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(射撃訓練を行うアフガニスタン国境警察メンバー 射撃の腕だけでなく、住民と心が通じ合える警官の育成が求められています。“frickr”より By isafmedia
http://www.flickr.com/photos/isafmedia/4133027214/)
【出口戦略に不可欠な現地治安部隊の強化】
昨年12月1日、オバマ大統領は3万人のアフガン駐留米軍の追加増派と2010年夏までの展開を発表しましたが、併せて、アフガン治安部隊(軍・警察)の強化を急ぎ、「18カ月後に米軍は帰還を開始する」として、2011年7月までに米軍撤退の道筋をつける出口戦略も明らかにしています。
増派の目的として「武装勢力の掃討と、主要な人口集中地区の治安安定」に加えて、「有能なアフガン治安部隊の強化」を挙げています。
アメリカにとってアフガニスタンをベトナム化させないためには、タリバンとの戦いと同様に、現地治安部隊を強化・育成して権限移譲につなげていくことが極めて重要な課題となっています。
先日のNATO外相会議でも、この線に沿った確認がなされています。
****NATO外相会議:アフガンへさらに治安権限の移譲を*****
エストニア・タリンで開かれた北大西洋条約機構(NATO、加盟28カ国)の外相会議は23日、アフガニスタンからの出口戦略を協議、アフガン側への治安権限移譲の加速で合意して閉幕した。ラスムセンNATO事務総長は「条件が整った地域からアフガン側への権限移譲を今年中に開始する」と強調した。
アフガンにはNATO加盟国を中心に46カ国で構成する国際治安支援部隊(ISAF)約10万人が駐留している。権限移譲計画は、ISAFとアフガン側が協議の上、地域ごとに立案する。権限移譲でカギを握るアフガン軍・警察の訓練要員は約450人不足しており、事務総長は欧州諸国などに要員派遣を求めた。【4月23日 毎日】
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アメリカ以外のISAF派兵国としては、ドイツ政府も1月26日、アメリカの求めに応じて500人の部隊を増派する方針を発表した際に、2011年から段階的に独軍部隊を撤退させ、2014年には治安権限をアフガン側に移譲する出口戦略を明らかにしています。
また、1月28日に行われたアフガニスタン支援国会議においても、アフガニスタンが掲げるISAFからの「5年以内の治安権限移譲」終了の目標を支持する声明を採択しています。
****アフガン:5年以内の治安権限移譲の声明採択 支援国会議*****
ロンドンで開かれたアフガニスタン支援国会議は28日、同国が掲げる国際治安支援部隊(ISAF)からの「5年以内の治安権限移譲」終了の目標を支持する声明を採択して閉会した。
会合には約70カ国が外相級を派遣した。声明は、段階的な治安権限移譲について「条件が整えば」今年中にも「いくつかの州」で実施されるとし、アフガンのカルザイ政権による「5年以内に治安確保の責任を負う」という目標を歓迎した。
しかし、ISAFの部隊「撤退」スケジュールへの言及はなかった。現地の治安情勢は悪化しており、権限移譲日程に関する楽観的な目標はアフガンの自己努力を促す意味合いが強いようだ。(後略)【1月29日 毎日】
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【マルジャで、そしてカンダハルで】
現地での動きを見ると、2月13日からアメリカ海兵隊、アフガニスタン国軍、国際治安支援部隊(ISAF)など約1万5000人がタリバン掃討作戦「オペレーション・ムシュタラク(Operation Mushtarak)」を実施したアフガニスタン南部のマルジャ(Marjah)では、一応の制圧が達成されたとして、2月25日、米英アフガニスタンの軍高官と地元住民数百人が参加してヘルマンド州政府による国旗掲揚式が行われ、統治権限が文民政府に移ったことが宣言されました。
今回の作戦では、タリバンを掃討した後、医療機関や電気など公共サービスの復旧や統治機構の整備に乗り出し、中央政府の支配の確立までを目指すとされていますので、アフガニスタン治安部隊の役割が重要になります。
過去にも同様の試みはされましたが、掃討後の治安維持にあたる部隊の規模が不十分で、タリバンの復興を許した経緯がありますので、今回はアフガン軍・警察に加え、米英軍も支援のために残るとされています。【2月14日 毎日】
同様の大規模作戦は、タリバンの牙城である南部カンダハルにおいても年内に実施予定と報じられています。
今後のアフガニスタン情勢のカギとなるアフガニスタン軍・警察は現在計約20万人。11年中に約30万人にまで増強される計画ですが、訓練要員が不足しており、ゲーツ米国防長官は北大西洋条約機構(NATO)国防相会議で、訓練要員の派遣を要請しています。
