孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

サウジアラビア  ムハンマド皇太子の「剛腕」で進む「上からの」社会改革 保守派の反発も

2019-11-19 22:04:52 | 中東情勢

(首都リヤドで、ジャマイカのラッパー、ショーン・ポールの公演を楽しむ若者たち【11月18日 WSJ】

2年前には想像もできなかった光景です)

 

【ムハンマド皇太子の「剛腕」で進む改革 同時に活動家の逮捕も】

昨日はイランのガソリン値上げの話を取り上げたので、今日は、そのイランと中東覇権を争うサウジアラビアの話。

 

サウジアラビアの実力者・ムハンマド皇太子が、女性の自動車運転や観光ビザ発給を認めるなど自由化を方向での経済・社会改革を進めていることは周知のところです。

 

下記のような変化もその一環です。

 

****サウジアラビア、未婚の外国人カップル同室宿泊可能に****

サウジアラビア政府は6日、未婚の外国人カップルがホテルの同じ部屋に泊まることを許可すると発表した。超保守的なイスラム教国のサウジアラビアは、先月末に初めて外国人への観光ビザの発給を開始したばかり。

 

これまでサウジアラビアでは、ホテルに宿泊するカップルは婚姻関係にあることを証明しなければならなかった。だが観光当局はツイッター上の発表で、この手続きは「もはや観光客には不要」だとしている。

 

同国は9月27日に一般旅行者の受け入れを発表。それまでは巡礼目的のイスラム教徒と外国人労働者、最近になってスポーツ大会の観戦者や文化イベントの来場者にのみビザが発給されていた。観光ビザの発給には、石油依存型の経済を多様化する狙いがある。

 

一方、当局は9月28日、観光客が露出度の高い服装や公共の場での愛情表現などの「良俗」に反した行為をした場合は罰金刑の対象になると警告している。 【10月7日 AFP】

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外国人への観光ビザの発給・・・・結構な話ですが、そもそもこれまで観光目的での入国を認めていなかったことが、サウジアラビアの(イランにも勝る)特殊性を物語っています。

 

「砂漠しかないようなサウジにどれだけ観光客が行くのだろうか?」とも思っていたのですが、“観光査証(ビザ)の発給を開始してから10日間で、2万4000人の観光客を受け入れていたことが分かった”【10月9日 AFP】と、順調な滑り出しのようです。

 

****サウジ、女性の軍入隊を解禁へ****

超保守的なイスラム教国サウジアラビアは9日、女性の軍入隊を認める方針を明らかにした。

 

サウジは大掛かりな経済・社会改革に着手し、女性の権利向上を狙った措置を次々と打ち出しているが、人権団体からは女性の権利活動家を弾圧していると非難されている。

 

外務省は、「権利向上への新たな一歩」とツイッターに投稿。女性が上等兵や伍長、軍曹にもなれるようになると明らかにした。

 

サウジは昨年、女性の治安部隊への入隊を認めていた。

 

サウジの事実上の統治者ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、女性の権利拡大を目的とする改革を少ないながらも承認し、運転や、男性の「後見人」の許可なしでの国外旅行を解禁してきた。

 

しかし同時に、ルージャイ・ハスルール氏ら著名な女性権利活動家の逮捕も監督してきた。 【10月10日 AFP】***************

 

記事にもあるように、ムハンマド皇太子の「改革」は、あくまでも王室を中心とする現体制の枠組みのなかにおける“上からの改革”であり、たとえ同じ女性の権利拡大であっても、既存政治にたてつくような人権活動家の活動を認めるようなものではありません。

 

また、経済で進める改革「ビジョン2030」(方向性としては、限りある石油に依存することのない、ドバイのような金融立国を目指すものか)ともセットになったもので、王族や既得権階層にも抵抗が大きい改革を進めるうえで、自由化の方向での社会改革に好意的な若者層など国民の支持を集める狙いもあってのものでしょう。(もちろん、皇太子の自由化に関する見識を一定に反映したものではあるでしょうが)

 

【保守派の反発・抵抗も 改革の今後は皇太子の政治的立場次第】

もちろん、女性の権利拡大といったことでは、保守派には強い抵抗感もあるようです。

 

****フェミニズムを「過激思想」と見なす動画が物議、サウジが事態収拾図る****

サウジアラビアの国家保安庁は先週末にフェミニズムと同性愛、無神論を過激思想と見なすアニメーション動画をツイッターに投稿したが、物議を醸したことを受けて動画を削除し、事態の収拾を図っている。

 

折しもサウジでは、同国の実質的な指導者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子が海外観光客に初めて門戸を開き、同国の超保守的なイメージを刷新しようとしている。

 

人権活動家らは動画を非難。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは「極めて危険」で「同国における表現の自由、生命、自由、安全に対する権利に深刻な影響を及ぼす」ものと批判した。

 

国家保安庁は12日夜、国営サウジ通信を通じて声明を出し、問題の動画には「多くの間違い」が含まれているとした上で、動画に関与した人物らに対して正式な捜査を実施すると発表。また、フェミニストらが収監され、むち打ち刑を科されるとした現地紙アルワタンの報道を否定した。

 

サウジの人権委員会は別の声明で、「フェミニズムは違法ではない」「女性の権利を最重要視」していると強調した。

 

いずれの声明も、同性愛と無神論には言及していない。イスラム教国であるサウジでは、同性愛と無神論は違法で、死刑に相当する罪とされている。 【11月14日 AFP】

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王族や既得権階層における皇太子の改革への抵抗ということで言えば、上記のような自由化の方向自体への反発に加え、カショギ氏殺害や汚職容疑がかけられた王族を含む富豪たちをホテルに大量拘束した件に見られるように、独善的で残忍、性急、強引な皇太子の性格・進め方への反発も大きいように思われます。

 

そうした状況で、解禁されたミュージカル公演の舞台で、出演者が刺されるという事件が。

 

****ミュージカル公演で出演者3人刺される、エンタメ解禁のサウジ****

サウジアラビアの首都リヤドで11日に行われたミュージカル公演で、出演者3人がステージ上に乱入したイエメン人の男に刺されて負傷した。男はその場で身柄を確保された。警察が発表した。

 

同国でのエンターテインメント解禁後、このような事件が起きたのは初めて。

 

 事件があったのはリヤドのキングアブドラパークで、国営サウジ通信が伝えた警察発表によると、外国のミュージカル劇団のメンバーとみられる男性2人と女性1人が被害に遭った。

 

ステージに上がった男が出演者らを襲撃する映像を放映したサウジ国営テレビ「アルイフバリヤ」は、襲われた3人の容体は安定していると伝えた。

 

警察は、ナイフを持っていたサウジアラビア在住のイエメン人の男を拘束し、事件で使われたナイフを押収したと発表した。被害者の国籍や犯行の動機などは明らかにしていない。

 

中東の経済大国サウジアラビアでは現在、実質的な指導者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子がポスト石油時代を見据え、経済改革「ビジョン2030」を推進している。

 

これに伴い、超保守的な国家イメージを変革するために、これまで禁じられてきたコンサート、映画などのエンターテインメントや女性の運転などが解禁されている。一方でこうした近代化政策が、近年権力が縮小されている宗教警察など超保守派の反感を買っている。 【11月12日】AFPBB News

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ムハンマド皇太子の進める近代化政策に対する超保守派の反発・・・・ということでしょうか。

そこらの事情をもう少し詳しく見ると、下記のようにも。

 

****サウジ社会変革、娯楽切り札に政治弾圧の闇も****

サウジアラビアの首都リヤド。ステージ前はぶつかり合いながら踊る群衆で埋め尽くされていた。ジャマイカのラッパー、ショーン・ポールが歌うのに合わせ、若い男女がiPhone(アイフォーン)をかざして体を揺らしながら口ずさんだ。「君の体に恋してる・・・シーツからその香りがする」

 

白いTシャツ姿で緑の国旗をスカーフのように首に巻いたサウジ人の若者が、隣で踊っていた観光客の女性とハイファイブをした。「ようこそ、新たなサウジアラビアへ!」。欧州から来たこの女性は、全身を覆う伝統服のアバヤを着ていなかった。

 

王位を継承するサウド家は政治的な締め付けを強めているが、社会の自由化は加速させている。イスラム教発祥の地であり禁欲的なサウジ王国で、日常生活の多くの面に開放感がもたらされている。

 

わずか2年前まで、ポップミュージックのコンサートはなかった。ましてや、女性が髪を隠すことなく、群衆の中で男性と踊れるイベントなどあり得なかった。

 

サウジ人女性は運転を禁じられ、レストランやホテルのフロントデスク、空港入管局で働くことも許されなかった。オンラインの査証(ビザ)発給が先月開始されるまで、欧米の観光客もいなかった。

 

サウジ諮問評議会のホダ・アブドゥルラフマン・アルヘライシ議員はこうした変化について、「これほど広く早く進むとは思ってもみなかった」と語る。

 

言うまでもなく、新生サウジは闇に包まれた一面も持つ。反体制派ジャーナリストのジャマル・カショギ氏は昨年、トルコの首都イスタンブールのサウジ領事館で殺害された。

 

米中央情報局(CIA)はムハンマド・ビン・サルマン皇太子の指示だったとの判断を示している。殺害事件を受け、反体制派を一掃しようとする皇太子の野望に世界の目が向けられ、皇太子の改革者としてのイメージは傷ついた。

 

ムハンマド皇太子は昨年、サウジ人女性の運転を許可する歴史的な決断を下した。その一方で政府は、まさにそうした女性の権利を訴えかけてきた活動家たちを投獄している。

 

米司法省は先ごろ、ムハンマド皇太子の批判者にスパイ行為を働くためツイッターのデータを違法に活用したとして、3人を起訴した。

 

かつて有力だったイスラム聖職者を含め、こうした批判者の多くは投獄され、一部は死刑囚となっている。国内の社会改革に対し、保守派の抵抗がほとんど見当たらない理由の一端はここにある。

 

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のマダウィ・アルラシード客員教授は、「批判の声を上げる者は全て刑務所行きになった。刑務所に入っていない者たちも、恐怖にかられて沈黙している」と指摘。

 

「公の場で議論や批判が聞かれないからといって、批判がないわけではない」と述べた。リヤドのエンターテインメント会場では今月、初めて襲撃事件が発生。イエメン人の男がナイフを持ってステージに駆け上がり、上演中の3人に軽傷を負わせた。

 

サウジが進む未来は、長らく同国を先達とみなしてきた中東諸国やイスラム世界にとって極めて重要だ。サウジが成功を収めれば、イスラム過激派の訴求力が弱まるかもしれない。政治はともかく、社会にさらなる寛容さが広がる可能性がある。

 

失敗すれば、1970年代のイランで改革に取り組んだ王制の崩壊後に起きたような、激しい反動が起こるかもしれない。

 

サウジの命運は、ムハンマド皇太子の野心的な計画に大きく左右される。皇太子は石油依存型経済の改革や女性の労働市場参入、娯楽・観光産業の創出による成長促進を目指している。

 

「ムハンマド皇太子が若い世代の支持を得るため、娯楽を切り札にしたのは賢明だった。だが政治的なイスラム勢力はサウジで死んだわけではない、冬眠状態だ」とパリ政治学院のステファーヌ・ラクロワ氏は指摘する。「社会経済情勢が一段と厳しくなれば、論争が再燃する可能性は十分ある」

 

サウジの人々はつい最近まで、国内の倦怠(けんたい)感を逃れたければ外国を訪れるほかなかった。サウジ政府が新設した総合娯楽局のファイサル・バファラト局長は、「サウジ人歌手のコンサートに行きたければ、バーレーンやドバイ、エジプトなどに出掛けなければならなかった。奇妙な状況だった。今では潮流が逆転している。人々がここへやって来るようになった」と語った。

 

当局にとって目玉のプロジェクトは、2カ月にわたり開催中の祭典「リヤド・シーズン」だ。音楽祭から演劇祭、ファッションショー、期間限定レストラン、スポーツ大会、遊園地、さらにはサウジ初の屋外映画鑑賞会などが行われる。

 

バファラト局長によると、政府は祭典に500万人が集まると予想していた。だが10月11日の幕開けから3週間とたたないうちに、それを超える訪問者数を達成した。

 

同局長は「イベントはほとんど売り切れた」とし、「娯楽事業の投資収益率はお墨付きだということを、民間部門に知らしめる形になった」と言う。

 

国内リベラル派の多くによれば、遠い昔に変革の機は熟していた。現状が示すのは、サウジの人々が一般的な固定観念ほど超保守的ではないということだ。

 

「社会は40年前に用意が調っていた。地域社会は準備ができている、先へ進もう、とわれわれは何年も訴えていた。だが政府が聞き入れなかった」と語るのは、政府のテレビニュース番組を運営するためドバイからリヤドへ戻ったファリス・ビン・ヒザム氏だ。「今はどうか。もともと変革を拒んでいた人たちが、変化を楽しんでいる」【11月18日 WSJ】

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サウジアラビアはイラン以上に特殊な社会・・・という固定観念を捨てる必要があるのかも。

ただ、サウジの改革は良くも悪くもムハンマド皇太子の「剛腕」次第といった面も。

 

何かと評判の悪い皇太子が権力闘争に敗れて政治的に失脚すれば、改革の流れも止まります。

「もう少し様子を見てみよう」といったところです。

 

 

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イラン  ガソリン価格引き上げで抗議デモ

2019-11-18 22:19:01 | イラン

(イランの首都テヘランでは16日、ガソリン価格の値上げに抗議した市民らが幹線道路に自動車を停車して通行できないようにした=ロイター【11月17日 朝日】)

 

【「麻薬」のように抜け出すのが困難な補助金政策】

アメリカによる経済制裁で市民生活が困窮するイランで、ガソリン価格値上げ(補助金削減)が実施され、市民からの激しい抵抗にあっています。

 

****イラン、ガソリン価格が3倍に 全土で反政府デモ****

イランで15日夜以降、ガソリン価格の値上げに抗議する反政府デモが全土で続いている。政府が15日にガソリン価格を最大約3倍に値上げしたためだ。

 

イランメディアによると、デモ参加者らは反政府のスローガンを叫び、高速道路を封鎖するなどしており、少なくとも1人が死亡した。

 

デモはイラン全31州のうち20州以上で起きた。首都テヘランでは市民が道路を封鎖するなどした。他の都市では暴徒化したデモ隊の一部が、パトカーや銀行などに火をつけたとの情報もある。

 

南東部ケルマン州シルジャンではデモに参加した市民1人が死亡したが、治安部隊による銃撃を受けたのかどうかなどは分かっていない。

 

政府は、全土で携帯電話によるインターネットの接続を大幅に制限するなどして対応にあたっている模様だが、事態を収拾できるかは不明だ。

 

デモの引き金になったガソリン価格は、15日未明に政府が値上げを発表した。産油国のイランでは、政府が補助金を出してガソリン価格を統制しており、世界有数の安さに抑えられている。

 

これまでは1リットル1万リアル(実勢レートで約9円)だったが、15日以降は1カ月間に60リットルまでは1万5千リアル(約14円)に、それ以上を購入した場合は3万リアル(約28円)に値上がりした。

 

2015年のイラン核合意から昨年に離脱した米国による制裁の影響で、イランの経済は低迷。物価高や通貨の下落が起きたため、市民生活を直撃している。

 

今回の値上げについて政府は「値上げ分の増収は、中間層や貧困層への補助金に回される」と説明しているが、市民からは、政府の経済政策の失敗とエリート層の腐敗が経済的苦境を招いているとの批判が強く、ガソリン価格の値上げが火に油を注ぐ結果となった。

 

ガソリン価格が上昇すると輸送費が増えるため、多くの商品が値上がりする。市民はガソリン価格の値上げには神経をとがらせており、07年には暴動が起きた。17年末にも全土で物価高に端を発した反政府デモが発生。治安部隊との衝突などで25人が死亡した。【11月17日 朝日】

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常識的には「1リットルが9円? そりゃ無理だろう・・・」という感もありますが、イラン市民にとっては生活の前提となっています。

 

上記記事差後に“市民はガソリン価格の値上げには神経をとがらせており・・・”とありますが、神経をとがらせているのは政府側も同様、あるいは市民以上でしょう。

 

記事にもあるように、同様騒動は2007年にもありました。

 

当時、このブログを書き始めた間もない頃でで、その時の印象が強く残っています。

 

イラン ガソリン輸入と石打刑”【2007年7月17日】

 

当時のブログにも書いたように、ホメイニ師以来の神権政治とか、アフマディネジャド大統領(当時)の強権支配とは言っても、市民の反発に非常に気を使う必要があるという点では、日本や欧米の民主主義政治とそれほど大きな差はないようだ・・・というのが、そのときの印象です。

 

以来、アメリカはイランのことを「悪の枢軸」「ならず者国家」と激しく罵っていますが、もちろんイラン固有の特殊性は多々あるものの、上記のように民意を無視できない社会であるという基本的な点では、言うほどの差異はないのでは・・・と考えています。

 

ガソリンなど燃料に対する補助金、食糧に対する補助金は多くの国が政権維持のための貧困層対策として行っていますが、このような補助金政策は麻薬のような性格があります。

 

いったん導入すると、次第に国家財政を圧迫して国家の体力を奪っていきますが、補助金の削減・廃止は国民の激しい反発を招き、場合によっては政権の命取りにもなります。それは、世間で独裁政治とか強権支配とか呼ばれている体制にあっても同様です。

 

