孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

コンゴ民主共和国  未だに続く「資源の呪い」 スマホ・EVを支える「コバルト生産の闇」という現実

2022-11-29 23:36:11 | アフリカ
(コンゴ民主共和国のコバルト鉱山で働く少年【2021年11月27日 クーリエ・ジャポン】)

【民族対立、鉱物資源の利権をめぐって争い続ける武装勢力】
このブログでも何度か取り上げているアフリカ中部コンゴ民主共和国で多くの武装勢力が横行する混乱は相変わらずのようです。

国連PKO部隊も展開してはいますが、武装勢力に有効に対応できず、更には住民暴動の標的にもなっています。(8月5日ブログ“コンゴ PKO部隊基地が撤退を求める現地住民に襲撃され被害”など)

****武装勢力が進撃、避難民さらに増加 コンゴ民主共和国****
コンゴ民主共和国東部では先週、反政府武装勢力「M23(3月23日運動)」の進撃が続いた。
M23は、北キブ州の州都ゴマからわずか20キロ北のキブンバで軍と戦闘を繰り広げた末、キブンバを制圧したと今月9日に発表した。

匿名の軍関係者はAFPに対し、M23は普通の武装勢力が持っているはずのない武器を持っており、プロの軍隊のようだったと語った。

15日の午後、M23が近づいているといううわさが流れ、キブンバの南にあるカニャルチニャの避難民キャンプに大勢の人が新たに流入。先週末時点で同キャンプにいる人は約4万人に上った。

主にコンゴのツチ人が構成するM23は、2012年にゴマを一時支配下に置いて注目を集めたが、その後放逐され、活動は沈静化していた。

しかし、M23の戦闘員を軍に受け入れるという2009年の合意をコンゴ民主共和国の政府が順守していないなどとして、昨年戦闘を再開した。

12日から13日にはコンゴ東部の安定化を目指す東アフリカ共同体の軍事作戦で約100人のケニア兵が空路ゴマに到着。ケニア部隊の司令官はゴマを守り抜くと述べた一方、戦闘よりも政治的解決とM23の武装解除を優先するとも述べた。

今回の危機で、コンゴ民主共和国は隣国ルワンダがM23を支援していると非難。ルワンダ政府はこれを否定しているが、AFPが8月に内容を確認した国連への未公表報告書では、ルワンダのM23への関与が指摘されていた。

一方のルワンダは、1994年のルワンダ大虐殺の後に国外に出たフツ人と結託しているとコンゴ民主共和国を批判しているが、コンゴ側はこれを否定し、両国関係は悪化している。 【11月21日 AFP】AFPBB News
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ルワンダ大虐殺の原因となったフツ・ツチの対立は、コンゴに舞台を移して未だに続いています。

コンゴで内戦・武装勢力の活動が絶えない背景のひとつが豊富な地下資源。まさに「資源の呪い」です。

****コンゴの紛争 背景には鉱物資源****
それにしても、なぜ、これだけ長きにわたって紛争と性暴力が絶えないのか。

アフリカで2番目に大きな国土を持つコンゴ民主共和国は、9つの国と国境を接し、まさに大陸の中心部にあります。1998年から5年近く続いた内戦では、周辺国も介入して「アフリカ大戦」とも呼ばれ、400万人以上が戦闘や飢餓で死亡しました。

内戦終結後も、東部では、いくつもの武装グループが激しい戦闘を繰り広げています。
紛争の原因になっているのが、世界有数の埋蔵量を誇る金やダイヤモンド、それに携帯電話などに使われるレアメタルといった鉱物資源です。武装グループは、こうした鉱物資源の利権をめぐって争い続けています。(後略)【2018年 NHK】
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話が横道にそれますが、多くの周辺国・関係国を巻き込んで400万人以上が戦闘や飢餓で死亡したとされる「アフリカ大戦」・・・ほんの20年程前の出来事ですが、日本や欧米でどれだけ認知されているのか?
ウクライナで戦争が起きると大騒ぎしますが、アフリカで何百万人が死のうが日本や欧米では気にもかけていない・・・というのが「現実」です。

なお、コンゴの戦争が「アフリカ大戦」と呼ばれるほどに拡大したのも「資源」の存在が周辺国・関係国を呼び込んだせいです。

【EVの心臓ともいえるリチウムイオン電池の生産に欠かせない鉱物、コバルトをめぐる人権侵害】
コンゴに存在する「豊富な資源」・・・そのひとつがコバルト。
コバルトは現代社会の必需品スマホや、将来社会をリードすると思われるEV(電気自動車)に使用されるリチウムイオン電池に不可欠な鉱物です。スマホ1台に約8グラム含まれるとも言われています。

