
(17日 ギリシャ問題を議論したドイツ連邦議会でのメルケル首相とショイブレ財務相 【7月20日 ロイター】)
【20日 銀行の窓口営業再開】
ギリシャ国会は16日未明、EU側が金融支援再開の条件としていたいっそうの増税や年金削減などを含む財政再建策の関連法案を賛成多数で可決しました。
ただ、チプラス首相率いる最大与党・急進左翼進歩連合(シリザ、149議席)は32人が、改革関連法案は反緊縮を掲げた政権公約に反するとして反対票を投じ、白票などを含めると同党の造反者は計39人にのぼりました。
チプラス首相は17日、財政再建策に反対するラファザニス生産再建相らを更迭する内閣改造を行いましたが、地元メディアは「国民の反発は強まっており、今年9月の早期解散・総選挙は避けられない」などと報じています。【7月18日 産経より】
一方、支援者側のドイツも17日、連邦議会がギリシャ支援交渉の開始について賛成多数で可決しました。
メルケル首相は、「支援はギリシャだけではなく、強いEU(欧州連合)、強いユーロのためでもある」と、交渉を始めることに理解を求めた一方、「EUの規則に反する債務免除を認めれば、法治国家としてのEUは終わりだ」と、交渉ではギリシャなどが求める債務削減には応じない姿勢を強調しています。【7月18日 朝日より】
こうしたギリシャ、ドイツの動きを受けて、ユーロ圏各国は今後3年間にわたる新たなギリシャ支援交渉を始めることを正式に決定しました。
****ギリシャ支援交渉開始を決定 ユーロ圏****
ユーロ圏各国の財務相は17日の電話会合で、ギリシャへの新たな支援交渉を始めることを正式に決めた。これに先だち、ドイツなど各国の議会で支援交渉に関する承認手続きを終えた。
ギリシャが支援を要請していたユーロ圏の救済基金「欧州安定メカニズム(ESM)」も同日、交渉を始めると発表。支援は3年間で、総額は最大860億ユーロ(11兆6千億円)。
債務(借金)減免の扱いも話し合われる予定だが、前向きなIMFなどに対し、ドイツが慎重姿勢を崩していない。
財務相会合のデイセルブルーム議長は今週初め、支援交渉は「4週間はかかる」との見方を示した。(後略)【7月18日 朝日】
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また、欧州中央銀行(ECB)はギリシャへの資金供給引き上げを決定、EUも当座の返済資金にあてる「つなぎ融資」を行うことを決定しました。
****ギリシャの銀行への資金供給引き上げ 欧州中銀****
欧州中央銀行(ECB)は16日の理事会で、ギリシャの中央銀行を通じて同国の銀行に供給する資金量(現在の上限は約890億ユーロ)を増やすと発表した。
増額するのは、銀行が1週間の資金繰りに必要な9億ユーロ分。6月28日からギリシャの中央銀行からの増額要請を拒否していた。ロイター通信は、銀行関係者の話として、6月29日から閉鎖が続いているギリシャの銀行の窓口が週明けにも再開すると伝えた。
一方、ユンケル欧州委員長は16日の記者会見で、ギリシャに対し、70億ユーロのつなぎ融資を行うことで合意したと明らかにした。EUの加盟国への緊急融資制度を使う。
7月20日が期限のECBが持つ国債の償還や、延滞になっている国際通貨基金(IMF)への融資の返済などにあてる。【7月17日 朝日】
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これにより、ギリシャは当面の資金繰りをクリアし、銀行再開にも漕ぎつけました。
****ギリシャ、3週間ぶりに銀行営業再開****
ギリシャ政府は20日、銀行の営業を再開した。ギリシャの債務危機をめぐり、銀行システムの崩壊を回避するために政府が銀行の営業を3週間、停止していた。
ただし、先月29日以来導入されている資本規制は継続される。これまでの現金引き出し額は、1日当たり60ユーロ(約8000円)までに制限されていたが、現在は週当たり420ユーロ(約5万6000円)の上限となっている。【7月20日 AFP】
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しかし、証券取引所は、20日以降も取り引きの停止を継続することを明らかにしています。
また、20日から構造改革の一環として、飲食店や一部の食料品などで、日本の消費税に当たる付加価値税の税率の引き上げが実施されました。
上記の流れを概観すれば、ギリシャのデフォルトやユーロ離脱といった危機的状況は短期的には回避され、EUとギリシャの間でなされた合意を履行する方向で進んでいると言えます。
【IMF:債務削減がなければ救済プログラムから離脱する可能性も】
ただ、今後とも順調に推移するかどうかについては、懸念される点もいくつか出てきています。
すでに表面化しているのは、債務削減を認めるかどうかの問題です。
IMFは欧州の債権者がギリシャに対して大幅な債務軽減措置を講じないなら、ギリシャの新しい救済プログラムから離脱する可能性もあるという強い姿勢を見せており、国内世論に配慮して債務削減を拒否しているドイツと意見が割れています。
****新たなギリシャ救済案に早くも暗雲****
債務軽減措置のない計画にIMFがノー、EUはどうする?
