孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウガンダ  「反LGBT法」などムセベニ大統領の超長期支配 難民対策では高い評価も

2024-11-20 23:32:40 | アフリカ

(ウガンダの難民【国連NHCR協会】)

【先進的な難民政策は国際社会から「ウガンダモデル」として評価される】
南スーダンやコンゴに隣接するアフリカ中部の内陸国ウガンダ・・・・周囲に紛争国があるため難民の流入が多く、受け入れている難民は10月末現在、172万人でアフリカ最多となっています。

出身国別では、北隣の南スーダン96万人▽西隣のコンゴ民主共和国55万人▽スーダン6万人――などと紛争が激化する周辺国から集まっています。

後述のようにウガンダに関する情報と言えばLGBTに対する厳しい政策や38年に及ぶムセベニ大統領の超長期支配みたいなもので、そうしたイメージからは非常に意外な感がありますが、難民に関しては移動の自由や就労の権利を認めるほか、居住・耕作用の土地を提供するなど先進的な政策ををとっているそうです。ただ、資金や要員の不足が課題となっているとも。【11月20日 毎日より】

****なぜ難民たちが集まる? 「アフリカの真珠」ウガンダはどんな国****
戦争、迫害、災害、貧困といった窮状にひんして、故郷を追われる人々は世界中で絶えません。アフリカ最大の難民受け入れ国でありながら、ウクライナや中東の紛争のはざまで光の当たらない国があります。ウガンダです。一体どのような国で、なぜ難民たちが集まってくるのでしょうか。

 Q ウガンダってどんな国なの?
 A アフリカ東部の内陸に位置し、面積は本州とほぼ同じ約24・1万平方キロ、人口は約5000万人です。赤道直下ですが、平均海抜は約1200メートルと高く、年間の全国平均気温は24度と快適です。英国のチャーチル元首相は植民地省高官時代にウガンダを訪問した際、豊かな自然を評して「アフリカの真珠」と呼びました。

 Q どんな歴史を持っているの?
 A 19世紀末に英国の保護領となり、1962年に独立しました。その後、クーデターが繰り返され、政情不安が続きました。ゲリラ闘争を率い86年に当時の政権を倒して大統領に就いたムセベニ氏が38年にわたり実権を握り続けています。

 Q アフリカ最大の難民受け入れ国らしいけど、どれぐらいの人が集まっているの?
 A 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、10月末時点で172万人に上ります。出身国別では、最多が北隣の南スーダンで96万人。次いで、西隣のコンゴ民主共和国55万人▽スーダン6万人――などとなっています。

 南スーダンでは2013年以降、政府軍と反体制勢力が内戦状態に陥り、数十万人が死亡したとされています。南スーダンからの大規模な難民の流入が受け入れ急増の背景にあります。

また、コンゴ民主共和国では産出される鉱物資源を巡り武装勢力による紛争が激化し、食糧不足や感染症など人道危機が深刻化しています。

 Q 難民はどんな生活を送っているの?
 A 大半は、政府が国内に設けた難民居住区と呼ばれる地域で暮らします。公式の認定数としては国内に13カ所あります。居住区は、難民が現地の人たち(ホストコミュニティー)と同じエリアで共生するのが特徴で、政府からは居住と耕作のための土地が提供されます。

原則的に自由な出入りが認められていない難民キャンプとは違い、移動の自由や就労の権利が認められています。居住区に設置された学校や医療施設を利用することもできます。先進的な難民政策は国際社会から「ウガンダモデル」として評価されています。

 Q 課題はないの?
 A 国際社会からの人道支援が減っていることが大きなネックになっています。難民政策を担当するウガンダ政府当局者によると、18年には海外から国連を通じて4億6000万ドルの人道支援が集まっていましたが、直近では1億8000万ドルにまで減少しています。

国際社会が関心を寄せるウクライナや中東での紛争の陰に隠れていることが背景にあるようです。また、大量の難民に比べて、受け入れ側の態勢が追いつかず、十分な支援が行き届きづらくなっていると指摘されています。

 Q 私たちにも何かできることはないかな。
 A ウガンダ首相府難民局のパトリック・オケロ局長は取材に「日本政府と指導者の継続的な支援と、難民に適切に対応するための多くの投資に対して敬意を表したい」と感謝を述べました。その上で「ウガンダのように多くの難民を受け入れている国々への支援を優先してほしい」と訴えています。
回答・郡悠介(社会部大阪グループ)【11月20日 毎日】
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“先進的な難民政策は国際社会から「ウガンダモデル」として評価されています”・・・始めて知りました。

多くの国で、移動や就労を認めない閉鎖的な難民キャンプとなっているのは、それなりの理由があってことです。

難民の出入りを自由にすれば、出身国に対する抵抗運動を行う勢力が国内で活動し、ひいては自国の政府に対する抵抗運動などとも連動しかねないといった、治安や政治問題があります。

また就労を認めると、地域住民の「仕事を難民に奪われる」「難民と就労を競争するため、賃金が低く抑えられる」といった不満を惹起しトラブルを起こすことも。

「ウガンダモデル」がそのあたりの問題をどのようにクリアしているのか知りたいところですが、今のところ情報がありません。

【「反LGBT法」で欧米と対立】
冒頭にも書いたようにウガンダと言えば、38年に及ぶムセベニ大統領の超長期支配です。
強権的支配というのはウガンダだけの話でもなく、むしろ欧米以外では一般的な政治形態かも。アフリカ国々はどこもそうした傾向があります。

そうした中でも近年注目されたのが「反LGBT法」

****ウガンダ、性的少数者の制限法 「重度の同性愛」最高で死刑も****
アフリカ東部ウガンダで、LGBTQ(性的少数者)の行動を大幅に制限する法律が成立した。大統領報道官の29日の発表をロイター通信が伝えた。

エイズウイルス(HIV)感染者の同性と関係を結ぶなどの「重度の同性愛」に対しては最高で死刑を科すなど厳しい内容。

議会が3月に可決した法案にあった、個人がLGBTQと自認すること自体を犯罪とする文言はなくなったが、多くは法案の内容がそのまま残った。同性愛の「促進」行為は禁錮20年と規定。LGBTQの支援団体の活動が取り締まりを受ける恐れがある。

ムセベニ大統領が29日までに法案に署名した。【2023年5月29日 共同】
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法律は実際に運用されています。23年8月には“同性と繰り返し性的関係を結ぶような「重度の同性愛」に当たる行為をしたとして、検察当局が20歳の男性を訴追した”【2023年8月29日 共同】といったニュースも

こうした「反LGBT法」に関して、LGBTの権利を擁護する欧米から強い批判があります。一方ウガンダも「欧米諸国がアフリカに同性愛を受け入れるよう強要している」と激しく反発しています。

****欧米、アフリカに同性愛受け入れ「強要」 ウガンダ****
米国が厳格な反同性愛法を理由にウガンダの政府当局者へのビザ発給を停止したのを受け、ウガンダ政府は6日、欧米諸国がアフリカに同性愛を受け入れるよう強要していると非難した。

米政府は4日、反同性愛法がウガンダの「民主化プロセスを損ない」、LGBTQ(性的少数者)コミュニティーを含む国民の人権を侵害しているとして、ウガンダの政府当局者へのビザ発給を停止した。

ウガンダのヘンリー・オリエム・オケロ外務副大臣は6日、「米国と欧州の一部の国々がアフリカ、特にウガンダに対して援助や融資と引き換えに、同性愛を受け入れるよう強要する間違った試みを行っている」とAFPに語った。

米国はウガンダで新たな同性愛法が成立した直後の6月、同国の政府高官に対するビザ発給制限の第1弾を開始。先月には、ウガンダについて、2024年1月からアフリカ成長機会法に基づく優遇措置の対象から除外すると発表した。

だが、オリエム氏は「議会と大統領の指示に従うまでで、援助がなくともわが国の開発計画は変わらない」とし、ウガンダは外国から援助を受けることなく独立したと主張。「渡航や貿易関係について条件を課すことなく、わが国の開発課題を尊重してくれる国際パートナーや国は他にもある」と述べた。

ウガンダで5月に成立した反同性愛法では、「加重同性愛」の刑罰として死刑が定められている。また、合意の上での同性愛行為にも終身刑が科される可能性がある。

米国のジョー・バイデン大統領や欧州連合、国連のアントニオ・グテレス事務総長は、同法を非難。廃止されない限り、外国からウガンダへの援助や投資が引き揚げられる可能性があると警告している。

だが保守色の濃いウガンダで同法は幅広い支持を得ており、議員らは欧米的な不道徳に対する防波堤として必要な措置だと主張している。 【2023年12月7日 AFP】
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欧米主導の世界銀行も“(2023年8月)8日、多くの国や国連から非難されているウガンダの「反LGBTQ(性的少数者)法」が世銀の価値観に反するとして、ウガンダ政府への新規融資を停止すると発表した。”【2023年8月9日 ロイター】とのこと。

LGBTの権利擁護が、“世銀の価値観”と言えるほど普遍的なものかどうかは疑問ですが。

私の世代がウガンダに関してネガティブあるいは暗いイメージを持ちがちなのは、ムセベニ大統領以前の時代のことではありますが、強烈なカリスマ性と、「人食い大統領」と呼ばれた凶暴さを併せもっていたウガンダの独裁者アミン元大統領(法学博士の肩書も持つ。身長193cmの巨漢で、東アフリカのボクシングヘビー級チャンピオンになったこともある)の影響もあるのかも。

“「虐殺した政敵の肉を食べた」などの噂を立てられた結果、「人食い大統領」というニックネームもつけられたが、実際のアミンは菜食主義者で、肉は鶏肉しか口にしたことがなかったといわれている”【ウィキペディア】

【ウガンダで暮らすスーダン難民】
話をウガンダで暮らす難民に戻すと、前述のように紛争が続くスーダンからの難民も多くいます。
その一人がネイマットさん(31)

****「強く生きられる気がする」難民172万人 受け入れ国ウガンダで今****
(戦争、迫害、災害、貧困などを理由に故郷を追われる人々は世界中で絶えない。アフリカ最大の難民受け入れ国でありながら、ウクライナや中東の紛争のはざまで光の当たらないウガンダから、難民のいまを報告する。

スーダン「忘れられた紛争」
赤茶けた大地が見渡す限り広がり、居住用の小さなテントが点在する。アフリカ東部の内陸国・ウガンダには、紛争などで周辺の国々を追われた人たちが大量に流入している。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、10月末時点で172万人。アフリカ最大、世界有数の難民受け入れ国として知られる。

10月下旬、ウガンダ中西部のキリヤンドンゴ難民居住区で、スーダンから逃れてきたネイマットさん(31)が沈痛な表情を浮かべた。「あの出来事を思い出すだけでひどく胸が痛む」

ウガンダの北にあるスーダンでは2023年4月、政府軍と、政府系の準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」による内戦が勃発。一般国民を巻き込み、UNHCRによると、人口約4600万人中、約1100万人が家を追われた。紛争地のデータ収集を行う米NPO「ACLED」は2万7000人以上が犠牲になったとしている。しかし、ウクライナや中東での戦争に埋もれ、「忘れられた紛争」と呼ばれる。

突然の襲撃 面前で夫殺され
平穏な一家の日常は突然の襲撃で断ち切られた。アフリカ北東部スーダンでは2023年4月に始まった軍事衝突が何ら罪のない一般国民に悲劇をもたらしている。

「親戚と連絡さえ取れず、誰も頼ることができない」。祖国スーダンを逃れ、ウガンダに身を寄せるネイマットさん(31)は嘆く。

10年ごろ、幼なじみでいとこのアダムさんと結婚。誠実で優しく、信心深い性格を愛し、けんかをしたこともなかった。2男2女に恵まれ、夫が営む食料品の小売店は経営が上向き、首都ハルツーム近郊で充実した日々を送っていた。

スーダンでは23年4月15日、政府系の準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」が反乱を起こした。RSFは00年代に地方の反政府勢力を攻撃するために作られた民兵組織に由来する。要員や装備を強化して政府軍に準じる役割を任されていたが、近年、政府軍への編入を巡って権力争いが激化していた。

戦闘開始から間もなく、家族での夕食後に突然外から男性の怒声と大勢の足音が聞こえてきた。「アダム、これがお前の最後の日だ」。銃を携えた覆面姿の男たち約20人が敷地の塀を乗り越え押し入ってきた。

アダムさんは両脚を銃で撃ち抜かれ、ネイマットさんは銃で腹部などを激しく殴られた。「なぜそんなことをするんだ」。アダムさんはそう叫んだ瞬間、家族の面前でナイフで首を切られ、大量に出血して絶命した。「彼らには慈悲がなく、神さえ恐れない。人間ではない」と怒りを込める。

「家にある全財産を渡せ」。脅されたネイマットさんは家にある金銭や販売用の商品、身につけていた結婚祝いのネックレスなどをかき集めて渡した。「これで何とか解放される」

しかし、蛮行は終わらず、鎖で手脚を縛られて全裸で寝室に監禁された。飲食物は与えられず、10人を超える男たちに連日暴行を受けた。数日後、意識を失い、気付いた時には病院のベッドの上だった。「ショックで全身の感覚が失われ、声すら出ず、自分が自分でないようだった」と嘆く。

ネイマットさんが後に長男ファリスさん(12)から聞いた話によると、自宅は約20日間占拠された後、男たちが気絶したネイマットさんと、監禁されていた子どもたち、そしてアダムさんの遺体を車で遠く離れた路上に運び、放置したという。ネイマットさんは残虐な手口から男たちがRSF以外にないと考えている。

次男フォウジさん(10)は父親が面前で殺されたショックで家の裏口から飛び出し、今も行方が分からない。ネイマットさんは「あの子のことを考えない日はなく、胸が張り裂けそう。でも今の私にはどうすることもできない」と涙を浮かべる。

絶望の淵で描く夢
安全のため2〜12歳の子ども3人を連れて隣国・南スーダンに逃れた。避難生活を送る中で、「ウガンダなら難民でも安心して暮らせる」といううわさが耳に入った。貨物バスの隙間(すきま)に少額の代金で乗せてもらうなどして、24年7月、ウガンダ中西部のキリヤンドンゴ難民居住区にたどり着いた。

居住区は難民がウガンダの人たち(ホストコミュニティー)と同じ地域で共生できるよう政府が国内各地に設置しており、居住・耕作用の土地が提供される。キリヤンドンゴは地元民約73万人と難民約13万人が暮らす。

「やっと人生をやり直せる」。しかし、翌8月、子どもたちと就寝中、何者かに住まいのテントを切り裂かれた。身の危険を感じて今は隣人のテントの一角で寝泊まりをさせてもらっているが、肩身は狭い。

スーダンの自宅での襲撃の際、銃で殴打された後遺症か、腹部は大きく膨れ上がっている。少し重い物を持つと激痛が走り、水をくんで運ぶこともできない。居住区の医療施設には検査機器がなく、設備の整った私設病院に行こうにも交通費や治療費が払えない。

そんな絶望の淵にあっても、一つの夢がある。少しずつお金をためて食料品の売店を開くことだ。生計を立てる以外に大切な理由があるという。「食料品店は夫がスーダンで営んでいた。夫の思いを継ぐことで、残された子どもたちと、夫を思い出しながら強く生きていける気がするから」【11月20日 毎日】
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【進まない国際社会の停戦に向けての取組】
スーダンでの準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」と政府軍の戦闘は今も続いています。国際社会の停戦に向けての取組もままならないようです。

****ロシアが拒否権行使、スーダン内戦の停戦決議案を否決 国連安保理*****
国連安全保障理事会で18日、スーダン内戦における民間人の保護と敵対行為の停止を呼びかける決議案の採決があり、ロシアの拒否権行使で否決された。ロシアは内戦当事者双方と関係を持つ。全15理事国のうち米中を含む14カ国は決議案に賛成していた。

北アフリカのスーダンでは、2023年春から国軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の内戦が続く。国連によると、人口の3割近くにあたる1400万人超が国内外に避難した。全土で人道危機が深刻化し、性暴力などの被害も数多く報告されている。

RSFは、露政府傘下の民間軍事会社ワグネルの支援を受けてきたとされる。露政府は同時に、紅海での軍事拠点確保などを目的として、武器支援を通じてスーダン国軍への影響力も強めている。

今回の決議案は、双方に敵対行為の停止や人道支援の実施へ向けた対話を呼びかける内容で、英国とシエラレオネが提案した。

否決を受けて、議長を務めたラミー英外相は「グローバルサウス(新興・途上国)のパートナーであるかのように振る舞うプーチン(露大統領)は恥を知れ」と非難し、「どれだけのスーダン人が殺され、女性がレイプされ、子どもが飢えなければならないのか」と言葉を強めた。

ロシアのポリャンスキー国連次席大使は会合で「個々の理事国の意見を安保理の決定を通じて押しつけるべきではない」と拒否権行使を正当化した。ロイター通信によると、スーダン外務省はロシアの対応を歓迎する声明を発表した。【11月19日 毎日】
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“スーダン外務省はロシアの対応を歓迎する声明を発表した”・・・このあたりの事情は良く知りません。国際社会による停戦の押しつけには反対するということでしょうか。
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台湾  トランプ氏復権で「見捨てられないか心配」 米の防衛協力「信じない」57.2%

2024-11-19 22:47:38 | 東アジア

(「台湾有事」が現実となった場合、日本政府は与那国島など先島諸島5市町村の住民を民間機やフェリーなどで九州・山口の8県に避難させる計画です。その数は12万人 【10月23日 読売】)

【台湾市民 「トランプ氏に見捨てられないか心配です。中国は台湾よりも経済とマーケットの力があるので」】
に続き、トランプ氏復権がもたらしている変化について、今回は台湾。

台湾は政治・経済・軍事の面で中国の「統一」に向けた圧力にさらされていますが、一方で経済的な中台の関係も深く、多くの台湾企業が中国に生産拠点を有しています。

しかしトランプ氏復権で中国製品への60%関税の課税が取り沙汰される状況で、台湾当局は台湾企業が中国から台湾に生産拠点を移すことへの支援を表明しています。

また、アリゾナ州では半導体ファウンドリー(受託製造)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が650億ドル以上の投資を行うとしており、同社に最大66億ドルの助成が発表されていいます。しかし、トランプ氏は選挙期間中、台湾が米国の半導体ビジネスを盗んでいると非難しており、復権に伴って補助金が取り消されるなどの変更も想定されています。【11月13日 JETROより】

****台湾、中国からの生産移転を支援へ トランプ氏の関税公約巡り****
台湾の郭智輝経済部長(経済相)は7日、トランプ次期米大統領が中国に関税を課すと公約していることに絡み、影響を受ける可能性がある企業が中国から生産拠点を移転するのを支援すると表明した。

来年1月に就任するトランプ次期大統領は、米国に輸入される中国製品に60%の関税を課すとしている。

台湾企業は過去40年間、低コスト化のため中国に多額の投資を行ってきた。一方で台湾当局は中国からの統一圧力が高まることを警戒し、台湾企業に中国以外への投資を促している。

郭氏は議会で、トランプ氏が中国に関税を課した場合、中国で生産活動を行う台湾企業への影響は「かなり大きい」と指摘。「できるだけ早期に台湾企業が生産拠点を移転できるような支援策を打ち出す」と述べた。詳細には触れなかった。

また、トランプ氏が半導体受託生産世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)に対する補助金を取り消す懸念について議員から質問されると、不測の事態に備えた計画はあり、「TSMCが対米投資を拡大し続けるのはトレンドだ」と答えた。

TSMCは米アリゾナ州の新工場向けに650億ドルを投じている。同社は補助金に関する懸念について今のところコメントしていない。【11月7日 ロイター】
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上記のような経済問題も当面の話としてありますが、台湾の最大の懸念は、もし中国が武力による併合に乗り出したときトランプ政権は台湾を守ってくれるのか?という安全保障上の不安でしょう。

****「トランプに見捨てられないか心配」“アメリカ頼り”の台湾で心配の声 半導体業界からも「台湾企業の宿命」****
台湾では、アメリカ大統領選挙に勝利したトランプ氏が、どのような政策を行うのか注目されています。中国との緊張が高まり、アメリカを頼ってきた台湾だけに、今後を不安視する声も上がっています。

