孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  「文化戦争(Culture War)」の分断 民主・共和党内も更に分断 様々な憶測も

2023-01-21 22:34:13 | アメリカ

(14日、米インディアナ州のアパートの廊下で銃を持つ男児の映像【1月18日 共同】)

【アメリカ「文化戦争(Culture War)に関する最近の話題 銃・中絶・移民からガスコンロまで】
アメリカで、銃規制、人工中絶、移民対策などを争点とした「文化戦争(Culture War)」とも評される厳しい対立・分断が深まっているのは今更の話です。最近の記事から関連のものを拾うと・・・

****米で4歳男児が銃振り回す 父親を逮捕、TVで生中継****
米中西部インディアナ州インディアナポリス近郊のアパート廊下で、男児(4)が実弾入りの拳銃を振り回し、警察は17日までに保護責任者遺棄の疑いで父親(45)を逮捕した。米メディアが伝えた。警察に密着していたテレビ番組の生中継で男児の映像が放送され、衝撃が広がっている。

14日夕、銃を持った男児がいるとアパート住民から通報があった。引き金に指をかけて発砲するふりをする様子が防犯カメラに写っていた。

駆け付けた警察官が男児の住居から銃を押収し、父親を逮捕。弾倉に15発入っていたが薬室に装填されておらず、すぐに発砲できる状態ではなかった。【1月18日 共同】
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日本的には「何を考えているのだか・・・」ということになりますが、銃を子供の玩具にするほど身近に感じる文化がアメリカにはあるということでもあるのでしょう。

銃規制への賛否は分断社会にあっては、相手を識別する試験紙であり、攻撃する材料でもあります。

****米テキサス州、銃器産業「差別」でシティの地方債引き受け禁止****
米テキサス州のケン・パクストン検事総長の事務所は18日、米金融大手シティグループが銃器産業を差別したため、同社による州内での地方債引き受けをほぼ全て禁止したことを明らかにした。ロイターが確認した幹部の書簡で明らかになった。

米共和党はESG(環境・社会・企業統治)投資慣行を巡って金融業界への圧力を強めており、テキサス州の措置はその一環。同州は2021年、銃器産業を差別する法人との政府契約を禁止する法律を施行していた。

同州は18日以降、次に通知するまでシティグループが購入もしくは引き受けを行う公的証券の発行を承認しないとしている。

シティ広報はロイターへの電子メールで「シティは銃器セクターを差別しておらず、テキサス州の法律を順守していると信じている」とした。

フロリダ州の高校で銃乱射事件が起きた2018年、シティは銃器を販売する企業との新たな取引に関し、バックグラウンド・チェックを通った企業に限るとする規則を導入した。【1月20日 ロイター】
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先の中間選挙で、敗北必至とされていた民主党の予想外の善戦を支えたのが厳しい人工中絶規制に反対する世論でした。

この問題では共和党支持者のなかにも厳しい規制に反対する者も一定に存在するようですが、規制強化を求める勢力はもはや宗教的信念となって動かしようもない状況です。

****米首都で中絶反対派が大規模デモ さらなる規制強化要求****
米最高裁が人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた1973年の「ロー対ウェード」判決から22日で50年となるのを前に首都ワシントンで20日、中絶反対派による大規模デモがあった。

最高裁が昨年6月に同判決を覆したことを受け、中絶のさらなる規制強化や胎児の保護を求めて数万人が最高裁に向けて行進した。

一方、バイデン大統領(民主党)はロー対ウェード判決から50年を記念する声明を発表し「基本的な権利を奪い、女性の命と健康を危険にさらした」と昨年6月の最高裁判決を批判した。中絶の権利擁護を全米で法制化する法案を議会が通すべきだと強調した。【1月21日 共同】
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賛否両勢力のせめぎあいが継続しており、中絶規制問題は今後も敏感な政治問題であり続ける様相です。

バイデン政権・民主党にとってアキレス腱となっているのが移民問題対応。
党内左派は移民の人権を重視した寛容な対応を求めていますが、結果として不法移民が急増すれば共和党からの恰好の攻撃材料となります。

バイデン大統領も対応に苦慮しています。

****移民問題、共和に協力要請=政権3年目の課題―米大統領****
バイデン米大統領は政権発足から2年の節目を迎えた20日、ホワイトハウスで演説した。中南米などからの移民急増が重要な課題との認識を示した上で、下院で多数派を占める野党共和党を含め議会に対し「包括的な移民制度改革を可決するよう求める」と呼び掛けた。

共和党は国境管理を統括するマヨルカス国土安全保障長官の弾劾を模索するなど、政権への追及を強めている。バイデン氏は「二つの政党が話し合いもできないままでは米国は維持できない」と述べ、超党派の協力を訴えた。【1月21日 時事】
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もちろん共和党が協力するはずもありませんが、バイデン大統領としては、今後、共和党が協力を拒否して政治問題化させているという批判につなげる布石でしょう。

変わったところでは「ガスコンロ」をめぐる争いも。環境問題の象徴としての「ガスコンロ」のようです。

****「ガスコンロ」の是非で“炎上”…トランプ氏“対抗馬”も参戦「キッチン政治バトル」****
銃の所持や人工妊娠中絶など、さまざまな問題で分断しているアメリカでは、新年早々「ガスコンロ」をめぐって“炎上”している。

今回の特徴は、誰も「禁止」とは言っていないのに、論争となっている点だ。アメリカの「台所」をめぐり、環境問題・エネルギー問題に対する民主・共和の隔たりが改めて浮き彫りとなっている。

発端は「ぜんそくリスク」論文
きっかけは、ブルームバーグ通信のインタビューに答えた、消費者製品安全委員会のコミッショナー、トラムカ氏の発言だ。

ガスコンロからの排気について問われ「隠れた危険だ。いかなる選択肢も検討している。安全が守られない製品は禁止されることもある」と答えたのだ。

2022年末、「全米の子供のぜん息の12%は、ガスコンロからの排気に関係している可能性がある」という研究論文が発表(International Journal of Environmental Research and Public Health)された。そのタイミングでのバイデン大統領直轄の組織の幹部の発言に、ガスコンロで調理をする家庭からは「我が家のガスコンロも禁止になって、買い替えといけないのか?」と不安が広がった。

しかし、「消費者製品安全委員会」は以前から、ガスコンロは有害物質を出す可能性があることに言及しており、新規購入の際にはIHコンロを推奨している。

今回のブルームバーグの記事では、「既存のガスコンロを禁止する」とは発言していないにも関わらず、そのように受け止めらたため、数日後、発言したトラムカ氏本人や、幹部が「既存のガスコンロを禁止する予定はない」と明言し、“火消し”に走った。」

「ガスコンロのために立ち上がる」“フロリダのトランプ”も参戦
これで事態は収束すると思ったが、その後も「ガスコンロを守れ!」と主張しているのが、共和党の政治家たちだ。
そのうちの1人、フロリダ州のデサンティス知事が11日、自身の集会でこのように力強く演説し、支持者から拍手喝采を浴びた。

「誰も私たちのガスコンロを取り上げることはできない!ガスコンロかIHかの選択はあなたの自由だ。料理をする人は、ガスコンロを手放したくないと思うでしょう、だから我々は立ち上がる!」

デサンティス氏は2024年の大統領選挙の共和党の有力候補になるのではないかと目されている、44歳の若きホープだ。その保守的な考え方から「フロリダのトランプ」の異名を持つが、すでに大統領選に立候補しているトランプ氏からはライバル視されている。

いまアメリカで最も注目されている政治家の1人であるデサンティス氏の発言をみても、保守派が「ガスコンロ」を争点化したいことがわかる。

メディアも保守とリベラルで対立「ガスコンロは文化戦争」
そのほかにも、共和党の下院議員も「絶対に手放さない。できるものなら来て取り上げてみろ!」と徹底抗戦のツイートをして話題になった。それに対して民主党議員は「ガスコンロによる悪影響」を主張しSNSで反撃するなど、政争の具になっている。

アメリカメディアも同様の論調で、保守寄りとされるFOXニュースは「ガスコンロが禁止されて調理の仕方が変わるかもしれない!」と危機感をあおるいう論調だが、リベラル派はその逆。タイム誌などは「文化戦争(Culture War)において、保守派がガスコンロを大義名分としている理由」との見出しを取っている。改めて指摘するが「禁止」でもないのに、だ。

おおまかに分けてしまうと、環境対策に前向きなのが民主党で、消極的なのが共和党―特に「トランプ派」と言っていいだろう。

トランプ氏は大統領時代に温暖化対策の世界的枠組みの「パリ協定」から離脱した。気候変動対策より、経済・雇用重視するという姿勢を打ち出し、「アメリカファースト」のイメージを固めてきた。その後、パリ協定はバイデン政権になってから復帰している。

ガスコンロについては、連邦政府は「禁止しない」としているが、リベラル派が主流の自治体では、すでに多くの規制が始まっている。

高層ビルが立ち並ぶニューヨーク市では2021年、「新築の建物はガスコンロ設置を禁止する」という条例が成立していて、2023年に施行される予定だ。

目的は健康問題だけではなく、化石燃料を減らすことが気候変動対策のひとつとしているので、近い将来、「ガスコンロからIHに移行させよう」という流れが、リベラル派・環境重視派からさらに起きるのは間違いないだろう。

食洗器、洗濯機をめぐる”幻”のトランプ・ルール
リベラル派が「環境対策重視」で、保守派が「経済・効率優先」のため対立しているという構図だが、家庭のキッチン周りをめぐる対立はガスコンロが初めてではない。

もともとオバマ政権下でのエネルギー省は、省エネ対策のため「食洗器で使う水の量」、「洗濯機・乾燥機で使える電力の量」に上限を設けていた。

その後、省エネ対策より企業の利益を追求したいトランプ氏が政権を取ると、「もっと早く食器を洗うべきだ!新しい食洗器を買いに行こう」との主張を展開し、演説会場で支持者にこう呼びかけた。
「『60分で終わる食洗器』『30分で終わる洗濯機』などのカテゴリーを設置させた」

これはトランプ氏のキャッチフレーズ「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again)」をもじり、「Make Dishwasher Great Again(食洗器を再び偉大に)」キャンペーンとも報じられた。結局、トランプ政権下で、「高速食洗器」を申請するメーカーはなく、バイデン政権はオバマ時代の基準に戻した。

与野党が対立しているのは、コロナ対策、中絶問題、銃所持問題などさまざまな範囲に及ぶ。今回の問題は、科学的な根拠を政治イデオロギー化して利用してしまう危険性もはらんでいる。2024年に控える大統領選挙に、ガスコンロが「政争の具」として誇張されてしまうと、分断はさらに進んでしまうかもしれない。【1月17日 FNNプライムオンライン】
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【民主・共和党内もそれぞれ二つに分断】
分断は民主・共和のふたつの勢力間だけでなく、それぞれが内部に更なる分断を抱えています。
かねてより民主党には党内急進左派と主流穏健派の対立があります。
一方、共和党におけるマッカーシー議員の議長選出の際の混迷ぶりは、共和党内の分断を明らかににました。

****米下院、強硬派の発言力増す 機能不全でバイデン政権のリスクに****
米下院は7日未明、通算15回目の投票で共和党トップ、マッカーシー議員の議長選出にこぎつけたが、共和党の一勢力の抵抗に振り回された異常事態は今後の議会運営に暗い影を落とした。同党は票と引き換えに保守強硬派に大幅な譲歩も強いられた。

バイデン大統領にとって妥協を拒む野党強硬派の影響力は、下院を機能不全に陥れ、残る任期2年の政権運営へのリスクとなる可能性もある。(中略)

5日まで造反を続けた強硬派20人のほぼ全員はトランプ前大統領に連なる「フリーダム・コーカス(自由議員連盟)」に所属。議連は2015年、民主党のオバマ政権下で勢力を広げた保守系草の根運動「ティーパーティー」(茶会)に後押しされた議員らが創設、党内最右翼に位置する。

マッカーシー氏はそうした強硬派から、大胆な財政緊縮に消極的な「現状維持派」とみなされた。連日の条件闘争では議長解任の動議提出のハードルを下げ、予算案審議に絡む主要委員会のポストを分け与えるなど、のまされた妥協案は同派の発言力を保証するに等しい内容とされる。

