孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州  トランプ氏復権で不安を抱えながらも対応を急ぐ 存在感を増すオルバン首相

2024-11-10 23:08:28 | 欧州情勢

(7日、ハンガリーの首都ブダペストで開かれた欧州政治共同体(EPC)首脳会合【11月8日 共同】)

【欧州、トランプ政権に不安を抱えながらも関係作りに腐心】
欧州各国首脳はトランプ氏当確が明らかになると祝意を表明してはいますが、「アメリカ第一」を掲げ、欧州との防衛協力やウクライナ支援に消極的なトランプ氏との関係について内心は大きな不安を抱えています。

****欧州、トランプ政権に不安も関係作りに腐心 ブダペストの首脳会合でウクライナを討議****
欧州連合(EU)に英国、ウクライナなど近隣諸国が加わる「欧州政治共同体(EPC)」の首脳会合が7日、ハンガリーの首都ブダペストで開かれた。米大統領選でトランプ前大統領が勝利し、米欧同盟の行方に不安が広がる中、欧州側はトランプ氏との関係の構築に腐心している。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、トランプ氏が早期停戦に向け圧力をかけることを警戒し、同会合で英仏独など欧州主要国に支援継続を確認したい意向とみられる。会合を前にマクロン仏大統領、スターマー英首相はそれぞれ6日、トランプ氏と電話会談した。

欧州各国はトランプ氏に祝意を示す一方、安全保障への不安をにじませた。

リトアニアのナウセーダ大統領は「わが国は国内総生産(GDP)の3・5%を防衛費にあて、これからも投資する」とX(旧ツイッターで)で発信。トランプ氏が欧州側の防衛費負担が少ないと不満を表明していることを受け、貢献を強調した。

これに対し、ウクライナの早期停戦を支持するハンガリーのオルバン首相は、トランプ氏の勝利を「世界が待ち望んでいた」と手放しで歓迎。Xへの投稿でトランプ氏と電話会談したと明かし、「われわれは大きな計画を持っている」と書き込んだ。

EPCは2022年、ロシアのウクライナ侵略を受けて発足した枠組みで、首脳会合は今回で5度目。EU加盟27カ国を含めて47カ国が招待された。【11月7日 産経】
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ロシアの占領を容認する形でウクライナに停戦圧力をかける恐れがあるウクライナのゼレンスキー大統領は“「トランプ氏が具体的にどう行動するかは分からない」と懸念を表明。一部の欧州首脳からロシアに譲歩するよう働き掛けがあると述べた上で、「欧州にとって自殺行為だ」と受け入れを拒んだ。”【11月7日 時事】

【存在感を増すハンガリー・オルバン首相 トランプ・オルバン両氏に共通する「反移民」「反エリート」の姿勢は欧州極右にも共通】
トランプ氏復権で意気軒高なのがトランプ氏と政治姿勢が近く、親密な関係を持つハンガリー・オルバン首相。

****ハンガリー首相の存在感が増大 EUで、トランプ氏に立場近く****
米大統領選でトランプ次期大統領が勝利したことを受け、強権的な政治姿勢で知られるなど立場の近いハンガリーのオルバン首相の存在感が欧州連合(EU)で増している。

オルバン氏はロシア寄りとされ、EUのウクライナ支援を繰り返し妨害するなどして孤立を深めたが、風向きが変わる可能性が出てきた。

「オルバン氏の発言には重みがある」。欧州外交筋は、次期米政権への対応も議題となったハンガリーの首都ブダペストでの7日の欧州政治共同体(EPC)首脳会合後、同氏を評価。トランプ氏支持を鮮明にし、同氏と関係が良好なオルバン氏への期待がのぞく。

一方、オルバン氏は7日の記者会見で「個人的関係と国家間の関係を混同してはならない。米国の大統領はハンガリー国民の苦境への対処よりも、もっと大きな問題を抱えている」として期待感の抑制に努めた。