台湾の中心都市・台北市の飲食店。6日、アメリカ大統領選の開票状況を気にする人たちの姿がみられました。

中国との関係が緊張する中、台湾は軍事面などでアメリカを頼りとしてきましたが、市民からはトランプ氏が台湾への関与を弱めるのでは、と心配する声も聞かれます。

市民 「トランプ氏に見捨てられないか心配です。中国は台湾よりも経済とマーケットの力があるので」「驚きと恐れがあります。トランプさんはコントロールできないでしょう?」

半導体業界からも不安の声が。スマートフォンから生成AIまで幅広い用途で使用される半導体ですが、より性能の高い先端半導体の製造については、台湾が国・地域別シェアで68%と世界のトップです。

バイデン政権は国内製造を促進するため、受託製造世界トップシェアの「TSMC」をはじめ、台湾企業がアメリカに工場を建設する場合は、巨額の補助金を支給するとしていますが、台湾のエンジニアは。

台湾の半導体業界で働くエンジニア
「トランプ氏はバイデン政権のように(台湾の半導体産業が)アメリカへ移転するために補助金を使うのではなく、より政治的手段を使ってアメリカへの移転を加速させるだろうと思います」

ブルームバーグ通信などによると、トランプ氏は補助金には否定的で、「我々から半導体事業を奪った」と台湾をけん制。高い関税を課すことを示唆したといいます。

台湾の半導体業界で働くエンジニア
「これは台湾企業の宿命だと思うので(トランプ氏の方針に)協力せざるを得ないと思いますが、私自身はうまくいくとは思っていません」

不安も渦巻く中、トランプ氏はどのような台湾政策を進めるのでしょうか。【11月8日 TBS NEWS DIG】
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“中国は台湾よりも経済とマーケットの力がある”・・・・理念よりも実利的な「ディール(取引)」を好み、常に「自国第一」をアピールしているトランプ氏ですから、仮に関税問題で中国との厳しい対立が起きたとしても、最後は(アメリカと中国にとっての)「ウィン・ウィン」のディールがなされ、そこでは台湾への配慮は捨てさられる・・・・そんなことも十分に想定されます。

【トランプ氏 台湾有事にも関税対応 「台湾は防衛費を払うべきだ。われわれは保険会社のようなもの」】
ましてや、台湾有事の際の軍事介入となると、そんなアメリカにとって“一文の得にもならない”ことへトランプ氏が乗り出すことは考えにくいようにも思えます。

トランプ氏本人が「私が(軍事力を使う)必要はないだろう」と語っています。

****トランプ氏、台湾有事なら「中国に最大200%の関税」 軍事力は使用せず=WSJ****
 米大統領選共和党候補のトランプ前大統領は、中国が「台湾に侵攻」した場合、中国に追加関税を課す意向を示した。18日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じた。

WSJのインタビューでトランプ氏は「もしあなたが台湾に侵攻するなら、申し訳ないが、150―200%の関税を課すつもりだと言うだろう」と述べた。

中国による台湾包囲に対して軍事力を使用するかとの質問に対しては、習近平国家主席は自分に敬意を抱いており、そのような事態にはならないと回答。

「私は彼と非常に強い関係を築いていた」と述べ、「彼は私を尊敬しており、私が著しくクレイジーであることも知っているので、私が(軍事力を使う)必要はないだろう」との見方を示した。(後略)【10月20日 ロイター】
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さすが自称「タリフマン(関税男)」、ここでも関税です。
またトランプ氏は、「台湾は防衛費を払うべきだ。われわれは保険会社のようなもの」とも。「保険会社」というよりカネで動く「用心棒」でしょう。

【台湾有事の際の米国の防衛協力を「信じる」:29.8%と過去最適に急落 「信じない」:57.2%】
ただ、中国にとって核心中の核心である台湾問題は、利害損得の範囲外のところがあります。また、習近平国家主席が「仮に台湾侵攻でアメリカとの経済関係が崩壊して経済混乱が起きても、国民は「統一」の方を評価する。トランプ氏もやがては中国の巨大市場を考えて関係修復に動く」と踏んで、武力統一に動く・・・というシナリオもあるでしょう。

台湾世論もトランプ氏の防衛強力をあまり信用していません。

****台湾世論の対米信頼低下=防衛協力「信じる」13ポイント減****
台湾の民間シンクタンク「台湾民意基金会」は19日、トランプ次期米大統領の当選を受けた世論調査結果を公表した。

中国が台湾を侵攻した場合、米国の防衛協力を「信じる」と答えた人の割合は前回の昨年2月調査比で13ポイント減となる29.8%に落ち込んだ。

「信じる」人の割合は2020年9月調査以降で最低。逆に「信じない」と回答した人は10.7ポイント増の57.2%と過半数を占めた。

米歴代政権は台湾防衛を明確にしない「曖昧戦略」を取ってきたが、バイデン大統領は台湾有事に対する軍事介入を繰り返し明言。

一方、トランプ氏は米台の地理的な遠さを指摘し、「台湾は防衛費を払うべきだ。われわれは保険会社のようなもの」などと発言した。台湾社会では米依存への懐疑論や動揺が広がり、米台離間を図る中国に好都合な展開となっている。

調査は20歳以上の約1000人を対象に、米大統領選後の今月11〜13日に実施した。【11月19日 時事】 
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【中国による“日頃から偽情報の流布や選挙介入、台湾軍兵士への接近などの浸透工作” 台湾軍の情報セキュリティーに問題も】
台湾においては、これまで避けてきたような中国の台湾侵攻という問題が映画・ドラマでも真正面から取り上げらるようになってきたことは10月10日ブログ“台湾  中国の圧力・脅威が強まるなかでの変化 中国の台湾侵攻を題材にしたドラマも”でも取り上げました。

****中国の「台湾侵攻」描くドラマ「零日攻撃」、台湾有事に警鐘…中国の浸透工作シナリオに「予告編を見て緊張した」****
台湾で中国による侵攻と浸透工作を描く初のドラマ「零日攻撃(ゼロ・デイ)」(全10話)の撮影が進み、話題を呼んでいる。中国による軍事的威圧が常態化する中、重苦しいテーマに正面から挑む作品で、制作関係者は台湾有事に警鐘を鳴らしたいとしている。

公開中の予告編動画によれば、中国が消息不明になった自軍機を捜索救助する名目で、台湾周辺の海域を封鎖する設定だ。ドラマでは、中国ハッカーによるサイバー攻撃や台湾に潜伏する内通者の反乱が起こるほか、半導体関連の株価は暴落し、在留外国人は脱出を図る。

中国が日頃から偽情報の流布や選挙介入、台湾軍兵士への接近などの浸透工作を図る中で描く有事のシナリオに、制作で助言した台湾の国防安全研究院の蘇紫雲スウズーユン・国防戦略資源研究所長は「予告編を見て私も緊張した」と話す。

制作を手がけるプロデューサー兼脚本総括の鄭心媚さんは、中国の侵攻を「デリケートな話題であり、私たちはいつもその話を避けてきた」と語る。制作の意図について「中台間で戦争が起きたり、台湾が中国の一部になったりすれば、話す機会がなくなるため、今こそ話すべきだ」と訴える。

危機に際して台湾の人びとがどう選択するのか、様々な意見を取り入れようと30〜60歳代の監督9人を起用した。脚本作りには軍事などの専門家が協力した。

制作費2億3000万台湾ドル(約10億9600万円)のうち3割を台湾当局が補助し、軍も制作に協力する。野党は、中国と距離を置く民進党政権のプロパガンダだと批判するが、予告編の動画の再生回数は196万回を超え、反応は上々だ。【11月8日 読売】
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中国による“日頃から偽情報の流布や選挙介入、台湾軍兵士への接近などの浸透工作”については、下記のような話も。

****台湾の親中国政党「中華統一促進党」、当局が解散請求へ…中国から3億5300万円受領し世論工作か****
台湾内政部(内政省)は6日、中国とのつながりが深いとされる政党「中華統一促進党」が組織的に中国のために働き、台湾の治安や社会秩序を破壊しようとしているとして、憲法裁判所にあたる司法院の法廷に解散を請求すると発表した。

2005年成立の同党は、台湾の歴代政権が受け入れを拒んできた「一国二制度」下での中台の統一を目指している。

同党幹部の男と妻は4日、中国から約7400万台湾ドル(約3億5300万円)を受領し、1月の総統選や立法委員(国会議員)選などで世論工作をしようとしたとして台湾の検察に起訴されていた。

内政部によると、同党は選挙妨害や組織暴力など、幅広い犯罪にも関わっているという。10年から今年までに殺人や強盗、国際的な人身売買などの犯罪に関与したとして、党員計134人が摘発された。【11月7日 読売】
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台湾軍及び台湾市民の防衛意識の問題もありそう。台湾住民のスマホ投稿で軍事情報が中国側に筒抜けになっている実態も。

****「スマホ投稿」が暴露した秘密...台湾防衛が中国に筒抜けとなる理由****
<市民がスマホで撮影した画像がネット上にあふれ、対艦ミサイルの位置情報が中国軍に筒抜けに>
それは台湾ではありふれた一日だった。中国がまたもや軍事演習を行ったのだ。

中国軍の艦船と軍用機が台湾周辺を威嚇的に旋回するのは毎度のこと。台湾軍も心得たもので、いつものように各部隊に緊急出動を命じた。

とりわけ重要な任務を担うのは、移動式の地上発射型対艦ミサイルを運用する機動部隊だ。実戦では、これらの部隊が本島各地の秘密の地点からミサイルを発射し、台湾上陸部隊を乗せた中国の艦船を撃沈することになる。

ところが、台湾側が知らないうちに機動部隊の動きはインターネット上にさらされ、秘密のはずのミサイル発射地点を、中国側がピンボイントで狙える状態になっていた。実戦であれば、機動部隊は装備もろともあっという間に吹き飛んでいたところだ。

これは台湾の頼清徳(ライ・チントー)総統の就任式が行われた今年5月20日の数日後に実際に起きた出来事である。(中略)

5月23日の演習では、いつもどおり台湾側もそれに対抗して周辺海域と空域に部隊を派遣したが、実弾は1発も発射されず、程なく中国は演習を終了。台湾政府はあたかも勝利宣言のように防衛体制は万全であり、何の心配もないと市民に保証した。

だがその後6月に中国最大のソーシャルメディアアプリ微信(ウェイシン)に、ある記事が載った。これは中国の防衛関連企業「北京藍徳信息科技」が投稿した記事で、一般公開されている。

記事が主に扱っているのは、地対艦ミサイルを運用する台湾軍の機動部隊が5月の演習時にどう動いたか。これらの機動部隊は「海鋒大隊」に所属している。(中略)

問題の記事は、海鋒大隊の12の基地の地理的位置を正確に伝えている。恒久的なミサイル発射基地は敵に見つかりやすい。台湾軍も自軍の基地が中国軍に知られていることを想定して、機動部隊を使うことにしたのだ。機動部隊は台湾各地に散らばり中国軍の上陸部隊を壊滅させつつ、飛来するミサイルを巧みにかわして任務を全うするはずだ。少なくとも理論上は。

海鋒大隊所属の機動部隊は通常、3〜4台のミサイル発射台と護衛のための数台の支援車両で構成される。台湾島内を自在に動き回り、発射地点で素早く準備し、中国軍の艦隊にミサイルを撃ち込み、反撃されないうちにさっさとその場を去る。「シュート・アンド・スクート(撃って逃げる)」と呼ばれる戦術だ。

政府と軍の「自殺行為」
だが問題の記事を投稿した企業は5月23日、台湾の機動部隊の数カ所の発射地点を正確に突き止めていた。(中略)

この中国企業は台湾軍にスパイを潜入させていたわけでも、最先端のハッキング技術を使ったわけでもない。台湾の人々(ジャーナリストもいるが、多くは一般市民)が移動中の機動部隊を見つけ、スマホなどで撮影し、ソーシャルメディアに投稿したのだ。(中略)

台湾のメディアやネット民は正確な場所までは示していないが、中国側が入手した画像を基にグーグル・マップなどを使って調べれば、簡単に発射地点が分かる。この中国企業は機動部隊の移動ルートや移動にかかった時間まで割り出していた。

ここ数年、スマホとソーシャルメディアの普及に伴い、一般の人たちが目撃した場面を撮影してネットに投稿するようになった。この手のOSINT(オープンソース・インテリジェンス)が軍事的にも利用されることはウクライナ戦争を見れば明らかだ。

ところが、台湾軍の上層部は自軍の機動部隊を中国のミサイルから守るために必要な情報セキュリティーをいまだ採用していない。(中略)

中国の商用リモートセンシング衛星システム・吉林1号は、報道によると昨年には既に138基が軌道上にあり、地球上の任意の地点の最新画像を宇宙から10分おきに撮影できる。軍と国の情報機関は数百基の強力なスパイ衛星群を利用している。

中国は既に台湾のあらゆる場所を常時追跡できる、というのは大げさかもしれない。しかし、今回の微信の投稿が示すとおり、中国の情報関連能力は急速に進化しており、ソーシャルメディア時代に台湾が機密を隠し切れないという現実がそれを助けている。

台湾軍はより慎重かつ柔軟な戦術で活動しなければ、戦争の初期段階で、最も重要な防衛資産を中国にたやすく破壊されかねない。(後略)【11月7日 Newsweek】
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“台湾国防部(国防省に相当)は【8月)30日、中国軍に関する年次報告書を議会に提出した。中国は装備を保有していないため台湾を「完全に」侵攻する能力はないが、先進的な新兵器を投入していると指摘した。また外国の貨物船に対する検査など、台湾を脅かす他の選択肢もあるとの認識を示した。”【8月30日 ロイター】

それならいいけど、台湾軍の防衛能力は?

以前のブログでも触れたように、台湾有事となれば日本も厳しい対応を迫られます。
もしアメリカが軍事的に動くとすれば、その最前線基地は日本にある米軍基地です。日本政府がこの米軍基地使用を認めないように中国は日本に圧力をかけてくる可能性もあります。

台湾周辺の沖縄県先島諸島からは12万人の住民を避難させる計画とか。どうやって?
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アメリカ  ウクライナの米供与長射程兵器によるロシア領内軍事拠点攻撃容認

2024-11-18 23:10:54 | 欧州情勢

(長射程兵器ATACMS【11月18日 NHK】  最大射程約300キロ・・・名古屋から東京を狙えます)

【ウクライナに領土断念を迫るトランプ次期大統領 政権移行チーム「停戦案」 ウクライナ拒否】
昨日ブログではトランプ復権に向けた世界各国の動きをとりあげましたが、トランプ復権で最もドラスティックに変わる可能性があるのがウクライナの問題。トランプ氏は今年5月「自分がアメリカ大統領なら、24時間以内に戦争は解決する」と豪語しています。

24時間云々はともかく、トランプ氏がウクライナ支援に消極的であり、同氏を支持する人々も、ウクライナ支援ではなくアメリカ国内の自分たちの生活を守るためにカネを使うべきだとしていること、アメリカの支援がなければウクライナの戦争継続は極めて困難なことから、トランプ氏が早期結着に向けてその力を行使することが予想されています。

ただ、「早期決着」が可能になるのは現在戦局において優位な立場にあるロシアの賛同が得られる場合でしょう。
そうしたロシアの主張にほぼ沿う形でウクライナに停戦を迫ることが予想され、そのあたりは11月11日ブログ“ウクライナ  ルール・理念なき「力による平和」・ディールのトランプ流外交でどうなる?”でも取り上げたところです。

トランプ新政権が考える「停戦」の中身については、現在のロシア占領地域をそのままにした形での、政権移行チームによる以下のような案が報じられています。

****トランプ次期大統領 政権移行チーム ウクライナの戦闘凍結案を検討 約1290キロにわたる“非武装地帯”設ける案 米WSJ紙報道****
ロシアによるウクライナ侵攻をめぐって、トランプ次期大統領の政権移行チームが非武装地帯を設けるなどの戦闘凍結案を検討していると報じられています。

これは、6日付の「ウォール・ストリート・ジャーナル」がトランプ次期大統領に近い複数の人物の話として報じたものです。

トランプ氏の政権移行チームは、ウクライナの前線を固定化して、およそ1290キロメートルにわたる非武装地帯を設ける戦闘凍結案を検討しているということです。事実上、ロシアがウクライナの国土のおよそ2割を占領し続けることになるため、ウクライナ側が受け入れる可能性は今のところ低いとみられます。

また、案では、ウクライナには少なくとも20年間、NATOに加盟しないことを約束させる代わりに、アメリカがウクライナに武器を供給し続け、ロシアを抑制するとしています。【11月12日 TBS NEWS DIG】
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この停戦案について、ウクライナ側は拒否の意向をアメリカに示しています。

****ウクライナ戦闘凍結「非現実的」 米次期政権案に拒否の意向示す****
ロシアに侵攻されるウクライナのポドリャク大統領府長官顧問はトランプ次期米大統領の政権移行チーム内で検討中とされる戦闘凍結案について「ウクライナが領土と主権を断念しなければならない。筋が通らず、非現実的だ」と述べ、拒否する意向を示した。共同通信と12日会見した。ポドリャク氏はゼレンスキー大統領の最側近の一人。

政権移行チーム内では前線を固定化して戦闘を凍結し、ウクライナが望むNATO加盟を棚上げする案が浮上したと報じられた。トランプ氏は選挙戦で、来年1月20日の就任前に戦争を解決するなどと豪語してきたが、終結の見通しは立たない。

ポドリャク氏はトランプ氏のウクライナ政策は公になっていないとした上で、凍結案は「ウクライナに犠牲を強いるだけで、ロシアに何も強制していない。侵略者を勢いづかせる」と批判し、ロシアに圧力をかけ譲歩を迫るべきだと主張した。

ポドリャク氏によると、ゼレンスキー氏は7日にトランプ氏と約30分間にわたって電話会談し、ウクライナの立場を説明した。【11月14日 共同】
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ただ、トランプ新政権が武器支援停止をチラつかせて圧力をかけてきた場合、ウクライナ側がアメリカの要請を断り切れるのか?もちろん支援がなくても戦うとはしていますが・・・・

【攻勢を強めるロシア】
一方、ロシアは攻勢を強めています。

****ロシア、ウクライナが奪還した東部要衝に攻撃 北東戦線で攻勢か****
当局によると、ロシアの小規模な突撃部隊が13日、ウクライナ東部ハリコフ州の都市クピャンスク郊外に短時間侵入した。北東戦線でロシアが攻勢を強めている可能性がある。

同市は重要な鉄道拠点で、2022年2月のロシアによる侵攻開始初期にロシア軍によって占領されたが、同年9月にウクライナが反撃して奪還していた。

ウクライナ軍によると、ロシア軍はウクライナ軍兵士に偽装するなどして波状攻撃を仕掛けた。ただ、ウクライナ軍はこれを撃退したという。

ロシア軍はクピャンスク戦線についてコメントしていないが、あるロシア当局者はロシア軍が同市郊外に足場を築きつつあると述べた。ロイターはこの証言を独自に検証することはできなかった。【11月15日 ロイター】
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また、ウクライナがロシア領内に侵攻した地域についても、北朝鮮兵士を含む5万人規模で攻勢をかけ奪還をめざしているようです。

更に、厳冬期を迎えるウクライナの電力インフラに対しても。

****ロシア軍がウクライナ全土に大規模攻撃、厳冬期を前に発電所など標的か…計画停電実施へ****
ロシア軍は17日、ウクライナの首都キーウを含む全土に大規模な攻撃を実施した。厳冬期を前に発電所などの重要インフラ施設を標的にしたとみられる。攻撃で南部ミコライウ州や西部リビウ州などで少なくとも7人が死亡。施設への被害は大きく、18日は計画停電が行われる見通しだ。

今回の攻撃は8月以来、3か月間で最大規模とされる。ウクライナ側によれば、露軍は極超音速ミサイル「キンジャル」や巡航ミサイルなど約120発のミサイルと無人機90機を発射。ウクライナ軍は、このうちミサイル104発、無人機42機を撃墜したという。

地元当局などによると、南部のオデーサ州やミコライウ州、西部のリビウ州で計5人が死亡。東部ドニプロペトロウシク州では鉄道の施設が被害を受け、鉄道会社職員2人が死亡した。

ロイター通信によれば、首都キーウでも市街地で爆発音が響いた。住民らは避難した地下鉄駅の構内で身を寄せ合っていたという。

ウクライナの国営電力会社「ウクルエネルゴ」は17日、攻撃による施設の被害の影響で、ウクライナ全土で18日午前6時から午後10時の間、計画停電を実施すると発表した。【11月18日 読売】
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【バイデン大統領 長射程兵器によるロシア領内軍事拠点攻撃容認 北朝鮮参戦で方針転換】
こうしたウクライナにとって厳しい情勢で報じられ、大きな注目を集めているのが、アメリカ・バイデン政権の長射程兵器を使ったロシア領内への攻撃を容認する方針転換です。

