孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

日本  「没落途上国」日本の現実 

2022-07-11 22:31:53 | 日本
(【1月27日 連合ダイジェスト】 日本の“一人負け”状態は周知のところですが、この図でイタリアも賃金が上がらない国だということに気付きました。この件はまたそのうち。)

【中国、韓国にも抜かれ、ハンガリー並みのビッグマック指数】
日本は長年、経済成長が低迷して物価が上がらないデフレから脱却できずにきました。
ここにきて、ウクライナ危機などによって物価が上昇し始め、昨日の参院選の争点にもなりました。

確かに、政府や日本銀行が目標としてきた2%の物価上昇率が実現しましたが、政府・日銀が想定していたような物価も上がり、生産も拡大し、賃金も上がる・・・といった好循環をもたらす類ではないとの指摘も。

最近よく目にするのは、世界的に見ると日本の物価が非常に安いという趣旨の記事。長年のデフレの結果です。

よく取り上げられる指標に「ビッグマック指数」というものがあります。
ビッグマック指数とは、各国の経済力を測るための指数で、(世界中の多くの国で販売されているほぼ同質の)マクドナルドのビッグマック1個の価格を比較することで得られます。

英経済誌「エコノミスト」の調査によれば、今年1月時点の日本のビッグマックの価格は390円で57カ国中33位。
日本の順位は長期的に低下しています。

物価安いことはいいことのようにも見えますが、このビッグマック価格が安いということは、その国の賃金が安く購買力が小さいということも示しています。

****「ビッグマック指数」中国、韓国に抜かれた!安すぎる日本の悲鳴****
「ビッグマック指数」が年々低下していて、日本経済の停滞が懸念されています。すでに中国、韓国より低下し、「安い日本」の象徴となっています。世界各国のビックマック指数をみてみましょう。

各国の物価を測る「ビッグマック指数」
いま日本の「ビックマック指数」の低下に注目が集まっています。 ビッグマック指数(Big Mac index:BMI)とは、各国の経済力を測るための指数です。世界のマクドナルド店舗で販売されているビッグマック1個の価格を比較することで算出されます。

日本は57ヵ国中33位。中国、韓国よりも低くなっているのをご存じでしょうか。 (中略) アジアでは、シンガポール(4.36ドル)15位、タイ(3.84ドル)25位、中国(3.83ドル)26位、韓国(3.82ドル)27位。日本は3.38ドルの33位に沈んでいます。 (中略)

(ビッグマックは)世界中でほぼ同一品質のものが販売されています。厳密には各国で多少異なりますが、原材料費や店舗の光熱費、店員の賃金などが価格に反映されているビッグマックは、商品を販売している国の総合的な通貨の購買力を比較するのにふさわしいと考えられています。(中略)

(上記結果は1ドル=115.23円で計算されていますが)2022年に入って、より円安が進んだ日本。ちなみに1米ドル=126円で計算すると、△46.45%と、40位のハンガリーに並びます。 

実は、日本のビッグマック指数のランキングは、年々低下しています。例えば、2000年のランキングでは日本は5位でした。

この時、日本のビッグマック価格は294円で、アメリカは8位で2.51ドルでした。この時の為替相場は約107円なので、アメリカで食べるビッグマックは268円だったことになります。

 2000年当時、アメリカ人が日本に来てビックマックを買えば、「日本は物価が高い国だ」と感じ、逆に、日本人がアメリカに行けば、「物価が安い国だ」と感じたはずです。それが現在は逆転して、その差がどんどん広がっています。

国全体が安くなっていく日本の実像
さらに「ビッグマック指数」は、各都市の物価に比した賃金水準を推計することが可能です。つまり、ビックマックの価格が安い国は、賃金も安い。世界的に日本の労働力は安くなっているのです。 

実際に、それはOECDのデータが証明しています。 賃金の国際比較でよく用いられるOECD(経済協力開発機構)のデータを見ると、2020年の韓国の年間賃金は4万1960ドルです。これに対して日本の平均賃金は、3万8515ドル。 

いつ韓国に賃金で逆転されたのでしょうか。日本の賃金は過去20年間でほとんど増えていません。これに対して韓国の賃金は40%以上伸びています。その結果、2015年の時点で韓国に逆転されました。

韓国だけでなく、米国やカナダ、ドイツなど世界の先進国の平均賃金は右肩上がりで伸びているので、その差は拡大する一方です。 

またコロナ前には、中国人旅行客が日本の大量の買い物をする「爆買い」が話題になりました。これには理由があって、一つは、日本国内の物価が安いこと、もう一つは、円安になったからです。 

さらに、インバウンドビジネスが盛り上がり、2030年に6000万人の目標を掲げていましたが、日本が評価されたわけではかったのです。外国人からすると日本は旅行に行きやすい国、物価が安い国になっていたわけです。(後略)【4月20日 GOLD ONLINE】
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物価状況で日本と世界の違いが出た理由は、1990年代初頭にバブルが崩壊した後、日本の経済が「日本病」と呼ばれるほどの長期停滞に陥ったためです。消費の低迷で企業が商品やサービスの価格を上げられず、働き手の賃金も上がらないことで、さらに消費が停滞する悪循環に陥いりました。

最近の物価上昇については、「今の日本は、慢性デフレと海外発の急性インフレが同時進行している」(東京大学の渡辺努教授)といった指摘、急上昇する「企業物価指数」と緩慢な消費者物価指数の乖離は相変わらず企業の価格転嫁が難しい状況をしめしている、結果、企業の生産拡大、賃金上昇も困難との指摘などもあります。

ただ、事態は動き始めたところで、今後の状況次第では好循環につながる変化もあるのかも・・・・そうあって欲しいですが。このあたりはもう少し様子を見たうえで改めて取り上げることに。単なる経済問題というより、社会心理みたいなものが影響しているようにも。

【値上げラッシュが相次ぐ日本国内だが、それでもまだ「全然安い」】
いずれにせよ、昔東南アジアを旅行して「物価安いね・・・」と感じた思いを、今は日本に来る外国人が感じているという状況。また、今海外に旅行すると、その物価の高さに驚くという状況になっています。

****海外旅行再開で日本人が改めて直面する「没落日本」のリアル****
「格安な海外で買い物三昧」はもはや過去の話
海外旅行で、豪遊や買い物三昧。今の日本人にとって、もはや過去の話だ。現地へいざ行くと、数年前より明らかに割高感ある国・地域が増えた。逆に、近ごろ一時帰国した在外邦人らから「日本はなにもかも安い」との声も聞かれる。値上げラッシュが相次ぐ日本国内だが、それでもまだ「全然安い」という。(中略)

筆者は昨秋から今年にかけ、アメリカ、ヨーロッパ、東南アジアをそれぞれ訪れた。いずれの国・地域でも、コロナ禍の前から物価上昇を感じてはいたものの、さらに「円安」「インフレ」も合わせて「日本が貧しくなってきている」のを現地で実感させられた。

アメリカではハンバーガーセットが1000円超え
まずは、アメリカ。訪米当時まだ1ドル=110円だった。中華料理やハンバーガーのセットが8ドル(約880円)、レンタカーが1日84ドル(約9300円)、3つ星ホテルが1泊125ドル(約14000円)など。コロナ前は同じハンバーガーのセットが6~7ドルだったので、ちょっと値上がりしたなと感じた。これが現在の1ドル=135円で計算すると、8ドルだと日本円にして1000円を超える。

当時それより驚いたのが、ハンバーガー店に貼ってあったアルバイトの求人だ。時給17.95ドル~20.75ドル、各種健康保険、有給休暇、食事無料付きなどとあった。当時で約2000円以上、今だと約2800円だ。ちなみに、日本で最も高い東京都でも最低賃金は時給1041円である。(中略)

シンガポールの『ダイソー』は、値上げで「2.14SGD(約214円)均一」に
続いて、アジア。筆者は2022年6月にシンガポールを訪れた。最も感じた物価高はホテル代金。3つ星ホテル程度だと1泊1万円ではほぼ見つからず、2~3万円もザラで連泊すると痛い出費に。1シンガポールドル(SGD)=86円ほどの感覚だったが、今回は円安につき1SGD=100円換算だった。

また、現地の『ダイソー』も、基本2SGDから2.14SGDに今年5月より値上げ、公共交通機関も昨年12月に値上げされた。現地で食べたチキンライスは最安3.5SGD(約350円)で、これ以上の値上げも今後あり得ると現地で聞いた。

西ヨーロッパはもはや「別世界」、現地在住者も悲鳴
さらに、ヨーロッパでは、ここ数年で現地での割高感がさらに上がった。筆者が訪れた今年の4月、1ユーロ=136円ほど。特に「外食」が高かった。(中略)

バブル期の海外で起きていた現象が日本人に降りかかる日も近い!?
海外がいくら高くとも「日本国内にしかいないから関係ない」と思うかもしれない。しかし、そうでもない事態が近い将来に起ころうとしている。

訪日外国人旅行客は、現在はツアーのみだが、そう遠くない日に自由行動もできるようになるだろう。そうなった時、外国人が日本で豪遊する光景を目の当たりにすると考えられる。

5月半ば、ニューヨークから東京へ一時帰国した日本人は「すべてが3割引きな気分でした」と話していた。これは今後、訪日する外国人旅行客にも当てはまる。日本人は賃金が上がらないうえに値上げラッシュで生活が苦しくなる一方、日本で「爆買い」する外国人。

確かに、日本の経済的にはありがたい限りではある。しかし、海外旅行が高くて行きづらくなり、さらに日本の割安さを存分に楽しまれては、なんとなく悔しい、虚しい気持ちにならないとも限らない。

かつて新興国で、日本人が大いに豪遊していたのを、複雑な気持ちで眺めていたであろう現地の人々。それをまさに日本人が、日本で味わう日が刻々と近づいているかもしれない。【7月1日 FRIDAYデジタル】
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【「格」が落ちつつある日本 厳しい現実ではあるが、この事実から学ばなければ未来はない】
****在日経験のある外国人たちが「日本の没落」を口にし始めているという厳しい現実****
日本は世界でも有数の治安の良さと安定した経済の国で住みやすい、と長らく日本人は信じてきたが、どうやらそれは過去のことになっているらしい。ライターの森鷹久氏が、在日外国人達の本音から垣間見える、日本の「没落」についてレポートする。

何かにつけ「日本はスゴイ」と自負してきたが、かつてのように豊かで過ごしやすく、世界から憧れられる国ではなくなってきていると、愛国心を標榜するネットユーザーでも認めざるをえないほど、その「没落」を実感しつつある。

もっとも、何を持って「貧しい」とするかは人によって見解も大きく異なるだろうが、やはり日本の「格」が落ちつつあることを、かつて日本で働き、暮らした人から聞くと説得力が違う。

「日本はもういいです、行きたいとは思いません」
筆者のオンラインインタビューに答えてくれたのは、ベトナム在住の自動車販売会社経営・フォンさん(仮名・30代)。彼は新型コロナウイルスの感染拡大直後までは「技能実習生」として、関東某県の水産物加工場で働いていた。だがコロナ禍によって工場を経営する親会社の業績が悪化すると、勤務日を減らされ、月に十数万円ほどだった給与が下げられたという。

ただでさえ少ない給与がさらに減ることは、フォンさんにとって人生を揺るがす大事件だった。というのも、彼は莫大な借金を背負って日本にやってきていたからだ。

海外からの実習生の中には、多い場合では100万円近い手数料を母国の業者に支払い来日していた人が少なくなかった。フォンさんも、その支払いのために借金をし、来日後に働きながら借金を返すという実習生の一人だったのだ。

そもそも外国人技能実習生の募集においてブローカーが介在することは禁じられているし、たびたび摘発もされてきたが、希望通りの国へ確実に派遣される方法としてのニーズは根強くあり、だからこそこうした業者がは今なお存続している。そんな業者を介して希望した日本へフォンさんはやってきていた。

技能実習生の給与は1か月15~20万円ほどだと言われ、そこから社会保険料や所得税・家賃・水道光熱費、滞在先によってはWiFi使用料等が差し引かれるため、手取りは十数万円というケースが多い。決して高給取りではないところに、コロナ禍で仕事が減って給与が削減されると、母国で待つ家族への送金はおろか借金も返せなくなってしまった。明日食べるものにも困る実習生が相次ぎ、犯罪に手を染めるものがいたことは、読者もご存知の通りだろう。(中略)

フォンさんにとって、日本は憧れの国だった。日本旅行を経験した両親から「日本人はみんな優しい」「街はどこも綺麗で未来的」と聞かされて育ち、日本人のファッションを真似たり、日本のテレビを見て漫画を読み漁った。だが、実際に来日して、お客さんではなく働く一人にとって、日本という国や日本人は優しくないことを思い知らされ、日本に裏切られたような気持ちになった。

「コロナになってからの日本人は、さらに優しくなくなった。お金もくれない、差別もするから、ベトナム人だけでなく外国人(実習生)みんなが日本を嫌いになりました。だから、悪いことをしてもいいと思うようになった。お金だけ稼いで、早くベトナムに帰ろうといつも話していた」(フォンさん)

フォンさんははっきりと語りたがらないが、SNSの投稿を見る限り、スマホの不正入手や転売だけでなく、日本国内で使用される身分証明書の偽造にも関わっていたようだ。こうした犯罪は、日本人の首謀者がいて、弱い立場の外国人が実際の任務を請け負う場合がほとんどだが、そのなかでもフォンさんは実行部隊のリーダー格だったと思われる。(中略)

彼らは、日本人から見れば外国人による「組織犯罪グループ」そのものである。しかし、フォンさんには罪の意識がほとんどない。それはやはり、日本への失望があったから、そして自分達を見下す日本人に「やり返したい」という気持ちがあったからに他ならない。

「このまま日本にいては死ぬと思った。だから少し悪いことでもやって、お金を貯めて国に帰った。人を殴ったりはしていない。そのお金で、車の会社を始めた。いい人もいたが、ほとんどの人が外国人をバカにした。日本への憧れはないし、今は嫌い。二度と行きたくない」(フォンさん)

窮した在日外国人が違法と脱法を繰り返している実情は極端な例かもしれない。そんな人の日本観を聞いても極論だと思うかもしれないが、もっと余裕があるはずの外国人の言動からも「日本の没落」を感じる瞬間が増えてきた。

コロナ禍に収束の兆しが見え、韓国や中国人たちが「コロナ明け、日本に旅行に行きたい」というインタビュー映像がテレビで放送されているのを、筆者は眺めていた。筆者の中国人や韓国人の友人も「早く日本に行きたいねと」言ってくれるから嬉しい気持ちになったが、詳しく話を聞くと、以前の感情とは少し違うらしいことがわかる。

「日本に行って欲しいものは薬くらい。食事やショッピングは中国の方が充実しているし、似たような顔の日本人が、中国とは全く違う文化の中で生活しているのが面白い。あと、日本人は気が弱いから、他の国に行くよりも自由さを感じられる。女の子も、自然な感じで小さくてかわいいしね(笑)。あと、上海より何もかも安い。それこそ、夜の遊びは上海の半分以下で楽しめる。中国のあまりお金を持ってない人でも、日本に行けばたくさんモノを買える」

こう話すのは、上海在住の中国人の友人だ。欧米へのコンプレックスと、でも中国は今ではアジアで一番なのだという自負が混ざった、正直な言葉だろう。

彼に悪気はないのだろうが、日本人の筆者としては正直なところ、面白くはない。さらに「日本の安さ」を指摘されると、アジアナンバーワンを自負していた日本の没落を嫌というほど痛感するしかない。さらに、韓国人の友人はもっとはっきり、我が国の没落を指摘する。

「昔は日本に憧れていたけど、今は同じか、少し韓国の方が勝っているんじゃないかと思う。音楽やファッションなど最新文化では、完全に日本を追い越しているように感じるし。日本で働きたいという韓国人は、以前は多かったし僕もそうだったけど、今はそう思わない。韓国でも若い人は給料が低いけど、日本人ほどじゃないし」

若者は高学歴でも仕事がなく稼げない自国の経済状況を「ヘル韓国」と自嘲し、だから日本で働きたいと言っていた数年前が嘘のようだ。もちろん韓国の若者たちの生活だって厳しいし、それ故に出生率も日本同様に低水準だ。それでも日本よりもマシなのだと彼らは思っていることが伝わってきた。

日本が「格下」になったという認識は、外からの目だけではない。長年、いわゆるネット上の「保守業界」をウォッチしてきた筆者が感じているのは、特に中国や韓国を見下すような言説が、以前ほどコンテンツとして消費されなくなってきていることだ。

ただ残念ながら、こうした業界周辺が「差別的」ではなくなった、ということではない。あのムーブメントこそ、今思い返してみると「先進国」らしさを少しでも抱いていたいという、歪んではいるものの「プライドの残滓」だったのかもしれない。事実、当時より日本が進歩した、成長したと思われる部分は、現在何一つない。

コロナ禍収束の兆しが見え始め、新たな国際社会の序列、図式を目の当たりにした時「負けていられない、頑張ろう」と思える、底力のある日本人がどれほどいるのか。別に「外国人に好かれようとすべき」とは思わないが、日本を嫌いになり、見下す外国人が目立ち始めていることは確か。厳しい現実ではあるが、この事実から私たちは多くのことを学ばなければ、未来はない。【7月4日 NEWSポストセブン】
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【参院選で与党大勝 有権者はこれまで同様、日本が衰微していくシナリオを選んだ】
日本は変われるのか? 内向き志向が顕著で、安心・安全に固執し、リスクのある新たな試みを避けたがる日本はこのまま衰退するしかないようにも。

****「現状支持の選択。ああ、そうですか」 自公大勝に内田樹氏****
神戸女学院大名誉教授で思想家の内田樹さん

今回の選挙では、改憲や経済問題ばかりではなく、日本が直面する大きな問題である新型コロナウイルスのパンデミック、気象変動、戦争、人口減少も論点であったはずだ。今の政治はこうしたシリアスな問題に対応できず、日本の国力は落ち、国際社会での地位も低下しているが、有権者は現状を支持した。僕としては「ああ、そうですか」としか言いようがない。

野党に政権担当能力があるとか、自公連立政権の代わりに政権を取ればすべて解決するとはまったく考えていないが、野党は今が危機的な状況であるとは訴えていた。

だが、国民にとっては、自公がやってきた政策が正しかったし、日本が衰微していくシナリオを選んだことになる。国民が一番割を食うことになるが、責任は国民が引き受けるしかない。それが民主主義だ。【7月11日 毎日】
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おそらく多くの人にとって、自分の身の回りの世界はまだまだ居心地が良いものなのでしょう。
ただ、そうした小さな幸せにしがみついていると、いつのまにか大きな不幸の波に呑み込まれていくといったことにも。意地の悪い言い様ですが。
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ロシア  国民に極力戦争を意識させることなく「戦時経済体制」へ 都市部若者の関心は薄れる

2022-07-10 23:20:12 | ロシア
(ロシアの大都市ではバーが賑わいを見せている(写真は首都モスクワのバー)【7月5日 WSJ】 警察は抗議デモの鎮圧よりも、公共の場での飲酒に罰金を科すことに追われている。)

【現金支給で制裁による経済悪化への国民不満をなだめる】
ウクライナでの戦争が終わるひとつの道筋として、欧米の制裁によってロシア経済が悪化し、社会的に動揺が拡大してプーチン大統領としても戦争遂行ができなくなる・・・・といったシナリオが欧米・日本では期待もされましたが、長期的な話は別として、短期的に見る限りロシア経済・社会にはそのような大きな動揺は見られないようです。

もちろん制裁の影響はあり、生産は縮小し、物価も高騰していますが、堅調な石油・ガス収入を背景にロシア政府は現金支給拡大などで国民不満が大きくならないように対応しています。

