孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  極東ハバロフスクで続く「地方の反乱」

2020-08-01 22:18:43 | ロシア

(7月25日、ロシア極東のハバロフスク地方でフルガル知事の逮捕に抗議する大規模なデモが行われた。デモは3週末連続で行われている。写真は7月25日、ハバロフスクで撮影【7月27日 ロイター】)

 

【「デモの主な動機は知事の逮捕以上に、地方の運命がモスクワで決定されていることへのいらだちだ」】

憲法改正を成功させ、大統領再選への道を切り開いた・・・かのようにも見えるロシア・プーチン大統領ですが、極東ハバロフスク地方において約15年前の殺人容疑で現職知事(体制内野党所属)が逮捕されたことをきっかけに、中央に対する地方の不満が噴出。

 

抗議デモは「反プーチン」の性格を帯び、知事の逮捕から3週間余りたった今も続いており長期化しています。

 

****露極東で大規模デモ 知事逮捕に住民反発 中央集権のほころび露呈****

ロシア極東ハバロフスク地方で今月中旬以降、反プーチン政権デモが続いている。殺人容疑で現職知事が逮捕されたことをきっかけに、中央による地方軽視への不満が噴出した。

 

近年のロシアでは別の地域でも同様のデモが発生。プーチン政権下で構築された強固な中央集権システムの“ほころび”が表面化しつつあるとの見方も出ている。

 

逮捕されたのはハバロフスクのフルガル知事。2004〜05年に極東地方で起きた複数の殺害事件などに関与した疑いで、9日に露治安当局に身柄を拘束された。フルガル氏は容疑を否認。プーチン大統領はフルガル氏を解任した。

 

地元実業家出身のフルガル氏は18年の知事選でプーチン政権の与党「統一ロシア」候補に圧勝し、知事に就任した。自ら報酬を削減するなど市民に近い姿勢で地元では人気が高く、プーチン政権とは一線を画して独自の政治基盤を構築してきた。

 

そのため地元では逮捕が「地方自治への圧力」と受け止められ、フルガル氏が所属する自由民主党のジリノフスキー党首は「政治事件だ」と反発。

 

ハバロフスク市では11日、逮捕への抗議デモが発生し、その後も拡大。露経済紙ベドモスチによると、18日には同市の人口の約10%に相当する5万人以上が参加した。

 

デモではフルガル氏釈放の要求とともに、「モスクワは私たちを放っておけ!」などと、中央政府への批判もスローガンに掲げられた。同紙は「デモの主な動機は知事の逮捕以上に、地方の運命がモスクワで決定されていることへのいらだちだ」と指摘した。

 

実際、石油価格下落などで財政難が続くプーチン政権は近年、限られた資本をモスクワなど大都市に集中的に投資。政権が掲げる極東などの大規模開発計画は予算不足でかけ声だけで終わっている。

 

露専門家の間では、デモ以前から「地方では『中央に搾取されている』との不満が強まり、自治意識が高まっている」と分析されていた。

 

“反中央”とも呼べるデモは近年、別の地方でも起きている。露北西部アルハンゲリスク州では18年、プーチン政権派の知事が住民への説明もなくモスクワのごみの受け入れを決め、大規模な抗議デモが発生。知事は解任されたが、抗議活動は現在も続いている。

 

プーチン氏は20日、ハバロフスクの知事代行に自民党のデクチャリョフ下院議員を任命。同党から知事を選ぶことで沈静化を図ったとみられるが、同氏は地元とのつながりを持たず、反発が収まるかは不透明。ベドモスチは「今の粗雑なモスクワの中央集権主義では国家の一体性が揺らぐ可能性がある」と指摘した。【7月22日 産経】

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“デモ隊は「プーチン大統領は辞任せよ」などと叫びながら行進。取り調べのためモスクワに移送されたフルガル知事について、ハバロフスクに送還して地元で裁判を行うよう要求した”【7月27日 ロイター】とも。

 

【「クレムリンに盾突く知事は許さない」見せしめ国策捜査 中央に反発する極東のメンタリティ】

ワイルド資本主義のロシアのことですから、フルガル氏が実際に商売敵の殺人に関与したとしても驚きではありませんが、今になってその件が表面化したことには「国策操作」の政治的思惑が強く感じられます。

 

****プーチンの国策捜査に反旗を翻すハバロフスク ロシア極東は燃えているか****

国策捜査の匂いがプンプン

7月9日に大事件がありました。ロシア極東のハバロフスク地方で、フルガル知事が殺人容疑で逮捕されたのです。

 

