(中国新疆ウイグル自治区の区都ウルムチ市を視察に訪れた習近平国家主席=13日(新華社=AP)【7月15日 産経】)
【新疆ウイグル自治区前トップ失脚 「新疆公安ファイル」で欧米に批判材料を提供することになったことの責任か】
“新疆では多くの少数民族が収容施設に入れられ、その伝統や文化も十分に尊重されていないとして国際的に批判が高まっている。しかし、中国政府は人権問題の存在を一貫して否定。5月下旬にバチェレ国連人権高等弁務官とオンラインで会談した習氏は、「人権問題において完璧な理想の国というものは存在しない。偉そうに指図する教師面は必要ない」と述べている。”【7月15日 毎日】
新疆ウイグル自治区における少数民族弾圧を正当化する習近平政権ですが、その政策遂行のトップにあった人物が閑職に左遷されたようです。
****ウイグル弾圧 指示の幹部〝閑職〟に 強権政策は緩めず****
中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区の公安当局から大量流出した内部資料でウイグル族弾圧を指示していたとされる自治区の前トップは最近、〝閑職〟に追いやられたことが表面化した。
弾圧が国際的な問題に発展した責任をとらされたとの見方もあるが、明確な理由は不明。ただ、中国当局が強権的な少数民族政策の手綱を緩めることはないとみられる。
中国共産党は昨年12月、陳全国・自治区党委員会書記の交代を発表した。陳氏の異動先は明らかにされていなかったが、中国メディアは今月中旬、ようやく新たな肩書を「党中央農村工作指導グループ副グループ長」と伝えた。同グループのトップは陳氏と同じ政治局員の胡春華(こ・しゅんか)副首相。
陳氏は2016年に自治区トップに就任し、ウイグル族への「再教育」など同化政策を推進。20年には米政府の制裁対象になった。
陳氏は党・政府の要職に起用されるとの見方もあったが、香港紙の明報は陳氏について「テロは抑圧したが、国際的な論議も引き起こした」と指摘。「政界から徐々に消える」ことになるとの見解を伝えた。
このほか、陳氏の人事をめぐり、自治区での統治手法がとがめられたとの見方の一方、習近平国家主席と距離がある李克強首相に近いとされる事情や健康問題などを指摘する声もある。
ただ、全国人民代表大会常務委員会は24日、少数民族政策を担う国家民族事務委員会の主任(閣僚級)に潘岳(はん・がく)氏を起用する人事を決めた。66年ぶりに漢族の就任となった前任者に続き、2代連続で漢族がトップになったことで、事実上の同化を進める少数民族政策の継続が明確になったと受け止められている。
一方、中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官は5月24日の記者会見で、流出資料で改めて焦点が当たった少数民族への弾圧について「噓やデマをまき散らしても世間を欺くことはできず、新疆の社会安定や経済繁栄、人民が安穏に暮らしている事実を覆い隠すことはできない」と主張した。
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ウイグル弾圧の内部資料大量流出 中国新疆ウイグル自治区のカシュガル地区とイリ・カザフ自治州の公安サーバーから、ハッキングによって内部資料が大量に流出し、米非営利団体「共産主義犠牲者記念財団」などが5月下旬、「新疆公安ファイル」として資料の分析結果を公表した。
資料は中国が「職業技能教育訓練センター」と呼ぶ収容所などの実態を示す写真や2万3000人超の収容者名簿、約2900人分の顔写真、共産党幹部の発言記録など、2017〜18年を中心とした数万点。【6月27日 産経】
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流出した「新疆公安ファイル」によれば、陳全国氏の発言は以下のようにも。
****「逃げる者は射殺」 中国のウイグル族「再教育施設」内部資料が流出****
(中略)
幹部の発言記録は、公安部門トップの趙克志・国務委員兼公安相や自治区トップの陳全国・党委書記(当時)らが会議で行った演説。特に陳氏の発言記録は「録音に基づく」とあり、正式な文書にまとめられる前の感情が交じった言葉が並んでいる。