ウクライナを支援するバイデン政権としては、トランプ新政権への引継ぎまでに極力ウクライナを有利な立場にしたいこと、北朝鮮の参戦という新たな事態への対応があると見られています。

****バイデン大統領 長射程兵器露攻撃容認 北朝鮮参戦で方針転換 派兵停止圧力も****
米メディアは17日、ウクライナに米国が供与した長射程兵器を使ったロシア領内への攻撃を、バイデン大統領が容認したと報じた。ロシアのウクライナ侵略に北朝鮮が参戦したことを契機に政策転換した。

早期停戦を主張するトランプ次期大統領の大統領選勝利を受け露軍の攻勢強化も予想され、ウクライナ軍の反撃能力をテコ入れする。北朝鮮に派兵停止を迫る圧力も意識したとみられる。

米紙ニューヨーク・タイムズなどによると、バイデン氏が容認に踏み切ったのは、米国が供与している射程300キロの地対地ミサイル「ATACMS」による露領内の軍事拠点への攻撃。ウクライナのゼレンスキー大統領は同日の声明で「われわれは言葉では攻撃しない。ミサイル自体が語るだろう」と述べ、使用に意欲を示した。

ゼレンスキー氏はATACMSによる対露攻撃を戦勝計画の柱に位置づけ容認を求めてきたが、バイデン氏はロシアの米欧への報復を懸念し拒んできた。しかし、北朝鮮がロシアの侵略を支援するため約1万人の部隊を派兵。一部は、ウクライナが今夏以降占拠を続ける露西部クルスク州に投じられた。

同州が露軍側に奪還され、戦況がウクライナに不利に傾く事態を回避するため、バイデン氏は14日からの南米訪問の直前に決断した。

ウクライナはATACMSで同州内の露軍や北朝鮮軍の集結地点などを直接攻撃するとみられ、米高官は同紙に対し「これ以上派兵すべきでないとのメッセージを北朝鮮に送る」と語った。

ロシアの侵略開始以降、バイデン氏はウクライナが勝利に必要と訴える兵器や能力の提供を迅速に許可しない対応を続けてきたが、北朝鮮参戦とトランプ氏の勝利で環境は一変し、残る任期中に自らの権限で最も効果的な決断に踏み切った形だ。長射程兵器を提供する英仏なども追随するとみられる。【11月18日 産経】
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欧州も同調する動き。

****EU製武器によるロシア領内攻撃、加盟国の合意を期待=ボレル氏****
 欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は18日、ウクライナがEU製の武器をロシア領内への攻撃に使用することについて、EU内で合意することへの期待を示した。

EU外相会議の前に、「ウクライナが矢を止めるだけでなく、射手を撃ち抜くためにも、われわれが提供した武器を使えるようにすべきと何度も訴えてきた」と述べた。

「これが行うべきことだと信じている。再び議論になると思うが、各国が同意することを願っている」と語った。【11月18日 ロイター】
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当然ながらロシアは反発しています。ロシアの反応が核兵器をチラつかせることもなく比較的穏当なのは、まだ政治発表がないせいでしょうか。

****米、ウクライナに長距離攻撃許可なら緊張高まる=ロシア大統領府****
ロシア大統領府のペスコフ報道官は18日、ウクライナが米国製兵器を使用してロシア領内を攻撃することを米政府が許可すれば、緊張が高まり、米国の紛争への関与が深まることになると述べた。

ロイターは17日、関係筋の話として、ウクライナが米国製兵器を使用してロシア領内を攻撃することをバイデン政権が許可したと報じた。

ペスコフ報道官は、退陣するバイデン政権が火に油を注ぎ、ウクライナ紛争をエスカレートさせることを望んでいると述べた。【11月18日 ロイター】
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ペスコフ報道官は「質的に新たな緊張の段階であり、米国の関与が新たな状況にあることを意味する」と語っていますが、“新たな緊張”ということでは、北朝鮮参戦という“新たな緊張”をもたらしたのはロシアの方です。

【トランプ氏周辺は猛反発 一枚岩でもない共和党内部】
アメリカ国内ではトランプ氏周辺は猛批判の様子。

****なぜ今さら長射程ミサイル解禁なのか、ウクライナ戦争をめぐるバイデン最後の賭け****
<ウクライナに米国製兵器でロシア領内を攻撃することを許可したバイデン政権に対して、戦争をエスカレートさせるのかとトランプ支持派がX上で猛烈な批判を展開している>

(中略)バイデン政権の決定はすぐに反発を招き、トランプ支持者の一部がX(旧ツイッター)で、戦争の早期終結という公約のトランプに対し、任期残り2カ月のバイデンがウクライナ戦争をエスカレートさせるようとしていると非難した。

ジョージア州選出の共和党議員のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員は、バイデンをこう非難した。「アメリカ国民は11月5日の大統領選投票日に、外国の戦争に資金を提供したり戦ったりすることを望まないという考えを明らかにした。われわれは自分たちの問題を解決したいのだ。もうたくさんだ。こんなことはやめなければならない」

ベンチャーキャピタリストで政治経済の話題を配信するオールイン・ポッドキャストの共同ホストを務めるデービッド・サックスもXに投稿し、「トランプはウクライナでの戦争を終わらせる権限を勝ち取った。では、バイデンは任期最後の2カ月で何をしようというのか? 大規模な戦争拡大だ。彼の目的はトランプに最悪の状況をもたらすことだ」

ユタ州選出のマイク・リー上院議員(共和党)がXに投稿した「リベラルは戦争が大好き」「戦争は大きな政府を促進する」というコメントに対しては、実業家でトランプ政権に入る予定のイーロン・マスクが「これは真実だ」と返信した。

バイデンの決断についてトランプはまだ声明を出していないが、長男のドナルド・トランプ・ジュニアはXにこう書いている。「軍産複合体は、父が平和を創造し命を救うチャンスを得る前に、確実に第3次世界大戦を起こしたいようだ。何兆ドルもの資金を確保しなければならない。無駄に命が失われる! 愚か者め!」

保守系学生団体ターニングポイントUSAの創設者チャーリー・カークは、Xでこう主張した。「バイデンは第三次世界大戦を起こそうとしている。病的だし、完全に頭がおかしい。アメリカの兵器をロシアの内陸に撃ち込んだりするべきではない!ロシアがアメリカにミサイルを撃ち込むためにミサイルを供与するようなものだ」(後略)【11月18日 Newsweek】
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もっとも、“米共和党で安全保障政策に精通するターナー下院議員は「もっと早くゼレンスキー氏の嘆願に耳を傾けるべきだった」とバイデン氏の対応の遅さを批判した。”【11月18日 時事】ということで、共和党内部も浮くラナイ支援に関しては一枚岩ではないようです。

たしかに、政権最終盤の今になって・・・というのは中途半端な感も。やるなら「もっと早く・・・」という感も。

第1次トランプ政権時も、あと数日で・・・といった段階で、バイデン政権への置き土産のような施策もとられましたが・・・。

もっとも、「ATACMS」によるロシア領内の軍事拠点への攻撃がゲームチェンジャーになりうるかどうかは知りません。繰り返しになりますが、「もう少し早ければ・・・」

【中国企業 ロシア向け軍用ドローン生産】
ロシア支援の側では北朝鮮参戦以外にも。

****中国、ロシア向けドローン生産か EUが指摘と香港紙****
香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは18日までに、欧州連合(EU)が中国新疆ウイグル自治区でロシア軍のための軍用ドローン(無人機)が生産されている決定的な証拠を得たと報じた。複数の外交筋の証言としており、EUは中国に確認を求めている。

中国政府の承認を得たものかどうかは不明。ただ外交筋は中国で政府の許可なしに軍用品や兵器の生産は難しいとみている。

同紙によると、EU当局者の一人は、中国の工場で生産されたドローンがロシアに送られ、ウクライナでの戦争に使われたと語った。

EU当局者は中国当局がどの程度認識しているか確認する必要があるとの考えを示した。【11月18日 共同】
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中国政府は関与を否定するでしょうが、中国みたいな国で、政府の許可なくロシアに軍用ドローンを供与なんて話があったら、そっちがビックリでしょう。

外国メディアへの規制が厳しい新疆ウイグル自治区で・・・というのが、いかにも・・・と言う感も。
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トランプ復権に備えて動き出した世界

2024-11-17 23:04:46 | 国際情勢

(【DIAMOND online】)

【中国企業の東南ジア移転】
アメリカでの「トランプ復活」は、紛争中のウクライナ・パレスチナだけでなく、すでに世界の多くに国々に様々な影響を与え始めています。

経済面で一番注目されているのが対中国関係、具体的にはアメリカに輸入される中国製品に60%を課すとしている件。もちろん、トランプ氏が好む「ディール(取引)」においては、先ず強硬な要求をぶつけて相手の出方を見るという話になりますので、実際にトランプ氏が60%の関税を課すかどうかはわかりません。

わからないけど、わかってからでは遅いということもあって、中国企業には東南アジアへ工場を移転することで「中国製」をクリアしようという動きが加速すると見られています。

****米次期大統領にトランプ氏返り咲き、中国から東南アへの工場移転が加速―海外メディア****
米国の次期大統領にドナルド・トランプ氏の返り咲きが決まったことで中国から東南アジア諸国への工場移転が加速するとみられるとロイター通信が報じた。トランプ氏が中国からの輸入製品に高額の関税を課す可能性があるためで、企業関係者も東南アジアはこの関税政策の恩恵を受ける公算が大きいとみている。

トランプ氏は次期大統領就任後、米国に輸入される中国製品に60%と、1期目の政権時に発動した7.5〜25%よりずっと高い関税を課すと約束している。

ロイター通信はタイの事業用不動産開発大手WHAグループのジャレエポーン・ハルコーンサクル最高経営責任者(CEO)の話として「米大統領選でトランプ陣営の勢いが強まるとともに中国の顧客から問い合わせの電話が殺到した」と報道。2017〜21年のトランプ前政権時代、既に東南アジアへの工場移転は起きていたものの、これからより本格化するだろうという。

ジャレエポーン氏はWHAがタイとベトナムに展開する広さ1万2000ヘクタール強の工業団地を管理運営する部門でセールス要員と中国語ができる人材を拡充しつつあると明かした。

タイの別の事業用不動産大手アマタが運営する工業団地に今年開設された90の工場のうち、およそ3分の2は中国から移転してきた企業だった、と創業者で会長のビクロム・クロマディト氏は話す。

ビクロム氏はトランプ氏の返り咲きは中国にとって「大打撃」で、同社が東南アジア4カ国で運営する広さ150平方キロの工業団地に中国から移転を検討している企業は倍増する可能性があると見込んでいる。

同氏はアマタが今月になってラオスの工業団地建設も開始したと指摘。ラオスは首都ビエンチャンと中国南部を結ぶ高速鉄道が既に開通している。

東南アジアの自動車産業の拠点となっているタイの電気自動車(EV)業界には中国の自動車メーカーからこれまで14億ドル(現レートで約2170億円)の資金が投じられた。

タイのピチャイ商務相は「中国からの多額の投資をわれわれが米国に輸出できるような形にしていきたい、これは実現すると信じている。米国民も中国国民もわれわれを愛しており、われわれはどちら側かを選ぶ必要はない」と記者団に語った。

マレーシアでも企業団体の指導者が半導体セクターに1000億ドルの新規投資を呼び込み、世界的なサプライチェーン(供給網)再編の動きの追い風を受けられると期待を示した。同国製造業連盟を率いるソー・ティアン・ライ氏は「この再編でマレーシアは米国やその他の重要市場向け輸出シェアを拡大する新たなチャンスを得られるだろう」と話した。【11月16日 レコードチャイナ】
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受け皿となる東南アジア各国は、上記記事にもあるように大歓迎といったところですが、移転先の有力候補がベトナム。

もっとも、生産拠点を移すということは早々簡単な話ではなく、サプライチェーンや輸送コストなどの問題もあります。

****トランプ当選で中国の輸出業者こぞって「そうだ、ベトナムに行こう」―中国メディア****
6日に投開票が行われた米国の大統領選でトランプ氏が当選したことで、中国では中小を中心に輸出業者が大きな試練にさらされることになった。トランプ氏が発言してきた関税の大幅引き上げが実施されれば、会社が存亡の危機にさらされるからだ。

一方で、ベトナム行きのツアーや航空券の売れ行きが伸びているという。中国の情報サイトの百度が関連記事を掲載した。

トランプ氏は選挙期間中に、米国に輸入されるすべての商品に10%以上の関税を課し、中でも中国製品には60%の追加関税を適用すると発言した。また、4年以内に中国からの電子製品、鉄鋼、医薬品などの輸入を段階的に停止することも提案した。

多くの中国の貿易業者が、実施されれば生き残りが難しくなると判断し、対策を模索している。典型的な方法がベトナムへの「転進」だ。

米国が2018年に中国製品の関税を引き上げた際には、多くの中国企業がベトナムに生産拠点を移して、ベトナム製品として米国に輸出してきた背景もある。

ベトナムにある中国系企業に22年から駐在している劉勇海氏は、中国国内の友人から「視察に行きたい」という電話を次々に受けるようになった。またSNSのグループには「視察」に言及する書き込みが増えた。冗談と思われるが、「トランプ氏が当選を決めた日には、中国からハノイとホーチミン行きの航空券が売り切れた」とする噂も出現したという。

中国からベトナムへの「視察ツアー」では、現地の工場団地の見学などのほかにも、多くの場合には日程に観光が含まれている場合が多く、「大名旅行」の色合いもある。旅行会社は利益を多く出せるために、このような「視察ツアー」に力を入れている。

しかしベトナムでは中国のように産業チェーンが成立しておらず、鉄やプラスチックなどの素材は中国から輸入せねばならない。また、交通インフラの整備が遅れており、輸送コストも中国より割高だ。そのためベトナムでの生産コストは中国と同等か、場合によっては割高になる。コスト引き下げの要因である人件費も上昇しつつある。

トランプ政権により中国製品に対する輸入関税の引き上げが実施された場合と比べれば、ベトナムへの移転は「比較すればお得」ということになるが、トランプ政権がベトナム製品に対する関税を引き上げない保証はない。そのため、インドネシアあるいはマレーシア、フィリピン、中東地域での生産拠点設立を検討する業者もある。

前出の劉勇海氏の会社は、米国による18年の関税引き上げを機にベトナム工場を設置した。従業員30人で出発したが、現在は300人を雇用するまでに成長した。ただしベトナムでの投資はまだ回収できておらず、米国がベトナム製品への関税引き上げを実施すれば、会社は「存亡の危機」に陥るという。

中国企業にとっては、米国市場を補填する他の市場を開発する方法もある。例えば欧州市場だ。ただし、欧州は全体としては人口7億人の大市場ではあるが50カ国ほどに分かれており、各国の政策や消費者の好みも異なる。またここ数年間は消費者の購入も軟調だ。

東南アジアとアフリカは人口は多いが、人々の購買能力に制約があり、売れる物は多くの場合、低価格商品だ。中東には、戦乱などの恐れもある。

米国は購買能力が極めて強く人々の好みもばらつきが比較的少ない、中国にとっての格好の市場だった。輸出先が小規模市場に分散されれば、多様な製品を生産するために、生産ラインなどもより多く必要になり、それぞれの市場を開拓せねばならず、そのためにはそれぞれの市場での人員が必要になる。このことは、低価格商品を強みとしてきた小規模企業にとっては特に、耐えがたい負担であり、未知への冒険になる。

中国の投資コングロマリットである中国中信集団による単純な推計によると、米国が中国製品に60%の関税を課せば、中国の対米輸出は16%減り、輸出全体は2.3%減る可能性がある。すでに輸出業の廃業を決意した経営者もいるという。【11月10日 レコードチャイナ】
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なんかかんだ言っても、「アメリカ市場」の魅力は大きく、そこらがトランプ新大統領の狙い目ともなります。

“すでに輸出業の廃業を決意した経営者も・・・”云々は早すぎ。おそらく廃業理由は別にあるのでしょう。

中国だけでなく、“米国に輸入されるすべての商品に10%以上の関税を課し”ということですから、当然に日本企業も影響を受け、ひいては世界経済の大きなかく乱要因となりますが、関税によるアメリカ国内での輸入品価格上昇はアメリカ国内消費者が負担することになります。

基本的にトランプ氏は、「世界はアメリカを必要としているが、アメリカは単独でやっていける」と認識しているようですが、本当にそうなのか?

【日中関係では、中国が日本側への歩み寄りも】
国際政治面の「またトラ」の影響は様々。
上記のような強い圧力にさらされることも想定される中国は(もっとも、「ディール」ですから、話がまとまれば、状況は一夜で様変わりします)対日関係において、日本側への歩み寄りも見られるとか。

****“対トランプ氏”意識か 中国が日本に歩み寄り****
石破茂総理大臣は、訪問先のペルーで中国の習近平国家主席と初めて会談しました。

石破総理大臣「日中関係が発展してよかったと両国民が実感できるよう、具体的な成果を双方の努力で積み上げてまいりたい」

習主席「私は皆さまとの意思疎通と協力を強化し、中日関係を正しい軌道に乗せていくことをともに推進していきたい」

習主席はこのように発言し、中国軍の動きが活発化する尖閣諸島や、台湾を巡る情勢についても議論したうえで、安定的な関係を構築することを確認しました。

また、中国での日本人男児襲撃事件を巡り、日本人の安全確保を約束するなど中国側から一定の歩み寄りがみられました。

トランプ次期大統領が掲げる関税の引き上げなどの政策を念頭に、日本と対トランプ政策で足並みをそろえたい思惑もあるとみられています。(「グッド!モーニング」2024年11月17日放送分より)【11月17日 テレ朝news】
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懸案となっていた日本産水産物の輸入再開についても
“石破茂首相は15日午後(日本時間16日午前)、訪問先のペルー・リマで中国の習近平国家主席と約35分間、初めて会談した。東京電力福島第1原発の処理水放出を巡り、日本産水産物の輸入再開に向けた9月の合意を実施することを確認。”【11月16日 時事】

ただ、「約35分間」の会談ですから、すでに話がついていることを確認しただけでしょう。

ビザ免除についても、ようやく動き出すとの情報。

****中国政府“日本人短期滞在ビザ免除”再開検討か****
中国政府が日本人に対する短期滞在ビザの免除について今月中にも再開する方向で検討していることが明らかになりました。

中国国営の旅行会社幹部らによりますと、中国政府がコロナ禍以降、停止している日本人の短期滞在ビザの免除措置について、今月中にも再開する方向で検討していることが当局側から通知されたということです。

日本政府や日本の経済団体は、これまで繰り返し、免除措置を求めてきましたが、中国側は訪日する中国人に対する同様の措置を求めていて、再開のめどが立っていませんでした。

中国では経済の低迷が続く中外国企業による投資の拡大に期待が高まっていますが免除措置の再開が実現すれば日中間のビジネス往来が回復に向かう可能性もあります。【日テレNEWS】
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なお、韓国についてはすでに11月3日に「一方的ビザ免除」していますが、この措置は駐中国韓国大使館も「事前に連絡がなかった」とか。米大統領選挙後への備えと併せて、北朝鮮に警告のメッセージを送る必要もあったとみられるとも。【11月5日 レコードチャイナより】

【連立崩壊・2月総選挙のドイツ ショルツ首相、2年ぶりにプーチン大統領と電話会談】
西側各国は「またトラ」によって、「守って欲しければカネを出せ」といった安全保障に関する見直しも迫られています。

ドイツでは、予算編成を巡る対立から、自由民主党が6日に社会民主党・緑の党との3党による連立政権から離脱し2月に総選挙が行われることになっていますが、トランプ政権が発足すれば更に経済・安全保障・ウクライナ支援で逆風にさらされるとも見られています。

ショルツ首相は当初来年3月の総選挙をよていしていましたが、野党側の「またトラ」に備えて早期に行うべきとの圧力が強く、来年2月実施に早まっています。

****ドイツ総選挙「トランプ復活」の風圧で再度前倒し、2月実施へ 保守野党が優勢****
ドイツでショルツ連立政権の崩壊を受け、前倒し総選挙が来年2月23日に行われる見通しとなった。12日、大統領府が発表した。

来年1月のトランプ次期米政権の発足を視野に、総選挙で政権出直しを急ぐよう圧力が強まった。世論調査では中道右派野党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が首位に立ち、政権交代の公算が大きい。

