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(ベトナムの首都ハノイで2月17日、中国に対する抗議集会が開かれ、市民ら約100人が朝8時半から市中心部の広場に集まりました。集まった人々は約1時間、「我々は中国の侵略行為を忘れない」「西沙(パラセル)諸島と南沙(スプラトリー)諸島はベトナムのものだ」などと訴えました。【2月17日 朝日より】
この種の抗議集会を厳しい管理を行う当局が黙認するのは、国民不満の“ガス抜き”の狙いがあるとも思われます。)
【地対空ミサイル、レーダー、更に戦闘機】
アメリカ・オバマ大統領が東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟10カ国の首脳らを招いた初の会議が2月15日、カリフォルニア州パームスプリングズ近郊の保養施設サニーランズで行われましたが、これを牽制するかのように、西沙(英語名パラセル)諸島に地対空ミサイルを配備するという中国の南シナ海軍事化が同時期に明らかになりました。
****米、軍事化進展にいら立ち=ミサイル配備、反応探る狙いか―中国****
米政府は、中国が昨年の米中首脳会談で南シナ海の軍事拠点化を否定したにもかかわらず、西沙(英語名パラセル)諸島に地対空ミサイルを配備したことに強いいら立ちを示した。
ただ、ミサイル配備は演習目的の暫定的措置である可能性も残されている。
米・東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議とほぼ同じ時期に「公約違反」に踏み込んだ中国には、対中包囲網を狭める米国の反応を探る意図もありそうだ。
西沙諸島のウッディー(中国名・永興)島の浜辺に並んだミサイルを捉えた人工衛星画像を公開した「イメージサット・インターナショナル」社は、「配備は暫定的」と推定。近いうちに恒久配備に必要な施設の建設が始まるとの予想と並び、ミサイル搬入は演習のためで、部隊がいずれ駐留元に帰還する可能性も挙げた。
また、軍事情報誌「IHSジェーンズ・インテリジェンス・レビュー」のニール・アシュダウン氏は配備に関し、重大な軍備増強だが、対艦巡航ミサイルの持ち込みなどに比べ軍事的意味は小さいと指摘。中国政府は、南シナ海の中でも、南沙(スプラトリー)諸島ではなく、中国本土に近い西沙諸島への配備なら「刺激度をより抑えることができると見なしたのではないか」と推測する。
一方、米国は、中国による南シナ海の領有権主張は国際法上認められないとしてフィリピンが起こした仲裁裁判で、中国に不利な判断が出ることに期待を寄せる。
シーライト国防副次官補(南・東南アジア担当)は「裁判所の判断を心待ちにしている」と述べ、5月にも出る結論を踏まえ、国際法を盾に中国をけん制していく構えを示した。【2月18日 時事】
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その後も、中国の南沙諸島でのレーダー施設建設、西沙諸島への戦闘機配備が報じられています。
****<中国>「主権の範囲」と正当化 南沙にレーダー建設****
米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は22日、中国が周辺国と領有権を争う南シナ海・南沙(英語名スプラトリー)諸島のクアテロン(中国名・華陽)礁を埋め立てた人工島に、船舶や航空機の移動を広範囲に探知できる高周波レーダーとみられる施設が建設されていると明らかにした。
中国外務省の華春瑩(か・しゅんえい)副報道局長は23日の定例会見で「状況を把握していない」として確認を避けつつ、「自らの領土での建設は主権の範囲であり、南沙での限定的で必要な防衛措置は国際法が主権国家に認めた自衛権だ」と施設建設を正当化した。(中略)
クアテロン礁は中国が実効支配する南沙諸島の中で最も南に位置しており、昨年12月、米軍のB52戦略爆撃機が飛行した。米国側は誤進入と説明しているが、中国側は同年10月のスービ礁に続く航行の自由作戦で、南沙諸島では海と空と1回ずつ「作戦」が行われたと受け止めている。