フルガル知事は、2018年9月の知事選挙で、体制派の現職候補を破って当選した、野党「ロシア自由民主党」の政治家です。その当選自体がセンセーショナルだった上、知事就任後もプーチン政権の意に沿わない行動を続け、クレムリンからにらまれていました。

 

9日の逮捕の模様は、捜査当局によって撮影され、知事が係官によって押さえ付けられ車で護送されていく様子が、ニュース番組やネットで広く拡散されました。いかにも「見せしめ」の雰囲気が漂い、「クレムリンに盾突く知事は許さない」という警告を国全体に発しているとしか思えませんでした。

 

もちろん、フルガルが実際に殺人に関与していたのだとしたら、とんでもないことであり、法で裁かれてしかるべきです。まあ、確かに、地元で剛腕の実業家として頭角を現した人物であり、ロシアのワイルド資本主義の中では、商売敵を消してしまうようなことも、実際にあったのかもしれません。

 

しかし、容疑は2004年から2005年にかけてのものであり、今頃になって逮捕されるのは不自然です。

 

翻って、与党「統一ロシア」に所属する体制派の知事たちには、やましいことは一つもないのでしょうか? やはり、この状況下でフルガル知事が狙い撃ちにされたのは、国策捜査の疑いが濃厚であると、考えざるをえません。7月1日の改憲国民投票という山を越えたタイミングでの逮捕というのも、いかにも露骨です。

 

フルガル人気を読み解く

日本からも至近の極東エリアは、ロシアの中でも、最も反プーチン政権感情が強いところです。ハバロフスク地方では、フルガル知事はプーチン大統領よりもはるかに人気があるなどとも言われていました。

 

フルガル逮捕の一報を受け、地元民はハバロフスク中心部での抗議デモに馳せ参じ、7月11日には2万〜3万人程度が集結したということです。

 

ロシア連邦政府で、極東政策の責任者になっているのが、トルトネフ副首相・極東連邦管区大統領全権代表です。フルガル逮捕を受け、現地入りしたトルトネフ副首相は、「ハバロフスク地方行政府の仕事振りは、芳しくなかった」とコメントしました。(中略)

 

フルガルの場合は、むしろプーチン体制の既存の秩序に挑戦することで、異彩を放っていました。確かに、就任してからの1年数ヵ月で、ハバロフスク地方の経済・社会生活を改善できたわけではなく、支持率も低下傾向にはありました。

 

それでも、クレムリンを向こうに回してでも地元の利益を守ろうとするその姿勢は、住民から評価されていました。だからこそ、知事の逮捕に反発し、多くの住民が自発的にデモに参加したのです。

 

また、ポピュリズムと言ってしまえばそれまでですが、フルガルは知事就任後、自らの報酬を削減したり、以前の知事が国費で購入した高価なヨットを売却したりと、住民受けする措置を打ち出しました。エリートではなく、庶民の代表という立ち位置を明確にしたのです。

 

この点も、地元民の感情にアピールした点だったと思います。普通、庶民はお偉いさんが逮捕されたりすると喜ぶものですが、ハバロフスク地方に限っては違っていました。

 

自由民主党=極右は表層的

ここで、フルガルの所属するロシア自由民主党の位置付けについて解説しておきます。かつてジリノフスキー党首が日本との領土問題で過激な発言をしたりしたため、我が国でも、ロシア自由民主党は極右政党と呼ばれることがあります。

 

しかし、実際には自由民主党の過激な主張は国民を楽しませるためのエンターテインメントという側面が強く、ジリノフスキー党首も道化としての自分の役割を自覚しているフシがあります。

 

プーチン体制のロシアでは、「統一ロシア」が与党ですが、自由民主党、共産党、「公正ロシア」は「体制内野党」と呼ばれ、プーチン政権から無害なものとして(あるいは複数政党制を演出するためのものとして)その存在を認められています。ジリノフスキー率いる自由民主党は、あくまでもその枠内で党勢を拡大したり、金銭的な利益を追求したりすることを目的としているわけです。

 

2018年9月のハバロフスク地方知事選挙で、与党候補を勝たせられなかったのは、クレムリンの失態でした。ただ、自由民主党の知事が誕生したことは、必ずしも破局的な事態ではありませんでした。同党は反体制野党ではないからです。

 

しかし、知事の座に就いたフルガルは、既存のゲームのルールを尊重しようとせず、クレムリンを苛立たせます。殺人容疑での今回の逮捕は、その帰結であると考えるのが自然でしょう。

