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(クリミアを訪問したフランス議員団 【7月26日 Sputnik日本】)
【原油価格に不利なイラン核問題合意にロシアも協力】
ロシア経済については、5月23日ブログ「ロシア 輸入代替で経済制裁・原油価格下落の打撃は軽減 アメリカの対ロシア政策は?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150523)で取り上げたことがあります。
ウクライナ問題で欧米から経済制裁を受けていること、また、国家財政の柱である原油の価格が低落していることで、マイナス成長の苦しい状況にあることは間違いないようです。
****ロシア内務省職員11万人を解雇、経済苦境でプーチン氏****
ロシアのプーチン大統領は25日までに、同国内務省の職員約11万人を大量解雇する大統領令に署名した。総数の1割に相当し、同省の職員数は今後100万人をわずかに超える水準にとどめられる。
ロシア経済は現在、原油価格の低落やウクライナ危機に絡む欧米の経済制裁などで打撃を受け、近年では最悪規模とされる苦境に陥っている。今回の大規模な公務員削減計画はこの窮状の克服を図る対策の一環となっている。
内務省での解雇対象の大半は事務部門となる。同省は、警察、治安担当の民兵組織や道路の安全管理対策部門などを抱える。
ロシア政府は今年、政府省庁の予算を国防関連を除き、一律10%削減する措置を発表。プーチン氏は今年3月、自らの報酬1割減も打ち出していた。
ロシア経済は今年1~3月の第1四半期で2.2%のマイナス成長を記録。国際通貨基金(IMF)は今年通年は3.8%、来年は1%以上のマイナス成長を予測している。
ロシア政府によると同国の失業率は今年6月に5.4%に増加した。前年同月は4.8%だった。【7月25日 CNN.co.jp】
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ただ、5月23日ブログでも紹介したように、プーチン大統領に政策転換を直ちに迫るほどには打撃を受けていないとの見方があります。
先日のイラン核問題の協議においても、ロシアは基本的には欧米と同調して合意推進の姿勢を示しています。
イラン核問題が合意できて、イランが原油輸出を再開する状況になれば、ロシアが頼みとする原油価格は更に下落すること、あるいは価格上昇が遠のくことが予想されます。
それでも、政治的理由から合意推進の立場をとるということは、ロシア経済が決定的には追い込まれていないとも考えられます。
****イラン核合意を支えた思惑****
イランの核問題をめぐる協議が終了した翌日、オバマ米大統領はロシアのプーチン大統領に電話をかけた。合意成立に協力したプーチンに感謝するためだ。
近頃の欧米とロシアのとげとげしいムードからすればロシアの協力姿勢は、イランが制裁解除の条件をすんなり受け入れたこと以上に、驚くべき展開だった。
ロシアを含む国連安全保障理事会は先週、イランとアメリカなど6力国が取り決めた核合意を正式に承認した。これにより安保理決議による制裁は、イランの合意内容履行が確認され次第、解除されることになる。
核合意にはいわゆる「スナップバック」条項が含まれている。イランが合意内容に違反したら、安保理の決議を経ずに自動的に制裁が復活するというものだ。
この異例の条項が設けられたのは、安保理の常任理事国にイラン寄りのロシアと中国が含まれているからだ。再びイランに制裁を科す必要が生じたときに、ロシアか中国が拒否権を行使すれば困った事態になる。
プーチンにとって安保理における拒否権は大国の証しだ。みすみすそれを放棄するような条項をなぜ認めたのだろう。
中国が核協議で欧米と歩調を合わせた理由は分かる。中国はイランの最大の貿易相手国であり、イランの制裁が解除されれば大きな経済的メリットがある。
だが、ロシアの場合はそれほど単純ではない。制裁解除でイランがエネルギー輸出を再開すれば、ロシア経済の息の根を止めてきた原油と天然ガス価格の下落は一段と進む。
おそらくプーチンは自国の経済的な利益よりも地政学的なメリットを重視しているのだろう。
制裁を解除すれば、イランは再び中東でアメリカとサウジアラビアに対抗する地域大国になる・・・米議会のタカ派はそう主張して核合意に反対してきた。
プーチンも彼らと同じ意見のようだ。ただしプーチンにとっては、イランの影響力拡大は脅威ではなく、好都合な事態なのだ。【8月4日号 Newsweek日本版】
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【相次ぐ欧州議員団のクリミア訪問 イタリア首相とも・・・・】
一方、欧州側には、このところロシアとの関係改善を模索する動きが観られます。
****仏議員団、クリミア訪問=ウクライナなど批判、ロシア歓迎****
フランス最大野党・共和党などの議員団は23日、ロシアが編入したウクライナ南部クリミア半島を訪問した。タス通信が伝えた。
