
(6月21日、インド北部ダラムサラで行われた80歳の祝賀行事で感謝の意を表すダライ・ラマ14世(共同)【6月21日 産経ニュース】)
【明日で80歳】
明日7月6日は、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の80歳の誕生日だそうで、インド北部ダラムサラにある亡命政府では6月21日に祝賀行事を行っています。
****ダライ・ラマ、80歳の祝賀に8000人「チベットの光であり、魂」 インドの亡命政府拠点****
チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世(79)が7月6日に満80歳の誕生日を迎えるのを前に、チベット亡命政府があるインド北部ダラムサラの寺院で21日、祝賀式典が行われ、約8千人の信者が詰め掛けた。
ダライ・ラマはインタビューなどで、自らの死後に伝統的な後継者選び「輪廻転生」制度を廃止する考えを表明。亡命政府によると、自身が90歳になるころに同制度の在り方に結論を出す方針だ。
ダライ・ラマの高齢化を踏まえ、今後議論が活発になるのは確実だ。
式典では僧侶らが次々と祝福に訪れ、伝統音楽や踊りも披露された。亡命政府のロブサン・センゲ首相は「(ダライ・ラマは)チベットの光であり、魂だ」とたたえた。【6月21日 産経ニュース】
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“中国では80歳の誕生日は日本同様、『傘寿』と呼ばれているが、同時に『大寿』とも書くほど、『特別な記念日』とされている。チベット仏教でも盛大に祝う習慣がある”とのこと。【6月10日 NEWSポストセブン】
一方、チベットの民族運動を警戒する中国政府は、国内チベット族の海外旅行を禁止して、祝賀行事への参加を阻止しているとも報じられています。
****中国 ダライ・ラマ誕生日睨み国内チベット族に国外旅行禁止****
中国政府は四川省やチベット自治区のチベット族に対して、5月20日から7月15日まで香港やマカオを含む国外への旅行を禁止する緊急通達を出していたことが分かった。米国に拠点を置く中国情報専門の華字ニュースサイト「博訊(ボシュン)」が報じた。
その理由について、通達はまったく触れていないが、7月6日がチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の80歳の誕生日という節目に当たることから、チベット族の市民が国外旅行を名目にして、大挙してダライ・ラマが住むインド北西部のダラムサラに駆けつけ、誕生日を祝うことを警戒しているとみられる。(中略)
習近平政権になってから、少数民族政策は厳しさを増していることから、中国はダライ・ラマの傘寿の祝賀行事を機に、多数のチベット族市民がダライ・ラマのいるインドに亡命することを警戒しているといわれ、今回の緊急通達につながったとみられる。【6月10日 NEWSポストセブン】
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【中国政府が介入する後継者選定問題】
ただ、ダライ・ラマ14世の『大寿』、つまりはダライ・ラマ14世の高齢化は、チベットにとって喜んではいられない大問題であることは周知のところです。
その存在が絶対的に大きいだけに、死後の空白が問題となります。
中国政府はダライ・ラマ14世の死去を待っていると言われていますが、更に、『転生』によるダライ・ラマ14世の後継者選定に介入して、中国寄りの人物を後継者に仕立てようと動いています。
ダライ・ラマの後継者選定には、チベット仏教第2の高位者パンチェン・ラマが大きく関与しますが、これまでのブログでも取り上げたように、すでに中国政府はパンチェン・ラマについて、チベット側が選定した少年を拉致し、別途、中国政府自身が認定した者をその地位につけるという、強引な方策で介入しています。
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パンチェン・ラマ10世が1989年1月28日、中華人民共和国チベット自治区において心疾患で入寂した。
インドに亡命中のガンデンポタン(チベット亡命政府)とダライ・ラマ14世は転生者の探索を始め、1995年5月14日、ゲンドゥン・チューキ・ニマという6歳の男児をパンチェン・ラマの転生者として認定した。
