(エルドアン大統領とプーチン大統領 クレムリン公式HPより【11月13日 アゴラ】
エルドアン大統領はウクライナ・ロシア双方へのパイプを利用して、ウクライナ問題仲介への意欲を示しています)
【イスタンブール爆発事件 トルコ政府「クルド組織のテロ」と断定 報復示唆】
トルコのイスタンブール市内の有名観光スポットのひとつが「イスティクラル通り」
有名店、オスマントルコ時代のヨーロッパ風の建物が立ち並ぶイスタンブール最大の歩行者専用道路で、レトロな路面電車が走っています。
「見てきたようなこと」言うのは、今年9月上旬のトルコ観光で実際に歩いたから。
そのときの旅行記のサイトへアップがここしばらく中断しており、中断した「イスティクラル通り」周辺の旅行記を書こうとしていたときに飛び込んできたのが、「イスティクラル通り」での爆発事件。
トルコ政府はクルド人反政府勢力PKKが関与したテロ事件と断定しています。
*****「クルド組織のテロ」と断定=シリア国籍の女拘束―イスタンブール爆発*****
トルコの最大都市イスタンブールの繁華街イスティクラル通りで起きた爆発で、トルコ治安当局は14日、爆発物を現場に残して去ったシリア国籍の女の身柄を、イスタンブール市内で拘束したと発表した。
犯行声明は確認されてないが、ソイル内相は爆発について「反政府武装組織クルド労働者党(PKK)が関与したテロ」と断定した。
爆発は13日午後、人混みの中で発生し、9歳前後の女児を含む少なくとも6人が死亡、81人が負傷した。死者はいずれもトルコ人。地元メディアによると、負傷者にはシリア人やロシア人、セルビア人、モロッコ人が含まれている。
治安当局によると、女はアフラム・バシル容疑者で、取り調べの中で「PKKの情報要員として、違法な手段でシリア北部からトルコに入った」と供述したとされる。バシル容疑者のほか、事件への関与が疑われる40人以上の身柄を確保したという。
ソイル氏は、クルド人が暮らすシリア北部のアインアルアラブから「攻撃の指示が下されたとみられる」と説明。「近い将来、われわれは彼ら(PKK)への反応を示す」と訴え、シリア北部に報復攻撃を行うことも示唆した。【11月14日 時事】
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負傷者に多くの外国人がいるのは、前述のように事件現場が有名観光スポットであるため。
“シリア北部に報復攻撃を行うことも示唆”・・・イドリブに残るシリア反体制派を支援するトルコは、現在もシリア北部のクルド人地域に軍事介入してクルド人武装勢力を追い出し、親トルコ地域をつくっていますが、おそらくまた介入・攻勢を強めるのでしょう。エルドアン大統領としては、この地域にトルコ国内のシリア人難民を移す計画とも言われています。
【止まらない物価上昇 高まる国内不満を封じ込める動きも】
記録的な物価上昇が止まらず、内政では困難な状況にあるエルドアン大統領にとっては、(犠牲者には不謹慎なもの言いではありますが)国民の目を外に向ける恰好の機会となるかも。
****トルコCPI、10月は前年比+85.5% 利下げで24年ぶり上昇率****
トルコ統計局が3日発表した10月の消費者物価指数(CPI)は、前年比上昇率が85.51%と24年ぶりの伸びを更新した。物価高騰にもかかわらず中央銀行が3カ月で3回利下げしており、インフレが一段と加速した。(後略)【11月3日 ロイター】
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もともと反対勢力を力で封じ込める強権支配的な傾向があるエルドアン大統領ですが、上記のような経済苦境にあって、来年6月の次期大統領選挙に向けて国内不満の拡散を封じ込めようとする動きを強めています。
****フェイクニュースで禁錮3年 トルコ「規制法」のウラ側****
先週、施行された、トルコのフェイクニュース規制法。偽の情報を流した場合、最大で禁錮3年が科される。
国会で審議中に、野党議員は、「表現の自由を侵害されるおそれがある」とスマホをたたき壊し、批判していた。
