孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ  トイレットペーパー騒動が示すチャベス体制維持の危うさ

2013-05-25 22:49:25 | ラテンアメリカ

(スーパーマーケットでトイレットペーパーを買い急ぐ人々 “flickr”より El Mundo Economía & Negocios  http://www.flickr.com/photos/apoyopublicacion/8747839355/)

50.66%対49.07%
チャベス前大統領の死去に伴い4月14日に行われたベネズエラ大統領選挙では、チャベス氏の後継者であるマドゥロ暫定大統領が野党統一候補のカプリレス・ミランダ州知事をやぶり初当選を果たしました。

チャベス氏の“弔い合戦”を前面に押し出し、国営テレビを独占して選挙利用するなかでの予測された勝利でしたが、マドゥロ氏の得票率は50.66%、カプリレス氏は49.07%という意外な僅差でのかろうじての勝利でもありました。

この“僅差の勝利”は、チャベス体制への国民の批判が根深いこと、マドゥロ氏が課された“チャベスなきチャベス体制維持”の十字架がかなり重いものであることを示しているとも言えます。

****ベネズエラ大統領、僅差で“後継”マドゥロ氏 続チャベス路線、多難****
 ■先細る石油、インフレ30%超
南米ベネズエラの反米左翼チャベス前大統領の死去に伴う大統領選の投開票が14日行われた。
全国選挙評議会の発表によれば、チャベス氏の後継者であるマドゥロ暫定大統領(50)が野党統一候補のカプリレス・ミランダ州知事(40)をやぶり初当選を果たした。
マドゥロ氏は、貧困対策を重視するとともに、反米主義を推し進めた“チャベス路線”を継承する方針だが、手腕は未知数で、安定した政権運営ができるか不透明だ。
                   ◇
評議会の発表(開票率99・12%)によれば、マドゥロ氏の得票率は50・66%、カプリレス氏は49・07%。
マドゥロ氏は当選後、大統領府で「チャベス氏の政策を引き継ぎ、社会主義を達成する」と勝利演説した。就任式は19日に行うとした。
                 ■ ■ ■
マドゥロ氏にはチャベス氏のようなカリスマ性はなく、チャベス氏の“弔い合戦”の様相を呈した今選挙ではかろうじて同情票を得て辛勝した。

マドゥロ氏はチャベス氏の死去直前まで、その容体に関して楽観的な情報を流し、相手方の選挙準備を遅らせたほか、服喪期間を延長して“追悼ムード”を1カ月以上作り続けた。また、チャベス氏に後継者として指名された光景を国営テレビで何度も放映するなど政権支持者の票固めに努めてきた。

元バス運転手、労働組合幹部を経て政界入りした“たたき上げ”のマドゥロ氏は、「21世紀の社会主義」のスローガンを掲げたチャベス路線を継承し、300万世帯に対して2018年までに無償住宅を与えるほか教育や医療の無料化を続ける方針だ。
                 ■ ■ ■
ただ、課題は多い。国有石油会社(PDVSA)の昨年の生産量は、施設老朽化に伴う爆発事故や運営の非効率性などで、1999年のチャベス政権発足時の約3分の2の250万バレル(日量)まで低下している。
シェールガス開発を進める米国がベネズエラ産原油輸入を減らす可能性もある。全輸出額の94%を占める石油の輸出が低下すれば、貧困対策実施に大きな影響が出るのは必至だ。

ベネズエラは今年、世界で3カ国だけという30%超の高インフレに見舞われると予想される。薬品など物資不足も目立ち、日常生活への影響は深刻だ。
また、昨年の殺人発生率が南米諸国で最悪(2万1692件、民間団体調べ)を記録するなど治安対策も待ったなしの状況だ。

多くの社会問題を抱える中、「熱しやすく冷めやすい国民」(外交筋)がマドゥロ氏を支持し続けるかは不透明で、安定した政権運営を続けられる保証はない。
                 ■ ■ ■
貧困対策への不満を募らせる中間・富裕層は一斉にカプリレス氏支持に回り、国は二分化が顕著だ。カプリレス氏は開票に不正があると主張、「一票一票確認するまでは結果を認めない」としている。政治・経済不安が重なれば、暴動が発生する可能性も否めない。

外交面で、マドゥロ氏は日量10万バレルの石油を特恵価格で輸出してきたキューバとの関係を継続する。また、核開発を進めるイランや、シリア、ベラルーシとの関係も堅持する方針。

対米関係で緊張が続く状況に変わりはないとみられるが、「テロや麻薬対策で米国と歩調を合わせる」(米紙マイアミ・ヘラルド)など、表向き反米を唱えながらも「現実的に米国に対処する」(南カリフォルニア大のジェラルド・ムンク教授)との観測も一部である。【4月16日 産経】
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短期的には消費者に有益な政策かもしれないが、長期的には損失をもたらす価格統制
“薬品など物資不足も目立ち、日常生活への影響は深刻”という経済状態を端的に表す、店頭からトイレットペーパーなどが消えるという異常事態が話題となっています。
政府は借金で緊急輸入することで、なんとかこの事態をしのぐ方針のようです。

****消費財不足のベネズエラ、借金でトイレットペーパー購入へ****
南米ベネズエラの国民議会は21日、トイレットペーパーをはじめとする個人衛生用品の不足を解消するための輸入用資金7900万ドル(約80億円)の借り入れを承認した。
借入金はトイレットペーパー3900万ロールと生理用ナプキン5000万個、せっけん1000万個、紙おむつ1700万個、チューブ入り歯磨き粉300万本の購入に充てられる。

