孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  13日総統選挙 集会に見る民進党と国民党の“カラー”の違い 中国、表裏・硬軟の働きかけ

2024-01-11 22:55:26 | 東アジア

(【1月7日 産経】)

【一時追い上げた国民党 近すぎる中国との距離感でやや失速も】
台湾と中国の距離感、ひいては日本を含む東アジアの今後の情勢に非常に大きな影響を与える台湾総統選挙が明後日13日に行われます。

これまでも何回か取り上げてきたように、現在の蔡英文政権の路線を引き継ぎ中国と距離を置く与党・民進党の頼清徳氏、中国に融和姿勢を見せる国民党の侯友宜氏、民衆党の柯文哲氏の3人の争いとなっており、選挙戦は中国との関係が大きな争点となっています。

選挙戦は、国民党の侯友宜氏、民衆党の柯文哲氏の「一本化」が失敗したこともあって、与党・民進党の頼清徳氏が一歩リードしていると報じられています。一時期、国民党の侯友宜氏が追い上げて支持率がほぼ並ぶという状況になったのですが、再び頼清徳氏のリードが広がっているとも。

****台湾総統選挙 蕭美琴副総統候補によって「若者層取り込み」に成功した頼清徳氏****
副総統候補の蕭美琴氏によって、若者層の支持が広がる
(中略)
須田慎一郎氏(ジャーナリスト))頼さんの最大のウィークポイントは若年層に支持されていないことでしたが、副総統候補に親米派の方を迎え入れて……。(中略)そこで若者層の支持が得られる状況になってきたのではないかと思います。

親中派の趙少康氏を副総統候補につけて失速した侯友宜氏
飯田)蕭美琴さんは、前駐米大使でリベラルな政治家でもある。そこが若い人たちにも支持されているのでしょうか?

須田)「若者層、無党派層の支持をどの程度集めることができるのか」というのが、台湾総統選挙のいちばんの注目ポイントだったはずです。

しかし、国民党に関しては親中派の色合いが濃くなってきてしまった。副総統候補の趙少康さんはもともとメディア経営者でしたが、親中派として名を売っていた人ですから。この人を副総統候補につけたのが、失速する要因になっていると思います。(後略)(「飯田浩司のOK! Cozy up!」で放送)【1月9日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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中国に近すぎることが若者層、無党派層を警戒させるという点では、国民党の馬英九前総統の「(中台)両岸問題では習近平国家主席を信用しなければならない」との発言も問題になっています。

****台湾の総統選、13日に投開票 馬氏「習氏を信用」発言が物議****
(中略)国民党の馬英九前総統は8日、ドイツメディアの取材に「(中台)両岸問題では習近平国家主席を信用しなければならない」と発言したほか、中国と台湾の統一について「受け入れられる」とも述べた。国民党の従来の立場から一歩踏み込んだ親中的な発言で、物議をかもしている。

頼氏は11日、記者団に対し「習氏を信用すれば、台湾は香港のようになってしまう」と馬氏の発言を批判した。柯氏も記者団に「習氏よりも自分(台湾)を信じた方が安全だ」とコメントした。

一方、侯氏は11日に記者会見を開き、馬氏の発言について「自分の考え方とは違う。私が総統になれば、任期中に統一問題に触れるつもりはない」と強調した。馬氏の発言を受けて有権者が国民党への警戒感を高める可能性があり、火消しに走った形だ。【1月11日 産経】
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“火消”に追われる国民党・侯友宜氏は・・・

*****台湾総統選、国民党の侯友宜候補「台湾海峡の平和の促進者になる」…中国側に偏らない姿勢強調***
3日投開票の台湾総統選に立候補している最大野党・国民党の侯友宜ホウヨウイー新北市長と、副総統候補の趙少康ジャオシャオカン氏が11日、新北市で海外メディア向けの記者会見を開いた。侯氏は「中道を歩み、台湾海峡の平和の促進者としての役割を果たすべきだ」と語り、中国側に偏った向き合い方はしない姿勢を強調した。

侯氏は中国に融和的な政策を掲げるが、「(総統の)任期中は、統一問題に絶対に触れない」と明言した。防衛力を充実させる必要性も主張し「強力な軍備を整え、相手に安易に戦争を起こさせないようにすることが、対話と交流をする上での最優先事項だ」と話した。【1月11日 読売】
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馬英九前総統が中国と近いのは以前からの話で、野党候補一本化が失敗したのも中国に近い馬氏が表に出てきたためとも言われていますが、この時期にこれまで以上に踏み込んだ親中国発言をなぜ行ったのかはわかりません。

【高齢者を歌舞音曲でもてなす国民党集会 硬い演説好きの民進党集会】
二大政党の民進党と国民党の雰囲気・イメージについては、以下のようにも。難しい理屈抜きに、両政党の“カラー”がなんとなくわかります。そして、第3党・民衆党・柯文哲氏が一定に支持される理由も。

****“超”高齢化の国民党vsエリート民進党 ビギナーのための台湾総統選挙ルポ****
(中略)
集会に来た人を飽きさせない“工夫”
私が台北に到着した翌日の1月7日、 台北市内からバスで1時間の距離にある桃園市中壢区で、与党・民主進歩党(民進党)と最大野党の中国国民党(国民党)の集会がそれぞれ開かれていたため、行ってみることにした。

まず、はじめに目にしたのは機場捷運(空港地下鉄)の老街渓駅の駅前にある 広場で開かれていた国民党の集会だ。 地下鉄を降りると、出口に出る前から大音量の音楽や人々の歓声が響いてきた。台湾の国政選挙は4年に1度の「お祭り」という側面があり、集会では来た人を飽きさせない工夫がなされている(意地悪く言えば、面白くない集会には誰も来たくないのだ)。(中略)

広場の群衆の前には映画スクリーンばりに巨大な液晶モニターがいくつも備え付けられ、両脇に「民主要制衡」(民主主義のバランスを取ろう)、「政黨要輪替」(政権与党は交代交代で)とスローガンが出ている。

解説すれば、台湾の総統の任期は最長2期8年で、1990年代に国民党の李登輝政権下で民主化がおこなわれて以降の政権与党は、民進党(陳水扁)、国民党(馬英九)、民進党(蔡英文)……と8年ごとに交代している。過去の国民党独裁時代の影響もあり、台湾の選挙民には特定の政党に長期政権を担わせたくないという心理も存在する。なので、次は国民党の番だというわけだ。

では、政権奪還を目指す国民党は選挙集会でいかなる政見を述べたのか──?

「〇〇里」「〇〇村」と書かれたプラカードがちらほら
結論を言えば、私たちが会場の近くにいた約1時間弱の間には、演説はほぼなかった。会場はそこそこ熱気があったものの、ひたすら大音量で歌手たちが歌い踊って投票を呼びかけているだけである。

もちろん、この選挙集会には総統候補の侯友宜、副総統候補の趙少康のほか、党主席の朱立倫(2016年の総統候補で侯友宜の後ろ盾)、2020年総統候補で立法院選の比例第一位に名を連ねる韓国瑜など国民党のスターたちが勢ぞろいしていた。集会のなかでは彼らの演説もおこなわれていたとはいえ、タイムテーブルにおいてその割合は決して大きくないのだ。

広場にいる人々の顔ぶれは高齢者が多く、その間を小さな子どもたちが無邪気に走り回っている一方、現役世代の姿はあまり見られない。 おじいちゃんおばあちゃんが孫を連れてやってきているという印象だ。

高齢者の群れのあちこちには、「〇〇里」「〇〇村」と書かれたプラカードが出ている。これは日本でいう「大字」(おおあざ)くらいの規模の地域単位だ。古い政党である国民党の強みはこうした地方の村里長(日本の町内会長に近いが一応は公務員)に影響力があることで、地域における国民党の選挙集会の参加や票の取りまとめはしばしば彼らの呼びかけ(動員ともいう)によっておこなわれる。

地方の高齢者は政策そのものよりも従来の習慣や人間関係で投票行動をおこないがちな傾向もある。きつい言い方をするならば、そうした人たちには選挙集会で政策を語るよりも、歌舞音曲でもてなしてあげたほうが票につながるということかもしれない。

侯友宜陣営は「3D戦略」を提唱
会場では大音量の音楽に合わせて、人々が手にする青天白日満地紅旗(中華民国の国旗)の小旗が揺れ続けていた。なお、日本においては、国民党は「中国」寄りだと簡単に解説されることが多いが、彼らがこだわっている「中国」とは中華民国のことである。

多少の解説を加えると、近年の国民党が大陸の共産党と接近しているのは、もともとは民進党と対抗する目的で旧敵と手を握ったからであり、別に大陸側の政権に吸収されたいからではない。また、台湾経済は大陸と密接な関係を結んでおり、すでに高度成長期を終えて久しい台湾が経済を浮揚させるには、大陸とある程度は安定的な関係を保つことが現実的に必要でもある。

ただし、共産党側にはそれを利用して台湾を併合したいという狙いが常に存在する。前政権の馬英九時代の後半にはこの狙いが露骨にあらわれ、それにもかかわらず馬英九が対大陸傾斜に歯止めをかけなかったことで、市民に不安を抱かせた。

今回の選挙でも、侯友宜陣営は従来の民進党政権下における大陸側とのコミュニケーション不足が目下の緊張を高めていると主張しており、(1)抑止(Deterrence)、(2)対話(Dialogue)、(3)非エスカレーション(De-escalation)の「3D戦略」を提唱。台湾が香港のような中華人民共和国の主導下での一国二制度に置かれることには反対しつつ、中華民国憲法と合致する形での「九二共識」を前提として大陸側と向き合う立場を示している。

(なお「九二共識」とは、1992年に中台双方の窓口機関交流において口頭で合意が成立したとされる、大陸側と台湾側で「ひとつの中国」という認識は共有しつつも「中国」をどう解釈するかは双方に任されると国民党側が理解している合意──、のことである。大変ややこしい説明だが、こう書くより仕方ない)。

民進党の会場も平均年齢高し
国民党の集会を離れ、すこし離れた泰豊輪胎中壢廠の広場で開催されていた民進党の集会に向かう。 (中略)その数は国民党の集会よりもかなり多いように見えた。

いっぽう、人々の年齢層は、国民党の集会参加者よりはすこし若いとはいえ50〜60代がメインだった。実は民進党も、2016年に蔡英文が当選したときこそ若者の人気を集めていたが、経済の低調や物価・不動産価格の高騰といった問題が解決しなかったことや、民進党自体が結党から約40年を経て完全に既成政党化していることで、失望した若者の離反を招いているとされる(そうした若者は第三極の政党である台湾民衆党の支持に流れている)。

実際、会場を見ていると、2016年に私が現地で見た選挙集会と比べて、コアな支持者の高齢化は明らかだった。もっとも、それでも国民党の集会とは違い、若者や親子連れの姿もそれなりにみられる。人々の間に「〇〇里」の看板はすくなく、動員よりも自分で来る意志を持って来ている人たちが多そうな印象だ。

会場に足を踏み入れると、ボランティアスタッフから「選対的人、走対的路」(正しき人を選べば正しき道を歩む)というスローガンと、総統候補の頼清徳、副総統候補の蕭美琴の名前が印刷された緑色の小旗を渡された。

国民党が「中華民国」のアイデンティティにこだわるのに対して、民進党は「台湾」のアイデンティティによりこだわる政党だ。国民党の集会では目眩がするほど大量の中華民国国旗があふれていたのに対して、民進党の集会で国旗はほとんど見られない。

自分たちに投票するべき理由を理屈で説明
さらに国民党との集会の違いは、プログラム内での歌舞音曲のすくなさだった。この日は頼清徳と蕭美琴、さらに現総統の蔡英文、前行政院長の蘇貞昌といった顔ぶれが集まっていたのだが、彼らはとにかく演説を続けたがる。

(中略)外国人の目線から見ると、話が多すぎて多少退屈な印象を受けなくもない内容である。

民進党は1986年、まだ国民党の独裁体制下にあった台湾で、民主化を求める人たちを中心に草の根の泥臭い世界から始まった政党だ。しかし、今世紀に入ってからの2度の与党経験を経て、現在は都市型のエリート政党としての顔が強まっている。

LGBTや脱原発、ジェンダーなどの問題にも非常に高い関心を示す政党である(若者層の支持が離れている一因も「それらの理念もいいけれど自分たちの暮らしをなんとかしてくれ」という不満がくすぶっていることにある)。

リベラルエリートの党としては、有権者が自分たちに投票するべき理由は歌舞音曲のノリではなく理屈で説明しなくてはならないと考えているのかもしれない。もちろん、選挙活動としてはこちらの方が「真っ当」ではある。

経済・政治改革・雇用・少子高齢化…台湾が直面する課題
ところで、日本において台湾の選挙はしばしば「台湾独立か中国との統一か」といった文脈で語られがちだ。だが、実際のところ台湾の民意の大部分は、どの党を支持するかにかかわらず、広い意味での現状維持を希望する声が多数派を占める。ゆえに民進党であれ国民党であれ、そこから外れた選択肢は取れない。

中華民国体制を撤廃して台湾国を作るという「台湾独立」をおこなわずとも、中台分断から70年以上を経た中華民国は実質的には台湾とほぼイコールの存在になっている。

そのため、中華民国が(国際的承認は得ていないとはいえ)独立国家をもって任じている以上、台湾はすでに実質的に独立した状態にあると考えていい。

いっぽう、現在の中台間の力関係からすれば、「中国との統一」は中華人民共和国による台湾併合以外の形はありえない。現実的にそれを望む人は、たとえ国民党支持者でもほとんど存在しておらず、やはり現実的な選択肢ではない。

せいぜい、中国大陸と距離を置いてでも台湾のアイデンティティを強く保った状態で現状維持を志向するか(民進党)、中国大陸と友好的な姿勢を取りつつも中華民国アイデンティティを強く保った状態で現状維持を志向するか(国民党)。

習近平体制の中国の現状からすると、いずれもそれはそれで困難なことなのだが、台湾が取りうる対中姿勢は実質的にこの二択で、「現状維持」という点は変わらない。

ゆえに台湾の選挙民も、日本をはじめとした海外の人たちが想像するほどには、中台関係だけを理由として投票行為はおこなわない。選挙における他の争点は経済・クリーンな政治・雇用と労働環境・住宅難・少子高齢化……という、いずれの先進国も直面している課題である。

もっとも、そうであるからこそ、硬直した姿勢しか取れない既存の二大政党のありかたに対する不満も生まれ、既存の権威をポピュリズム的に批判する勢力も一定の支持を集める。それが今回の第三極である民衆党だ。 こちらについては、また別の原稿で書くことにしよう。【1月10日 安田峰俊氏 文春オンライン】
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【表裏・硬軟いろいろな働きかけで民進党敗北を画策する中国】
連日多くが報じられているように、中国は比較的宥和的な国民党を支援し、中国と対立的な与党・民進党の敗北を画策しています。

****中国「中台衝突の極度の危険性認識を」台湾総統選でけん制 台湾の有権者に対し「中台関係の分かれ道」と呼びかけ****
台湾の総統選が13日に迫るなか、中国政府は台湾の与党・民進党の頼清徳候補について「多くの台湾同胞が中台の衝突を引き起こす極度の危険性を見極めるよう望む」との談話を発表して、けん制しました。

国営の新華社通信によりますと、中国政府で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の陳斌華報道官は11日に談話を発表し、台湾の与党・民進党の頼清徳候補が政権をとった場合、「頼氏は“台湾独立”への活動をさらに推進し、台湾海峡は強風と高波で危険な状況になるだろう」と警告しました。

また、陳報道官は「“台湾独立”と台湾海峡の平和は水と火のように相いれない」「多くの台湾同胞が頼氏が中台の衝突を引き起こす極度の危険性を見極めるよう望む」と述べてけん制し、台湾の有権者に対し、「中台関係の分かれ道で正しい選択を行い、中台が繁栄し、発展する新しい局面をつくり出してもらいたい」と呼びかけました。【1月11日 TBS NEWS DIG】
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こうした表向きの発言(威嚇?)だけでなく、水面下の画策も。

****台湾総統選まであと2日 狙われた“地域の代表” 中国招待され選挙応援依頼された疑い 「上海ガニ食べながら意見交換」****
台湾の総統選挙まであと2日ですが、選挙で重要な役割を果たす「地域の代表」らが中国に招待され、今回の選挙で特定候補の応援を依頼された疑いが浮上しています。捜査当局から取り調べを受けたという男性がJNNの取材に応じました。(中略)

中国は民進党を「独立勢力」と見なし対話を拒絶する一方、最大野党・国民党とは交流を重ね優遇策を講じるなど、台湾世論を“揺さぶる”かのような対応を続けています。 そしてこれも、世論工作の一環でしょうか。

記者 「いま、台北をはじめ各地で、地域の代表である『里長』に捜査の手が及んでいます」

「里長」は日本の町内会長に近い役割ですが、4年に一度、選挙で選ばれる「地域の代表」です。そんな台湾各地の里長が格安の料金で中国に招待され、見返りとして今回の選挙で特定の候補や政党の応援を依頼されたとして、当局が捜査に着手したのです。

JNNは、台北地検から先月、二度の事情聴取を受けたという当選歴6回のベテランの里長を訪ねました。(中略)これまで10回以上、去年は6月と10月に招待を受け、上海や南京を訪問したといいます。

聴取を受けた里長 「ひとこと言わせてもらいますが、本当にごく普通の日程で純粋に民間交流です」
去年参加したツアーは、ともに6日間程度。費用は日本円でおよそ6万円から9万円だったといいます。観光地や企業、団地などの見学のほか、上海ガニなどを食べながら意見交換したといいます。

中国側は地域の代表者だけでなく、台湾政策を担当する「台湾事務弁公室」の関係者が常に同席していたといいます。ただ、「一度も政治の話はしていない」と疑惑を強く否定しました。

「私たちは国家主権やどの政党がどうだとか、そんな話はしません。雑談で中国側に『民進党はどうなんだ?』と聞かれることもありましたが、私は笑ってましたよ」 7000人の地域住民を束ねる里長の男性はこう付け加えました。(中略)

台湾のシンクタンクの研究者は、里長は選挙への影響力があり、中国の明確なターゲットだと指摘します。
国防安全研究院 鍾志東氏 「里長は地域の民意そのものです。都会でも田舎でも、比較的簡単に引き込むことが出来る対象なのです」(後略)。【1月11日 TBS NEWS DIG】
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前出【文春オンライン】に“古い政党である国民党の強みはこうした地方の村里長(日本の町内会長に近いが一応は公務員)に影響力があることで、地域における国民党の選挙集会の参加や票の取りまとめはしばしば彼らの呼びかけ(動員ともいう)によっておこなわれる。”とあるように、里長にカニをふるまうのは“有効”な選挙戦術なのでしょう。

もっと“直接的”な威嚇としては“中国ロケット、台湾上空を通過 総統選向け圧力か”【1月9日 産経】といったものもありますが、中国が前面に出れば出るほど台湾世論は中国を警戒し、民進党に票が流れるといった構図ではないでしょうか。

誰でも感じるそうしたことを無視して、なぜ中国が威圧的な手法を捨てないのか・・・これもよくわからないところです。
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ロシア経済  ウクライナ侵攻前のGDPを超える水準を回復

2024-01-10 23:24:45 | ロシア

(2023年12月14日 ニッセイ基礎研究所)

【ウクライナ侵攻前のGDPを超える水準を回復したロシア経済】
昨年12月13日、ロシア連邦統計局は国内総生産(GDP)を公表しました。それによると、ロシアの23年7-9月期の実質GDP伸び率は5.5%となり、ウクライナ侵攻前のGDPを超える水準を回復したとのことです。

****ロシア経済はウクライナ戦争の影響を克服も、中銀は物価安定に苦慮****
~景気底入れは大統領選での再選を目指すプーチン氏に追い風も、物価を巡る問題は依然山積~

15日、ロシア中銀は5会合連続の利上げ実施を決定した。足下の同国経済は底入れの動きを強めており、ウクライナ侵攻前の水準を回復するなど欧米などの制裁の影響を克服している。

