孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ国内で共和党トランプ支持勢力を中心にウクライナ支援懐疑論 中間選挙結果次第では・・・

2022-11-05 22:45:57 | アメリカ

(【11月4日 BBC】)

【ドイツのゲパルト自走対空砲用供与 「弾がない」】
ウクライナを軍事支援する欧米は、ロシアとNATOの直接戦闘につながるような戦闘機や戦車、ロシア領内を攻撃できる兵器などの供与には慎重な姿勢を見せつつも、東欧諸国が保有する戦闘機・戦車を含む旧ソ連製兵器のウクライナへの供与といった形で、高性能兵器についても実質的な支援を進めています。

****ウクライナに戦車90両提供=米とオランダがチェコ保有分改修****
米、オランダ両政府は4日、チェコが保有する戦車計90両を改修した上でウクライナに提供すると発表した。ロシアの侵攻開始以降、米国がウクライナに戦車を提供するのは初めて。

ウクライナに提供されるのはチェコが保有する旧ソ連製のT―72戦車。米とオランダはこれに光学・通信機能などを追加する改修を施して供与するという。【11月5日 時事】
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ただ、高性能兵器の供与は「もの」を渡せばすむというものでもないようです。
ドイツは、紆余曲折はあったものの、ドローン迎撃に使えるゲパルト自走対空砲のウクライナへの提供に踏み出しましたが、弾薬製造国である永世中立国スイスの協力が得られず「弾がない」という状況にも。

****ウクライナに送ったゲパルト自走対空砲用の35mm弾薬が規格外で使用できず****
ドイツは先週(7月末)、計画されていた軍事支援の一つ、ゲパルト自走対空砲の提供ついて最初の5両をウクライナ軍に納入しました。しかし、合わせて提供した弾薬が兵器システムに認識されず、使用できないことがわかりました。

ロシア侵攻後の2月末の段階で既に声が上がっていたゲパルト自走対空砲のウクライナへの提供。当初、ドイツ政府は拒否するも、その後、紆余曲折を経て、ショルツ首相は4月末にようやく提供を承認。当初50両という話は最終的に15両に落ち着きます。

しかし、いざ、提供するとなるとゲパルト対空自走砲の35mm砲機関砲(エリコンKD 35mm 機関砲)の弾薬のドイツ軍の在庫が6万発しか無いことが分かります。分間550発の35mm砲2門を持つゲパルトにそれは全く十分な数ではありません。

そこで、製造元のスイスの軍需企業エリコン社に輸出を交渉するも永世中立国であるスイスはその立場上、ロシアを攻撃するための弾薬の提供を拒否します。

そこで、ドイツは過去にゲパルトの中古を販売したカタール、ヨルダン、ブラジルに弾薬在庫の提供を交渉。ブラジルが30万発を提供することで合意します。しかし、これをウクライナに移送するには弾薬の製造国であるスイスの承認が必要なのですが、またしてもこれをスイスが拒否。
八方ふさがりになる中、北欧のノルウェーが35mm弾を生産できると手を挙げます。ノルウェーはウクライナに提供するゲパルトのために新たに弾薬を製造。ドイツはゲパルトの提供と合わせてノルウェー製の35mm弾も提供します。

しかし、いざ、これを発射しようとしてみたところ、兵器システムが弾薬を認識せず、発射することができませんでした。どうやらドイツとノルウェーは提供前にゲパルトでの発射テストを行っていなかったようです。

ノルウェーは直ぐに修正した弾薬を製造するとして、今度は8月にドイツと共同テストを行ってから新しい弾薬を提供するそうです。ウクライナ兵へのゲパルトの運用訓練は終えており、直ぐに前線に投入可能ですが、弾薬が無ければ、ゲパルト自走対空は使い物になりません。【8月1日 World Tank News】
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なんだか間抜けな話にも思えますが、現実というのはこんなものなのでしょう。
昨日も“スイス、自国製弾薬のウクライナ提供認めず 独の要請拒否”【11月4日 AFP】という記事がありましたので、上記ゲパルト自走対空砲の問題はまだ解決してないようです。

なお、中立国スイスがまったくウクライナ支援を拒んでいるという訳でもなく、現政権は相当にウクライナに肩入れはしています。ただ、弾薬までは・・・といったところのようです。

