(地震に見舞われたトルコ・ハタイで、親族を捜す人々(2023年2月7日撮影) 【2月8日 AFP】)
【アサド政権 シリアの地震被災地に空爆?】
阪神大震災の地震の約20倍のエネルギーに相当する(纐纈(こうけつ)一起・慶応大特任教授(応用地震学)【2月9日 産経】)とも言われるトルコ・シリアに甚大な被害をもたらした巨大地震、その犠牲者数は時間を追うごとに増加しています。
現時点での数字については、以下のようにも報じられていますが、おそらく今後更に増えると思われます。
****トルコ地震、死者1万7000人に=シリアで人口の半数が被災****
トルコ南部で6日未明に発生した大地震による死者は9日、隣国シリアと合わせて1万7000人を超えた。行方不明者の生存率が下がるとされる「発生から72時間」を過ぎ、犠牲者が大幅に増えることへの懸念が高まっている。いてつく寒さの中、両国の被災者は厳しい環境に置かれている。
トルコ・メディアなどによると、同国内ではこれまでに1万4014人の死亡が確認された。負傷者は6万人以上。AFP通信によれば、シリア側では3162人の死亡が判明した。国連は8日、シリアで人口の約半数に当たる約1090万人が被災したと発表した。
トルコの被災地では行方不明者の捜索や、倒壊した建物の下敷きになった人の救出活動が続いている。アナトリア通信によれば、8日には8歳の女児や59歳の女性が助け出された。
一方、救援の遅れなどトルコ政府の対応を批判する声も出ている。エルドアン大統領は8日に被災地を視察した際、初動の不備を認めた上で、被災世帯に見舞金1万リラ(約7万円)を支給すると発表した。【2月9日 時事】
********************
懸命の救助作業が行われているなかで、内戦が続くシリアでは「救助」ではなく、被災地への「空爆」が行われたとの情報も。
****シリア・アサド政権軍、被災地空爆か 英外相ら批判「実に冷酷」****
英スカイニュースは7日、シリアのアサド政権軍が6日の地震発生直後、反体制派勢力が支配する地域を空爆したと報じた。
攻撃されたのは地震で被害を受けたシリア北部アレッポ県マレアで、英下院外交委員長のカーンズ議員は「実に冷酷で凶悪な攻撃」と非難。クレバリー外相も、「まったく容認できない」とアサド政権を批判した。空爆による犠牲者の有無など詳細は不明。
トルコ南部で6日に起きた大地震では、内戦が続く隣国シリアも大きな被害を受けた。シリアには現在、アサド政権と、対立する反体制派勢力の支配地域があり、双方の地域とも被災地となっている。英国の中東ニュース専門サイト「ミドル・イースト・アイ」によると、今回の空爆は地震発生から2時間以内に起きたという。【2月8日 毎日】
*********************
混乱状態のなかでの情報ですから、真偽のほどはよくわかりません。
確かに「内戦」の論理からすれば、災害直後であっても攻撃の手を緩める理由はありません。むしろ「敵」が混乱している今が攻撃の好機とも・・・・。
しかし、そうであったとしても、人道的に受け入れ難いものを感じます。誤報であったことを期待しますが。
【内戦分裂状態で今後の国際支援が困難】
ことの真偽は、今後の被災地における救助・復興が進むかどうか、アサド政権がどのような姿勢でこれにあたるのか・・・に関わってきます。
内戦状態のシリアはアサド大統領率いる政権支配地域、イドリブ地域のイスラム主義者や親トルコ派などによる反体制派支配地域、北部トルコ国境近くの少数民族クルド人の「自治区」の三つに分かれており、このことが国際支援を困難にしています。
****内戦で分裂のシリア、地震被災者支援で国際社会に難題****
トルコとシリアに甚大な被害をもたらした地震をめぐり、シリアへの支援の手を差し伸べている欧米諸国や援助団体が難題に直面している。10年以上続く内戦により、シリアが分裂状態に陥っているためだ。
シリアは、バッシャール・アサド大統領率いる政権の支配地域、イスラム主義者や親トルコ派などによる反体制派支配地域、少数民族クルド人の「自治区」の三つに分かれている。アサド政権は、欧米諸国から国際社会の「のけ者」として扱われている。
国際援助団体や欧米諸国は、シリアへの緊急援助に際して複雑な支援ルートという問題に対処しなければならず、特に反体制派支配地域に対する支援に苦慮している。
医療援助団体「国境なき医師団」でシリアを担当するマルク・シャカル氏は「シリアは依然として法的、外交的な観点からはグレーゾーンだ」と指摘する。
地震の被災者のほぼ半数が、欧米に制裁を科されているアサド政権の支配地域に居住している。残りは、反体制派の最後の本拠地であるイドリブ県や、トルコが支援する反体制派が支配するアレッポ県に住んでいる。
両地域には、約400万人が居住しており、内戦で避難民となった人々が大半で、多くが人道支援に依存している。フランスのNGOに所属するラファエル・ピッティ医師は、震災が起きる前からイドリブ県の状況は劣悪であり、同県に対する支援は死活的に重要になっていると強調する。
■アサド政権経由で支援?