ロシアに制裁を科す先進7カ国(G7)からの本格的な議員団によるクリミア訪問は初めて。
ロシアの事実上の支配を認めることになりかねず、ウクライナ、フランスの両政府が批判している。
議員団は、サルコジ前大統領が党首を務める共和党などの10人。目的について、3月の鳩山由紀夫元首相同様「編入後の住民の状況を視察するため」と説明した。訪問前、モスクワでロシアのナルイシキン下院議長と会談し、仏ロ議員間の対話再開が重要だと強調した。
以前にフランスとイタリアの右派政党党首がクリミアに招かれたことはあった。今回の議員団訪問にロシアは「これまで欧州連合(EU)加盟国から公式代表団がなかったのに比べ、主流派で画期的」(プシコフ下院外交委員長)と大歓迎している。【7月24日 時事】
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当然にフランス政府は反対しており、出発前にフランス外務大臣からクリミア訪問をキャンセルするように圧力もあったようです。
マリーヌ・ルペン氏率いる右翼政党「国民戦線(FN)」ではなく、最大野党・共和党などの議員団というのが驚きです。
議員団メンバーは「ニコラ・サルコジはこの問題について、さらに大きな感激を示しさえした。彼自身が時期を見てクリミアにお邪魔することも極めて現実的な話だ」と語っていますが、サルコジ前大統領や共和党幹部が今回訪問をどのように評価しているかは知りません。
訪問団のリーダーである共和党議員ティエリ・マリニ氏は以下のように語っています。
「フランスは世界で第三の対ロ投資国である。多くのフランス企業がロシアに支部を展開している。制裁導入後も誰もロシアを撤退しなかった。つまり、多くの企業が、ここにとどまり、未来を信じることを望んでいるのだ。むろん欧州の対ロ政策および制裁はビジネスの発展を難しくしている。関係を維持することが我々の共通の利益であり、具体的にクリミアで何が出来るのかは知らないが、クリミアには巨大なポテンシャルがあると思う」【7月23日 Sputnik日本】
また、クリミアを訪問してマリー・クリスティン・ダロス議員は、「私たちはここで、ロシアへ戻ったクリミアで暮らす幸せそうな人々を目にしました。私たちは、若者たちと交流しました。ここの様子は、私たちの国で伝えられているクリミアとは驚くほど異なっていました。私はここで、とても親切な人たちと出会いました。私たちの国で考えられているクリミアは、全く別のものです」【7月24日 Sputnik日本】と語っています。
鳩山元首相の訪問とよく似ています。
鳩山元首相のクリミア訪問は日本では狂気の沙汰のような捉え方がされていましたが、ことの是非は別にして、それほど宇宙人的な突拍子もないことでもないようです。
イタリアにも同様の動きはあります。
****伊議員団がクリミア訪問へ=G7で2例目―ロシア紙***
ロシア経済紙コメルサント(電子版)は28日、イタリア新興政党「五つ星運動」の議員団が10月上旬にも、ウクライナ南部クリミア半島を訪問する方向だと伝えた。ロシアの事実上のクリミア支配を認めることになりかねず、ウクライナなどが批判しそうだ。
ロシアに経済制裁を科す先進7カ国(G7)の議員団訪問としては、7月23、24両日のフランス最大野党・共和党に続き2例目となる。
イタリアは、レンツィ首相がプーチン大統領と3月にモスクワ、6月にミラノで会談を行うなど、政府もロシアと関係改善を進めており、制裁緩和の糸口を探っているとみられる。【7月29日 時事】
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イタリアの議員団は既成政治に反発する新興政党「五つ星運動」によるものですから“ありそうな話”ですが、レンツィ首相とプーチン大統領の間で話し合いが進んでいるということで、政府間の関係改善につながる可能性もあります。
【改善は見られないウクライナ情勢】
しかし、ウクライナ問題が進展しない現状では、欧州とロシアの関係改善も現実問題としては難しいように思われます。
ウクライナ・ポロシェンコ大統領、停戦合意(ミンスク合意)に沿って、東部に「特別な地位」を与える憲法改正手続きを開始してはいますが、親ロシア派の意向は無視した形となっていますので、直ちにこれで紛争が落ち着くというものでもないようです。
****「自治権付与」へ改憲案=親ロ派の同意なし―ウクライナ大統領****
ウクライナのポロシェンコ大統領は16日、東部の親ロシア派との停戦合意に基づき、改憲案を最高会議(国会)に提出した。改憲は「特別な地位」(高度な自治権)の付与に必要だが、政権は親ロ派の同意を得ないまま一方的に改憲を進める構えだ。
大統領は「ウクライナは単一国家だ」と演説。改憲案では、特別な地位を恒久的ではなく、一時的な措置にとどめた。支持率が低迷する中、親ロ派にさらに譲歩すれば、反ロシア派一色の国会で弾劾される恐れがあるためとみられる。
親ロ派は「停戦合意違反」「憲法に特別な地位を(恒久的に)明記するよう求める」と訴え、強く反発した。東部では死傷者を伴う戦闘が再燃しており、和平プロセスが頓挫すれば、停戦崩壊が現実味を帯びそうだ。【7月17日 時事】
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また、北大西洋条約機構(NATO)がウクライナ西部で20日から開始した合同軍事演習に、ロシアは反発を強めています。
****西部で米など軍事演習=「停戦危機」とロシア反発―ウクライナ****
ウクライナ西部リビウ州で20日、北大西洋条約機構(NATO)加盟国などの年次合同軍事演習「ラピッド・トライデント」が始まった。米国など18カ国の約2000人が参加。
ウクライナ軍報道官は「過去最大規模で(親ロシア派と戦闘が続く)東部情勢を考慮した」と強調した。
ロシア外務省は20日、演習を受けて声明を出し「挑発路線」とNATOを批判。ウクライナ東部の停戦合意を危機に陥れると訴えた。
ロシアは自国による軍事介入を認めない一方、停戦合意で義務付けられた「外国部隊のウクライナ撤退」の文言を根拠に米軍主導の軍事演習を非難している。【7月21日 時事】
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更に、ロシア軍の当局者は、去年併合したクリミアに、核兵器も搭載できる中距離爆撃機を配備する計画を明らかにしています。
****ロシア クリミアに中距離爆撃機配備を計画****
・・・・そのうえでこの当局者は「アメリカがルーマニアで進めるミサイル防衛システムの配備計画への対抗措置の一つだ。将来的には連隊規模に拡大する可能性もある」と説明し、実際に中距離爆撃機が配備されれば、ウクライナや欧米の反発は避けられないものとみられます。
ロシアはこれまで、アメリカがヨーロッパで進めるミサイル防衛システムの配備計画について、地域の軍事的なバランスを崩すとして繰り返し非難してきました。
このためロシアとしては、ヨーロッパに近いクリミアに核兵器を配備することも辞さない構えを示すことで、クリミアはロシア領だと改めてアピールするとともに、アメリカに対しミサイル防衛システムの配備計画の撤回を強く迫るねらいがあるとみられます。【7月23日 NHK】
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もし計画が実現すると、ロシアの思惑とは“核搭載機の事故”という別の問題も懸念されます。
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ロシアはウクライナ危機を背景に戦闘機や戦略爆撃機などを活発に国境付近で飛ばしている。
だが、今月14日、極東ハバロフスク地方で、戦略爆撃機のTU95MCが訓練飛行中に墜落し、搭乗員2人が死亡した。同型機は6月にも極東アムール州で離陸に失敗し、搭乗員が重軽傷を負ったばかり。
ほかにも6月以降、ミグ29など戦闘機4機の墜落事故が相次いでおり、ロシア空軍の活動活発化に人員増強や機体整備が追いついていないとの観測もある。【7月22日 毎日】
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なお、ロシア空軍のボンダレフ総司令官は27日、クリミア半島に核兵器の搭載が可能な爆撃機を配備する計画は現状では存在していないと述べています。
更にもうひとつ。
****マレーシア機撃墜、国際刑事法廷設置にロシアが拒否権****
昨年7月にマレーシア航空機がウクライナ東部の上空で撃墜された事件をめぐり、国連安全保障理事会は29日、刑事責任を追及するための国際刑事法廷の設置を求める決議案を審議した。
15カ国中11カ国が賛成したが、常任理事国のロシアが拒否権を発動し、決議案は否決された。中国など3カ国は棄権した。
決議案はマレーシア、豪州、オランダ、ベルギー、ウクライナが共同で作成していた。ロシアのチュルキン国連大使は「刑事法廷の設置は時期尚早だ」と反対の理由を述べたが、米英など賛成した国からはロシアの姿勢を批判する声明が相次いだ。【7月30日 朝日】
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なお、ロシア国内では、マレーシア撃墜はウクライナ政府軍にるものとの報道がなされていますので、ロシア国民の多くはそのように考え、世論調査によれば(ウクライナ政府の犯罪を追及することになる)国際刑事法廷設置に賛成する声が多いようです。
(藤森信吉氏 「ウクライナ時事評論」7月28日 http://masteru.seesaa.net/article/423138229.html )
こうした状況を考えると、直ちに欧州・ロシア関係が動くことは難しそうです。
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