孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  「ゼロコロナ」堅持 感染者増加もあって、党大会を前にコロナ対策強化

2022-10-11 22:40:17 | 中国
(10月11日、中国では新型コロナウイルスの感染拡大を受けて上海などの大都市が検査を再び強化している。写真は新型コロナの検査のために並ぶ人々。上海で10日撮影 【10月11日 ロイター】)

【ようやく緩和された日本の水際対策】
日本では“ようやく”新型コロナ水際対策が緩和されて、外国人観光客の受入れもコロナ禍以前とほぼ同じレベルで受け入れることができるようになりました。

****訪日「夢かなった」 外国人の個人旅行、2年半ぶり再開****
新型コロナウイルスの水際対策が11日、大幅に緩和され、外国人の個人旅行が2年半ぶりに再開された。円安を背景とした外国人観光客の増加による経済効果が期待される。

東京国際(羽田)空港にはこの日午前、イスラエル、フランス、英国からの観光客が到着した。
イスラエルから来た69歳の女性は、「ずっと夢見ていたことがかなった」と語った。「新型コロナ流行の前から旅行を計画していて、待ち続けていた」(中略)

日本は新型コロナのパンデミック(世界的な大流行)の初期に国境を封鎖。一時は日本に在住する外国人の再入国も禁止していたが、最近になり外国人を慎重に受け入れつつあった。

6月にはガイド付き団体旅行が認められ、その後、パッケージツアーに限り個人旅行も認められるようになった。

11日以降は、68の国・地域からの観光客はビザ(査証)なしでの入国が可能となる。入国者数の上限も撤廃され、団体旅行のほか個人旅行も受け入れられる。

ワクチン接種証明書、もしくは渡航前72時間以内に受けた検査の陰性証明書の提示は引き続き義務付けられる。

新型コロナの流行前、政府は東京五輪を開催する予定だった2020年までに訪日外国人旅行者数を4000万人とする目標を掲げていた。19年には過去最多の3190万人が訪れたが、21年は25万人にまで激減した。

新型コロナによる死者数は日本では約4万5500人と他の先進国を下回っているものの、今なお感染防止ガイドラインに従っている人が多い。先日には、宿泊施設が、マスク着用といった感染対策への協力に応じない客に対して宿泊を拒否できるようにする法案が閣議決定された。

マスクは法で強制されてはいないが、屋内や公共交通機関の中だけでなく、政府が混雑していない場合は不要だとしているにもかかわらず、屋外ですらマスクを着用している人は多い。

大半の施設では入り口に消毒液が置かれ、レストランではしばしばプラスチック製の仕切りが設置されている。 【10月11日 AFP】
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“ワクチン接種証明書、もしくは渡航前72時間以内に受けた検査の陰性証明書の提示”は必要ない国が多くなったなかで、日本の対応はまだ“面倒くさい”ものがあります。(今時は外国では検査もあまりしなくなったので、陰性証明書を取得するのもひと苦労するとか)

水際対策のルール以上に外国人にとって面倒なのは、記事後半にある日本社会で未だに続く新型コロナ警戒感でしょう。(9月始めにトルコに行きましたが、マスクを使用しているのは日本人観光客とその相手をする関係者だけといった感じでした)

【「ゼロコロナ政策堅持する」中国】
とにもかくにも日本の対応は緩和されましたが、お隣中国は未だ“ゼロコロナ”に固執しています。
(なお、中国以外で、日本より厳しいのは台湾。ようやくビザは不要になりましたが、「隔離」をなくした10月13日からの緩和でも「入境後7日間の自主防疫」が必要です。台湾の厳しい対応は、ゼロコロナで感染者を封じ込める中国への対抗でしょうか)

****中国共産党機関紙「ゼロコロナ政策堅持する」論説掲載 ネットからは批判の声も****
中国共産党の機関紙「人民日報」は11日、新型コロナウイルスへの感染を徹底的に抑え込む「ゼロコロナ政策」を守らなければならないとする論説を発表しました。

発表された論説では、新型コロナウイルス感染を徹底的に抑え込む「ゼロコロナ政策」について「持続可能であり、守らなければならない」と強調。「死亡率などが極めて低く抑えられ、社会と経済を安定的に運営することができている。現段階で感染拡大を抑える最もよい選択だ」と政策を評価しています。

また、「オミクロン変異株は感染力が強く、高齢者や基礎疾患のある人には大きな脅威だ」としたうえで、日本や欧米各国のように感染対策を緩和する政策をとれば「人々の生命や財産にさらに深刻な被害をもたらす」などと主張しています。

この論説を受け、中国版ツイッター「ウェイボ」では「これはおかしい」「100年ロックダウンすれば最も安全だ」「来世では中国人にならない」など批判や皮肉めいたコメントも一部見られていますが、批判的意見は当局により削除されているものとみられます。

16日に開幕する中国共産党大会を前に、こうした論評をあえて掲載する背景については、国民の「ゼロコロナ政策」に対する反応を確かめる狙い、との見方もあり、党大会でどのような言及があるのかも注目されています。【10月11日 TBS NEWS DIG】
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【感染者増加 党大会を前に対策強化 住民無視の過剰対応も】
中国では、習近平国家主席が3期目を目指す中国共産党大会を16日からに控え、人事や党規約改正など習近平体制強化に向けた動きが報じられています。

その話はまた後日にするとして、その党大会に向けて、国慶節連休の旅行者増加を受けて感染者も増加している状況もあって、新型コロナ対策も一段と強化された感も。

****上海などで新型コロナ感染者増、検査強化へ****
中国では新型コロナウイルスの感染拡大を受けて上海などの大都市が検査を再び強化している。

感染者は今週に入り8月以来の水準に増加。今月初旬の国慶節の連休で国内旅行が増えた。

上海の10日の新規感染者は28人と、4日連続で2桁を記録。全国の感染者は2089人で、8月20日以来の高水準を記録した。

感染者は、内モンゴル自治区の景勝地など観光地に集中しているが、今週に入り大都市での感染も増えている。

上海市政府は10日遅く、16地区全てで住民の定期検査を11月10日まで少なくとも週2回実施すると表明。現在の週1回から検査を増やす。旅行者やホテルなどの検査強化も指示した。

同国に住むある英国人は外出中に自宅マンションが48時間封鎖されたことを知り、ホテルにチェックインしたが、このホテルも感染者が見つかり封鎖された。その後、自宅マンションの封鎖期間も延長され、家族が離れ離れで暮らしているという。

人民日報は11日の論評記事で「大規模なリバウンドが起きれば、感染が拡大し、経済・社会に深刻な影響が出る。最終的な代償は高くつき、損失は拡大するだろう」と指摘した。【10月11日 ロイター】
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なかには感染者ゼロでもロックダウンする都市も。

中国では感染者が出た地方の当局は、その責任を中央から問われますので、「この党大会を前にした重要な時期に感染者を出すようなことがあれば地方政府幹部の首が飛ぶ・・・」という警戒でしょうか。
それにしても、住民生活への配慮は一切ありません。

****中国、感染ゼロでも都市封鎖 党大会前コロナ厳戒****
中国では第20回共産党大会開幕を16日に控え、各地で新型コロナウイルス対策が厳格化されている。

党大会会場の北京から数百キロ離れた山西省永済市は、感染が確認されていないのに事実上の都市封鎖(ロックダウン)を発動。上海市や江蘇省蘇州市も9日までに大規模なPCR検査を始めた。
 
交流サイト(SNS)では過剰だとの批判や、党大会のためだとする指摘が相次いだ。中国は7日まで国慶節(建国記念日)の大型連休だった。人の移動で感染が増えた地域がある。
 
永済市は7日夕、市外への道路を封鎖し、市内の車両通行も制限、原則外出禁止を発表した。10日午前0時まで。【10月9日 共同】
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【「上に政策あれば、下に対策あり」 一番の問題は不満・批判を許さない体制】
その他、中国のコロナ関連ニュース。

****ゼロコロナ政策の中国で食品捨てる映像に批判殺到****
厳しいゼロコロナ政策が続く中国で、感染予防を理由に食品を捨てる様子がSNSに投稿され、批判を浴びています。

黒竜江省 佳木斯市防疫担当者 「外から来たものは全部捨てろ!!」

これは中国東北部、黒竜江省・佳木斯市で撮影されたとされる映像。男性がゴミ箱に捨てているのは、コメです。卵も、つぶして捨てています。さらに豚肉も…

佳木斯市では、新型コロナの感染拡大を防ぐためとして、食品を捨てる映像がSNS上に拡散、市当局に批判が殺到しています。これを受け、市当局は「担当者の責任追及を始めた」と釈明、事実上、謝罪に追い込まれました。

佳木斯市の26日の新型コロナの新規陽性者は73人。中国では依然として厳しいコロナ政策がとられていて、市民の不満が高まっています。【9月27日 TBS NEWS DIG】
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****ゼロコロナ政策で6回封鎖の中国の村、「解除しろ」と住民千人以上が抗議…警察が連行も****
香港紙・明報は28日、新型コロナウイルスの新規感染者が確認され封鎖措置が取られた中国広東省深セン市福田区の一部地区で、1000人以上の住民が解除を求めて抗議活動を行ったと報じた。一部住民は警察に連行されたという。

報道によると、付近で新規感染者が1人確認されたことを受け、当局が26日夜、封鎖措置を発表。その直後に抗議活動が福田区沙尾村で発生した。

この村は2020年以降、断続的に6回封鎖措置が取られており、耐えかねた住民が路上に集まり「封鎖を解除しろ」と叫んだという。現場で鎮圧にあたった警察数百人と住民が衝突し、一時混乱状態に陥った。【9月28日 読売】
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前出の感染者ゼロでもロックダウンした山西省永済市同様、過敏な地方政府の対応、住民無視がうかがわれます。

一方、下記はちょっと怖い。「監視社会」が一層強化されるようです。

****中国、住民組織「社区」を強化 王朝想起と批判、コロナで監視***
中国で住民組織「社区(コミュニティー)」に新たな役職を置く動きが出始め、王朝時代の相互監視システムのようだと批判を買っている。社区は「ゼロコロナ」政策で力を発揮してきた。住民監視の役割がますます強まっている。

社区は団地などを単位に設置された自治・互助組織とされ、社会的弱者の見守りや住民の紛争調停などに当たる。共産党の「指導」が末端まで浸透しており、住民の監視システムの面も持つ。

「“十戸長”を募集」。四川省の社区が出した通達が最近、SNSで物議を醸した。同省威遠県の8月の募集によると10〜20世帯ごとに十戸長を置き、各家庭の状況を把握する。【10月8日 共同】
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いったん強化された監視機能は、コロナが終わっても残るのでしょう。

中国では「上に政策あれば、下に対策あり」とよく言われますが、下記“なりすまし”もそんな一例でしょうか。

****大型連休後に感染増で上海“再封鎖”の動き PCR検査の“なりすまし”増加 ゼロコロナ政策堅持への批判も****
国慶節の大型連休が明けた中国・上海では、新型コロナの感染が再び拡大。建物の封鎖も相次いでいます。一方でPCR検査の“なりすまし”も増えています。(中略)

こうした中、増えているのがPCR検査の“なりすまし”。別人から依頼を受けたという女性がレインコートを着替え、検査を受ける様子が記録されていました。

上海では今も72時間以内の陰性証明がないと公共交通機関の利用などができませんが、警察によると9月以降、80人以上が“なりすまし”検査で罰金の処分を受けたほか、2人が起訴されたということです。

こうした混乱の中、中国共産党機関紙はきょう「ゼロコロナ政策」について、「持続可能であり守らなければならない」との論説を掲載。これについてネット上では「おかしい」「100年ロックダウンすれば最も安全だ」といったコメントも見られましたが、批判的意見は当局が削除しているとみられます。【10月11日 TBS NEWS DIG】
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“72時間以内の陰性証明がないと公共交通機関の利用などができません”・・・ということは三日に1回は検査を受ける必要があるということで、「その時間がとれなかった場合はどうするんだ!」というのは日本的常識。中国では問答無用。

不満のSNSは削除される・・・ゼロコロナ対策をとる、とらないはその国の事情もあるでしょうが、こうした批判を許さない体制というのが、日本人から見て中国社会の一番の問題に思われます。
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イラン  長引く抗議デモ イスラムによる統治体制への批判に拡大 没落する中間層の不満も

2022-10-10 21:26:01 | イラン
(頭部をスカーフで覆っていない女子学生たちがホメイニ師とハメネイ師の肖像に向かって中指を立てた【10月5日 BBC】)

【現行統治システムの中核を成すイデオロギーへの批判が表面化】
イランの首都テヘランで頭髪を覆うスカーフの着用方法をめぐり連行された後、昏睡状態に陥り、3日後に死亡した女性をめぐって、警察の暴力によって女性が死亡したとして抗議デモが拡散した件は、これまでも数回取り上げてきました。


事件発生から4週間目に入った現在も抗議行動は続いています。
死者の数は、情報統制が厳しいイランのことですのではっきりしませんが、人権団体によると、当局による抗議デモの弾圧などでこれまでに子ども19人を含む185人の死者が報告されている・・・とも報じられています。【10月10日 TBS NEWS DIGより】

当局は、女性は「病死」であり警察の暴行はなかったとして、デモの鎮静化を図っています。

****イラン女性急死、法医学当局「脳腫瘍に関する既往症と関連」…暴行疑惑で抗議活動続く***
イランの法医学当局は7日、服装規定に違反したとして警察に拘束された後に急死したマフサ・アミニさん(22)の死因に関する報告書を発表した。死因は頭部などへの殴打ではなく、既往症と関係があると結論づけた。国営メディアなどが伝えた。

アミニさんは9月13日に拘束された後、意識不明となり、3日後の同16日に死亡した。報告書では死因について、アミニさんが8歳の時に手術を受けた脳腫瘍に関する既往症との関連を指摘した。

アミニさんは意識を失った後に心肺蘇生処置を受けたが、脳に「損傷」を負い、「脳の低酸素状態による多臓器不全で死亡した」としている。(後略)【10月8日 読売】
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しかし、女性の父親は、彼女には病歴はなく逮捕前まで健康上の問題は一切なかったと語っており、また、暴行を受けたと思われる状態を見たと主張し、死因に関する上記の公式発表を否定しています。

****イラン抗議デモ、4週目へ 女性の父、当局の死因発表を否定****
イランで服装規定などを取り締まる「道徳警察」に逮捕されたマフサ・アミニさんが拘束下で死亡したことに端を発した抗議デモは8日、4週目に入った。全土で女子学生がスローガンを叫び、労働者がストをし、デモ隊が治安部隊と激しく衝突している。(中略)

(死因に関する公式発表に対し)アミニさんの父親は在英ペルシャ語放送イラン・インターナショナルに対し、「私はマフサの両耳と首の後ろから血が出ているのを自分の目で見た」と述べ、公式発表を否定した。

■抗議の輪
テヘランの女子大学、アルザフラー大学では、保守強硬派のエブラヒム・ライシ大統領が新年度の始まりに訪れた際にも、抗議デモが続いていた。

在外人権団体イラン・ヒューマン・ライツは同大のキャンパスで「抑圧者に死を」と叫ぶ若い女性たちが目撃されたと報告している。

アミニさんの地元の西部クルディスタン州サッケズでは、女子学生が「女性、命、自由」とスローガンを唱えながら、スカーフを振り回して行進する様子が撮影された。人権団体によると8日に行われた抗議デモだという。

■「警察は殺人者」
抗議参加者はインターネット規制をものともせず、新しいメッセージ戦術を取っている。
例えばネットには、「もう恐れない。私たちは戦う」と書かれた巨大横断幕がテヘラン市内の陸橋に掲げられた画像が投稿された。AFPは画像が真正であることを確認した。

また同じ幹線道路にある当局の広報ボードの文言を、「警察は公僕」から「警察は殺人者」に書き換える男性を捉えた映像も拡散している。(中略)

■外国人拘束も
(中略)イラン当局は外国勢力が抗議デモを扇動していると繰り返し主張。先週には欧州出身者計9人を逮捕したと発表した。フランスやオランダは、イランへの渡航に関する警告や同国からの出国勧告を発している。(後略) 【10月9日 AFP】
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イランではこれまでも大規模な抗議行動は何回もおきていますが、従来のものが選挙の不正やガソリン価格など経済問題であったのに対し、今回は女性のスカーフ着用、つまりイスラム的価値観の強要が問題となっており、現在の神権政治ともいわれるイスラムを中核とする統治体制への不満と見ることができます。

****きっかけは1人の女性の死。今回のイラン抗議デモがこれまでと違うのはなぜか****
<「ふしだらな格好」を道徳警察にとがめられた若い女性が、病院で死亡。抗議行動は全土に広がり、体制批判にも発展している。近年はデモが頻発しているイランだが、今回のデモは何が違うのか>

イランが燃えている。きっかけは1人の女性の死だ。地方から首都テヘランを訪れていたマフサ・アミニ(22)は、地下鉄の駅を出たところで「道徳警察」に目を付けられ、連行された。

理由は、ヒジャブ(イランの女性に着用が義務付けられている髪を隠すためのスカーフ)から髪が少し出ていたからとも、ぴったりしたジーンズをはいていたからともいわれる。

残念ながら、この種の逮捕はイランでは珍しくない。そして拘束中に命を落とすことも、そんなに珍しくない。
だが、アミニの死は「イランで時々ある残念な出来事」では終わらなかった。

「病院のベッドに横たわる彼女の写真が流出したのだ」と、イラン系アメリカ人の弁護士ギスー・ニアは言う。「顔は腫れ上がり、首には分厚いガーゼが巻かれ、呼吸器につながれていた。その衝撃的な写真が、元気なときの美しい彼女の写真と共に、ソーシャルメディアで広く共有された」

9月に一部の女性たちが始めた抗議行動は、たちまち男性も巻き込んでイラン全土に広がり、体制批判にまでつながっている。いったいイランで何が起きているのか、スレート誌のメアリー・ハリスがニアに話を聞いた。

(中略)
――イランの女性は非常に教育水準が高いが、それでも自由を制限されている。

イランの女性は識字率が非常に高く、教育もある。男性よりも女性のほうが大卒者は多いとも聞く。ただ、女性たちを家庭にとどまらせるよう仕向けるさまざまなルールがある。女性が外で働いたり、スキルを活用したりすることは奨励されていない。

――近年のイランでは、抗議デモが頻発している感がある。多くは不正選挙に対するものだが、それ以外の部分で、今回のデモは何が違うのか。

2009年に大統領選の結果に対する大規模な抗議デモが起きた。非常によく組織されたもので、「グリーン革命」として世界的にも注目を浴びた。(中略)ただ、基本的にデモはテヘランの中心部に限定されていた。

だが、それ以降の抗議デモは大きく異なる。2017年12月と18年1月の抗議デモは全国的なもので、明らかに反政府的な色合いを持っていた。

2019年11月には、ガソリン価格が突然引き上げられたのをきっかけに、全国的に大規模デモが起きて、現体制に対する批判へとつながった。

――抗議行動がどんどん激しくなり、混乱を帯びたものになってきたということか。

人々が昔ほど抗議の声を上げることに恐れをなさなくなったことは間違いない。抗議デモが起きる頻度が高くなり、場所も都市部だけではなくなった。

ある地方での水不足がきっかけだったり、低賃金に対する不満がきっかけだったりと、原因も多種多様だ。
だが、今回は経済難などではなく、神権政治の中核を成すイデオロギーが問題になっている。ヒジャブの着用義務は、イスラム神政を口実にした人権抑圧を象徴するルールだ。

性差別的な法的枠組みの象徴でもある。なにしろ裁判では、女性の証言は男性の証言の半分の価値しかないと見なされるのだから。イランには民族的・宗教的マイノリティーや、性的少数者に対する差別もある。(後略)。【10月3日 Newsweek】
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“神権政治の中核を成すイデオロギーが問題になっている”となると、政権側は一歩も後へ引けません。譲歩や妥協が困難な問題です。
最高指導者ハメネイ師は、抗議行動はアメリカやイスラエルによって意図されたものだとして、警察対応を支持しています。