しかし、中華人民共和国のチベット自治区当局はこの認定を認めず、ゲンドゥン・チューキ・ニマを拉致するとともに(ゲンドゥン・チューキ・ニマの消息は今も判明していない)、1995年11月29日に当時6歳だったギェンツェン・ノルブを金瓶掣簽によりパンチェン・ラマの転生霊童とした。
これを受けて中華人民共和国国務院(中国政府)はギェンツェン・ノルブがパンチェン・ラマ11世を継承することを許可した。【ウィキペディア】
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中国政府が擁立したパンチェン・ラマ11世は、当然に中国政府の方針に協力する関係にあります。
****「民族の団結」強調=パンチェン・ラマと会見―中国主席****
11日付の中国共産党機関紙・人民日報によると、中国の習近平国家主席は10日、政府が認定したチベット仏教第2の高位者パンチェン・ラマ11世と北京で会見した。
習主席は「チベット仏教の愛国・愛教の栄光ある伝統を引き継ぎ、祖国の統一と民族の団結を守るよう希望する」と述べた。
これに対し、11世は「党と人民の期待に背かない」と忠誠を誓った。
11世は、インド亡命中のチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世の選んだ「転生霊童」に対抗し、中国政府が新たに認定した経緯がある。(後略)【6月11日 時事】
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ダライ・ラマ14世は、中国政府の後継者選定介入を警戒して、『転生』による伝統を廃止して、別の方法による後継者選定を検討しています。
****<ダライ・ラマ>「輪廻転生」の廃止も 中国の関与阻止狙い****
チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世(79)の後継者選びを巡り、チベット自治区を統治する中国政府と、インドで亡命生活を送るダライ・ラマ側の対立が深まっている。
後継者は、先代の死後に生まれ変わりの子供を探す「輪廻(りんね)転生制度」で選ぶのが伝統。ところが、ダライ・ラマ14世やチベット亡命政府は、これを廃止する可能性に言及する。
生まれ変わりを探す過程で、中国政府が関与する可能性があるからだ。14世は制度の存続を含め「90歳になったら決める」と話している。
輪廻転生制度について、中国政府は伝統を守るべきだと主張する。だが、亡命政府のロブサン・センゲ首相は、毎日新聞のインタビューに「『宗教は毒だ』と信じている中国共産党が、ダライ・ラマを選んだとしても何ら正統性はない」と強調。中国政府が関与する姿勢を示していることを批判した。
ダライ・ラマ14世はこれまで「存命中に後継者を指名するかもしれない」などと語り、輪廻転生の廃止に言及。昨年12月の英BBC放送のインタビューでは「ダライ・ラマ制度はいつかは終わる」と述べ、自らが最後のダライ・ラマになる可能性も示唆した。
14世側がこうした姿勢に出ているのは、中国が都合の良い後継者を選び、チベット自治区の統治に利用するとの懸念があるためだ。
チベット仏教では、ダライ・ラマに次ぐ高僧のパンチェン・ラマも転生すると信じられている。占いなどで「生まれ変わり」を探すのが伝統で、10世の死去から6年後の1995年、ダライ・ラマ14世は当時6歳だったチベット自治区のニマ少年を転生者に認定。
ところが、少年は数日後に行方不明となり、中国政府がその後、別の少年を後継者だと発表。亡命政府は、ニマ少年が中国政府に誘拐されたとしている。
ダライ・ラマの後継者選びでも中国政府は関与するとみられている。これに対し、亡命政府は、輪廻転生▽高僧らによる協議▽14世による指名--を選択肢として検討を開始。
センゲ首相は「後継者の選定では、私の立場が主導的な役割を果たす。私は14世による指名を支持している」と明言した。中国が関与できない方法で後継者を選出し、ダライ・ラマ制度を維持する考えだ。
ただ、亡命チベット人の間では、伝統の存続を望む声が大きい。ダラムサラの女子学生、ドルマさん(21)は「ダライ・ラマがいなければ未来がない。後継者の選定方法は14世が決めることだが、輪廻転生の伝統は続けてほしい」と語る。(後略)【4月1日 毎日】
