(【7月21日 TBS NEWS DIG】プーチン大統領は20日、技術的問題で今後「ノルドストリーム」ガス供給が停止される可能性もあると強調)
【「ノルドストリーム」は再開したものの、プーチン大統領は更なる供給削減の可能性を警告】
定期保守点検ということで停止していたロシアからドイツに天然ガスを送る主要なパイプライン「ノルドストリーム」が再開されるか注目されていましたが、21日、作業を終えて予定通り再開しました。
****露、ドイツへ天然ガス供給再開も通常時から6割削減 圧力かける道具か****
ロシアからドイツに天然ガスを送る主要なパイプライン「ノルドストリーム」が21日、予定通りに保守作業を終えて10日ぶりに稼働した。インタファクス通信が伝えた。
ウクライナ侵攻後に欧州が科した経済制裁への報復として、ロシアが保守作業終了後も停止中のガス供給を再開しない可能性が懸念されていた。
当面の輸送量は保守作業前と同じ日量6700万立方メートルと、輸送可能総量の4割にとどまる見通し。
ノルドストリームを運営する露政府系天然ガス企業ガスプロムは6月中旬、カナダで修復していたタービンが制裁で返却されず、稼働能力が下がるとの理由でドイツへのガス供給の6割削減を発表していた。今月11日からは保守作業に入り、輸送を完全に停止していた。
カナダ政府は7月9日、対露制裁を一時棚上げしてタービン返却を認めると発表した。ガス不足にあえぐドイツに配慮した措置でウクライナは反発している。
欧州連合(EU)は、ロシアがエネルギーをウクライナを支援する国々に圧力をかける道具にしているとして非難。ロシアによる安定供給は見通せず、需要が高まる冬を控えて対策を急いでいる。【7月21日 産経】
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一応再開したものの供給量は削減されたままですし、これで終わった訳でなく、ロシア・プーチン大統領は今後もガスを使ってウクライナを支援する欧州へ揺さぶりをかける姿勢を示しています。
****ノルドストリーム1のガス供給さらに削減も、プーチン氏が警告****
ロシアのプーチン大統領は20日、同国産ガスを欧州に送る主要パイプライン「ノルドストリーム1」について、設備の保守点検が遅れているため供給量をさらに絞る可能性があると述べた。
同パイプライン自体も定期メンテナンスのため今月11日から21日まで停止している。関係筋は、予定通り21日に稼働を再開する見通しだが、輸送能力を下回る供給量にとどまると明らかにした。
イラン訪問を終えたプーチン氏は記者団に、ノルドストリーム1には独シーメンス・エナジーが運転するタービンが5基あったが、現在機能している2基のうち1基が返却されなければ供給量は1日当たり3000万立方メートルにとどまると述べた。さらに、別の1基も26日に保守点検に出される予定だとした。ノルドストリーム1は年間550億立方メートル強の輸送能力がある。
ロシア国営ガス会社・ガスプロムは先月、カナダで修繕中のタービンの返却が遅れていることを理由にノルドストリーム1の供給量を輸送能力の4割に削減した。
ロシア紙コメルサントは18日、カナダが修繕作業を終えたタービンを17日に航空機でドイツに輸送したと報じている。【7月20日 ロイター】
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こうしたロシア側の揺さぶりに対し、EUは冬季の天然ガス使用量を15%削減するよう呼び掛けています。
****EU、天然ガス使用量15%削減目指す ロシアの「脅迫」に対抗****
欧州連合欧州委員会は20日、ロシアのエネルギー供給をめぐる「脅迫」に対抗するため、加盟国に対し冬季の天然ガス使用量を15%削減するよう呼び掛けた。
欧州委はまた、ロシアが欧州へのガス供給を停止した場合に、使用量の削減を強制できる特別権限を同委に付与するよう要請した。
欧州委はまた、ロシアが欧州へのガス供給を停止した場合に、使用量の削減を強制できる特別権限を同委に付与するよう要請した。
ウルズラ・フォンデアライエン委員長は「ロシアはわれわれを脅迫している。ロシアはエネルギーを武器として使っている。大規模なガス供給制限であれ全面停止であれ、欧州はいかなる事態にも備えておかなければならない」と述べた。 【7月20日 AFP】
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【ロシアの揺さぶりで欧米に不協和音や混乱も】
欧州はエネルギー、特に天然ガスについてロシアに大きく依存してきました。
****化石燃料の「脱ロシア化」を目指す EU****
「脱ロシア化」を目指す EU の化石燃料事情