そのため、イランを含めて補助金削減・燃料・食糧価格引き上げを行おうとする政権は、政治生命をかけた取り組みともなりますし、そのため、なかなかそこから抜け出せず、事態はますます悪化するということにもなります。

 

今回のイランに話を戻すと、政権側はなんとかこの値上げを乗り切ろうとの構えです。

 

****イラン大統領、社会の「不安定」容認しないと警告 抗議デモ受け****

ガソリンの値上げに対する抗議デモが起きているイランで、同国のハッサン・ロウハニ大統領は17日、イランは社会の「不安定」を容認しないと警告した。2日間の抗議デモでは2人が死亡、数十人が当局により拘束され、インターネットへのアクセスも制限された。

 

ロウハニ師は「抗議を行うのは国民の権利だ。だが、抗議行動は暴動とは違う。われわれは社会の不安定を容認すべきではない」と明言。抗議デモの発端となったガソリンの値上げを擁護した。イラン政府は急激な景気悪化の中、ガソリンの値上げを社会福祉費用に充てる計画だとしている。(中略)

 

抗議デモでは、道路が封鎖されたり公共物が放火されたりし、複数の負傷者が出て、数十人が拘束された。

 

デモ発生の翌日にはインターネットへの接続が制限された。インターネット監視団体ネットブロックスの16日のツイッター投稿によると、「イランでは現在、インターネットがほぼ全土でシャットダウンされている」という。 11月18日 AFP】AFPBB News

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最高指導者ハメネイ師もロウハニ大統領の施策を支持しています。

 

****イラン最高指導者がガソリン値上げ支持、抗議デモは敵対者や外国主導と批判****

イラン最高指導者のハメネイ師は17日、政府のガソリン価格引き上げを支持する姿勢を表明し、値上げに対して全国的な抗議行動が起きていることについては、イランの敵対者や外国勢力が主導していると批判した。

 

ハメネイ師は国営テレビの演説で「一部の人々が値上げの決定に不安を抱いているのは疑いない。だが破壊行為や放火はわが国民ではなく、フーリガンの仕業だ。反革命者とイランの敵はいつも破壊や安全保障の侵害をこれまで後押ししてきたし、今も続けている」と語った。

 

イランの複数の通信社やソーシャルメディアによると、政府がガソリン価格を引き上げた翌日の16日に、首都テヘランや他の多くの都市でデモ参加者と警察や治安部隊が衝突。デモ参加者は政府トップの辞任も求めた。

 

約1000人が拘束され、100カ所の銀行が放火される事態になった。当局者によると南東部の都市では15日に死者も発生した。(後略)【11月18日 ロイター】

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【穏健派と保守強硬派がせめぎあうイラン政治】

しかし、イラン政治が一丸となってこの難局を乗り切ろうとしている・・・という訳では決してないようです。

 

政権が政治生命を賭けた政策にうって出るとき(そうせざるを得ないほど追い詰められているとき)は、反対派にとって格好の狙い時となるのは、日本を含めて政治世界における共通現象です。

 

特にイランの場合は、ロウハニ大統領に代表される穏健派政権に対し、保守強硬派は「核合意で譲歩したにもかかわらず、アメリカは制裁を解除せず、経済はますます苦しくなっている」と批判を強めており、その政治バランスが微妙な状況にあります。

 

ガソリン価格値上げは5月段階でもイラン国内で報じられて騒動になっており、このときの報道は保守強硬派側の政権揺さぶりとも見られています。

 

*****「ガソリン値上げ」報道、誤報だった イラン各地で混乱****

イランで5月初旬、反米保守強硬派の有力通信2社が特ダネとしてガソリン価格の値上げを報道したことで、市民がガソリンスタンドに殺到し、各地で混乱が起きた。

 

政府はすぐさま報道を否定。司法当局が両通信社の幹部を事情聴取するなどして事態の収拾を図ったが、騒動の背景には国内の政治対立があるのではないかとみられている。

 

イランではガソリン代に政府の補助金が充てられており、ガソリンが1リットル1万リアル(実勢レートで約7円)と、ベネズエラやスーダンと並び、世界有数の安さを誇る。

 

ガソリン価格が上昇すると、輸送費もかさみ、物価上昇に直結するため、市民はガソリンの値上げには神経をとがらせている。2007年には値上げに端を発して首都テヘランで暴動が起きたこともある。


合意から離脱したトランプ米政権がイランへの制裁を再開して以来、物価高や現地通貨の価値急落などで経済は低迷。

 

米国がイラン産原油の完全禁輸措置に踏み切る矢先の報道とあって、国家歳入の約6割を占めるとされる原油収入の激減が予測される中、政府が予算不足からガソリンへの補助金を削減するのではないかとの観測が強まっていた時期でもあった。

 

各地での混乱にザンガネ石油相は「事実無根だ」と値上げを否定。市民が過敏に値上げ報道に反応したため、政府が急きょ方針転換をしたのではないかとの見方もでている。

 

また、背景には保守穏健派のロハニ政権と、反米を基調とする保守強硬派との政治的対立があったのではないかともみられている。

 

というのも、特ダネを報じたのがイランの精鋭部隊・革命防衛隊傘下のタスニム通信とファルス通信だったからだ。革命防衛隊は最高指導者ハメネイ師の直轄で、反米を基調とする保守強硬派の牙城(がじょう)だ。このため、両通信社が、対立する保守穏健派のロハニ政権の「失点」となりかねない上げをいち早く報じたのではないかとの見方もある。

 

さらに、国内では「フェイクニュースだった」との批判が高まり、タスニム通信によると、国内治安を統括する司法当局が両通信社の幹部らを事情聴取。すると、幹部らは「石油省の下部組織の人物から聞いた」と個人名を暴露した。この人物は、メディアに情報を伝えるように命じた石油省幹部とともに逮捕され、その後保釈された。今後在宅で訴追される可能性がある。

 

イランには42の通信社と353の新聞社があるが、通信社や新聞は、政府や各省庁、司法府といった組織の傘下にある。各組織の利益を代表しつつ特ダネ競争を続けている。【5月14日 朝日】

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“火のないところに・・・”で、このときも政府側は実際に値上げを検討したものの、保守強硬派系メディアのリークによって慌てて「否定」に転じたのでは・・・・という推測がなされています。

 

今回の抗議デモについても、その背後に特定の政治勢力が・・・といったことがあっても不思議ではありません。

実際のところはよくわかりませんが。

 

【相当に水増しされた「大油田」発見発表】

上記は保守強硬派の情報戦略ですが、政権側の石油に関する世論操作の試みも。

 

先日、イランで「大油田」が発見されたとの報道がありました。

 

****イランで「大油田」発見、原発も公開 米欧牽制が狙いか****

イラン政府は10日、南西部フゼスタン州で大規模油田が見つかったと発表するとともに、南部ブシェール原子力発電所の2号機の建設現場を現地メディアなどに公開した。

 

核合意から離脱した米国による制裁が続くなか、国内で政権の求心力を保つとともに、核の平和利用を国外にアピールする狙いもありそうだ。

 

ロハニ大統領は10日、油田発見を公表した際、「政府から国民への心ばかりの贈り物だ。原油が増えれば歳入も増える」と強調し、「米国の制裁にもかかわらず、大油田を発見できた」と誇った。

 

11日にはザンガネ石油相も会見し、新たに見つかった油田の推定埋蔵量は220億バレルに上り、既に発見済みだった310億バレルと合わせて、530億バレルになるとの見通しを示した。

 

英石油大手BPの統計によると、これまでに判明していたイランの原油確認埋蔵量は1556億バレル(2018年末)で、世界4位とされている。

 

ただ、イランは、トランプ米政権が核合意から離脱した影響で今年5月から自国産原油の全面禁輸を強いられ、経済苦境が続いている。

 

イランはトランプ政権に対抗し、核合意で定められた濃縮ウランの貯蔵量を超過する措置などを段階的に実施。一方で、核合意の維持をめざす英仏独に原油取引再開などを求めている。

 

10日に公開された原発は、1号機がロシアの管理下で稼働しており、2号機の建設もロシアの支援を受ける。イラン政府は「使用済み燃料もロシアに戻され、完全に平和的利用だ」と強調しており、ロシアとの協力関係をちらつかせて、米国や英仏独を牽制(けんせい)するねらいもありそうだ。

 

イランでは、2012年から同国初の商業用原発であるブシェール原発の1号機(出力100万キロワット)を稼働。イランメディアによると、10日に公開された建設中の2号機は23年の完成をめざしており、3号機の建設も予定されているという。【11月11日 朝日】

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ただ、この「大油田」発見の発表は、フェイクとは言わないまでも、相当に“見かけ倒し”のようだとの指摘もあります。

 

****イラン、「大油田」発見は見かけ倒し 実際の採掘量は?****

イランのハッサン・ロウハニ大統領は10日、国営石油会社が埋蔵量530億バレルの油田を発見したと発表した。文字通りに受け取れば、桁外れの大油田が見つかったということになる。(中略)


これほど大規模な油田の発見は、イランの経済見通しや世界の原油埋蔵量にとって大きな朗報のように聞こえる。事実、ロウハニ大統領は演説の中で、今回の発見をまさにそのように位置づけていた。

 

イランは米国の経済制裁によって原油輸出が大幅に落ち込み、経済が深刻な打撃を受けているが、大統領は発表を機に、それでも制裁に屈しない姿勢を強調したわけだ。

ところがその後、ロウハニ大統領の発表内容は、見かけ倒しに近いものだったことが明らかになった。それは、経済的な苦難が続くなかで国民の支持を集めるために、巧妙に演出されたものだった。

発表から数日後、ビージャンナムダル・ザンギャネ石油相が発見された油田について詳しい説明を行った。それによると、新油田により増えるイランの原油埋蔵量は、実際は220億バレルにとどまるという。それでも確かに相当な量ではあるが、大統領が誇示した530億バレルに比べると、ずいぶんかけ離れた数字だ。

さらに、新油田の原油回収率は10%にとどまるため、実際の採掘量はたった22億バレルほどになる見通しだという。API比重が20余りとかなり重質の油で、ベネズエラ産原油と同じように採掘が難しく、そのコストも高いからだ。

 

イランの現在の状況からすると、この油田から実際に原油が採掘される可能性は低く、市場に出回る可能性はさらに低いと言わざるを得ない。

ロウハニ大統領は巧みな宣伝をし、実際、国際的なメディアの注目を集めた。だが、今回の油田発見によってイランの運命、富が変わることはなさそうだ。 【11月15日 Forbes】

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この種の期待感を煽るための情報操作は各国政府が常々やっているところで、特に頻繁にやっているのが「中国が農産物を大規模に購入」といった類を連発しているアメリカ・トランプ大統領でしょう。

 

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インド  大気汚染、性暴力、女児殺害、カースト制、宗教対立・・・悩める大国

2019-11-17 23:20:32 | 南アジア(インド)

(濃いスモッグに覆われたインド首都ニューデリー(2019年11月3日撮影)【11月4日 AFP】)

 

【世界最悪レベルの大気汚染が野焼き等で更に悪化 深刻な健康被害も】

インドの大気汚染が中国以上に深刻なのは周知のところですが、このところ連日のように状況悪化のニュースが報じられています。

 

インド首都大気汚染“最悪”に 野焼き、花火で「深刻」”【10月28日 共同】

花火というのは、ヒンズー教の大祭の関係ですが、“PTI通信によると、大気中の微小粒子状物質「PM2.5」は27日、一部で1立方メートル当たり400マイクログラムを超えた。日本の環境基準は1日の平均値を同35マイクログラム以下と定めている。”とも。

 

****大気汚染で全校休校=子供にマスク500万枚配布も―インド首都****

(中略)インドの首都ニューデリーの行政当局は1日、大気汚染悪化を理由に5日まで全ての学校を休校にすると発表した。

 

また、微小粒子状物質PM2.5を遮断する高機能マスク500万枚を子供に配布。

PM2.5の元になる粉じんの発生を防ぐため、首都とその周辺で5日まで建設工事が禁止される。(後略)【11月1日 時事】

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****車のナンバーで通行規制、タージマハルに「空気清浄車」 大気汚染深刻なインド****

大気汚染が近年で最悪レベルになっているインドの首都ニューデリーで4日、当局は車のナンバーによる通行規制を実施した。ナンバープレートの末尾の数字が奇数か偶数かで、1日ごとに市内を通行できる車の数を制限する。

 

人口2000万人規模の巨大都市ニューデリーでは、大気汚染の水準が中国・北京の3倍以上に達している。ニューデリーから南に250キロ離れた17世紀の象徴的な大理石の墓、タージマハル付近には、空気清浄機を搭載した車を停車させ、周辺の大気汚染の改善を試みた。

 

病院には呼吸器の異常を訴える人が殺到。空港では3日、視界の悪化により37便が行き先の変更を余儀なくされた。

 

新規制の導入に伴い、市内各所の交差点では600グループ以上の警官が動員された。規制に違反した場合、運転手は4000ルピー(約6000円)の罰金を科される。

 

しかしニューデリーを走る700万台のバイクとスクーター、公共交通機関、女性のみが乗車している車は車両規制の対象外になっており、大気汚染改善の効果はないとの批判が噴出している。 【翻訳編集】AFPBB News

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“女性のみが乗車している車は・・・”というのは、インドでは性暴力が多発しており、女性が安全に公共機関を利用できないというインド社会のもう一つの問題の表れです。

 

上記記事にも11月5日までの「学校閉鎖」があげられていますが、その後も断続的に「学校閉鎖」に追い込まれているようです。

 

****ニューデリーの大気汚染 学校閉鎖など市民生活への影響拡大****

大気汚染が深刻な問題になっているインドでは14日午前、首都ニューデリーで、大気汚染物質のPM2.5が一時、基準の20倍になり、15日まで学校が閉鎖されるなど、市民生活に影響が広がっています。

 

大気汚染が世界最悪レベルとなっているインドでは、この時期、野焼きなどの影響で大気汚染が一層、悪化します。

現地にあるアメリカ大使館によりますと、ニューデリーでは14日午前、大気汚染物質のPM2.5がWHO=世界保健機関の基準の20倍に達し、空は灰色に曇って数十メートル先を走る車が、はっきりとは見えなくなるなど視界も悪くなりました。

このためニューデリーの当局が、15日まで学校を閉鎖することを決めるなど影響が出ています。

生徒の1人は「呼吸をするのもつらいほどで、外出すると不快に感じます。学校が閉鎖されたことで学業に支障が出ます」と話していました。

ニューデリーでは大気汚染を改善しようと、今月4日から15日まで車のナンバーによって通行を規制する対策がとられていますが、効果はあまりあがっていません。【11月14日 NHK】

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こうしたインドの状況に、汚染が改善した中国が「中印両国の汚染対策能力の違いを示しているようだ」とも。

 

****インドで大気汚染が深刻化、当局は緊急事態を宣言****

2019年11月15日、インドの首都ニューデリーなどで大気汚染が深刻化している。汚染レベルは最悪とされ、インド当局は公衆衛生上の緊急事態を宣言した。中国紙は米紙の記事を引用し、「北京の大気汚染は改善されてきているのに、ニューデリーは一向に改善されていない」と報じた。

(中略)大気汚染の状態を示す指数は最高値の999を突破。これは一日に紙巻たばこ40〜50本吸うのに匹敵する。指数が400を超えると、呼吸器疾患がある人に甚大な危険をもたらすほか、 健康な肺にも悪影響が及ぶとされる。

 

(中略)今年6月のインド政府の調査によると、同国では毎年100万人が大気汚染によって死亡しているが、うち5歳未満の子どもが10万人以上を占めている。

 

AFP通信は専門医の話として「子どもは肺が小さいため有毒な大気を大人の2倍の速度で吸い込んでおり、これが呼吸器系疾患や脳の発達を妨げる要因となっている」と報道。科学誌の「大気汚染は喫煙と同じレベルの悪影響を胎児に及ぼす」との研究も紹介した。

インドの状況について、中国共産党系の環球時報は中国の大気汚染と比較した米紙ワシントン・ポストの記事に言及。「数年前まで中国とインドの首都は同じような大気汚染レベルであったが、今では北京の大気汚染は改善し続けているのに対し、デリーはいまだに危険な毒性を持ったままだ」と指摘した。

環球時報は「中国の首都の大気の質の改善は目を見張るものがある」とも強調。「スイスのIQAir AirVisualによると、北京は今年、世界で最も大気汚染が深刻な200都市のリストから外れる見通しで、PM2.5の濃度は2008年に記録を取り始めてから最も低い水準になった」と述べ、「北京とデリーの明確な差は中印両国の汚染対策能力の違いを示しているようだ」と分析した。【11月17日 レコードチャイナ】

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まあ、中国に揶揄されても致し方ないインドの現状です。

“最高値の999を突破。これは一日に紙巻たばこ40〜50本吸うのに匹敵”というのは、長期に及ぶ深刻な健康被害をもたらします。

 

【女児殺害が横行】

上記大気汚染以外にも、インドからは連日深刻な問題が報じられています。

 

****インド警察、家族が生き埋めにしようとした女の赤ちゃん救出****

インドの警察当局は1日、家族が生き埋めにしようとしていた赤ちゃんを救出したと発表した。同国では2週間前にも、墓から陶製のつぼに入った女の赤ちゃんが発見され、後に「奇跡的」な生存が大々的に報じられたばかり。

 

