孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  親政府民兵組織による人権侵害  対ISでタリバン・アメリカの利害は一致?

2015-07-13 22:19:07 | アフガン・パキスタン

(【7月13日 AFP】)

事件後も脅迫を受ける酸攻撃犠牲者
アフガニスタンなどの国おいて、宗教上のささいな違反があったとみなされる場合や、男性からの求愛を拒否したような場合に、女性の顔面に酸を浴びせるという卑劣極まりない行為が横行していることはしばしば取り上げてきました。

7月9日ブログ「アフガニスタン政府とタリバン、パキスタンで直接交渉 今後も継続」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150709)でも、登校中の女子生徒3人が、「これは学校へ行くことに対する罰だ」と主張する男性によって顔に酸をかけられて負傷した事件に触れたばかりです。

今回報じられているのは、男性からの一方的な求愛を断ったことによる、4年前に起きた同様の事件です。

4年が経過した今も、女性は顔にも心にも傷を負ったままです。しかも今も脅迫され、死の恐怖から人目を避けながらの生活を余儀なくされているとのことです。

****酸攻撃の被害女性つけ回す殺害脅迫、アフガニスタン****
■家族そろって「生きるのがやっと」
小麦農家を営む一家の娘であるマムタズさんは、大きな瞳と染み一つないきれいな肌を持ち、親戚の間でも評判の美少女だった。

だが14歳の時、ナシルという民兵の男から求愛され、それを逃れるため、イスラム圏の女性が全身を覆うベール、ブルカを着用するようになった。

ナシルは、アフガニスタンの旧支配勢力タリバンに対抗する民兵組織とつながりがあるという悪評をとどろかせていたが、マムタズさんの自宅の前を長い間うろついたり、待ち伏せをしたりするようになった。マムタズさんの家族と激しい口論を交わし、身を引くよう警告されても、態度を変えなかった。

2年後、マムタズさんが別の男性と婚約すると、ナシルはマムタズさんの家を襲撃し、酸を浴びせる事件を起こした。マムタズさんの美貌を台無しにすることで、求婚を拒絶された屈辱の復讐を図ったのだ。

ナシルはその後、逃亡。裁判所は共犯者のうち3人を10年の懲役刑に処した。事件の犠牲者が女性の場合、法的措置がほとんどとられることのないアフガニスタンでは、まれな判決だった。

だが皮肉なことに、マムタズさんの本当の苦難は犯人たちが投獄されてから始まった。「彼らは私の首をはねると脅してきた。『刑務所から出たら、おまえの家族全員を殺す。おまえの後をついて回ってやる』」

アフガニスタン女性の権利保護団体「アフガニスタン女性のための女性たち(WAW)」によれば、武装集団がマムタズさんの自宅襲撃を企てたこともある。「彼女の一家の男性は常に武器を持ち歩かなければならず、夜は交替で起きて見張りをしている状況だ」という。

マムタズさんの父親、スルタンさんによると何度も自宅に侵入されそうになり、引っ越しを迫られた。また、投獄されている犯人の親類にオートバイで追いかけられ、すぐに出所できなければどうなるか覚えていろと、脅迫もされた。自分の農場に行くことさえ困難なほどだ。

娘への襲撃には身もだえするほど激しい怒りを覚えるが、恐怖におびえてもいるという。「家に閉じ込められ、生活を奪われ、生きるのがやっとだ」

■ 対タリバンで民兵に依存する政府
AFPはクンドゥーズ市近郊の村に住む犯人たちの家族を取材することはできなかった。クンドゥーズは武装勢力と民兵組織との衝突が絶えない地域だ。

アフガニスタンではここ数年、かつての「ムジャヒディン」のような民兵が増えており、彼らがレイプや、住民からの「保護税」強制徴収といった悪質な行為を繰り返していると政府は非難する。

アシュラフ・ガニ大統領は14年に就任した際、民兵組織について、1990年代の内戦中にアフガニスタンを荒廃させ、タリバンが権力を握る下地を作ったと批判した上で、武装解除させると公約。だが、タリバンの勢力が拡大する中、政府は治安部隊を増強するために再び民兵組織を活用しているようだ。

マムタズさんは今年、事件前に婚約した男性と結婚し、人生にかすかな希望がもたらされたが、こういう。「いつか彼ら(襲撃した男たち)が私を見つけるんじゃないかと、絶えずおびえながら生きている」【7月13日 AFP】
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こうした卑劣な事件が繰り返され、しかも被害者が十分に保護されない・・・・そうした社会が1日も早く変化することを願うばかりです。