(中略)EU の2020年時点における一次エネルギーの構成比率を総供給量ベース(域内生産+輸入)で確 認すると、化石燃料は全体の72.9%を占めていた。
そのうち化石燃料に限定して供給構造(同じく総 供給量ベース)を見てみると、ロシアからの輸入比率は石炭が10.2%、石油が22.2%、天然ガスが34.4%とな っていた。(中略)
天然ガスのロシアからの輸入比率が高い国々は、石油と同様 に中東欧諸国が上位に並んでいる(図表7)。他方で主要国の場合、ドイツの62.4%を筆頭に、イタリアが 40.8%、オランダが21.6%、フランスが16.9%、スペインが10.4%となっている。【6月17日 三菱UFJリサーチ&コンサルティング】
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今の状況で、もしロシア産ガス供給が停止すると欧州は深刻な打撃を受けます。
****ロシア産ガス供給停止、中欧で深刻な景気後退招く=IMF****
国際通貨基金(IMF)は19日、ロシアが天然ガスの供給を停止した場合、各国が一段と協力して代替燃料を共有しなければ、ハンガリー、スロバキア、チェコ共和国、イタリアで深刻なリセッション(景気後退)を引き起こすとの予測を発表した。
ブログで、ロシア産ガスの供給が完全に断たれた場合、一部の国では通常のガス消費量の最大40%が不足する可能性があると指摘。
液化天然ガス(LNG)を含む代替燃料の供給が妨げられ、必要な場所に供給が行き届かない場合、ロシア産ガスの供給停止によってハンガリーは国内総生産(GDP)で6%超、スロバキア、チェコ共和国、イタリアのGDPは5%縮小する可能性があるとした。(中略)
ドイツのGDPは、代替エネルギーへのアクセスや消費抑制が可能なため、より悲観的なシナリオで2%台後半、より楽観的なシナリオでは1%強の縮小にとどまるとした。
ただ、ドイツの経済活動は2023年には2.7%縮小する可能性があり、ガスの卸売価格の上昇により、22年と23年にはドイツのインフレ率がさらに2%ポイント上昇するとした。(後略)【7月20日 ロイター】
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ロシアのガス攻勢ですでに欧米・ウクライナの間では不協和音も出ています。
****ウクライナ、駐カナダ大使を本国召還 独ロ結ぶパイプラインのタービン返却に抗議か****
カナダがロシアとドイツを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム1」の維持に必要なタービンをドイツに返却すると決定したことを受け、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は11日、同国の駐カナダ大使を本国に呼び戻すと発表した。
ゼレンスキー氏は毎日恒例のテレグラムでの演説で「対ロシア制裁の例外は断じて容認できないため、外務省は、カナダ大使を本国に呼び戻さざるを得なかった」として、タービン返却について「ロシアに弱さの表れだとみなされるだけだ」と指摘した。
「ロシアは間違いなく、欧州へのガスの供給を可能な限り制限するだけでなく、ここぞという時に完全に止めようとするだろう」(後略)【7月12日 AFP】AFPBB News
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ドイツ国内では、天然ガスに代わるエネルギー確保のために「脱原発」を延期するか否かで閣内対立も起きています。
****独、「脱原発」延期か否か 閣内が対立 ロシアのガス供給削減***
ドイツで今年末に迫った「脱原発」計画の延期を求める声が高まっている。ロシアによる天然ガス供給削減を受け、エネルギー確保が最重要課題となったためだ。ショルツ政権では国内に残る原発3基の稼働延長の是非をめぐり、連立与党が真っ二つに割れている。
リントナー財務相は20日、民放テレビで「現実的な選択をとるべきだ」と述べ、原発の稼働延長を訴えた。リントナー氏は、産業界に近い第3与党、自由民主党(FDP)の党首。欧州連合(EU)欧州委員会が同日、ガス需要の削減策を発表したのに合わせた発言だった。(中略)
一方、ショルツ首相の社会民主党(SPD)、緑の党の中道左派2与党は、稼働延長に難色を示す。緑の党の党首だったハーベック経済・気候保護相は「原発の電気は、ガスの埋め合わせにならない」と主張してきた。ドイツでは発電に占める原発の割合が6%まで低下している。(中略)