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チベット仏教側が伝統の廃止を検討し、『宗教は毒だ』とする中国共産党側が伝統維持を主張する・・・という、逆転した構図になっています。
【死去後に懸念される「独立派」過激化と、待ち受ける中国当局の鎮圧】
ダライ・ラマ14世は、「独立」などの中国政府との決定的な対立を避け、対話によって「高度な自治」を獲得する形でチベット問題を解決しようという穏健な方策をとっています。
****習近平政権「より現実的だ」 ダライ・ラマ、対話再開に期待****
チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世が8日、岐阜市内で朝日新聞と会見した。
チベット人の自治を獲得するため、中断したままの中国政府との対話を続けたい立場を表明。
習近平(シーチンピン)指導部を「(これまでの指導部と比べて)より現実的だ」とし、対話再開に向けた中国の動きを「注視していく」と述べた。
中国政府とダライ・ラマ側との公式対話は、2010年を最後に開かれていない。ダライ・ラマは「接触はいまもある。我々の路線に変化はない」と語り、チベット人地域の中国からの独立は求めず、対話を通じて高度な自治の獲得を目指す「中道路線」には変化がないと説明した。
習指導部については「習氏の指導下で中国は大きな変化があった。汚職対策に真剣に取り組んでいる」と述べた。「強硬派は私たちを分離主義者と非難するが、(チベット問題の)解決を切望する穏健な指導者もいる。より現実的な考え方も出てきている」として対話再開に期待感を示した。(後略)【4月9日 朝日】
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しかし、現実問題としては、ダライ・ラマ14世が期待するような中国政府との対話は進んでおらず、中国当局による抑圧政策だけが強化されています。
いっぽうで、チベット側の精神的支柱であるダライ・ラマ14世は次第に高齢化していきます。
先の見えない運動にあっては、停滞する現状を否定して、現状の変革を目指す過激な運動が必ず生じます。
チベットにあっても同様のようです。
****チベットの「真っ暗」な近未来****
亡命社会「分裂」に手ぐすね引く中国
「高度な自治」か「独立」か・・・・この古くて新しい問題がいま、亡命チベット人社会を分断している。
チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ十四世が「チベット独立」の要求を捨て、自治の実現を目指す「中道のアプローチ」を公表してから二十七年。
自身は政治から身を引き、チベット亡命政府が中国との対話を引き継ぐはずだった。だが、中国は依然として亡命政府を対話の相手として認めていない。事態が進展しないことへの不満は、「独立派」を過激化に追い込む可能性を秘めている。
亡命社会の内部対立が表面化したのは、三月十日のチベット蜂起記念日だった。この日は毎年、亡命政府の拠点があるインド北部ダラムシャーラーでチベット僧や亡命社会の非政府組織(NGO)などがデモを行うのが通例で、これまでは「独立要求」を含む過激なスローガンも一定程度、許容されてきた。
だが、複数の関係者によると、今年は準備段階で意見が割れた。若者を中心に支持を集める「チベット青年会議」が従来通り、独立を求める立場で行進すると主張したのに対し、中道路線を堅持する「チベット女性協会」などの一部の団体が難色を示した。
各団体による会合は複数回行われたが、結局折り合いは付かず、当日のデモ行進は女性協会などのいわば「穏健派」が参加を見送った。
現地在住の事情通によると、こうした対立は初めてという。同様の対立は、米国の亡命チベット人社会でもあった模様だ。
十四世死後に「大きなカオス」
今回の騒動は、中道のアプローチで中国との対話を目指す「穏健派」の中に、「独立派」の過激化に対する警戒感が広がっていることを示唆している。
青年会議は世界に約三万五千人のメンバーを抱える組織で、「完全な独立」を求めるほぼ唯一の主要団体だ。青年会議の幹部は「独立は独立。部分的なものであってはならない」と主張する。