ハンガリーは7月から半年間、加盟国が輪番で担当するEU議長国を務めている。加盟国がハンガリー主催の会議への閣僚派遣を見合わせるなどEU内で亀裂が拡大していた。【11月8日 共同】
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オルバン首相とトランプ前大統領の関係の背後にある「反移民」「反エリート」の考えは、両氏の関係を越えて近年台頭が著しい欧州極右・右派勢力に共通するものです。

****「反移民」「反エリート」で共振するトランプ氏と欧州右派 国際秩序に打撃のリスク 「トランプ2.0」の衝撃③****
米大統領選で共和党候補のトランプ前大統領(78)が勝利を確定的にした6日、トランプ氏といち早く電話で言葉を交わした外国首脳の一人にハンガリーの強権指導者、オルバン首相(61)がいる。トランプ氏との親密さを誇示するように、X(旧ツイッター)に「私たちには未来に向けた大きな計画がある!」と投稿した。

2人が盟友関係にあることはよく知られる。トランプ氏は選挙演説で何度もオルバン氏を「強い指導者」「素晴らしい男」と絶賛した。オルバン氏も公然とトランプ氏を支持し、7月には米南部フロリダ州にあるトランプ氏の私邸に足を運んだ。

欧州連合(EU)内で批判され、異端視されることの多かったオルバン氏が、トランプ氏との近さゆえに存在感を増していく可能性がある。

オルバン氏が首相に返り咲いた2010年以降のハンガリーでは、報道の自由や司法の独立性、LGBT(性的少数者)の権利などへの制限が進んだ。自由民主主義の規範から逸脱していると批判を浴びるが、オルバン氏はむしろ、自分こそが来たるべき「非リベラル民主主義」時代の先駆けだと胸を張る。

盟友のオルバン氏、欧州難民危機が追い風に
オルバン氏が権力を盤石にする契機の一つとなったのは、中東・アフリカの難民らが欧州に押し寄せた15年の難民危機だった。「反移民・難民」の旗幟(きし)を鮮明にし、人道的対応を求めるEUのエリート官僚らへの攻撃を強めた。

そうした「反移民」「反エリート」の主張は最近の欧州で大きな潮流になりつつある。

フランスの「国民連合」(RN)やドイツの「ドイツのための選択肢」(AfD)といった右派勢力の台頭が典型だ。今年6月にEU各国で行われた欧州議会選では、フランスでRNが首位、ドイツでAfDが2位につけた。

トランプ氏も同じ系譜にある。初当選した16年大統領選では、不法移民流入を阻止する「国境の壁」建設や、反エスタブリッシュメント(既得権益層)を掲げた。これらの主張は、20年大統領選での落選を経てさらに先鋭化している。

今回の大統領選では、1100万人超とも2千万人超ともいわれる不法移民に「最大級の強制送還作戦」を行うと訴えた。民主党などのリベラル勢力を「内なる敵」と呼び、「州兵や米軍を使って排除する」とも語った。

反エスタブリッシュメントの主張はしばしば、リベラル勢力から成る「ディープステート(闇の政府)」が米国を牛耳っているという陰謀論の色彩まで帯びる。

欧州の新興右派勢力には福祉政策の拡大を掲げているものが多く、トランプ氏もそうだ。

共和党の支持基盤である保守派では従来、連邦政府の支出や権限を縮小し、企業の自由競争を促す「小さな政府」論が支配的だった。

しかしトランプ氏は大統領選で、社会保障年金やメディケア(高齢者向け医療保険)の維持だけでなく、体外受精の費用を保険会社が負担するよう「義務付ける」と豪語するなど、民主党左派とみまがう主張を展開した。

こうしたこともあって、仏RNや独AfD、オルバン氏やトランプ氏らはポピュリズム(大衆迎合主義)勢力に分類されることが多い。

「自国第一」に由来する侵略国ロシアへの甘さ
その政策と人気に盲点はないか。最も懸念されるのは、この勢力に共通する「自国第一」の姿勢が、ウクライナを侵略するロシアへの甘い態度につながっていることである。

