孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  年金改革は財政的には不可避 政治的には国民の反発を招き、大票田・年金受給者を失う

2024-10-15 22:38:25 | 欧州情勢

(2023年1月1、パリでの年金改革に反対するデモの様子【ウィキペディア】)

【2023年に年金受給開始年齢を引き上げたマクロン大統領 国民は反発】
日本でもそうですが、どこの国でも社会の高齢化が進むなかで年金制度を財政的に維持することが非常に困難になっており、年金制度の改革が避けて通れない課題となっています。例えば中国でも・・・

****中国、来年から15年かけ定年引き上げへ 年金財政逼迫を緩和****
中国全国人民代表大会(全人代)常務委員会は、法定退職年齢の引き上げに向けた草案を承認した。新華社通信が13日伝えた。

中国政府は7月、多くの省における年金財政の逼迫を緩和するため、退職年齢を段階的に引き上げる方針を示していた。

現在、法定退職年齢は、男性が60歳、女性はホワイトカラーが55歳、工場労働者は50歳と、世界的に見てかなり低い。

定年引き上げは来年1月1日から段階的に開始され、最終的に男性の定年は63歳に、ホワイトカラーの女性は58歳に、工場労働者の女性は55歳に、それぞれ引き上げられる。

王暁萍・人力資源社会保障相は13日、定年は15年かけて引き上げると発言。労働者が早期退職や最長3年の定年延長を選択できるなど、柔軟かつ任意に定年を引き上げていくという。

中国の平均寿命は1960年の約44歳から2021年には78歳に延び、50年には80歳を超えると予測されており、改革が急がれる。同時に、高齢者を支えるために必要な労働人口は減少している。【9月13日 ロイター】
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事情はフランスでも基本的には同じ。マクロン大統領は昨年3月に年金受給開始年齢を62歳から64歳に引き上げる改革を断行しましたが、国民の激しい抵抗にあいパリはゴミで溢れました。

だいたいフランス人は仕事よりバカンスを重視するお国柄ですから、もっと長く働け・・・とは、もってのほかということでしょう。

****34歳の新首相誕生で、加速するフランスのシニア市場****
国民は猛反対、強行採択された年金改革法案
2023年3月、マクロン政権は国民の強い反対にもかかわらず、年金制度改革を強行採択し、年金受給開始年齢は62歳から64歳に引き上げられた。

大規模な抗議活動が全国で数カ月も続いた。抗議行動はゴミ収集作業の職員にも広がり、首都パリの街は路上に山積みになったゴミで溢れた。この大規模な反発は後にボルヌ首相の辞任のきっかけとなった。

2023年から続く国民の政府への不信感の責任を取る形で、2024年1月にボルヌ首相が辞任した。これを受けて、マクロン大統領は、国民から人気の高かった34歳のアタル国民教育相を首相に任命した。

そもそもフランスには、早期退職が社会的に有益であるとみなされる傾向がある。これは長年にわたり、シニア層の雇用を優遇すると若者の雇用が奪われ、若年層の失業率をさらに悪化させるという懸念から取られた多くの政策の結果でもあるが、シニア側も早期退職を望む人は多く、生涯現役という概念は少ない。

また、リタイアを現役生活からの撤退とはみなさず、仕事に縛られることなく余暇を存分に楽しめる人生の新たなステップと捉える人が多く、仕事よりバカンスを重視するフランスらしい一面である。
 
フランスの社会保障は充実しており、強固な社会保護の枠組みを提供している。正式な定年前に退職することを選択した場合でも、許容可能な生活水準を維持するのに十分な退職年金の恩恵を受けることができるのも大きい。経済的に可能な限り、多くの人ができるだけ早く退職したいと思う理由となっている。これが年金改革における法定退職年齢引き上げ時の猛反発を引き起こした原因でもある。

極端に低いフランスのシニア就業率
アタル首相が就任後に取り組んだ課題は、シニアの雇用促進であった。これは、2030年までに完全雇用を実現するための法案の一部であり、55歳から64歳のシニア層の就業率を改善し、国の年金費用を軽減するだけでなく、シニア層の経験を労働市場で活用することを目指している。定年年齢が64歳に引き上げられたため、現在、シニア層を労働市場に統合するための対策が急務となっている。(後略)【5月8日 リクルートワークス研究所】
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どんなに国民の反発が強くても、やるべきことはやる・・・・と言えば、強いリーダー、ポピュリズムに堕すことのない健全な民主主義ということにもなりますが、別の角度からは、国民の声を聞かない、傲慢・・・・といった評価も。

【年金制度改革を撤廃を掲げる左派が総選挙で勝利 しかし、左派に任せると財政・経済は大混乱する懸念も】
6~7月に行われた総選挙では左派連合は、2週間以内に年金制度改革を撤廃し、法定退職年齢を64歳から60歳に引き下げる方針を公約にしました。

****フランス左派連合、年金改革の撤廃、最低賃金の大幅増を公約****
フランスで6月30日と7月7日に行われる国民議会(下院)選挙に向け、選挙協力で合意した左派の社会党、環境派、共産党、極左・不服従のフランス(LFI)の4党からなる左派連合「新民衆戦線」は6月14日、選挙公約となる政策プログラムを発表した。

経済政策ではまず、下院選の決選投票が実施される7月7日から2週間以内に年金制度改革を撤廃し、法定退職年齢を64歳から60歳に引き下げる方針を盛り込んだ。マクロン政権が実施した失業保険制度改正(2023年11月28日記事参照)も同時期に撤廃する。(後略)【6月20日 JETRO】
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財源的には、、富裕層に対する優遇廃止(所得税の累進課税強化、連帯富裕税の再導入など)、企業の超過利潤への課税強化、キャピタルゲインに対する一律課税制度(30%)の廃止、相続税などの増税によって確保するとしていますが、他の政策を含めて、それでまかなえるのか、そうした制度改革の結果、富裕層・企業などが国外に脱出するとか、意欲を削がれるとかの弊害はないのか・・・といった疑問も。

このあたりが、ルペン氏率いる極右・国民連合とも手を組めないが、左派、特にその中核たる急進左派「不服従のフランス(LFI)」を率いるメランション氏にも政権をまかせる訳にはいかない・・・とマクロン大統領と考え、三すくみ状態が続く所以でもあります。

ただ、やはり“年金制度改革を撤廃”といった公約は有権者には受けます。結果、左派は大勝利。

****仏下院選、左派が逆転勝利 与党の年金改革に国民反発****
フランスで7日、国民議会(下院、定数577)選挙の決選投票が実施され、野党で左派連合の新人民戦線(NFP)が最大勢力となった。マクロン大統領が率いる中道の与党連合は第2勢力となり議会の多数派から転落した。第1党になるとの予測もあった極右の国民連合(RN)は失速して第3勢力にとどまった。

マクロン氏が2023年春に強行した年金の受給年齢を引き上げる改革に対する国民の不満が強く、与党連合が支持を失う要因となった。NFPは年金改革の廃止を訴えており、政策が逆戻りする可能性がある。(後略)【7月8日 日経】
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【再度年金問題に挑むバルニエ政権 政治的には厳しい状況】
しかし、マクロン大統領が選挙で勝とうが負けようが、年金制度の改革は避けて通れません。再び年金問題にのぞむ構えですが・・・

一方で、政治的には、膨れ上がる大票田でもある年金受給者層を敵に回すような政策はできない・・・という“民主主義の欠陥”があります。“欠陥”とは言い過ぎでしょうか。

****膨れあがるベビーブーム世代への年金支給、仏政権の改革案は前途多難****
膨れあがる財政赤字の削減に取り組むフランス政府が、火中の栗とも言える年金問題に再び挑もうとしている。今回は、年金受給者に支出削減への取り組みへの貢献を求め、また高齢有権者におもねる傾向のある国民議会議員らにも支持を求めている。

エコノミストやアナリストは、フランスが歳出肥大化に真剣に対処するには、1946−1964年に生まれたいわゆる「ベビーブーマー世代」が受け取る年金の改革は避けて通れないと指摘する。フランス政府の歳出に占める年金の比率は4分の1を超えている。

バルニエ首相率いる現内閣は2025年度の予算編成で、インフレを反映した年金増額を2025年1月から同年半ばに先送りすることで40億ユーロ(6511億円)を削減する案を提示している。

だがこうした暫定的な措置でさえ、政界からの反発を呼んでいる。まじめに投票所に向かう年金受給者が、支給額に手を付けようとする政党に反旗を翻すことを恐れているからだ。

極右政党「国民連合(RN)」を率いるマリーヌ・ルペン氏はすかさず、先送りの動きは受け入れがたく、「我が国の高齢から数十億ユーロを盗むに等しい」と述べた。RNは国民議会でも最大勢力の1つで、その暗黙の支持はバルニエ首相にとっても生命線だ。

バルニエ陣営側であるはずのジェラルド・ダルマナン前内相でさえ、増額先送りは愚策になると発言している。

一方で、エコノミストやアナリストの間では、対GDP比57%と世界有数の高さとなっているフランスの公共支出全体のうち、明らかに支出削減の対象となり得るのは年金との見方が増えている。

「年金にまったく手をつけないまま歳出を減らそうとしても難しい」と、元会計検査官のフランソワ・エカル氏は指摘する。

マクロン大統領率いる仏政府は昨年、年金コスト削減のため、定年退職年齢を2年引き上げて64才とする改革を断行した。その一方で既存の年金受給者を標的にすることはほぼ控えてきた。

フランスの年金制度は勤労者の給与から大きく差し引かれる保険料により支えられており、労働人口に比べて年金受給者の数が膨れあがることで圧迫されつつある。

起業家のラフィク・スマティ氏はX(旧ツイッター)への投稿で、「フランスで触れてはならない問題が1つある。ベビーブーマー世代がその後の世代に残す、信じがたいレベルの負債だ。ブーマーは私たちに借りがある」と指摘した。

若い世代の納税者のあいだでは、痛みを共有しようとしない「ブーマー」への不満が高まっている。X上で「コスタ・ブーマー」と名乗るフランスの風刺系アカウントは、若い納税者があくせく働いているあいだに甘やかされた年金受給者はクルーズを楽しんでいる、と揶揄している。

<膨らむ年金負担>
仏国民議会は各党の勢力が拮抗するいわゆる「宙づり議会」状態で、バルニエ首相としては、倒閣に動く可能性のある有力議員らに配慮せざるをえない。

批判に直面したバルニエ首相は、年金以外で同じ規模の支出削減を実現できるのであれば、年金増額を予定どおり1月に実施することも国民議会の議題になり得ると述べた。

だが、これまでに示された代案は、年金への支出削減には金額の点でまったく及ばない。ルペン氏は移民を支援しているという非政府組織(NGO)への補助金削減を提案しているが、年間7億5000万ユーロ規模にとどまる。

ダルマナン氏は公共放送の予算削減や週35時間の労働時間規制の廃止を提案している。

一部のエコノミストは、前政権が今年1月にインフレ調整として年金支給額を5.3%引き上げたことで、年金支給額抑制のチャンスを逸したと指摘している。

欧州議会選挙の数カ月前に実施されたこの増額により、年間150億ユーロ近いコストが生じ、退職年齢を64才に引き上げたことで節約できた170億ユーロの大半が帳消しになった。

マクロン大統領の与党に属する国民議会議員はロイターに対し、マクロン氏は選挙間近に年金制度に手をつけることは政治的な自殺行為だと考えている、と語った。若者や労働者階級の有権者はすでに与党に見切りをつけており、マクロン支持者の中心は年金受給世代になっている。

アリアンツ所属のエコノミスト、ルドビック・スブラン氏は、「1月の年金増額は、この10─15年のあいだで最悪の経済的判断だった」と語る。「それだけで(前回の)年金改革による財政面での効果を台無しにしてしまった」

この増額によって年金受給者はインフレの影響から守られたが、勤労者の側では、必ずしもこれと同水準の昇給を確保できなかった。

フランス年金理事会によれば、フランスの年金受給者の生活水準は勤労世代の水準に迫るか、むしろ恵まれているほどだが、大半の国では勤労世代よりも低くなっているという。

またフランスの場合、他の経済開発協力機構(OECD)諸国の大半よりも定年退職年齢が低く、平均寿命は長くなっている。そのため年金支給額の対GDP比を見ると、OECD平均が8%であるのに対し、フランスは14%近くに達している。

同理事会は6月、何も手を打たなければ、2023年の改革もむなしく、年金制度は今年中に赤字となり、今後何年も字を解消できないという見通しを示した。

ペンシルベニア大学ウォートン校のエコノミスト、シルバン・キャサリン氏は、「もう1度退職年齢を引き上げる年金改革が必要になるだろう。どの国もそうしているのだから」と予測した。【10月13日 ロイター】
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「もう1度退職年齢を引き上げる年金改革が必要になるだろう」・・・・多分政権がもたない。その後に出来る政権は急進左派政権か? それとも極右政権か?
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