****イラン最高指導者、警察の対応支持=デモの死者130人超か****
イランの最高指導者ハメネイ師は3日の演説で、国内各地で続く若者らの抗議デモについて「あらかじめ計画されていた暴動だ」と断じ、鎮圧に向けて強硬姿勢を取る警察など治安当局の対応を支持する考えを示した。国営通信が報じた。最近のデモについてハメネイ師の発言が伝えられるのはこれが初めて。

一方、オスロに拠点を置く人権団体「イラン・ヒューマン・ライツ」(IHR)は2日、デモが激化した9月16日以降の衝突による死者は133人になったと発表した。最高指導者が強硬対応を容認したことで、流血がさらに拡大する恐れもある。(中略)

ハメネイ師は、女性が命を落としたことについて「深い悲しみを覚えた」と述べた。しかし、抗議行動の拡大は「(イランを敵視する)米国やシオニスト体制(イスラエル)などが意図したものだ」と主張した。【10月3日 時事】 
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しかし、ハメネイ師のこうした姿勢は女性の怒りを増幅させているようで、抗議行動は多くの女子学生が参加し、最高指導者、宗教指導層を批判するものともなっています。

****イラン抗議デモ、女子学生が多数参加 前例ない行動も****
イランで全国的に広がっている抗議デモで、これまでなかった行動が相次いでいる。10代の女子学生たちはスカーフを外して振り回し、宗教指導層を非難する言葉を唱え、侮蔑的なジェスチャーを見せるなどしている。(中略)

BBCが確認した動画からは、いくつかの都市の校庭や路上で抗議デモが行われたことがわかる。
首都テヘランのすぐ西に位置するカラジでは、女子学生たちが学校から教育関係者を追い出したとされている。

ソーシャルメディアに3日に投稿された動画には、女子学生たちが「恥を知れ」と叫び、水の空ボトルと思われるものを、教育関係者が校門から出て行くまで投げつけていた様子が映っている。

同じカラジで撮影された別の動画では、学生たちが「団結しなければ、1人ずつ殺される」と声を張り上げているのが聞こえる。

南部の都市シラーズでは3日、女子学生数十人が主要道路の通行を妨害。スカーフを振りながら、「独裁者に死を」と声を合わせた。すべての国家問題で最終決定権をもつ、同国の最高指導者アリ・ハメネイ師に向けたものだ。

4日には、カラジ、テヘラン、北西部のサケズ、サナンダジュでも、女子学生の抗議デモが報告された。
また、多くの女子学生が教室で、頭部を覆わずに立っている場面の写真も出回った。学生たちは、ハメネイ師と、かつての最高指導者ルホラ・ホメイニ師の肖像画に向かって、中指を立てるひわいなしぐさを見せている。

女子学生らがこうした抗議行動を起こした数時間前には、ハメネイ師が沈黙を破って、イランの宿敵であるアメリカとイスラエルが「暴動」を仕組んだと非難していた。また、抗議デモを暴力的に弾圧した治安部隊への全面的な支持を表明していた。【10月5日 BBC】
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最高指導者への批判は、国営テレビのハッキングという形にもなっています。

****ヒジャブめぐるデモ イランで国営テレビがハッキングされる ハメネイ師に銃の照準****
スカーフの着用をめぐり拘束された女性が死亡した中東・イランでは、抗議活動が続いていますが、国営テレビが放送中にハッキングされました。

8日、イランの国営テレビで午後9時のニュース番組が報じられていた最中、突然、画面が切り替わり、白い仮面が登場したあとに最高指導者ハメネイ師に対し、銃の照準が合わせられるかのような映像が流れました。
反体制派が国営テレビを数秒間に渡って乗っ取り=ハッキングしたとみられています。

ハメネイ師は炎に包まれているように見え、画面下には一連の抗議活動の発端となったアミニさんや、デモ途中に死亡したほかの3人の女性の写真が表示されました。(後略)【10月10日 TBS NEWS DIG】
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ハッキングされた最高指導者ハメネイ師の画面には「若者の血があなたの手から滴る」とも表示されていたとか。

抗議デモの火に油を注ぐように、デモに参加した別の女性の不審な死も問題になっているようです。

****イラン抗議デモ 別の17歳少女が死亡 政権側の関与疑う声広がる****
イランでスカーフのかぶり方をめぐり逮捕された女性が死亡したことに抗議するデモが広がるなか、デモに参加していたとみられる17歳の少女が死亡しているのが見つかりました。
検察は死亡した理由はデモとは関係ないとしていますが、政権側の関与を疑う声が広がっていて、さらに反発が強まっています。(後略)【10月10日 NHK】
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【政権批判が広がる根底には崩壊しつつある経済下で苦しむ中間層の怒りも】
先ほど、“現在の神権政治ともいわれるイスラムを中核とする統治体制への不満”が表面化していると書きましたが、スカーフに敏感な若い女性だけでなく怒りが広く共有されるのは、長引く制裁で疲弊した経済への不満が根底にあっての話でしょう。

****イラン抗議デモ 中間層怒りのマグマ****
米国による制裁や汚職・失策で崩壊寸前の経済、縮む中間層

髪を覆うスカーフ(ヒジャブ)着用を巡る問題が引き金となり3週間にわたりイランを揺らしている抗議デモは、崩壊しつつある経済下で苦しむ中間層の怒りを巻き込み、一段と大きな運動へと発展してきた。

(中略)口コミで組織されソーシャルメディアで情報を拡散するデモ隊の要求は、女性の権利向上を求める運動から、イラン社会の隅々まで支配するイスラム教統治の廃止を求める運動へと急速に様変わりしている。

「女性・テクノロジー・貧困という3要素がデモを拡大させている」。外国企業にイラン事業戦略を助言するテヘランの実業家モスタファ・パクザドさんはこう話す。「若者は厳しい制約によって自分の人生がまさに台無しにされているとの思いが強い」

1979年のイラン革命以降、同国の中間層は安定のかなめだった。核や弾道ミサイルの開発、テロや武装勢力への支援を理由にイランが米国などから厳しい制裁を科される中でも、経済成長をけん引した。過去40年に人口の6割を占めるまでに拡大。強固な教育制度に支えられ、壊滅的な戦争や幾度の原油価格急落を経験しながらも、医師や弁護士、エンジニア、トレーダーといった高度人材を送り出している。

その中間層がここにきて、50%に跳ね上がったインフレと、今年最安値を更新した通貨リアル急落による重圧に苦しめられている。イランでは人口の約3分の1以上が貧困層で、この比率は2015年の20%から急上昇。中間層も全体の50%を割り込んだ。

テヘラン北部にある裕福な地域の通りで抗議デモに参加していた52歳の主婦は「デモの根本にあるのは経済問題で、これが今爆発している」と話す。彼女はヒジャブを取り、他の女性の群衆とともに振り回していた。

(中略)イランの石油・金融業界を標的にした米国の制裁措置によってドル資金調達の道が断たれ、イラン経済を崩壊寸前に追い込んでいる。エコノミストはこうした見解でほぼ一致する。
それでもイラン国民の63%は、制裁ではなく経済運営の失策と汚職が原因だと考えている。(中略)

かつて世界有数の産油国だったイランだが、足元の産油量は日量約250万バレルと、1970年代の600万バレル余り、2016年の400万バレルから大きく落ち込んでいる。

新型コロナウイルス禍からの景気回復の恩恵は、インフレ高騰で打ち消されているとエコノミストは指摘する。国際通貨基金(IMF)が先週公表した研究によると、イランの大卒者の雇用は制裁発動後に7%減少した一方、高技能の男性労働者の賃金は約2割減った。

デモの第1波は今年に入って始まった。主導したのは、賃金が貧困ラインを割り込んだ石油業界の従事者や教師らの業界団体だ。労組はこれまで、アミニさんが違反したとされるヒジャブ着用義務づけの法律を廃止するための運動に加わるよう、組合員に求めている。(中略)

中間層の多くにとっては1979年以降、ビジネスを行う自由が一程度認められ、稼ぐことができていたことで、政治的弾圧や厳格なイスラム教の価値観の強要に対する不満が和らいでいた。政府はエリート層に集中していた石油収入を再配分し、無償で医療や教育、家族計画プログラムを提供した。

イランの強力な教育制度によって、農村部の貧困層でも社会階級を上がり、家を所有することが可能になった。大学の学位取得が法律や医学といった専門職への扉を開いた。

社会格差や教育水準、寿命などから国の発展レベルや豊かさを測る国連の「人間開発指数」によると、イランは2015年の段階で、メキシコやウクライナ、ブラジル、トルコを上回っていた。

イランでは同年、米国や欧州、ロシア、中国との間で結んだ核合意により、国際的な孤立から脱却できるとの希望が高まっていた。

ところが、期待されていたような追い風は吹かなかった。ドナルド・トランプ氏が2016年に米大統領に当選したことで、西側企業の間ではイランとの取引を敬遠する動きが広がった。トランプ氏が核合意の離脱を表明し、制裁を復活させた2018年以降、イランの中間層が貧困層へと転落するケースが顕著になる。

イランの中間層はかつて、2013~21年に大統領を務めたハッサン・ロウハニ氏などの改革派に望みをつないでいた。だが、世論調査や取材からは、選挙を通じて政治を変革することへの期待が中間層の間で失われたことがうかがわれる。昨年の大統領選では、ハメネイ氏が改革派の候補者による出馬すら認めないことが明らかになると、投票率が過去最低に沈んだ。

ロウハニ氏の後継であるブラヒム・ライシ大統領は、経済的な自立と、西側ではなくロシア・中国との貿易を重視する考えを強調している。

英王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)の中東・北アフリカ・プログラム副責任者、サナム・バキル氏は「イランではガス抜きの調整弁が存在しない。経済的な機会も、社会的な機会も、政治的な機会もなく、弾圧の雲が立ちこめるだけだ」と話す。(後略)【10月5日 WSJ】
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クリミア大橋爆発  プーチン大統領の反応は? 間違いないのは「冬が来る」という事実

2022-10-09 23:17:53 | 欧州情勢
(8日、火の手と黒煙が上がるクリミア大橋【10月9日読売】)

【「世界最終核戦争」(アルマゲドン)の危機】
アメリカ・バイデン大統領の“キューバ危機以来”“プーチン大統領による核の脅しは「冗談ではない」”と「世界最終核戦争」(アルマゲドン)への危機感発言があったのが10月6日。

****冷戦以来初の「世界最終核戦争」の危機に 米大統領****
米国のジョー・バイデン大統領は6日、世界は冷戦が終わって以来初めて「世界最終核戦争」の危機にさらされているとして、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領にとってのウクライナ侵攻の「出口」を模索していると述べた。

バイデン氏はニューヨークで開かれた民主党の資金調達イベントで、人類が世界最終戦争の危機にさらされるのは1962年のキューバ危機以来だと述べた。

専門家はプーチン氏が使うとすれば小型戦術核の可能性が最も高いとしているが、バイデン氏は限定された地域への戦術攻撃であろうと、大惨事の引き金になりかねないと警告した。

バイデン氏は「プーチン氏が戦術核兵器や生物・化学兵器を使う可能性に言及するのは、冗談で言っているわけではない。ロシア軍の戦果は期待を大きく下回っていると言えるからだ」との見解を示した。
 
また、プーチン氏による核の脅しは「冗談ではない」として、「われわれはプーチン氏にとっての出口を見極めようとしている。彼はどこに出口を見いだすだろうか?」と語った。 【10月7日 AFP】
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この発言後、例によってホワイトハウスは、具体的な動きがある訳ではないとバイデン発言の“火消し”に動いています。

****核兵器使用の兆候なし=バイデン氏発言を釈明―米報道官****
ジャンピエール米大統領報道官は7日、核兵器使用を示唆したロシアのプーチン大統領の発言に対し、バイデン大統領が「冗談を言っていない」と警告したことに関し、「ロシアが差し迫って核兵器を使用する準備を進めている兆候はない」と記者団に語った。

ジャンピエール氏は「大統領はプーチンの核兵器使用の威嚇への懸念を語った。国連総会でも話し、過去数週間にわたり、われわれが言ってきたことでもある」と説明。「米国の戦略的な核態勢を変更する理由は見当たらない」と強調した。【10月8日 時事】 
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【クリミア大橋爆破 ロシア政府が原因をどう説明して、どのような対抗措置に出るのか 核兵器使用は?】
しかし、現実の方がバイデン発言の“現実味”を強める方向で動いています。

8日にはクリミア大橋で爆発があり橋が破損。
ロシアのクリミア支配の象徴であり、プーチン大統領の肝いりで建設された橋であり、軍事的にも補給路として重要な橋であるだけに、ウクライナの関与も取り沙汰されるなか、プーチン大統領がどう反応するのか?と世界が注目しています。

****クリミア大橋の爆発、焦点はロシアの報復 9月には核兵器を示唆****
ウクライナ南部クリミアとロシアを結ぶ「クリミア大橋」で8日に起きた爆発は、ウクライナ侵攻で行き詰まるロシアの苦境を浮かび上がらせている。ウクライナが戦略拠点を攻撃したとの見方が広がる一方で、ロシアが強硬手段で報復する可能性も取り沙汰されており、緊張の高まりは必至だ。

ゼレンスキー氏「未来は晴れ晴れ」
ロシア当局によると、8日午前6時過ぎにクリミア大橋の車道を走行中のトラックが爆発し、並行して走る貨物列車の燃料タンクに引火して炎上、車道の一部が崩落した。

2014年からクリミアを実効支配するロシアの当局は復旧作業を急ぎ、午後4時から一部車道の走行規制を解除し、その後に列車の運行も再開したという。

ロシア国家テロ対策委員会は、爆発したトラックの運転手がクリミアの対岸に位置するロシアのクラスノダール地方に住む男性だったと説明しており、トラックに仕掛けられた爆弾が爆発したともみられている。

ウクライナ側からは爆発への関与を示唆したメッセージが相次ぐ。ゼレンスキー大統領は8日夜のビデオ演説で「今日のクリミアは曇りだったが、我々の未来は晴れ晴れとしている。クリミアなどで占領者を追い払った未来だ」と発言。

前日の7日がプーチン露大統領の70歳の誕生日だったことを踏まえ、ウクライナのダニロフ国家安全保障国防会議書記は、橋が爆発する様子とバースデーソングの動画をツイッターに投稿して皮肉った。

米紙ワシントン・ポスト紙(電子版)は詳細に触れていないが、ウクライナの情報機関が橋を爆破したという同国の政府関係者の話を報道。ソーシャルメディアでは、遠隔操作された船が橋の下まで移動し、積載していた爆発物が爆発した可能性なども取り上げられている。

ロシア「核兵器の使用も辞さない」
クリミアの実効支配を進めてきたロシアは18年から19年にかけて、クリミア大橋の車道と鉄橋を相次いで完成させた。今年2月のウクライナへの軍事侵攻に前後して、軍部隊を大橋経由で移動させて、クリミアをウクライナ南部攻撃の拠点や補給基地としてきた。

一方で8月に入ると、クリミアのロシア軍施設で爆発が相次いで起きたことから、ウクライナが同地の奪還作戦に着手したとの見方が浮上。今回の爆発がウクライナ側の攻撃に起因するならば、ロシア軍の補給路を遮断するだけではなく、クリミア奪還に向けた動きの一環とも言えそうだ。

重要インフラが損壊しながらも、タス通信によると、ロシア国防省は陸路にとどまらず、海路による輸送を続け、ウクライナ南部での軍事作戦の継続に支障を来していないと説明している。

8日夜になると、プーチン氏がクリミア大橋やクラスノダール地方のエネルギーインフラなどの警備の強化を命じた大統領令を発令。原因究明と再発防止に取り組む姿勢を前面に出している。

クリミアに続いて、9月末にはウクライナ東・南部4州の「併合」も一方的に宣言したロシアは、自国領とみなす地域が攻撃されれば、核兵器の使用も辞さないとの立場を明示する。特にクリミアが攻撃された場合には、メドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)が7月の時点で、ウクライナが「終末の日を迎える」と直接的な表現で警告していた。

クリミア大橋の爆発後には、ロシア下院のスルツキー国際問題委員長が「ウクライナの関与が確認された場合、我々の対応は厳しいものになる」と表明。今後、ロシア政府が爆発の原因をどう説明して、どのような対抗措置に出るのかが焦点になりそうだ。

ウクライナでの苦戦が続く中、ロシアの省庁間の対立がクリミア大橋の爆発に絡んでいるとも指摘されている。ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は8日のツイッターへの投稿で、ロシア軍と対立を深めてきた情報機関の連邦保安庁(FSB)が爆発に関与した疑いが強いとの見解を表明。爆発したトラックがロシアからクリミアに向かっていた点に触れ、「誰が爆発を起こしたのかは明白ではないか?」と書き込んでいる。【10月9日 毎日】
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上記記事最後のロシア情報機関の連邦保安庁(FSB)に関しては、これまでも“偽装工作”が噂されてはいます。
例えば、1999年、プーチン氏をカリスマ的権力者に押し上げることになったチェチェン侵攻のきっかけとなった「ロシア高層アパート連続爆破事件」もFSBの自作自演だとも言われています。真相はわかりませんが。

ただ、今回はどうでしょうか? 前述のように極めて重要なクリミア大橋爆破となると、ほとんどクーデター級の大ごとですから、プーチン大統領の指示でも無い限りは・・・。ロシアの核兵器使用を正当化するためのプーチン大統領の自作自演・・・というのは今のところは“小説・映画の中の話”です。

単純でわかりやすいのはウクライナの関与を疑う考え。ただ、ロシアの報復を考えると“単純でわかりやすい”話でもありません。ゼレンスキー大統領も「我々の未来は晴れ晴れとしている」と浮かれている場合ではないかも。

いすれにしても、ウクライナが東部ハリコフ州で電撃的な反転攻勢をしかけ、ドネツク州では要衝リマンを奪還する、更に南部では重要拠点のヘルソン周辺でロシア軍の前線を突破するなど、ロシア軍の苦境が続く中で、もし事件がウクライナ側によるものとロシアが判断した場合、プーチン大統領がどう反応するのか?