2023年6月の大統領選挙に向け、政府にとって都合が悪い情報が出ないようにするため、規制を強化したともいわれるこの法案。SNSへの投稿だけで逮捕される可能性もあり、懸念が強まっている。【10月28日 FNNプライムオンライン】
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【内政から国民の目をそらす思惑もあってか、活発化するエルドアン外交】
権力者にとって、内政で問題を抱えるときは、外交で国民の目を外にむけて求心力を高めるというのは常套手段ですが、エルドアン大統領は以前からも、今でも、外交面での世界の注目を集めるような独自活動は非常に活発です。
ただ、以前は中東・イスラエル諸国の反発を買うようことが多かったのですが、最近は「関係改善」の動きが目立ちます。
第1次大戦中の「アルメニア人虐殺」問題で対立するアルメニアとの歴史的和解に向けた動きも。
****関係改善へ13年ぶり会談=トルコ・アルメニア首脳****
トルコのエルドアン大統領とアルメニアのパシニャン首相は6日、「欧州政治共同体」の会合が開かれたチェコの首都プラハで個別に会談した。
第1次大戦中の「アルメニア人虐殺」問題などで見解が対立し、国交がない両国の首脳級による対面での会談は2009年以来13年ぶり。関係改善が加速する可能性もある。
エルドアン氏は会談後の記者会見で「(国交の)完全正常化というゴールに到達できると信じている。友好的な雰囲気だった」と語った。【10月7日 時事】
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上記以上の内容は知りませんが、アルメニアはアゼルバイジャンとの領土問題で劣勢にあり、アゼルバイジャンを支援するトルコとの対立緩和は望むところでしょう。トルコ・エルドアン大統領としては、アルメニアが苦境にある今こそ、トルコにとって有利な条件で話を進める好機ということにも。
独自外交で軋轢が強まったアラブ諸国との関係改善にも乗り出しています。国内経済が困難な状況で、石油大国サウジアラビアとの協力関係が欲しいのでしょう。
****アラブ諸国との関係改善模索 トルコ大統領、サウジ訪問****
トルコのエルドアン大統領は(4月)28日、サウジアラビアを訪問する。トルコのサウジ総領事館で反体制サウジ人記者の殺害事件が起きた2018年以来、冷え込んできた両国関係は改善に向かう見通しとなった。
トルコ大統領府によるとエルドアン氏は29日まで滞在し、2国間の協力強化や国際情勢について意見交換する。実力者ムハンマド・ビン・サルマン皇太子と会談する可能性もある。
反体制サウジ人記者のジャマル・カショギ氏は18年10月、トルコ・イスタンブールのサウジ総領事館内で殺害された。エルドアン氏はサウジ政府の「最高レベル」が殺害を命じたなどと非難してきたが、事件の審理を担当するイスタンブールの裁判所は今月、公判を中断して審理をサウジに移管すると決定。和解の兆しとの観測が出ていた。
トルコは近年、周辺地域の多くの紛争に介入するなど強権的な対外政策を進め、アラブ諸国との関係も険悪になっていた。
昨年には通貨トルコ・リラが対ドルで急落してインフレが深刻化しており、石油大国サウジとの和解を経済好転に生かす狙いがある。トルコはエジプトなどとの関係改善も模索している。【4月28日 産経】
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イスラエルとの関係正常化も進んでいます。
****トルコとイスラエル、4年ぶりに外交関係正常化 大使復帰へ****
トルコとイスラエルは(8月)17日、両国が外交関係を正常化し、約4年ぶりに互いに大使を復帰させると発表した。パレスチナ問題を巡り悪化していた両国関係はこの数カ月で改善していた。
エルサレムの米大使館開設に反対する抗議デモでパレスチナ人60人がイスラエル軍に殺害されたことを受け、両国は2018年に大使を呼び戻していた。