欧州の債権者がギリシャに対して大幅な債務軽減措置を講じないなら参加できない――。国際通貨基金(IMF)はそう語り、ギリシャの新しい救済プログラムから離脱する可能性もあるという強いシグナルを発した。(中略)
本紙(フィナンシャル・タイムズ)は、週末に欧州連合(EU)当局に送付された計3ページのメモを入手した。この中でIMFは、昨今のギリシャ経済の混乱により同国の債務残高の対国内総生産(GDP)比は今後2年の間に200%に近い水準でピークに達すると述べている。ユーロ圏危機が始まった時点のこの値は127%だった。
「大幅な債務軽減措置しか手段はない」
ギリシャを巡る首脳会議に向けてEUの指導者たちのために用意されたこのメモは、ギリシャが金融市場に復帰できるレベルまで同国の債務残高を減らす手段は大幅な債務軽減措置しかないと論じている。これはユーロ圏当局が頑なに拒んできた手段にほかならない。(中略)
IMFには、問題になっている国の債務が持続不可能だと思われ、かつ民間の債券市場に戻って資金を調達できる見込みがない場合にはその国の救済プログラムに参加できないというルールがある。
これまでのギリシャ救済策にはこのルールを曲げて参加してきたが、今回はその意欲が薄れている。
ユーロ圏におけるドイツ主導の強硬派の国々にとって、IMFの関与は非常に重要だ。ギリシャ救済プログラムの監督には欧州委員会も携わるが、欧州委員会の評価は厳格さに欠けると強硬派は考えているからだ。(中略)
IMFが救済から離脱すれば、政治・金融面で大きな問題
仮にIMFがギリシャの救済プログラムから離脱することになれば、ドイツ政府やユーロ圏のその他の債権者は政治・金融の面で大きな問題に直面する恐れがある。
ドイツ政府筋によると、IMFの承認がなければ、新しい救済プログラムへの資金拠出に関する承認をドイツ連邦議会で得るのに苦労することになるという。
新たな交渉の再開と3度目の救済プログラムの最終条件には、いずれもドイツの国会議員の承認が必要だ。
また、あるEU当局者の話によれば、ギリシャ支援に必要な860億ユーロのうち、ユーロ圏の救済基金で5000億ユーロの規模を誇る欧州安定メカニズム(ESM)からはわずか400億~500億ユーロの拠出しか見込まれていない。
現在のIMFのプログラム――まだ164億ユーロの支出がなされていない、2016年3月まで有効なプログラム――がこの差を一部埋めると期待されている。またユーロ圏当局は、IMFによる追加のプログラムも寄与すると想定していた。
不足が生じれば、ギリシャの国有資産民営化による代金で埋め合わせなければならないだろうが、この手法は何度も期待を裏切っている。
あるいは、ギリシャが債券市場で借り入れることも考えられるが、こちらの市場は今年1月に急進左派連合(SYRIZA)主導の政権が誕生してから干上がっており、IMFのメモでも実現はかなり考えにくいと指摘されている。(後略)【7月14日付 FT.com】
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【ドイツが強要する債務削減なしの緊縮策でギリシャ再建は可能か?】
EUとIMFの間の話ですので、なんらかの落としどころはあるのでしょうが、そもそもの話として、債務削減を行わない形で緊縮策をこれまで以上に続けることで、ギリシャ経済・財政が再建可能かどうかには疑問が投げかけられています。
特に、ギリシャにそうした債務削減なしの緊縮策を強く迫ったドイツの強硬な姿勢は、批判の矢面にも立っています。
****欧州に高い代償 フィナンシャル・タイムズ(英国)****
14日付の英紙フィナンシャル・タイムズは、ギリシャと欧州側が原則合意した財務再建策は「ギリシャと欧州にとって高くつく」とする内容の社説を掲載した。
