孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ・キューバ 国交回復発表  オバマ大統領のレガシー(政治的遺産)づくりに「追い風」

2015-07-02 22:30:22 | アメリカ

(銃乱射事件の犠牲者の1人、ピンクニー牧師の葬儀で讃美歌「アメイジング・グレイス」を独唱するオバマ大統領  Youtube動画はhttps://www.youtube.com/watch?v=kP0pNVkVhso )

54年を経て「冷戦の遺物」を解消する歴史的な転換点
アメリカ・オバマ大統領は1日午前(日本時間2日未明)、アメリカとキューバ両政府が大使館を再開させ、1961年の国交断絶以来、54年ぶりに国交を回復させると発表しました。今月20日にも現在の両国利益代表部を大使館に格上げするとされています。

****米キューバ、国交回復発表=54年ぶり、20日大使館設置―ケリー国務長官が訪問へ****
オバマ米大統領は1日午前(日本時間2日未明)、ホワイトハウスで声明を読み上げ、国交回復と大使館の相互設置でキューバと合意したと正式発表した。

1961年に国交を断絶した両国関係は、54年を経て「冷戦の遺物」を解消する歴史的な転換点を迎えた。

オバマ大統領は「歴史的な一歩だ」と強調し、ケリー国務長官が今夏にキューバの首都ハバナを訪れ、米大使館で国旗掲揚を行うと明らかにした。

また、キューバとの関与を深めて「協力の道を見つける」と表明した。キューバ外務省によれば、ロドリゲス外相が大使館開設に合わせワシントンを訪問する。

これに先立ち米国とキューバの当局者は1日、オバマ大統領とキューバのカストロ国家評議会議長による親書を交換した。キューバ外務省の発表によれば、親書には双方の大使館を20日に再開することが盛り込まれている。

両国政府は2013年春から秘密交渉を開始。フランシスコ・ローマ法王の仲介などを受け、オバマ大統領とカストロ議長は14年12月、国交正常化交渉の開始を発表した。

双方が1月からワシントンとハバナで交互に高官協議を重ねる中、オバマ、カストロ両氏は4月にパナマで59年ぶりの首脳会談を実現させた。オバマ政権が5月、キューバに対する82年のテロ支援国指定を正式解除したことで、国交回復は時間の問題とみられていた。

オバマ大統領は対キューバ経済制裁の一部を段階的に緩和しているものの、全面解除には議会の承認が必要になる。オバマ氏は「議会は制裁を解除する時だ。(キューバで)われわれの利益を高め、民主主義などを広げるためには、関与が最善の方策だ」と訴えた。【7月2日 時事】 
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これまでの交渉経過から「時間の問題」と見られていた国交回復ではありますが、「冷戦の遺物」を解消する歴史的な転換点、「歴史的な一歩で、両国の新たな章の始まり」(オバマ大統領)として、感慨深いものがあります。

関係正常化に向けた長いプロセスの第一歩
もちろん、「関係正常化に向けた長いプロセスの第一歩になる」(ジェーコブソン米国務次官補)というように、これからの問題が山積しています。

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オバマ大統領は対キューバ経済制裁の一部を段階的に緩和しているものの、全面解除には議会の承認が必要になる。キューバ国内の人権状況の改善などが求められるほか、対キューバ強硬派が多い共和党が多数を占める現在、制裁措置の廃止は困難とみられている。【7月1日 時事】
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野党・共和党から反発の声があがっており、共和党ベイナー下院議長は「キューバ国民が自由を手に入れるまでは、関係を正常化すべきではない」という声明を発表しています。

*****キューバ制裁解除に向け 米議会への働きかけ強化へ****
・・・・これに対して、アメリカ国務省のカービー報道官は、NHKのインタビューに応じ、「今回の政策転換はキューバに対して、人権などへの懸念を伝えやすくするものだ」と反論し、国交を回復し交流を深めることが、キューバの民主化や人権問題の改善につながると強調しました。

そのうえで、野党・共和党の指導部がキューバに対する経済制裁の解除に反対していることについて、「ケリー長官は、意見の違う議員がいることはよく分かっている。対話を通じて目的を達成する」と述べ、ケリー国務長官を中心に、議会への働きかけを強めていく考えを示しました。

キューバに対する経済制裁を全面的に解除するには、アメリカ議会の承認が必要ですが、議会は野党・共和党が多数を占めており、キューバが強く求める制裁解除は厳しい道のりが予想されます。【7月2日 NHK】
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キューバ国内では、反体制派が当局に拘束される事案もあとを絶たず、アメリカ国務省が6月に発表した人権報告書では、表現の自由や集会を制限するため、政府が脅迫や暴力などを用いたと指摘されています。

このため、人権を置き去りにした「見切り発車」との指摘もあります。

****米・キューバ関係正常化】「オバマ遺産」 人権を置き去り 政治犯なお60人 重要問題残したまま見切り発車****
オバマ米大統領にとりキューバとの外交関係正常化は新たなレガシー(政治的遺産)となる大きな成果だ。

ただカストロ政権下ではオバマ政権が批判してきた劣悪な人権状況が今も続く。両国の首都で大使館は再開はしても、重要な問題を残したままの“見切り発車”となりそうだ。

オバマ氏とカストロ国家評議会議長が関係正常化に乗り出すと発表した昨年12月以降、キューバの刑務所から53人の政治犯が釈放された。カストロ政権によればキューバ国内には今、政治犯が存在しないことになっている。

しかし、キューバの反政府団体「キューバ人権国民和解委員会」のエリザルド・サンチェス氏(71)によれば、今月19日時点で、少なくとも60人の政治犯が刑務所に収容されている。反政府武装活動家7人や、亡命するため飛行機や船の乗っ取りを実行または計画した者12人などだ。

刑務所から保釈された政治犯11人が米国などに出国できない状況も続き、平和的な反政府デモに参加して逮捕された少なくとも24人の裁判も進んでいる。

1959年の革命後の暗黒時代、キューバでは約1万5千人の政治犯が収容されていた。「当時に比べれて改善したようにもみえるが、数日間や数時間だけ拘束して釈放するというように、治安当局の手法が変化したに過ぎない」(人権活動家)との指摘もある。

キューバの反政府人権団体「キューバ愛国同盟(UNPACU)」によれば、今年5月の1カ月間に逮捕、釈放された反体制派は641人にも上る。

こうした状況もあり、米政府は今回の合意について「外交関係の正常化と国交正常化とは異なる」(国務省高官)と説明し、完全な国交正常化へ向けた最初の一歩だと位置づける。人権問題を改善し、米国のヘルムズ・バートン法(キューバ自由・民主的連帯法)に基づく対キューバ制裁を、議会承認により完全撤廃するまでには、相当の時間を要するとみているためだ。

ヒト、モノ、カネ、情報をキューバに注入し、内部からの変革を誘発させられるかは極めて不透明で、長期的な課題として次期大統領に引き継がれる見通し。

関係改善は東西冷戦時代の“残滓”を消失させ、中南米で影響力の増大を図っているロシアと中国を牽(けん)制(せい)し、この地域に根強い反米感情の緩和にもつながるなど外交関係の正常化がもたらす意義は大きい。

ただ共和党は「遺産を残すための大統領の買い物だ」と酷評し、大使館再開に必要な予算措置なども阻止する構えだ。駐キューバ米大使の承認にも反対しており、指名が難航することが予想される。【7月1日 産経】
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キューバのラウル・カストロ国家評議会議長は「社会主義体制を変えることはない」と明言、オバマ大統領にあてた親書でも「国家の政治的独立、内政不干渉」の尊重も求めています。その上で、基本的人権の尊重など国際的な問題にも協力して取り組む考えを示しています。

問題は今後に残されていますが、まずは「外交関係の正常化」に向けて歯車を回すことで、今後への展望も開けてくるものがあると思われ、前向きに評価すべきでしょう。

キューバ東南部に位置するグアンタナモ米海軍基地の返還問題も、今後に残されています。

****米・キューバ国交交渉】グアンタナモ返還、改めて焦点に*****
・・・・キューバ政府は声明で、関係正常化には「経済制裁解除や、グアンタナモ米海軍基地の返還などが必要だ」とくぎを刺した。

米、キューバ両政府は1903年以来、米国が租借し、近年ではテロ容疑者が収容されているグアンタナモ基地の返還をめぐり対立してきた。

米政府は国交正常化交渉で「返還問題は協議されていない」(高官)と説明し、問題は棚上げされてきたが、キューバ政府は1日の声明で返還を要求。
カーター米国防長官は「返還するつもりも、計画もない」と明言し、問題が再燃した格好だ。

1898年に米西戦争に勝利し、スペインの植民地化にあったキューバを占領下に置いた米国は、1902年の独立を認めるにあたり、さまざまな条件を付けた。その一つが、グアンタナモ湾内の土地の租借と海軍基地の建設で、翌年の条約で具体化された。

キューバ政府が返還を要求しているのは「領土」であり、「主権の問題」であるからにほかならない。

一方、オバマ大統領は、2001年の米中枢同時テロ以降、テロ容疑者を収容している基地内の収容所の閉鎖を公約している。「過酷な尋問」が発覚したのが契機で、収容者の第三国への移送を進めている。

だが、受け入れ先は限定され、なお百人以上が拘留されているのが実情だ。イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の台頭という情勢変化や、釈放された容疑者の多くがテロ活動に復帰していることから、共和党では閉鎖反対論が強まってもいる。

こうした状況からオバマ政権は返還には応じがたく、何よりグアンタナモ湾が、米国東部とパナマ運河を結ぶ戦略上の「要衝」であるという要因が大きい。【7月2日 産経】
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オバマ大統領に「追い風」】
6月26日ブログでも取り上げた「オバマケア」補助金問題にかかる最高裁合憲判断、今回のキューバとの国交回復と大使館の相互設置、TTP交渉に関する貿易促進権限(TPA)法が成立、更には同性婚を憲法上の権利として認めるとする最高裁判断・・・ここにきてオバマ大統領が推進してきた施策の多くが、ようやく意図した方向に動き出した感があります。

****オバマ大統領に追い風 「遺産」づくり着々 TPAや医療保険改革…キューバ大使館開設も射程圏****
残り任期が1年半余りとなり、レガシー(政治的遺産)づくりにかけるオバマ米大統領が、立て続けに「大勝利」(米メディア)を収めている。

貿易促進権限(TPA)法が成立し、米連邦最高裁判所は医療保険制度改革(オバマケア)に軍配を上げた。同性婚を合憲としたことも、リベラル政策を重視するオバマ政権には「追い風」だ。

30日に最終期限を迎えて延長が決まった、米欧など6カ国とイランとの核協議も山場を迎える。

現時点でのオバマ大統領の「成果」としては、金融危機の後をやり過ごし、景気と経済成長を回復軌道に乗せたことが挙げられる。

オバマケアは連邦最高裁の「お墨付き」を得たことで、論争を抱えながらも遺産として次期政権と今後の世代に引き継がれる。

また通商交渉の権限を大統領に付与するTPA法の成立をテコに今後、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の妥結にこぎつけられれば、2期目の最大の成果となる。

対中国という観点からも意義は大きく、オバマ大統領も最近「中国のような国ではなく、米国が世界経済のルールをつくらなければ米国が締め出される」と、真の狙いを隠さない。

「核なき世界」の一環として、イランの核兵器開発阻止に向けた包括的合意に至れば、米国内外に強い批判を残しながらも、オバマ大統領にとっては大きな勝利となる。オバマ政権は当面、予断を許さない交渉に傾注する。

キューバとの大使館再開合意も射程圏内だ。

一方では、不法移民に合法的な地位を与える移民制度改革や、銃規制は共和党の反対により難航を極めている。
気候変動への取り組みは道半ばだ。イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の掃討と、ロシアとの“新冷戦”は次期政権に「負の遺産」として引き継がれる公算が大きい。

共和党が上下両院を支配する中で、オバマ大統領は引き続き厳しい政権運営を強いられ、顕在化する遺産の是非は次期大統領選の争点として論じられ続ける。【7月1日 産経】
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オバマ大統領の支持率も回復傾向にあるようです。

****オバマ大統領の支持率、50%に回復 2年ぶり 連邦最高裁判決などが追い風 CNN調査****
米CNNテレビが6月30日発表した最新の世論調査によると、オバマ大統領の支持率が50%となり、2年1カ月ぶりに50%台を回復した。

オバマ政権の医療保険制度改革(オバマケア)をめぐる公的補助金支出を合法とした連邦最高裁の判決などが追い風になった。

先週は、議会が大統領に通商交渉の権限を一任する「貿易促進権限(TPA)法案」を可決したほか、最高裁はオバマ氏が支持を表明してきた同性婚を合憲とする判決も出した。オバマ氏は30日の記者会見で「申し分のない週だった」と語った。

調査は6月26日から28日にかけて実施。オバマ氏の支持率は、5月末の45%から5ポイント増えた。逆に不支持は52%から47%に減少した。

オバマ氏の支持率が全体で50%台に達したのは、2013年5月調査の53%以来。それ以降は41~48%の間で推移していた。【7月1日 共同】
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聴衆の琴線に触れることができる政治家
別に「追い風」状態にあるからでもありませんが、オバマ大統領の本領というか、カリスマを改めて感じさせたのが、サウスカロライナ州チャールストンの教会で発生した銃乱射事件の犠牲者の1人、クレメンタ・ピンクニー牧師の葬儀でのエピソードです。

****オバマ大統領が「アメイジング・グレイス」 教会銃乱射事件の犠牲者に捧げる****
アメリカ・サウスカロライナ州チャールストンの教会で発生した銃乱射事件の犠牲者の1人、クレメンタ・ピンクニー牧師の葬儀が6月26日に行われ、出席したオバマ大統領が讃美歌「アメイジング・グレイス」を歌って会場を大きな感動に包んだ。

アメイジング・グレイスは、アメリカ大陸へ黒人奴隷を運んでいた奴隷船の船長ジョン・ニュートンが作詞した曲だ。罪深い自分にさえ赦しを与えた神の驚くほどの恵み(アメイジング・グレイス)に対する感謝を歌っている。

ピンクニー牧師への追悼の言葉でその神の恵みについて触れたオバマ大統領は、「もし我々がその神の恵みを見つけ出すことができれば、すべてが可能になります。もし我々が神の恵みを手にすることができれば、すべてを変えることができるでしょう。アメイジング・グレイス」と述べ、続いてアメイジング・グレイスを歌い出した。

オバマ大統領の歌声に参列者たちは歓喜の声をあげて立ち上がり、そしてオバマ大統領とともにアメイジング・グレイスを歌い始めた。

アメイジング・グレイスを歌い終えると、オバマ大統領は力強く犠牲になった一人一人の名前を呼んだ。
「クレメンタ・ピンクニーはその恵みを見つけ出しました。シンシア・ハードはその恵みを見つけ出しました。(中略)」

「彼らは、自らの命を通してその恵みを私たちへと伝えてくれました。その尊い贈り物を受けるに値する人生を、私たちが歩み続けることができますように。その恵みが、犠牲になった方々を安らかな場所へと運んでくれますように。そして神の恵みが、アメリカ合衆国とともにあり続けますように」【6月29日 The Huffington Post】
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無名だったオバマ氏の存在を世に知らしめた2004年7月の“一つのアメリカ”演説、ヒラリー本命の大統領選挙を動かした“Yes we can!”・・・・聴衆の琴線に触れることができる政治家です。

“政策通”のヒラリーでは、逆立ちしてもできない芸当でしょう。

もちろん“雄弁”だけでは困りますが、政治の第1歩が人々に訴えかけることであるなら、そうした雄弁な政治家が日本に皆無なことは残念でもあります。
もっとも、“雄弁”でポピュリズムを煽るような事態が避けられるということでは安心なことでしょうか。
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