孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南太平洋島しょ国  影響力をめぐってせめぎあう米豪と中国

2023-01-27 23:10:02 | オセアニア

(パプアニューギニア 街中のいたるところに「中国援助」の文字【2022年11月19日 TBS NEWS DIG】)

【中国への傾斜を強めたソロモン諸島 米豪も対抗 激しい綱引きに】
昨年4月、南太平洋の島国ソロモン諸島が中国と「安全保障協定」を結ぶことで基本合意し、その内容に「ソロモン諸島は中国に警察や軍人の派遣を要請できる」「中国は中国の人員やプロジェクトを守るために中国の部隊を使用できる」「中国は船舶の寄港や補給ができる」などと、中国の軍事的な関与を認める記載があることが明らかになったことをきっかけに、南太平洋をめぐる中国とアメリカの影響力競争が激化したことはこれまでも数回取り上げてきました。


現実にも、一昨年11月のソロモン諸島で起きた反政府デモが暴動に発展した際には、中国から現地に警察顧問団が送られたこともあります。

アメリカ・オーストラリア・ニュージーランドなど関係国はソロモン諸島が中国の軍事拠点になりかねないとして神経をとがらせています。

人口約70万人のソロモン諸島はオーストラリアの北東約2千キロメートルに位置し、アメリカとオーストラリアを結ぶシーレーンの要衝に位置しています。

また、中国が設定する戦略ライン「第2列島線」にも近く、米中の対立が深まるなかで地政学的な重みが増しています。

アメリカ・バイデン米政権は昨年9月28~29日に太平洋島しょ国との初の首脳会議を首都ワシントンで開催し、南太平洋地域で影響力拡大を図る中国を念頭に、島しょ国との関係を強化を図っています。

ソロモン諸島のマナセ・ソガバレ首相は昨年10月7日、前日のオーストラリアとの首脳会談で、自国への中国軍駐留を容認しないと確約したと明らかにしていますが、一方で、米豪との関係も天秤にかけつつ、中国との関係強化も進めているようです。

****ソロモン諸島警察に中国から放水車 豪から銃も****
南太平洋の島国ソロモン諸島は(2022年11月)4日、中国から放水車を寄贈され、警察の装備を強化した。3日前にはオーストラリアからも銃を提供されている。

ソロモン諸島をめぐり、米豪は影響力拡大を図る中国をけん制して外交上の駆け引きを行っている。

マナセ・ソガバレ首相が4日に首都ホニアラで行った式典で、中国はソロモン諸島の警察に放水車2台、バイク30台、多目的スポーツ車20台を寄贈。

李明中国大使は、ソガバレ政権の要請に応じたもので、「ソロモン諸島の法と秩序の執行に貢献」を果たすはずだと述べた。

豪連邦警察も2日、銃身の短いライフル60丁と車両13台を寄贈している。ソロモン諸島が今年4月、中国と安全保障協定を締結したためにオーストラリアとの関係は緊張。豪政府は先月、ソガバレ氏を迎えて両国の関係改善に動いていた。

今回の寄贈をめぐり、ソロモン諸島の野党党首マシュー・ウェール氏は懸念を表明。
AFPに対し、「外的脅威はどう見てもないのに、なぜこうした強力な銃を導入するのか。わが国は再び軍国主義への道を歩んでいるのだろうか」と疑問を呈し、「もしそうなら、われわれは自国民に対して武装することになる」との考えを示した。 【2022年11月5日 AFP】AFPBB News
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ソロモン諸島が中国への傾斜を強めた背景には、南太平洋の島嶼とうしょ国で最低クラスの経済力のため進まないインフラ整備、部族対立からの政情不安などがあります。

一方で、台湾を切り捨てて中国との関係に走ることで不利益を被る国民も存在し、政権の中国重視政策への不満もあります。

****「首相は操り人形と化した」…対中傾斜強まるソロモン、「中国に仕事奪われ」若者は昼から飲酒****
南太平洋の島国、ソロモン諸島が中国への傾斜を強めている。今年4月には安全保障協定を締結し、米国やオーストラリアは強い懸念を表明している。外交政策の転換は、住民の生活にも大きな変化を及ぼしている。

