(【e-food】)
【太平洋島しょ国の現状を反映したソロモン諸島での総合競技大会】
太平洋島しょ国がアメリカと中国の陣取り合戦のような勢力争いの主戦場のひとつになっていることはこれまでも度々取り上げてきました。
今のところ中国陣営の中核的存在がソロモン諸島。ソロモン諸島は昨年台湾と断交して中国と国交を結び、更に中国と安全保障協定を結んで中国の警察官も常駐しています。もちろんオーストラリアなども中国の影響力拡大に対抗しようとしています。
そのソロモン諸島で開催された南太平洋諸国が参加する総合競技大会「パシフィックゲームズ」は、さながらこの地域で繰り広げられる「陣取り合戦」の縮図のような様相です。
****ソロモン諸島で総合競技大会開幕 裏では地域内の影響力争い顕著****
南太平洋諸国が参加する総合競技大会「パシフィックゲームズ」が19日、ソロモン諸島で開幕した。
首都ホニアラのメインスタジアムなど七つの関連施設を中国の援助で建設。警備のために中国、オーストラリア、ニュージーランドがそれぞれ警察官を派遣するなど、大会裏で起こる地域内の影響力争いに注目が集まっている。
サッカーやラグビーなどの試合が行われる同大会は1963年に始まり、4年に1度開かれる。今回は12月2日まで24カ国・地域から集まった約5000人のアスリートが競う。19日は1万席あるメインスタジアムで開幕式があり、多くの観客が集まった。
同スタジアムを巡っては2017年、ソロモン諸島と当時外交関係があった、台湾の援助で建設することで合意した。しかしソロモン諸島は19年に台湾と断交し、中国と国交を樹立。スタジアムの建設も中国に取って代わった。
豪州や日本も援助をしているが、大会運営にかかる直接費用2億2000万ドル(約331億1670万円)のうち、半分以上を中国が援助しているとみられている。
中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報(英語電子版)によると、スタジアムは、南太平洋島しょ国における中国の最大規模のインフラ支援。今年8月の引き渡し式で、李明・駐ソロモン中国大使(当時)は「(スタジアムは)中国とソロモン諸島の友情のシンボルだ」と表明。同地域における中国の存在感を象徴するものとなった。
またソロモン諸島は10月末、今大会の警備に向け、国内にいる中国の警察官が増員されると発表した。人数は明らかにしていないが、中国から金属探知機や制服も提供されたという。
これに対し、中国の影響力拡大に懸念を示す豪州はソロモン諸島に駐在する警察部隊を100人増員。ニュージーランドも治安部隊を90人増派するなど、大会を巡り地域内の影響力争いが激しくなっている。【11月19日 毎日】
*******************
【アメリカと島しょ国首脳の会議を一蹴したソロモン諸島 「説教」は聞きたくない】
地域全体の「陣取り合戦」の状況について言えば、「一帯一路」で資金を注ぎ込む中国に対し、アメリカも9月25、26日にホワイトハウスで太平洋島しょ諸国との首脳会議を開催し、関係強化を図っています。
****バイデン氏、太平洋島嶼諸国と首脳会議 中国にらみ関係強化****
バイデン米大統領は25日、ワシントンのホワイトハウスで太平洋島嶼(とうしょ)諸国との首脳会議を開く。首脳会議は同地域への影響力拡大を図る中国をにらみ昨年9月に初開催しており、今回で2回目。バイデン氏は島嶼諸国への関与と協力拡充を改めて表明して関係強化を図り、中国を牽制(けんせい)する。
バイデン氏は25日午前に島嶼諸国首脳らをホワイトハウスに迎えて会議を開き、昼はワーキングランチで議論する。
午後はケリー米大統領特使(気候変動問題担当)と島嶼諸国首脳らとの会合やブリンケン米国務長官主催の夕食会などが開かれる。
一連の日程は26日までの2日間。気候変動問題や経済成長の促進、違法漁業への対処など同地域の優先課題における協力を協議する。
初開催となった昨年の首脳会議では、バイデン政権が海洋安全保障や貿易促進などのために計8億1千万ドル(約1200億円)の支援を実施すると発表。影響力拡大を図る中国に対抗していく姿勢を鮮明にした。
また島嶼諸国との連携に向けた戦略文書を打ち出し、「中国の圧力と経済的威圧が同地域の平和と安定を損ねている」と名指しで批判した。
島嶼諸国との対話を巡っては、バイデン氏が今年5月に広島で開かれた先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)後に南太平洋のパプアニューギニアを訪問し他の島嶼諸国首脳とも会談する予定だったが、米国の内政問題で中止していた。【9月25日 産経】
