孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カタールW杯 外国人と国内の二重基準 クウェートの政府・議会対立 湾岸諸国の外国人労働者問題

2022-11-01 23:33:13 | 中東情勢
(ドバイ 世界一の高層建築、ドバイのブルジュ・ハリファを囲む建築のコンセプト【9月2日 Newsweek】)

【カタール W杯期間中外国人には柔軟な対応 国内人権状況には変化なし】
サッカーのW杯カタール大会が11月20日に開幕する・・・そうです。(個人的にはそんなに関心がないので・・・。 もちろん日本チームには活躍して欲しいですし、試合を観れば応援しますが、テレビなどで大騒ぎするような雰囲気には、ちょっと引いてしまう感じがあって・・・)

今回のカタール開催は初の中東、初のイスラム教国での開催ということで、宗教的・文化的価値観が欧米などとは全く異なりますので心配されることも。
カタール側からすれば、人口300万人に満たない国が、120万人ものファンを受け入れることになりますので大変です。

軽微な話としては、イスラムでは禁止されているアルコールの話。(お酒を飲まれる方には“軽微”ではないかもしれませんが、私は飲まないので・・・)

****カタール、W杯ファンの「軽微な法違反」に柔軟対応へ****
11月に始まるワールドカップ(W杯)観戦のためカタールに集まったファンが、公共の場で深酔いするなど軽微な違法行為を犯すとどうなるか──。カタールは保守的なムスリム国家だが、当局はこうした違法行為の訴追を見送る方針だ。カタールが他国の警察向けに行った説明内容を知る外交官など2人の情報提供者がロイターに語った。

開会まで2カ月を切った大会に向けた警備方針はまだ確定していないものの、主催者側は出場資格を獲得した国の外交官や警察に対し、比較的軽微な違反については柔軟に対応する姿勢を示したという。

カタールはアラブの小国で、隣接するサウジアラビアと同様、国民の多くは厳格なイスラム教スンニ派に属している。大会を訪れる100万人以上のサッカーファンのにぎやかな熱狂を受け入れつつ、自国の宗教的伝統を尊重するという微妙なバランスに苦心する様子がうかがえる。(中略)

西側諸国の別の外交官は「寛容さが増せば国際社会は喜ぶだろうが、国内保守派の不満を招くリスクはある」と語る。

主催者側は警備に対するアプローチを明確にしていない。多くの国の大使館はファンに対し、他国であれば許容される行動でも処罰を受ける、と警告している。(中略)

カタールの法令によれば、表現の自由は制限されており、同性愛は違法、婚姻関係を伴わない性行為も違法だ。公共の場で酩酊(めいてい)すれば最長6カ月の禁固刑となる可能性があり、公共の場での愛情表現や露出度の高い服装など、他の社会では問題にならないことも逮捕の理由になる恐れがある。

「公共の場で誰かと議論したり侮辱したりすれば逮捕につながる可能性がある。抗議活動や布教活動、無神論を唱えたり、カタール政府やイスラム教を批判することも、ここでは刑事訴追の対象となり得る。ソーシャルメディアへの投稿も対象になる」と(米国外交官)キャッセル氏は言う。

<緩和される法律も>
一方で、主催者側はすでに公共の場でのアルコール飲料の販売を制限する厳格な国内法を緩和し、スタジアム周辺ではキックオフの数時間前からビールの提供を認める方針を示している。

また主催者は、大会に出場する欧州諸国の警察やドーハ駐在の一部の外交官に対し、非公式にではあるが、深酔いや風紀を乱す行為などに関する法律の執行について警察が柔軟な姿勢を示すことを期待している、とも述べている。

カタール側の説明に詳しい人物は、「軽微な違法行為で罰金や逮捕に至ることはないが、警察は、違反者に向かって法を守るよう要請するよう指示されるだろう。公の場でTシャツを脱ぐ者がいれば、元通りに着るよう求められる。ある程度は大目に見られることになる」と語る。

カタール当局はこうした方針を明言はしていないが、大会期間を通じて有効となる特別法は、カタール国内法への違反に対処する上で、W杯の警備最高責任者にかなりの裁量を与えている。

特別法によれば、警備最高責任者は当局との連携のもとで「国内で施行されている法規に違反する行為」への対処などを決定できるとされている。

複数の外交官によれば、W杯主催者は数カ月前に行った外交官向け説明会で、人や資産の安全が脅かされる場合には、警察は厳しい行動を取る予定だと述べたという。(後略)9月23日 ロイター】
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“同性愛は違法、婚姻関係を伴わない性行為も違法”という話になると、欧米社会では近年一般化している傾向に反するものとなり、“人権”絡みの問題にもなります。