他方、戦争の長期化による労働力不足に加え、ルーブル安も重なり足下のインフレは加速しており、中銀は戦争中にも拘らず7月以降に累計850bpもの利上げを迫られている。先行きの政策運営を巡って高金利状態の長期化を想定する一方、利上げ局面の終了に含みを持たせる考えをみせている。

景気底入れの動きは3月の次期大統領選での再選を目指すプーチン氏の追い風となる一方、国民の間に物価高への不満が高まるなかで中銀は難しい対応を迫られる展開が続くと予想される。

他方、足下の原油価格は頭打ちの動きを強めるなど経済の足かせとなる懸念も高まっており、経済、政権にとって「安泰」とはならない状況に留意する必要があろう。(後略)【12月18日 西濵 徹氏 第一生命経済研究所】
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【ドルベースGDP以上の経済力を持つロシア 中国などとのつながりで経済力維持】
ウクライナ侵攻で欧米からの経済制裁を受けているロシア経済の実態はどうなっているのか? ほとんど制裁は効いていないのか? それとも大きなダメージを受けているのか? 以前からいろんな議論があるところです。

少なくとも、欧米側にあった楽観論は現実のものとはなっていないようです。

****1990年代、世界がルーブル決済できていたら?****
これ(アメリカと西欧は、ソ連と東欧にドル不足という厳しい経済的締め付けを行ったこと)によってソ連・東欧経済は崩壊するのだが、もしソ連・東欧が中国・インド・ブラジル・トルコなどと、当時ルーブル決済できていたらどうなっていたのであろうか。

もしルーブル決済で当時のGDPを測れば、日本との5倍のGDPの1人当たりの格差も実際は2倍弱となり、ソ連・東欧諸国はGDPランキングが劣位の後進的地域ではなかったということになる。

まさにこの問題こそ、アメリカと西欧によるロシアや中国への経済制裁が現在まったく機能していない原因であるし、ロシア経済は弱体で、ロシア軍も弱体で、すぐにウクライナが勝利を収めるであろうという西側の楽観的な臆測が幻に終わった原因であったといえる。

西欧の楽観的観測だが、ウクライナに膨大な西欧の資金援助がそそがれ、ロシアへの経済制裁が強化されれば簡単にロシアは崩壊しウクライナはすぐにでも勝利するであろうと、欧米は当初踏んでいた節がある。

ある意味これは、単に机上の空論(ナラティブ)にすぎないのだが、大方この線に沿って、西側の政府もメディアもロシアの経済力やロシア軍の兵力を試算し、安易な勝利図を描いていた。【12月29日 的場昭弘氏 東洋経済ONLINE】
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しかし、実際はロシアの国力・経済力は日本やドイツ並か、ものによってはそれ以上の力があると思ったほうがいいと上記的場氏は指摘しています。それを支えているのがインド、トルコ、中国、イランなどとのつながりであるとも。

****ロシアをめぐる世界経済の輪****
これでみると、今でもロシア経済のGDPは2兆ドルしかなく、アメリカの10分の1以下、人口の少ないカナダやイタリアのレベルにしかすぎない。しかし、これはあくまでもドルベースでの計算であり、本当の実力を示すものではない。

実際は日本やドイツ並か、ものによってはそれ以上の力があると思ったほうがいい。ロケットや航空技術など西側の模倣技術ではない最先端の技術が多くあるのだ。

地政学の専門家だけでなく、ソ連経済や東欧の経済を学び、ウクライナを含む東欧地域に暮らしたものならば、そこにはロシア(旧ソ連)の制度、もっと昔に遡ればオスマントルコの制度が残存し、ソ連崩壊以後の30年という月日だけで簡単に西欧型のシステムに変わりえるものではないことは、理解できるはずである。(中略)

ロシアが西側の圧力に屈しないのは、ロシアの周りに、ロシアの仲間の国々が多くいることである。インド、トルコ、中国、イランなどの大国は、ロシアの仲間である。

一国の経済力は、友好国の存在を抜きに語れない。人口、技術、生産力など、こうした友好国との生産システムが構築されているからである。かつてソ連下ではコメコン諸国内での分業があったが、それと同じようなものが今築かれつつある。

国家と国家との戦争は、1対1に限ったわけではない。周りにいる友好国が何らかの形で参加していれば、その国は強い。まして強い農業と工業に欠かせない原料や燃料をもち、実際にものをつくる工業力をもつ国が周りにあれば無敵ともいえる。【同上】
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ロシアの仲間の国々・・・特に、中国の存在が大きいと言えます。

****ロシア、23年石油輸出は半分が中国向け=副首相****
ロシアの2023年の石油輸出は半分が中国向けとなる見通しだ。また、インド向けは2年間で40%に拡大したという。ロシアの国営通信がノバク副首相の発言として27日に伝えた。

ノバク氏は「現在の状況では主要なパートナーは中国で、そのシェアは約45─50%に拡大している。もちろんインドもだ」と述べた。

「以前は基本的にインドへの供給はなかったが、2年間でインドへの供給シェアは40%になった」と語った。

欧州の比率は約40─45%から約4─5%に低下しているという。【12月27日 ロイター】
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****ロシア、対中ガス輸出5割増 アジアシフト鮮明****
ロシア政府系天然ガス企業ガスプロムのミレル社長は28日、今年の事業を総括し、中国への天然ガス輸出量が225億立方メートルを超え、昨年より5割増えたと発表した。パイプライン「シベリアの力」を通じた輸出が順調に伸び、2025年には380億立方メートルまで拡大すると自信を示した。アジアシフトを鮮明にした。

ロシア極東から中国へのガス供給ルート構築も進めており、27年までに輸出が始まるとの見通しを示した。モンゴル経由で中国に輸出する「シベリアの力2」と呼ばれる計画にも取り組んでいるとした。【12月29日 ロイター】
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【一方で、深刻な技術喪失・資本と人材の流出も】
一方で、ロシア経済のダメージを強調する見方もあります。

****知的人材と資本の流出が止まらない...すでに「経済戦争」では敗戦状態のロシア*****
ジェフリー・ソネンフェルド(エール大学経営大学院教授)、スティーブン・ティエン(同大学チーフエグゼクティブ・リーダーシップ研究所研究責任者)

<ウクライナの苦戦ばかりが伝えられるが、外国企業が撤退し、人材も流出、ルーブルは無価値同然のロシア。懐事情が厳しい点を見落としてはならない>

戦況は膠着状態で、政治の機能不全のせいで欧米の支援は揺らぎ、資源や注目は中東で新たに勃発した戦争のほうに転換──。今やウクライナは、2022年2月のロシア軍の侵攻以来、おそらく最も厳しい状況に直面している。

だからといって、得しているのはウクライナの敵、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領だという欧米メディアの皮肉な見方は飛躍しすぎだ。

昨年12月には、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のコラムニストが「今年の勝者」の1人にプーチンを選出。ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、多国籍企業1000社以上がロシアから撤退したことが逆効果になり、プーチンと取り巻きの富が膨らんでいると示唆した。

だが、プーチンは万事順調、と思い込む罠に陥ってはならない。プーチンに圧力をかける効果的な手段を捨て去ることも許されない。

実際には、あらゆる証拠が示すように、企業の「ロシア脱出」は数々の損失をもたらしている。ロシア経済が巨大なツケを払っていることは、経済データを見れば明らかだ。

譲渡された資産が無価値同然なら、ロシアもプーチン一味も得はしない。ロシアで事業展開するアジア企業や欧米企業の一部資産は没収され、大半の企業はロシアを離れるため進んで巨額の損失を計上した。だが、こうした企業の行為は好感され、時価総額が急増する結果になっている。

石油大手の米エクソンモービルや英BPの撤退で、ロシア側は資源探査に不可欠な技術を失っている。

WSJは昨年3月、現地のジャーナリストの記事として、大規模な供給崩壊でロシアの各部門の工場が休業に追い込まれていると報道。勇敢にも真実を伝えた記者の1人は当局に逮捕され、現在も拘束されている。

本当のところ、ロシアはどうなっているのか。筆者らが信頼性を確認した経済データから検証してみると──。
◇ ◇ ◇
■人材流出
ウクライナ侵攻直後の数カ月間、推計50万人がロシアを離れた。その多くが、ロシアにとって必要不可欠な高学歴の熟練労働者だ。

侵攻から2年近くたつ今、離脱者は少なくとも100万人に膨れ上がっている。試算によれば、この異例の人材大量流出によって、ロシアは技術系労働力の1割を失った。

■資本流出
ロシア中央銀行の報告書にあるように、22年2月~23年6月までにロシアから引き揚げられた民間資本は計2530億ドル。それ以前の資本流出額の4倍以上だ。試算によれば、ロシア在住の富豪の数は33%減少した。

■欧米の技術・ノウハウの喪失
この現象はテクノロジーや資源探査など、幅広い基幹産業で起きている。石油大手ロスネフチだけを見ても、同社の公開資料によれば、昨年末までの1年間の設備投資は100億ドル近く増大。

原油1バレルを輸出するごとに、およそ10ドルの追加経費がかかる計算だ。さらに、同社の北極圏の油田開発計画も、欧米の技術や専門知識に頼り切っていたため継続が危ぶまれている。

■外国直接投資(FDI)の停止
複数の措置によって、ロシアへのFDIはほぼ完全に止まっている。ウクライナ戦争以前、年間FDI額は約1000億ドルに達していたが、侵攻開始から昨年12月までの各月のうち、流入超過を記録したのはひと月だけだった。

■ルーブルの通貨交換性の喪失
多国籍企業の大量撤退ではばかるものがなくなったプーチンは、通貨ルーブルに厳しい資本規制を導入した。ロシア市民による外国銀行口座への送金を禁止し、ドル預金口座からの資金引き出しを最大1万ドルに制限。

輸出企業に獲得外貨の8割をルーブルに両替することを義務付け、ルーブル口座を持つ個人へのドル直接交換、およびドル建て融資やロシアの銀行によるドル販売を停止した。

ルーブル取引高が90%減少したのも、これでは当然だ。ルーブル資産はグローバル市場で無価値に等しくなり、交換不能になっている。

■資本市場へのアクセスの喪失
企業にとって欧米の資本市場は今も、最も深度があって流動性が高く、安価な資金源だ。ウクライナ侵攻以来、欧米金融市場で株式・社債を新規発行できたロシア企業はゼロ。

つまり、もはやロシア企業は、高利で融資する国有銀行(指標金利は16%)など、国内の資金提供源を当てにするしかない。多国籍企業撤退で、ロシアのベンチャー企業は資金調達の選択肢を奪われ、国際的投資家に出資を求めることも不可能になった。

■富の大破壊と資産評価の急落
グローバル多国籍企業の大量撤退が一因で、ロシアでは、あらゆる分野で資産評価が急激に落ち込んでいる。筆者らの調べによれば、国有企業の企業価値はウクライナ戦争以前と比べて75%低下。NYTが指摘したように、多くの民間部門の資産価値は50%目減りしている。

これらの7つの現象は、グローバル企業が大量撤退したせいで、プーチンが強いられているコストの一部にすぎない。さらに、ロシア産原油に価格上限を設定する米財務省の措置など、効果的な経済制裁がロシア経済に与えている打撃も考慮すべきだ。

ロシアによる輸出の3分の2以上を占めるエネルギー資源は、輸出規模が半減している。工業分野でも消費者分野でも、グローバル経済において製品提供国でなかったロシアは麻痺状態にある。

簡単に替えが利く原材料を生産するばかりで、経済超大国には程遠い。今や国家に管理される企業の「共倒れ」体制によって、辛うじて戦争マシンを動かしている。

豊富な経済データを検証すれば、状況は明らかだ。外国企業の前代未聞の「ロシア大脱出」で、プーチンの戦争マシンには支障が出ている。ウクライナが瀬戸際に立たされるなか、極度に楽観視するのは過ちだが。【1月10日 Newsweek】
**********************

・・・・ということで、ロシア経済の状況については、いろんな見方があります。
私個人の印象としては、現時点の戦争遂行という点では西側が期待したような効果はあがっていない。しかし、長期的にみれば、ウクライナがどういう形で結着しようが、西側の資本・技術から切り離され、中国依存を余儀なくされるという形で、ロシア経済は相当に大きなダメージを被ることになっている・・・・といったところでしょうか。
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ブータン  若者は豪へ 観光不振など経済苦境の起死回生策は「ビットコイン採掘」 政権交代へ

2024-01-09 23:49:21 | 南アジア(インド)

(「幸せの国」と呼ばれるブータンで、若年失業率(15〜24歳)が2022年に28.6%と17年の2倍以上に高まった。都市部での就職を希望する若者は多いが、雇用機会が増えていないのが現状だ。企業の少なさに加え、新型コロナウイルス禍で観光業などが打撃を受けたことが響いている。【2023年11月17日 日経】)

【コロナ後の観光不振 揺れる観光政策 観光税65ドル→200ドル→100ドル】
世界幸福度ランキングで2013年には北欧諸国に続いて世界8位にランキングされ、「幸せの国」と称されるようになったヒマラヤの小国ブータンですが、2019年版では156か国中95位に急速に後退している・・・といったあたりの話は、2021年10月28日ブログ“ブータン 「幸せの国」も近代化の社会変化の渦中に 国際関係でも中印対立への対応を迫られる”でも取り上げました。

原因は、鎖国に近い状態にあった以前に比べ、インターネットやスマホも使えるようになって“情報”が入ってくる、観光客とともにいろんな“もの”も入ってくる(アルコールや薬物も)・・・といった変化にともなって、どうしても他国との比較がなされ、自己肯定感が薄れていくといったあたりにあるようです。

「かつてブータンの幸福度が高かったのは、情報鎖国によって他国の情報が入ってこなかったからでしょう。情報が流入し、他国と比較できるようになったことで、隣の芝生が青く見えるようになり、順位が大きく下がったのです」(明治大学大学院情報コミュニケーション研究科講師で行動経済学者の友野典男氏)【女性セブン2021年11月4日号】

経済的にも、基幹産業である観光が環境保護とのバランスで揺らいでいます。

****ブータンの観光税、環境保護と経済のバランス模索****
風光明媚なヒマラヤの王国ブータンでは、清掃隊が森林や山道をパトロールし、観光客が残したゴミを探し、茂みや木に刺さった空の水筒やスナック菓子の袋を取り除いている。

清掃チームを運営する資金は、ブータンが数十年前から課してきた観光税「持続可能な開発料」(SDF)から捻出されている。オーバーツーリズム(観光公害)を避け、南アジアで唯一の「カーボン・マイナス国家」(年間の温室効果ガスの吸収量が排出量を上回る国)としての地位を維持するための税金だ。

ブータンは先週、SDFを半額の1日100ドル(約1万4500円)に引き下げた。地域経済および雇用の下支えと、自然・環境保護の間でバランスを取ろうと格闘しているのだ。

ブータン政府関係者はトムソン・ロイター財団の取材に対し、「価値は高く、量は少ない」観光という原則の下、この税金はインフラの整備や自然や文化の保護、化石燃料への依存を減らすための電動交通への投資に充てられると述べた。

人口80万人足らずのこの小さな国が現在脚光を浴びているのは事実だが、これはブータンだけの問題ではない。(中略)

<観光税を自然保護活動に>
(中略)
最近の調査や業界幹部の話によると、エコツーリズムに対する需要は全体的に伸びてはいるが、持続可能な旅行に対して高いお金を払おうという人は少ない。

ブータンは長年SDFを改定し続け、長期滞在をする旅行者には減免措置を適用した。

昨年9月、コロナ禍による2年以上の閉鎖を経て観光客受け入れを再開した際には、SDFを約30年間続いた65ドルから200ドルに引き上げた。

しかしこの増税は、パンデミックの影響と相まって観光客数に打撃を与え、国内の旅行業者、ホテル、手工芸品・土産物店に損失をもたらした。

政府のデータによると、今年1月から8月にかけてブータンを訪れた観光客は約6万人で、SDFによる税収は1350万ドルだった。パンデミック前の19年には、約31万6000人の観光客が訪れ、8860万ドルのSDF収入があった。

今月SDFを引き下げた際、政府は観光部門を復活させ、雇用を創出し、外貨を獲得することが狙いだと説明した。

ブータンは、国の経済規模30億ドルに対し、観光業の寄与度を現在の約5%から20%に引き上げることを計画している。

ブータン観光局のドルジ・ドラドゥル局長は、氷河の融解や予測不能な天候など気候変動の脅威に直面するブータンにとって、SDFは自然保護への取り組みを強化するために不可欠だと電子メールで述べた。「私たちの未来のため、遺産を守り、次世代のために新たな道を切り開くことが必要だ」と訴える。

ブータンの「カーボン・マイナス」アプローチは1970年代に始まった。当時の国王は、保全と開発を両立させる持続可能な森林管理によって経済を成り立たせようとした。(中略)

<将来への懸念>
ブータンは長年、特にインド人旅行者にとっては最高の休暇先だった。インド人は無料で入国できていたが、昨年、1日1200ルピー(約2100円)の税金が導入された。

旅行関係者によると、インド人観光客が棄てるゴミや、仏教建築に登って写真を撮るなどの行為が問題になっていた。税金が導入された今は、インドから旅行の予約が入らないという。

ブータン観光局のドラドゥル氏は、ブータンは「観光の量」よりも環境、文化、人々の幸福を優先しているため、インド人観光客に対する税金は少なくともあと2年間は据え置かれる予定だと述べた。

世界中で観光税を検討する場所が増えているが、観光税の導入は、手頃な料金で旅行を楽しみたい人々を排除してしまうリスクと背中合わせだ。

ブータンでのホテル・レストラン協会のジグメ・チェリン会長は、SDFは持続可能性という国のビジョンに沿ったものだが、「ビジネスへの影響」という点では課題もあると述べた。

同氏は、今回の減税によって観光産業の伸びが加速することを望んでいると語った。より多くの顧客と収入を求める地元企業も、同様の考えを示している。【2023年9月3日 ロイター】
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個人的なことを話せば、海外旅行が好きな私は“手頃な料金で旅行を楽しみたい”タイプであり、ブータンのような高額な観光税は受け入れがたく思っています。(コロナ以前は、高額な現地ガイドを必ずつけなければいけないといったルールもありました)

1日65ドルの時代でも「貧乏人は相手にしていないということか」と不愉快だったのですが、1日200ドル・・・「クレイジー、なんか勘違いしてんじゃない。好きにすれば」って感じ。 もちろん、1日1000円、2000円であれば環境保護観点から考えますが・・・

ということで、ブータンには行ったこともありませんし、旅行を検討したこともありません。インドからの観光客が激減したのは当然でしょう。

【若年層の失業率が29% オーストラリアへ流出】
ブータンの最低賃金は月額45ドル(約6400円)で、人口の約12%が貧困ライン以下で生活している・・・という状況で、国内に雇用を受け入れる産業も育たず、海外、特にオーストラリアに流出する若者が増加しています。

****高まるブータンの「不幸度」、豪に若者が大量流出****
新型コロナウイルス渦で閉じた国境をオーストラリアが再開したことをきっかけに、国民の幸福度が高いことで知られるブータンから同国に渡る学生が急増している。若者の失業率が2桁に上昇するなど、国内で経済面の「不幸度」が高まっているためだ。

ブータンからオーストラリアにやって来た学生は5月までの11カ月間だけで1万2000人を突破。これはブータンの総人口の約1.5%に当たる。最近の渡航組の大半は西オーストラリア州のパースに落ち着き、保育やホスピタリティー、会計などを専攻する課程に進んでいる。

昨年オーストラリアにやってきた教育コンサルタントのタシ・キプチュさん(25)もその1人。西オーストラリア大学でマーケティングを学んだが、ブータンは「コロナ後に全てが死に絶えた。チャンスがない」という。