南沙でのレーダー設置で、マラッカ海峡方面から航行・飛行する米軍を探知できる範囲が大幅に拡大する。早期に探知することで、米軍に負担をかける思惑もうかがえる。
一方で、中国はクアテロン礁とジョンソン南礁に高さ約50メートルの灯台を建設し、昨年10月から運用を開始している。華副局長は23日の会見で、「メディアは南沙での軍事施設建設ばかりに焦点を当てるのではなく、灯台や漁船の避難施設など国際社会への公共サービスにも注目すべきだ」と強調した。(後略)【2月23日 毎日】
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****中国、西沙に戦闘機=地対空ミサイルに続き****
米FOXニュースは23日、中国軍が過去数日の間に、南シナ海・西沙(英語名パラセル)諸島のウッディー(中国名・永興)島へ新たに戦闘機を展開したと伝えた。米当局者も「中国が戦闘機を配備したことは承知している」と述べ、報道を事実上確認した。
中国は今月に入り、同島に最新鋭の地対空ミサイル「紅旗9」を持ち込み、米国の反発を招いたばかり。批判にもかかわらず、中国は軍事拠点化の試みを続けていることになる。
FOXによれば、米当局がウッディー島で中国軍の戦闘機「殲11」と戦闘爆撃機「殲轟7」の姿を確認した。米当局者はこれに関し、「中国はここ数年の間にウッディー島への『殲11』配備を始めた」と述べ、今回に限った事態ではないと指摘した。【2月24日 時事】
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西沙・南沙諸島で中国と領有権を争う周辺国のなかで、中国への強い姿勢を示しているのがフィリピンとベトナムですが、2月27日のラオスの首都ビエンチャンであったASEAN非公式外相会議において、ベトナムのファム・ビン・ミン副首相兼外相は中国による南沙(スプラトリー)諸島での埋め立てや滑走路建設、西沙(パラセル)諸島でのミサイル設置などの最近の動きを具体的に言及し、「平和と安定を脅かしている」と指摘しました。
オバマ大統領は5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)のための訪日前後にベトナムを始めて訪問する予定で、中国の南シナ海進出などを念頭に、海洋安全保障などで協力強化を図るものと思われます。
【中国との間で発生した戦争 生徒らに「伝えるべき情報」と判断】
ただ、これまで現実に中国と戦火を交えたこともあるベトナムは、中国との関係は安全保障上も、経済的にも極めて重要な関係であることを踏まえ、国内の反中感情が行き過ぎないように慎重な対応を行ってきました。
また、ベトナム共産党内人事においては、2月8日ブログ“ベトナム ズン首相退任の党人事には、「改革」「中国」のほか、「南北」の影響も”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160208)でも取り上げたように、南シナ海問題で中国と対立した実質ナンバー2の「改革派」、グエン・タン・ズン首相が退任し、中国との「歴史的な友好関係」を重視するチョン書記長が留任しました。(この人事が必ずしも対中国政策だけを反映したものでもないことは、2月8日ブログでも触れたとおりです)
中国との関係には配慮せざるを得ないベトナムですが、最近の中国の南シナ海での強硬姿勢はベトナム側にとっては容認できないものであり、ベトナム国内における「中国との微妙な関係への配慮」にも変化が見られます。
****「中国にやられた戦争、教科書の記述増やす」 ベトナム政府、これまでの「中国に配慮」の方針を転換****
中国メディアの環球網によると、ベトナム政府が第二次世界大戦後に中国との間で発生した戦争の記述を増やす考えだ。これまでは中国との「微妙な関係」に配慮していたが、生徒らに「伝えるべき情報」と判断したという。