止むことがないアフガニスタンの内戦と混乱の根底に、こうした安易に暴力に走る社会風潮があるように思われます。

権力者をパトロンとする親政府民兵組織の犯罪行為
親政府民兵組織による人権侵害、権力者との癒着については、以前から指摘されている問題です。
下記は、2011年当時のヒューマン・ライツ・ウォッチによる指摘です。

****アフガニスタン:民兵組織と地元警察(ALP)の人権侵害 野放しやめよ****
治安権限の移譲に近道なし 人権保障を根本に据えよ

民兵組織及び新たに米国の支援を受けたアフガニスタン地元警察(ALP)の部隊が、重大な人権侵害を行っているにも拘らず、アフガン政府は適切な監督を怠り、法的責任も問うていない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した報告書で述べた。

アフガニスタン政府及び米国政府は、非正規の武装集団との関係を断つと共に、適切な訓練と適格審査を経た責任ある治安部隊を創設すべく直ちに措置を講ずるべきである。

報告書(全102ページ)「官製民兵組織はもう御免:民兵組織と『アフガニスタン地元警察(ALP)』に蔓延する不処罰」は、北部クンドゥズ州の非正規武装勢力とバグラン州、ヘラート州、ウルズガン州におけるアフガニスタン地元警察(以下ALP)の部隊による殺人・レイプ・拉致・土地強奪・不法家宅捜査などの実態を取りまとめている。

アフガニスタン政府はこれらの部隊の法的責任を問うていないため、将来にわたる人権侵害を助長すると同時に、タリバンやその他の反政府勢力への支持を生みだしている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムスは「アフガニスタン政府は反政府暴動を鎮圧するため、アフガニスタン一般市民の生命を脅かす民兵組織を再結成した。アフガニスタン政府と米国政府は、人権侵害を行う不安定要因である民兵組織の支援からしっかり手を切ることなしに、実現可能かつ長期的な安全保障戦略への希望を持つことは不可能だ」と語る。

米軍は、駐留撤退戦略の一環として、創設1年目のALP部隊を村落レベルで訓練・指導している。2011年3月、当時アフガニスタン国際治安支援部隊司令官だったデービッド・ペトレアス氏は米国上院において、「アフガニスタン自らの治安維持能力の向上を支援する我々の取り組みの中で、ALPはほぼ間違いなく最重要要素である」と述べている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は、アフガニスタン政府や諸外国が非正規武装集団に対して武器や資金を提供し、彼らの審査及び法的責任追及を担うという取り組みの前途には重大な問題が立ちはだかっていることを明らかにしている。

クンドゥズ州で民兵組織が近年急速に拡大してきたのは、アフガニスタン情報機関である国家保安局(以下NDS)が、意図的にそうした政策を推し進めてきた結果である。

シューラ・エ・ナザール(Shura-e-Nazar:北部監督者評議会)とジャミアテ・イ・イスラミイ(Jamiat-i-Islami:イスラム協会)ネットワークを通じ主として民兵組織ネットワークを再活性させ、十分な監督もしないまま資金や武器を供与してきたのだ。

報告書「官製民兵組織はもう御免」は、人権侵害の被害者、家族、村の長老、目撃者、NGO職員、アフガニスタンの治安・人権保護・政府当局者、外国軍当局者、外交官、ジャーナリスト、アフガニスタンアナリストなど120人を越える聞き取り調査に基づいている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチがクンドゥズ州において記録したほぼすべての重大な人権侵害事件において、人権侵害の責任者は、何の責任もとわれていなかった。

例えば、2009年8月にカナバッド(Khanabad )地区で、1人の民兵が家族間の小競り合いがもとで男性4名を殺害した事件が起きた。

この事件に関してNDS当局者は、「人権侵害を行っている民兵組織の司令官は、州警察長官と地方有力者と密接な関係にあるので、警察はその殺人事件に関与した者を誰も逮捕できない」と正式に発表している。

殺害された男性のうちの1人の父親でもある検察官はヒューマン・ライツ・ウォッチに、「誰も助けてくれませんでした。政府に勤めている私でさえこうなのですから、一般の人の話など誰が聞くでしょうか。誰も聞いてはくれません」と話した。

「地元の治安部隊の高官や中央政府高官をパトロンとする親政府民兵組織は、政府との密接な関係ゆえに、地域社会を恐怖に陥れる活動をしても処罰されず、野放しにされている」と前出のアダムスは語る。(後略)【2011年9月11日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】
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“タリバンの勢力が拡大する中、政府は治安部隊を増強するために再び民兵組織を活用しているようだ”【前出 AFP】とのことで、問題は今も改善していないようです。