オルバン氏はプーチン露大統領と親しく、EUと北大西洋条約機構(NATO)内で最も親露的な立場をとる。ウクライナは「勝てない」と公言し、欧州各国は対ウクライナ支援を縮小して停戦圧力をかけるべきだとしてきた。

その主張は、ウクライナでの早期停戦を実現するとし、ロシアとのディール(取引)を志向するトランプ氏とも通じる。

仮にロシアに領土を割譲するような形でウクライナ侵略戦争が終われば、「一方的な領土変更は認めない」という第二次大戦後の国際秩序は根幹から揺らぐ。また、世界で「自国第一」の傾向が強まり、米国主導の集団安全保障体制が弱体化することは、プーチン氏が強く願ってきたことにほかならない。

米右派の最大イベント「保守政治行動会議(CPAC)」では近年、オルバン氏ら欧州の右派政治家が大歓声で迎えられ、連帯を確かめ合うのが恒例の光景となっている。トランプ氏の当選確実が伝えられたとき、旧ソ連構成国のキルギスを訪問中だったオルバン氏はわがことのように喜び、「ウオッカで祝杯をあげた」という。

「反移民」「反エリート」が米欧で共振する現象は、世界に何をもたらすのだろうか。【11月10日 産経】
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【フランスは米依存脱却を主張するも北欧などは対米関係重視姿勢】
上記のハンガリー・オルバン首相は別格として、欧州内部にはトランプ氏復権への対応で温度差があります。

****欧州、トランプ政権復活で安保強化誓うも温度差 仏「米依存脱却を」北欧「米国は最重要」****
米国でトランプ政権の復活が決まり、欧州連合(EU)と近隣諸国は7日、ブダペストで開いた「欧州政治共同体(EPC)」首脳会合で欧州安全保障の強化を打ち出した。

一方で、米依存脱却を目指す西欧と米国を頼みとする北欧の温度差も浮き彫りになった。英独仏の欧州3大国が内政に足をとられ、指導力を発揮できないことも不安を増幅している。

フランスのマクロン大統領は会合で「われわれは、ずっと米国に安全保障を依存できない」と発言。トランプ氏の大統領就任を前に、かねてからの持論である欧州独自安保の構築に意欲を見せた。「欧州は草食動物ばかり。これでは肉食動物の食い物にされる」とも述べ、米中やロシアに対抗できる「強い欧州」を目指すべきだと訴えた。

ベルギーのデクロー首相もマクロン氏に同調し、「安全保障を米国に『外注』していてはいけない」と述べた。ロシアの侵略を受けるウクライナ支援も、欧州が半分以上を担うようになったと強調し、「米国不在ではダメになるというわけではない」とした。

これに対し、ラトビアのシリニャ首相は「米国は主要パートナーであり、今後もそうだ」と強調。そのうえで「わが国の防衛費は国内総生産(GDP)の3%以上。ほかの国も同様にしてほしい」と呼びかけた。

仏独の防衛費は今年、北大西洋条約機構(NATO)基準値の「GDP比2%」に達したばかり。ベルギーは1・3%にとどまっており、自助努力を促した形だ。デンマークのフレデリクセン首相も「トランプ氏が欧州にさらなる努力が必要と言うなら、私は完全に同意する。米欧同盟はわれわれには最も重要だ」と述べた。

NATOのルッテ事務総長は、北朝鮮がロシア支援の見返りにロシアから軍事技術を供与されているとして、「中露、北朝鮮の連携は、米国と欧州、さらに日本にとっても脅威になる」と主張した。米欧同盟の意義は欧州安保にとどまらないと指摘することで、米国の欧州離れを牽制(けんせい)した。