事件がどのように発展するのか・・・世界の誰もわかりません。(自作自演でない限り)プーチン大統領も対応を決めかねる問題でしょう。「世界最終核戦争」の危険をおかすのか・・・。

【冬の到来  軍事作戦は困難に ウクライナ側は南部の奪還作戦にとって今後数週間が極めて重要】
一方で、誰もはっきりとわかる問題は「もうじき冬がやってくる」という事実。
ウクライナにとっても、ロシアにとっても、また、軍事的にも、市民生活の上でも、更に欧州のウクライナ支援という国際関係においても、「冬が来る」という事実は重要な影響をもたらします。

まず軍事面については、ウクライナ・ロシア双方にとって軍事作戦が困難になります。それだけに、動けなくなる前にできるだけ・・・という話にもなります。

****ウクライナ、冬前の南部奪還が焦点 米当局者が注視****
(2022年10月5日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版)

米政府当局や議員らは、ウクライナは極めて重要な戦いに直面していると警告を発している。ロシアに南部の実効支配を固める機会を与えないよう、冬場に戦闘条件が厳しくなる前に領土を奪還する必要があるという。

ウクライナ軍はここ最近、東部で領土を相次ぎ奪還し、南部では重要拠点のヘルソン周辺でロシア軍の前線を突破するなど、2つの戦線で迅速な前進を遂げている。ロシアのプーチン大統領は、両地域を自国の一部であると主張し、併合に乗り出している。

米国防総省は、ウクライナは東部での勢いを生かし、黒海への玄関口である南部の戦略的地域を占領するロシア軍を撃退すべきだと指摘している。

米上院外交委員会のクリス・マーフィー議員(民主)は「戦闘の季節は短くなりつつある。ウクライナ側は優位に立っており、引き続き優勢に進める必要がある」との見方を示す。

「ウクライナにとって長期的に本当の痛手となるのは、ロシアが南東部マリウポリから南部オデッサまでの給水を断つことだ。ウクライナの生命線はオデッサへのアクセスであるため、南部では防衛態勢だけでなく、攻撃態勢をとることが重要だ」という。

ウクライナは、東部ハリコフ州で電撃的な反転攻勢をしかけ、ドネツク州では要衝リマンを奇襲作戦で奪還するなどの成功を収めている。だが、西側同盟国はヘルソン州の解放が重要な試金石になるとみている。

奪還に重要な数週間
ある米軍当局者は「ヘルソンを支配できれば、ロシアの本当の望みと思われるオデッサの掌握は確実に阻止できる」と語った。ウクライナ側も、南部の奪還作戦にとって今後数週間が極めて重要になるとの立場を示している。(中略)

軍当局やアナリストらは、ウクライナは11月中旬以降にもヘルソンを解放できるとみているが、あくまでも事がうまく運べばの話だ。(中略)

冬に地面の凍結なければぬかるみに
西側のある外交官は「ヘルソンに関しては、近いうちに何らかの手を打つ必要がある」と話す。「国民や軍の士気向上につながるだけでなく、提供された訓練や設備が最大限に活用されている証拠にもなる」

ウクライナ軍は冬を迎える前に南部を奪還することが急務だと当局者は指摘する。この地域の地面は過去3年間凍結しておらず、まもなくひどくぬかるんだ状態になる恐れがあるという。

このような環境では両軍とも作戦を展開することが難しくなり、幹線道路に無防備な状態でとどまることを余儀なくされるだろう。また、ぬかるみは領土を守る側に有利に働くと軍当局やアナリストはみている。防衛側は土地を横断する必要がないためだという。

ロシア軍の士気は低いが、関係者によると、同国は南部の拠点を強化しており、ウクライナ側の攻撃は一層困難になっているという。(中略)

インフラや兵たんでウクライナ側に強み
だが、ある米国防当局者によると、ロシア軍は冬を前に、物資を運ぶために必要なインフラや兵たんの確保に苦戦しており、ウクライナはここで強みを生かす可能性があるとみている。(中略)

ロシアが2月に侵攻を開始して以来、米国はウクライナへの安全保障支援として168億ドル(約2兆4000億円)超の拠出を約束している。バイデン米大統領は先週、70億ドルの軍事支援と武器供与を含めたウクライナ向けの追加緊急支援案に署名して法制化させた。

バイデン政権は今週、ウクライナ向けに6億2500万ドル相当の武器を追加供与することも明らかにした。これには、北部と南部におけるウクライナ軍の反撃で威力を発揮した高機動ロケット砲システム「ハイマース」4基が含まれ、迅速に供与するという。

西側同盟国は、ウクライナ軍が都市部に居座るロシア軍を相手に、受け取った武器を複雑かつ多面的な攻撃に配備できるという証拠を求めて、ヘルソンでの攻撃を注意深く見守っている。(中略)

停戦前の領土奪還が重要に
(中略)米当局や議員らは、ウクライナが今後ロシアとの停戦交渉を有利に進めるためには、南部のさらなる奪還が不可欠だと主張している。

米下院外交委員会のブラッド・シャーマン議員(民主、カリフォルニア州)は「ウクライナには間違いなく、クリミア半島の東側に位置するアゾフ海や黒海の港が必要になる。ヘルソンは明らかに大都市であり、取り戻したい」と主張する。

「最終的に決着がつくのは、今から6~8カ月後だろう。プーチン氏の支配地域は2月時点よりいくぶん広く、そのまま停戦にこぎ着けることになる。そうなる前にウクライナは領土をさらに取り戻す必要があると思う」【10月6日 日経】
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【冬の寒さ ロシア軍は戦闘以前の問題も】
「冬の寒さ」という点で言えば、ロシア軍の装備には不安も。

****ロシア動員兵は迷彩服まで自腹 支給の装備品は80年代もの…各地で資金難****
ロシアで部分的動員令による混乱が続いています。非常に古い迷彩服が支給されているとみられ、動員兵らは自腹で買わざるを得ない事態となっています。  

モスクワの情報ニュースチャンネルは、軍服から寝袋まで約25万円をかけて自前で用意した家族の話を報じています。モスクワ市内の軍事用品を扱う店では冬用の迷彩服や手袋などがよく買われ、保温性の下着もほぼ売り切れていて、空のハンガーが目立ちます。  

7日に出兵するという男性は、すでに戦地に派遣された友人から支給の装備が80年代のものだと知らされ、複数の店で防寒具などを探し回っていました。 
 
独立系メディアによりますと、急きょ動員された兵士のなかには体調不良者や新型コロナウイルスの感染者も多いとみられ、長距離移動の列車やバスで感染症が蔓延(まんえん)している可能性があります。  

また、動員によって地方は資金難に陥っていて、クルガン州やカルーガ市は年末年始の花火やコンサートなどのイベントの中止を発表しました。  

予算は動員兵のためのより良い装備品の購入に充てるということです。 また、地方は動員への反発を抑えるのに必死で、動員兵の家族に羊や魚などを配る自治体も出てきています。【10月7日 テレ朝news】
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動員兵らは自腹で冬用の迷彩服や手袋などを買わざるを得ない事態・・・というのが広くあてはまる事実なら、ロシア軍は戦闘以前の問題に直面しているようにも。

なお、ウクライナ国防相の話として、ロシアが第三国を通じて防弾チョッキ20万着と冬服50万着を調達しようとしたが、トルコに注文を断られた・・・という話も。

【インフラが破壊されたウクライナの市民生活を待ち受ける“寒くて暗い冬”】
ウクライナ側の市民生活も深刻な事態を迎えます。

****ウクライナに迫る厳しい冬、ライフラインの被害甚大****
ウクライナ東部ハリコフに1人で暮らすオルガ・コブザールさん(70)は、ロシア軍の砲撃を受けて廃墟と化した団地の1室で、間もなく訪れる厳しい冬を乗り越えようとしている。自宅は電気も水道もセントラルヒーティングも使えず、台所のガスコンロで暖をとる。

コブザールさんが住むのはロシア国境から30キロほどのサルティウカ地区。冬の気温は氷点下20度まで下がり、当局はここ数十年で最も厳しい冬になると警告している。

この団地に残っているのはコブザールさんたった1人。近隣の住戸は砲撃を受け、炎に包まれた。彼女は自宅の損傷こそ免れたが、基本的なライフラインは失われた。(中略)

ウクライナは7カ月にわたる戦火がエネルギー供給網と住宅地域に大きな被害をもたらした。当局は冬の訪れを前に、ロシアが重要なインフラを狙い撃ちするのではないかと危惧。市民に薪から発電機まであらゆるものを備蓄するよう呼びかけている。

ハリコフのテレホフ市長は「なす術がない。ミサイルがどこに落ちるか、何が破壊されるか次第だ。侵略者はわれわれに寒くて暗い冬を過ごさせようとしている」と話した。

<広がる懸念>
都市部の住宅地は、天然ガスを燃料とする発電所によるセントラルヒーティング設備を備えている。しかし窓や壁が破壊された団地ではパイプが凍結し、その地域のセントラルヒーティング設備が破損する恐れがある。(中略)

セントラルヒーティングに障害が発生した場合には電力が頼りになるため、多くの市民が電気式の暖房器具を購入した。しかし専門家によると、市民が一斉に電気の暖房器具を使用すれば、電力供給がひっ迫する可能性がある。(中略)

アナリストによると、西側諸国との対立を激化させているロシアがウクライナ経由の天然ガス輸送を停止した場合、ウクライナは天然ガスパイプラインの圧力を維持し、全地域にガスを供給するのが困難になる恐れがある。(後略)【10月9日 ロイター】
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ウクライナほどではないにせよ、欧州各国も対ロシア制裁及びその影響でガス・電力確保に大きな不安を抱えた「冬」となります。市民生活が厳しくなった場合、どこまでウクライナ支援で結束できるか・・・という問題もあります。

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ブラジル大統領選挙  事前予想に反して「ブラジルのトランプ」現職ボルソナロ大統“善戦”

2022-10-08 22:58:59 | ラテンアメリカ
(現職のボルソナーロ大統領(左)とルラ元大統領。両候補が決選投票に進んだ【10月3日 CNN】)

【“ルラ氏圧勝”予想に反して現職ボルソナロ大統“善戦” 決選投票に】
10月2日に行われたブラジル大統領選挙は、事実上、ルラ元大統領と現職ボルソナロ大統領の一騎打ちの様相になりましたが、(ルラ氏当選が既定事実のように語られていたにもかかわらず)周知のようにルラ元大統領(労働者党)48.4%、ボウソナロ大統領(自由党)43.2%と、ルラ氏がリードはしたものの過半数にはとどかず、30日に決選投票が行われることになっています。

国民的人気が非常に高いとされてきた左派ルラ氏は2003~2010年まで2期連続当選した元大統領で、汚職で逮捕されていましたが無罪が確定し出馬可能となりました。

極右のボウソナロ氏は経済優先、思ったことをはっきり言う姿が支持者には人気ですが、性的マイノリティや少数民族に関する差別主義的な発言も多く、人権軽視、新型コロナ対応にも消極的、アマゾン森林保護や気候変動にも後ろ向き・・・といったことで、“ブラジルのトランプ”とも呼ばれています。

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両者の政策をまとめると
ルーラ:社会保障重視、中絶合法化、南米諸国やBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国)との連携の再強化、国営企業の民営化反対。

ボウソナロ:国営企業の民営化、減税、中絶合法化反対、今の財務大臣をそのまま起用。先進国との関係を強める。
大きく異なるのは中絶の合法化と国営企業の民営化である。【10月7日 島田愛加氏 Newsweek】
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直前の世論調査では、ルラ氏の支持率はボルソナロ氏に10ポイント以上の差をつけ、1回目の投票で決まるとの見通しも出ていましたので、“以外にも”ボルソナロ大統領が“善戦”した形となっています。

アメリカの“本家”トランプ前大統領も世論調査を上回る結果を出しており、改めて「世論調査の失敗」問題が表面化しています。

****ブラジル大統領選の各種世論調査、ルラ氏大勝との見誤りに波紋拡大****
2日のブラジル大統領選は複数の世論調査の事前予想を裏切って右派の現職ボルソナロ大統領が善戦し、第1回投票での左派ルラ元大統領勝利とはならず、両者の対決は30日の決選投票に持ち越されることになった。

2016年米大統領選や同年の英国の欧州連合(EU)離脱を問う国民投票で保守派の強さを見誤った世論調査の「失敗」が再び繰り返された形だ。

事前の各種世論調査では、ルラ氏は7ポイントから最大17ポイントのリードと予想されていたが、蓋を開けると差は5ポイントの接戦だった。

世論調査会社アトラスインテルの責任者アンドレイ・ロマーニ氏は3日、ツイッターで、謝罪が必要だと表明。同社が9ポイント差を予想していたことに言及し、「われわれはこの食い違いに真摯に向き合わなければならない」とした。

17ポイント差と予想していた世論調査IPECは、この予想数字は決選投票に進む可能性はほとんどないことを示していたと認め、最後の最後に他の見込み薄の候補者からボルソナロ氏に乗り換える動きが出たと分析。世論調査の手法を分析し直しているとした。

政治分析のダルマ・ポリティカル・リスクの責任者、コレオマール・デソウザ氏によると、ボルソナロ氏は女性や少数派向けの発言で批判されることの多い右翼の人物で、支持者の多くは物議を醸すそうした人物を支持していることを世論調査に明かしたがらない。トランプ前米大統領が勝利した16年米大統領選にもあてはまった現象だ。

デソウザ氏はブラジル特有の事情も指摘する。コロナ禍の影響で同国では2010年を最後に国勢調査が実施されておらず、世論調査会社の母集団無作為層化抽出がやりにくかったという。移民の多いブラジル社会の変化は早く、例えば右寄りの福音派キリスト教徒の票は急激に伸長している。

今回の選挙直前の数週間で一部の世論調査がルラ氏のリード拡大と1回目投票での当選確定を示す結果になったことで、保守派有権者がびっくりし、他のより中道な候補者の支持をやめてボルソナロ氏支持に回った可能性もある。ルラ氏はこうした展開を警戒し、あえて直前の世論調査結果にコメントするのを避けてきたが、その甲斐はなかったようだ。

政治アナリストらによれば、ブラジルの保守派が、これはブラジル以外でも言えることだが、単純に世論調査会社を信頼していないようにみえることもある。

保守派が回答に応じないことで調査結果が保守派支持の候補者の強さを過小評価し、これが保守派有権者の世論調査への不信をさらに強めるという悪循環になっている可能性がある。

特にボルソナロ氏は4年間の任期中のほとんどで主要世論調査機関叩きを続けてきた。同氏の最側近も2日、支持者らに対し、決選投票までの期間の世論調査には一切応じず、調査結果も無視するよう呼びかけた。ツイッターで「世論調査会社は今回、不祥事をやらかした。犯罪的な誤りだ。一体何が起きたのか明らかにするには大がかりな捜査が必要だ」とたきつけた。【10月4日 ロイター】
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”支持者の多くは物議を醸すそうした人物を支持していることを世論調査に明かしたがらない”・・・そんな口にできないような人物を支持することは「どうなの?」とも言いたくなりますが・・・。

(ことの是非はともかく)自分たちにとって好都合な“本音”と称するものが、本来どうあるべきなのかといった議論を差しおいて優先する、現代の“民主主義”の様相を示しています。

【貧困層に支持される左派ルラ氏 両者バラマキも】
「ルラ氏は貧困層に人気がある傾向がある」とされていますが、実際、今回のルラ氏が票を獲得した地域と貧困層が多い地域はほぼ重なります。

****ブラジル大統領選には歴史や宗教も影響、30日の決戦に向けてヒートアップ****
(中略)ここで、ブラジル国外の人々が知るべきことは、「なぜこの地域に貧困層が多いのか」ということである。

これはブラジルの歴史が関係している。
ポルトガル植民地時代にサトウキビ栽培で栄えた北東部には、ポルトガル人によって多くのアフリカ人が奴隷として連れてこられた。やがてゴールドラッシュで人々が内陸へ流れ、首都はリオデジャネイロに遷都され、北東部はかつての経済的な勢いを失くしてしまう。また、首都から離れた北部の街は未だに開発が進まない地域が多く、約8割の住民が充分な衛生環境(水道水や下水処理の利用など)がない生活を余儀なくされている。

380年以上続いた奴隷制の影響は今も続いている。

ルーラ氏も貧困層の出身で12歳から働き始め、今回の大統領選の候補者で唯一学士号を持っていない。そんなルーラ氏は大統領就任中に新しい大学入試制度を作り、貧困層出身が大学に通えるように努めた。大学進学者は倍増し若者の未来は広がった。ルーラが汚職で逮捕されても熱狂的な支持者が多いのはこういうところにあると感じる。(後略)【10月7日 島田愛加氏 Newsweek】
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一方のボルソナロ大統領も低所得層への切込みを狙っており、両者ともにバラマキ的な様相も。

****ブラジル大統領選、ボルソナロ氏が個人・企業の債務免除打ち出す****
ブラジルのボルソナロ大統領は6日、一部の個人や企業に対する債務免除や、社会保障の財源として配当に課税する計画を打ち出した。30日の大統領選決選投票を前に支持率でルラ元大統領を追い上げており、選挙戦の争点を経済に移した。

ルラ氏もブラジルの消費者のための債務免除プログラムを提案している。

ボルソナロ氏は議会で、12月に期限切れとなる社会福祉関連制度を延長するため、収入40万レアル(7万7000ドル)以上のブラジル人が受け取る配当に課税することで下院議長と合意したと述べた。

同氏とルラ氏はともに、最貧困層に毎月600レアルを支給する制度を来年も継続すると公約しているが、どちらもその財源を明確にしていない。両候補とも財政ルールの変更を視野に入れている。

ボルソナロ氏は、政府系金融機関であるブラジル連邦貯蓄銀行が約400万人の個人と40万社の企業を対象に、債務の最大90%を免除すると説明した。【10月7日 ロイター】
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【ボルソナロ氏の与党・自由党勝利でアマゾン熱帯雨林保護政策は困難に】
今回の選挙は、アマゾン熱帯雨林の急速な破壊に歯止めをかけ、気候変動と自然破壊や野生動物の損失を抑制する重要な機会と国際的に受け止められていましたが、環境保護に消極的なボウソナロ大統領の“善戦”だけでなく、同時に行われた総選挙でもボルソナロ氏の与党・自由党が議席を伸ばし、今後の環境保護政策を困難にしています。

****ボルソナロ氏「健闘」、高まるアマゾン森林破壊の懸念****
ブラジル連邦警察の幹部だったアレクサンドレ・サライバ氏は昨年、アマゾンの森林違法伐採に対する国内最大規模の取締りを主導し、その後に降格された。それならば政治の舞台で国内の熱帯雨林を守りたいと、同氏は連邦議会下院議員選挙に立候補した。

だが、2日に行われた総選挙で議席獲得を目指したサライバ氏と3人の環境保護当局者は、いずれも敗北した。当選した候補の中には、ボルソナロ大統領の政権につながりがあり、環境保護政策を骨抜きにしたとして活動家から批判されている人物も複数いる。(中略)

総数513議席の下院選で最大の勝利を収めたのはボルソナロ氏の与党・自由党(PL)で、99議席を獲得した。ルラ氏の労働党(PT)は68議席だった。

さらに意外だったのは、ボルソナロ氏の自由党が連邦上院で改選27議席中13議席を獲得したことだ。ルラ氏の労働党は9議席にとどまった。

当選者の中には、ボルソナロ政権で副大統領を務めたハミルトン・モウラオ氏のほか、テレーザ・クリスティナ元農相など5人の閣僚が含まれている。

こうした当選者の多くは、アマゾンにおける農業や資源採掘拡大という森林破壊の拡大をもたらしたボルソナロ氏の政策を支持している。(中略)

ボルソナロ政権は、アマゾンをはじめとするブラジル国内の天然林地域における農場や牧場、鉱山の大規模な拡大を認めてきたが、ボルソナロ氏自身は、自らの環境政策について正当化を繰り返している。(中略)

<アマゾンの未来が懸かった決選投票>
とはいえ、政治専門家らは、環境政策を最終的に左右するのは大統領だとしている。大統領には、連邦議会が可決した法案に対する承認あるいは拒否の権限があるからだ。

ルラ氏はマニフェスト(政権公約)で、森林破壊を「ネット・ゼロ」にするという政策を掲げている。2日の投票日前に行われた最後の大統領候補者討論会で、ルラ氏は小規模な違法鉱山を禁止し、新規開拓の代わりに土壌劣化した牧場を農業向けに再生するという公約を打ち出した。

ボルソナロ氏は大統領在職中、先住民居住地域の新規承認を行わないという選挙公約を守った。また、こうした地域における鉱山開発を合法化する法案を提出した。不法占拠された公有地の民有地転換を拡大する法案も支持している。

ボルソナロ氏は再選を目指す中で、「環境保護と、万人のための持続可能で公正な経済成長」とのバランスを取るつもりだと述べている。

環境保護の専門家らは、ルラ氏が当選した場合に提案するであろう環境政策に連邦議会が抵抗する可能性があるとしつつ、大統領経験者であるルラ氏は優れた交渉スキルで知られており、自由党の中でも実利を重んじるメンバーも含め、中道派を味方に引き入れることができるだろうと分析しいる。(中略)

専門家や世論調査はルラ氏が当選する可能性が高いとしているが、サライバ氏は、ボルソナロ氏が勝つ可能性は排除できないとしている。

「恐らくルラ氏が勝つだろうが、絶対に確実とは思えない。議会選で極右の候補が収めた大勝利が、ボルソナロ候補の選挙戦に勢いを与えるだろう」とサライバ氏は言う。

ボルソナロ氏が勝てば、ブラジル領内のアマゾンの終焉につながる、とサライバ氏。「この政権は明らかに森林破壊の共犯者だ」と付け加えた。【10月8日 ロイター】
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今回の大統領選でもアマゾンの今後の行方は注目されているが、国民は環境問題よりも自分により近い問題解決を期待しているように感じる。