ブータンからオーストラリアへの移住は、少数の人道的な受け入れを除けば、かつてはごくわずかだった。しかし2017年にブータンからやって来る学生が増え始め、22年にオーストラリアが国境を再開すると、こうした動きが加速。公式統計によると、ブータンからの学生ビザ申請件数は今年6月末までの会計年度に5倍に膨らんだ。【2023年8月1日 ロイター】
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【政府は豊富な電力を使ってビットコイン採掘】
産業育成でブータン政府が目をつけたのがビットコインのマイニングだそうです。マイニングに必要な電力は巣力発電で豊富ですから。

****「幸せの国」ブータン、経済の起死回生策は「ビットコイン採掘」****
世界で最も孤立した国のひとつであるブータン。その首都ティンプーの南にある丘の中腹には、数十個の輸送用コンテナが静かに横たわっている。その中では、高価なビットコインの採掘マシンが、この国の若き国王とその王国を魅了する貴重な通貨を生み出すために絶え間なく働いている。

「龍王」とよばれるジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王の治世下で、ブータンは密かに暗号資産のシャングリラへと変貌を遂げ、政府はその土地や資金、エネルギーを投じて、経済的苦境から脱出することを願っている。

しかし、ブータン政府はこれらのマイニング(採掘)施設の場所や規模を明らかにしたことはなく、約4年前に同国が世界初の国営マイニング施設を立ち上げたことも、国外ではほとんど知られていなかった。

ブータン政府がデジタル資産への投資についてコメントし始めたのは、フォーブスが今年5月の記事で、同国の政府系ファンドが、破綻した仮想通貨貸し付けサービスのBlockFi(ブロックファイ)やCelsius(セルシウス)の顧客だったことを報じた後のことだ。

そして今、フォーブスは関係者の証言と複数の衛星画像データに基づき、ブータン政府が運営する4つのマイニング拠点と思われるものの場所を特定した。

それらの施設のうちのひとつは、ブータンの教育と知識のための国際拠点になるはずだった、失敗した「エデュケーション・シティ」と呼ばれる10億ドル(約1400億円)の巨大プロジェクトの跡地に建設されている。(中略)

ブータン政府は、若者の失業率が上昇し、国外移住者と人材流出が急増する中で、未来を確保する手段として、教育都市プロジェクトを国民に宣伝していた。

ロイターは今年8月、ブータンの人口の約1.5%が2022年にオーストラリアに移住し、その多くが雇用と賃金の向上を求めていたと報じた。地元紙のKuenselによれば、ブータンの最低賃金は月額わずか45ドル(約6400円)で、人口の約12%が貧困ライン以下で生活している。

エデュケーション・シティはそれを変えるはずだった。2009年、ブータン政府はコンサルティング会社のマッキンゼーに約900万ドル(約13億円)を支払い、10億ドルの「医療、教育、金融、ICTサービスのための世界クラスの地域ハブ」の設計を依頼した。2つの川の合流地点に位置する1000エーカー(約400万平方メートル)のキャンパスは、同国の実験的な国民総幸福量(GNH)経済モデルの道標であり、アジアにおける高等教育ハブとなるはずだった。

しかし、そのいずれも実現しなかった。政治的スキャンダルや、管理上の不手際によってプロジェクトは遅延し、2014年に廃止された。そして、現地に残されたのが道路や橋などに加え、ビットコインのマイニングに必須の電力インフラだった。(中略)

ブータン政府の「起死回生」を担うビットコイン
ビットコインは、ブータン経済の起死回生のプランとして追加された。ブータンの財政は長い間、観光収入と隣国インドへの水力発電による電力輸出によって支えられてきた。

しかし、新型コロナウイルス感染症の爆発的流行によって、1人1泊あたり65ドル(約9200円)の観光税から得られる年間8860万ドル(約125億円)の収入は激減し、早急な軌道修正が必要となった。複数の情報筋によると、ブータン政府は2020年頃からビットコインの採掘業者や関係者と協議を始めた模様だ。(中略)

ブータンを代表する航空会社や水力発電所、チーズ工場も運営する(ブータン政府の投資部門である)DHIは、ビットコインのプロジェクトの資金を調達するために外貨建て債券を増発したことを開示しているが、年次決算ではビットコインマイニングの収益や投資の内訳を一切明らかにしていない。ブータンの財務省も同様に沈黙を守っている。(後略)【12月29日 Forbes】
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ビットコイン関係の知識が全くないので、こういうマイニングがどの程度確実な収益につながるのかは知りませんが、経済を再建し、若者の雇用を確保するには・・・どうでしょうか? 牧歌的な「幸せの国」のイメージではありませんが。

【経済低迷で政権交代】
政治的には、厳しい経済情勢を反映して、議会選挙で与党が敗退し、政権交代が起きています。

****ブータンで政権交代へ 来年1月に国民議会本選****
ヒマラヤの王国ブータンの選挙管理委員会は1日、11月30日に実施された国民議会(下院、47議席)予備選の開票結果を発表した。与党の協同党は敗れ、来年1月9日に行われる本選に進出できなかった。過去2回の国民議会選と同様、政権交代することが決まった。

国民議会選は、予備選の上位2党が本選に進む仕組み。今回の予備選では五つの政党が参加し、2013~18年に首相を務めたツェリン・トブゲイ氏が率いる国民民主党が約42・5%と最多の票を獲得した。約19・6%を獲得し次点だった新党の縁起党と議席を争う。

王政から立憲君主制に移行する総仕上げとなった初の国民議会選が08年に実施されており、今回で4回目となる。協同党のロテ・ツェリン党首は自身のフェイスブックで敗北を認めた。【12月1日 産経】
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****ブータンで下院本選 「幸せの国」も経済低迷****
ブータンで9日、国民議会(下院)本選の投票が行われた。若年層の失業や観光業の低迷など各種の経済問題に直面する中、本選に臨んだ国民民主党と縁起党は、水力発電部門への投資誘致などを有権者に訴えた。投票は午後5時に締め切られ、結果は10日に発表される見通し。

国民議会予備選は昨年11月に実施され、政権与党および議席を持つ野党が敗退。国民民主、縁起の2党が本選に進んでいた。

世界銀行によると、ブータンでは若年層の失業率が29%に達し、過去5年間の経済成長率は平均1.7%にとどまっている。主要な外貨獲得源である観光業も、新型コロナウイルス禍による打撃から依然、回復していない。

国民民主党がブータン国民8人のうち1人が「食料など基本的なニーズを満たせていない」とマニフェストで指摘するなど、「国民総幸福量」という指標を掲げ、経済の豊かさよりも心の幸せを重視する政策への信頼は揺らぎつつある。 【1月9日 AFP】
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外交面では、インドと中国の間で揺れていますが、そのあたりは2023年11月4日ブログ“インド グローバルサウスのリーダーを目指すも、インド周辺国では中国主導の動き”でも取り上げましたので、今回はパスします。
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インド  総選挙に向けて優位な情勢の与党 しかし、少数派に対する深刻な人権侵害の懸念も

2024-01-08 23:12:35 | 南アジア(インド)

(インド・ムンバイで、2002年にグジャラート州の暴動で集団レイプ事件を起こしたヒンズー教徒11人が釈放されたことに抗議するデモの参加者(2022年8月23日撮影、資料写真)。【1月8日 AFP】)事)

【4~5月 総選挙 経済好調・モディ首相人気で与党「インド人民党」有利の情勢】
今年は今週末の台湾総統選挙、3月ロシア大統領選挙、4月韓国総選挙、6月EU「ヨーロッパ議会」選挙、そして真打、11月のアメリカ大統領選挙など重要な選挙が多く「選挙イヤー」とも言われていますが、4月から5月にかけてインドの総選挙も行われます。

そのインドでは経済は好調のようです。

****インド実質GDP7.3%増の予想 主要国で最高水準…再選目指すモディ首相に追い風か****
経済成長が続くインドの実質GDP=国内総生産について、インド統計局は主要国で最も高い7.3%の成長率になるとの初期予測を発表しました。

インド統計局が5日に発表した初期予測によりますと、2023年度の実質GDPは前の年度より7.3%増える見込みです。経済成長率は主要国の中で最も高い水準となる予想で、今年5月までに行われる総選挙で3期目を目指すモディ首相にとって追い風となりそうです。

世界的な景気の低迷が長引くなか、インドは公共投資の増加による内需の拡大や観光業の回復などが、成長をけん引しているとみられます。

また、モディ政権はこれまで弱いと指摘されてきた製造業の強化を掲げており、経済の失速が進む中国への依存を回避しようと、日本やアメリカなど各国の企業がインドへの投資を拡大しています。

一方、インドメディアは雇用を生み出しているのは、ITや金融サービスといった分野に限定されていて、貧困層の多い農村部での雇用機会の改善などが課題だと分析しています。【1月8日 TBS NEWS DIG】
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こうした経済状況やモディ首相人気もあって、モディ首相率いる与党「インド人民党(BJP)」は選挙戦に向けて優位に立っているようです。

****インド与党、州議選で勝利 総選挙の前哨戦 モディ政権3期目に弾み*****
来春(2024年)の総選挙の「前哨戦」と位置付けられるインド4州の議会選挙が(12月)3日開票された。地元メディアによると、モディ首相の与党・インド人民党(BJP)が、3州で野党・国民会議派などを破って単独過半数を獲得する見通しとなった。総選挙で3期目を目指すモディ政権にとって大きな弾みとなった。
 
4州の選挙は11月7〜30日に投票された。BJPは、中部マディヤプラデシュ▽西部ラジャスタン▽中部チャッティスガル――の3州で勝利を宣言した。一方、野党・国民会議派は南部テランガナ州で地域政党を抑えて勝利したものの、2州で政権を失い、総選挙に向けて態勢の立て直しを迫られる形になった。

BJP勝利の背景には、7割超の支持率を誇るモディ氏の人気があるとみられる。モディ氏は3日、X(ツイッター)に3州の勝利について「BJPの良い統治と発展を国民が支持していることを示している」と投稿して自信を見せた。

国民会議派はインドの身分制度「カースト」ごとの人口調査の実施を公約に掲げてきた。下位カーストの人口を把握し、就労や教育で優遇措置を受けられる人を増やす狙いがある。ヒンズー至上主義団体を支持母体とし、カーストを超えたヒンズー教徒の結束を重視するBJPとの差別化を図る戦略だが、支持は広がらなかった。

国民会議派を中心とする野党は「インド全国開発包括連合(略称・INDIA)」として総選挙でBJPに対抗する構えだが、ニューデリーのシンクタンク「政策研究センター」フェローのラフル・ベルマ氏は「現時点ではBJPが最多議席を維持するのは間違いないだろう」と予測した。【12月4日 毎日】
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モディ首相人気は、同氏の進めるヒンズー至上主義や、国際政治でのインドの影響力増大が、国民多数派であるヒンズー教徒の民族主義的感情をくすぐることにあるのでしょう。

【モディ首相・人民党のヒンズー至上主義や権威主義的傾向への懸念】
しかしながら、(私を含めて)国際的には同氏のヒンズー至上主義や権威主義的傾向を懸念する向きもあります。

****インド経済の飛躍はモディ首相への“評価”にかかっている…アメリカも注視する「極めて危うい構図」とは****
(中略)
国際的にも注目されているモディ氏
インド経済の好調には同国に対する国際的な好感度の上昇が関係している。この状況に最も寄与しているのが、首相のナレンドラ・モディ氏であることは言うまでもない。

モディ氏は昨年、主要20ヵ国・地域首脳会議(G20サミット)の議長として大きな存在感を示した。グローバルサウス(新興・途上国の総称)の盟主を自認するモディ氏は、G20サミットの場でグローバルサウスの利益を代弁する役割を積極的に果たしてきた。

さらにモディ氏は、米国との良好な関係を維持しながら、ロシアとのパイプも維持している。「今は戦争の時ではない」と呼びかけるモディ氏は、ロシアを訪問し、西側諸国を敵視するプーチン大統領と会談する意向を見せている。

このように、動向が国際的に注目されるようになったモディ氏だが、今年は試練の年でもある。総選挙(下院選)が今年4月から5月にかけて実施されるからだ。

3選目を目指すモディ氏は、昨年末から総選挙に向けた活動を本格化させている。足元の世論調査では、モディ氏が率いるインド人民党(BJP)が、前回(2019年)と同様、単独で過半数の議席を占めると言われている。

モディ氏の地盤は固いようだが、気になるのは権威主義的な傾向だ。

少数派に対する深刻な人権侵害
BJPから選出されたインド議会の両院議長は12月19日、警備態勢の検証を求めた100人超の野党議員に対し、「秩序を乱した」との理由で登院停止を命じた。下院の議場に2人組の男が乱入した事案から起こった検証要求だったこともあり、野党は「民主主義への攻撃」として反発。米人権団体も強く非難する事態となっている(2023年12月20日付CNN.co.jp)。

モディ政権下では、イスラム教徒などの少数派に対する深刻な人権侵害が起きており、米印関係を揺るがしかねない問題も持ち上がっている。

米検察当局は2023年11月29日、米国内でインド系米国人のシーク教徒活動家を暗殺しようとしたとして、インド国籍の男を起訴した。米国政府は「この問題を深刻に受け止めている」との認識を示したが、インドとの戦略的パートナーシップを強化する方針を今のところ変更していない。

米国のインドへの接近は「ライバルである中国を牽制するカードとして利用する」というご都合主義の色彩が強い。一方、モディ氏率いるBJPはネオファシズム的な側面があるとの指摘がある(12月21日付ニューズウイーク日本版)。

自国の主権を侵害する事案が続けば、米国を始め西側諸国はインドとの良好な関係をご破算にするのではないかと筆者は考えている。

西側諸国から見たインドのイメージが悪化すれば、同国の経済に対する認識もがらりと変わる。インド経済が飛躍を遂げるかどうかはモディ氏の評価にかかっていると言っても過言ではない。だが、この構図は極めて危ういのではないだろうか。【1月8日 藤和彦 デイリー新潮】
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【グジャラート州首相時代の対イスラム教徒暴動で起きた集団レイプ事件をめぐる動きに透ける少数派権利擁護への消極姿勢】
“モディ政権下では、イスラム教徒などの少数派に対する深刻な人権侵害が起きており・・・・”
過去のブログで何度も取り上げたように、そもそもモディ首相はグジャラート州首相時代の2002年に起きた宗教暴動で、ヒンズー教徒によるイスラム教徒虐殺を黙認した強い疑惑があります。(司法的には、責任なしとされていますが)

この暴動ではイスラム教徒を中心に1000人以上が殺害されたとされています。その過程では、イスラム教徒の女性に対する集団レイプもありました。

しかし、一昨年8月には、集団レイプで終身刑の判決を受けていた11人について、BJPが与党となっているグジャラート州政府は減刑・早期釈放しました。釈放された犯人らは“英雄的”な歓迎を受けています。

****集団レイプで終身刑の11人を早期釈放 被害者「あぜん」 インド****
インドで今週、独立後最悪の宗教暴動でイスラム教徒の女性を集団レイプし、終身刑を科されたヒンズー教徒11人が早期釈放されたことを受け、被害者のビルキス・バノさんは「あぜんとしている」と心境を明らかにした。

西部グジャラート州で2002年、ヒンズー教徒の暴徒にイスラム教徒17人が襲われ、14人が死亡する事件があり、世界的な非難を浴びた。生き残ったのは妊娠中だったバノさんとその子ども2人のみ。バノさんは3歳の娘を含む親族7人を亡くした。

その後、ヒンズー教徒の男11人が終身刑を言い渡されたが、グジャラート州政府は15日、インド独立75周年の式典に合わせて釈放すると発表した。(中略)

事件当時、ヒンズー至上主義を掲げるナレンドラ・モディ首相がグジャラート州首相を務めていた。宗教暴動を見て見ぬふりをしたと非難されたが、2012年に非はなかったとされた。

しかし今回の一件を受け、イスラム教徒の有力議員アサドゥディン・オワイシ氏はモディ氏率いる与党インド人民党(BJP)に言及し、「BJPの宗教に対する偏向は、残忍なレイプや憎悪犯罪さえも容認するほどだ」と非難した。

BJPが与党となっているグジャラート州政府は、11人の釈放を擁護。主要紙ヒンドゥスタン・タイムズによると、高官のラジ・クマール氏は「11人の減刑は、インドで通常14年以上とされる終身刑の刑期、年齢、素行など、さまざまな要因を考慮したものだ」と説明した。

2002年の宗教暴動は、ヒンズー教の巡礼者59人が死亡した列車火災をきっかけに発生。公式発表によると、イスラム教徒を中心に約1000人が殺害された。

列車火災をめぐってはイスラム教徒が原因とされ、後に30人以上が有罪判決を受けたが、今も原因をめぐる論争が続いている。【2022年8月20日 AFP】
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このグジャラート州政府の措置に対し、インド最高裁は8日「再収監すべき」との判決を下しています。

****インド最高裁、集団レイプ事件11人の釈放無効に****
インド西部グジャラート州で2002年に起きた宗教暴動でイスラム教徒の女性たちが集団レイプされ、14人が死亡した事件で、同国最高裁は8日、終身刑を科されながらおととし釈放されていたヒンズー教徒11人を再収監すべきとの判決を下した。

2022年8月、同州政府委員会の勧告を受けて釈放されていた11人について、最高裁は2週間以内の再収監を命じた。

11人は釈放された際、親族や支援者らから英雄的な歓迎を受ける様子が動画で公開された。またその釈放は、ナレンドラ・モディ首相が演説で女性の安全について語ったインド独立記念日の祝賀とも重なり、全土で怒りを巻き起こした。

事件はヒンズー至上主義を掲げるモディ首相が、グジャラート州首相を務めているときに起きた。モディ氏は宗教暴動を見て見ぬふりをしたと非難されたが、2012年に非はなかったとされた。

野党・国民会議派は最高裁の判決を歓迎。与党・インド人民党の「女性に対する冷淡な軽視」が暴露されたと批判した。

同党広報担当のパワン・ケーラ氏はX(旧ツイッター)への投稿で、「犯罪者の違法な釈放を進めた者たち、受刑者を花輪や菓子で歓迎した者たちに平手打ちが食らわせられた」と述べ、「インドは犯罪の被害者および加害者の宗教やカーストによって、司法運営が左右されることを許さない」と強調した。 【1月8日 AFP】
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一連の動きはモディ首相率いるインド人民党(BJP)のイスラム教徒や女性といった少数派の権利擁護に関する消極姿勢を示してもいます。

【女性のバス運賃は無料・・・背景には女性差別によるバス代負担も難しい女性の低賃金】
インド国内の女性に関しては、デリーなどインド各地で女性のバス乗車が無料になるという措置が行われているようです。

一見、女性優遇の施策のようにも見えますが、その背景にあるのは、女性の賃金が差別的に低く、バス乗車運賃を無料にしないと仕事にも出られず生活できないという劣悪な労働環境にある女性の実態があるとのことです。

****インドで女性のバス乗車が無料に。背景にある、深刻なジェンダー格差****
運賃が高すぎて仕事に行けない、給料のほとんどを通勤に使ってしまう──日本でそんな経験をすることは少ないかもしれない。しかし、こうした課題に日々直面してきた人たちがいる。インドの女性たちだ。

2022年時点でのインドの労働参加率は、男性が73.6%であるのに対し女性は24%にとどまり、中東諸国に次いでジェンダーギャップが最も大きい国のひとつとなっている。

さらに、女性が仕事を得たとしてもその所得は非常に少ない。インド全体における女性の平均月給は、正規雇用で1万2,667.5インドルピー(約2万2,800円)、非正規雇用では5,156.5インドルピー(約9,280円)であり、どちらも男性より低額であることが指摘されている。

こうしたインドにおけるジェンダー格差を是正する希望となっているのが、女性客のバス料金無料化の動きだ。このプログラムは「Shakti(ヒンディー語で強さの意)」と呼ばれ、これまで国内各地で実施されてきた。

2019年のデリーにおける導入を皮切りに複数の州で実施され、インド南西部のカルナータカ州も2023年6月から女性客のバス料金を無料化した。インドでは女性の約52%が毎日バスを利用し、約29%が週に数回利用することから、多くの女性がプログラムの対象となることが分かる。

カルナータカ州でShaktiが導入されて約4ヶ月が経ち、とある女性は「毎日120インドルピー(約217円)のバス運賃支払っていたが、今はその支出を抑えることができる」と、The Hinduの取材 に答えている。

毎日217円のバス代。たったそれだけかと思うかもしれないが、彼女たちの給料を踏まえると高額だ。日本における正規・非正規雇用を合わせた女性の平均年間給与は314万円であるため、単純計算で女性の平均月給はおよそ26万円。つまり日本での給与に換算すると、カルナータカ州では1日のバス代は少なくとも2,600円ほどに値しうる額であり、日常生活でかなり負担となっていることがうかがえる。

家計の大きな負担となっていた交通費が無料になることは、彼女たちの生活にとって大きな意味を持つはずだ。現在働いている女性たちが給与を食費や教育費により多く回すことができ、今は働くことが叶っていない女性たちにとっては働き始める後押しにもなるだろう。

これは女性の視点に立ったまちづくりを試みるフェミニスト・シティの動きとも捉えることができ、インドにおけるShaktiの事例はアジアのなかで一歩進んだ取り組みとも捉えられる。

一方で、女性客のバス料金無料化に対して反発の声もあがっている。私営のバスやタクシーが加盟するカルナータカ州民間交通協会連合は、Shaktiの影響により給与が下がったとしてShaktiに反対するストライキを実施した。どのようにして地域に支持され継続できるプログラムへと改善されるかが今後の課題となるだろう。

もうひとつの課題として、そもそも女性が安心して利用できる環境が整えられていないことがあげられる。インドではバスを利用したことがある女性のうち、約54%は運転手や男性客から運賃が無料であることを揶揄され車内で差別的な発言を受けたことがあり、約80%は運転手がバス停で待つ女性客を無視したことで乗車できなかった経験があるという。プログラムの形態だけでなく人々の捉え方にもアプローチする必要があるようだ。

そもそも、インドにおいて女性の給料が少ない主な要因は差別であると指摘されている。男性が優位とされ女性の行動を制限する風潮が根強いと言われるインドだが、ジェンダー平等が求められる社会の潮流にどう対応していけるだろうか。

バス料金の無料化だけで終わらず、継続して女性そして市民全体の声に耳を傾けながら、慣習的な考え方にも変化を起こそうとする姿勢が求められている。【2023年11月29日 仲原菜月氏 IDEAS FOR GOOD】
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インドにおける女性差別の問題をとりあげると話がまた長くなりますので、別機会に。

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タイ  王室改革をめぐる議論の一進一退 今年は?