【「現地警察とタリバンのどちらがひどかったか・・・」】
アフガニスタン警察の現状に関しては厳しい評価があります。
4月14日号Newsweekには“60億ドルも掛けて育てた「銃も撃てない」ど素人警察”との記事がありました。
リードには“読み書きもろくにできず、支給された武器弾薬はタリバンに横流し、住民の信頼もない即席警察部隊にアメリカは現地の治安を委ねるのか”ともあります。
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射撃が下手だけならまだいいが、タリバンの使う弾薬の多くは警官からの横流し。
時には警官部隊とタリバンが偽の銃撃戦を繰り広げ、大量の弾薬を横流し用に注文することも。
麻薬取引、恐喝、レイプにも警察が関与。住民の信頼が全くない。
地元の人々からカネをゆすり取るような警官が多い。
大規模掃討作戦の行われたマルジャでも、村の長老は米海兵隊は歓迎しているが、アフガニスタン警察には戻ってほしくないと言い切る。「現地警察とタリバンのどちらがひどかったか・・・」
アメリカは警察育成を、60億ドル以上かけて民間軍事会社に委ねてきたが、全く成果が出ていない。
訓練スタッフの多くはアメリカの元警察官や保安官だが、彼らも適切な指示をほとんど与えられていない。
経費の支出、訓練プログラムの監督システムも機能していない。
警察志願者は学校に通ったことがない農村部住民。15%が麻薬検査で陽性反応。
車の運転はおろか、歯磨きの仕方もしらない人がほとんどで、9割近くは読み書きできない。
07年1月以降、殉職した警官は2000人以上で政府軍兵士の2倍以上。その半数程度は銃の誤射と交通事故。
民間軍事会社の元幹部「まともな警官が育つ訳ない。彼らも分かっているし、こっちも分かっている。ただ頭数をそろえればいいんだ」
低い定着率。訓練プログラム導入後17万人が訓練を受けたが、そのうち今も任務についているのは約3万人だけ。
民間請負会社では不正が横行し不効率。イタリア憲兵隊が指導にあたったところ、これまでにない成果があがっている。
マルジャに送りこまれた精鋭部隊(小学校3年生並みの読み書きができ、16週間の訓練を受けた)の地元での評価はさまざま。
「訓練されていない警官10人より、訓練された警官1人のほうがいい」
そもそも、今のアフガニスタンに何人の警官がいるのか、正確な数字は誰も知らない。
警官隊に紛れ込んだタリバンを見分けることなど、とても無理。
「ここの警察は、住民と良好な関係を築くということを知らない」
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【日本 警官給与を負担、訓練も】
非常に辛口な評価です。
そのアフガニスタン警察には日本も深く関与しています。
昨年3月、日本政府はアフガニスタン支援の一環として、政府開発援助(ODA)から約141億円を拠出し、8月に予定されていたアフガン大統領選終了までの半年間、全警官(約8万2000人)の給与を負担することを決定しました。
その後11月には麻生前首相のもと、2010年度から5年間で総額4000~5000億円の支援を行い、首都カブール周辺の首都圏開発や、治安対策としての警察官への給与支援の継続を決めています。
“日本国内で10人程度の幹部を対象に行っているアフガン警察官の研修についても対象を拡大する。
トルコなどのイスラム圏の第三国での実施を模索している。経済的困窮などで旧支配勢力タリバンに
加わった元兵士に対し、土木工事などに従事させたり、職業訓練を行ったりすることで社会復帰を図る
プログラムも盛り込む。訓練期間中に、元兵士の生活を支えるための資金援助も検討されている。”【09年11月3日 読売】
最近の話題では
****日本とEU、合同でアフガン警察訓練施設開設へ******
欧州連合(EU)と日本が、アフガニスタンの警察官の訓練施設を合同で設置する構想を進めていることが分かった。
28日に東京で開かれる日EU定例首脳会議で設置に合意する見通しだ。
EU外交筋によると、訓練施設は、日本が「地域復興チーム(PRT)」を派遣しているアフガン中西部ゴール州内に開設される。アフガン全土から警察官を招き、武器使用や対テロ警備などについて指導を行う。
日本は設置資金を負担し、実際の訓練は現地に駐留するEUの警察育成チームが担当する。早ければ年内にも活動を開始する方向で準備を進めているという。【4月24日 読売】
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射撃の腕もさることながら、“住民と良好な関係を築くということ”を理解した警官を育成できればいいのですが。
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