保守系紙ウォールストリート・ジャーナルは「大きなリスクは、対立の絶えない状況が今後の政府の基本的機能を危険にさらしかねないことだ」と危惧する。

与党・民主党が上院のみで多数派を維持する「ねじれ議会」の中、法案をホワイトハウスに届けるには、下院での超党派合意は不可欠。だが、下院議長が民主党に妥協を示せば、強硬派は解任動議を脅しに圧力をかける可能性がある。

特に連邦政府の債務上限引き上げに関する審議を使って民主党に歳出削減を迫るのは必至だ。引き上げができなければ既存債務の償還に充てるための国債発行が滞り、デフォルト(債務不履行)につながる。その回避のため、強硬派の要求は無視できなくなる。

強硬派議員は外交的に孤立主義が色濃く、ロシアの侵略と戦うウクライナ向け支援の継続に冷淡な態度を示す。ウクライナの戦闘継続能力も左右しかねない。

米ギャラップ社が昨秋の中間選挙後に実施した世論調査で米議会の支持率は22%と国民の不信は強い。マッカーシー氏が共和党内の分断を克服し、米国や民主主義世界の利益を重視したかじ取り役となるか。内外から厳しい視線が向けられそうだ。【1月7日 産経】
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トランプ前大統領が前面に出た中間選挙の失敗で、共和党内には「トランプ離れ」を模索する動きがあります。

今回、造反議員がトランプ前大統領の呼び掛けにも応じなかったことで、同氏の求心力低下を指摘する向きもありますが、“議長就任後、マッカーシー氏は「特にトランプ前大統領に感謝したい」とも語った。「彼の影響力を疑う人はいないと思う。彼は最初から私を支持してくれた」として、議長選の最後まで連絡を取り合い、造反組の説得に力を借りていたことを明らかにした。”【日系メディア】ということで、トランプ前大統領が少数の強硬派議員を介してトランプ氏が強い影響力を持ち続ける展開も考えられます。

【“不人気・高齢”バイデン氏をめぐる“陰謀説”や“電撃辞任説”も】
この共和党の混乱を喜んでいた民主党でしたが、バイデン大統領に機密文書問題が浮上して慌てています。

バイデン大統領の支持率は低迷しており、高齢による健康問題もあって、もともと民主党内には次期大統領選挙に向けてカリフォルニア州のニューサム知事など「バイデン以外」を模索する動きがありました。

ところが中間選挙の“予想外の善戦”でバイデン大統領が続投に意欲を示すことになり困惑も。
そこてもってきての機密文書問題。 

そんなことはないとは思いますが、機密文書問題は「バイデン降ろし」を画策する民主党内の一部勢力が仕掛けたものではないかとの“陰謀説”もあるとか。

“機密文書持ち出し問題で「バイデン下ろし」陰謀説も…後任候補にカリフォルニア州知事が急浮上”【1月16日 FNNプライムオンライン】

そんなことはないにしても、そんな話が囁かれるような状況だということでしょう。

いずれにしても、不人気、高齢、そして機密文書問題ということで、バイデン大統領をめぐる状況を厳しいものがあります。

次期に向けて党内のバイデン一本化は難しい状況。

一方、「次期大統領選挙に出ない」と言えば、たちどころにレームダック化します。
また、自身の後継者たるハリス副大統領はバイデン氏以上に不人気。予備選を勝ち抜けるのは難しい。
自身が再選に立候補するが、「対立候補がいるなら予備選で決着を着けよう」と言っても、激しい党内抗争がスタートします。

そこで窮余の一策として、即座に大統領を電撃辞任して、ハリス副大統領を大統領に自動昇格させ、バイデン-ハリスラインを維持するという策もあるとか、ないとか。
“米国でバイデン電撃辞任説が急浮上。1月中にもハリスが米国初の女性大統領に?”【1月18日 MAG2NEWS】

まあ・・・・そこまで(不謹慎ながら)面白い展開にはならないでしょうが・・・。
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中国  ゼロコロナからのハードランディングを可能にしている中国政治・社会の“怖さ”

2023-01-20 23:25:39 | 中国
(北京駅前を歩く防護服姿の旅行者(7日)=ロイター【1月15日 読売】 ミニスカート女性と防護服、面白い画像ではありますが・・・)

【習近平主席 政策急転換による混乱を乗り切ったとして、自信を誇示】
ゼロコロナからのハードランディングを決行している中国では習近平国家主席が“今月22日の旧正月を前に政策急転換による混乱を乗り切ったとして、自信を誇示したかたち”とか。

****中国・習主席「非常に激しかったし、感染拡大も速かった」 ゼロコロナ政策の転換以降初の“具体的言及”****
中国の習近平国家主席は18日、国内向けのスピーチで、新型コロナウイルスの感染爆発について「非常に激しかったし、感染拡大も速かった」と述べました。

中国の国営メディアは18日、習主席がオンラインを通じて、新型コロナに感染した患者や医療関係者らをねぎらう様子を報じました。

習主席「重症患者の状況はどうですか?」
医療関係者「先月31日にピークを越え、状況は好転しています」
習主席「今回の新型コロナ感染の波は爆発が非常に激しかったし、速かった。多くの医療関係者は、コロナ予防と治療の両面で戦ってきた」

習主席が国内の感染状況について具体的に言及するのは、ゼロコロナ政策の転換以降初めてです。
中国各地の感染爆発がピークを越えたと伝えられる中、今月22日の旧正月を前に政策急転換による混乱を乗り切ったとして、自信を誇示したかたちです。【1月19日 日テレNEWS】
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実際、中国国内の各地はコロナ前の賑わいを取り戻してもいるようです。

****「夜明けは間近だ」習近平氏がコロナ政策“正当性”アピールも…春節期間中に「死者1日3万6千人も」英調査会社分析**** 
中国の旧正月・春節に向けた、延べ21億人の大移動はピークを迎えた。
春節目前で各地で賑わい

春節にともなう移動の“ピークを迎える”といわれていた19日。北京駅には、大きな荷物を持った帰省客が次々とやって来た。 帰省客:3年ぶりに家族に会うのが楽しみです。

また、かつて“新型コロナの震源地”ともいわれた武漢の街も、賑わいをみせていた。食べ歩きを楽しむ人の姿も、あちこちで見られた。3年前には考えられなかった光景だ。

人気の繁華街付近にある日系の飲食店は、開店したばかりにも関わらず、ほぼ満席になっていた。(中略)

習氏はコロナ政策の“正当性”アピール
良くも悪くも、“コロナ前”とほぼ変わらぬ様子がみられるなか、習近平国家主席は18日、オンラインでさまざまな人との対話を行った。

福建省の高齢者施設に暮らす人との対話では、習主席が「皆さん、新年おめでとう」と挨拶し、一同「習主席、新年おめでとうございます!」と応えた。

満面の笑みで語りかけた習主席。人々は皆、中国国旗カラーのマスクを着用していた。洋服も赤一色だ。

また、黒竜江省にある病院では、医師や看護師らが直立不動のまま、拍手で習主席を迎えた。
さらには、鼻に酸素チューブをつけた入院患者まで登場し、「習主席、ありがとうございます!私の体調はとても良いです!回復はとても早いです!」と述べた。

習主席はこの日の対話で「夜明けは間近だ」と話すなど、自らのコロナ政策の正しさをアピールした。

その一方で、イギリスの調査会社の分析によると、この春節の期間中、中国での死者が1日3万6000人に達する可能性があるという。【1月19日 FNNプライムオンライン】
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【緩和策実施後の死者数を1か月ほどで約6万人とする数字を急遽公表 しかし、それも政治圧力による「過小」】
死者数はこれまでは一日で数人程度とされ、「過少評価だ」との批判も上がっていた中、14日には緩和策実施後の死者数を1か月ほどで約6万人とする数字を急遽公表しています。

春節直前の習近平国家主席の「夜明けは間近だ」とする発言の前に、合併症による死者を感染による関連死と認めることで、実態を反映していないとする国際社会からの批判をかわす狙いがあるとみられています。

****中国のコロナ関連死、1カ月で約6万人 ゼロコロナ政策緩和後****
中国は14日、厳しい「ゼロコロナ」政策を大幅緩和した先月8日から今月12日までの1カ月余りの間に、新型コロナウイルスに関連して死亡した人が6万人近くになったと発表した。同政策の大幅緩和後に死者数が公表されるのは初めて。

中国当局によると、昨年12月8日から今月12日までの間に新型ウイルス関連死として記録された人は5万9938人だった。死者の大半は、基礎疾患のある80歳以上だったという。

死因の内訳は、新型ウイルスに直接起因する呼吸不全による死亡が5503人、基礎疾患と感染が複合的に作用したことによる死亡が5万4435人。この数字は医療
関で記録された死者のみを対象としているため、実際の人数はさらに多いとみられる。

中国国内の病院や火葬場がひっ迫していることを示す証拠があるにも関わらず、中国政府は新型ウイルスによる死者数を過少報告していると広く非難されている。

中国政府は先月、新型コロナウイルスによる死者数には、ウイルスが直接引き起こした呼吸器疾患で死亡した人のみを含めるという、新しい分類方法を採用した。

世界保健機関(WHO)は今月4日、中国政府による新型ウイルス死者のこの定義は「非常に狭く」、「真の影響を過小評価」していると警告した。

中国政府は常に、自分たちのデータは正確だと主張し、WHOに「科学的、客観的かつ公正な立場を守る」よう求めている。

当局によると、入院する重症患者の数は1月上旬にピークに達した。ただ、その後も高い水準で推移している。
当局は農村部での状況を引き続き監視し、感染の早期発見と、重症化リスクのある人への優先的な治療に注力するとしている。【1月15日 BBC】
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中国当局も冒頭の習近平発言を裏付ける見解を公表しています。

****中国「コロナ感染状況落ち着く」、春節の帰省ラッシュ控え見解***
中国当局は、春節(旧正月)の連休に伴う帰省ラッシュが予想される20日を前に新型コロナウイルスとの戦いで最悪期を脱したとの見解を示した。

国営の新華社が19日夜に伝えたところによると、中国のコロナ対策を監督する孫春蘭副首相は「国内の感染状況はこのところ比較的低い水準にある」と指摘。「救助活動はまだ厳しい状況だが、病院の重症患者数は着実に減少している」と述べた。

世界保健機関(WHO)が19日に公表した週次報告書によると、1月15日までの間に中国で新型コロナ感染で入院した人の数は前週から70%増加し、コロナ禍が始まって以降で最高となった。

しかし、中国保健当局は19日の記者会見で、コロナ患者の入院報告数は頭打ちしたとし、1月5日のピークに比べ、17日は重症で治療を受けた人が40%以上少なかったと発表した。【1月20日 ロイター】
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実際、予想されたより早くピークを迎えたようにも見えます。
ただし、それはハードランディングという劇薬のもたらす結果を伴っての話です。

“先月8日から今月12日までの1カ月余りの間に、新型コロナウイルスに関連して死亡した人が6万人近く”という数字もあまり信ぴょう性はないように思われます。

****「死因はコロナ」と書けない中国の医師、政府が圧力か****
北京で新型コロナウイルス感染症の拡大がピークに達していた頃、私立病院で多忙なシフトに入っていたある医師のもとに、印刷された通知が救急部門から届いた。死亡診断書で新型コロナによる呼吸器疾患に触れることを「なるべく避ける」よう医師らに求める内容だった。

ロイターが閲覧した通知のコピーでは、死亡者に基礎疾患があった場合はそれを主な死因として記載するよう指示されている。

新型コロナ感染に伴う肺炎のほかに死因は認められないと医師が考える場合には、上長に報告しなければならない。新型コロナによる死亡と認定されるまでには、さらに2段階の「専門家への諮問」を経ることになる。

取材した公立病院の6人の医師も、新型コロナを死因とすることを控えるよう口頭で指示を受けたか、勤務先の病院にそうした方針があると認識していたとのことだった。

新型コロナで亡くなった人々の親族からも、死亡診断書に死因として書かれていなかったという証言があった。一部の患者は、呼吸器系の症状で病院に行ったにもかかわらず、新型コロナの検査をされなかったと報告している。