****W杯開催のカタールでLGBTQ当事者の拘束、暴行か。国際人権団体が報告****
11月にサッカーW杯が開催されるカタールで、現地の治安部隊がLGBTQ当事者を恣意的に拘束し、拘留中に暴行しているとする報告書を24日、国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチが発表した。

発表によると、同性愛を法律で禁じているカタールでは2019年から2022年の間に、拘束したLGBTQ当事者に対して留置場で繰り返し激しく殴打するケースが6件、セクシャルハラスメントが5件あったという。

また、聞き取り調査に応じたトランスジェンダーの女性4人、バイセクシュアルの女性1人、ゲイの男性1人の計6人全員が、カタール内務省の予防保安局の職員によって、ドーハのアル・ダフネにある地下刑務所に拘留されたと証言。そこでは、言葉による嫌がらせだけでなく、出血するまで殴ったり蹴ったりする身体的虐待もあったという。 

2カ月にわたって監禁され、弁護士に相談することもできなかったというケースもあった。さらに6人全員が、警察によって「不道徳な行為をやめる」誓約書へのサインを強要されたと話している。  

カタールのすべての住民に人権を
カタールは法律で同性愛を禁じているものの、FIFAの規則に従い、ワールドカップではLGBTQを表すレインボー・フラッグのスタジアムへの持ち込みを許可する。しかし今回の発表によれば、ワールドカップの開催準備中にも、カタールの治安部隊はLGBTQ当事者への暴力を続けていることになる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、「ワールドカップのためにカタールを訪れる観客だけでなく、カタールのすべての住民に対して、表現の自由と、性的指向や性自認に基づく差別の禁止を永久に保証するべきだ」と訴えている。【10月26日 ハフポスト日本版】
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アルコール対応同様に、おそらくカタール当局は、外国人のLGBTQ関係の問題は“柔軟”に対応する一方で、自国民に対する制約はこれまでどおり・・・という、両者を分ける対応になると思われます。

****カタールは「すべての人を歓迎」できるのか サッカーW杯カタール大会と露呈する価値観の相違****
(中略)カタールではたとえ未婚者同士であっても婚外交渉は違法であり、刑法で最長禁錮7年の刑と定められている。同性愛行為もこの婚外交渉の中に含まれている。

懸念残るLGBTQへの対応
イスラム教は『コーラン』の章句に基づき、同性愛行為を禁忌としている。(中略)

同性愛者であることを公表しているオーストラリア出身のサッカー選手、ジョシュ・カバッロは2021年11月、「カタールでは同性愛者が死刑になるという記事を何かで読んだ。だからとても怖いし、カタールに行きたいとは思わない」と述べ、波紋を呼んだ。

カタール大会組織委員会のナーセル・ハテルCEOはCNNとのインタビューで、カタールは国籍、人種、宗教、性的指向に関係なく、すべてのファンを歓迎すると断言し、懸念の払拭を図った。

しかし2022年5月には、カタールの一部のホテルが同性愛カップルの宿泊を拒否する旨が報じられた。(中略)

「すべての人を歓迎するが、文化の尊重を」
カタールの公式な立場と矛盾する、反LGBT感情を露呈する個人も少なくない。(中略)

カタールには100万人を超えるサッカーファンが集まると見られている。カタール当局は公式に宣言している通り、LGBTQをはじめとするあらゆる性的指向のサッカーファンを歓迎するだろう。しかしそれはあくまでも「部外者」に対する例外的措置だ。

このままではW杯は、カタール国内でカタール人LGBTQが権利を獲得する契機にすらならないまま開催され、幕を閉じることになるだろう。しかしカタールにはカタールの文化がある。

カタールのタミーム首長は5月、「我々はすべての人を歓迎するが、同時に我々の文化を尊重してくれることを期待し、望んでいる」と述べた。

性的指向を理由に差別されたり、罰せられたりすることがあってはならないという理念に、普遍性はない。それはカタールのようなイスラム教国にとっては、「西側の価値観の押し付け」と映ることを、我々は知っておく必要がある。【11月1日 飯山陽氏 FNNプライムオンライン】
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なお、女性に関しては、イスラム圏には女性のスポーツ観戦を制限する国もありますが、カタールでは以前から女性も観戦できるようです。