 

(中略)ジリノフスキー率いる自民党の本部はハバロフスクのデモには関与していない模様であり、同党としては当地における党の利益が守られるなら、事を荒立てないものと見られます。

 

プーチン改憲への支持も低調

前々回のコラムで取り上げたとおり、ロシアでは7月1日に改憲の是非を問う国民投票が実施され、有権者の53.0%が賛成票を投じたと発表されました。(中略)公式発表を鵜呑みにしていいのかという疑問は残るものの、一定の傾向は読み取ることができるはずです。

 

(中略)極東では(人口の少ないチュクチ自治管区、ユダヤ自治州を除いて)ほぼすべての地域で、改憲への支持が全国平均を下回りました。極東全体では支持は40.8%に留まり、今回フォーカスしているハバロフスク地方に至っては27.6%と全国屈指の低さです。

 

極東の中でも、経済面で比較的潤っているサハリン州や沿海地方では、全国平均に近い賛成票が投じられました。特に、沿海地方とハバロフスク地方のコントラストは、注目に値します。

 

以前、「『ロシア極東の首都』の座を明け渡したハバロフスク」の回で述べたとおり、2018年12月にハバロフスクは極東の首都という地位を沿海地方のウラジオストクに奪われてしまったのです。「沿海地方に比べて、我々は冷遇されている」というハバロフスク地方住民の不満が、国民投票の結果にも表れているような気がします。

 

それにしても、皮肉な状況です。プーチン政権は、極東のことを決して軽視しているわけではないのです。

いやむしろ、2012年のAPECサミットに向けウラジオストクを大開発しただけでなく、新型特区など様々な政策手段を駆使して、極東経済の底上げを図ってきました。

 

欧米との関係が冷え込む中で、中国との協力を軸とした「東方シフト」の重要性が増し、極東はその窓口と位置付けられています。プーチン大統領は、毎年9月にウラジオストクで開催している「東方経済フォーラム」を主宰し、アジア太平洋の繁栄をロシア極東の発展に繋げるべく、努力を重ねてきました。

 

極東の特殊なメンタリティ

このように、プーチン政権としてはそれなりに極東を重視してきたはずなのに、地元民が拒絶反応を示しているのは、なぜなのでしょうか?(中略)

 

果たして、今回のハバロフスク地方の反乱が、極東の他の地域にも飛び火したり、さらにはロシア全体を揺るがすようなことはあるのでしょうか? 今年秋の統一地方選挙、来年の連邦議会下院選挙の動向に注目したいと思います。【7月21日 GLOBE+】

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極東ハバロフスクにおける強い反中央感情については、

中央との経済・生活水準格差、極東発展のためとされる事業に地元民が関与しておらず、その恩恵を享受できてないこと、

“極東においては、自分たちは帝国の辺境、国境地帯に生きているという感覚が生々しく残っており、そこでは従順は美徳ではない”といったメンタリティ、

多くが帝政期やソ連時代に当地に流刑されたりした人々の子孫であり、自分で何とかするというメンタリティ

などが挙げられています。

 

ハバロフスクでの抗議デモは、全ロシア的にも一定に支持されているようです。

 

****ロシア極東デモ、45%が支持 世論調査、国民の政権不満裏付け****

ロシア極東ハバロフスクで続く地元知事の拘束・解任への抗議デモについて、ロシア国民の45%が支持していることが28日、独立系調査機関「レバダ・センター」が発表した世論調査で分かった。

 

デモは「地方のモスクワに対する反乱」と受け止められ、プーチン政権は各地への飛び火を警戒している。調査は国民の半数近くが政権への不満を共有している状況を裏付けた。(後略)【7月29日 共同】

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【政権は静観の構え】

プーチン政権は、いまのところはあまり事を荒立てず沈静化を待つ方針のようです。

 

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支持率が低迷する中でプーチン氏の続投を可能にする憲法改正が全国投票で成立したばかりだ。

 

反政権派の無許可デモは厳しく抑え込むプーチン政権が、今回のデモにほぼ静観を続ける。警官はほとんど参加者を拘束していない。

 

9月に統一地方選、来年に下院選を控え、中央への反発が他の地方にも拡大するのを恐れているとみられる。【7月21日 朝日】

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ロシアのもうひとつの特殊な地域チェチェンについても書くつもりでしたが、長くなったので、チェチェンについてはまた別機会に。

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