孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ギリシャ金融支援協議 ぎりぎりの合意でひとまずユーロ離脱を回避

2015-07-14 22:20:45 | 欧州情勢

(ユーロ圏首脳会議の開始前に言葉を交わす(左から)ドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領(後ろ向きの人物)、ギリシャのチプラス首相(7月12日撮影)。【7月13日 AFP】)

チプラス首相「財政の窒息状態から抜け出るためにはやむを得ない決断だった」】
昨日のギリシャ債務問題、そして今日のイラン核開発問題と、立て続けに世界が注目してきた交渉がなんとか“合意”に漕ぎつけました。

まずはギリシャ債務問題。
ギリシャのユーロ離脱、欧州の分裂、欧州・世界経済への波及・・・という事態は瀬戸際で回避されました。

合意の骨子は以下のように報じられています。
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・ギリシャは、15日までに税制などの改革を法制化
・ギリシャの国有資産を基金に移して売却して借金返済を加速
・金融支援の規模は820億~860億ユーロ。短期的には20日までに70億ユーロが必要
・ギリシャの債務についてユーロ圏各国は返済期間の延長などの協議に応じる用意はあるが、元本の棒引きはできない 【7月14日 朝日】
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****ギリシャ支援条件合意 EU側、改革の法制化要求 ユーロ離脱、ひとまず回避****
財政危機に陥ったギリシャへの支援を協議する欧州連合(EU)のユーロ圏首脳会議は13日、新たな支援交渉を始めることで原則合意した。

ただし、ギリシャが一部の財政改革を15日までに法制化することなどが条件となっている。

ギリシャがユーロから離脱し、世界経済が混乱する恐れはひとまず遠のいたが、当面、綱渡りの状態が続く。

首脳会議は声明文で「ギリシャ政府との信頼を再構築することが不可欠だ」と強調。新たな支援交渉を始める条件として、15日までに付加価値税(消費税に相当)や年金などの制度改革を法制化することを求めた。条件が満たされたと確認されたら、他の国は国内手続きに入る。

新たな支援総額は、820億ユーロ(約11兆1520億円)から860億ユーロと試算。債務の返済や銀行の資本増強のために、500億ユーロ相当の国有資産を国内に設立する基金に移し、売却・民営化することも合意された。電力公社や地方空港が候補になるとみられる。

一連の厳しい条件は、改革案を確実に実行するよう求めるドイツやフィンランドなどの声に応えたものだ。

ギリシャは一部で抵抗したものの、ユーロ離脱を避けるため、最終的にはほぼ全てをのまざるを得なかった。
チプラス首相は会合後、「財政の窒息状態から抜け出るためにはやむを得ない決断だった」と語った。

一方、声明文には「ギリシャの債務の持続可能性に重大な関心がある」との文言が盛り込まれた。ユーロ圏各国は、ギリシャの債務の返済期限の延長などを検討する準備があるとした。

交渉開始の一連の条件には、ギリシャ国内からすでに「屈辱的だ」などの声があがっており、国会審議は難航も予想される。15日の期限まで、今後も予断を許さない状況が続く。

首脳会議での合意を踏まえ、欧州中央銀行(ECB)は13日の緊急理事会で、ギリシャの中央銀行を通じて同国の銀行に供給する資金の上限を据え置いた。13日までの予定だった銀行の窓口閉鎖は、15日まで続く見通しになった。

すでに国際通貨基金(IMF)への返済が遅れているギリシャだが、20日にはECBが持つ35億ユーロの国債の償還期限を迎える。これが返せなければECBからの資金供給が止まる恐れがあり、13日のユーロ圏財務相会合は短期的な資金繰り策を協議する見通しだ。
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“ひとまず”合意に達し、山場を越えたとは言え、ギリシャ国内の法制化、ドイツ国内の議会承認など綱渡り状態が続き、今後も緊張した場面が繰り返されると思われます。

ドイツ・フランスの不協和音 頑ななドイツへの批判も
交渉では、国内の厳しいギリシャ不信感からギリシャの一時的ユーロ離脱にも言及するドイツに対し、ユーロの分裂をとにかく回避したいフランス・・・・という独仏両国の対応の違いが際立ちました。
これが、いわゆる“良い警官・悪い警官”の役割分担だったのかどうかはわかりませんが。