イドリブ県に対する国際援助は現在、トルコとの国境に位置するバブアルハワ国境検問所を通じた1か所しかルートが存在しない。
国連の援助は以前、こうした国境検問所4か所を経由してイドリブ県に届けられていたが、アサド政権を支援して内戦に介入したロシアは、1か所に制限した。
毛布や豆類などイドリブ県が必要とする支援の80%は、バブアルハワ検問所を経由して供給されているが、地震を受けて支援物資が増えることから、検問所の物流が停滞する恐れがあると援助団体は懸念している。
シリアのバッサム・サッバーグ国連大使は6日、反体制派支配地域にある国境検問所の追加的な開放を容認しないとの考えを示唆し、「シリア(の政権側支配域)を通じて」全ての支援物資を届けるべきだとの意向を表明した。同大使は「シリアを支援したいならば、政権と調整すべきだ」と語った。
前出のピッティ氏は、アサド政権側支配地域を経由した支援物資が反体制派支配地域に届く可能性は極めて低いとの認識を示し、「過去10年間の状況と同じ結果になるだろう」と述べた。
■仏政府は二の足
シリアの被災者への支援を表明しているドイツ、フランス両国はともに、アサド政権を経由した支援の提供には消極的だ。
ドイツ政府筋によると、同国政府は現時点ではNGOによる「従来のルート」を経由して被災者に支援を提供するという。こうした支援は、トルコ経由で届けられてきた。
アナレーナ・ベーアボック独外相は7日、シリア北西部の国境検問所を追加的に開放するようロシアに求めた。同外相は「ロシアを含めた国際社会の関係当事者は、人道支援が被災者に届くようシリアの政権に対する影響力を行使しなければならない」と訴えた。
欧米諸国は、アサド政権が2011年に始まった反体制運動を武力で弾圧したのを受け、シリアから外交官を引き揚げ、制裁を科している。このため、フランス政府は、正統性を認めていないアサド政権と調整して援助を提供することに、二の足を踏んでいるとの見方も出ている。 【2月8日 AFP】
*********************
シリアのサバーグ国連大使は「(届いた支援物資は)全てのシリア人に分ける」と強調していますが、(真偽はわかりませんが)冒頭の空爆のニュースなどからすると、その言葉を信用することは難しいように思われます。
****トルコ・シリア地震、死者1.6万人超 シリア全人口の半数被災****
(中略)シリアに駐在する国連のベンラムリ調整官は8日、シリアの被災者がアサド政権と対立する反体制派勢力の支配地域を含めて人口のおよそ半数に当たる約1090万人に上ると明らかにした。(中略)
またシリアでは、反体制派勢力の支配地域を含め計3160人以上が死亡した。シリア国営通信によると、アサド政権支配地域にはアラブ首長国連邦(UAE)やパキスタンなどから援助物資を載せた航空機が到着した。
一方、反体制派支配地域の状況は詳しく伝わってきていない。現地で支援を続けるボランティア団体は9日、ツイッターに「死者は大幅に増えるだろう。数百の家族が破壊された建物のがれきの下に埋もれている」と投稿した。
国連は地震前からトルコ国境を通じて支援物資を反体制派支配地域に運び込んできたが、地震の影響でシリアに続く道が閉鎖された。国連は、9日にも再開できると見込んでいる。
国連はアサド政権の支配地域からも支援物資を運ぶことを検討している。シリアのサバーグ国連大使は「(届いた支援物資は)全てのシリア人に分ける」と強調している。だがアサド政権を通じて支援物資を送った場合、反体制派地域に公平に分配されるかは不透明だ。【2月9日 毎日】
*******************
“トルコ国境を通じて支援物資を反体制派支配地域に運ぶ”とは言っても、そのトルコが被害の中心地で、おそらく自国のことで手一杯になっていると思われますので、トルコ経由のルートも難しいものがあるようにも思えます。
さらにクルド人支配地域になると、トルコと敵対して空爆を受ける状況にもありますので、いったいどこから、どうやって支援物資を運ぶのか?