だが、6月末の世論調査では、原発の稼働延長を支持する意見が61%に上った。政府は世論に押される形で、原発の耐性を調べる「ストレステスト」の実施を表明した。原発停止が電力供給に与える影響も精査する。政府の判断が「原発嫌い」の「イデオロギー」にとらわれたものではないと示す狙いとみられている。政府報道官は18日、数週間以内にストレステストの結果が出る見込みだと述べた。【7月21日 産経】
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【欧州を翻弄するロシアも、顧客を失えば痛手】
プーチン大統領のガス攻勢で欧州が翻弄されている感がありますが、一方で、最大顧客である欧州がロシアから離れてしまうことになってはロシアとって痛手となります。
****プーチン氏の心理戦 天然ガス武器に欧州翻弄****
欧州が代替エネルギー源確保できればロシアの痛手
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナに戦争を仕掛ける一方、欧州にも「第2戦線」を展開している。天然ガスを巡る戦いだ。(中略)
ただ、プーチン氏にとっても持ち玉を使い果たすことになるため、ガス供給を完全に停止することはないとの指摘は多い。ガス供給を完全に遮断することは、欧州を深刻なリセッション(景気後退)に陥れる過激な選択肢だ。
プーチン氏はむしろ、供給を大きく絞るとみられている。価格を高止まりさせつつ戦費を確保し、影響力を引き続き行使できる戦略だという。(中略)
エネルギー問題の専門家は、プーチン氏の目標が西側の結束を崩すことだと指摘する。西側諸国はロシアのウクライナ侵攻を受けて、連携してロシアに厳しい経済制裁を科し、ウクライナに必要不可欠な資金・軍事支援を行っている。
計画停電や電力の供給制限によって欧州市民の間でウクライナへの支持が後退し、ガスの奪い合いとなって北大西洋条約機構(NATO)加盟国の間に亀裂が走るとプーチン氏は読んでいる可能性がある。
天然ガスは戦争の道具として、ロシアに特別な切り札を提供する。ロシアにとって最大の収入源はガスではなく石油であり、実のところパイプライン経由の収入がなくても当面は困らない。対照的にEUは昨年までロシア産天然ガスの輸入が全体の約4割を占めるなど、ロシアに大きく依存する。
とはいえ、ガスを「戦略兵器」として利用すれば、プーチン氏にとっても多大なるリスクが伴う。しかも、それを成功させる機会も限られる。プーチン氏が欧州へのガス供給を完全に絶てば、ロシアは50年にわたって築き上げてきた欧州にとって「信頼できるエネルギー供給国」との評価を失うだろう。
完全停止に至らなくても、慌てた欧州が代替のエネルギー調達先を確保するという計画を実現すれば、プーチン氏にとっては負けだ。
いずれにしても、ロシアは主要ガス顧客として、中国に大きく依存する可能性が高まりそうだ。そうなれば、中ロ関係で中国は優位に立てる。
ジョージタウン大学教授で、ガスを巡るロシアと欧州の関係に関する著書があるセーン・ガスタフソン氏は「プーチン氏が地政学的な理由から、半世紀にわたる投資を無駄にする用意があることは明らかだ」と述べる。
ドイツなど欧州諸国は、ロシア産エネルギーから脱却して多様化を急いでいる。今年に入ってガス輸入に占めるロシアの割合を20%まで半減させており、今後5年で完全脱却を目指す。(後略)【7月21日 WSJ】
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【対ロシア制裁が効果を出すまで欧米は耐えられるか?】
ロシア・プーチン大統領は常々、対ロシア制裁で苦しむのはロシアではなく欧米の方だ・・・との主張をしていますが、半分は強がり、半分は事実でしょう。長期的に制裁でロシアが衰弱するのは事実ですが、そこまで欧米側が制裁の「痛み」に耐えることができるかが勝敗の分かれ目になります。
****西側の対ロ制裁は時間切れ、戦争はプーチンの勝ち?****
<食品価格やエネルギー価格の高騰という制裁のしっぺ返しを受けて、西側のウクライナ支持にも陰りが見えはじめた>
ウクライナへの侵攻を受けて、西側諸国が発動した一連の対ロシア制裁は、ロシア経済を機能不全に陥らせ、大きな影響力を持つオリガルヒ(新興財閥)たちを孤立させ、社会に不安をもたらし、ロシア政府を揺さぶることが目的だった。しかし今、揺さぶられているのはロシアではなく、西側諸国の方だ。
ウクライナでの戦闘と対ロ制裁は、ロシアより西側諸国にさまざまな問題をもたらしている。物価やガソリン価格は高騰し、数カ月後には冬がくるというのに暖房に欠かせない天然ガスの確保の見通しが立たない。(中略)
一連の問題からは、ウクライナに対する世論の支持がいつまでもつだろうかという疑問が浮上する。EUの政策執行機関である欧州委員会によれば、ロシアは依然として、EUにとって原油、天然ガスと石炭の主要な輸入先だからだ。
