(11年9月 東部クナール州のタリバン兵士 「彼らは戦闘が好きなだけだ・・・」となると、和平も期待できません。 “flickr”より By PAKHTUN http://www.flickr.com/photos/pakhtun/6169844568/ )
【和平交渉の窓口として機能?】
一昨年から継続しているタリバンの拠点エリアである南部地域での大規模掃討作戦、米軍撤退の一部開始などもありましたが、昨年のアフガニスタン情勢は、一言で言えば、“相変わらず”といったところでしょうか。
****昨年の国際部隊死者566人=最悪脱するも2番目の多さ―アフガン****
アフガニスタンに展開する米国など駐留国際部隊の死者は2011年に566人だったことが1日、AFP通信の集計で明らかになった。アフガン戦争開戦以来最悪を記録した10年の711人からは減少したが、過去2番目の多さ。タリバンなど反政府勢力による抵抗が依然根強い実態が浮き彫りになった。【1月1日 時事】
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戦闘が膠着するなかで、タリバン側がドーハに事務所を設置することでアメリカと暫定合意したと報じられており、和平交渉に向けた“政治解決への一歩”とも評されています。
****タリバンがカタールに事務所設置へ=アフガン戦争、政治解決へ一歩****
アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンのムジャヒド報道官は3日、時事通信に対し、中東カタールの首都ドーハに国際社会との連絡窓口となるタリバンの事務所を設置することで米国などと基本合意したと明らかにした。開設時期や具体的な役割については言及を避けたが、主な戦争相手である米国との和平交渉の窓口として機能するとみられる。
アフガンのカルザイ政権は停滞を続けるタリバンとの和平交渉を軌道に乗せるため、第三国におけるタリバン事務所の開設を働き掛けていた。開戦から丸10年が過ぎたアフガン戦争は政治的解決に向けて一歩踏み出したと言える。
タリバンは3日、ムジャヒド報道官名義の声明で、「アフガンへの侵攻に終止符を打つ目的は以前から何も変わっていない」と宣言しつつ、カタールを含む海外に事務所を設置する考えを初めて明らかにした。
ムジャヒド報道官は取材に対し「事務所を開設しても、米国への攻撃をやめることを意味しない」とする一方で、カタール事務所が米国との話し合いの窓口になるとの考えを示唆。和平に向け、対米交渉路線に転じていることをうかがわせた。【1月3日 時事】
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タリバンはこれまでアフガニスタンに海外部隊が駐屯するかぎり交渉に応じないと主張しており、和平交渉に応じる可能性を公的に示唆したのは今回が初めてとのことです。
【「事務所を開設しても、米国への攻撃をやめることを意味しない」】
ただ、アフガニスタンでは上記発表があった同日の3日、南部のカンダハルで3件の爆発が起き、タリバンは1件目の爆発についての関与を発表しています。【1月4日 AFPより】
また、アメリカ側も、タリバンが武力を放棄しない限り、アフガニスタンでの和平交渉は実現しないとしており、事務所開設暫定合意が“政治解決へ一歩”となるかどうかは、かなりの疑問があります。
****アフガン南部で3件連続テロ、計11人が死亡****
アフガニスタン南部カンダハル市内で3日、爆弾テロが相次ぎ、カンダハル州政府報道官によると計11人が死亡、32人が負傷した。
3件の爆発のうち最初のものは検問所を狙った自爆テロとみられ、警官と子どもを含む計5人が死亡、13人が負傷した。続いて墓地に仕掛けられた爆弾が爆発し、警官が駆けつけたところに今度は爆発物を積んだバイクに乗る男が突っ込んで自爆した。この2件では警官と市民の計6人が死亡、19人が負傷した。
犯行声明は出ていないが、アフガンの旧支配勢力タリバンによるテロの可能性がある。タリバンは3日、和平交渉に向けカタールに事務所を開設する方針を発表したが、タリバン報道官はその際、「我々の国内での地位は確固たるものだ」と強調していた。【1月4日 読売】
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【オマルの存在すら幻かもしれない】
タリバンとの和平交渉にあまり大きな期待ができない理由が、下記Newsweek記事「タリバンは永遠に戦い続ける」から窺えます。
第1に、タリバン側の絶対的権限を有する最高指導者オマル師の存在が、その生死を含め、タリバン内部においてさえ定かでなく、和平に向けた指揮系統が機能していないことです。
****指揮系統なき武装集団****
・・・・「(最高指導者のムハマド・)オマル師が和平交渉の意向を示したら、支持者たちは仰天するだろう」
とはいえオマルの考えを知る者はいない。何しろ10年前にアフガニスタンから脱出して以来、公の場に姿を見せたことがないのだ。いずれにせよ、現時点で和平交渉は現実的ではない。
タリバンとの和解を模索する高等和平評議会の議長だったブルハヌディン・ラバニ元大続領が9月に暗殺されて以来、カルザイはタリバンヘの働き掛けを中止している。
・・・もっとも和平への最大の障害は、タリバンが無数の勢力に分かれ、統一された指揮系統が存在しない点かもしれない。彼らを結び付けるのは、アメリカヘの憎悪とオマルヘの忠誠心だけ。しかも、そのオマルの存在すら幻かもしれない。タリバン幹部でさえオマルとされる人物にごく短時間、あるいは間接的にしか接触できない。
「クエッタ・シューラがオマルと常に接触できるわけでない点はわれわれの弱点の1つだ」と、前出の上級司令官は言う。「しかも、オマル以外の誰もタリバンを代表できない」
その結果、権力の中枢に空白が生まれ、和平交渉や国の未来といった重要課題に取り組む正式な窓口は存在しない。「軍事指導者らは兵士たちに和平のビジョンを示せていない」と、元大使は言う。【1月4日号 Newsweek日本版】
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今回の「事務所開設」について、タリバン内部でどのような意思決定がなされているのでしょうか?