*******************
このアメリカの思惑を一蹴したのが中国より姿勢を強めるソロモン諸島。アメリカの「説教」を聞く気はないと。
****ソロモン首相、米主催のサミット欠席 「説教」無用****
南太平洋の島国ソロモン諸島のマナセ・ソガバレ首相は27日、ジョー・バイデン米大統領がホワイトハウスで25日に主催した米・太平洋諸島フォーラム首脳会議(サミット)を欠席したことについて、「説教」を避けるためだったと主張した。
親中派のソガバレ氏は先週、国連総会のため米ニューヨークを訪れていたが、滞在期間を延長して同サミットに出席することはなかった。
ホワイトハウス関係者は、「われわれは、この非常に特別なサミットを欠席するというソガバレ氏の選択に失望している」と語っていた。
ソガバレ氏は27日夜の帰国会見で、「私に説教するつもりでいる人々の話を座って聞くつもりはない。あり得ない」と発言。重要な立法議案をはじめとする国内問題への対処の方が「重要」だとも述べた。
昨年の米PIFサミットには出席したソガバレ氏は、「こうした会議がどのように進行するかといえば、彼ら(米国)から3分間話す時間を与えられた後、説教され、彼らがいかに優れているかを得々と聞かされる」「彼らは今こそ、太平洋諸国、そして世界中の指導者たちを尊重しなければならない。戦略を変える必要がある」と主張した。
ソガバレ氏は、オーストラリアと中国、韓国での扱いは米国とは違い、首脳たちとそれぞれ1時間の会談を行ったと語った。
ソロモンでは2019年4月にソガバレ政権が発足。同政権は同年9月、台湾と断交し中国と国交樹立。中国から巨額の援助と投資を引き出した。今年7月には、中国と警察協力協定を結び、2025年まで中国警察要員の駐留を認めた。 【9月28日 AFP】
******************
単に陣取り合戦というより、「民主主義的価値観」を上から目線で“遅れた国”に押し付けようとする姿勢がありがちなアメリカへの反感も強いようです。逆に言えば、そんな説教をしないところが中国の特徴。
【オセロのように黒白がひっくり返るバヌアツ 両方から支援を引き出したいフィジー】
米中の「陣取り合戦」と言うか、オセロゲームのように白になったり、黒にひっくり返ったりしているのがバヌアツ。
バヌアツは昨年12月、オーストラリアと災害救助や防衛、治安などで協力するための安全保障協定を結びましたが、これに野党が反発してカルサカウ首相の不信任決議案を提出。カルサカウ首相は9月に失職し、中国寄りとされるキルマン元首相が新首相に返り咲きました。
しかし、その親中派キルマン首相も・・・
****バヌアツの親中派首相、1カ月で失脚=後任に元職サルワイ氏****
南太平洋の島国バヌアツの国会で6日、親中派のキルマン首相に対する不信任案が可決された。
9月上旬に就任したキルマン氏はわずか1カ月で失脚した。後任には野党が推したサルワイ元首相が選出された。今年3人目の首相となる。【10月6日 時事】
****************
バヌアツの国内事情は全く知りませんが、親米か、親中かということは、国内の権力闘争・勢力争いの表向きの看板なのかも。
島しょ国側としては、米中の「陣取り合戦」を利用して、できれば双方から最大限の支援を引き出したいところ。
****フィジー首相「一帯一路を支持」=中国主席と融資協議****
太平洋の島国フィジー政府は17日、ランブカ首相が中国の習近平国家主席と、米サンフランシスコで現地時間16日に会談したと発表した。ランブカ氏は中国の巨大経済圏構想「一帯一路」への支持を表明。両首脳はフィジーの港湾、造船所、道路の整備に関連し、中国からの融資について協議した。
島しょ地域では米中両国の覇権争いが激化しており、習氏はアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の機会を利用してフィジーへの接近を図った。フィジーは米国やオーストラリアとも関係強化を進めているが、中国からの経済支援も引き続き得たい考えだ。【11月17日 時事】
*********************
【バラまきから重点投資に切り替えた中国】
一方、「説教」することなく資金を気前よくバラまいてきた中国にも変化が。資金的に余裕がなくなったのか、重点投資に切り替えたようです。