連立政権は今月6日に予算案をめぐる対立で崩壊した。ショルツ首相は当初、来年3月に前倒し総選挙を行う日程を描いた。だが、CDUのメルツ党首は「国際的な政治状況や悪化する経済状況を考えれば、早く新政権を樹立すべきだ」として、早期実施を要求した。

大統領報道官の発表によると、ショルツ氏の中道左派、社会民主党(SPD)やCDUなどの与野党代表が12月16日、連邦議会で首相の信任投票を行うことで合意した。不信任となった場合、大統領は速やかに連邦議会を解散する構えで、総選挙の2月23日実施が「現実的」だとした。ショルツ政権は連立崩壊で少数内閣となっており、不信任の成立は確実だ。

ドイツではトランプ政権が発足すれば、安全保障や経済で逆風にさらされるとの見方が広がる。連立崩壊による政局混迷は長期化させるべきではないとの声が強く、世論調査では65%が「できるだけ早期に総選挙を実施すべきだ」と答えた。

バイデン米大統領はドイツを「わが国と最も緊密で重要な同盟国」と呼び、ロシアのウクライナ侵略後、欧州安全保障でドイツの役割を重視した。これに対し、トランプ氏については2017年の最初の就任後、「ドイツは防衛費をケチる」とやり玉にあげ、ドイツ駐留米軍の一方的削減を打ち出すなど、米独関係が冷え込んだ記憶が残る。

通商でもトランプ氏が国内産業保護策として、公約通り関税を引き上げれば、貿易大国ドイツには打撃が避けられなくなる。低迷する経済が、さらに冷え込むことになりかねない。

ショルツ政権は21年、SPD、緑の党、経済界に近い自由民主党(FDP)の3党連立で発足した。任期満了に伴う総選挙は来年9月に計画されていた。先週の支持率調査ではCDU・CSUが34%で首位に立ち、移民排斥を掲げる右派「ドイツのための選択肢(AfD)」が18%、SPDが16%と続いた。
ドイツで国会解散の権限は首相ではなく、大統領にある。【11月13日 産経】
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こうした状況で、ショルツ首相としては独自の安全保障対策を遂行していることを国内にアピールする必要に迫られています。そうしたショルツ首相の選択が、ロシア・プーチン大統領との2年ぶりの電話会談でした。

しかし、このプーチン大統領との電話会談は、ロシアの国際的孤立から救うことにつながるとウクライナ・ゼレンスキー大統領が強く反発、「パンドラの箱を開けた」とも。

****プーチン大統領・ドイツ首相、2年ぶり電話会談…ゼレンスキー氏「パンドラの箱開けた」と批判****
ドイツのショルツ首相は15日、ロシアのプーチン大統領と約2年ぶりに電話会談し、ウクライナとの和平交渉に臨むよう強く求めた。両氏は今後も対話を続けることで合意したが、ウクライナは反発している。

独政府によると、ショルツ氏は会談で、ウクライナからの露軍撤退と「真剣な交渉」を要求。ウクライナに対する支援を継続する考えも示した。欧米の「支援疲れ」を否定し、プーチン氏に交渉を促した。

露大統領府によると、プーチン氏はウクライナとの和平合意は「新たな領土の現実に基づくべきだ」と述べ、戦況に応じた交渉が必要との認識を示した。

両氏の電話会談は2022年12月を最後に途絶えていたが、今回はショルツ氏が打診した。背景には、トランプ次期米大統領がウクライナ支援に消極的な姿勢を示していることがある。

ショルツ氏はトランプ氏の大統領選勝利後、「欧州の安全保障のためにドイツが責任を果たさなければならない」と訴えてきた。来年2月の独連邦議会選挙で政権交代の可能性も浮上する中、和平への取り組みが不十分との批判も出ていた。

一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は15日、ショルツ氏主導の電話会談について、プーチン氏を孤立化させる取り組みを妨げるもので「パンドラの箱」を開けたと批判した。ゼレンスキー氏は一部領土を占領されたまま、和平交渉が進むことを警戒しているとみられる。【11月16日 読売】
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政治的にも、経済的にも、各国がトランプ氏復権に備えた動きに走り出しています。
今回取り上げたのはその一例ですが、政治・経済に限らず、例えば温暖化対策などでも、報じられるトランプ人事を見ると、世界がここ数年積み上げてきた動きの歯車が逆転しそうな感じも。

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スリランカ  大統領与党地滑り的勝利 ただ、IMFと国民期待の板挟み状況と言う難題は変わらず

2024-11-16 23:09:05 | 南アジア(インド)

(就任後に仏僧たちの祝福を受けるディサナヤカ大統領(9月23日、コロンボ)【9月23日 BBC】)

【大統領を国外脱出に追いやった2022年の経済危機】
インド洋の島国スリランカで経済危機が深刻化して、大規模なデモが起きる中、当時の大統領ラジャパクサ氏が国外に脱出するという政変が起きたのが2022年7月のことでした。

****スリランカで経済危機 なぜ大統領が国外脱出?いったい何が?****
(中略)
いま何が起きているの?
スリランカでは経済危機が深刻化し、ことし(2022年)3月以降、政権の退陣を求めるデモが繰り返し起きていました。

そして、7月9日には大規模な抗議デモが広がり、最大都市コロンボではデモ隊の一部がゴタバヤ・ラジャパクサ大統領の公邸を占拠する事態に発展。公邸に入った人たちがプールで泳いだり、ジムでトレーニングをしたり、ベッドに寝転がったりする様子が世界中に配信され、衝撃を与えました。

事前に公邸を出ていた大統領は13日未明に軍用機で家族とともにモルディブに脱出。その後、シンガポールに向かい、議長に辞表を提出していましたが、15日、記者会見した議長は辞表を正式に受理したと発表しました。

なぜ経済危機が起きたの?
スリランカはインフラ整備を進めるため借金を繰り返し、対外債務の残高は2021年末の時点で507億ドル(日本円でおよそ7兆円)に膨らんでいます。新型コロナウイルスの影響による観光客の激減なども重なり、深刻な外貨不足に陥りました。

また、ロシアによるウクライナ侵攻で原油価格が高騰する中、外貨不足で輸入が滞り、ガソリンなどの燃料費も高騰。食品や医薬品などの生活必需品の輸入も滞るようになっています。

こうした経済危機の根本的な原因は財政運営や農業政策の失敗、それに汚職にあるとしてラジャパクサ政権に対する不満が高まっていました。

ラジャパクサ政権、何が問題だったの?
国民の間ではラジャパクサ一族が権力を独占しているという批判が出ていました。

ゴタバヤ・ラジャパクサ氏は2019年の選挙で勝利し大統領に就任しましたが、2015年まで2期10年にわたって大統領を務めた兄のマヒンダ・ラジャパクサ氏の元で国防次官を務めていました。兄弟で合わせて10年以上大統領として実権を握り、首相や財務相に親族をあてるなど一族支配を強めてきました。

また、ラジャパクサ政権は兄弟ともに中国に近いとされ、中国企業などによる大規模な開発事業で国の借金を増やす一方、私腹を肥やしてきたという批判にもさらされています。

2017年には中国からの融資を受けて南部ハンバントタに建設した港の運営権がローンの返済が滞ったことを理由に99年間にわたって中国側に譲渡され、いわゆる「債務のわな」の典型例といわれています。(後略) 【2022年7月14日 NHK】
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【IMF支援もあって、ウィクラマシンハ前大統領のもとで一定に危機は緩和したものの、市民生活の苦しさは続く】
この政治・経済混乱を一定に(あくまでも“一定に”ですが)鎮め、再建への道筋をつけていたのがウィクラマシンハ前大統領。

IMFからの支援を受けて、債権国との債務整理を行い、外貨不足も緩和、物価上昇などの経済状況もひと頃に比べたら落ち着きをみせてきていました。

しかし、物価上昇が落ち着いてきたはいっても、一般国民にとっては依然高い水準で、生活困窮は続いていましたが、IMFとの合意で財政再建が優先し、市民生活支援は後回しにされた感も。

こうした2022年の混乱がまだ尾を引き、市民生活が困窮するなかで行われたのが今年9月の大統領選挙でした。

****三つどもえのスリランカ大統領選 財政破綻で前政権崩壊から初の選挙****
スリランカで(9月)21日、大統領選(任期5年)が実施される。2年前に国家財政が破綻して前政権が崩壊してから初の直接選挙で、ウィクラマシンハ大統領の経済再建策に対する評価が争点となっている。

スリランカ国内の経済状況や大統領選の注目ポイントについて、日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の荒井悦代・南アジア研究グループ長に聞いた。

 ――スリランカは2022年4月、対外債務不履行(デフォルト)を表明しました。経済危機以降、政治・経済状況はどう変化しましたか。
 ◆2年前、深刻な経済危機によって当時のラジャパクサ大統領が国外逃亡し、議会で選ばれたウィクラマシンハ氏が残りの任期を引き継ぐ形となりました。誰も引き受けたがらない大統領職に就き、国際通貨基金(IMF)からの支援を取り付け、緊縮財政路線を進めるなどしました。

 その結果、極度に減少した外貨準備高が回復するなど、さまざまな経済指標で改善がみられ、うまく経済を立て直しているように見えます。

 ――現政権に対する国民の評価はどうですか。
 ◆国民の人気は高いとは言えません。2年前よりインフレ(物価上昇)の状況が改善したとはいえ、燃料費やガス、水道代などは依然として高いままで、国民は不満を募らせています。

 ウィクラマシンハ氏自身、首相を6回務めた昔ながらのエリート政治家であり「民衆の気持ちを分かっていない」との声が上がっています。これまで、与党であるラジャパクサ一族の政党と連携してきたこともあり、国民は従来の古い政治体質に嫌気がさしているとの見方もあります。

 ――大統領選の争点は。
 ◆政権が進める緊縮財政路線に対する評価や今後の経済運営の進め方が焦点になるとみられます。
 経済に関する論点の一つは、外貨をどう獲得していくかです。お茶や衣料品は有名ですが、1970年代後半の経済自由化以降、大きなインパクトのある輸出産業が成長しないまま現在に至っています。

 確固たる産業がない中、スリランカ政府は無計画で債務に依存し、新型コロナウイルスによる打撃や経済失策なども絡んで22年の経済危機に結びついたと指摘されています。

 今回の大統領選では、数十年続いてきたスリランカの経済の弱点を克服できる可能性のある候補を選ぶという意味でも注目されています。

 もう一つは、長年引きずってきた汚職問題があります。スリランカでは「国の屋台骨を揺るがす」と言われるほど汚職が深刻で、問題の解決が強く望まれています。(中略)

 ――選挙の結果は外交にどう影響しますか。
 ◆インド洋のシーレーン(海上交通路)の要衝に位置するスリランカを巡って、これまでにインドと中国が影響力を争ってきました。
 南アジアでは政権次第で「親中」「親印」の見方をされますが、財政再建の途上にあるスリランカは双方の国々と協調していく必要があり、外交政策がどちらかに大きく傾くことはないと考えます。【9月20日 毎日】
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結果、緊縮財政路線や汚職のまん延を批判、クリーンなイメージを打ち出して支持を広げた左派野党・人民解放戦線(JVP)のディサナヤカ党首が勝利しました。現職ウィクラマシンハ前大統領は大きく離され3位で落選。

JVP(人民解放戦線)は、1970年代と80年代に二つの不成功だったが血生臭い蜂起を主導した革命的なマルクス・レーニン主義の政党で、その党首であるディサナヤカ大統領の紹介にはマルクス主義者だったという記述がなされますが、JVPは階級闘争と私有財産拒否を否認して、その起源にあるマルクス主義を希薄化していますし、ディサナヤカ大統領自身も「革命運動」とは距離を置いています。

【議会に3議席しか持たない左派・一匹狼のディサナヤカ氏が国民不満の受け皿となって大統領選挙勝利】
ディサナヤカ大統領の問題は、そうしたマルクス主義者の経歴ではなくて、JVPが議会に3議席しか占めていないという絶対的少数与党政権にあること、そして現実的な政策遂行能力があるのかという点だとも指摘されていました。

****スリランカ新大統領は異色な左派の一匹狼****
<マルクス主義者の過去は捨て去ったが、行く手には3つの障害が立ちはだかる>
9月21日のスリランカ大統領選で左派のアヌラ・クマラ・ディサナヤカが勝利したことは、政治の刷新を願う国民に大きな希望をもたらした。

ディサナヤカは「王朝政治」的な腐敗からの脱却を公約し、有力な政治家一族のいずれとも関係がない。2022年、当時のゴタバヤ・ラジャパクサ大統領は深刻な経済危機から国民の激しい抗議デモに遭い、国外脱出後に辞任したが、ディサナヤカはこの反政府行動にも参加している。

腐敗一掃を目指す上で、新大統領は国民の支持を頼りにできる。だが、行く手には3つの勢力が立ちはだかる。野党勢力、経済界、少数民族だ。

ディサナヤカは実は複雑な人物だ。メディアではマルクス主義者と呼ばれ、彼が率いる人民解放戦線(JVP)は1970〜80年代に反政府暴動を起こしている。

だが、ディサナヤカは革命家ではない。既にその過去を捨て去り、かつてJVPが異を唱えた体制内に身を置いている。現在55歳の彼は20年以上にわたって国会議員であり、短期間だが閣僚も務めた。

国会での議席は3議席
それでも、ディサナヤカはこの国の政治家としては異色だ。(中略)
この中で反汚職を掲げれば、ディサナヤカは必然的に一匹狼になる。しかもJVPは国会で3議席しか占めていない。

国会で過半数の議席を握るのは(国外脱出した元大統領の)ラジャパクサ一族が率いる政党で、225議席中145議席を占める。ほかに(選挙で2位になった)プレマダーサの野党が54議席を押さえている。

過去に超党派の妥協に応じたことがないディサナヤカは、法案審議で野党から支持されない恐れがある。9月24日、彼は議会を解散し、11月に総選挙を実施すると発表。選挙後に与党の影響力は強まるかもしれないが、それでも野党の妨害はなくならないだろう。

ディサナヤカは、マルクス主義者の過去に神経をとがらせる経済界との関係を築くのも難しいかもしれない。経済政策に関する現在の立場も近年の大統領とは違っていることを、経済界は懸念する。

経済界がもう1つ心配するのは、IMFの支援条件を再交渉するというディサナヤカの公約だ。目的は貧困層の負担を軽くすることだが、国にとって重要な国際機関との間で緊張が高まる恐れがある。

新大統領は少数民族、特に最大の集団であるタミル人の支持も必要としている。しかし長年の内戦の中で、JVPが政府による残虐なタミル人弾圧を無条件で支持したことを多くの人は忘れていない。

彼にとってベストの選択肢は最もシンプルなものでもある。否定的な見方をする相手と向き合うことだ。

就任演説では結束を呼びかけた。党派の垣根を越えれば、法案通過の可能性は高まる。経済界や外国人投資家の懸念に耳を傾けるのもいいだろう。少数民族の代表と頻繁に接触すれば、安心感はさらに増す。

対立する勢力との交渉は、ディサナヤカ自身の利益になるばかりではない。経済の足元が不安定ななか、結束への努力は国益にかなうだろう。【9月30日 Newsweek】
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【大統領選挙勝利の勢いで、議会選挙も地滑り的圧勝 議会に支持基盤は得たものの、IMFと国民期待の板挟みという難題は変わらず】
この9月~10月の大統領選挙後の予測では、“彼は議会を解散し、11月に総選挙を実施すると発表。選挙後に与党の影響力は強まるかもしれないが、それでも野党の妨害はなくならないだろう。”【前出 Newsweek】 “JVPを含む彼の左派グループは議会の225議席のうち3議席を持つに過ぎない。彼は議会を解散し、11月に選挙が予定されているが、過半数を勝ち取るとは思われない。”【後出 WEDGE】と、議会における支持基盤の弱さは議会選挙でも解消去れず、今後のハードルとなると指摘されていました。

しかし、11月14日の議会選の結果はそうした予測を超越し、与党JVPは僅か3議席から3分の2を越える159議席へと、地滑り的勝利を収めました。

****スリランカ議会選、与党が159議席獲得し圧勝 大勢判明****
インド洋の島国スリランカで14日に議会選(1院制、225議席)があり、15日に大勢が判明した。ディサナヤカ大統領が率いる左派連合・人民の力(NPP)が、議会の3分の2以上となる159議席を獲得して圧勝した。ロイター通信などが伝えた。

ディサナヤカ氏は9月の大統領選で初当選したものの、NPPは議会で3議席にとどまっていた。与党の勢力急拡大により、政権は目標とする貧困対策や汚職撲滅を推進する構えだ。

スリランカでは、新型コロナウイルス禍の影響で観光業が低迷したことなどから経済危機が深刻化し、2022年4月には対外債務のデフォルト(債務不履行)状態に陥った。経済失政を非難する反政府デモが盛り上がり、当時のラジャパクサ大統領は22年7月に国外逃亡して辞任した。

後継となったウィクラマシンハ前大統領は、国際通貨基金(IMF)の支援を受けるため、電気料金値上げなどの緊縮政策を進めた。ディサナヤカ氏は貧しい国民に過剰な負担を強いているとして見直しを主張し、初当選を果たした。【11月15日 毎日】
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これで議会における支持基盤は獲得しましたが、ディサナヤカ大統領が直面する課題は、以前から指摘されているところと変わりません。

****〈スリランカで起きた番狂わせ〉経済困窮立て直しで転換図るも、新大統領が心配な理由****
Economist誌9月28日号の社説が、9月23日にスリランカの大統領に就任したディサナヤケのマルクス主義のルーツは重大視する必要はないが、問題は、庶民の経済困難救済に必要とされる国際通貨基金(IMF)との支援合意の見直しなど、公約を実現する彼の能力にある、と指摘している。要旨は次の通り。(中略)

今年の選挙戦で、ディサナヤケは、宥和的な態度を示し、国の結束を強調し、市場経済に対する支持を表明した。22年に当時の大統領ゴタバヤ・ラジャパクサが大衆の抗議運動で追放されて以来、JVPを中核とする連合は、経済危機とその解決を目指す緊縮政策によって生活水準を破壊された中産階級の広い支持を獲得した。

ディサナヤケを心配する主たる理由は、彼が(マルクス主義)狂信者だからではなく、彼には政府の経験がほとんどない点である。彼はどうにかして彼を選んだ人々の不興を買うことなく経済を安定的に維持するための痛みを伴う改革を継続しなければならない。それはほとんど不可能な任務である。

ラジャパクサの腐敗し常軌を逸した政権の下で経済は崩壊した。スリランカは22年4月に債務不履行に陥った。3カ月後、大衆がラジャパクサの官邸を襲い、彼は国外に逃亡した。

後継のウィクラマシンハはインフレを抑え込み、通貨を安定させ、IMFおよびインドと中国を含む債権国との間で債務再編の合意を達成した。しかし、彼は一般市民の経済の苦痛を癒すことに失敗し、汚職を抑制し反体制派の権利を守ることはほとんど何もしなかった。

ディサナヤケは腐敗の根絶とIMFとの合意の再交渉を約束して選挙戦を戦った。しかし、IMFとの合意を違えれば、スリランカは経済危機に再び転落しかねない。

従って、彼は合意を守る可能性の方が大きい。しかし、それでは彼は約束通り税を下げ福祉支出を増やす余地はほとんどないことになろう。債務返済の額は来年の予算の半分を食うと予想され、経済成長を促進するためのディサナヤケのアイディアははっきりしないままである。

経済的苦痛を緩和することに失敗すれば、ディサナヤケの支持者を怒らせる。(後略)【10月14日 WEDGE】
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“彼はIMFとの30億ドルの支援合意を維持するとしつつも、2年にわたる緊縮財政による一般市民の経済的苦境を救済すべく、IMF合意にある条件の緩和を望んでいる。或る程度の手直しは出来るのかも知れないが、彼の支持者が満足出来るかどうか、要はIMFにどこまで譲る用意があるかであろう。”【前出 WEDGE】

IMF支援で経済危機をなんとか持ちこたえたものの、IMFの要求する財政再建と国民が求める生活苦の緩和が両立せず、政権が苦境に立つ・・・というのは、これまでも各国でありました。

これまで政界の一匹狼だったスリランカ・ディサナヤケ大統領がどのような手腕を発揮するのか・・・・。
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南米ペルーで開催のAPEC 中国主導の大型深海港「チャンカイ港」 中南米は今後「中国の裏庭」へ

2024-11-15 22:30:39 | 人権 児童

(14日、チャンカイ港の開港式にオンラインで出席した習近平主席とボルアルテ・ペルー大統領。【11月15日 新華網】)

【アメリカが今後保護貿易主義に走るなかで開催される自由貿易を掲げるAPEC】
アメリカで「タリフマン(関税男)」を自任するトランプ氏が復権し、アメリカが保護貿易に傾斜する予測がある状況で、自由で開かれた貿易を掲げるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の会議が南米ペルーで開催されています。 首脳会議に先だって行われていた閣僚会議は14日に閉幕しました。

****APEC、自由貿易の重要性確認=閣僚会議閉幕、声明で調整続く―保護主義対抗、意見隔たりも****
日本や米国、中国など21カ国・地域が参加するアジア太平洋経済協力会議(APEC)の閣僚会議は14日(日本時間15日午前)、閉幕した。

関税の大幅な引き上げを主張するトランプ次期米大統領の返り咲きで保護主義拡大への警戒感が強まる中、自由貿易の重要性を確認した。

ただ、閣僚共同声明を巡っては意見に隔たりがあり、事務レベルで調整を続ける。
日本からは武藤容治経済産業相と岩屋毅外相が出席した。

会議では、域内経済の成長に向けた貿易・投資などを議論。岩屋氏は会議終了を前に記者団に「自由で公正な貿易環境、投資環境を促進し、持続的成長を実現すべく連携していくことを確認できた」と話した。
武藤氏は閉幕後の記者会見で「世界貿易機関(WTO)の機能強化や経済連携協定(EPA)の推進、拡大を通じ、ルールに基づく自由貿易体制を強化する意見が多かった」と述べた。

声明のとりまとめが難航している理由へのコメントは避けた一方、「新しい世界に入ろうとしている中、国際協調は非常に大事な観点だ」と強調した。【11月15日 時事】
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日米と中国が、更には新興国・途上国が参加する会議ですので、“意見の隔たり”は当然にあるでしょう。

【最も大きな存在感を見せるのは中国・習近平国家主席】
首脳会議にはバイデン大統領も出席し、習近平国家主席と最後の会談も予定されていますが、アメリカが政権交代の最中にあるということもあって、最も大きな存在感を見せるのは中国・習近平国家主席のようです。

****習氏、南米歴訪開始 中国出資のペルー大型港式典に出席****
中国の習近平国家主席が14日、1週間にわたる南米歴訪を開始した。初日は中国が13億ドルを出資したペルーの大型深海港「チャンカイ港」の開港式典にオンラインで参加。南米で通商や影響力の拡大を目指す。

習氏はペルーの首都リマで開幕するアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席する予定。来週にはブラジルのリオデジャネイロで開く20カ国・地域(G20)首脳会議に参加するほか、ブラジルへの公式訪問も行う。

習氏はペルーのボルアルテ大統領とともに、リマの北方80キロに位置し太平洋に面するチャンカイ港の開港式典にオンラインで参加。既存の自由貿易協定(FTA)を拡充する文書にも調印した。【11月15日 ロイター】
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【中国主導の巨大港湾「チャンカイ港」 「南米のハブ港」の機能が期待される一方で、アメリカは軍事利用を警戒】
「アメリカの裏庭」南米のペルーにおける大型深海港「チャンカイ港」は近年の南米における中国の存在強化を示すものでもあります。

「一帯一路」に沿った中国資本主導で建設された巨大港湾「チャンカイ港」は「南米のハブ港」の機能が期待される一方で、アメリカは軍事利用を警戒しています。

****ペルーに中国主導で巨大港湾 南米に「一帯一路」―米、軍事利用を警戒****
ペルー中部の太平洋岸チャンカイに中国資本主導で建設された巨大港湾が完成し、14日に開港式典が開かれた。

南米とアジアとの海上輸送が直接結ばれ、中国の巨大経済圏「一帯一路」構想が進展。中南米地域を勢力圏と見なす米国は軍事利用を警戒しており、米中の覇権争いが激しさを増しそうだ。

港湾は首都リマの北約80キロにある。中国海運最大手の中国遠洋海運集団が権益の6割を保有。ペルーだけでなく、中国との貿易関係を強める周辺国の利用も想定され、「南米のハブ港」の機能が期待されている。

式典は、ペルーで開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に先立ち行われた。リマからリモートで出席した中国の習近平国家主席は「(港が)ペルーや中南米、カリブ海諸国の繁栄と幸福への道」になると期待を表明。同席したペルーのボルアルテ大統領も「ペルーにとって歴史的な瞬間だ。世界クラスの物流、技術、産業の中心として国が強化される」と訴えた。

総事業費は約34億ドル(約5300億円)。今回は第1段階として13億ドルを投じ、約140ヘクタールの敷地に埠頭(ふとう)などを整備した。港の水深は17.8メートルと世界最大級のコンテナ船も寄港が可能だ。ペルー太平洋岸とアジアを結ぶ海上輸送は平均25日となり、従前に比べ約10日間短縮される。

ペルーや隣国チリは銅の主要産出国。周辺ではリチウムも埋蔵量が豊富で、電気自動車(EV)に欠かせないこうした戦略物資の円滑な輸入を中国は狙う。

一方、中南米を担当する米南方軍のリチャードソン前司令官は7日の退任前に一部メディアに、中国海軍も港を利用する恐れがあると警告。「中南米だけでなく他の場所でも繰り広げられた戦略だ」と述べ、米国や同盟国に対して中国の影響力拡大に対応するよう促した。【11月15日 時事】
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【強まる中国の影響力】
中国は今回APEC開催にあったってもペルーを支援。“中国の肩入れぶり”を示すものとも。

****ペルーに10億円相当寄贈 中国、APEC警備で****
ペルー政府は24日、11月半ばに首都リマで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の警備のためとして、中国政府から車両110台など700万ドル(約10億円)相当の物品が寄贈されたと発表した。

中国は警察の安全装備を購入する費用として別途、100万ドルを拠出。近年ペルーで存在感を増す中国の肩入れぶりが浮き彫りとなった。

寄贈されたのはバイクやバスなどの車両のほか、スキャナーや情報機器。ボルアルテ大統領は大統領府で行われた式典で「ペルーと中国の良好な2国間関係の明確な例だ」と指摘した上で「APECの成功が保証される」と強調した。【10月25日 時事】
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一方で中国は台湾関連でペルーに圧力も。上記のような中国との緊密な関係がありますので、ペルーとしては断る術もないようです。

****ペルーの首都リマの空港、中国の圧力で台湾の半導体広告を撤去 APEC首脳会議直前****
アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が15日に始まる南米ペルーの首都リマの空港で、台湾の半導体をアピールする看板広告が中国の圧力で撤去されていたことが分かった。台湾の中央通信社が同日伝えた。

同通信社が台湾当局者の話として報じたところでは、10月中旬、空港の税関手続き用の通路に電照看板が設置された。「TAIWAN」の大きな文字に半導体チップのデザインをあしらい、「世界の繁栄のために台湾と協力しよう」と英語で呼び掛ける内容だった。

ところが広告の掲出から約1週間後、中国側の圧力を受けて現地の広告会社が撤去を余儀なくされた。台湾の広告はリマ市内の大通りにも6カ所設置されているが、これらについては「(中国の)圧力は成功していない」という。

頼清徳政権はAPEC首脳会議に台湾代表として、自動車メーカーの元経営者で元行政院副院長(副首相に相当)の林信義氏を派遣した。頼政権は当初、副総統や行政院長(首相)を歴任した陳建仁氏の派遣を希望していたが、ホスト国のペルーが受け入れなかった。

リマ近郊に完成したチャンカイ港には、中国国有海運大手の中国遠洋海運集団(COSCO)が60%出資しており、「ペルーは中国の意向を尊重せざるを得ない」(台北の外交筋)事情がある。【11月15日 産経】
********************

カネも出すけど、しっかり要求も・・・・という中国の“強面(こわもて)”の一面です。

【「アメリカの裏庭」は今後は「中国の裏庭」と化す予測も】
従来南米は「アメリカの裏庭」と呼ばれてきましたが、ペルーに限らず、近年は中国の影響力が強まっています。
欧米は中国との関係を警戒しデリスキング(リスク軽減)を志向していますが、中南米諸国にはそうしたものはあまりなく、中国との相互依存関係が強まっており、将来的には「中国の裏庭」と化す可能性も。

****中南米における「中国の裏庭化」論の実態と 今後の展望 ****
1.中南米における「中国の裏庭化」論とは? 

1-1.中国の中南米進出に対する欧米諸国の焦燥感
2000年代以降、中国は経済関係の緊密化を軸として中南米諸国との関係強化を進めてきた。コロナ禍ではワクチン外交を通じて社会面においてもそのプレゼンスを発揮した。2017年以来、中米5カ国が台湾と断交して中国との外交関係を樹立している。

こうした状況に対する焦りを背景とし、欧米諸国のメディアやシンクタンクは、かつて「米国の裏庭」と呼ばれた中南米が「中国の裏庭」に変容しつつあるとの脅威論を唱えるようになった。

ここで注目すべきは、この中国脅威論が中南米側から発生したのではないという点である。

中南米は1990年代まで米国の圧倒的な覇権に特徴づけられていたが、2001年の同時多発テロ以来、中南米に対する米国の影響力(とくに開発援助)が急速に衰えたことにより、中南米はかならずしも米国の覇権下にあるとはいえない状況が生じた。

こうした中、ジョージ・W・ブッシュ政権下の独善的な外交姿勢に対する反発も相まって、中南米各国で反米左派政権が台頭した。

この隙間を埋めるように、貿易・融資・投資といった経済ツールを駆使して中南米への進出を始めたのが中国である。経済関係の拡大を通じた中国のプレゼンスの高まりは、中南米諸国の米国離れを加速させた。

こうした米国の影響力と関与の低下や反米左派政権の台頭といった要素は、中国の中南米進出にとって有利な条件を生み出していた。 
(中略)
3.今後の展望
中南米は今後も中国にとって資源・食糧の有力な供給元であり続ける。地政学的観点からいえば、欧米諸国が中国デリスキングを進めるほど、中国は一次産品を獲得する上でのリスクを回避するべく、グロー バル・サウスの一翼を担う中南米諸国への接近を強化する動機が高まる状況にある。

中南米側からすれば、経済成長にとって重要な輸出と対内直接投資の増加をもたらす中国との間で良好な経済関係を継続させていくことが合理的選択となる。

つまり、中南米側から中国切り離しへ向かう動向はほぼ皆無に等しいことから、諸外国が中南米へのアプローチを再強化させない限り、中国との相互依存は進む一方となる。

こうした中、EUは中国のBRIに対抗するインフラ投資計画「グローバル・ゲートウェイ」の一環として、中南米向けに450億ユーロの投資を予定している。この中にはリチウム開発案件も含まれていると報じられている。 

近年、中南米地域に「左傾化の波」が再来しているとの議論について、1990年代後半以降に訪れた第一の左傾化に照らし合わせると、中南米左派政権と中国がおもに政治外交面で再接近を試みる可能性を否定できない。

ただし、環境・先住民保護の観点から中国との間で摩擦が生じることや、中国側の行動に修正が求められることが見込まれる。

また、今後の対中関係を展望する上では、このような国内政治的な要素に加え、10年以上にわたって中南米各国にビルトインされた対中経済依存のさらなる深化や、米国主導の経済安全保障枠組みである「経済的繁栄のための米州パートナーシップ(APEP)」に対する中南米諸国の関心の低さについても考慮する必要があるだろう。【2023年8月 三井物産戦略研究所 国際情報部北米・中南米室 高橋亮太氏】
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1年以上前の上記記事においても、結局のところ中南米における中国の影響力は今後更に強まる印象ですが、アメリカはトランプ復権で「自国第一主義」が強まりますので、アメリカの影響力が低下する空白を埋めるように中国の影響力が更に強まることが予想されます。
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ロシア  「伝統的価値観への回帰」と一体となった「産めよ殖やせよ」政策 反する思想は禁止

2024-11-14 23:37:35 | ロシア

(【社会実情データ図録】)

【出生率低下・人口減少】
冒頭のロシアの人口動態を見ると、人口増減率は1990年代からマイナス基調にあること、つまり人口減少が続いていることがわかりますが、大きな自然増減率のマイナスを、社会増減率のプラス、つまり移民流入がある程度相殺していることもわかります。

いずれにしても、「強いロシア」を目指すプーチン大統領にとっては人口問題、低い出生率は喫緊の課題となっています。

****プーチン氏も認めるロシアの出生数低下 人口危機の「救世主」は****
ソ連崩壊前後の社会混乱を受け、ロシアでは1980年代後半から出生率低下と死亡率の上昇による人口減が約20年間続いた。90年前後に死亡数が、出生数を逆転して上回るようになったグラフを「ロシアの十字架」とも呼ぶ。

ロシアの人口急減と国力の低下は不可避とみられたが、その影響を緩和したのが2000年ごろからの緩やかな出生率の回復と、旧ソ連圏からの移民や労働者の流入だった。しかし、この二つにも異変が見られ始めている。

「多くの知り合いはモスクワから欧州やドバイ(アラブ首長国連邦の主要都市)に行ってしまった。そこで支払われる現地通貨の為替レートは悪くない。それに比べると(ロシアの通貨)ルーブルのレートは暴落している。私はモスクワのアパートを担保に入れているから、ここに残らざるを得ないのだが」

こう話すイブラリモフさん(45)は中央アジアのキルギス出身。ロシアには推定70万人のキルギス人労働者が滞在し、イブラリモフさんも首都モスクワで25年間もタクシーやバスの運転手として稼いできた。

気持ちが揺れる出稼ぎ労働者
人口約1億4000万人のロシアには、1000万人とも言われるイブラリモフさんのような中央アジア出身の労働者が滞在してきた。

しかし特別軍事作戦の開始に伴い、ルーブルの暴落が止まらない。
そうなると、ロシアで稼いだ金を本国に送ってきた出稼ぎ労働者のモチベーションが下がってしまう。

ロシアの大衆紙「モスコフスキー・コムソモーレツ」は「(出稼ぎ労働者の)3割近くが本国への帰国を考えている」と報じる。

国籍付与で引きつけ図る
すでに特別軍事作戦の開始に伴い、ロシア国内の労働力が流出している上に長年、低賃金の仕事に就いてきた中央アジアからの労働者の多くが出国する場合、労働力不足が加速するのは必至だ。

ロシア政府もただ傍観しているわけではない。中央アジアのラジオ局によると、今年1~3月期には、ロシアとの二重国籍が、約4万5000人のタジキスタン国民に与えられた。また労働問題を担当するフスヌリン露副首相は今年6月、タジキスタンを訪問。ロシアで働くタジキスタン国民の権利を保障することで合意するなど、労働力の確保を急いでいる。

タジキスタンやウズベキスタン、キルギスは合計特殊出生率が3前後ある人口増加国だ。IT技術者など高度な技術や知識を必要とする人材流出への即効性のある対策とは言えないが、それでも中央アジアの労働者をロシアに引きつけておけるかどうかが、ロシア経済にとって死活問題の一つだとも言える。(中略)

出生数は2014年をピークに下り坂
「出生を巡る問題は厳しい状況が続いている。去年の出生数は前年よりも少なかった」。もろもろの政策で強気の発言が多いプーチン露大統領だが、今年8月に出生状況の厳しい現実を認めざるを得なかった。

出生数減少と出生率低下はソ連末期の1980年代後半に始まり、ソ連崩壊後の混乱が続いた90年代末期まで続いた。その後、経済と社会状態の安定を取り戻し始めるとともに出生率と出生数は上向きに転じた。

しかし、2014年の194万人2700人をピークに再び下り坂へと向かう。8年連続で減少し、22年は130万4000人まで減った。この期間で通年の新生児の規模が3分の2となり、合計特殊出生率は13年をピークに、その後の9年間は低下が続いている。

なぜ新生児が減り続けるのか。それは出生数が減り続けた80年代後半から90年代末期までに生まれた女性が現在、出産適齢期を迎えていることから、そもそも母親候補となる女性自体が少ないためだ。ロシアの労働省はこうした見解を示しており、多くの専門家も同調している。

長期的に減っている出生数に対し、ロシア政府が取ってきたのは出産した母親に財政支援を与える「出産資本」という制度だった。07年に始め、当初は2人目の子どもを産んだ母親がいる家庭に対する支援としてきたが、20年からは1人目の子どもについても申請できるように変更した。ロシア政府は申請できる対象を増やし、女性に出産を奨励したが、まだその成果は表れていない。

「軍事作戦」出生数にも悪影響か
追い打ちをかけているのが、特別軍事作戦の開始に伴って起きている諸問題だといえる。本来であれば出生数が回復してきた00年前後生まれの男女が成人になっていく時期だが、この世代の多くの男性が前線に送られたり、自主的に出国したりしていることは、今後の出生数に影響を及ぼす可能性がある。

「今後2世代か3世代の間に何かが変わらない限り、100年近くもこの傾向は続くかもしれない」。人口問題の専門家アレクセイ・ラクシャ氏はこう警告している。【2023年10月10日 毎日】
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2022年のロシアの合計特殊出生率(以下、出生率)は、2000年以降回復傾向にありましたが、2010年代半ばから減少に転じて、2022年は1.42。(日本は1.26)

【「ロシア的価値観・家族観への回帰」と一体となった「産めよ殖やせよ」政策】
ロシアの人口対策、出産奨励政策は今に始まった話ではなく、10年前の下記記事にあるように2010年代からのものですが、その出産奨励は「ロシア的価値観・家族観への回帰」と密接に絡んでいます。

****「一昨日」に回帰するロシア――ロシアは女性にとって住みやすいか?****
ロシアの今日か一昨日か
2013年12月9日、プーチン大統領はRIAノーボスチ通信とラジオ局「ロシアの声」を廃止し、新たに国際情報局「ロシアの今日」を開設するロシア連邦大統領令に署名した。

これに対して、『モスコフスキー・コムソモーレッツ』紙のミンキン記者は、大統領への手紙と題するコラムの中で、この新しい情報局を「ロシアの今日」ではなく「ロシアの一昨日」と名付けるべきではないかと揶揄している。

これはプーチン政権の上からの締め付け政策への批判であり、現在のロシアが過去へ、つまりソ連時代に回帰していることを意味している。そして、情報局だけの問題ではなく、ロシア社会全体にも「一昨日」の雰囲気が漂っている。

それは筆者が関心をもっているロシアのジェンダー状況にも見受けられる。ただ、ジェンダー状況に関しては、ソ連時代よりもさらに過去の帝政ロシア時代への回帰とも思えるような状況にある。(中略)

ロシアのジェンダー今昔
革命前の帝政ロシアでは、スラブ地域、ムスリム地域、コーカサスなどといった民族的・地域的差異はあるものの、女性の置かれていた状況は概して厳しいものであった。女性は夫だけではなく、舅、姑、夫の兄弟、また兄の妻などに従属しなければならない存在であった。

しかしロシア革命によって、それまでの家父長的な家族制度を壊すことが試みられ、女性解放運動も大きく前進する。新生ソビエト政府は女性を組織し、教育活動を大規模に展開していった。(中略)

現在、多くの女性たちは結婚後、出産後も、お金のため、自己実現等の理由で仕事を続けている。おそらく今後も女性の主たる役割が専業主婦であるシナリオはロシアにはないと思われる。それではロシアでは家庭内の性別役割分担はどうなっているのであろうか。

ロシアでは、社会主義時代には「男性=仕事、女性=仕事=家庭」という図式が主流であった。男性が家事を分担するという習慣はあまりなく、強いて言うならば昔も今も家の修理やゴミ捨ては、男性の仕事である。

他方、多くの女性は働きながら、家事、育児、介護もこなしてきた。そして何より、男性はもとより女性自身が家事、育児、介護と仕事の何重苦をあまり意識していないのである。むしろ、仕事も家庭もこなしてこそ素晴らしい女性であるといった価値観がある。したがって女性の家事労働と仕事との負担に関しては、あまり議論になることもなかった。(中略)つまりロシア女性にとっては、働く良妻賢母が一般的なのである。