「昨年12月の規制解除以降、死因を新型コロナだと分類することはやめている」と語るのは、上海の大規模な公立病院に勤務する医師だ。「ほとんど全員が新型コロナ陽性だから、分類しても意味がない」

こうした指示に対し、世界的な医療専門家や世界保健機構(WHO)からは批判が噴出している。12月に厳格なゼロコロナ体制を放棄して以来、中国国内ではコロナが猛威を振るっているにもかかわらず、死亡例が極端に過少報告されているという批判だ。

中国当局者は1月14日、新型コロナ対策の大転換以来、6万人のコロナ患者が病院で死亡したと発表した。以前に公表されていた数値に比べ約10倍の数字だが、国際的な専門家が100万人を超えると試算しているのに比べれば大きな開きがある。(中略)

<「慎重」な対応を指示>
中国東部の都市、浙江省寧波で働くベテランの医師は、死因を新型コロナとするに当たっては「慎重」な対応を指示されているとし、そのように記載する場合には許可が必要になるだろうと話す。

このような「慎重さ」は、他の疾病を死亡診断書に記載する際には求められないと言う。

上海の大病院に勤務する医師は、今回の「波」が始まって以来、平年の同時期に比べ週単位での死亡率が3―4倍高くなっていると話す。

「死亡診断書では、主要な死因を1つ、副次的な死因を2つか3つ記載する。基本的に新型コロナは書かないようにしている」とこの医師は言う。

「病院からの指示は政府から来ているものであり、従う以外に道はない。私は何か決定できるような立場にはない」【1月20日 ロイター】
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【政府の欺瞞を承知していながら受け入れる社会 多数派の人々は少数派の苦しみをなかったことにして生きていくことに慣れている】
強権的なハードランディングに伴う犠牲者・混乱は非常に大きなものになっていますが、それでも表面上は春節を迎える華やかさで覆われています。

多くの国民も政府発表の数字のいい加減さには気付いているとは思いますが、それでも中国社会では大きな問題とはなっていないようです。

****コロナ感染拡大でドタバタでも中国世論が荒れない事情****
(中略)
それでも中国共産党の危機にならない
では、(デマが飛び交うような世論統制の)この緩みは中国共産党にとっての危機になるのだろうか? 

ゼロコロナを貫くと宣言した舌の根も乾かぬうちの手のひら返し。その後の準備不足が招いたドタバタ。そして、今現在進行しているであろう大量の高齢者の死。いずれも政権の正当性に疑念を抱くに十分な材料に思えるが、それが体制危機にはつながらないというのが筆者の見立てだ。

というのも、中国のソーシャルメディアのリサーチや、中国人からの情報収集でも、怒りよりもあきらめを感じるからだ。ゼロコロナ対策に対する抗議活動「白紙運動」のような怒りは間欠泉のようなもので、一時は盛り上がっても持続させることは難しい。

ましてや、今の中国では若く健康な人にとっては一度感染すれば、後はゼロコロナ対策よりもよっぽど自由で快適となる。高齢者や基礎疾患を持つ人、そしてその家族にとっては不安な日々が続くが、そうした少数派の苦しみに寄り添うムードは社会にはない。

神戸大学の梶谷懐教授との共著『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書、2019年)では、現在の中国の統治思想が功利主義に親和性を持つことを指摘した。監視国家化に傾斜する中国だが、それは多くの人民が日々苦しみにあえぐ強圧的な社会ではなく、少数の人々の犠牲には目をつぶることで大多数の人々は豊かで秩序だった幸福が与えられる社会である。

ゼロコロナ解除後の中国もまさにこの構図にあてはまりそうだ。高齢者や基礎疾患を持つ人々を排除することによって、大多数の健康な人々は長いコロナ禍から脱出し日常を取り戻す。この状況が社会不安につながるかどうかは損をしない大多数の人々が、苦しむ少数派の人々に共感するかどうかにかかっている。

しかし、今の中国では少数派の悲哀は検閲によって覆い隠されている上、多数派の人々は少数派の苦しみをなかったことにして生きていくことに慣れている。ここに中国共産党の統治の強靱さがあるのだろう。【1月18日 WEDGE】
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“少数派の悲哀は検閲によって覆い隠されている上、多数派の人々は少数派の苦しみをなかったことにして生きていくことに慣れている”・・・非常に怖い政治・社会体制です。

【密かに力でねじ伏せられる抵抗者】
春節に浮かれるその陰では、抵抗者への国家権力による厳しい報復が進行しています。

****ゼロコロナデモの女性、失踪状態に 助け求める動画****

ユーチューブに投稿された動画で助けを求める曹芷馨さん(共同)

昨年11月に中国各地で相次いだ「ゼロコロナ」政策に対する抗議デモを巡り、中国当局が参加者を相次いで拘束していると告発する動画がインターネット上で拡散している。参加者の一部が公然と習近平政権を批判したため、態度を硬化させた当局が水面下で取り締まりを進めているもようだ。

ツイッターで20日までに、当局に拘束されたとみられるデモ参加者の女性の動画が出回った。中国の人権問題を扱うウェブサイト「維権網」などによると、女性は北京大学出版社で編集の仕事に従事している曹芷馨(そう・しけい)さん(26)。曹さんは「皆さんがこの動画を見ているとき、私は既に警察に連行されている」と述べ、自分が行方不明になったら動画を公開するよう友人に頼んだと説明した。

曹さんは、ゼロコロナ政策に基づく封鎖措置で被害が拡大したとされる新疆(しんきょう)ウイグル自治区ウルムチ市の火災の犠牲者を追悼するため、昨年11月27日に北京市中心部で行われたデモに友人と参加。その後、警察に拘束されて取り調べを受けた。その際は解放されたが、12月18日に複数の友人が逮捕され、曹さんは24日に消息を絶ったという。

曹さんは動画で「私たちは現場で秩序を守り、警察との衝突も一切なかった」と強調。「私たちは、いわれもなく消え去りたくない」と助けを求めた。

動画は、曹さんら計13人のメディア関係者らが昨年12月10日から今年1月7日にかけて連絡が途絶えたと指摘している。中国当局は、デモ参加者に対する対応について明らかにしておらず、拘束の実態は不透明となっている。【1月20日 産経】
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南インド ド田舎ホームステイ 怪しい女医さんと高すぎるバナナ

2023-01-19 02:27:16 | 南アジア(インド)

(ボートから眺めた村のアーユルヴェーダマッサージセンター)

南インド・ケララ州のマンロー島、そのまたド田舎の農村でホームステイしています。

ボートトリップなどのほかには特にやることもないし、あまり動き回りたくもないので、村のアーユルヴェーダセンターみたいなところでマッサージとシロダーラをしてもらうことに。

両方で3500ルピー(送迎付き 約1時間半)にディスカウント。日本円で約6000円

アーユルヴェーダはインド古来の伝統医療体系ですから、マッサージも医療の一部。
最初に女性ドクターから問診があります。

問診とはいましたが、ほとんど世間話。
「インドの食事はどうか?」「日本では生魚を食べるそうだが、どうか?」「寿司で使うグリーンペーパーは何か?」
といった話ばかり

私の英語力にレベルをあわせたのか?

こちらから、腰の具合や皮膚の具合などを話すも反応はイマイチ

「ドクター」と言っていましたが、本当でしょうか?
こんなド田舎にドクターがいるのか?

推測するに、問診というのは雰囲気を盛り上げるための、素人による演出ではないでしょうか。
別に私はそれでかまいませんが。

マッサージ・シロダーラの話は、別途旅行記の方で。

ホームステイなので食事はいたって質素。
ごはんとカレー1種類といった程度

ちょっと小腹がすいたので、村のお店でバナナを購入

バナナなんてそこらに溢れています。どの家の庭にも必ずあります。
そんなありふれたものなので、さぞ安かろう、タダみたいなものでは・・・・と思ったのですが、1本10ルピー
(約16円)

(1ルピー=1.6円とのことですが、実際の空港両替では2円以上でした。多くの国がそうですが、空港両替は最悪。どうしても現地通貨が必要な入国者の足元をみたぼったくりです。)

日本でもスーパーで安いバナナを買えば、1本あたりでその程度のものも。

ちなみに、
大きなボトルの水が20ルピー
シャンプーの1回分小分け包装が2ルピー
蚊取り線香10巻が30~40ルピー程度
列車内販売でチャイ(ミルクティー)が10ルピー
駅前のローカルな食堂で、チキンビリヤニが120ルピー
ホームステイ料金が1泊1350ルピー
ボートトリップは1000ルピー

それらと比べても、そこらに溢れているバナナが1本10ルピーというのは、ちと高い気がします。
外国人価格でしょうか?

味は・・・硬いけど、まあまあ。

そんなこんなで南インドのド田舎生活を楽しんでいますが、これから帰国準備にはいります。

無事帰れるでしょうか? でも行きのときよりは気楽。
帰れないときはそのときで・・・・って。 
でもどうするんだ?
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インド  ヤシの国ケララ州の水郷地帯でボート三昧

2023-01-17 22:19:59 | 南アジア(インド)
現在旅行中の南インド・ケララ州は、“ケララ”が「ヤシの大地」という意味ということで、私が大好きなヤシの木で溢れています。

もうひとつの特徴は“バックウォーター”として知られる水郷地帯ということ。大きな運河から村の細い水路まで、さまざまな水路がいっぱい。

ということで、今回旅行では、ヤシの木など眺めながらのボートトリップを楽しんでいます。

ボートも大小いろいろあります。

最初は豪華なハウスボートをチャーターしての優雅なバックウォータークルーズ。アレッピー発着。
ガイドブックにも必ず紹介されている有名どころのアクティビティです。

ハウスボートというのは「ハウス」と言葉のように「家」のイメージ


個室の寝室もあります。もちろんその室内にはトイレ、シャワーも
ハネムーンのカップルには最適(1泊あるいは数泊することもできます)
今回は半日コースで。



クルーズする水郷地帯の様子は



ケララ州(「ヤシの国」「ヤシの大地」の意味)だけあって、ヤシと水の景色


4時間ほどのクルーズを終えてホテルにもどる途中で夕日撮影も。


次はコーチンから百数十km南に下ったマンロー島

そのマンロー島の「ド田舎」の村でホームステイ。(村の中の行き来は、民家の庭先をつないだ通路のようなもので行いますので、車は家の近くには入って来れません)

この地での一番のアクティビティはボートトリップ 
ヤシなど緑濃い村の水路を2時間ほどめぐります。

使用するボートはこんな感じ。



村の中ですから生活用のたくさんの橋があります。 身をかがめて、時には船底にはいつくばって潜り抜けながら進みます


水に浮かぶ生首・・・・ではなく、漁をしている男性 網に魚を追い込むのでしょうか


自然を満喫できる、美しい景色、のどかな村のなかのボートトリップでした。


豪華なハウスボートもローカルな小舟も、緑濃い自然によって、普段の生活でたまったストレスも消えていく・・・・かな?
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中国  変わる国民の意識 競争意識・拝金主義は次第に過去のものに

2023-01-16 22:21:27 | 中国

(最低限の生活をする。自分の為だけに生きる「寝そべり族」 【2021年6月7日 COURRiER Japon】

【中国政府 中国経済回復が世界経済の回復推進の強い原動力になることに強い自信を示す】
中国政府は「ゼロコロナ」からのハードランディングにより、中国経済が力強く回復し、世界経済を牽引することになるとの自画自賛的な見解を明らかにしています。

****中国経済・社会のエネルギーは世界経済回復の原動力―中国外交部****
外交部の汪文斌報道官は13日の定例記者会見で、「ニーズの回復と政策の効果が発揮されることで、中国経済と社会のエネルギーがより放出され、世界経済の回復推進に強い原動力を注入していくだろう」と表明しました。

報道によりますと、国際通貨基金(IMF)総裁は中国に経済の再開を促し、中国が以前のゼロコロナ政策を現在の防疫政策に切り替えたことが、2023年の世界経済の成長にとって非常に重要な要素だと指摘したということです。

汪報道官は「中国政府は科学的な評価に基づいて疫病の予防・抑制措置を自ら最適化・調整し、国際社会から広く歓迎されている」と述べました。

汪報道官はまた、「国際社会は、中国の動きによって世界経済の成長に対する信頼が高まり、世界経済の回復と発展が支えられていると考えている」と述べ、このほど、多くの国際投資機関が予測する2023年の中国経済の成長率が次々と引き上げられていることについて触れました。

また、在中国米国商工会議所や英国商工会議所、ドイツ商工会議所など多くの外国人在中国商工会議所が、中国の防疫政策の調整が国内外の人的往来やビジネス旅行の回復、市場の楽観的なムードを回復させるのに役立ち、中国が引き続き外資の優先的投資先と見ているという見解を示しました。

そのうえで、「中国の入国政策のさらなる最適化は、地域経済や世界貿易にとってメリットであることは明らかだ」と述べました。【1月16日 レコードチャイナ】
**********************

(ことの是非は別にして)中国のような国でないとできないハードランディングに伴う大きな混乱はあったにしても、中国経済が回復し、それによって世界経済が牽引されるというのは、ある程度事実でしょう。

【中長期的には、これまでのような高い成長率を望めない人口動向 背後には国民の意識変化も】
ただ、より中期的、長期的に見た場合、そうした中国の高い成長率、世界経済を牽引する大きな影響力を今後も期待できるか・・・ということでは、やや疑問もあります。

その大きな要員の一つが減少に転じ始めた人口動向、高齢化の進行であることは、多くの指摘があります。

単に出生率低下・高齢化といった数字的な問題にとどまらず、その背後にある中国国民自身が感じ始めた「将来に漠然とした不安」が社会・経済を大きく変える要因になっていることが推測できます。

****中国が米国を超える大国にはなれない理由、根底から揺らぎ始めた中国社会****
中国の人口は本年(2022年)にも減少に転じるとされるが、その詳細についての考察は少ない。ここでは7月に国連人口局が発表したデータを基に、中国社会に重大な変化が起きていることを示したい。
 
(中略)その中国の団塊の世代は2023年以降に次々に60歳を迎えて定年退職する。中国の労働人口はこれから数年間の間に急速に減少する。

出生数が急速に減少
ただ、ここで注目したいのは人口の高齢化ではない。出生数の急激な減少である。
 
中国では2018年以降に出生数が急減しており、それは大躍進政策の失敗に伴う減少にも匹敵する。出生数の減少は1970年代や90年代にも生じたが、それらはベビーブームの終焉によるものであり、平常状態への回帰と言ってよい。

(中略)このところ一部では中国が公表する人口は過大ではないかと疑われている。教育や福祉に関する予算が子供の人数に応じて分配されるために、地方政府は多めの数字を中央に報告する傾向にあり、それをそのまま集計すると実際より人口が多くなってしまうという疑惑である。

ここでその真偽を論じることは難しいが、そんな中国においても、出生数が急速に減少していることを報告せざるを得ない状況にあるようだ。

中国の奇跡の成長を支えたもの
この出生数の急速な減少は、中国で大躍進政策の失敗に匹敵するほどの大きな変化が進行していることを示している。
 
1978年に改革開放路線に舵を切った後に中国は奇跡の成長を遂げた。奇跡の成長を達成する上で、地方政府が農地の収容に伴う利益を独占して、その利益を道路や橋の建設に投資することは重要な役割を果たした。

道路や橋が作られて都市が拡大すると、農地の収容によって得られる利益も増加した。中国の奇跡の成長は地方政府による農地収容を媒介にした過剰投資を原動力にしたものだった。
 
それは不動産価格の高騰を招き、人々は不動産バブルを利用して富を蓄積しようとした。最初そのような行為は富裕層だけに留まっていたが、習近平が政権の座についた2012年頃から、一般庶民にまで広がっていった。その不動産バブルは昨年から崩壊に転じ、出口が見えない混乱が始まった。
 
中国の奇跡の成長のもう1つの原動力は、農村の若者を農民工として利用したことにある。安価な労働力は中国の輸出産業を支えた。

だが、現在、それも最終段階に来ている。中国の今年の大学卒業者数は1000万人とされる。今年大学を卒業する者は2000年前後に生まれたと思われるが、その頃の出生数は約1700万人である。大学進学率は6割近くになり、日本を上回っている。
 
このことは、農村部でも多くの若者が大学に進学する社会が出現したことを示している。あの貧しかった中国の農村でも多くの若者が大学に進学するようになった。それに要した時間は40年ほどである。これは奇跡と言ってよい。だが、成功した結果として、安価な労働力が消え失せてしまった。

将来への漠然とした不安
不動産価格が高くなりすぎて、若者がマンションを買うことができなくなったことは、出生数減少の第1の理由とされている。中国では結婚に際して男性が住居を用意しなければならないとする慣習がある。しかしマンションが高くなり過ぎて、男性はマンションを用意することができない。その結果として婚姻数が減少した。
 
また第2の理由として、教育に多額の費用がかかることがある。1人の子供を大学に行かせるだけでも大変である。これも少子化の原因とされる。
 
ただ、それらは表面的な理由であろう。真の原因は多くの人が心の底で中国の奇跡の成長は終わったと思うようになり、その結果として現状に不満を抱くとともに、将来に漠然とした不安を持つようになったためと考える。

昨今よく話題になる「寝そべり族」なる言葉は、多くの人が現体制に不満を持ち、行き詰まりを感じていることを端的に示している。
 
農村の多くの若者が都市に出て大学教育を受けるようになったが、時を同じくして不動産バブルが崩壊したことによって失業率が上昇し始めた。そんな状況では、今後、婚姻数はますます減少しよう。当然の結果として出生数も減る。
 
国連は人口予測において低位、中位、高位の3つのシナリオを用意しているが、このような状況に鑑みるに、今後、中国の人口は低位推計で推移する可能性が高い。低位推計では2030年の出生数は686万人にまで減少する。

建国100周年、2049年の人口ピラミッド
この秋の党大会で習近平は3期目に突入するとされる。それは中国共産党が現状維持を選択したことを意味する。これまでの成功があまりにも素晴らしかったために、共産党のエリート層は現体制に変わるシステムを考えることができない。

そして彼らは現体制における利益の享受者でもある。自分たちでこれまでのシステムを変更することはできない。
 
ここに共産主義の最大の欠点がある。民主主義と市場主義を組み合わせた社会では、紆余曲折はあるもの、それまでの体制がうまく動かなくなったときには、体制を変革しようとする動きが生じる。しかし共産主義ではそのような動きは一切封じられる。

出生数の急速な減少は、中国が米国を抜いて世界最大の強国になるのは不可能であることを示している。

(中略)2049年は建国100周年にあたり、中国共産党が密かにその年までに米国を抜き去り世界最大の強国になることを目指しているという年である。だが、その時の人口ピラミッドはかくも不安定なものになる。それは老大国の人口ピラミッドであり、世界をリードする国のものではない。
 
ここに述べたことは日本企業に対する警鐘になっている。図3のような人口ピラミッドを有する国では、老人介護ビジネスは発展の余地があろうが、若者が消費する自動車やスマホは売れない。
 
日本には中国はいまだに有力な市場だと主張する人々がいるが、急減する出生数はそれが間違った予測であることを示している。【2022年8月15日 川島 博之氏 JBpress】
*********************

【時代背景の変化が若者の行動様式を変化させた そのことで時代は更に変化】
中国経済・社会の根底にある「寝そべり族」といった気質の変化は、経済・社会変化の結果でもあるでしょう。

****あの貪欲さはどこへ「儲け話はないか?」と言わなくなった中国の若者たち****
この10年間、経済が停滞してほとんど変化らしい変化のない日本社会とは違い、中国ではあらゆるものが大きく変化しています。

たとえば都市部の労働者の最低賃金は倍近くに増え、家賃も倍以上になりました。また、ごみを分別するようになるなど、10年前の中国人に言ったらとても信じてもらえそうにない変化も少なくありません。

その中で、筆者が強く感じている若者の変化があります。経済成長に伴い、若者は、より活動的で積極的になったのか? その逆です。仕事や収入に関して以前ほど興味を持たなくなっているのです。
 
かつての中国の若者はみんな競争心が強く、社内でも昇進への強い意欲を持っていました。誰もがお金に餓え、儲け話に飛びついたり、自ら会社を設立して一攫千金を狙う若者が数多くいました。
 
それが最近は、独立起業はおろか、社内での昇進にもあまり関心を示さない若者が多くなってきています。また「寝そべり族」(中国語で「躺平族」)に代表されるように、必要最低限の労働と消費で暮らそうとする若者も現れるなど、もはや競争意欲のない若者の方が多数派に見えます。
 
一体なぜ中国の若者はおとなしくなったのか。今回はその背景について探ってみたいと思います。

必ず聞かれた「儲け話はないか?」
まず、10年くらい前の中国の若者がいかに貪欲であったか、筆者の実体験を交えて紹介しましょう。
 
前述の通り、かつての中国の若者は競争心に溢れ、特に自分の収入を増やすことに異常なほどに執着していました。少しでも収入を増やすため、株式投資やサイドビジネスに手を出すのは当たり前ですし、企業に勤めつつ自分の会社を立ち上げることも一般的でした。勤務先についても、少しでも給与条件の良い仕事を求めて転職を繰り返す者が後を絶ちませんでした。
 
当時、筆者は中国の若者と話をすると、ほぼ必ず「何か儲け話はないか?」と尋ねられたものです。初対面の人物から「お前の給与はいくらだ?」と露骨に聞かれ、教えた給与額が高ければ「俺にもその仕事を紹介してくれ」と、図々しく頼まれることもよくありました。
 
端的に言って、当時の中国の若者は拝金主義的な価値観が明らかに強くありました。筆者の上海人の友人も、「『お金イコール幸せ』じゃないけれど、最低限、お金がないと人は幸せにはなれない」と言い、起業の必要性を筆者に力説していました。

競争を忌避するようになった若者たち
こうした体験から、当時、筆者は「中国人は競争心が強く、拝金主義的な国民性なのだ」と本気で思っていました。しかし約10年の時を経た現在、ああした価値観は一過性的なものに過ぎなかったと考えを改めつつあります。
 
というのも、現代の中国の若者が拝金主義的な行動を取らなくなっているからです。
出世や起業に関してあまり関心を持たないどころか、競争を忌避して、安定を強く求める若者が確実に増えてきています。
 
実際に何人かの中国の20代の若者に、仕事に関する価値観を尋ねてみたところ「収入は多いに越したことはないけど、ある程度あれば十分だ」との答えが返ってきました。中には「仕事内容がきつくなるのなら、出世しなくていい」と言う人もいました。
 
また、以前のギラついていた若者との比較を筆者が口にしたところ、「昔の人たちは競争心にまみれ過ぎている」と言い、「一緒にしてほしくない」というような態度も見受けられました。
 
さらに、「周りに起業したり独自にビジネスをやっている知り合いはいないのか?」と尋ねてみたところ、「いないわけではないが、1人か2人程度で、ごく少数」とのことでした。もしも10年前に同じ質問をしていたら、「いくらでもいるよ」という答えが返ってきていたことでしょう。

大人しくなったのは若者だけじゃない
実は、こうした変化は若者に限りません。かつてギラついていた以前の若者たち、すなわち今の中高年にも当てはまります。
 
たとえば筆者に起業の必要性を説いた前述の上海人に、「最近は儲け話をしてこないね」と振ったところ、「今は普段の仕事や家庭に追われ、ビジネスについて考える余裕がない」とのことでした。
 
続けて、起業した連中が今どうなっているのか聞いてみると、「成功した人も一部いたが、大半は現実を知ってサラリーマンに戻っている」と悲しくなるような現況を教えてくれました。

変わったのは若者ではなく時代
以上の通り、中国では老いも若きも競争心や向上心が薄れる傾向にあります。
 
筆者自身も、以前のように初対面で給与額を聞かれることはなくなりましたし、怪しい儲け話を持ちかけてくる連中も見なくなりました。また筆者が働く会社でも、年齢を問わず全体的に競争心が弱くなっているように見えます。
 