プーチンの思うつぼ
米ジャーマン・マーシャル財団の客員上席研究員であるブルース・ストークスは、「誰に話を聞いても、みな今後数カ月の見通しを警戒している」と述べた。「高いエネルギー価格、インフレや経済の先行き、ロシアに対する強硬姿勢に世論の支持が続くのかどうかを注視している」
ウクライナでの戦闘と厳しい対ロ制裁がもたらした混乱は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に有利に働いている。
元米国務副長官で現CIA長官のウィリアム・バーンズは、アトランティック誌のインタビューに対して、「ある程度の混乱は、プーチンにとって都合がいい」と指摘した。
バーンズは、国内で不安感が高まり、市民が民主国家の諸制度への信頼を失うと、ロシアのような権威主義国家を利することになるという。「西側諸国の混乱や分裂が深まるほど、プーチンは余裕を感じ、ロシアの侵略に対する西側諸国の抵抗の効果が弱まる可能性が高い」
2月24日にロシアがウクライナ侵攻を開始して以降、西側諸国はロシア政府を罰するためのさまざまな制裁を導入してきた。海外にあるロシア資産の凍結や、ロシア産原油の輸入制限、国際送金・決済システム「SWIFT」からロシアの大手銀行を排除するなどの制裁だ。
ロシア政府を標的としたこれらの制裁に加えて、米ホワイトハウスによれば2月以降、推定1000社を超える米企業・多国籍企業がロシア事業の停止や撤退を決定しており、それに伴い何千人もの労働者、何百万ドル相当もの生産力に影響が出ている。
NATOの政策立案者たちは当初、一連の制裁によって「ロシアが過去15年分の経済成長を失う」ことになると予想していた。フランスのブリュノ・ルメール財務相は3月に、制裁の目的は「ロシア経済を崩壊させる」ことだと述べていた。
もちろん、ロシア経済は打撃を受けている。対外貿易は大幅に減り、貧困率も上昇している。ロイター通信によれば、インフレ率は14.5%近く、モノ不足が徐々に表面化しており、2022年のGDPはマイナス7.1%になる見通しだ。
だが制裁がロシアの特定のセクター以外の、ロシア経済全体にどんな影響を与えているかについては、まだはっきり分かっていない。
ロシアの政治科学者イリヤ・マトベーエフは米ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)とのインタビューの中で、西側諸国による対ロシア制裁が成功と言えるかどうかは基準によって異なるが、プーチンに軍事行動を思いとどまらせる効果から考えれば失敗だ、と述べた。
ロシアは「戦争前より収入が増えている」
(中略)6月に開かれた米上院の欧州および地域安全保障協力小委員会の公聴会で、エイモス・ホックスティーン上級顧問は、ロシア政府が原油や天然ガスの販売で、ウクライナ侵攻の数カ月前よりも多くの利益を得ているかどうかを問われると、「それは否定できない」と述べた。「ロシアが石油でこれほど儲けて、経常収支が黒字化するというのは、予想外だった」
インディアナ大学ブルーミントン校のエコノミストであるミハイル・アレクセーエフは、これらの収入源に加えて対外債務が低水準にあることで、ロシアは一連の制裁の最悪の影響を回避できているのだと指摘。「ロシア市民が飢えに苦しむことはない。飢饉が起きることはないだろう」と彼はNPRに述べた。「ただ彼らが生産・消費できるものの種類が減っていくだけだ」
アレクセーエフは、制裁の効果は、どれだけの時間をかけたかによって変わってくると述べた。
「制裁の目的が、ロシア経済を迅速かつ完全に崩壊させることならば、効果は出ていない。ロシア経済は今も機能している」「だがもしもその目的が、時間をかけてロシア経済を弱らせていくことならば、一連の制裁は100%機能していると言えるだろう」
だが残念ながら、制裁の支持者たちには「時間切れ」が迫っているかもしれない。
駐米ロシア大使のアナトリー・アントノフは、本誌とのインタビューの中で、西側諸国は一連の制裁のしっぺ返しを食らうことになるだろう、と警告した。
「制裁によってロシア経済を押さえつける計画は、うまくいかない」「無分別な規制は、米経済の状況をいっそう悪くするだけだ」と、彼は主張する。「米政府は、不可能なことを両立させようとしている」(後略)【7月20日 Newsweek】
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我慢比べとなれば、政治体制のうえでも、国民性の点でも、ロシアは欧米より有利かも。
市民生活の悪化をなかなか「我慢」できないというのが、民主主義の現実です。少なくとも「我慢」を続けるうえで、戦況の目に見える改善が必要でしょう。