別の見方をすれば、当面はそのような形でしのげても、そうした弥縫策で長期的に耐えられるか?という話にもなります。

****ロシア国民に制裁の痛み 特効薬は現金支給*****
ロシア政府は子どものいる家庭への現金支給や最低賃金などの引き上げを通じ、プーチン大統領やウクライナ侵攻への支持を固めたいと考えている

ロシアは西側諸国の制裁による影響を取り繕うため、石油やガスで得た数十億ドルに上る資金を国内にばらまいている。

この資金は、制裁がロシア市民にもたらす痛みを和らげている。だが、ロシア経済は西側諸国を大幅に上回る高インフレに見舞われているほか、供給不足で生産が大きく落ち込んでいる。政府やエコノミストらの予測では、今年の国内総生産(GDP)は10%縮小すると見込まれている。

ロシア政府当局者の間では、多額の戦費をつぎ込む一方で経済を刺激しようとする政策がもたらす代償について、懸念する声が聞かれ始めている。

ロシア政府は、子どものいる家庭、妊婦、公務員、年金受給者にカネを支給している。一方、不動産開発業者から航空会社まで幅広い企業も、主にウクライナ侵攻に伴う原油価格の高騰による恩恵を受けている。
 
財務相によると、今年の連邦支出はウクライナ侵攻前の予測を約12%上回り、財政収支は赤字になるとみられている。一方、景気刺激策はプーチン大統領と侵攻への支持を固める効果がある。プーチン氏はそれにより、制裁がロシアよりも西側諸国を苦しめていると主張できるからだ。

戦争が始まった時、3人の子どもがいるエフゲニヤ・ベレゾフスカヤさん(32)の食料品代は30%も増加し、デザートや甘いものを控えざるを得なくなった。

だが、政府は侵攻の直後、12歳になる長男レフ君の養育費を月1100ルーブルから1万4000ルーブル(約3万5000円)に引き上げた。これは低所得層に現金を支給する政府の計画の一環で、ベレゾフスカヤさんは「これは間違いなく必要だ」と語る。「子どもたちには、いつも追加の出費がかかる」

ベレゾフスカヤさんは夫のイリヤさんと共に、サンクトペテルブルクで子どもたちの補習クラブを運営しており、3歳と4歳になる子どもについても、それぞれ225ドル、263ドルを毎月受け取っている。

プーチン大統領は「国家のあらゆる社会的義務を果たすだけでなく、市民とその所得を支える、より効果的なメカニズムを作り出す」と約束し、さまざまな刺激策を推進してきた。政府は最低賃金を10%引き上げたほか、年金支給額を2度にわたり合計20%近く増額した。

クレムリンのウェブサイトには「反制裁」と呼ぶ検索カテゴリーがあり、制裁への政府の対応に関する大統領令や演説など約70項目が掲載されている。

最も大きな打撃を受けたロシア企業の多くは、政府からの資金援助や、補助金付き融資、倒産回避策など、さまざまな支援を受けている。航空会社に対しては政府が収入減を補てんしている。ロシア連邦航空局は「この措置により、国内航空会社の旅客数は昨年の水準に保たれ、国民に手頃な価格で空の旅を提供できる」としている。

不動産開発業者は補助金付き融資を受けることができるほか、資材不足で建物を完成できなくとも処罰の対象とならず、倒産からも保護される。サンクトペテルブルグの建設・不動産コンサルティング会社SVパルミラのディレクター、マリア・グリボワ氏は「ショックはまだ終わっていないが、トレンドはポジティブだ」と言う。

ロシアは石油と天然ガスの販売収入が1日当たり10億ドルに上るにもかかわらず、予算は社会支出や戦争費用で圧迫されている。アントン・シルアノフ財務相は5月の政府会合で、2022年は財政赤字の対国内総生産(GDP)比が2%に達するとの見通しを示した。それまでは黒字を見込んでいた。

ミハイル・ミシュスティン首相によると、ロシアの政府支出は今年1〜4月に前年同期比25%増加した。しかし、それ以降はデータがなく、資金の使途に関するデータの公表を取りやめている。

税収が減っているのは、経済が悪化しているためだ。資本規制、高金利、輸入不足によって押し上げられたルーブル高の結果、ドル建ての石油輸出で得る収入が、ルーブル建てでは目減りすることになる。政府は、石油や天然ガスによる収入を積み立てている国民福祉基金から資金を取り崩し、経済活性化に振り向けている。

ロシア政府は、エネルギー生産からの収入を増やす取り組みを続けているようだ。7月1日には、巨大な石油・天然ガスプロジェクト「サハリン2」の国際コンソーシアムを掌握。その前日には、ガスプロムが年間配当を見送ると発表した。ガスプロムに対する課税を大幅に引き上げる法案がロシア議会で審議されている。

それでも、ロシアの経済データは欧米諸国よりはるかに悪い。インフレ率は17.8%でピークを打ったが、依然として16.7%の水準にある。プーチン氏は6月の演説で、「この数字は高すぎる。16.7%は高いインフレ率だ」とした上で、「われわれはこの問題に取り組まなければならない。いい結果を出せると確信している」と述べた。

ロシア統計局によると、5月の製造業生産は2カ月連続で減少した。自動車生産台数は1年前の3分の1強まで落ち込んでいる。

政府はIT専門家向けに5%の低金利住宅ローンを提供し、新築住宅購入者には補助金付き住宅ローンを提供してきた。しかし、ロシア中央銀行のデータによると、5月の住宅ローン発行件数は、前年同月の4分の1にとどまった。

それでも、政府の取り組みは、経済に対する信頼感を支える上で役立っている。モスクワのレバダ・センターが6月に行った世論調査では、「今が最も困難な時期」と考えるロシア人の割合は3月以降、16%から28%に増加した。しかし、状況が悪化すると予想する人は54%から48%に減少した。

東シベリアの都市ウランウデに住む元医師のガリーナ・アレクセーバさん(58)は、食料品の高騰で、年金が月2万1000ルーブルに引き上げられたことに感謝しているという。

「小さなカートに食料品を集めてレジで会計をしたら、2000ルーブル以上と言われショックを受けた」というアレクセーバさん。「レジの人に値段を計算し直すように頼んだほどだ。以前は、このくらいの買い物なら1000ルーブルか、それをちょっと超えるくらいだった」【7月5日 WSJ】
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【「軍事作戦を支持する。だが同時に、実地の参加は強要されない」という国民と政府の“契約”】
経済的な苦境からの動揺と併せて欧米・日本に“期待”されていたのが、ロシア兵士の戦死者の増大に伴う社会的動揺で戦争への反対論が拡大するという想定ですが、こちらはロシア政府が都市部住民に犠牲が出ないように配慮しているために「自分たちが戦争に駆り出されないかぎり、戦争を支持する」という一種の社会契約あるいは取引が成立した状況とも指摘されています。

「戦争支持」は、消極的・受動的支持あるいは無関心とも。

****ウクライナ戦争は雑音に 露大都市で関心薄らぐ****
DJのディマ・カルマノフスキーさん(35)は最近のある週末、その夜2巡目の仕事を終え、別のクラブに向かう前に一息入れていた。「コロナ禍前でも、これほど忙しかったことはない」。ロシアの首都モスクワで人気のバー「Blanc」でカルマノフスキーさんはそう話した。

ウクライナへの軍事侵攻が5カ月目に入った今、モスクワやロシア第2の都市サンクトペテルブルクでは、戦争の表立った気配があまり見られなくなっている。一方で、多くの命が奪われ、住民が家を追われている。

ロシア最大級の都市にあるバーはあふれんばかりの客で賑わい、映画祭やジャズフェスティバルのチケットは完売している。モスクワ市内をパトロールする警官はアサルトライフル(突撃銃)で武装しているが、最近は抗議デモの鎮圧よりも、公共の場での飲酒に罰金を科すことに追われている。(中略)

モスクワ周辺には、若干ながら目に見える戦争の証拠がある。一部の建物や車両、衣服には、侵攻のシンボルである「Z」や「V」の文字が描かれている。街へ続く主要道路には、ウクライナに言及していないものの、ロシア兵の姿を描き、「ロシアの英雄に栄光あれ」という言葉を添えた看板が並んでいる。

西側の経済制裁がロシア経済に浸透するには時間を要するが、一部にその影響がうかがえる。モスクワのあるショッピングモールでは、兵士のための衣類回収箱が空き店舗前に並んでいた。以前このモールに入っていた外国ブランドは、軍事侵攻を受けてロシアから撤退した。

この国が戦争中であることを、訪問者が気づくのは容易ではない。ロシア軍が国境を越えてウクライナになだれ込んだ2月24日、カルマノフスキーさんはスリランカで長期休暇を過ごしていた。日中はサーフィンをして、少なくとも数時間は戦争の恐怖から逃れようとした。だが4月にモスクワに戻ると、市内の様子がほとんど変わっていないことにあぜんとしたという。
「実にショックだった。人々は平穏なバブルの中に閉じこもろうとしている。私にはそれが正しい方法なのか分からない」。

戦争支持者の一部は、他のモスクワ市民が無関心なことにいら立っている。週末に「Z」がプリントされたTシャツを着て、家族とモスクワ川沿いを散歩していたあるエンジニア(29)は、ロシア軍を公然と支持する人がほとんどいないことに失望していると語った。
「人々は自分の生活を送り、誰ひとり隣人のことを気にかけない」

当初は最も大規模な反戦デモを繰り広げたモスクワやサンクトペテルブルクの住民が、今では戦争から大きく遠ざかっているのは、ロシア軍が貧しい地域から新兵を集める傾向があるからではないかと一部の政治アナリストはみている。そうした地域では、兵士になることがより良い将来を手に入れる手段だと考えられている。

ロシアの独立系メディア「メディアゾナ」が公的に入手できるデータをもとにウクライナで死亡した約3800人のロシア兵について調べたところ、モスクワ出身の兵士はわずか8人、サンクトペテルブルク出身者は26人だった。

クレムリン(ロシア大統領府)はウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と呼び、これまで総動員を避けている。その結果、旧ソ連時代のアフガニスタンでの戦いと同じように、今回の紛争は雑音のようになっていると、カーネギー国際平和財団モスクワセンターのアンドレイ・コレスニコフ上級研究員は指摘する。

「実質的に、これは当局と結んだ新しい契約だ」とコレスニコフ氏は指摘。「われわれは軍事作戦を支持する。だが同時に、実地の参加は強要されない」というものだ。

こうした無関心の原因は、ウラジーミル・プーチン大統領による独裁体制が、人々は生活の向上に関心を向け、政治は国家に任せるという社会契約を築こうとしてきたことが大きいと考えられる。そう語るのは、キングス・カレッジ・ロンドンのロシア政治専門家グルナズ・シャラフトジノワ氏だ。

ロシア国民が軍事行動を支持していることを各世論調査は示唆している。だが、それはおおむね受動的な支持だと一部の専門家は指摘する。
「これは参加を伴わない支持であり、プーチンとクレムリンに有利に働く。人々は戦争が長期化しそうなこと、大勢の死傷者が出て、若い男性が命を落としていることに目を向けていない」とコレスニコフ氏は言う。

欧州で第2次世界大戦以降、最大の地上戦が起きたことの衝撃は次第に和らいでいる。ロシアの独立系世論調査機関「レバダセンター」によると、ロシア国民の関心は徐々に薄れており、3月には回答者の64%が少なくとも一定の関心を寄せていたが、5月にはこれが56%に低下した。

主に国営放送でニュースを視聴している、より高い年齢層はウクライナ情勢を注視する傾向にある。一方、若者は無視している。18〜24歳の回答者のうち、状況を追っていると答えた人は34%にとどまった。

反戦を訴えたい少数派は、絶望感に襲われている。当局が新たに法律を導入したためだ。新法の下、ロシア軍を批判したとして罰金を科されたり、逮捕されたりする人が多数出ている。また、最長15年の禁錮刑に処される恐れがある。

「ロシア国内にいて戦争を止める方法が人々には分からない」。軍事侵攻を批判し、すでに3つの軽罪に問われているイリヤ・ヤシン氏はこう話す。「止められない悲劇は見るに堪えない。だからわれわれは無力感に襲われる」

ヤシン氏はロシア国内にとどまり、投獄を免れている最後の著名な野党政治家の一人だ。自身の主な役割は、刑務所に入ることなく戦争の真実を語ることだと語った。同氏は6月27日夜、友人と公園を歩いていたところを拘束された。翌朝、警察に従わなかったとして15日間の拘留を言い渡された。自身へのあらゆる容疑は「茶番」だとし、今回の逮捕は戦争批判でより長期の刑を宣告される前触れだと考えていると同氏は述べた。【7月5日 WSJ】
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【国民に戦争を意識させることなく「戦時経済体制」へ移行】
プーチン大統領としては、極力国民の意識から「戦争」の影を拭い去り、国民には無関心でいて欲しいようです。
ロシア国内では今回の「特殊軍事作戦」を「戦争」と呼ぶことも禁じられています。

****ウクライナ侵略を「戦争」と呼んだモスクワ区議、禁錮7年判決…「虚偽情報」広めた罪****
タス通信によると、モスクワの裁判所は8日、ロシア軍によるウクライナ侵略を巡り、露軍に関する「虚偽情報」を広めた罪に問われたモスクワのアレクセイ・ゴリノフ区議に対し、禁錮7年の判決を言い渡した。ゴリノフ氏は今年3月の区議会の会合で、侵略を「戦争」と表現したとされる。

ロシアでは3月、軍に関する虚偽情報の拡散を禁じる条項を刑法に追加し、最長禁錮15年の罰則を設けた。タス通信は、今回の判決が追加条項を初めて適用したケースだとしている。

プーチン露政権はウクライナ侵略を「特殊軍事作戦」と称し、戦争と呼ぶことを禁じている。【7月9日 読売】
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しかし一方で、ロシアは「戦争」によって兵器も人員も枯渇しつつあり、戦争遂行に向けた体制づくりが必要とされています。戦時動員を宣言すれば話は簡単ですが、それでは国民に戦争を意識させ、反発が拡大します。
国民に戦争を意識させない形で、実質的に「戦時経済体制」へ移行することが肝要。

****露、「戦時経済体制」法成立へ 兵器枯渇が一因か****
ウクライナに侵攻したロシア軍の活動を支えるためとして、露下院は5日、露政府に「特別措置」を発動する権利を与える法案を審議し、第1読会(3段階審議の1段階目)を全会一致で通過させた。

法案は、政府が企業に指定した量と金額で物品を納入するよう義務付けることを可能にするほか、労働者の残業や夜間労働、休日出勤を政府が指示できると規定。欧米メディアは事実上の「戦時経済体制」への移行だと伝えた。

露軍は現在、ウクライナ東部で攻勢を維持。だが、英国防省によると、露軍は旧式戦車T62を前線に投入し、対艦ミサイルも地上攻撃に流用するなど、兵器枯渇の兆候も出ている。法案はこうした状況を打開する方策の一つとみられる。

法案は露政府が提出した。軍需品の調達を担当するボリソフ副首相は5日、法案について、精密部品などの対露輸出を禁じた欧米の制裁に対処するためのものだと説明。特別軍事作戦(侵攻の露側呼称)中だけの時限立法だとも述べた。

国内で「24時間労働を強制される」との懸念が出ていることに対しては「(時間外労働の対象者は)大規模にならない上、追加の金銭が支払われる」と弁明した。タス通信が伝えた。

ロイター通信や米CNNテレビは「事実上、ロシアに戦時経済体制が導入される」と指摘した。

法案は今後、下院での第2、第3読会や、その後の上院での審議を経て、プーチン大統領の署名により近く成立する見通しだ。

一方、ショイグ露国防相は5日、露軍高官らとの会議を開き、「作戦は最高指揮官(プーチン氏)が設定した任務の完了まで続く」と演説。露軍が主目標とする東部ドンバス地域の掌握のうち、残るドネツク州全域を制圧するまでは少なくとも戦闘を継続する方針を示した。【7月6日 産経】
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法案は下院で「スピード可決」され、上院での審議・大統領署名で成立する見込みです。

英国防省は、ロシア政府が今回法案を提案したことについて、国民の反発を招きかねない正式な戦時動員の宣言を避ける狙いがあると指摘しています。

【民間軍事会社が刑務所で「志願兵」を勧誘 国民の戦争犠牲を最小に】
兵員については、(ロシアでは以前からですが)国民を動員する正規の軍隊ではなく、民間軍事会社が活用されています。民間軍事会社ならいくら死者が出ても、政府として戦死者を報じる必要がありません。

その民間軍事会社は刑務所で「志願兵」を勧誘しているとの報道も。当然、政府の協力があってのことです。

****ロシアの民間軍事会社、刑務所で「志願兵」勧誘か…ウクライナ東部の完全掌握へ露軍攻勢****
(中略)一方、ロシアの独立系メディアは4日、露民間軍事会社「ワグネル」が、露西部サンクトペテルブルクの刑務所で、ドンバス地方に投入する「志願兵」を集めていると報じた。

受刑者の親族がこのメディアに語ったところでは、6か月間の任務から生還すれば、「20万ルーブル(約43万円)の報酬と恩赦」を約束された。死亡した場合は家族に500万ルーブル(約1080万円)が支払われるという。「(生きて)帰還する人はほとんどいないだろう」との説明もあったが、同意した一部の受刑者が派遣に向けて準備しているという。

報道が事実だとすれば、露軍が東部戦線で失った兵員を補充するため、軍事会社に頼った可能性がある。【7月6日 読売】
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「(生きて)帰還する人はほとんどいないだろう」ということで、最初から捨て駒・消耗品として想定されているようです。なかなか怖い話です。

ただ、そういう兵員でどれだけの軍事的成果をあげられるものか・・・・。
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中国  返済に行き詰まる途上国の債務で大きな割合を占めるものの、不透明な対応方針

2022-07-09 22:16:21 | 中国
(大統領公邸内に突入したデモ隊(9日、コロンボ)【7月9日 日経】)

【スリランカの経済破綻は政治混乱へ】
スリランカの外貨不足・経済破綻は7月1日ブログ“スリランカ 破綻した経済 外貨不足で輸入できず ガソリンを出荷出来るのは早くて3週間以上先か”でも取り上げましたが、混乱は深まっているようです。

****スリランカが「破産」宣言=燃料不足、危機長期化****
経済危機に直面しているスリランカのウィクラマシンハ首相は5日、議会で演説し、国の「破産」を宣言した。危機的状況は来年も続く見通しで、混乱の長期化は必至。

ガソリンなどの燃料が極度に不足しており、AFP通信によると、給油所で自動車に乗って数日間列に並んでいた60歳の男性が車内で死亡しているのが5日見つかった。

首相は議会で、金融支援獲得に向けた国際通貨基金(IMF)との交渉について説明。地元紙デーリー・ミラー(電子版)によると、「過去には発展途上国として(IMFと)協議してきたが、今は破産国家として協議しているため、交渉はより困難で複雑になる」と述べた。

年末にインフレ率が60%に達するとの見通しを示し、「2023年も困難に直面するはずだ。これは真実であり現実だ」と強調した。【7月6日 時事】 
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****経済危機のスリランカ、燃料輸入でロシア大統領に支援要請****
深刻な経済危機に直面しているスリランカのゴタバヤ・ラジャパクサ大統領は6日、ツイッター上で、ロシアのプーチン大統領に対し燃料輸入に向けた支援を要請したと明らかにした。

スリランカは経済政策の失敗や新型コロナウイルス危機の影響で外貨が急減。生活必需品の輸入が困難になり、医薬品や食料、燃料の不足が深刻化している。

ガソリンや軽油の在庫が底を突く中、政府は全土の学校を休校とし、公務員には自宅で勤務するよう求めている。(後略)【7月7日 ロイター】
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電気も止まり、ガソリンもない。ガスも無ければ医薬品もない・・・・市民生活は麻痺状態です。

****料理はまきで…経済危機のスリランカ*****
かつては比較的豊かだったスリランカでは現在、医薬品やガスなどあらゆる物が不足している。そのような中、ガスではなくまきや炭での調理に戻る人が増えている。

まきや炭への移行は今年初め、全国でガス爆発事故が相次いだことがきっかけとなった。ガス会社がコスト削減でプロパンの比率を引き上げたため、圧力が危険なレベルにまで上昇し、1000件以上の爆発事故が発生。少なくとも7人が死亡、数百人が負傷した。