****独仏、財政観の違い鮮明****
ギリシャ側とひざ詰めの交渉に臨み、妥協に奔走した独仏首脳だが、その舞台裏では、欧州統合を進める車の両輪である両国の間に不協和音が生じていた。

「何を犠牲にしてでも合意しなければならないわけではない」。メルケル氏は12日、首脳会議前にそう語り、合意を期待するギリシャを突き放した。

だが、対照的にオランド氏は「合意のためにあらゆる努力をする」と寄り添い、こう強調した。「ユーロからの一時的離脱はありえない。離脱か、離脱しないかだ」

批判の矛先はドイツに向けられていた。EU関係者によると、首脳会議に先立つ財務相会合では、ショイブレ独財務相が「合意達成が無理なら、5年間の期限付きでギリシャにユーロ離脱を促すべきだ」と提案。サパン仏財務相と激論となったという。

ナチスドイツ台頭の土壌を生んだインフレの記憶から、財政規律をかたくなに重んじるドイツは、ルールに従わない国の退場も辞さない。それは、ギリシャに改革実行を迫る「脅し」でもあった。

一方、フランスは自国も構造的な財政赤字を指摘される中、財政基盤の改善に取り組む南欧諸国の代弁者を自任する。統合の流れの中で「脱落者」を出さないことを重要視した。

フランスの望み通り、首脳会議の合意文書からユーロ離脱への言及は消えた。一方、ドイツが強く主張したギリシャ国会での改革案法制化や、国有資産を基金に移して売却で得た利益を借金の返済などにあてる案は盛り込まれた。

フランスは「名」を取り、ドイツは「実」を取った。【7月14日 朝日】
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交渉のたたき台となったギリシャが9日に示した改革案は、離島向けの減税廃止や年金の削減、増税、軍事費の削減などで、かなりEU側の求めに応じたものでしたが、仏紙ルモンドによると、この改革案づくりにはフランスの高級官僚が関与し、フランス大統領府も承知していたとのことで、フランスのギリシャ支援の真剣さが窺われます。【7月11日 朝日より】

9日にギリシャが示した改革案が、意外にも国民投票結果を翻したように緊縮策を認める内容でしたので、交渉は合意に向けて進むようにも思えました。

しかし、ドイツ国内のギリシャ不信感は強く、メルケル首相も安易な妥協はできない状況でした。

****対ギリシャ譲歩戒め=対応次第で首相に反発も―ドイツ与党****
欧州連合(EU)の対ギリシャ金融支援交渉がヤマ場を迎える中、最大の支援国ドイツの与党からはギリシャへの安易な譲歩は認めないとの声が相次いでいる。世論も厳しく、メルケル首相は12日のEU首脳会議に向け慎重な対応が求められている。

10日の独メディアによると、与党キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)幹部のフリードリヒ議員は、ギリシャが出した財政改革案には国民投票で拒絶された内容も入っていると指摘。「ギリシャ政府は自国民かわれわれのどちらかをだましている」と疑いの目を向けた。

CDU議員は改革の意思のない国との話し合いはやめるべきだと強調。CSUのラムザウアー前交通相は「経済の観点からは自前の通貨で競争力を取り戻すのが唯一の道」と述べ、ギリシャはユーロ圏を離脱し、時間をかけて復帰を目指すのが筋だと突き放した。

メルケル首相はもともと「ユーロ圏の結束」を重んじ、ギリシャとの妥結にこぎ着けたい考え。ただ、合意内容次第では国内の反発を招きかねないことから、政府関係者は「首相は必要以上に前面に出ず、EUなど債権団の意向を尊重しているように見せたいのではないか」との見方を示した。【7月11日 時事】
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ショイブレ独財務相が主張したように、一時的にギリシャをユーロ圏から離脱させるという案もドイツ国内では検討されました。

こうしたドイツの厳しい姿勢に、ギリシャ国内世論が反発したのはもちろんですが、EU内においても批判が観られました。

****イタリア首相がドイツに「もうたくさんだ」…強硬姿勢に譲歩促す****
イタリアのレンツィ首相は、ギリシャ金融支援協議で強硬姿勢を崩さないドイツに関し「イタリアはギリシャのユーロ圏離脱を望まない。ドイツにはこう言いたい。もうたくさんだ」と述べ、合意に向けてドイツに譲歩を促した。イタリア紙の報道をロイター通信が12日報じた。

イタリアは、ギリシャ支援問題でフランスなどと共に比較的柔軟な姿勢を示している。ユーロ圏内の立場の相違を浮き彫りにした。

レンツィ氏は、ギリシャのチプラス首相が提出した財政再建策は「EU側が求めた内容に沿っている」と指摘し「われわれは絶対に合意しなければならない。ほぼ全て譲歩したパートナーに恥をかかせるのは考えられない」と語った。

またロイターによると、ルクセンブルクのアッセルボルン外相はドイツ紙に「もしドイツがギリシャのユーロ圏離脱を求めるなら、フランスと深い対立をもたらす。欧州にとって大惨事となる」と述べた。【7月12日 産経ニュース】
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また国際金融市場でも、“ドイツは生産性の低い南欧などを編入したおかげでユーロが実力よりも安くなり、輸出を増やすことで外貨を稼ぐことができた。ドイツは通貨統合を利用して、ドイツ国内や東欧に生産拠点を拡充できた。ためた外貨はドイツの銀行がギリシャなどの輸出先で投資・運用した。”【7月14日 産経】といったように、これまで通貨統合のメリットを最大に享受してきたドイツが一方的にギリシャを責める対応には疑問の声も出ていました。

トマ・ピケティ氏は、第一次、第二次世界大戦後にドイツの債務弁済が滞った史実を指摘し、「ドイツは対外債務を返済しない国の代表国で、他国を戒める立場にない」と批判しています。

瀬戸際の協議 「この部屋から出すわけにはいかない」「私は馬鹿じゃない」「チプラスを磔(はりつけ)にした」】
これまで真剣に改革に取り組んでこなかったとギリシャへの不信感を募らせるドイツ、国民投票結果を無視したようにも思える譲歩を示したギリシャ、ユーロの分裂を回避したいフランス・イタリア・・・・各国の思惑を背景に、交渉は筋書きのない真剣勝負のような非常にきわどい展開だったようです。

****ギリシャがユーロから離脱しかけた瞬間 マラソン会議の舞台裏、「この部屋から出すわけにはいかない****
ギリシャがユーロ圏離脱の瞬間に最も近づいたのは昨日(7月13日)の午前6時前後、ブリュッセルでちょうど夜が明けた頃のことだった。

ギリシャのアレクシス・チプラス首相とドイツのアンゲラ・メルケル首相は過酷な話し合いを14時間続けた末に、行き詰まったと考えた。

もう妥協の余地はなく、交渉を続ける理由も見当たらなかった。グレグジット(ギリシャのユーロ圏離脱)だけが唯一の現実的な選択肢だった。

2人が部屋のドアに向かって歩き始めた時、動いたのはドナルド・トゥスク欧州理事会議長だった。ユーロ圏の歴史に残る分裂の引き金が、疲労と苛立ちによって引かれるのを阻止しようとしたのだ。

「悪いが、この部屋から出すわけにはいかないんだ」。ポーランドの前首相はこう言った。

最後までもめたギリシャ民営化基金
もめていたのは、差し押さえたギリシャの国有資産を裏付けに設立する民営化ファンドの規模と目的だった。

メルケル氏は、500億ユーロの資産を売却して債務の返済原資にしたいと考えていた。
一方のチプラス氏は、ギリシャの国民所得の3分の1近い価値のある資産の支配権を差し出せというのは国家に対する侮辱だと見なした。

そこで、同氏はファンドの規模をもっと小さくする、そして売却代金はギリシャに再投資されるようにするという代案を出した。

いろいろな仕組みを1ダース近く、1時間以上かけて検討した結果、ようやく妥協点を見いだすことができた。

そしてこれが、欧州連合(EU)に最大の試練をもたらしてきた出口のなかなか見えない危機において、最大級の疲労と不安を伴った週末の交渉を終結に導くこととなった。

土曜の財務相会合も大荒れ
この前々日に当たる土曜日にはユーロ圏財務相会合が行われていた。9時間近くを議論しながら成果が得られなかったことから、財務相の半数以上は厳しい結論に達していた。残された選択肢の中ではギリシャのユーロ圏離脱こそが最も害が少ないかもしれない、という結論だ。

フランスのミシェル・サパン財政相は、ガス抜きをするために、とにかく「洗いざらい、お互い本当のことをぶちまけよう」と提案した。部屋にいた多くの出席者がこの案に飛びついた。

2人の出席者によれば、フィンランドのアレクサンデル・ストゥブ財務相は、ギリシャはもう半世紀も改革できずにいるではないかと激しい批判を展開した。

反論がなされ、それに対する反論もなされるうちに、ギリシャのユークリッド・ツァカロトス財務相は威圧され、おとなしくなってしまった。

議論が最高潮に達したのは、一時的なグリグジットという案を提唱したドイツのヴォルフガング・ショイブレ財務相が、欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ議長に怒った時だった。

「私は馬鹿じゃない」と声を荒げたショイブレ財務相
ショイブレ氏はある時点で、自分の能力が過小評価されていると感じ、ECB議長に向かって「(私は)馬鹿じゃないぞ」と声を荒げたのだ。

これを聞いたユーログループ(ユーロ圏財務相会合)のイェルン・デイセルブルム議長は限界を超えたと判断し、会議を翌朝まで休会とした。
「あれは本当に激しかった。暴力的ですらあった」。ある出席者はそう語った。

土曜日には完全な合意に至らなかったため、ユーログループは日曜日、ユーロ圏の首脳会議にバトンを手渡した。首脳たちの徹夜の会議の始まりだ。

複数の参加者の話によれば、時間が経ち、日曜から月曜へと日付が変わるにつれてグリグジットの可能性が高まっていくように思え、概ね不毛な交渉が6カ月続く間に生まれた、睡眠不足の政治家や外交官たちの間の亀裂がますます大きくなったという。

同席していたある高級官僚は、不誠実に行動しているのは、もはやギリシャの首相ではなくドイツの方に見えると思っていたそうだ。

また、チプラス氏がスロベニアのミロ・ツェラル首相のお説教に耐えなければならない場面があり、イタリアのマッテオ・レンツィ首相がこのお説教に反対したという。

オランド大統領は仲介に尽力
ギリシャをユーロ圏にとどめておくために戦ってきたフランスのフランソワ・オランド大統領は民営化基金に関する妥協をまとめるためにメルケル氏とチプラス氏をトゥスク氏のオフィスに招き入れた。

最後には成功したものの、この交渉は、長年欧州プロジェクトの核となってきた仏独関係を緊張させたように見えた。

「ドイツには、グレグジットを求めるかなり強い圧力があった。私はその解決策を拒んだ」。オランド氏は合意に達した後にこう語った。

特に民営化基金については、オランド氏はチプラス氏に後ろ盾を与え、これは「主権」の問題だと語った。「ギリシャに屈辱を与える以上にひどいことはなかった。ギリシャが求めていたのは施しではなく、ユーロ圏からの連帯だ」

オランド氏はまた、ギリシャによる一時的なユーロ圏離脱――ショイブレ氏がユーログループの提案に盛り込ませた物議を醸す構想――の可能性を最終文書から削除するよう主張した。

「磔(はりつけ)」にされたチプラス首相
結局、目をしょぼしょぼさせた外交官数人が、マラソン会議で誰が勝ったのか確信できないまま外に出てきた。だが、一番苦しんだのが誰かということについては、意見が一致していたようだ。

「彼らは中でチプラスを磔(はりつけ)にした」。サミットに参加したあるユーロ圏政府高官はこう言った。「磔だ」【7月14日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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ギリシャ再建は不透明
行き詰った議論、迫るタイムリミット・・・限界状態のなかで出された結論ではありますが、そもそも、緊縮策継続、債務削減は行わないという今回合意でギリシャが立ち直れるのか・・・疑問視する向きもあります。

****ギリシャ、近づく“悲劇の第三幕” 支援融資原則合意も…厳しい財政緊縮策****
欧州連合(EU)のユーロ圏首脳会議は、ギリシャへの第3次支援融資に向けて原則合意した。ギリシャのユーロ圏離脱がひとまず回避されたことを欧米の市場は好感したが、増税や年金カットなどの法制化が条件付けられており、財政緊縮策で経済と財政が悪化する歴史が三たび繰り返される恐れがあると専門家は指摘する。

約17時間にわたる徹夜の協議では、最大860億ユーロ(約11兆7000億円)規模とされる支援融資実施の条件として、ギリシャは15日までに、消費税にあたる付加価値税(VAT)の増税や年金の削減などの関連法案を成立させるほか、債務返済のため500億ユーロ規模の国有資産の譲渡を目指す。

2010年以降、EUは国際通貨基金(IMF)と共にギリシャ向け支援を2度行っており、今回の支援で3度目となるが、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの片岡剛士主任研究員は「目先の債務返済など短期的なメリットはあるが、ギリシャは過去2回の支援の際に緊縮財政を受け入れたが、4年間で名目国内総生産(GDP)は25%減り、財政健全化の道筋も立っていない。緊縮を進めればギリシャはさらに困窮して債務も返済できなくなるだろう」と指摘する。

合意では債務の減免も盛り込まれなかった。
「EU側は、債務を減免しないまま、税収でこつこつ債務を返済するという成功例のない方法をギリシャに求めている。根本的な解決策はユーロ圏が財政統合することだが、できないなら早急にユーロから離脱するしかない」と片岡氏。火種はくすぶり続けるようだ。【7月14日 夕刊フジ】
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