孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  使い捨て兵士に利用されるシベリアのブルーカラーや少数民族出身者

2022-07-22 23:14:06 | ロシア
(【7月22日 AFP】ロシア兵士戦死者の葬儀  参列者の様子からして北コーカサス地方でしょうか)

【アフガニスタン侵攻の10年間の戦死者とほぼ同じ戦死者】
昨日(7月21日)ブログ“ロシア ガスで欧州を揺さぶる 制裁の「痛み」に西側は耐えられるか?”では、欧米側の事情、どこまで対ロシア制裁の「痛み」に耐えられるか・・・という話をとりあげましたが、時間とともに影響が深刻化し、どこまで耐えられるか・・・という点ではロシアも同じです。

ロシアの兵士・武器の損耗が激しく、兵員不足・兵器不足に陥っていることは以前から報じられているところです。

戦死者数などについてロシア側は最近の実態を公表していませんので不透明ではありますが、イギリス情報機関がロシア側の被害の深刻さについて改めて言及しています。
(これが実態を示すものなのか、希望的観測あるいはウクライナを支えるための政治的発言なのかはわかりませんが)

****ロシア軍死者は1万5000人 英米情報当局****
と米国の情報機関トップは、5か月に及ぶウクライナ侵攻で死亡したロシア兵は推定1万5000人に上るとの見解を示した。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の想定をはるかに上回る戦死者だとしている。

英対外情報部「MI6」のリチャード・ムーア長官は21日、米コロラド州で開かれているアスペン安全保障フォーラムで、1万5000人は「恐らく控えめな見積もり」であり、短期間で勝利できると思っていたプーチン氏にとっては「面目が丸つぶれ」となる事態だと指摘した。
ムーア氏は、「1980年代のアフガニスタン侵攻の10年間の戦死者とほぼ同じ数だ」と述べた。

さらに、犠牲になっているのは「サンクトペテルブルクやモスクワの中流階級の子どもたちではない」と指摘。その上で、「彼らはロシアの地方出身の貧しい子どもたちだ。シベリアのブルーカラーが住む町の出身だ。少数民族の子も不釣り合いに多い。こうした子どもたちが使い捨ての兵士にされている」との見方を示した。

米中央情報局のウィリアム・バーンズ長官も20日、諜報活動による見積もりでは「(ロシア側の)死者は1万5000人近辺で、負傷者は恐らくこの3倍の数に上っている」と話した。

バーンズ長官は「これはかなりの損失だ。ウクライナ側もこれよりわずかに少ない数の死者が出ており、負傷者の数も非常に多い」と述べた。

ウクライナは今月、ロシアの戦死者は約3万6200人に上ったとし、米英に比べてはるかに大きな数字を示している。一方、ロシアはこれまで2回しか死者数を発表しておらず、3月25日に1351人という数字を公表して以降、情報は途絶えている。 【7月22日 AFP】
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****ロは数週間で「力尽きる」、ウクライナに反撃機会=英MI6長官****
英国の対外情報機関、秘密情報部(MI6)のムーア長官は21日、ウクライナ侵攻を続けるロシア軍は今後数週間のうちに何らかの形で作戦を休止し、ウクライナに重要な反撃機会を与える可能性が高いとの見解を示した。
米コロラド州で開催されたアスペン安全保障フォーラムで講演した。

同長官は、ウクライナ戦争でこれまでに約1万5000人のロシア軍兵士が死亡したとの推計を発表。これは「おそらく控えめな推計値」だとした。

その上で、今後数週間でロシア軍は人員や物資の供給に一層困難をきたすと予想。「何らかの形で一時停止せざるを得なくなり、ウクライナに反撃の機会を与えることになる」とした。

プーチン大統領の健康状態については「深刻な健康状態に陥っているという証拠はない」と答えた。【7月22日 ロイター】
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ロシアが数週間で「力尽きる」云々は、やや希望的・楽観的に過ぎるような感じも。
ただ、多くの犠牲者が出ているのは間違いないでしょう。