現在はガスの供給が滞り、ガスがあったとしても手が届かないほどの値段になっている。
政府には外貨がなく、ガソリンや軽油、灯油に加え、火力発電用の燃料も輸入できず、長時間にわたり停電を行っている。(後略)【7月7日 AFP】
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経済破綻の根底にラジャパクサ大統領の一族による縁故主義があったことはこれまでも指摘してきましたが、そのラジャパクサ大統領が大統領職にとどまっていることへの批判も膨らんでおり、経済危機は政治混乱に発展する様相を呈しています。

****大統領公邸にデモ隊突入=ラジャパクサ氏に辞任要求―スリランカ****
経済危機に直面しているスリランカで9日、ラジャパクサ大統領の辞任を要求する大規模な抗議デモが行われ、デモ隊が最大都市コロンボにある大統領公邸敷地内になだれ込んだ。大統領は抗議デモ開始前に公邸から避難した。地元メディアやAFP通信が伝えた。

事態を受け、ウィクラマシンハ首相は緊急の閣議を招集した。

地元紙デーリー・ミラー(電子版)などによると、公邸周辺には数千人のデモ隊が集結。警察は催涙弾を使用したり放水したりしたが、デモ隊はバリケードを突破し、公邸の敷地内に入った。警官2人を含む少なくとも30人が負傷したという。【7月9日 時事】 
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【スリランカ同様に過度な対外債務で行き詰まるザンビア ともに中国の影が】
スリランカの破綻の根本原因は前述のようにスリランカ政治自身の縁故主義にあるとしても、それがもたらした過剰な対外債務がスリランカ財政を追い詰めている側面があります。

特に、スリランカでいつも指摘されるのが中国の「債務の罠」という話です。

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中国が途上国へ故意に過大な貸し付けをし、影響力を強める「債務のワナ」にからめ取られたのが危機の原因、とみる向きもある。5年前、債務免除と引き換えに99年間の運営権を中国へ与えた南部のハンバントタ港は、その象徴とされている。

スリランカ政府が公表する対中債務は全体の1割程度で、対日本と変わらない。ただしそれは政府からの借入金だけで、国有企業からのものを含まない、といった指摘もある。【5月10日 日経】
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スリランカ同様に中国からの債務を含む過剰な対外債務で行き詰まっているのがアフリカのザンビア。
現在、債務の再編(借り手が借金の返済や発行した債券の元利払いが困難になった時、債権者と交渉し返済条件を緩和してもらうこと。支払期限の延長や元本金額の削減、利率の引き下げなどがある。)が課題となっています。

****ザンビア大統領、債務再編で「中国を優遇せず」*****
アフリカ南部ザンビアのヒチレマ大統領は、債務危機の解決に関連して中国の債権者を欧米の債権者より優遇することはないと約束した。

ザンビアは2020年、新型コロナウイルス流行下でアフリカで初の債務不履行(デフォルト)に陥った。政府は約150億ドル(約1兆7300億円)に上る対外債務を再編し、国際通貨基金(IMF)から14億ドルの資金支援を受けようとしている。債権者との協議は数週間以内に行われる予定だ。

同国の債務再編は、中国が過去10年間で急増させたアフリカ向け融資で損失を受け入れるかどうかのテストケースになるとみられている。中国の対アフリカ年間融資額は16年のピーク時にほぼ300億ドルに達した。

ヒチレマ氏はフィナンシャル・タイムズ(FT)とのインタビューで「我々は債務状況を解決したいし、解決しなければならない」と強調した。「ザンビアと債権者にとって良いことだ。現政権が発足した時、八方ふさがりの状況で、誰も利益を得ていなかった」

パリクラブ(主要債権国会議)の議長は先月、中国が低所得国の債権者として支配的な役割を果たすようになっており、多くの国が(中国との関係悪化を恐れて)債務免除をためらっていると警告した。

前政権下で債務危機に
ザンビアの債務のうち約60億ドルは中国からの融資だ。ルング前大統領が融資を受けて財政支出を大幅に増やした結果、債務危機に陥った。

ヒチレマ氏は「我々は内部での埋め合わせをするつもりはない。すなわち、 ある債権者により高い金額を払わせるといった具合に、債権者間で好条件のところと悪条件のところがあるように差を付けるつもりはない」と語った。「債権者が中国系か否かは重要ではない。この問題を確実に解決することが重要だ」

ヒチレマ氏は昨年の大統領選で現職のルング氏を大差で破り当選した。長年の汚職で国庫はほぼ空だったと話している。新政権は12月にIMFとの間で基本合意に達し、債権者との協議の助けになると期待している。

同国の30億ドルのドル建て国債は、20年に利払いができなくなって以降デフォルトの状態が続いている。海外債権者の多くは返済の一時停止を拒んでいるが、中国の債権者は利払いの凍結に合意した。

だが民間投資家は中国の民間債権者が損失を受け入れるのか、あるいはアナリストが例外的に厳しいと指摘する契約条項を盾に返済を要求するのか、はかりかねている。

IMFの救済策には厳しい条件
IMFは救済策の条件として厳しい財政目標を課すと見られるが、政府は社会サービスへの支出を維持すると公約しているため、できる限り多額の債務免除を実現する必要がある。今年の政府予算では財政赤字を国内総生産(GDP)の10%から6.7%へ削減し、今後数年での黒字化を目指している。

ヒチレマ氏は最近行った債権者との協議などを指して、「我々は債務問題に対応するため共通の枠組みを作ろうとしている」と述べた。「中国当局とも共通の枠組みの一部として協力している」

また同氏は前政権下で盗まれたとされる資産を取り戻すと公約しているが、進捗は遅い。「すぐに進展が見られるだろう。我々はすでに事態を進展させている」(後略)(2022年1月31日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版)【2月1日 日経】
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“中国の債権者を欧米の債権者より優遇することはない”云々は、中国が実施した融資は、中国への返済を優先するよう義務付ける秘密条項が盛り込まれていることが多いと指摘されることに関連するものでしょう。

中国が「一帯一路」によって途上国に多額の融資を行ってきた結果、経済破綻する国の対外債務において中国債権の比率が高まっており、中国がそうした途上国の債務再編にどのように対応するのかが、全体の債務再編作業の進展のカギともなっています。

【債務再編交渉で不透明な中国の対応が全体の進捗を阻害】
しかし、中国への債務の内容が明らかでなく、中国の債務再編への対応が不透明で見えない、そのため全体の債務再編作業が進捗しないという指摘が出ています。

****新興国の債務軽減交渉、債権大国の中国が協力せず****
ザンビアの首都ルサカの国際空港を拡張する3億6000万ドル規模のプロジェクトから、スリランカの首都コロンボにおける14億ドル規模の港湾開発事業に至るまで、発展途上国で進められている多くの債務軽減協議で、中国の姿がすっぽりと抜け落ちている。

比較的規模が小さく、リスクの高い途上国に対する貸し付けで、中国は圧倒的な債権国となっている。だが中国は、返済に行き詰まった債務国との間で、融資条件だけでなく、どのように再交渉するかを巡っても、目立たない姿勢を維持している。

この姿勢は新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)後に一段と鮮明になった。現在、経済的に困窮する多くの国が債務軽減を求めている。

債務負担軽減を支援するため、中国により積極的な役割を果たすよう求める圧力が強まってきた。6月28日に公表された主要7カ国首脳会議(G7サミット)声明は、債権国による支援を促す中で中国を名指しした。

世界銀行によると、貧困国は今年、公的部門と民間部門の債権者に対して総額350億ドルの債務返済に直面しており、総額の40%余りは中国への返済だ。

だが専門家の話では、国際通貨基金(IMF)と世界銀行が前提とする債務軽減負担の公平な分担は、中国との衝突に向かう可能性があり、包括的な債務再編の見通しに疑念が生じるという。

法律事務所クイン・エマニュエルのソブリン訴訟責任者、デニス・ハラニツキー氏は「中国の『一帯一路』の資金は、あらゆる所にばらまかれている。従って、ソブリン債務再編では毎回この問題が持ち上がるだろう」と述べた。

ロイターは中国外務省と中国人民銀行(中央銀行)にコメントを要請したが、返答はない。

ザンビアとスリランカの案件は、債務協議の進展速度を見極める試金石となる。両国は、海外の債券保有者と債務再編に合意するとともに、IMFのプログラムをまとめる必要もある。

ブルーベイ・アセット・マネジメントの新興国市場責任者、Polina Kurdyavko氏は「中国による債務協議への関与は、IMFあるいは各国政府の手の及ぶ問題ではない」と指摘。「中国を適切なタイミングで交渉の席に着かせることは、今後の債務再編で最大の試練となるかもしれない」と語った。

<不透明>
中国の貸し付けは大半が政府系機関や政策銀行によって実行され、往々にして不透明だ。

全米経済研究所(NBER)の報告書によると、中国が1949年から2017年にかけて152カ国に対して実行した5000件の融資および助成の半分は、IMFにも世界銀行にも報告されていない。中国は両機関に加盟しているにもかかわらずだ。

ローディアム・グル−プのシニア・アナリスト、マシュー・ミンゲイ氏は「これらの中国の融資の一部では、不透明さが繰り返し問題になっている」と指摘。中国は商業融資の契約に、他国よりも厳格な機密保持条項を盛り込んでいると付け加えた。

ウィリアム・アンド・メアリー大学の米国調査研究機関、エイドデータが3年間にわたって集計したデータによると、中国の国有銀行が実施した融資は、中国への返済を優先するよう義務付ける条項が盛り込まれている。

ジョージタウン大学のアンナ・ゲルパーム法律学教授が中心となって中低所得国24カ国に対する中国の融資100件を調べたところ、機密保持のレベルが他の融資と比べて異常に厳しく、融資契約の存在自体を明かさないよう求めている場合もあったという。

中国が債務負担の軽減に合意したケースの多くは、詳しい内容がはっきりしない。

中国の貸し手があまりに多いことも、問題を一段と複雑にしている。ただ、最も多くの融資に関わっているのは中国輸出入銀行と国家開発銀行だ。

ミンゲイ氏は「債務再編交渉になった場合、中国の各銀行は自国の他行がどのように対応するのか分からない可能性もある」と話した。

<遅い進展>
ザンビアは2年余り前、パンデミック局面で初めて債務不履行を起こした国となり、現在170億ドルの対外債務について軽減を求めている。事情に詳しい関係者の話では、進展が遅い原因の一つは、厄介な債務再編における中国の経験不足だ。

スリランカの案件では、IMFが新たなプログラムを進める方針を固めたため、協議がより速く進行している。だが中国の対応は依然として不透明だ。

一方IMFによると、低所得国の約60%は債務の返済が滞っているか、そのリスクが高い。(後略)【7月5日 ロイター】
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中国が“目立たない姿勢を維持している”理由を推測すれば、中国の巨額の資金がどこから出てきているのかは知りませんが、中国とて資金回収できないと国内的に深刻な問題となると思われます。しかし、だからといって強引な回収を行えば、ただでさえ「債務の罠」云々で批判の的になっているのに、更に欧米からの批判にさらされる・・・ということで、身動きがとりづらい状況にあるのではないでしょうか。

【「不公正で不透明」な中国「一帯一路」に対抗してアメリカ主導のインフラ投資の新枠組み】
先月末にドイツ南部エルマウで開かれた先進7か国首脳会議(G7サミット)では、途上国などへのインフラ投資を促進する新たな枠組みの創設で合意しましたが、岸田首相は中国の途上国支援を「不公正で不透明」と厳しく批判し、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗する枠組みであることを鮮明にしています。

****G7、インフラ投資の新枠組み 官民6000億ドル規模で中国に対抗****
主要7カ国(G7)は26日にドイツ南部エルマウで開かれた首脳会議で、発展途上国のインフラ整備に投資する新たな枠組みの創設を発表し、今後5年間で官民合わせて6000億ドル拠出する目標を掲げた。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗する。

枠組みは「グローバル・インフラ投資パートナーシップ」と呼ばれ、米国が主導。バイデン米大統領は米国として5年間に2000億ドルを担い、中低所得国における気候変動対策、公衆衛生、男女の平等、デジタルインフラ関連プロジェクトに官民で投資すると表明した。

バイデン氏は「これは援助や慈善事業ではなく、全ての人々に利益をもたらす投資だ」と強調した。
国際開発金融機関や政府系ファンドなどが数千億ドルを追加拠出する可能性があるとも述べた。

欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長はEUとして5年で3000億ドルユーロを担い、一帯一路に代わる持続可能な投資を行うと表明。

バイデン氏は旗艦プロジェクトとして、アンゴラで米国が官民で投資する総額20億ドルの太陽光発電開発プロジェクトを挙げた。また、セネガルで仏パスツール研究所が開発しているワクチン製造施設にG7で協力して330万ドルを拠出すると述べた。将来的に新型コロナウイルスワクチンなどの製造が可能になると見込まれている。【6月27日 ロイター】
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“岸田首相は、日本が今後5年間で、政府と民間投資をあわせ650億ドル(約8・8兆円)以上のPGIIへの拠出を目指す方針を表明し、「質の高いインフラ整備は『自由で開かれたインド太平洋』の実現にとっても重要だ」と強調した。”【6月27日 読売】

当然ながら中国は“一帯一路をおとしめる”ものと反発しています

****中国 G7経済構想に反発 “一帯一路をおとしめる”と****
(中略)これ(「グローバル・インフラ投資パートナーシップ」)に対して、中国外務省は会見で、「インフラ建設を名目に地政学政治を推進し、『一帯一路』をおとしめることに反対する」と反発した。

中国外務省報道官「『一帯一路』が債務のわなを作り出したというのは、全くのデマだ」
また、「一帯一路」が途上国が借金漬けになる経済モデルと批判されていることについて、「アメリカこそが債務のわなの真の製造者」と反論した。【6月28日 FNNプライムオンライン】
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「債務の罠」云々の議論は、ザンビアやスリランカの債務再編交渉で中国がどのような対応を示すのかが大きく影響してきます。
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インド  中印国境で続く緊張 中国・アメリカを睨んだしたたかなインド外交

2022-07-08 23:17:50 | 南アジア(インド)
(【2021年9月23日 IPDefenseForum.com】 中印国境では東西両方に係争地があります。)

【“両国は相違点を効果的に管理・制御してきた”とは言い難い中印関係】
ウクライナ・ロシアのように現在進行形で火を噴いている紛争のほかにも、世界中に紛争の火種は尽きません。
そうした多くの火種のなかでも、もし実際に火を噴けば当事国だけでなく世界に大きな影響を及ぼすのがともに核保有国である中国とインドの関係。

“もし火を噴けば”という言い方をしましたが、米中対立という国際政治の最大の枠組みのなかで、アメリカ主導の対中国戦略「クアッド」へのインドの参加、中国・ロシアが対アメリカ戦略の基軸にしようとするBRICSにおけりインドの立ち位置などのように、現在の中印関係の緊張がすでに国際政治の枠組みに大きな影響を及ぼしています。

中印関係に関する昨日・今日の関連記事から2件。

****中国とインド、相違点を効果的に管理・制御=王毅外相****
中国の王毅外相は7日、インドのジャイシャンカル外相に対し、両国は相違点を効果的に管理・制御してきたと述べた。

インドネシアのバリ島で開幕した20カ国・地域(G20)外相会合に合わせて会談し、二国間関係は概して回復の勢いを見せているとした。【7月8日 ロイター】
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“両国は相違点を効果的に管理・制御してきた”云々は、非常に外交的に洗練された言い回しですが、後で取り上げる中印国境の緊張状態を糊塗するものでしょう。

今年3月に王毅外相がインドを訪問した際には、普段は外交的に洗練されたもの言いのジャイシャンカル外相と王毅外相の会談は激しい言葉の応酬となり、会談終了後ジャイシャンカル外相は「(中印関係は)とても正常とは言えないね」と記者団に語ったとか。【「選択」7月号より】

下記のような話も、中印関係の緊張を反映したものでしょう。

****中国大使館がインド政府に苦言、企業への頻繁な調査で信頼低下****
在インドの中国大使館は、インド当局による中国企業の調査が相次いでおり、インドに投資する外国企業の間で信頼が低下しているとの認識を示した。

両国は2020年に国境付近の係争地で軍が衝突して以降、政治的な緊張が高まっている。インド政府は安全保障上の懸念から300以上の中国製アプリを禁止。中国の投資に対する規制を強化している。

インド政府の金融犯罪対策機関である執行局(ED)は5日、中国のBBKエレクトロニクス(広東歩歩高電子工業)傘下のスマートフォンメーカー、ビーボの複数の事務所と関連団体を捜索した。地元メディアによると、捜索は資金洗浄疑惑を巡る調査の一環という。

中国大使館は声明で「(こうした頻繁な調査は)インドのビジネス環境の改善を妨げ、中国企業など外国の事業体がインドで投資や業務を行う際の信頼と意欲が低下する」と表明。ビーボの調査状況を注視しているとした。
インド政府のコメントは取れていない。【7月7日 ロイター】
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【衝突から2年 今も両国は係争地に計10万人前後の部隊を配置】
でもって、中印関係緊張の舞台となっている国境紛争。2020年6月15日から両国の部隊が衝突し、45年ぶりに死者が出てから2年が経過しましたが、緊張が続いています。

****中国が係争地に橋、インドもインフラ整備 衝突から2年****
インド北部と中国西部が接する係争地で、中国が実効支配線を横切るパンゴン湖で大きな橋を建設していると、インドメディアが報じた。

1月に現地で確認された巨大な橋に次ぐ2本目となる。いずれも戦車の走行が可能な大きさだ。2020年6月15日から両国の部隊が衝突し、45年ぶりに死者が出てから2年。係争地では再び、緊張が高まっている。

報道によると、中国が建設した1本目の橋は全長400メートル。幅は8メートルとの情報がある。インド外務省は2本目の橋について「建設地点は中国が違法に占拠している地域にあり、決して容認できない」と強く非難した。

係争地ではインドも軍用車両の走行が可能な道路などの建設を進めてきた。中国の橋建設に対抗し、今後も係争地でインフラを整備する構えだ。

インドと中国は駐留部隊の司令官レベルで協議を重ねてきたが、緊張が緩む気配はない。インドのジャイシャンカル外相は「中国との関係は正常でない」と指摘する。

インドと中国の国境は約3000キロメートルが未確定だ。両国の部隊は20年5月からインド北部のラダック地方でにらみ合い、同年6月の衝突で多数が死傷した。両国は係争地に計10万人前後の部隊を配置している。【6月18日 日経】
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ウクライナにロシアが投入した兵員が15万人規模と言われていますので、“両国は係争地に計10万人前後の部隊を配置している”という現状は「正常でない」ものでしょう。(2020年の衝突時にはインドは25万人の兵士を現地に送ったようです)

中国からすれば「自国内の交通網を整備して何が悪い」というところでしょうが、インドからすれば「中国は実効支配線をインド側に食い込む形で西に移動させようとしている」という主張にもなります。

****ますます緊迫する印中国境 中国は何を狙っているのか****
ロシアのウクライナ侵略が続く中で、人々の注目を集めなくなった地域がある。インドと中国の国境地域だ。しかし、実際には、インドと中国の軍事的対峙は、2020年に両軍が衝突し、インド側だけで100人近い死傷者を出して以降、さらに悪化しつつある。

だから、その印中国境に、今月、米国の太平洋陸軍司令官チャールズ・フリン大将が訪問し、地域の情勢が警戒を要するレベルであることを発表したことは、当然の結果といえる。(中略)

2020年以降、緊張を解かない中国
(中略)このような(20年春の衝突時の)軍事的対峙は21年2月に、両国が合意し、中国軍が一部地域、パンゴン湖から200両の戦車を引き上げたことで、緊張緩和に至っていた。8月にも別の地域からも撤退した。しかし、中国は、それ以上の撤退はしなかったのである。

