孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

激化するISとクルド人勢力の戦闘 トルコ領内でもクルド人標的のISのテロ、PKKの政府への報復

2015-07-23 22:44:22 | 中東情勢

(トルコ南東部シャンルウルファ県シュリュジュで起きたISによるテロの犠牲者の棺を運ぶ人々、おそらくクルド人でしょう。 【7月21日 bloomberg】)

イラン核問題合意でシリア情勢は?】
イラクでは、昨日ブログ(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150722)で取り上げたように、ラマディ奪還を目指すイラク政府軍に対し、「イスラム国(IS)」は首都バグダッドへのテロ攻撃を強める情勢にありますが、シーア派とスンニ派の宗派対立によってISの動きを封じ込めることができない状況とも言えます。

一方、シリアの方は、イラク以上に各派入り乱れて混沌とした様相を呈しています。

全体としては、6月9日ブログ「もつれるシリア情勢  欧米が支援する穏健派とアルカイダ系の共同戦線に、政府軍とISが共同作戦で対抗」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150609)でも取り上げたように、ひところに比べるとアサド政権側が劣勢に立つ状況も見られます。

ただ、イラン核問題合意で、制裁を解除されて資金的に息を吹き返すイランがこれまで以上にアサド政権支援を強化すれば、また異なる展開もあり得ます。

シリア・アサド大統領は、今回合意を称賛し、イランの支援強化を期待しています。

****シリア:アサド大統領「イランからの支援増を確信****
シリアのアサド大統領は14日、イラン核協議の合意に関連し「イランが正義ある人々への支援を増やすと確信している」と述べた。

国際社会による経済制裁緩和を見据えて、イランからの支援強化を期待する発言だとみられる。国営シリア・アラブ通信が報じた。

アサド氏は「イランの歴史的な転換点になる。不当な経済制裁に屈せず、自らの(原子力)研究の成果を守る姿勢を貫いたことが成就した」と評価した。【7月14日 毎日】
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また、アメリカが期待するような対ISでのイランとの協調が実現すれば、シリア情勢も変化します。

****中東の宗派戦争は激化する****
・・・イランはかねてから、シリア内戦に独自の解決策を提案していた。

シリアのあらゆる勢力に「テロ組織との戦いを最優先」するよう呼び掛け、休戦が実現したらアサド政権と反体制派が協力して暫定政府を樹立。情勢が安定した時点で大統領選を実施して平和裏にアサドが退陣する、というシナリオだ。(後略)【7月28日号 Newsweek日本版】
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イランだけでなく、反政府勢力を支援してきたアメリカも本音では歓迎する提案でしょう。
個人的には、イラン提案でシリア内戦が収束するならそれでいい・・・とも思いますが、“アサド憎し”の一点で行動している反政府勢力は乗ってこない案でしょう。

ISへの攻勢で支配地を拡大するクルド人勢力 反攻するISは化学兵器使用も
そうした混迷するシリア情勢にあって、クルド人勢力がISへの攻勢を強めています。

****シリア内戦と対IS カギを握るヌスラ戦線とクルド人部隊****
・・・・・シリアのIS部隊は現在、中部の要衝パルミラ(世界遺産の遺跡の町として知られる)を制圧すると同時に、ダマスカスやホムスなど中心部の都市部の郊外まで勢力を伸ばしているが、その代わり北部戦線では劣勢にある。

6月半ば、トルコ国境のテルアビヤドで、クルド人部隊「人民防衛隊」(YPG)の攻撃にあっさりと退却。国境エリアを明け渡したのだ。

これまでYPGは、シリア北部で西からイドリブ県の飛び地と、アレッポ県コバニを中心とする制圧エリア、ハサカ県ハサカを中心とする北東部の制圧エリアに支配地が3分されていたが、テルアビヤドの奪取でメインの2地域を繋ぐことに成功。トルコ国境エリアを広く支配することとなった。

ISはトルコ国境の検問所を、1か所を除いてすべて失ったことになり、トルコ経由での戦闘員の出入りや、物資の補給に問題が生じてくる可能性がある。

なお、YPGはその勢いでテルアビヤド周辺で支配地を急速に拡大している。ISの本拠地であるラッカ市から数十キロ地点まで攻め入っている。それに対し、ISは前線から部隊をラッカ防衛に呼び戻している模様だ。

ただ、ISは防戦一方なだけではなく、ハサカ市ではYPGやアサド政権軍に対して攻撃を仕掛けている。ISの戦力は全体的には落ちておらず、YPGとの死闘は今後も続くだろう。

もっとも、YPGの勢力拡大で、新たな緊張も生まれている。シリアの他の反体制派との緊張だ。というのも、もともとシリアではクルド人とアラブ人には心理的な距離があるという背景がある。

YPGは反体制ゲリラというよりは、明確に民族独立ゲリラであって、YPGが支配を広げたエリアに居住するアラブ人住民の間には、クルド人によって迫害されるのではないかという警戒感も生まれている。

YPGは対ISの戦闘でアメリカや国際世論を味方につけたが、支配エリアでどのような態度をとるかが注目される。(後略)【7月18日 The PAGE】
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IS側のクルド人勢力への反撃も過激化しており、化学兵器の使用も報じられています。

