(11日、南スーダンのキール大統領(中央)の前にひざまずき、靴にキスをするフランシスコ法王【4月13日 朝日】)
【アルジェリア 7月に大統領選 既得権益層の存在、経済問題、IS浸透の危険も】
4月7日ブログ“北アフリカ(アルジェリア・スーダン)でうごめく抗議行動 「アラブの春」再燃? リビアも緊迫”で取り上げた、アルジェリアやスーダンの「新たなアラブの春」もしくは「遅れてきたアラブの春」は刻々と進展しています。
アルジェリアでは4期20年にわたる長期政権を続けてきたブーテフリカ大統領が、現実に執務できないほどの健康上の問題がありながらも、国民生活を改善できないまま政権に居座ろうとしましたが、国民の反発を受けて辞任に。
後任のベンサラ暫定大統領に対する国民不満も強く、状況は収まっていません。
こうした状況で、政権は7月4日に大統領選挙を実施すると発表しています。
****アルジェリア、7月に大統領選 首脳交代もデモ続く****
アルジェリア大統領府は10日、7月4日に大統領選挙を実施すると発表した。同国では長期にわたり政権を握ってきたアブデルアジズ・ブーテフリカ大統領が辞任した後も、現政権に対する抗議デモが続いている。
アブデルカデル・ベンサラ暫定大統領は大統領府の発表に先立ち、「透明な」選挙の実施を約束していた。
国民評議会の議長を務めていたベンサラ氏は前日の9日、憲法の規定に準じて任期90日間の暫定大統領に就任したが、デモ参加者らはブーテフリカ氏の側近だったベンサラ氏の就任に激しく反発。
7週間にわたり反政府デモが続いている首都アルジェでは、10日も警察が監視する中で数千人がデモを行い、「ベンサラは出ていけ」「自由なアルジェリアを」とのシュプレヒコールをあげた。
ベンサラ氏は憲法により次期大統領選への立候補が禁じられているが、デモ隊は同氏退陣を要求し続けており、学生や判事らは10日、アルジェを含む同国各地での集会や行進の継続を呼び掛けた。 【4月11日 AFP】
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後述のスーダンも同様ですが、こうした動きが「民主化」につながるのか、かつての「アラブの春」のように内戦や過激派台頭をもたらす「混乱」に終わるのか・・・これからが正念場です。
アルジェリアの今後について、下記記事で島田久仁彦氏は、実質的な改革を阻害する権力を取り巻く特権階層の存在、深刻な経済・財政状況、そしてシリア・イラクからのISの移動をあげています。
****国際交渉人が警戒。アルジェリアの政変が地域にもたらす変動の嵐****
アルジェリアのブテフィリカ大統領が辞任を表明しました。この知らせをアルジェリア人から受けたというメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』の著者の島田さんは、独裁体制は終わっても、アルジェリアの未来に明るい光が差したとはとても言えないと、理由を3つ上げて解説しています。
さらに、アルジェリアの動静は、トルコの中東での立場の変化も相まって、北アフリカ・中東地域に大きな変動を引き起こすかもしれないと警戒を呼びかけています。
中東・北アフリカ地域が直面する再編の波
(中略)2010年に隣国チュニジアで端を発した『アラブの春』では、アルジェリアでもブテフィリカ氏の独裁に対する混乱はありましたが、「国民の声を聴く」と社会保障の拡充や職の斡旋といった社会政策を通じて、何とか抑え込むことが出来ていました。
しかし、その際の社会政策はさらなる国家経済の破綻の引き金となり、長引く原油価格の低レベルでの安定は、アルジェリア経済を回復不可能なレベルまで悪化させ、失業率も4−5割に到達する事態になっていました。
その元凶をブテフィリカ氏とその周辺の特権層に見つけた国民は、首都アルジェはもちろん、アルジェリア各地で大規模なデモに訴え、ついにブテフィリカ氏の独裁体制に終止符を打つことになりました。
ここまでであれば、「ついにアルジェリアも近代化され、明るい未来が…」というストーリーに繋がるはずなのですが、どうもそう一筋縄では行かないようです。
それはなぜか?主に3つの理由が考えられます。
1つ目は、先にもお話したブテフィリカ氏の取り巻き、Pourvoirの存在です。国民の支持を失ったブテフィリカ氏を切り捨て、自分たちの特権を堅持するためにさまざまな策を尽くすと思われるからです。
(中略)つまり、20年にわたったブテフィリカ氏の独裁体制が“終焉”したとはいえ、実質的な変化は起こらないでしょう。
2つ目には、積み重ねられた財政赤字と悪化する一方の失業率の存在です。2018年のデーターでは、失業率は12%ほどですが、20代から30代の失業率については、50%から60%と算出されており、若年層での社会不満が顕著になってきています。
また、日本のように失業保険制度は存在しないため、大学教育や専門教育を受けても働き口がなく、収入のあてもないという状況です。(中略)
そしてアルジェリア経済を立ち行かなくさせてしまっている元凶は、一向に改善しない原油価格です。
国家財政に占める石油関連産業の割合が少なくとも6割という経済であるため、国としての収入も年々減少しているにもかかわらず、失業対策で始めた公共事業が立ち行かず、費用ばかりがかさむという悪循環に陥っているため、アルジェリア財務省筋によると、「本当にヤバイ」のだそうです。
この“やばい!”状況は、数年前からIMFや世界銀行でも問題視されているのですが、ブテフィリカ政権はその“やばさ”を否定してきたため、国際的な金融支援も滞っています。
ゆえに、ブテフィリカ後のアルジェリアにおいても、目立った改善の種は見当たらず、国家財政の破綻と、生活環境の著しい悪化がもたらすcivil unrestの懸念が高まってきています。
そして3つ目は、高まる国家安全保障上の危機です。
最近のニュースでは、ISISの危機は去ったとの情報もありますが、それはあくまでも“シリア”“イラク”に限った話であり(といっても真相は??ですが)、その他の国ではまだまだ勢力を保っているか、増殖しています。その一つがアルジェリアと言われています。
その理由は、カダフィー大佐が民衆に惨殺されて以降、リビアでは無政府状態が続いていますが、そこに北アフリカ地域に勢力を伸ばすISISの中心が移ってきています。そのリビアの隣国ともいえるのが、アルジェリアです。
これまでは、現在大統領代理を務めているベンサラー将軍率いる国軍の健闘もあり、アルジェリアにおいては大規模なISISによる攻撃は起こっていないとされていますが、2016年あたりから激化しているアルジェリア南部にある炭鉱町を舞台にした武力衝突の背後には、ISISの戦士たちがいるとされています。
イラクに展開していたISIS勢力がイラクから駆逐されたとされる今、その残存勢力がリビア周辺に集まっています。今年に入ってから、ブテフィリカ氏の求心力の著しい低下と、民衆の不満の爆発、立ち行かない経済といった諸事情もあり、“生存を求めてISISと与する”という流れがあるように聞いています。
また、治安部隊や警察に対して、給与支払いが滞っているようで、次々と人員の離反が進んでいるようで、国内の治安状態の悪化は著しく、もう国軍の力では抑えきれない状況になっているようです。
もし、アルジェリアが近々、倒れるようなことが起きると、モロッコやチュニジアという周辺国はもちろん、北アフリカ地域と中東をつなぐ大国エジプトも一気に倒れ、その悪影響はドミノ倒しのように中東全域に広がりかねません。もうすでにシリア、イラクは言うまでもなく、イエメンなどでも惨憺たる状況が広がっているわけですから。(後略)【4月10日 MAG2NEWS】
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【スーダン 軍によるバシル大統領拘束 軍事評議会議長は1日で交代】
一方、物価上昇に対する抗議デモが昨年末から続いていたスーダンでは、実質的な軍事クーデターで、バシル大統領は軍に拘束される事態となっています。
****スーダン大統領、辞任 軍がクーデターか****
アフリカ北東部スーダンで、軍事クーデターを経て30年にわたり政権を握ってきたバシル大統領(75)が11日、辞任に追い込まれた。軍当局が同日、発表した。物価上昇に対する抗議デモが昨年末から続いており、軍が事実上のクーデターを起こしたとみられる。
国防相は国営放送を通じ、「バシル氏を拘束した。今後、2年間にわたって暫定の軍事政権を発足させる」と述べた。政権幹部が逮捕されたとの情報もある。(中略)
スーダンは、油田の8割を占めた南部が2011年に南スーダンとして独立し、石油関連の輸出が約75%減少した。米国から「テロ支援国家」に指定された影響もあって経済難が続き、昨年末には物価上昇をきっかけに各地で抗議デモが発生した。
バシル氏は経済改革を約束しつつ、今年2月には、1年間の国家非常事態を宣言し、不満の抑え込みを図った。しかし、人々はバシル氏の辞任を求め、今月にはハルツームの軍本部前でも連日デモを続けていた。
バシル氏は1989年に軍事クーデターで政権を掌握。2003年に始まり、推定30万人の犠牲者が出たとされるダルフール紛争での集団殺害などの容疑で国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ている。(後略)【4月12日 朝日】
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しかし、勢いづいた抗議の矛先は権力を掌握した軍部にも向けられています。
****スーダンのデモ隊、軍による政権移行を拒否 抗議継続を宣言****
スーダンで長期政権を維持してきたオマル・ハッサン・アハメド・バシル大統領が軍のクーデターで解任されたことに関し、同大統領の強権支配への抗議活動を続けてきたデモ隊は11日、軍の評議会による政権移行を拒絶し、デモの継続を宣言した。
アワド・イブンオウフ国防相は国営テレビで、「政権を打倒」し、バシル大統領は「安全な場所」で拘束されていると発表。30年におよぶバシル政権の支配に幕が閉じられた。
イブンオウフ氏は、今後2年間、大統領に代わり暫定軍事評議会が設置されると説明。また、新たな発表があるまでは国境および領空は閉鎖するとした。一方で、デモ隊に警告を発し、午後10時〜午前4時までの夜間外出禁止令を出した。(中略)
これに対し、昨年12月からバシル政権に対する抗議活動を続けてきたデモ隊は、軍のこうした動きを拒否し、政権が一掃されるまで抗議運動を継続すると宣言した。
陸軍本部前でデモ隊のシュプレヒコールを先導する様子がインターネット上に拡散し、抗議運動の象徴となったアラー・サラハさんは、「人々は暫定軍評議会を望んでいない」と述べた。
サラハさんはツイッターの投稿で「バシル政権全体が軍事クーデターでスーダン市民を欺いている限り変化は訪れない」と主張。「われわれは市民評議会主導の移行を望んでいる」と述べた。 【4月12日 AFP】AFPBB News
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こうした国民の不満に押されたのか、あるいは軍内部の権力闘争か、軍事評議会議長がわずか1日で交代するという事態になっています。
****軍評議会トップ、1日で辞任=民衆反発で混乱も―スーダン****
スーダンでバシル前大統領がクーデターで解任された後に設置された軍事評議会のイブンオウフ議長は12日、国民向け演説で辞任を表明した。11日に議長に就いたばかりで、わずか1日での辞任。
バシル氏退陣を求めてきた市民の間には軍主導のクーデターへの反発が強い。軍政トップ人事をめぐる混乱で政情不安が続く恐れもある。
新しい議長にはブルハン・アブドルラハマン中将が就任した。民政移管を求める反政府勢力は「国民の意思の勝利だ」と歓迎。一方で、一連の抗議活動を今後も継続するよう呼び掛けた。【4月13日 時事】
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今後の動向は「流動的」としか言えません。
【和平の成果が遅い南スーダン ローマ法王、異例の和平実現要請】
個人的にスーダンの動向以上に関心があるのは、その南の「南スーダン」の状況。
日本の自衛隊が撤退して以来、日本メディアの関心は消えてしまい、一体現在どうなっているのかすら定かではありません。
****メディアの報道から消えたアフリカの国****
総人口(約1300万人)の半分以上に当たるおよそ700万人が緊急の人道支援を必要とし、約228万人が近隣の国々に難民として逃れ、これとは別に約187万人が国内避難民と化し、もはや国家崩壊の危機にある──と書けば、「一体、どこの国の話?」と思う読者もいるのではないだろうか。
これはアフリカの南スーダン共和国の現在の状況である。2017年5月まで陸上自衛隊が国連平和維持活動(PKO)に派遣されていた国だ。
これほど深刻な人道危機が起きているにもかかわらず、その危機が現在の日本で人々に知られているとは到底思えない。なぜか。一つ考えられるのは、陸自が撤収した途端に、新聞もテレビも南スーダンについて、全くと言っていいほど報道しなくなったことである。(中略)
■メディアがアフリカを取り上げる「例外」とは
(中略)
筆者は南スーダン内戦に関する報道だけでなく、日本の新聞とテレビが1990年代以降のアフリカや中東の紛争について、何をどれくらい報じてきたかを詳細に調べたことがある。
そこで分かったことは、70年以上昔の「過去」の戦争体験を語り継ぐことに今も膨大なエネルギーを投入し続けている日本のメディアが、大勢の人々が命を落としている世界各地の「現在進行形の戦争」については、「一部の例外」を除いて相対的に低い関心しか示さないという事実であった。とりわけテレビ報道に、その傾向が著しかった。
「一部の例外」とは、「自衛隊派遣」と「米国の関与」である。とりわけ、日本のメディアは、米国が部隊派遣や和平仲介などの形で関わっている紛争については熱心に報道するが、米国が足抜けした途端に報道が激減する。(中略)
紙の新聞には紙面の広さという物理的な制約があり、テレビのニュースには時間的な制約がある。世界各地で起きている森羅万象の出来事を全て報道することは不可能であり、メディアはニュースに優先順位を付けざるを得ない。それはインターネットによる情報流通が主流となった現在でも変わらない。
しかし、メディアによるニュースの優先順位の付け方がこのままでよいのか、という問題はあるだろう。
南スーダンの総人口の半分以上が人道危機に瀕している中、自衛隊派遣と日報問題に集中する報道の仕方はメディアの「内向き志向」を、米国の関与を重視する報道の仕方は「米国偏重」を象徴してはいないだろうか。【3月21日 GLOBE+】
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南スーダンの混乱・内戦は、民族問題を背景とするキール大統領とマシャール前第1副大統領の対立・抗争という形で展開してきました。
今現在は、両者は表立った抗争は停止しているようです。(よくわかりませんが)
ただ、これまでも何度も停戦合意は破棄された経緯もありますので、安心はできませんし、“配給に向かう女性を標的、10日間で125人がレイプ被害 南スーダン”【2018年12月1日 AFP】といった記事にみられるように、国内情勢はとても“安心できる”状態にはないようです。
国際停戦監視団も、現状には不満を表明しています。
***南スーダンの和平進捗、成果は「期待をはるかに下回る」 停戦監視団****
南スーダンの和平合意の実行に向けた進捗状況について、国際停戦監視団「合同監視評価委員会」は12日、「期待をはるかに下回っている」との見解を示した。(中略)国軍の創設や各州の境界確定といった「未解決の重大課題」が残されていると指摘した。
反政府勢力を率いるリヤク・マシャール氏は、2013年にサルバ・キール大統領と不和になるまで副大統領を務めていた。同国ではスーダンから独立してわずか2年後に内戦が勃発する事態となった。
マシャール氏が属するヌエル人と、キール大統領が属するディンカ人の間の民族対立は、残忍な暴力やレイプに発展し、国連は「民族浄化」だと警告した。
内戦の終結を目指し、いくつかの停戦合意や和平協定が結ばれたが、いずれも失敗に終わった。南スーダン内戦では推定で約38万人が死亡、国民の約3分の1が住む場所を追われて250万人近くが難民化したほか、深刻な飢餓も発生した。 【4月13日 AFP】AFPBB News
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そうしたなかで注目されたのは、ローマ法王の対応。
****和平願うローマ法王、対立の両者の靴にキス 南スーダン****
ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王は11日、南スーダンのキール大統領と、反政府勢力を率いるマシャル元副大統領の両者とバチカンで面会した。
法王は、昨年9月の和平合意後も対立を続ける両者に和平の実現を呼びかけた後、両者に歩み寄ってひざまずき、靴にキスをした。
南スーダンの和平を望む強い思いの表れとみられるが、法王の前代未聞の行動が話題を呼んでいる。
南スーダンは2011年の独立後に内戦が続き、昨年9月に和平合意を結んだ。来月12日までにマシャル氏も参加した統一政権が発足することになっているが、両者は主導権争いを続けている。同国にはキリスト教徒が多く、法王は和平問題の解決に関わりたいとの強い意向を示していた。【4月13日 朝日】
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全世界が注目するのを見越してのパフォーマンス的側面もあるでしょうが、キール、マシャール両氏とも、一定に思う所はあるでしょう。
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