2024-01-07 23:27:41 | 東南アジア

(タイの抗議者たちは、新しい憲法と君主制の改革を3本の指で示す【1月3日 Newsweek】)

【不敬罪改正を掲げた「前進党」 昨年総選挙で第1党に躍進するも、首相就任を阻止される】
タイの昨年の政治状況を振り返ると、5月に行われた総選挙で若者らの支持を背景に「前進党」が第1党に躍進するという大きなうねりがありました。ピタ党首率いる「前進党」は公約で徴兵制の廃止を、更にこれまでタイ社会ではタブー視されてきた王室改革にも切込み、不敬罪の改正も盛り込みました。

****改革望む声で躍進 「再解党」懸念も―第1党の前進党・タイ総選挙****
タイ下院総選挙で第1党となった革新系の野党「前進党」が躍進した背景には、若者らを中心に軍や王室といった現在のタイ政治を特徴付ける存在の改革を望む声があった。ただ、同党の前身となる党は4年前の選挙後に解党処分を受けており、同様の事態が再び起きる懸念もある。

野党で連立政権構想 反軍、総選挙で勝利―タイ
前進党は公約で、徴兵制の廃止を掲げた。さらに、タイではタブー視されてきた王室批判を巡り、不敬罪の改正も盛り込み、バラマキ色の強い経済対策を掲げる他の政党とは一線を画した。

これら国の制度の抜本的な改革を打ち出した政策は、若者を中心に受け入れられた。首都バンコクで14日の投票後に取材に応じた大学2年生のテクさん(20)は前進党支持を明かした上で、「タイの変化が見たい。現状からどう発展できるか知りたい」と話した。

前進党躍進の布石は、2014年のクーデター後の民政復帰を目的とした19年の下院総選挙にあった。反軍を掲げた同党の前身の「新未来党」は、選挙直前の結党だったがSNSを駆使するなどして若者の支持を集め、80議席を獲得して野党第2党となった。

しかし、憲法裁判所は20年2月、当時のタナトーン党首による党への1億9000万バーツ(約7億6000万円)の資金提供は政党法に違反すると判断。新未来党の解党を命じ、同党首ら幹部の政治活動を10年間禁止した。

これを受け、親軍政権に反発する学生らのデモが活発化。批判の矛先は王室にも向けられ、参加者らが不敬罪で逮捕される事態が相次いだ。

新未来党の解党後、残った下院議員らは前進党を設立し、ピタ氏が党首に就任した。ピタ党首の人気は徐々に高まり、タイ国立開発行政大学院の世論調査によると、次の首相候補としての支持率が3月の時点では15%だったが、5月には35%まで上昇した。

勢いに乗る中で総選挙を迎え、前進党は都市部だけでなく中部や北部の地方でも多くの議席を獲得。ピタ氏は「首相になる準備はできている」と意気込んだ。

ただ、ピタ氏は選挙期間中、メディア関連株の保有を巡り選挙管理委員会に告発された。ピタ氏は「株は私のものではなく、心配していない」と説明しているが、政治アナリストは「選管や憲法裁が前進党に不利な判断をする恐れがある」と指摘した。【2023年5月16日 時事】
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しかし、ピタ党首の首相就任は、選挙前には当初勝利が確実視されていたにもかかわらず「前進党」に支持を奪われ第2党に甘んじたタクシン元首相系の「タイ貢献党」が仇敵であった親軍勢力と大連立を組むという「現実政治」によって阻まれました。

親軍政党「国民国の力党」関係者が「ピタ党首は法律に違反してメディア株を保有しながら総選挙に立候補した」として中央選挙管理委員会に訴えを起こしたことなどで第1回首相指名選挙での過半数獲得に失敗。

第2回首相指名選挙では、国会規則が「拡大解釈」され、憲法裁判所がこれを実質的に認めたことで、ピタ党首の再推挙自体ができなくなりました。

そうした流れを受けて(と言うより、事前に下記のようなシナリオが準備されていたので、上記のような抵抗が現実のものとなり、ピタ党首首相就任が阻止された・・・と言うべきでしょう)

“総選挙で第2党となったタイ貢献党と第3党・タイ威信党が、前進党を外した連立政権樹立で合意。さらに、閣僚ポストを約束することで、(親軍政党の)国民国家の力党、タイ団結立国党なども引き入れ、タイ貢献党を含む11党は8月21日、314議席を擁する連立政権構想を発表し、タイ貢献党のセーター氏を首相候補として支持する方針を確認した。”【12月22日 バンコク週報】

軍事クーデターで排除され、軍部・枢密院・司法等既得権益層と激しく対立してきた「抵抗勢力」タクシン派も、「前進党」との対比で見れば、王室を頂点とした既存政治秩序の一部であり、既存秩序維持ということで実現したタクシン派と王室・軍部など既得権勢力の「大連立」が「前進党」の秩序破壊的な改革を阻止したと考えられます。

****クーデターが未遂含め19回、政治と近いタイ国王…かつての「対抗勢力」タクシン氏と距離縮める****
親日国タイで5月に行われた下院選で第1党になった「前進党」が政権を樹立できず、第2党を中心とする連立内閣が9月に発足した。前進党が王室改革を訴えたことに軍を中心とする王室擁護派が反発した。タイ国王とは、どんな存在か。

クーデター 黙認でお墨付きも
タイでは1932年の立憲革命で絶対王制が廃止され、立憲君主制に移行した。とはいえ、同じ立憲君主制の英国と比べて国王はずっと政治に近い。「王式民主主義」とも言われる。

タイでは立憲革命以降、軍のクーデターが未遂も含めて19回起きた。軍の統帥権を持つ国王が、黙認することで政変にお墨付きを与えたケースがあるとの指摘がある。

46年に即位したプミポン前国王は軍部と市民の政治対立が激化した際、仲裁に動いたこともあった。92年5月に軍がデモ隊に発砲した「暗黒の5月」事件の際も、首相とデモ隊指導者を自らの前にひざまずかせて和解を諭した。「政治が行き詰まったら国王が解決する」との考えが国民に浸透した。

タイ憲法は、日本の明治憲法の影響を受けたと言われる。2017年憲法には「国王は、崇敬され神聖な地位にあり、何人も侵すことはできない」(第6条)とある。国王の政治的権限に関する条文には「憲法に適用すべき規定がない場合、国王を元首とする民主主義政体におけるタイ国の統治慣行に従って当該事案に対応する」(第5条)といった曖昧な記述がある。

筑波大の外山文子准教授(タイ政治)は「明確でないことが逆に国王に無限の力を与えている。国民が、王や王を護衛する軍など既得権益層に刃向かう言動を自粛することにつながっている」と解説する。

共産化を阻止
王権を強化することで冷戦期、近隣国に広がった共産化の波を食い止めることに成功したとの見方がある。しかし、度重なるクーデターは民主主義の軽視にほかならない。

01年以降、農村の支持を得て総選挙で圧勝したタクシン・シナワット元首相が権勢を振るった。「憲法を超越した権力を持った人物が混乱を引き起こしている」と発言するなどし、国王に対抗する勢力とみなされた。軍は06年と14年にタクシン派政権をクーデターで倒した。

約5年の軍政後も軍主導政権が続いた。20年に反軍政を掲げた前進党の前身「新未来党」が憲法裁判所により解党されると、学生らは抗議デモで、政権が擁護する王室の制度改革を訴えた。プミポン前国王が16年に死去し、ワチラロンコン国王が即位してから国王の権限は憲法改正などにより強化され、陸軍の先鋭部隊が国王直属になった。

王室改革頓挫 タクシン氏の転向
今年5月の下院選では、前進党が王室改革を掲げ、王室のあり方に疑問をもつ若者の支持を得て第1党に躍進した。同党は王室への侮辱を罰する刑法の「不敬罪」の量刑(最高15年の禁錮刑)軽減を公約に掲げた。

しかし、ピター党首(当時)は軍の影響力が強い上院議員らの支持を得られず政権樹立が頓挫した。代わりに王室の対抗勢力とみなされていたタクシン元首相派の「タイ貢献党」のセター・タウィシン首相が首班となった。既得権益層がタクシン氏と手を組み、前進党の政権奪取を阻んだとみられている。民意が反映されず、前進党支持者からは不満の声も多く聞かれる。

汚職などで有罪判決を受け国外に逃亡していたタクシン氏は8月22日に帰国するなり、バンコクの空港にしつらえられた国王夫妻の肖像の前にひざまずいた。国王はその後、恩赦でタクシン氏の刑期を8年から1年に短縮した。タクシン氏と王室との距離が縮まったことを印象づけた。(後略)【12月13日 読売】
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タクシン元首相は軍部との接近で、自身の恩赦を確実にし、帰国を実現した・・・という話でもあります。

【今も続く王室関連発言への抑圧】
こうした王室批判はもちろん王室制度改革の議論も許さないタイの政治状況は今現在も続いています。

****進歩派の国会議員に禁錮6年の判決、王室への侮辱で タイ****
タイの裁判所は14日、進歩派の国会議員に対し、ソーシャルメディアへの投稿で王室を侮辱した罪などで禁錮6年の刑を言い渡した。人権擁護団体のTLHRが明らかにした。

野党・前進党のルクチャノック・スリノック議員(29)はタイの刑事裁判所で、不敬罪並びにコンピューター犯罪に関する法律への違反で有罪判決を受けた。ソーシャルメディアプラットフォームのX(旧ツイッター)で行った2020年の2件の投稿が原因だという。

タイの不敬罪法は世界で最も厳格な部類に入り、国王や王妃、その後継者を批判した場合はそれぞれの罪に対し最大で禁錮15年の刑を言い渡される可能性がある。これにより、王室について口にすることさえリスクが付いて回る状況となっている。

タイでは近年、若者を中心に改憲や軍の政治的影響力の低減を求める抗議行動が繰り広げられた。抗議内容には王室改革も含まれたことから、不敬罪で百人以上が訴追されている。

スリノック議員の裁判を追跡しているTLHRは問題の投稿について、1件には政府の新型コロナワクチン調達への批判が盛り込まれていたと説明。ある製薬会社を国王と結びつける記述も含まれていたという。

もう1件は20年の抗議行動の画像に対するリツイートで、添えられたメッセージが裁判所から反王室と見なされた。

TLHRによれば、スリノック議員は上訴する間保釈が認められた。法廷を後にした同議員は、自身のフェイスブックページへの投稿で、国会での仕事に戻ると明らかにした。また「112人の被告全員に保釈が認められるよう声を上げたい」と書き込んだ。

スリノック議員は23年に政界入りする前、有力な活動家として頭角を現した。当時は14年のクーデターで実権を握ったプラユット前首相への厳しい批判で知られた。

同議員の所属する前進党は5月の総選挙で最も多くの票を獲得したが、強力な保守派の既得権益層によって政権樹立を阻まれていた。【12月15日 CNN】
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【若者のなかには過激な抗議行動を行う者も】
王室制度改革の議論をタブーとは考えない若者のなかには、過激ともいえる抗議活動を行う者も。

****若い女性が「命を懸けて」王室批判を行うタイ...実は政治的だった王室の歴史と、若者たちが抱く希望****
2020年以降、多くの若者が民主化運動に身を投じ、長年タブーだった「王室改革」を唱えるようになっている。そして王室に関する「物語」を批判的に書き換える、新しい書き手たちによる本が生まれている。『アステイオン』98号「タイの若者たちが紡ぐ新しい「物語」」を抜粋>

(中略)本稿執筆時点(2023年3月頭)、タイ・バンコクの最高裁判所前では、ふたりの若い民主活動家が、40日以上にわたるハンガーストライキを続けている。「タワン」ことターンタワン・トゥアトゥラーノン(21歳)と、「ベーム」ことオーラワン・プーポン(23歳)だ。

2022年2月、彼女たちふたりと他の活動家は、バンコクの有名デパート前で、通行人に対して「王族の行幸啓の車列は〔交通制限などが必要になるため〕迷惑だと思うか?」というシール式アンケートを実施した。

その上で、警察の制止を無視して、王室の宮殿付近まで活動を拡大した。この行為が刑法112条の王室不敬罪、116条の煽動罪、および368条の、法的権限を持つ人間の命令に逆らうという罪に問われた。逮捕・勾留された彼女たちは、保釈金20万バーツ(およそ80万円)を支払った上で、EMリングと呼ばれるGPS監視装置を装着されて、即日保釈された。

状況が変わったのは、2023年に入ってからだ。1月9日に、刑事裁判所が、ふたりとともに罪に問われている別の活動家バイポーとケット(どちらも20代前半)の保釈を取り消す決定を下す。保釈条件への違反がその理由とされたが、弁護士などは、取り消し決定のプロセスに法的な問題があると指摘した。

1月16日、タワンとベームは刑事裁判所前で、この決定を批判するべく、血に見立てた赤色の液体をみずからの身体に浴びせかけるというパフォーマンスを行なった。彼女たちは、裁判が行われないまま勾留が続く民主活動家たちの保釈を要求した上で、裁判所に自分たちの保釈の取り消しを申し出て、その日の夕方に再度勾留された。

1月18日には、SNSに投稿された動画を通じて、ふたりは「命を賭けて闘う」ことを宣言し、ハンガーストライキを開始する。その要求は以下の3つだ。

第一に、司法制度を改革し、裁判所が市民の人権と表現の自由を守ること。第二に、表現の自由や集会の自由を行使した市民への訴追をしないこと。第三に、すべての政党が、王室不敬罪と煽動罪の廃止によって、市民の権利を保障する政策を提案し、市民の政治参加を推進すること。

彼女たちの行為との因果関係は不明だが、ハンストの開始後、10名を超える活動家が保釈されている。

ふたりは1週間後に、外部の病院に移送された。だが2月24日には、さらに3名の活動家の保釈を要求して、病院での点滴治療などを拒否した上で、最高裁判所前に設置した無菌テントでのハンスト続行を宣言した(追記:3月3日夕方には、ふたりの体調が急激に悪化しているとのことで再度病院に移送され、同11日にはハンストの中止が発表された)。

どうして彼女たちは、ここまでの行為に及んだのか。彼女たちだけではない。
2020年以降、何人もの若者が、警察隊との衝突で重傷を負ったり、勾留中にハンガーストライキを実施したりしている(タワンは、2022年にも、勾留中に37日間のハンストを行なっている)。

もはや民主化運動も、当初のような一枚岩の大きな盛り上がりはなく、彼女たちの過激ともいえる抗議活動には、根本的な主張を同じくするひとたちの中からも、批判的な目が向けられることがある。

タイの民主化運動が拡大したのは、2020年の初頭のことだ。民主化の希望として期待された政党「新未来党」が、不当ともとれる方法で解党されたことで、支持層だった都市部の大学生を中心に抗議運動が広がった。
2014年の軍事クーデター以降政治を支配している軍事政権の影響力排除を求めて始まった運動は、次第に、「王室改革」を中心的な要求としていく。

国王という存在が、国家を支える三原則のひとつとしてみなされているタイ社会では、プロパガンダや学校教育の中で、国王や王室を賛美する物語が繰り返し紡がれている。しかもその物語は、王室不敬罪という強固な鎧で守られていて、批判はおろか、疑問を呈することすら難しい。

しかしその物語こそが、タイ社会の権威主義的な思想や強権的なシステムを駆動していて、民主主義の実現を阻害し、市民の分断と対立を煽り、数々の流血の事件を引き起こしている。そうした社会の中で、自分たちは声を奪われ続けてきた。

このような若者たちの認識が醸成されたことで、不可能と考えられていた王室批判も、公然と行われるようになった。王室不敬罪などで収監された政治犯への面会の記録を、小説風のノンフィクションとして描き、大きな話題を呼んだ『狂乱のくにで』(2021)で、著者のラットは綴る。

「〔上の世代が抱えていた〕鬱屈とした絶望は、もはや新しい世代の人々が抱える本質じゃない」。
運動が長期化し、弾圧が繰り返されることで、確かに活動の規模は縮小している。けれども、自分たちの手で新しい物語を紡がなければ、タイ社会にも、自分たちにも未来はないという覚悟や焦慮が、若者たちを捨て身の抗議活動に駆り立てている。(後略)【1月3日 福冨 渉氏(タイ語翻訳・通訳者)Newsweek】
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「王族の行幸啓の車列は〔交通制限などが必要になるため〕迷惑だと思うか?」というシール式アンケート・・・2020年3月にタイ・バンコクを旅行した際に、「不人気の国王が、おそらく人気取りのためだろうが、国王通行時の交通制限の廃止だか緩和だがを申し出たそうだ」と、日本で旅行前に報じられたニュースを若い現地女性ガイドに話したところ、「ウソでしょう。タイではそんな話全然聞かない。日本ではそんな話が報じられているの? 絶対ウソだ!」と非常に驚いていました。

上記【Newsweek】記事が書かれたのが2023年3月頭ということですので、この記事のあとに、冒頭で取り上げたように5月の総選挙で王室改革を掲げる「前進党」が若者らの支持急拡大で想定外の第1党に躍り出るといううねりがありました。

そして今はまた厳しい制約が課される時代に。
一進一退の王室改革議論ですが、今年は前進があるのでしょうか?

