孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ  エルドアン大統領への権限集中を図る憲法改正 ドイツでの集会禁止に「ナチスと変わらない」

2017-03-06 23:12:37 | 中東情勢

(ドイツ西部ケルンで昨年7月31日に開かれたトルコ系住民がエルドアン大統領を支持する集会【2016年8月3日 朝日】 約4万人が集まり、一帯がトルコ国旗の赤色に染まったとも)

憲法改正で大統領へ権限集中 「実現すればエルドアン氏の独裁になる」との批判も
トルコ・エルドアン大統領は、現在でも十分すぎるぐらいの権力を行使していると思われますが、政治体制としても名実ともに強固な大統領制に移行するための憲法改正を主導しており、4月16日に投票が行われます。

****トルコ改憲、4月16日に国民投票 国論は二分状態****
トルコの高等選挙委員会は11日、現在は国家元首として象徴的地位にとどまる大統領に、行政の権限を集中させる憲法改正案をめぐる国民投票を、4月16日に行うと発表した。

改憲には国民投票で過半数の賛成が必要で、世俗派の最大野党などは「実現すればエルドアン氏の独裁になる」と猛反対している。
 
高等選挙委員会は日本の中央選挙管理会にあたる組織。改憲案は昨年12月、エルドアン氏が事実上のリーダーを務める与党・公正発展党(AKP)が国会(550議席)に提出。1月21日、AKPが極右野党の協力を得て、賛成339票で国会の承認を得ていた。
 
改憲案では、大統領を行政のトップと定め、補佐する副大統領職を新設し、首相府を撤廃する。実現すれば、トルコは現行の議院内閣制から、大統領が大きな権限を持つ実権型大統領制へ移行することになる。
 
直近の世論調査によると、賛成と反対がいずれも4割前後で拮抗(きっこう)しており、国を二分する議論になる見通しだ。【2月11日 朝日】
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今回改正案では、大統領は副大統領と議会外からの閣僚任命権を有し、大統領令を発布する権限、議会を解散して選挙を行う権限、非常事態を宣言する権限などを有することになるそうです。

クーデター未遂事件以降、反政府勢力を一網打尽に拘束し、メディア批判も許さない体制を固めていますので、“国を二分する議論”とは言いつつも、エルドアン大統領側が押し切るのでは・・・とも推測されます。

イスラム主義を強めるエルドアン大統領に対抗し、かつては世俗主義の守護者を任じていた軍部も、クーデター未遂事件後の大規模粛清もあって、今ではエルドアン大統領の威光にひれ伏す形にもなっています。

****トルコ、女性軍人のスカーフ解禁・・・・全政府機関で****
トルコ国防省は22日、イスラム教徒の女性が頭部を覆うスカーフについて、女性の軍人による着用を認めると明らかにした。
 
政府はこれまで女子学生や女性警官らが公の場で着用することを認めてきており、地元メディアによると、今回の決定で、スカーフは全政府機関で解禁となる。
 
スカーフは制服と同じ色に限り、制帽の下で顔を隠さないようにかぶることが条件だ。
 
同国は、イスラム教の政治介入を拒む世俗主義を国是とし、女性の軍人によるスカーフ着用は禁止されてきた。軍は世俗派の牙城だが、昨年7月のクーデター未遂事件後、イスラム教の教えを重視するエルドアン大統領が、着用解禁の機会をうかがっていたとみられる。
 
トルコ社会はイスラム化が進行していると言われており、世俗派は今回の決定に反発している。【2月23日 読売】
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大統領支持の政治集会を禁止したドイツを「ナチスと変わらない」】
国内では“敵なし”の強権をふるうエルドアン大統領ですが、強権支配を強めるほどに、国外欧州ではトルコへの警戒感が募っています。

今回の憲法改正投票には国外に暮らすトルコ人も投票に参加しますが、約300万人ものトルコ人を抱えるドイツとの間で軋轢が強まっています。

****ドイツの集会禁止「ナチスと変わらない」 トルコ大統領が非難****
トルコの大統領権限を強化する憲法改正をめぐり、レジェプ・タイップ・エルドアン大統領は5日、国民投票に向けたドイツ国内での集会を阻止したとして、ドイツをナチスなぞらえて激しく非難した。
 