【増える徴兵忌避】
ロシアにとって多数の戦死者を出すことは国民の厭戦気分を高め、戦争を維持することを困難にするだけでなく、プーチン大統領への批判を高めることにもなります。

そのため、民間軍事会社を利用したり、社会的に大きな声になりやすい大都市の若者ではなく、地方の若者を兵員に投入することで、「軍事作戦を支持する。だが同時に、実地の参加は強要されない」という(大都市)国民と政府の“契約”を成り立たせているという件は、7月10日ブログ“ロシア 国民に極力戦争を意識させることなく「戦時経済体制」へ 都市部若者の関心は薄れる”でも取り上げました。

“ロシア軍は春と秋の年2回、18~27歳の男性を招集し、1年間の兵役を課す徴兵制をとっている。兵役は名目上では義務とされるが、多くの国民は高等教育機関に進学したり、招集に応じなかったりして徴兵を免れている。ウラジーミル・プーチン大統領は今回(22年春季)、13万4500人の採用目標を設定した。”【4月2日 AFP】

戦争で命を落としたくない、特に意味が定かでない戦争に駆り出されて死ぬのは嫌だ・・・とうのは当然の話。

****「月給65万円でもウクライナで戦いたくない」 徴兵忌避増えるロシアの若者****
ダニラ・ダビドフさん(22)が母国ロシアを離れたのは、政府がウクライナ侵攻を開始してから数週間後のことだった。支持しない戦争で血を流すことを恐れたからだという。

デジタル・アーティストのダビドフさんは、サンクトペテルブルクで暮らしていた。紛争が長引く中で、ロシア政府が自分のような若者に対し、軍務に就くよう圧力をかけるのではないかと懸念している。

ダビドフさんは現在の勤務地であるカザフスタンでロイターの取材に応じ、「戦争にも刑務所にも行くのは嫌だったから、国を出る意志を固めた」と語った。

兵役拒否で家族と険悪に
弁護士や人権活動家によれば、ウクライナ侵攻が始まった2月末以来、ダビドフさんのように兵役義務を逃れようとするロシアの若者が増加している。ロシア社会における紛争への複雑な思いが垣間見られる。

若い男性の中には、国を離れる人もいれば、兵役免除など別の道を探るべく助言を求める人もいる。あるいは、召集を無視して当局による訴追がないことを期待するだけという例もある。ロイターでは、兵役回避を模索している男性7人のほか、弁護士や人権活動家5人に話を聞いた。

ロシアでは18─27歳の男性に兵役が義務付けられており、拒否すれば罰金または2年の禁固刑が科されるリスクがある。ある男性はロイターに対し、兵役を拒否したことで、兵役は若者の義務だと信じている家族との間が険悪になったと語った。

ダビドフさんは、国外で採用が決まっていたので兵役登録を解除し国を離れることができたと語る。いずれは母国に戻りたいと言いつつ、しばらくは無理だろうと嘆く。「ロシアを愛しているし、とても寂しく思う」(中略)

ロシア政府は、現在「特別軍事作戦」を遂行中であり、計画通りに進行していると述べている。ロシアのプーチン大統領は、国家のために戦う兵士らは「英雄」であり、ロシア語話者を迫害から救い、「ロシアを崩壊させようとする西側の計画」を挫折させている、と称賛している。大統領は3月、ロシアより西側に近い考えを持つ者は、「裏切り者」であると述べた。(中略)

プーチン大統領が頼りにしているのは職業軍人で構成される陸軍だが、西側諸国によれば、開戦以来相当の損失を被っているという。ロシア陸軍が十分な志願兵を補充できなければ、同大統領の選択肢は、ロシア社会を巻き込んで徴集兵を動員するか、自身の野望を縮小させるか、ということになる。

プーチン大統領は、徴集兵をウクライナ紛争での戦闘に参加させるべきではないと繰り返し公言しているが、国防省は3月初め、すでに一部の徴集兵がウクライナで戦っていると述べている。6月にはロシア軍検察官が国会上院において、約600人の徴集兵が紛争に動員されており、その結果、10数人の将校が懲戒処分を受けたと証言している。