****スイス、自国製弾薬のウクライナ提供認めず 独の要請拒否****
(中略)スイスのギー・パルムラン経済相はクリスティーネ・ランブレヒト独国防相に宛てた書簡で、自国の中立の原則に基づく方針として、ウクライナが武力紛争の当事者である限り、スイス製軍需品の提供は承認できないと説明した。

スイスは2日、冬を迎えるウクライナでの飲料水供給と損傷したエネルギー施設の復旧に向けた支援として、1億スイス・フラン(約150億円)を提供する意向を表明していた。

スイスは中立国でありながら、ウクライナ侵攻をめぐり欧州連合がロシアに科した制裁措置をすべて採用している。国内の政治家からは行き過ぎだとの批判も上がっているが、イグナツィオ・カシス大統領はこの決定を擁護する姿勢を貫いている。【11月4日 AFP】
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【G7 ウクライナの越冬支援】
軍実支援だけでなく、最近のロシア軍のウクライナ領内インフラへの攻撃によって、ウクライナ国民が厳しい冬を乗り切るための支援も必要となっています。

****G7、インフラ支援調整 ウクライナ国民の越冬課題****
ドイツ西部ミュンスターで4日閉幕したG7外相会合は、ウクライナのエネルギーや水道に関するインフラの復旧や耐久性強化の支援を調整する仕組みの設置を決めた。ロシアがインフラを狙った攻撃を繰り返す中、国民の越冬支援が喫緊の課題となっている。

議長国ドイツのベーアボック外相は閉幕後の記者会見で「ロシアはウクライナ国民を寒さと暗闇の中に置こうとしており、やめさせなければならない。寒い冬を生き延びてもらう」と強調。

ブリンケン米国務長官は、新たに設置する仕組みは、ウクライナの需要に応じて軍事支援を各国で調整している仕組みに類するものだと説明した。【11月5日 共同】
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【支援の中核アメリカ国内で“懐疑論”】
ウクライナへの支援は各国事情で様々ですが、冒頭グラフでも一目瞭然なように、何といっても中核はアメリカ。
(ロシア・プーチン大統領側近が「実質的に、NATOとの戦いになっている」と言っているのも間違いではありません)

アメリカ・バイデン政権は冒頭のチェコ保有戦車改修を含めて新たに4億ドルの追加軍事支援を決定しています。

****米、ウクライナに追加軍事支援 4億ドル****
米国防総省(ペンタゴン)は4日、ウクライナ向けに4億ドルの追加軍事支援を発表した。改修された「T72」戦車や地対空ミサイル「ホーク」向けミサイルなどが含まれる。

シン報道官によると、チェコから供給されるT72戦車45台やホーク向けミサイルの一部の改修費用を手当てするという。
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アメリカはすでに計176億ドル(約2兆6千億円)に上る巨額の軍事支援をウクライナに行っており、さすがに国内で懐疑論が出ているようです。

****米のウクライナ支援、与野党で懐疑論浮上****
ロシアのウクライナ侵攻を巡り、米与党・民主党の急進左派グループが24日、バイデン政権にウクライナ支援の見直しやロシアとの直接対話を求める書簡を送り、党内の反発で翌25日に撤回する事態が起きた。

今月中旬には野党・共和党のマッカーシー下院院内総務が、11月の中間選挙で同党が下院を奪還すればウクライナへの軍事支援を縮小させる考えを示唆。バイデン政権は支援を継続する立場だが、同国のエネルギー不足が深刻化する冬を前に、米国の与野党で政権の方針に異を唱える恐れが強まり出した。

バイデン政権にウクライナ政策の見直しを求めたのは、民主党の急進左派に属する下院議員30人。代表者のジャヤパル議員は書簡で24日、米国によるウクライナへの巨額の軍事・経済支援を修正し、ロシアと「現実的な停戦枠組みを模索するべきだ」と主張した。

これに対し党内やウクライナ政府から「現時点でロシアとの対話は非現実的」「侵攻を助けるだけだ」との批判が続出。ジャヤパル氏は同日、「民主党はウクライナ支援で一致している」との釈明文を発表したのに続き、25日に書簡を全面撤回した。

ジャヤパル氏は声明で、「書簡は数カ月前に起草され、精査されずに誤って送付されたものだった」と弁明したものの、今回の騒ぎが、ウクライナ支援を巡る党内の不協和音を浮き彫りにしたのは間違いない。

一方、共和党では下院トップのマッカーシー氏が18日、米メディアのインタビューで、米国が景気後退局面に入る可能性が高い中でウクライナに「白紙の小切手」を出すことはないとして、中間選挙後は支援を縮小させる考えを示した。中間選挙では、上院で民主、共和両党が拮抗(きっこう)する半面、下院は共和党が過半数を奪還する勢い。