また、「ドイツが求めた強硬な条件は、ギリシャ人には無理難題の押しつけだ」として、債務減免を拒否するなど厳しい姿勢を示したドイツを批判した。
社説はまず、合意が「壊れかけたギリシャ経済を支えることになる」としながらも、ギリシャ債務危機の苦痛は消えないと強調した。
その上で、ギリシャに厳しい条件を突きつけたドイツの姿勢は「ギリシャに深い傷を負わせ、融和的な姿勢で臨んだフランスとの溝を露呈させるだけでなく、ユーロ圏、欧州連合(EU)の将来にも深刻な懸念を投げかけた」と批判した。
さらに、ギリシャのチプラス首相についても、「瀬戸際外交でギリシャ経済を不況と緩やかな銀行の破綻に追いやり、世界のギリシャに対する同情を失わせた」として、欧州との交渉で自ら「最悪の敵」を演じた首相の姿勢も非難した。
同紙は一方で、「降伏したギリシャ首相に対して合意を強要したのはあまりに厳しい」と述べ、ギリシャ側に同情を示した。
ギリシャは5日の国民投票で、EUが求める緊縮の財政再建策に「ノー」を突きつけたが、今回の合意では、増税や一層の緊縮財政とギリシャの国家制度改革を求めるものとなった。
同紙は「ドイツとユーロ圏諸国は『苦い薬を飲むことは必要だ』というが、その厳しさに、ギリシャ人たちはユーロ圏にいる意味を考え直している。EU側の条件は、EUとギリシャの関係を植民地の王様と家来のような関係に変えるリスクを持っている」と警告。
最後に、「ユーロ圏はギリシャ経済に自ら責任を持ったことで、今後、次なる支援策という政治決断が必要になるだろう」との見方を示している。【7月20日 産経】
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****ギリシャ問題 弱い経済包摂するには 朝日社説****
財政危機に陥っているギリシャが欧州連合(EU)から求められていた財政改革案を受け入れ、金融支援が動き出すことになった。これで当面はギリシャの債務不履行(デフォルト)の危機は遠のいた。
とはいえ、めぼしい産業が観光や海運などに限られているギリシャ経済の再生は見通しにくい。5年におよぶ緊縮財政の結果、経済規模は2割縮み、国民は疲弊している。このうえ激しい緊縮を進めれば、かえって経済が悪化し、再び財政危機がぶりかえす恐れさえある。
危機を封じ込めるには、国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事が主張するように、ギリシャに対する「相当な規模の債務減免」も必要ではないか。
先週来のユーロ圏各国によるギリシャ支援協議では、ギリシャ支援をめぐって立場が二つに分かれた。「離脱だけは回避すべきだ」と考えるフランスのような国々と、「場合によってはギリシャのユーロ離脱もやむなし」とするドイツのような国々である。
この論争は、欧州統合は誰のためにあるのか、という問いを想起させる。
経済が強大な国々が弱い国々に手をさしのべて欧州としてまとまっていくという思考と、弱い国を切り捨てる思考である。
後者の路線に突き進めば、ユーロ内の亀裂が深まり、経済の強弱にさらに大きな落差が生じてしまうだろう。
当のギリシャの政府も国民も「ユーロ残留」を望んだ。ならば、こうした経済力の弱い国家や国民を包摂する制度を組み立て直す方策こそが、いま必要なのではないか。
ギリシャ自身が財政改革や成長戦略に取り組まねばならないにしても、構造的な経済格差をうめるには、ユーロ圏のなかの「地方交付税」のような財政支援の仕組みを拡充する必要がある。その先にユーロ圏の本格的な財政統合も視野に入る。(後略)【7月20日 朝日】
