(【2022年5月29日 NHK】)
【イスラエルとイラン 対立の背景】
インドとパキスタン、アルメニアとアゼルバイジャン、イランとサウジアラビア、今で言えばウクライナとロシア・・・・等々、世の中には不倶戴天の敵と言うか、激しく対立する国家関係がたくさん存在しますが、そのひとつがイランとイスラエル。
****イスラエルとイラン なぜ対立しているの?****
核関連施設での爆発や、航行中の船舶に対するドローン攻撃…。
最近中東で続いている危険な応酬の背景には、激しく対立するイスラエルとイランの存在があると指摘されています。
そもそも両国はなぜ、これほどまでに対立しているのでしょうか。担当記者による解説です。
※この記事は2021年8月20日に公開したものです
最近中東で続いている危険な応酬の背景には、激しく対立するイスラエルとイランの存在があると指摘されています。
そもそも両国はなぜ、これほどまでに対立しているのでしょうか。担当記者による解説です。
※この記事は2021年8月20日に公開したものです
Q1 イスラエルとイランは、もともと仲が悪かったのですか?
イスラエルとイランは今でこそ敵対関係にありますが、1950年代、60年代には国交があり、20年以上に渡って良好な関係を維持していました。(中略)
Q2 なにがきっかけで関係が悪化したんですか?
状況を一変させたのが、1979年にイランで起きたイスラム革命です。革命によってイランでは親米の王政が倒され、宗教を厳格に解釈したイスラム体制が樹立されました。
新たな体制はイスラエルについて、イスラム教の聖地でもあるエルサレムを奪った「イスラムの敵」と位置づけました。
このため両国は国交を断絶。イランは現在でも、イスラエルを国家として認めておらず、反イスラエルを国是としています。イランで行われる反米デモでは「アメリカに死を」と合わせて「イスラエルに死を」と人々が叫び、敵意を示す光景がみられます。
Q3 両国は戦争をしたことがあるのですか?
イスラエルとイランが過去に直接、戦争したことはありません。
ただイランは、イスラエルに対する武装闘争を続けるイスラム勢力を軍事面で支援していて、両国は間接的な形で衝突を繰り返してきました。
2021年5月にイスラエルと軍事衝突したパレスチナのイスラム組織「ハマス」や、イスラエルと過去に戦争したことがあるレバノンのシーア派組織「ヒズボラ」はいずれも、イランと密接な関係にあります。(中略)
アメリカが後ろ盾となっているイスラエルが、最新鋭の兵器を保有しているのに対し、イランは武装勢力を通じてにらみをきかせ、両国は対峙した状態が続いています。
Q4 両国の間で最近は何が、問題となっているのですか?
やはりイランの核開発問題です。
イランでは、2000年代に核兵器の開発疑惑が持ち上がり、イスラエルとの対立が先鋭化する大きな要因となってきました。イランは、核開発は原発などの平和利用が目的だと説明していて、核兵器の開発を否定しています。その上で、イスラエルこそが核兵器を保有していると非難しています。
一方でイスラエルは、イランの核開発を「国の存続に関わる脅威」と位置づけています。イランが所持する弾道ミサイルの射程距離は、2000キロ以上あるとされています。イスラエル全体を射程圏内にとらえており、イスラエルは警戒感をあらわにしています。
Q5 イランの核開発に対してイスラエルの対応は?