ウクライナでは戒厳令が敷かれ、18歳から60歳までの男性は出国が禁止されている。ウクライナ政府は、ロシアによる侵攻は一方的な帝国主義的な領土奪取であり、最後まで戦い抜くと表明している。

「怯えている人は多い」
ピョートル大帝がロシアを欧州の大国として変貌させて以降、ロシアの支配者は、世界屈指の規模の戦闘部隊である巨大なロシア軍の一部を徴兵制に頼る例が多かった。対象年齢の男性は、1年間の兵役に就かなければならない。ロシアは年2回行われる召集により、年間約26万人の兵士を集めている。ロンドンを本拠とする国際戦略研究所(IISS)によれば、ロシア軍の兵力は合計約90万人である。

学業や医療上の理由による応召延期などの合法的な手段も含め、兵役回避は以前から定着している。だがここ数カ月、兵役回避の方法について支援を求める若い男性が増加していることが、そうした助言や法的支援を提供している弁護士や人権活動家4人への取材から明らかになった。そのうち2人によれば、大半はモスクワやサンクトペテルブルクなど大都市の若者だという。

無料の法律相談を提供している団体の1つが、ロシア出身で現在キプロス在住のドミトリー・ルツェンコ氏が共同運営者を務める「リリース(解放)」だ。ルツェンコ氏によれば、徴兵忌避の方法について助言を求める人々のために「リリース」がメッセージングアプリ「テレグラム」上で運営している公開グループでは、ウクライナ侵攻前に約200人だった参加者が、現在では1000人以上に膨れあがっているという。

もう1つの人権団体「シチズン・アーミー・ロー(市民・軍・法)」は、軍ではなく病院などの国営機関で働くなど、兵役以外の形での公的奉仕を模索する人への助言に力を入れている。この団体によれば、問い合わせる人は、昨年の同時期には40人前後だったのが、最近ではその10倍に当たる400人以上に増加したという。同団体のセルゲイ・クリベンコ氏は、「怯えている人は多い。実際に戦闘に従事している軍には入りたくないのだ」と語る。(中略)

月給65万円を提示されるも......
(中略)ロシアが兵員の補充を模索している兆候はある。5月、プーチン大統領は軍への志願者に対する40歳の年齢上限を撤廃する法律に署名した。このとき国会議員らは、この改正により先端的な装備やエンジニアリングなどの専門分野における経験豊富な人材が集まるはずだと述べていた。

匿名を希望する30代のロシア人男性はロイターに対し、いくつか個人的な事情を確認したいという建前で、軍のオフィスに出頭するよう電話で要請されたと語った。オフィスでは、軍服を着た正体不明の男性が過去の従軍歴について質問し、ウクライナでの戦闘に参加すれば月額30万ルーブル(約65万円)の報酬を出すと申し出たという。(中略)

この男性は、自分は職業軍人ではなく、兵役を終えて以来1度も銃を発射したことがないことを理由に、このオファーを断ったという。「30万ルーブルもらっても、死んでしまっては何もならない」とこの男性は話した。【7月19日 Newsweek】
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【大都市若者に変わって投入される少数民族兵士 劣悪環境で戦線離脱も】
プーチン政権側も無理やり大都市若者を戦線に投入して、結果“反戦”の声が高まっても困りますので、給与などで釣りやすい地方の少数民族を多用する事態になっているようです。

そのため“犠牲になっているのは「サンクトペテルブルクやモスクワの中流階級の子どもたちではない」と指摘。その上で、「彼らはロシアの地方出身の貧しい子どもたちだ。シベリアのブルーカラーが住む町の出身だ。少数民族の子も不釣り合いに多い。こうした子どもたちが使い捨ての兵士にされている(英「MI6」のムーア長官)”【前出 AFP】ということに。