****イスラム国」化学兵器使用か=シリアとイラクのクルド人勢力に****
過激派組織「イスラム国」が6月、シリアとイラクのクルド人勢力に対して化学兵器を使用したと在英のシリア人権監視団などが主張している。ロイター通信などが18日伝えた。

これまでも「イスラム国」が化学兵器を使用していると証言はあったが、専門家からは、自家製造に成功し今後は「イスラム国の新戦術」として採用されていく恐れが指摘されている。(後略)【7月18日 時事】
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“2回はISISとクルド人部隊が激しい戦闘を展開したシリア北部で、残る1回はイラク北部モスルのダム付近にあるクルド人の拠点近くに着弾した不発弾に、それぞれ化学兵器が使われたとされる。・・・・砲弾から漏れ出た濃い黄色の液体が強烈な異臭を放っていて、近付いた調査員は頭痛や吐き気などの症状を訴えた。これは塩素系薬品の中毒症状と一致するという。”【7月20日 CNN】

トルコ政府とクルド人勢力の間にくさびを打ち込むIS
更にISは、トルコ領内のクルド人勢力が管理する施設へのテロ攻撃を行っています。

****対シリア国境の町で爆発、30人死亡=「イスラム国」の犯行か―トルコ****
トルコからの報道によると、シリア国境に近いトルコ南東部シャンルウルファ県シュリュジュの文化センターで20日昼、爆発が起き、少なくとも30人が死亡、100人が負傷した。

エルドアン大統領は「野蛮なテロ行為の犯人を非難する」と語った。

AFP通信によると、トルコのダウトオール首相は記者会見で、過激派組織「イスラム国」による自爆テロとの見方を示した。

爆発は文化センターの庭で発生した。センターには当時、近接するシリア北部のクルド人の町アインアルアラブ(クルド名コバニ)で復興支援を行う青少年プログラムに参加する300人以上が滞在していた。

事件を受け、ダウトオール首相は、クルトゥルム副首相やウストゥルク内相を現地に派遣。内務省は声明で、国民に「結束し、冷静さを保つよう求める」と訴えた。

文化センターはシュリュジュの町営で、クルド系政党・国民民主主義党(HDP)の管理下に置かれている。【7月21日 時事】 
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犯人は、2か月前に初めてISと関わりを持つようになったとされる20歳のトルコ人男性と報じられています。

かねてよりトルコのクルド人は、エルドアン政権がISに対して宥和的であると批判しており、コバニ(アイン・アル=アラブ)包囲戦でISに攻撃されるクルド人をエルドアン政権が見捨ててなかなか動こうとしなかった・・・という失望感から、先の総選挙でクルド人政党の躍進、エルドアン与党の敗北という結果にもなっています。

一方、IS側からすれば、コバニ包囲戦は、トルコ政府が“最終的”にはクルド人側に協力したことでISの敗北に終わった・・・との認識があり、今回のトルコ領内でのクルド人施設攻撃はトルコ政府とクルド人勢力の間に改めて楔を打ち込む狙いがあると指摘されています。

そうしたISの狙いどおりとも言える、トルコ政府のISへの消極姿勢を批判するクルド人側の反応がすでに起きています。

****IS自爆攻撃」の報復で警官殺害、クルド人組織が犯行声明 トルコ****
トルコ南東部のシリア国境近くの町ジェイランプナルで22日、警察官2人が他殺体で見つかり、トルコのクルド人武装組織「クルド労働者党(PKK)」が犯行声明を出した。

シリア国境に近い南部の町シュリュジュで20日に起き32人が死亡した、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」によるとされる自爆攻撃への報復だとしている。

PKKの軍事部門とされる「人民防衛軍(HPG)」は、ウェブサイトで声明を公開し、警察官2人がISに協力したと非難、「シュリュジュでの虐殺への報復として、処罰を下した」と主張した。(中略)

ジェイランプナルでのPKKによる警官の殺害事件を受け、シリアでのクルド人とイスラム国との戦闘がトルコ領土に波及しつつあるとの恐れが高まった。

首都アンカラでは、アフメト・ダウトオール首相が、シリアとの国境付近の警備強化に向けた行動計画を討議するため閣僚会議を召集した。【7月23日 AFP】
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アサド政権に敵対し、また、イスラム主義を強めているエルドアン政権にとっては、本音で言えば、ISなどより国内で分離独立の武装闘争を行ってきたクルド人勢力PKKの方がはるかに憎むべき敵であり、シリアでISと戦うクルド人勢力YPGはそのPKKと共闘関係にあります。

クルド人だけでなく、アメリカなどからも国境管理を強化してIS封じ込めに親権に取り組むように圧力を受けているトルコ・エルドアン政権ですが、今回事件でクルド人勢力との関係が悪化すれば、その実質的なIS支援の姿勢が強まることも考えられます。

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ISのテロ(及びトルコ政府の責任)を非難する抗議デモが21日、イスタンブール始めトルコの多くの都市で行われ、イスタンブールでは48名が拘留され、その他の都市でも多数が拘留されたとのことです。
又警察は、抗議に対して催涙ガス、放水で対抗した由。

これに対して、与党AKP副党首は、ISもクルド労働者党もともにテロ組織であり、トルコとしては双方と戦っていくと語った。

更に、警官2名の暗殺を非難して、テロには良いテロも悪いテロもない、と語った。【7月23日 野口雅昭氏 「中東の窓」】
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コメント (1)
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