イランでは、核施設の機械が破壊されるなどの事件がたびたび起きていて、イスラエルの関与が指摘されています。
特にイランがここ数年、アメリカによる経済制裁への対抗措置として核開発を強化させて以降、不審な事案が頻発しています。
2020年7月には、イラン中部ナタンズの核施設で不審な火災が起き、最新鋭の遠心分離機が被害にあったほか、11月には核開発を指揮してきた研究者が首都テヘラン郊外で殺害される事件も起きました。2021年に入っても4月に、やはり核施設で爆発をともなう電気系統のトラブルが起き、サイバー攻撃によるものだと指摘されています。
これに対してイランは、イスラエルによる仕業だと断定し、報復を宣言しています。2021年4月と7月には、オマーン湾でイスラエルの企業や経営者が関わる船舶が相次いで攻撃される事件が起きました。イランによる報復行動と見られています。
イスラエルは過去に、イラクやシリアで原子炉を攻撃し、中東のイスラム諸国の核開発能力を排除しようとしてきた歴史があります。今後、イスラエルがイランの核施設に、より直接的な軍事行動をとれば、後戻りできない衝突につながると懸念されます。(後略)【2022年5月29日 NHK】
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上記のように、イランの核開発に対する「軍事目的だ」とするイスラエルの強い確信、イスラエルと直接的に衝突するイスラム武装勢力へのイランの支援、この二つがイラン・イスラエル間の大きな対立軸となっています。
【くすぶり続ける「影の戦争」 炎上の危険性も】
両国は「過去に直接、戦争したことはありません」と言うものの、イスラエルによるイラン核施設への攻撃、それに対するイラン側の報復など、水面下で絶えず相手への攻撃を繰り返しており、「影の戦争」とも呼ばれています。
****イランとイスラエルの影の戦争****
ロシアとウクライナの戦争が国際コミュニティの注目を集める中、イラン政府とイスラエルによる影の戦争は過激化し、同地域の緊張を高めている。イランとイスラエルの影の戦争が拡大することの危険性は、歯止めが掛からなくなり両国間の全面戦争に発展する可能性を秘めている点にある。
イスラエルは、イラン西部ケルマンシャー州近郊にあるイランの空軍基地を攻撃し、数百機のドローンを破壊するという前例のない動きを見せたと報じられている。
イラン政府はおそらく面目を失いたくない、あるいは弱みを見せたくないという理由から、この攻撃に関する情報公開を行わなかった。
報道機関『The Nour』は、「14日午前、ケルマンシャー州マヒダシュト地区にあるイスラム革命防衛隊の支援基地のひとつにて、モーターオイル等の可燃性物質が置かれていた保管室から出火し、産業用倉庫に損害が発生した」と報じている。
力を見せつけ強硬派の不満を抑え込むため、即時報復を試みるのがイラン政府の常となっている。今回イラン政府はイラク北部クルド人自治区に向けて十数発のミサイルを発射するという形で対応し、イスラエルの施設を狙ったと主張した。
イスラム革命防衛隊(IRGC)は、「IRGCが放った強力かつ正確なミサイルの標的は、陰謀と悪事をたくらむシオニストの戦略施設だった」と声明を発表した。
エルビルのオメド・コシュナウ県知事は、同地区にイスラエルの施設は存在しないと述べた。狙われたのは新設された米国領事館だったという。(中略)
イスラエルへの報復にあたって、イラン政府は直接イスラエルの施設を狙う必要はない。イラン政府はイスラエルの強固な同盟国である米国を標的とすることで、米国政府からイスラエルに圧力を掛けざるを得ない状況を作り、米国とイスラエル両国がイランの報復の標的になり得るのだという強力なメッセージを送ることができる。
イラン政府は、イスラエルまたは米国の施設を攻撃可能な数千発のミサイルを保有している。(中略)
イランとイスラエルの影の戦争は、他国つまりシリアでも悪化している。先日はイスラエルがシリアで空爆を行い、IRGCの将校2人を含む4人が死亡した。IRGCと繋がりを持つイランの国営報道機関『Sepah News』は、イスラエルは「この犯罪の報いを受ける」ことになるだろうと警告し、殺害されたイランの2人はエーサン・カルバライプール将軍とモルテザ・サイードネジャド将軍だったと報じた。
拡大を続けるこのイラン政府とイスラエルによる影の戦争の裏には、いくつかの根本的な問題が存在する。最も重要な問題は、イランの核計画および核合意再建に関連している。
イランの指導者層は核計画の目的は平和利用だと主張しているが、イスラエル政府の観点からすると、イラン政府は核兵器の保有という裏の目的の実現を目指しているということになる。
イスラエルの指導者層の懸念は、イラン政府がこれまで内密に行ってきた核活動が裏付けている。イラン政府は最初から核活動を秘匿すると決めていた。(中略)