ただ、エネルギー分野における協力の重要性が高まってきたことから、このところ関係修復に取り組んできた。
イスラエルのラピド首相は、トルコのエルドアン大統領との会談後に声明を発表し、「関係改善は両国民の絆の深化、経済・貿易・文化の関係拡大、地域の安定強化に寄与する」と述べた。
トルコのチャブシオール外相もアンカラで、大使復帰は関係正常化のステップの一つだと述べた。【8月18日 ロイター】
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【欧米にはトルコ独自外交への“苛立ち”も】
最近では、ロシア・ウクライナの仲介にも積極姿勢を見せています。
8月初めには、戦闘で停滞したウクライナ産穀物の輸出再開にこぎ着けるという「成果」もあげています。
しかし、エルドアン大統領の「独自」外交は欧米からすると苛立たしいものに思えるところも。
NATOへのスウェーデンとフィンランド加盟問題でトルコが難色を示していることも、欧米からすれば苛立たしいところでしょう。
****「調停者」トルコに欧米困惑 対露輸出増でも批判避け****
ロシアによるウクライナへの侵略を巡り、トルコのエルドアン政権の動きに欧米が頭を痛めている。トルコが、ロシアとウクライナの「調停者」を自任して対露制裁に加わらず、ロシアとの関係を強化して経済制裁の抜け穴になっているからだ。だが、トルコはウクライナ、ロシア双方と対話のパイプを持つ。眉をひそめる欧米もトルコを頼りにせざるを得ない事情がある。
英紙フィナンシャル・タイムズは8月中旬、トルコの5〜7月の対露輸出が前年同時期比で46%増の20億ドル(約2900億円)に達したと伝えた。欧米がロシアに制裁を科し、千社以上が市場から撤退したとされるが、外国企業の穴をトルコが埋めている形だ。
欧州連合(EU)欧州対外活動庁のスタノ報道官は、同紙に「欧州が対露関係を縮小しているときに関与を深めるのは適切とはいえない」と述べ、くぎを刺した。
バイデン米政権もトルコの対露輸出増加にいらだちつつ、調停への期待からトルコへの表立った批判は避けているものとみられる。
制裁を科していないトルコはロシアの富豪の資産逃避先となり、ロシアが制裁で輸入できない高性能の電子機器などを迂回(うかい)して入手する拠点にもなっている。トルコでは露通貨ルーブルの決済システム「ミール」のカードも使用可能だ。
漁夫の利を得るトルコを欧米が表立って批判できないのは、トルコのエルドアン大統領の「調停外交」が成果を挙げた実績があるからだ。
エルドアン氏は8月にロシアのプーチン大統領と会談する一方、国産無人機を供与してウクライナとも関係を築き、同国のゼレンスキー大統領とも会談。8月初めには、戦闘で停滞したウクライナ産穀物の輸出再開にこぎ着けた。
エルドアン氏が調停に熱心なのは、来年6月のトルコ大統領選を見据えた動きだとの見方が根強い。同氏は立候補を表明したものの支持率は低迷している。大きな理由が経済不振だ。
景気浮揚を優先するエルドアン氏は、中央銀行総裁を相次いで解任して利上げを阻止。トルコの通貨リラが対ドルで急落し、8月のインフレ率が24年ぶりに前年同月比80%を超えた。急速な物価高で同氏への反感が強まっている。
こうした中で戦争が起き、エルドアン氏は「国際社会に不可欠な指導者像」を誇示して、支持回復を図る思惑とみられる。
侵攻に端を発するスウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟問題でも、エルドアン政権は、スウェーデンとフィンランドが、トルコが重視するテロ対策に非協力的だと横やりを入れ、両国の加盟承認に難色を示した。
トルコも一員であるNATOは、全加盟国が批准しないと新規加入ができない。エルドアン氏は、6月下旬のNATO首脳会議で態度を一変させ、加盟を歓迎する姿勢を示したが、数日後には「合意事項が履行されなければ批准を見送る」と表明した。
