で破壊されたインフラ施設の復旧作業にあたって「勤勉で忍耐強い北朝鮮の労働者が大きな助けになる」と述べ、ウクライナ東部の工場で製造された部品を北朝鮮の企業に供給する計画もあり、北朝鮮側もこの計画に「大きな関心を寄せている」と発言していた。ロシア大使が公言したところをみると、ロシアと北朝鮮との間ですでに合意済なのであろう。(中略)

北朝鮮の労働者派遣は国連安全保障理事会が2017年12月に大陸間弾道ミサイル「火星15型」を発射した懲罰として海外にいる北朝鮮労働者を全員2019年12月までに全員強制送還することを規定した制裁決議「2397号」の明らかな違反である。

北朝鮮はウクライナ政府の批判と国交断絶通告について北朝鮮の国家承認は「国連憲章で認められた主権国家の固有の合法的権利である」との見解を明らかにし、「ウクライナが北朝鮮の主権行使を誹謗する権利も資格もない」と反発し、日本や国連安保理パネル委員会の警告に対しても「親善の対外政策理念に基づき正義と国益に沿い、友好的に接する国との関係を発展、強化させる。我々は他人の眼を気にしない」と反論し、批判を意に介さず、労働者を派遣するようだ。

北朝鮮がドネツクやルガンスクに派遣する「労働者」は民間人でも、通常の労働者でもない。おそらく国防省傘下の軍後方総局から派遣される軍人が主であろう。現職のままか、あるいは一旦除隊させて派遣される可能性が大だ。

国防省の中には軍事建設局や技術総局、対外事業局などがあるが、特に軍後方総局には建物の補修や設備等の任務を管掌する部(建設部、資材部、保管部)をはじめ輸送業務を管理、運用する部(輸送部、道路部、水上部)から病院などで医療業務を指導、管掌する部など様々な部がある。約40万人から成る道路建設軍団と呼ばれる部隊も存在する。

北朝鮮では軍人は高層マンションから病院、デパート、学校、空港、遊園地などレジャー施設、農業から水産業まであらゆる経済分野に関与している。

北朝鮮人権情報センター(NKDB)のデーターによれば、海外派遣が禁じられる前の2015年1月から3月までロシアで雇用許可を得ていた北朝鮮の労働者は約4万7364人に及んでいた。内訳は美装工、石工、コンクリート工、外装工、塗装工らが中心だった。この他に伐採工も派遣されていたが、駐朝ロシア大使が言うように勤勉で忍耐強く、休みも取らず、1日20時間も働いていた。(中略)

「労働者」だけでも仮に4万~5万人派遣すれば、師団の数が1万1千人ぐらいだとすれば、4個師団以上となる。両地域の奪還を目指すウクライナ軍にとっては手強い存在となる。

北朝鮮のドネツク州とルガンスク州への「労働者」派遣はロシアからの要請であることは疑いの余地もないが、北朝鮮「労働者」の駐屯はロシアの実行支配を一層強固にすることになるのでロシアの北朝鮮への見返りもそれ相応のものと推測される。【7月19日 辺真一氏 YAHOO!ニュース】
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これまではロシア極東地域への派遣が多かったと思われます。
“勤勉で忍耐強く、休みも取らず、1日20時間も・・・”云々というのは通常の場合の話(もちろん、労働を強制されての話ですが)。

コロナ規制で帰国もかなわず、更に極東からウクライナ東部の「戦場」に送り込まれるとなると、北朝鮮労働者だか軍人だかは知りませんが、穏やかではないようです。

****ロシア派遣の北朝鮮兵士に不穏な空気…上官に反抗、逃亡も****
北朝鮮当局が、ロシアに建設労働者として派遣した兵士らに不穏な空気があるのを察知し、監視を強化しているもようだ。

北朝鮮がロシアに派遣した労働者の数は2万人と言われているが、その一部は現に軍籍のある兵士たちだ。たとえば、首都・モスクワには朝鮮人民軍(北朝鮮軍)第7総局所属の兵士らが派遣されているが、兵役期間はとっくに過ぎているのに、コロナ対策で国境を封鎖した北朝鮮政府により帰国が認められず、建設現場などで働き続けてきた。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)はウラジオストクの情報筋の話として、北朝鮮の幹部が、こうした兵士らの動向を監視し、資料を収集していると報じた。

RFAはこれに先立ち、北朝鮮はロシアにいる労働者らをウクライナ東部の新ロシア派支配地域に再派遣する計画を進めており、それを望まない労働者らの脱北が相次いでいると伝えていた。今回の兵士らに対する監視強化も、こうした動きが背景にあるようだ。

建設会社の内部では、軍人同士が相互監視を行っているが、不平不満を口にする者がいれば、説得にかかるという。
 コロナ前なら即時帰国の措置が取られていたが、今はコロナ鎖国で帰国そのものができない上に、下手に脅迫でもすれば脱北されるのではないかとの不安から。強く出られないのだ。血気盛んな30代の軍人労働者は、上官の指示に強く反発し、むしろ上官の方が彼らを慌ててなだめる有様だ。

北朝鮮は兵士を労働者として海外派遣する場合、思想的に徹底的に武装され、故郷に家族がいる――つまりは「人質」がいるなど、逃亡のおそれの有無を熟慮している。また、一般労働者よりも上意下達で動く兵士を優先的に派遣してきたとも言われる。

だがそのような統制も、ウクライナ東部という「戦地」への派遣が現実味を帯びるにつれ、揺らいできているのかもしれない。

極東にいる軍人建設労働者はテリョン貿易会社所属で、軍事対外事業局を通じて派遣されているが、ハバロフスクの情報筋によると、同社は現地のルバ、ヤブストロイなどの建設会社と契約を結び、7カ所の建設現場に労働者を送り込んでいる。

いずれの部隊も、労働者の管理に頭を痛めている。長時間労働に加え、退屈な海外生活、ホームシックなどで不平不満を露骨に口にしているからだ。作業班は6〜70人からなるが、本社の指示に従おうとしないため、当局は協議体を立ち上げ、労働者の動向監視を行っている。【10月20日 高英起デイリーNKジャパン編集長 YAHOO!ニュース】
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****中国に派遣「制裁破り」の北朝鮮労働者、少なくとも10万人…PCRで発覚****
北朝鮮から中国に派遣された労働者の数は、約8万人と言われていたが、実際はそれを遥かに上回ることが明らかになった。(中略)

丹東市の防疫当局は(中略)全居住者を対象にしてPCR検査を行ったが、この時の身分照会により、北朝鮮労働者の数が8万人に達することが明らかになったということだ。(中略)

丹東だけで8万人に達することが判明した北朝鮮労働者だが、吉林省の延吉、琿春などを含めると、少なくとも10万人を超えるものと思われる。

国連安全保障理事会の制裁決議により、国連加盟国が北朝鮮の労働者を新規雇用することは禁じられている。しかし北朝鮮は、技能実習制度や渡江証や訪問証と呼ばれるノービザ滞在ができる臨時のパスポートを労働者に持たせて派遣する手法を使い、制裁破りの労働者派遣を行っている。もちろん、中国当局の黙認なしではできないことだろう。

また一方では、コロナによる国境封鎖で北朝鮮に帰国できず、契約期間を超えて中国に滞在していた労働者を帰国させ、新しい人員と入れ替える計画が進められている。【11月15日 デイリーNKジャパン】
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話をカタールのW杯に戻すと、最大の問題は、今後試合が進めば、いま議論になっているような問題はどこかに吹き飛んでしまい、「ガンバレ日本」一色になってしまうことでしょう。特に日本は「政治とスポーツは別物」という認識が強いので。
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