これは明日食べるものもままならない家庭が多いという理由だけでなく、日本の22.5倍にあたる広大なブラジルの物理的な問題もあるだろう。

ブラジル南部からアマゾン熱帯地域までは、日本~カンボジア間ほどの距離がある。
アマゾンの問題だけではない。このブラジルの大きさは国民が1つの問題に立ち向かうことの難しさを表している。【10月7日 島田愛加氏 Newsweek】
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【懸念される決選投票後のボルソナロ氏陣営の対応】
今後の決戦投票については“ルーラ氏、ボウソナロ氏共にアンチが多いため、2日の大統領選で獲得している数字は殆ど動かないのではと予想されている”【10月7日 島田愛加氏 Newsweek】という状況で、第1回投票で敗退した3位、4位候補の動向が重要になります。

****ブラジル大統領選、3位候補が決選投票でルラ氏支持表明****
2日のブラジル大統領選第1回投票で3位の得票率だったテベト上院議員は5日、決選投票でルラ元大統領を支持すると表明した。

30日の決選投票で対決するルラ氏と現職のボルソナロ大統領はともに支持拡大に向けて各方面への働きかけを続けており、テベト氏の支持獲得はルラ氏にとって大きな追い風だ。

テベト氏は、ルラ氏がブラジルの民主主義と憲法を守る決意を示しているとの理由から、ボルソナロ氏ではなくルラ氏を応援すると発言した。ただテベト氏の支持者がどこまで呼びかけに応じるかは分からない。

ルラ氏は4日に第1回投票で4位だったゴメス元財務相とゴメス氏が率いる民主労働党の支持も取り付けた。

第1回投票の得票率はテベト氏とゴメス氏の合計が7%、ルラ氏は勝利確定の過半数をわずかに届かない48.4%。ボルソナロ氏は43.2%だったが、事前の各種調査で示された支持率を大きく上回り、陣営内では期待が広がっている。【10月6日 ロイター】
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単純な足し算では、ルラ氏の勝利ということになりますが・・・“支持者がどこまで呼びかけに応じるかは分からない”ということもありますし、ルラ氏圧勝の予想で投票所に行かなかった有権者の行動も影響します。

仮に、ルラ氏勝利の結果になった場合、ボルソナロ氏陣営がどう出るのかも懸念されています。

****敗北しても“トランプ流”??****
では、仮にボルソナロ氏が敗北した場合、ボルソナロ氏陣営はどう出るのか。

ボルソナロ氏はメディアに対し、「結果を受け入れる」と発言しているが、その言葉を鵜呑みにすることはできないとの見方が多い。ブラジルで導入されている「電子投票」について、選挙戦が始まってから突然、「改ざんされる可能性がある」と一方的に主張をしたからだ。

これは、2020年の大統領選で郵便投票が「集計に不正がある」と主張し、今も「選挙が盗まれた」と訴えるトランプ氏の主張と似ている。

ボルソナロ氏の対応次第では、熱狂的な支持者が大規模デモに出る可能性は十分にある。筆者が取材した支援者はいずれも「現時点でルラ氏優勢と伝える世論調査も、メディアによるフェイクニュースだ」と話しているほどだ。この点も、トランプ氏のそれと酷似している。

さらに、実業家数名が作ったSNSでは、ボルソナロ氏が負けた場合、クーデターを指示するようなやりとりがあったことから、何かの動きがあるのではと危惧する向きもある。

「選挙は不正だ」と主張するトランプ氏支持者たちによるワシントンDCでの議会襲撃事件は、人命が失われただけでなく、民主主義の根本の否定にほかならず、個人的にショックを受けた。政策や発言がトランプ流だったとしても、あの事件の再現だけは、ブラジルで起きないことを願うばかりだ。【10月1日 FNNプライムオンライン】
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上記はルラ氏圧勝予想時点の話ですが、もし僅差の勝負となると・・・・
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新疆ウイグル自治区の人権問題をめぐる欧米vs.中国 国連人権理事会での討論開催は否決 中国に「成果」

2022-10-07 22:58:33 | 中国
(国連人権理はウイグル自治区での人権侵害を討議するよう求める提案を否決した【10月7日 日経】)

【国連人権高等弁務官事務所の報告書 「人道に対する罪の可能性」指摘】
欧米の人権侵害批判で米中対立の舞台ともなっている中国・新疆ウイグル自治区。
その自治区を今年5月に訪問したバチェレ国連人権高等弁務官については、中国のプロパガンダに利用されていると欧米では非常に評判がよくありませんでした。

****「中国は人権基準を満たしている」──プロパガンダに加担した「人権の守護者」****
<元チリ大統領で、国連人権高等弁務官のミシェル・バチェレ。中国・新疆ウイグル自治区を訪れ、習近平の喜ぶ発言だけを残して、8月末での退任を表明。なぜ最後に汚点を残したのか?>
(中略)

まるで習政権の広告塔
バチェレが訪中最終日に行った記者会見は驚くべきものだった。彼女は「反テロリズム」や「脱過激化」など中国政府が使う表現をそのまま口にし、「多国間主義」のために中国が担う役割をたたえ、貧困撲滅策の成果を大げさに述べた。彼女は中国の習近平(シー・チンピン)国家主席に操られる「役に立つ愚か者」になっていた。

記者会見で彼女は、中国の医療の国民皆保険や「ほぼ皆保険」である失業保険、男女平等の推進策を持ち上げた。だが蔓延する性暴力、強制される不妊手術や人工妊娠中絶、人身売買に拷問、そしてジェノサイド疑惑などには一切触れなかった。奴隷労働の横行についても何も言わず、それどころか強制労働を続けている中国企業を「人権基準を満たしている」と称賛した。

最も奇妙だったのは、中国で「市民社会の各団体、学者、地域社会や宗教界の指導者」と会ったという発言だ。誰のことを指しているのか。中国の市民団体は大半が閉鎖され、大半の学者が黙らされ、地域社会や宗教界の指導者は多数が獄中にいるというのに。(後略)【6月20日 Newsweek】
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しかしながら、彼女が退任時に置き土産のように発表した報告書(中国の圧力で公表が遅れていると懸念されていました)は、少数民族ウイグル族に対する中国の「人道に対する罪の可能性」を指摘する“まっとう”なものでした。

****「人道に対する罪の可能性」指摘に中国反発 国連ウイグル報告書****
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は8月31日、中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区の人権状況をまとめた報告書を発表した。

報告書は同自治区で少数民族ウイグル族らが拘束されている問題について「人道に対する罪に相当する可能性がある」と指摘。「深刻な人権侵害が行われている」と断定し、拘束されたウイグル族らの速やかな解放などを中国政府に勧告した
バチェレ国連人権高等弁務官は同日、任期満了に伴い退任。新疆の人権問題を否定する中国政府の圧力を受け、報告書の公表が遅れていると懸念されていたが、退任直前に発表した。

報告書は、多数のウイグル族らを収容した同自治区の「職業技能教育訓練センター」について、「(収容経験者への調査の結果)自由に退所できたり、一時帰宅できた人は一人もいなかった」と指摘した。ウイグル族らは「恣意(しい)的かつ差別的に拘束されている」とした上で、同センターへの収容は「自由の剝奪だ」と批判。「人道に対する罪に相当する可能性がある」との見解を示した。

また、ウイグル族らが同自治区で拷問や性的暴行などを受けたと訴えている疑惑について「信憑(しんぴょう)性がある」と評価した。

報告書は中国政府に対し、同自治区での拷問などの人権侵害の疑惑を速やかに調査するよう勧告。恣意的に拘束された全ての人の解放や行方不明者の所在確認、ウイグル族らに対する差別的な政策や法律の撤廃も求めた。

一方、英紙ガーディアンなどによると、報告書はウイグル族への人権侵害は認めたが「ジェノサイド(集団殺害)」と認定しなかった。米国はウイグル自治区での人権侵害の問題を「ジェノサイド」とみなしている。

中国側は報告書について「中国をいたずらに中傷し、中国の内政に干渉している」と反発した。

バチェレ氏は今年5月23〜28日に訪中し、滞在中に新疆の刑務所や職業技能教育訓練センターだった施設を視察した。国連の人権高等弁務官が中国を訪問するのは2005年以来で、退任前に報告書を発表する方針を示していた。

ロイター通信によると、中国政府はジュネーブにある各国の代表部に6月終わりごろから書簡を送付し、報告書の公表について「重大な懸念」を表明。公表すれば「人権分野において(問題の)政治化と陣営間の対立を激しくさせ、国連人権高等弁務官事務所の信頼を傷つける」と主張した。

バチェレ氏は8月25日、約40カ国から公表に反対する書簡を受け取ったと発言。中国などから送付されたとみられる。【9月1日 産経】
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国連のグテレス事務総長の報道官は報告書で示された勧告を「中国政府が受け入れるよう事務総長は強く望んでいる」と。立場上、当然でしょう。

アメリカは報告書を歓迎。ブリンケン国務長官は、報告書について「中国当局によって現在も行われているジェノサイドや人道に対する罪について我々の重大な懸念を再確認し、深めるものだ」と指摘し、「我々はパートナー国や国際社会と緊密に連携し、多くの被害者らに対する正義や説明責任を追及し続ける」と強調、報告書を梃にして中国批判を強める構えを見せていました。

一方の中国は激しく反発。
****国連報告書は「不法で無効」=新疆めぐる勧告拒絶―中国外務省****
中国外務省の汪文斌副報道局長は1日の記者会見で、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が公表した新疆ウイグル自治区の人権問題に関する報告書について「米国と西側勢力が画策してでっち上げたもので、完全に不法で無効だ」と主張した。その上で、国連が勧告した疑惑の調査などに関し「虚偽情報に基づいており、中国側が拒絶するのは当然だ」と反発した。【9月1日 時事】
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【欧米は国連人権理事会での討議要求】
争いは国連人権理事会の場に。国連中国は同調する20か国と報告書を批判する共同声明を発表。

****中国、国連の新疆報告書に「共同声明」で対抗 約20か国が同調****
中国は13日に開かれた国連人権理事会の会合で、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が発表した新疆ウイグル自治区に関する報告書を批判する声明を読み上げた。中国の立場に同調する約20カ国との共同声明としたが、事前に予想されていたほど支持は広がらなかった。(中略)

外交筋によると、民主主義国家は中国への対応として、国連人権理の会期中に調査メカニズム設置の可能性を含む歴史的な動議を検討している。米、カナダ、欧州連合(EU)などは13日の会合で新疆の人権問題に懸念を表明した。

一方、中国の陳旭・駐ジュネーブ国際機関代表部大使は、報告書は虚偽情報に基づく「中傷」と反発。

OHCHRが「人権理事会の許可も当該国の同意もなく」新疆に関する報告書を発表したことを「深く懸念している」との共同声明を読み上げた。関係者によると、これまでにエジプトやパキスタンを含む21カ国が声明に署名した。

しかし、ロイターの集計によると、中国に同調した国のうち、現在47カ国からなる人権理で投票権を持つのは7カ国のみ。人権理で決議を可決するには過半数の支持が必要となる。【9月14日 ロイター】
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対する欧米側は、国連人権理事会で中国ウイグル問題の討議を求めました。

****国連人権理事会で中国ウイグル問題討議を 米英など西側諸国が要求****
 国連人権理事会(本部ジュネーブ)で中国による新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒少数民族への扱いを討議するよう英米などが要求している。ロイターが確認した草案文書や外交関係者らの話で26日に分かった。

外交筋によると、草案文書はこれまでのところ、米英のほかカナダ、スウェーデン、デンマーク、アイスランド、ノルウェーに支持されている。来年2月に始まる次期討議で取り上げるよう求める内容だ。

実現するには47理事国の過半数の賛成が必要になる。実現すれば2006年に発足した国連人権理事会の歴史上、安全保障理事会の常任理事国である中国が初めて、こうした討議の対象となることになる。(中略)

中国は提案を退けることを求める可能性がある。中国は多くの発展途上国と経済的な深いつながりがあり、そうした国々を味方に付けようと努力。

47理事国もウイグル族の扱いについての対中非難を巡っては態度が割れている。討議が実現しても直ちにはウイグル族問題への調査を求めるような決議には至らない。ただこうした決議は今後に提起される可能性もある。(後略)【9月27日 ロイター】
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【討論開催要求否決 中国に「成果」】
この綱引きは、“中国の人権侵害の疑いに関する討論の開催を否決”ということで、中国が凌ぎきったようです。

****新疆めぐる討論開催否決 中国が反対働き掛け****
国連人権理事会は6日、中国・新疆ウイグル自治区での人権侵害の疑いに関する討論の開催を否決した。開催を求めていた西側諸国にとっては大きな後退となった。

同自治区の人権問題をめぐっては先月、国連のミチェル・バチェレ前人権高等弁務官が長らく待たれていた報告書を発表し、ウイグル人らイスラム系少数民族への人道に対する罪があった可能性を指摘。米国とその同盟国はこれを受け、新疆に関する討論を求める草案文書を国連人権理事会に提出した。中国を対象とした討論の提案は史上初だった。

だが中国政府の積極的な働き掛けにより、スイス・ジュネーブで行われた投票では47理事国のうち17か国が賛成、19か国が反対、11か国が棄権し、討論開催は否決された。

反対票を投じたのは、ボリビア、カメルーン、中国、キューバ、エリトリア、ガボン、インドネシア、コートジボワール、カザフスタン、モーリタニア、ナミビア、ネパール、パキスタン、カタール、セネガル、スーダン、アラブ首長国連邦、ウズベキスタン、ベネズエラ。

棄権したのは、アルゼンチン、アルメニア、ベナン、ブラジル、ガンビア、インド、リビア、マラウイ、マレーシア、メキシコ、ウクライナだった。

ある西側の外交官は、結果がどうであれ、新疆に焦点を当てるという「第一の目的は達成された」と強調した。 【10月7日 AFP】
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「第一の目的は達成された」云々は強がりでしょう。
中国は今後、この「成果」を活用していくものと思われます。

****中国、「米国などのたくらみは失敗」 ウイグル人権討論提案の否決で****
中国外務省は6日夜、国連人権理事会で新疆(しんきょう)ウイグル自治区での人権侵害をめぐる討論の開催を求めた米国などの提案が否決されたことを受け、「幅広い発展途上国の激しい反対を受け、米国など西側諸国のたくらみは再び失敗した」とする報道官談話を発表した。

中国は今後、新疆問題を巡る自国の正当性を主張する材料として提案否決を活用していくとみられる。

談話は、米国などの提案について「国連の人権機関を利用し、中国の内政に干渉しようと企てた」と批判。新疆問題について「人権問題ではなく、反暴力テロ、脱過激化、反分裂の問題だ」と主張した。

米国など西側諸国に対し、「新疆問題を口実にデマを繰り返し飛ばして紛糾を起こしている」と非難。その上で、米国や英国などで人種差別や移民の権利侵害、銃暴力の頻発といった人権侵害が起きていると主張し、「人権理事会は重大な関心を払い、討議すべきだ」と求めた。【10月7日 産経】
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この結果は、中国の欧米以外の国々への影響力の大きさを示すものともなりましたが、そこに至るまでには中国の強い働きかけが存在したようです。

****ウイグル人権侵害の討議否決、インドネシアの沈黙なぜ? 中国が懐柔か****
国連人権理事会で新疆(しんきょう)ウイグル自治区での人権侵害をめぐる討論の提案をめぐり、世界最大のイスラム教徒の人口を抱えるインドネシアが反対に回った。インドネシアはこれまでもウイグル問題で沈黙を保つ。政界に影響力を持つイスラム教団体への中国の懐柔工作が奏功しているとされる。

インドネシアは中国と経済面での結びつきが強く、中国支援による高速鉄道建設も進む。20カ国・地域(G20)議長国として11月にバリ島で首脳会議が開催され、中国の習近平国家主席が出席する予定だ。会議の円滑な進行のためにも大国である中国の不興を買いたくないとの計算も働く。

米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ、電子版)は2019年の記事で、中国が援助を通じて「イスラム教国からのウイグル問題に対する批判を鈍らせている」と言及。特にインドネシアが工作の「最前線にいる」と指摘した。

WSJが注目したのはイスラム教団体に関連した事例だ。インドネシアで2番目の規模を持つイスラム教団体「ムハマディヤ」は18年、ウイグル人への暴力を問題視し、中国に説明を求める公開書簡を発表した。

中国はその後、宗教関係者を〝説得〟するキャンペーンに力を入れた。指導者や学者を対象とした新疆ウイグル自治区への現地ツアーを行った。また、各団体が実施する慈善事業を支援し、中国留学のために団体メンバーに奨学金の提供もしている。

一連の工作を通じ、各団体の批判のトーンは和らいだという。インドネシア・イスラム大のラクマット助教授(国際関係)は「イスラム教組織の無批判な姿勢が、インドネシアがウイグル問題で沈黙している大きな理由の1つだ」と指摘している。【10月7日 産経】
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【欧米とは異なる「グローバルサウス」の声 そこへの中国の影響力】
更に、ウイグル族問題に限らず、より大きな流れで総合的俯瞰的に見ると、国連や国際社会における「グローバルサウス(南半球を中心とした途上国)」の存在感、そこへの中国の影響力がうかがえます。

****国連総会陰の主役は「グローバルサウス」*****
今年の国連総会一般討論演説の〝陰の主役〟は「グローバルサウス(南半球を中心とした途上国)」だった。ロシアのウクライナ侵攻をめぐり、インフレなどで厭戦気分が広がる途上国の支持を得ようと、米露が競う構図が読み取れた。

英女王の国葬出席のため大統領のニューヨーク入りが遅れた米国は、慣例で確保する「初日の2番目」という脚光を浴びる演説枠をアフリカ連合議長国のセネガルに譲った。露外相は演説で「アフリカやアジア、中南米の声を反映させる」と安保理拡大を訴えた。

興味深いと思うのは、米露から秋波を送られた国の多くが侵攻の是非に立ち入らず、交渉による和平だけを訴えたことだ。米中対立の狭間に揺れる東南アジア諸国の一部が等距離外交を展開し、自国の利益の最大化を図る姿と似ている。

グローバルサウスは、1964年に発足した国連内の途上国グループ「G77プラス中国」を指すことが多い。134カ国に増え、今や国連加盟193カ国の約7割を占める一大勢力だ。

ここから台頭した中国とインドは外相演説で、自国の途上国支援の実績をアピール。ウクライナでの早期和平の実現を訴え、途上国と足並みがそろった。途上国の支持を得て、中印の重みが増していく−。そんな展開が今後の国連外交でみられるのかもしれない。【10月7日 産経】
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中国に関しても、ウクライナ・ロシアに関しても、日本の場合、欧米サイドの情報が入りやすい状況にありますが、世界は必ずしも欧米だけではない、欧米とは異なる声もある・・・ということには留意する必要があります。
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OPECプラス  石油の大幅減産決定 EUの対ロシア制裁は結束を維持できるか?

2022-10-06 23:33:19 | 欧州情勢
(最近のWTI原油先物価格の推移  現在は1バレル=88ドル水準)

【EUはロシア産石油の価格上限設置で合意 ロシアは反発】
ウクライナをめぐる戦いは、ウクライナ現地における戦闘以外に、ウクライナを支援する欧米とロシアの間でも石油・ガスのエネルギーを含む経済取引の場でも戦われています。

欧米側は輸出入における対ロシア制裁、特にロシア産エネルギーの購入を減少させることでロシア財政に打撃を与え、ロシアの戦争遂行能力を削ごうとしていますが、そのことは特に欧州のエネルギー確保を困難にし、どこまでそうした対応で欧州が結束できるか危ぶむ声もあります。

ロシアとしても、そうした欧州の脆弱性につけこむ形で揺さぶりをかけ、欧州の結束したウクライナ支援にひびを入れようと狙っています。

日米欧の主要7カ国(G7)は9月、対ロシア制裁として、ロシア産石油の取引価格に上限を設定することで合意していますが、ロシアの東南部4州の併合を受けて、EUはロシア産石油の取引価格に上限を設定することを柱とする対ロシア追加制裁案に合意し、価格上限の実施に向けて動いています。

****EU、ロシア産石油の価格上限設置に合意 追加制裁近く発動****
欧州連合(EU)は5日、大使級会合を開き、ロシア産石油の取引価格に上限を設定することを柱とする対露追加制裁案に合意した。ロシアがウクライナ東・南部4州を一方的に「併合」したことなどを受けた措置。

EU議長国のチェコによると、価格上限を超えた露産石油について海上輸送を禁止する。鉄鋼製品や木材パルプのEU域内への輸入禁止や、ITや法的なサービスの輸出制限も盛りこまれた。追加制裁は近く官報に掲載し、発動する。(後略)【10月5日 毎日】
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ロシアはG7合意の時点から、プーチン大統領が「我々の利益に反するなら、ガスも石油も石炭も供給しない」と威嚇しています。

****プーチン大統領、対ロシア制裁のG7威嚇「ガスも石油も石炭も供給しない」****
穀物輸出先制限も示唆
ロシアのプーチン大統領は7日、先進7か国(G7)が対露制裁として、露産石油の取引価格に上限を設定した場合、「我々の利益に反するなら、ガスも石油も石炭も供給しない」と反発した。

輸出が再開されたウクライナ産穀物は「ほとんどが貧しい途上国ではなく、欧州連合(EU)諸国に運ばれている」とし、仲介したトルコのタイップ・エルドアン大統領と輸送先の制限を協議する考えを示した。(後略)【9月8日 読売】
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今回のEU合意についても、「減産」の可能性を表明し、影響が全世界に及ぶことを示しています。

****ロシア、価格上限導入なら石油減産の可能性=副首相****
ロシアのノバク副首相は5日、主要7カ国(G7)が合意したロシア産石油への価格上限設定を巡り、その影響を相殺するためロシアが原油生産を削減する可能性があると述べた。

G7が合意した価格上限計画は、参加国が原油と石油製品の価格上限を超える価格の石油貨物に対し、保険、金融、仲介、運行などのサービスを拒否することを求めている。

ノバク氏はこれに対し「全ての市場メカニズムに反していると考えている。世界の石油産業にとって非常に有害だ。我々は(意図的に)減産する用意がある」と述べた。【10月6日 ロイター】
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【OPECプラスの大幅減産で石油価格上昇】
「減産」ということでは、ロシアの思惑だけでなく、景気後退で石油需要が減退する恐れがあるという産油国全体の懸念から、ロシアを含むOPECプラスは日量200万バレル減産することで合意しています。

****OPECプラス日量200万バレル減産で合意 世界需要の2%相当  原油価格引き上げにつながる可能性***
世界の有力な産油国で構成される「OPECプラス」は、11月から日量200万バレル減産することで合意しました。

OPEC=石油輸出国機構やロシアなどで構成される「OPECプラス」は5日、閣僚級会合を行い、11月以降の原油生産量について、一日あたり200万バレル減産することで合意しました。世界需要の2%に相当する減産で、9月に決めた日量10万バレルの減産量を大きく上回ります。

世界経済の減速が懸念されるなか、原油価格を下支えするためとみられますが、需給が引き締められることで、ガソリンなどのエネルギー価格が再び上昇する可能性が出てきています。【10月6日 TBS NEWS DIG】
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この決定を受けて原油市場は値上がりしています。

****原油先物3週間ぶり高値、大幅減産受け****
5日の取引で、原油先物が3週間ぶり高値を更新。石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟産油国で構成する「OPECプラス」が、11月から日量200万バレルの減産を実施する方針で合意したことに反応した。

減産幅は世界需要の2%に相当し、2020年の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)以来、最も大幅なものとなる。米国は大幅な減産を行わないよう働きかけていた。

米週間石油統計で原油やガソリン在庫が減少したことも材料視された。(後略)【10月6日 ロイター】
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【バイデン大統領はOPECプラスの「短絡的」な決定に「失望」表明】
大幅な減産を行わないよう働きかけていたアメリカ・バイデン大統領は、OPECプラスの今回の大幅減産の決定に「短絡的」な決定という認識を示し、失望を表明しています。

****バイデン氏、OPECプラスの「短絡的な」減産決定に失望=米政権****
バイデン米大統領は5日、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟産油国で構成する「OPECプラス」が日量200万バレル減産で合意したことについて、「短絡的」な決定という認識を示したと、ホワイトハウスが明らかにした。

OPECプラスは5日の閣僚級会合で、11月から日量200万バレルの減産を実施することで合意した。減産幅は2020年の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)以来最大。米国は大幅な減産を行わないよう働きかけていた。

ホワイトハウスは声明で「世界経済が(ロシアの)プーチン大統領によるウクライナ侵攻に伴う悪影響に対処する中、バイデン大統領はOPECプラスの短絡的な決定に失望している」とした。

バイデン大統領は米エネルギー生産を促進し、OPECのエネルギー価格への支配力を低減させる方策を模索するよう政権や議会に要請した。また、サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)によると、必要に応じ戦略石油備蓄(SPR)からの放出を引き続き指示する考えという。

ホワイトハウスのジャンピエール報道官は、OPECプラスがロシアと足並みをそろえているのは明白とし、減産決定は「誤り」という認識を示した。

ブリンケン米国務長官はOPECプラスの減産決定について、米政府はこれまでOPECを含む産油国に対し、「需要に応じたエネルギー供給が必要であると明確にしてきた」と強調した。

OPEC加盟国で米国の同盟国でもあるサウジアラビアの動きに失望したかという質問に対しては、サウジに関し米政府は「多様な利益を有している」と応じ、減産に合意したことについては直接触れなかった。

米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は、米国がOPECプラスなどへの依存度を低下させる必要があると強調した。【10月6日 ロイター】
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【石油価格上昇でEUは対ロシア制裁の結束を維持できるか?】
OPECプラスの今回の大幅減産で石油価格が上昇することになると、ロシア産石油の輸入を止めた国々は今後さらに燃料不足と価格高騰に苦しむことになり、EUの対ロシア制裁は今まで以上に結束が困難になることが予想されます。

****OPECプラスの大幅減産でEUの対ロ制裁にヒビ?****
<原油価格のさらなる高騰が予想される中、「背に腹は変えられない」と対ロ制裁の緩和に踏み切る国が出てくる可能性も>

OPEC(石油輸出国機構)とロシアなど主要産油国で構成するOPECプラスは10月5日、11月から日量200万バレルの大幅減産を実施する方針を決定した。これによりエネルギー価格の上昇は避けられず、冬を控えて燃料不足に耐えきれなくなったEUの一部加盟国がロシアのウラジーミル・プーチン大統領の狙いどおり、対ロ制裁の緩和に踏み切りかねない状況となった。

EUは3月末にウクライナへの軍事侵攻に対する追加制裁としてロシア産原油の輸入を禁止する方針を発表したが、一部加盟国の反発で協議は難航し、全面的な禁輸には至らなかった。

EUの苦境を見かねた米政府はサウジアラビアに原油増産の継続を働きかけてきたが、その甲斐もなく、OPECプラスは世界的な景気の冷え込みを理由に大規模減産で合意。

ロシア産原油の輸入を止めた国々は今後さらに燃料不足と価格高騰に苦しむことになりそうだ。エネルギーをはじめ物価の上昇が続けば、国内の政治的な軋轢が高まり、対ロ制裁の継続は困難になる。

対ロ制裁では「EUは必ずしも一枚岩ではない」と、ボストン大学のイゴール・ルークス教授(専門は歴史と国際関係)は本誌に語った。

ロシア寄りのハンガリー
ルークスによれば、多くのEU加盟国は石油禁輸でロシアの外貨収入は途絶え、戦費が底を突くとみて追加制裁を支持した。それらの国々は燃料価格の上昇に歯を食いしばって耐え制裁を続けるだろう。

一方、同じEU加盟国でもロシアと関係が深い国々はロシア産石油への依存度も高く、元々EUの対ロ制裁に非協力的だった。ウクライナへの軍事侵攻に対する非難にも温度差があり、一部の加盟国の指導者はプーチンを擁護するような姿勢も見せてきた。

「同じ旧ソ連圏でもバルト3国などは反プーチンの姿勢が鮮明だが、ハンガリーなどは元々プーチンの懐に取り込まれている」と、ルークスは言う。

ハンガリーのオルバン・ビクトル首相はロシアのウクライナ侵攻に抗議し、即時停戦を呼びかけもしたが、対ロ制裁には参加していない。ハンガリーはロシア産の石油・天然ガスに大きく依存しており、ABCニュースの報道によれば、EUのロシア産石油の全面禁輸は「わが国の安定的なエネルギー供給を破壊し」、自国経済を壊滅させると主張して、最後まで反対し続けた。

エネルギー価格の高騰対策として、EUからより手厚い支援を引き出すために対ロ制裁の緩和をちらつかせる加盟国もあるだろうと、専門家は指摘する。EUが値上がり分を補填する補助金を出してくれるなら制裁を続けるが、補助金なしにはこれ以上耐えられないと脅しをかけるというのだ。

ドイツは燃料価格の高騰による消費者の負担を軽減するため補助金を出しているが、全てのEU加盟国がそうした措置を取れるわけではないと、ニューハンプシャー大学で政治学の助教を務めるエリザベス・カーターは言う。財政に余裕がない国々はEUからの補助金頼みだ。

「EUがエネルギー価格の抑制とインフレ抑制のために、コロナ禍対応で実施したような緊急融資の枠組みを設ける可能性もあるが、すぐにまとまるとは思えない」

こうした枠組み作りでは、EUの協議は毎回難航するからだ。とはいえ欧州委員会のウルズラ・フォンデアライアン委員長はエネルギー価格高騰の影響を軽減するためロシアから輸入うする天然ガスに上限価格を設定する考えで、近くEU各国首脳と協議することになっている。

ロイターの報道によれば、大半の加盟国は上限設定を支持しているが、ドイツ、デンマーク、オランダは供給不足になる事態を警戒しているという。

危機の早期終結もあり得る
ドイツがロシアのエネルギー資源に大きく依存していること、そしてハンガリーがロシアと親密な関係を保ってきたこと。この2つの要因が、対ロ制裁におけるEUの足並みの乱れを招いてきたと、アメリカン大学のビル・デービーズ准教授は指摘する。

OPECプラスの減産でEU内の亀裂がさらに広がる可能性がある。「供給が減れば、加盟国同士の軋轢が一段と高まるだろう」

OPECプラスの主要メンバーであるロシアはサウジアラビアと共に大幅減産に同意した。今回の決定は、ウクライナで苦戦するプーチンの劣勢挽回のための戦略ともみられている。「欧州経済に打撃を与え、EUの結束に揺さぶりをかける狙いがある」と、カーターは言う。

プーチンの思惑どおり、EUに混乱が広がるとの憶測が飛び交う一方、 デービーズはこれを奇貨としてNATOの結束が固まる可能性もあるとみている。そうなれば、短期的にはガソリン価格の高騰で世論の不満が高まるにせよ、長期的に見ればアメリカにとってはプラスになる。「EU各国がこれまで以上にアメリカの石油備蓄に頼るようになれば、NATOの結束が強化されるだろう」

「さらに楽観的な見方もできる」と、デービーズは言う。「ウクライナの反転攻勢でロシアが追い込まれている現状を見ると、これまで予想されていたほど戦争が長期化せず、危機が早期に終結する可能性もある」【10月6日 Newsweek】
*******************

今回のOPECプラスの減産で“NATOの結束が固まる可能性”というのは、あまりありそうにない感じも。アメリカの石油備蓄も限りがあります。

おそらくは補助金を含めたEU内部での駆け引き・議論が強まるのでしょう。結束を維持できるかはわかりませんが。

【長期的にはOPECプラスにとっても危険な決定】
ただ、OPECプラスにとっても、減産による価格操作は長期的には需要国の外国産化石燃料からの脱却を促進し、ひいては産油国の首を締めあげる事態にもなりかねません。

****OPECプラスの瀬戸際戦略、裏目に出るかも****
問題は減産を欧米諸国がどう解釈するかだ

このエネルギー戦争の勝者は誰か? おそらく勝者などいない。
石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟主要産油国で構成する「OPECプラス」は5日、日量200万バレルの協調減産に合意した。事前に漏れ聞こえていた減産幅を上回る水準だ。(中略)OPECプラスが減産を発表するとの観測から、原油価格は3日以降上昇していた。5日のブレント原油価格は1.6%上昇し、1バレル=93.32ドルとなった。

今回の決定が注目に値するのは、原油価格が過去と比較してもなお高い水準にあるということだけでなく、原油市場が極めて引き締まった状態であり続けているからである。(中略)OPECプラスは需要減退を受けて減産を実施することは多かったが、これほど市場が逼迫(ひっぱく)している中で減産を実施したことはこれまでなかった。

OPECプラスが減産を行う論理的根拠は答える人次第で異なるだろう。
政治的不正行為(ロシアが欧米に打撃を与えるのをOPECプラスが助けている)から、OPECプラス自身が主張する理由(景気後退で石油需要が減退する恐れがあるという無難な懸念を含む)まで、理屈はさまざまだ。

もちろん、需要サイドの不確実性以外にも、供給サイドにはロシアという大きなワイルドカードがある。欧州連合(EU)によるロシア産原油の禁輸措置はちょうど2カ月後に発動される。先進7カ国(G7)が提案するロシア産原油の価格上限措置に対するロシア大統領府の反応は予測困難だ。

より大きな問題はOPECプラスの実際の意図ではなく、欧米諸国がこの動きを侮辱と解釈することだ。(中略)

もちろん、このような形で欧米の怒りを買えば、しっぺ返しを食らう可能性はある。ホワイトハウスは5日、OPECプラスの発表について、外国産化石燃料からの脱却が重要である理由を「再確認させるもの」だとし、クリーンエネルギーへの移行に取り組む構えを改めて示した。

これこそ、OPECプラスが今後綱渡りのようなバランス感覚を迫られる点である。足元での原油収入を最大化すれば、欧米は一刻も早く石油から脱却する方法を探し出すだろう。1973年に起きた原油輸出停止は結果的に、米国での燃費基準改善への大きなきっかけとなった。

短期的に見ればOPECプラスに勝ち目のあるゲームでも、あまりに挑戦的なプレーをすれば、長期的には確実に負けにつながることになる。【10月6日 WSJ】
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カンボジア  特別法廷最後の被告結審 野党弾圧を強めるフン・セン首相 同氏を支える中国

2022-10-05 23:02:39 | 東南アジア
(カンボジア・プノンペンで、特別法廷に出廷した旧ポル・ポト政権元国家幹部会議長、キュー・サムファン被告【9月22日 AFP】)

【カンボジア特別法廷 最後の被告に判決 薄れる悲劇の記憶】
ウクライナ戦争などの新たな出来事によって、過去の多くの紛争・事件などが忘れ去られてしまいがちなこと・・・しばしば私もそうしたことを書いていますが、正直に言えば、カンボジア特別法廷のことはすっかり忘れていました。

カンボジア特別法廷は、1975年から1979年のカンボジアでクメール・ルージュ政権(ポル・ポト政権)によって行われた虐殺等の重大な犯罪について、政権の上級指導者・責任者を裁くことを目的として、2001年に同国裁判所の特別部として設立された裁判所のことです。

クメール・ルージュ政権(ポル・ポト政権)支配下では、“1975年から1979年の間に150万から200万人が犠牲となり、これはカンボジアの1975年当時の人口(約780万人)の約4分の1に相当する”【ウィキペディア】という、類を見ない大量虐殺が繰り広げられました。

単に犠牲者が膨大だっただけでなく、クメール・ルージュ政権(ポル・ポト政権)は中国・毛沢東思想にも影響され、原始共産制を現実のものとし、知識階級・都市住民・私有財産・貨幣経済・家族制度・教育制度などこれまでの社会構造すべてを否定し、都市住民を農村に送り込み、“使い捨て”的に強制労働で死に追いやる、洗脳された子供が親を密告するなど・・・その統治の実態も奇異で、外部からはうかがい知れぬものもありました。

そうした「暗黒の歴史」の実態・責任を明らかにすべく設置されたカンボジア特別法廷ではありましたが、同時代を生き抜いたフン・セン首相もクメール・ルージュとの接点があったこともあってか、あまり同法廷には積極的ではなく、審議も滞りがちでした。

同法廷では、カン・ケク・イウ(政治犯収容所所長)、ヌオン・チア(死亡したポル・ポトに次ぐ政権ナンバー2)、キュー・サムファン(国家元首にあたる国家幹部会議長)、イエン・サリ(副首相、外相を歴任し序列は第3位)、イエン・シリト(イエン・サリの妻で、政権に影響力を行使)の計5名の裁判が行われました。

しかし長期化する裁判の過程で、裁判中あるいは服役中あるいは認知症治療中に死亡する者が相次ぎ、現在生存しているのはキュー・サムファン被告(91)だけとなっていました。

****ポル・ポト派最後の幹部に終身刑 真相解明には遠く****
カンボジアの旧ポル・ポト政権による人道に対する犯罪を裁く特別法廷2審(上級審)は22日、大量虐殺などの罪に問われた元国家幹部会議長、キュー・サムファン被告(91)に終身刑を言い渡した。1審判決を支持した。

2006年設置の特別法廷が裁く最後の被告となる見通し。一連の法廷で元幹部は相次いで罪状を否認した。虐殺や飢餓などで170万人以上が死亡した暗黒の歴史の実態が明らかになったとは言い難い中、法廷は幕を下ろす。

特別法廷は2審制で最高刑は終身刑。キュー・サムファン被告は国家元首に相当する役割を務めており、今回の審理は拷問や虐殺の舞台となった「トゥールスレン収容所」の運営などが対象となった。1審は18年に求刑通り終身刑を言い渡し、被告側が判決を不服として控訴していた。

審理は分離されており、キュー・サムファン被告は首都プノンペンから地方への強制移住など別の罪でも終身刑が確定している。

特別法廷はカンボジア政府と国連の合意によって設置され、旧ポル・ポト派幹部5人が起訴された。ただ、設置時点で元幹部は高齢化しており、真相解明と責任追及がどこまで実現するかは当初から疑問視されていた。

裁判が長期化する中、キュー・サムファン被告以外の4人は死去。最高指導者だったポル・ポト元首相は特別法廷設置前の1998年に死去している。

法廷で元幹部は起訴内容の否認に終始しており、キュー・サムファン被告も「私は当時(虐殺などを)知らなかった」と無罪を主張した。虐殺や強制労働に直接関わったとされる中堅幹部らへの捜査は継続中だが、刑事訴追は進んでいない。中堅幹部も高齢化が進んでおり、真相解明は困難という声が強い。

旧ポル・ポト派は75年にプノンペン制圧後、極端な「原始共産主義」を掲げ、私有財産制を禁止。都市住民の農村への強制移住などを繰り広げた。

カンボジアで旧ポル・ポト派支配の影響は色濃く、2019年の国勢調査によると、40〜44歳以上の人口比率が若い世代と比べて著しく低い。虐殺とそれに起因する出生率の低下が原因とみられている。【9月22日 産経】
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ポル・ポト政治、カンボジア大虐殺・・・“狂気”としか言いようのない時代でしたが、そうした狂気が容易に社会を呑み込んでしまうことを教えてくれるものでもありました。わずか四十数年前、日本からそう遠くないカンボジアで起きた悲劇です。

そして、そんな悲劇を私を含めて多くの人々が、わずが数十年ですっかり忘れてしまうというのも現実です。

【フン・セン首相の野党弾圧 長男への権力移譲】
そしてフン・セン首相が強権的に支配する現代カンボジア。

フン・セン首相の経歴については・・・
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1970年3月、北京に亡命中のシハヌークの呼びかけに応じ、ロン・ノル政権に対抗するクメール・ルージュ軍の下級部隊指揮官として従軍。

1975年4月のプノンペン攻略に大隊長として参加し、4月16日の戦闘で顔面に銃弾を受けて左目を失明した。

1976年になるとクメール・ルージュの過激な政策に嫌気がさし、粛清の危険も感じて、翌年の6月にポル・ポト派を離脱しベトナムに亡命する。【ウィキペディア】
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ベトナム軍のカンボジア侵攻・ポル・ポト政権崩壊の過程で政治的に頭角を表し、1985年には32歳の若さで首相兼外務大臣に。

その後も党内序列を昇りつめ、いまや完全にカンボジアの実権を掌握していますが、多くの政治指導者がそうであるように、次第に強権的傾向を強めています。
更に、長男への権力世襲も進めています。

****再開した野党弾圧、6月選挙で健闘したキャンドルライト党にも****
<長男への権力世襲を狙うカンボジアのフン・セン首相。総選挙はまだ1年も先なのだが>

来年7月に総選挙を控え、カンボジアのフン・セン政権は再び野党勢力の大規模訴追に乗り出した。

2017年に解党を命じられた野党カンボジア救国党(CNRP)の党員ら34人が国家転覆罪などで起訴されたと、8月22日に地元メディアが報じた。亡命中のサム・レンシー元党首ら幹部が含まれるが、彼らは既に繰り返し起訴されている。

野党関係者の大規模弾圧は2020年以降、3度目。2013年総選挙でCNRPが大躍進したことに与党カンボジア人民党(CPP)が危機感を募らせて以降、100人以上が反逆や扇動の罪で起訴されている。

フン・セン首相は長男マネットへの権力移行を進めており、総選挙を前に基盤強化を狙う。

今年6月の地方選挙ではCNRP系の新党キャンドルライト党が健闘したが、政権は同党の弾圧も強めている。
野党勢力にとって残る手段は欧米各国に制裁を求めることくらいだが、今回の起訴でそれすら「外国勢力との共謀」と見なされる恐れもある。【8月29日 Newsweek】
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“総選挙”とは言っても、野党勢力を弾圧・排除して行う、政権正当化のための選挙です。

【フン・セン政権を支える中国】
そうしたフン・セン政権を支えるのが中国。
強権支配への国際的批判の一方で、中国との関係を強めており、ASEANにあっては中国の代弁者的役割も。
フン・セン氏と中国との関係は、同氏が権力を掌握する過程で強まったようです。

****カンボジア基地、中国が無償拡張で利用か…米国と距離置き対中傾斜強めるフン・セン政権****
米国と中国は近年、インド太平洋地域で対立を先鋭化させている。海洋進出を活発化させる中国に対し、米国は航行の自由を掲げ、関与を強めている。対立の最前線の一つとして浮上しているのが、中国の軍事利用が懸念されるカンボジアのリアム海軍基地だ。

タイ湾に面し、マングローブの林に囲まれた基地の岸壁周辺には、真新しいプレハブ小屋が立ち並び、作業員風の男たちが行き来している。6月下旬、岸壁に近い海では、クレーンによる海中の土砂の浚渫しゅんせつ作業が行われていた。水深を深くし、大型船舶の入港を可能にするためとみられる。

この工事を主導しているのは、中国政府関係者とされる。基地周辺で漁業を営む男性(54)は「基地に出入りする中国人が増えている」と言う。

中国は6月上旬、無償での基地拡張工事に着手した。浚渫工事はその一環とされる。米メディアは、工事が終了すれば、基地面積全体の約3分の1相当が中国海軍の利用エリアになるとの見方を報じた。

米国は神経をとがらせている。リアム基地は中国がフィリピンなどと領有権を争う南シナ海に近く、米国の同盟国タイとは目と鼻の先だ。中国軍は、カンボジアをアフリカ東部ジブチに次ぐ2か所目の海外拠点とし、世界各地の海域での影響力をいっそう拡大する恐れがある。

だが、カンボジアは、多額の経済支援を受けた見返りとして中国傾斜を強めるばかりだ。中国との蜜月関係が揺らぐ気配はない。(中略)

カンボジアと中国の蜜月関係の始まりは、20年以上前にさかのぼる。

カンボジアでは当時、強制労働などで約170万人もの犠牲者を出したポル・ポト政権崩壊後の新体制が発足し、現在のフン・セン首相が頭角を現した。

共同首相制で第2首相だったフン・セン氏は、親台湾派の第1首相をクーデターで追放して実権を握り、国際社会の批判を浴びた。そんなフン・セン氏を、中国が支持したのだ。

中国はその後、軍事・経済両面でカンボジアを支えた。カンボジアは7%超の経済成長を実現し、中国は直接投資で国別トップとなった。中国によるインフラ(社会基盤)整備も急速に進んだ。

一方の米国は近年、カンボジアに厳しく対応してきた。長期政権を維持するフン・セン氏が2017年以降、野党を解党し、メディアを弾圧するなど独裁色を強めたことを受け、18年に経済支援の一部を停止したほか、軍高官の資産凍結など経済制裁も発動した。人権外交を掲げるバイデン政権も、カンボジアの現状に懸念を示している。

こうした状況下で、カンボジアは対中傾斜を加速させ、米国と距離を置いている。恒例だった米国との軍事演習は17年以降、カンボジア側の意向で中断したままだ。

リアム基地を巡っては、19年に米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが、「カンボジアが基地の軍事利用を中国に許可することで合意した」と報じた。20年に米国の援助で建設された基地内の施設が解体されたことが判明し、21年には新たに建設された施設が確認された。米国は中国が関与しているとみている。

カンボジア政治に詳しい米アリゾナ州立大学のソパル・イアー准教授は、「中国のカンボジア支援は、フン・セン政権存続の必要条件になっている。リアム基地はその象徴だ」と指摘する。【7月26日 読売】
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中国資本によるインフラ整備も進んでいるようです。

****中国企業が建設するカンボジア初の高速道路試験運用始まる****

カンボジアで中国企業が投資・建設・運営を行う、プノンペン-シアヌークビル高速道路が10月1日、試験運用を開始しました。プノンペン-シアヌークビル高速道路は、カンボジアの首都プノンペンと南部の港湾都市シアヌークビルを結びます。

同日、試験運用開始を記念したイベントが、高速道路の起点のプノンペンと終点のシアヌークビルの双方で同時に行われ、カンボジア公共事業運輸省の高官、シアヌークビル州知事、そして中国企業の代表らが出席しました。

カンボジア公共事業運輸省の高官はプノンペン-シアヌークビル高速道路の試験運用開始に祝意を示したうえで、中国政府によるカンボジアのインフラ建設への貢献に感謝を述べました。

また、プノンペン-シアヌークビル高速道路が開通すれば、プノンペンからシアヌークビルまでの車による移動距離が大幅に短縮され、所要時間も従来の5時間余りから2時間以内となり、人々の移動に大きな利便性をもたらし、経済成長に寄与すると強調しました。

なお、プノンペン-シアヌークビル高速道路は、カンボジアにおける初の高速道路だということです。【10月2日 レコードチャイナ】
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【中国との関係が密になるに伴って中国系犯罪組織も暗躍】
そうした中国との関係が密になるに伴って、中国系犯罪組織もカンボジア国内で根を広げています。

****台湾社会に衝撃が広がるカンボジアの“人身売買”、現場は「警察も手を出せぬマフィアの"治外法権"エリア」…日本に被害拡大の可能性は?****
「出張で台北に来ているが、この1、2週間は連日ものすごい騒ぎだ。新聞も1面トップで報じ続けているし、テレビもこの話題でもちきりだ」。

アジア情勢に詳しい、ジャーナリストの野嶋剛氏(元朝日新聞台北支局長、大東文化大教授)も驚きを隠せないと明かすのが、台湾社会を震撼させているというカンボジアでの人身売買問題だ。

■臓器売買、売春…“身代金”を払って帰国したケースも
台湾当局によれば、「高収入の仕事がある」と誘われて現地に赴いた人たちが監禁・暴行を受けたり、人身売買されたりするケースが相次いでおり、通報があった420件のうち、帰国できたのはわずか46人に過ぎないのだという。

「実際に連れていかれるのは男性の方が多く、それこそ売り飛ばされて殺害され、臓器を売りさばかれてしまうというケースもあるようだし、女性も売春の強要などの悲惨な目に遭うケースが多いようだ。

ただ、これまで犯罪集団としても秘密裏にやってきたのだろうが、身代金の要求や行方不明者・死者など極端に悪質なケースが出てきたことで、当局や国会議員も本腰を入れ始めた。

すでに空港ではカンボジア行きの便に乗り込もうとしている人に警察が呼びかけているし、特に騙されていそうな人については説得を試みるといった光景も見られるようになっている。

今日(23日)も10人ぐらいの若者が台湾に帰ってきたことが大きく報じられていた。帰国にあたっては現地の犯罪集団に多額の“身代金”のようなお金を払ったということだが、そうでもしなければ帰してもらえないといくらい根が深く、簡単には手を出せないのだろう。全員を救出することは難しいかもしれないし、長期化する可能性もある。

実際、去年以降、月に1000人くらいがカンボジアに渡っていた可能性があるので、現時点で分かっている被害も“氷山の一角”に過ぎない可能性がある。未確認のものも含めて様々情報が流れていて、どれだけ被害が拡大するのかと社会が戦々恐々としている」。(野嶋氏)。

■国交がなく、台湾側が救出しにくい状況に
同様の被害は他の地域でも発覚しているようだが、それでもカンボジア警察が介入しにくい事情があるのだという。
「低賃金に苦しむ若者、コロナ禍もあって仕事が見つからないというような若者に対して中国語のインターネットの広告、口コミなどで“数十万円の月収が保障される”といった甘言を弄して誘い込むのが基本的な手口のようだ。また、カンボジアの入国規制は比較的緩く、パスポートさえ持っていれば入れる状況だった。

実際、犯罪集団は“パスポートもチケットも全部取ってあげるよ、現地までの交通費もいらないよ”という、いわば“至れり尽くせり”だったようだ。そしてシアヌークビルというエリアに着いた途端にパスポートを取り上げ、ビルの一室に押し込む。そこから無理やり特殊詐欺などに従事させ、帰国を要求しても許さない。

これらは人身売買の“お決まりのパターン”ではあるが、台湾・香港だけでなく、東南アジアの他の地域でも被害が出ているとみられているし、“中国語で誘う”ということ、そしてシアヌークビルということがポイントだ。

このエリアは中国政府が展開する“一帯一路構想”のアジアにおける最重要拠点で、この4、5年で中国企業が進出し、中国語が公用語のようになっていた。

しかしコロナなどもあってホテルやカジノといったビジネスが上手くいかなくなり、そこに中国・台湾・香港あたりに根を張っているスネークヘッドといわれる人身売買集団、ヤクザのグループが手を組み、大掛かりな国際的犯罪シンジケートを作って入り込んできた。

このようなマフィアが仕切っているエリアは“治外法権”的になっていて、カンボジア警察でも手を出せない。ましてや台湾とは国交がないので、在外公館のようなものもない。台湾で長く発覚しなかったのには、このように台湾側が救出しにくい状況にあったことも要因のようだ」(野嶋氏)。

■日本でも被害者が出る可能性が?
一方、中国の反応はどうなのだろうか。そして現時点では報道の少ない日本への影響は。

「今のところ中国の責任を問うような話にはなっていないし、公式メディアからの報道もない。むしろインターネットでは中国人の被害者が出ているのではないかという情報も広がっている。あくまでも犯罪行為であって、一帯一路が起こした構造的な問題のもとで起きてしまった悲劇であるという受け止めではない論調に見える。

そして日本における被害も全くないとは言えないと思う。やはり低賃金、失業などで居場所を失ってしまった若者が甘い話に飛びつくという構造は台湾や香港とは変わらない。言語の違いはあるものの、甘言を弄して海外に連れ出し、酷い目に遭わせるという詐欺が日本に起きる可能性は低くはないのではないか」(野嶋氏)。(『ABEMA Prime』より)【8月24日 ABEMA TIMES】
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こうした事態にフン・セン首相は“「犯罪の巣窟にさせない」 偽求人事件でカンボジア首相”【9月30日 共同】ということで、犯罪の温床とされる違法なオンラインカジノ施設の捜査を進める考えを示しています。

同じ問題は東南アジア各国に広がっていますが、フィリピンでは“中国人4万人をフィリピンから強制送還...詐欺、人身売買、監禁など周辺国にも問題拡大”【10月4日 Newsweek】と、オンラインカジノを運営する175社の営業を停止し、従業員の中国人労働者約4万人を強制送還する─と発表しています。
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サウジアラビア  「変わるサウジ」と変わらない人権意識 皇太子の首相就任でカショギ氏殺害“免責”?

2022-10-04 22:54:18 | 中東情勢
(サウジアラビアのムハンマド皇太子の記者殺害事件に関する責任追及を訴える2日付のワシントン・ポスト紙の全面広告【10月3日 共同】)

【ムハンマド皇太子が牽引する「変わるサウジ」】
イスラム諸国の中でも保守的とされるサウジアラビアですが、実力者ムハンマド皇太子の進める改革路線で変化をとげているとのこと。

****変わるサウジ****
先月、バイデン米大統領の中東訪問を取材するためサウジアラビア西部ジッダを訪れて、驚いた。空港の入国審査官が女性ばかりだったのだ。

宿泊したホテルでは、外国人ではなくサウジ人の女性従業員が受け付け業務を担っていた。中東に駐在していた10年ほど前に首都リヤドを訪れた際は、そもそも働く女性の姿をほとんど見なかったのに。

港町のジッダはもともと、中部の砂漠地帯にあるリヤドより開放的な土地柄だといわれる。だから単純に比較はできないのだが、地元のサウジ人は「ここ数年で女性の働き手が増えたのは間違いない」という。

理由は明白で、実質的指導者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子が旗振り役となり、女性の社会進出を促しているから。

皇太子は「ビジョン2030」と銘打ち、「脱・石油」時代を見据えた経済・社会改革を進めている。観光業の振興にも積極的だ。王族批判はタブーであることを差し引いても、皇太子の人気は市民の間で非常に高いと感じた。

サウジに対しては、2018年に起きた記者殺害事件などをめぐる人権面の批判が根強い。保守的な宗教界からの揺り戻しなどで改革が一直線に進まないことも考えられる。それでも、極端に閉鎖的というサウジのイメージは過去のものになりつつある。【8月2日 産経「ポトマック通信」】
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変わるサウジアラビア、そしてムハンマド皇太子が牽引する「ビジョン2030」の中核にあるのが、石油大国サウジの経済多角化を目指して開発が進む産業都市「NEOM」。NEOMの総工費5000億ドルで、完工予定は2025年。

“都市中心部を貫くのは、「ザ・ライン」と呼ばれる直線形のスマートシティー。炭素を排出せず、タクシーは空を飛び、教師はホログラフィー、そしてなんと人工の月まで浮かべるという構想だ。”【8月28日 ロイター】

この「NEOM」「ザ・ライン」については、7月30日ブログ“サウジアラビア ムハンマド皇太子が目指す未来都市「ネオム」 壮大な計画に影を落とす「人権」”でも取り上げました。

さらにサウジアラビアは今後観光を重視し、開かれた国を目指す・・・とか。

****サウジ、観光立国目指し140兆円投資 産業創出へ****
(中略)イスラム教の聖地メッカがある同国は、何世紀にもわたってイスラム教の巡礼者を歓迎してきた。しかし、保守的な慣習や部外者に対する警戒心が長年、伝統的な観光産業の成長を妨げ、観光客を遠ざけてきた。

同国政府は現在、石油に依存する経済を多角化する取り組みの一環として、今後10年間に1兆ドル(約140兆円)を投じ、サウジを大衆向けの観光地に転換することを計画している。それに向け、クルーズ産業や紅海の高級リゾート地、環境に優しい砂漠の宿泊施設などの開発が進められている。

しかし、この地を訪れた最初の欧米人観光客らは、間に合わせのインフラを目の当たりにしている。
サウジが3月にコロナ関連の最後の渡航制限を解除して以来、冒険心にあふれる旅行者が、その広大な首都や6つのユネスコ世界遺産、伝統的なアラブ式の「おもてなし」を満喫しようと徐々に流入し始めている。

しかし、受け入れ態勢はまだ十分整っていない。ツアーガイドの養成やホテルの建設も必要だ。全ての遺産が全面的に開放されているとも限らない。

特殊な旅行を扱う米ツアー会社を利用して訪れたフレッシャーさんはサウジについて「『観光客にどう対処するか』をまだ見極めようとしている」段階だと話す。

さらに、サウジの批判に対する敏感さもマイナス材料だ。「観光の評判を損なうこと」を禁じた新法が導入されたが、ただでさえ人権に関するこれまでの出来事が多くの観光客を敬遠させているサウジにおいて、その法律は曖昧で不吉だ。当局は今年、さまざまな罪で一日に81人を処刑した。

権利保護団体によると、先月には、ソーシャルメディアの投稿を巡って2人のサウジ女性が有罪判決を受け、それぞれ30年以上の実刑判決を受けた。この判決についてサウジ・メディア省にコメントを求めたが、現在のところ回答は得られていない。

2018年に起きた反体制派のジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の殺害事件も、欧米人観光客の前に大きく立ちはだかっている。2019年以来、3つの米国人ツアー団体をサウジに案内したビル・ジョーンズ氏は「カショギ氏の件は常に尋ねられる」と話す。(中略)

米情報当局は、事実上のサウジの支配者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子がカショギ氏の殺害を命じた可能性が高いと結論付けた。皇太子は一切の関与を否定している。サウジを今訪れている観光客は、自分の目で同国を見たいと話している。

サウジは2019年後半に観光査証(ビザ)の発行を開始し、コロナで旅行が停止される前までに40万件以上を発給した。

石油とは関係のない新たな経済産業を創出する計画の一環として、ムハンマド皇太子は2030年までに年間5500万人の外国人観光客を誘致したいと考えている。世界で最も人気の高い観光地であるフランスを2019年に訪れた観光客の半数強にあたる人数だ。サウジの昨年の外国人観光客は、宗教的な巡礼者を除いて約350万人で、2022年上期は610万人だった。(後略)【9月6日 WSJ】
*********************

インフラがまだ十分に整備されていない問題は、“剛腕”ムハンマド皇太子の力をもってすれば、じきに解消されていくでしょう。

【変わらない人権意識】
しかしながら、本当に変わってもらいたいのはその人権意識。
「改革」とは言っても、あくまでもそれはムハンマド皇太子が進める「改革」であって、草の根的な下からの改革の動きは厳しく取り締まられます。

****ツイッターで「人権」発信の女性に禁錮34年 サウジ****
サウジアラビアの上訴裁判所(高裁)は、ツイッターで人権について発信していた女性に対し、禁錮34年を言い渡した。AFP取材班が17日、裁判書類を確認した。

女性はサルマ・シェハブさんで、9日に判決が出た。「公序を乱す」のが目的の反体制派を支援したと判断された。
シェハブさんは英リーズ大学の博士課程に在籍中で、2人の子どもの母親でもある。刑期終了後、さらに34年間の海外渡航禁止も言い渡された。

約2600人のフォロワーを抱えるシェハブさんは、保守的なスンニ派イスラム教国のサウジにおける女性の権利について、ツイッター上で頻繁に投稿していた。

2021年1月、帰省中にサウジ国内で逮捕され、今年6月の一審判決では禁錮6年(うち3年は執行猶予付き)を言い渡されていた。

裁判書類によると、今回の判決を受け、シェハブさんは30日以内に最高司法評議会(最高裁)に上訴できる。

サウジでは人権活動家に対する取り締まりが強化されており、禁錮刑や海外渡航禁止処分を受ける活動家が相次いでいる。

人権団体「ALQST・フォー・ヒューマン・ライツ(ALQST for Human Rights」は「平和的な活動家に対してサウジ当局が下した最も長い刑罰だ」とし、上訴裁判決を非難した。 【8月18日 AFP】
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【国際政治で進むカショギ氏殺害からの“復権”】
そしてムハンマド皇太子自身のカショギ氏殺害に関する関与の問題。

当初ムハンマド皇太子の責任を厳しく追求していた欧米諸国ですが、少なくとも国際政治の世界では皇太子は“復権”を進めており、その存在感を改めてアピールしています。

****サウジ皇太子、捕虜交換で価値高める ロシアにパイプ****
サウジアラビアはロシアとウクライナの捕虜交換で仲介役を果たしたことで、ロシアの孤立を図る西側諸国に対してロシアと実力者ムハンマド皇太子とのパイプは「有益だ」とのメッセージを送ることに成功、外交的な勝利を収めた。

また今回の動きは、2018年に起きたサウジ人著名ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の殺害に関与したとの疑惑で傷ついた皇太子の国際的なイメージの回復にも、意図的かどうかはともかく、役立ちそうだとアナリストは見ている。

ロシアは21日、ムハンマド皇太子の仲介により、捕虜の外国人10人を解放した。うち5人が英国人、2人が米国人。皇太子が慎重に育んだプーチン大統領との結びつきよって解放が実現したもようだ。

時を同じくしてトルコの仲介による捕虜交換で、ウクライナ側兵士215人と親ロシア政党の指導者など55人が解放された。

米ライス大学ベーカー研究所のクリスチャン・ウルリクセン氏(政治学)は、仲介者の選択にあたりサウジとロシアのパイプが重要な要素になったようだと指摘。「ムハンマド皇太子は今回の仲介を承認し、結果を出すことにより、衝動的で破壊的な人物だという評判を覆し、この地域の有力政治家の役割を担う能力があると示すことができる」と述べた。

皇太子は当初、大胆な改革者と見られていたが、カショギ氏殺害事件でそうしたイメージは大きく損なわれた。
皇太子はカショギ氏殺害を命じていないとしつつ、自分の監督下で起きたとして責任を認めている。

<人道的理由を強調>
サウジのファイサル外相はBBCとのインタビューで、捕虜解放に同国が関与した動機は人道的なものだったと説明。皇太子の名誉回復のためだったとの見方については、「ひねくれている」と否定した。(中略)

ウクライナ戦争が世界のエネルギー市場を揺るがす中、世界最大の石油輸出国であるサウジは米国とロシアの両方にとって重要性が高まっている。

世界中の指導者が石油の増産を求めて次々とサウジを訪れているが、サウジはロシアを孤立させる取り組みに加わる姿勢を見せていない。サウジは、石油輸出国機構(OPEC)加盟国と非加盟国で構成するOPECプラスなどを通じて、プーチン氏との協力関係を強めている。

<ロシアとの「有益な」関係>
バイデン米大統領は7月のサウジ訪問で同国から原油の即時増産、プーチン氏への強硬姿勢といった課題で言質を取り付けることができず、米国とサウジの緊張関係が浮き彫りになった。

親政府派のコメンテーター、アリ・シハビ氏によると、サウジが捕虜解放を仲介したのは初めてだ。「西側諸国に対して、ロシアとのパイプも有益な目的になり得るとのメッセージを発したのだろう」と分析。「両者との関係を維持する国が必要だ」と強調した。(中略)

ワシントンのアラブ湾岸諸国研究所のクリスティン・ディワン上級研究員は、外交的な仲介役という戦略をサウジが採るのは異例で、普通はカタールなどこの地域の小国が使う手法だと指摘。「錬金術のようなものだ。皇太子は批判を浴びている対ロシア関係を金に変えてみせた」と述べた。【9月26日 ロイター】
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【国内的にも権力基盤は更に強固に】
国内的にも、その権力基盤を強固なものにしています。

****サウジアラビア:首相就任で権力基盤を固めるムハンマド皇太子****
メディアから「事実上の指導者」と呼ばれるようになって久しいサウジアラビアの ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子 が、9月27日に父親のサルマーン・ビン・アブドゥルアズィーズ国王が発出した勅令によって首相に就任した。

国際的にはジャマル・カショギ氏殺害事件への関与疑惑が尾を引いているムハンマド皇太子だが、国内での権力基盤固めはサウジアラビアの歴史を紐解いても過去に比類ない程の盤石さで進められている。  

サウジアラビアでは1960年代より国王が首相を兼務することが慣例化していた。(中略)1992年に成立した統治基本法(事実上の憲法に相当)においても、「国王は閣僚評議会の長(=首相)となる」と規定され、法制度化している。【10月3日 Foresight】
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ムハンマド皇太子はこれまで事実上、国政全般を取り仕切ってきたものの、政府内の立場は「皇太子兼国防相」でした。その肩書を巡り、外国のトップとの会談に支障が出ることもありました。首相となることで、対外的にも国王からの権力継承が進んだことを示すことになります。

【首相就任で「免責」?】
国際政治、国内政治において、カショギ氏殺害問題からの復権を果たし、存在感を強めるムハンマド皇太子ではありますが、依然としてカショギ氏殺害の責任を問う声が消えた訳でもありません。

****サウジ皇太子の責任追及を 記者殺害4年、米紙が広告****
2日付の米紙ワシントン・ポストは、2018年にトルコで起きたサウジアラビア人記者殺害事件の発生から4年となるのに合わせ、関与が指摘されるサウジのムハンマド皇太子の責任追及を訴える全面広告を掲載した。

広告は皇太子の顔写真入り。記者殺害の作戦を皇太子が承認したと米情報当局が判断しているにもかかわらず「4年間、責任が追及されていない」と指摘。「真実を報じる時、記者の命が脅かされるべきではない」と訴えた。

著名な記者のカショギ氏は18年10月2日、トルコ・イスタンブールのサウジ総領事館でサウジ当局者らに殺害された。生前、同紙に寄稿していた。【10月3日 共同】
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アメリカではムハンマド皇太子はカショギ氏殺害への関与で訴訟も起こされていますが、前述の「首相就任」で「免責」を求めているとか。

****サウジ皇太子、記者殺害で免責を 首相就任が理由、米国裁判で主張****
2018年に起きたサウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏殺害事件を巡り、サウジのムハンマド皇太子の責任を追及するとして米国で起こされた裁判で、皇太子の首相就任を理由に弁護側が免責を主張したことが4日までに分かった。ロイター通信などが伝えた。

サウジのサルマン国王は9月27日、閣僚評議会(内閣)を改造し、息子のムハンマド皇太子を首相に起用。

弁護側は裁判所に提出した文書で米国が過去に他国の元首の免責を認めた事例を引用し、首相就任で「免責を受ける権利を持つことは疑いない」と述べた。【10月4日 共同】
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「それはないよな・・・」というのが私の印象。
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イギリス  発足したばかりのトラス新政権 大型減税政策発表で市場は混乱、与党内にも厳しい見方

2022-10-03 22:24:00 | 欧州情勢
(トラス英首相(写真右)とクワーテング財務相(右) バーミンガムで撮影【10月3日 ロイター】)

【高インフレと光熱費高騰が待ち受けるなかでのトラス新政権発足】
イギリスでは9月6日、エリザベス女王の任命を受けて、トラス氏が正式に首相に就任しました。
まだ一か月もたちませんし、直後のエリザベス女王の逝去、国葬がありましたので、実質的には発足したばかりと言っていいでしょう。

にもかかわらず、“保守党内ではトラス氏に対する批判も出ており、英紙インディペンデントによると、一部の保守党議員がトラス党首に対する信任投票の実施を求めているという。”【9月28日 産経】という政権末期のような状態。

もともとトラス首相を待ち受ける状況、特に高インフレと光熱費高騰という経済状況が非常に厳しいものであることは就任前から指摘されていました。

****英 電気・ガス料金の上限、10月から80%引き上げ****
イギリスで10月から家庭用エネルギー料金の上限が80%引き上げることになりました。

イギリスのガス電力市場監督局は26日、10月1日から電気、ガス料金の上限を80%引き上げると発表しました。標準的な家庭の場合、年間のエネルギー価格の上限は過去最高となる3549ポンド、日本円でおよそ57万円に引き上げられることになります。

監督局はロシアによるウクライナ侵攻を受けて、天然ガスの卸売価格が高騰していることなどを引き上げの理由に挙げ、来年1月にはさらなる引き上げの可能性に言及しています。(後略)【8月27日 TBS NEWS DIG】
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****バーガーセット約3000円…激しいインフレが生活を直撃 新たな首相選びに影響も イギリス****
連日値上げのニュースが相次いでいますが、イギリスでも、フィッシュバーガーのセット価格が日本円で約3000円など、激しいインフレが生活を直撃し、新たな首相選びも左右する事態となっています。
     ◇
イギリス・ロンドンにあるファストフード店で、フィッシュバーガーのランチセットを注文すると、価格は日本円で約3000円でした。

レストランのオーナー 「食材を仕入れるたびに、全てが値上がりしています。今後、料理も15〜20%は値上げしないといけません」

英国家統計局によると、ロシアのウクライナ侵攻などでエネルギー価格が高騰する中、イギリスでは7月のインフレ率が10%を超えました。

ロンドンでは先月、無料で食料品などを提供する「フードバンク」に長い行列ができていました。最近は、いわゆる中間層の人もやってくるといいます。

フードバンク運営するNGO代表 「ロックダウンの時より、状況はずっと悪いです。寄付をする側だった人たちが、ものを買えなくなっています」
     ◇
特に深刻なのが、光熱費の高騰です。ロンドンに住む日本人女性に話を聞きました。
ロンドン在住 直子ミスラさん 「6月までは111ポンド(約1万7800円)でした。それが7月から、183ポンド(約2万9500円)になりました」

電気の使用量はほとんど変わらなかったにもかかわらず、月々の電気代が6割以上も上がったといいます。夜でもなるべく電気をつけず、省エネタイプのLED(=発光ダイオード)電球に変えるなどの対策をしています。(後略)【9月5日 日テレNEWS24】
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****英新首相トラスを待つ2つの大問題****
<イギリスの全世帯の3分の2が「燃料貧困」になる恐れ。高インフレと光熱費高騰に直面しており、しかも両者は同一の問題ではない>

(中略)イギリスにはこの秋、重大な経済的問題が複数待ち受けている。必死になって首相の座を射止めたのは間違いだったと、新首相は後悔することになるかもしれない。

トラスは減税や英国内に残るEU法令の早期全廃、国民保険料の引き下げを公約。そのシンプルなメッセージで、保守党員の心をつかんだ。

だが新政権は当面、シンプルではない状況と闘うことになりそうだ。
イギリスは、高いインフレ率と光熱費の高騰という2つの差し迫った大問題に直面している。高インフレの最大の要因はエネルギー価格高騰にあるものの、両者は同一の問題ではなく、異なる対応が必要になる。

トラスは保守党党首選中、エネルギー企業による再度の値上げを防ぐため、エネルギー価格上限を半年間据え置く措置に消極的だった。そのため、英世帯の3分の2が「燃料貧困」に陥り、健康上推奨される水準の暖房利用も不可能になる恐れが浮上した。(中略)(トラスは9月8日、家計のエネルギー料金の上限を2年間、年間2500ポンド程度に抑えるとの計画を発表している)。

一方、イギリスの消費者物価指数(CPI)は今年7月、前年同月比で10.1%上昇した。約40年ぶりの高水準だ。
さらに懸念されるのは、高インフレがエネルギーだけでなく、食料品の価格高騰によって引き起こされていることだ。

例えば、牛乳価格はこの1年間だけで4割値上がりしている。牛乳を含め、価格上昇中の製品の多くは通常ならインフレ圧力に強い製品だ。言い換えれば、これはインフレが長引くことを示唆している。(後略)【9月12日 Newsweek】
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【大型減税「大盤振る舞い」で市場は混乱 金融当局も対応に追われる 保守党内にも不信感】
トラス首相はこの厳しい状況で大規模な減税プランを発表しましたが、財源への不安などから通貨ポンドが急落する事態となり、一気に混乱が加速しています。

****減税プラン懸念でポンド急落 英トラス新政権、多難な船出****
英国のトラス新政権が発表した大規模な減税プランを巡り、財源への不安などから通貨ポンドが急落する事態となっている。減税はトラス首相が与党・保守党党首選から訴えてきた公約だったが、市場の反応は厳しく、多難な船出となっている。

トラス政権は23日、減税総額が5年間で約450億ポンド(約7兆円)に上る減税プランを発表した。来年4月からの法人税率引き上げを中止するほか、所得税の最高税率も引き下げる。クワーテング財務相は「英国全土で投資をする企業にとって、前例のない税制優遇措置だ」と強調。金融都市ロンドンの魅力を高めるため、銀行員のボーナス上限規制も撤廃する方針を明らかにした。

また、英政府は光熱費高騰に苦しむ家庭・企業への支援策として、今後半年間で600億ポンド(約9兆3000億円)を支出することも表明した。

だが、こうした「大盤振る舞い」の政策の財源は主に借金でまかなうため、財政悪化を懸念する市場が反応。ポンド売りが進み、23日は対ドルで37年ぶりの安値を記録したと報じられた。

トラス氏は6日にエリザベス女王から新首相に任命されたが、直後の8日に女王は死去。19日の国葬まで服喪期間が続いたため、新政権が重視する経済政策の始動は遅れていた。【9月27日 毎日】
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トラス氏は安倍晋三元首相が主導した日本の経済政策「アベノミクス」を高く評価しているとされているそうです。減税で企業活動を促進し、市民の家計も財政支出で支えることで経済成長をはかるトラス氏の政策も、英国で「トラスノミクス」と呼ばれているとか。

しかし、市場の混乱ぶりから、国際通貨基金(IMF)は27日、トラス政権の政策について「大規模で的が絞れていない財政施策は推奨しない」と懸念を示す声明を発表。「格差を広げる恐れがある」として、高所得者に優位な税制を再考するように促しています。【9月30日 日系メディアより】

英国債の金利が急上昇(価格は下落)し、ポンドも対ドルで等価割れに迫る低水準にまで急落、。株安も重なり、イギリス市場は「トリプル安」に陥りました。

この事態にインフレ対策で引き締めを進めてきた中央銀行のイングランド銀行(BOE)が、動揺する市場の安定化のため、英国債を一時的に買い入れることを決定。国債や通貨ポンドの価値が急落しており、介入で下支えすることが目的です。インフレ対策で引き締めをしながら、一方で国債購入で緩和も進めるという異例の対応となっています。

借金で減税を賄うという「大盤振る舞い」の新政権と、これまでインフレ対策で引き締めを進めてきた金融当局の意思疎通の悪さもうかがえます。

****英市場の混乱、忍び寄る政治・経済危機****
中銀が緊急介入したが、政府と市場を巡る不透明感は残る

(中略)突如として忍び寄る危機は、世界第6位の経済国である英国のかじ取りを任されたリズ・トラス首相とクワシ・クワーテング財務相を打ちのめす恐れがある。2人とも政治家として手腕を発揮した実績はまだあまりない。

ここ数日、クワーテング氏は英中銀のアンドリュー・ベイリー総裁と連日協議し、市場を安心させようと努めてきた。市場の混乱は就任間もないトラス首相を脅かしているが、首相はこれについて公式にコメントしておらず、有権者が懸念する金利の大幅上昇にも言及していない。大勢の国民にとって、金利上昇は毎月の住宅ローン返済額が跳ね上がることを意味する。

ウクライナ戦争によるエネルギー価格の高騰もあり、英国のインフレ率はここ数十年で最も高水準となっている。新政権が予想を上回る借金で減税を賄うと発表したことで、インフレ退治に注力する英中銀は苦境に追い込まれた。

オランダ金融大手ラボバンクの外為戦略部門責任者ジェーン・フォーリー氏は「需要を押し下げたい英中銀と、需要を押し上げたい政府の間で対立が生じており、英政府の信用問題を浮き彫りにしている」と指摘する。「政府が信用問題を解決するために一定の努力をしない限り、投資家は非常に懐疑的になるだろう」(中略)

金融引き締めとインフレ抑制のため、保有国債の売却を10月3日から開始する予定だった英中銀にとって、これ(新政権の減税発表による市場の混乱)はあまりにも想定外の展開だ。売却計画は10月31日に延期された。

クワーテング氏(財務相)はこの日、銀行関係者と会合を開いて規制改正について議論した。だが、政策変更に向けた意欲を示すことはなく、財務省高官らは「市場にいら立っているようだ」と事情に詳しい関係者は話した。

一方、長年にわたり経済の規律と健全性を重んじることを売りにしてきた保守党議員の多くは、政府と金融市場の対立に衝撃を受けている。こうした中、2024年に実施される見通しの次期総選挙を待たずして、トラス首相が所属政党により更迭されるとの臆測が広がっている。

ロンドン大学クイーン・メアリー校のティム・ベール教授(政治学)は「トラス政権が次期総選挙までもたない可能性は非常に高い」と指摘する。「パイロットを辞めさせることで急降下から抜け出せるチャンスがあると保守党が判断すれば、そうするだろう」【9月29日 WSJ】
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【経済対策の目玉がわずか10日で撤回に追い込まれる】
新政権の大型減税策は世論の支持も得られていません。

***英与党不人気、支持率21% 大型減税策への不満反映***
英国の世論調査大手ユーガブは29日、与党保守党の支持率は21%にとどまり、最大野党労働党が54%で33ポイント上回ったとする調査結果を発表した。保守党が大差で不人気となった背景には、今月発足したトラス政権が打ち出した大型減税策の不平等さなど、経済対策への不満がある。

調査では「総選挙が明日実施された場合、どの政党に投票するか」などを聞いた。結果によると、2019年の前回総選挙で保守党に投票した人の17%が労働党支持に回った。英与党がここまで大きく支持を失うのは、1997年のブレア政権以来だという。【9月30日 共同】
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新政権内部の意思疎通の悪さ・・・と言うか、責任の押し付け合いも目立つようになっています。

****英首相、所得税の最高税率引き下げを事前に知らされず****
トラス英首相は2日、英BBC放送に対し、所得税の最高税率引き下げについて事前に知らされなかったとしつつも、減税案を堅持すると強調した。

クワーテング財務相は9月、最も裕福な層が主に恩恵を受ける減税案を発表。財政への影響や成長を促す経済改革について詳述しなかったことから、金融市場の混乱を招いた。

トラス首相は内閣が最高税率の引き下げを知らされていたのかと問われると、「知らされていなかった。クワーテング財務相が決定したことだ」と述べた。(後略)【10月3日 ロイター】
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こうした重要政策について首相が財務相から話を聞いていないなんてことがあるのか?
あったとしたら、それはそれで大問題です。

そして、新政権は所得税の最高税率を引き下げる案を撤回することに。

****英が所得税引き下げ撤回 与党からも反対、目玉政策わずか10日で****
英政府は3日、所得税の最高税率を引き下げる案を撤回することを明らかにした。与党・保守党内から反対の声が上がったことを受け、法案の通過は難しいと判断した。9月23日に表明した経済対策の目玉がわずか10日で撤回に追い込まれたことになる。

3日、クワーテング財務相が自身のツイッターで表明。世論の反発を踏まえ、「(最高税率)45%を廃止する案は進めない。われわれは(反対の声に)耳を傾けた」と述べた。

所得税最高税率の引き下げは、年収15万ポンド(約2400万円)を超える人を対象にした45%の税率を廃止する計画。記録的なインフレが家計に打撃を与えている中、富裕層を優遇した措置だと批判の声が高まっていた。

金融市場では大型減税を柱とする経済対策によって財政が悪化するとの懸念が強まり、通貨ポンドが急落するなど混乱が広がっていた。【10月3日 毎日】
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発足早々の乱気流突入状態で「パイロットを辞めさせることで急降下から抜け出せるチャンスがあると保守党が判断すれば、そうするだろう」といった状況のトラス新政権です。まあ、労働党に33ポイント差ということになると・・・。

【世界の温暖化対策をリードしてきた歴代政権 新政権は方針転換 エネルギー安全保障を優先】
一方、これまでのイギリス政権は気候変動対策を積極的に進めてきましたが、トラス政権は方針が異なるようです。

****チャールズ国王、COP27欠席へ トラス首相が反対 英紙報道****
英国王チャールズ3世が、エジプトで来月開かれる国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議に出席しないことになったと、日曜紙サンデー・タイムズが1日夜に報じた。リズ・トラス首相が「反対した」ためとしている。

チャールズ国王は、11月6〜18日にエジプト・シャルムエルシェイクで開催されるCOP27で演説を予定していたとされる。しかし、バッキンガム宮殿で先月謁見(えっけん)したトラス氏が反対を伝え、予定は中止されたという。同紙によると、トラス氏もCOP27に出席しない見通し。

9月に首相に就任したトラス氏は、ボリス・ジョンソン前首相ほど気候変動対策に熱心ではなく、温室効果ガスの排出削減目標を後退させるのではないかとみられている。政権内にも、2050年までに排出量実質ゼロを目指す現在の政府目標に懐疑的な閣僚が多い。

チャールズ国王は環境保護に熱心で、英国が議長国となってスコットランドのグラスゴーで開催された前回のCOP26では、エリザベス女王やウィリアム王子(当時)と並んで演説を行った。英首相官邸とバッキンガム宮殿は、この報道に関する取材に応じなかった。 【10月2日 AFP】
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****早くも危機に直面する「トラス政権」が“タブーの領域”に手を付け始めた****
「リーマンショック以上の打撃」との見方も
窮地に陥ったトラス政権はタブーの領域にも手を付け始めている。  

リース・モグ・ビジネス・エネルギー・産業戦略相は9月26日「政府は排出量実質ゼロ化目標の達成に引き続き取り組んでいるが、ロシアが欧州でエネルギーを武器として利用する中、エネルギー安全保障を向上させ、企業や消費者に不当な負担を強いない形でこれを実現する必要がある」と述べ、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標の見直しに着手したことを明らかにした。  

過去に気候変動対策の必要性を疑問視する発言をしたことで知られているリース・モグ氏は「今回の見直しで、経済成長と企業を支援し、経済効率の高い目標達成方法を模索する」としている。見直し作業はスキッドモア元エネルギー担当相が率いる独立チームが行い、年末までに政府に報告書を提出する予定だ。  

2019年にメイ政権が世界の主要先進国に先駆けてこの目標を法制化し、続くジョンソン政権が2021年の国連気候変動枠組み条約第26回締結国会議(COP26)で主導的な役割を果たすなど、英国はこのところ世界の温暖化対策をリードしてきたが、未曾有の危機が襲来したことからエネルギー安全保障を優先せざるをなくなっている。  

トラス政権は目標見直しの表明を行う前に、2019年から停止していたフラッキング(高圧の水で岩石を砕いて天然ガスを抽出する方法)によるシェールガスの採掘を解禁することも発表していた。「地球温暖化を助長する」との理由から環境保護団体などが猛反対しているが、背に腹は代えられない。  

英国政府は「エネルギー供給を強化することが絶対的な優先課題であり、国内生産を増やすため、あらゆるエネルギー資源を探査する必要がある」と説明しているが、専門家の評価は冷ややかだ。フラッキングを解禁したとしても、実際の生産開始まで何年も要するため、今年の冬のエネルギー価格を下げる効果は期待できないからだ。英国内で掘削可能な大規模なガス資源があるかどうかも不透明だとの指摘もある。  

八方塞がりの状況の英国だが、足元のエネルギー危機はリーマンショック以上の打撃を欧州経済に与えるとの見方が強まっている。欧州全体が危機に陥れば、国際社会における温暖化対策の優先度は一気に後退してしまうのではないだろうか。 【10月3日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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ロシア  部分的動員で拡大する混乱 新兵は訓練もないまま“大砲の餌食”の運命か? 核使用は?

2022-10-02 22:59:56 | ロシア
(基地に出発するため、家族と別れを告げるロシア予備兵。彼を待つ運命は……(9月28日)【10月1日 Newsweek】 戦地に向かう兵士というのは、いつの時代でも、どこでも切ない)

【東・南部4州のロシア編入を強行するも、戦局は一層苦境に】
ウクライナ南部ヘルソン州とザポロジエ州の「独立」を問う「住民投票」なるものが行われ、その結果として「独立」をロシアが承認、更に東部ドネツク、ルガンスク両州を併せた東・南部4州の「独立国」からの要請を受けてロシアに編入・・・という一連のプーチン政権の暴走は周知のところです。

プーチン政権はもともと、ロシアへの編入を問う住民投票は棚上げする方針だったとも指摘されています。
戦況で苦戦する中、住民投票を実施して併合に踏み切っても、占領地の安定を保てないと判断していたためというのがその背景。

住民投票の実施を強く求めていたのは、プーチン政権ではなく占領地の親ロシア派だったとも。
ウクライナ軍のハリコフ州での反転攻勢を受けて親ロ派は、プーチン政権が占領地を見捨てないことの証しを求めた・・・ということです。

プーチン政権は占領地の親ロ派の動揺を抑えた上で、国民の愛国心をかき立て、兵力不足が露呈している戦況を立て直すための動員体制への口実を作る必要に駆られたという側面もあります。【10月1日 日系メディアより】

21日には部分動員令を発令して、約30万人の予備役を動員する措置を推し進めています。

しかし、ウクライナの戦況は上記のロシア側の動きに逆行するかのように、ロシアにとって更に悪化しています。

****東部要衝リマン奪還を宣言 ゼレンスキー大統領****
ロシアによるウクライナ侵略で、露国防省が1日に東部ドネツク州の鉄道交通の要衝リマンから露軍部隊を「より有利な防衛線」まで撤退させると発表したことを受け、ウクライナのゼレンスキー大統領は同日のビデオ声明で、リマンの事実上の奪還を宣言した。

同氏は「この1週間でドンバスにひるがえるウクライナ国旗が増えた。次の1週間でさらに増えるだろう」と述べ、反攻を加速させる意思を表明した。

リマンはウクライナ軍が1日までに包囲をほぼ完了したと発表していた。露軍は東部ハリコフ州に続き、全域の制圧を目指す東部ドンバス地域(ドネツク、ルガンスク両州)でも後退に追い込まれた形で、苦境が改めて顕著となった。(中略)

(英国防省は)戦略上の要衝であるリマンの喪失で、露軍は目標達成がいっそう困難になると予測した。
英国防省はさらに、リマンはプーチン露大統領がロシア編入を宣言したウクライナ4州のうちの一つであるドネツク州に位置するとし、直後のリマンの喪失は「ロシアにとって政治的にも大きな後退だ」とした。【10月2日 産経】
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【杜撰・強引な動員で混乱拡大 プーチン大統領の国内評価も下がる】
一方の、ロシアの動員はかなり強引に行われ、多くの混乱、徴兵忌避者の大量国外脱出を引き起こしていることは多くの報道のとおりです。 プーチン大統領も“過ち”を認める事態に。

****対象外の人も招集 露プーチン大統領、動員に“過ち”で修正指示「今後あってはならない」****
戦闘への部分的な動員をめぐり、プーチン大統領は、対象外の人が招集されるなど過ちがあると指摘し、修正するよう指示しました。

プーチン大統領は、29日に開かれた安全保障会議で動員の対象とすべきではない人が招集されていると指摘し、「多くの疑問が生まれている。過ちは修正すべきだ」と述べたということです。さらに、「今後このようことがあってはならない」と述べたうえで、詳細を調査するよう指示したということです。

混乱が広がっていることに、歯止めをかけたい思惑があるとみられます。

部分的な動員をめぐっては、ロシアの独立系世論調査機関が29日に公表した調査で、ロシア国民の47%が「不安」や「恐怖」だと受け止めているとしたほか、「怒り」を示す人が13%だとしています。

動員令の発表以降、ロシアから周辺国に脱出する人は今もあとをたたず、CNNはすでに20万人以上が出国したと伝えています。

ロシアと国境を接するフィンランドは、30日からロシア人の観光目的での入国を禁止するなど、流入を大幅に制限する措置に乗り出しています。【9月30日 日テレNEWS】
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プーチン大統領に対するロシア国内の評価にも変化が見られます。

****プーチン大統領の仕事への肯定的評価、侵攻後初めて80%下回る****
ロシアの独立系世論調査機関は28日、プーチン大統領の仕事に対する肯定的な評価が、ウクライナ侵攻後初めて80%を下回ったと発表しました。部分的動員令の影響と分析しています。

ロシアの独立系世論調査機関「レバダセンター」の発表によりますと、プーチン大統領の仕事に対する9月の肯定的な評価は、前の月から6ポイント下がり、77%でした。

ウクライナ侵攻後の3月から、肯定的評価は毎月82%〜83%で推移してきましたが、ここに来て変化があらわれた形です。
一方、否定的な評価は6ポイント上昇して21%となり、侵攻後初めて20%を超えました。(後略)【9月30日 日テレNEWS】
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減少したとは言え、77%とまだまだ高い肯定評価ですが、今後この数字がどのように動いていくのか注目されます。

【泥縄の動員実態 銃創の止血にはタンポン、それも自己調達】
それにしても、ロシアの動員対応には“泥縄”的な混乱ぶりが目立ちます。
銃創(銃による傷)には、妻や彼女、母親からもらったタンポン(生理用品)を詰めろというのは・・・・「タンポン詰めるにしても、軍が支給しろよ!」という感も。

****銃創の止血にはタンポン、兵舎はまるで収容所、戦わずして死にそうなロシア徴集兵****
<予想もしない突然の招集に加えてこれほど悲惨な扱いで、戦える人間がいるのだろうか>

新たに戦闘に動員されたロシア兵たちがいかに厳しい状況に置かれているかを示すさまざまな動画が拡散されている。食料や備品も不足するなか、銃弾で負傷した兵士が、止血にタンポンを使えと指示される有様だ。

Ukraine Reporterがツイッターに投稿した動画では、1人の徴集兵が、自分たちの状況に不満を訴えた動画のせいで、所属部隊が罰を受けていると語っている。

2日前に撮った「不満」動画のあとに起きたことを報告する内容だ。「状況はさらに悪くなる、と警告された。今日は、トイレの使用が制限された」。食料と水も与えられていない、と兵士は続けた。「まるでどんどん膨張する強制収容所のような様相だ」

また別の動画では、シベリア南部のアルタイ地方にいる部隊の女性上官が徴集兵たちに向かって、薬や止血帯を含めたあらゆるものを買っておけと話している。上官は言う。「防護具と軍服は支給されるが、それ以外は何もない」

撃たれた傷の治療には、女性用タンポンを使えとも話している。「銃弾による傷を負った場合は、(タンポンを)傷口にじかに詰めれば、(タンポンが)膨らみ始める」「必ず安いタンポンを買うように」と上官は言う。「自分の身は自分で守れ」

ベラルーシの報道機関ネクスタがツイートした「徴集兵の冒険パート1」というタイトルの動画は、兵士やバックパックなどの荷物でほぼ立錐の余地もない兵舎での、スペース争いを垣間見ることができる。

ウクライナ軍の反転攻勢でロシア軍が膨大な損失を被った後、ウラジーミル・プーチン大統領は9月21日、深刻な人員不足を補うための予備役の「部分的動員」を発表。事実上は誰が招集されるかもわからないことも相まって、ロシア国内では怒りと衝撃が広がっている。

ロシア政府は予備役30万人を召集する予定だと発表したが、ここ数日の動画からは、動員現場は混乱を極めており、酔っぱらいの徴集兵を映した動画も拡散されている。
プーチンの動員発表後、男性たちが召集を逃れようとしたことから、ロシアとジョージアの国境には、長さ6マイル(約9.7キロ)におよぶ車列ができた。

ウクライナレポーターが9月25日にツイートした動画には、コーカサス地方で起きた騒動の様子がとらえられている。「ダゲスタン共和国で起きた、ロシアの動員に対する激しい抗議」という説明が添えられている。

「秩序回復のために(プーチン直属の武装部隊)ロシア国家親衛隊が派遣されたが、抗議活動は勢いを増しつつある、と地元の情報筋は伝えている」とツイートには書かれている。【9月28日 Newsweek】
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20万人以上が出国したという状況に対しては、強引に止めると暴動に発展する危険があるため国境封鎖出来ないとも。 “予備役逃れ殺到、国境封鎖できず=招集令状撤回の動きも―ロシア”【9月29日 時事】
(なお、かつてロシアと戦火を交えた受入れ側のジョージアには強い反ロシア感情がありますので事態は複雑ですが、今回はパスします)

「ダゲスタン共和国で起きた、ロシアの動員に対する激しい抗議」に関しては、ロシア人マジョリティの反感を抑えるため、動員を少数民族に集中させる姑息な対応が反映しています。

****ロシア南部ダゲスタン共和国でデモ、「動員令」で少数民族狙い撃ちか****
プーチン大統領による部分的動員令を受け、ロシアの一部の少数民族地域では激しい抗議デモが発生している。活動家団体やウクライナ当局は、こうした少数民族が徴兵対象になるケースが偏って多いと指摘している。

CNNがイスラム教徒主体の南部ダゲスタン共和国で撮影されたものと確認した動画には、首都マハチカラの劇場前で女性が警官に懇願する様子が映っている。

動画では「なぜ私たちの子どもを連れていくのか。一体、誰が誰を攻撃したのか。ウクライナを攻撃したのはロシアだ」と訴える声が聞こえる。続けて女性の集団が「戦争反対」と連呼し始め、警官隊はその場から立ち去っている。

マハチカラで起きた別の衝突では、警官がデモ隊を押し返す姿が見られる。警察によって手荒に拘束される人もいれば、徒歩で逃げる人もいる。(中略)

マハチカラの市長は25日、平静を呼び掛け、「反国家活動に従事する者の挑発に屈しないよう」促した。

ダゲスタンの町エンディレイで撮影された別の動画には、警官が空に向かってライフル銃を発砲する様子が映っている。デモ隊を解散させる狙いとみられる。(中略)

ロシア当局は軍務経験を持つロシア人のみが対象になるとしているものの、動員令そのものはより幅広い条件を示しており、ロシア人の間では将来的に徴兵対象が拡大するのではないか、少数民族が影響を受けるのではないかとの懸念が広がっている。

ウクライナ当局によると、ロシアの実効支配下にあるクリミア半島では、動員令を受けて先住民族タタール人の男性が脱出した。

ウクライナ議会の関係者は25日、「占領下にあるクリミアでは、ロシアが動員の過程でクリミア・タタール人を狙っている」と説明。「現在、家族を含む数千人のクリミア・タタール人がロシア領経由でクリミアから脱出している。大半はウズベキスタンやカザフスタンに向かっている」と指摘した。【9月27日 CNN】
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【訓練もなく前線に送られる兵士を待つ“大砲の餌食”の運命】
話を“泥縄”動員に戻すと、ほとんど訓練もしないまま戦地に送り出す実態も。これで戦力の立て直しに役立つのか疑問も。

****ロシア軍、わずか1、2日訓練しただけの召集兵を前線に送り込んでいる****
ロシア陸軍は、わずか1日か2日訓練を受けただけの召集兵をウクライナの前線に送り込んでいる。なかにはまったく訓練を受けていない兵士もいる。

不幸で、適性がなく、装備も指導力も不足している召集兵たちは、南と東の両面から反撃を続けるウクライナ陸軍による砲撃の餌食になるくらいしかない。「1日か2日の訓練を受けただけの召集兵がロシアを強化するとは思えない」とワシントンD.C.のInstitute for the Study of War(戦争研究所)は説明した。(中略)

戦争研究所は、陸軍の第1戦車部隊に配属された召集兵が、ウクライナ南部ヘルソン州に送られる前に新たな訓練を受けていないことの不満を訴える動画を共有した。

「個人として準備ができていない、チームの一部ではない、指導者への信頼が欠如している、大義を信じられない、生還の見込みがほとんどない、市民からの支援がない、すべてが失敗の要因だ」と元米国陸軍士官マーク・ハートリングはツイートした。「30万人を動員か。これはプーチンの軍隊による計画的殺人だ」

無神経さと絶望だけでは、準備不足の召集兵を配置するというロシアによるこの極めて無謀な行動は説明できない。ロシア軍は新しい部隊を訓練することが文字どおりできていない。

なぜなら、ロシアの慣行では、新兵の訓練のほとんどを前線旅団が担当するからだ。これに対して西側の軍隊では、兵士は数週間から数カ月専門の訓練基地で過ごした後、所属する部隊に送られ、そこで追加の訓練を受けた後配置される資格を得る。(後略)【9月30日 FORBES】
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ロシアの“新兵の訓練のほとんどを前線旅団が担当する”システムがウクライナの前線では崩壊しており、訓練なしで実戦配備されることになっています。この訓練システムを再構築するためには指導できる者を前線から後方に移す必要がありますが、そうする当面の戦局は急速に悪化する危険が。

しかし、このまま訓練していない者を配備していると、攻撃はともかく守備面では一定に役立っても、確実に犠牲者が増え続け、長期的にロシア軍を締め上げることにもなります。

****死ぬために動員されるロシア新兵たち...「現場」は違法行為が溢れる無秩序状態に****
軍の人手不足を補うため部分動員に踏み切ったプーチンだが、秩序も装備も訓練も補給も失われ、新兵たちには「大砲の餌食」になる「消耗品」としての運命が待つ(後略)【10月1日 Newsweek】
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「個人として準備ができていない、チームの一部ではない、指導者への信頼が欠如している、大義を信じられない、生還の見込みがほとんどない、市民からの支援がない・・・・」

『キャノン・フアダー(大砲の餌食)』は無益な攻勢や露出した陣地の防衛のために死ぬ運命にある消耗品としての新兵のことを言うそうです。

“現在ではウクライナでの危険な戦いに駆り出される不幸なロシア兵を表現する言葉として使われる。プーチン氏が部分動員を発表するや否やツイッターに「#キャノン・フアダー」というハッシュタグが立った。動員の狙いは軍の慢性的な人手不足を解消することにある。しかしロシア軍は兵士を指導できる将校の大半を失ってしまったとフリードマン氏は指摘する。”【同上】

【戦術核兵器を使用するとすれば・・・・】
こうした苦境に追い込まれているプーチン大統領は、「核兵器」という禁じ手に出るのでは・・・という懸念が高まっていますが、スペース余裕もなくなってきたので、その件に関して「なるほどね・・・」と思った記事をひとつだけ。

「なるほどね・・・」というのは、もし使用するとすれば“ウクライナの抵抗の象徴となった黒海に浮かぶスネーク島”が考えられるという点です。

*****ロシアの核攻撃は黒海の島が標的になる可能性、専門家が警告****
ロシアのプーチン大統領は先日、核兵器の使用を含むあらゆる手段でロシアの領土を防衛すると宣言した。この発言を専門家は重く受け止め、世界中で核戦争への懸念が高まっている。

ロシアの核攻撃の具体的な内容を予測するのは難しいが、一部の専門家はロシアがウクライナ軍に対して、あるいは軍の拠点を破壊するために、短距離型の戦術核兵器を投入する可能性が最も高いと語っている。

戦術核兵器は、都市を破壊するために設計された戦略的な長距離弾頭よりもはるかに小さいが、それでも破壊的威力を持つとキングス・カレッジ・ロンドンのセキュリティ専門家ロッド・ソーントン博士は、フォーブスの取材に語った。大型の戦術核兵器の破壊力は、TNT換算で100キロトンに及ぶが、米国が広島に落とした核爆弾は15キロトンだった。

プーチンが、最初の攻撃でウクライナの都市を標的にする可能性は極めて低く、犠牲者を出すことを避けるだろう、とソーントン博士は述べている。ロシアが核攻撃を行う場合、彼らが本気で自衛する意思があることを示す象徴的な意味合いのものになるという。

その標的がどこになるかを予測するのは難しいが、プーチンは戦争の初期にロシアが占領し、その後奪還されてウクライナの抵抗の象徴となった黒海に浮かぶスネーク島を念頭に置いている可能性があると博士は指摘した。

核攻撃の影響は、兵器の種類や使用場所など、その時の状況によって大きく異なるが、たとえ小規模なものであっても、放射能が生存者に長期にわたる健康被害を与え、放射性降下物がヨーロッパやアジアに拡散するなど、広範囲に影響を及ぼすと考えられる。

さらに、放射性降下物がロシアの領土を覆った場合、プーチンは自国の国民を敵に回す可能性があるとソーントン博士は指摘し、ロシアはおそらく降下物を最小限に抑えるよう設計された核兵器を使うだろうと付け加えた。

「プーチンは多くのプレッシャーを受けている」と博士は言い、ウクライナからの反撃や、動員に対する国内での抗議が続いていることを指摘した。さらに、「プーチンが絶望的になり、追い込まれれば、核兵器が使われる可能性は高くなる」と付け加えた。

核兵器の使用を選択すれば、事態をエスカレートさせたくない軍部や他の重要人物からの反発を呼び起こし、プーチンは新たな問題に直面する可能性がある。また、NATOがウクライナへの直接支援に踏み切る可能性もあるとソーントン博士は指摘した。【9月30日 FORBES】
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ただ、実際に核を使用すれば、いよいよロシアにとって“終わりの始まり”となることが想像されます。
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