未曽有の巨大災害による被害者の救助・復旧ですから、政権側・反体制派、シリア・トルコ・クルドといった区分・対立を越えて取り組まれるべき・・・とは思いますが、現実は・・・・。
【トルコ 5月の選挙直前の災害 エルドアン大統領にとっては難題】
一方、被害の中心となっているトルコでは、被災者や野党を中心に政府に対する批判が高まっているとも。
****トルコ地震の死者1万5000人に=強まる政府批判****
トルコ南部で6日未明に発生した大地震による死者は8日、隣国シリア側と合わせて1万5000人以上になった。AFP通信が報じた。9日午前4時17分(日本時間同日午前10時17分)で行方不明の被災者の生存率が下がるとされる「発生から72時間」が経過し、トルコでは政府への批判が高まっている。(中略)
ロイター通信によると、発生から時間がたつにつれ、救援態勢への不備が指摘され、被災者や野党を中心に政府に対する批判が高まっている。【2月9日 時事】
*********************
****トルコ地震、政府の対応遅れで希望が絶望に****
(中略)時間がたつにつれ、カフラマンマラシュの住民は恐怖と不満を募らせ、過去数十年で最悪の災害となった地震への政府の対応の遅れを批判している。
「政府はどこで何をやっているんだ。がれきの下にいる弟を助けられない。おいとも連絡がつかない。周りを見てくれ。政府の役人は一人もいない」とアリ・サギログルさんは声を荒らげた。父と弟はがれきの下敷きになっており、安否は分からないという。【2月8日 AFP】
**********************
こうした災害への初動態勢の不備が指摘されるのはトルコ・エルドアン政権に限った話ではなく、どの災害でも、どの国でも同じようなものだとは思いますが・・・。被災者からすると「早く助けてくれ!何をやっているのだ!」という話にもなります。
救助活動が行われている今の時期にするのが適切かどうか迷いますが、エルドアン大統領としては、次期大統領選挙に向けて対策を講じてきたさなか。5月予定の選挙直前の巨大災害ということで、その選挙対策にマイナスとなることも懸念されます。
****トルコ大地震、成長率最大2ポイント押し下げか 巨額財政支出必要に****
シリア国境に近いトルコ南部で6日に発生した大地震で、トルコは復興に巨額の財政出動が必要となる見通しだ。大統領選・議会選が5月に迫る中、2023年の経済成長率が最大で2ポイント押し下げられるとの見方も出ている。
地震では、トルコとシリアで計約1万人の死者が確認された。約1340万人が暮らす地域では、住宅や病院を含む数千の建物、道路、パイプラインなどのインフラが激しく損傷。詳しい被害規模ははっきりしていないが、ある当局者は「数十億ドルに上るだろう」と語った。
一方、5月14日に予定されている大統領選・議会選では、犠牲者の収容とがれき撤去問題がテーマになる公算が大きく、約20年にわたって権力の座にいるエルドガン大統領に重い課題を突き付けている。
エルドアン氏が型破りな経済政策を推し進める中で、トルコは何年にもわたってインフレ高進と通貨リラの急落に見舞われてきた。昨年のインフレ率は85%と、24年ぶりの高水準を記録。リラの対ドル相場はこの10年間で10分の1に沈んだ。
1月のインフレ率は57%だったが、今回の大地震は、政府が経済成長を後押しするために生産と輸出、投資を重視する政策に取り組む中で起きた。被災地の生産は、国内総生産(GDP)の9.3%を占めるが、大地震で打撃を受けたとみられている。被災規模を示唆する国内電力使用量は、地震が発生した6日に前週から11%落ち込んだ。
エコノミスト3人の試算によると、被災地の生産が半減した場合のシナリオで、経済成長率は0.6─2ポイント低下する。政府高官は、成長率は目標とする5%を1─2ポイント下回る恐れがあるとの見通しを示した。
コンサルティング会社テネオ・インテリジェンスのウォルファンゴ・ピッコリ氏は今回の地震について、1999年にトルコ北西部の工業地帯が見舞われた同規模の地震のように、経済に深刻な打撃を及ぼす公算は小さいと分析。「(今回の)地震は国内で最も貧しく未開発な地域の一つで発生した」と指摘した。【2月9日 ロイター】
地震では、トルコとシリアで計約1万人の死者が確認された。約1340万人が暮らす地域では、住宅や病院を含む数千の建物、道路、パイプラインなどのインフラが激しく損傷。詳しい被害規模ははっきりしていないが、ある当局者は「数十億ドルに上るだろう」と語った。
一方、5月14日に予定されている大統領選・議会選では、犠牲者の収容とがれき撤去問題がテーマになる公算が大きく、約20年にわたって権力の座にいるエルドガン大統領に重い課題を突き付けている。
エルドアン氏が型破りな経済政策を推し進める中で、トルコは何年にもわたってインフレ高進と通貨リラの急落に見舞われてきた。昨年のインフレ率は85%と、24年ぶりの高水準を記録。リラの対ドル相場はこの10年間で10分の1に沈んだ。
1月のインフレ率は57%だったが、今回の大地震は、政府が経済成長を後押しするために生産と輸出、投資を重視する政策に取り組む中で起きた。被災地の生産は、国内総生産(GDP)の9.3%を占めるが、大地震で打撃を受けたとみられている。被災規模を示唆する国内電力使用量は、地震が発生した6日に前週から11%落ち込んだ。
エコノミスト3人の試算によると、被災地の生産が半減した場合のシナリオで、経済成長率は0.6─2ポイント低下する。政府高官は、成長率は目標とする5%を1─2ポイント下回る恐れがあるとの見通しを示した。
コンサルティング会社テネオ・インテリジェンスのウォルファンゴ・ピッコリ氏は今回の地震について、1999年にトルコ北西部の工業地帯が見舞われた同規模の地震のように、経済に深刻な打撃を及ぼす公算は小さいと分析。「(今回の)地震は国内で最も貧しく未開発な地域の一つで発生した」と指摘した。【2月9日 ロイター】
**********************
もちろん救助・復旧作業で適切な仕事を行えば、それが評価されて選挙にもプラスに・・・という可能性もありますが。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます