孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン核開発をめぐる交渉  延長期限7日を睨んで“大詰めの神経戦” イランはそんなに特別か?

2015-07-01 22:31:05 | イラン

(イラン・ニューリッチ階層の若者が起こした事故で大破したポルシェと、社会不満の標的ともなった死亡した同乗女性 【http://www.radikal.com.tr/dunya/irani_karistiran_gs_formali_torun_sari_porschedeki_yasak_ask-1347958】)

安易な譲歩はできないイラン・アメリカ ぎりぎりの神経戦
イランの核開発問題をめぐる協議も、難航するギリシャ問題同様に、“大詰め”“最終局面”という見出しが頻繁に掲げられるものの、決着するのか決裂するのか・・・不透明な状況が続いています。

交渉期限は、これまたギリシャ問題同様に6月30日とされてきましたが、7月7日まで延期されました。
国民投票、EU支援打ち切りといった混乱状態になっているギリシャに比べたら、まだコントロールされている状態というべきでしょうか。

****イラン核協議、7日まで延長****
イランの核開発問題をめぐり、同国と主要6か国は6月30日、精力的な協議を続けてきたが最終合意に至る突破口が見えないまま同日、交渉期限を迎えた。関係各国はこの期限を、今月7日まで延長すると発表した。

イランのモハマドジャバド・ザリフ外相はいったん自国に戻って話し合いを行ってから、同日他国との交渉の場であるオーストリアの首都ウィーンに再び戻ってきた。この一時帰国により、ザリフ外相が現状打開につながり得る指示を持ち帰るのではという期待が高まっていた。

しかしザリフ外相は、ウィーン到着直後から2時間近く米国のジョン・ケリー国務長官と会談したが、後に米国務省が発表したのは国連安全保障理事会の常任理事国(米英中仏露)にドイツを加えた6か国(いわゆるP5+1)が先に結んだ暫定合意の期限を7日まで延長することに合意したということだった。

だが米国務省関係者の話では、「必ずしも7日まで続く、または、7日に終わるということではない」としている。

同日の協議に出席したロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、ほぼ2年を費やして努力を重ねてきた結果、過去13年間に及ぶ対立を終結させる合意は「手の届くところにある」と信じていると語った。(後略)【7月1日 AFP】
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まとまりそうで、なかなか・・・・という感ですが、アメリカ・オバマ大統領は安易な妥協はしないという姿勢を強調しています。
アメリカ議会の事情からも、ここ数日が“山場”のようです。

****イラン核協議】「悪い取引なら離脱」と米大統領 7日まで期限延長****
・・・・オバマ氏は記者会見で「悪い取引なら交渉から離脱する。イランが核兵器を取得する道を閉ざす保証が得られなければ合意しない」と述べた。

ウィーンでの協議は30日、ケリー米国務長官がイランのザリフ、ロシアのラブロフ両外相と個別に会談。イランが早期実現を求める制裁解除の手順や、国際原子力機関(IAEA)による核査察の範囲で隔たりがあるためとみられる。

米国務省のカービー報道官は記者会見で、期限延長を「単純な技術的延長」とし、隔たりはあるものの「長期的解決」に向けて進められていると強調した。

米議会は法律で7月9日までに合意を送付しなければ承認に関する審査期間を30日間から60日間に延ばすと規定。審査期間中は制裁を解除できないため、9日までに合意できるかがカギとなる。【7月1日 産経】
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イランもアメリカも国内強硬派を抱えていますので、“安易な妥協”はできません。

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国際的な孤立からの脱却を掲げて発足したロウハニ政権は、合意達成によって外交的成果を示したい考えだが、安易に譲歩すれば国内の対米強硬派を勢いづかせ、政権の命取りとなる恐れがある。

オバマ米政権も、合意を懐疑的にみる国内世論や、イランと敵対する同盟国イスラエルに配慮しながらの交渉であることから、延長協議でもぎりぎりの神経戦が続きそうだ。【6月30日 産経】
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交渉内容に関しては、制裁緩和のタイミング、IAEAによる軍事施設への査察などが問題となっているようです。

****<イラン核>協議延長…査察など隔たり 駆け引き続く****
・・・・交渉が難航しているのは、米国とイランが「枠組み合意」に独自の見解を発表するなど、基本認識に違いが残っているからだ。

イランの最高指導者ハメネイ師は経済制裁について、「最終合意の履行初日に全て解除」を「譲れない一線」と表明。合意内容の履行に合わせて解除するよう求める欧米に反発している。

ハメネイ師はまた、イランのウラン濃縮能力や研究・開発に対する10〜15年に及ぶ長期間の制限や、国際原子力機関(IAEA)による軍事施設を含む査察など、欧米側の要求も拒否。「軍事施設への査察は絶対認めない」と強い口調で拒絶している。

これに対し対イラン強硬派のファビウス仏外相は、イランが合意に反した場合の制裁の即時復活▽IAEAによる軍事施設を含む査察▽核開発に関する研究・開発の永続的な制限−−の「3条件」が欠かせないと言明。正反対の2人の発言は、双方の対立の深さをうかがわせる。(後略)【6月30日 毎日】
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制裁解除については、イラン・ロウハニ政権は早急な成果を国内的に示せないと政治的求心力を失い、保守強硬派が台頭することが懸念されています。

アメリカ側はイランの希望にも配慮しつつ、手続きを3段階に分けて進める方策を示しています。

****<イラン核>米国 制裁解除に履行準備加えた3段階検討****
米政府高官は29日、イラン核問題の包括的解決を目指す国連安保理常任理事国(米英仏露中)にドイツを加えた6カ国とイランとの交渉で、対イラン制裁の解除に向けた手続きを3段階に分けて進める考えを明らかにした。

第1段階で「合意」は発表するが「署名」はせず、双方が合意内容の履行準備を終えた後、制裁を「ほぼ同時」(同高官)に解除し始める構想だという。

イランは合意への署名後、即時の金融制裁解除を要求している。3段階での解除構想は、イランに一定の配慮を示しつつ、包括合意によるイランの核活動の制限を確実にする意図があると見られる。(後略)【7月1日 毎日】
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【“不都合な現実”】
そもそもの話で言えば、核拡散条約(NPT)などと同様に、イラン核開発問題は“奇妙な”側面があります。

****イラン核協議の不都合な現実****
・・・・この交渉の裏には、不都合な現実がある。
イランに核兵器の開発を断念するよう迫っている国のうち、ドイツを除いた5か国すべてが核武装している現実だ。

アメリカは核弾頭を7000発以上、ロシアは8000以上、イギリスは200以上、中国は250以上、フランスは300以上所有している。イランとのいかなる合意も「人類を大きな危険にさらす」と憤っているイスラエルだって、80発以上を所有していると見られる。

このように自分たちは核武装していながら、イランをどうやって説得できるというのか。国際社会の大きな矛盾の1つだ。【3月31日 Newsweek】
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国際社会においてイランがこれまで、そして現在、示している行動への欧米先進国、特にアメリカの不信感のなせるところでしょうが、イラン側には承服しかねるところでしょう。

イラン社会の断面:「新富裕層」への怨嗟 政府「お見合いサイト」 禁酒国のアルコール依存症
核開発問題から離れて、イラン社会の現況に関する最近の話題をアトランダムにいくつか。

社会の制約が大きいほど、その制約をかいくぐる特権で甘い汁を吸う階層が出現します。
しかし、情報社会の現代ではそうした特権は、腐敗と不公平・格差の象徴として“一般庶民”からの怨嗟を呼び起こします。

****ポルシェ事故で噴き出したイラン「新富裕層」への怨嗟****
朝5時、テヘラン北部のシャリアティ通りで、カナリア色の超高級車が街路樹に激突した。運転していたのは若い女性で、助手席にはアヤトラ(イスラム教シーア派の指導者)の孫の青年が乗っていた。いわゆるニューリッチ(新興の富裕層)の若者だ。車はポルシェ・ボクスターGTS。彼が2日前に買ったばかりだった。(中略)

そこまでだったら、テヘラン北部では珍しくない光景だったかもしれない。イスラム法の厳格な規定など誰のための法律かと思えるような、快適な生活を享受する一部特権層の子弟が増えているからだ。

彼らが乗り回す豪華な車は、このところ目立ってきた経済格差を見せつけるシンボルになっているのだ。経済制裁下で有力な人脈とのコネを駆使して蓄財に励んだ人たちである。(中略)

グシャグシャに壊れたポルシェの写真が、すぐにソーシャルメディアに載った。死亡した若い2人がどんな人物だったのかもすぐに明らかになった。大きな目をした美人のパリバシュと著名な聖職者の孫のモハマド。
実は、彼は婚約していたのだが、具合が悪いことに、婚約の相手はパリバシュではなかった。

イランでは、国営メディアは格差拡大の問題を盛んに報道しているが、富裕層について個人名など具体的なことに触れることはまずない。しかし、ソーシャルメディアには今回の事故の書き込みがどっと寄せられた。その大半が怨嗟(えんさ)に満ちたコメントばかりだった。

画像共有アプリ「Instagram(インスタグラム)」を使ったパリバシュのサイトには、米ドルマーク($)の形にダイヤモンドをちりばめた指輪をしてポーズをとる彼女の写真が載っている。

写真の下の書き込みに、「いなくなってせいせいした」とある。「この女は、まともな人たちに向けて火を放った。今度は自分自身に火を放ったのだ」とも書かれている。

怨嗟があふれ出たのは、パリバシュが(別の女性と)婚約している青年の車に乗っていたからではない。確かにイスラム法に照らせば、未婚の男女は別々に行動しなくてはならいのだから、2人の行為は許されないが、怒りはむしろ、事故が象徴する矛盾に向けられている。とりわけ、腐敗と不平等が絡み合った現状への不満が背景にある。

前大統領アフマディネジャドの時代(2005年~13年)に、石油や外貨、ゴールドを扱う権利が与えられた一部の特権層にはケタはずれの富が転がり込んだ。

こうした「甘い汁を吸った人たち」の子弟は、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイに高級ブランド服の店を出すなど、さまざまなビジネスに手を広げ、高級車を乗り回すなどするようになった。

ところが日用品の値段は3倍以上にも跳ね上がっており、多くの人にとって新車はもちろんのこと、国産の車でさえ高嶺(たかね)の花なのだ。

ウェブのニュースサイト「Mashregh」によると、2009年以降、これまでにざっと10万台の高級車が輸入された。買い手には140%の税が課せられるにもかかわらず、である。

たとえば、先述した事故のポルシェ・ボクスターGTSは、米国では約7万5千ドルで売られているが、イランなら少なくとも17万8千ドルはする。

こうした車のオーナーの多くが、街で女の子をひっかけるのだ。新聞によると、地元では「ひっかける」ことを「ドル、ドル」と呼ぶ。

「ニューリッチたちは、都会の社会ルールを見下すかのように、服装から話し方、振る舞いまで、他者との違いを際立たせている」。ジャーナリストで活動家でもあるナデル・カリミ・ジョニは、事故が引き起こした怒りの背景をそう説明する。「彼らは自分たちの恵まれた状況を見せびらかし、ひとを侮辱し、それを楽しんでいるのだ」

イランの最高指導者アヤトラ・ハメネイも、事故が巻き起こした騒動を受けて、何らかのコメントをせざるを得なかった。

警察幹部の集まりで説教し、裕福さをひけらかして高級車を乗り回す若者がいることについて、「社会に心理的な不安を招く」と指弾し、警察が対応策をとるよう指示した。また、別の会合での演説では、縁故主義や不正行為の問題を取り上げ、「汚職阻止に実効ある施策を」と説いた。(中略)

パリバシュのインスタグラム写真に寄せられた何千件もの書き込みには、中流の下という彼女の出自をやり玉に挙げ、「成り金」とか「ご都合主義者」とののしる言葉があった。

だが、「不運だった」と彼女に肩入れする書き込みもある。魅力的な若い女性が、首都テヘランで結婚式を挙げるには、カネ持ちの息子と交際するしか道はないのだからと、彼女を弁護している。