【パキスタンにとっては、アフガニスタンにタリバンが存在し続けることこそ国益】
和平交渉が期待できない第2の理由は、タリバンの実質的後ろ盾であるパキスタンが和平を望んでいないことです。
****タリバンとISIの連携****
戦いを止められる唯一の存在があるとすれば、それはパキスタンだ。パキスタンが安全な拠点を提供する限りタリバンに敗北は訪れないが、パキスタンはタリバンを厚遇することで彼らの生殺与奪の権限を手中に収めているともいえる。「パキスタンはいつでもわれわれを捕らえ、殺害できる」と、前出の元外務省スタッフは言う。
・・・・・「パキスタンが水やりを止めれば、タリバンという『木』は枯れてしまう」と、元大使は言う。クエッタ・シューラとタリバン随一の過激組織ハッカニ・ネットワークがアフガニスタンに追い返されれば、タリバンの先行きは長くないだろう。
厄介なのは、タリバンに和平交渉参加を働き掛けるか否かの判断に、パキスタンの戦略的利害が絡むことだ。しかも、パキスタンの利益が常にアメリカの利益と合致するわけではない。
アメリカはアフガニスタンに強力で自立的かつ国家主義的な中央集権国家をつくりたいと考えているが、パキスタンはその構想を警戒している。
インドに包囲される事態を最も恐れるパキスタンにしてみれば、弱体のカルザイ政権でさえ、インドの経済的関与を歓迎する点で潜在的な脅威に映る。
強力なアフガニスタン政府が誕生したら、パキスタンとの往年の領土争いが再燃するとの懸念もある。
・・・・パキスタンにとっては、アフガニスタンにタリバンが存在し続けることこそ国益になる。
パキスタンは和平よりも戦闘を推進しているようだ。複数のタリバン指導層が本誌に対し、パキスタンの情報機関である軍統合情報局(ISI)がこの数カ月間、タリバンヘの直接的関与を強化していると語っている。
タリバンの戦略策定に今も携わる前出の元大使によれば、2年前にはISIと直接接触する司令官はごく一部だったが、今では数百人の司令官の少なくとも半数がISIと緊密に連携し、パキスタンから軍備の供給まで受けているという。
・・・・それだけではない。この副司令官を含む複数の情報源が、アフガニスタン南部と東部のタリバン勢力にパキスタンが強力な爆薬を提供していると証言する。
・・・・もちろんパキスタンは相変わらずタリバンヘの支援を否定している(アメリカは、カブールのインターコンチネンタルホテル襲撃テロなどにISIが直接関与した証拠を握っているが)。
悪化の一途をたどる米パ関係は、いH月にNATO軍が国境付近を空爆してパキスタン兵24入を死亡させた事件を機に、さらに悪化した。パキスタン各地で反米デモが吹き荒れるなか、パキスタン政府は米軍のアフガニスタンヘの主要物資供給ルートを閉鎖。これで、パキスタンがタリバンに交渉参加の圧力をかけるというアメリカのわずかな望みも断たれた。【同上】
【「彼らは戦闘が好きなだけだ。それが終わりのない無意味な戦いだとしても」】
和平交渉に多くを期待できない第3の、そして最も根源的理由は、戦争しか知らない人生を送ってきた多くのタリバン兵士にとっては戦いこそが人生であり、和平など考えていないように思えることです。
“ジハード”といった宗教的理由とか、アメリカの侵略に対する戦いとか・・・そうしたもの以前の、戦闘行為に対する基本的認識の問題です。「タリバン兵士でも、本当は平和な生活を望んでいる・・・」ということであればいいのですが。
****戦争しか知らない人生*****
戦争がどれほど長期化してもタリバン戦闘員の大半は気にしないようだ。彼らの成人後の人生は戦争しかなかった。
「18歳でジハード(聖戦)に加わった」と、前出の上級司令官は言う。「今は48歳でひげが白くなった。傀儡のカルザイ政権を倒しても平和はやって来ない。近くの外国がヘビのように戦いを仕掛けてくるだろう」
タリバンの元大使も、「この戦争に終わりはない。タリバンは平和を信じていない」と言う。むしろ彼らの多くは戦争に取りつかれているように見える。タリバン政権の元外務省スタッフはこう語る。「多くが狂信的で、最終目的を持たずに戦闘を楽しんでいる。彼らに平和という概念はない」
それでも過去2年間、水面下での和平交渉のニュースが何度となく流れている。前出の上級司令官は交渉の可能性を強く否定した上で、タリバンは永遠に戦い続けるつもりだからアメリカの離反工作は無駄だと言う。「われわれは団結し、ジハード精神に満ちた多くの戦士を擁している。和平の選択肢を真剣に考えたことはない」
・・・・「彼らは戦闘が好きなだけだ。それが終わりのない無意味な戦いだとしても」
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タリバン兵士が“戦闘を楽しんで”おり、決定権を持つ最高指導者オマル師の存在が定かではなく、後ろ盾のパキスタンも戦闘継続を望んでいるとしたら、和平などどこにも見出せません。
唯一の可能性は、オマル師がどこかで生存していて、和平に向けた意思を明らかにすることでしょう。
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