イスラエルとしても、核合意によってイラン政府が財政面で余裕を取り戻すのみならず、同政府による核計画の進展を防げないのではないかと懸念している。そのうえ、核合意によってイラン政府はイラク、イエメン、レバノン、シリアの親イラン派グループを強化し勢いを煽るためになんとしても必要な資金を得ることになる。
端的に言えば、イスラエルはイラン核合意による重大な影響と、シリア、レバノン、イラクにおけるイラン政府の影響力増大を懸念しているのだ。
このことがイラン政府とイスラエルの影の戦争の拡大に繋がっており、歯止めが掛からなくなって全面戦争へと発展するリスクが生まれているのである。【2022年3月21日 ARAB NEWS】
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“影の戦争”のひとつとされるのが、昨年5月・6月にイラン国内で軍人や軍事に関係する技術者などが次々に不審死を遂げたこと。敵対するイスラエルの関与が取りざたされています。
2022年5月・6月にイランで起きた主な不審死事件
<5月22日> 革命防衛隊の大佐が自宅近くで射殺される
<25日> 軍事施設に対するドローン攻撃で技師が死亡
<31日> 航空技術者が急死
<6月2日> 地質学者が急死
<3日> 革命防衛隊の大佐が自宅で転落死と報道
<12日> 革命防衛隊航空宇宙軍の技師が交通事故死
<同日> 国防省の航空宇宙部門の技師が業務中に死亡
相次いで急死した7人のうち2人は革命防衛隊の「コッズ部隊」の所属でした。「コッズ部隊」は中東各地で親イラン勢力を支援してきた部隊で、パレスチナのイスラム組織ハマスやレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラなど、イスラエルと衝突してきた勢力に影響力を有しています。
他の5人も、イスラエルが脅威とする核開発やドローンの製造に携わっていたとされます。
イラン国内では過去にも、核施設の破壊工作や核科学者の殺害事件が起き、そのたびにイスラエルの関与が指摘されてきました。
当然のようにイラン側の報復も
*****「複数のテロ、阻止」*****
イスラエルメディアは(2022年6月)17日、安全保障関係の政府高官の発言として、イランの工作部隊によるイスラエルの民間人を狙った殺害や誘拐の計画が、トルコの最大都市イスタンブールで進んでいると一斉に報じた。
報道によると、イラン側は国内で相次いだ不審死をイスラエルの犯行とみて、その報復を計画。殺害や誘拐を実行に移す段階に入っているとし、高官は「具体的な脅威だ」と強調した。
13日にはイスラエルのラピド外相が、「イランのテロリストたち」によるテロ未遂事件がイスタンブールであったと発表した。トルコ当局と連携して「複数のテロ計画」を阻止してきたとも明らかにした上で、渡航の取りやめと、即時帰国を要請する声明を出した。
地元紙エルサレム・ポストによると、在イスタンブールのイスラエル人はこの1週間で約5千人から約2千人まで減少。ガンツ国防相は18日、イランに対して「イスラエル市民へのいかなる攻撃に対しても、ただちに、そしてどこにいようとも代償を払わせる」と警告した。【日系メディア】
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【1月にもイラン中部イスファハンの軍需工場が攻撃受ける イランは対応能力誇示】
今年1月末、イラン中部イスファハンの軍需工場がドローン攻撃を受ける事件がありましたが、これもイスラエルによる攻撃と見られています。中東諸国上空を越えてイラン深部への攻撃、イスラエルも随分と大胆です。
また、イラン・イスラエルの“影の戦争”はウクライナ情勢にも影響しています。
高い軍事技術を有するイスラエルに対しウクライナは軍事支援を強く求めており、アメリカも後押ししていますが、“影の戦争”主戦場でもあるシリアでイラン関連勢力を空爆しているイスラエルとしては、シリアの制空権を有するロシアの「黙認」が必要で、ウクライナ支援でロシアを敵に回したくないという事情が。
****ウクライナ情勢に影響か イラン・イスラエル“影の戦争”****
1月末、イラン中部イスファハンの軍需工場がドローン攻撃を受けた。イランはイスラエルが実行したと非難する一方、被害は軽微だと主張したが、実際には損害規模は甚大だったとされる。
しかも攻撃には米中央情報局(CIA)も関与していたとする見方があり、ウクライナ戦争でイランの無人機がロシア支援に使われる中、イスラエルとイランによる〝影の戦争〟が激化してきた。
イランとイスラエルの武力応酬
イラン側の発表や米イスラエル・メディア、現場の模様を撮影したSNSの動画などによると、攻撃が行われたのは1月28日の夜で、4度にわたって大きな爆発があった。
イラン当局は無人機3機による攻撃を防いだとし、工場の屋根が小規模の損傷を受けたと発表した。だが、損害はイランの発表とは違い、相当甚大だったと見られている。