今月の時点で、衝突があったラダク地方周辺だけで、両軍合わせ5万〜6万人が配備され、対峙している。また、中国は、それらの部隊が活動しやすいよう、大規模な工事を継続しているのである。

その一つは、200両の戦車が撤退したパンゴン湖周辺だ。中国はパンゴン湖に2つの橋を架け、より大きな部隊を展開させるためのインフラ基盤を整えている。

4000キロメートルの印中国境全体では、少なく見積もって100カ所、多ければ600カ所の、一種の村のようなものを建設している。インド軍は、これらの村を、印中国境に配備された中国軍が、時々、家族に会うための施設とみている。

中国軍は、インド側への侵入から撤退するどころか、より長期に駐留し、徐々にインド側への侵入を行うための施設を整えつつあるのだ。

このような行動は、中国が、東シナ海や南シナ海などで行ってきた領土拡大と、共通性がある。施設を作り、徐々に領土を拡大させようとするのである。

もちろん、インド側も大規模な部隊を配備している。最新鋭の戦闘機、地域の高い高度でも活動できる戦闘ヘリコプター、各地から集めた戦車部隊なども、大規模に展開させている。(中略)

最近では、道路ができただけでなく、観光客を呼び込み、印中国境地域をインド側が実効支配していることを、世界の人々に見せる取り組みを計画している。そのために、印中国境の道路に75カ所、レストランやトイレなどが集まった便利な施設を整える計画だ。イメージとしては、高速道路のインターチェンジの簡易版といったところだろうか。どちらにしても、印中国境地域の緊張状態は2年間、解けないままなのである。

中国にとって重要度を増す印中国境
なぜ中国は、印中国境で緊張を高めたままにしているのだろうか。標高は5000メートル以上もあり、冬は気温マイナス30度にもなるから、人もほとんど住んでいない。そんな場所が最新鋭の兵器を集めて、軍人たちが命を懸けて戦うほど、重要なのだろうか。

中国の行動を見る限り、重要だということなのだろう。では何が重要なのか。
印中国境に面しているのは、中国が支配するチベットと新疆ウイグル自治区である。実は、今、中国にとってこれらの地域の重要性は高まりつつある。

一つの原因は、チベットに資源があるからだ。まず、チベットは水資源豊富な地域である。南アジアに流れるインダス川、ガンジス川、ブラマプトラ川だけでなく、東南アジアのメコン川や、中国の黄河や長江に至るまで、すべての河川の源流はチベットにある。

今、中国は、この水資源をこれまで以上に重視している。中国沿岸諸都市の経済発展が進み、より多くの水資源が必要になっているためだ。水資源を都市部により多く引くことが重要だ。

しかも、水資源の使い方は都市に持ってくるだけではない。新疆ウイグル自治区にもっていって、そこに大農業地帯をつくるなどの方法で、都市部で消費する食糧生産につなげることもできる。

さらに問題なのは、地球の温暖化がもし本当であれば、チベットの水資源はいずれ干上がる可能性が出ていることだ。他の国が使う前に、中国は水資源を少しでも多く使いたいのである。

それに加えて、チベットには水以外に、鉱物資源などがある。これまで山がちな地形のために開発が進んでこなかった。中国はそこにも注目している。

こうした背景もあって、中国は2000年以降、「西部大開発」の名のもと、チベットでも開発を進めた。開発を安全に行うために、中国軍は、インド側への侵入を繰り返し、インドを、少しでも遠くに追いやろうとしている。そういう構図になっている。

インドを攻撃する可能性はあるのか?
中国が軍事力の展開を続けているということは、インドを攻撃する可能性があるのだろうか。どのような攻撃になるか正確に特定するのは難しいが、攻撃する可能性そのものは否定できない状態になっている。

米国の太平洋陸軍司令官の指摘は、そのことを指しているのである。だから、中国が攻撃を開始する可能性のある時期は、警戒する必要がある。

印中国境地域は、冬に軍事作戦を実施するのは比較的難しいものとみられているが、春から秋にかけては軍事作戦が可能である。また、1962年に中国がインドを攻撃した時は、米ソがキューバ危機への対応に追われていた時で、インド支援が遅れる結果になった。

だから、もし、米国をはじめとする各国が、ロシアのウクライナへの侵略など、別の危機への対応に追われていて、中国がインドへの攻撃を仕掛けても対応できない状態であれば、それは危険な時期と考えられる。

例えば、インドが武器の援助を求めてきても、すでにウクライナに武器を引き渡してしまった各国は、在庫がないかもしれない。中国に対して経済制裁をかけるとしても、ロシアに対して経済制裁をかけて副作用のようなものがでている中で、さらに中国に制裁をかけることができるのか、疑問だ。

中国がインドを攻撃した場合、まずは、インド政府が独自に対応すべき事案であり、実際にそうするだろう。ただ、日本としても、そういった事態が起きた時には、どうするべきか、どのようなシナリオがあり得るのか、頭の整理をして、準備しておくべき、と、思われる。【6月25日 長尾 賢氏 WEDGE】
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上記の、中国はチベット開発を進めたいために“インド側への侵入を繰り返し、インドを、少しでも遠くに追いやろうとしている”という見方は、現実には逆にインド軍を国境に引き寄せており、そうした見方の妥当性には疑問があります。

20年春の衝突も、習近平指導部の計画的なものだったのかどうかは疑問もあります。緊張関係にある軍が対峙していれば、常に小競り合いの危険があります。これまでも中印両軍は小競り合いは繰り返してきましたが、20年春の衝突はその小競り合いが大きく拡大したものでしょう。

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2020年6月15日の両国軍の衝突は、一連の小競り合いの中で最も血なまぐさいものだった。当時、インドは世界で最も厳しい新型コロナウイルス対策の都市封鎖に気をとられていた。中国はそのすきを突くようにインド北部、ラダック地方の国境地域に侵入し、強固な要塞を建設した。

この予想外の侵入は中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席による巧妙な計画ではなかったようだ。中国は楽勝するどころか、中印関係をどん底に突き落とした。国境危機によりインドの大規模な軍備増強を不可避にした。

20年6月の衝突は残忍さでも際立っていた。96年の2国間協定により両国の兵士が国境地帯で銃を使うことが禁止されたことから、中国人兵士は有刺鉄線を巻いた棒などを使い、インド軍のパトロールに攻撃した。インド兵の一部は殴り殺され、崖から川に突き落とされた兵士もいた。その後インド側の援軍が到着し、中国部隊と激しい戦いを繰り広げた。

数時間の戦闘の後、インドは死亡した兵士20人を殉職者としてたたえたが、中国はいまだに死者数を公表していない。米情報機関は35人、ロシアの政府系タス通信は45人と推定している。【6月25日 地政学者 ブラーマ・チェラニー氏「中印国境から目を離すな」 日経】
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いずれにしても中印国境が相変わらず一触即発状態にあることは事実であり、20年春の衝突の経緯を含めて、インド国内には“モディ政権は中国にいいようにやられている”との批判があります。

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野党・国民会議派は、ナレンドラ・モディ首相の失敗を、「叩頭外交」と批判する。
「習近平岡家王席とモディ首相は、これまでに十八回の首脳会談を行ってきた。こんなに頻繁に会っているのに、何の成果もない。習主席は悦に入って『ウィンウィン(双方が得する)』と繰り返すが、モディは負けっぱなしだ」と、野党関係者は言う。【「選択」7月号】
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【BRICSでは中ロと距離を置き、対ロシア制裁ではアメリカに従わないしたたかなインド外交】
インドの中国に対する警戒感はBRICSの場にも持ち込まれています。
中国・ロシアはBRICSを対アメリカ戦略の基盤とすべく、アルゼンチンやイランも加えて、更に拡大しようとしていますが、インドはBRICSが中ロ主導の反アメリカ的なものになることを警戒しています。

****中露、BRICS会議で米牽制 インドは〝距離〟置く****
中国やロシア、インドなど新興5カ国(BRICS)は23日、オンライン首脳会議を開催した。中露両国は、ウクライナ侵攻に伴う対露制裁を主導する米国への反発を強めており、BRICSを米国に対抗する国際枠組みに発展させたい考えだ。ただ、インドは「反米会議」になることを牽制(けんせい)する構えで、加盟各国の足並みはそろっていないもようだ。

議長国・中国の習近平国家主席は首脳会議で、米欧を念頭に「一部の国は軍事同盟を拡大して絶対的な安全を追求しようと必死になり、他国にどちらの側につくのか迫って陣営対立を作り出している」と非難。22日夜に開かれたBRICS関連会合でプーチン露大統領も、米欧の対露制裁が世界の食料危機を激化させていると批判した。

ロシアのウクライナ侵攻後、米欧はロシアへの経済制裁で一致姿勢をみせる。同時に、バイデン米政権は日米豪印による「クアッド」など新枠組みによる対中包囲網の構築を急いでいる。中露両国はこれに対し、BRICSなどの多国間枠組みを強化し、米欧の圧力に対処したい考えだ。

習氏は会議で、BRICS加盟国に「互いの核心的な利益に関わる問題では相互に支持しなければならない」と求めた。「真の多国間主義を実践し、正義を守り、覇道に反対すべきだ」とも強調し、米欧への対抗意識をにじませた。
習氏は「新しい血液を入れることで、BRICSの代表性と影響力を高めるだろう」と述べ、加盟国拡大に意欲を示した。

一方、BRICSの一角をなすインドは警戒を隠さない。中印関係は2020年、インド北部の係争地で両軍が衝突したことを契機に急速に冷え込んだ。現在も中国軍は両国の事実上の国境である実効支配線(LAC)付近に駐留。インド側の対中警戒感は強く、クアッドとの連携を強化している。【6月24日 産経】
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ただ、インドも“アメリカの歩調をそろえて・・・”という訳でもなく、アメリカの主導の対ロシア制裁に加わらず、安価になったロシア産石油や石炭を爆買いしてロシア経済を支える結果にもなっています。

アメリカとしては本来ならインドに強く出たいところでしょうが、対中国包囲網に止めおきたい思惑で、やや腫れ物に触る感も。

インドはそうしたアメリカの足元を見透かして「自国第一」の独自路線を・・・ということで、なかなかに“したたか”です。

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イスラエル  バイデン氏訪問を控えてパレスチナ人記者射殺事件幕引きか イランとの「影の戦争」

2022-07-07 23:03:19 | 中東情勢
(アルジャジーラのシリーン・アブ・アクレ記者。同氏の元同僚提供(2021年5月22日撮影)【7月5日 AFP】)

【パレスチナ人記者射殺事件の顛末】
きな臭い事件、不穏な事件には事欠かないイスラエル・パレスチナ地域ですが、今年5月11日にヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ジェニンで取材中の女性記者、シリーン・アブアクラさん(51)が顔面を銃撃され死亡する事件がありました。

彼女は米国籍を持つ著名パレスチナ人記者だったこともあり、イスラエル・パレスチナどちらが発砲したのかが議論となりました。

****アルジャジーラ記者、銃撃で死亡=イスラエル関与めぐり非難の応酬****
中東カタールを本拠とする衛星テレビ局アルジャジーラによると、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ジェニンで11日、取材中の同局の女性記者、シリーン・アブアクラさん(51)が顔面を銃撃され、死亡した。

アルジャジーラはイスラエル軍が銃撃したと主張しているが、イスラエル政府は「パレスチナ人の発砲で死亡した可能性がある」と反論。情報が交錯する中で非難の応酬となっている。
 
アルジャジーラによれば、アブアクラさんは難民キャンプに対するイスラエル軍の急襲作戦を取材していた。銃撃時に「報道」と書かれた防弾チョッキを着用しており、声明で「国際法に反する形でイスラエル軍に冷酷に殺害された」と非難した。パレスチナ人記者1人も背後を撃たれ負傷した。【5月11日 時事】 
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国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)もイスラエル側からの銃撃を指摘しています。

****イスラエル側から銃撃=パレスチナの女性記者射殺―国連人権事務所****
パレスチナ系米国人の女性記者、シリーン・アブアクラさんがパレスチナ自治区ジェニンでイスラエル軍の急襲作戦を取材中に銃撃を受けて死亡した事件で、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は24日、独自調査の結果として「銃弾はイスラエル治安部隊から発射された」と発表した。

5月11日に起きた事件をめぐり、イスラエル政府はパレスチナ武装勢力の発砲が原因だった可能性に言及していた。しかし、OHCHRは武装勢力が事件発生時、現場で活動していたことを示す情報は見つからなかったと指摘した。

一方、イスラエル軍はOHCHRの発表を受けて声明を出し、少なくともイスラエル側がアブアクラさんを意図的に狙った事実はないと説明。発砲したのが「パレスチナ人の狙撃手かイスラエル兵かを断定することはできない」と強調した。【6月24日 時事】 
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一方、イスラエルの同盟国アメリカは、イスラエル側の発砲ではあったが、“故意に殺害されたと考える「理由はない」”と“誤射”の見解を示し、遺族・パレスチナ側の反発を呼んでいます。

****アルジャジーラ記者死亡、イスラエルの誤射と結論 米発表に遺族ら反発*****
(中略)米国務省は4日、銃撃はイスラエル側によるものだった可能性が高いとする調査結果を発表した。イスラエルの責任を追及する姿勢を示したが、同氏が故意に殺害されたと考える「理由はない」としている。(中略)

同氏の死は怒りの声を呼んだ。パレスチナ自治政府は、アブ・アクレ氏が故意に射殺されたとし、戦争犯罪に相当すると非難。一方のイスラエルは、意図的な銃撃を強く否定している。

米国務省は、アブ・アクレ氏が受けた弾丸を詳細に分析したものの、損傷が激しかったため、弾の出所について「決定的な結論」を出せなかったと説明。イスラエルと緊密な同盟関係にある米国による今回の発表は、全ての関係者が受け入れられる調査結果への期待を裏切る形となった。

同氏の遺族は声明で、弾丸を発射した銃が特定できなかったことは「信じがたい」と反発。パレスチナ自治政府高官は、「真実を隠そうとする」試みを非難した。パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスは国際的な捜査を求め、米国をアブ・アクレ氏殺害の「真の共犯者」と呼び批判した。 【7月5日 AFP】
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アメリカ・バイデン大統領は来週にもイスラエルを訪問予定で、その前に政治的幕引きを図った・・・とも見られています。

****イスラエル軍に「故意の発砲なし」=バイデン氏訪問に配慮か―記者銃撃で・米調査****
パレスチナ系米国人記者がイスラエル軍の急襲作戦を取材中に銃撃を受けて死亡した事件で、米国務省は4日、明確な結論に踏み込まないまま、故意の発砲とは認めないとする調査結果を発表した。バイデン米大統領は来週、就任後初のイスラエル訪問を控えており、事件が両国関係の火種とならないよう配慮した可能性がある。

イスラエルのラピド首相は4日、米国の発表を受けて声明を出し、イスラエル軍の調査でも「彼女を意図的に傷つける意図がなかったのは確定的だ」と呼応してみせた。イスラエル紙ハーレツは解説記事で「バイデン政権は来週の大統領訪問前の幕引きを望んだ」と分析した。(後略)【7月5日 時事】 
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ロシア軍のウクライナ侵攻に対し、民主主義・人権を掲げて批判するバイデン政権ですが、立場・状況が変われば“政治的配慮”が優先するという“極めて当たり前の現実”を見るような感も。

【イスラエルとイランの「影の戦争」】
イスラエルにとってはパレスチナ問題は今も重要な国内問題でもありますが、圧倒的軍事力を有し、かつてパレスチナを支援していたアラブ諸国とも関係を強化しているということもあって、軍事的に見れば目下の主敵は核開発を進めるイラン・・・ということでしょう。

イスラエルとイランは水面下で「影の戦争」を戦っているとも言われています。

****イランとイスラエルの影の戦争****
ロシアとウクライナの戦争が国際コミュニティの注目を集める中、イラン政府とイスラエルによる影の戦争は過激化し、同地域の緊張を高めている。イランとイスラエルの影の戦争が拡大することの危険性は、歯止めが掛からなくなり両国間の全面戦争に発展する可能性を秘めている点にある。

イスラエルは、イラン西部ケルマンシャー州近郊にあるイランの空軍基地を攻撃し、数百機のドローンを破壊するという前例のない動きを見せたと報じられている。

イラン政府はおそらく面目を失いたくない、あるいは弱みを見せたくないという理由から、この攻撃に関する情報公開を行わなかった。報道機関『The Nour』は、「14日午前、ケルマンシャー州マヒダシュト地区にあるイスラム革命防衛隊の支援基地のひとつにて、モーターオイル等の可燃性物質が置かれていた保管室から出火し、産業用倉庫に損害が発生した」と報じている。

力を見せつけ強硬派の不満を抑え込むため、即時報復を試みるのがイラン政府の常となっている。今回イラン政府はイラク北部クルド人自治区に向けて十数発のミサイルを発射するという形で対応し、イスラエルの施設を狙ったと主張した。

イスラム革命防衛隊(IRGC)は、「IRGCが放った強力かつ正確なミサイルの標的は、陰謀と悪事をたくらむシオニストの戦略施設だった」と声明を発表した。

エルビルのオメド・コシュナウ県知事は、同地区にイスラエルの施設は存在しないと述べた。狙われたのは新設された米国領事館だったという。(中略)

イスラエルへの報復にあたって、イラン政府は直接イスラエルの施設を狙う必要はない。イラン政府はイスラエルの強固な同盟国である米国を標的とすることで、米国政府からイスラエルに圧力を掛けざるを得ない状況を作り、米国とイスラエル両国がイランの報復の標的になり得るのだという強力なメッセージを送ることができる。

イラン政府は、イスラエルまたは米国の施設を攻撃可能な数千発のミサイルを保有している。米中央軍司令官のケネス・マッケンジー大将は米国上院軍事委員会にて次のように述べた。

「軍事レベルでの私の第一の懸念は、彼らが核兵器を持っていないかどうかですが、彼らの弾道ミサイル計画の大幅な成長と効率性についても大きな懸念を持っています。彼らは様々な種類のミサイルを3,000発以上保有しており、中にはテルアビブを射程圏内に捉えているものもあります」

イランとイスラエルの影の戦争は、他国つまりシリアでも悪化している。先日はイスラエルがシリアで空爆を行い、IRGCの将校2人を含む4人が死亡した。

IRGCと繋がりを持つイランの国営報道機関『Sepah News』は、イスラエルは「この犯罪の報いを受ける」ことになるだろうと警告し、殺害されたイランの2人はエーサン・カルバライプール将軍とモルテザ・サイードネジャド将軍だったと報じた。

拡大を続けるこのイラン政府とイスラエルによる影の戦争の裏には、いくつかの根本的な問題が存在する。最も重要な問題は、イランの核計画および核合意再建に関連している。

イランの指導者層は核計画の目的は平和利用だと主張しているが、イスラエル政府の観点からすると、イラン政府は核兵器の保有という裏の目的の実現を目指しているということになる。

イスラエルの指導者層の懸念は、イラン政府がこれまで内密に行ってきた核活動が裏付けている。イラン政府は最初から核活動を秘匿すると決めていた。たとえばナタンズとアラークという2つの大都市で秘密裏に行われていた核活動を2000年に初めて明らかにしたのは、反体制派であるイラン国民抵抗評議会(NCRI)だった。

イスラエルはイラン核合意による重大な影響と、シリア、レバノン、イラクにおけるイラン政府の影響力増大を懸念している。(中略)

イスラエルとしても、核合意によってイラン政府が財政面で余裕を取り戻すのみならず、同政府による核計画の進展を防げないのではないかと懸念している。そのうえ、核合意によってイラン政府はイラク、イエメン、レバノン、シリアの親イラン派グループを強化し勢いを煽るためになんとしても必要な資金を得ることになる。

端的に言えば、イスラエルはイラン核合意による重大な影響と、シリア、レバノン、イラクにおけるイラン政府の影響力増大を懸念しているのだ。このことがイラン政府とイスラエルの影の戦争の拡大に繋がっており、歯止めが掛からなくなって全面戦争へと発展するリスクが生まれているのである。【3月21日】
*******************