「産めよ殖やせよ」国家政策
このような良妻賢母志向の女性たちに昨今国家の「産めよ殖やせよ」という人口動態政策が押し寄せている。
ロシアはいま、人口が激減している。2012年の人口は、1億4144万人だが、2050年までの長期予想では、1億783万人にまで減ると予想されている。(中略)

そして、ロシアはただ人口が減るだけではなく、ロシアからロシア人がいなくなるかもしれないというほどの危機的な状況にあるという。したがって、女性にできるだけたくさん子どもを産んでもらわなければならないのである。(中略)この「産めよ殖やせよ」の動きを政府が進めている。

プーチンの人口動態政策
人口問題については、プーチンが2005年の演説の中で、1990年代には手が回らなかった問題であるが差し迫った問題として触れている。

そして、2006年5月10日の年次教書の中では、ロシアが抱えている人口問題を解決するには、死亡率の減少、効果的な移民政策の実施、出生率の上昇が不可欠であると述べ、人口問題に真剣に取り組む姿勢を見せた。前述した一連の「産めよ殖やせよ」の人口動態政策はここに始まることになったのである。

人口動態の危機を脱するため、国をあげての人口問題への取り組みとして、2007年に「ロシア連邦2025年までの人口動態政策」が大統領令で出された。2008年を家族年に制定し、子どもをもつ家庭への支援と家族のイメージアップキャンペーンをロシア全土で行ったのである。

家族への支援には、出産・育児手当の引き上げ、育児手当の拡大、新たな育児手当の創設、女性が出産後職場に復帰しやすいような環境づくり、孤児養子の問題解決などがあった。育児手当の拡大では、仕事をもたない母親にも2007年から児童手当が支給されることが決定された。

出生率の上昇のために政府が最も力を入れてきたのが、新たな育児手当の創設である。(中略)

以上のような催しが功を奏したのか、現在の出生率は2007年時点に比べて約10パーセントほど改善している。しかし、さらなる策を講ずる必要があるとして、今度は支援だけではなく、圧力とも受けとれるような様々な動きがある。その中心にいるのが、下院の家庭・女性・児童問題委員会委員長であるミズーリナ E.である。(中略)

2013年6月に、ミズリナグループによる「2025年までの家族政策基本理念案」(以後基本理念案)が公表された。これが「ロシア連邦2025年までの人口動態政策」と「子どものための国家戦略2012-2017年」とリンクしている。

この基本理念案では、前述したように財政的支援や家族のイメージアップキャンペーンは行ってきたもののロシアの人口動態は依然として危機的な状況にあるとし、その打開策として、より保守的で懐古的な産めよ殖やせよ政策が提案されている。

正直言ってこの基本理念案を初めて読んだ時、スターリン時代の人口増加政策や日本で1939年に出された産めよ殖やせよで有名な『結婚十訓』を想起させ、いつの時代のものなのかと時代錯誤に驚いた。(中略)

この基本理念案の総則の中では、まず「家族とは血統の存続のためのものである」と定義されている。そしてそれに続いて、「ロシア正教の重要性やロシアの伝統的な家族の価値観を守っていく」ことが強調されているのである。ここまで読んだだけでもこの基本理念案が保守的なものであることが十分感じられると思う。

さらに読み進めると、「ロシアの伝統的な家族の価値観は婚姻である」と書かれている。ここでいう婚姻とは、法律婚あるいはロシアの諸民族の歴史的遺産である宗教的な伝統による婚姻で結ばれた男女の結合である。

そして、「結婚した夫婦は自らの血統を守っていくために、3人以上の子どもを産み育てていくこと」とされている。

基本理念案でいう伝統的なロシアの家族とは、もちろん帝政ロシア時代の家族のことを指している。そして、現在のロシアの家族は政府がこうあるべきだとする伝統的なロシアの家族からは大きく逸脱している。

そのことが現在のロシアの人口問題を生み出している原因であり、伝統的な家族に戻るべきであるというのがこの基本理念案の中身である。

具体的には、拡大家族の推奨、登録婚重視、子沢山の家庭の勧め(3人以上)、中絶の制限、離婚を減らすこと、さらには国家とロシア正教会をはじめとする宗教の個人生活への介入ともとれるような内容が盛り込まれており、これをたたき台に完成版へとつなげていくという。

この基本理念案に関してはすでに多くの批判が多方面から出されているようだ。しかし、この基本理念案を後押しするような提案や意見も次々と出されている。(中略)また、この基本理念案に沿うように既存の制度への改定も行われている。(中略)

以上みてきたように、ロシアの未来を担う次世代を産み育てるためにロシア政府は躍起になっているのであるが、それがうまくいくのかははなはだ疑問である。政府の描く人口動態の理想に女性を当てはめようとしており、女性の幸せや人権が考慮されているとは到底考えられないからである。

その上、家庭内の役割分担は変わらないため女性の負担は増えるばかりではないか。ソ連は労働における男女平等をもたらしたが、家庭内の役割分担については結局あまり前進がなかったことが問題ではないかと思っている。

ロシア政府としても女性に子供を産んでもらいたければ、もっと根っこにある問題にも目を向けてもらいたいと思う。このような「ロシアの一昨日」を感じさせるような状況がロシアのジェンダーにも見受けられ、ロシアは女性にとって住みやすい国になるのかと他人事ながら憂える日々である。【2014.01.08 五十嵐徳子 旧ソ連地域研究】
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【「子ども持たない主義」宣伝禁止】
“伝統的ロシアの家族・価値観”への回帰を目指した「産めよ殖やせよ」政策・・・その流れで出てきたのが下記の「子ども持たない主義」宣伝禁止。

****ロシア下院、出生率向上案可決 「子ども持たない主義」宣伝禁止****
ロシア下院議会は12日、子どもを持たない主義の悪質な宣伝とみなされるものを禁止する法案を全会一致で可決した。低迷する出生率を上げる狙いがある。

上院とプーチン大統領も速やかに承認する見通しで、成立すれば、既にある「非伝統的なライフスタイル」の推進とみなされるコンテンツの禁止や、ウクライナ紛争に関する反対意見のアカウントの禁止などに加えて、表現の自由に対する新たな制限が加わることとなる。(中略)

9月に発表された公式統計では2024年上半期の出生率が四半世紀ぶりの水準に低下。一方、ウクライナとの戦闘激化の中で死亡率は上昇している。

プーチン大統領は、西側諸国との闘いでロシアを「伝統的価値観」の砦と位置づけ、女性に少なくとも3人の子どもを持つことを奨励し、経済面などでのインセンティブを用意している。

米中央情報局(CIA)の「ザ・ワールド・ファクトブック」の推計によると、23年のロシアの出生率は人口1000人当たり約9.22と、下位40カ国に入っている。ドイツの9.02をやや上回るが、中国の9.7や米国の12.21を下回っている。

法案を歓迎する声がある一方で、一部の女性からは懐疑的な見方も示された。ある女性は「子どもは欲しいと思っているがお金がない。それが子どもを持たない理由だ。どこかの誰かが何かを書いたからではない」とし、別の女性は、適切な生活水準を保証することが出生率を反転させるのに役立つと述べた。【11月13日 ロイター】
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なお、伝統的な価値観に基づく修道院生活はチャイルドフリーではないとして除外。「犯罪ではない」と明記し、特別扱いになっています。

ロシア的価値観から外れたチャイルドフリーやLGBTは禁止・弾圧の対象となります。

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価値観から外れる考えは弾圧の対象だ。典型例は性的少数者(LGBTQ)で、プーチン政権は権利を訴えるデモを「伝統的価値を破壊する欧米の思想」と批判。昨年11月の露最高裁判所の判決は、権利を訴える市民運動を「過激派」と認定して禁止した。

露有力紙RBCによると、今年9月から小学校の高学年などを対象に「家族のあるべき姿」を学ぶ科目が新設された。結婚して多くの子供を持つことの価値観を学ぶといい、多子家族を「理想の形」として教え込む狙いがありそうだ。【10月7日 読売】
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【非西欧的・伝統的・ロシア的価値観に反する思想の監視・取締り体制づくり】
ロシアでは西側との対立が深まるのと並行して、非西欧的・伝統的・ロシア的価値観が重視され、それから外れる思想を禁止・取り締まる体制づくりが進んでいます。

****ロシア「伝統的価値観」守るため“思想”監視する権限を警察に与える法律の草案作成****
ロシア政府は「伝統的価値観」を守るためとして、市民の思想や行動を監視する権限を警察に与える法律の草案を作成しました。

ロシア内務省のウェブサイトに7日付けで掲載された大統領令の草案には「伝統的なロシアの精神的・道徳的価値観の保存と強化」のため、警察官に新たな権限が付与されるとされてます。権限について具体的な内容は記されていません。

ロシア政府は7月、伝統的な道徳的価値観を強化する国の行動計画を採択しました。教育や映画などを通じて伝統的な家族の価値観を強化することなどを求めています。

同性愛や子どもを持たない選択は伝統的な価値観に反するとされています。【11月8日 テレ朝news】
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ガザ地区  アメリカのイスラエルへの人道状況改善要請 その不合理な顛末

2024-11-13 23:43:40 | パレスチナ
(パレスチナ・ガザ北部で飢餓が差し迫っていると、国連が支援した調査が指摘している【11月13日 BBC】)

【アメリカ ガザ地区の人道状況を30日以内に改善させるイスラエルに要請 出来ない場合は一部武器支援停止も】
パレスチナ・ガザ地区の惨状は周知のところですが、アメリカがイスラエルに10月13日付けで書簡を送り、イスラエルが30日以内にガザの人道状況を改善させなければ、アメリカは対イスラエル軍事支援の一部を打ち切る可能性があると伝えていたことが10月15日に明らかになりました。

****アメリカ、イスラエルにガザ人道状況の改善要求 「30日以内」に対応なければ軍事支援停止も****
イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続くパレスチナのガザ地区の人道状況をめぐり、アメリカがイスラエルに書簡を送り、同国が30日以内に改善させなければ、アメリカは対イスラエル軍事支援の一部を打ち切る可能性があると伝えていたことが15日、明らかになった。

13日付のこの書簡は、アメリカが同盟国のイスラエルに出した警告文としては最も強力なもの。イスラエルがガザ北部で新たな攻撃を開始し、多数の民間人が死傷していると報じられている中で出された。

書簡にはアメリカがガザの人道状況の悪化に深い懸念を抱いていると書かれている。また、イスラエルが先月ガザ北部と南部の間で、人道的な移動の90%近くを拒否または妨害したとしている。

イスラエルは書簡について検討中だとされる。同国はガザ北部での攻撃はハマス工作員を標的にしたもので、人道支援物資の流入を阻止してはいないとしている。

ガザ境界の検問所を運営するイスラエルの占領地政府活動調整官組織(COGAT)は14日、国連の世界食糧計画(WFP)からの援助物資を積んだトラック30台がエレズ検問所からガザ北部へ入ったと発表した。

国連によると、ガザ北部に食料援助が届けられず、40万人のパレスチナ人の生存に不可欠な物資が底を尽きつつあった。こうした状況は2週間続いたが、エレズ検問所経由の物資搬入でそれを脱した。

アメリカはイスラエルにとって最大の武器供給源。イスラエル軍はこの1年、ガザでのハマスとの戦闘をめぐり、アメリカから供給された航空機や誘導爆弾、ミサイル、砲弾に大きく依存してきた。

書簡の内容
アメリカがイスラエル政府に宛てた書簡の内容は、米ニュースサイト「アクシオス」が最初に報じた。その後、米国務省も書簡の存在を認めた。書簡にはアントニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースティン国防長官が署名している。

書簡には、「ガザにおける人道状況の悪化に対して米政府が深い懸念を抱いていることを強調し、この軌道を方向転換させるために今月中にイスラエル政府が緊急かつ持続可能な行動を取ることを求めるため、この書簡を記す」とある。

また、イスラエルの避難命令を受け、イスラエル軍が人道地区に指定しているガザ南部アル・マワシ地区には170万人のパレスチナ人が密集していると指摘。この狭い地区は極度の過密状態にあり、致死的な感染症が広まる危険性が高まっているとしている。さらに、人道支援団体はこうした避難民が生き延びるためのニーズに応えられていないと報告していると書いてある。

「我々はイスラエル政府による最近の行動を特に懸念している。商業的な搬入の停止、9月にガザ北部と南部の間で人道的な移動の90%近くを拒否または妨害、民生と軍事の両方に活用できるデュアルユースに対する過重な制限の継続、人道スタッフや輸送品に対する新たな審査・重い責任・税関要件の設定は、不法行為や略奪の増加とともに、ガザの状況を加速度的に悪化させ続けている」

書簡は、イスラエルはガザへの援助物資の供給を促進するための一連の具体的な措置を「今すぐ、30日以内に開始しなければならない」、そうでなければ「アメリカの政策に影響を与えることになりかねない」としている。
書簡には、アメリカの人道援助物資の提供を妨げる国に軍事支援を禁止する、アメリカの法律が引用されている。

アメリカ側は、イスラエルは冬の到来までに「ガザ全域であらゆるかたちの人道支援を急増」させなければならないとしている。これには1日あたり最低350台のトラックが四つの主要検問所と五つ目の新たな検問所を通過し、アル・マワシ地区にいる人々が内陸に移動できるようにすることが含まれる。

ガザ北部から南部への「民間人の強制避難がイスラエル政府の政策に含まれない」ことを再確認し、「ガザ北部の孤立」を終わらせることも求めている。【10月16日 BBC】
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アメリカはこの書簡を公表するつもりはなかったとしています。当時最終盤を迎えていた大統領選挙を考えると、イスラエルに対し軍事支援の一部停止も辞さないような内容は不都合と考えたのでしょうか。
期間の設定も投開票日をまたぐ形になったのも大統領選挙への影響を考慮してのことでしょうか。

ただ、本気で非公表にするつもりなら、すぐに一部報道機関に内容が漏れるというのも・・・どうでしょうか。

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(上記【BBC】の続き)
米国務省のマシュー・ミラー報道官は15日、米ワシントンでの記者会見で、当該書簡は「非公開の外交的コミュニケーションであり、公表するつもりはなかった」と語った。

「(ブリンケン)長官はオースティン長官とともに、ガザへの援助レベルを回復させるために再び変更を加える必要があるとイスラエル政府に明確にすることが適切だと考えた」

イスラエル側が人道援助へのアクセスを改善しなかった場合にどのような結果が起こりうるかについては、ミラー報道官は推測を避けた。

「米軍の援助を受ける側が恣意(しい)的にアメリカによる人道援助の提供を拒否あるいは妨げるようなことはない。このことは法律で定められており、我々は当然、法律に従う。しかし我々が望むのは、我々が示したような変更をイスラエルが行うことだ」

30日間という期限については、11月5日に控える米大統領選とは関係がないとし、「異なる問題に取り組むための時間を与えるのがふさわしい」やり方だと述べた。

イスラエルは以前から、ガザへ届けられる援助物資や人道支援の量を制限してはいないと主張しており、それらが供給されていないのは国連機関に問題があるからだとしている。また、ハマスが援助物資を盗んでいるとも非難している。ハマス側はこれを否定している。

5月にイスラエルがガザ南部ラファで地上攻撃を開始する前、ジョー・バイデン米大統領は2000ポンド爆弾と500ポンド爆弾の輸送を初めて停止し、イスラエルに全面攻撃を思いとどまらせようとした。

しかし、バイデン氏は直後に、米議会共和党やイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相からの反発に直面した。
この停止措置は7月に部分的に解除され、その後は実施されていない。(後略)【10月16日 BBC】
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これに関し、EUの外相にあたるボレル外交安全保障上級代表は17日、「今のペースで死者が出れば、1カ月の間にあまりにも多くの人々が死亡することになる」として、アメリカが1か月の猶予を設けていることを批判しています。【10月17日 ロイターより】

【改善の様子なく、悪化するガザ地区の状況】
10月13日付けの書簡でしたが、その後もガザの状況が改善したという情報は目にしていません。むしろその惨状を伝えるものだけです。

****ガザ、飢餓のリスク続く 「最悪のシナリオ」懸念=国連IPC分析****
国連の「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」は17日、イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザでは地区全体が依然として飢餓の危機にさらされ、緊急レベルにあるとの分析結果を公表した。イスラエル軍の激しい軍事作戦が懸念を強め、人道支援活動が妨げられていることが要因にある。

ガザ地区約230万人の住民の184万人が深刻な食料不安に直面し、そのうち13万3000人が最も深刻な「壊滅的」レベルにあるとした。6月の報告からは減少したものの、今後数カ月の間に倍増するとみられている。5月以降、ガザ地区への食料の流入が増えたが、9月に人道支援が再び縮小し始めたと指摘した。

IPCは「ガザ地区全体で飢餓のリスクが続いている。最近の敵対行為の高まりを踏まえると、最悪のシナリオが現実となるのではないかという懸念が高まっている」と記した。

IPCによると、イスラエルがこのほど出したガザ地区からの退去命令で人道支援活動が中断され、度重なる避難によって食料や水、医薬品へのアクセスや対応が悪化している。24年9月─25年8月に小児の急性栄養失調が6万件発生すると推定されている。

今回の報告は9月30日─10月4日の分析に基づいており、足元で起きている最新状況を反映していない。

国連の人道支援機関は、10月2日─15日までにガザ北部には食料援助はほとんど入らず、配布できる食料は枯渇寸前だと指摘。燃料不足も深刻化しており、大半のパン屋は数日で閉店を余儀なくされる恐れがあるとしている。【10月18日 ロイター】
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****イスラエル、ガザ物資輸送路遮断 食料搬入手続きを停止=関係筋****
イスラエルは、パレスチナ自治区ガザへの食料搬入を行う業者による要請の処理を停止した。これによりガザ地区の食糧の大半を過去6カ月間にわたり供給してきた輸送経路が遮断されることになる。複数の情報筋が明らかにした。

イスラエルの公式データをロイターが分析したところ、今回の決定により、ガザ地区への物資の搬入量は戦争開始以来最低水準となっていることが分かった。

イスラエルの占領地政府活動調整官組織(COGAT)は、十分な支援物資がガザ沿岸地区に届き、イスラエルが人道援助の流入を阻止しないよう全力を尽くしていると説明。イスラエルが物資供給を妨害しているとの主張を否定している。

COGATの統計によると、10月1─16日にガザ地区への援助物資と商業物資を含む物資輸送量は、1日平均トラック29台分にまで減少している。

食糧供給に携わる2人の関係者によると、商業輸送を停止した理由は、イスラム組織ハマスが輸入品から収入を得ていることをイスラエルが懸念しているたためという。

ハマスの報道官は、同組織が食料を盗んだりそれを収入源にしたりすることはないとし、ガザ地区に援助物資を確実に配給しようと努めていると言明した。【10月18日 ロイター】
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かりに“ハマスが輸入品から収入を得ている”ということであったにしても、商業輸送を停止してガザ住民の飢餓状況を更に悪化させることが許されるのか?

イスラエルにとって「人命」というのはイスラエルユダヤ人のものだけであり、パレスチナ人の命はその範疇に入らないのか?

【「将軍たちの計画」】
この間、イスラエルはガザ北部への攻撃を強めています。
“ガザ北部で病院攻撃、イスラエル「テロ標的」 全域で72人死亡”【10月26日 ロイター】

このガザ北部への攻撃は、住民を強制退去させ、残った者はハマス及びその関係者として殺害し、北部へのイスラエル軍常駐を目指す・・・・という計画ではないかとも見られています。退役したイスラエル軍司令官らが提案した計画で「将軍たちの計画」と呼ばれていますが、イスラエル政府はそうした計画の実行を否定しています。

アメリカの要請については“イスラエル政府は半ば無視”とも。どうせイスラエル全面支持のトランプ氏が勝つので、バイデン政権の要請など無意味・・・ということでしょうか。

****ガザ北部再攻撃、死者千人 包囲1カ月、軍駐留視野か****
イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ北部を再び集中攻撃している。北部ジャバリヤ周辺を1カ月以上、地上部隊で包囲し、支援物資の搬入を遮断。千人以上が死亡したとみられ、住民多数が避難を強いられている。今後のイスラエル軍の駐留も視野に、住民を強制的に退去させているとの見方も出ている。

米国は10月中旬、ガザの人道状況改善措置を30日以内に取るよう求めたが、イスラエル政府は半ば無視。危機的状況だ。

イスラエル軍は昨年10月の戦闘開始以降、ガザ北部で地上作戦を繰り返してきた。今回の作戦は今年10月6日に始め、ジャバリヤや北方ベイトラヒヤも包囲。10月中旬にイスラム組織ハマスの最高指導者シンワール氏を殺害後も攻撃の手を緩めず、国連によると約10万人がジャバリヤ周辺から南方のガザ市に逃れた。

イスラエル軍はガザ市以北への物資搬入を認めず、ロイター通信はジャバリヤ周辺に1カ月以上、物資が届いていないとする住民の話を伝えた。【11月8日 共同】
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****ガザ人道支援、北部住民に届いてないと米政府 包囲をけん制****
米国務省のミラー報道官は28日、パレスチナ自治区ガザ北部ジャバリアで人道支援が必要な人に届いていないとし、受け入れられない状況との見方を示した。

「ジャバリアの人々に必要な食料や水、医薬品が届いていない」とし、「状況が変わることを望む」と述べた。

パレスチナの緊急当局によると、ジャバリア、ベイトラヒヤ、ベイトハヌーンでは約10万人が医療や食料供給を受けられずに孤立している。3週間にわたるイスラエル軍のガザ北部攻撃で緊急サービスの活動が停止しているという。

ミラー氏はガザ北部を包囲したり、民間人を飢餓に陥れたり、ガザ全体から北部を切り離したりするようないかなる試みも明確に拒否すると断じた。

ブリンケン米国務長官は ガザ北部から避難するよう民間人に指示した上で、同地域を閉鎖された軍事区域に指定するという、退役したイスラエル軍司令官らが提案した計画について、イスラエルとの協議で問題提起した。ミラー氏によると、イスラエルはそうした計画は実施していないと述べたという。

ただ、米当局者によると、ブリンケン氏は米国がガザの人道状況改善に向けた措置を30日以内に講じるよう求めた先の書簡で示した条件をイスラエルが全て満たすには至っていないと警告したという。【10月29日 ロイター】
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【国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のイスラエル国内での活動禁止】
イスラエル議会は、ガザで人道支援を行っている国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)についてハマスと関連があるとして国内での活動を禁じる法案を可決。これによりイスラエルと調整ができなくなり、事実上ガザへの物資支援がストップします。

*****ガザの人道危機、さらに深まる恐れ…イスラエルがUNRWAの活動禁じる法案可決****
イスラエル国会は28日、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の国内での活動を禁じる法案を賛成92、反対10の賛成多数で可決した。90日以内に施行される。

UNRWAは、戦闘が続くパレスチナ自治区ガザで人道支援を行っている。支援にはイスラエル側との調整が欠かせず、活動禁止でガザの人道危機がさらに深まる恐れがある。

イスラエルは、昨年10月のイスラム主義組織ハマスによる越境攻撃にUNRWAの職員が関わっていたとして解体を求めていた。ベンヤミン・ネタニヤフ首相は「テロ活動に関与した職員は責任を負わなければならない」とX(旧ツイッター)に投稿し、活動禁止の正当性を強調した。

UNRWAが陸路でガザに物資を搬入する際には、隣接するイスラエル当局との調整が必要となる。イスラエルでUNRWAの活動が禁じられると事実上、物資支援が困難になる。イスラエル当局とUNRWA職員の接触も禁じられた。

UNRWAのフィリップ・ラザリーニ事務局長は「法案はガザの人々の苦しみを深めるだけだ」とXで非難した。【10月30日 読売】
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この法案については、国連安保理の全15理事国が法案の可決に懸念や非難を表明しています。
国連で中東和平を担うトル・ウェネスランド特別調整官は国連総会の決議に基づきUNRWAが設置されたことを踏まえ、イスラエルによる「一方的措置は国連を弱体化させ、国際法を後退させる恐れがある」と非難し、撤回を求めました。

アメリカはUNRWAとハマスの関与に関するイスラエルの判断を擁護しつつ、、「UNRWAは重要な使命を果たしている」として法案可決に懸念を示しました。【10月30日 読売より】

11月12日には、ガザ北部でイスラエルによる攻撃の激化により人道危機が深刻化している状況を受け、国連安全保障理事会が緊急会合を開催。イスラエル軍の妨害で救援物資が届けられず、「(飢餓より深刻な状況になる)飢饉が差し迫っている可能性が高い」と報告されました。イスラエルは「ガザに飢餓はない」と否定しています。

アルジェリアのベンジャマ国連大使は「文字通り人々を飢え死にさせている。餓死させることを戦争の手段として明確に用いており、戦争犯罪に値する」と糾弾。

イスラエルのダノン国連大使は、「飢饉が迫っている根拠はない。唯一あるのは政治的偏見だ」と述べ、イスラエルへの中傷だと反論しました。ガザには支援物資を積んだ数十台のトラックの運搬を日々許可していると強調。人々に物資が行き渡らないのはハマスなどが略奪しているためだとこれまで通りの主張を繰り返しています。

【アメリカ 状況は限定的ながら改善 武器供与もこれまで通り継続】
そして、猶予期間1か月が経過して・・・

****バイデン政権は最後に飢餓直前のガザを見捨て、人道支援よりイスラエルへの武器輸出を優先した****
(中略)
バイデン政権は11月12日、イスラエルがガザへの人道援助活動を許可したため、状況は限定的ながら改善したと発表した。状況が改善しなければ削減すると言っていたイスラエルへの武器供与も、これまで通り継続することにした。

一方、人道支援団体からの最新の報告書によれば、ガザの状況は、13カ月に及ぶ紛争のどの時点よりも悲惨なことになっている。

米国務省のベダント・パテル副報道官は記者団に対し、人道支援に対するイスラエルの姿勢は最近になって最近になって改善したとはいえまだ十分ではないし、継続しなければならないが、アメリカは「イスラエルがアメリカの法律に違反しているとは考えていない」と述べた。

「私たちはイスラエルに合格点を与えているわけではない」とパテルは述べた。「私たちは人道的状況の全面的な改善を望んでいる。こうした措置によって、今後も改善が進み続けることが可能になると考えている」

アメリカはイスラエルにとって最大の同盟国であり、最大の軍事援助国だ。国際人道支援団体がイスラエルはガザでの人道的アクセスの拡大を求めるアメリカの要求に完全に応えていないと述べているにもかかわらず、アメリカは武器輸出継続の決定を下した。

専門家は、ガザ北部の一部はすでに飢餓状態に直面している可能性がある、と警告している。(BBCの報道によれば、イスラエル軍が包囲するガザ地区で1日にトラック350台分が必要とされる支援物資も、まだ1日平均40台分ほどしか入っていない)。

バイデン政権は10月、ガザのイスラム組織ハマスとレバノンのイスラム過激派組織ヒズボラに対する攻撃を実施するイスラエルに対して、ガザへの食糧と緊急支援物資の輸送を大幅に増加させなければ、軍事援助を削減する可能性があると伝え、その期限を11月12日としていた。(中略)

オックスファム、ノルウェー難民評議会、セーブ・ザ・チルドレンなど8つの人道支援団体が11月11日に発表した報告書によると、イスラエルはアメリカが求めた基準を満たしていなかった。【11月13日 Newsweek】
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イスラエルは、ガザに運び込まれる支援物資の量を大幅に増やしたと主張しており、“1日平均40台分”云々の数字は不正確だとしています。また、支援物資の搬入が進まないのは武装組織が略奪しているためだとも。

“BBCのガザ特派員を2009~2013年に務めたジョン・ドニソン記者は、ジョー・バイデン米大統領の任期が残り少なくなり、パレスチナ人4万3000人以上の命が失われた現在の状況で、米政府がイスラエルへの武器の供給を打ち切ることはないだろうとみている。”【11月13日 BBC】

アメリカの要請は何だったのか? 大統領選挙におけるアラブ系有権者を意識したものだったのでしょうか? ハリス氏が勝っていたら、イスラエルへの対応も変化した?・・・それも民主党のイスラエル支持を考えるとありそうにないですが。

【トランプ2.0ではイスラエル全面支援 国際法より聖書が優先】
いずれにしても、今後のトランプ2.0の対応はバイデン政権に比べ“すっきり・明確”になります。イスラエル完全支持という形で。

****トランプ氏、駐イスラエル大使にハッカビー氏 ヨルダン川西岸入植を擁護****
トランプ次期米大統領は12日、マイク・ハッカビー元アーカンソー州知事を駐イスラエル大使に選出したことを明らかにした。

トランプ氏は声明で「マイクは長年にわたる偉大な公僕、知事であり、信仰の指導者でもある。彼はイスラエルとイスラエル国民を愛し、イスラエル国民も同様に彼を愛している。中東に和平をもたらすため、精力的に取り組むだろう」と述べた。

現アーカンソー州知事のハッカビー氏の娘、サラ・ハッカビー・サンダース氏は第1次トランプ政権で大統領報道官を務めた。

ハッカビー氏はキャリアを通じてイスラエルを強く擁護しており、ヨルダン川西岸地区に対するイスラエルの主張についても認める姿勢を示している。

イスラエルのネタニヤフ首相は長年、米国の福音派キリスト教徒との関係強化に努めてきた。ハッカビー氏の起用はそうした取り組みの歓迎すべき集大成になる。

ハッカビー氏はヨルダン川西岸へのイスラエルの入植を支持しており、2017年には、ヨルダン川西岸のエルサレム東郊にあるイスラエル最大規模の入植地で定礎式を行ったこともある。

当時、ハッカビー氏はCNNの取材に、「入植」という言葉の使用を拒絶する考えを表明。ヨルダン川西岸を示す聖書の言葉を使い、「ユダヤ・サマリア地区に対するイスラエルの権利は証明されていると思う」「ヨルダン川西岸地区などというものは存在しない。ユダヤ・サマリア地区だ。入植地も存在しない。これはコミュニティーであり、地域であり、街だ。占領などというものは存在しない」と述べていた。【11月13日 CNN】
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21世紀の国際関係において、最も影響力が大きい国家アメリカが、イスラエルの入植を違法とする国際司法裁判所の判断、それに基づく国連決議よりも、聖書の記述を重視するとは・・・・頭がクラクラする感も。

キリスト教福音派など宗教保守派が動かすアメリカ政治の在り様を見る思いも。
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ミャンマー  少数民族共同蜂起「1027作戦」から1年 「ミャンマーのことを忘れたふりをしていないか」

2024-11-12 23:08:27 | ミャンマー
(ミャンマー国軍トップのミンアウンフライン総司令官(左)と握手する中国の李強首相=6日、雲南省昆明(ミャンマー国軍提供 )【11月12日 時事】)

【国連特使 「忘れられた危機になる可能性がある」】
ミャンマーでは、昨年10月27日、中国国境に近い北東部シャン州でミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)、タアン民族解放軍(TNLA)、アラカン軍(AA)が国軍を一斉攻撃し、拠点を多数奪った「1027作戦」から1年以上が経過しています。

その後も、各地の少数民族武装勢力及び民主派武装組織と国軍の間の戦闘が続いています。

戦況は国軍が劣勢に立たされていると見られ、ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)が8月にはシャン州北部の最大都市ラショーを占領し、国軍が史上初めて軍管区の司令部を失うことになりました。

ラカイン州でもアラカン軍(AA)が大部分を支配下に置くなど、各地で武装勢力側が優位に立っています。

一方、兵力不足の国軍は、2月に徴兵制を開始。中国やロシアから戦闘機やドローン(無人機)の供与を受けて反撃し、市民の犠牲が増え続けています。

戦闘にいける残虐行為も指摘されています。

****首を切断、臓器も…ミャンマー軍“子ども含む民間人25人を虐殺”現地報道 国連機関「戦争犯罪は拡大」****
2021年のクーデター以降、軍と抵抗勢力による内戦状態が続くミャンマーの北部で、ミャンマー軍が子どもを含む民間人少なくとも25人を虐殺したと現地メディアが報じました。

ミャンマーの独立系メディアによりますと、今月9日以降、北部ザガイン地域にある複数の村をミャンマー軍が襲撃しました。軍は村々を空爆したり、放火したりして壊滅させたほか、民間人少なくとも25人を虐殺したということです。

犠牲者の中には、首などを切断されたり、臓器をえぐり取られたりして惨殺された人もいたほか、別の村では6歳の子どもが銃で撃たれ、死亡したということです。

シンクタンクの「ISPミャンマー」は23日、クーデター以降、民間人が虐殺される事件が65件を超え、1300人以上が死亡したと発表。虐殺のほとんどがミャンマー軍によるもので、ザガイン地域に被害が集中していると指摘しました。

また、国連が設置した「ミャンマーに関する独立調査メカニズム」の代表者は29日、国連総会の第3委員会で、「戦争犯罪や人道に対する罪は拡大している」と明らかにしました。

そのうえで、国際機関との連携を強化し、残虐行為の連鎖を断ち切る必要性を強調しています。【10月30日 TBS NEWS DIG】
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映画のランボー・シリーズでミャンマーを舞台にしたものがありました。主人公ランボーの無敵の強さには「そのなのある訳ない」と思いますが、国軍の残虐さは映画そのものかも。
国連特使は「忘れられた危機になる可能性がある」とも指摘しています。

****混乱続くミャンマー 国連特使が状況報告 軍のトップと会談も****
3年前、クーデターを起こした軍と民主派勢力などとの戦闘で混乱が続くミャンマーについて、国連の特使が状況を報告し、軍のトップとも会談したことを明らかにするとともに、「忘れられた危機になる可能性がある」として、和平プロセスを可能にする共通の土台を見いだす必要があると訴えました。

国連総会で人権問題を扱う第3委員会で29日、オーストラリアの元外相で国連でミャンマー問題を担当するビショップ特使が状況を報告しました。

このなかでビショップ特使は3年前のクーデター以降、激しい戦闘が続くミャンマーの現状について「忘れられた危機になる可能性がある」として強い懸念を示しました。

具体的には、軍による空爆や地雷などによる民間人の犠牲が急増しているほか、法の支配が失われるなか、ミャンマーが人身売買や麻薬の密造といった国際犯罪の温床になっていると指摘し、「世界的な影響はもはや無視できない」と述べました。

また、すべての利害関係者と関わりを持つ必要があるとして、民主派勢力だけでなく、詳細は避けたものの、軍トップのミン・アウン・フライン司令官ともネピドーで会談したことを明らかにしました。

ビショップ特使は、あらゆる暴力を停止しなければならないとしたうえで、「混乱のなかで和平プロセスの開始を可能にする共通の土台を見いださなければならない」と訴えました。【10月30日 NHK】
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【国内からは「ミャンマーのことを忘れたふりをしていないか」との国際社会への注文も】
ウクライナやパレスチナの紛争に隠れて「忘れられた危機になる可能性がある」との指摘ですが、ミャンマー国内からは国際社会に対し「忘れたふりしていないか」との厳しい指摘も。

****「ミャンマーのこと忘れたふりしていないか」 市民に銃向ける国軍を辞めた軍人たちは、日本に、世界に訴える****
クーデターを起こし、市民を弾圧するミャンマー国軍に反発し、抵抗運動に加わった軍人たちがいる。国軍は強硬姿勢をやめず、来年総選挙を実施して支配の正当化を目指す中で、どんな思いを抱いているのか。(北川成史、敬称略)

「軍に入ったのは間違いだった」。国軍の元工兵コーテット(34)は悔やむ。ミャンマー北東部シャン州出身。高校卒業後、親の勧めで国軍に入った。10年以上のキャリアを重ねた2021年2月、国軍上層部はクーデターでアウンサンスーチー率いる「国民民主連盟(NLD)」から政権を奪い、市民の抗議活動を兵士に弾圧させた。「多くの市民が兵士の銃撃で殺された。受け入れられなかった」

◆「徴兵し、ろくに訓練せずに前線へ」
離脱兵を支援する組織にSNSで連絡し、21年9月に国軍を離れ、翌月、民主派の武装組織「PDF(国民防衛隊)」に加わった。
国軍と戦う中、2023年4月、東部カイン州で銃撃された。弾は左あごから左肩を貫通。隣国タイの病院で3度の手術を受けた。タイ国内にあるPDF隊員の療養施設で、回復を待ちながら、運営を手伝っている。

故郷のシャン州では今年7月、少数民族武装勢力「ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)」が、国軍の北東軍管区司令部を占拠したと発表した。ミャンマーに14ある軍管区司令部の占拠は過去に例がない。

「軍の衝撃は大きい。戦意を失い、弱体化している表れだ」とコーテットは指摘する。昨年10月以降、国軍は民主派や少数民族との内戦で劣勢にある。

今年2月には徴兵制実施を発表。離脱や死傷による兵力不足を補う目的のようだが、うまくいっていない。「徴兵し、ろくに訓練しないで前線に送っている。武器があっても戦い方が分からない状態。劣勢挽回のため各地で無差別に空爆している」とコーテット。「けがが治ったら前線に戻り、新しい国をつくるため、戦いたい」と話す。

◆「総司令官の権力保持のために戦っても命の無駄」
将校だったカウンサン(37)も昨年、国軍を離れた。「軍はやってはならない過ちを犯した」とクーデターを非難する。

ミンアウンフライン総司令官は、NLDが大勝した20年11月の総選挙での不正をクーデターの理由に挙げた。カウンサンは「あまりのうそに悲しくなった。軍人を含め大勢がNLDに投票したのは間違いない」と力を込める。NLD幹部を強引に拘束し、市民を弾圧する国軍上層部の手法に嫌気が差し、離脱。その後、国軍を抜けた兵士らの支援などに関わってきた。

「離脱は最近も収まっていない。タイの国境地帯に逃れた軍人だけでも、5000人ぐらいにはなっているだろう」とカウンサンは見積もる。「総司令官の権力保持のために戦っても命の無駄だと、みんな分かっているからだ」

◆「選挙に反対し、はっきりと市民の側を支援して」
国軍は20年の総選挙を無効とし、新たな総選挙を来年実施するため、10月、国勢調査を始めた。だが、民主派側が国土の6割以上を押さえたと主張する状況で順調に進んでいない。

カウンサンは国軍がもくろむ総選挙を「ヘビの脱皮と同じ。民政を装っても実態は軍支配のまま」と切り捨てる。「軍は選挙をやって新政権を作り、後ろ盾の中国などに認めてもらって統治を続けるつもりだ。だが、選挙を実施できるのは国土の半分以下だろう。正当といえる代物ではない」

そして日本を含めた国際社会に注文する。「ミャンマーのことを忘れたふりをしていないか。選挙に反対し、はっきりと市民の側を支援してほしい。曖昧な態度をとっていると、軍が勝手に政権をつくり、民主派や少数民族は受け入れず、内戦が長期化するだけだ」【11月11日 東京】
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【国軍 ASEANとの関係改善で支配の正統性を主張】
国軍は国内戦闘状況が思わしくないなか、国際的な連携で支配の正統性を示す狙いもあってか、3年ぶりにASEAN会合に出席しています。

従来から、ASEAN側が軍政トップのミミン・アウン・フライン総司令官を招待せず、ASEANとミャンマー国軍の間で出席に関して揉めていましたが、軍政は格下の代理派遣で妥協して歩み寄ったとも。

ミャンマーを含むASEANにおいては3年前に暴力の即時停止などを含む「5つの合意」がなされていますが、その合意が実行されていないことにAESEAN内部には強い不満があります。

****ミャンマーに「行動」要求=国軍代表が3年ぶり出席―ASEAN首脳****
東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議が9日、ラオスの首都ビエンチャンで開催された。

クーデターを強行後、約3年ぶりに出席したミャンマー国軍の代表に対し、抵抗勢力との紛争解決で進展が見られないとして、一部首脳から「具体的行動」を求める声も上がった。

首脳会議には、ミャンマーからアウンチョーモー外務次官が出席した。ASEANは2021年のクーデター後、暴力の即時停止などの合意事項を実行していない国軍の首脳を主要会議から排除。反発した国軍は代表の派遣を見送ってきたが、抵抗勢力との戦闘で劣勢となる中、各国に譲歩する形で同次官を派遣した。

外交筋によると、会議では「国軍はもっと紛争解決に向けて具体的に行動するべきだ」と迫る首脳もいた。厳しい非難を受け、ミャンマー側が「穏やかな言葉遣い」を促す場面もあったという。

また、首脳会議では、事態打開に向けて非公式協議を開くことを確認。ミャンマーの隣国タイの提案に基づき、今年と昨年、来年のASEAN議長国にタイも加わった協議が12月に開催される。【10月9日 時事】 
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【中国とも関係強化 一方で、中国に対する攻撃も】
国軍は中国との関係強化を目指しています。