(中略)インドでは、女性が結婚する際に持参金を支払うために経済的な負担がかかり、女児の殺害が横行している。 【11月2日 AFP】

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上記事件は、単発的な嬰児遺棄事件ではなく、女児の誕生が望まれておらず、女児の殺害が横行しているというインド社会の抱える問題のひとつの表れです。

 

【カースト絡みの名誉殺人 仏教に大挙して改宗する不可触民】

インドの社会問題ということでは避けて通れないのがカースト制の問題。

 

****異なるカーストのインド人夫婦、親族が石で殺害 「名誉殺人」か****

インド南部カルナタカ州で、異なるカーストの男性と結婚し、罰を恐れて実家から逃げ出していた女性が、家族に会うために夫と共に地元の村に帰ったところ、自らの親族らに石を投げ付けられて2人とも死亡した。警察が7日、明らかにした。

 

同じ村の出身で、いずれも29歳だった2人は、家族の反対を押し切って3年前に結婚。同州ベンガルールなどに転居し、2児をもうけていた。2人は先月、家族に会うため帰郷していた。

 

地元警察官がAFPに明かしたところによると、「村人らが6日、夫婦を見つけ、女性側の男のきょうだいに知らせた。男は暴徒を集めて2人を襲い、石で殺害した」という。

(中略)インドの地方部で横行するいわゆる「名誉殺人」とみられている。

名誉殺人は、厳格なカースト制度において一家の名誉を守るためとして、近親者や村の長老らが手を下すことが多い。

 

国連の統計によると、世界中で毎年5000件発生する名誉殺人事件のうち、1000件がインド国内で発生しているとされる。

 

同国の最高裁は2011年、名誉殺人で有罪とされた者には死刑を適用すべきとの判断を示している。 【11月8日 AFP】

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カースト制などの身分格差では、最底辺に位置付けられているのが枠外に置かれた不可触民と呼ばれる人々。

その数はインド人口13億人の2割とも。

 

その不可触民が今、差別を否定する仏教に大挙して改宗しており、その運動の中心にいるのが日本人僧侶・佐々井秀嶺氏だそうで。知りませんでした。

 

****インド仏教徒1億5000万人の頂点に立つ“日本人僧” 佐々井秀嶺84歳とは一体何者か?****

ヒンドゥー教徒の国・インドで今、アウトカーストである不可触民を中心に、爆発的に仏教徒が増えている。

半世紀前にわずか数十万人だった信者は今や1億5000万人となった。

 

その仏教復興の原動力となったのは、インド仏教の頂点に立つ一人の日本人僧、佐々井秀嶺氏だ。彼は半世紀前にインドに渡り、貧しい人々を助けてきた。

 

インドでは絶大な人気を誇る佐々井氏だが、日本ではほとんど知られていない。いったいどんな人物なのか。(中略)

 

「歯向かえば殺され、残飯しか与えられない」不可触民

しかし佐々井氏は、インタビューがはじまると顔つきが変わり、講談師のように力を込めインドの現状を語り始めた。

 

「お釈迦様が生まれたのはご存知の通りインドです。しかし現在、13億人のインド人口のほとんどはヒンドゥー教徒だ。インド仏教は他の宗教の攻撃に遭うなどして13世紀ごろまでには消滅してしまった。しかし、今、仏教徒が爆発的に増えておる。改宗している多くは、人口の2割いると言われる不可触民と呼ばれる人々です」

 

ヒンドゥー教とインドの身分制度であるカースト制度は深く結びついており、大別して僧侶、王族や戦士、商人、奴隷と4つの階層に分かれている。その奴隷のカーストにさえ入れないアウトカーストが不可触民である。

 

佐々井氏が半世紀前に渡印した時、不可触民たちは井戸の水すら汲むことを禁じられ泥水をすすっていた。仕事も死体処理やきつい農作業しか選ぶことができず、高カーストから理不尽な理由で殺されても家族は訴えることもできなかったという。

 

それでも何かにすがらずには生きていけないと、自分たちを差別するヒンドゥー教の神であっても、信じて祈っていた。

 

「なぜ抵抗しないか不思議に思うでしょう? しかし『お前たちは人間ではない』と3000年間にもわたって植え付けられた洗脳は、そう簡単に解けるわけではない。歯向かえば殺されるし残飯しか与えられないから体も小さく弱い。

 

俺は各村をまわり『あなたたちも同じ人間である、仏教はヒンドゥー教と違って皆、平等である』と唱え続けたんだ」

 

犯罪が多発するスラム街が生まれ変わった

すると、泣いてばかりいた不可触民たちは「自分も人間である」と目覚め始めたという。親たちは一食ぬいてでも子供を学校に行かせるようになり、子供は期待に応えて猛勉強した。学校でも職場でも高カーストからの嫌がらせは山ほどあったが、そんな時は、皆で団結し抗議するようにと佐々井氏は指導した。

 

その結果、犯罪が多発するスラム街だった街が、半世紀を経て3階建ての立派な住宅が建ち並ぶ治安のいい街に生まれ変わったそうだ(後略)【11月14日 白石あづさ氏 文春オンライン】

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佐々井秀嶺氏のアウトスケールの破天荒人生が面白いところですが、スペースの都合ですべて割愛しました。興味のある方は白石あづさ氏の著書をご覧ください。

 

インドでは消滅したとされていた仏教に改宗した人々が1億5000万人ということになると、社会的に無視できない勢力にもなります。

 

【ヒンズー・イスラムの対立を刺激しかねない聖地アヨディヤの裁判 ヒンズー至上主義の台頭】

貧困、カースト制などと並んでインドが抱える最大の問題のひとつがヒンズー・イスラムの宗教間の対立ですが、この問題は対応を誤ると凄惨な暴動の危険性もはらんでいます。

 

その危険な問題を刺激しかねない裁判が・・・・

 

****印アヨディヤの聖地、ヒンズー教寺院建設のため引き渡し命じる判決 最高裁****

インドの最高裁判所は9日、ヒンズー教とイスラム教の間で帰属をめぐって対立していた同国北部ウッタルプラデシュ州アヨディヤにある聖地をめぐり、ヒンズー教寺院建設のために土地を引き渡すよう命じる判決を下した。

 

ヒンズー教寺院の建設に道を開く形となり、ナレンドラ・モディ首相を支持するヒンズー国家主義者らにとっては大きな勝利となる。

 

最高裁は、1992年にヒンズー教徒の暴徒が460年の歴史を持つモスクを破壊したアヨディヤの聖地について、ヒンズー教寺院の建設を統括する財団に土地が引き渡されなければならないとする判断を下した。

 

数十年にわたる苦々しい法廷闘争、また宗教闘争の決着を目指した今回の歴史的な判決は一方で、新たなモスクを建設するために聖地とは別の土地がイスラム教徒側の団体に与えられるとした。

 

判決に先立ち、インド当局は国内各地で警備を増強。警察が厳戒態勢を敷く中、モディ首相は平静を保つよう呼び掛けていた。

 

モディ首相率いるヒンズー国家主義を掲げるインド人民党の支持者を含む、国内の多数を占めるヒンズー教徒の強硬派は、戦士である神ラーマ王子がアヨディヤで誕生したとみなし、16世紀にイスラム王朝であるムガル帝国の最初の皇帝バーブルが、1.1ヘクタールの土地に立つ寺院の上にモスクを建設したとしている。 【11月9日 AFP】*****************

 

1992年にヒンドゥー原理主義集団によってモスクが破壊された暴動では、イスラム教徒を中心に1200人が死亡したとされています。

 

****アヨーディヤー事件****

1992年 12月から始るヒンドゥー教徒とイスラム教徒の対立による事件。

 

北インドのウッタルプラデーシュ州のアヨーディヤーでムガル朝創始者バーブルの部下により建立されたバーブリー・マスジドがヒンドゥー原理主義集団の手で破壊され,続く衝突で主としてイスラム教徒を中心に 1200人が全インドで死亡した。

 

インド国民会議派に率いられている政府は,急拠,地元の州政権 (インド人民党) を解任し,民族義勇団をはじめとするヒンドゥー原理主義団体を非合法化し,インド人民党の幹部も投獄した。

 

政府はさらにマスジド破壊弾劾決議を可決し,続いてアヨーディヤーの係争地を取得する方針を決定した。

 

この事件は単なる宗教対立ではなく,政教分離の世俗主義を基調とする民主主義勢力とヒンドゥー原理主義を掲げる勢力との対立がもたらしたものである。【コトバンク】

*****************

 

事件を起こした民族義勇団は「イスラムに宥和的な」ガンジーを暗殺した団体でもありますが、与党インド人民党の支持基盤であり、モディ首相もそのメンバーの一人です。

 

“モディ首相は判決後、ツイッターで「判決はどちらの勝訴か敗訴かではない。ヒンドゥー教でもイスラム教でもなく、国家への奉仕が我々には必要だ」と述べ、国民に冷静な対応を呼びかけた。”【11月10日 朝日】とのことですが、“ヒンドゥー至上主義を掲げるモディ首相は、この土地にヒンドゥー教寺院の建設を選挙公約にしていた”【同上】ということで、立ち位置は明らかです。

 

2002年にはヒンドゥー教寺院建設の運動に関わった人たちの乗った列車がグジャラート州で放火され、58人が死亡する事件が起き、これに対する報復としてイスラム教徒に対する暴動に拡大、1000~2000人が殺害されましたが、当時の州首相がモディ氏で、暴動を阻止しなかったと批判されていました。

 

宗教的価値観というのはどこの国でもそうですが、世界最古の叙事詩「ラーマーヤナ」のラーマ王子を引っ張り出されても、部外者としては如何とも・・・・。

 

時の権力者がそれまでのものを破壊して新たなものを作るというのは古今東西で行われていることで、ムガル帝国の最初の皇帝バーブルもその一例でしょう。

 

その後の数百年はその事実をもとに営まれており、今更そのことをひっくり返されたら市民生活は大混乱に陥ります。

 

しかし、民族・宗教が絡むと、そうした社会安定のための“時効”的な発想を否定する“原理主義”が優先します。

 

“政教分離の世俗主義を基調とする民主主義勢力とヒンドゥー原理主義を掲げる勢力との対立”ということでは、ヒンドゥー原理主義が優先する傾向を強めているのが今のインドのようです。

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フランス  「黄色いベスト運動」開始から1年 毅然たる、あるいは傲慢なマクロン大統領への怒りも

2019-11-16 23:20:44 | 欧州情勢

(2019年1月12日、パリでの集会でデモ参加者たちにLBD40を向けるフランス共和国保安機動隊員。口径40mmの硬質ゴム弾、通称フラッシュボールを発射する武器だ。【11月3日 GQ Japan】)

 

【「戦場」と化した香港キャンパス】

香港の若者・学生らの抵抗運動は長期化するとともに、若者・学生らと警察側双方の暴力もエスカレートしてきています。

 

****「キャンパスが戦場に」 香港デモ、衝突舞台になる大学****

香港で大学キャンパスが警察とデモ隊の新たな衝突の舞台になっている。事態の収拾を急ぐ中国の意向を受け、香港当局はデモの主力を担う学生の取り締まりに力を注ぐ方針に転じたとみられる。暴力の応酬がエスカレートし、影響が教育の現場を直撃し始めた。

 

14日朝、警察はデモに熱心な学生が多いとされる香港理工大に向けて催涙弾を撃ち込んだ。大学内から警官隊に矢が放たれたためとしている。

 

伝統的に民主化要求運動など学生の政治活動が盛んな香港中文大では、11日から12日にかけ、警察隊の催涙弾とデモ隊の火炎瓶の応酬となった。

 

香港メディアによると、使われた催涙弾は約1千発、デモ隊が投じた火炎瓶は約200本に上り、「キャンパスが戦場のようになった」と報じられた。

 

6月にデモが本格化して以降、警察は大学の構内での実力行使は控えてきた。だが、警察幹部は今月14日、「デモ参加者は香港中文大を武器庫に変え、キャンパス内に恐怖を蔓延(まんえん)させた」と非難。他の大学でも同様の危険な行為を確認したとして、大学キャンパスを取り締まりの「聖域」とはしないという立場を強調した。

 

警察の対応の変化の裏には、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が4日、中国の習近平(シーチンピン)国家主席と会い、早期の治安回復を指示されたことがありそうだ。警察は、各大学が政府に武力で対抗する「勇武派」の若者らの拠点になっているとみて、抑え込みの重点対象にしている模様だ。(中略)

 

圧力を強める当局に対し、学生側は大学内にバリケードを築いて徹夜で立てこもるなど徹底抗戦の構えだ。(後略)【11月15日 朝日】

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警察側がゴム弾・催涙弾さらには実弾を使用すれば、学生らは火炎瓶・レンガの投石などで応じ、さらには“木製の投石機で火炎瓶を発射したり、大学のスポーツ学部から盗んだ弓矢を使ったりと、中世の技術を織り交ぜた新戦術を生み出している。”【11月15日 AFP】とも。

 

ここまでエスカレートしてくると、香港政府・中国側は早晩厳しい鎮圧行動にでるものと想像されます。

学生側もそのあたりは想定しているところでしょうが、その際にどれだけの血がどのように流されるのか・・・が、今後の香港情勢に大きく影響すると思われます。

 

【仏「黄色いベスト運動」 政府側の譲歩はあったものの、社会に永続的な影響を与えるものにはならなかった】

中東・アフリカ・南米などではない先進国における激しい抵抗運動として、香港以上に長期化しているのがフランスの「黄色いベスト運動」です。

 

「燃料価格の上昇」、「生活費の高騰」、「労働者や中産階級に重い政府の税制改革負担」などに反対する、農村部や都市部周辺の人々によるアンチ・エスタブリッシュメントとしての抵抗運動である黄色いベスト運動は今月17日、発生から1年の節目を迎えます。

 

昨年11月に行われた最初のデモにはフランス全土で28万人超が参加しましたが、参加者数はそれ以降大きく減少しています。

 

しかし熱心な活動家グループは各地で土曜日のデモを継続し、マクロン大統領はいまだに低収入労働者をはじめとする社会の主流から取り残された人々を無視し続けていると訴えています。

 

****「黄色いベスト」縮小するも、国民の怒り根強く【FINANCIAL TIMES】****

荒れ模様になった9日、武装した警察隊をものともせず、不屈の「黄色いベスト」デモ隊がパリ北駅を目指してデモ行進した。フランス中で注目を集めた運動に残った最後の数百人だ。

 

「運動全体として成功したと思う。物事のあり方を変えた」。元教師のジョジアーヌさん(66)は、シャンゼリゼ通りの大デモ行進が政治問題に発展した1年前を振り返ってこう話す。「そう、人数こそ少なくなったが、それは恐怖心のせいでもある」

 

昨年11月17日を皮切りにフランス全土の町で毎週末デモが起こり、頻繁に暴力沙汰になっていたが、今や規模は縮小した。だがマクロン大統領がフランスを統治するやり方を変えたわけではない。

 

■マクロン政権の譲歩引き出す

環境目的の燃料税引き上げに対して地方のドライバーたちが起こした抗議活動は、広範な反体制運動にすそ野を広げた。

 

それを受けてマクロン大統領は数多くの譲歩をみせてきた。燃料増税をすぐに取り止め、中産階級の労働者向けに数十億ユーロの経済対策を打ち出した。民間エコノミストによると、国内総生産(GDP)の1%に当たる規模だ。この妥協により、財政赤字と政府債務を迅速に減らすための政府計画は水泡に帰した。

 

デモ参加者にごう慢な「金持ち大統領」とやゆされたマクロン氏は悔い改め、税制や公共交通、医療保険、政治システムなど社会・経済的不満について意見を交わす場として「国民大討論」を打ち出した。

 

大統領は後に、不正や経済的困難に対する「真の怒り」が根強いと認めた。

 

社会学者のミシェル・ビルビオルカ氏によると、ソーシャルメディアと草の根活動を「異例で極めて盛大に、メディアを熟知した」方法で結びつけた「黄色いベスト」運動は、労働組合と第二次大戦以降の反政府運動を独占してきた政党を無視する形で始まった。

 

「『黄色いベスト』運動は政府に対し、貧困や社会正義を忘れないよう求めた。そして政府は耳を傾け、理解した。政府は耳が聞こえないわけではなかった」(ビルビオルカ氏)

 

■数万人から数十人に

だがデモ開始から1年、数万人単位だったデモ参加者は数百人、時には数十人にまで落ち込んだ。

「黄色いベスト」の一部は、1周年に当たる週末の11月16~17日に大規模なデモを企画している。だが「カスール(暴徒)」や暴力的な無政府主義者による行進が頻発したことで、デモ参加者への同情は削がれつつある。

 

同時にデモ歴の長い人々は、昔ながらのスタイルの抗議活動に移ろうとしている。労働組合は鉄道会社など公共部門の労働者への優遇策を廃止するマクロン氏の年金改革案に反対して、12月5日に輸送ストを計画する。

元教師のジョジアーヌさんは「我々が変えたのは、少し活動停止状態に陥っていた労働組合だ」と語った。

 

「黄色いベスト」運動はマクロン氏の政治スタイルを変え、経済改革の一部で譲歩を引き出したが、フランスの第五共和国制を根本的に変えることはなかった。

 

その理由の一つは、運動の大半で主導者がおらず、支持者もはっきりとした目標を持つ政治的基盤を構築しなかったことだ。

 

「運動はとても大切なことを生み出したが、活動自体を長続きさせるものではなかった」とビルビオルカ氏は話す。「極めて防衛的な運動で、将来に向かうものではなった。当初の形としては完成しているが、問題は解決されておらず、人々の期待も満たされていない」