「独立」は中国が最も警戒するキーワードだ。このため、中国は以前から青年会議を「テロ組織」と名指しし、チベット僧らによる焼身抗議も、「青年会議などの『ダライ集団』が扇動している」との批判を繰り返してきた。
もちろん、中国の批判を真に受けるわけにはいかない。青年会議の幹部は「非暴力を堅持する」と語る。武力闘争に転じたら国際社会の支持を集められなくなる、との論理だ。実際、中国が言うような「テロ組織」とはほど遠く、どれだけ組織的な武装闘争を指揮できるかは疑問符が付く。
だが、専門家らが予言する「独立運動の過激化」のきっかけがある。それは、ダライ・ラマ十四世の死だ。
十四世が亡命チベット人の尊敬を広く集めているのは言うまでもない。穏健派、独立派の立場を問わず、非暴力の信念は支持を集め、結束に寄与してきた。亡命社会が政治的な意見の相違にもかかわらず一定の統一性を保ってきたのは、十四世個人のカリスマ性が大きく貢献したのは間違いない。
だが、裏を返せば、十四世という存在がなくなれば亡命社会が分裂する可能性がある、ということでもある。
二〇一一年に十四世が政治からの引退を表明したのは、亡命政府に政治の主導権を握らせることで、自らの死後も亡命社会が自治要求運動を継続できるようになる、との計算が働いていたはずだ。
だが、亡命政府は十四世ほどの政治力を発揮できているとは言えず、中国からも対話の相手として認知されていない。チベット問題の出口が見えない中、非暴力を唱える十四世という「重し」がなくなれば、不満が一気に噴出する可能性がある。
専門家の間では、「中国は十四世死後に向けた戦略を着々と整えている」との見方が強い。想定されるシナリオは、こうだ。十四世の死後、中国は亡命政府が認知したダライ・ラマの後継者を認めず、独自に自治区内で傀儡となる十五世を選出する。その上で、亡命政府側には正統性がないとして対話を拒否。亡命社会のチベット運動を封じ込め、国際社会に忘れられるのを待つ・・・。
十四世や亡命政府は当然、こうした事態を想定している。中国は一九九五年、ダライ・ラマに次ぐ高僧であるパンチェン・ラマ十一世を独自に擁立した「前科」があるからだ。
このため、ダライ・ラマ十四世は自身の後継者について、死後に生まれ変わりを探す伝統的な「輪廻転生」の慣習を破り、存命中の指名や選挙で選ぶ可能性を示唆し、中国側を激怒させた。
だが、仮に存命中に後継者を選んだとしても、中国が独自に後継者を選ぶのを止められるわけではない。新たな指導者が十四世のようなカリスマ性や強い指導力を発揮するのも困難だ。十四世が死去すれば、亡命社会に衝撃が走り、「大きなカオス」(青年会議幹部)が訪れるのは間違いない。
人民解放軍による鎮圧
インドのある専門家は、十四世が死去した場合、混乱状態となったチベット自治区で数日間、焼身抗議と大規模なデモが続くとみている。
さらに、これまでに鬱積した不満が「中国に対する大きな反動」となって噴出し、「強硬派である青年会議のメンバーが自治区に入り、暴力事件を起こそうとするだろう」と予想する。
青年会議を過激化に追い込んでいる要因は、中国による弾圧にあることは言うまでもない。焼身抗議が相次いでも中国は無視を決め込み、チベット自治区での監視を強めている。
こうした姿勢はむしろ、中国は青年会議の過激化を望んでいるのではないか、という疑念すら抱かせる。「テロ攻撃」が発生すれば、人民解放軍による鎮圧の「口実」を得られるからだ。
「テロ対策」として弾圧を正当化できれば、国際社会の非難を抑えることができる。暴力を止められなかった亡命政府が「テロ支援組織」となれば、亡命社会は穏健派と独立派の溝が深まり、チベット独立運動は急速にしぼむことになるだろう。青年会議の過激化は中国にとって「好機」と映るに違いない。
十四世は七月で八十歳。「九十歳になったら後継者選びの方法を決める」と繰り返し公言しているが、残された時間は長いとは言えない。
中道路線を堅持し、中国との対話を模索するのか、武力闘争も辞さない構えで独立を訴えるのか。チベットの将来を左右する選択のときは確実に近づいている。【選択 7月号】
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ダライ・ラマ十四世は「私は(7月に)80歳になるが、健康で、あと20年くらい生きるのではという人もいる。そこで、90歳になるころ、後継問題を話し合うことにした」と語っていますが・・・・。