(南スーダンのワウに国連が設置した文民保護地区 (PoC)の避難民たち(2016年8月2日撮影)【4月11日 AFP】
【制約が浮き彫りになった日本のPKO活動】
日本政府はことし3月、「一定の区切りがついた」などとして南スーダンのPKO活動に派遣していた陸上自衛隊の撤収を決め、先月帰国した第1陣に続き、5月6日には第2陣115人が帰国しました。今月末までには全員が撤収する予定です。
現地の復興に向けたインフラ整備で大きな功績を残し、これまでのところ全員が無事帰還できることは素晴らしいことではありますが、現地の混乱が収まり、復興も軌道に乗った・・・からではなく、混乱が激しくなったために帰国するという日本PKOの在り方を含めて、今後への課題も大きなものがあります。
****南スーダンPKO、第2陣きょう帰国 最大の実績、注目されず 新たな派遣先、選定難航****
南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣されていた陸上自衛隊部隊の第2陣約110人が6日、帰国する。5月末までに全員が撤収する予定。
5年以上の活動を通じ、インフラ整備で過去最大の実績を残すなど国家建設に貢献した。キール大統領から特別な賛辞が贈られたが、国内では日報の隠蔽問題などに焦点が当てられ、その成果は注目されていない。PKO5原則に基づく制約も置き去りにされたままだ。(中略)
◆制約浮き彫り
安全保障関連法に基づき昨年11月から、「駆け付け警護」と宿営地の「共同防護」が新たな任務として付与された。(中略)
しかし、活動地域を限定したこともあり、駆け付け警護は現在まで実施していない。現地住民の保護のため監視や巡回を行う「安全確保業務」も可能になったが、任務付与は見送られた。
これとは対照的に、PKOに参加している中国軍部隊は3月、南スーダン南部で戦闘に巻き込まれそうになった国連職員ら7人をホテルから救出している。
治安維持の面では陸自部隊の活動が見劣りすることは否めない。自衛隊は停戦合意の維持などを柱とするPKO参加5原則に縛られているためだ。武力衝突が発生すれば、国会で「5原則違反」の批判にさらされるため、政府は積極的な活動に二の足を踏む。
陸自部隊が南スーダンから完全撤収すれば、日本が部隊派遣するPKOはゼロになる。政府高官は「ゼロの期間は極力短くしたい」と語るが、新たな派遣先の選定は難航している。地中海のキプロス平和維持隊など活動環境が安定したPKOは多くの国が希望し、空きがないのだ。
陸自部隊第1陣が帰国した4月19日、政府高官は自身に言い聞かせるように、こう語った。「無理に新たな派遣先を見つける必要はない。日本は日本らしい貢献をすればいい」【5月6日 産経】
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【拡大する現地の混乱 国際的な住民保護の必要性は増している】
現地。南スーダンからは、政府軍による住民殺害、NGO職員の被害、PKO拠点への攻撃など、混乱を伝える報道が続いています。
****<南スーダン>政府軍虐殺か、住民16人死亡****
内戦状態が続く南スーダン北西部のワウで10日、地元住民が襲撃され、少なくとも16人が死亡した。AP通信などは住民の証言として、政府軍が民兵集団と民家を一軒ずつ捜索、出身民族を理由に銃撃したり、家を焼き払ったりしたと伝えた。
9日に反政府勢力の待ち伏せ攻撃で政府軍兵士が死亡したことに対する報復だったとみられる。
国連南スーダン派遣団(UNMISS)は10日の声明で「病院で民間人16人の遺体を確認した」と明らかにした。住民3000人以上が教会や国連施設に避難したという。
南スーダンの内戦を巡っては、国連の専門家が何度も「ジェノサイド(民族大虐殺)の危機にある」と警告。住民らは、政府軍を主導し民兵集団もつくる最大民族ディンカ人による他民族の虐殺や襲撃が繰り返されていると証言していた。【4月11日 毎日】
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****<南スーダン>戦闘拡大 NGO職員など人道支援者にも被害****
国連平和維持活動(PKO)に参加している陸上自衛隊が17日に撤収を始める南スーダン各地で、政府軍と反政府勢力の間の戦闘が拡大している。援助関係者に対する襲撃も多発するなど、戦況のさらなる悪化が懸念されている。
国連人道問題調整事務所(OCHA)は15日、内戦激化を受けて、東部ジョングレイ州で活動していた人道支援関係者60人が一時退避を余儀なくされたと明らかにした。北西部ワウで14日に世界食糧計画(WFP)の契約スタッフ3人が殺害されるなど、支援活動は「ますます危険かつ困難になっている」と警告している。
南スーダンでは、一部地域で飢饉(ききん)が起きるなどかつてない規模で食糧不足が広がっているが、主に政府軍や大統領直属の民兵集団によるとされる援助関係者に対する襲撃や妨害が後を絶たない。
この1カ月あまりでも、3月中旬に中部イロル付近で国際移住機関(IOM)の車列が銃撃を受けて5人が死傷したほか、同下旬にも首都ジュバからジョングレイ州へ移動中のNGO職員6人が何者かに殺害された。国連によると、2013年末に内戦が始まって以降、殺害された援助関係者は82人に上る。
国連の専門家などからも、政府軍や民兵が特定の民族を標的とした襲撃を行っているほか、反政府勢力の支配地域への食料供給を妨害し「意図的に飢餓状態を作り出している」との批判が出ている。
国連南スーダン派遣団(UNMISS)も15日、声明を発表。西部ラガや上ナイル地方でも新たな戦闘が発生しているとして、政府軍と反政府勢力の双方に自制を呼びかけた。【4月17日 毎日】
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****南スーダンのPKO拠点、攻撃受ける 国連部隊が反撃***
国連南スーダン派遣団は4日、南スーダン北部の国連平和維持活動(PKO)の拠点が何者かによって攻撃を受け、国連部隊が反撃したと発表した。
現場は同国北部リアーのPKO拠点。3日夜、小型の武器による攻撃を受け、ガーナの国連部隊が反撃したという。同国では政府軍と反政府勢力による戦闘が続いているが、どちらの勢力が攻撃を仕掛けてきたかは不明。攻撃による死傷者は出ていないという。【5月5日 朝日】
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日本政府や国内世論は、自衛隊がこうした混乱に巻き込まれることがなかったことを喜んでいるかと思いますが、政府軍による住民殺害など、国際的な介入によって住民の生命・財産を守ることがこれまで以上に必要とされている時期でもあります。
****住民保護は担えず****
現地情勢に詳しい栗本英世・大阪大大学院教授(文化人類学)の話
与えられた条件の中で自衛隊は最善を尽くしたと思う。しかし道路補修などは自衛隊でなくてもできる。内戦の激化で最も期待された住民保護の役割は担えなかった。
国会での議論も、PKO5原則など内向きのものばかり。日本が南スーダンの人々にどんな貢献ができるかの議論が必要だった。
現地は今、和平合意の実施や国民和解の実現、飢えに苦しむ人々への援助をめぐって重要な局面を迎えている。このタイミングでの撤収は決して歓迎されることはない。「一定の区切りがついた」という日本政府の説明は、とても現地の人々を納得させることはできないだろう。【4月20日 朝日】
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【戦闘激化と並行して飢餓進行、難民増大の問題も深刻化】
激しさを増す戦闘・混乱、政府機能のマヒのなかで、600万人の命が危険にさらされる可能性があるとも指摘される飢饉が進行しています。
****南スーダン、「人災」による飢饉で600万人の生命が危機に ****
南アフリカの慈善団体は5日、飢饉(ききん)に見舞われている南スーダンやその周辺国で、年末までに計600万人の命が危険にさらされる可能性があると警告した。
一方で国際社会は、最悪の事態を防ぐために必要とされる44億ドル(約4940億円)の支援金の調達に苦慮している。
慈善団体「ストップ・ハンガー・ナウ・南アフリカ」の代表、サイラ・カーン氏は、国際社会が南スーダンに支離滅裂な対応をしているため、数百万人の命が脅かされていると警鐘を鳴らした。
カーン氏は「非常に暗たんたる状況だ。多くの非政府組織(NGO)や各国政府には、何をする必要があるかという点について多くの混乱がみられる」と指摘。「その地域は困難に直面しており、われわれが何もしなければ、飢餓によって年末までに600万人を死なせることになる」と述べている。
今年2月、南スーダンと国連(UN)は、同国北部のユニティー州を中心とする複数の地域で飢饉が発生していると公式に宣言。国連の担当者らは、避けることもできた「人災だ」と述べていた。
2011年にスーダンからの独立を勝ち取った南スーダンは、サルバ・キール(Salva Kiir)大統領とリヤク・マシャール(Riek Machar)前副大統領による権力争いが2013年12月、内戦にまで発展。これまでの死者は数万人に上り、350万人が避難を余儀なくされた。【5月5日 AFP】
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350万人とも言われる避難民・難民への対応も急務と言うか、限界に近づいています。
隣国ウガンダにはすでに83万人が流入しており、数か月足らずで世界最大の難民キャンプが出現するような状況で、現地社会との摩擦も大きくなっています。
****南スーダンからの難民受け入れ、危険水域に ウガンダ****
ウガンダ・ユンベにある難民キャンプで大勢の南スーダン難民が食料の配給を待っている──。そばで客待ちしているバイクタクシー運転手のサディク・アゴトレさんは彼らが客になることはめったにないと不満を漏らす。
アゴトレさんは「商売はよくないね。この人たちには金がない」と語り、わずか8か月で低木などが生い茂る森から27万人以上が暮らす世界最大の難民キャンプ「ビディビディ(Bidibidi)」へと様変わりした広大な土地を見やった。
ウガンダはこれまで、難民を温かく歓迎していると称賛されてきた。しかし隣国の南スーダンの内戦により1日2000人以上の難民が同国に流入しているなか、地元コミュニティーや支援団体はその重圧に押しつぶされそうになっている。
人口50万人のユンベでは、地元で展開されている人道活動が仕事に還元されずにいるため、住民の多くはいらいらを募らせている。しかも、もともとそこまで豊富ではない資源が、この影響でさらに手に入りにくくなっており、状況はより厳しいものになっている。
ユンベで小売店を営むナシャール・ドブレ―さんは「これ(難民危機)のせいでここはだいぶ変わった。ストレスの度合が増えた。仕事のストレスがものすごく増えた。食料価格は上がる一方だ。彼らは木を切るから地元の環境にだって良くない」と語る。
ビディビディ難民キャンプは昨年8月、南スーダンのサルバ・キール大統領派とリヤク・マシャール前副大統領派の間で結ばれていた停戦協定が崩壊し、2013年に勃発した内戦状態に戻ったことによって生じた難民の大量流入に対処するために設置された。
ビディビディはほんの数か月足らずで、主にソマリア難民を受け入れているケニアのダダーブ(Dadaab)難民キャンプを追い越し、世界最大の難民キャンプとなった。
しかしこの広さ250平方キロメートルのビディビディでさえ、南スーダン難民を部分的にしか収容できてない。これまでに南スーダンからウガンダに流入した難民は計83万人。国連(UN)の予測によると、今年半ばには100万人を超えるとみられている。
国連世界食糧計画(WFP)のウガンダ副代表を務めるシェリル・ハリソン(Cheryl Harrison)氏は、月に1万5000トンの食料を配送するロジスティクスの困難さを指摘している。
■「今はとても不安定な状態」
WFPは南スーダンの和平協定崩壊前、ウガンダに滞在する難民への食料支援として月600万ドル(約6億7700万円)を投じていたが、今では1600万ドル(約18億円)以上にまで膨れ上がっている。WFPの今後半年間の予算は5000万ドル(約56億4000万円)足りない状況だ。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のフィリッポ・グランディ高等弁務官は先月、この状況について「限界にある」と述べた。
現地資源の利用をめぐっては、難民と地元住民との間で対立も起きている。最近では、難民の流入はなんの利益も生まないと主張する住民らが、掘削孔へのアクセスを数時間封鎖するという出来事も起きた。
地元当局のジェイコブ・バテミエット氏は「建材、木材、燃料などの天然資源の問題は最悪の状況だ。流入した27万2000人の影響は大きい。ここでの失業率はとても高い」とキャンプの状況を説明した。
あるNGOのスタッフによると2月には、地元当局の職員9人が支援物資を横領して解雇されたことに不満を持つ100人が、ビディビディ難民キャンプ襲撃を予告するプラカードを掲げてデモを行ったという。
ウガンダは長らく、世界で最も進歩的な難民政策を取っている国として称賛されてきた。政府は難民に勤労と国内移動の自由を認めてきたし、北部のコミュニティーでは定住用の土地も提供してきた。
難民らは小さな土地を譲り受けて小屋を建て、農作業用の土地開墾に従事することになっている。しかし、ビディビディではまだ行われていない。
ビディビディ難民キャンプの責任者、バリャムウェシガ氏は、自分たちの食べるものを生産できない人々が増えていることの危険性を強調し、「(食べものを生産できなくなれば)難民たちは仕方なく盗む。盗みは暴力を呼ぶ。そうなれば難民と受け入れ側のコミュニティーが享受している共存は崩壊してしまうだろう」「今はとても不安定な状態にある」と語った。【5月8日 AFP】
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【とりあえずは“日本ができること”を】
一方、イギリスは南スーダンPKOへ兵士400名(医療・工兵部隊)を派遣することを発表しています。
****英国軍400人、国連南スーダン派遣団に初参加****
英国軍は2日、兵士約400人を南スーダンで平和維持活動(PKO)を行っている国連(UN)部隊に数週間以内に派遣することを明らかにした。同軍の国外配備としては最大規模となる。
2011年に発足し、現在1万3000人規模のUNMISSに初めて参加する英国軍は、医療部隊と工兵部隊から編成される。英国軍の南スーダンへの派遣は、デービッド・キャメロン前政権時代に決定していた。(中略)
配備先は、南スーダン北部ベンティウとマラカルで避難を強いられた民間人を収容している国連のキャンプ。
ここで道路や排水溝の整備、治安維持などを支援する。また、80人近い医療要員がベンティウの病院に配属され、民間人に加え同地域で活動している国連PKO要員1800人の治療に当たる。【5月3日 AFP】
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自衛隊の撤収で南スーダンの危機は終わった訳ではなく、むしろ危機は拡大しています。
PKO5原則など、日本のPKO活動の在り方については、今後に向けた議論が必要ですが、国内で飢餓が進行し、国内・隣国に避難民・難民があふれる状況で、さしたりの“日本ができること”に早急に取り組むこと必要です。
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