 

政府側も反政府側も、運動がフランス社会に永続的な影響を与えなかったと考えている点で一致する。

 

過去1年間でデモ隊2500人と警察官1800人が負傷。40人以上のデモ参加者が警察の使った武器で目に重傷を負った。何らかの有罪判決を受けた「黄色いベスト」参加者は3000人にのぼる。

 

■前代未聞の「労働者階級とエリート層」対話促進

都会から離れた集落に暮らす人々は生活を切り詰め、移動には必ず車が必要で高い燃料を買わねばならず、公共サービス不足に不平をこぼす。毎週末に行われたデモは、そうした事実を都市部に暮らすフランス特権階級のエリート層に突き付けた。

 

1年前に燃料価格に対する請願を提出し「黄色いベスト」の火付け役になったプリシリア・ルドスキー氏は、それを成功と呼びはしなかった。だが同氏は「かなり多くのことを変えた」。隔離された人々を表に呼び出して問題を共有し、「フランスでは前代未聞となる、労働者階級とエリート層」との対話を促した、と語った。

 

9日のデモ行進の参加者の一人でパリの電気技師のエリックさん(43)は、これまで週末のデモに35回加わった。労組による反マクロンデモが今後も続くとみている。

 

「我々がここにいなかったら、政府はさらに踏み込んでもっと多くの改革を実行していただろう。我々はそれにブレーキをかけた」とエリックさんは話す。「そして12月には、組合が今後実施される改革に対し、抗議の声を上げるだろう」

 

エリックさんの後ろでは、デモ隊がこう叫びながら行進していた。「オネラ(我々はここにいる)! オネラ! マクロンが望まなくとも、オネラ!」(2019年11月14日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版)【11月15日 日経】

****************

 

現時点での総括としては、抗議行動は“ごう慢な「金持ち大統領」とやゆされたマクロン大統領”から多くの譲歩を引きだしたものの、“運動の大半で主導者がおらず、支持者もはっきりとした目標を持つ政治的基盤を構築しなかった”ことで、“運動がフランス社会に永続的な影響を与えなかった”という限界もあった・・・というところでしょうか。

 

【厳しい当局の鎮圧を容認する大統領への怒り】

上記記事ではマクロン大統領の譲歩や「国民大討論」が強調されていますが、反対派から“ごう慢”とも批判されるマクロン大統領は就任以来、自身が進める改革への抵抗には屈しない姿勢を見せている強気が特徴的で、黄色いベスト運動に対する当局側の対応は相当に厳しいものがあったようです。

 

****黄色いベスト運動に向けられた銃口──民衆を武力弾圧するマクロン政権のやり口【前編】****

(中略)ジェローム・ロドリゲスは40歳の元配管工。黄色いベスト(ジレ・ジョーヌ)運動きっての熱弁家で、人を惹きつける魅力に溢れ、それでいて、リーダーと呼ばれることは好まないという男だ。(中略)

 

パリ郊外にある彼の借家を訪ねた私に、ロールオンのデオドラントによく似た円筒形の物体をロドリゲスは差し出してきた。LBD40という武器から発射されるゴム弾、通称フラッシュボールである。

 

口径40mmの金属筒に収められた重さ60gの硬質ゴムが時速360kmで発射される。〝低致死性(サブリーサル)〟という控え目な分類のしかたがどうにも不穏当に思えるその武器が、彼の右目を奪ったのだ。(中略)

 

ロドリゲスは黄色いベスト運動で片目を失った20番目の人物となった。「丸腰で逃げ回る男女のどこが、機動隊にとって深刻な脅威になるというのですか? 股間周辺を撃たれた人も5人いて、ひとりは睾丸を摘出するはめになったのですよ」と、彼は警察の暴虐を訴える。

 

LBD40はレーザー照準器のついたスイス製の高精度な武器である。〝低致死性〟に分類され、上半身を狙うことは固く戒められているのだが、その禁を破った場合の威力はかなりのもので、ヨーロッパでもこれを使用している国はフランスくらいだ。

 

いっぽうGLI-F4スタングレネードはTNT火薬25gを含有し、165デシベルの大轟音を発して爆発すると、つづけてCSガス(催涙ガス)を発生させるもので、こちらもフランスでしか使われていない。

 

どちらの武器にも、国連やグリーンピースなどの各種団体から使用を取りやめるべきだという要請がくりかえしなされているというのに、エマニュエル・マクロン大統領とクリストフ・カスタネール内務大臣はいっこうに聞く耳を持たずに、この記事の執筆時点(2019年8月)でも共和国保安機動隊に両方の武器を使わせつづけている。【11月3日 GQ Japan】

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****黄色いベスト運動に向けられた銃口──民衆を武力弾圧するマクロン政権のやり口【後編】****

デモ行進をする民衆にフランスの警察は武器を向けた。ゴム弾、催涙ガス、スタングレネード─ 〝低致死性〟であるはずのそうした武器で失明し、不具になり、命を落とした〝黄色いベスト〟運動参加者の数は、わずか6カ月で過去20年間のデモ死傷者累計に並ぶまでになっている。(中略)

 

マクロン大統領側近による暴行が物語るもの

(中略)2018年11月17日の〝アクト1〟に始まる毎週土曜日のデモ活動は人々が自然発生的に集まって起きたものだ。ならば黄色いベストの人々をひとつに結びつけているものは何かと言うなら、それはマクロン大統領とカスタネール内務大臣のやり口への憎悪なのだろう。

 

民衆を殴打し、催涙ガスを放ち、生涯不具にするまでのことをマクロン大統領は適法の範囲内と考えているのではないか─多くの人々が共有していたそんな疑念を確信に変えるような出来事がそれに先だって起きていたのだ。

 

2018年5月1日、メーデー(註)のデモにおいて、大統領の側近で警護責任者でもあるアレクサンドル・ベナラが警察のヘルメットをかぶった姿で民衆に暴力をふるう動画がYouTubeに投稿された(ベナラはこの事件後に解雇されたが、7カ月後になって外交官用旅券2つをいまだに所持していることが判明したし、暴行の刑事責任に問われてもいない)。

 

「あの動画でアレクサンドル・ベナラは誰かの頭を叩きのめしています」。ジェローム・ロドリゲスは眼帯をつけていない目をぎらつかせてそう語る。

 

「警察官でも何でもないあの男が警官のかっこうをして、いったい何をしていたのでしょう? そして今、やつはどんな目に遭っているのでしょう? のうのうと大手をふって人生を謳歌していますよ。これがマクロン政権の本質というわけです。

 

民衆の模範たるべき大統領がすべてを強引に力づくで決める気でいる。大統領の横暴さが政府組織に浸透して警察の末端にまで波及していて、メディアも大統領の片棒を担いでいる。反対の声をあげているのは黄色いベストの仲間たちくらいのものですよ」。

 

デモの現場を密着取材するまで、私は黄色いベストの面々に対して「無教養で偏見に満ち、略奪や暴力行為に訴えがちな労働者階層」という、中道左派系の『リベラシオン』紙ブリュッセル支局のジャン・カトルメールが記事に綴ったままの印象を抱いていた。

 

24 人が、片目を失った。5 人が、四肢のいずれかを吹き飛ばされた。2,448人が、何らかの負傷をした

ところが、カトルメールが記事で指摘したことで、〝ジレ・ジョーヌ〟の参加者たちに当てはまることなど実際には何ひとつなかったのだ。

 

ダヴィッド・デュフレーヌというジャーナリストはこれについて「彼らを無教養な愚民だと見下す態度にほかなりません。同じ『リベラシオン』紙に書いていた者のひとりとして、これには怒りを禁じ得ません」と語っている。

(後略)【11月4日 GQ Japan】

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1年に及ぶ抵抗運動が数百人規模にまで縮小した背景には、譲歩や対話だけでなく、香港政府や習近平主席もたじろぐほどの厳しい鎮圧姿勢もあったようです。

 

【奨学金を打ち切られた大学生が焼身自殺】

運動を支えた大きな要因としては、そうした当局・政権への怒りも大きかったのでしょうが、マクロン大統領が進める「改革」で絶望的な状況に追い込まれる人々の生活の実態もあります

 

****仏大学で苦学生が焼身自殺図る、世論はマクロン政権に怒り****

フランスの大学の構内で、奨学金を打ち切られた大学生が焼身自殺を図り、エマニュエル・マクロン政権に世論の怒りが向かっている。

 

仏南東部リヨンにあるリヨン第2大学に在籍するフランス人学生は今月8日、学生生活が窮迫したことに抗議して、大学構内で自らに火をつけ自殺を図った。全身の90%にやけどを負って重体となっている。

 

この学生は先ごろ奨学金を打ち切られ、フェイスブックへの投稿で自分の窮状は仏政府の政策のせいだと非難していた。

 

学生らは12日、リヨンをはじめ首都パリ、リール、ボルドーなどで数百人規模の抗議デモを展開。パリではデモ隊が高等教育・研究省の門を打ち壊し、庁舎の壁に「経済的な不安に殺される」などと殴り書きした。リヨン第2大学では12、13日の両日、学生らが授業を妨害した。

 

シベット・ヌディアイ仏政府報道官によると、マクロン大統領は13日の閣議で、自殺を試みた学生の「悲劇的な」行為に遺憾の意を表し、「共感と深い同情」を示した。

 

しかし、ヌディアイ氏はまた、この一件が引き金となって起きた抗議行動中の破壊行為は「何によっても」正当化できないとくぎを刺した。

 

■「格差生んだ自由主義」に「殺される」

自殺を図った学生は政治学を専攻していたが、2年次で2回留年し、奨学金を打ち切られた。地元紙ル・プログレが紹介した学生のフェイスブック投稿によれば、生活は1か月当たり450ユーロ(約5万4000円)の奨学金を受け取っていたときでさえ苦しかったという。

 

学生はこの投稿の中で、「格差を生み出した自由主義」を非難。マクロン氏とフランソワ・オランド前大統領、ニコラ・サルコジ元大統領、欧州連合によって「僕は殺される」と訴えていた。

 

2016年の政府統計によると、フランスでは大学生の約3分の1が1年次で留年しており、入学後3年以内に3年生に進級できるのは28.4%のみ。学生の多くが自活のために働いており、これが試験での落第率の高さの一因といわれている。

 

リヨンの抗議デモに参加していた社会学専攻の女子学生は、しばらく入院した後に受けた試験で及第点を取れず、奨学金を打ち切られたとAFPに話した。そのため複数のアルバイトを掛け持ちせざるを得なくなり、ごみ箱の残飯をあさる日すらあるという。

 

マクロン大統領は昨年、課題となっている財政赤字削減の一環として学生向け住宅助成金を最高で月額5ユーロ(約600円)に減額した。ただ、一方で富裕層には減税となる政策を導入したことから、激しい非難を浴びている。

 

来月5日にはマクロン政権の年金改革に反対する大規模ストライキが呼び掛けられており、仏政府は、学生たちが長引く「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)」運動に合流してストを勢いづかせるのではないかと警戒している。 【11月15日 AFP】AFPBB News

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国際社会・EU内にあっては、毅然たる姿勢でメルケル首相に代わって存在感を強めているマクロン大統領ですが、“毅然たる姿勢”というのは不利益を被る者の切り捨てにもつながる“傲慢さ”とも紙一重のところがあって、評価が難しいです。

 

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スリランカ  明日、大統領選挙 更なる民族・宗教の「分断」の懸念も

2019-11-15 23:16:00 | 南アジア(インド)

(次期大統領最有力候補ゴタバヤ・ラジャパクサ(左)と兄のマヒンダ前大統領【115日号 Newsweek日本語版】)

 

【シリセナ政権の機能不全】

スリランカでは明日16日に大統領選挙が行われます。

 

選挙の話に入る前に、退任する現在のシリセナ大統領に関する話題を。

 

****退任控えたスリランカ大統領、若いスウェーデン人女性撲殺の死刑囚を恩赦****

退任を控えたスリランカのマイトリパラ・シリセナ大統領が、2005年にスウェーデン出身の10代女性を殺害した死刑囚の男に恩赦を与えた。当局者が10日、明らかにした。この動きに対し、同国内では怒りの声が上がっている。

 

殺人罪で有罪判決を受けた、裕福な名家出身のジュード・ジャヤマハ元死刑囚は9日、シリセナ大統領から極めて異例な恩赦が与えられ、ウェリカダ刑務所を出所した。

 

同国で16日に実施される大統領選に立候補していないシリセナ大統領は先月、ジャヤマハ元死刑囚への恩赦の要請について検討していると表明していた。

 

事件は2005年、同国の中心都市コロンボの高層アパートで発生。スリランカで休暇を過ごしていた被害者のイボンヌ・ヨンソンさんはジャヤマハ元死刑囚との間で口論となり、撲殺された。裁判によると、ヨンソンさんの頭蓋骨は64片に割れていたという。

 

ジャヤマハ元死刑囚は当初、禁錮12年の有罪判決となり控訴したが、二審では死刑判決が言い渡され、最高裁判所も2014年、これを支持した。(中略)

 

これを受け、ソーシャルメディア上にはシリセナ大統領への非難の声が殺到。「だめな大統領による極悪非道の行動」「このニュースを聞いて吐き気がした」とのツイートがあった。

 

他にもシリセナ大統領が、自身を支持する放送局のオーナー一家出身である別の死刑囚に恩赦を与えようとする前に、さぐりを入れてみるためにジャヤマハ元死刑囚に恩赦を与えたのではないかとの臆測もあった。【1110日 AFP】

******************

 

シリセナ政権の実績に関しては知りませんが、この話からすれば芳しくないものが推察されます。

 

上記“極めて異例の恩赦”を知った、他の受刑者たちが自分たちの釈放を求めたとか。まあ、そうでしょう・・・。

 

****スリランカ刑務所で受刑者らが釈放要求デモ、死刑囚への恩赦受け****

スリランカで、スウェーデン出身の10代女性を撲殺し、死刑判決を受けていた名家出身の男が先週、大統領からの恩赦により釈放されたことを受け、厳重な警備か敷かれる同国最大の刑務所では、大勢の受刑者が釈放を求める抗議デモを2日にわたって繰り広げた。(後略)【1113日 AFP】

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シリセナ大統領は昨年10月には首相を解任して、自身が当選した2015年大統領選挙のときの対立候補だったラジャパクサ前大統領を首相に据え、反対する議会を解散させようとしたものの、最高裁によって違憲と判断され、大統領に解任された首相が12月に復帰するという騒動がありましたので、機能不全状態にあったようにも推測されます。

 

****政治混乱のスリランカ、解任された首相が再任****

スリランカでシリセナ大統領から10月末に解任された親インドのウィクラマシンハ氏が16日、首相に再任された。

 

解任されたウィクラマシンハ氏に代わって任命された親中国のラジャパクサ前大統領派と対立が続いていたが、ラジャパクサ氏が15日に辞任していた。

 

大統領はウィクラマシンハ氏を首相職から解任したものの、議会はウィクラマシンハ氏派が多数を握っていた。このため、大統領は11月に議会解散を命じて形勢逆転を狙ったが、最高裁は今月13日にこの解散命令を憲法違反と判断。

 

これを受け、ラジャパクサ氏が辞任を決めた。ラジャパクサ氏に対しては、議会で首相としての不信任案が2回可決され、裁判所が首相権限を差し止めるなど、政治混乱が深まっていた。

 

スリランカはインド洋の要衝にあり、どちらが首相になるかで、地域大国のインドと中国の勢力争いに影響を与える可能性があった。

 

ラジャパクサ氏は自身が大統領時代に中国との親密な関係から多額の融資を受けて大規模インフラ開発を進め、その後スリランカは膨大な借金を抱えた。

 

それでもラジャパクサ氏は新首相として11月、コロンボ港の改良工事を中国企業に発注すると決定。一方のウィクラマシンハ氏は、インドとの経済連携を重視する政策を打ち出していた。【20181217日 朝日】

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縁故主義・多数派シンハラ人主体の強権主義が批判を浴びたラジャパクサ前大統領と2015年大統領選挙で争ったシリセナ大統領ですが、その直前までは前大統領の下、与党スリランカ自由党 (SLFP) の幹事長かつ保健大臣として前政権を支える側にあった政治家ですから、宿敵のはずのラジャパクサ前大統領を首相に起用するというのも、それほど違和感のあるものでもないようです。

 

2015年大統領選挙でのシリセナ大統領の「意外な勝利」は“多数派シンハラ人の中でも農村など地方の有権者と、ラージャパクサ政権により内戦後の社会から疎外されていた少数派のタミル人イスラム教徒の票によるものだとみられており、シリセーナ陣営が支持されたという以上に反ラージャパクサという意味合いが強いものであった”【ウィキペディア】とも。

 

2015年のシリセナ大統領の勝利、ラジャパクサ氏の敗北で、親中国路線にくさびが撃ち込まれるのでは・・・との観測もありましたが、シリセナ氏自身は政策的には親中国の前政権とも連続性があり、変革を求めるウィクラマシンハ氏ら親インド派と距離があったようです。

 

【深刻化する民族・宗教の分断 従来のシンハラ・タミルの対立に加えて、イスラム教徒との分断も】

シリセナ政権のもとで進行した深刻な社会問題が宗教間の分断です。

  

****スリランカ 同時テロから半年 宗教間の衝突相次ぎ分断深まる****

スリランカで、日本人を含む260人以上が犠牲となった同時爆破テロ事件から、21日で半年になります。

 