成果をあげるアメリカの対IS無人機攻撃 その背景には・・・?】
タリバンによる自爆テロは相変わらずの状況です。

****アフガニスタンの軍基地で自爆攻撃、33人死亡****
アフガニスタン東部ホースト州の軍基地で12日、自動車爆弾による自爆攻撃があり、地元当局によると少なくとも33人が死亡した。

ホースト市警察署長によると、自爆犯は政府軍と外国軍の兵士が駐留するチャップマン基地の入り口近くにある検問所で爆発物を爆破させた。死者のうち27人は民間人で、6人が治安当局関係者だった。また死者には、子ども12人と女性3人が含まれる。

犯行声明は出ていないが、アフガニスタンの旧支配勢力タリバンはこれまでにもアフガニスタン軍や外国部隊を標的にした攻撃を繰り返している。

チャップマン基地では2009年、国際テロ組織アルカイダによる自爆攻撃があり米中央情報局(CIA)要員7人が死亡している。【7月13日 AFP】
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一方、タリバンはアフガニスタンで勢力拡大をはかる同じイスラム過激派IS「イスラム国」とも敵対しています。
当然ながらアメリカもIS拡大を懸念しており、指導者への無人機攻撃を続けており、その“成果”が報じられています。

****ISのアフガン・パキスタン地域の指導者、無人機攻撃で死亡****
アフガニスタン東部で行われた無人機による攻撃で、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」のアフガニスタン・パキスタン地域の指導者ハフィズ・サイード容疑者が死亡した。情報当局者と武装組織の司令官らが11日明らかにした。

アフガニスタンの情報機関「国家保安局(NDS)」によると、同容疑者を含むIS系の戦闘員30人が10日、パキスタン国境に近く情勢不安定なアフガン東部ナンガルハル州で行われた攻撃で死亡した。

以前はアフガニスタンの旧支配勢力タリバンのメンバーだったというIS系組織の2人の司令官はAFPに電話で、無人機の攻撃が行われた際に現場近くにいたと話した。

司令官らの会議が行われている最中に爆撃があり、サイード容疑者のバラバラになった遺体はその後すぐ埋葬されたという。

アフガニスタンでの存在感がまだ小さく同国での勢力を強めようとしているISにとってサイード容疑者の死は大きな痛手となった。

アフガニスタンでは今年2月、同国のIS組織のナンバー2と考えられていたアブドゥル・ラウフ・カディム容疑者が無人機による攻撃で死亡していた。また地元政府筋によると、今月6日にはナンガルハル州アチン地区でIS戦闘員を狙った米国の無人機による2度の攻撃で49人が死亡した。

アフガニスタンではここ数か月、IS系の武装勢力とタリバンの間で支配権をめぐり激しい戦闘が起きていると伝えられている。【7月12日 AFP】
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アメリカのISに対する無人機攻撃が大きな成果をあげているようですが、無人機攻撃には現地情報が不可欠です。
大きな成果が相次いでいるということは、現地の的確な情報がアメリカ側に伝えられているということになります。

なんの根拠もない、まったくの想像ですが、そうした情報はISと対立するタリバン側から漏れているのでは・・・。
対ISということでは、タリバンとアメリカが共同作戦を行うことがあっても不思議ではないようにも思えます。

アフガニスタンにおけるISの拡大については、ロシア・プーチン大統領も警告しています。

****ISの「触手」アフガニスタンにも、プーチン露大統領****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は10日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」がアフガニスタンにまで達していると警告した。

プーチン大統領は、ロシアのウファで開かれた中国、ロシアと中央アジア4か国による安全保障会議「上海協力機構(SCO)」の首脳会議後、共同記者会見で、「(アフガニスタンに)触手を伸ばしているISの戦闘員たちの動きが活発化していることを察知している」と述べた。

プーチン大統領は同日、アフガニスタンのアシュラフ・ガニ大統領と歴史的な2国間首脳会談を行った。

ガニ大統領は、自国をISから守るために苦心しており、再活性化しているアフガニスタンの旧支配勢力タリバンとの協議を開始した。ガニ大統領また、SCO期間中にパキスタンのナワズ・シャリフ首相とも会談している。【7月11日 AFP】
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対ISでタリバン、アメリカ、アフガニスタン政府、更にはロシアの利害も一致するということであれば、前回ブログで扱ったタリバンとアフガニスタン政府の交渉も、多少は成果が期待できるものがあるのかも。
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