中国系の商店が立ち並ぶ首都ホニアラのチャイナタウン。店のシャッターは閉じ、窓は割れ、建物の壁は黒焦げだ。マナセ・ソガバレ首相を名指しし「辞めろ」などの落書きも目に付く。

昨年11月、中国寄りのソガバレ首相に抗議するデモの一部が暴徒化した。夫がスーパーで働いていたという女性(38)は、うつろな表情で「商売あがったりだ」と嘆いた。

ソガバレ政権は2019年9月、台湾と断交し、中国との国交樹立を発表した。今年4月に締結した安全保障協定は中国軍の派遣を可能にするとされ、軍事拠点となる可能性が指摘される。

人口約70万人の小国は、なぜ中国に接近したのか。

穴だらけの道路
ホニアラの国際空港の近くに、「中国援助」と書かれた青いゲートが立つ。来年に開かれる太平洋諸国の競技会で使われるスタジアムだ。米ワシントン・ポスト紙によると、中国の国営企業が約5000万ドル(約68億円)をかけて建設を進めている。

ソロモン諸島の1人当たり国民総所得(GNI)は2300ドル(21年)で、南太平洋の島嶼とうしょ国で最低クラスだ。インフラ整備も進まず、首都の道路ですら穴だらけで渋滞が多発している。

農村開発省のサムソン・ビウル次官は「(米豪など)西側諸国の支援は人材育成ばかり。中国はモノを造ってくれる。インフラが整備されれば、産業も誘致できる」と強調する。

一方、国交樹立時を知る政府の元高官は「中国企業がソロモンで利益を得るために対中傾斜を後押ししている。ソガバレ氏はその操り人形と化している」と明かす。

中国企業へ不満
住民からは、中国企業への不満も出ている。

ホニアラの廃棄物最終処分場では、養豚を営むリンドラ・ダニさん(38)が残飯を拾い集めていた。豚の餌にするという。

以前は台湾の農場が豚を買ってくれたが、断交で撤退。代わって進出した中国の農場は労働者を本土から連れてきて養豚に従事させた。ダニさんは販路を失い、収入は半減し、豚の餌が買えなくなった。「中国は我々の仕事を奪った」と憤る。

ホニアラ郊外の農村にある教会で牧師を務める男性(52)によると、中国系の大規模な農場ができ、地元で採れた野菜は価格で太刀打ちできなくなった。失業者や学校に行けない子供が増え、昼から飲酒している若者も多い。

主産業の材木の輸出でも、「中国企業が利益を独占し、地域に還元しないケースが多い」(外交筋)という。シンガポールの調査会社による昨年の暴動後の世論調査では、「中国と自由な民主主義国のどちらと連携すべきか」との質問に対し、「中国」とした回答はわずか9%だった。

牧師の男性は「この国は一体どこへ向かっているのか」と不安そうに話した。

軍事拠点化 米豪が疑念
ソロモン諸島は南太平洋の戦略的要衝に位置し、中国と締結した安全保障協定は、米国や豪州の強い反発を呼んだ。米国家安全保障会議(NSC)インド太平洋調整官のカート・キャンベル氏は4月、ソガバレ氏との会談で、中国軍が駐留するなどした場合、「相応の対応を取る」と警告した。

安保協定を結んだ背景には、暴動が続くソロモン諸島の国内事情がある。1998年末に激化した部族対立で当時の首相が武装勢力に拘束され、2006年には新首相就任に反対する暴動が起きた。

ソロモン諸島は軍隊を持たず、治安維持に不安を抱える。中国との安保協定について、元首相のダニー・フィリップ氏は「国内の治安維持を想定したもの」と指摘する。

それでも中国が軍事拠点化を進める疑念は払拭ふっしょくしきれない。危機感を強めた米国は今年に入り、ウェンディー・シャーマン国務副長官ら高官を派遣。2月には、1993年に閉鎖した大使館の再開を発表した。