7日はEPC首脳会合に続いて、EUの非公式首脳会合が開かれた【11月8日 産経】
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【EUのミシェル大統領 「現実を受け止めなければ」】
EPC首脳会合に続いて開かれたEUの非公式首脳会合において、EUのミシェル大統領は記者団に「米国の有権者による明確な意思表示を尊重し、現実を受け止めなければならない」と指摘しています。

****EU、トランプ氏勝利で対策協議 「現実を受け止めなければ」*****
EUは7日、ハンガリーの首都ブダペストで非公式首脳会議を開いた。首脳らは夕食会で米大統領選のトランプ氏勝利を受け、良好な米EU関係を維持するための対策を協議した。非公式首脳会議は8日まで。

ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、トランプ氏はEUが重視するウクライナ支援に消極的な立場で、欧州各国が防衛費を十分に負担していないとしてNATOにも批判的だ。トランプ氏は選挙戦で輸入品への関税も主張し、欧州では警戒感が強まっている。

EUのミシェル大統領は記者団に「米国の有権者による明確な意思表示を尊重し、現実を受け止めなければならない」と指摘した。【11月8日 共同】
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いささかどろなわの感はありますが、下記のような動きも。

****米国産液化天然ガスの輸入を検討 欧州連合、トランプ氏意識****
欧州連合(EU)行政執行機関トップのフォンデアライエン欧州委員長は8日、ウクライナに侵攻するロシアからの液化天然ガス(LNG)の輸入を米国産に切り替えることが可能かどうか検討する意向を示した。トランプ次期米大統領を意識し、交渉カードとして利用する考えとみられる。

ハンガリーの首都ブダペストで行われたEU非公式首脳会議後の記者会見で述べた。加盟国の首脳らは非公式首脳会議でトランプ次期政権への対応を協議し、安全保障や貿易面の関係強化を目指す方針で一致した。【11月9日 共同】
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【米民主党と友党関係にある英労働政権 これまでのハリス支持から、今後の米英「特別な関係」維持に腐心】
EUもトランプ氏との今後の関係に腐心していますが、アメリカとの“特別な関係”を誇示してきたイギリスもEU以上に困っているでしょう。

イギリスで政権を担う労働党はアメリア民主党と「友党」の関係にあって、労働党のスタッフ約100人が、民主党候補のハリス副大統領陣営を支援するためにアメリアカ入りする計画が明らかになり、波紋を広げました。

****トランプ氏陣営“英労働党がハリス氏支援のためスタッフ派遣”****
アメリカ大統領選挙の投票が来月5日に迫る中、共和党のトランプ前大統領の陣営は、イギリスの与党・労働党が対立候補のハリス副大統領の陣営を支援するためスタッフを派遣しているとして、調査を申し立てました。イギリスの労働党は個人のボランティア活動で、組織的ではないと否定しています。

トランプ陣営が22日に発表した声明によりますと、イギリスの労働党の幹部がハリス陣営の選挙運動を支援するためアメリカに派遣する党のスタッフをSNSで募集し「住まいは私たちが調整します」などと投稿したということです。

そして、労働党がハリス陣営を組織的に支援しているとして「外国からの干渉にあたり違法だ」などと主張し、連邦選挙委員会に調査を求めています。

これについて23日のイギリス議会で質問された労働党のレイナー副党首は「人々は自分の金と時間を使ってやりたいことをしている」と述べ、あくまでも個人のボランティア活動で、組織的ではないという認識を示しました。

アメリカとイギリスはともに「特別な関係」と呼ぶ緊密な同盟関係を保ち、互いを重視してきただけに、イギリスの野党からはトランプ氏が返り咲いた場合アメリカとの外交や貿易などに深刻な影響が出かねないとして労働党に対する批判の声も上がっています。【10月24日 NHK】
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“「これは違法だ」。トランプ氏を支援する米実業家イーロン・マスク氏は10月中旬、X(ツイッター)にそう記した。ただ、英紙タイムズによると、外国籍のボランティアが選挙運動を手伝うことは、無報酬であれば米国の法律で認められているという。”【10月23日 毎日】

選挙戦最終盤の時期に100人程度のスタッフが入っても、何の効果もないと思いますが・・・
民主党・ハリス陣営への“義理立て”のようにも思えます。

実際にスタッフが派遣されたのかどうかは知りません。これだけ問題視されたら実施は難しいかも。

上記問題に加え、今後、対米関係構築の最前線に立つラミー外相は、かつてトランプ氏を「ネオナチ」などと罵倒していた経緯があります。

****トランプ氏復権に焦る英政権 外相は過去に「ネオナチ」と批判****
米共和党のトランプ次期大統領の当選を受け、伝統的同盟国・英国が「困惑」(米ブルームバーグ通信)の度を深めている。

スターマー英首相率いる与党・労働党はもともと米民主党と友党関係にあり、現在の対米外交の「顔」であるラミー外相は、かつてトランプ氏を「ネオナチ」などと罵倒していた過去があるためだ。スターマー氏は「英米の特別な関係は変わらない」と強調し、良好な関係をアピールしている。
 
「歴史的勝利、おめでとうございます」。スターマー氏は6日の声明でトランプ氏に祝意を表し、英米の「緊密な同盟」は不変と強調した。
 
だが今回の大統領選期間中には、労働党スタッフらが民主党のハリス副大統領陣営を支援するため米国入りする計画が発覚し、トランプ氏陣営が不快感を示した一幕もあった。

労働党内には「反トランプ派」が多く、外相就任前のラミー氏は2018年、トランプ氏を「暴君」「女性嫌いで、ネオナチに同調する反社会的人物」と批判していた。同じく労働党のカーン・ロンドン市長も、今回のトランプ氏当選で多くの人々が「民主主義や女性の権利」の行方を不安視していると述べた。

再選視野の備えも
一方でスターマー政権は7月の発足以降、トランプ氏の当選も視野に入れて関係構築を試みてきた。スターマー氏とラミー氏は9月に国連総会出席のため訪米した際、トランプ氏と2時間ほど夕食を共にした。
 
その後、ラミー氏は「(トランプ氏批判は)古いニュース」「彼は協力できる人物だ」と発言のトーンを変えている。北大西洋条約機構(NATO)の中で「欧州の防衛費支出は不十分だ」と欧州批判を繰り返してきたトランプ氏の主張についても、ラミー氏は「正しい指摘」と賛同した。

だが、トランプ氏は過去の言動を忘れない「根に持つタイプ」(ブルームバーグ通信)とも報じられており、関係修復は容易ではないとの見方もある。【11月9日 毎日】
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上記のようないきさつがなくても、米英の「特別な関係」を維持していくためには、イギリスはトランプ氏から折につけ、相当の譲歩・貢献を要求されるかも。
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気候変動  「1.5℃」を突破 各国はCOP29への関心低下? 途上国の不信感 アメリカの再離脱

2024-11-09 23:40:24 | 資源・エネルギー

(年平均の推移。2024年は1~10月のデータに基づく推計だが、年平均で産業革命前の水準より1・5度以上高くなるのはほぼ確実だという=コペルニクス気候変動サービス、欧州中期予報センター提供”【11月7日 毎日】)

【24年の世界気温、産業革命前から初の「1.5℃」上昇の見通し】
鹿児島県の奄美地方や沖縄本島では8日から非常に激しい雨が降り続き、11月としては初めての大雨の特別警報が出されました。

この夏の猛暑といい、秋になっての季節外れの大雨といい、「何だか変だなぁ・・・」「これまでと違うなぁ・・・」という感じも。

周知のように気候変動は世界的現象で、やはり今年は世界的に暑かったようです。
今年の世界の平均気温は、観測史上最も暑かった去年を上回ることがほぼ確実になり、『パリ協定』で目標としている1.5℃を始めて越えることになったようです。