米議会はこれまで、バイデン政権によるウクライナ支援の方針におおむね超党派で協力してきた。露軍の侵攻以降、バイデン政権が表明した軍事支援は計176億ドル(約2兆6千億円)に上る。

予算の承認権限を持つ議会で支援への反対が広がれば、ウクライナ軍の対露反攻作戦や、北大西洋条約機構(NATO)をはじめとする国際社会の結束に影響するのは必至だ。

バイデン大統領は20日、遊説先の東部ペンシルベニア州で、共和党が議会の多数派を握り支援が縮小されれば深刻な結果を招くと懸念を示したが、中間選挙後は自党の急進左派を含めた支援懐疑論への対処を強いられることになる。【10月26日 産経】
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【共和党内部でも支援に懐疑的なトランプ支持勢力と反トランプ勢力で対応に差】
上記の共和党下院トップのマッカーシー院内総務はトランプ氏に近いとされています。
そのトランプ支持勢力は「アメリカ第一」で国際協調に後ろ向きな姿勢があります。

予想されているように中間選挙で共和党が勝利するのか、また、トランプ氏の推薦候補が躍進するのか・・・そうしたアメリカ国内政治の動向が今後のウクライナ情勢に大きく影響しそうです。

****米中間選挙、ウクライナ支援が争点に 共和に予算縮小論****
米中間選挙まで2週間を切るなか、ロシアが侵攻を続けるウクライナへの支援のあり方が争点に浮上してきた。野党・共和党のトランプ前大統領の支持勢力が巨額予算を修正すべきだと要求する。下院選は共和が多数派を奪還する勢いを維持しており、選挙結果次第で米政府が対ロシア政策の再考を迫られる可能性がある。

バイデン大統領は23日放送の米MSNBCのインタビューで、野党・共和にある対ウクライナ支援の見直し論について「多くのお金がかかるので、無知な人物がそのような考えを持つのはわかる」と切り捨てた。

発端は共和下院トップのマッカーシー院内総務の発言だった。18日に米メディアで「人々は不況にあえぎ、バイデン政権が国内でやっていないこともある。ウクライナは重要だが、白紙委任はできない」と述べた。

バイデン政権が2月24日にロシアが侵攻を始めた後に決めた軍事支援の総額は176億ドル(2兆6千億円)規模にのぼる。米議会は5月に超党派の合意で400億ドル規模の対ウクライナ予算を可決しており、枯渇しつつあった資金を追加で手当てすることで長期戦に備える態勢を整えた。

米紙ニューヨーク・タイムズによると、米国が単年度で一国に実施した軍事援助としてはベトナム戦争以来、半世紀ぶりの規模になるという。

5月の予算案に共和から下院議員の57人、上院の11人が反対した。当時、賛成に回ったマッカーシー氏がウクライナ支援の再検討に言及したのは、賛否が割れるウクライナ支援をめぐり党内バランスに配慮するためとの見方がある。

トランプ氏に近いマッカーシー氏は中間選挙の下院選で多数派を奪い返せば、下院議長に就く意欲を隠さず、党内で幅広い議員の支持を固めたい思惑が透ける。とりわけ「米国第一」を掲げるトランプ氏の支持勢力に目立つ「見直し派」に秋波を送ったとみられる。

トランプ氏の推薦候補はバイデン政権のウクライナ支援に疑問を呈す。中西部オハイオ州で上院選に出馬したバンス氏は「もう十分な資金を提供した」と急増する予算の縮小に言及。西部アリゾナ州の上院選候補、マスターズ氏も追加予算を米国とメキシコの国境に設ける壁の費用に充てるべきだと主張した。

米ピュー・リサーチ・センターが9月中旬に実施した世論調査によると、共和支持層の32%が対ウクライナ支援を「過剰」と回答。「不十分」が16%、「適切」が30%だった。3月調査で9%だった「過剰」の割合が上昇しており、支持層の不満を映す。

共和内の主導権争いの側面もある。トランプ氏と確執がある共和上院トップのマコネル院内総務は21日「バイデン政権と同盟国は必要な手段をもっと提供しなければならない」と語った。