****中国は南太平洋諸国への金のばらまきをやめたのか?―独メディア****
2023年10月31日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレ(中国語版)は、オーストラリアのシンクタンク「Lowy Institute」のレポートを引用し、太平洋地域への影響力を米国やオーストラリアと競っている中国が、クック諸島やフィジーなどの太平洋諸国への援助額を減少させていることを伝えた。
記事は初めに、「Lowy Institute」が31日付で公開した最新レポートの内容について紹介した。
「2008年以来、中国はクック諸島やフィジーなど、主に国交を結んでいる太平洋地域の国々に39億ドル(約5876億円)の金銭的援助を提供してきたが、16年にピークを迎えた後は下降傾向にあり、今では地域全体の総援助額の割合で、40%を占めるオーストラリアやアジア開発銀行(ADB)に次いで、9%の第3位になっている」ことや、「『Lowy Institute』のライリー・デューク研究員は、米AP通信の取材に対し、中国と太平洋諸国間の貸借勘定で、特にインフラ整備への融資への興味が下降している点から中国が米国やオーストラリアなどとの間の援助競争で負けたのは明らかだと指摘している」ことに加えて、「AP通信は、中国の援助が下降している主な原因として、トンガのように中国への負債を抱えた各国が、中国資金への興味を失ったためだと分析している。
先に米国が『中国の資金は財政的に豊かではない国にとって債務のわなだ』と警告したように、各国の主権を脅かしている」と伝えた。
次に記事は「中国の海外援助の減少傾向は、太平洋地域に限ってのことではない。特に新型コロナ流行後の中国は、海外での大規模なインフラ整備や融資計画を基本的に放棄している」として、「一帯一路を提唱し始めた13〜19年の7年間、太平洋諸国に対する中国の援助計画の規模は平均約4000万ドル(約60億円)だったが、近年は平均約500万ドル(約7億5340万円)にまで減少している。中国からの融資支出総額はコロナ前に2億8500万ドル(約430億円)だったのが、21年には2億4100万ドル(約363億円)にまで落ち込んでいる」と説明した。
記事は「21年11月に習近平国家主席は『一帯一路の次の段階』の原則として、専門的なリスク管理を重視し、中国企業やその関連組織が『小規模だが素晴らしい(small but beautiful)』プロジェクトを優先的に考慮すると述べた。また、今月の第3回一帯一路国際協力サミットフォーラムでも、習主席は『質の高さ』を基本とし、象徴的なプロジェクトや小型の民生プロジェクトを推進することを強調している」として、「援助規模や金額が減少しても、中国が太平洋地域への関与をやめることを意味しているわけではない。例えば、中国は19年に台湾と断交したソロモン諸島やキリバスへの援助を増やしたように、リスクを避けて、政治関係を確固たるものにし、資本回収を高めるための援助方針の転換を意味している」と論じた。【11月2日 レコードチャイナ】
**********************
記事にもあるように、従来のバラまき的なインフラ投資から、選別的な「質の高い」投資へ路線を変えているのは、太平洋地域に限ってのことではなく、「一帯一路」全般に言える変更です。
太平洋島しょ国にあって重点国とされているのはソロモン諸島とキリバスのようです。
****ソロモンやキリバスを重点支援=中国の島しょ国援助―豪研究所調査****
オーストラリアのシンクタンク、ローウィー国際政策研究所は31日、太平洋島しょ国への経済援助に関する調査結果を公表した。この中で、中国が2019年に国交を樹立したソロモン諸島やキリバスに重点的に資金を拠出していることが分かった。中国の経済状況が厳しくなる中、島しょ地域への影響力拡大を戦略的に図っているもようだ。
調査によると、中国の島しょ地域全体への援助額は21年に約2億1700万米ドル(約320億円)だった。このうち、ソロモンに約4100万ドル(約61億円)、キリバスに約4000万ドル(約60億円)を拠出した。
各国や国際機関による島しょ地域への援助合計に占める中国の援助額は6%にとどまる。しかし、ソロモンに関しては10%、キリバスは16%に達している。
コロナ禍などによる景気減速に伴い、中国の島しょ地域への援助はピークだった16年の約3億8400万ドル(約570億円)から減少。それでも中国は22年にソロモンと安全保障協定を結ぶなどして米国と覇権争いを展開している。同研究所は「中国は援助の的を友好国に絞り、戦略的に進めている」との見方を示した。【10月31日 時事】
***********************
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます