孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エチオピア内戦のその後 東アフリカで深刻化する飢餓の脅威

2022-07-14 22:02:17 | アフリカ
(深刻な干ばつの被害を受けているソマリ地域の村で、家畜の死骸のそばを歩く子どもたち。(エチオピア、2022年1月21日撮影) 【2月2日 PR TIMES】)

【「無期限の人道的休戦」のその後】
日々新たな出来事が報じられ、特に、コロナ禍やウクライナ情勢といった“大きな出来事”が関心事になると、その他のローカルな話題は記憶・関心がうすれていってしまいます。

ときに思い出すことがあると、「そう言えば、あの話はどうなったのだろうか?」という感も。
そんな話題の一つが、エチオピア内戦。

ノーベル平和賞受賞者でもあるアビー首相率いる政府軍と以前国の実権を握っていた少数民族ティグレ人勢力が激しい戦闘を繰り広げ、双方が非人道的な行為を行っているとも報じられていましたが、3月に政府側が休戦を発表したとの報道がありました。

****エチオピア政府、「無期限の人道的休戦」宣言****
エチオピア北部で続く内戦で、同国政府は24日、「無期限の人道的休戦」の即時発効を宣言した。

アビー・アハメド政権は声明で、今回の休戦を、数十万人が飢餓の恐れに直面している北部ティグレ州への緊急支援の加速につなげたいと表明。同州の反政府勢力に対し、休戦を成功させるため「さらなる攻撃をやめ、近隣の占領地域から撤退する」よう要請した。

アビー首相は2020年11月、ティグレ州の旧与党勢力「ティグレ人民解放戦線」による陸軍基地攻撃への報復として、同勢力打倒を目指して軍隊を派遣。戦闘は1年以上続き、人道危機を引き起こした。現地では集団レイプや虐殺が行われたとの証言が出ており、双方が人権侵害行為を非難されている。

米国は、アビー政権がティグレ州への支援物資輸送を妨げていると非難。一方で政権側は、妨害しているのは反政府勢力だと主張している。 【3月25日 AFP】
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その後、エチオピアに関する報道はあまり目にしなくなりました。(ということは、本格的な戦闘は収まっているということでしょうか)
4月段階のJETRO報告では、政治的にも経済的にも厳しい情勢が続いている様子。

****政治経済の安定に向けた努力続く(エチオピア) 2022年の注目点(8)****
よくもあしくも、エチオピアでは政府の力が強い。2022年は、その強い政府が政治と経済の両面で指導力を発揮して難局を乗り越えられるかの分水嶺になりそうだ。

安定化に向けた努力続く
ティグライ州に端を発した国内北部の紛争は、2021年後半に再燃した。同州に隣接するアムハラ州やアファール州では、インフラも被害を受けた。被害は病院や学校など社会インフラから、工業団地、電力施設、橋のように経済活動への影響が大きいものにも及んだ。

2022年に入ってからも、ティグライ州近隣では局地的戦闘があるようだ。もっとも、当地で詳細が報道されることはない。エチオピア政府から公式な停戦合意はないものの、状況は管理されているためだ(政府は2022年3月24日、「ティグライ人民解放戦線(TPLF)」に対して無期限の人道的停戦を発表していた)。

他方で、中南部のオロミア州では襲撃事件や衝突がやまない。この紛争は、政府がTPLFとは別にテロ組織と認定する過激派武装集団「OLFシェネ」(注)が関与するとされる。

この状況下、同州と連邦政府は共同で、4月に入って1カ月間の掃討作戦を開始するに至った。エチオピア政府は今後も国内の安定に向け、我慢強く努力を続けていく必要がある。

こうした努力の一環として、政府は「国民対話委員会」を設置し、2月には11人からなる委員も選出された。しかし、オロミア州やソマリ州などの主要な野党が参加を拒否するなど、委員会が成果を出せるかは分からない。

いずれにせよ、この国民対話委員会が3年間の時限設置であることからも分かるように、国内全土の安定はこれから何年もかかる大きな課題だ。

外貨を稼げるかに注目
北部の紛争は、首都アディスアベバに直接的な被害はもたらさなかった。しかし、紛争再燃以前から続く物価上昇率は30%を超える水準で、高止まりが続く。生活物資が高騰し、道路にたたずむ物乞いも目に見えて増えている。

他方で、週末の盛り場では、夜半まで音楽が鳴り響く。このように、非常事態宣言下での静けさから一転、夜間のにぎわいも戻っている。

エチオピアは、もともと農村部と都市部との間に大きな経済格差がある。物価高騰が長期化するに連れて、都市部でも経済格差が感じられるようになりそうだ。

慢性的に外貨不足にあえぐエチオピア。その獲得のために、政府は輸出促進を志向する。(後略)【4月28日 JETRO】
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上記記事にもあるように、ティグレ人勢力TPLFとは別のオロモ人主体の反政府武装勢力「オロモ解放軍(OLA)」との衝突が続いているようです。

****反政府勢力の襲撃で民間人200人以上が死亡か エチオピア中部の町****
 エチオピアからの情報によると、同国中部オロミア州の町ジンビが18日、反政府武装勢力「オロモ解放軍(OLA)」に襲われ、民間人少なくとも200人が死亡した。

政府系のエチオピア人権委員会(EHRC)が20日に発表したところによると、この地域で数日前に起きた政府軍とOLAの衝突に関連した襲撃とみられ、多数が負傷、複数の村落が破壊された。
目撃者らが警官に語ったところによると、政府軍が去った後、村を通過しようとしたOLAのメンバーらを住民や武装集団が妨害したことから襲撃に発展した。

現在は政府軍がこの地域を掌握しているが、住民らは今も危険を感じ、支援を求めているという。

OLAは関与を否定している。同勢力の報道官は19日、アビー首相側が「撤退する自軍兵士の残虐行為をOLAのせいにしている」と主張した。

エチオピアは多民族国家、多宗教、多言語の国家で、オロモ族とアムハラ族が全人口の6割以上を占める。3番目のティグライ族は約7%前後。

OLAはオロモ族の反政府武装勢力で、エチオピア政府の定めるテロ組織に指定され、昨年からティグライ族の反政府勢力とも手を結んでいる。これまでアムハラ族を狙った攻撃を繰り返してきたとされ、地元警官の話によれば18日の襲撃による犠牲者もほとんどがアムハラ族だった。

現在の内戦は2020年、北部ティグライ州から始まった。政府が隣接するアムハラ州の勢力とともに、ティグライ族を主体とする「ティグライ人民解放戦線(TPLF)」の掃討に乗り出したのがきっかけ。TPLFは18年のアビー政権発足まで、エチオピアの政権を掌握していた。ただし、18日の襲撃にTPLFが関与したことを示唆する事実はない。【6月21日 CNN】
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オロモ人は人口の40%を占め、エチオピア最大の民族です。アビー首相も初のオロモ人出身首相です。
ただ、従来からオロモ人は政治中枢から遠ざけられており、アムハラ人やティグレ人に代わって実権を握りたい思惑、アビー首相の中央集権的な政治への不満があるようです。

民主主義や人権に関する認識が十分でないなかで、多民族国家、多宗教、多言語の国家を強権によらず安定的に統治するのは至難の業です。

【スーダンとの緊張関係】
なお、隣国スーダンとの間でも衝突が。
スーダンとエチオピアが領有権を争う国境地帯で6月28日、スーダン軍がエチオピア軍を攻撃、スーダン軍は複数の地域を制圧して数十人のエチオピア兵を捕らえたといい、大規模な戦闘に発展しかねない状況・・・という報道がありました。

スーダン政府は6月22日に、エチオピア軍が国境地帯でスーダン兵7人と一般市民1人を捕まえて処刑したとして、エチオピア軍を非難していました。

一方、エチオピア外務省は6月27日、同国北部の反政府勢力ティグレ人民解放戦線(TPLF)の支援のもとでスーダン軍が領内に侵入してきたと主張していました。

その後の状況はわかりませんが、首脳会談の報道がありましたので、なんとかコントロールされている・・・のでしょう。多分。

****エチオピア・スーダン首脳会談 「兵士処刑」で関係緊迫****
エチオピアのアビー首相は、隣国ケニアの首都ナイロビで5日、スーダン軍トップのブルハン将軍と会談したと明らかにした。会談直後に2人の写真と共にツイッターに投稿した。

エチオピアとスーダンは先月、国境で衝突し、捕らえた兵士らをエチオピア軍が処刑したとスーダンは主張。エチオピアは否定し、関係は緊迫していた。【7月5日 時事】
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【干ばつ、食料価格高騰で深刻化する飢餓】
もともと報道が少ない地域で、かつエチオピア政府が報道を抑制していますので状況はよくわかりません。
ただ、はっきりしているのは、エチオピア、更にソマリア・ケニアなどの東アフリカで深刻な干ばつが広がり、飢餓の脅威が迫っているという事実です。

干ばつに加え、ウクライナ戦争の影響による食料価格の高騰も大きな打撃となっています。

****雨も資金も不足:アフリカの角では数百万世帯が壊滅的状況に近づく****
アフリカの角全域で切実に必要とされている雨は、雨季に入ってほぼ1カ月が経過した現在も実現していません。こうした状況が続き、人道支援が停滞、さらには減少した場合、干ばつによる飢餓人口が現在推定されている1400万人から2022年に2000万人に急増する恐れがあると、WFP国連世界食糧計画(国連WFP)は本日警告しました。

ソマリアは飢きんのリスクに直面し、ケニアの50万人は壊滅的な飢餓にあと一歩のところまで来ており、エチオピアの栄養不良率は緊急時の基準値をはるかに超えています。生き延びるために苦労している家族にはもう時間がありません。

「過去の経験から、人道的大惨事を回避するためには早期の対応が不可欠であることは分かっていますが、資金不足により、対応策を講じることが制限されています」と、国連WFP東アフリカ地域局のマイケル・ダンフォード地域局長は述べています。

「国連WFPをはじめとする人道支援機関は、昨年から国際社会に対して、この干ばつは直ちに行動を起こさなければ悲惨なことになると警告してきましたが、必要な規模の資金を確保することができませんでした」

ウクライナでの紛争の影響で、食料や燃料の価格がかつてないほど高騰しており、状況はさらに悪化しています。アフリカの角の干ばつの影響を受けている国々は、この紛争の影響を最も強く受けると思われます。

特に黒海沿岸諸国の小麦に大きく依存しているエチオピア(66%)とソマリア(36%)では、配給食料の価格がすでに上昇しており、輸入の停止は食料安全保障をさらに脅かすことになります。一部の航路では2022年1月以降、輸送費が2倍になっています。

2016-17年のアフリカの角の干ばつでは、早期の行動により大惨事は回避されました。飢餓が広がる前に人道支援を拡大し、命を救い、壊滅的な飢きんを回避することができました。

2022年、深刻な資金不足により、迫り来る災害を防ぐことは不可能であり、その結果、何百万人もの人びとが苦しむことになるのではないかという懸念が高まっています。

国連WFPは前回、2月に必要な資金の提供を呼びかけましたが、集まったのは必要な資金の4%未満にとどまりました。今後6カ月間、国連WFPはエチオピア、ケニア、ソマリアの3カ国における支援の拡大と命を救う支援のために、4億7300万ドルを必要としています。【4月19日 WFP】
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****ソマリアで飢餓の危機高まる、雨不足と食糧価格上昇で=国連機関****
アフリカ東部のソマリアで約21万3000人が飢餓に直面していると、国連機関が6日発表した。干ばつ悪化に加え世界の食糧価格が記録的高水準で推移しているため。

国連世界食糧計画(WFP)、国連食糧農業機関(FAO)および国連人道問題調整事務所(OCHA)は共同声明で、ソマリアでは降雨不足が4年継続し、世界的にも気象が不安定となっていることから、今年の雨季も降雨量が平均に届かない恐れが警告されていると指摘。

さらに、ロシアのウクライナ侵攻で世界の穀物や調理油の価格が3月に過去最高付近まで上昇しており、ソマリアで飢餓に直面する人が4月予想時点の3倍近く増加したと明かした。

同国では人口の約半分に当たる710万人が深刻な食料不安状態にあるという。これは、必要最低限のカロリーをほとんど得られず、生存のため資産売却の必要に迫られかねない状態。

ソマリアのWFP責任者は「最も脆弱な人々の生命が栄養失調と飢餓で既に危険にさらされている。飢餓の発生を待つわけにはいかない」と述べた。【6月7日 ロイター】
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****東アフリカで干ばつが進行 サルが女性と子供を襲い、人々は牛小屋の水で命つなぐ****
エチオピアなど東アフリカで、干ばつによる被害が深刻化している。気候変動による国内作物の不作と、ウクライナ情勢による国際的な食糧危機が重なり、過去数十年で最悪の飢餓に発展した。

年に2回訪れるはずの雨季は、もう4期連続でまとまった雨をもたらしていない。植物の生育不良を受け、野生動物が凶暴化の兆しをみせている。このところ報告が増えているのは、サルの襲撃事例だ。

英NGOのセーブ・ザ・チルドレンの幹部は、米ABCニュースに対し、「多くの家族が、空腹のサルたちを棒で追いはらう必要に駆られている。このような報告を複数受けています」と語った。この地域のサルは通常ヒトを襲うことはないが、干ばつ被害の深刻な地域を中心に行動が変容しているという。

同団体はまた、エチオピア、ケニア、ソマリアを合わせ、2300万人以上が「極度の飢餓状態」にあると発表している。

「数十年で最悪の飢餓」家畜小屋の水を飲んで凌ぐ日々
団体は現状を、「ここ数十年で最悪の世界的飢餓の危機」であると指摘している。当該地域の人々は「生きるため、家畜小屋の飼い葉桶に溜まった水を飲み、腐敗した肉を食べ、食糧をめぐり野生動物と戦うなど、極端な手段に訴えている」という。

かねてから数年単位の干ばつが続いていたところ、新型コロナの影響で経済情勢が悪化した。さらにウクライナ紛争を受け、小麦とひまわり油など生活必需品の価格が高騰しており、現地で食糧を入手することは至難の業となっている。

被害はアフリカ東部に突き出た、「アフリカの角(つの)」と呼ばれる半島部分で深刻だ。この地域には、エチオピア、ソマリア、ケニア北部などが含まれる。

巨体のイボイノシシが家屋に突入
ケニア北部では、食糧だけでなく水を奪う目的でもサルが人を襲うようになった。水場から運んで帰る途中、女性や子供がねらわれる例が相次いで発生している。このほか、体重が最大で150キロほどにも達するイボイノシシが家屋に突入し、食べ物を漁る事例もたびたび報告されるようになった。
英デイリー・メール紙は、「以前であれば人の匂いがした途端に逃げていた野生動物たちが、いまではまるで去ろうとしない」と指摘している。

同地域で活動する栄養士は、惨状を次のように語る。「病気が至る所に蔓延しており、これらは飢えと渇きに起因しています。耳にした情報によると、いくつかの集落では状況が非常に悪く、家畜が飢えて死んだあと、腐ったその肉を食べなければならなかったようです。ほかに食べ物を手に入れる手段がなかったのです。」
助けを求める旅の途中、娘は死んだ......ある家族の話
飢えに耐えかね、住み慣れた村を捨てたという一家もあるようだ。北アイルランドのアイリッシュ・ニュース紙は現地を取材し、そこで出会った家族の例を報じている。

夫婦と8人の子供たちから成るこの一家は、かねてから干ばつで農作物の不作に喘いでいた。そこへ、多数飼っていたヤギも最後の一匹が死に、食糧のつてをすべて失ったという。助けを求めて村を発ち、20日間をかけて70キロの道のりを歩いていたところ、取材班に出会った模様だ。

直近まで子供は9人いたが、一家は3歳のフェイサルちゃんを旅の途中で亡くした。飢えによる衰弱だったという。父親は同紙に、悲痛な面持ちで語っている。「旅に出たその週のうちに、彼女の命は尽きました。亡骸は道端に埋め、旅を続けなければなりませんでした。ほかに手はなかったのです。残された家族の命を救わなければなりませんでした。」

記事によるとこうした痛ましい出来事は、現地ではめずらしい話ではないのだという。ソマリア南東部のゲド地域では、比較的よくある事態だと同紙は述べている。

東アフリカにおける日照りは改善の見込みが立たず、10月から始まるはずの次の雨季も、降雨は見込めないと予測されている。悲惨な事例が続くことのないよう、状況の好転が望まれる。【7月13日 Newsweek】
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4年連続の干ばつ、ウクライナ戦争を受け手の食料価格高騰、それ以外にも前半で取り上げたように政治が混乱し、住民が戦闘に脅かされ、十分な統治が行われていないという政治の責任もあるでしょう。

東アフリカの惨状は残念なことに目新しいことではありません。
かつてアビー首相が国内の民族対立を乗り越え、エリトリアと関係を改善し、スーダンなど周辺国の混乱の調停にあたっていた頃、そうした見慣れた東アフリカの惨状も克服できる日が近づいたか・・・・と希望を感じたのですが、現実は厳しかったようです。

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