NATOに加盟する30カ国の内、数カ国は批准手続きが完了していない。その一国であるトルコは、いわば加盟問題を「人質」に取っている形だ。エルドアン氏の支持率が思うように上がらない中、トルコが批准するまでに「まだドラマが起きる可能性がある」(米紙)との懸念がくすぶる。
トルコが批准せず、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟が遅れれば、欧米から非難を浴びることは必至。支持率改善に向けた「内政ありき」のエルドアン氏の外交は危うい段階に差しかかっている。【9月12日 産経】
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欧米側は今のところは、“苛立たしいながらも状況を見守る”という対応ですが、エルドアン大統領が“やり過ぎる”と、一斉にトルコ批判が噴き出すかも。
なお、トルコはNATOに加盟しながら、中国・ロシアが主導する上海協力機構(SCO)への加盟も目指しています。
****独首相、トルコに「いら立ち」 上海協力機構加盟目標巡り****
ドイツのショルツ首相は20日、中国とロシアが主導する上海協力機構(SCO)への加盟をトルコが目指していることに「非常にいらだっている」と不快感を表明した。
トルコのエルドアン大統領は17日、SCO加盟を目指していると発表した。トルコは、北大西洋条約機構(NATO)に加盟している。
ショルツ氏はエルドアン氏と会談後、ニューヨークで行われた国連総会で「SCOは世界的共存に対して重要な貢献をしていない」と指摘。「そのため、この展開に非常にいら立っている。ただ最終的には、ロシアのウクライナ戦争が成功しないかもしれないことを明確にすべく、その原動力を巡って合意することが重要だ」と会見で述べた。(後略)【9月21日 ロイター】
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【ウクライナ問題での仲介に意欲を見せるエルドアン大統領】
ウクライナ問題の仲介については、エルドアン大統領は引き続き意欲を示しています。
10月13日、ロシアと中国、中央アジア諸国などで構成する「アジア相互協力信頼醸成会議」(CICA)の第6回首脳会議に出席したエルドアン大統領は「和平は外交によって達成できる」と述べ、ロシアとウクライナの停戦交渉の仲介に意欲を示しました。
攻勢を強めるウクライナはともかく、支援疲れも表面化し始める欧米側には交渉を望む声も。
***米、和平交渉への姿勢転換促す 「支援疲れ」に懸念と報道***
バイデン米政権がウクライナ政府高官らに対し、ロシアとの和平交渉を一切拒否する姿勢を改め、交渉入りに前向きな姿勢を示すよう内々に勧めていたと、米紙ワシントン・ポストが5日伝えた。
米政権当局者は交渉の席に着くよう強制する趣旨ではなく、戦争長期化で「支援疲れ」が広がる各国からの支援をつなぎ留めることが狙いだと指摘した。
ウクライナのゼレンスキー政権は2月の侵攻開始後、交渉入りする姿勢を示したが、ロシアの戦争犯罪が明らかになり態度を硬化させた。侵攻が継続する中での譲歩には応じない構えで、着地点は見えないのが現状だ。【11月6日 共同】
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劣勢になったロシアも、交渉には関心があるでしょう。
そうしたアメリカ・ロシアの思惑もあって、トルコの仲介が行われているようです。
****米露代表団がトルコで交渉か 詳細は不明****
ロシアの経済紙コメルサント(電子版)は14日、情報筋の話として、米国とロシアの代表団がトルコの首都アンカラで同日、交渉を開始したと伝えた。
同紙によると、米露交渉の予定は事前に公表されていなかった。露代表団にはナルイシキン対外情報局長官が含まれている。交渉の詳細は不明。
タス通信によると、ペスコフ露大統領報道官は同日、米露交渉の実施について「否定も肯定もできない」と述べた。【11月14日 産経】
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