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パレスチナ 犠牲者数の上ではすでに事実上の“第5次中東戦争” 更にヒズボラ参戦はあるのか?

2024-01-06 22:58:13 | 中東情勢

(パレスチナ自治区ガザ南部ラファで、無料で配布される食料を求める市民ら=2023年12月28日(ゲッティ=共同)【1月4日 共同】)

【犠牲者数の上ではすでに事実上の“第5次中東戦争”】
日本は騒然とした年明けになりましたが、世界も年が明けてもウクライナもパレスチナも惨状は変わらず。 更に、北朝鮮は韓国との海上の境界線付近にあたる海域での連日の砲撃、中東ではレバノンで(おそらくイスラエルによる)ハマス指導者殺害、イランではISが声明を出している大規模テロ・・・。

アメリカでは依然としてトランプ氏が優位な選挙情勢・・・これも今後の国際関係にとっても、世界の民主主義にとっても“大惨事”の予感。

そうしたなかで、悲惨さが際立つパレスチナ情勢。“ガザ側死者は2万2600人。連日、百人単位で増えている。ガザでは人口の9割近い約190万人が避難民となった。”【下記記事】

****ガザ戦闘3カ月、さらに長期化へ 人道危機深刻、紛争拡大に懸念****
パレスチナ自治区ガザでイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が始まって7日で3カ月。イスラエル軍はハマス壊滅と人質奪還を掲げ年内はガザで作戦を続ける構えで、さらなる長期化が確実だ。

2万2千人を超えた死者の一層の増加は不可避で、人道危機も深刻。レバノン国境での交戦激化など中東地域で紛争が拡大しつつあり、国際社会の懸念が強まっている。

イスラエル軍は6日もガザで攻撃を続けた。長期戦を見据え予備役の一部撤収を発表したが、ハマス指導部が潜伏するとみるガザ南部や、中部で地上侵攻を強化。軍報道官は5日夜、今年は「戦闘の年になる」と語った。ハマスもゲリラ戦で対抗。カタールなどが仲介する停戦や人質解放の交渉は進展が見られない。

戦闘は昨年10月のハマスのイスラエル奇襲を契機に開始。ハマスは130人以上の人質を依然拘束する。ガザ保健当局によると戦闘のガザ側死者は2万2600人。連日、百人単位で増えている。ガザでは人口の9割近い約190万人が避難民となった。【1月6日 共同】
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犠牲者の数で言えば、これまでの4回の中東戦争を上回る規模にもなっており、“数の上ではとっくに事実上の〝第5次中東戦争〟と言える”とも。

****シナリオなき2024年〝第5次中東戦争〟の危機迫る****
(中略)
2023年10月7日のハマスの攻撃で始まったガザ戦争はイスラエルの無差別攻撃でパレスチナ人住民らの死者は2万2000人を超えた。これには崩れた建物の下に埋まっている行方不明者7000人やイスラエル側の死者1200人は含まれていない。戦闘で死んだハマス戦闘員数千人とイスラエル兵約170人を合計した犠牲者数は3万5000人を超え、今後も増えるのは必至。

ニューヨーク・タイムズなどによると、イスラエル建国直後に起きた第1次中東戦争(1948年)から第4次中東戦争(73年)までのそれぞれの戦争の死者は1万5000人から1万9000人。82年のレバノン戦争での死者は1万8000人弱。今回のガザ戦争の死者はこうした歴史的な大戦争よりもはるかに多い。

数の上ではとっくに事実上の〝第5次中東戦争〟と言えるだろう。しかもパレスチナ住民の犠牲者の70%は女性と子どもというのは悲劇的だ。

だが、ガザ戦争が終息に向かう兆候は全くない。イスラエルのネタニヤフ首相は米紙への寄稿で、戦争目的として「ハマスの壊滅」「ガザの非武装化」「パレスチナ人社会の非過激化」挙げ、「誰もわれわれを止めることができない」と戦争続行を宣言。イスラエル軍のハレビ参謀総長は「もう数カ月かかる」と長期化を明らかにし、ガザ中部と南部を激しく攻撃している。

これに対しハマスのガザ代表のシンワル氏はこのほど、軍事衝突後初めてメッセージを出し「絶対に降伏しない」と徹底抗戦を呼び掛けた。ガザと接するエジプトがガザ戦争の解決に向けた「3段階提案」を発表したが、イスラエル、ハマスとも歩み寄りは見せず、長期化は避けられない情勢だ。(後略)【1月5日 WEDGE】
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【ヨルダン川西岸地区の状況も悪化】
ガザ地区だけでなく、ヨルダン川西岸地区の状況も悪化しています。

****イスラエルの入植活動、ヨルダン川西岸で「過去にない急増」 NGO****
昨年10月7日にイスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの軍事衝突が始まって以降、同自治区ヨルダン川西岸でイスラエルの入植活動が「過去に例のないペースで急増」している。イスラエルの入植活動を監視するNGO「ピース・ナウ」が4日、報告書で明らかにした。

1967年からイスラエルに占領されている西岸では軍事衝突開始以降、イスラエルの入植地が新たに9か所確認され、暴力も急増している。

西岸では約300万人のパレスチナ人が暮らす一方、49万人のイスラエル人も入植地で暮らしている。こうした入植地は国際法違反と見なされているにもかかわらず、イスラエルは承認している。

ピース・ナウは報告書で、今回の紛争開始以降、新規入植者が「記録的な」数に上っているとした上で、西岸で一部入植者によるパレスチナ人を「排除する」動きが増加していると指摘。

イスラエル軍が全権を持つ西岸の被占領地「C地域」に言及し、「入植者は3か月に及ぶガザ戦争を、C地域での広範囲の実効支配を既成事実にするのに利用している」との見解を示した。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ政権では、入植推進運動の指導者数人が閣僚を務めている。同政権は、一部の入植計画を進めるのに有利となるよう「軍事的・政治的に寛容な環境」づくりに努めてきたとピース・ナウは指摘している。 【1月6日 AFP】
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ネタニヤフ政権の極右指導者はこの機に乗じて、やりたい放題のようにも見えます。
イスラエル軍もこうした動きを後押しするかのように、西岸地区での圧力を強めています。

****イスラエル軍、ヨルダン川西岸で多数拘束 過激派関与の疑い****
イスラエル軍は4日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸のトゥルカレムにあるヌール・アル・シャムス難民キャンプで捜索を実施し、過激派活動への関与が疑われる多数の身柄を拘束したと発表した。

捜索はこの日が2日目。パレスチナ赤新月社によると、この日の午後の捜索が終了した時点で21人の負傷者を手当てした。このうち17人は尋問中に受けた殴打による怪我、1人が銃撃による怪我を負っていたという。

住民らによると、イスラエル軍は少なくとも120人を拘束したほか、3軒の家屋を取り壊した。取り壊された家屋のうち1軒は、パレスチナ自治政府主流派のファタハに関連しているとされる武装勢力「トゥルカレム旅団」のメンバーのものだという。

トゥルカレム旅団は、イスラエル軍との交戦があったとしている。(後略)【1月5日 ロイター】
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【ベイルートでのハマス幹部殺害 ヒズボラは慎重姿勢との見方も】
このパレスチナ情勢に大きな影響を与えるのがハマス以上の戦闘力を持ち、かつてイスラエルと戦って負けなかった(実質勝利とも)成果を誇る隣国レバノン・ヒズボラの動向・・・というのは衝突開始時点から言われていたことですが、これまでのところイスラエルとヒズボラは小競り合いは続けているものの大規模衝突には至っていません。

経済的に疲弊しているレバノンにあって、さすがにヒズボラも(そして、後ろ盾のイランも)組織存亡をかけたイスラエルとの大規模戦闘に入るのは躊躇されるのだろう・・・と思われてきました。

そうした状況を変えるのか、変えないのか・・・注目されるのが、2日に首都ベイルートでおきた(おそらくイスラエルによると思われる)ハマス幹部殺害へのヒズボラの対応です。

****レバノンでハマス幹部殺害 イスラエルの無人機攻撃か****
イスラム組織ハマスは中東のレバノンに拠点を置く幹部がイスラエル軍の攻撃で殺害されたと発表しました。「イスラエルによるテロ行為」と攻撃を非難しています。

レバノンの国営通信は2日、首都ベイルートでイスラエル軍の無人機がハマスの事務所を攻撃し、政治部門幹部のサレハ・アルーリ氏を含む7人が死亡し、11人がけがと報じました。

アルーリ氏は、去年10月のイスラエルに対する攻撃を実行したとされるハマスの軍事部門「カッサム旅団」の創設者の一人だとみられています。

ハマスは声明でアルーリ氏の死亡を認めたうえで「完全にテロ行為でレバノンの主権を犯している」とイスラエルを非難しています。

レバノン南部のイスラエルとの国境地域でも今後、さらに緊張が高まる可能性があります。【1月3日 テレ朝news】
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“イスラエルがなぜあえて戦線拡大につながるような暗殺に踏み切ったのかは明らかではないが、イスラエルは現在、ヒズボラやイエメンの親イラン反政府組織フーシ派、イラク、シリアの民兵軍団らイランの「配下」とされるグループからの敵対行動にさらされており、イランがこれ以上介入しないよう警告したものとみられている。しかし、逆に戦線が拡大する恐れは十分にあり、イスラエルにとっては大きな賭けだ。【1月5日 WEDGE「シナリオなき2024年〝第5次中東戦争〟の危機迫る」】”

当然に、お膝元でハマス幹部を殺害されたヒズボラは激しく反発してはいますが、本格的戦闘に入るのかどうかはまた別問題。激しい言葉とは裏腹に慎重姿勢も垣間見えるとの指摘も。

****ヒズボラ指導者、ハマス幹部殺害でイスラエル非難 戦闘拡大には慎重か****
レバノンの首都ベイルートでイスラム組織ハマス幹部サレハ・アルーリ氏がドローン(無人機)攻撃で殺害されことについて、ハマスと協力関係にあるレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの指導者は「沈黙していられない」と述べたが、ハマスを攻撃するイスラエルへの明確な報復の示唆は避けた。

ヒズボラの指導者ナスララ師は3日、テレビ放映された演説で、アルーリ氏の殺害は「イスラエルによる明白な侵略」だと非難。イスラエルがレバノンに戦争を仕掛けることを選択した場合、ヒズボラによる戦闘行為に「上限もルールもない」とし、「われわれとの戦争を考える者は後悔する」と語った。

パレスチナ自治区ガザでハマス掃討作戦を続けるイスラエルは、アルーリ氏殺害への関与を肯定も否定もしていない。

イスラエル軍のハガリ報道官は、ヒズボラによる報復の可能性にどのように備えているか記者に問われ、直接の回答を避けた上で「ハマスとの戦闘に集中している」と述べるにとどめた。

ヒズボラ、イスラエル双方ともにガザ周辺地域への戦闘拡大を望まない姿勢を示唆した格好となった。

米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官もナスララ師の演説について「ヒズボラがハマス支援に前のめりな様子をわれわれは目にしていない」と分析した。

ガザでの戦闘開始以降、ヒズボラはレバノン南部の国境でイスラエル軍と交戦を続けてきた。

ナスララ師はイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官が米軍の無人機攻撃で殺害されてから4年を迎えるのに合わせて演説した。

イラン南東部ケルマンでは3日、ソレイマニ司令官の墓がある墓地で行われていた追悼式典中に爆発があり、100人近くが死亡した。【1月4日 ロイター】
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“ヒズボラは民兵組織のほかに政党も有し、レバノン内政に大きな影響力を持っている。
レバノンでは政治の空転が続き経済も低迷の一途をたどっており、国内ではイスラエルとハマスの戦闘に引き込まれれば混乱が拡大するとの懸念が強い。このため、ヒズボラは報復するとしてもイスラエル軍兵士に攻撃対象を限定するなど、当面は抑制的に動くとの見方も出ている。”【1月5日 産経】

【高まる緊張で不測の事態も イスラエルは先制攻撃も辞さない構え】
ヒズボラ、イスラエル双方ともにガザ周辺地域への戦闘拡大を望まない姿勢を示唆した・・・そうは言うものの、緊張は極限に近づいており、何が起きても不思議ではない状況。もし、ヒズボラ側に動きがあれば、イスラエルは先制攻撃も辞さない構えとも。

****イスラエル「ヒズボラへの本格攻撃、近づいている」 緊張高まる****
イスラエルのガラント国防相は5日、レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラに対し、本格的な戦闘を開始する時が「近づいている」と述べた。

ヒズボラの最高指導者ナスララ師は同日、友好関係にあるイスラム組織ハマスの副指導者アロウリ氏がレバノンで殺害されたことを受け、改めて報復を宣言していた。イスラエルがヒズボラに先制攻撃を仕掛ける可能性もあり、緊張が高まっている。

イスラエルメディアによると、ガラント氏とイスラエル軍のハレビ参謀総長はヒズボラへの先制攻撃を以前から主張していたが、紛争の拡大を懸念する米国から圧力を受けるネタニヤフ首相が引き留めてきた経緯がある。ガラント氏は5日、イスラエル北部で軍幹部と協議。ヒズボラとの対立について「外交的解決を望む」としながらも、局面を変える「時期が来ている」と述べた。

一方、ナスララ師は5日のテレビ演説で、イスラエルによるレバノンへの越境攻撃を放置すると「レバノンの全国民が危機にさらされる」と強調。「報復の時は近い。決定は下されている」と述べた。

イスラエル軍とヒズボラは小規模な衝突を続けており、軍は5日、レバノン南部でヒズボラの指揮所などを空爆。ヒズボラもイスラエル側にロケット弾攻撃を実施した。負傷者は報じられていない。(中略)

こうした中、イスラエル軍は5日、ハマスによる10月の越境攻撃について軍の対応を検証する委員会を設置した。ネタニヤフ政権の責任問題にも直結するだけに、極右政党から選ばれた閣僚が委員の人選などを批判し、政権と軍の間に不協和音が生じている。【1月6日 毎日】
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【政治的には戦闘継続で血路を切り開くしかないネタニヤフ首相】
翻ってイスラエル国内では、ネタニヤフ首相は以前からの司法改革強行の問題でも、そして、自治政府への対抗策としてハマスを水面下で支援し、今回の戦闘を招くに至った責任の問題でも、人質救出が進まないことでも、政治的に追い詰められた状況にあります。

****イスラエル最高裁、司法権限縮小の法律は「無効」と判断 ネタニヤフ政権に痛手****
イスラエル最高裁は1日、国会で可決された司法の権限縮小をめぐる関連法について、「無効」だと判断した。

ネタニヤフ政権は昨年初めに司法の権限を縮小する「改革」を行うと表明し、民主主義の根幹である三権分立を損なうとして大規模な抗議デモが相次いだ。イスラム原理主義組織ハマスとの戦闘を続ける政権には大きな痛手となる。イスラエル有力紙ハーレツ(電子版)などが伝えた。

関連法は、政府の決定について最高裁が「合理性」を理由に無効とする権限を剝奪する内容で、イスラエル基本法(憲法に相当)の修正案として国会に提出され、昨年7月に可決された。

極右政党も参加するネタニヤフ政権は、選挙で選ばれた国会議員の決定に対し、司法が過剰に介入していると主張していた。最高裁では判事15人のうち8人が「民主主義の根幹を著しく傷つける」として無効だと判断した。また、判事12人が基本法を見直す権限は最高裁にあると判断した。

イスラエルではハマスとの戦闘が始まる昨年10月上旬まで、司法の権限縮小に反対する国民が毎週のように抗議デモを行い、予備役の一部が任務を拒否して抗議の意を示すなど国内の分裂が拡大した。ハマスなどは分裂に乗じて奇襲を仕掛けたとの観測もある。

ハマスとの戦闘開始を受けて発足した戦時内閣の主要メンバーであるガラント国防相やガンツ元国防相は司法制度の変更に反対していたため、政権の結束維持が問われるとみる向きもある。【1月2日 産経】
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****イスラエル世論、人質解放へ攻撃継続を56%支持 首相続投は15%****
パレスチナ自治区ガザでのイスラム組織ハマスとの戦闘終了後もネタニヤフ首相に続投を望むイスラエル国民の割合は15%にとどまった。2日発表された世論調査で分かった。

ネタニヤフ首相は、ハマスが拘束している人質解放には強硬な軍事圧力が不可欠としている。

イスラエル民主主義研究所(IDI)が12月25─28日に実施した調査では、人質を取り戻す最善の方法について、軍事攻撃の継続と答えた割合は56%、イスラエルの刑務所にいるパレスチナ人の釈放を含む交換取引との回答は24%だった。

ネタニヤフ首相に戦闘終了後も続投を望む割合は15%にとどまり、ライバルで戦時内閣に参加しているガンツ前国防相に期待する割合が23%だった。約30%は支持する指導者はいないと回答した。

昨年12月の前回調査では、69%が戦争が終わり次第選挙を実施すべきと回答していた。【1月3日 ロイター】
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もし、戦争が終結して総選挙となれば、ネタニヤフ首相の敗北は必死の情勢です。ネタニヤフ首相にとって生き残りの道は戦争を継続・拡大して、ハマスやヒズボラを決定的に叩いて、イスラエル国内では誰も批判できないような成果を示すこと・・・・でしょう。

そうした政治状況からして、ネタニヤフ首相はヒズボラ参戦による文字通りの「第5次中東戦争」を望んでいる・・・と言うのが言い過ぎなら、そういう事態にになっても「それはそれで・・・・」ぐらいには考えているのかも。全くの邪推ですが。
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アフガニスタン  女性の権利改善を求める国際社会 追い詰められる女性の人道状況

2024-01-05 23:32:49 | アフガン・パキスタン

(【1月4日 KYODO NEWS】 カブールの街を疾走するスケート部隊)

【怖そうなタリバンのイメージ向上にも役立っている・・・・スケート部隊】
タリバン支配が続くアフガニスタンに関するニュースは、最近あまり多くありませんが、ちょっと変わった動画ニュースがありました。

****タリバンスケート部隊発足 首都疾走、イメージ向上も****
米軍とのジハード(聖戦)に従事した黒髭のムジャヒディン(イスラム戦士)らが街の安全を守ろうと、インラインスケートを履いてアフガニスタンの首都カブールを疾走している。

イスラム主義組織タリバン暫定政権の治安機関が発足させた「スケート部隊」だ。楽しげな様子は怖そうなタリバンのイメージ向上にも役立っている。パトロールに同行した。【1月4日 KYODO NEWS】
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昨年7月に発足し、当局の車両が渋滞を回避できるよう交通整理にあたっているとのことですが、覆面に自動小銃という姿は物々しい・・・まあ、アフガニスタンですからこうなるのかも。反タリバン勢力によるゲリラ戦や抗議デモ鎮圧にもあたる公安警察に所属しています。

イメージ向上にも役立っている・・・子供たちには受けるかも。

【人権状況を改善することを条件に、タリバン政権の国際社会への復帰を促す動き】
タリバン政権を承認した国はまだありませんが、その支配が長期化し、今後も続く様相を示していますので、タリバン政権を受け入れる流れも出始めています。

12月8日ブログ“アフガニスタン 中国は政権承認も視野に大使受入れ パキスタンとの関係は悪化”でも取り上げたように、中国はアフガニスタンでの資源開発や「一帯一路」への取り込みを念頭に、タリバン政権の駐中国大使を正式に承認し、政権承認も視野に入れた動きを見せています。

アフガニスタン国内からも、タリバン暫定政権の存続容認はやむを得ないとの認識も。

****タリバン暫定政権、存続やむなし カルザイ元大統領単独会見****
アフガニスタンのカルザイ元大統領が首都カブールで共同通信と単独会見し、2021年8月に武力で復権したイスラム主義組織タリバン暫定政権の「崩壊や分裂は望まない」と述べ、暫定政権の存続容認はやむを得ないとの認識を示した。タリバンに「政策の改善」を求め、女子教育の再開や多民族間の融和と政治参加を促すことが、唯一の打開策だと強調した。

