(リオグランデ川を渡ってアメリカに入国する移民たち(12月11日) 列をなす大勢の人々は国境警備隊に保護されるのを待っているところ 【12月13日 Newsweek】)
【米最高裁 「タイトル42」暫定的に継続】
****米最高裁、移民制限の暫定的継続認める コロナ対策として導入****
米連邦最高裁は19日、新型コロナウイルス対策として導入し、週半ばに失効する陸路の移民流入制限について、共和党優位の州が求めている同措置の維持に関する訴訟の審理が進行する間は、暫定的に継続させるべきとの判断を示した。
「タイトル42」と呼ばれる移民制限措置について連邦地裁は11月、無効判決を出した。これに対し共和党系の複数の州の司法長官は撤廃すれば移民の流入が増え、追加コストにつながるとして制限維持を申し立てた。
バイデン政権は21日の失効に向けて準備を進めており、ホワイトハウスのジャンピエール報道官は記者会見で、メキシコとの国境に追加で必要となる人員、技術、移民収容施設、輸送の費用として議会に30億ドル強を求めていると明らかにした。
米当局は、タイトル42が解除された場合、1日当たりの不法越境者が現在の約2倍の9000─1万4000人に増えると想定して備えてきた。
タイトル42はトランプ政権下の2020年3月に導入され、バイデン政権でも1年余り維持された。【12月20日 ロイター】
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【難民・移民対応で揺れるバイデン政権】
アメリカ・バイデン政権にとって、インフレと並んで悩みの種と言うか、対応に苦慮しているのがメキシコ国境を渡って押し寄せる難民・移民への対応です。
理念としては(特に民主党左派には)難民・移民に対して寛容な姿勢がある一方で、現実問題としては大量の移民流入は多くの問題を惹起し、選挙においては野党からの恰好の攻撃材料となります。
そうした事情からバイデン政権の施策も揺れています。
下記は中間選挙前の記事です。
****米政権、ベネズエラ移民を強制送還 選挙前に厳格化、与党から批判****
寛容な移民政策を打ち出してきたバイデン米政権が、南部国境で急増するベネズエラ人の移民希望者を原則としてメキシコに強制送還する措置を導入した。
11月の中間選挙を前に野党・共和党から「国境管理の混乱」を攻撃されており、移民受け入れの厳格化で批判をかわす狙いがあるが、民主党や人権団体からは「保護を求める人たちを拒否する行為だ」と非難を浴びている。
国土安全保障省は10月12日、南部国境から入国するベネズエラ人を原則としてメキシコに強制送還することで、メキシコ政府と合意したと発表した。従来は、亡命など入国を希望する事情によって一時滞在を認めるケースがあったが、12日以降は米国側の事前承認や新型コロナウイルスのワクチン接種完了などの厳しい要件を課した。
同省によると、ベネズエラ国内の政治や経済の混乱を背景に、ベネズエラ人の移民希望者は今年に入って前年の約4倍に急増し、9月には約3万3000人にまで増加した。同省は「南部国境から入国を図る人を減らせる」と正当性を強調した。
一方、米国内に支援者がいる▽新型コロナワクチン接種完了▽国家安全保障上の審査合格――との3要件を満たすベネズエラ人を対象に、最大2万4000人を新たに受け入れる計画も発表した。移動経路は空路に限る。
しかし、米国に適応しやすい移民だけを「選別」する方策に対して、上院外交委員会のメネンデス委員長(民主党)は「命を危険にさらして国を逃れてきたベネズエラ人を自動的に“失格”とする方策だ」と批判。国内外の100以上の人権団体も共同声明で「亡命希望者がさらに危険な越境ルートを使い、人身売買の被害にも遭いやすくなるだけだ」と非難した。
トランプ前政権が新型コロナの感染拡大防止のために導入した国外追放措置「タイトル42」を法的根拠としたことも問題視された。
バイデン政権は22年4月にタイトル42の廃止をいったん決めたが、5月に連邦裁判所の判断で措置が継続された経緯がある。今回はバイデン政権が積極的に追放措置を活用する形となり、「タイトル42のような懲罰的な措置は不法であり、移民保護に関する米政府の約束にも反する」(人権団体の声明)と批判されている。
バイデン政権は寛容な移民受け入れの方針を打ち出したが、移民が急増したことで国境での対応が追いつかずに混乱が拡大。移民・国境管理は、経済・インフレなどに次いで不評な政策課題だ。
南部フロリダ州の州政府が9月に「移民問題の深刻さを示すため」としてベネズエラ移民を東部のリゾート島に移送した際は、「子供たちや母親たち、共産主義から逃げてきた人たちだ」(ホワイトハウスのジャンピエール報道官)と同情的な姿勢を見せていたが、選挙を前に態度を一変させた形だ。【10月18日 毎日】
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上記ベネズエラ難民・移民への対応厳格化の背景には、下記のような急増がありました。
****ベネズエラを脱出する難民が急増 9000人がアメリカを目指して中南米を徒歩で移動する異常事態****
大規模な水害などでベネズエラを脱出する難民が後を絶たず、9000人の集団がアメリカを目指し中南米を徒歩で移動する異常事態となっている。
現地メディアによると、ベネズエラ難民およそ9000人の集団がコロンビアとパナマの国境、ダリエン地峡に押し寄せている。武装組織が闊歩するジャングルで、これまでも多くの難民が命を落としてきた危険な場所だ。
その先にあるコスタリカは、少なくとも3750人が既に到達したと発表し、難民を保護するため北側の国境までバスで輸送している。しかし、ニカラグアやグアテマラが通行を許可しないため、コスタリカに留まる難民もおり、首都サンホセでは道端で寝泊まりする人が急増している。
ベネズエラでは政情不安で難民が増加しているが、今月に入って大規模な洪水が相次ぎ、そこに拍車をかけたかたちだ。
バイデン大統領は人道的観点から最大2万4000人のベネズエラ難民を空路で受け入れるとしているが、航空券を買えない人も多く、陸路でアメリカを目指す集団が後を絶たない状況となっている。(ANNニュース)【10月19日 ABEMA TIMES】
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【急増した不法に国境を越えて拘束された者 メキシコ側には行き場を失った人々】
こうしたベネズエラやキューバ、ニカラグアからの難民・移民が増加したこともあって、去年10月からの1年間に、メキシコからアメリカに不法に入国し拘束された人が237万人にのぼり、過去最多となりました。
****アメリカへのメキシコからの不法越境者237万人で過去最多更新、中間選挙の争点にも*****
(中略)
国境警備当局のデータによりますと去年10月からの1年間にメキシコからアメリカに不法に国境を越えて拘束された人は、前の年度の1.4倍の237万8944人となり、過去最多を更新しました。
この数字は移民に寛容な姿勢をとる民主党のバイデン政権が発足してから爆発的に増えていて、200万人を超えたのも初めてです。
国境警備当局のデータによりますと去年10月からの1年間にメキシコからアメリカに不法に国境を越えて拘束された人は、前の年度の1.4倍の237万8944人となり、過去最多を更新しました。
この数字は移民に寛容な姿勢をとる民主党のバイデン政権が発足してから爆発的に増えていて、200万人を超えたのも初めてです。
国別では最近になってベネズエラ、キューバ、ニカラグアの3か国の出身者が増えていて、9月は全体の42%を占めたということです。移民問題は来月行われる中間選挙の争点として関心を集めていて、野党共和党が政権批判を強めています。【10月23日 TBS NEWS DIG】
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一方で、メキシコ側には国境を越えられない難民・移民が溢れて助けを求める状況も。
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メキシコの米国国境地帯で、越境しようと集まってきたグアテマラ人やベネズエラ人たちが、行き場を失っている。コロナ対策を理由にトランプ政権が、グアテマラやホンジュラスなどに対して越境者を受け入れない規制を導入。バイデン政権もこの規制を維持し、今月12日からは、ベネズエラに対しても規制を広げたためだ。
米テキサス州エルパソからメキシコ・シウダフアレスに入ると、越境できずに座り込む人たちであふれかえっていた。支援団体から配給されたパンをもくもくと食べる少女、息子を抱きしめる父親……。
国境の「壁」に近づくと、米国側を見つめるグアテマラ人の男性がいた。妻、息子、娘と共にここまで来たが、「壁」を越えられず、行き場を失って、もう1カ月間も野宿生活を送っているという。
国境沿いを流れるリオグランデ川に沿って西側に数分歩くと、川岸に約80人のベネズエラ人らが集まっていた。ひざほどの深さの川を渡れば、数分でたどり着きそうな米国側の国境警備隊を見つめている。国境警備隊のヘリが近づくと、「助けて」「人道支援」と書かれた布を広げ、支援を求めて声をあげた。【日系メディア】
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【亡命申請の審査を認めず強制送還する「タイトル42」】
バイデン政権が難民・移民の流入抑制に使用している法的根拠が「タイトル42」
77年前に制定された公衆衛生法の条項で、伝染病を持つ可能性のある国の人のアメリカ入国を阻止することができるという古い法律ですが、前出のようにトランプ政権がコロナ対策を理由とした難民・移民流入阻止(亡命申請の審査を経ずに移民希望者を即時送還)に適応したものです。
バイデン政権は当初廃止を決定したものの、司法判断で継続されることに。その後状況が悪化すると、逆に、この「タイトル42」を“活用”して流入を抑えるという対応をとっています。
その「タイトル42」の失効期限が12月21日に迫っていました。
****米、移民希望者の殺到に懸念 連邦高裁、制限継続要求退ける****
米首都ワシントンの連邦高裁は16日、新型コロナ対策を名目とした陸路の移民流入制限措置の維持を求める19州の訴えを退けた。措置は21日が失効の期限で、共和党優位の各州が失効で回復不能な損害を被ると主張していた。大勢の移民希望者が殺到して混乱を招くとの懸念が出ている。
移民制限措置は根拠とする公衆衛生法の条項から「タイトル42」と呼ばれる。共和党トランプ前政権が2020年3月に導入。新型コロナ対策を理由に亡命申請の審査を経ずに移民希望者を即時送還できる。民主党のバイデン政権は当初、措置の撤廃を目指したが移民希望者の増加を背景に方針転換した。【12月17日 共同】