イランでは革命防衛隊関係者や軍事関連技術者が不審死する事件が相次いでいます。
5月22日 革命防衛隊の大佐が自宅近くで射殺される
25日 軍事施設に対するドローン攻撃で技師が死亡
31日 航空技術者が急死
6月2日 地質学者が急死
3日 革命防衛隊の大佐が自宅で転落死と報道
12日 革命防衛隊航空宇宙軍の技師が交通事故死
12日 国防省の航空宇宙部門の技師が業務中に死亡

イラン側はこうした事件へのイスラエルの関与を確信し、報復の機会を狙っているとも指摘されています。

【イスラエル・トルコ関係の改善】
13日にはイスラエルのラピド外相が、「イランのテロリストたち」によるテロ未遂事件がイスタンブールであったと発表、トルコ当局と連携して「複数のテロ計画」を阻止してきたとも明らかにしています。

****イランの「テロ阻止」で謝意=16年ぶりトルコ訪問―イスラエル外相****
イスラエルのラピド外相は23日、同国の外相として16年ぶりにトルコを訪れ、首都アンカラでチャブシオール外相と会談した。ラピド氏は会談後の共同記者会見で、トルコ国内での「イスラエル市民を標的としたイランによるテロ攻撃」を協力して阻止できたとして、トルコ政府への謝意を示した。

一方、チャブシオール氏は、イスラエル市民に対する脅威について「両国の関係機関が継続的に情報交換している」と指摘。イランについては直接言及しなかったが、トルコ国内で「テロ攻撃を許すことはあり得ない」と強調した。【6月24日 時事】
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以前からトルコ・エルドアン大統領はイスラエルのパレスチナ対応を強く非難するなど両国関係はよくありませんでしたが、ここにきて、両国とも周辺アラブ諸国との関係改善を進めており、その思惑が一致したようです。

“(イスラエル外相)ラピド氏はまた、トルコとの間で相互に大使を派遣する協議を始めたと述べた。両国は2018年、在イスラエル米国大使館のエルサレム移転を受け、抗議するパレスチナ人に治安部隊が発砲、多数が死傷したことなどで関係が悪化し相互に大使を召還した。パレスチナを支持するトルコのエルドアン政権はそれ以前からイスラエルと対立していた。”【6月24日 産経】

【イスラエル国内事情 ベネット連立政権崩壊】
周知のように、イスラエルは国内的にはベネット政権が崩壊して政治混乱が続いています。
もっとも、“3年間で5度目の総選挙”ということで、その類のゴタゴタは圧倒的な多数党がないイスラエルにおいては“日常的”なことなのかも。

****イスラエル、3年間で5度目の総選挙へ 国会解散、外相が首相兼務****
イスラエル国会(定数120)は30日、ベネット政権が提出した国会解散を求める法案を可決した。昨年6月に発足したベネット政権は約1年で崩壊し、2019年4月以降で5度目となる総選挙が11月に実施される。新内閣発足まで、首相をラピド外相が兼務する。

新首相となるラピド氏は中道政党「イエシュアティド」の党首。パレスチナとの「2国家共存」を推進する意欲を持つ首相は、同じく中道のオルメルト元首相(在任06〜09年)以来となる。

ただ、ラピド政権は総選挙までの「暫定内閣」の色合いが強く、パレスチナ問題の進展は難しそうだ。一方、ラピド氏は引き続き外相を兼務するため、外交政策も前政権と大きく変わらない見込みだ。バイデン米大統領のイスラエル訪問は、7月中旬に予定通り実施されるという。

ベネット政権は昨年6月、汚職容疑で公判中のネタニヤフ前首相と対立する8党が結集して成立。過半数ぎりぎりの61議席だったが、各党が妥協してバランスを保ってきた。

だが、パレスチナ政策などを巡って徐々に亀裂が表面化。4月以降、ベネット氏率いる右派政党「ヤミナ」の議員2人が政権から離脱し、国会で少数派に転落した。

イスラエルは少数政党が乱立する完全比例代表制。19年以降、組閣失敗による再選挙を繰り返し、4回目の選挙でようやく政権発足に至った。11月の選挙後も連立交渉が難航するとみられており、ラピド政権が長期化する可能性もある。【6月30日 毎日】
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ベネット政権は右派の強硬派から中道左派、アラブ系政党など幅広い政党からなる連立政権で、イスラエルの歴史上初めて成立したアラブ系政党との連立政権でもありました。しかし、「反ネタニヤフ」だけが共通事項で、ベネット前首相自身はネタニヤフ元首相以上の右派強硬派であり、このような多様な連立を率いるには当初から無理もあったようにも思えます。

ラピド新首相は“パレスチナとの「2国家共存」を推進する意欲を持つ”とのことですが、バイデン米大統領訪問でそのあたりがアピールされるものと思われます。

ただ、対パレスチナ関係で大きな変革を実現できるほどの政治基盤はなく、現実面では現状維持が続くことが予想されます。

【ファタハ・ハマスのトップ会談】
一方、パレスチナ側では・・・

****パレスチナ自治政府とハマス、6年ぶりトップ会談****
複数のイスラエル・メディアによると、パレスチナ自治政府のアッバス議長と自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏が5日、アルジェリアで会談した。

アッバス氏率いるパレスチナ主流派組織ファタハはハマスと長年対立しており、トップ同士が会うのは2016年以来とみられる。

アッバス、ハニヤ両氏は、アルジェリアで行われたフランスからの独立60周年を祝う式典に参加し、アルジェリアのテブン大統領が仲介したという。会談の内容は明らかでないが、イスラエル紙ハーレツは「選挙への道を開く期待から行われた」と報じた。【7月6日 時事】
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こちらも、現実的な動きはあまり期待できないような・・・気がしています。変化を実現できる活力・体力がもはやない・・・と言うべきか。
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中国  3期目が確実視される習近平主席だが、社会不正にもの言う国民にどう向き合うか

2022-07-06 23:10:47 | 中国
(中国の習近平国家主席は新型コロナが初めて流行した湖北省の武漢を視察し、ゼロコロナ政策について「正しく有効だ」とし、経済への一時的な影響はやむを得ないとする姿勢を示しました。【6月30日 メーテレ】)

【既定路線の習近平3選 一方で国内、党内に高まる不満】
中国では秋に行われる第20回共産党党大会で習近平国家主席の3期目突入が確実視されている・・・・という話の一方で、特に昨今の「ゼロコロナ」に固執した対応で経済が減速し、経済重視の李克強首相を推す「李昇習降」といった言葉に示されるような習近平体制への異論・不満も出てきているという話は、これまでも取り上げてきました。

****異例の3期目続投に黄信号?!習近平氏の足元は盤石なのか?****
中国に返還されてから25年目を迎えた香港の記念式典に習近平氏が姿を見せた。民主化が抑圧され中国化が着々と進む香港だが、習氏は「一国二制度」の存続を声高に説く。秋に行われる第20回共産党党大会で3期目突入が確実視される習近平氏。ところが、ここへ来てその立場は本当に盤石なのか危ぶむ声が聞こえてきた。ロシア問題で見過ごされがちな今、中国で何が起きているのか読み解いた。

■「多くの香港人にとって唯一できることは感情を殺すこと」
(中略)香港民意研究所によるこんなデータがあるーーー香港の人に「あなたは香港人か中国人か」と尋ねた。その結果、18歳から29歳では95.6%が「香港人」と答え、「中国人」と答えたのはわずか4.4%だった。若者に限らず全世代平均でも7割が「香港人」と答えている。

これだけ見ても香港で中国化が望まれていないことは確かなようだ。しかし、習近平氏に不満を持つ者は、香港だけではなく中国本土内でも増え始めているのかもしれない兆候が見え始めているという。

■ゼロコロナ政策が生んだ「李昇習降」
この秋の党大会で習近平氏の3期目続投は既定路線といわれてきた。ところが、真偽不明としながらも「無期限の再任に反対」という朱鎔基元首相の上申書がアメリカのメディアで流れた。これに対し、すぐに中国政府は引退した党幹部に「中央の政治方針に意見してはならない」という通達を出している。

宮本雄二 元駐中国大使
「こういう話が外に出始める。本当かどうかわかりません。でも外国のプレスを使ってこういう話が出始める、その頻度が高まるということは、党内掌握ができていないことの現れなんです。本当に習近平さんが強かった時はこういう話が出てこないんです。党内の力が習近平さんじゃない方に動いたからこういう話が出た」

さらに6月、外相候補と目された対ロ政策の中心人物が左遷されたが、これは習近平氏のロシア寄りの政策への不満の表れともいわれている。これらは習近平氏が必ずしも盤石ではないことを裏付けている。

宮本雄二 元駐中国大使
「今中国の中で習近平さんに不満があるのは、ゼロコロナ政策ですよ。これは経済によくないという経済界からの不満。(中略)習近平さんは打つ手は打ってきた。人民解放軍は抑えた。江沢民さんの系列の人は全部叩いて今は習近平さんの系列の人しかいない人民解放軍の人事になっている。今猛烈な勢いで公安を整理している。

新しい公安部長も習近平さんの側近。人事も握ってる。きつい言い方をすれば暴力機構、軍・警察の人事を握っている。それが習近平体制。そういう意味では相当強いです。にもかかわらず(ゼロコロナ政策による自由のなさと経済の落ち込みで)国内の不満は高まっているんです」

ゼロコロナ政策への不満が高まる中、習近平氏との対立が伝えられる李克強首相が地方を視察する模様が報じられた。映像では李克強氏を中心に人だかりができているが、誰一人マスクをしていない。ソーシャルディスタンスもなく、李克強氏もノーマスクで演説をしている。これはゼロコロナ政策への反抗にも見える。事実、ゼロコロナ政策の習近平より、経済重視の李克強を推す「李昇習降」という言葉がインターネットなどで生まれているという。

現代中国を研究する立教大学の倉田教授は中国国内の揺らぎはコロナの影響が大きいと話す。
立教大学 倉田徹教授
「社会に不穏な空気があるのは確か。ゼロコロナ政策への不満と疑問が渦まいている(中略)最初の頃はゼロコロナでやっていこうとしたものの、疲労が社会にたまっている。これを権力闘争、いわゆる椅子取りゲームに利用しようとすることは十分考えられる」  

■中国は国民の不満が政治に反映しない仕組み
盤石といわれてきた習近平体制を脅かすゼロコロナ政策への不満。ゼロコロナがもたらす中国経済への悪影響は数字で顕著に表れている。

そのひとつ「若者の失業率」。これは過去最高の18.4%だ。コロナ禍で企業、特に中小企業が大ダメージを受け新規採用は激減している。企業の収益が減れば税収も減る。結果財政収入は前年比マイナス10.1%。その一方でゼロコロナ政策ゆえの出費、大量のPCR検査費。これが年間実に29兆円に達するという。これは中国トップ企業500社分の納税額を上回る額だ。これらの数字は日本やアメリカなら政権維持はあり得ないだろう。しかし・・・

宮本雄二 元駐中国大使
「国内、党内の不満は確実に高まっている。ただ、その不満が日本の選挙制度のようには政治の中で反映されない。中国はそういう仕組みなんです。だから習近平政権は表面上安定しているように見える。でもそれを覆す大きなガス爆発が起こればその局面は大きく変わる。ガス爆発になりうるのは経済問題。習近平さんは党大会までにコロナをゼロにしたい。でもそうはいかず変異種が入って広がったりすると経済に影響する。そうなると不満は増す・・・」

さらに対米関係も重要で、特に台湾で中国軍が大胆な活動をした場合、アメリカとの関係は悪化する。この時習近平政権はアメリカとどう向き合うのか。

宮本雄二 元駐中国大使
「習主席はアメリカに厳しすぎる。経済発展のためには安定した国際関係が必要だと。対米関係が動揺すると全体的な国際関係が動揺。そんな中でいつものようにビジネスができるかって言ったらできないんですよ。経済発展のために対米関係をうまくやって欲しいが、習近平さんは逆のことをやっている。(中略)アメリカとうまく向き合えない人が今後5年間中国の指導者でいいのかってことになる。

経済と対米関係、この2つが習近平政権のアキレス腱に成りうる。この2つに大きな問題が起これば党内の雰囲気はたちどころに変わる。政治は一寸先は闇。それは中国も同じなんです」(BS―TBS 『報道1930』 7月1日放送より)【7月4日 TBS NEWS DIG】
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個人的な印象としては、“異例の3期目続投に黄信号”云々は多分に日本など外部の“期待”もこめられたもので、何といっても国内を押さえている習近平体制はそう簡単には揺らがないのだろう・・・という感じも。

習近平主席は更に国内支配を強固なものにすべく体制固めを図っています。

****習氏の側近・王氏が公安相に 治安部門を全面掌握****
中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会は24日、公安相に王小洪(おう・しょうこう)氏を起用する人事を決めたと発表した。王氏は、習近平国家主席の福建省勤務時代からの側近として信頼を置かれており、今秋に開かれる共産党大会に向けて習氏が党内外ににらみをきかせるための人事とみられる。

王氏は昨年11月に公安省内の党組織のトップに任命されていた。今回、閣僚ポストにも就くことで、公安部門を全面的に掌握することになる。

王氏は、習氏が福建省福州市党委書記を務めていた1990年代に、同市公安局副局長などとして仕えた。習指導部発足後には、首都の治安トップである北京市公安局長に起用され、2016年から公安次官を務めていた。

公安・司法部門をめぐっては20年以降、孫力軍(そん・りきぐん)元公安次官や傅政華(ふ・せいか)前司法相ら有力幹部の摘発が続いている。同部門は、党・政府高官の個人情報を握っており、絶大な権力を持つ。

習氏は、敵対する政治勢力の幹部を反腐敗キャンペーンで失脚させるなどして党内基盤を固めているが、自身の総書記3期目入りを目指す党大会に向けてわずかなリスクも排除しようと、公安・司法部門の統制を強化していると指摘されている。【6月24日 産経】
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【変わる中国社会 警察・地方政府に対する不満が表面化するケースも】
ただ、“習近平体制はそう簡単には揺らがないのだろう”とは思いますが、習近平体制が仮に3期目に突入したとしても、従来の上から力で抑えるような政治手法では社会の変化にうまく対応できないのではないかという思いも。

共産党一党支配のもとで、“おかみの決定には国民は従うだけ”という世の中でなくなりつつある・・・政治的な問題は別にしても、社会正義を求める国民の声は強くなっているし、その声を表面化するSNSという手段も今はある・・・中国といえど世の中の在り様は変化しつつあり、もし習近平体制がその変化に対応できないときは、鬱積した不満が次第に膨らんでくる可能性もあるように思えます。

特に、国民の身近な存在の警察権力の腐敗、反社勢力との癒着に対しては厳しい批判が国民から出ることが多くなっています。

****セクハラ拒んだ女性に激しい集団暴力、中国世論が怒りで沸騰…警察への批判も噴出****
中国河北省唐山市の飲食店で今月、女性客が男たちから激しい暴力を受けて負傷する事件があり、中国世論が沸騰している。地元警察の対応への批判が高まったことを受け、「社会の安定」を重視する習近平シージンピン政権は24日、犯罪グループの摘発に手抜かりがあれば厳しく責任を問う方針を示した。

中国メディアなどによると10日、団体で食事中だった30歳代の女性客が男の客に声をかけられ、背中を触られた。女性が拒むと男は殴りかかり、男の仲間も暴力に加わった。頭部などを負傷した女性2人は一時、集中治療室に入った。

暴行の動画が拡散すると「公共の場でセクハラを拒めば暴力の被害者となるのか」と衝撃が広がった。警察は地元の男女9人を逮捕したが、現場到着が遅かったとの批判が噴出。犯罪グループの横暴を訴えても地元警察が対応してこなかったとの住民の告発がSNSで相次ぎ、犯罪グループとの癒着を疑う声も出た。

これを受け、省の当局は地元警察幹部ら5人を規律違反の疑いで調査。官製メディアは22日、政権が、「住民の素質と文明度が高い」と判断された都市に贈られる「全国文明都市」の資格を唐山市から剥奪したと伝えた。市当局への懲罰とみられる。【6月25日 読売】
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****中国、反社癒着を告発したら逮捕 暴行事件を機に不信噴出****
中国河北省唐山で当局と反社会的な人々の癒着を訴えた高齢者施設経営者が、6日までに公共秩序騒乱容疑で逮捕された。唐山で起きた女性暴行事件をきっかけに、中国では当局が反社会的な人々の「後ろ盾」になっていると告発する投稿がSNSで相次いでいた。

逮捕されたのは張栄さん(52)。2006年以降、唐山の自宅や施設が反社会的な人々に何度も襲撃されたという。当局主導の立ち退きに絡んだ圧力とみている。

唐山では今年6月、飲食店の女性客が集団暴行を受ける事件が発生。殴られる映像がSNSで拡散され衝撃が広がった。【7月6日 共同】
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単に、警察と反社勢力の癒着という明らかな不正だけでなく、政府の政策に対する不満も。

****中国地元当局が子供連れ去り認める 32年前「一人っ子政策で」****
中国南部広西チワン族自治区で32年前に起きた子供の連れ去り事件を巡る地元当局の対応が物議を醸している。この子供の両親が捜査をするよう改めて陳情したところ、当局が「一人っ子政策」に基づく「社会調整」だったとして事実上、連れ去りへの関与を認めたのだ。インターネット上では「官製の誘拐・人身売買だ」といった書き込みが相次ぎ、中国社会に衝撃が広がっている。

中国メディアによると、この両親には子供が7人いた。1990年夏、旅館に宿泊していたところ、突然5人の男女が現れ、当時1歳だった末っ子の男児が連れ去られたという。両親は先月、地元の衛生当局に改めて捜査するよう求めた。

地元当局は今月1日、「90年代は厳格な人口抑制政策が実施されており、政策に違反して生まれた子供から1人を選んで『社会調整』をしたことは、当時の地元政府の決定だ」としたうえで「あなたの子は『社会調整』によって連れ去られたのであり、誘拐や人身売買ではないと確認されている」と回答。一方でこの子供の「所在など、いかなる記録も残っていない」として陳情を不受理とした。「社会調整」が具体的にどのような行為を指すのかは説明していない。

ネット上には「今後は誘拐・人身売買を『社会調整』と呼べばいいのか」「寒くはないのに震えが止まらない」といった声があふれた。事態を重く見た地元当局は、事実関係を調査すると表明するなど対応に追われている。

中国政府は急激な人口増加を抑えるため、79年から1組の夫婦につき子供を1人に制限し、違反者には罰金を科すといった一人っ子政策を導入。2015年に廃止を発表するまで厳しい人口抑制政策をとった。地域によっては、当局が強制的な堕胎を指示する事例などがあったと指摘されている。【7月6日 毎日】
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中国では、政府の計画以上に子供がいる家庭から子供を奪い、少ない都市の孤児院などに送る事件は、2000年代以降もたびたび報じられています。

5日、全州県政府が「陳情不受理」とする通知書がSNS上で広がると、上部組織の桂林市共産党委員会などが調査チームを派遣。陳情を軽視したとして、衛生局長らを直ちに停職処分にすると発表し、迅速な“火消”に動いています。

1990年当時、「社会調整」という名のもとに、公権力による誘拐・人身売買が横行していたのは事実でしょうし、別にそのことは驚きでも何でもありません。

注目すべきは、そういう公権力の行使が著しく社会正義に反すると思われた場合、それを糾弾する声が上がるような世の中になったという点。中国という日本からすると特異な政治体制にあっても、国民はおかみのやることについて泣き寝入りするしかないという社会ではないということです。

“中国は国民の不満が政治に反映しない仕組み”だけに、こうした国民の不満・批判に柔軟に対応できないと、盤石と思われる習近平体制にも思わぬ綻びがでかねないかも。

【出口が見えない「ゼロコロナ」 強化される対応 国民不満も増大】
目下のところ、国民の最大の不満は「ゼロコロナ」に伴う過度に厳しい規制に向けられています。
上海・北京では感染拡大は一応収まったものの、絶えず全国のどこかで新たな感染が再燃します。