そのことは、コンゴの現状と日本や欧米先進国の社会が無関係ではないことを示しています。

コンゴは、コバルトの世界生産の約7割を占めており、スマホや「クリーン」なEVの普及で、その需要は急増しています。世界銀行グループの報告書では、電池などエネルギー技術にかかわるコバルト需要は2050年には、2018年に比べて約4.6倍に増えると試算されています。

****EVは地球に優しくても人間に優しくない一面をもつ――コバルト生産の闇****
電気自動車が普及するにつれ、リチウムイオン電池の原料であるコバルトへの関心が高まっている。
しかし、世界一の産出国であるコンゴ民主共和国では、コバルト生産をめぐる児童労働などの人権侵害が深刻である。こうした闇は、脱炭素への関心が高いが故に、国際的にはないものと扱われている。
 
いまや「脱炭素(カーボンニュートラル)」の一つの柱として世界的なトレンドになりつつある電気自動車(EV)は、地球には優しいかもしれないが、人間には必ずしも優しくない一面がある。

児童労働によって成り立つEV
(中略)ただし、脱炭素で注目されるEVも万能ではなく、そこには影もある。
とりわけ深刻なのが、EVの心臓ともいえるリチウムイオン電池の生産に欠かせない鉱物、コバルトをめぐる人権侵害だ。

世界全体のコバルト生産の60~70%を占める中部アフリカのコンゴ民主共和国では、コバルト開発で児童労働が蔓延しており、搾取や暴行だけでなく劣悪な環境での死亡事故さえ頻繁に発生しており、この問題は2017年に国連の国際労働機関(ILO)でも議論されている。

コンゴの闇の奥
ところが、脱炭素が大きなムーブメントを生むなか、コンゴの問題はないものとして扱われやすい。他の分野でエシカルを強調する国・企業も、その例外ではない。

その典型例は、コバルト開発にかかわる多くの企業が2019年12月に訴えられた裁判だった。その対象には、アップル、グーグル、マイクロソフト、デル、テスラなどの名だたる欧米企業だけでなく、浙江華友コバルトなど中国企業も含まれていた。

この裁判は、大企業に対する訴訟を支援するアメリカの民間団体インターナショナル・ライツ・アドボケート(IRA)が起こしたもので、IRAはコンゴ人の14家族の代理人として、同国でコバルト開発にかかわる海外企業が「子どもを違法に就労させただけでなく、安全確保を怠り、事故で死亡させた」として提訴した。

訴状によると、こうした企業は法令に違反して子どもを雇用し、食事も十分に与えず、賃金は1日2〜3ドルしか支払っていなかったという。これらの鉱山では安全対策もおざなりで、しばしば死亡事故も発生している。

訴えられた企業の一つグーグルは英BBCの取材に対して「あらゆる原材料を倫理的に調達し、グローバルなサプライチェーンから児童労働を削減することに努めている」とコメントしている。

残念ながらコンゴ民主共和国では、それ以外の資源の採掘でも海外企業のからむ人権侵害が数多く指摘されているが、温暖化対策の切り札として注目されるコバルトの開発にはサステナブルやエシカルといったイメージがともないやすいだけに、その影も大きくなる。

人権保護の観点から企業活動の監視を行なうイギリスのNGO、開発における権利と説明責任(RAID)の責任者アンネク・ファン・ワンデンバーグ氏は「コバルトは地球温暖化対策に欠かせない資源だが、数百万台のEVに必要なリチウムイオン電池の不名誉になるような、搾取的な労働条件から目を背けるべきでない」と指摘する。

国際的に黙認される人権侵害
もちろんコンゴでも児童労働は法的に規制されている。
 
しかし、アフリカでは政府と癒着する企業による人権侵害が見過ごされやすく、とりわけコンゴ民主共和国はこれが目立つ国の一つだ。そのため、法令でいくら児童労働などを規制していても、企業に対する監督などはほぼザルで、問題が指摘される企業への是正勧告などもほとんど行われていない。

それどころか、海外企業の利益を守るため、コンゴ政府が深刻な人権弾圧を行なうことさえある。

コンゴでは海外の巨大企業とローカルな採掘者の間で、境界線などをめぐってしばしばトラブルが発生し、時には暴力的な衝突にまで発展してきた。この背景のもとで2019年、同国最大のコバルト鉱山にコンゴ軍が展開し、海外企業と対立するローカルな採掘者1万人以上を居住地から追い払い、この過程で多くの死傷者が出たと報告されている。

コバルト生産をめぐる深刻な人権侵害は、コンゴ国内の腐敗だけでなく、グローバルな黙認によっても成り立っている。

深刻な人権侵害をともなって生産された資源の調達には、規制がかかることもある。コンゴの場合、先進国はコンゴ産の金、スズ、タンタル、タングステンなどの輸入を規制している。

しかし、コンゴ産コバルトに関しては、輸入規制が適用されていない。脱炭素のトレンドが加速するとともにコバルトの重要性が増すなか、その輸入規制を各国は後回しにしているといえる。いわば脱炭素のために人権侵害が黙認される状況のもとでコバルトは生産され、それを用いたリチウムイオン電池はEVだけでなくスマートフォンやPCに利用されているのである。

「誰一人取り残さない」とのギャップ
念のためにいっておけば、EV普及を批判するつもりはない。脱炭素の目標そのものは重要だし、さらにいえば仮に先進国が「人権」を理由にコンゴ産コバルトの輸入を規制しても、それは結果的にこうした問題に頓着しない中国企業の独占を許すだけという判断が働けば、先進国がこの問題に深入りしないのは「現実的」とも呼べる。

とはいえ、コバルト生産にかかわる企業の多くがSDGsに協賛し、エシカル消費やサステナビリティの旗振りをしているだけに、そのギャップが際立つこともまた確かだ。ちなみにSDGsの理念は「誰一人取り残さない」である。

脱炭素が目指すのは、石炭・石油・天然ガスといった化石燃料に依存する、産業革命以来の生産・消費構造の大転換だ。その産業革命の発祥の地イギリスでは当時、蒸気機関を動かすための石炭の採掘現場で子どもが低賃金で1日10時間以上働くことが当たり前で、10歳未満の就労が初めて禁じられたのは1878年の工場法改正でだった。

テクノロジーに比べて、人間そのものの進歩は極めてペースが遅いといえるかもしれない。【2021年11月23日 六辻彰二氏 YAHOO!ニュース】
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【欧米企業にとってかわる中国企業 その人権意識の希薄さ】
上記記事にもあるように、コンゴでも進出が著しいのが中国企業ですが、そこでは多くの問題が。

****コンゴの鉱業都市、中国企業の採掘拡大で「消滅」の危機****
「われわれはだまされた」──。コンゴ民主共和国南東部コルウェジに住むアルフォンス・フワンバ・ムトンボさんは、コバルトの露天掘り採掘場を見下ろすがれきだらけの場所に立ち、こう言った。

一帯はかつて、大通りに小ぎれいな住宅が並ぶ活気あふれる場所だった。それが今や、ムトンボさんの大切な家は、破壊された民家の残骸に囲まれ、そばにコンクリート壁を挟んで巨大な採掘場が広がっている。

鉱山を所有する中国企業は採掘拡大を目指しており、ムトンボさんが暮らす地区の住民の多くが補償を受け取って退去に応じた。だがムトンボさんは立ち退きを拒み、さらに良い条件を引き出そうと何とか耐えている。

ムトンボさんは、居住区の行く末について幻想を抱いているわけではない。「ここはいつか消滅する」

■誰もいなくなった
コルウェジの人口は50万人以上。地下には、銅やコバルト、金を産出する世界有数の鉱床があり、コンゴ経済の原動力となっている。

同市はすでに周囲を坑道で取り囲まれており、露天掘りの巨大採掘場や作業用の道路が目立つ荒涼とした風景が広がっている。さらに採掘は市内でも徐々に行われるようになり、数千人が立ち退きを余儀なくされ、不当な処遇への不満も聞かれる。

コンゴの鉱山関係の記録によると、コルウェジ市内の大半に採掘許可が下りている。(後略) 【11月29日 AFP】
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****中国人上司にぶたれ、罵られ… コンゴ人労働者を搾取するEV産業の“深すぎる闇”****
希少鉱物コバルトの主要生産地であるコンゴ民主共和国で、鉱山の多くを所有する中国企業の人権侵害が深刻な問題になっている。コンゴの労働者は「せめて人間扱いしてほしい……」と悲痛な声をあげる。(中略)

また昨年、世界に流通したコバルトの約70%がコンゴ民主共和国産だった。(中略)バッテリーやEVメーカーには、コバルトの調達量を減らした企業もあるが、BMIによると、今後10年でEV部門向けコバルトの販売量は4〜5倍になるという。また、世界銀行はコバルトの生産需要が2050年までに585%増加すると試算する。

コバルトの需要増加は、鉱山の大部分を擁するコンゴ南部の住民にとっては朗報のはずだ。だが、英企業監視NGO「RAID」と現地の弁護士団体「司法救援センター」が11月に発表した報告書は、「多くの多国籍鉱業企業とその下請け業者は低賃金で労働者を雇い、彼らを恒常的な貧困に陥れている」と指摘する。

RAIDの代表アネク・ファン・バウデンベルフは言う。 「コバルトはグリーンエネルギーへの移行に不可欠な鉱物です。しかし、だからといって労働搾取を見逃すわけにはいきません。こうした問題は、何百万台のEVに必要なリチウムイオン電池の負の側面だと言えるでしょう」

中国企業が来てから「差別」が始まった
コンゴ最大級の工業用鉱山テンケ・フングルーメ鉱山(TFM)に隣接するコルベジは、コンゴのコバルト産出の一大中心地だ。居住区の一部は、銅やコバルトのために露天掘りされた巨大なクレーターの縁に作られている。(中略)

中国企業がコンゴの鉱山事業に参入したのは15年ほど前のことだった。コンゴ南部のコバルト鉱山や銅鉱山の半数が、かつてこの地で隆盛を誇った欧米企業に代わり、いまは中国企業の傘下にある。

この変化とともに、虐待や人種差別を受けるようになった、とコンゴ人労働者は口をそろえる。侮辱され、ときには殴られ、同じ仕事をしている中国人労働者よりも賃金は安い。待遇のひどさを中国人監督者に訴えても、彼らは聞く耳を持たず、安全よりもコバルト生産が優先されていると労働者たちは訴える。

「私たちは中国企業から本当にひどい扱いを受けています。私も顔を4回、平手打ちにされました」とTFMの労働者ムタンバは言う。

TFM鉱山で働くあるコンゴ人は、2時間ほどの会議に参加したところ、使用言語がずっと中国語だったため内容がまったく理解できなかったと話す。現地後に訳されたのは最後の2分だけだった。

「会議の間、私たちは恥をかき、おろおろするばかりでした。コンゴ人が中国人から受けている扱いは信じられないほどひどいものです。奴隷ではなく、人間として敬意を持って扱ってほしい。中国企業に訴えたいのは、ただそれだけです」

取材した鉱山労働者らは、自分たちが受けた仕打ちに強い憤りを感じながらも、抗議する力もないと語った。「ありえない労働条件ですが、この仕事を辞めるわけにもいかない。どこに行っても、他の仕事は見つかりません」

TFM鉱山の資産の大部分を所有する中国企業CMOCの広報担当は、「当社は複数の国際的な労働協定と現地の労働法を遵守しています」とコメント。さらに、2016年に同鉱山を買収して以降、コンゴに毎年平均2億9600万ポンド(約450億5600万円)を収めて同国の発展に貢献してきたとして、次のように付け加えた。

「弊社は、全従業員に健康的で安全かつ適正な労働環境を提供することに尽力しています。とりわけ重要なのは、従業員の権利の保護です」

巨大企業が責任を回避するからくり
コバルトと銅の採掘はコンゴ政府の重要な収入源だ。同産業は、仕事がほとんどない地域で数万人の雇用を生み出し、多くの労働者に高賃金をもたらしてもいる。しかし一部鉱山では、労働者の大部分が下請け業者を介して雇用されている。TFMの場合、その割合は70%近くになる。

下請け業者を介して雇用されている労働者の立場はきわめて不安定だ。多くの場合、彼らは短期契約か、雇用契約がまったくない状態で働かされる。限定的な手当に低賃金という待遇で、解雇の脅威が常につきまとう。(後略)【2021年11月27日 クーリエ・ジャポン】
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大企業が直接関与している部分では、まだ監督の目もありえますが、経済協力開発機構(OECD)の報告書などによると、コンゴのコバルト生産のおよそ2~3割が零細の手掘りによるもので、その多くは鉱山会社の敷地内ではあるものの採掘人らが無許可で掘っているだけだったり、鉱山以外の場所で違法に手掘りしていたりします。

こうした現場は当局の監視が届きにくく、安全性がないがしろにされて死傷事故が多発しているほか、児童労働も行われています。

こうした児童労働、人権侵害、労働災害などの「コバルト生産の闇」を“ないもの”として無視することで、私たちのスマホを駆使する便利な生活、EVによる脱炭素でグリーンな社会が成立しているというやりきれない現実です。
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