カタールは湾岸諸国のなかでも独自の路線(シーア派イランとの関係、ムスリム同胞団支援など)をとっており、2017年にはサウジアラビアなどアラブ4カ国から一方的に断交される事態にもなりました。

その関係は2021年に回復していますが、今回大会はカタールにとっては中東の他の国々との交流を深める意味合いもあるのでしょう。

****「中東と他地域をつなぐ機会に」*****
(中略)カタールは2017年にサウジアラビアなどアラブ4カ国から一方的に断交された。ただ、約3年半後に和解しており、ドーハではサウジ人観光客らの姿も見られた。(中略)

大会組織委員会の広報責任者、ファトマ・ヌアイミ氏も、中東初のW杯に向けて「アラブ地域全体が興奮している」と話す。今回のW杯は中東と他の地域をつなぎ、文化のギャップを埋める絶好の機会になると意気込みを語った。「アラブのもてなしの文化を多くの人に見てほしい」ともアピールした。【9月18日 47NEWS】
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【クウェート 政府と議会の対立の背景は「脱石油」と既得権益】
中東湾岸諸国つながりで、(日本が原油輸入の1割を頼む)クウェートの話題。
クウェートでは9月29日にで議会選挙が行われ、反政府派が過半巣を維持しました。

****反政府派が過半数=クウェート議会選****
クウェート選管は30日、投票が29日に行われた国民議会(一院制、定数50)選挙の結果を発表し、AFP通信によると、反政府派が過半数の28議席を獲得した。

政府と議会のこう着状態を背景に実施された解散総選挙だったが、反政府派が多数を占めたことで今後の議会運営も難航するとみられる。

一方、2020年の前回選挙でゼロだった女性議員は2人が選ばれた。

クウェートでは政党の結成は認められていない。首長が首相を任免する政府と国民から直接選ばれる議会は長く対立。国家予算の承認が遅れるなど支障を来している。【9月30日 時事】
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“首長が首相を任免する政府と国民から直接選ばれる議会は長く対立”・・・通常、王権を背景とした政府と選挙による議会の対立というと、議会が求める国民の権利拡大に関する対立というようなイメージがありますが、クウェートではやや異なる趣があるようです。(そうした「王権と国民権利」という側面もあるのかもしれませんが)

政府が求めているのは“脱石油”のための巨額投資、一方、反政府派主導の議会が警戒しているのは、そうした財政支出で教育・医療などにおける手厚い補助金などの国民の既得権益が削減されること・・・という構図とか。

****クウェートの脱石油****
【脱石油は可能か?既得権守るクウェート国民】
先月、議会選挙が行われたクウェート。王族中心の政府に批判的な勢力が過半数を占め、国政への国民の不満を示す形となった。

脱炭素の世界的潮流を踏まえ、政府は新たな産業を育てようと巨大プロジェクトを推進。

一方、オイルマネーを背景とした手厚い補助金に支えられてきた国民の間には、財政悪化で恩恵を手放すことへの不満が高まっている。脱石油に揺れるクウェートの実情を伝える【10月31日 NHK「キャッチ!世界のトップニュース」】
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上記番組を観て違和感も。
政府からの手厚い補助・支援を既得権益として、それを守ろうとする国民の姿勢には、今後加速する「脱石油」流れを考えると「それでいいのか?」という疑問が。

一方の政府が進めようとする「脱石油」のための巨額投資というのは、ドバイの成功例のような、あるいはサウジアラビア・ムハンマド皇太子が進めようとしている未来都市「ネオム」のようなもの。

カネにあかして砂漠に一気に未来都市を建設し、世界からマネーを呼び込み、額に汗することなく利益を生み出そうという発想。

アラブ首長国連邦(UAE)のドバイでは、サウジの未来都市「ネオム」に対抗するような計画もあるようです。サウジが「ライン」なら、ドバイは「円環」

****「最先端か? ただの空想か?」 ドバイのブルジュ・ハリファ囲む円環都市構想****
<高層建築の課題を解決すべく、水平に展開する野心的なコンセプトが飛び出した>

世界一の高層建築であるドバイのブルジュ・ハリファ。その周囲を美しい円環の建造物で囲む、大胆なコンセプト案が出現した。もし実現すれば、大胆なデザインの高層建築でビジネスと観光客を惹きつけるドバイに、さらなる個性をもたらしそうだ。