トルコでは改憲の是非をめぐる国民投票が4月16日に行われる。トルコの閣僚はドイツ国内の数か所で集会を計画していたが、地元当局は治安上の懸念を理由に開催を禁止した。
 
エルドアン大統領はイスタンブールで開かれた女性らの集会で「ドイツよ、あなたたちは民主主義にはほど遠い」と批判。「あなたたちがしていることはナチス時代の過去にしたことと変わらない。ドイツはずいぶん前に(ナチス)と決別したと思っていたが、われわれは間違っていたようだ」と続けた。
 
これに先立ち、集会の禁止に激怒したトルコ政府は、ドイツ政府が改憲反対派の側に立っているとしてドイツの駐トルコ大使を外務省に呼んで抗議。ドイツのアンゲラ・メルケル首相がトルコのビナリ・ユルドゥルム首相に電話して問題の鎮静化を図る事態となっていた。
 
ドイツ国内に住むトルコ系住民は約300万人と本国以外では最多。1960~70年代に「ゲストワーカー(外国人出稼ぎ労働者)」制度の下で大量に移り住んだ結果だ。
 
国民投票は賛成が多数を占めるとエルドアン大統領の任期を2029年まで認めることになるため、同大統領への実質的な信任投票と受け止められている。【3月6日 AFP】
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似たような話は昨年7月にもありました。

昨年7月15日のクーデター未遂事件を受けて、ドイツ西部ケルンで7月31日にトルコ系住民を中心としたエルドアン大統領支持派の大規模デモ(約4万人)が行われましたが、主催者側が会場で予定していたエルドアン大統領の演説中継をドイツの裁判所が治安などを理由に禁止を命じ、トルコ側は「集会の自由の侵害」と強く反発しています。

難民受け入れを進めてきたメルケル首相は当時、難民の犯行とされる襲撃事件が相次ぎ、高まる世論の難民受入れ批判への対応に苦慮していました。そうした難民・移民への反感の高まりという社会の空気を反映した決定でもありました。

苛立ち・不満を強めつつも、互いに相手を必要するドイツ・トルコ両国
今回の「ナチスと変わらない」というエルドアン大統領のドイツ批判は、ドイツのナチスに関する神経質ともいえるような敏感さを考えると、最大級の批判とも言えます。

トルコ・エルドアン大統領の苛立ちの背景には、欧米諸国がトルコの人権状況悪化に懸念を表明していることへの反発があります。

本来は、難民問題でも、経済関係でも、欧州とトルコは持ちつ持たれつの関係にありますが、クーデター未遂後、トルコ当局が公務員ら6万人以上を矢継ぎ早に拘束・解任したほか、報道機関を次々閉鎖すといったエルドアン大統領の強権的な政治手法と、欧州の民主的な価値観との対立が表面化しています。

最近ではドイツ国籍を有する記者がトルコで逮捕される事件も起きています。

****独紙記者を逮捕=「テロ組織の宣伝」容疑で-トルコ****
ロイター通信などによると、トルコ当局は27日、テロ組織の宣伝を行った容疑などで、ドイツ紙ウェルトの特派員を逮捕、勾留することを決めた。ドイツのメルケル首相は「耐え難く、残念だ」と述べ、トルコ側に報道の自由を尊重するよう訴えた。
 
この特派員はドイツとトルコの二重国籍保有者だという。トルコのエルドアン大統領の娘婿であるアルバイラク・エネルギー天然資源相の流出メールについて報じ、トルコ当局が14日に拘束していた。【2月28日 時事】
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トルコ側には、自分たちが欧州のために“難民・移民流入を阻止する防波堤”となってやっているのに・・・という不満があります。

****溝が深まるトルコとEUの関係****
<移民への対応によって、トルコとEUの関係は良好なものになることが予想されたが、この1年間でその関係はむしろ後退した。EU各国で選挙が目白押しの今年、移民の防波堤としてのトルコの役割は必要不可欠だ>

ここ1年の間、トルコ外交で大きな変化が見られたのはロシアとの関係である。2015年11月24日のロシア機撃墜事件で両国関係は悪化したが、2016年6月29日に関係を改善して以降、緊密な関係を維持している。ロシアとの関係に匹敵するほど大きな変化が見られたのは、ヨーロッパ連合(EU)との関係である。

移民の防波堤として不可欠なトルコ
2016年3月18日、トルコとEUはヨーロッパに流入したシリア難民を中心とする大量の移民への対応に関して、トルコが、(1)2016年3月20日以降にギリシャに不法入国した移民をいったん全て受け入れる、(2)2016年3月18日時点でギリシャに滞留している移民は登録を受け、個人的に庇護申請をギリシャ政府に提出する。そして、その中に含まれるシリア人と同じ人数のトルコに留まるシリア難民をEUが「第三国定住」のかたちで受け入れる、(3)トルコとギリシャ間の国境監視の強化する、ことが決定した。

一方EUは、(1)トルコ人にEU加盟国のヴィザなし渡航の自由化を2016年6月末までに実現するよう努める、(2)トルコ国内のシリア難民支援に2016年3月末に30億ユーロ、2018年末までに新たに30億ユーロ、合計で60億ユーロ(約7800億円)を支出する、(3)トルコのEU加盟交渉を加速させる、ことなどを約束した。

2015年の夏から大量の移民が流入するようになり、各国で大きな混乱を経験したEU諸国、特に多くの難民が最終目的地として目指したドイツにとって、移民の防波堤としてトルコは協力が不可欠な国家であった。

裏を返せば、EU加盟交渉国であるものの、交渉が延々と進まないトルコであるが、EUに対して移民の食い止めという切り札を持っていることがはっきりした。

トルコへの不信感が募るEU
移民への対応によって、トルコとEUの関係は良好なものになることが予想されたが、この1年間でその関係はむしろ後退したと言えるだろう。その原因は大きく2つある。

まず、EU側が約束したトルコ国民に対するEU加盟国へのヴィザなし渡航の自由化が2017年2月現在でも実現していない点である。

EU側は各国に課しているヴィザなし渡航の自由化の条件をトルコも全て満たしたうえで手続きを進めるとしているが、トルコの対テロ法案、党財政、司法協力に関する改革が未だに不十分であるため、ヴィザなし渡航の自由化が実現していないと説明している(News. com. au) 。

トルコ側は早期の実現を目指しているものの、4月16日に予定されている憲法改正に関する国民投票までは具体的な動きはないと予想されている。

トルコとEUの関係が後退した2つ目の理由は、トルコにおける2016年7月15日クーデタ未遂事件以降、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領および公正発展党が国家非常事態宣言下でクーデタ未遂に関与した人物を徹底的に排除する動きを強めたことである。

特にエルドアン大統領のクーデタ未遂に関与した人々に対して死刑の復活も辞さないという発言がEU首脳部のトルコに対する対応を硬化させた。
一部の議員からは、トルコのEUの加盟交渉の見直し、もしくは制裁を課すべきだという意見が見られた。

また、毎年10月から11月にかけて刊行される加盟交渉の「進捗レポート(Progressive Report) 」の内容も、2016年はトルコに対して厳しいものとなった。トルコ政府はEUの進捗レポートの受け入れを拒否している。

さらに欧州議会でオーストリアを中心に2016年11月24日にトルコの加盟交渉を凍結する決議を賛成多数で可決した。この決議は法的拘束力は持たないものの、トルコのEUに対する不信感をさらに助長させた。

エルドアン大統領は、トルコはロシアと中国が主導する上海協力機構へ鞍替えする可能性や移民の受け入れ拒否に言及するなどして、EUを牽制した。

当面は冷え切った関係が継続
トルコとEUの関係悪化は2017年に入っても改善の兆しを見せていない。

欧州議会のトルコ担当報告者であるカティ・ピリを中心とした議員団が2月22日にトルコを訪問し、「トルコの現状は悪化している」と述べ、EU加盟交渉は前進していないことを示唆した。ピリは特に報道の自由の規制と国家非常事態宣言を名指しで批判している(Hürriyet Daily News) 。