****中国、コロナ感染再拡大で各地で対策強化 上海で集団検査****
中国で新型コロナウイルスの感染が再び拡大している。上海市ではクラスター(集団感染)が発生。各地で感染防止措置が強化されている。

全国の新規感染者数は300人余りと、世界的に見ると依然少ない。しかし主要都市でさらに感染が拡大すれば、ゼロコロナ政策に基づく厳しい制限措置が敷かれ、景気回復に水を差す恐れがある。

6月上旬に2カ月にわたるロックダウンを解除した上海市は、5日から7日にかけて16地区のうち9区の全住民、他の3区の一部住民を対象に検査を実施する。クラスターを受けてカラオケの営業を停止した。5日に確認された市中感染者は24人。前日の8人だった。

首都北京市は、交通機関の拠点やホテルに利用者の検温や検査の陰性証明の確認など感染防止措置の徹底を要請した。5日に確認された市中感染者は6人で前日の3人から増えた。

このところの新規感染者の大半を占める東部の安徽省では100万人超がロックダウン下にある。

陝西省の省都西安市は6日から7日間、さまざまな娯楽施設の営業を停止し、レストランでの飲食や大規模なイベントを禁止する。【7月6日 ロイター】
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“上海市では5〜7日にかけて、市内の多くの地域で大規模なPCR検査を実施している。3日間で2回の検査を受けることを義務付けており、1千万人超が対象になるとみられる。市内で新規感染者の確認が相次いでいることを受けた措置としている。上海では6月1日に約2カ月間続いた都市封鎖が解除されたばかりだが、市民の間には再封鎖を警戒する声もある。”【7月6日 産経】

“陝西省当局によると、5日に西安で新たに確認された新型コロナ感染者は11人(うち無症状が10人)。習近平政権は、感染拡大を徹底的に押さえ込む「ゼロコロナ」政策をとっており、地元当局は警戒を強めているとみられる。西安では昨年12月から今年1月にかけてロックダウン(都市封鎖)が行われていた。”【同上】

習近平主席がメンツにかけて「ゼロコロナ」を維持し、感染拡大した地方政府はその責任を問われるという体制にあって、地方当局は保身のためにも住民の犠牲を顧みない感染封じ込めに走りがちという状況にもあります。

そうした地方政府の行為が住民の間に“不穏な空気”を醸成し、それが中央における権力闘争にリンクする事態も想像できます。

習近平主席・指導部が“もの言う国民”にどのように対応するのか・・・という問題です。
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ウクライナ危機で進む「石炭への回帰」 温暖化対策には逆風

2022-07-05 22:47:29 | 環境

(【6月22日 日経】 ウクライナ危機に伴う石炭需要拡大で価格は更に高騰していますが、資源価格高騰自体はウクライナ以前の昨年後半から)

【ドイツ ウクライナ危機で石炭利用拡大へ】
ロシア軍によるウクライナ侵攻は、力による現状変更という安全保障上の直接的問題の他にも、一部地域では飢餓や政情不安にもつながる食糧危機、エネルギー調達の脱ロシアとそれにともなう需給の不安定化、食料・エネルギーなど世界で加速するインフレーション・・・さまざまな影響を世界にもたらしていますが、そのひとつがエネルギー調達の脱ロシアがもたらす石炭利用の拡大および温暖化対策の後退という問題です。

ロシア産ガスをドイツに輸送するパイプライン「ノルドストリーム」に見るように、欧州でもエネルギーのロシア依存が特に顕著だったドイツは禁断の石炭使用拡大に追い込まれています。

****独、石炭利用拡大へ ロシア産ガスの供給減少で****
ドイツ政府は19日、ロシア産天然ガスの供給減少と国内のエネルギー需要に対応するため、石炭利用の拡大を含む緊急対策を講じると発表した。

ロシア国営の天然ガス独占企業、ガスプロムが先週、欧州へのガス供給を大幅に削減すると警告したことを受けたもの。
ガスプロムは供給削減の理由について、ロシア産ガスをドイツに輸送するパイプライン「ノルドストリーム」の修復作業に伴うものと説明しているが、欧州連合当局は、ウクライナの支援国に対する報復とみている。

ドイツの経済・気候保護省は「ガス需要を縮小させるには発電用のガス使用を減らす必要がある。その代替として石炭火力発電所への依存を高めることになる」と説明した。

ドイツ政府は2030年までに石炭使用を段階的に削減する目標を掲げているが、方針を転換することになる。

ドイツのガス需要に占めるロシア産天然ガスの割合はウクライナ侵攻前の55%から現在は35%に低下。それを埋め合わせるため、ノルウェーやオランダなどからの調達を拡大するとともに、液化天然ガスの輸入を増やしている。 【6月20日 AFP】
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なお、2030年までに石炭火力発電所を閉鎖するという目標については、引き続き期限通りの達成を目指していくとのことです。

****ドイツ、2030年の脱石炭目標は維持 化石燃料の利用拡大も****
ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機を受け、化石燃料の利用拡大方針を示しているドイツは20日、2030年までに石炭火力発電所を閉鎖するという目標については、引き続き期限通りの達成を目指していくと表明した。

経済省のシュテファン・ガブリエル・ハウフェ報道官は定例記者会見で、「2030年の脱石炭達成期限については疑いの余地はない」と明言した。

ロシア国営天然ガス企業ガスプロムが先週、欧州へのガス供給を大幅に削減すると通告したことを受け、ドイツ政府は19日、石炭火力発電所の利用を拡大すると発表。ハウフェ報道官は、これによる二酸化炭素排出量の増加を考慮すると、目標は「これまで以上に重要になる」と語った。(後略)【6月20日 AFP】
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実際、2030年の脱石炭目標が達成できるかどうかはわかりませんが、環境政策を重視する緑の党も参加する連立政権としては「脱石炭」の看板を降ろすわけにもいかないでしょう。(近年のドイツ緑の党は党内的には現実主義派が主導権を握っており、石炭利用の拡大を含む緊急対策を了承したことに見るように、相当に現実主義的対応を行っているようです)

【世界的にも進む“石炭への回帰”】
ドイツだけの話ではなく“欧州では、ドイツのほか、イタリア、フランス、英国、オランダ、オーストリアが石炭火力発電の稼働再開か拡大、廃止の延期を表明”【下記 WSJ】とも。
世界的にみても、“石炭への回帰”が鮮明になっています。

****石炭の復活鮮明に 世界エネ争奪戦で急浮上****
ロシアから供給増えるよりは石炭消費の方がマシ

ロシアのウクライナ侵攻で石油・ガスの不足に拍車がかかる中、各国がエネルギーの安定調達を求めて、化石燃料の中でも最も環境負荷の大きい石炭への回帰を強めている。

米国や欧州、中国といった経済規模の大きい主要国・地域の間では、気候変動対策として石炭消費の削減を掲げているにもかかわらず、電力確保に向けて短期の石炭購入を増やす動きが広がっている。

長年にわたる新規投資の減少に加え、足元の需要急増が加わり、石炭の指標価格は供給不足から今年に入り最高値を更新。アジア向けの主要供給国であるオーストラリアのニューカッスル港積み石炭スポット(随時契約)価格は先月、初めてトン当たり400ドルの節目を突破した。

石炭の復活を主導しているのは、ロシアのガス供給削減で電力不足への不安が高まる欧州だ。2030年までに発電燃料としての石炭使用停止を掲げるドイツも、輸入を拡大している。ロベルト・ハーベック独経済相は石炭への依存増大は苦渋の選択だが、必要だとの認識を示した。

エネルギー専門の法律事務所ヴィンソン&エルキンズのパートナー、アレックス・ムシマング氏は「ロシアから(の供給が)増えるよりは石炭(の消費)が増える方がマシというのが足元の雰囲気だ」と話す。

米国の一部地域でも、石炭火力発電所の使用が増えている。異例の猛暑で電力需要が高まっており、今夏に停電のリスクが高まっているためだ。

専門家によると、世界最大の石炭消費国である中国は、石炭の生産と発電燃料としての使用を拡大している。昨年、全国的に電力制限や停電に陥ったことで、警戒感が高まっていると専門家は話している。

インドもエネ需要の高まりを受けて石炭への依存を強めている。シンクタンク「社会・経済進展センター」のラウル・トンジア上級研究員は、4月には石炭火力発電が過去最高を記録したと指摘する。

スイスのグレンコアといった石炭大手は、またとない書き入れ時を迎えている。石炭を今も主力事業に抱える数少ない資源大手の1社である同社は先月、上期の営業利益が32億ドル(約4300億円)になるとの予想を示した。これに対し、2021年通期実績は37億ドルだ。

西側の主要国ではここ10年、石炭の使用が減少傾向にあった。よりクリーンなエネルギーのコスト競争力が高まったことが背景にある。米国のシェールブームやロシアの欧州向け輸出で天然ガスは安定調達が可能になった。太陽光や風力といった再生可能エネも、コスト低下や政府の補助金により存在感を増した。

とはいえ、新興国を中心にエネ需要が急拡大する中で、石炭需要は大幅な伸びを維持しており、今年は過去最高を記録すると国際エネルギー機関(IEA)では分析している。

ただ、二酸化炭素(CO2)排出量が天然ガスの2倍に相当する石炭の復活により、地球の気温上昇を産業革命以前の水準からセ氏2度未満に抑える気候変動目標の達成はさらに遠のく。

一方、各国が石炭の調達を急ぐ中でも、資源大手と長期の契約に踏み込む動きはみられない、と業界専門家や弁護士は話している。これは米国やカタールとの間で長期の液化天然ガス(LNG)契約を結ぶ動きとは対照的だという。

欧州では、ドイツのほか、イタリア、フランス、英国、オランダ、オーストリアが石炭火力発電の稼働再開か拡大、廃止の延期を表明。多くの国が暖房需要が高まる冬季に向けて、天然ガスの備蓄積み増しを急いでいる。(中略)

こうした中、気候変動の専門家らはアジアにおける「脱石炭」の動きが従来の想定よりも遅れると危機感を強めている。エネルギー調査会社によると、世界最大の温暖化ガス排出国である中国はすでに世界の石炭発電能力の約半分を抱え、国内発電所が世界の石炭消費の約3分の1を占める。(後略)【7月5日 WSJ】
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“ロシアから供給増えるよりは石炭消費の方がマシ”とのことですが、インドのようにディスカウントされた安価なロシア産石炭を買い漁るインドのような国も。

****インドのロシア産石炭購入がここ3週間で急増、3割値引きも提示****
インドのロシア産石炭や関連製品の買い付けが6月15日までの20日間で3億3117万ドル相当と、前年同期の6倍以上に急増した。インド政府の未発表データをロイターが閲覧した。西側諸国が対ロシア制裁を強めていることで、ロシア系輸出業者が最大3割の値引きを提示しているという。商社筋2人の話などで明らかになった。

同期間にインドの製油業者が購入したロシア産石油も22億2000万ドルと、前年同期の31倍以上に急増していた。(中略)

インド政府はロシア産品の購入を供給多様化の一環として正当化している。ロシア産品の購入が世界で突然止まれば、世界的に価格が上昇しインドの消費者に打撃を与えるとも主張している。【6月20日 ロイター】
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“インドの消費者に打撃”だけでなく、インドがロシア産に向かうことで、それまでインドが購入していたものが欧州など他の地域にまわり、価格高騰が一定に抑制されている・・・という面もない訳でないでしょう。

【石炭を含む化石燃料インフラ開発が加速 パリ協定目標達成は一層困難】
「脱ロシア」の話はそれぞれの国の事情にもよりますが、結果的に石炭を含む化石燃料インフラ開発が加速し、温暖化対策としての「脱石炭」「脱化石燃料」がこれまで以上に困難になりつつあるのも現実です。

****パリ協定目標達成困難か 「脱ロシア依存」で化石燃料インフラ増****
ロシアのウクライナ侵攻を受け、各国がエネルギーの「脱ロシア依存」を進める中で新たな化石燃料インフラの開発計画が相次ぎ、気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」の目標を達成できなくなる恐れがあるとの報告書を、ドイツの科学者らが参加する国際NGO「クライメート・アクション・トラッカー」(CAT)が発表した。

CATは、ウクライナ侵攻後の各国政府のエネルギー政策を調査。液化天然ガス(LNG)のロシア以外からの調達を模索するドイツ、イタリア、ギリシャ、オランダで新たなLNGの輸入基地が計画され、欧州連合(EU)への供給量はウクライナ侵攻前よりも増える可能性があるという。

また、米国やカナダのほか、中東のカタールやアフリカのアルジェリア、エジプトなどで欧州向けのLNG輸出拡大の動きがある。

CATは「燃料価格の高騰で新たな化石燃料インフラへの投資が有益となり、新たな温室効果ガスの排出を数十年にわたって固定化する可能性がある」と指摘。パリ協定が掲げる「世界の平均気温の上昇を産業革命前から1・5度に抑える」という目標に「手が届かなくなる可能性がある」とし、新たな化石燃料インフラの開発や投資を停止するよう提言した。

国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)第3作業部会が4月に公表した報告書によると、気温上昇を1・5度に抑えるには、遅くとも2025年までに世界の温室効果ガス排出量を減少に転じさせ、30年までに19年比で43%削減する必要がある。

CATは各国政府の現状の政策のままでは今世紀末までに2・7度上昇すると予測していたがウクライナ危機をへて「状況はさらに悪化しているように見える」としている。

CATの報告書では、石炭火力発電を「段階的廃止」とすることで合意した5月の主要7カ国(G7)の関係閣僚会合にも言及。欧州各国が30年までの廃止を主張したのに対し、日本と米国が「エネルギー安全保障への脅威となることを懸念し、消極的だった」とし、「脱石炭を遅らせても、いっそうのエネルギー安全保障確保にはつながらない」と早期の石炭火力廃止の重要性を強調した。【6月8日 毎日】
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【バイデン大統領 温暖化対策が後回しになりかねないことへの危機感 しかし、政策対応を制約する米連邦最高裁】
ウクライナ危機のなかで温暖化対策が後回しにされる現状への危機感については、バイデン米大統領も表明はしています。

****「行動の窓閉ざされる」 米、温暖化対策で首脳会合 対応後手に危機感****
バイデン米大統領は17日、日欧や中国など約20カ国・地域による気候変動対策の首脳級会合をオンラインで開いた。ロシアによるウクライナ侵攻で燃料価格が高騰。温暖化対策は後回しになりかねず、バイデン氏は「(脱炭素化の達成への)行動の窓は急速に閉ざされようとしている」と演説し、危機感を示した。運輸や船舶、農業など幅広い分野で掲げた目標への賛同を各国に呼び掛けた。

米国設立の主要経済国フォーラム(MEF)の枠組みで開催。バイデン氏主催では3回目となった。
原油や天然ガスの価格が上昇し、各国が資源確保に注力している。会合は改めて脱炭素化への連携を確認し、11月にエジプトで開かれる国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)に向け、取り組みの機運を高める狙いがある。

バイデン氏は「気候安全保障はエネルギー安保とも密接に関連している」と強調。化石燃料の利用を減らして太陽光などを活用する温暖化対策が、エネルギーの安定調達にもつながるとの立場から、対策を強化し続ける重要性を訴えた。

会合で米国は、2030年までに新車販売の半数を電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車、燃料電池車などの「ゼロエミッション車」とする米国の目標について、主に運輸分野で各国に賛同を促した。
海運分野では、50年に脱炭素化を達成できるようにするため、海運業者や港湾運営者らの事業者が具体的対策を示すよう求めた。(後略)【6月18日 産経】
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しかし、そのバイデン大統領を阻む存在はアメリカ国内に。またしても保守化傾向を強める連邦最高裁が・・・

****バイデン政権の温室ガス規制政策に痛手、連邦最高裁が判決で制限…「議会の権限委任が必要」****
米連邦最高裁は6月30日、連邦政府が発電所の温室効果ガス排出を規制する権限について、制限する判決を出した。気候変動対策を政策の目玉とするバイデン政権にとり、大きな痛手となりそうだ。

石炭を主要産業とするウェストバージニア州が、連邦政府機関の米環境保護局(EPA)に対し、石炭から温室効果ガス排出量の少ない再生可能エネルギーなどへの移行を促す前提で包括的な排出規制をする権限はないと申し立てていた。

判決は、ジョン・ロバーツ連邦最高裁長官を含む保守派とみなされる判事6人が賛成し、リベラル派とされる3人が反対した。ロバーツ長官は多数派の意見として、「連邦議会がEPAにそうした権限を与えたとは考えられない」とし、包括規制には議会からEPAに対する明確な委任が必要だと指摘した。

現在、EPAは温室効果ガス排出に関する新規制を検討中だが、議会の承認が必要となる可能性が出てきたため、実施が困難になる恐れがある。バイデン政権は2030年までに温室効果ガスの排出量を05年比で50〜52%削減する目標を掲げているが、達成に影響を与えそうだ。【7月1日 読売】
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バイデン大統領はこの最高裁判断について「われわれの国を後戻りさせることを目的とした新たな破壊的判断」と指摘。声明で、判断が気候変動対策に取り組む「米国の能力を損なうリスクがある」とした上で、「公衆衛生を守り、気候の危機に対処するため、合法的な権限を行使することを辞さない」と言明しています。

ただ、野党共和党と足並みをそろえる最高裁の壁を前に、バイデン政権の政策的自由度は大きく制約されているのが現状のようです。

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アメリカ  中絶禁止を容認した最高裁判断後の動き 中絶の権利法制化、州を移動しての処置、中絶薬

2022-07-04 23:09:08 | アメリカ
(【6月25日 BBC】)

【州を舞台に法廷闘争】
6月25日ブログ“アメリカ最高裁、判断変更で州ごとの中絶規制を容認 ブラジル大統領、11歳少女のレイプ妊娠中絶を非難”でも取り上げた、アメリカにおける中絶問題のその後の動きをいくつか。

WHOテドロス事務局長は「全ての女性は、自分の体と健康に関して、選択する権利を持つべきだ」と、今回の米最高裁判断を批判しています。

****WHO事務局長「女性は自分の体に関して選択する権利を持つべき」米連邦最高裁の中絶権利覆す判断に****
アメリカの連邦最高裁判所が人工妊娠中絶の権利を認めた過去の判決を覆す判断を示したことについて、WHO=世界保健機関のテドロス事務局長は29日、判断に反対の立場を示しました。

WHO テドロス事務局長 「全ての女性は、自分の体と健康に関して、選択する権利を持つべきだ」

アメリカの連邦最高裁は24日、人工妊娠中絶の権利を認めた1973年の判決を覆す判断を示し、賛否の声があがっています。

WHOのテドロス事務局長は29日の会見で、「WHOの立場を再確認したい」としたうえで、「安全な中絶は命を救う」、「規制は女性や少女に安全でない中絶へと駆り立て、結果として、合併症や死にもつながる」と述べました。

そして、裁判所の判断を「後退」だと批判し、「女性の権利を守るために、一体となることがより重要だ」と強調しました。【6月30日 TBS NEWS DIG】
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米連邦最高裁判断を受けて州レベルで中絶制限・禁止の合法化や、これを差し止めようとする法的措置が相次いでいます。状況は州によって異なります。

****米各地で中絶禁止の州法巡り法廷闘争、最高裁の判断転換受け****
米連邦最高裁が人工妊娠中絶を憲法上の権利と認める1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆す判断を下したことを受け、中絶を巡る法廷闘争の舞台は州裁判所に移った。

ルイジアナ、ユタ両州の裁判所は中絶を禁止・制限する州法を差し止める判決を27日に下し、アイダホ、ケンタッキー、ミシシッピ、テキサスでも同様の差し止め命令を求めて医療機関が訴訟を起こした。