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亡命申請の審査を認めず強制送還する「タイトル42」の有無による難民・移民対応の差については、下記のようにも。
****不法移民が殺到か。「タイトル42」の解除で炙り出される米国の闇****
(中略)
以下、ワシントンポスト電子版12月16日版からの抜粋要約です。
「米国控訴裁判所の判決により、国境での強制退去は12月21日に終了する方向」
サリバン連邦地裁判事は禁止令には公衆衛生上の利点がほとんど証明されていないとしてタイトル42を12月21日に終了させる。
訴訟を起こしていた移民の擁護者たちはこの判決に歓呼した。「タイトル42は公衆衛生法であり、国境管理の手段ではないので、終了しなければならない」と米国自由人権協会の弁護士は言う。
この決定は、トランプ政権が始めたタイトル42が、最高裁が介入しない限り、12月21日に終了することを意味する。今回の判決は、弁明の機会もなく追放された亡命希望者に国境を完全に開放することを目指す移民擁護派にとって勝利となる。
しかし、国土安全保障省は市や町を圧倒する可能性のある移民の流入を管理するために逼迫している。
解説
このタイトル42は法制度方面からの不法移民流入の大きな壁となっていました。
以前は不法移民が国境で捕まっても、その場で難民申請することによって米国側に釈放される事があったのです(キャッチアンドリリース制度)。彼らが難民申請の審査を受けに裁判所に出頭することはほぼなく、そのまま米国内に隠れてしまいます。
このタイトル42は難民申請を許さずにその場でコロナの危険性を理由に追い返してしまうのです。トランプらしい強引な手法です。
タイトル42が廃止されて正式な国外追放の審理となると移民裁判所で数カ月から数年かかることがあり、いったん移民が国内に入国すると、当局が彼らを見つけて排除することは困難になるのです。(中略)
この記事の著者・大澤裕さんのメルマガ
タイトル42が解除されるからと言って、移民希望者が合法的に米国に入れるようになるわけではありません。
しかし(中略)「タイトル42が解除される=米国国境が開放される」と勘違いしている人も多数います。
そ
して不法移民に対してバイデン大統領とカマラ副大統領は厳しい事を言えない政治的な状況にあります。
不法移民の人権に対して、過敏に反応して大騒ぎする極左の人がいるからです。
不法移民の流入の問題は人々の心を大きく動かします。投票行動に大きく影響するのです。(後略)【12月20日 大澤裕氏MAG2NEWS】
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【12月21日の「タイトル42」失効期限を前に高まっていた緊張 問題は未解決】
12月21日の「タイトル42」失効期限を前に国境では緊張が高まっていました。
****国境付近に移民希望者多数 移民制限措置の失効に懸念****
アメリカとメキシコの国境付近に、中南米からアメリカへの移民希望者が詰めかけている。移民希望者はトランプ前政権が亡命申請の審査を行わずに移民希望者を即時送還できる措置「タイトル42」が、今月21日に執行するのを待っている。
新型コロナ対策を理由としたこの措置で、2020年以降200万人以上が即時送還された。共和党主導の19の州はこの措置の維持を求めて提訴したが、ワシントンの連邦高等裁判所で退けられたため、連邦最高裁に上訴する方針である。
テキサス州エルパソの市長は週末非常事態を宣言し、既に何百人の亡命希望者が市内の路上で暮らしている。宣言によって市はシェルターの使用を拡大し、夜間の外出を禁止できるようになる。
国土安全保障省の情報分析の通達は、国境の制限をやめれば移民の流入が増える可能性が高いと警告している。
南西部の国境沿い全域ではタイトル42があと数日で執行する見通しとして、法執行機関は移民が再び殺到することに備えているという。
南西部の国境沿い全域ではタイトル42があと数日で執行する見通しとして、法執行機関は移民が再び殺到することに備えているという。
エルパソ市当局は州と連邦政府の機関、非営利団体などに結束して迫りくる危機への対応を支援するよう求めている。17日夜エルパソ市当局は非常事態を宣言し、移民は野宿を強いられメキシコ側には更に移民が集まりつつあるという。
国境沿いの自治体は州・連邦政府と協力し、タイトル42が21日に執行するのを備えている。ここ6~7日で2500人と増加しており、エルパソだけで今月平均して1日2200人以上が拘束されている。
テキサス州のアボット知事は「テキサス州だけでなくアメリカ全体で大惨事になるだろう」と話した。この非常事態は7日間で、これにより市は人員・輸送手段・シェルターの供給を要請できる。
一方アリゾナなど共和党主導のいくつかの州は早ければ19日朝にも最高裁に上訴するとしている。【12月19日 NHK キャッチ!世界のトップニュース 「TVでた蔵」より】
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こうした状況にあっての冒頭の「暫定的に継続」という最高裁判断でした。
これにより、しばらく現状維持ということでしょうか。
一番ホッとしているのはバイデン大統領?
もちろんアメリカにとって問題の先送りにすぎないだけでなく、国境で行き場を失っている難民・移民にとっては苦難の継続ということでもあります。
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