収容政策で重要な役割を果たした陳氏は17年5月28日の演説で、国内外の「敵対勢力」や「テロ分子」に警戒するよう求め、海外からの帰国者は片っ端から拘束しろと指示していた。「数歩でも逃げれば射殺せよ」とも命じた。
また、18年6月18日の演説では、逃走など収容施設での不測の事態を「絶対に」防げと指示し、少しでも不審な動きをすれば「発砲しろ」と命令。習氏を引用する形で「わずかな領土でも中国から分裂させることは絶対に許さない」と述べ、「習総書記を核心とする党中央を安心させよ」と発破を掛けていた。(後略)【5月24日 毎日】
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陳全国氏は政治局員からも排除されるようです。
****新疆前トップ政治局員、退任へ 中国、抑圧手法を問題視****
中国共産党が、秋ごろに開かれる第20回党大会で新疆ウイグル自治区トップの同自治区党委員会書記だった陳全国氏(66)を、指導部を構成する政治局員(現在は25人)から退任させる方向で検討していることが14日分かった。複数の党関係筋が明らかにした。
習近平党総書記(国家主席)(69)の威光を誇示しながらイスラム教徒の少数民族、ウイグル族を抑圧した手法が問題視されているという。
米国は、陳氏がウイグル族弾圧を推進したとして制裁対象にしている。中国は「テロ対策」として一連の措置を正当化しているが、陳氏を新指導部に残すべきではないとの判断に傾いている。【7月14日 共同】
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中国共産党権力中枢・中南海の動きは外部からはわかりませんが、“中国当局が強権的な少数民族政策の手綱を緩めることはないとみられる”【産経】ということからすれば、陳氏の失脚は“ウイグル族を抑圧した手法が問題視されている”【共同】というよりは、「新疆公安ファイル」という形で欧米に批判材料を提供する結果となったことの不手際の責任を問われたと言うべきでしょう。
【対米関係改修復の模索の側面も】
あわせて、ウイグル族弾圧のトップを冷遇することで、中国としてもアメリカとの関係でなんらかの関係修復につなげる材料にしたい思惑があるのかも。
バイデン米政権は、新疆ウイグル自治区での強制労働によって生産された製品の輸入を全面的に禁じる「ウイグル強制労働防止法」を6月下旬に施行するなど、ウイグル問題は対中圧力の重点となっています。
****アメリカ「ウイグル強制労働防止法」施行 日本企業にも影響か****
アメリカで、中国の新疆ウイグル自治区で強制労働によって生産された製品の輸入を全面的に禁止する法律が21日、施行されました。今後、アメリカに製品を輸出する企業が、強制労働に関与していない証拠を求められるケースが増えると見込まれていて、日本企業にも影響が及ぶ可能性があります。
アメリカで21日に施行された「ウイグル強制労働防止法」は、去年12月にバイデン大統領が署名して成立した法律で、中国の新疆ウイグル自治区で強制労働によって生産された製品を全面的に締め出すことを目的としています。
バイデン政権はこれまでも新疆ウイグル自治区からの綿製品やトマトなどの輸入を禁止してきましたが、今回の法律の施行で、対象を原則としてすべての品目に拡大します。
これにより、アメリカに製品を輸出する企業が製品だけでなく、調達した原材料なども強制労働によって生産されていないことを示す証拠を求められるケースが増えると見込まれています。
去年1月には、アメリカの税関当局が、強制労働に関与していない十分な証拠がないとして、ユニクロのシャツの輸入を差し止めた事例があり、今後、日本企業にも影響が及ぶ可能性があります。
バイデン政権はこれまでも新疆ウイグル自治区からの綿製品やトマトなどの輸入を禁止してきましたが、今回の法律の施行で、対象を原則としてすべての品目に拡大します。
これにより、アメリカに製品を輸出する企業が製品だけでなく、調達した原材料なども強制労働によって生産されていないことを示す証拠を求められるケースが増えると見込まれています。
去年1月には、アメリカの税関当局が、強制労働に関与していない十分な証拠がないとして、ユニクロのシャツの輸入を差し止めた事例があり、今後、日本企業にも影響が及ぶ可能性があります。
中国 対抗措置辞さない姿勢示す