しかし、死にたくないのは少数民族でも同じ。想像とは異なるウクライナの惨状から逃げ出したい兵士も少なくないようです。

****戦いを拒んで帰国し、迫害されるロシアの少数民族兵士****
<ウクライナの戦場に駆り出されたロシアの少数民族兵士が故郷に帰り、脱走兵にされている。なかには凍傷を放置して手足を切断した例も>

ウラジーミル・プーチン大統領が主導する対ウクライナ戦争の前線で、ロシア軍の一部兵士は戦闘への参加を拒み、帰国している。そのなかには、凍傷にかかって手足の一部を切断せざるを得なかった者がいたことを、兵士らの故郷の人権活動家が明らかにした。

この活動家と軍事弁護士が独立系英字紙モスクワ・タイムズ紙に語ったところによると、プーチンのウクライナ侵攻からわずか数週間の3月、ロシア軍のある部隊の兵士300人が命令に反してウクライナ東部ドネツク州の陣地を離れ、故郷であるダゲスタン共和国の町ブイナクスの基地へ戻ってきたという。

同記事によれば、兵士たちは契約軍人で、基地に戻ってから契約解除の手続きを開始し、その後、脱走兵として扱われた。

契約軍人らから弁護を依頼された軍事弁護士は、モスクワ・タイムズ紙に対し、ウクライナでの戦闘に加わることを拒否して無断で任地を離れたことによって、彼らが重罪に問われる可能性が出てきたという。

「兵士らは軍服や武器に問題があったと主張している」と、この弁護士は語った。「軍人が10日以上勤務地を離れた場合、刑事責任が問われる可能性があり、現在、軍検察庁が調査している」

ある人権活動家によると、帰国時に手足が凍傷にかかっていた兵士もいて、何人かは「黒くなった部分を切り落とさなければならなかった」ため、障害者になった。

武器も備品も欠陥品
この活動家によると、兵士たちの軍服や備品には問題があり、支給された武器は「欠陥品」だったという。一部の兵士は親族や地元当局からの圧力でウクライナに戻った。

モスクワ・タイムズ紙は、兵士たちの帰国にはプライベートな事情がからみ、退役したことを恥じる気持ちもあるため、兵士に直接話を聞くことはできなかったとしている。
本誌は、これらの主張を独自に確認することができず、ロシア外務省にコメントを求めている。

今回のケースが報道される前にも、ブリヤート共和国出身のロシア軍兵士100人がウクライナでの戦闘を拒否して帰国していたことが、反戦団体によって報告された。

ブリヤート族が結成した反戦運動団体「フリー・ブリヤート財団」によると、ロシア国防省との契約を解除した軍人150人を乗せた飛行機が、7月9日にモンゴル国境近くのロシア領内に着陸したという。

同財団の創設者アレクサンドラ・ガルマジャポワは、軍人らの妻たちは今年6月、ロシア軍に従軍中の夫は契約を打ち切ろうとしており、契約解除後は帰国させてほしいと訴える動画を作成し、ブリヤート共和国の首長に請願した、とウクライナのテレビ局に語った。

帰国の途に就く前、軍人らはウクライナ東部ルハンシク州の収容所に数日間拘束され、訴訟を起こすと脅かされたという。

ロシアの軍事専門家パベル・ルジンは3月、ガーディアン紙に、戦死する兵士の多くがブリヤート、カルムイキア、ダゲスタンといった貧しい「少数民族」共和国の出身であることが明らかになりつつある、と述べた。
これらの地域出身者は、ロシア軍の下級兵士に多いとルジンは言う。

ロシアの調査報道機関インポータント・ストーリーズが収集したデータによると、ダゲスタンとブリヤートは共に、ロシアの対ウクライナ戦争で公式に報告された死傷者の数が最も多い地域となっている。【7月20日 Newsweek】
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欧米側も苦しいけど、ロシアの内情も相当に苦しそう。
プーチン大統領は「我々はまだ本気を出していない」と発言していますが、戦時動員を宣言して本格的な戦時態勢をとればロシア社会にも動揺が広がるので、何とかその手前で抑えたいというところでしょう。
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