****ミャンマー軍政と協力強化=中国首相、国軍トップと会談****
中国の李強首相は6日、雲南省昆明でミャンマー国軍トップのと会談し、両国の関係発展と協力強化で合意した。総司令官の訪中は2021年のクーデター後初めて。

中国外務省によると、李氏は両国の戦略協力の深化を望むとした上で「ミャンマーの政治的和解を支持している」と強調。情勢の安定化と民政移管プロセスを着実に進めるよう暗に促した。

ミンアウンフライン氏は、中国による支援への謝意を表明し、自国内で活動する中国人の安全確保に努めると応じた【11月7日 時事】 
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中国は国軍とのつながりと同時に、少数民族側とも密接な関係があるとされていますが、ミャンマー国内の安定、一帯一路事業の推進を求めています。

ただ、中国が前面にですぎると、標的とされることにもなります。上記記事にあるようにミンアウンフライン総司令官が“中国人の安全確保”に言及したのは下記事件を意識したもの。

****ミャンマーの中国総領事館で爆発、建物損傷 内戦状態…国軍は「テロリストの犯行****
ミャンマー第2の都市、中部マンダレーにある中国総領事館で18日夕に爆発があり、建物の一部が損傷した。死傷者はなかった。国軍が19日に発表し、AP通信などが報じた。

民主派系メディア「イラワジ」は、手榴(しゅりゅう)弾による攻撃と報道。国軍は「テロリストによる犯行」とみている。

2021年のクーデター以降、国軍が全権を掌握しているミャンマーでは、民主派や少数民族の武装組織による国軍への抵抗運動により、各地で内戦状態が続いている。

隣国の中国は、国軍との関係を強化し、和平協議を仲介。同国の王毅共産党政治局員兼外相は今年8月、ミャンマーを訪問し、国軍が実施するとしている総選挙を支援すると表明していた。

北部の一部武装勢力は中国と良好な関係にあるとされ、国軍支持者の間にも中国への批判がある。イラワジは、軍政トップのミンアウンフライン総司令官が近く、クーデター後初めて訪中すると報道している。

東南アジア諸国連合(ASEAN)は今月9日にラオスの首都ビエンチャンで開いた首脳会議で、ミャンマー情勢に関する合意文書を採択。国軍と民主派や少数民族など紛争当事者間の信頼を醸成して対話を実現するため、中国やインドなど「近隣国」に協力を求めることを盛り込んだ。【10月20日 産経】
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“ミャンマー軍事政権は爆発の原因については「調査中」としていますが、現地の独立系メディアは当局者の話として、「手りゅう弾が投げ込まれた」と報じていて、目撃証言などから、軍事政権を支持する民兵組織が関与した可能性があるとの見方を伝えています。”【10月21日 TBS NEWS DIG】

その後の情報(犯人の逮捕・確定など)は知りません。

****国軍トップ、近隣国首相と会談 正統性をアピール―ミャンマー****
ミャンマーの実権を握る国軍トップのミンアウンフライン総司令官が、中国訪問を終えて帰国した。滞在中は李強首相に加え近隣国のタイ、ラオス、カンボジアの首相と会談し、国軍による統治の正統性をアピールした。

「中国との友好関係が強化された」。ミャンマー国営紙は11日、前日に帰国したミンアウンフライン氏の訪中の成果を誇示した。同氏はメコン川流域6カ国の首脳会議などに出席するため、5日から中国を訪問していた。

2021年のクーデター後、ミンアウンフライン氏の訪中は初めて。国軍はミャンマーで中国の影響力が強まることを警戒していたが、昨年10月に本格化した少数民族武装勢力との戦闘で劣勢となる中、少数民族側にも影響力を持つ中国との距離を縮めている。

中国では李強首相やタイのペートンタン首相、ラオスのソンサイ首相、カンボジアのフン・マネット首相と個別に会談し、国軍が来年11月に実施を予定している総選挙などについて協議した。

暴力の即時停止といった合意事項の大半を履行せず、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議から排除されているミンアウンフライン氏にとって、国軍による統治への理解を訴える貴重な機会となった。

総選挙は民主派を排除した上で行われ、国軍は親軍派政党を通じて権力を掌握し続ける考え。ただ、抵抗勢力との戦闘が激しい地域での実施は困難とみられ、実現するかは不透明だ。【11月12日 時事】
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ウクライナ  ルール・理念なき「力による平和」・ディールのトランプ流外交でどうなる?

2024-11-11 23:00:15 | 欧州情勢

(2019年、G20大阪サミットで撮影【11月11日 ロイター】 個人的には、ウクライナが両者の間でどのように扱われるかということもさることながら、強権的プーチン大統領と非常に親密とされるトランプ氏の「体質」が非常に懸念されます。)

【トランプ氏 「世界は第三次大戦の瀬戸際にある」という危機意識のもとで「力による平和」を目指す】
復権が決まったトランプ氏は「世界は第三次大戦の瀬戸際にある」という危機意識のもとで「力による平和」を目指しているとされています。

その実例が、かつてシリアにミサイルを撃ち込み、そのことを中国・習近平主席との会食で周氏に伝えたことがあげられます。シリアに明確な力を示すとともに、中国に対して「中国にも容赦しないぞ」みたいな圧力をかけた・・・・。

****第三次大戦前夜の世界 トランプ流「力による平和」の内実問われる 試金石はウクライナ 「トランプ2.0」の衝撃①****
米大統領に返り咲くトランプ前大統領は2期目の政権で、「力による平和」を外交・安全保障政策の柱に据えるとされる。敵対者を圧倒する軍事力で侵略を抑止し、無謀な戦争を回避して平和を実現する戦略である。

過去にはレーガン大統領が1981年に就任後、ソ連に対して「力による平和」を推進し、東西冷戦の勝利に導いた。

「世界は第三次大戦の瀬戸際にある」。トランプ氏が訴え続けてきた危機意識だ。 

共和・民主両政権で国防長官を務めたロバート・ゲーツ氏は昨年9月、「米国がロシア、中国、北朝鮮、イランという4つの敵対国連合と同時に向きあう未曽有の事態」を米外交誌で警告した。 

中東では翌10月、イスラム原理主義組織ハマスがイスラエルを奇襲攻撃し、イスラエルとイランおよび親イラン勢力との紛争が拡大した。ロシアはウクライナ侵略の長期化に伴って中国、北朝鮮、イランと結託を深め、北朝鮮がロシアに派兵して参戦するに至った。 

米議会が設置した超党派専門家パネル「国防戦略委員会」も報告書で「近い将来、大規模な戦争が起きる可能性」を指摘した。

権威主義勢力に対する抑止が効かなかったバイデン政権への国民の不信は、民主党候補、ハリス副大統領への厳しい評価に直結した。有権者は「(自らの任期中に)大規模戦争は起きなかった」と誇示するトランプ氏にかじ取りを託した。 

シリアへの巡航ミサイル攻撃が実例
ペンス前副大統領の補佐官だったケロッグ退役陸軍中将は、トランプ氏には「力による平和」の実例があると語る。2017年にシリアのアサド政権が猛毒のサリンを民間人に使用したとして、シリアの空軍基地に対して行った巡航ミサイル攻撃だ。 

「米国が対処すれば大量破壊兵器の使用を容赦しないという明確なシグナルになるだろう。ロシアも北朝鮮もあなたの出方を見ている」。ケロッグ氏はこうトランプ氏らに進言したという。数時間後、トランプ氏はマティス国防長官が提示した基地への限定攻撃を指示した。 

「この行動で抑止の一線が確立された」とケロッグ氏は語り、力を行使する指導者の意思が抑止を形成するのだと強調する。

2期目のトランプ氏に「力による平和」の内実はあるのか。それがすぐに試されるのはウクライナだ。
トランプ氏はプーチン露大統領と即座に停戦交渉を開始するというが、具体的戦略は明言していない。

プーチン氏はその前に占領地拡大の攻勢に出るはずだ。ウクライナが多大な譲歩を迫られるような交渉にトランプ氏は本気で動くのか。それとも、プーチン氏を慌てさせる「選択肢」を用意するのか。

■ウクライナには「変貌」期待する声も
(中略)
ウクライナの人々は、将来への不安感と重ね合わせて米大統領選の行方を注視した。男性によれば、発言が変わりやすく、プーチン露大統領との親密な関係を誇示するトランプ氏は「信用されていない」。ただ、「トランプ氏がロシアに強硬な態度へと変わることを期待する声も一部にある」という。

「トランプ氏は世界をかき乱す破壊力の持ち主だ」と語るのは国際政治学者のウォルター・ラッセル・ミード氏だ。トランプ氏の「予測不可能性」に期待する向きは多い。同盟国は予測困難なトランプ外交に何を期待するかより、自ら何ができるかを示すことが重要とミード氏は述べている。(後略)【11月7日 産経】
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【真相がわからない「トランプ・プーチン電話会談」報道】
そのウクライナに関して、トランプ氏がプーチン大統領と電話会談し、ウクライナでの戦争を拡大しないよう忠告した・・・と、今日朝方報じられました。

****トランプ氏、プーチン氏にウクライナ戦争拡大しないよう忠告=米紙****
トランプ次期米大統領はロシアのプーチン大統領と7日に電話会談し、ウクライナでの戦争を拡大しないよう忠告した。米紙ワシントン・ポストが10日、関係筋の話として報じた。

トランプ氏は選挙期間中にウクライナ戦争を1日で終結させる解決策を見つけると述べていた。

複数のメディア報道によると、トランプ氏はウクライナのゼレンスキー大統領とも6日に話をしたという。【11月11日 ロイター】
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しかし、夕方になってこれをロシアが否定。

*****ロシア大統領府、プーチン氏とトランプ氏の電話会談を否定****
ロシア大統領府(クレムリン)は11日、ウラジーミル・プーチン大統領と米国のドナルド・トランプ次期大統領が先週、ウクライナ紛争について電話会談したとする米メディアの報道を否定した。(中略)

ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は記者団に対し、「完全に虚偽の情報」だと述べ、電話会談が行われたというのは事実ではないと否定した。 【11月11日 AFP】FPBB News
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奇妙なのはトランプ氏側からの情報がないこと。
単なる偽情報なのか、偽情報だけどトランプ氏にとってはロシアに圧力をかける好ましいイメージなので放置したのか、実際に電話会議が行われたが、ロシアとしてはプーチン大統領がトランプ氏から指示・圧力を受けたようなイメージは好ましくないとして否定したのか・・・よくわかりません。

【国務長官候補はウクライナ支援否定】
ウクライナ支援をめぐっては各方面からトランプ氏へのいろんな要望・期待も。

バイデン大統領は支援継続を求めています。

****バイデン氏、トランプ氏にウクライナ支援から撤退しないよう要請へ****
サリバン米大統領補佐官は10日、バイデン大統領がトランプ次期大統領にウクライナ支援から手を引かないよう求める考えだと明らかにし、13日に予定する両氏の会談では国内外の政策上の優先事項について話し合うとの見通しを示した。(中略)

バイデン氏がトランプ氏就任までの70日間で「議会と次期政権に対し、米国がウクライナから手を引くべきではなく、ウクライナから手を引けば欧州のさらなる不安定化を招くと訴える」考えだとした。

議会にウクライナ追加支援の法案可決を求めるかどうかとの質問には明確な回答を避けた。

米政府監査院によると、バイデン政権下で議会は1740億ドル余りのウクライナ支援予算を承認してきた。

トランプ次期政権で国務長官の最有力候補と目されているビル・ハガティ上院議員はCBSのインタビューで、「米国民は他国の主権を守るために資金や資源を使う前に、ここ米国の主権が守られることを望んでいる」と述べ、ウクライナ支援を批判した。【11月11日 ロイター】
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上記記事にもあるように、国務長官の最有力候補と目されているビル・ハガティ上院議員はウクライナ支援に否定的です。

****次期トランプ政権で国務長官候補のハガティ前駐日大使 ウクライナ支援継続に反対姿勢****
アメリカの次期トランプ政権で国務長官など要職への起用が取り沙汰されている共和党・ハガティ上院議員がウクライナ支援よりもアメリカ国内の問題に焦点をあてるべきとして支援継続に強く反対する姿勢を示しました。

10日、CBSテレビに出演したハガティ上院議員はウクライナ支援について「膨大な金額が使われている。アメリカ国民は国境問題などの国内の問題に焦点をあてたいのだ」と支援継続に否定的な立場を強調しました。

また、自身を「ウクライナ支援に関して1セントからでも反対してきた数少ない上院議員だ」と評し、「アメリカ・ファースト」主義を徹底すべきだと強調しました。

また、日本などの同盟国については「各国がそれぞれの防衛力を強化すべき」と主張したうえで、日本の防衛費倍増は「前向きだ」として、トランプ次期政権下では日韓の連携がより緊密になるとの見方を示しています。

ハガティ上院議員は前回のトランプ政権時に駐日大使を務め、大統領選挙の際には副大統領候補の一人に名前が挙がっていました。【11月11日 テレ朝news】
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【焦りを募らせるウクライナ】
当事者のウクライナは、戦局的に劣勢にあり、領土をロシアに占領された状態でトランプ氏の停戦交渉が始まるとの状況に「焦り」を示しています。

****ウクライナ、トランプ和平案に焦り「安全保証のない停戦は危険だ」…米の支援停止に現実味****
米大統領選でトランプ前大統領が勝利し、ウクライナへの軍事支援停止やウクライナに妥協を迫る停戦交渉が現実味を帯びてきた。トランプ氏とロシアのプーチン大統領が対話に前向きな姿勢を見せる中、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は焦りを募らせている。

ゼレンスキー氏は7日、ハンガリーの首都ブダペストで行われた「欧州政治共同体」(EPC)首脳会議後の記者会見で、「信頼できる明確で現実的な安全の保証がない中で、停戦の話をするのは危険だ。ウクライナの占領を続け、独立と主権を破壊するための地ならしでしかない」と述べた。トランプ氏が意欲を示しているプーチン氏との交渉への警戒感をあらわにした。

ロシアに国土の約2割を占領されているウクライナは、占領の固定化につながる「戦闘の凍結」には反対だ。停戦後、ロシアの再侵攻を防ぐための「安全の保証」も米欧に求めている。

トランプ氏はウクライナへの軍事支援に否定的で、当選後すぐに和平を実現させると根拠なしに主張してきたが、具体案は語っていない。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは6日、トランプ氏の政権移行チームがウクライナの和平について、〈1〉現在の前線に沿って非武装地帯を設ける〈2〉ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟を少なくとも20年間認めない代わりとして、米国は軍事支援を継続する――という案が検討されていると報じた。バンス次期副大統領も9月、非武装地帯の設定とウクライナの「中立化」を主張した。

こうした案は、ウクライナ東・南部4州からのウクライナ軍の完全撤退やウクライナのNATO加盟断念を求めるロシアの主張に近い。

一方、新政権で再び閣僚に就く可能性が取りざたされているポンペオ前国務長官は、NATOへの早期加盟を支持する立場だ。欧州の負担を増やして支援を継続し、対露制裁を強化した上で交渉することを提案している。

トランプ氏が新政権で実際にどのような対応をとるかは見通せない。トランプ氏の当選後、ゼレンスキー氏らウクライナ政府高官はこぞって、トランプ氏が1期目に多用した「力による平和」という言葉を使い、トランプ政権への期待を示した。まずは良好な関係を築き、トランプ氏の翻意を促す狙いのようだ。

ただ、ウクライナ抜きの和平交渉はせず、必要な限り支援するとしてきたバイデン政権の方針は転換される公算が大きい。

ウクライナが侵略終結に向けて策定した「勝利計画」は、米国の支援が停止となれば前提条件が崩れる。ウクライナの野党議員は6日、「世界はルールに基づく国際秩序からディール(取引)に基づく国際秩序に移行する」とSNSで嘆いた。【11月9日 読売】
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【戦局は「膠着」からロシア攻勢に転換】
一方、ロシアは冒頭【産経】記事に“プーチン氏はその前に占領地拡大の攻勢に出るはずだ”とあるように、東部戦線での占領地域を拡大するとともに、ウクライナがロシア領内に侵攻した地域についても奪還を目指しています。

膠着状態と言われてきた東部戦線は、ロシアの攻勢で動き始めています。

****ウクライナ軍が東部で劣勢、兵力不足で要衝陥落…情報機関「もはや膠着状態ではない」****
ロシアの侵略を受けるウクライナ東部では今年秋に入って要衝の陥落が相次いでおり、ウクライナ軍の劣勢が目立ち始めている。以前から課題となってきた兵力不足が大きな要因で、戦況は悪化している。

ウクライナ軍参謀本部は8日、東部ドネツク州の輸送拠点ポクロウシクの南方約40キロ・メートルのクラホベ方面で前日、50回の戦闘があったと発表した。露軍はポクロウシクを陥落させるため、周囲を包囲する作戦を取っているとみられる。

英誌エコノミストによると、ウクライナ軍が10月に失った領土は約620平方キロ・メートル。1か月に失った面積としては侵略開始以降、最大となる。ウクライナ軍総司令官は今月2日、SNSで「これまでで最も強力な攻勢の一つに耐えている」と述べた。

ウクライナ軍は、10月初めに同州ウフレダルから撤退した。下旬には同州セリドベを失ったとみられている。いずれも露軍との紛争が始まった2014年から防衛拠点としてきた要衝だ。

東部では露軍とウクライナ軍の戦力が拮抗きっこうする状況が続いてきた。だが、米紙ニューヨーク・タイムズは今月1日、米軍や情報機関が「もはや戦況は膠着こうちゃく状態ではない」と分析していると報じた。

ウクライナ軍が苦戦する最大の原因は、兵力不足とされる。同じ部隊が交代なしで戦い続け、疲労による戦力低下が指摘されている。

露西部クルスク州への越境攻撃で防衛がさらに手薄になったとの指摘もある。同州では露軍がウクライナ軍が制圧した地域の奪還を始めたほか、援軍で派遣された北朝鮮兵が参戦し、ウクライナ軍は守勢を余儀なくされている。【11月8日 読売】
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ウクライナがロシア領内に侵攻したロシア西部クルスク州についても、ロシアによる大規模な奪還作戦が予定されており、それには北朝鮮から「援軍」も含まれているとも報じられています。

****北朝鮮軍兵士5万人含む部隊がロシア西部で戦闘準備 近日中に攻撃開始か 米報道***
ウクライナ軍が越境攻撃を続けるロシア西部クルスク州で、北朝鮮軍の兵士を含む5万人の部隊が戦闘準備に入ったとアメリカメディアが報じました。

ニューヨークタイムズは10日、アメリカとウクライナの当局者の話として、ロシア軍が、ウクライナ軍の越境攻撃が続くクルスク州で、反撃のため、北朝鮮軍の兵士を含む5万人の部隊を編成したと報じました。

ウクライナの当局者は、数日中に北朝鮮軍による攻撃が始まるとみています。

また、アメリカの評価として、ロシア軍は主戦場であるウクライナ東部の戦線から、兵士を撤退させることなく、兵力を集めていて、複数の戦線で同時に戦闘をすることが可能になっていると伝えています。

アメリカの当局者は、北朝鮮軍の兵士は砲撃や、基本的な歩兵戦術、塹壕を撤去する訓練を受けていて、ウクライナの陣地へ正面から投入されるとみているということです。【11月10日 テレ朝news】
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クルスク州への越境攻撃でウクライナは東部戦線で防衛がさらに手薄になって劣勢に立たされ、ロシアは東部戦線から兵士を撤退させることなくクルスク州奪還作戦を始める・・・となると、ウクライナの越境攻撃開始時に言われていたように「妥当な作戦だったのか?」という疑問を裏付ける形にもなります。

【この状況でロシア有利の停戦となれば、「ルール」より「力」が優先することにも】
いずれにしても、停戦交渉の場における立場の優劣を決めるのは戦局の状況。すでに多くの地域を占領され、その奪還が実現できず、更にロシア側の攻撃圧力にさらされ後退も余儀なくされているウクライナとしては、トランプ氏が停戦交渉に乗り出すと、非常に厳しい状況となります。

しかし、ロシアの「力による現状変更」を認めることになる停戦については、「世界はルールに基づく国際秩序からディール(取引)に基づく国際秩序に移行する」ということにもなり、「ルール」より「力」が優先することについて「それでいいのか?」という疑問も。

ディール(取引)に基づく国際秩序・・・・そこには理念もルールもありません。
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