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もっとも、ドイツ紙「フランクフルター・アルゲマイネ」は、ギリシャの「ユーロ圏一時離脱論」を持ち出したドイツのメルケル政権の強硬姿勢については、妥協をもたらすために必要な対応だったと理解を示しています。
また、ギリシャの一時的ユーロ離脱も主張して断固とした姿勢で交渉に臨んだショイブレ独財務相の支持率が就任以来最高の70%に達したとのことで、今後とも、ドイツ国民の血税がギリシャの砂地に吸い込まれていくような事態をドイツ世論は容認し難いでしょう。
【EUの「主役」ドイツのためらい】
一方で、ドイツ国内メディアにも、強硬姿勢を貫いたドイツへの自己批判も出ているようです。
****冷酷ドイツが自己批判「戦後70年の努力が台無しだ」****
・・・・あるEU外交官は、「これまで見た中で最も容赦のない交渉」であり、「特にドイツ側には侮辱的と思えるような態度がみられた」と取材に語った。
こうした声を受け、今回の協議がヨーロッパにおけるドイツの評判に悪影響を与えるのではないかと懸念する声が独メディアに出始めている。
■南ドイツ新聞(中道左派) 「ドイツ人は卑劣で冷酷でケチ、という消えかけていたイメージを、メルケルは見事に復活させた」
■シュピーゲル・オンライン 「ドイツ政府は戦後70年をかけて積み上げてきた外交努力をたった1度の週末で破壊した」
■シュピーゲル誌 「残虐さのオンパレード」(最終合意案を評して)「ギリシャ支援をケチろうとした分、イメージ回復にはその2倍も3倍も金がかかるだろう」
■TAZ紙(左派寄り) 「(欧州には)ドイツ人の権威主義的で尊大な態度に激怒している人もいる」(後略)【7月15日 Newsweek】
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ドイツも好き好んで、“憎まれ役”ともなりがちなEUのリーダーシップをとる「主役」の座にいる訳ではなく、ドイツの国力がドイツそういう地位に押し上げてきたとも言えます。
EUは、ギリシャ債務問題もさることながら、イギリス・キャメロン首相が予定しているEU離脱を問う国民投票という問題もかかえています。ここでもドイツの指導力が必要とされるでしょう。
****ドイツが学ぶべき「主役」の張り方****
ヨーロッパの「控えめな最強国」は苦境のEUを救うために指導力を振るえるか
・・・・EUの大国の中で最も控えめな態度を取り続けてきたドイツは、いまだにヨーロッパの主役を張ることへの
ためらいがあるようだ。(中略)
99年にユーロが誕生すると、ドイツは再び脇役に戻っていったが、今ではそうした控えめな姿勢に終始するわけにはいかなくなっている。
しかし、ドイツが自国の力に見合うビジョンを持っていないことも事実だ。
かつてフランス人のジヤン・モネやロベール・シューマンが打ち出した欧州統合の理念が輝きを失いつつあるなか、ドイツはEUの未来と人気を取り戻すための力強い戦略を示すことができていない。
今日、加盟28力国の中で最強の国がドイツであることは議論の余地がないにもかかわらず、である。(中略)
イギリスの国民投票を前に、欧州最強国ドイツに求められるのは、ビジョンと独創性を発揮してリーダーシップを振るいつつ、他国の反感を買わないように外交術を駆使することだ。【7月21日号 Newsweek日本版】
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なお、ショイブレ財務相が、ギリシャ問題をめぐるメルケル首相との意見の相違から辞任を考えていると独誌シュピーゲルが報じたことに対し、ドイツ政府は否定するコメントを出しています。