この6州を含む13州では、連邦最高裁がロー対ウェイド判決を覆せば自動的に中絶を禁止あるいは制限する、いわゆるトリガー法が成立している。(後略)【6月28日 ロイター】
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****米テキサスとオハイオの州最高裁、中絶制限・禁止を支持 各州で法廷闘争****
中絶の憲法上の権利を否定した6月24日の米連邦最高裁判断を受けて州レベルで中絶制限・禁止の合法化や、これを差し止めようとする法的措置が相次ぐ中、テキサス州とオハイオ州の州最高裁が1日、それぞれ中絶制限と禁止の実施を認める判断を出した。

テキサス州では、州に中絶判断の権限を認めた6月の連邦最高裁の最新判断を受けて、1925年にさかのぼる中絶禁止の古い州法を無効とし新たに中絶再開の州判断を求める訴訟が起こされていた。28日の裁判所判断は中絶再開を容認。共和党の同州司法長官がこの差し止めを求め州最高裁に訴えていた。

オハイオ州でも1日、中絶を事実上禁止する2019年成立の州法を合法とし執行することが州最高裁に支持された。

テキサス州の1925年州法の差し止めを求める中絶クリニック弁護代理人は、さらなる法廷闘争を表明。7月12日に再び州の下級審で弁論が予定され、そこで差し止めを勝ち取れる可能性があるとしている。

中絶の権利擁護団体は連邦最高裁の判断以降、全米11州で反中絶の州法に訴訟を起こし、フロリダ州やルイジアナ州、ケンタッキー州、ユタ州の各裁判所は中絶制限・禁止の差し止めに動いている。【7月4日 ロイター】
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【バイデン大統領 中絶の権利の法制化支持も、実現は困難】
一方、バイデン大統領は全国レベルの対応として、中絶の権利の法制化を支持しています。

****「中絶の権利」法制化約束=上院の規則改定支持―バイデン米大統領****
バイデン米大統領は30日、マドリードで行った記者会見で、連邦最高裁が人工妊娠中絶の憲法上の権利を否定する判断を下したことを受け「(中絶の権利を)法制化してこの判断を変えなければならない」と述べた。さらに、野党の議事妨害(フィリバスター)を打ち切って抵抗を封じる上院規則の改定を支持する考えも明らかにした。【6月30日 時事】 
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現実問題としては、法案を成立させるためには野党の議事妨害(フィリバスター)を打ち切って抵抗を封じる上院規則の改定が必要になります。
ただ、これについては民主党内にも異論があり、実現は難しそうです。

****中絶権保障法案は「議事妨害の対象外に」 バイデン氏が考え示す****
バイデン米大統領は6月30日、訪問先のスペイン・マドリードでの記者会見で、人工妊娠中絶や同性婚など「プライバシーの権利」を保障する法案について、連邦上院での議事妨害(フィリバスター)の対象外にすべきだとの考えを示した。連邦最高裁が、女性が中絶を選ぶ権利を認める判例を覆したことを受けて、中絶の権利を保障する立法措置のハードルを下げる狙いがある。

しかし、フィリバスターの例外規定を増やすことには、与党・民主党内でも反対論があり、実現の見通しは立っていない。(中略)

連邦上院(定数100)には、予算関連法案や人事案などの例外を除き、法案の討論を打ち切って採決に進むために議席の5分の3(60票)の賛成が必要だという規則がある。そのため、野党でも41議席以上あれば、法案の審議を阻むこと(フィリバスター)が可能だ。現有議席は民主系、共和が50ずつのため、民主党のバイデン政権が進める法案の成立を共和党が阻む事態が再三起きている。

バイデン氏は36年間上院議員を務めた経験があり、討論の徹底や少数意見の尊重など上院の伝統に根ざすフィリバスターの制度変更には消極的だった。

しかし、共和党によるフィリバスターで政策を思うように進められず、民主党内からも「無策だ」との批判が高まる中、今年1月には投票機会を拡充する法案に関してフィリバスターの例外にすべきだと発言。中絶を巡っても「具体的対策が乏しい」と党内から批判されていることが、今回の発言につながったとみられる。

しかし、民主党の中でも中道寄りのマンチン、シネマ両上院議員は、フィリバスターに例外規定を増やすことには反対している。例外規定を設けるには過半数の賛成が必要で、共和党の反対を踏まえると、民主系50人全員の賛成と上院議長を兼ねるハリス副大統領の決裁票が欠かせない。

マンチン氏は中絶の権利を法律化すること自体にも消極的で、今年5月に中絶権擁護の法案の審議を進めるための投票が行われた際も民主党から唯一反対し、法案審議が頓挫した。

フィリバスターを巡っては近年、与党側が討論打ち切りに必要な票数を例外的に過半数に引き下げ、法案や人事案の採決を容易にする動きが徐々に拡大している。民主党はオバマ政権時代の2013年、最高裁判事を除く連邦機関の人事案を例外扱いにすると決定。共和党もトランプ政権時代の17年、最高裁判事の人事案を例外に追加した。【7月1日 毎日】
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【グーグル 中絶関連施設訪問履歴を削除】
“保守的な州では、中絶処置を施した医師や、中絶をほう助した人を告訴する権利を市民に認める法案が相次いで可決されている”状況を受けて、グーグルは中絶をめぐる捜査や訴追でユーザー情報が利用されないための対策を講じ始めています。

****グーグル、中絶クリニック訪れた履歴を削除へ 米****
米グーグルは1日、プライバシーの保護が求められる中絶クリニックやドメスティックバイオレンス被害者の保護施設などをユーザーが訪れた場合、ロケーション(位置情報)履歴を削除する方針を発表した。(中略)

履歴から削除される場所は他に、不妊治療センター、依存症の治療施設、痩身(そうしん)専門のクリニックなど。

米連邦最高裁判所がこのほど、女性の人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆す判断を下したことを受け、中絶の権利を訴える活動家や政治家はグーグルをはじめとするIT大手に対し、中絶をめぐる捜査や訴追でユーザー情報が利用されないよう対策を求めている。
 
スマートフォンのデータと中絶の権利をめぐる懸念が取りざたされるようになったのは連邦最高裁の判決以前からで、この数か月、保守的な州では、中絶処置を施した医師や、中絶をほう助した人を告訴する権利を市民に認める法案が相次いで可決されている。

そのため、民主党議員は今年5月、グーグルのスンダー・ピチャイ最高経営責任者に書簡を送り、「リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)関連の医療を求める人々を弾圧しようとする極右の過激派勢力の道具」として利用されないよう、スマートフォンの位置情報の取得停止を要請していた。 【7月2日 AFP】AFPBB News
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【緊急避妊薬(アフターピル)需要急増】
最高裁の中絶規制容認判断、各州の禁止措置法制化を受けて、緊急避妊薬(アフターピル)への重要が急増しています。

****米アマゾン、緊急避妊薬に購入制限 最高裁判決で需要急増****
米インターネット通販大手アマゾン・ドット・コムは28日、緊急避妊薬(アフターピル)の購入を一時的に週3箱までに制限すると発表した。

米連邦最高裁は先週、人工妊娠中絶を憲法上の権利と認める1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆す判断を下した。これを受けて「プランB」として知られる市販の「緊急避妊薬(アフターピル)」の需要が一時的に急増した。

薬局チェーン大手CVSヘルスは28日、判決後に導入した購入制限を24時間以内に解除すると明らかにした。(後略)【6月29日 ロイター】
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【経口中絶薬、州を移動しての中絶処置をめぐる議論も】
州によって中絶が事実上禁止されることになるため、別の州に移動して処置を受けるとか、経口中絶薬を利用するといった方法も今以上に広がると思われますが、それらに規制をかけようとする動きもあって、論議が激しくなっています。

****アメリカの一部で中絶クリニックの閉鎖始まる 中絶権の合憲性覆す最高裁判断受け****
(中略)
バイデン大統領は最高裁判決について、女性の健康と命を危険にさらすもので、「極端な思想が具体化した、最高裁による悲劇的な過ち」だとも述べた。

バイデン大統領は報道陣を前に、中絶が制限されている州の女性が、中絶を認める他の州へ移動する「その基本的な権利を、私の政権は守る」と述べ、女性が移動する権利に州政府が介入することは認めないと話した。

さらに、女性が今後も確実に避妊具や、妊娠10週までの妊娠を終了させる経口中絶薬(流産治療に使われる)を入手し続けられるように対策を講じるとも述べた。

今回の判決は、約半世紀前に連邦最高裁が定めた判例を、同じ最高裁が自ら覆したことになり、きわめて異例。今後、アメリカ国内で激しい論争と政治対立を引き起こすとみられている。

中絶をただちに禁止しようとする各州とは逆に、カリフォルニア、ニューメキシコ、ミシガン各州などでは与党・民主党所属の州知事が、「ロー対ウェイド」判決が覆された場合に備えて、人工中絶権を州の憲法で保障する方針を発表している。さらに、カリフォルニア、ワシントン、オレゴン各州の知事は、中絶手術のため他州から移動してくる患者の保護を約束した。

中絶に関する世論が割れている、ペンシルヴェニア、ミシガン、ウィスコンシンなどの州では、中絶の合法性が選挙ごとに争われる可能性が出ている。他の州では、中絶を認める州に個人が移動して中絶手術を受けたり、郵便で中絶薬を取り寄せたりすることの合法性などが、個別に争われる可能性がある。(後略)【6月25日 BBC】
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アメリカの食品医薬品局(FDA)は中絶薬を2000年に承認しています。手術と比べ、体への負担が少ないとされ、米国では中絶の半数以上で用いられています。

特に新型コロナウイルスの感染が拡大してからは、中絶薬の使用が増え、FDAもオンラインや電話の診察で処方を認めています。このため、中絶が禁じられた州に住む女性でも、州外の医師から処方を受け、薬を郵送してもらうことができます。

バイデン大統領は最高裁判決直後に、中絶薬へのアクセスを保護するよう、保健福祉省などに指示していますが、サウスダコタ州のノーム知事は6月26日、テレビで「これは非常に危険な医療行為だ。医師がいない状況では危険なので、提供可能にすべきではない」と発言し、中絶薬の郵送を禁じる意向を表明しています。

最高裁判決を受けて、性暴力で妊娠した10歳の少女が地元では中絶を拒否され、州外で中絶する事例も。

****性暴力で妊娠した10歳の少女 地元で中絶拒否され手術求めて州外へ アメリカ****
10歳の少女が、自身が暮らすオハイオ州で中絶手術を拒否され、インディアナ州までの渡航を余儀なくされた。 
インディアナ州の地元メディア・Indiana Star Tribune紙によると、少女は妊娠6週間と3日目だったという。(中略)

オハイオ州では、いわゆる胎児の心拍活動が始まる6週目前後以降の中絶を禁止している。複数の団体が州法の発行を阻止するため訴訟を起こしたが、中絶禁止の緊急停止はオハイオ州最高裁判所によって却下され、訴訟審査中は中絶禁止が支持される、とオハイオ州地元メディア・Cincinatti Enquirer紙は報じている。

この10歳の少女のような性的暴行の被害者が、中絶手術のためにインディアナ州に渡航するという選択肢さえも、近い将来失われる可能性が高い。

インディアナ州の議員たちは、中絶をさらに制限もしくは禁止することが予想されている。同州議会は7月25日に特別会議を開き、法改正を議論する予定だ。

インディアナ州の医師たちは現在、中絶が禁止された他の州から手術を求めてやってくる患者の数が急増していると報告している。(後略)【7月4日 HUFFPOST】
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【アメリカの中絶希望女性を支援するメキシコ】
一方、国境を超えて中絶を支援する取り組みも。

****妊娠中絶、メキシコが支えに 米国女性に救済の手****
(中略)高額の医療費と、中絶を考え直すよう求める圧力に直面した米カリフォルニア在住のシングルマザーは、中絶手術を受けるため隣国メキシコの支援団体を頼った。(中略)

最高裁の判断以前から、米国内で安全な中絶手段にたどり着くのは「お金がなければ難しかった」と、サンディエゴのレストランで働くこの母親は、AFPの電話取材に語った。3人の子どもがいる。避妊していたが失敗したという。

米国内のクリニック2か所に相談したところ、いずれも手術費用が約1000ドル(約13万5000円)かかると言われた。とても払えなかった。一方のクリニックは宗教系で、「産んだ子どもを養子に出すという選択肢もある」と説明され、中絶を思いとどまるよう説得された。

女性は友人から、サンディエゴの南、メキシコ・ティフアナを拠点に活動しているNGO「コレクティバ・ブラディス」のことを教えてもらった。米国で中絶を受けられない女性に無料で支援を提供する、国境を超えたネットワークに参加している団体だ。

「メキシコから支援が差し伸べられたことに驚いた。ここ(米国)のほうがずっとリベラルだと思っていたから」
NGOの対応はとても速かった。相談してから1日もたたずに回答があり、世界保健機関が安全だとして推奨する経口中絶薬が送られてきた。質問にもすぐに返事をくれ、「常に寄り添ってくれた」という。

■対照的なメキシコ
コレクティバ・ブラディスが参加する支援ネットワークは、約30団体が参加して今年1月に発足した。メキシコの支援活動家は、安全な中絶手段を利用できない米国女性からの関心の高さに驚いている。

同じくネットワークに参加する団体「ラス・リブレス」の創設者ベロニカ・クルス氏によれば、5月時点で女性200人に国境を超えた支援を提供し、医薬品1000セットを送った。

当初想定していた支援提供対象は主に中南米系の女性だったが、実際にはスペイン語を話さない人からも要請が届いている。

「ほとんどの人が経済的な理由で助けを求めてくる。国境の向こうでは薬代が600ドル(約8万円)もかかり、処方されるのに何週間も待たなくてはならない。私たちは無料で提供している」と、クルス氏は説明する。

米国とは対照的に、メキシコ最高裁は昨年、人工妊娠中絶を犯罪とみなす法律を違憲と判断した。全土で、中絶は事実上認められている。
 
2007年に中絶を合法化した首都メキシコ市は、米最高裁判決を受け、米国女性への支援提供を表明した。
市保健当局のオリバ・ロペス・アレジャノ局長は、「国が権利を認めていたのにそれが後退していくのは全く時代に逆行している。悲しく、言語道断だ。われわれはいつでも支援する」とAFPに語った。 【6月27日 AFP】
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アメリカとメキシコ、立場が逆転したようです。
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マレーシア  「盆踊り」論争に見る「不寛容」拡大の流れ

2022-07-03 22:33:36 | 東南アジア
(マレーシアのスランゴール州で開かれた盆踊り大会=2018年7月(共同)【7月3日 共同】)

【PAS所属閣僚 盆踊りは仏教に影響されており「信仰に反する」】
最近あまり目にしないマレーシアに関する話題で、ひと月程前に目にした「盆踊り」の記事。

****マレーシア、盆踊り「不参加を」 宗教担当閣僚、イスラム教徒に****
マレーシアのイドリス首相府相(宗教担当)は6日、日本文化の紹介や草の根交流を目的に40年以上現地で開催してきた盆踊り大会について「イスラム教徒が参加しないように忠告する」と報道陣に語った。国営ベルナマ通信などが報じた。

マレーシアはイスラム教が国教で、イドリス氏は保守的な全マレーシア・イスラム党(PAS)に所属。総選挙を控えており、保守的な支持層の期待に沿ったとの見方もある。

イドリス氏は盆踊りは仏教に影響されており「信仰に反する」と説明、閣僚の発言が交流に波紋を与えそうだ。【6月7日 共同】
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マレーシアの「盆踊り」については以下のようにも

****マレーシアの「盆踊り」*****
東南アジアではタイ、マレーシア、インドネシアで毎年盆踊り大会が挙行されているが、マレーシアの盆踊りは約40年の歴史があり、日本を除くと世界最大規模の参加者で賑わう恒例行事となっている。

本格的なコロナ渦前の2019年7月、マレーシアの首都クアラルンプール近郊にあるシャー・アラム競技場で行われた盆踊り大会は約3万5000人を集め、民族、宗教、性別に関係なく誰もが参加できる大会として開催された。

クアラルンプール観光局が無料シャトルバス、医療チームを駆り出し、交通警察も協力するなど、マレーシア側によるバックアップも充実した地域挙げての盆踊り大会だったという。(中略)

盆踊り大会はコロナ渦で2年間開催が中止され、今年は久々の開催となる。7月16日にクアラルンプール近郊のセランゴール州シャー・アラムで、同月30日には北部のペナンで開催が予定されている。【6月23日 大塚 智彦氏 現代ビジネス】
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一方で開催を支持する有力者もおり、現地日本人会は予定通り7月16日に開催する方針とのこと。

不参加要請発言のイドリス首相府相(宗教担当)が属する全マレーシア・イスラム党(PAS)は、ほとんどイスラム原理主義と言っていいような宗教保守的政党です。

****全マレーシア・イスラム党(PAS)****
イスラーム法源に基づく「マレーシア・イスラーム国家」を設立を党是としている。クランタン州やトレンガヌ州といったマレー半島東海岸の保守的な地域から大きな支持を得ている。(中略)

カイロのアズハル大学、マッカ、メディーナといった中東の大学を卒業した伝統的なウラマーが党の指導者層を占める。そのため、イスラームに対しては保守的であり、過激で偏狭な宗教的政党であるとレッテルを貼られてきたし、徹底した西洋批判、イスラーム法の普遍的原則から女性やムスリムに関する具体的事例まで、イスラームの解釈を遵守している。

その点では明らかに伝統主義的であり、実際、PASは、ムスリムに反対するものならば、誰にでも不信心者のレッテルを貼った。【ウィキペディア】
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20年ほど前になりますが、東海岸のクランタン州コタバルを観光したことがあります。

“マレーシアは、民族構成がきわめて複雑な国のひとつであり、多民族国家である。単純な人口比では、マレー系(約65%)、華人系(約24%)、インド系(印僑)(約8%)の順で多い。”【ウィキペディア】というマレーシアにあって、当時、マレー人が95%を占めるクランタン州ではイスラム原理主義をかかげるPAS(全マレーシア・イスラム党)が州政府を掌握しており、イスラム法にのっとった統治が行われていました。(現状は未確認)

そのときの極めて印象的な思い出。
広場にたくさんの屋台が並ぶマーケットを散策していると、礼拝を呼び掛けるアザーンとともにハンドマイクを持った男性が表れ、マーケットの全員に何かを呼び掛けます。

言葉はわかりませんが、多分「さあ、お祈りの時間だ。みなモスクに行くように」といったことを話していたのではないでしょうか。

その男性にせかされるように、屋台で肉を焼いていた人も、買い物をしていた人も、100人以上いたと思われますが、みなその場をはなれて近くのモスクに向かいます。

数分前まで大勢の人でごった返し、いろんな食べ物の匂いで溢れたいた広場には数人が残るだけ。(華人など非イスラム教徒でしょうか)異様な光景でした。(おかげで夕食を食べそこねました)

「なるほどね・・・これがPASが統治するイスラムにのっとった社会か・・・」と感慨深い経験でした。

ウクライナでの戦闘、それに影響された飢餓の不安、インフレなどが報じられるなかで、「盆踊り」の話題というのは緊迫感に欠ける印象もありますが、多様性を重視するとともに、民族・宗教間のバランスをいかにとっていくかが最重要課題の多民族国家マレーシアが変質している表れの「ひとつ」だとしたら、見逃せないことでもあります。
(バランスというのは、単に少数派の権利保護だけでなく、多数派マレー人の思いをいかに満足させるか・・・も含まれます)

【総選挙に向けた保守層へのアピールか】
今回のPAS所属閣僚の発言には、現地の州王(スルタン)が反発し、事態収拾を図っているとも報じられています。

****マレーシア、盆踊りが政治騒動に 州王が鎮静化****
マレーシアで人気行事として定着している盆踊りが政治騒動に巻き込まれている。

イスラム保守政党出身の閣僚が不参加を呼びかけたのが発端で、州王が鎮静化に乗り出す事態になった。総選挙が近づく中で、多数派のマレー系イスラム教徒の関心を引く思惑も背景とみられる。多民族国家の融和の難しさを改めて浮き彫りにする。