カルザイ氏は01年の旧タリバン政権崩壊後、米国主導の民主化プロセスで初代大統領となり14年まで務めた。今回の発言は、民主化が失敗しタリバン統治が長期化した今、タリバンとの共存を探るしかアフガン安定の道はないという苦しい立場を示している。

インタビューは22日に行った。カルザイ氏はタリバンが「正当で国際的に承認された政権」となるためには「女子教育の即時再開と、反タリバン勢力を含めた国内対話」が不可欠だと指摘。タリバンの多数派は理解していると語った。

カルザイ氏はタリバン復権後も国内にとどまり影響力を維持。外国訪問を禁じられるなど行動を制約されている。【2023年11月27日 共同】
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カルザイ元大統領はタリバン中核と同じパシュトゥン人ですし、旧タリバン政権誕生時にはタリバンを支持し、駐国連代表に任命もされた経歴もあって、価値観のうえでタリバンに馴染みやすく、“暫定政権の存続容認はやむを得ないとの認識”に至るのはそう難しい話ではないのでしょう。

欧米諸国も、タリバンを排除したり、対決姿勢をとるのではなく、“受入れ”の流れも見えてきています。
国連安保理では、日本とアラブ首長国連邦(UAE)がとりまとめを主導し、タリバン暫定政権に女性の権利や自由を改善したうえで国際社会への復帰を促す初の決議案が採択されました。

****安保理、タリバンに女性の権利尊重など促す…アフガニスタンの国際社会復帰へ、決議案を日本が主導****
国連安全保障理事会は29日に緊急会合を開き、イスラム主義勢力タリバン暫定政権が掌握するアフガニスタン政府の国際社会への復帰に向けた初の決議案を賛成多数で採択した。タリバンに女性の権利尊重や政権への幅広い政治勢力の参加などを促す内容で、タリバンの対応が焦点となる。

決議案は日本とアラブ首長国連邦(UAE)が主導してまとめた。採決では15理事国のうち、日米英仏など13か国が賛成した。中国とロシアが棄権した。

決議ではタリバン暫定政権に対し、国際テロ組織との関係断絶や「包摂的な政府」の樹立を通じ、「国際的な義務を果たす」ことなどを求めた。また、国連のアントニオ・グテレス事務総長に、アフガン担当の国連特使の任命を要請した。

タリバンによる2021年8月の実権掌握後、各国は開発援助を停止し、アフガンの人道状況は悪化した。中学以上の女子教育の禁止や女性の就労制限といった女性抑圧などが問題視され、暫定政権は国際的に承認されていない。安保理は、アフガンの人道危機を解消するには、タリバン政権が女性抑圧などを中止して各国から承認を得て、再建に向けた援助を受けることが不可欠だと判断した。

英国のバーバラ・ウッドワード国連大使は採択後、「タリバンは国際公約を果たし、女性の権利や自由を制限する政策を直ちに撤回すべきだ」と強調した。日本の山崎和之国連大使は決議について「アフガンの広範な問題に対処する新たな戦略だ」と述べた。【12月30日 読売】
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人道支援もままならない現状では、アフガニスタン国内での人道状況は悪化しままで、女性の権利も改善しないとの判断なのでしょう。

国際支援が減少すれば、現実問題としてアフガニスタン国内の女性の雇用機会が更に減少するという問題もあります。

****アフガン支援減少に警鐘=「女性の働く場奪う」―赤十字現地代表****
赤十字国際委員会(ICRC)のフィリョン・アフガニスタン首席代表は28日、東京都内の日本記者クラブで会見し、アフガンのイスラム主義組織タリバンへの経済制裁に伴う国際支援の減少に警鐘を鳴らした。

タリバンが女性を抑圧する中でも、医療分野は女性に教育や労働の機会を提供しており、支援が絶たれれば「女性の働く場がなくなる」と訴えた。【2023年11月28日 時事】 
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【タリバン 復権後初めて服装規定違反で女性拘束】
しかし、上記の女性抑圧などを中止するようにとの国連の呼び掛けにタリバン側が反発したものかどうかはわかりませんが、タリバンの女性対応が悪化したニュースも。

****タリバン、服装規定違反で拘束 復権後初めて****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は、独自解釈するイスラム法で定めた服装規定に違反した疑いで、複数の女性を拘束した。同容疑による拘束者が確認されたのは2021年8月のタリバン復権後初めて。AP通信が4日、報じた。国際社会はタリバンによる女性抑圧を問題視しており、さらなる批判を呼びそうだ。

勧善懲悪省によると、女性らは最近、首都カブールで拘束された。服装規定を守るよう忠告し、従わなかったため身柄を確保したという。人数やどのように違反したかは説明していない。【1月4日 共同】
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個人的に意外だったのは、服装規定違反での女性拘束が復権後初めてという点。
イランなどでは服装規定違反取締りが普通に行われており、ヒジャブの被り方をめぐる女性死亡事件で大規模反政府デモも起きていますので、タリバン支配下のアフガニスタンも同様の厳しい状況だろうと想像していました。

タリバンとしても国際承認を受けたいという思いがあって、そうした女性服装取締りで欧米の批判を招くことは慎重に自制していたのでしょう。

では、どうして今になって? という疑問も。
やはり、女性の権利や自由を制限する政策の撤回を求める国際社会への反発でしょうか? 

【雇用、子育てで追い詰められる女性 タリバン「どんな犠牲を払っても守るべき独自の価値観がある」】
女性の権利や自由を制限する現状は、当然に女性を精神的にも追い込みます。その結果・・・

****アフガン女性18人が自殺 タリバン抑圧で精神状態が悪化****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権による女性抑圧政策が原因で、不安を募らせるなどして精神状態が悪化した女性18人が自殺していたことが4日、支援団体や遺族への取材で分かった。

うち12人の遺族に治安当局が口止めしていたことも判明。女性抑圧に対する批判は国内外で強く、実態を隠そうとしたとみられる。

暫定政権は女性の教育や就労を制限し、国際社会は「人権侵害」と非難、タリバン暫定政権を承認していない。自殺はイスラム教が禁じているため隠す遺族も多く、支援団体は18人は「氷山の一角」と分析している。

非政府組織(NGO)「アフガン女性・子ども福祉強化団体」によると、タリバンが復権した2021年8月以降、女性17人が教育や就労機会の制限、タリバン構成員との強制結婚を理由に将来への不安や不眠などの症状を精神科医や家族に訴えた後に自殺した。

17人のうち、11人の遺族が治安当局に経緯を説明し、口外しないよう命じられたという。【2023年11月4日 共同】
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上記の数字は文字通り「氷山の一角」でしょう。
遺族に治安当局が口止め・・・タリバン政権も悪評を気にはしているということでしょうか?

タリバンの政権復帰で女性の雇用は62%減少したとのことで、国連機関も女性の雇用創出に務めてはいます。

****政変で雇用率62%減 アフガンの女性起業支援は改善につながるか****
アフガニスタンでは2021年にイスラム主義組織タリバンが復権して以降、女性の教育や就労の機会が制限されてきた。その中で国連開発計画(UNDP)は10月、国際協力機構(JICA)と協力して、女性の経済活動への参加を後押しする取り組みを始めた。窮状が伝えられる女性たちの環境改善に役立つのだろうか。

「アフガニスタンで優先的に取り組まなければならないのは、女性が働き、生計を立てるための場を守ることだ」。UNDPのアジア太平洋局長を務めるカンニ・ウィグナラジャ氏は11月7日、毎日新聞とのインタビューで、前月に現地で始めた女性経営者への支援プログラムに言及。「女性たちは働き続け家族を養い、地域経済を維持したいとの思いを持っている。ビジネスの場を提供することは非常に重要だ」と意義を語った。

 ◇UNDPとJICA合同で
タリバンは再び権力を掌握すると、女性の高等教育の停止や非政府組織(NGO)などで働く女性職員の出勤停止、美容院の閉鎖など、イスラム法の極端な解釈に基づく政策を相次いで発表。世界銀行の22年の調査では、政変が起きた21年8月以前と比較して、性別の雇用率は男性も39%減ったが、女性は62%減少とより顕著に影響を受けた。

雇用環境が悪化しているが、UNDPなどは10月、縫製や食品加工、農業などの分野での起業や経営拡大を目指す女性を後押しするための支援を開始。経営に必要な会計やマーケティングの研修のほか、ミシンやカーペット製造機などの機器の提供や商品の国内外での販売に向けたインターネット販売のサービスも実施するという。

 ◇4800人の雇用創出目指し
実施期間は2年。JICAが約14億円の資金を提供する。アフガニスタンの女性経営者ら約1400人が対象となる見通しで、将来的に4800人程度の雇用創出を想定しているという。

一方で、アフガニスタンでは女性が一定以上の距離を移動する場合は男性親族の同伴が必要とされ、公共スペースへのアクセスも制限されているなど、ビジネスを行う上での障壁は大きい。さまざまな制約が課される中、UNDPなどはタリバンと交渉し、女性の経営参加を直接支援できるよう模索してきたという。(中略)

 ◇多くの人は学習と労働を欲している
アフガニスタンの現状について、UNDPのウィグナラジャ氏は「女性の労働への制限がある一方、多くの人々は学び、生計を立て、家族を守りたいと思う。こうした支援によって、女性たちが自身のビジネスで何人もの人たちを雇い、その家族を養うことができれば素晴らしいことだ」と述べた。

その上で「日本は私たちの最大のパートナーであり、日本の支援が人々に与える希望は非常に大きい。今後の継続的な支援に期待したい」とも話す。【2023年11月20日 毎日】
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一にも二にも、タリバンの協力姿勢がなければ女性の雇用問題は改善しません。

国際支援の減少は、子供を育てる女性にとって死活問題にもなっています。

****幼児の空腹を紛らわせるため「眠り薬与える」 支援の途切れたアフガニスタンの現状****

ソハイラ・ニヤジさんと娘のフスナ・ファキーリちゃん

「最後に子供のミルクを買えたのは2カ月前でした。いつもは哺乳びんにお茶を注いでいます。それかパンをお茶にひたして、子どもにあげています」。アフガニスタンの首都カブール東部の丘の上にある家で、泥レンガでできた床に座りながら、ソハイラ・ニヤジさんはそう話した。(中略)

ソハイラさんは夫を亡くしている。6人の子供がおり、最年少は生後15カ月のフスナ・ファキーリちゃんだ。ソハイラさんが言っていた「お茶」はアフガニスタンの伝統的な飲み物で、緑茶葉とお湯だけで作り、ミルクや砂糖は入れない。赤ん坊の栄養となるようなものは何も含まれていない。

ソハイラさんは、この1年で国連食糧計画(WFP)の緊急食料支援を受けられなくなった1000万人のうちの1人だ。支援は巨額の資金不足によって削減された。アフガニスタンに200万世帯あるとされる、女性が暮らしを支えている家庭にとって、特に壊滅的な打撃となっている。

武装組織タリバンがアフガニスタンで実権を握って以降、ソハイラさんは仕事に行けず、家族を養えなくなった。
「何も食べるもののない夜があります。私は子供たちに、夜こんな時間にどこに行けば物乞いができるのかと言うんです。子供たちは飢えたまま寝ますが、起きた時、私はどこへ行くべきか悩みます。隣人が食べ物を持ってきてくれると、子供たちは寄ってたかって『私にちょうだい、私にちょうだい』と言います。子供たちをなだめるため、私は食べ物を人数分に分けようとします」

フスナちゃんをなだめるため、ソハイラさんは「眠り薬」を与えていると話した。
「娘が起きてミルクをせがまないように、それを与えます。あげられるミルクがないからです。この薬を朝与えると、次の朝まで起きません。時折、死んでいないか確かめます」

ソハイラさんが娘に与えている薬をBBCが調べたところ、一般的な抗ヒスタミン薬だと分かった。こうした薬には、副作用として鎮静効果がある。

BBCは先に、アフガニスタンの一部の親が、子供たちに鎮静剤や抗うつ薬を与えて空腹を紛らわさせていると報じた。それらの薬に比べると、ソハイラさんが子供に与えている薬は害が少ないと、医師らはBBCに話した。それでも、大量に投与すると呼吸器障害などにつながる危険性があるという。

ソハイラさんによると、夫は民間人で、2022年にパンジシールでタリバンと抵抗勢力の間で起きた市街戦に巻き込まれて殺された。夫の死後、ソハイラさんは小麦粉や油、豆などをWFPによる支援に大きく頼ってきた。

そして今、WFPは300万人にしか物資を供給できないとしている。これは、深刻な飢餓状態にある人々の4分の1にも満たない。

ソハイラさんは今、親戚や隣人からの寄付に完全に頼って生活している。我々がいる間、フスナちゃんは静かで動かなかった。

フスナちゃんは若干の栄養不足状態にある。国連児童基金(ユニセフ)によると、アフガニスタンでは300万人以上の子供が栄養不足で、そのうちの4分の1以上がもっとも深刻な「重度の急性栄養不良」状態に陥っている。アフガニスタン史上、最も悪い状況だと、国連は指摘している。

栄養不足がこの国の最も若い世代をむしばむ一方で、医療崩壊を防いできた援助も、打ち切りを迫られている。
アフガニスタンでは2021年の政権交代以降、緊急暫定措置として、国際赤十字委員会(ICRC)が医療従事者の給与を支払い、30カ所以上の病院に医薬品や食料の資金を提供してきた。

しかし現在、ICRCにアフガニスタンを支援し続けるためのリソースはなく、ほとんどの医療施設で援助を打ち切っている。(中略)

タリバンが任命した同病院のモハマド・イクバル・サディク医長は、「医師と看護師の給与は政府から支給されていますが、給与は半分に減らされました」と語った。また、外来部門を閉鎖し、入院が必要な患者にのみ医療を提供しているという。(中略)

我々は、タリバン政府の主要報道官であるザビフラ・ムジャヒド氏に、より多くの援助を与えるよう国際社会を説得するために、政府は何をしているのかを尋ねた。(中略)

ジャヒド氏は、タリバンの政策も問題の一部であることを認識していたのだろうか? 女性に対して厳しい制限を課している国に、支援国は資金を提供したがらないということを。

こうした疑問に対してジャヒド氏は、「援助が圧力の道具として使われているのであれば、イスラム首長国(タリバンによるアフガニスタンの呼称)にはどんな犠牲を払っても守るべき独自の価値観がある。アフガニスタンの人々は、これまで我々の価値観を守るために大きな犠牲を払ってきた。支援打ち切りにも耐えるだろう」と述べた。

ジャヒド氏の言葉は、多くのアフガニスタン人を慰めるものではないだろう。国民の3分の2は、次の食事がどこから来るのかわからないのだ。【12月26日 BBC】
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東アフリカ  「謎の国」ソマリランド 経済成長を(強引に)牽引するエチオピア・アビー首相

2024-01-04 23:16:59 | アフリカ

(2023年2月17日 時事)

【エチオピア、海へのアクセス狙いソマリランドと覚書】
日本での情報量が少ないのでよくわからないことが多いアフリカの話・・・と書き出して改めて思ったのは、「ニュースなどである程度の情報が得られるのは一部の国の、紛争・トラブルなど一部のことに関することだけでけで、実際には多くの国のほとんどの事柄について、何も知らないと言うべきだろう・・・」

それはともかく、東アフリカのニュース

****エチオピア、海へのアクセス狙いソマリランドと覚書****
エチオピアは1日、ソマリアから半独立状態にある「ソマリランド共和国」との間で、同共和国の海運サービスや軍事施設へのアクセスに道を開く覚書に調印した。ソマリアは主権侵害だとして反発しているが、エチオピアは3日、違法ではないと反論した。

覚書の内容は広範にわたり、エチオピアがソマリランドから総延長20キロの海岸線を50年間、租借することも盛り込まれた。内陸国エチオピアが紅海へのアクセスを確保できることになる。

これを受けソマリアは、「いかなる法的手段」を使ってでも自国領を守ると宣言。この問題を協議するための国連安全保障理事会緊急会合の開催を求めるとともに、アフリカ連合に対しても、エチオピアによる「侵略」をめぐる協議を要請した。

アラブ連盟やエジプトはソマリアの立場に支持を表明。一方エチオピアは、ソマリランドとの間では他の国も協定を締結したことがあるとして、覚書を擁護している。

英国の保護領だったソマリランドは、1991年にソマリアからの独立を宣言。国際的には承認されていないが、憲法と政府、治安部隊を持ち、通貨を導入している。人口は約450万人。

ソマリアは政情が不安定なこともあり、ソマリランドへの支配は及んでいない。 【1月4日 AFP】
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【「謎の国」ソマリランド】
ソマリランド・・・・東アフリカのソマリアの北部のある国と言っていいのか、地域と言うべきなのか・・・国際的には承認されていない「国」です。未承認国なので世界地図には表示されません。(そのこと自体は、他にも多くの同じような「国」がありますので、珍しいことではありません)

そもそもソマリアがよくわからない。
かつてはイスラム過激派組織アルシャバーブが実権を掌握し、海ではソマリア海賊が暴れる「無政府状態」そのものでしたが、今も多少は落ち着いたとは言え、アルシャバーブなど過激派のテロが絶えません。

****ソマリア、車両爆発で多数死傷 検問所、自爆テロか****
AP通信によると、ソマリア中部ベレトウェインの検問所で23日、車両が爆発し、少なくとも18人が死亡、40人が負傷した。イスラム過激派組織アルシャバーブによる自爆テロの可能性がある。

ソマリア政府は近年、アルシャバーブの掃討作戦を強化しており、ベレトウェインは一帯での対テロ作戦の拠点。【2023年9月24日 共同】
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****ソマリア派遣のPKO隊員54人死亡 武装勢力襲撃 ウガンダ大統領****
ウガンダのヨウェリ・ムセベニ大統領は3日、ソマリアでの国連平和維持活動に参加していたウガンダ部隊が先月末に武装勢力の攻撃を受け、少なくとも54人が死亡したことを明らかにした。

ソマリアにはアフリカ連合によるPKO部隊「アフリカ連合ソマリア暫定ミッション」が駐留している。2万人規模で、ウガンダのほかブルンディ、ジブチなどが要員を派遣している。2024年までに治安権限を軍・警察に移譲するのが目的。

ムセベニ大統領はツイッターの自身の公式アカウントに「司令官を含む54人の遺体が見つかった」と投稿した。

PKO部隊への攻撃があったのは先月26日未明。過激派組織アルシャバーブが襲撃を認めた。
現地の住人やソマリア軍の司令官がAFPに語ったところによると、アルシャバーブのメンバーは爆発物を搭載した車で、首都モガディシオから南西に約120キロ離れたブロマレルに設置されていたATMISの拠点に突入。銃撃戦になったもようだ。 【2023年6月4日 AFP】AFPBB News
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その混沌としたソマリアから分離独立を主張するソマリランドとなると、私のような一般人にはもはや「謎の国」

ただ、この「謎の国」は長老たちの協議で治められており、内戦・テロで荒れ狂うソマリアに比べると、はるかに平和で治安が良いという話も聞いていました。(参考「謎の独立国家ソマリランド」高野秀行著)

しかし、その「平和」も昨年破られたというニュースが。

****戦闘発生、18万人避難 平和だったソマリランド****
アフリカのソマリア北部で事実上の独立国となっているソマリランドで6日から激しい戦闘が起きている。国連人道問題調整事務所(OCHA)は16日、声明を出し「18万5000人を超える住民が家を失った」と訴えた。避難民の9割は女性や子供という。

戦闘の原因は、ソマリランド東部の長老らが反旗を翻し、ソマリランド軍の撤収を要求、ソマリア中央政府支持を表明したことで、軍と地元武装勢力の衝突に発展した。戦闘地域の病院からは57人が死亡したとOCHAに連絡があった。

ソマリランドは人口約450万人。1991年から独立状態だが、国際社会からは承認されていない。無政府状態となっていた他のソマリア各地と比べ30年間、平和が保たれていた。【2023年2月17日 AFP】
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下記旅行記は上記の戦闘発生前の2018年にテレビディレクターの後藤隆一郎氏が見聞したソマリランドの様子です。若干なりとも「謎の国」の雰囲気が分かれば・・・。

****「未承認国家ソマリランド」潜入で見た超怖い現実****
敏腕TVマンが「危険レベル4」入国を強行したら
(中略)
「イスラムのイメージ」を覆す街の様相
(到着した空港で)どうしようかと途方にくれていると40歳ぐらいのビジネスマンが声をかけてくれ、運転手付きのハイヤーで街まで送ってくれた。

「ホテルを決めていない」という話をすると、1泊12ドルで街に近いWi-Fiのあるホテルを紹介してくれた。
別れ際にお礼を言うと、ワッツアップの電話番号を紙に書き「何か問題があったらいつでも連絡してね」と言い去っていった。 初っ端から優しい人に出会えて幸先が良い。

シャワーを浴び、一息つくと街に散策に出た。
ホテルのスタッフは英語が使え、街までの道のりを丁寧に教えてくれた。ホテルから中心部まで10分ほどかかる。
「襲われるような場所はない」かとチェックしながら歩いてみたが、大きな一本道で人も多い。特に危険はなさそうだ。

道中、様々な動物に遭遇したのが面白かった。街中にもかかわらず、コブ付き牛の集団、山羊、ロバなどが普通にいる。市場ではイスラムの国では珍しく女性も働いている。

戒律の厳しいイスラム社会ではあるが、元々は遊牧民。2つの文化が合理的に融合しているように感じた。

未承認国家でアメックス!?
(中略)ソマリランドは国際社会では「未承認の独立国家」なのに独自通貨がある。しかし、国の通貨は信用がないようで、ハイパーインフレが起きていた。

1ドルは1万シリング(2018年当時のレート)。両替商はお金を路上でバナナの叩き売りのように売っている。小さな段ボール4箱分位のお金が道路に無造作に積み上げられていた。

街を歩くと、あちらこちらにそのような人がいて、誰かに見張ってもらいお金を置きっぱなしにしたまま食事に出かける両替商もいた。路上に置かれた誰からも盗まれない大金。なかなかシュールな光景だ。(中略)

そんな経済状況なので、USドル・ユーロ・エチオピアブル・南アフリカドルが一般的に流通していた。
ビックリしたのはアメリカ・ニューヨークに本社があるアメリカンエキスプレスのクレジットカードが使えることだ。(中略)

街を歩くと、至る所に日本の中古車を見かける。俺の見立てだと9割近くが日本の車だ。
アディスアベバで名刺を頂いたソマリランド大使の話だと、そのほとんどがドバイから輸入されているものらしい。(中略)

外国人は常に監視されている
ホテルに戻り、ツイッターで今日あったことをつぶやいた。すると、すぐにDMが入った。中身を見てみると、空港から街まで送ってくれたビジネスマンからだ。ワッツアップに登録した名前で検索したとのこと。

「ごっつ、今のツイート消したほうが良い。政府とか街の人が、君のツイートをチェックしてるよ」
ソマリランドでは政府が国民に言論統制を敷いているという記事を思い出した。心配してかわからないが、一度しか会ってない親切なビジネスマンも俺のSNSをチェックしている。

さらに、ソマリアにいるイスラム過激派組織のアル・シャバブは、外国人がどこにいるかなど入国者の動きを監視している可能性もある。俺は慌ててツイートを削除した。

「政治の事とか、この国にとってネガティブな内容はあまりアップしないほうが良い。そのほうが安全だ」
彼はそう付け加えた。

改めて、ひとりで危険レベル4の国にいるという事実を再確認させられた。そして、身を引き締め直した。【2023年10月1日 後藤 隆一郎氏】
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昨年2月の戦闘がその後どうなったのか・・・知りません。

【経済成長のため、内戦・周辺国とのトラブルも辞さないエチオピア・アビー首相】
もう一方の当事国エチオピアは、ソマリランド、ソマリアに比べたら遥かに大国。人口は1億人を超えて1.2億人、アフリカ第2位(1位はナイジェリア)の人口大国です。

現政権のアビー首相は2019年、隣国エリトリアとの紛争を終結させたとして、ノーベル平和賞を受賞して国際的に大いに注目されていました。しかし、その後の内戦でアビー首相の評価は大きく変わりました。

最近の話題では、中ロ主導のBRICSに新規加盟したことですが、(下記記事タイトルでは「成長国」とはありますが)経済規模を考えると「どうして?」という感も。

****エチオピア、BRICS加盟要請 アフリカの成長国****
急速な経済成長を遂げるアフリカ東部エチオピアは29日、中国、ロシア、ブラジル、インド、南アフリカで構成する新興5カ国(BRICS)への加盟を申請したと明らかにした。国営エチオピア通信(ENA)によると、外務省報道官はBRICSから前向きな回答を期待すると述べた。

エチオピアはアフリカで2番目に人口が多いが、国際通貨基金(IMF)によると経済規模は世界59位にとどまり、BRICSで最小の南アフリカと比べても半分に満たない。(後略)【2023年6月30日 ロイター】
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今年1月1日、サウジアラビア、エジプト、アラブ首長国連邦、イランとエチオピアの5カ国が、正式にBRICSのメンバーになりました。

そもそも、イランとサウジアラビアもそうですが、エチオピアとエジプトはナイル川のダム建設をめぐって激しく対立しています。冒頭記事のソマリランドの問題でもエジプトはエチオピアに反対の立場。そんな国を同時に加盟させて話がまとまるのでしょうか? 欧米に偏っていないということで、中ロのお眼鏡にかなったようですが。

エチオピアのティグレ族との内戦は「一応」一昨年11月に停戦が成立しています。
しかし、昨年夏の段階では再び別の部族との戦闘も報じられていました。

****エチオピア北部、6カ月の非常事態宣言 武力衝突が激化****
エチオピア政府は4日、北部アムハラ州で政府側と民兵組織との武力衝突が激化しているとして、同州を対象に非常事態宣言を発令した。

今週初めに起きた衝突は、アムハラ州に隣接するティグレ州で2020年11月に発生した紛争が昨年11月に停戦となって以降で最も深刻な治安危機をもたらしている。

非常事態宣言により政府は外出や集会禁止などを命じられるようになるほか、令状なしの身柄拘束や捜査を行う権限なども与えられる。【2023年8月4日 ロイター】
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****空爆か、26人死亡 エチオピア北部****
エチオピア北部アムハラ州の町フィノテセラム中心部に13日、空爆とみられる攻撃があり、少なくとも26人が死亡した。ロイター通信が14日報じた。同州では政府軍と民兵組織との武力衝突が激化している。

攻撃実行者は明らかになっていないが、昨年11月に停戦した北部ティグレ州を中心とした紛争では、政府側によるとみられる空爆が頻発し、多くの住民が犠牲になった。

アムハラ州の民兵組織は北部紛争時、政府に協力し、反政府勢力ティグレ人民解放戦線(TPLF)と戦った。だが停戦後に政府が正規軍以外の武装解除に乗り出したことに反発し、敵対するようになった。【8月15日 共同】
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この戦闘がその後どうなったのか・・・知りません。
ソマリランドと違って、エチオピアで内戦が拡大すればそれなりの報道もあると思われますので、何もニュースを目にしないということは、事態は収まったのか、小康状態にあるということなのでしょう。

エチオピアは経済的にも、昨年末に債務不履行に陥るという苦境にあります。

****エチオピアが債務不履行、アフリカ3カ国目 過去3年間で****
エチオピアが26日、国債の3300万ドルの利払いを実施できず、デフォルト(債務不履行)に陥った。アフリカ諸国のデフォルトは、過去3年でザンビア、ガーナに続き3カ国目となる。

10億ドルの国債の利払い日は11日で、26日が14日間の猶予期間の最終日だった。関係者によると、猶予期限前の最後の営業日となる22日中に利払いが確認されなかった。

今後、20カ国・地域(G20)の低所得国の債務軽減措置「共通枠組み」にザンビア、ガーナとともに加わる見通し。

エチオピアは、内戦やコロナ禍で経済・財政が疲弊。中国を含む債権国とは11月に返済一時停止で合意したが、12月8日に年金基金、その他の民間債権者との交渉が決裂したと発表していた。【12月26日 ロイター】
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同じ昨年末、先述したように水問題でエジプトと「交渉決裂」しています。経済再建のためにはナイル川の巨大ダムの電力がどうしても必要なのでしょう。

****エジプト、エチオピアと水争い ナイル川巨大ダム巡り「交渉決裂」****
ナイル川の水資源を巡り、上流で巨大ダムを建設しているエチオピアと下流に位置するエジプトが対立している問題で、エジプト政府は19日、ダムの管理方法に関する交渉が決裂したと発表した。

両国の首脳は7月、4カ月以内に解決することで合意し、交渉が続いていた。希少な水資源を巡る対立の難しさが改めて浮き彫りになった。

問題となっているのは、エチオピア高原を水源に持つ「青ナイル」沿いでエチオピアが2011年から本格的に建設を始めた「大エチオピア・ルネサンスダム」。最大貯水量は青ナイルの平均年間流水量の約1・5倍とされ、エチオピアはすでに段階的に貯水を始めている。エジプトはこのダムが将来的に水不足を引き起こす懸念を強めている。

 交渉では、エジプトはダムの管理方法などについて法的拘束力のある合意を求めているとされる。エジプト水資源・かんがい省は声明で、「交渉は、エチオピアが技術的・法的な合意を一貫して拒否しているため失敗に終わった」と批判した。

エジプトは水需要の9割以上をナイル川に依存しており、水資源の確保は死活問題だ。ダムにより水不足が深刻化すれば、両国間で緊張が高まる可能性がある。【12月20日 毎日】
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冒頭のソマリランドとの「覚書」も、巨大ダム同様に、今後の経済成長のためには海へのアクセスが欠かせないという判断でエジプトなどの反対を押し切った形でしょう。

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エチオピアは、アフリカで2番目に多い1億1200万の人口を抱え、経済成長の潜在力が注目される。しかし、93年のエリトリア独立で内陸国となり、海港を持たないという弱点を抱える。輸出入の9割以上をジブチの港に依存しており、第2の貿易ルート確保は長年の悲願だ。

それだけに、エチオピアはソマリランドとの関係構築に力を入れてきた。ソマリランドが「首都」と位置づけるハルゲイサに事実上の大使館を開設し、ベルベラ港拡張の完工式典にも政府関係者を派遣した。

ただ、エチオピアもソマリランドを国として正式承認しているわけではない。現在、日本を含む国連加盟国でソマリランドを国家承認した国はなく、あくまでもソマリアの一部というのが各国共通の立場だ。【2021年8月19日 読売】
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内戦・戦闘の問題も、国の発展には中央集権体制が欠かせないという判断で、部族の反発を許さない形。

エチオピアの再建・発展のためには内部・周辺国の反対がいかに強くても強引に押し切る・・・というアビー首相です。
このあたりの「強いリーダーの姿勢」(悪く言えば、強権的姿勢)が中ロのお眼鏡にかなった要因のひとつかも。

ということで、わからないことが多いですが、報じられている範囲でエチオピア・ソマリランドの話でした。
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人口変化・経済動向で「日本は鉱山のカナリア」 長期停滞の一方で「うまくやっている」という見方も

2024-01-03 23:43:24 | 日本

(日米の1人当たりGDPと生産年齢人口1人当たりGDPの累積変化率 【1月2日 WSJ】)

【激変する将来の東アジアの人口】
日本の少子化は深刻ですが、いつも取り上げるように韓国は更に深刻と言うか、驚異的。

****韓国の合計出生率「0.7」過去最低の水準 47か月連続の人口減少****
韓国で少子化が止まりません。1人の女性が生涯に出産する子どもの数を示す「合計出生率」は今年の第3四半期に「0.7」となり、過去最低の水準です。

韓国統計庁によりますと、今年7月〜9月期の合計出生率は前の期に続き「0.7」となり、過去最低の水準に留まりました。特に、9月に生まれた子どもの数は1万8700人余りと、前の年より14.6%減少しました。

韓国では年末に向けて生まれる子どもの数が減少する傾向があるということで、第4四半期には合計出生率が初めて0.6台にまで低下する可能性が指摘されています。

合計出生率が1を下回るのは、OECD加盟国の中では韓国だけで、これで人口は47か月連続で減少しています。【2023年11月29日 TBS NEWS DIG】
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日本・韓国だけでなく中国も・・・ということで、東アジア全体に少子化が急速に進行しています。このことは将来の経済にも大きく影響してきます。

****韓国が「世界で最も老いた国」になり、中国の人口は半数になる…将来性が危うい「東アジア」の未来***
国立社会保障・人口問題研究所が最新の将来推計人口を発表し、大きな話題になった。50年後の2070年には総人口が約8700万人、100年後の2120年には5000万人を割るという。

ただ、多くの人が「人口減少日本で何が起こるのか」を本当の意味では理解していない。そして、どう変わればいいのか、明確な答えを持っていない。(中略)

外国の人口変化も頭に入れた経営戦略を
国内需要が急速に減っていく日本は、いずれ海外に打開策を求めざるを得なくなる。(中略)

東・東南アジアの将来性は危うい
日本のメーカーや商社などには、これまで「東アジア・東南アジア」に進出してきた企業が少なくないが、このエリアの国々には今世紀半ばにかけて日本と同じくマーケットが高齢化しながら縮小するところが増えてくる。経済成長性に陰りが出てくる国が多くなるだろう。

2050年までに起きる世界人口の変化の最大の特徴は、「中央・南アジア」の人口が「東アジア・東南アジア」を抜き、「サハラ砂漠以南のアフリカ」が遜色ない規模にまで拡大する3大エリア時代になるということだ。人口の軸が今世紀中に西へ、西へと少しずつ移動していくのである。

社会発展の度合いは国ごとに異なるのでそのまま国際マーケットのニーズの変化を意味するわけではないが、人口の軸が西に移動していくにつれて日本においてはあまり馴染みのなかった国々との交流の必要性が増すことは間違いない。

激変する韓国・中国
一方、近隣国はどうかといえば、東アジア諸国は世界で最も激変する地区だ。これから少子高齢化が深刻になるためである。

韓国の合計特殊出生率はこの数年「1.0」にも及ばぬ超低水準を推移しているが、韓国統計庁によれば、2021年は0.81にまで下がった。この結果、総人口は2022年の5162万人から2070年には3765万人へと27.1%も減少するという。2070年の高齢化率は46.4%となって生産年齢人口(46.1%)をも上回る。「世界で最も老いた国」になる見通しだ。

中国の変化も著しい。中国の統計データは政府に都合よく改ざんされることが多いとされるが、国連の推計によれば、合計特殊出生率は日本より低く2022年は1.18だ。中国も韓国と同じく危機的状況にある。国連は2030年には1.27、2040年には1.34、2050年には1.39になるとして将来人口を計算している。

日本貿易振興機構(JETRO)が「世界人口推計2022」を基に今後の中国を展望しているが、総人口は(中略)2030年に14億1561万人、2040年は13億7756万人とカーブを急にしながら減っていく。2100年には7億7000万人ほどになる見込みだ。一方のインドは、2063年の16億9698万人まで増え続けると推計している。

中国の将来人口については、国連の推計とは別に中国国内の学者もさまざまな試算を行っているが、衝撃的なのは西安交通大学の研究チームの予測だ。

香港紙が伝えたところによれば、合計特殊出生率を1.0として推計した結果、2050年の総人口は7億人台にまで減るというのだ。2022年は1.18であり、荒唐無稽な予測とは言えない。

本当に30年も経たないうちに総人口が半減近い水準になったならば、中国社会は混乱に陥り、経済低迷は避けられない。【1月3日 河合雅司氏 現代ビジネス】
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何十年後に人口が半減・・・というのは、「何も対策をとらず、今の出生率がずっと続けば」という前提ですから、実際の動きはまた別物でしょう。

であるにしても、日本・中国・韓国など東アジア(台湾・香港・シンガポールも日本より低い出生率です)が相当に厳しい状況にあるのは間違いないでしょう。

【日本 長期的な経済低迷は事実ではあるが、見方によっては「結構うまくやっている」面も】
こうした人口動態を基盤にして、日本経済はここ20年、30年低迷を続け、将来は更に厳しいと見られており、そうした「日本の凋落」を伝える記事は枚挙にいとまがありません。下記は年末のブログでも取り上げた記事です。

****日本の1人当たりGDPがG7最下位に、OECD加盟国中でも過去最低順位に―台湾メディア****
2023年12月26日、台湾メディア・信伝媒は、日本の1人当たり国内総生産(GDP)が先進7カ国(G7)中で最下位になったことを報じた。

記事は、内閣府が25日に22年の1人当たり名目GDP(ドル建て)が3万4064ドルだったと発表したことを紹介。G7中で最も少なく、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中でも21位と比較可能な1980年以降で最も低い順位になったとした。また、日本のGDPが世界に占める割合も2021年の5.1%から4.2%に減少したと伝えた。

そして、日本の1人当たりGDPは台湾の3万2625ドル、韓国の3万2423ドル、中国の1万2732ドルと周辺のアジア諸国・地域に比べると依然として高いものの、米国の7万6291ドルをはじめ、欧米の先進国に比べるとはるかに少なかったと指摘。

日本がG7の中で最下位になるのは08年以来のことで、大幅な円安と日本の経済地位の後退が大きく影響しているとの見方を紹介した。

また、日本の22年の名目GDPは4兆2600億ドルで世界3位をキープしたものの、米国の25兆4400億ドル、中国の17兆9600億ドルに大きく水を開けられたとし、国際通貨基金(IMF)の予測によると23年にはドイツに抜かれて世界3大経済大国の座から転落する見込みだと伝えている。【12月27日 レコードチャイナ】
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これは厳然たる事実であり、直視する必要がありますが、「豊かさ」「暮らしやすさ」は必ずしも「1人当たりGDP」では表せないものもあることは、12月27日ブログ“英米で急騰する家賃 増加するホームレス”でも取り上げました。

今日はまだ正月ということであまり辛辣なものはやめて、「日本は結構うまくやっている」といった日本にとってやや安心するような記事を。

****日本の経済成長率はG7トップ、この指標なら****
総人口の代わりに生産年齢に注目すると、日本は先進7カ国の下位から1位に浮上する

経済の規模を人口で割った「1人当たり国内総生産(GDP)」は経済学の授業で真っ先に出会う統計の一つだ。生活水準や経済的な豊かさを国同士や経時的に比較するときに頼りになるデータである。

しかし世界の高齢化が進むにつれて、1人当たりGDPの有用性は低下しつつある。理由は単純で、GDPが1年間に生産された全てのモノとサービスの市場価値だからだ。労働人口から外れた人はほとんどの場合、もはやGDPに貢献していない。

1人当たりGDPは「ますます誤った印象を与える指標」。経済学者のヘスース・フェルナンデス=ビジャベルデ(ペンシルベニア大学)、グスタボ・ベンチュラ(アリゾナ州立大学)、ウェン・ヤオ(中国・清華大学)の各氏は新たな論文でそう主張している。彼らが1人当たりGDPの代わりに注目するよう提案しているのが生産年齢人口1人当たりGDPだ。

生産年齢人口1人当たりGDPは1人当たりGDPにちょっと手を加えただけのように思えるかもしれないが、今後ますます有用性が高まる可能性がある指標だ。「高齢化と出生率の低下という非常に大きな経済的変化が今後50~80年の間に世界経済を一変させることになる」(フェルナンデス=ビジャベルデ氏)からだ。

それを最もよく表しているのが日本だ。日本は経済停滞の典型的な例として取り上げられることが多く、「日本化」は弱々しい成長を指す、戒めと軽蔑が込められた婉曲表現となった。日本を表すのに、硬直化、デフレ、停滞、瀕死(ひんし)といった表現が使われてきた。

1990年から2019年の期間で見ると、日本のGDPの年間成長率は1%未満で、米国の約2.5%を大きく下回った。1人当たりGDPの成長率では日本が0.8%と停滞したのに対し、米国は1.5%だった。

「日本は鉱山のカナリア」
しかし生産年齢人口1人当たりGDPでは両国の差はほとんどなくなり、同じ期間の成長率は日本が1.44%、米国は1.56%だった。それどころか、1998年から2019年までで見ると、日本の成長率のほうがわずかに高かった。

世界金融危機の最中だった2008年から新型コロナウイルス禍直前の2019年までの期間では、生産年齢人口1人当たりGDPの成長率は先進7カ国(G7)で日本が最も高かった。

日本の経験は今後、世界の他の国にとって今よりもはるかに重要な意味を持つようになるだろう。日本の人口減少が始まったのは2010年だが、15歳から64歳までの生産年齢人口はさらに早い1990年代前半から減り始めた。

「日本は鉱山のカナリアだった。日本は出生率が最も大きく低下し、それが最も早く起きた」とフェルナンデス=ビジャベルデ氏は言う。「しかし現在の日本はその他の人々の未来の姿だ」

国連のデータによると、2023年現在、イタリア、スペイン、タイの出生率は日本と同水準で、中国と韓国はさらに低い。ブラジル、チリ、ドイツ、ギリシャ、ポルトガルは日本をほんのわずかに上回っている。

70カ国以上で出生率が人口置換水準を下回っている。言い換えれば、1人の女性が生涯に産むと予想される子どもの数が人口規模の維持に必要な2.1人未満だということだ。

昨年末、世界人口は80億人に達したが、非常に多くの国で人口成長率がゼロに向かっており、人口はピークに近づいている。一部の人口統計学者は、世界人口が90億人に達することはなく、現在は縮小への転換期にあると主張している。

1人当たりGDPはそれでも今後も子どもや退職者が利用できる資源を測るのに役立つだろう。退職者人口に対する生産年齢人口の比率が下がる中で、退職者は財政にとってますます大きな脅威になりつつある。

しかし多くの国では総人口の減少が始まる数十年前に生産年齢人口が減り始める。この期間は生産年齢人口1人当たりGDPは経済活動の指標として特に有用だろう。

労働者は生産性が下がったり、競争に後れを取ったり、経営の失敗で苦労したりしているのだろうか。それとも単に人数が減っているのだろうか。

生産年齢人口で見たGDPから分かるのは、欧米の経済学者が日本化を懸念しているにもかかわらず、日本は素人目にも明らかにうまくやっていることだ。瀕死とされた経済成長が30年間続いても、日本はまだ明らかに富裕国で、生活水準は高い。国民が長寿であるという事実は国が崩壊していないことを確実に示している。

だからといって日本経済が文句のつけようがないというわけではない。より優れた金融政策が実施されていれば経済の活性化にもっと貢献していた可能性があるし、政府債務をどう管理するかについても答えは出ていない。

より多くの国で生産年齢人口が減少へ
ほとんどの主要国は今後、日本と同じ道をたどり、移民で補わない限り労働力の伸びは鈍化してやがて縮小に転じるだろう。 2040年代に働いている成人は既に生まれており、われわれはこの予測にかなり自信を持っていい。

一応言っておくと、米国は一部の国ほど成長率が大幅に低下することはなさそうだ。フェルナンデス=ビジャベルデ、ヤオ、リー・オハニアン(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の各氏は関連の論文で、中国の経済成長率が今後20年以内に米国の成長率を下回ると予想している。生産年齢人口の減少ペースが中国のほうが速いことが主な理由だという。

ただ日本が示すように、悲惨な状況になるとは限らない。 「人口の高齢化は対処が可能だ」とフェルナンデス=ビジャベルデ氏は言う。「人々は見通しを改める必要がある」【1月2日 WSJ】
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「日本は素人目にも明らかにうまくやっている」結果として、下記のような評価も。

****30年間経済成長していない日本が1人当たりGDP4万ドルをキープ、これは失敗なのか?―中国経済学者****
2023年10月23日、中国の有名な経済学者・馬光遠(マー・グアンユアン)氏が中国のSNS微博(ウェイボー)に、「日本経済は30年成長していないのに1人当たり国内総生産(GDP)が4万ドルを保っているのは成功か失敗か」と題した評論動画を掲載した。

動画の中で馬氏は「多くの人が日本経済の失われた30年について、人類の経済発展史上の失敗例だと認識しているが、自分は逆の認識だ」とし、30年もの間、経済が成長しない一方で、1人当たりのGDPが4万ドル(約600万円)前後をキープしていることに言及。その背景には産業の高い競争力があり、特に半導体製造設備や光学材料の強みを持つ日本は半導体の産業チェーンで替えのきかない地位を築いているとした。

そして、「経済が30年も発展していないのに国民の所得が高く、産業の競争力が強いというのは失敗例か、成功例か。高齢化などのさまざまな圧力を抱えながらどれだけの国が同じことをできるのか。こんなことができるのは日本だけだ」とし、日本の「失われた30年」はむしろ成功例、実現すべき目標として見るべきだと論じている。(

この件について、中国のネットユーザーは「それだけ安定しているということは、当然成功に入るだろう」「あれだけ大きなバブルが崩壊しながら、国民の所得が30年間大きく変わらなかったというだけで簡単じゃないと思う」「30年経済が停滞した日本に、われわれは今だに追いつけていない」「1人当たりGDPが日本の3分の1に満たない状況なのに、日本みたいになることを心配している」「われわれが仮に4万ドルに到達したとしても、汚職官僚が3万8000ドルぐらい持っていく」

「でも、日本はこの30年で技術が進歩したか?政治的な独立を勝ち取ったか?」「この先30年がどうなるかを見てみよう」といった感想を残している。【2023年10月24日 レコードチャイナ】
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「生産年齢人口1人当たりGDP」がどういう意味を持つのか・・・それに関する知識を持ち合わせていないので、とりあえず、こういう評価もあるということで。

【それでも不安な日本の将来】
いずれにせよ日本経済の長期的停滞は厳然たる事実ですが、単に「1人当たりGDP」の相対的低下だけでなく、将来に向けて厳しい感じがするのが、世界の趨勢であるデジタル化への対応の遅れです。

****台湾のデジタル競争力は世界9位、首位米国、韓国6位、過去最低32位の日本****
スイスの研究機関が11月末に発表した「2023年の世界デジタル競争力ランキング」で台湾は世界64カ国・地域中9位だった。首位は米国。東アジア地域では韓国が6位で最も高く、日本は32位と2017年の調査開始以来、過去最低となった。(中略)

東アジア地域では韓国の6位に続き、10位に香港、19位に中国が入った。前年の29位から3ランクを落とした日本は人材不足や科学技術力の低下などが響き、東アジアでは独り負けの構図が鮮明になった。(後略)【12月9日 レコードチャイナ】
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個人的な印象としては、「安心・安全」に固執し、失敗するリスクを回避し、リスクが伴う新しいものに消極的・・・日本社会のそんな側面が「失われた20年・30年」の根底にあると感じています。
・・・・不幸な地震・事故が相次ぐ最悪のスタートとなった正月ですので、耳ざわりの良くない話はこのくらいにして、また別機会に。


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バングラデシュ  総選挙、ハシナ政権続く見込み 円借款で港湾開発、印と結ぶ物流ルートに

2024-01-02 23:21:35 | 南アジア(インド)

(ムハマド・ユヌス氏【ウィキペディア】)

【ノーベル平和賞ユヌス氏に禁錮刑】
かつてはアジア最貧国でもあったバングラデシュの経済学者のムハマド・ユヌス氏は、1983年にグラミン銀行を創設。地方の貧困地域の人々(特に家庭の主婦などの女性)が自ら小規模ビジネスを立ち上げる際に無担保小口融資を提供した功績で、2006年にノーベル平和賞を自身が創設したグラミン銀行と共に共同受賞しました。

ユヌス氏の草の根的な取組(マイクロクレジット)は貧困脱出の道筋として世界的にも注目されました。

しかし、ユヌス氏は一時政界入りして新党結成に動いた2007年以降、ハシナ首相と対立。2011年にグラミン銀行総裁を解任されたのも、ハシナ首相が背後で動いていたとみられています。
“ノーベル平和賞のユヌス氏、グラミン銀行総裁から解任”【2011年3月3日 AFP】

その後も政権からの執拗な追求とも思われる動きが報じられていました。(あるいは、同氏の“わきが甘い”のか・・・そこらはよく知りません)

グラミン銀行の総裁だった05〜11年、外国から得た講演料や印税などの収入について、政府の適正な手続きを経ずに公務員に適用される課税免除を受けていたとして
“バングラデシュ:平和賞のユヌス氏、脱税疑いで法的措置へ”【2013年99月11日 毎日】

ユヌス氏はが会長を務める情報技術会社の元従業員から、労働組合の設立を理由に解雇されたとして訴えられて
“グラミン銀行創設でノーベル賞受賞のユヌス氏に逮捕状、バングラデシュ”【2019年10月10日 AFP】

そして今度は・・・
****ノーベル平和賞ユヌス氏に禁錮刑、労働法違反 政治的な裁判か****
バングラデシュの裁判所は1日、労働法違反の罪で、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏(83)に禁錮6月の判決を言い渡した。検察当局が発表した。ユヌス氏は違法性を否定していた。

ユヌス氏は自身が創設したグラミン銀行と共に2006年にノーベル平和賞を受賞。無担保小口融資でバングラデシュの貧困層を支援する取り組みが評価された。

しかし、ハシナ首相はユヌス氏が貧困層を搾取していると非難。ユヌス氏の支持者によると、ユヌス氏がかつてハシナ首相率いる与党アワミ連盟に対抗する政党の設立を検討したことから、政府がユヌス氏の信用失墜を狙っている。

ユヌス氏と同氏が創設したグラミン・テレコムの幹部3人が労働者の福利厚生基金を設立しなかった罪で有罪判決を受けた。いずれも嘆願書に応じ、保釈が認められた。

検察当局によると、裁判所は保釈を認め、上訴する期間を1カ月与えるという。ユヌス氏の弁護士は上訴するとし、裁判は政治的な動機に基づいており、ユヌス氏への嫌がらせが目的だと述べた。【1月2日 ロイター】
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ユヌス氏ももう83歳、長期政権を維持するハシナ首相が警戒するような影響力がまだあるのでしょうか?

もっとも、バングラデシュの政治は、かつてハシナ首相と対立政党のジア前首相の女性政治家同士の間で激しい政闘がくりひろげられたように、“怨念”で動くところはあります。
“怨念”の内容については、2013年12月14日ブログ“バングラデシュ 総選挙を控えて波乱含みの情勢”など。

【7日総選挙 野党ボイコット】
このハシナ首相・与党とジア前首相・野党の怨念の構図は今も解消されていないようですが、2009年以降、政権はハシナ首相が掌握しており、1月7日の総選挙でも揺るぎがないようです。

****野党不参加、与党「勝利」へ 総選挙まで1週間、対立激化も―バングラデシュ****
バングラデシュ議会(一院制、定数350)総選挙まで1日で1週間。主要野党がボイコットを表明する中、ハシナ首相率いる与党アワミ連盟(AL)の「勝利」が確実視されている。実施後に与野党の対立が一段と激化する恐れがある。

「この15年間で(国は)変貌を遂げた。今日では貧困にあえぐわけでも経済的にもろいわけでもない。ALだけが国を新たな高みに導ける」。ハシナ氏は12月27日、選挙公約発表の場で経済成長に導いた連続3期の実績を強調。引き続き国のかじ取りを担う決意を示した。公約には、国のデジタル化推進などを掲げた。

一方、主要野党のバングラデシュ民族主義党(BNP)は選挙への不参加を表明。地元報道によると党幹部は27日、「演出されたまがいものの選挙に抵抗を」と訴え、国民に投票に行かないよう求めた。

バングラデシュではかつてALとBNPの二大政党が激しく対立。交互に政権を担い、反対勢力を弾圧する時期が続いた。2009年にハシナ氏が首相に返り咲くと、高成長を背景に権力基盤を確立。野党幹部や政権に批判的な人権活動家らを拘束し、強権的な姿勢を強めた。【12月31日 時事】
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野党BNPは、選挙実施に当たり政党に属さない中立的な選挙管理内閣の設立を訴えていたものの実現しなかったため、結果として候補者を出さず、選挙をボイコットしたかたちとなりました。
野党連合は本選挙は不正だとして、道路封鎖や大規模なゼネラルストライキ(ホルタル)を実施しています。【12月27日 JETROより】

【デング熱感染拡大 気候変動の影響も】
バングラデシュ関連のニュースはあまり多くないのですが、昨年目立ったのはデング熱流行に関するもの。気候変動の影響もあるようです。ロヒンギャ難民のキャンプでも多数の死者が出ています。

****デング熱 バングラで死者1000人超 前年の5倍****
南アジアのバングラデシュで、蚊が媒介する熱帯性の感染症「デング熱」による死者数が今年に入って急増している。

世界保健機関(WHO)によると、10月末までに1333人が死亡した。既に昨年1年間の死者数281人の5倍近くに上り、記録が残る2000年以降で最も死者数が多くなっている。気候変動に伴う気温の上昇やモンスーン(季節風)の長期化が背景にあるとみられている。

WHOによると、バングラでは今年1月〜10月29日に26万7680件(前年は6万2382件)のデング熱感染が報告された。感染例は国内の全64地区で確認され、うち首都ダッカが14万5465件と最も多かった。

デング熱は蚊が媒介するデングウイルスによる感染症で、高熱や筋肉痛などの症状が特徴だ。まれに「デング出血熱」と呼ばれる重篤な状態に陥る恐れもある。バングラにおける今年の致死率は現状で0・5%となっている。

バングラでは例年、5〜9月ごろのモンスーンの時期にデング熱が流行するが、今年は10月半ばごろまで雨が続いたことでウイルスを媒介する蚊が増殖したとみられている。ウイルスの検査キットが不足し、治療の遅れと重症化につながっているとの現地報道もある。

地元メディアによると、隣国ミャンマーからバングラ南東部コックスバザールに逃れてきた少数派のイスラム教徒「ロヒンギャ」が暮らす難民キャンプでも感染が拡大している。同地では、1〜8月に感染した1万3737人のうち8割強がロヒンギャだったという。地元の当局者は、難民キャンプ内の住居が密集した環境によって蚊が増殖したとみている。【11月16日 毎日】
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【円借款でマタバリ港開発 インドへの「一大物流ルート」に】
国際関係では、例によって中国の「一帯一路」事業の話もありましたが、親インド派のハシナ政権によって中止になり、かわって、日本からの円借款で港湾開発が行われています。

****バングラデシュで進む港湾開発、円借款でインドへの「一大物流ルート」に…中国「一帯一路」に先手***
ベンガル湾に面するバングラデシュ南部マタバリで、大型船が入港可能な深海港の開発が日本の円借款で進んでいる。日印がインド北東部で整備を進める道路と連動させる狙いだ。

インド洋への出口であるベンガル湾の開発で、インドと東南アジアのつながりが強化されることになる。インド洋進出をもくろむ中国に先手を打つ効果もありそうだ。

深さ16メートル
(中略)深さ16メートルの深海港は2027年に完成予定で、コンテナや一般貨物用のターミナルを備える。近くの臨海部では、24年夏までに完成予定の火力発電所も建設中で、燃料の石炭運搬用の港や防波堤は完成済みだ。

深海港は大型船も接岸でき、国際協力機構(JICA)幹部は「現在はシンガポールやスリランカの港で実施している小さな船への積み替えが不要になる」と利点を強調する。

バングラデシュでは現在、チッタゴン港がコンテナ貨物の98%を扱うが、深海港が完成すればマタバリ港が4割に上昇する見通しだ。

物流の中核
川が入り組み、海抜が低いマタバリ周辺は高潮などの影響を受けやすく、社会基盤(インフラ)整備が遅れていた。主産業は漁業やエビの養殖、製塩で、低所得層が多い地域とされる。

14年の日バングラ首脳会談で、ベンガル湾臨海部の輸送網整備やインフラ開発で合意したことを受け、マタバリを物流や重化学工業、エネルギー供給の中核とする取り組みが始まった。道路を含む港湾設備の総事業費は約3000億円で、うち円借款で7割が賄われる。

約20年後には近くに計3400ヘクタールの工業団地を整備する構想もある。

中国の事業を中止
マタバリ港と、インド北東部トリプラ州の間では幹線道路の整備が日本の円借款で進んでいる。トリプラ州では、バングラ東部アカウラと結ぶ鉄道も完成し、今月1日に開通式が行われた。

道路や港が完成すればインドから同湾へ抜ける一大物流ルートとなり、周辺地域の経済発展も見込める。バングラのムハンマド・アラム国務大臣(外交担当)は「インドとの連結性向上を進めていく」と意気込む。

一方、中国は巨大経済圏構想「一帯一路」の一環として、ミャンマー経由で中国とベンガル湾を結ぶ経済回廊を整備している。

中国はマタバリの南約25キロのソナディアで深海港の建設を進めようとしたが、地元メディアによると、20年に中止された。親印派のシェイク・ハシナ政権が、印側に配慮したとされる。政権としては、ベンガル湾を巡る開発はインドとの協力を重視していく考えだ。

外交筋は「バングラはマタバリ港整備にプライドをかけている。政局によって事業の成否が左右される心配はないだろう」と話す。【11月6日 読売】
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「インドとの連結性向上を進めていく」・・・・インドからすれば、インド本土と「インド北東地域」の間にバングラデシュが位置しており、インド本土からの物資はバングラデシュを大きく迂回する必要がありました。

(【2023年6月23日 日経】)

今後バングラデシュのマタバリ港が整備され、「インド北東地域」トリプラ州と鉄道・道路で連結され、インド本土からマタバリ港に海上輸送し、そこからバングラデシュを通過してトリプラ州へ輸送されることになると、インド・コルカタから「インド北東地域」トリプラ州への輸送距離は3分の1程度に短縮されることになります。

****バングラデシュとインド北東地域の連結性(1)****
バングラデシュは、インドの東に位置する国というイメージが強いかもしれない。しかし、実は、東西北の三方をインドに囲まれている。

そのバングラデシュを取り囲むように立地するインドの地域は、「7姉妹州(Seven Sisters))と呼ばれる(具体的には、(1)アルナーチャル・プラデシュ、(2)アッサム、(3)マニプール、(4)メガラヤ、(5)ミゾラム、(6)ナガランド、(7)トリプラの7州)。これに、(8)シッキムを加えた8州で「インド北東地域」(以下、北東地域)が構成される(図1参照)。

近年、その地政学的な位置づけから、この地域とバングラデシュとの連結性が注目を集めている。

この連結性への関心の高まりは現地だけにとどまらない。日本政府が打ち出す外交方針(「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」)の中でも、南アジア地域の連結性は重要テーマの1つになっている。

実際、今年4月のバングラデシュのシェイク・ハシナ首相来日時にも、岸田文雄首相が「ベンガル湾産業成長地帯(BIG-B)構想の下、日本とバングラデシュ間の協力をインド北東部の開発と有機的に連結させていくことで、相乗効果を生み出していきたい」と首脳会談にて発言している。(後略)【2023年8月1日 JETRO】
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現在、インドとバングラデシュの経済関係は意外と小さいものにとどまっています。

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バングラデシュとインドとの間の貿易は、もともと活発とは言えない。世界銀行のレポートによると、バングラデシュの全貿易額に占めるインドの構成比は、10%にとどまる。インドの貿易に占めるバングラデシュに至っては、わずか1%だ。

東アジアやサブサハラアフリカでは、域内貿易の割合がそれぞれ50%、22%を占める。そうした地域と比較して、いかにも少ないと言わざるを得ない。【同上】
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上記のバングラデシュを通過するトランジット輸送は(クリアすべき問題は多々あるものの)こうした状況の突破口になると期待されます。
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