事件はイスラム過激派組織による犯行だったため、イスラム教徒への不信感から宗教間での衝突が相次ぐなど、社会の分断が深まっています。

 

スリランカではことし4月、最大都市コロンボの高級ホテルやキリスト教の教会など合わせて6か所で自爆テロが起き、日本人女性1人を含む268人が犠牲となりました。

このうち、115人が犠牲となったコロンボ郊外の教会では、20日、軍が厳重な警備を敷く中、日曜日のミサが行われ、犠牲者を追悼しました。(中略)

実行犯の9人は、国内のイスラム過激派組織のメンバーで、過激派組織IS=イスラミックステートの影響を受けていたとみられ、捜査当局によりますと、国内で実行犯を支援したなどとして、これまでに178人を逮捕・起訴し、現在も捜査を続けているということです。

一方で捜査当局は、不審者であれば、容疑が固まる前でも逮捕するという捜査手法で、これまでにイスラム教徒を中心に約2500人を逮捕し、中には無実の人を数か月にわたり拘束したケースもありました。

現地では、イスラム教徒への不信感から仏教徒やキリスト教徒などとの間で衝突も相次いでいて、事件をめぐって社会の分断が深まっています。【1021日 NHK】

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スリランカでのイスラム過激派による上記テロは、3月にニュージーランドのモスクで発生した銃乱射事件の「報復」とも見られています。

 

結果的に、イスラム教徒への嫌がらせ・報復、住民衝突にまで至り、513日には夜間外出禁止令が出される事態ともなりました。

 

スリランカにはもともと、先の内戦をもたらした多数派仏教徒シンハラ人と少数派ヒンズー教徒タミル人の深刻な「分断」がありますが、それに加えてイスラム教徒と多宗教の分断ということで、更に分断の様相が深刻化しています。

 

【次期大統領最有力候補は前大統領の弟 民族・宗教間の分断が加速する懸念 喜ぶ中国】

次期大統領に求められるのは、こうした「分断」を克服する人物ですが、現実には更に分断を深めそうな、ラジャパクサ前大統領の弟が最有力とのことです。

 

****スリランカ、中国に再傾斜も 大統領選へ親中派候補が支持拡大***** 

任期満了に伴うスリランカ大統領選が16日、投開票される。

 

現職のシリセナ大統領が出馬を見送る中、親中派候補が支持を拡大しており、結果によっては中国への“再傾斜”が始まる可能性が取り沙汰される。シーレーン(海上交通路)の要衝の選挙だけに、結果はインド洋での中印の覇権争いに影響を与えそうだ。

 

大統領選には35人が立候補しており、主な争点は日本人を含む260人以上が犠牲となった4月の連続テロ事件後の治安対策など。地元メディアによると、選挙戦はゴタバヤ・ラジャパクサ元国防次官(70)と、サジット・プレマダサ住宅建設・文化相(52)の事実上の一騎打ちの構図だ。

 

ゴタバヤ氏の兄は、中国の投資を呼び込んで南部ハンバントタ港などの開発を推進したマヒンダ・ラジャパクサ前大統領だ。在任時は一族支配や腐敗が批判を浴びたが、兄弟ともに四半世紀以上にわたった内戦終結の立役者として根強い人気を持つ。

 

ゴタバヤ氏はテロ対策の重要性を強調し、国民の多数派で多くが仏教徒のシンハラ人を中心に求心力を高める。

 

プレマダサ氏は、内戦中に暗殺された第3代大統領の息子で、こちらも国民から支持を得る。公約で貧困層向けの住宅供給政策を打ち出し、少数派や農村部の票の掘り起こしを図る。プレマダサ氏の所属するスリランカ統一国民党(UNP)は老舗政党で、インドと関係が深い。

 

前回2015年大統領選のシリセナ氏の勝利で、中国傾斜に一定の歯止めがかかった格好となったが、ゴタバヤ氏勝利なら再接近は確実視される。ロイター通信によると、ゴタバヤ陣営の関係者は、当選したならば中国と「関係を回復する」と明言した。

 

インドにとってスリランカが中国に再度接近すれば、頭痛の種となることは間違いない。マヒンダ氏の大統領時代、中国海軍の潜水艦がスリランカの港に寄港するなどして、インドはいらだちを募らせた。

 

外交筋は「今回の選挙戦で中印との距離感は争点とはなっていないが、結果が双方に与える影響は大きいだろう」と分析している。【1111日 産経】

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ちなみに、プレマダサ氏の父親であるプレマダサ元大統領がタミル・イーラム解放のトラLTTE)の自爆テロにより暗殺された199351日、私はスリランカの古都キャンディを旅行中で、事件を受けた突然の外出禁止令の発令で「一体何が起きたのか?」ととまどいました。

 

観光を中断して急遽入ったホテルのTVでテロ事件のことを知り、大変なことになったものだとは思いながらも、部外者の気楽さで、事態の推移を興味深く見ていたところも。

 

ただ、翌日には外出が許され観光を再開した(あるいは、予定を変更してコロンボに戻った?)のですが、シンハラ人の案内する車でタミル人が多い地域を走るときの、シンハラ人の緊張ぶりが今も強く印象に残っています。

 

【産経】は親中国政策の復活にしか関心がないようですが、それ以前に多数派仏教徒シンハラ人の主張を前面に出すゴタバヤ・ラジャパクサ勝利となれば、上述の社会の分断は現在以上に進むことも懸念されます。

 

父親をタミル人に殺害されたプレマダサ氏の政策は知りませんが・・・。

 

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ヒンドゥー教徒主体のタミル人にとって、ラジャパクサ兄弟は恐怖の対象だが、仏教徒主体の多数派シンハラ人の多くにとっては英雄になった。マヒンダはさらに大胆になり、多民族国家スリランカでシンハラ人中心の単一民族政策を強化した。

 

この政策が復活すれば、内戦の引き金となった民族・宗教間対立の改善、特にシンハラ人と総人口の約10%を占めるイスラム教徒との融和は期待できない。両者の関係は4月、260人以上の死者を出したイスラム過激派の連続爆破テロ事件で一気に悪化した。

 

ラジャパクサ兄弟は既にこの事件を利用して、シンハラ民族主義をあおり立てている。

 

ゴタバヤは支持者に対し、自分が当選すればイスラム過激派対策として情報機関を強化し、市民に対する監視活動を復活させると約束した。超法規的措置で治安維持を図ろうとする姿勢に、少数民族やメディア、人権擁護団体は戦々恐々だ。【115日号 Newsweek日本語版「スリランカで準独裁体制が復活すれば、海洋覇権を狙う中国を利するだけ」】

*******************

 

上記記事の対中国に関する主張は【産経】と同じです。

 

結果、“「ゴタバヤ大統領」は兄の政権の犠牲者に対する法的救済を阻止し、民族・宗教間の分断を広げ、インド太平洋における中国の覇権を後押しするだろう。スリランカの民主主義はかつてなく脆弱に見える。”【同上】とも。

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カンボジア  深刻化する中国依存に批判も 野党元党首の帰国は実現せず 批判をかわす政権側

2019-11-14 23:28:10 | 東南アジア

(カンボジア・シアヌークビル州の州都シアヌークビルにある多数の中国系カジノの一つ【2月17日 AFP】)

 

【急速な中国化 批判も】

カンボジアのフン・セン首相が与党を追い上げていた最大野党「救国党」を解党に追い込み、最大野党不在の選挙で議席を独占するなど強権色を強め、対外的には中国との関係を強化していることは今更の話ではあります。

 

****中国の植民地化するカンボジアの悲劇****

カンボジア有数のリゾート観光地、シアヌークビルで6月22日未明、中国企業が所有する完成間近の7階建てビルが崩壊した。6月25日時点で死者28人を数え、犠牲者はさらに増える見通し。カンボジア史上最悪のビル倒壊事故となった。

 

ビル内には、中国人の電気技師ら作業員約80人が寝泊まりしていた。カンボジア当局が当初から違法建築で建設中止を勧告していた中で発生した事故だった。

 

ビルを建設していた中国企業はこの勧告を無視、違法建築を続行していた模様だ。

 

米ワシントン・ポスト紙によると25日、シアヌーク地裁で事故直後から拘束されていた中国人のビル所有者1人が過失致死罪の容疑で、さらに中国人の建設会社社長1人と中国人の現場責任者2人が共謀罪容疑で中国人計4人がそれぞれ起訴された。(中略)

 

この最悪の事態に、タイ・バンコクで23日まで開催されていた東南アジア諸国連合首脳会議に出席していたカンボジアのフン・セン首相は24日、急遽現地入り、シアヌークビル市内全域の建設状況の検査を直ちに指示した。

 

シアヌークビルは、カンボジアで唯一の深水港を要する港湾都市。カンボジアで崇拝されている故国王にちなみ、名づけられたシアヌークビル州の州都でもある。(中略)

 

カンボジア屈指の美しい海岸で知られるこの長閑な港町は、かつてはロシア人富裕層や欧米諸国からのバックパッカーの秘境だった。

 

しかし、数年前から中国の企業が巨額な投資を続け、中国本土からの移住者や観光客のための「カジノの町」に変貌。シアヌークビルの「中国化」が始まった。実は、ギャンブル好きの中国人は中国ではカジノで遊べない。中国本土ではカジノが禁止されているからである。

 

その反動もあるのか、アジアのラスベガスと呼ばれる中国特別行政区のマカオは、今や米国のラスベガスを大きく引き離す世界一のカジノ都市へと成長した。中国政府は、世界一の収益を上げるマカオのギャンブルビジネスを特別な法律運用で認可している。

 

シアヌークビルはそのマカオでは飽き足らない中国人向けのカジノ&リゾートとして人気が急上昇中なのだ。

 

そもそもカンボジアは、中国の習近平国家主席が提唱する一帯一路の重要拠点。

 

シアヌークビルには、「大型船停泊可能な同国唯一の深海港があるだけでなく、国際空港も備える物流の要衝。首都・プノンペンとシアヌークビル間の貨物量はカンボジア最大規模で、国内最大の輸出拠点として重要性が急速に増している」(ASEAN=東南アジア諸国連合の経済投資アナリスト)。

 

中国からの投資が最も顕著で急拡大しており、建設ラッシュに沸くシアヌークビルは、中国人移住者や急増する中国人観光客目当ての大小含め約90のカジノが乱立。

 

シアヌークビルの将来性に着目した中国企業の投資は、2016年10月に習近平国家主席がカンボジアを訪問した直後から急増。「中国は、インフラ整備などに巨額支援し、中国本土の企業進出を後押ししている」(同アナリスト)。

シアヌークビル経済特区への進出企業の約90%が中国企業で約150社ほどに上る。

 

1985年以来、独裁国家を率いる親中のフン・セン首相の盟友、かつては地方軍司令官だったユン・ミン・シアヌークビル州知事は次のように話す。

 

「2010年以降、中国はカンボジアの最大支援国で最大貿易相手国。カンボジアへの中国の投資額も最大で、2016年から2018年で10億ドルに達した」

 

投資額だけでなく、債務も破格だ。対外債務約60億ドルの約半分を対中債務で占め、他のどの国より断然に多い。

 

とりわけ、シアヌークビルは、タイ湾やマラッカ海峡進出への足がかりとなるカンボジアの要衝として、一帯一路における最重要戦略拠点の一つ。軍事的にも、極めて戦略的位置づけにある。

 

今年に入って、シアヌークビルの港に中国海軍のミサイル護衛艦「邯鄲」「蕪湖」(双方とも、全長約140メートル、排水量約4000トン)、補給艦「東平湖」(全長180 メートル、同2万トン)の巨大軍艦3隻がドック入りした。

 

「中国政府が周辺国と領有権を争っている南シナ海へのアクセスが簡単なシアヌークビルの北部・ココン州沿岸沖に海軍基地の建設を目論んでいる」と噂されるが、フン・セン首相は、今のところ否定している。

 

しかし、筆者の知人の地元メディアのベテラン記者は「シアヌークビルは、すでに中国企業の租借地で挟まれていて、カンボジアの海岸線の3分の1以上は中国企業に支配されている」と言う。

 

中国の軍事的戦略が粛々と進められているとみて間違いないだろう。

 

一方、中国からのヒト、モノ、カネが流入するなか、深刻化しているのが中国化による社会問題と凶悪犯罪の急増だ。

 

シアヌークビル市は人口が約10万人(同州は約25万人)。その街に中国人が7万人(2018年10月、プノンペン・ポスト紙)も大量移住しているとされる。

 

さらに、カジノ目当てに年間、数百万の中国人観光客が押し寄せる(2018年の外国人観光客は約630万人で、国別首位の中国人は前年比約70%増の約200万人に達した)。

 

シアヌークビルは、まるで 中国の中の”カンボジア村”のようだ。そのため、現在シアヌークビルは建設ラッシュが続き、浜辺が埋め立てられている。

 

カンボジア人に人気だった海水浴場は中国人に買い占められ、海の家は中国人経営で、中国人のためのメニューが並び、中国語しか通じなくなっている有様。

 

さらに、中国人経営の中国人のための病院、ヘアサロン、スーパーなど中国人向けのサービスが完備されている。

 

知人の地元メディア記者によると、カンボジアでは法律で看板などの表示はクメール語で表示されなければいけないが、自動翻訳された意味不明なクメール語を付記した中国語看板が散乱しているという。

 

カンボジア人の多くが「カンボジア文化への冒涜だ」と非難している。

こうした事態に、ユン・ミン知事がクメール語の間違いなどを含む中国語の看板をすべて撤去するよう命令したが、収拾には至っていない。

 

さらに、ホテルやレストランが出すごみに加え、観光客が捨てるごみで、美しかった海岸線は汚され、同知事や地元職員などが清掃の陣頭指揮を執らなければいけない危機的事態にも陥っている。

 

「チャイナ・タウン化」したシアヌークビルは、こうした問題以外に、土地価格の急騰、ごみ処理場や水不足、宿泊料高騰によるホテル不足なども深刻化している。

 

それだけではなく、最近急増しているのが中国人が引き起こす犯罪だ。

地元の交通ルールを無視し引き起こされる交通事故でカンボジア人の犠牲が絶えないのはまだ序の口。

 

中国で犯罪を起こしたマフィアグループが流入し、詐欺、殺人、麻薬密輸、人身売買、誘拐、違法賭博などの凶悪犯罪が後を絶たないのだ。(中略)

 

見かねたカンボジア政府はこのほど、国家レベルの警察、移民局、法律専門家の支援部隊をシアヌークビルへ派遣することを決定した。

 

一方、中国政府も治安悪化などの犯罪解決に地元当局などと連携強化することを明らかにしている。

 

しかし、こうした中国の反応に地元メディアは「シアヌークビルの治安維持に、中国政府がどうして乗り出すのか」「治外法権を逸脱した中国による支配強化に過ぎない」と強い反発が起きている。

 

さらに、恐るべき中国犯罪の流入も明らかになってきた。中国では、国が主導し軍病院などで組織的に臓器を収奪する「臓器狩り」が横行しているといわれる。(中略)

 

そうした臓器売買がシアヌークビルなどカンボジアの都市でも行われている実態が明らかになってきたのだ。

「プノンペンポスト」「カンボジア日報」など地元メディアによると、これまでにカンボジアの陸軍病院などで、臓器を違法に売買した罪で臓器移植の技術指導を行った中国人教授や医師、医療関係者が逮捕される事件が相次いでいる。(中略)

 

しかし、こうした事態を踏まえながらも、親中のフン・セン首相は、頻繁に北京を訪問し、習国家主席や李克強首相のご機嫌取りに余念がない。

 

今年早々には北京を訪問し、両国間の貿易額を2023年までに100億ドルに引き上げ、さらに、経済支援として5億8800万ドルを受ける約束を携え、上機嫌で帰国した。

 

しかし、今回のビル倒壊事故も含め、深刻になる一方の中国化問題は、カンボジアの自主統治を危うくする。

そればかりか、国民からの批判や、それに押された軍部の反発を招く危険性もある。

 

カンボジアは急速な中国化で、国の繁栄や安全も脅かされない状況に直面している。【6月26日 末永 恵氏 JB Press】

*******************

 

“軍部の反発”とありますが、中国からの大量武器購入(軍へのプレゼント)はそうした軍の不満を封じる狙いもあるのかも。

 

****カンボジア、中国から武器「数万点」を購入 首相が明らかに****

カンボジアのフン・セン首相は29日、中国から「数万点」もの武器を購入したことを明らかにした。中国との武器取引の詳細を公表するのはまれ。

 

数日前に同首相は、中国軍艦が同国の海軍基地を使用することを許可する密約が結ばれたとの報道を否定していた。

 

米紙ウォールストリート・ジャーナルは先週、カンボジア南西部シアヌークビル近郊のリアム海軍基地に中国の軍艦停泊や武器保管を許可する協定の草案について報道。数か月前からのうわさを裏付けるかのような格好となった。

 

フン・セン首相はこの報道を繰り返し否定し、「中傷」だと非難したが、中国の武器売却の詳細について異例のレベルまで踏み込んで言及。「追加で武器数万点の購入を命じた」と明らかにした。購入した武器の種類については説明しなかったが、「現在船で輸送されている」という。

 

同首相はさらに、これまで中国から購入した武器の総額は2億9000万ドル(約315億円)に上り、これに加えて今年は4000万ドル(約43億円)を費やしたことを明らかにした。 【7月29日 AFP】