(中略)3年ぶりの開催に冷や水を浴びせたのは、イドリス・アーマド首相府相(宗教担当)の発言だ。6月初旬に「盆踊りには宗教的な要素が含まれ、イスラム教徒は参加しない方がよい」と述べた。同氏は保守的な主張で知られる全マレーシア・イスラム党(PAS)の副総裁も務め、PASの女性部門なども同調した。

これに反論したのが、開催地スランゴール州の州王だ。9日付の声明で、16年に自ら参加した経験を明かした上で「マレーシアでも数十年間にわたり開催されてきた盆踊りは単なる文化的なお祭りだ」と指摘。「政治家が宗教的に繊細な問題を自らの人気獲得のために利用しないことを望む」とイドリス氏らを批判した。PAS幹部を呼び出すなどして、自ら事態の収拾をはかっている。

日本人会なども「日本とマレーシアの人々の関係をさらに深める機会となる」と意義を訴えており、今のところ予定通り開催できる見通しだ。

PASが盆踊りを俎上(そじょう)に載せた背景には、早ければ年内にも実施される総選挙がある。PASはイスマイルサブリ連立政権の一角を占めるが、次の総選挙では政権主流の統一マレー国民組織(UMNO)と組まず、選挙区で競合する見通しだ。

両党ともに人口の7割を占めるマレー系が支持基盤で、PASはマレー系イスラム教徒の独自性を強調し支持を広げたい考えだ。

ただ、文化的な行事の政治化は民族や文化の異なる住民間の不和をあおる恐れがある。マレーシアでは69年にマレー系と華人系住民が対立し、大規模な人種暴動が起きた過去もある。

ISEASユソフ・イシャク研究所のリー・ホックアン上級研究員は「PASが宗教的な信認を高めるために敵対的な姿勢を広めているのは遺憾だ。影響力のあるPASが(州王の批判後も)対応を改めようとしないのも懸念される点だ」と指摘する。【6月26日 日経】
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【多様性を重視した社会で広がる「不寛容」】
大きな流れで見ると、マレーシア、そして隣国のやはりイスラムが主流のインドネシアにおいて、これまでの多様性重視に対し、イスラム的価値観を重視する流れが強まっているように見えます。

****「盆踊り大会」は仏教行事…? マレーシアで「イスラム教徒不参加勧告」が炎上中****
宗教的「不寛容」が拡大する中で

まさかの「盆踊り論争」勃発
マレーシアで宗教に基づく「不寛容」が拡大しつつあり、識者らが不適切であると指摘する一方で、多数を占めるイスラム教組織などはこの「不寛容」を支持している。

ことの発端はマレーシアで開催される盆踊り大会に「仏教に根差す行事にイスラム教徒は参加すべきではない」とイスラム政党が不参加を呼びかけたことだった。

確かに盆踊りは死者を弔う意味を込めてお盆に行われるものではあるが、日本人の間でも盆踊りを仏教関連の行事と認識している人は少ない。そもそも盆踊りの起源には仏教行事、歌垣の遺風、原始信仰の儀式など諸説あり、確定もしていない。地方の行事、風習、風俗として伝承されているが、今では若者向けのイベントとして行われるケースも多い。

海外では、現地の日本人会や商工会議所、大使館などの主催や協賛で開催されるケースが多く、日系人社会が定着している米ハワイ、カリフォルニア、南米のブラジルなどでは地域の行事と化している。(中略)

イドリス・アハマド氏による盆踊り大会へのイスラム教徒不参加勧告は、イスラム教組織などからは一定の支持を受けている。

盆踊り開催場所の一つであるペナン州のムフティ(イスラム教指導者)であるワン・サリム師は、「イスラムでは踊ったり霊を崇拝したりすることで先祖を思い出すことは奨励されていない」「イスラムの教義に反するムシュクリ(多神教)に繋がる恐れがある。我々は信仰の純粋性を維持するべきである」とイスラム教の立場から盆踊り参加への反対を表明している。

ペルリス州のムフティ、モハマッド・アヌリ・ザイヌル師は折衷案として、「盆踊り大会」という名称を「日本文化フェスティバル」「日本文化祭」などに変更する案を出している。

しかしこの名称変更案も「名称を変えろというなら他の外国のイベントも全て変えろということか、非常識だ」「名称を変更するのは外国文化に失礼だ」「日本への侮辱だ」などと一斉に反発を招く結果となってしまった

現地のスルタンも開催を支持
一方で、イスラム教徒の中からも疑問を示す声が多く寄せられている。
国を憂うマレーシア人の元高官で構成される組織「G25」はイドリス氏の発言をこう批判した。

「マレーシア人は多文化の多様性や多種多様な民族の祭りを楽しむ自由を認められるべきだ。盆踊りも今日では宗教的なものではなく文化的な祭りとなっている」
その上で、「マレーシア人の最大の資産は民族的・宗教的な多様性にある」とまで言い切って、盆踊りへの全てのマレーシア人の参加を許容すべきとの立場を強調した。

今年の会場となるセランゴール州のアミルディンシャリ州首相、ペナン州の観光クリエイト経済委員会のヨー・スンヒン議長も予定通りの開催を表明している。

セランゴール州のスルタン(州の君主)であるシャラフディン・イドリス・シャー殿下は、以前に盆踊り大会に参加した経験から「盆踊り大会に宗教的要素は何もなかった」として今年の開催を支持する立場を明らかにし、地元当局に開催を指示するよう求めた。

日本人会などが作成した今年の盆踊り大会のポスターには、ヒジャブ(イスラム教徒の女性の頭部を覆う布)を着用した浴衣姿のマレーシア人女性が、日本人や子供たちと一緒になって楽しそうに踊る姿がイラストで描かれている。

SNS上では圧倒的に開催支持
当然、インターネットやSNS上でも議論が沸騰しているが、開催への参加は自由という論調の意見が圧倒的に目立っていると地元メディアは伝えている。

「当局はイスラム教徒が信仰心に欠け、お祭りに簡単に振り回されるというのか」「外国のイベントの影響でどうして自分たちの信仰心が揺らぐというのだろうか」などの声が多数を占め、政府や当局による不参加勧告を批判している。

マレーシアメディアの多くも「盆踊りは今は開催地周辺のコミュニティーも参加して楽しむイベントとなっている」「ほとんどの日本人ですら盆踊りが宗教的な行事であるということを知らないか気にしていないのが実情だ」などと世論を盛り上げて、不参加勧告への疑問を呈している。

多様性、寛容性が揺らいでいる
マレーシアはこれまで、イスラム教国でありながら国内の中国系マレーシア人を中心とする仏教徒やキリスト教徒、インド系マレーシア人のヒンズー教徒など他の信仰を禁止したり、規制したりすることなく「多様性、寛容性の国」として国際的評価が高かった。

これは同じくイスラム教徒が圧倒的多数を占めながらも「イスラム教国」ではない世俗国家を目指したインドネシアが国是に掲げる「多様性の中の統一」「寛容性」に相通じるものがある。

だがそのインドネシアでは近年、多数派であるイスラム教徒の主張や規範、教義があたかも国家の主張、規範、規則であるかのような風潮が目立ってきている。イスラム教の急進派や少数異端派などを「国家の治安を乱す可能性がある」との理由で排除、差別、摘発と強い姿勢で臨むケースが増えているのだ。

そうした風潮はマレーシアも同様で、いくつかの州ではイスラム教のファトワ(勧告)でヒンズー教の宗教行事や祭りへの参加を禁じたり、キリスト教の行事だとしてクリスマスやバレンタインデーを祝うことを禁じたりして、若いイスラム教徒の反発を買っているという事実もある。

インドネシアで問われている宗教上の「多様性」や「寛容」が同様にマレーシアでも問われ、「不寛容」の風潮が広まることへの警戒感が生まれているのだ。(後略)【6月23日 大塚 智彦 現代ビジネス】
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たかが「盆踊り」、されど「盆踊り」・・・・といったところ。

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ナイジェリア  相次ぐキリスト教会襲撃 日本メディアの無関心さの指摘も

2022-07-02 23:05:28 | アフリカ
(キリスト教会襲撃の事件現場を訪れたオンド州のアラクンリン・アケレドル知事ら=6月6日【6月7日 CHRISTIAN TODAY】)

【ナイジェリア 相次ぐキリスト教会襲撃事件】
西アフリカのナイジェリアはアフリカ最大の人口、経済規模を誇る地域大国で、急速な経済成長を実現している国ですが、一方で大規模なテロ・武力衝突が絶えない国でもあり、アフリカのポジティブな面とネガティブな面の両面を併せ持つ国でもあります。

今年6月にも大規模な事件が2件報じられています。

****ナイジェリアで教会襲撃、ペンテコステのミサ中に 子ども含む50人以上死亡****
ナイジェリア南西部オンド州オウォのカトリック教会「聖フランシスコ・ザビエル教会」が5日、武装集団に襲撃された。当時、教会では聖霊降臨祭(ペンテコステ)のミサが行われていた。警察はまだ死者数を発表していないが、病院関係者は子どもを含む50人以上の遺体が医療機関に運び込まれたと話している。

衛生放送局「アルジャジーラ」(英語)によると、事件は現地時間午前11時半(日本時間午後7時半)ごろに発生。ミサが行われていた教会に対し、数人が外から銃撃を加え、4人が教会内に対し直接銃を撃ち込んだ。武装集団は教会に爆発物も仕掛けたという。
これまでのところ、犯行声明は出されておらず、誰による犯行なのかは分かっていない。(中略)

ロイター通信によると、ナイジェリアでは、主に北東部でイスラム過激派が勢力を持ち、北西部で武装したギャングが身代金目的で誘拐事件を起こしているが、南西部でこのような事件が起こるのは珍しいという。(後略)【6月7日 CHRISTIAN TODAY】
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****武装集団が30人以上拉致 村や教会襲う―ナイジェリア****
ナイジェリア北部カドゥナ州で19日、武装した集団が村やキリスト教の教会を襲撃し、3人が死亡、36人が拉致された。地元の治安当局者が20日、明らかにした。36人のうち「地域の指導者ら2人は解放された」と語った。

南西部オンド州でも5日、教会が襲われ、数十人が殺害されている。犯行声明は出ていないが、政府内には武装勢力「イスラム国西アフリカ州(ISWAP)」の関与を疑う声もある。ただ、ISWAPの主な活動領域は遠く離れた北東部だ。【6月21日 時事】
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【日本メディアの無関心さへの指摘も】
“2件報じられています”と書きましたが、死傷者数の多さに比べて日本メディアの扱いは小さく、6月5日の事件は前出の教会系メディアの他はCNN報道を見たぐらいでしょうか。

これが欧米で起きた事件であれば、おそらく大ニュースとなったことでしょう。
そのあたりの“無関心さ”を指摘する声も。

****日本メディアがほとんど報じなかった黒人キリスト教徒大虐殺テロ ナイジェリアで起きている「極度の迫害」****
ナイジェリアで相次ぐキリスト教会襲撃
アフリカ西部のナイジェリアで、キリスト教徒が大量に虐殺されるテロ事件が頻発している。6月19日には北部カドゥナ州でキリスト教の教会が襲撃され、3人が殺害され36人が拉致された。6月5日には南西部オンド州で教会が襲われ、40人以上が殺害された。ナイジェリア当局は10日、「あらゆる状況から鑑みて」テロ組織「イスラム国西アフリカ州(ISWAP)」の犯行だと非難した。

2週間のあいだにナイジェリアでキリスト教会が立て続けに襲撃され、50人近くのキリスト教徒が殺害されているというのに、日本のメディアはこのテロについてほとんど報道していない。

2019年にニュージーランドで白人の男がイスラム教のモスクを襲撃し、51人のイスラム教徒を殺害した際の報道と比較すると、その差は歴然としている。2020年には日本のメディアも「黒人の命は大切だ!(Black Lives Matter)」と大合唱した。

しかし日本のメディアは、西側諸国で白人がイスラム教徒や黒人を殺害したりする事件は執拗に報道する一方で、アフリカで黒人イスラム教徒が黒人キリスト教徒を殺害する事件についてはほとんど無関心と言っていい。

共同通信が7日に配信した「教会襲撃、22人死亡 ナイジェリア南部、ミサの最中」という記事は、ロイター通信を引用した極めて短い記事である上に、犯人がイスラム過激派であることに全く言及していない。

時事通信が21日に配信した「武装集団が30人以上拉致 村や教会襲う―ナイジェリア」という記事は、5日のテロについて「『イスラム国西アフリカ州』の関与を疑う声もある」としつつも、「ただ、ISWAPの主な活動領域は遠く離れた北東部だ」とその可能性を否定している。

ナイジェリア当局がISWAPの犯行だと非難してから既に10日以上が経過しているにもかかわらず、時事通信が勝手にその可能性を否定するというのは極めて奇妙だ。

狙われるキリスト教徒 迫害状況「過去30年間で最悪」
5日のテロは、日曜日にキリスト教徒たちが五旬節を祝うために教会に集まっているところを狙ったものであり、死者の中には多くの子供も含まれていた。犯人らはキリスト教徒になりすまし、彼らに紛れて教会の中に潜入、突如キリスト教徒に対して銃口を向け、爆弾を爆発させた。犯行後、キリスト教徒たちが血の海の中に倒れ、周囲の人々が泣き叫ぶ映像が出回った。明らかにキリスト教徒を標的とした卑劣なテロである。

紛争や人道危機の情報収集・分析プロジェクトを行う米国NGOのArmed Conflict Location and Event Data Project(ACLED)によると、ナイジェリアでは2022年に入ってから6月までの間に、教会やキリスト教徒に対する襲撃がすでに23件発生している。

2021年は1年間に31件、2020年には18件だった。同NGOは、2019年以降ナイジェリアでキリスト教徒を標的とした攻撃は明らかに増えていると指摘する。

2022年5月には教会指導者の拉致・誘拐が相次いだだけでなく、ISWAPがキリスト教徒20人を処刑する映像を公開、これは「世界中のキリスト教徒」に対する警告であり「ジハード戦士たちはこの世の終わりまで彼らと戦い続けるだろう」と述べた。

NGOクリスチャン連帯インターナショナル(CSI)は既に2020年6月の段階で、ナイジェリアのキリスト教徒は2015年以降、イスラム過激派によって6000人殺害されているとして、国連安保理に対しジェノサイドを防ぐため適切な行動を取るべきだと呼びかけた。しかし国連は特に策を講じていない。

迫害を受けるキリスト教徒たちを支援する国際NGO「オープン・ドアーズ」は2022年1月、「76カ国で3億6000万人を超すキリスト教徒が、信仰を理由にした過酷な迫害や差別に苦しんでおり、その数は昨年と比べて2000万人増えている」と報告し、世界中のキリスト教徒の迫害状況は過去30年間で最悪だと述べた。

ナイジェリアに関してはキリスト教徒が「極度の迫害」にさらされている国の一つであり、ISWAPとボコ・ハラムはキリスト教徒を殲滅することを目的に、無差別かつ残忍な攻撃を続けていると報告されている。

差別反対を強く打ち出すメディア自体が、人種差別、宗教差別と判断されうる報道をしているのは皮肉な矛盾である。【7月1日 イスラム思想研究者 飯山陽氏 FNNプライムオンライン】
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「日本のメディアは、西側諸国で白人がイスラム教徒や黒人を殺害したりする事件は執拗に報道する一方で、アフリカで黒人イスラム教徒が黒人キリスト教徒を殺害する事件についてはほとんど無関心と言っていい」という飯山陽氏の指摘は事実でしょう。

“日本のメディア”というより欧米メディア全般にも言えることでしょう。

【「遠い世界」で日常的に起きる暴力への「慣れ」、感性の麻痺】
ただ、それは白人・黒人という人種的観点とか、あるいはイスラム過激派に対するどこか宥和的な反応というよりは、「遠い世界」アフリカでの事件であり、その「遠い世界」ではテロ・紛争が日常茶飯事に起きているということから生じる「無関心さ」「慣れ」「感性の麻痺」のように思えます。

ナイジェリアだけでも今年に入って100人を超える犠牲者の事件が頻発しています。

****ナイジェリア北西部で武装集団の襲撃相次ぐ、死者200人以上****
ナイジェリア政府は9日、北西部ザムファラ州で武装集団が村を相次いで襲撃し、少なくとも200人が殺害されたと発表した。1万人以上が家を追われ、避難民となっているという。

アフリカ最大の人口を擁するナイジェリアでは長年、北西部と中部で農耕民と牧畜民が土地をめぐって衝突してきた。その中で、一部が「盗賊団」と化し、殺人や略奪、身代金目当ての誘拐を繰り返している。
今回の襲撃の被害が最初に明らかになったのは8日早朝だった。

サーディヤ・ウマル・ファルーク人道・災害対応・社会開発相は9日、初めて公式に犠牲者数を発表し、「恐ろしく悲劇的」な襲撃を受けて「200人以上が埋葬された」と述べた。また、1万人以上が「盗賊に家を破壊され」て避難を余儀なくされたほか、大勢が行方不明になっているとした。

7日にAFPの取材に応じた現地住民4人は、武装集団が2日間にわたって2地区を襲い、少なくとも140人を殺害したと語っている。また、被害に遭った村の住民は、武装集団は「目に入った人全員」に向けて発砲していたと証言した。

ただ、ザムファラ州知事は、死者は58人だと主張している。州当局は昨年、盗賊団の弱体化を図るとして約3か月間にわたり通信の遮断や燃料の販売制限、家畜市場の閉鎖など厳しい制限措置を導入したが、襲撃は続いている。

ナイジェリア北西部では昨年、学校や大学が襲われ、生徒や学生が何百人も誘拐される事件も多発し、世界で大きく報じられた。

軍は、昨年5月以降に「武装盗賊団などの犯罪集団」537人を殺害、374人を逮捕し、「誘拐された民間人」452人を救出したと発表している。

首都アブジャに拠点を置くビーコン・コンサルティング・ナイジェリアの治安アナリスト、カビル・アダム氏は今回の襲撃について、軍が最近展開している作戦への報復の可能性があるとAFPに指摘した。 【1月10日 AFP】
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****襲撃後168人連絡付かず ナイジェリア、鉄道乗客ら****
ナイジェリアの首都アブジャから北部の都市カドゥナへ向かう鉄道が3月28日夜、武装集団に襲撃される事件があり、鉄道公社によると、乗員ら8人が死亡、乗客ら168人が連絡の付かない状態となった。ロイター通信が4日伝えた。

ナイジェリア北方では近年、身代金目的で武装集団が学校から生徒や教職員を拉致する事件が頻発しており、今回も営利目的での拉致との見方が出ている。ロイターによると、行方不明者の複数の親族が、実行犯の一味とおぼしき人物から接触があったと話している。【4月5日 共同】
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イスラム過激派のキリスト教徒襲撃だけでなく、農耕民と牧畜民の土地をめぐる衝突、武装集団による営利目的での拉致・・・何でもありの状態。

その中心に位置するのは、やはり「ボコ・ハラム」に代表されるイスラム武装勢力でしょう。
「ボコ・ハラム」は2014年4月、ボルノ州の学生寮を襲撃し女子生徒240人が拉致し、「奴隷として売り飛ばす」との犯行声明が出したことで世界中の注目を集めましたが、そのテロ活動はそれ以前からのものです。

もともとナイジェリアは北部はイスラム教徒が多く、南部はキリスト教徒が多いという地域性もあって、両者の衝突は頻発しており、その中核に「ボコ・ハラム」が存在しています。

このブログの2011年、2012年あたりの記事でも以下のようにも。

こうした過去の経緯、いっこうに収まらない現状を見ると、教会襲撃で50人前後が死亡といった話を聞いても「またか・・・相変わらずだね・・・」と聞き流してしまいがちです。

しかし、言うまでもなく、こういう暴力・残虐行為は許されざる異常なことであり、ナイジェリア政府は暴力を減らすためにどのような対応をすべきか、世界はどのような協力ができるかを真摯に考える必要があります。
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