豪州も10月、ソロモン諸島の治安維持活動などへの支援を表明。太平洋地域の島嶼とうしょ国などへの支援も4年間で約9億豪ドル(約830億円)増やすと発表した。

ソロモン政府関係者は「米中対立の間で我々は重要なポジションを得た。これを最大限に利用して双方から支援を得られれば、国民に良い生活をもたらすことができる」ともくろみを明かした。【2022年12月17日 読売】
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体中国感情が複雑なことは推測できますが、「中国と自由な民主主義国のどちらと連携すべきか」という設問は、最初から中国を非民主的な「悪しき国」と誘導しており(実際、そうではあるでしょうが)、世論調査の公正さという点ではいささか問題も。

【利益を実感させている中国の進出 「発展するようになったのは中国が来るようになってからだ」】
南太平洋のパプアニューギニアでも米豪と中国がその影響力を競っています。

****南太平洋パプアニューギニアでしのぎを削るアメリカと中国 経済援助の先に…軍事的影響力拡大への懸念*****
いまアメリカと中国という2つの大国が、南太平洋の島国との関係強化に乗り出しています。中でも最も大きな国土を持つパプアニューギニアで起きている、米中対立の最前線を取材しました。

■街中のいたるところに「中国援助」の文字
国内に800の言語があると言われるほど、多様な人々が暮らすパプアニューギニア。人口は太平洋島しょ国の中では最大の約900万人。天然ガスなどの資源も豊富で、この地域では大国でもある。

海上の天然ガス関連施設未明、首都ポートモレスビーに到着した飛行機は、中国からの出稼ぎ労働者でいっぱいだった。中国の3倍、月に1万5000元(約30万円)近くは稼げるということで渡航を決めたという。彼らの向かう先は建設現場だ。

近年、ポートモレスビーでは中国企業によって建てられているビルが目立つようになっている。民間の建物だけではなく裁判所など政府の施設も中国企業によって作られていた。

(中略)街中のいたるところに「CHINA AID(中国援助)」と書かれたモニュメントが置いてあり、道路脇や建物の目立つところに中国の援助で作られたことを示すマークがついている。

「オーストラリアとの関係は深いけど…」「中国は良すぎる」
中国の影響が色濃く見えるが、実はパプアニューギニアの最大の援助国かつ貿易相手国はすぐ南に位置するオーストラリアだ。スーパーマーケットにはオーストラリアからの輸入品がずらりと並んでいる。

旧宗主国として長年影響力を持ってきたが、伝統的な海上生活をする人々の集落を訪ねると…
家の中まで電気は通っていて、ガスも使えるようになっている。しかし水道はないため汲みに行かなくてはならない。「オーストラリアとの関係は深いけど、発展への貢献はあまり感じない。発展するようになったのは中国が来るようになってからだ」

2022年のパプアニューギニアの予算書では、中国からの援助額は約200億円と見込まれている。額としてはオーストラリアの半分だが、現地の人たちにとっては中国の方が発展に貢献していると映っている。

橋の建設に携わった若者 「(中国のおかげで)道もできたし、街灯もできたし、橋もできた。うれしいよ」

政府間の合意のもと、現地のインフラ整備などに投資する中国企業には、10年間の所得税免除といった優遇がある。現地で複数の会社を経営する中国人は…

パプアニューギニアの中国人経営者 「政府間の合意によって良い投資環境ができたね。パプアニューギニアが良くなれば中国も良くなるし、パプアニューギニアはもっと良くなる」 中国の進出がパプアニューギニアのためになるという。(中略)

住民 「中国は良すぎるね。村の人にとっては、大きな店は高すぎて物を買えないけど、中国人のお店に行けばとても安く買える。だから中国人の店に行くのさ」

■経済協力の先に・・・「中国が軍事基地を手に入れるかもしれない」
一方、経済的な結びつきが強まるにつれ、高まっている懸念がある。それは軍事的な面での影響力だ。パプアニューギニアのシンクタンクの専門家はある計画の名前をあげる。

パプアニューギニアのシンクタンク ポール・ベイカー氏 「ガルフという場所でイフ経済特区を作る計画がありますが、飛行場と軍事施設が含まれていて奇妙なのです」

(中略)既に一部の中国企業が覚書を交わしたが、問題視されているのがパプアニューギニア軍の海軍基地建設だ。経済特区が計画されている場所は、オーストラリアの対岸で500キロほどしか離れていない。

この場所に中国が投資する軍事施設ができる可能性があることにオーストラリアメディアは強く反発している。プロジェクトの担当者は「将来中国の影響力が高まれば中国が基地を手に入れるかもしれない」と語ったとも伝えている。(後略)【2022年11月19日 TBS NEWS DIG】
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【米豪のうざい“上から目線”の指摘も】
ソロモン諸島にしてもパプアニューギニアにしても、従来のオーストラリアとの関係から中国重視に変化している背景に関して

「(オーストラリアなどの)上から目線というのでしょうか。どちらかというと面倒見てやってるという押し付けられている印象すら持っているのに対して、必ずしも良い感情を持っていない。そういったときにできれば多くの違う形のアクター(関係者)が欲しいと考えてきている」(東海大学の黒崎岳大准教授)【同上】という指摘も。

【大国間の争いに巻き込まれることへの懸念】
一方で、第2次世界大戦で「戦場」となったこの地域には、大国の争いに巻き込まれることへの懸念・不安もあります。

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パプアニューギニアの前首相、ピーター・オニール氏は中国による支援や企業が投資しやすい環境を整えた立役者でもあるが、今の中国の動きをこう懸念する。

ピーター・オニール前首相
「とても深刻に受け止めています。私たちは第二次世界大戦や世界中で起きている紛争のような経験を繰り返したくないのです。どの国の軍事施設もこの地域に入れたくはありません。それが平和と秩序を守る方法です。中国とアメリカの間でおきている地政学的な議論の中で、私たちは板挟みになっています。私たちは安全保障の分野で中国と何かをしようとはしていません」【同上】
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【国内政治状況で変化する米豪・中国との関係 フィジーは中国重視の見直しへ】
米豪・中国との関係は、当該国の国内政治情勢でも変化します。

フィジーでは昨年12月の議会選挙で(前政権が敗北を認めず、治安部隊を出動させるなど一時は不穏な状況にもありましたが)政権交代が実現。それにともなって対中国政策も変化するようです。

*****フィジー新政権、対中融和見直し 警察協力協定を停止へ****
南太平洋フィジーで昨年12月の総選挙を経て就任したランブカ新首相が親中政策の見直しを進めている。中国の進出に警戒感を示し、中国と結んだ両国警察間の協力協定の停止を表明。

人口約90万人で南太平洋でも経済規模が大きいフィジーの外交姿勢の変化は、中国が覇権的な海洋進出を進める地域情勢に影響を与える可能性がある。

総選挙では、単独過半数を確保した政党はなかったが、ランブカ氏を軸とする野党勢力が連立で合意し、約16年ぶりに政権交代が実現した。ランブカ氏は1992〜99年にも首相を務めたことがある。

バイニマラマ前首相は軍司令官だった2006年にクーデターで全権を掌握。14年の民政移管後も首相として国政を担った。バイニマラマ氏の強権的な手法をオーストラリアやニュージーランドが批判したことを受け、首相在任中には中国との関係緊密化が進んだ。

ランブカ氏は首相就任後、「(南太平洋で)中国が影響力を増大させる動きが強まっている。自分はよく知っている人たちについて行くのが安全と信じている」と述べ、中国との関係を見直し、豪州などとの連携を深める姿勢を示した。

ランブカ氏が停止する意向を示した警察に関する協力協定は、バイニマラマ政権期に締結された。フィジーの警察官が中国で訓練を受け、中国人警察官が3〜6カ月間フィジーに派遣されるとの内容だという。

中国は昨年11月に島嶼(とうしょ)国の警察トップを招待した初のオンライン国際会議を開催するなど、治安維持面での連携強化を通じ、各国に浸透する構えを見せている。

ランブカ氏は中国との決定的な対立は避けたい考えも示しているが、近隣国はフィジー外交の行方を注視している。豪州紙オーストラリアン(電子版)は「他の太平洋島嶼国の指導者たちは、地域支配を目指す中国を警戒するランブカ氏の見解に耳を傾けるべきだ」と強調した。【1月27日 産経】
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今後も、中国・米豪の働きかけ、当事国の国内事情で、この地域の方向性はいろいろと変化もありそうです。
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