(ヨルダン川西岸から壁を越え、イスラエル側に入る労働者(13日)【8月27日 読売】)
【停戦交渉 合意に至らず エジプト・ガザの境界管理が主争点】
パレスチナ自治区ガザの保健当局は8月15日、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘による死者が4万人を超えたと発表しています。
住民の避難先となっている病院・学校も、ハマス戦闘員が潜んでいるとするイスラエル軍の空爆にさらされており、住民は逃げ場を失っています。
停戦交渉はアメリカ主導でエジプト・カタールも加えて仲介する形で続けられていますが、ガザ・エジプト境界地帯でのイスラエル軍駐留についてイスラエル・ハマスの対立が解消されず、合意が得られない状況です。
****ガザ停戦協議、合意至らずとエジプト筋 米は取り組み継続表明****
エジプトの首都カイロで行われたパレスチナ自治区ガザの停戦協議は25日、イスラム組織ハマスもイスラエル側も仲介国が示した妥協案を受け入れず、合意には至らなかった。エジプトの治安筋2人が明らかにした。
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は訪問先のカナダで行った記者会見で、米政府は停戦と人質解放での合意に向けて引き続きカイロでイスラエルや仲介国のエジプトとカタールと共に懸命に取り組んでいると述べた。
協議では「フィラデルフィア回廊」と呼ばれるガザ・エジプト境界地帯でのイスラエル軍駐留などが主な対立点となっている。
エジプト治安筋によると、仲介国はフィラデルフィア回廊とガザ中部の「ネツァリム回廊」について、イスラエル軍駐留に代わる幾つかの代替案を示したものの、いずれも当事者には受け入れられなかった。
イスラエル側はハマスが釈放を求めているパレスチナ人の一部についても懸念を示し、これらの人物を釈放した場合はガザから退去することを要求したという。
ハマスはイスラエル側がフィラデルフィア回廊から軍を撤退させるとしていた方針を撤回し、停戦開始時にガザ北部に戻る避難民を検査するなどの新たな条件を提示したとしている。【8月26日 ロイター】
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は訪問先のカナダで行った記者会見で、米政府は停戦と人質解放での合意に向けて引き続きカイロでイスラエルや仲介国のエジプトとカタールと共に懸命に取り組んでいると述べた。
協議では「フィラデルフィア回廊」と呼ばれるガザ・エジプト境界地帯でのイスラエル軍駐留などが主な対立点となっている。
エジプト治安筋によると、仲介国はフィラデルフィア回廊とガザ中部の「ネツァリム回廊」について、イスラエル軍駐留に代わる幾つかの代替案を示したものの、いずれも当事者には受け入れられなかった。
イスラエル側はハマスが釈放を求めているパレスチナ人の一部についても懸念を示し、これらの人物を釈放した場合はガザから退去することを要求したという。
ハマスはイスラエル側がフィラデルフィア回廊から軍を撤退させるとしていた方針を撤回し、停戦開始時にガザ北部に戻る避難民を検査するなどの新たな条件を提示したとしている。【8月26日 ロイター】
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「フィラデルフィ回廊」と呼ばれるガザ・エジプト境界地帯は全長約14キロで、イスラエルとエジプトが1979年に結んだ平和条約を受け、緩衝地帯の役割を担っています。
イスラエルはガザとエジプトの境界でハマスが多数のトンネルを作り、戦闘員の移動や武器の密輸に使っているとし、イスラエル軍による境界管理を「譲れない一線」だとしています。逆に言えば、ハマスにとっては生命線ともなります。
ただ、この地域への軍の駐留は条約違反との指摘があり、エジプトも反対しています。5月にイスラエル軍が掌握するまで境界のガザ側はハマスが管理していました。
イスラエルが国連監視団の常駐を提案したとか、バイデン米大統領がイスラエルのネタニヤフ首相と21日に電話会談した際、ガザ・エジプト境界の一部からイスラエル軍を撤収させるよう求め、ネタニヤフ氏が要求の一部を受け入れた・・・といった妥協案も模索されましたが、“生命線”維持のためにハマスの抵抗も強く、上記のように合意に至っていません。
【西岸地区・東エルサレム 生活の糧のために壁を越えるパレスチナ人「出稼ぎ者」】
ガザ地区での戦闘の影響はもう一つの自治政府エリアであるヨルダン川西岸地区にも及んでいます。
東エルサレムではイスラエル側へのパレスチナ人の通行がストップしていますが、パレスチナ側には生活のために働く場所が必要という差し迫った問題があり、非合法な形で越境が行われています。イスラエル側にもパレスチナ人労働者を必要としているという経済的事情があります。
****6mの壁越えイスラエル側へ、「出稼ぎ」4万人…パレスチナ人男性「危険だが妻子を養うには仕方がない」****
「さあ行くぞ」。パレスチナ自治区ヨルダン川西岸とイスラエルが占領する東エルサレムを隔てる高さ6メートルの分離壁。西岸側の壁近くに座っていたパレスチナ人男性(29)は13日昼前、壁越えを手引きする「業者」に促され、コンクリート壁にかけられた木製のはしごを上り始めた。
壁の上にたどり着くと、男性は業者が破った鉄条網をくぐり、壁の向こう側を見渡す。業者からロープを受け取り、イスラエル側にスルスルと下りて姿を消した。建設現場で1か月ほど寝泊まりし、再び壁を越えて帰ってくる予定だ。
西岸とイスラエル側は高い壁で隔てられている。東エルサレムとの間を合法的に行き来するには、3か所ある検問所を通る必要がある。
しかし、パレスチナ自治区ガザで昨年10月に戦闘が始まって以降、イスラエルは治安維持を理由に許可証を持ったパレスチナ人の通行も原則として認めていない。
先進国のイスラエルと西岸の経済格差は大きく、イスラエル有力紙イディオト・アハロノトによると昨年10月以降、約4万人のパレスチナ人労働者が非合法的にイスラエル側へ入った。男性は「壁を越えるのは危険だが、妻子4人を養うには仕方がない」と声を落とした。【8月27日 読売】
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【ヨルダン川西岸地区 イスラエル軍による大規模「対テロ作戦」】
そのヨルダン川西岸地区でイスラエル軍による大規模「対テロ作戦」が28日、29日に行われています。
****イスラエル軍 ヨルダン川西岸で大規模「対テロ作戦」 10人死亡****
イスラエル軍は28日、占領下にあるパレスチナ自治区ヨルダン川西岸のジェニンやトルカレムなどで「対テロ」軍事作戦を開始したと発表した。イスラエル軍は兵士数百人を動員。ドローン(無人機)で難民キャンプなどを空爆し、少なくともパレスチナ人10人が死亡した。
西岸では、パレスチナ自治区ガザ地区を拠点とするイスラム組織ハマスや過激派組織「イスラム聖戦」などが活動。イスラエル軍は度々掃討作戦を実施している。
軍報道官は過去1年間で、ジェニンなどに住むパレスチナ人戦闘員が150回以上の銃撃、爆撃事件を起こしたと主張した。作戦は数日間続く見込みだという。
パレスチナ通信によると、イスラエル軍はトルカレム近郊のヌール・シャムス難民キャンプの住民に対し、退避命令を出した。イスラエルのカッツ外相は「住民の避難も含め、ガザにおけるテロと同様に対処する必要がある」と指摘した。
一方、パレスチナ自治政府の報道官は「ガザに加えて、西岸での戦争のエスカレートは、悲惨で危険な結果になる」と非難した。またイスラエル軍が「戦闘員の避難場所になっている」として一部の病院を包囲しており、市民の治療が妨げられる懸念も示した。
昨年10月にガザでの戦闘が始まって以降、西岸ではイスラエル当局による行政拘束や、ユダヤ人入植者によるパレスチナ人への攻撃も相次ぐ。自治政府によると、昨年10月以降、西岸では650人以上のパレスチナ人が死亡した。【8月29日 毎日】
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死亡者数についてはもっと増えるでしょう。下記記事では17人。
ハマス側は対応を硬化させています。
****ハマス「自爆攻撃の再開」警告 西岸作戦の死者17人に****
イスラエル軍が27日夜から始めたヨルダン川西岸での大規模作戦で、パレスチナ通信は29日、これまでの死者は17人になったと伝えた。イスラエル軍は西岸トルカレムで戦闘員ら5人を殺害したと発表した。イスラム組織ハマスの元指導者マシャル氏は「自爆攻撃」の再開を警告、攻撃を拡大したイスラエルを強くけん制した。
マシャル氏は、イランで7月末に暗殺されたハマス最高指導者だったハニヤ氏の前任指導者。28日の演説で「われわれが戦おうが戦うまいが敵は追いかけてくる。自爆攻撃は的確な戦い方だ」と主張した。【8月29日 共同】
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ハニヤ氏が今のハマスにおいて、どういう力を持っているのかは知りません。
【かねてより問題となっている入植者の暴力 イスラエル治安当局は傍観との指摘も】
一方で、西岸地区ではユダヤ人入植者によるパレスチナ人への暴力が問題になっています。
****イスラエル人の入植者、ヨルダン川西岸でパレスチナ人の村に放火****
イスラエル占領下にあるヨルダン川西岸地区で15日夜、数十人のイスラエル人入植者が村の家屋や車に放火した。パレスチナ自治政府の保健省によると、少なくとも1人が殺害された。
イスラエル国防軍(IDF)によると、覆面などをしたイスラエル人入植者はナブルスに近いジト村を襲撃し、石や火炎びんなどを投げつけた。
15日夜にジト村で車や家屋が炎上する様子とされる映像が、ソーシャルメディアで共有されている。村の上空に黒煙が上る様子も見える。
パレスチナ保健省は、パレスチナ人住民の20代男性が殺害され、もう1人が胸に重傷を負ったと発表した。IDFは、死者が出た事態について調べていると発表した。
一方で、イスラエル国籍の1人がジトで拘束されたとIDFは述べている。
IDFは声明で、暴力の通報を受けて「数分以内に」部隊を村に派遣し、群衆を解散させるために空中に警告射撃をしたと発表。その後、村を襲った入植者たちを連行したという。
IDFはさらに、「重大な事件」を受けて、IDFとイスラエル総保安庁(シンベト)とイスラエル警察が合同で捜査に着手したとも発表した。
イスラエルの政界関係者は、入植者によるこの攻撃を非難し、実行犯たちを厳罰に処すると約束した。イスラエル首相府は声明で、「あらゆる犯罪行為の責任者は拘束し、起訴する」と述べた。
イスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領はソーシャルメディアに、「法に従う入植者のコミュニティーや入植地全体を損なう、ごく一部の少数者によることだ。しかも、特に難しく厳しい状況のこの時期に、世界におけるイスラエルの評判と地位を損なうものだ」と書いた。
大統領はさらに、責任者に法の裁きを受けさせるため「捜査機関は直ちに行動しなくてはならない」と強調した。
アメリカ政府は、イスラエル人入植者によるパレスチナ人の集落攻撃は「容認できないことで、やめさせなくてはならない」とコメントした。
ホワイトハウスの安全保障会議(NSC)報道官は、「イスラエル当局はすべてのコミュニティーを被害から守るため、対策をとらなくてはならない。これには、こうした暴力を阻止するための介入も含まれ、こうした暴力の加害者全員を処罰することも含まれる」とコメントした。
パレスチナ人は、イスラエル治安当局が暴力的な入植者による集落攻撃を容認していると、繰り返し非難している。
国連の人道問題調整事務所(OCHA)によると、昨年10月以来、イスラエル人入植者がパレスチナ人を攻撃する事件は1000回以上発生している。このため、子供660人を含む少なくとも1390人のパレスチナ人が、住む場所を失っている。
入植者によるこうした暴力は、殺傷力を伴うものが多い。OCHAによると、107件の攻撃がパレスチナ人の死傷につながり、859件がパレスチナ人の土地建物など資産への損害につながっている。
ガザ地区での戦争に国際社会の注目が集まる一方で、ヨルダン川西岸などで入植者によるパレスチナ人の暴力も悪化している。このためアメリカ、イギリス、欧州連合(EU)は一部の入植者リーダーに制裁を科しているほか、入植者の前哨地1カ所が初めて丸ごと、制裁対象になっている。【8月16日 BBC】
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今回放火についてはイスラエル軍・政府も厳しく対応していることをアピールしていますが、かねてより“イスラエル治安当局が暴力的な入植者による集落攻撃を容認している”と言われており、入植者の暴力をイスラエル軍は傍観しているとも。
結果、“昨年10月以来、イスラエル人入植者がパレスチナ人を攻撃する事件は1000回以上発生している。このため、子供660人を含む少なくとも1390人のパレスチナ人が、住む場所を失っている。”という状況になっています。
【アメリカも入植者への制裁は行うものの・・・】
アメリカも、イスラエルの暴力は容認していないということを国際的にアピールするためか、入植者への制裁措置を発表しています。
****米、ユダヤ人入植者に制裁 パレスチナ人住民に「過激な暴力行為」****
米国は28日、イスラエルが占領するヨルダン川西岸でパレスチナ人に対する過激な暴力行為を行ったとして、イスラエルの非営利団体とユダヤ人入植者1人に対し制裁を科した。 制裁により、対象者の米国資産が凍結されるほか、米国人との取引が原則的に禁じられる。
米国務省のマシュー・ミラー報道官によると、対象となった入植者は、今年2月に武装集団を率いて道路にバリケードを設置したり、パレスチナ人を居住地から追放しようとしたという。
ミラー氏は声明で「ヨルダン川西岸地区における過激派入植者の暴力は、人々に大きな苦しみをもたらし、イスラエルの安全を損ない、地域の平和と安定を弱体化させる」と述べた。
今回の制裁は、バイデン米大統領が2月に発令した、ヨルダン川西岸地区でパレスチナ人を攻撃したユダヤ人入植者に制裁を科す大統領令に基づく。【8月29日 ロイター】
米国務省のマシュー・ミラー報道官によると、対象となった入植者は、今年2月に武装集団を率いて道路にバリケードを設置したり、パレスチナ人を居住地から追放しようとしたという。
ミラー氏は声明で「ヨルダン川西岸地区における過激派入植者の暴力は、人々に大きな苦しみをもたらし、イスラエルの安全を損ない、地域の平和と安定を弱体化させる」と述べた。
今回の制裁は、バイデン米大統領が2月に発令した、ヨルダン川西岸地区でパレスチナ人を攻撃したユダヤ人入植者に制裁を科す大統領令に基づく。【8月29日 ロイター】
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ただ、このような措置は所詮政治的パフォーマンスに過ぎません。もし、アメリカ・バイデン政権に本当に違法な入植活動を止めさせ、入植者の暴力を止める気があるなら、圧力をかける相手は武器供与停止措置などネタニヤフ首相でしょう。
アメリカ国内では近年パレスチナ支持の声も大きくなっており、バイデン政権も一定に考慮せざるを得なくなってはいますが、やはり基本はイスラエル支持であり、選挙対策を考えるとイスラエルへの武器供与停止などの施策は取れない・・・というのがアメリカの対応であり、パレスチナ問題がいつまでも続く大きな一因です。
【対イラン強硬策で国内支持を回復するネタニヤフ首相】
一方、ネタニヤフ首相はひと頃政治的窮地が言われていましたが、結局、対パレスチナ・対イラン強硬策が国民にしじされたのか、支持を回復しているとか。
****ネタニヤフ氏、支持率回復 対イラン強硬で押し上げ****
イスラエルのネタニヤフ首相が世論調査で支持率を回復させている。昨年10月7日のイスラム組織ハマスの奇襲で支持率は低迷していた。専門家は、敵対するイランとの緊張が高まるのに伴い、強硬姿勢を示すネタニヤフ氏の支持を押し上げたと指摘する。ただガザの停戦交渉を望む民意も強く、交渉に後ろ向きな同氏の立場は盤石ではない。
ガザ側の死者数が4万人に近づいていた8月7〜8日にマーリブ紙が実施した世論調査では「どちらが首相に適任か」との問いに、ネタニヤフ氏は42%、戦時内閣を離脱したガンツ前国防相は40%だった。
両氏を比較したネタニヤフ氏の支持率は奇襲前の昨年9月下旬の調査ではガンツ氏を上回る44%だったが、奇襲直後の同10月中旬は29%に急落。その後は30%台を中心にじわじわ上がった。
イランでハマスの最高指導者が暗殺され、イランはイスラエルの犯行として報復を宣言。
イスラエル紙ハーレツによると、世論調査の専門家は、国民がこれらの出来事でネタニヤフ氏を評価した可能性があると分析している。【8月29日 共同】
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国民は結局“力の誇示”を好む・・・ということでしょうか。
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