これについて、中国外務省の汪文斌報道官は記者会見で「アメリカはうそを根拠に法律を制定・施行し、新疆ウイグル自治区に関係する団体や個人に制裁を行うことはうそにうそを重ねることだ。アメリカは、国際貿易の規則を破り、国際的なサプライチェーンの安定を破壊している」と述べ、強く反発しました。
そのうえで「中国は強く非難するとともに断固反対し、中国企業と国民の合法的な権利と利益を守るために強力な措置をとる」と述べ、対抗措置も辞さない姿勢を示しました。【6月22日 NHK】
そのうえで「中国は強く非難するとともに断固反対し、中国企業と国民の合法的な権利と利益を守るために強力な措置をとる」と述べ、対抗措置も辞さない姿勢を示しました。【6月22日 NHK】
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【強権的民族弾圧は変わらず 3選に向けて習氏はウイグルでの「成功」を誇示】
3期目を目指す習近平国家主席にとって、新疆ウイグル自治区の「安定」は政治的「成果」であり、その方向性の誤りを認めることはないでしょう。
共産党大会が秋に迫る中でその「成果」を誇示すべく、習近平氏は8年ぶりに新疆ウイグル自治区を訪問しています。
習氏は5年の任期ごとに中国国内すべての省・直轄市・自治区を回りますが、17年以降の2期目で未訪問だったのは新疆ウイグル自治区のみでした。
習近平氏が6月以降に訪ねたのは新型コロナの感染を止めた湖北省武漢市と、デモを抑え込んだ香港、そして今回の新疆・・・・ということで、共産党大会直前に統治の「成果」を集中的にアピールしているようです。
なお、習近平氏が前回新疆を訪れた2014年には、同じ日に約4キロ離れたウルムチ南駅で爆発テロが起き、当局の発表によると実行犯の2人を含む3人が死亡、79人が負傷しました。
政権への衝撃は大きく、この事件はその後のウイグル族管理強化につながる契機となったとされています。
****習近平氏、8年ぶり新疆ウイグル訪問 治安安定を誇示****
中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は7月中旬に新疆ウイグル自治区を訪問した。習氏が訪れたのは2014年4月以来、約8年ぶり。22年秋に開く共産党幹部の人事を決める党大会を前に、新疆ウイグルの統治が「成功」したと内外に誇示する狙いがある。15日までに中国国営中央テレビ(CCTV)などが伝えた。
習氏は12日に区都ウルムチで、中国から欧州へ輸送する貨物列車「中欧班列」の運送状況を視察した。習氏は「(自身が掲げる経済圏構想)一帯一路の建設が進むにつれて、新疆はもはや辺境地帯ではなくなっている」と主張。「一つの中枢地帯であり、歴史的意義がある」と強調した。
13日にはウルムチで日本の町内会に相当する社区を訪問。ウイグル族の踊りを見学し「各民族の人々の生活をますます幸福にしなければならない」と指摘した。中国国営の新華社はマスクを外した習氏がウイグル族の子供らに囲まれて町を歩く写真を配信した。
習氏が14年に訪問した際にはウルムチ駅で爆発物を身につけた「自爆テロ」が発生。習氏は「新疆の分裂をたくらむテロ分子との戦いは長期に及ぶ。テロ分子の増長を断固としてたたけ」との指示を出した。
このころから街中のあらゆる場所に監視カメラを設置し、徹底して統制を強めた。ウイグル族の「再教育施設」への強制収容も報じられ、米欧は人権弾圧だとみて批判を強めた。中国と米欧の関係悪化の一因になった。
習氏がこのタイミングで改めて訪問したのは、党大会に向けて新疆ウイグルの治安の安定を誇示するためだ。習指導部は「新疆でイスラム教の中国化の方向を堅持せよ」とたびたび号令をかけてきた。習氏が2期目の17年以降で訪れていない地方は31の省・直轄市・自治区の中で新疆ウイグルだけだった。
習指導部は米欧の非難を意識して、最近は新疆ウイグルの経済成長路線を打ち出すようになっている。21年12月には強権を振るったとされる陳全国・新疆ウイグル自治区党委員会書記を経済通とみられている馬興瑞・広東省長に交代させた。陳氏を今年6月に閑職に追いやり、米欧との緊張緩和の糸口を探ろうとしている。【7月15日 日経】
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