一方、モハマドの方は、祖父がイスラム共和国を建国したアヤトラ・ホメイニの重要な側近だったことから、その事故死に、人々は失望を隠さなかった。

彼がオンラインサイトに載せた写真には、銀のびょう飾り付きの帽子を反対向きにかぶってポルシェを運転している姿が映っている。
そして、こんな書き込みがあった。「神様に感謝したい。この世はカネと富の分配には不公平だけれども、死は公平だ」(後略)【6月5日 朝日】
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お堅い“神権政治”のイメージもあるイランですが、“結婚しない(あるいは、できない)若者”の問題は日本同様で、政府が“お見合いサイト”サービスを始めています。

****イラン政府がお見合いサイト開設、独身者急増で***
イラン政府は15日、結婚しない若者たちが急増していることを受け、お見合いサイトを本格的にスタートさせた。

お見合いサイト開設のきっかけとなったのは、現状では家族の枠組みが損なわれ、人口減少に繋がるのではとの懸念だ。

イラン当局は、同サービスの導入で、現在1100万人に上るとされる独身の若者の人口増加に歯止めがかかることを期待している。

しかし、婚外性交渉が禁じられているイスラム教国でのサービスとなるため、同サービスがいわゆる「出会い系サイト」ではないことを強調。細心の注意を払いながらのスタートとなった。(中略)

なお同国での結婚年齢の上昇については、若者の高い失業率など経済的要因が大きな要因と考えられている。

イラン全体の結婚平均年齢は、男性が28.1歳、女性が23.4歳。しかし、首都テヘラン(Tehran)では、男性が30.6歳、女性が26.7歳と男女ともにより高くなっている。【6月16日 AFP】
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イスラム国イランは当然に禁酒ですが、にもかかわらずアルコール依存症の問題が深刻化しているとか。

****禁酒国」イランの皮肉な現実****
最大80回のムチ打ち刑などの厳罰もアルコール依存を止められない

イランでは79年の革命以来、飲酒はご法度。なのにアルコール依存症の問題は世界でも特に深刻だ。飲酒に対する厳罰は歯止めになるどころか、かえって逆効果になっている。

保健当局はようやく問題の大きさを認め、アルコール依存症治療施設を150カ所新設すると発表した。新施設は患者に断酒を促す「特別な環境」と共に断酒教育も提供。来年3月までにオープン予定の6施設で解毒のための入院治療も可能になるという。

イランのアルコール依存症治療施設の第1号がオープンしたのは13年。しかし飲酒に対する厳罰(最大80回のムチ打ち刑など)を恐れて治療をためらう患者も多い。

イラン警察の推計ではイランのアルコール依存症患者は20万人。だが実際はもっと多いのではないかと専門家はみている。

国民1人当たりのアルコール消費量ではイランは世界で166位だが、問題の深刻さでははるかに上位になるはずだと、イランの市民ジャーナリストは指摘する。

「年間飲酒量が純粋アルコール換算で35リットルを超える人の数は世界19位。人口に占めるアルコール依存症患者の割合ではロシア(30位)、ドイツ(83位)、アメリカ(104位)、サウジアラビア(184位)を上回っている」

「イランは昔から隠そうとしてきたが、飲酒とアルコール依存症は現実に存在する」と、イラン警察のトップは言う。

穏健派のロウハニ政権が発足した13年以降、アルコール飲料の消費・生産に対する警察の強制捜査は減少しているが、禁を破った場合の厳しい処罰は変わらない。アルコールによる健康被害が増加しているためだ。

警察はアルコール飲料の密輸に目を光らせているが、多くのイラン人が飲んでいるのは怪しげな密造酒。その結果、病気になったり死亡したりするケースが急増している。早急な対策が必要だ。【Newsweek日本版 6月23日号】
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とりとめのないいくつかの話題ですが、敢えて言えば、イランも日本や欧米とそんなに変わらない、ごく普通の社会のようにも見える・・・ということでしょうか。

であるならば、どうしてイランの核開発がこれほどまでに厳しく制約されるのか、イスラエルが問題とされず何故イランだけが・・・という話にもなります。
コメント (1)
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