石油輸出国機構(OPEC)に加盟する同国は、世界最多の石油の確認埋蔵量を誇る。しかし、故ウゴ・チャベス大統領の社会主義政権が2003年に価格統制を導入して以降、一部の消費財が定期的に不足する状況が続いている。

これについて同国政府は、チャベス氏が推進してきた「社会革命」を台無しにしようとしているとして、中道右派の野党と米国を批判してきた。
チャベス氏が後継者に指名していたニコラス・マドゥロ氏が僅差で大統領選に勝利して以来、野党は与党側の不正を訴え続けており、ベネズエラ社会は二分されている。

また、ベネズエラは現在も散発的な電力不足やインフレに苦しんでいる。昨年のインフレ率は20%に達し、公的債務は国内総生産(GDP)の約半分に当たる約1500億ドル(約15兆3000億円)に上っている。【5月25日 AFP】
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日本でも狂乱物価の際にはトイレットペーパー買いだめ騒動が起きましたが、トイレットペーパーは社会の不安感を敏感に反映する商品のようです。
マドゥロ政権は、野党勢力などが不安を煽っているせいだとしていますが、ベネズエラ経済の問題が露呈した結果と言うべきでしょう。

****トイレットペーパーがペネズエラから消えた****
ベネズエラからトイレットペーパーが消えようとしている。
政府がついに先週、5000万ロールの輸入を決定したほどだ。

なぜ突然、そんな事態に陥ったのか。マドゥロ政権は、野党とメディアが不安をあおり、人々をトイレットペーパーの「買いだめ」に走らせたと非難。
だが真の原因は、この国の立ち行かなくなった経済政策だ。

ベネズエラ経済は、お世辞にも健全とは言えない。チャベス前政権は資本逃避を防ぐために厳しい通貨統制を行った。このため自国通貨で外国製品を購入したり、外国と取引することが困難になった。チャベスが貧困層の支持を得るために、食用油やトイレットペーパーなど生活必需品の価格を長年にわたり厳しく統制したことも悪かった。

こうした政策がトイレットペーパー不足を招いた。消費者にとって短期的には有益な政策かもしれないが、長期的には損失をもたらし得る。
販売価格が生産コストより低く設定されれば、生産する意欲はそがれる。
政府はトイレットペーパー1個の値段を50セントに設定したが、生産コストが52セントだとしたら?
生産者は作るのをやめるか、より高値で買ってくれる近隣諸国に輸出するか、闇市場で取引しようとするだろう。その結果、国内では不足することになる。

理論的には国内で商品が不足した場合、輸入で補うことができる。だがこれも通貨統制のせいでままならない。
利益が上がらなければ、商品を市場に出す気にはならないだろう。至極当たり前の話だ。【5月28日号 Newsweek日本版】
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最も危険な国
経済と並んで治安悪化も問題となっています。
“殺人発生率が南米諸国で最悪”とのことですが、治安の悪いことでは世界トップレベルの南米で最悪ということは、世界最悪レベルと言ってもいいでしょう。

****世界一危険な国はベネズエラ ギャラップ社、134カ国・地域調査****
世界で最も危険を感じる国はベネズエラ――。米ギャラップ社が市民の体感治安を調べたところ、こんな結果が明らかになった。

134カ国・地域で昨年末までに実施された調査で、「夜道を一人で安心して歩けますか」との問いに対し、ベネズエラでは74%が「いいえ」と答え、アフガニスタンなどの紛争地域を抑えてトップとなった。

NGO「ベネズエラ暴力監視団」は昨年末、同国で人口10万人あたり73人が殺害されていると発表しており、誘拐や強盗などの犯罪も頻発している。
マドゥロ大統領は、警察駐在所の設置や国軍の展開を相次いで打ち出すなど、治安対策のアピールに必死だ。

一方、最も安全と感じる国はカタール。日本は27位だった。
 
 ■最も危険な国・地域
 1位 ベネズエラ
 2位 南アフリカ
 3位 チャド
 4位 ボツワナ
 5位 ガボン
 ■最も安全な国・地域
 1位 カタール
 2位 グルジア
 3位 インドネシア
 4位 ミャンマー
 5位 香港
 :
27位 日本
 :
34位 米国
 (ギャラップ社の調査による)【5月22日 朝日】
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安全な国として、グルジアやインドネシアが2位、3位、香港が5位で、日本が27位というのは納得しがたいものがありますが、「夜道を一人で安心して歩けますか」というあくまでも主観的な判断ですから、こんな結果にもなるのでしょう。
インドネシアの人々がこれほど安心感を抱いているというのは、それはそれで興味深い数字ではあります。
また、カタールのようなイスラム国家では、そもそも女性が夜道を一人で歩くこと自体がないのではないでしょうか。

それはともかく、危険な国・地域の上位に並んだ国の顔ぶれは、さもありなんといったところです。
以前ブログでも取り上げたことがありますが、ベネズエラでは犯罪者が多すぎて刑務所がパンク状態にあり、“国内に30カ所以上ある刑務所は規定を超える収容者と暴力に悩まされており、2012年だけで600人近い囚人が命を落とした。NGOによると、ベネズエラの刑務所には、定員1万6500人に対して、3倍の4万8000人が収監されているという。実に、囚人の1%以上が毎年、刑務所内で殺害されている計算だ。”【4月7日 産経】といった刑務所の混乱状態も起きています。

カリスマを持ったチャベスを欠いたチャベス体制維持は、早晩限界に直面すると思われます
ベネズエラの憲法では、大統領不信任に関する拘束力がある国民投票は政権半ば以降に行えるとされているようですので、今回選挙で惜敗した野党陣営は、今後そのあたりを睨んだ動きとなるのではないでしょうか。

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