こうした変化はなぜ起きたのでしょうか。
筆者のある中国人の友人に尋ねたところ、「変わったのは若者ではなく、時代や社会じゃないか」との答えが返ってきました。
 
その友人によると、2000年代の中国はGDP成長率が毎年2桁を維持しながら、社会が未成熟だったこともあり、ビジネスチャンスが溢れていました。しかし時代が進むにつれ、経済成長は鈍化し、社会も成熟していったことから、起業するチャンスやメリットも目に見えて低下していきました。
 
こうした環境の変化を受ければ、若者が起業を志さず、競争心を失うようになるのはごく自然だと言うのです。言い換えれば、「社会にチャンスが数多くあり、挑戦するメリットが大きかったからこそ、中国の若者は貪欲だった」ということです。
 
若者を取り巻く時代背景の変化が若者の行動様式を変化させた、というのは頷ける見方です。むしろ規制が緩く、何でもありだった以前の時代の方が特殊な時代だったということかもしれません。(後略)【1月16日 花園 祐氏 JBpress】
***********************

経済・社会状況が変われば国民の考え方、気質も変わる。そしてその変化は更に経済・社会を変えるというのは中国でも日本でも同じです。変化速度が中国の方が格段に早いということはありますが。

そして日本の場合、そうした変化の結果が「失われた20年、30年」であり、衰退途上国とも評される日本の現状でしょう。

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トルコ  北欧2か国のNATO加盟問題で強気姿勢 シリアでもクルド人勢力へ圧力強化

2023-01-14 12:13:22 | 国際情勢
(逆さづりされたトルコ・エルドアン大統領の人形=12日、スウェーデン・ストックホルム【1月13日 共同】)

【北欧2か国のNATO加盟問題で強気姿勢を崩さないトルコ】
北大西洋条約機構(NATO)加盟を申請しているスウェーデン、フィンランド両国と、加盟国であるトルコの協議が難航しています。

トルコが難色を示している理由は、周知のように北欧2カ国のクルド人への対応へのトルコ側の不満が強いためです。トルコからすると北欧2カ国はテロリストをかくまっている・・・・という見方にもなるようです。

トルコにとっては、この問題は国内向けにアピールできるだけでなく、欧米に対する格好の交渉材料ともなっています。それだけに強気です。

****NATO加盟条件は「テロリスト」送還 北欧2国とトルコの協議難航****
北大西洋条約機構(NATO)加盟を申請しているスウェーデン、フィンランド両国と、加盟国であるトルコの協議が難航している。

トルコがNATO加盟を認める条件として、トルコ政府と対立する非合法組織「クルド労働者党」(PKK)の関係者ら数十人の送還を求めているからだ。トルコのエルドアン政権は交渉に妥協しない姿勢を示し、国内での支持率向上を狙っている。
 
「トルコがいつ(NATO加盟を)国会で批准してくれるのか、見えてこない」。フィンランドのハービスト外相は今月8日、ブリンケン米国務長官、スウェーデンのビルストレム外相との会談後、記者会見で厳しい表情を見せた。
 
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、北欧2国は5月、安全保障強化のためにNATOへの加盟を申請した。だが、加盟には全加盟国の国会での批准が必要だ。加盟30カ国のうち批准していないのはハンガリーとトルコだが、ハンガリーは来年初めにも批准する見通しで、障害はトルコだけとなっている。
 
北欧2国は6月下旬、トルコと加盟批准に向けた覚書を交わした。覚書には批准の条件として、2国がトルコへの武器禁輸措置を解除することのほか、トルコが「テロリスト」とみなすPKKやPKKに近いシリアのクルド勢力の関係者らの送還を検討することが記されている。
 
トルコへの武器禁輸措置は既に解除されているが、問題は「テロリスト」の送還だ。フィンランドにPKK関係者は少ないが、スウェーデンは1990年代以降、多くのPKK関係者らの政治亡命を受け入れてきた。スウェーデンのクルド人は約10万人とされ、多くがトルコ出身者だ。
 
反体制派を厳しく取り締まるトルコと、言論の自由などを重視するスウェーデンでは「テロリスト」の定義が異なり、両者の溝は深い。

スウェーデンの最高裁は7月、同国の永住権を持つトルコ人に対し、トルコ政府の送還要求を拒否する判決を出した。スウェーデン政府は送還について「国内法、国際法に則って対応する」との姿勢を崩していない。

一方、トルコはPKK関係者が少ないフィンランドについては加盟を批准する意向を示し、スウェーデンに圧力をかけている。

また、トルコメディアによると、トルコは6月以前は2国に「テロリスト」約30人の送還を求めていたが、その後は約70人に増えており、ハードルが上がっている。トルコのボズダー法相は今月5日、2国は「トルコが求めるテロリストを全員送還すべきだ」と強調した。
 
トルコ側に交渉妥結を急ぐ理由はない。トルコでは大統領選が来年6月に控えており、それまでに2国から「譲歩」を引き出せば、エルドアン氏の支持率向上につながるからだ。

また、この交渉は2国のNATO加盟を支援する米国に対し、トルコが要求しているF16戦闘機の供与やシリア北部への軍事侵攻の許可を引き出す材料としても使える。
 
中東政治に詳しいベルギーのシンクタンク「民主主義のための欧州財団」のマグヌス・ノレル客員研究員は、「トルコが来年6月より前に2国の加盟を批准する可能性は低い」と分析した上で、「たとえスウェーデンが譲歩したとしても、トルコは要求をつり上げるだろう」と指摘する。
 
一方、ブリンケン米国務長官は今月8日の記者会見で、両国が「間もなく(NATOの)正式な加盟国になるだろう」と述べ、交渉妥結への自信を示している。【12月12日 毎日】
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【スウェーデン最高裁、トルコ人引き渡し拒否 トルコは更に対応硬化】
北欧側も、人権にかかわる問題での安易な妥協はできません。
スウェーデン最高裁は12月19日、トルコ政府から2016年のクーデター未遂事件に関与したと訴えられているトルコ人男性の身柄引き渡しを阻止したことを明らかにしています。

****スウェーデン最高裁、トルコ人引き渡し拒否 クーデター未遂巡り****
 スウェーデン最高裁は19日、トルコ政府から2016年のクーデター未遂事件に関与したと訴えられているトルコ人男性の身柄引き渡しを阻止したことを明らかにした。

最高裁は、男性が在米イスラム指導者ギュレン師の支持者でクーデター未遂に関与したとトルコで訴えられていると指摘。トルコ政府の主張は政治犯罪に一部関係しており、政治的な見解を理由とする迫害の恐れがあるとの見解を示した。

トルコ政府はギュレン師がクーデター未遂事件の黒幕だと主張しているが、ギュレン師は関与を否定している。

フィンランドとスウェーデンはロシアによるウクライナ侵攻を受け北大西洋条約機構(NATO)に加盟を申請したが、加盟にはトルコを含めNATO30カ国全ての承認が必要。トルコ政府は両国の加盟を認めるために必要となる一連の条件を提示している。【12月19日 ロイター】
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トルコ側は反発しています。

****トルコ外相 ジャーナリスト引き渡し認めない判断を非難 スウェーデンNATO加盟に「非常に良くない展開」****
(中略)AFP通信によりますと、トルコのチャブシオール外相は20日、スウェーデン最高裁の判断について「非常に良くない展開」だと非難しました。

チャブシオール外相は、今月初めにスウェーデンからクルド人武装勢力のメンバーとされる男性1人が引き渡されたことについて、「もし1人を引き渡せば問題が解決すると思っているのなら、それは現実的ではない」と話して、トルコ側の承認を得るには不十分だと強調。「良い言葉ではなく具体的なステップが見たい」と話したということです。

また、チャブシオール外相は22日にトルコを訪問予定のスウェーデンの外相と議論するとしています。【12月21日 TBS NEWS DIG】
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【動揺するクルド人 スウェーデン政治状況に変化も】
一方、取引の材料とされかねない北欧のクルド人は動揺しています。ただ、スウェーデン政権にもクルド人へ配慮せざるを得ない政治事情もありました。

****スウェーデンのクルド人動揺 NATO加盟申請で****
クルド人団体は主要な避難先を失いかねないと不安を募らせる

スウェーデンは長い間、イスラム革命から逃れてきたイラン人や独裁政権から逃げてきたチリ人など、難民や反体制派にとって安全な避難先となってきた。国際舞台で同国が調停役としての名声を得ている理由でもある。
 
だが現在、そうした門戸開放政策が、ロシアのウクライナ侵攻を受けたスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟を複雑なものにしている。トルコは、トルコとシリアの国境にまたがる場所に国を築きたいと考えるクルド人組織とスウェーデンが接触していることを理由に、NATO加盟に反対している。
 
トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は、クルド人武装勢力を含むテロリストをかくまっているとしてスウェーデンとフィンランドを非難している。

ここストックホルムのクルド人団体は、スウェーデンがフィンランドと共にNATO加盟を申請することで自国の安全保障強化に動く中、主要な避難先を失いかねないと不安を募らせている。加盟するにはトルコを含むNATOの全30加盟国の承認が必要だ。
 
「われわれはクルド人として、NATO加盟を決めたスウェーデンの決定を尊重する。だが、NATO加盟やトルコとの関係がわれわれの犠牲の上に成り立つことは望まない」。シリア北東のクルド自治区の北欧代表、シーアー・アリ氏はこう話した。

トルコと米国の当局者によると、エルドアン氏は長年、スウェーデンがトルコの反政府武装組織クルド労働者党(PKK)と関係のあるシリアのクルド人組織のメンバーと接触していることを懸念している。

PKKは米国やトルコ、スウェーデンを含む欧州連合(EU)からテロ組織と見なされている。他の欧米諸国と同様、スウェーデンはPKKと他のクルド人団体を区別している。
 
トルコはスウェーデンに対し、武装組織との関係を断ち切り、メンバーを引き渡すよう求めている。
 
スウェーデンがトルコの求めに応じるとみる専門家はほとんどいない。スウェーデン外務省は事態打開に向け引き続き外交努力を続けているとしている。

だが、クルド人活動家の中には、トルコに反対するクルド人団体メンバーに対してスウェーデンの治安当局が強硬姿勢を強める可能性があると懸念していると話す人もいる。昨年にはクルド人の2児の母親が国家安全保障の脅威だとして国外退去を命じられた。

公式統計はないが、スウェーデンにいるクルド人は約10万人とされ、全人口の約1%に相当する。
 
スウェーデンに定住している多くのクルド人は高学歴で、政治活動も活発に行っている。市民社会に関わり政界にも進出するようになった。スウェーデンの国会議員のうち6人がクルド系だ。学校では母語としてクルド語の主要な方言を学ぶことができる。
 
トルコにとっての不満は、スウェーデンの政治家が、PKKの一派とトルコがみるクルド人民防衛隊(YPG)と面会を重ねていることだ。

YPGはシリアのイスラム国に対する作戦において陣頭指揮を執り、スウェーデン軍が支援する米国主導の有志連合から武器と軍事訓練を受けた。YPGの政治部門であるクルド民主統一党(PYD)がシリア北東の自治を担っている。
 
ストックホルムにあるクルド人コミュニティーセンターの代表は、YPGをウクライナ人に例えた。「彼らに罪はなく自分の身を守っている。イスラム国は人類に対する脅威だ」

前出のアリ氏は、自身の組織がPKKの一部と「思想的なつながり」をもつが、正式な関係はないと話した。独立した専門家によれば、両者は一段と接近しつつある。イラクでのトルコ軍による作戦で圧力を受けているPKKはメンバーをシリアに集めている。
 
クルド人の大義を支持する人たちは現在、スウェーデン国内の非常に大きな政治的影響力から恩恵を受けている。マクダレナ・アンデション首相率いる連立政権は、たった1人の議員の票で過半数を得て成り立っている。クルド系でイラン生まれの元ゲリラ兵、アミネ・カカバベ議員だ。シリア北部のクルド自治区との協力強化を政府に促してきた。

カカバベ氏は、どんなものであれエルドアン氏の要求を政府がのむなら、予算や政権の続投に賛成票を投じるつもりはないと明言する。同氏は7日、法相に対する不信任決議案の採決で決定票をもっていたが棄権し、政権存続に一役買った。政府がトルコに対して一歩も引き下がらないとの確約を得たためだという。
 
とはいえ、カカバベ氏の姿勢を踏まえると、トルコが今後も要求を続けた場合、スウェーデンのNATO加盟は選挙のある9月までずれ込むかもしれない。同氏が再選しても、選挙の結果次第ではその影響力が薄れる可能性がある。(後略)【2022年6月9日 WSJ】
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単なる難民保護ではなく、スウェーデン国内政治においてクルド人の影響力は相当に大きなものがあるようです。
しかし、その後スウェーデンでは中道左派政権から移民に厳しい極右政党が閣外協力する中道右派政権に代わっていますので、事情はやや変化しています。

【クルド人側には逆効果も懸念される過激な行動】
危機感を強めるクルド人側は一部に過激な行動も。

****クルド人団体がエルドアン氏逆さづり動画 トルコ、スウェーデンに抗議****
スウェーデンに拠点を置くクルド人団体がトルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領を逆さづりにする動画を投稿したことを受け、トルコ政府は12日、スウェーデン大使を呼び出して厳重に抗議した。
 
スウェーデンは現在、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて北大西洋条約機構加盟を目指しているが、加盟国のトルコが難色を示しており、本件により加盟実現が遠ざかる恐れがある。
 
クルド人団体は11日、第2次世界大戦中のイタリアの独裁者ベニト・ムソリーニの処刑写真と、エルドアン氏を模した人形が逆さづりになっている場面を映した動画をツイッターに投稿。

「独裁者の末路は歴史で示されている」「エルドアンは今こそ辞任する時だ。(トルコ・イスタンブールの)タクシム広場で逆さづりにならないようこの機に辞任せよ」とキャプションを添えた。【1月13日 AFP】
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こうした過激な行動は、トルコの対応を硬化させ、スウェーデン国内のクルド人への風当たりを強くするだけではないでしょうか。

【シリアでもクルド人への圧力を強めるトルコ シリア政府との関係改善に向けた動き】
トルコは、上記のように北欧のクルド人対応に圧力をかける一方で、シリア・アサド政権との関係を改善して、シリア北部のクルド人勢力への圧力を強めています。

****トルコとシリア、首脳会談の可能性 新和平で=エルドアン氏****
トルコのエルドアン大統領は5日、シリアとの新たな和平プロセスの一貫として同国のアサド大統領と会談する可能性があると明らかにした。両国は対立しているが、先週には2011年のシリア内戦開始以来で最高レベルとなる国防相の会談が実現した。

10年以上に及ぶシリア内戦で、トルコは反政府勢力を支援しているのに対し、ロシアは政府側を支援している。内戦により数十万人が死亡、数百万人が避難を余儀なくされ、地域や世界の各勢力が介入している。ただ、戦闘は当初に比べて沈静化している。

エルドアン氏はアンカラで演説し、モスクワで行われた国防相会談という節目の次の一歩はトルコ、ロシア、シリアの外相会談による交流促進になると発言。「外相会談を実現した後、状況次第になるが首脳会談を行う」と述べた。【1月6日 ロイター】
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(中略)アサド政権排除の急先鋒(きゅうせんぽう)だったトルコは、昨年からエルドアン氏がアサド政権との関係改善に言及するようになった。
 
トルコにとっては、シリアとの国境沿いを支配するクルド人勢力の排除が安全保障上の最優先課題だ。ロイター通信によると、トルコ政府高官は「(シリアとの国防相会談で)クルド人勢力などのテロリストに対してどう共闘できるかが議論された」と明かした。
 
また、トルコでは今年6月までに大統領選が予定されている。350万人以上いるシリア難民にトルコ市民の反発が強まっており、エルドアン氏は、アサド政権との対話で難民帰還への取り組みをアピールする狙いもあるとみられる。
 
アサド政権への接近の動きに、アサド政権から逃れた避難民や反体制派は反発。在英の反体制派NGO「シリア人権監視団」によると、反体制派地域のシリア北西部では、トルコとシリアの関係改善の動きに抗議するデモが起きている。
 
アサド政権に制裁などで圧力をかけ続ける米国務省のプライス報道官は今月5日、「我々はアサド政権と関係を正常化することはなく、他国が正常化することも支持しない」と述べた。【日系メディア】
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インド  ケララ州コーチン  チャイニーズフィシングネット散策

2023-01-13 15:24:25 | 南アジア(インド)
南インド・ケララ州コーチンに昨夜到着しました。
これから1週間ほどケララを観光します。

↓ ホテル近くの聖フランシスコ修道院
バスコダガマの葬儀がおこなわれた教会で、内部に彼の墓とされるものが安置されています。(遺体はポルトガルに移されたそうですが)



チャイニーズフィッシイングネットと呼ばれている漁網



コーチンで一番の観光スポット


通りのあちこちに菩提樹などの巨木があって、住民がのんびりとくつろいでいます。


とりあえず、こんなところに来た・・・・ということで。
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インド  高い経済成長予測の一方で問題も 社会的には急速なヒンドゥー化が懸念される

2023-01-11 23:19:04 | 南アジア(インド)

(ヒンドゥー教で神聖な生き物とされ、街中を堂々と歩く牛【12月31日 DIAMONDonline】)

南インド・ケララ州に行ってきます。

インドの経済状況については下記のように。
「減速」とは言いつつも、6.6%なら日本からすれば「高成長」です。

****インド成長率、24年度は6.6%に減速 世界経済の低迷で=世銀****
世界銀行はインド経済の最新見通しで、同国の2024年度(24年3月終了)の経済成長率が23年度に見込まれる6.9%から6.6%に減速するとの予想を示した。

世銀は「世界経済の減速と不確実性の高まりが輸出と投資の伸びを圧迫する」と指摘。ただ、インフラ支出の拡大とビジネス支援措置が民間投資を呼び込み、製造能力の拡大を後押しすると説明した。

インドは7つの主要新興国市場・発展途上国中で最も急速な経済成長を遂げるとの見方を示した。

24年度以降の成長率は6%を小幅上回る潜在成長率に向かい低下する可能性が高いとの見方を示した。

南アジア地域の成長率は23年が3.6%、24年が4.6%と予想。パキスタン経済の低成長が同地域全体の成長率に影響すると指摘した。【1月11日 ロイター】
*************

今後については、経済政策の安定性・透明性の問題、内向きの経済政策、マクロ経済上の諸問題も指摘されています。


****成長続けるも「順風満帆」とは言えないインド経済****
2022年12月8日付ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)で、同紙コラムニストのサダナン・デュームが、「インドは中国の製造業の苦境を利用できるか?」との論説を掲げ、米中対立激化やゼロコロナ政策などの中国の諸問題が製造拠点のインドへの移転に追い風になっているが、その成功いかんはインド自身の政策によるところが大きいと論じている。

米アップルは最近、南インドでのiPhone14の製造を発表した。

アップルの発表はインド経済の明るい見通し公表の最中に行われた。JPモルガンは 2025年までにiPhone のインドでの生産は現在の5%から25%になると試算した。

モルガンスタンレーは 2027年までにはインド経済が世界第3位になり、2031年までに国内総生産(GDP)中の製造業の割合は現在の15.6%から21%に上昇し、インドの輸出が倍増すると予想している。

世界情勢も追い風である。米国との対立が激化し、ゼロコロナ政策、政府の過度な経済介入などの中国の失敗による世界的供給網再構築でインドは利益を得ることが可能だ。

人口で中国を超えるインドは潜在的な大市場だ。西側とアジア同盟国はインドと良い関係にあり、米国がインドとのビジネスを難しくする政策を導入するリスクは低い。

一方、インドが正しい舵取りをするかは不明である。インドの製造業戦略は高関税と補助金からなる。今後5年で政府は半導体、自動車など14分野で目標達成企業に2兆ルピア(243 億ドル)を出す予定で、これが5年で30兆ルピア(3650億ドル)の経済効果と600万人の新規雇用を生むと試算されている。


しかし、懐疑的な理由もある。インドのRCEP(地域的な包括的経済連携協定)からの離脱やインド経済の構造的問題である。多額の補助金は汚職を生むし、労働力の熟練不足、社会主義時代の労働法規、劣悪なインフラ、非効率な政府などの問題もある。

*   *   *

2022年9月にアップルが最新のiPhone14の生産をインドで始めると発表したことを端緒に、インドが中国に代わり世界の工場になれるかを論じたのが上記の記事だ。

同日に米国の外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ(FA)」が「なぜインドは中国に取って代われないのか」との同趣旨の記事を掲載した。(中略)

インド経済の見通しも明るいものが多く、モルガンスタンレーは、今後10年間の世界経済成長の5分の1はインドによると予測している。

FAは、インドは、①構造的優位性、②潜在的ライバルの失速、③政府の投資優遇措置で有利な地位に立つと指摘する。中国を抜く人口、民主主義や法の支配の伝統、若く有能で英語ができる労働者の存在などは、構造的優位性だ。WSJの論説が指摘する劣悪なインフラについても、FAは、ここ数年で劇的に改善され、デジタルインフラなど、一部では米国を凌駕するところもあると評価する。

インド経済が抱える多くの問題点
一方、他の問題の指摘は同様に厳しい。過去2年のインドの経済成長は急速に見えるが、これはコロナによる落ち込みが激しかった反動で、2019年比ではインドは現状で 7.6%成長である。

中国の13.1%に劣り、米国の4.6%との対比でも印象的とは言い難い。アップル、フォックスコンの一方で、グーグル、ウォルマート、ボーダフォンなどは苦境にあり、アマゾンは11月末に幾つかの事業撤退を発表している。

FAが指摘する対インド投資のリスクの最たるものは、経済政策の安定性・透明性の問題だ。

投資時点の規則が後に変更され予想利益を喪失しないか、規則はそのままでも、実際はインド国内のコングロマリットに恣意的に有利に運用されることはないか。これらの点について、過去の事例から、海外企業は政府を十分に信頼していない。

第二は、内向きの経済政策である。モディ政権が掲げる「メイド・イン・インディア」推進のための生産目標実現を条件とする補助金の裏腹として、輸入関税は高止まる。

アップルのようにインド市場向けにインドで生産する企業は限られており、ほとんどの企業は世界的供給網の中にインドを組み込もうとしている。

高関税は海外からの部品調達を困難にする。RCEPからの離脱に代表されるFTA(自由貿易協定)網からの実質的孤立を今後も続けるのはマイナスだろう。

第三は、マクロ経済上の諸問題である。高インフレ、経常赤字拡大、GDP10%に達する財政赤字は問題の深刻さを示している。また、中間層は人口の15%に留まり、いくら情報通信産業で雇用を創設しようとしても、それに対応しうる労働者の数は限られ、雇用増や所得のかさ上げへの効果は限定的だ。


将来的には、米中印の3超大国が世界の趨勢を決める時代が来るだろうが、インドが持つ潜在性を生かすためには、以上述べたような問題に対してインド政府がやるべきことは多いと言わざるを得ない。【1月11日 WEDGE】
********************

上記は経済的側面の議論ですが、より大きな視点で社会全体を見ると、インドが抱える大きな問題・危うさはモディ政権が進める急速なヒンドゥー化のように思われます。

****ヒンドゥー化が急速に進むインドで起きている深刻な問題とは****
(中略)
モディ政権下のインドでヒンドゥー化が進む
インドのめざましい経済発展はニュースでもよく取り上げられる。コロナ禍を経て、GDP成長率はコロナ前の水準を上回るまでに戻っている。こうした高成長を牽引するのが、2014年の下院総選挙でインド人民党(BJP)が大勝し、発足したモディ政権だ。

実は、与党となったBJPは、ヒンドゥー教至上主義を掲げ、ヒンドゥー教による国家統合を目指している。

だが、そもそもインドは世俗国家だ。政教分離を大原則として、多様性を国の根本に据えている。にもかかわらず、モディ政権下でヒンドゥー色の強い政策が次々と推し進められ、多様性が揺らぐ状況が生まれている。
 
ヒンドゥー化を可能にしているのが、圧倒的多数を占めるヒンドゥー教徒の支持。国民の約8割、10億人を超える人数である。
 
インドは仏教発祥の地だが、ヒンドゥー教やイスラム教の勢力拡大で13世紀頃までには壊滅状態となった。仏教徒が改宗させられ、最下層カーストの不可触民とされた歴史もある。解放運動が高まり、インド独立後に不可触民数十万人が仏教に改宗し、現在も仏教徒の多くがこの流れを汲むが、人口の1%に満たず、キリスト教徒、シク教徒よりも少ない。

イスラム教徒への弾圧が進むヒンドゥー・ナショナリズムの台頭
現在、問題となっているのはイスラム教徒への弾圧である。イスラム教徒は国民の14%超で、人数にすると2億人近い。にもかかわらず、モディ政権は憲法を改正し、インドで唯一イスラム教徒が多数派を占めるカシミール地方の自治権をはく奪してしまった。
 
これを皮切りに、州レベルのイスラム教徒への弾圧が続く。イスラム教徒は豚は不浄として食べないが、牛は食べる。一方、ヒンドゥー教では牛は神聖視され、道路を悠然と闊歩する姿もよく見られる。
 
ヒンドゥー教徒は19世紀の頃から牛の保護運動を展開してきた。
 
そして近年、牛のと殺と牛肉の販売を禁ずる法律を各州が続々と施行。最高裁が牛肉禁止法は無効との判断を出した後も、「食用、取引はよしとしても、と殺は禁止」といった法律が存続している。
 
過激派ヒンドゥー教徒が、牛肉を扱うイスラム教徒を暴行する事件も頻発している。2020年以降も、過激派ヒンドゥー教徒がモスクとイスラム教徒を襲撃する事件は相次いでおり、ヒンドゥー・ナショナリズムの台頭を不安視する声があがっている。

「カースト」に縛られない職業として優秀な若者たちがIT業界を志す
インドの経済成長の牽引役のひとつになっているのがIT産業だ。IT産業勃興の背景には、ヒンドゥー教のカースト制度を乗り越えようとする若者たちの強い上昇志向がある。
 
カースト制度では、4つの身分に加え、どんな職業につくかを定める事細かな分類がある。その数は2000~3000種類もあるといわれ、驚くほど細分化されている。
 
カースト制度は世襲であるため、代々それが受け継がれる。個人に選択の余地はなく、資質や能力にかかわらず、はじめから職業が決められているのだ。
 
優秀な若者たちがIT業界を志すのは、新しい業界ゆえにカーストの縛りがないことが大きい。そのため、中下層カーストの人々にとって固定化した社会の階段を駆け上がるチャンスもあるのだ。
 
インド工科大学には、IT業界を目指す若者がインド各地から集まってくる。抜群のレベルの高さを誇り、世界的に見ても最難関の高等教育機関のひとつとされる。卒業後は渡米して大学院に進み、そのまま米国のIT業界に入る人も多い。
 
彼らがめきめきと頭角を現し、近年ではグーグル、マイクロソフト、IBM、アドビ、ツイッターなど米国のIT大手でインド出身者のCEO(最高経営責任者)が続々と誕生している。そしてインド出身のハイテク人材のネットワークが、世界に張り巡らされている。

経済格差が固定化され経済成長の妨げとなる懸念も
インドでは1950年にカースト制度による差別が憲法で禁止された。しかし、それはカースト制度そのものを禁ずるものではない。ヒンドゥー教の信仰と密接に結びついて切り離せないうえ、ヒンドゥー教徒は国民の約8割という圧倒的多数を占め、モディ首相のもと、ヒンドゥー色は強まる一方だ。
 
これまでは、カースト制度があるからこそ下層階級の人々も職につき、低賃金ながら稼ぐことができるプラス面があるともいわれた。

だが、それでは激しい経済格差は固定化されたままで、貧困にあえぐ人々は救われない。細かく仕事を分ける制度ではマイナス面も多く、経済成長の妨げになっているという意見も多い。カーストの縛りから脱するため、あえて仏教やキリスト教に改宗する人も増えている。
 
一方では、ヒンドゥー教には優秀な子どもを積極的に援助するさまざまな仕組みもある。カースト枠外の最下層ダリットから大統領になった人物は二人おり、モディ首相も駅でチャイを売る下層カースト出身といわれる。インドのさらなる発展に向けての模索も続いている。【12月31日 DIAMONDonline】
********************

急速なヒンドゥー化は社会に対立をもたらし、経済成長の妨げにとどまらず、大きな社会混乱の危険もはらんでいます。

また、インドが世界経済をリードする立場に立とうとすとき、国際的にそれが認められることの妨げにもなります。

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ペルー  犠牲者が増加する前大統領失脚への抗議行動 分断社会を象徴する“恥の壁”

2023-01-10 22:36:14 | ラテンアメリカ
(【2016年1月4日 カラパイア】 首都リマ郊外で富裕層居住区への貧困層流入を阻止する“恥の壁”)

【犠牲者が増加する前大統領失脚への抗議行動】
明日から旅行(南インド・ケララ州)に出かけるため、その準備で手一杯。
気になった記事を簡単に。

南米ペルーでの政変・混乱は12月22日ブログ“ペルー 大統領罷免・拘束と混乱 その政変を批判するメキシコ大統領の反民主主義的動き”で取り上げました。

12月7日、急進左派のカスティジョ大統領の弾劾決議案が賛成多数で可決され、大統領は罷免され、同じく左派政権のメキシコへの亡命途上で身柄を拘束されましたが、カスティジョ氏支持勢力の抗議で混乱が起きています。
年が明けても依然として混乱は収まっていないようです。

****ペルー抗議デモ、死者39人に 「警察官が銃撃」目撃者も****
南米ペルーで続く抗議デモで、ペルーの地元当局などは9日、南部フリアカでデモ隊と警官隊が衝突し、少なくとも17人が死亡、68人が負傷したと明らかにした。ロイター通信が報じた。

デモはカスティジョ前大統領の罷免と拘束に反発した支持者らが2022年12月から断続的に実施しており、死者数はこれで計39人になった。

ロイターの取材に応じた目撃者によると、路上でデモ隊が警察官らに投石した際、銃声が響き、煙が立ち上ったという。地元の保健当局は地元メディアに対し、遺体の一部に銃撃による傷があったことを明らかにした。フリアカの病院の救命担当者はロイターの取材に「中央政府に訴えたい。なぜこれほどの死者を出すことができるのか」と語った。

ペルーの国家警察は22年12月7日、憲法に反して議会を解散させようとしたなどとして、議会に罷免されたカスティジョ氏を反逆などの容疑で拘束。これに対する抗議デモが全土に広まった。

後任のボルアルテ政権は、沈静化を図るためデモ隊が求める大統領選と総選挙の前倒しを表明。同月14日には全土を対象にした30日間の非常事態宣言も発令していた。【1月10日 毎日】
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1日で“17人が死亡、68人が負傷”というのは尋常ではありません。
よほど過激な抗議行動になっているのか、あるいは、よほど過激な鎮圧行動になっているのか・・・

国の基幹産業である観光業(マチュピチュやナスカなど)にも深刻な影響が出ています。

****新政権発足1か月のペルーで混乱続く…抗議デモで27人死亡、観光・経済にも影響****
南米ペルーで、急進左派のペドロ・カスティジョ前大統領が失脚し、新政権が発足してから、7日で1か月となった。新たに就任したディナ・ボルアルテ大統領や国会運営への抗議デモで少なくとも27人が死亡するなど混乱が続き、経済や観光にも影響が出ている。

デモはカスティジョ氏の失脚直後から起き、略奪や放火など一部で暴徒化した。ペルー政府は昨年12月14日、全土に30日間の緊急事態宣言を発令したが収束せず、警官隊と衝突するなどしてデモ隊に死者が出た。正式な大統領選を経ずに副大統領だったボルアルテ氏が大統領に昇格したことへの不満も高まった。

ペルー国会は同20日、大統領選を2年前倒しし、2024年4月に実施するための憲法改正法案を可決。通常国会で3分の2以上の賛成を得られれば正式に前倒しが決まるが、抗議活動は収まる兆しがない。
 
ボルアルテ氏は5日の記者会見で「対立をやめ、希望を持って望ましい国を目指そう」とデモの中止を呼びかけたが、翌6日も南部を中心に各地でデモが起き、ペルー南部の空港はデモ隊と警察の衝突で閉鎖された。

長引く混乱などの影響でペルー経済は圧迫され、アレックス・コントレラス経済・財務相は5日の記者会見で「約100億ソル(約3466億円)の影響」が出ていると明らかにした。

特に打撃を受けているのは観光業だ。世界遺産・マチュピチュへの列車は運休し、政府関係者は地元メディアに、今年1〜6月に予約があった観光客のうち、約60%がキャンセルしたと語った。ホテル・レストラン・関連産業協会によると、損失は昨年12月だけで5億ソル(約173億円)に上ったという。

急進左派のカスティジョ氏の罷免ひめんと拘束について、いずれも左派政権のメキシコ、アルゼンチン、コロンビア、ボリビアは共同声明で「深い懸念」を示すなど、ボルアルテ政権は周辺国との関係にも苦慮している。【1月8日 読売】
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【所得格差・分断を象徴する「恥の壁」】
2021年の大統領選挙戦当時“無名の教師”だった急進左派カスティジョ前大統領を支持して一気に大統領へ押し上げたのは農村・山間部の低所得層だったと推測されます。

これに対抗したのが中道右派のケイコ・フジモリ氏でした。

****ペルーでフジモリ氏敗北 左派政権拡大する中南米****
急進左派の教師カスティージョ候補と、アルベルト・フジモリ大統領の娘で中道右派のケイコ・フジモリ候補との間で戦われた、ペルー大統領選挙の決選投票は、カスティージョが僅か数万票差という僅差で制したようだ。

ケイコ側は不正があったと主張し、票の数え直しを要求したが、覆ることはないだろう。ケイコは、「3度目の正直」となったはずのチャンスを逸した可能性が高い。

ケイコは、カスティージョを共産主義者と非難しイデオロギー的な論争を挑み、父親の宿敵であったノーベル賞作家ヴァルガス・リョサや経済界、多くの既存政党を味方につけたが、確保できたのはリマを中心とする都市部の票であった。

しかし、ペルーの人口の3分の2は農村・山間部の低所得層が中心であり、政治論争に強い関心は無い。

これらの地域では、既成の政治家ではないカスティージョによる無料のワクチン接種等のパンデミック対策や失業対策・貧困対策の強調、ケイコは腐敗しているとのキャンペーンが説得力を持った。(後略)【2021年6月22日】
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上記のようなペルー国民の所得格差・分断を象徴するのが首都リマで富裕層と貧困層の居住地区を隔てる「恥の壁」と呼ばれるものです。

****ペルー首都、「恥の壁」が隔てる貧困層 長さ約10キロ、分断社会を象徴 向こう側は高級住宅、大統領選の対立構図も映す****
(中略)首都リマの南東の丘に約10キロに渡って敷設された「壁」は、ペルーの分断社会の象徴となっている。(リマ 中村将)

小高い丘の上から壁の両側を見下ろすと、まったく違う風景が見える。

貧困層が暮らすパンプローナ・アルタ地区はトタン屋根にベニヤ板のような壁、窓がない家が密集する。道はあるが、舗装されていないため黄色い砂ぼこりが常に舞っている。水はタンク。電気も十分に通っていない。

壁の反対側は造成が進む。丘の麓のラス・カスアリーナス地区は大きな一軒家や大型マンションが立ち並び、プールや大型競技場の緑の芝生が映える高級住宅地。中間所得者層にはまったく手が届かない、あこがれの街のひとつだ。

貧困層の住民の先祖は山から仕事を求めて都市部に下りてきた。丘に自分たちの住み家や道路を作り、定住を始めた。ほとんどの住民が土地の所有権を持たない。

壁は5年ほど前に反対側から敷設された。理由は、貧困層が地域に入ってきて、犯罪が起きる可能性があるからだ。貧困層の住民らはこの壁を「恥の壁」と呼ぶ。「大きな差別を感じる。私たちが先に住んでいたのに…」。2児の母、ダナエ・ビダルテさん(23)はそう話す。(後略)【2016年6月8日 産経】
********************

もっとも、2016年の大統領選挙では、壁の向こう側の富裕層が支持するクチンスキ候補に対し、ケイコ・フジモリ氏は貧困層対策をアピールして、貧困地域に出向き、住民らの要望を聞き、貧困層の支持を得ていました。(批判者からすればポピュリスト的な)その政治姿勢は父親のフジモリ元大統領と共通しています。

2021年選挙におけるケイコ・フジモリ氏より更に貧困対策重視を掲げる急進左派カスティジョ前大統領の登場で、貧困層の支持がどうなっているのかは知りません。

****ペルー憲法裁、「恥の壁」撤去命令 富裕層と貧困層を分断****
ペルーの憲法裁判所は29日、首都リマで富裕層と貧困層の居住地区を隔てる「恥の壁」が「差別」に当たるとして180日以内の撤去を命じた。

壁は全長10キロ。高い所は2メートルを超え、上部には有刺鉄線が取り付けられている。2018年に市民の一人が撤去を求めて裁判を起こしていた。

壁が設置されたのは1980年代。ペルーでテロ組織と見なされている左翼ゲリラ「センデロ・ルミノソ(輝く道)」が富裕層が住むラモリーナ地区に侵入するのを防ぐのが目的とされていた。その後、同組織が衰退したにもかかわらず、2000年代に土地の不法占拠を防ぐ名目で拡張された。

ペルーでは、1980年代から90年代にかけてアンデス地域からリマ郊外の丘陵地帯に大勢が移り住んだ。センデロ・ルミノソの暴力から逃れて住み着いた人も多数いれば、仕事を求めて流れ着いた人もいた。

グスタボ・グティエレス判事は現地ラジオRPPで、「ラモリーナ地区と(貧困層が多い)ビジャマリアデルトリウンフォ地区を隔てる壁は取り壊さなければならないと全員一致で判断した」と説明。

「これは差別的な壁だ。ペルー国民を社会階層で分断することがあってはならない。容認できず、もはや世界のどこにもない代物だ」と述べた。 【12月31日 AFP】
*******************

貧困層の流入を阻止する「壁」を富裕層が支持する社会・・・・互いの立ち場へ配慮したまっとうな民主主義的議論が成立するような社会ではないようにも見えます。そこでは政治対立も暴力を辞さない過激なものとなりやすいとも想像できます。

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ブラジル  右派ボルソナロ前大統領の支持者が暴徒化 民主主義のポピュリズムへの劣化

2023-01-09 22:34:13 | 民主主義・社会問題
(ブラジルの首都ブラジリアで、連邦議会の敷地内に侵入したジャイル・ボルソナロ前大統領支持者(2023年1月8日撮影)【1月9日 AFP】)

【“模倣犯”のような陳腐さも】
南米ブラジルで、大統領選挙の結果を認めない右派ボルソナロ前大統領の支持者が暴徒化し、大統領府や議会、最高裁判所を襲撃して施設や備品を破壊した件は報道のとおり。ある程度予想された事態でもあります。

****ブラジル前大統領支持者が議会襲撃 約300人逮捕****
ブラジルの首都ブラジリアで8日、昨年10月の大統領選で敗れた右派ボルソナロ前大統領の支持者が暴徒化し、大統領府や議会、最高裁判所を襲撃して施設や備品を破壊した。

地元メディアによると約4千人が集結したが、警察が約4時間で制圧。約300人が逮捕された。地方を視察していた左派ルラ大統領は、選挙結果を受け入れず襲撃したボルソナロ氏の支持者を非難し、厳しく処罰する方針を示した。

米国では2021年1月にトランプ前大統領の支持者らが、大統領選で不正があったとして議会議事堂を襲撃した。ブラジルでも政治対立が深刻化する実情が鮮明になり、各国の首脳が「言語道断だ」(バイデン米大統領)などと暴徒化した群衆を批判している。

ルラ氏は今年1月1日に就任したばかり。南米の大国ブラジルの政治が不安定化する懸念も出ている。(中略)

ルラ氏は昨年10月の大統領選の決選投票で、ボルソナロ氏を破り当選。8日は大雨被害の視察でサンパウロ州を訪れており、ブラジリアを離れていた。

ルラ氏は視察先で記者会見し、襲撃を「狂信的なファシスト」によるものだと糾弾。当初、大統領選で不正があったとしていたボルソナロ氏の姿勢が、支持者らを襲撃に向かわせたとして批判した。

ただ、同氏自身は昨年12月30日、敗北を事実上認めて米フロリダ州に渡っていた。同氏も襲撃について、ツイッターで「法から外れている」と述べた。

ボルソナロ氏の支持者による襲撃について、バイデン米大統領が「民主制と平和な権力移行に対する襲撃を非難する」と表明。

メキシコのロペスオブラドール大統領も「(ルラ氏を)メキシコと米州大陸、世界が支持している」と述べた。欧州の主要国首脳からも事件を問題視する声が一斉に出ている。【1月9日 産経】
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ブラジルの状況については、昨年末の12月18日ブログ“ブラジル 敗北を認めない大統領 支持者は大量の攻撃的な銃を所有 進行するアマゾン消失”でも取り上げましたが、ボルソナロ氏は、従来から大統領選で使われる電子投票が「不正」だと主張し、大統領選以降、敗北したことを公式には認めていません。

ボルソナロ氏の熱狂的な支持者らはその訴えに共鳴し、大統領選後も各地の軍事基地などで抗議活動を続け、軍の介入などを要求していました。

ボルソナロ氏は、暴徒が起きてからしばらくは声明などは出さずにいましたが、ブラジル時間の午後9時すぎに自らのツイッターを更新。AP通信によると、平和な抗議活動は民主主義の枠内にあるが、公共施設への侵入や破壊行為は「この原則に対する例外的な事態だ」と主張したとのこと。

“例外的な事態”というのはわかりにくい表現ですが、「平和的なデモは民主主義の一部だ。しかし、今日起きた公共施設の略奪、侵入はその法則から外れている」【1月9日 読売】という表現からすれば、今回の公共施設への侵入や破壊を表向きは否定しているようです。

何から何まで、2021年1月にトランプ前大統領の支持者らが議会議事堂を襲撃した事件とダブります。
そうした“既視感”から、“模倣犯”のような陳腐さも。

****「行動起こすしかなかった」=参加者ら、記者を羽交い締め―ブラジル****
ブラジルのルラ大統領が「前代未聞の破壊行為」と呼んだ、ボルソナロ前大統領支持者による連邦議会、大統領府、最高裁への侵入事件。

これらすべての建物に侵入したというブラジリア在住の会社員カンポス氏(34)は「司法は(ボルソナロ氏が負けた)選挙結果の見直しを行おうとしない。議会も最高裁も憲法を守っていない」と主張。「破壊行為は賛成できないが、民主主義が機能しておらず、行動を起こすしかなかった」と動機を語った。

地元テレビは無残に荒らされ、破壊された執務室や会議場の姿を映し出した。

一部参加者は、トランプ前米大統領の支持者らによる約2年前の米連邦議会襲撃事件を意識したのか、高官のものとみられる豪華な椅子に腰掛けて笑顔でカメラにポーズを取っていた。(後略)【1月9日 時事】 
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【計画した人間の意図は?】
そもそも、トランプ支持者にしても、ボルソナロ支持者にしても、議会襲撃などで「政権転覆」を考えていた訳でもないでしょう。反政府デモ参加者の一部が暴徒化して略奪するような、鬱積した不満のうっぷん晴らしみたいなノリだったのかも。

そうした“うっぷん晴らしみたいなノリ”““模倣犯のような陳腐さ”から、“民主主義を破壊しようとする行為”というほど大袈裟なものでもないようにも思えますが、こういう行為の蔓延は確実に“民主主義の劣化”であり、“ポピュリズム的衆愚政治”を示すものでしょう。

参加者は“うっぷん晴らしみたいなノリ”だったかも知れませんが、突発的事態ではなく、事前に計画されたもののようです。

****ブラジル議会襲撃、2週間前から計画か 前大統領支持の数千人暴徒化****
(中略)ロイター通信によると、ボルソナロ氏の支持者による政府建物の占拠は、ツイッターなどのソーシャルメディア(SNS)で少なくとも2週間前から計画されていた。

SNS上には国内数カ所の都市で集合場所を決め、チャーターしたバスでブラジリアに向かう計画が記されていたという。

ディノ法相はボルソナロ氏の支持者を乗せた数百台のバスの資金源や、安全対策の準備をしなかった知事への調査を進める考えを明らかにした。(後略)【1月9日 毎日】
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また、アメリカのトランプ氏周辺と相談がなされた可能性も

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米紙ワシントン・ポストは22年11月、ボルソナーロ氏陣営が選挙後、トランプ氏の側近らと協議していたと報じた。

報道によると、ボルソナーロ氏の国会議員の息子は、22年10月末のブラジル大統領選後に、フロリダ州のトランプ氏の自宅を訪問している。ボルソナーロ氏支持派による抗議や選挙結果への異議申し立ての効力についてスティーブン・バノン元米大統領首席戦略官と電話で協議したり、トランプ氏の側近で広報担当だったジェイソン・ミラー氏とオンライン検閲や言論の自由について議論したりしたという。【日系メディア】
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軍を動かしてクーデターを起こす訳でもなく、このような“うっぷん晴らし”のような襲撃事件を計画・実行する意図は何なのか? 

よくわかりませんが、支持勢力の求心力を維持し、モチベーションを高める“イベント”としての効果はありそう。

衆愚政治において、指導者は「パンとサーカス」で民衆の心を繋ぎとめるとされますが、議会・大統領府襲撃はその“サーカス”みたいなイベントでしょうか。

【民主主義が内包するポピュリズムの危険性】
民主主義が内包するポピュリズムの危険性、その曖昧な区分について語るのは荷が重すぎますが、下記のような佐伯啓思氏の指摘も

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民主主義の理念が「討議による政治」であり、少数派への配慮が必要とされるのは、何が真理であるかは誰にもわからない、という前提があるからだ。真理は不明であり、絶対的に間違いのない判断などありえないのである。

ここに、判断は一人一人異なってもよいし、それを強制されてはならないという自由主義の原理が持ち込まれれば、民主主義は価値判断についての完全な相対主義に陥る。正邪、善悪の判断は人によって異なっている。こういう価値相対主義こそが民主主義の根本的な前提をなしている。

とすれば、いかなる政治家であろうとも何が正しいかなどわかるはずはない。いや、哲学ならいざ知らず、現世の利得・損失に関わる事項に真理などという概念は意味をなさないであろう。

それなら政治家は多数派の「民意」を恃(たの)むほかなくなる。つまりポピュリズムを弄(ろう)するほかないであろう。

絶対的な正義や正解が誰にも分からないとなれば、政治の言説もメディアの言説もすべてフェイクといえばフェイクということになろう。

かくてトランプ派は、「フェイクメディアの背後には隠れた力が働いている」という陰謀論を唱えるが、それも真偽は不明なのである。こうなれば、民主主義はむき出しの言論合戦となるほかない。メディアは世論を操作し、政治家は民意を動かそうとする。一種のデマゴーグである。【佐伯啓思氏 日系メディア】
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確かに、反対派とも論議をつくすという「討議民主主義」は民主主義の理念である。だが、利害が多様化して入り組み、にもかかわらず人々は政治指導者にわかりやすい即断即決を求めるという今日の矛盾した状況にあっては、由緒正しい民主主義では政治が機能しないことは明白である。

そしてこの現実こそが、民主政治へのいら立ちや不信感を生み出しているのであり、その政治への不満がトランプ現象を生んだのであった。(中略)

人々が政治に求めるのは、「幸福を追求する」ための条件ではなく、現実に「幸福を享受すること」なのである。(中略)

人々にとっては、おのれを頼みとして自分の幸福を自ら獲得するという「自己決定」などというものは重荷なのだ。だから人々は、政治に対して「安全と幸福」の提供を要求する。その結果、人々は、安全と幸福を与えてくれるような強力な「護民官」的な指導者を求める。【同上】
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そして“強力な「護民官」的な指導者”を装うポピュリスト政治家はデマゴーグで人々を扇動する・・・こうしたポピュリズムがアメリカのトランプ政治であり、ブラジルのボルソナロ政治のように見えます。

そこでは、前述のように議会襲撃も支持者を鼓舞し、カタルシスを経験させるイベントなのでしょう。
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