コンセプトは8月、ドバイの建築事務所であるゼネラ・スペースが発表した。「ダウンタウン・サークル」と名付けられた環のなかに、都市や人工的な自然環境を構築する案だ。オフィスや商業施設などが入居し、住宅や公共施設なども整備される。環は全長3キロに及ぶ大規模なもので、内部を5層に区切って開発する。

この環を垂直な柱で支持し、ドバイ中心部の多くの高層ビルを上回る高さ550メートルに浮かべる計画だ。(後略)【9月2日 青葉やまと氏 Newsweek】
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【中東湾岸諸国で汗して働くのは外国人労働者 その労働環境・生活は・・・】
サウジにしても、ドバイにしても、あるいはクウェートにしても、政府にも、国民にも、「額に汗して地道に働く」といった発想はないみたい。

ではカタールのW杯スタジアムとか、あるいはドバイ万博会場など、(気温が50℃にもなるなかで)汗して建設する必要があるようなものは誰がつくるのか?・・・と言えば、それは外国人労働者。その待遇は劣悪とも。

****湾岸諸国の酷暑 昼過ぎの屋外労働禁じても年間死者1万人に****
6月から8月にかけて、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、クウェート、バーレーン、オマーンの湾岸諸国では、正午から4時間程度、屋外労働が禁止されている。

昨年の世界保健機関の報告書によると、クウェートでは暑さが厳しい日の死亡リスクが2倍から3倍に跳ね上がる。その影響を最も受けるのが、屋外労働者の大部分を占める外国人労働者だ。

石油資源が豊富で裕福な湾岸諸国には、インド、パキスタン、ネパール、スリランカ、バングラデシュから多くの出稼ぎ労働者が来ている。安価な労働力を提供する外国人労働者は、高給取りの公務員を志望する国民の間で敬遠される建設作業やごみの収集、道路清掃、食料配送といった屋外での仕事を代わりに引き受けている。

■日陰でも耐えられない
(中略)厳しい暑さは湾岸地域全体の問題として前々から懸念されてきた。人権団体は、今年のサッカーW杯開催国のカタールに対し、「熱中症」に関連した労働者の死を調査するよう求めている。

だが、湾岸諸国で死亡した移民・出稼ぎ労働者に関する信頼できる数字は存在しない。各国は統計を発表せず、NGOやメディアが発表する推定値に常々異議を唱えている。

アジア諸国を中心とした人権団体によるプロジェクト「バイタルサイン・パートナーシップ」は、今年3月の調査報告書で「南・東南アジアからの湾岸諸国への移民労働者の年間死者数は1万人に上っている」と報告。また、その半数以上について「自然死」または「心停止」と記録している。(後略) 【7月30日 AFP】
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中東湾岸諸国の「暑い夏」は気候変動の影響と指摘されています。
「われわれがこのまま方向転換しなければ、気温は今後も上昇し続け、世界中のイスラム教徒が聖地メッカを訪れる大巡礼(ハッジ)など、湾岸地域での屋外活動は夏季にはほぼ不可能となる域にまで達するでしょう」(国際環境保護団体グリーンピース中東支部のジュリアン・ジュレイサティ氏)

外国人労働者の労働環境・待遇に負い目を感じるところもあるのか・・・あるいは、免罪符的パフォーマンスか。

****ドバイに無料パンの自動販売機 物価高にあえぐ外国人労働者向け****

アラブ首長国連邦ドバイのスーパーマーケットに、温かいパンを無料で提供する自動販売機が登場した。超富裕層が多いこの地で働く外国人労働者向けに設置されたものだ。

ロシアによるウクライナ侵攻に伴う世界的な物価高は、ドバイにも影響を及ぼしている。
物価高が外国人労働者に苦しい生活を強いる中、無料でパンを提供する自販機が国内10か所のスーパーマーケットに設置された。タッチスクリーンを操作して、サンドイッチ用のパンやピタパン、インドの平たいチャパティなどを選ぶことができる。

自販機にはクレジットカードの読み取り機能が備わっている。これは、パンの代金を支払うためのものではなく、富裕層が寄付のために利用するものだという。(中略)

ドバイ政府統計センターによると、7月の食料価格指数は前年同月比で8.75%上昇した。
パン自販機は、ドバイ首長でUAEの首相兼副大統領でもあるムハンマド・ビン・ラシド・マクトム氏が設立した財団の取り組みだ。

豊かな産油国UAEの人口約1000万人のうち、9割は外国人。主にアジアやアフリカからの出稼ぎ労働者となっている。 【10月3日 AFP】
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