これまで、極めてわずかな記述しかなかった「中国との3回の戦争」の記述を増やす。1979年に発生した中越戦争では、中国軍がベトナム領内に攻め込んだ。開戦時にベトナム軍主力はカンボジア方面に出撃しており、中国軍は中越国境地帯の複数個所で国境を越え、大兵力でベトナム軍を圧倒しようとした。
しかし、ベトナム戦争で実戦経験が豊富で、装備も優れていたベトナム軍は、ゆっくりと後退しながらも、中国軍に多大な損害を与えた。カンボジア方面から引き返してきたベトナム軍主力が戦場の手前で終結を始めると、中国軍は撤退した。戦闘期間は約1カ月だった。
なお、中国はこの戦争を「対越自衛反撃戦」と呼んでいる。
2つめの戦争は「西沙諸島の戦い」だ。発生したのは中越戦争よりも前の1974年。当時は中国とベトナム共和国(南ベトナム)がパラセル諸島(中国名:西沙群島)をほぼ2分して実効支配したが、中国軍がせめて、ベトナム側を駆逐した。
なお、中国はこの戦争を「西沙群島自衛反撃戦」と呼んでいる。
3つめの戦争は「南沙諸島の戦い」だ。発生したのは1988年。スプラトリー諸島(南沙諸島)のジョンソン南礁(赤瓜礁)で中国海軍とベトナム海軍が衝突し、中国側が勝利して、中国はジョンソン南礁、ファイアリー・クロス礁(永暑礁)、クアテロン礁(華陽礁)、ヒューズ礁(東門礁)、ガベン礁(南薫礁)、渚碧礁を奪取した。
中国ではこの戦争を「赤瓜礁海戦」と呼んでいるが「南沙自衛反撃戦」の呼称もよく使われている。
ベトナム政府はこれまで、中国との「微妙な関係」を考慮して、教科書においてこれらの戦争についての記述を、極めてわずかにとどめていた。ベトナム戦争は歴史専門家と民衆の意見を取り入れて、教科書での記述を増やすことにした。【2月24日 Searchina】
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中国の“侵略”を撃退した古戦場も遺跡保存することを決定しています。
****ベトナムが「中国との戦争」の記憶強化に 戦い繰り返した「バクダン・ザン」を遺跡として整備****
中国メディアの環球網は、ベトナムがグエン・タン・ズン首相が同国北部のクアンニン省にある白藤江(バクダン・ザン)の古戦場を遺跡として整備・保護することを決めたと報じた。
白藤江では、3度にわたり、中国とベトナムの間の激烈な戦争の舞台になった。938年の「バクダン・ザンの戦い」は、呉朝ベトナムが軍中国最南部を支配していた南漢軍と戦った。南漢軍は船に乗って到来し、上陸しようとした。ベトナム軍は海中に上端をとがらせた杭を打ち込み、海岸近くの森林に隠れて待ち構えた。
満潮時に小舟を囮に出して、中国側の軍勢を引き寄せた。伏兵の出現に驚いた南漢軍は船で脱出しようとしたが、干潮になっており杭が船底を次々に突き破ったという。
ベトナムでは同戦いの勝利が「ベトナムが独立し、自主的に発展することになった発端」とされているという。
第2回目の「バクダン・ザンの戦い」は981年に発生した前黎朝大越(ベトナム)軍と北宋軍との戦い。ベトナムは緒戦で大敗したが、持久戦に持ち込むことに成功した。戦局はベトナム側に有利に展開しはじめ、北宋軍は陣内で疫病が流行するなどもあって撤退した。
第3回目の「バクダン・ザンの戦い」は1288年に発生した、陳朝ベトナム軍と元軍との戦い。フビライ・ハーンの派遣軍は、それまでのベトナムに敗北しており、新たに指揮官に任じたトゴン将軍に「小国だからと甘く見てはいけない」と念を押した。
元軍は進撃を続けた。ベトナム側は各先頭「かなわない」と見ると退却したが、元軍の糧船の多くを沈没または強奪するなどで、苦しめた。バクダン・ザンでは938年の戦法と同様に、水中の杭と囮の小船、伏兵を用いた。さらに、火をつけたいかだを流すことで、元軍船を炎上させた。
「バクダン・ザン」はベトナム人にとって、中国の侵略を撃退した「民族の栄光」を具現した土地と言える。同国政府は800億ドゥンの予算を計上して、2020年ごろまでに施設と生態の整備を行う。旅行地としても利便性を向上させ教育目的でも利用しやすくするという。【3月2日 Searchina】
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こうして見ると、ベトナムの歴史は中国との戦いの歴史でもあります。
それはベトナムに限った話ではなく、中国周辺の国には共通したことでもあります。
日本の「歴史認識」が問題とされることがありますが、そのことの是非はともかく、より長期的な東アジア・東南アジアにおける「歴史認識」としては、中国の拡張的な巨大権力と周辺国の絶え間ない戦闘が繰り返されてきたという事実でしょう。(中国は、周辺民族の絶え間ない侵略にさらされてきた・・・と、捉えているのかもしれませんが)
【概ね良好な日本との関係 日本国内での「技能実習制度」には問題も】
一方、ベトナムの日本への対応は良好なものがあるようです。
****ベトナム、一部小学校で「日本語」授業 東南アジアで初****
ベトナムの一部の小学校の授業で、9月から日本語が教えられることになった。現地の日本大使館によると、公的な初等教育に日本語が導入されるのは東南アジアで初めて。
菅義偉官房長官は2日の会見で「我が国への理解を深め、友好関係の基盤強化に極めて重要」と歓迎した。
ベトナム教育訓練省によると、日本語の授業はまず、ハノイの三つの小学校(各2クラス)で試験的に導入される。ベトナムでは小学校ごとにカリキュラムが異なり、すでに英語やフランス語を教えている小学校はあるという。
日本語教育の普及を進めている国際交流基金によると、ベトナムで日本語を学んでいる人は約4万6700人(2012年)。近年、日本企業の進出先が中国からベトナムにシフトしていることなどから、「就職に有利」とベトナムの学生らの間で日本語の人気が高まっている。【3月3日 朝日】
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ベトナム政府は、今後、ベトナム各地での日本語授業導入に取り組む予定だとも。
“在ベトナム日本大使館によると、初等教育での日本語の導入は世界でも多くなく、東南アジアでは初の試みという。ベトナムでは2003年に中学校に日本語教育が導入された。”【3月2日 Searchina】
やや古い情報ですが、“ベトナムで空前の日本語ブームが起きている。昨年度の日本への語学留学生は前年度の4倍で、日本語試験の受験者も東南アジアで断トツだ。”【2014年9月9日 朝日】とも。
このあたりは、その時々の事情で変化するものではありますが、日本に概ね好意的な空気がある時期を好機として、経済関係にとどまらない両国関係強化が期待されます。
ただ、「技能実習制度」で来日したベトナム人の多くが「失踪」するなど、現実は多くの課題を抱えています。
日本人が敬遠しがちな単純労働の担い手として便利に使い捨てするだけでは困ります。
日本政府は、人手が不足している介護施設にもベトナムから女性を外国人技能実習生として呼び込む方針です。
なお、ベトナムに関しては“干ばつ被害”が報じられています。
****過去90年で最悪の干ばつ、ベトナム****
ベトナムが過去1世紀近くの間で最悪の干ばつに見舞われていると専門家が29日、明らかにした。とりわけ被害が大きいのは、南部メコンデルタ地域で、塩害による被害も出ている。
同国農業省の当局者はAFPの取材に対し、「メコン川の水位は1926年以降、最低水準にまで下がり、最悪の干ばつと塩害を引き起こしている」と述べた。
低平地で農業が盛んなメコン地域は、2000万人以上が居住するベトナムの米蔵だ。水不足は、近隣諸国のカンボジア、ラオス、タイおよびミャンマーの農業にも大きな影響をもたらしている。
科学者らは、現在の干ばつの原因について、現在観測されている記録史上最大級のエルニーニョ(El Nino)現象にあるとしている。
メコン地域にあるカントー大学の研究者によると、同デルタの耕作地220万ヘクタールの40~50%が塩害の被害を受けているという。
ベトナムは米とコーヒーの世界第2位の輸出国だが、これらは特に干ばつに弱い。【3月2日 AFP】
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