上院選は激戦になっている一方、下院選は共和が多数派を奪還する勢いだ。上下両院選の共和候補のうち3割超を占めるトランプ氏の推薦候補が躍進すれば、共和内で国際協調に後ろ向きな声が広がるおそれもある。(後略)【10月27日 日経】
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【バイデン政権はウクライナに継続支援を約束してはいるものの・・・】
ただ、中間選挙結果にかかわらず、アメリカのウクライナ支援が短期間で大きく減らされる可能性は少ないとの見方もあるようです。

****米中間選挙でアメリカのウクライナ支援は変わるのか?****
米共和党のトップ議員らが、中間選挙で連邦議会の過半数議席を同党が獲得した場合、ウクライナへの支援を削減するかもしれないと語り、選挙に火種をまいている。しかし実際、中間選挙の結果でアメリカのウクライナへの対応は変わるのだろうか?(中略)

元米海軍将校で戦略・国際研究センターの防衛専門家、マーク・キャンシアン氏は、「アメリカの支援がなければウクライナは占領されていただろう」と語る。(中略)

共和党議員の主張は?
共和党の連邦下院トップのケヴィン・マカーシー院内総務は10月初め、共和党が議会を掌握した場合、ウクライナに「白紙小切手」を渡すことにはならないだろうと示唆した。

同党は現在、中間選挙で下院の過半数議席を獲得する勢いだ。アメリカの憲法によると、下院は全ての予算決議を行う。過半数を取れば、下院議長となったマカーシー氏がどの法案を採決にかけるかを決められる。

ウクライナ支援に対して同じような懸念を示す共和党員は他にもいる。ジョシュ・ホーリー上院議員(ミズーリ州)は、ウクライナ支援は「アメリカの利益にはならない」とし、「ヨーロッパにただ乗りを許している」と述べた。
この発言は、共和党内の分断を示すものでもあるようだ。

マイク・ペンス前副大統領は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の「擁護者」や、「アメリカを広い世界から切り離してしまう」共和党員を、強い口調で非難した。(中略)

アメリカは本当に支援をやめるのか?
欧州では、この可能性について懸念が広がっている。イギリス議会で国防特別委員会の会長を務めているトバイアス・エルウッド議員は米紙ワシントン・ポストに対し、「アメリカが撤退すれば、プーチンは敗北間際で勝利を奪ってしまうだろう」と話した。

しかし、ウクライナ当局やアメリカに拠点を置くオブザーバーらは、中間選挙の結果にかかわらず、支援が短期間で大きく減らされる可能性は少ないとみている。

ウクライナのオレクシイ・レズニコフ国防相は首都キーウでBBCの取材に応じ、アメリカの共和党と与党・民主党双方の議員との話し合いで自信を持ったと話した。

「誰が議会を動かそうと問題ないというシグナルを受け取った。(中略)ウクライナへの党派を超えた支援は続くと信じている」(中略)

アメリカ国民はどう思っている?
世論調査では、ウクライナ支援の支持率はなお高いものの、戦争が長引くにつれ低下の兆候がみられる。
10月にピュー研究所が行った調査によると、アメリカ人の20%がウクライナを支援しすぎだと答えた。3月には7%、5月には12%だった。

一方で、ロイターとイプソスの調査では、11月初めの時点で回答者の73%が引き続き支援するべきだと述べている。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが3日に発表した調査では、ウクライナ支援への意見は支持政党によって大きく異なることがわかった。

支援しすぎだと答えた共和党支持者は30%にのぼり、侵攻開始直後の3月(6%)から大きく増えている。(後略)【11月4日 BBC】
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一番心配しているのはウクライナでしょう。バイデン政権はウクライナに対し支援が揺らぐことはないと表明しています。

****米大統領補佐官がウクライナ訪問、「揺るぎない」支援継続を約束****
米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は4日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問し、来週8日の米中間選挙後も、米国のウクライナ支援が「断固とし、揺らぐことはないと確信している」と表明した。

サリバン氏はウクライナのゼレンスキー大統領らとの会談後、「必要に応じリソースを確保し、議会の上下両院から賛成票を取り付けるつもりだ」と記者団に語った。

さらに、バイデン米大統領が経済・人道・安全保障支援の継続に向け、「いかなるシナリオの下」であれ、超党派の協力にコミットしていると述べた。【11月5日 ロイター】
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中間選挙での共和党の「勝ち方」次第といった感も。
バイデン大統領がトップにある間はウクライナ支援がストップすることはないにしても、機動的な支援が困難になることは予想されます。そうなるとウクライナの反攻にブレーキがかかることも。

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