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解党に追い込まれ、幹部多数が逮捕されるか亡命を余儀なくされている野党勢力は、フン・セン首相のこうした対中国傾斜を批判しています。

 

****カンボジアの対中依存を批判 亡命中の最大野党幹部、日本に支援求める***

強権的な政治手法を取るカンボジアのフン・セン首相によって2017年に解散に追い込まれた当時の最大野党、救国党のム・ソチュア副党首が来日し、22日、産経新聞のインタビューに応じた。

 

「民主主義を取り戻し、過度の対中依存から抜け出す」と訴え、日本に支援を求めた。

 

同氏は解党時に拘束を逃れるため亡命した党幹部50人の一人。翌18年の上下両院選でフン・セン氏率いる人民党は議席を独占、事実上の一党支配を続ける。

 

ム・ソチュア氏は「フン・セン氏は政権を維持するため、中国の不透明な経済援助に依存し、腐敗を招いている」と批判。中国の狙いは「南シナ海からタイ湾に続く海域を掌握するための戦略的要衝、カンボジアで影響力を増すことだ」と指摘し、「国民が食い物にされている」と嘆いた。

 

実際、同国唯一の深水港がある南西部の港町シアヌークビルには中国系カジノが乱立し、首都プノンペンまでの高速道路の建設を中国資金が計画中。近くのリアム海軍基地の一部を中国が短くとも30年間独占利用するとの米報道もある。(後略)【8月22日 産経】

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【帰国予告のサム・レンシー救国党元党首、帰国は実現せず】

こうした状況にあって、亡命中のサム・レンシー救国党元党首はフランスからの完全独立を果たした記念日の11月9日に一斉帰国する予定を明らかにしました。

 

****「カンボジアに民主主義取り戻す」 元野党党首帰国へ 首相は逮捕方針****

カンボジアで、フン・セン政権の訴えを受けて、2017年に最大野党・救国党が解党させられてから約2年。フランスでの生活を余儀なくされてきた元党首が9日に帰国して、団結を訴える方針だ。政権側は「帰国すれば即逮捕」の構え。同国では緊張が高まっている。

 

「多くの同志が暗殺、逮捕され、亡命を余儀なくされた。暴力なしにカンボジアに戻り、民主主義を取り戻すしか道はない」

 

救国党のサム・レンシー元党首は10月末、そんなメッセージを公表して11月9日の帰国を明言し、国民に団結を呼びかけた。

 

同国では、昨年の総選挙でフン・セン首相が率いる与党・人民党が下院の全125議席を獲得し、「一党独裁」状態にある。救国党は17年11月、政権の訴えに基づく最高裁命令で解党させられ、昨年の総選挙では排除された。100人以上の党幹部は5年間の活動禁止となり、海外生活を余儀なくされている。

 

国内では同党の支持者らが弾圧を受け、今年8月半ばまでに元党員20人が逮捕された。10月にも「国家転覆をもくろんだ」などとして2人に有罪判決が出るなど、連日のように逮捕者らが出ている。

 

フン・セン氏は、元党首らが帰国すれば「即刻逮捕だ」と繰り返している。東南アジア諸国連合ASEAN)の全加盟国に逮捕状も送り、協力を要請済み。10月にタイに入国できなかった元党幹部もいる。(後略)【11月4日 朝日】

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サム・レンシー氏のこの帰国の試みは、パリの空港で経由地に想定していたバンコク行きタイ航空機への搭乗を拒否されたことで実現していませんが、現在はマレーシアのクアラルンプールに入って機会をうかがっているようです。

 

サム・レンシー氏はポル・ポト支配当時から危なくなると海外に・・・という対応を繰り返していますので、改革を目指す政治家として国民の信頼を得るためには、リスクを取りながらも「勝負」する必要があるでしょう。

 

フン・セン首相がポル・ポト時代に未曽有の悲劇を国民とともに共有していたのに対し、サム・レンシー氏は「優雅な海外亡命生活」を享受していたとの批判がつきまとっていますので。

 

【国際批判をかわしながらも基本姿勢は変えないフン・セン政権】

フン・セン政権は高まる国際批判をかわす狙いから、拘束している野党幹部らを保釈するなどの姿勢は見せつつも、基本的な弾圧姿勢は変えていません。

 

****野党指導者の軟禁解除=EU制裁回避が狙いか―カンボジア****

カンボジアの旧最大野党で、2017年11月に解党を命じられたカンボジア救国党のケム・ソカ党首(66)が10日、自宅軟禁を解かれた。

 

ケム・ソカ氏は17年9月、政府転覆を企てたとして国家反逆容疑で逮捕・起訴され、昨年9月から軟禁下に置かれていた。

 

フン・セン首相が長期政権を敷くカンボジアをめぐっては、国外に逃れていた救国党指導者のサム・レンシー氏が帰国を強行する構えを見せ、拠点とするパリから9日にマレーシアに到着。民主化運動の拡大を懸念するフン・セン政権は警戒態勢を強めており、緊迫の度を増している。

 

ケム・ソカ氏の軟禁解除は健康問題のためとされ、国外渡航や政治活動は認められない。カンボジアの有力な輸出先の欧州連合(EU)が民主化後退を理由に検討する経済制裁の回避を狙い、フン・セン政権が解除に踏み切った可能性もある。

 

サム・レンシー氏はツイッターに「軟禁解除は正しい方向へのわずかな一歩」と投稿し、「ケム・ソカ氏への訴追を取り下げ、救国党の復権を認めるべきだ」と要求した。【11月11日 時事】 

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****カンボジア首相 野党関係者などの保釈指示 国際社会の批判受け ****

カンボジアではフン・セン首相の政敵で、国外で生活を続ける最大野党の前の党首が帰国すると予告したことを受け、野党関係者など70人余りが逮捕されましたが、フン・セン首相は14日、保釈を指示したことを明らかにしました。フン・セン首相としては、国際社会で高まる批判をかわすねらいがあると見られます。

 

カンボジアでは4年前に逮捕状が出されたあと、国外で生活を続ける最大野党の前の党首、サム・レンシー氏が、ことし8月中旬に帰国すると予告したことを受け、野党関係者など70人余りが相次いで逮捕されました。

サム・レンシー氏は航空会社に搭乗を拒否されるなどしたため、予告していた今月9日の帰国を断念したことを明らかにしました。

これを受けてカンボジアのフン・セン首相は14日、南部のカンポットで行った演説で、逮捕した野党関係者などの保釈を関係当局に指示したことを明らかにしました。(中略)

今回、サム・レンシー氏の帰国の予告を受けて、政権側が野党関係者の締めつけをさらに強めたことで、国際社会の批判が一層高まっていて、フン・セン首相としては逮捕者の保釈を指示することで、こうした批判をかわすねらいがあると見られます。【11月14日 NHK】

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弾圧の手を緩めたり、強めたりはしていますが、強権的なフン・セン政権の基本姿勢は変わっていません。

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トルコ  欧州・アメリカ議会との関係が悪化するエルドアン大統領の強硬路線 トランプ大統領は?

2019-11-13 23:31:35 | 中東情勢

(個人的には親密なトランプ米大統領とエルドアン大統領 トランプ大統領はプーチン大統領とか金正恩朝鮮労働党委員長のような国内の民意に振り回されない“強い指導者”とはウマがあうようです)

 

【IS戦闘員送還でEU側を揺さぶるエルドアン政権】

トルコと欧州・アメリカの関係がギクシャクしているのは今更の話ですが、最近一段と険悪な関係にもなっているようです。

 

まず欧州との関係では、基本的な話としてトルコの長年のEU加盟の希望をEU側が実質的に拒否し、トルコの跡から希望したバルカン諸国の加盟に道を開いていることへのトルコ側の憤りがあります。

 

トルコとしては、欧州に押し寄せるシリア難民の防波堤になってやっているのに・・・という思いも。

 

ただ、EU側としては、エルドアン政権のもとで強権色・イスラム色を強めるトルコとの距離は、価値観の違いから広がる傾向にもあります。

 

最近では、シリア北部のクルド人勢力支配地域へのトルコの軍事侵攻を欧州が批判していることにも、エルドアン大統領は苛立ちを見せています。

 

下記のEUによる、トルコの“キプロス沖で「違法な」石油・ガス掘削活動”に対する制裁、トルコの反発も、上記のような話が根底にあってのことです。

 

****トルコ大統領、EUの制裁を批判 「交渉打ち切りも」****

トルコのエルドアン大統領は12日、欧州連合(EU)が対トルコ制裁を決めたことを批判、EUとの交渉を打ち切り、拘束中の過激派組織「イスラム国」(IS)戦闘員を欧州に送還する可能性があると表明した。

EU外相理事会は11日、トルコがキプロス沖で「違法な」石油・ガス掘削活動を行っているとして検討していた同国に対する経済制裁について合意した。

トルコとEUの関係は悪化しているが、トルコはEUの正式な加盟国候補。エルドアン大統領はワシントン訪問に先立ち、EUの決定を批判し、トルコは国際法に基づき自国の権利を行使していると主張した。

大統領は記者団に「EUよ、トルコはEUが今まで知っていたような国ではない。トルコはEUと交渉のテーブルについている。交渉が突然終わる可能性もある」と述べた。

EUは2016年、トルコからギリシアへの難民流入を食い止めるための対策でトルコと合意。トルコは350万人以上の難民を受け入れているが、欧州からの支援がなければ難民が欧州に移動することを認めると繰り返し警告している。

大統領は「EUはこの問題を軽く見ているかもしれないが(欧州への)ドアは開かれており、(IS)メンバーは欧州に送還される。キプロスの問題を巡りトルコを威嚇しようとしてはならない」と主張した。【11月13日 ロイター】

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上記のように、エルドアン大統領は“IS戦闘員の欧州への送還”をカードにして、欧州側に揺さぶりをかけています。

 

****トルコ、外国人のIS戦闘員送還へ EU揺さぶる狙いは****

トルコ国内で拘束している過激派組織「イスラム国」(IS)の外国人戦闘員をめぐり、トルコが欧州出身者を出身国に送還する方針を明らかにした。

 

外国人戦闘員をめぐっては、出身国が引き取りに消極的な姿勢を示しており、国際的な問題になっている。トルコの突然の表明の狙いは何か。

 

アナトリア通信によると、ソイル内相が8日、首都アンカラでの演説で「欧州にIS戦闘員を送り返す」と述べた。11日から帰還させるとしている。

 

国連報告書などによると、ISなどの過激派組織に加わるためにシリアとイラクにわたった外国人戦闘員は4万人以上とされ、出身国は欧州を含めて世界110カ国にのぼる。ソイル氏によると、トルコは約1200人の外国人戦闘員らを拘束しているという。

 

IS戦闘員の出身国への帰還が進まない背景には、戦闘員を訴追しようにもシリアでの証拠収集が困難なことや、帰還後に収監しても、ほかの受刑者を洗脳したり、新たなテロを起こしたりするリスクがあることがある。

 

英国やオランダは、戦闘員らを帰還させないために国籍を剝奪(はくだつ)する措置もとっている。ただ、トルコはこうした対応を批判しており、4日にはソイル氏が「国籍を剝奪されようがされまいが、我々はISのメンバーを出身国に送り返す」と強調していた。

 

トルコのこうした動きは、トルコ軍が先月、隣国シリア北部に越境し、テロ組織として敵視してきた少数民族クルド人の武装組織「人民防衛隊」(YPG)への軍事作戦を展開したことと関係がありそうだ。

 

欧州連合(EU)側は一方的な攻撃だとトルコを非難しており、トルコはIS戦闘員の送還によってEUに揺さぶりをかけようとしている可能性がある。

 

368万人のシリア難民を抱えるトルコは、軍事作戦でシリア北部に「安全地帯」を設置し、100万~200万人のシリア難民を移住させる構想を描いている。

 

トルコ側は国際社会に理解を求めているが、欧州連合(EU)側は「国連難民高等弁務官事務所が規定する難民帰還のための国際基準を満たしていない」と否定的な見解を示している。

 

しかし、トルコは事実上、欧州を目指すシリア難民の「防波堤」としての役割を担っており、欧州側の姿勢にトルコは業を煮やしている。IS戦闘員の送還という「実力行使」によって、トルコが描く構想への協力を欧州側に促す狙いもありそうだ。

 

ISの外国人戦闘員の問題は、今年3月にシリア東部でISの最終拠点が制圧され、YPG側がその支配地域で多くのIS戦闘員を拘束する必要が生じたことで浮上した。

 

8月の米国防総省の報告書によると、シリア北東部でYPG側に拘束されたシリアイラク以外の外国出身の戦闘員は2千人。うち800人は欧州諸国の出身者とされる。

 

YPG側の支配地域には国家主権にもとづく司法制度がなく、こうした戦闘員を裁判にかけないまま長期拘束するのは負担になっている。YPGを支援してきた米国は戦闘員の出身国に身柄の引き取りを求めているが、進んでいない。【11月9日 朝日】

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イギリスは、国外でイスラム過激派組織に参加したとみられる100人以上の国籍を剥奪し、一部では裁判沙汰になっています。

 

裏でどういう話がなされているのかは知りませんが、フランスは11名のIS戦闘員受け入れを認めています。

 

****フランス、トルコからIS戦闘員11人受け入れへ=内相****

フランスのカスタネール内相は12日、拘束中の過激派組織「イスラム国」(IS)戦闘員の出身国送還を始めたとのトルコの発表を受け、11人を受け入れると明らかにした。

トルコは先月、シリア北東部に侵攻し、テロ組織と見なすクルド人勢力を攻撃。トルコも加盟する北大西洋条約機構(NATO)の各国は、この攻撃をきっかけにIS戦闘員らが欧州に戻ってくる可能性があると懸念を示しており、攻撃は、米国と、特に欧州諸国の怒りを買った。

シリア北部には400─500人のフランス人がおり、このうち60人前後がIS戦闘員とみられている。そうした状況からフランスは、シリアで戦闘員となった成人の受け入れをかたくなに拒否している。

ただ、2014年にトルコと交わした合意に基づき、これまでにもトルコ当局に逮捕されたフランス人が送還された例がある。カスタネール内相は議会で、「フランス人11人の受け入れ検討は、この枠組みの一環」と説明した。

内相によると、2014年以降、250人前後のフランス人がこの制度のもとで送還されている。

内相は今回受け入れる11人の個人に関する詳細は明らかにしなかったが、フランスはこの人々を認識しており、帰国の際には司法当局に引き渡されるとした。

トルコは、これまでに戦闘員287人を拘束したほか、IS関係者の拘束者も数百人に上るが、欧州各国が自国出身の戦闘員の身柄引き受けに時間をかけすぎていると批判している。【11月13日 ロイター】

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おそらくトルコのEU加盟に一番強硬に反対するのは、北マケドニアの加盟交渉にも反対しているフランスでしょう。そのフランス・マクロン大統領は「(トルコも加盟している)NATOは脳死状態」と批判するなかで“加盟国のトルコについても、少数民族クルド人の武装組織をシリア北西部で越境攻撃したことを念頭に「協調性がない」と指摘した。”【11月8日 朝日】とも。

 

トルコの話は抜きにしても、欧州側にはIS戦闘員、およびその妻子をそうするのかという、欧州が重視する人権にかかわる問題があります。

 

厄介なものはトルコやシリアに押し付ければ・・・ですむ話でもないでしょう。

 

****IS母の子56人を帰国させよ オランダで判決、当局上訴の意向****

過激派組織「イスラム国」(IS)に加わった後、シリアで拘束されたオランダ人女性23人が、現地で産んだ子ども56人と共に帰国させるようオランダ当局に求めた訴訟で、同国ハーグの裁判所は11日、子どもたちの帰国を「積極的に」支援するよう当局に命じる判決を下した。関係閣僚は12日、上訴の意向を示した。欧州メディアが伝えた。

 

判決は、母親に関しては「ISの重大な犯罪行為を知っていた」はずだとして、帰国支援の必要を認めなかったが、子どもは「親の行動の被害者」であり、シリア北東部のキャンプで拘束されていることについて「彼らには責任はない」とした。【11月13日 共同】

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【対トルコ批判を強める米議会 エルドアン大統領に宥和的なトランプ大統領】

アメリカとトルコとの関係では、エルドアン大統領が2016年のクーデター未遂事件の首謀者とするギュレン師の引き渡し問題もありますが、近年ではNATO加盟国であるトルコのロシア製防空システム「S400」の導入問題や北部シリアへの軍事侵攻が大きな懸案事項となっています。

 

下記の歴史問題「アルメニア人虐殺」に関しても、そういった近年の関係悪化が背景となっています。

 

****米下院、オスマン帝国の「虐殺」認定=トルコは猛反発―アルメニア問題****

米下院は29日、第1次大戦中の1915年からオスマン帝国で数年間にわたって起きたとされる「アルメニア人虐殺」を「ジェノサイド(集団虐殺)」と認定する決議案を賛成405、反対11で可決した。

 

帝国の後継国家トルコはジェノサイドを否定しており、AFP通信によると同国政府は「無意味な政治的措置だ」と猛反発している。

 

下院外交委員会が過去に同様の決議案を可決した際には、北大西洋条約機構(NATO)同盟国のトルコとの関係に配慮し本会議での採択は見送られてきた。

 

今回可決に至った背景には、トルコがシリア北部でクルド人勢力への越境攻撃を行い、米議会内でトルコに対する批判の声が高まったことがある。

 

対シリア越境攻撃に加え、ロシアの地対空ミサイルシステムS400導入などをめぐってぎくしゃくする米トルコ関係がさらに悪化する恐れもある。【10月30日 時事】 

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アメリカ議会はトルコへの批判を強めていますが、トランプ大統領個人はエルドアン大統領と関係を良好なものとしてアピールしています。

 

トルコのシリア北部への軍事進攻も、トランプ大統領が黙認することをエルドアン大統領に示したことで現実のものとなった経緯もあってか、その後のトルコ側対応にトランプ大統領は理解を示しています。

 

ロシア仲介の停戦に関して、“トランプ大統領は「大きな成果」だと歓迎した。トランプ氏は、「我々が喜べないようなことが起きない限り、制裁は解除されるだろう」、「血が染み付いたこの土地をめぐる争いはほかの人間に任せておこう」と述べた。”【10月24日 BBC】

 

その後、トランプ大統領はトルコが軍事作戦を停止したことを評価し、トルコへの制裁を解除しています。

 

トランプ大統領は、ロシア製防空システム「S400」の導入問題についても批判を強める米議会と異なりトルコに宥和的な発言を行っています。

 

****トランプ氏、ロシア製ミサイル購入でトルコの立場理解=トルコ高官****

トルコ政府高官は18日、トランプ米大統領はトルコがロシア製ミサイル防衛システム「S400」を購入した理由について理解を深めており、この問題でトランプ氏が対トルコ制裁に踏み切ることはない見通しだと述べた。

高官はワシントンで記者団に対し「(制裁が)実行されることはないというのが私の見方だ」と述べ、トランプ氏はトルコ政府の立場への理解を強めたとした。「トランプ氏はトルコがS400の購入に至った経緯の背景にある過去の流れ全体を理解した」という。

米国はトルコのS400購入について、北大西洋条約機構(NATO)の防衛体制に相いれず、トルコが購入を計画しトルコも製造のパートナーだった米最新鋭ステルス戦闘機「F35」の脅威にもなるとして反対。一方のトルコは、シリアなど多くの脅威に直面し、包括的な防衛システムの導入が急務だと主張している。

ムニューシン米財務長官は先週、対トルコ制裁を検討しているが決定はなされていないと述べていた。【9月19日 ロイター】

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エルドアン大統領も、トランプ大統領が対トルコ制裁に踏み切ることはないと自信をもっている様子で、両者の間について「裏に何があるのだろうか?」と勘繰りたくなるようなところも。

 

そうしたトランプ大統領の思惑とは異なり、米議会下院は超党派で対トルコ制裁を可決して圧力を強めています。

 

****米下院 トルコ制裁法案を可決 トランプ大統領の方針に抗議の形****

アメリカ議会下院は、トルコがシリア北部でクルド人勢力に対して行った軍事作戦を非難し、トルコの高官に制裁を科す法案を与野党の賛成多数で可決しました。トルコへの制裁を解除したトランプ大統領の方針に超党派で抗議した形です。

 

トルコは今月、隣国のシリア北部に侵攻してクルド人勢力への軍事作戦に踏み切り、国際社会の批判を招きましたが、トランプ大統領は、トルコがその後、軍事作戦を停止したことを評価し、先週、トルコへの制裁を解除しました。

 

これについてアメリカ議会下院は29日、本会議を開き、トルコによる軍事作戦を非難し、作戦に関わったトルコの政府や軍の高官に制裁を科す法案を賛成403反対16の賛成多数で可決しました。

 

この法案には野党・民主党に加え、与党・共和党も170人以上の議員が賛成に回り、超党派でトランプ大統領の方針に抗議した形です。

 

法案は議会上院でも審議されていますが、上院では共和党のトップ、マコネル院内総務が慎重な姿勢を示していて、法案が可決・成立するかは不透明です。

 

また議会下院は、およそ100年前にトルコ系のオスマン帝国で、大勢のアルメニア人が殺害されたとされる事件について、「大量虐殺だ」と認定する決議も賛成多数で可決していて、虐殺を否定しているトルコが反発を強めることが予想されます。【10月30日 NHK】

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こうした与党を含めた米議会の対トルコ批判があって、トランプ大統領も一応、「S400」の導入問題で厳しい姿勢を見せてはいますが・・・・

 

****米、トルコにS400の廃棄迫る 両国大統領がホワイトハウスで会談へ 

ボルトン前補佐官「トランプ氏のトルコ政策はビジネスが左右」****

 

トランプ米大統領は13日、ホワイトハウスでトルコのエルドアン大統領と会談する。トルコによるシリア北部での軍事作戦や、ロシア製防空システム「S400」の導入問題などが主要議題となる見通しだ。

 

トランプ政権高官は12日の電話記者会見で「S400の導入問題は解決されなくてはならない」と指摘。オブライエン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)も11日、CBSテレビの報道番組に出演し、「トルコがS400を廃棄しないのであれば制裁の実施もあり得る」と警告した。

 

トランプ政権としては、13日の会談でトルコに「シリアでの恒久停戦」と「S400の導入断念」に応じさせたい考えだ。また、トルコがこれらの要求に応じれば、最新鋭ステルス戦闘機F35の国際共同開発計画に復帰させることも検討する方針だ。

 

ただ、トランプ氏はこれまでトルコ制裁に消極的とみなされており、エルドアン氏にどこまで圧力をかけていくかは定かでない。

 

これに関し、米NBCニュースは12日、ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が6日に南部フロリダ州マイアミで開かれた私的会合で、トランプ氏がトルコ制裁に反対するのは「理不尽だ」と批判し、同氏のトルコ政策は個人的またはビジネス上の関係に左右されていると指摘していたと報じた。

 

トランプ氏一族が所有する企業はトルコで事業を展開している。【11月13日 産経】

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いくらなんでも「ビジネス上の関係」でアメリカの対外政策が左右されるということはないとは思いますが、トランプ大統領だと・・・・どうでしょうか。

ロシア疑惑でもウクライナ疑惑でも、国家としての判断と個人の利益の観点がグチャグチャになっているようなところがありますので。

 

なお、エルドアン大統領に関してはシリア北部侵攻で“シリア攻撃はクルド系政党を除くトルコの全野党が支持したとし、「トルコ民族主義を鼓舞し、エルドアン政権への支持が増えた」”【11月7日 産経】とも。

 

 

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ボリビア・モラレス大統領、辞任・亡命に 割れる評価  揺れるチリ、注目されるブラジル・ルラ氏釈放

2019-11-12 22:40:40 | ラテンアメリカ

(亡命のため乗り込んだメキシコ空軍機内でメキシコ国旗を持つボリビアのモラレス氏=11日【11月12日 毎日】)

 

【ボリビア  クーデターか民意の反映か】

南米ボリビア大統領選挙では、事実上、憲法の再選規定を破って4選を目指して出馬を強行した左派モラレス大統領と野党候補の争いとなり、開票率約83%段階の選管当局の集計速報によると、得票率はモラレス氏が約45%、メサ氏が約38%と、その差が10ポイント未満で決選投票が行われると見られていました。

 

しかし、その後その後集計速報が止まり、21日夜に再開するとモラレス氏がリードを10ポイント超に広げており、決戦投票なしでモラレス氏が当選した・・・との結果発表が。

 

さすがにこれでは野党候補側が納得するはずもなく、国際社会も集計発表が中断した24時間に何が起きたのか説明を求めていました。

 

その後は、国内外の批判に加え、軍・警察からも辞任を迫られる形で、結局、モラレス氏は辞任を発表、更に「生命の危機にさらされている」としてメキシコに亡命することに。

 

****メキシコ亡命申請 ボリビア大統領、出国か****

南米・ボリビアで退陣を求める声に押されて辞任を発表したモラレス大統領が11日、メキシコに亡命を申請し、すでに出国したとみられる。

モラレス大統領は先住民出身の左派で、先月の大統領選で4選を果たしたが、ロイター通信などによると、得票に不正操作があったとの疑惑が浮上し、激しい抗議デモが続いていた。

 

さらに、軍や警察からも辞任を迫られたことなどから、10日、辞任を発表した。

11日には同じ左派の大統領が政権を握るメキシコに亡命を申請。メキシコは「生命の危機にさらされている」などとして、亡命を受け入れる方針を示していた。

メキシコの外相は、「モラレス氏を乗せた軍用機は出発した」とツイッターに投稿していて、すでにボリビアを出国したとみられる。【11月12日 日テレNEWS24】

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今回の一連の動きに関しては、野党勢力・軍によるクーデターとするモラレス氏側・左派政権諸国・ロシアと、民意の反映とする野党勢力・右派政権諸国・アメリカで評価が分かれています。

 

****クーデターか、民意の表れか ボリビア大統領のメキシコ亡命が生む新たな混乱****

大統領選の開票作業で不正があったと指摘されたことなどを受け辞任表明した南米ボリビアの左派、モラレス大統領は11日、亡命先のメキシコに向け空路出発したとツイッターで明かした。

 

国内では与野党双方の支持者間で衝突が相次ぎ、暫定大統領の選任手続きは進んでいない。モラレス氏の辞任は民意によるものか、あるいはクーデターと見るべきか、国内外の見方は割れ、混乱が拡大する懸念が出ている。

 

モラレス氏はツイッターで「政治的な理由で国を離れるのはつらい。より多くのエネルギーを備えすぐに戻ってくる」と復帰を誓った。

 

これに先立ち、同じ左派政権のメキシコはモラレス氏が亡命申請をし、これを受け入れたと発表していた。モラレス氏は、野党が操る軍に迫られ辞任に追い込まれた「クーデター」だと主張。メキシコやベネズエラ、ニカラグアなど中南米の左派諸国やロシアも同調した。

 

一方、野党側は「国民の抗議活動は、不正に対する民主的行動」だったとし、ブラジルやアルゼンチンなど周辺の右派諸国もこれを支持する。米国のトランプ大統領も「自由を求めるボリビア国民と憲法を守るボリビア軍を称賛する」とモラレス氏の辞任を歓迎。

 

さらに「民主主義は常に勝つという強力なメッセージだ」と述べ、独裁色を強めたことを理由に米国が制裁を科すベネズエラとニカラグアに警告した。

 

11日にモラレス氏の辞表を受け取った国会は12日、辞任の承認や暫定大統領の選任手続きを進める予定だ。だが、大統領不在の場合に代理を務める副大統領や上院議長らも一斉に辞任。

 

野党のアネス上院第2副議長は、自身が暫定大統領を務め、やり直し大統領選を管理すると主張するが、混乱は避けられそうにない。

 

国会がある事実上の首都ラパス周辺では、辞任を認めないモラレス氏支持者が幹線道路を封鎖し、議員の登庁を妨害する構えだ。対抗する野党支持者は国会周辺に陣取っており、双方の衝突は各地で相次いでいる。略奪や放火も続発し、ほとんどの学校や店舗は閉まり、公共交通機関はストップした。

 

2006年にボリビア初の先住民出身の大統領となったモラレス氏は、貧困層を中心に人気が根強い一方、今回の大統領選には事実上、憲法の多選に関する規定を破って出馬し「独裁的」と批判を受けた。選挙結果についても米州機構(北米・中南米の全35カ国加盟、OAS)が不正と指摘していた。【11月12日 毎日】

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おかしな小細工をせずに決選投票を行っていれば、第1回投票で45%あまりを獲得していたモラレス氏ですから、十分に勝機はあったようにも思うのですが・・・・

 

これまでの3回の大統領選挙では1回目決めており、決選投票はしたくないという長期政権の「驕り」でしょうか。

あるいは、決選投票にもつれ込んだ際の結果に対する「不安」でしょうか。

 

周辺国の評価が割れているため、10日段階では亡命機が出国できていない・・・といった報道もありました。

 

“別の報道によると、モラレス氏を乗せた大統領機は10日午後3時40分ごろ、アルゼンチンに向け離陸したが、国境を接するアルゼンチン、チリ、ペルー、ブラジルに領空の飛行を拒否された。専用機はその後、モラレス氏の政治的な地盤であるボリビア中部コチャバンバ県の空港に着陸した。”【11月12日 朝日】

 

亡命を受け入れたメキシコは左派のロペスオブラドール氏が昨年12月、大統領に就任した左派政権で、「メキシコ政府がモラレス氏を迎えに行く」とも報じられていました。

 

モラレス氏の亡命、後任大統領が決まらないという権力の空白が生じており、一部では暴動も起きているようです。


****ボリビア、モラレス氏辞任で権力の空白 暴動も****

南米ボリビアでは、先月の大統領選での不正疑惑をめぐり数週間にわたり続いた抗議デモの末にエボ・モラレス大統領が電撃辞任したことで、権力の空白状態が生まれている。モラレス氏は11日、自身の地位を奪った反対派勢力に対し「国の平和を回復する」よう求めた。

 

同国の政府所在地ラパスの一部と近郊のエルアルトでは10日夜、略奪行為が起き、店舗やオフィスが破壊された。ラパスのルイス・レビジャ市長は「ラパスは恐怖の夜を過ごした」と述べ、暴動によりバス64台が破壊されたと明らかにした。

 

アンントニオ・グテレス国連事務総長は、指導者不在の様相が強まる同国での治安状況に懸念を表明。米州機構も「平和と法の秩序の尊重」を呼び掛けた。

 

同国ではモラレス氏の辞任表明後、大統領権限の継承者である副大統領や上下両院の議長らが次々と辞任したため、誰が最高指導者の地位にいるのかについての疑問が生じている。

 

大統領権限を継承する次の人物として憲法で定められているヘアニネ・アニェス上院副議長は、新たな選挙の迅速な実施を宣言した。議会は12日、暫定大統領の選出手続きを開始する予定。

 

10日の辞任表明後、コカノキ栽培で知られる同国中部チャパレ地方に逃れたモラレス氏は、ツイッターで、反対派勢力に対し同日起きた暴動の「責任を取る」よう要求。

 

同国初の先住民出身大統領だったモラレス氏は、大統領選を争った野党のカルロス・メサ元大統領と反モラレス派指導者ルイス・フェルナンド・カマチョ氏について、「人種差別主義者でクーデターを企てた人物として歴史に残るだろう」とも述べた。 【11月12日 AFP】

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【チリ 反政府デモの要求に屈する形で新憲法策定に着手】

以前から取り上げているように、南米ではボリビア以外でも、左派政権のバラマキ政策で財政が悪化、右派政権に代わったものの、「痛みを伴う改革」に国民が反発・・・といった形で政治混乱が起きていますが、そのひとつがチリ。

 

チリでは先月20日のデモ開始時からこれまでに20人が死亡したとのこと。

デモの影響で、ピニェラ大統領は年内に予定していたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議と国連の気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)の開催中止に追い込まれていました。

 

****反政府デモ続くチリ、改憲へ デモ隊の主要要求****

反政府デモが3週間にわたって続いているチリのゴンサロ・ブルメル内相は10日、新憲法の草案作成が始められると発表した。

 

新憲法の草案は憲法制定会議で作成され、その後国民投票によって承認されるという。アウグスト・ピノチェト独裁政権(1973〜90年)下で制定された現憲法の改正はデモ隊の主要な要求の一つだった。

 

発表に先立ちブルメル内相は、これまで改憲に最も消極的だった中道右派と右派による政党連合と協議した。

 

チリではここ3週間、低い賃金、高い教育費や医療費、一握りのエリート層による政治と経済の独占、格差の拡大などに不満を爆発させた市民らが、時に暴徒化しながらデモを繰り返している。

 

発端は、地下鉄料金の値上げに反対して10月18日に始まった抗議行動だったが、デモの規模は拡大し、物を燃やしたり略奪したりする行為や、デモ隊と警察の衝突が頻繁に起きた。

 

デモ隊が掲げる要求の一つが改憲だが、世論調査会社カデムが3日に発表した調査結果によると、国民の87%が憲法改正に賛成しているという。 【11月11日 AFP】

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新憲法策定に着手するということで、ここ数週間にわたる反政府デモの要求に屈した格好ともなっています。

 

【ブラジル 人気が高いルラ元大統領釈放で左派が息を吹き返すか?】

一方、「ブラジルのトランプ」ことボルソナロ大統領のブラジルでは、国民的人気の高いルラ元大統領が釈放されたことで、今後の動きが注目されています。

 

****ブラジル、ルラ元大統領釈放 経済改革への影響に懸念も****

収賄罪などで有罪判決を受け、昨年から服役していたブラジル元大統領のルラ被告が8日、裁判所の判決によって南部クリチバの収監先から釈放された。金融市場には動揺が走り、政界では右派、左派ともにデモを呼び掛けるなど反響が広がった。

ルラ被告は、昨年の大統領選で勝利した極右のボルソナロ大統領について、自身が所属する左派・労働党が2002─16年に担った政権を「略奪」したと批判。

ただ、市場では、ルラ被告が政界に復帰し、野党を一致結束させて市場寄りの政策を推進するボルソナロ政権に対抗するとの懸念が広がり、通貨レアル<BRBY>と主要株価指数のボベスパ<.BVSP>は同日、ともに1.8%下落した。

最高裁は7日、二審で有罪になれば刑の確定を待たずに収監されるとする判例は違憲との判断を下した。これを受けて連邦裁判所は8日、ルラ被告の釈放を認めた。ルラ被告は昨年、収賄罪で禁錮8年10月の有罪判決が言い渡されていた。被告は無罪を主張している。

コンサルティング会社アルコのルーカス・デアラゴン氏は、ルラ被告の釈放は「労働党を強めるだけでなく、アンチ・ルラ、ひいてはボルソナロ派の強化につながるとみられる」と指摘。

議会における労働党の勢力は弱いため、ルラ被告の釈放がボルソナロ政権の掲げる経済改革にすぐに影響を与えるとは言い切れないものの、来年の地方選挙を前に左派が息を吹き返す可能性はある。

デアラゴン氏は「市場にとって大きな問題は2020年の選挙にルラ氏が立候補できるかどうかで、その可能性は低い」とした。

人を引き付ける演説力でカリスマ的な人気を誇ってきたルラ被告だが、2025年まで選挙に立候補すことが禁じられている。今回の釈放は三審で刑が確定するまでの措置で、裁判が長期化する可能性もある。【11月11日 ロイター】

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ウズベキスタン  前独裁政権と決別し、「改革」を進める現政権

2019-11-11 10:02:06 | 中央アジア

(ティムールの故郷にたつ銅像)

ここ数年のウズベキスタンの政治・社会を表すキーワードは「改革」でしょう。

その「改革」の出発点となったのが、独裁者カリモフ大統領の死亡でした。

 

****<ウズベキスタン>内政の不安定化懸念 カリモフ大統領死去****

ウズベキスタンで2日死去が発表されたイスラム・カリモフ大統領(78)の葬儀が3日、故郷の中部サマルカンドで営まれた。独裁体制を敷いた初代大統領の死去が内政の不安定化につながらないか懸念される。

 

国外の専門家らは、葬儀委員長に選ばれたミルジヨエフ首相(59)が最有力の後継者候補との見方を示している。(中略)

 

ロシアの中央アジア専門家、グロジン氏は「ウズベキスタンのエリートたちは体制維持を望んでおり、後継者問題を円満に解決できるだろう」とタス通信に語った。

 

カリモフ氏は技師出身で旧ソ連共産党員として出世し、ソ連ウズベク共和国党第1書記を経て1990年に共和国大統領になった。91年の直接選挙で独立後の初代大統領に選ばれ、昨年3月の選挙まで連続4選を重ねた。【2016年9月3日 毎日】

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“同国がソ連から独立した1991年をまたいで政権を握り続けたカリモフ氏の支配は拷問と強制労働に支えられていたと人権団体は主張している。カリモフ氏は国外から、一切の批判を容赦なく弾圧する「最も残酷な独裁者の一人」と呼ばれていた。”【2016年9月4日 AFP】

 

2016年12月4日に実施された大統領選で、首相のシャフカト・ミルジヨエフ大統領代行(59)が得票率88・61%で圧勝し、次期大統領に。

 

「ウズベキスタンのエリートたちは体制維持を望んでおり・・・」とのことですが、ミルジヨエフ大統領は政治・経済・社会の改革を急速に展開しています。

 

****シルク大国の夢再び 「インスタ映え」ウズベキスタン、ビザ免除で開放路線走る****

中央アジアに一体化の機運

グローバル化が進み、大陸内奥で山々に囲まれた中央アジア諸国もつながり、開いていく。ウズベキスタンでは養蚕・絹産業が復活、さらに地域大国として改革が進むことが期待され、中央アジアとしての一体感が出始めている。

 

■「新しいシルク時代の到来」

繭をゆでる生臭い湯気と、糸を紡ぐ機械音のなかで、女性たちは慣れた手つきで仕事をしていた。かつてシルクロードの要衝として栄えたウズベキスタンの古都ブハラにある製糸工場。社長のバフティヨル・ジュラエフ(39)は「忙しくて休みもなくなったが、新しいシルクの時代の到来だ」と笑顔で語った。

 

実は、ウズベキスタンは1000年を超える養蚕の歴史を持つ。ソ連時代は周辺国に繭や生糸を輸出していた。しかしソ連が崩壊し、独立すると政府の買い上げがなくなった。経済も停滞、中国産が台頭して養蚕業は衰退した。

 

約90年前に創業したジュラエフの会社も、この20年間に2度の倒産を経験した。

 

養蚕・絹産業の復活を試みた政府は、2009年から本格的に日本の技術的支援を受け始めた。さらに、経済改革を掲げて16年に就任した大統領ミルジヨエフ(61)が絹産業の振興方針を示したことが追い風になった。(中略)

 

従業員女性(39)は「給料が増え、夫は出稼ぎに行かなくても済むようになった」と話した。

 

■新大統領が走る開放路線 観光も活性化

1991年の独立以来、大統領職にあったカリモフが2016年に78歳で死去。後継のミルジヨエフは孤立主義的な外交、経済政策の転換に着手した。

 

ウズベキスタン出身で中央アジアの政治に詳しい筑波大大学院准教授のティムール・ダダバエフ(43)は「ミルジヨエフは改革を進めて、ウズベキスタンを国際物流における中央アジアの中心に位置づけたい考えだ。経済が活性化すれば、ウズベキスタンの地域大国としての地位も高まる」との見方を示した。

 

開放で観光も活性化している。昨年2月、日本や韓国など7カ国の観光客について30日以内の滞在であればビザ不要にした。7月には101カ国に対し、5日間のビザなし滞在を認める大統領令を出した。中央アジアの中でも世界遺産をはじめ見どころが多く、「インスタ映えする」と日本からの若い観光客も急増、前年比50%近い伸びだという。(中略)

 

■「ロシアは警察官、中国は銀行員」

隣国カザフスタンの政治評論家、ドスム・サトパエフ(44)は「中央アジアは地域としてまとまる意識が希薄だったが、最大の人口を擁するウズベキスタンの改革で一体感が芽生え始めている」と話す。

 

とはいえ、旧ソ連時代から強固な関係を持つロシアの中央アジアに対する軍事的・戦略的な「既得権益」への関心は高い。一方、経済的な中国のプレゼンスは日に日に高まっている。

 

カザフスタン戦略研究所の元所長で現在は国営放送局理事長のエルラン・カリン(42)は両国を「中央アジアにとってロシアは警察官、中国は銀行員」と表現した。【2月5日 GLOBE+】

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特に、カリモフ前大統領との決別を明確に示したのが、同氏親族の不正を追及し、逮捕した件でした。

 

“(カリモフ前大統領の娘で元歌手の)カリモワ被告は2017年、ウズベキスタンで詐欺と資金洗浄の罪で禁錮5年の有罪判決を受けて自宅軟禁下にあったが、ウズベキスタン当局は今週、軟禁条件に違反したとして同被告を収監したと明らかにしていた。”【3月8日 AFP】

 

カリモワ被告に関しては、アメリカ検察当局は3月7日、ロシア通信大手と共謀して総額8億6500万ドル(約960億円)を超える賄賂を受け取り、約10年にわたってマネーロンダリング(資金洗浄)を行っていたとして、「海外腐敗行為防止法」違反で起訴しています。

 

こうしたウズベキスタンの前大統領との決別は、中央アジアの他の独裁国にも影響を与えており、隣国カザフスタンで長期政権を維持してきたナザルバエフ大統領は3月19日、辞職を表明しています。

 

自身の政治力があるうちに「院政」を敷く形で、長女など親族への権力移譲を可能にする道筋をつけようとする目的に沿ったものと見られています。

 

ウズベキスタンで進む改革に、下記のような”熱い“期待も。

 

***** 中央アジアの隆盛が再び*****

中央アジアは、現在先進国に遅れ地政学的にも孤立気味なので世界から忘れられそうな存在になっている。

 

しかし、紀元前1000〜2000年前は、東西を結ぶシルクロードの中心のオアシス都市として栄え、東西の文物が行き交った文化・文明の中心地だった。青いモスクや美しい建物にその面影をはっきりと残している。

 

時代はいま日本や欧米の先進諸国に元気がなく、中国や東南アジア諸国などが成長を遂げて投資を集めている。

 

中央アジア地域も平均年齢が20〜30代で人口が急増し(20年前のウズベキスタンの人口は2200万人だったが、現在は3200万人)、2025年には1億人に達するとの予測もある。人口増大は成長の柱であることを考えると、21世紀半ばには再びウズベキスタンを中心とする中央アジアの時代がやってきそうな予感がする。【9月20日 嶌信彦氏 JAPAN In-depth】

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ほんの数日の観光旅行でも、ホテル・レストランの対応など、多くの課題が存在していることはすぐにわかりますが・・・・

 

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ウズベキスタン 消失したアラル海に復活の期待も 綿花栽培の労働環境は改善との報告

2019-11-10 08:52:29 | 中央アジア

(塩の大地を行くラクダ。ここはかつて、アラル海の底だった=カザフスタン・ボゲン村、川村直子撮影【2018812日 朝日】)

【縮小したアラル海に改善の希望?】

5日から中央アジア・ウズベキスタンを観光しています。

 

世界には、 陸の国境に囲まれていて、海岸線を持たない「内陸国」が48カ国あるそうですが、国境を接する全ての国が内陸国である内陸国のことを「二重内陸国」といいます。

 

つまり、二重内陸国では、に出るために少なくとも2つの国境を越えなければならないことになりますが、現在世界にある二重内陸国は、リヒテンシュタイン公国(侯国)ウズベキスタン2カ国のみです。

 

ただ、ウズベキスタンが「海」に縁がないかと言えば、そういう訳でもなく、かつては漁業も栄え、缶詰などの水産加工工場も多くありました。

 

というのは「内海」アラル海を擁していたからです。アラル海沿岸の「港町」には、遠くモスクワなどからやってきた船が多く係留されていたとか。

 

しかし、現在では漁村は消失し、水産加工工場は潰れ、多くの船が干上がった陸地にその残骸をさらす「船の墓場」ともなっています。

 

原因は、周知のアラル海の急速な縮小です。

 

****干上がったアラル海のいま 環境破壊、報いの現場を歩く****

中央アジアカザフスタンウズベキスタンにまたがる塩湖「アラル海」。日本の東北地方とほぼ同じ広さの湖面積が、わずか半世紀で10分の1にまで干上がった。

 

漁村は荒廃し、乾いた湖底から吹き寄せられた塩混じりの砂が町村を襲う。ソ連時代の無謀な水資源計画のつけを、人々は今も払い続けている。

 

アラル海―20世紀最大の環境破壊

アラル海北部。カザフスタンのボゲン村。白い大地が見渡す限り続いていた。その上を家畜のラクダが村人に引かれて悠々と歩いていく。

 

雪の大地を行くようだが、白く見えているのは塩湖が干上がって析出した塩だ。かつてはアラル海に面した漁村だった。湖面は今やはるか10キロ先。漁業は衰退し、塩混じりの砂がたまって学校が移転する事態も起きた。

 

アラル海の湖面積は1960年ごろは6万8千平方キロだったが、近年は10分の1に。

 

干上がった原因は、ソ連が第2次大戦後に実施した大規模な灌漑(かんがい)政策だ。アラル海に注ぐ、2千キロ以上を流れるシルダリア川とアムダリア川の水を、流域の綿花と水稲の栽培拡大に使った。

 

国連環境計画によると、60年に約450万ヘクタールだった灌漑農業用地は、2012年には約800万ヘクタールへと増加。それと引き換えに、アラル海に注ぐ年間水量は5分の1以下になった。持続可能でない水利用は、アラル海の水量を保てる量をはるかに超えた。

 

ボゲン村のような光景はアラル海のいたる所で見られる。カザフスタン・クズルオルダ州政府の資料などから推測すると、漁場を求めたり砂に追われたりして移住を余儀なくされた環境移民は数万人規模に上るとみられる。「20世紀最大の環境破壊」とも言われる。

 

クズルオルダ州のクリムベク・クシェルバエフ知事(63)は「アラル海の危機は、自然に対する人間の無責任さの実例だ。綿花や米を栽培する必要があったしても、環境と人々の健康に回復不能な損害を与えていいことにはならない」と話す。【2018812日 朝日】

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アラル海の縮小によって漁業関連が壊滅しただけでなく、“最初は強制的な灌漑により耕作できた土地も、塩害の進行とともに放棄せざるを得なくなった”【ウィキペディア】とも。

 

さらに健康被害も。

 

****健康の悪化****

砂漠化した大地からは塩分や有害物質を大量に含む砂嵐が頻発するようになり、周辺住民は悪性腫瘍結核などの呼吸器疾患を患っている。

 

結核の蔓延には貧困による栄養不足などの複合的な原因があると言われている。

 

飲料水も問題であり、カルシウムマグネシウムナトリウム、微細な砂を含む飲料水を長期間飲み続けている住民は腎臓疾患を発症している。【ウィキペディア】

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上記のような惨憺たる状況はよく知られているところですが、今回の旅行の現地ガイド氏の話によると、今年1月にカスピ海からの水がアラル海に噴出していることが確認されたそうです。

 

カスピ海とアラル海の間は地下水脈でつながっていることは以前から知られていました。

では、なぜその水脈が止まってアラル海が縮小したのか、なぜまた復活したのか。

 

そのあたりは定かではありませんが、ガイド氏の話によれば、ソ連時代、カスピ海とアラル海の間には「爆弾の施設」(核兵器地下実験場のことでしょうか)があったことが、水脈の停止、そして現在の復活に関係しているのでは・・・・との説があるそうです。

 

いずれにても、この水脈がこのまま稼働すれば、やがてアラル海が復活する・・・・との期待も出てきているとか。

 

【綿花栽培における労働環境は改善したとのILO報告】

一方、ソ連時代からの綿花栽培の政策的拡大は、ゆがんだ農地・灌漑の拡大だけでなく、綿花収穫時などに大量の労働力を必要とします。

 

ウズベキスタンは、独立後もソ連的な統治スタイルを維持する傾向が強く、10年ぐらい前でしょうか、NHKTV番組で、独立後のウズベキスタンでソ連時代の「動員」による強制的な労働が綿花の摘み取り作業においてなされているといったことを報じていました。

 

しかし、そうしたウズベキスタンにおける綿花栽培の労働環境も改善されたとのILO報告があります。

 

****ウズベキスタンの綿花畑における、強制労働と児童労働問題の進展 ****

20194月、ILOは「ウズベキスタンにおける2018年の綿花収穫で、政府による組織的な児童労働や強制労働はなかった」とする報告書を公表した。

 

報告書によると、綿摘み労働者の賃金は上昇傾向にあることも明らかになった。

 

ウズベキスタンは世界第6位の綿花生産を誇り、人口の18%にあたる約250万人が綿摘み作業に従事している。同国では、かつて綿摘み期間中の強制労働や児童労働が深刻な問題となっていた。

 

ILO2013年以降、ウズベキスタンの綿花収穫における児童労働の監視を行ってきた。また2015年からは、世界銀行との協定によって強制労働も監視対象としている。

 

今回公表された報告書は、ILOの専門家及び現地の人権活動家が、ウズベキスタン国内の綿花収穫に携わる11,000人超に、単独かつ匿名でインタビューした結果をまとめたものである。

 

報告書では、93%の労働者は任意で作業に従事しており、組織的な強制労働は過去の話だとしている。

 

また回答者のうち、前年比で労働環境が大幅に改善(Significantly better)もしくは若干改善した(Slightly better)と回答した人が63%であり、悪化したと回答した人は2%のみであった。

 

ウズベキスタンのタンジラ・ナルバエワ副首相は「(綿花収穫の労働問題について)教育機関や地方政府機関向けに様々な意識喚起プログラムや生産能力強化プログラムが実施され、フィードバックのメカニズムも構築されている。今後もILO、世界銀行および市民社会と連携し、この分野で持続的な成果を上げられるよう取り組みたい」と述べる。

 

また報告書によると、2018年の綿摘み労働者の賃金は前年比で最大85%上昇した。綿摘み作業1人当たりの就労日数は年平均21日ほどで、その収入は個人の年収の39.9%に相当する。

 

ILOは自発的な就労者がより集まるよう、政府が継続的に賃金を引き上げるとともに、適正な労働・生活環境の確保を提言している。

 

賃金の引き上げは特に地方の女性に恩恵をもたらしている。ウズベキスタンでは年間115万人が綿花栽培の雑草処理作業に従事しており、うち6割の就労者は女性、かつ85%が地方に居住している。多くの女性にとって、綿摘みや雑草処理作業は重要な収入源であり、家庭環境の改善に役立っている。

 

一方、報告書は、政府レベルでの取り組みは功を奏しているものの、地域レベルでは多くの課題が残っていると指摘する。

 

ウズベキスタンの労働省と労働組合が運営する機関が、通報を受けた2,500を超える案件を調査したところ、206人の公務員と幹部職員が強制労働をめぐる違反で罰金、降格、解雇などの処分を受けた。

 

また、ハインツ・コラー(Heinz KollerILO欧州・中央アジア総局長は「2018年は、ウズベキスタンの綿花収穫において、児童労働と強制労働をめぐる改革の進捗とその撲滅に向けた取り組みの成果を示す重要な節目となった。

 

一方で、綿摘み作業を強制されたと回答した労働者もなお少数(全体の6.8%)いることもわかった。これは、17万人に相当する」と述べる。

 

ウズベキスタンの綿花収穫における労働問題の進展に対し、歓迎する姿勢を示す人権活動家も現れた。独立系の人権活動家で、ILOによる2018年度の監視活動にも参加したアザム・ファーマノヴ(Azam Farmanov)氏は、「ウズベキスタンでは真の変化が起きており、人々は違いを実感している。いまだ問題が解決していない地域が多くあるが、児童労働と強制労働が大きく改善されたことで、他の問題についても進展が見込まれると楽観視している」と述べる。【58日 EGS研究所】

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