この軍需工場が核開発の施設だったのか、ミサイル製造工場だったのかなどは明らかではないが、ニューヨーク・タイムズ紙によると、イスファハンはミサイルの生産、研究、開発の主要拠点で、イスラエルに到達可能な中距離弾道ミサイル「シャハブ」の組み立て施設などがあるという。
イスラエルのネタニヤフ首相は攻撃後、米CNNとのインタビューで、政権目標のトップに「イランによる核開発の阻止」を挙げ、軍事的な手段も辞さない考えを強調した。イスファハンへの攻撃に関しては「特定の作戦については論評しない」として否定も肯定もしなかった。だが、同紙が伝えたようにイスラエルの情報機関「モサド」の秘密作戦だった可能性が濃厚だ。(中略)
加えて中東では、今回のモサドの作戦にCIAも関与していたとの憶測が飛び交っている。エルサレムポストが専門家の見方として報じたところによると、CIAのバーンズ長官が攻撃2日前にイスラエルを訪問したのは、作戦をすり合わせるためだったのではないか、というのだ。
ポンペオ元CIA長官の暴露
また、イスラエル軍と米軍は攻撃直前にイラン攻撃を想定した軍事演習を1週間にわたって行っており、このこともCIA関与説に真実味を与える理由になっている。
事実ならば、イランの核施設への軍事攻撃に慎重だったバイデン政権も、イランがロシアに自爆型の〝カミカゼ無人機〟多数を供与し、ウクライナ攻撃を支援していることを深刻に受け止め、イスファハン攻撃に深く関わった可能性がある。
CIAがモサドの作戦に関与した例はこれまで明らかになってはいなかったが、イスラエル・メディアによると、ポンペオ元CIA長官が最近出版した著書『Never Give an Inch』の中で、2つのスパイ組織の協力関係を初めて暴露した。(中略)
ロシアと敵対できない理由
こうしたイスラエルに対し、ユダヤ系住民を抱えるウクライナはイランのドローンを撃墜する防空システム「アイアン・ドーム」の供与を要請しているが、イスラエルにはロシアと敵対できない理由があり、拒否せざるを得ない。その理由とはシリアにおける「制空権」をロシアと共有し合っているからだ。
シリアの「制空権」は事実上、アサド政権を支援するため進駐しているロシア軍の支配下にある。しかしイスラエルにとって、隣国のシリアに駐留するイラン革命防衛隊やシリア政府軍の陣地など敵対勢力を空爆できるよう、シリア上空を自由に飛行する必要がある。そのためにはロシア軍からの「黙認」が必要だ。これがないと、撃墜されたり、両軍機が衝突してしまいかねない。
ネタニヤフ氏ら歴代の首相がロシアのプーチン大統領と良好な関係を築き、ウクライナ侵略でもロシアを非難しないのはこのためだ。ネタニヤフ氏によると、イランは革命防衛隊の将軍指揮下で10万人の「シーア派部隊」創設を進めており、イスラエルにとっては座視できない状況だ。今後もシリア空爆を続けるにはプーチン政権との良好な関係が不可欠なわけだ。
かといってユダヤ系住民がおり、不倶戴天の敵であるイランのドローン攻撃に苦しむウクライナに支援の手を差し延べたいのはやまやまで、ロシアを刺激したくないイスラエルにとっては大きなジレンマだ。バイデン政権からもウクライナ支援に踏み切るよう強い圧力を受けている。
イスラエルのコーヘン外相は近く、ウクライナを訪問する予定だが、この際、ウクライナのゼレンスキー大統領はイスラエルにロシアの侵略を公式に非難するよう迫る見通しだと伝えられている。ロシア、ウクライナ、イラン、そして米国を視野に入れながら、イスラエルがどのように動くのか、注目の的だ。【2月7日 WEDGE】
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一方、イランは戦闘機を格納できる大規模な地下空軍基地を公開し、イスラエルの攻撃を防御できること、更にはイスラエルを攻撃できることを示唆しています。
****イラン、地下空軍基地「イーグル44」公開 戦闘機の格納可能****
イランは7日、戦闘機を格納できる大規模な地下空軍基地「イーグル44」を公開した。国営イラン通信(IRNA)が伝えた。基地の場所に関する詳細には言及していない。
IRNAによると、地下深くに建設され、長距離巡航ミサイルを装備した戦闘機を格納できる国内で最も重要な空軍基地の一つという。戦闘機のほか、ドローン(無人機)の保管・運用ができる。
イスラエルによる空爆からの軍事資産保護を目指すイラン軍は、昨年5月にもドローンを収容する別の地下基地の詳細を公表している。
イラン軍のモハンマド・バゲリ参謀総長は国営テレビに対し「イスラエルを含む敵からのイランへの攻撃にはイーグル44を含む多くの空軍基地から対応することになる」と述べた。【2月8日 ロイター】
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