また、2016年11月4日にテロリストに協力した罪で逮捕されたクルド系政党の人民民主党の共同党首であるセラハッティン・デミルタシュとフィゲン・ユクセクダーに対して、2月21日にそれぞれ5ヵ月の収監(デミルタシュ)、議員職のはく奪(ユクセクダー)が決定した。この決定に対してもEUは人権、自由権、議会民主主義の観点から疑問を呈している(Hürriyet Daily News) 。

このように、トルコ政府とEUの溝は徐々に大きくなっているが、両者が決定的に対立することは想定しにくい。なぜなら、EUにとって移民の防波堤となっているトルコの役割は必要不可欠だからである。

EUにとって最悪のシナリオは、トルコが防波堤の役割を止め、再び大量の移民が流入することである。

2017年は3月のオランダ総選挙、4月のフランス大統領選挙、6月のフランス国民議会選挙、9月のドイツ連邦議会選挙と各国で選挙が目白押しであり、移民の流入は各国の極右政党を勢いづかせることになりかねない。

トルコにとってもEUとの関係は悪化しても加盟交渉国としての地位を失うリスクは犯さないだろう。当面、両者の関係は冷え切りつつも継続するという考えるのが妥当である。【2月24日 今井宏平氏(日本貿易振興機構アジア経済研究所) Newsweek】
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メルケル首相とエルドアン大統領は2月初めに会談して、協力を強化を再確認しています。

****難民、テロ対策で協力強化へ=独・トルコ首脳が会談****
ドイツのメルケル首相は2日、トルコのエルドアン大統領らとアンカラで会談し、欧州連合(EU)とトルコの難民合意の実施やテロ対策で、協力を強化することで合意した。
 
トルコのメディアによると、メルケル首相は会談後の共同記者会見で、難民合意は双方の利益にかなうと強調し、EUが約束したトルコへの支援金支払いを早急に終わらせると宣言。一方、エルドアン大統領は「北大西洋条約機構(NATO)加盟国として、私たちのテロとの戦いに対するドイツの支援は重要だ」と訴えた。【2月3日 時事】 
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ドイツとしては、今トルコが“防波堤”の役割を放棄して難民流入が拡大したら、ドイツ国内の難民批判が再び激化し、政権維持が難しくなりますので、トルコ・エルドアン大統領への不満はあるものの、決定的な対立は回避するのでしょう。

ただ、そうであっても、「ナチスと変わらない」といった批判は感情的しこりを残しそうです。

オランダでも極右政党がトルコ当局者の政治活動禁止を主張
なお、欧州におけるトルコ当局の政治活動については、総選挙を控えたオランダでも、極右・ウィルダース党首が取り上げる形で問題となっています。

極右政党と張り合う形で右に軸足を移しているオランダ・ルッテ首相ですが、トルコの憲法改正に関する集会を今のところは禁止はしていないようです。

****オランダの極右党首「国内でのトルコの政治活動を禁止すべき****
15日に実施されるオランダ下院選で第1党を争う極右政党、自由党(PVV)のウィルダース党首は5日、自身が首相ならトルコ当局者がオランダ国内で政治活動を行うことを禁止すると言明した。

トルコは大統領に権限を集中させる憲法改正の是非を問う国民投票を4月16日に実施する予定で、オランダのロッテルダムで政治集会を計画している。

これについてオランダ政府は3日、「望ましくない」との立場を表明したが、集会の阻止には踏み切っていない。

ウィルダース氏は記者団に対し、ルッテ首相の対応は「非常に弱い」と批判し、「私ならトルコの全閣僚を『ペルソナ・ノン・グラータ(好ましくない人物)』に指定する」と述べた。

また、エルドアン大統領を「イスラムのファシスト」と呼び、大統領は自身の権限強化のために憲法を改正しようとしているとして批判した。

PVVは15日の選挙を控え、ルッテ首相率いる自由民主党(VVD)とほぼ互角となっている。【3月6日 ロイター】
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こうしたエルドアン大統領の強権政治批判は、多くのオランダ有権者の賛同を獲得するものと思われます。
ただ、彼への安易な賛同は、別の政治危機への道を開きます。

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