****24年の世界気温、産業革命前から初の「1.5℃」上昇の見通し****
「パリ協定」が掲げる「1.5℃」目標を堅持するために、国家だけでなく、企業や自治体などの「非国家アクター」の動きも注目されている

欧州連合(EU)の気象機関「コペルニクス気候変動サービス」は、1850‐1900年の産業革命前の平均気温と比較し、2024年の世界の平均気温が初めて 」を超える見通しを発表した。

2023年の世界の平均気温は、産業革命前に比べて1.48℃高かった。2024年はそれを上回り、1.55℃以上高くなる可能性が高いという。

同機関によると、2024年は観測史上最も気温が高い年となることも確実となった。
11月11日からは、国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)がアゼルバイジャンのバクーで始まる。その一方で、米大統領選で気候変動に否定的なトランプ氏が当選したことを受け、気候変動対策のための資金調達目標の達成が懸念されている。

気候対策の国際枠組みである「パリ協定」では、世界の平均気温の上昇幅を「1.5℃」以内に収めることを目標とする。今回の発表は、その達成に向けて、さらなる国際的な協調が必要であることを鮮明にした。【11月8日 松田大輔氏 オルタナ】
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国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、1.5℃の気温上昇が起こると、上昇がない場合と比べて、「10年に1度」の頻度だった猛暑は4.1倍、豪雨は1.5倍に増えるとのことです。

【各国関心低下も見られるCOP29】
このように悪化したと言うか、瀬戸際にある状況で11月11日から始まる国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)ですが、ひと頃に比べ各国の関心も薄れたような感も。

****COP29、バイデン氏ら主要国首脳が相次ぎ欠席へ****
11日からアゼルバイジャンで始まる国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)の首脳級会合には、バイデン米大統領をはじめ主要国の首脳が相次いで欠席する見通しだ。

バイデン政権の関係筋はロイターに、大統領選直後のタイミングとなったこの会合にバイデン氏は出席しないと明かした。

欧州連合(EU)欧州委員会の広報担当者も5日、フォンデアライエン欧州委員長はブリュッセルでの政治的な事情を理由に会合を欠席するとロイターに説明した。

欧州議会は現在、次期欧州委員会のメンバーの承認手続き中。広報担当者は「欧州委員会が引き継ぎ期間に入っているので、欧州委員長は自身の組織の仕事に専念することになる」と述べた。

また、日本の石破茂首相や中国、オーストラリア、メキシコの各首脳も欠席。ブラジルのルラ大統領は10月に頭部を負傷したことを受け、会合への出席を既にキャンセルしている。

COP29では、二酸化炭素(CO2)排出量削減目標達成に向けた国際的な資金拠出を大幅に増額することで200カ国近くが合意を目指す。【11月6日 ロイター】
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【温暖化を否定するトランプ復権で世界の協調行動が困難に】
何より、温暖化を否定するトランプ前大統領の復権で、世界がまとまって行動することが難しくなっています。

****COP29、11日に開幕 温暖化対策の資金拠出、トランプ氏返り咲きで暗雲****
世界各国が地球温暖化対策を話し合う国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)が11日、アゼルバイジャンの首都バクーで開幕する。先進国が途上国に拠出する温暖化対策資金に関し、どの程度の上積みで合意されるかが焦点となる。

ただ、米大統領選で「気候変動はでっち上げ」と主張してきたトランプ前大統領の返り咲きが決まったことで、温暖化対策を巡る国際協調に綻びが生じる可能性もある。

日本や世界では近年、温暖化を背景に猛暑や干魃、豪雨、洪水などの被害が頻発。二酸化炭素など温室効果ガス(GHG)の排出削減が急務となっている。

各国は2015年のCOP21で採択した温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」などに基づき、世界の気温上昇を産業革命前から「1・5度」以内に抑える目標を定めた。

それには30年までに世界のGHG排出を19年比で43%、35年までに60%それぞれ削減する必要がある。各国はGHG削減の国家目標(NDC)を5年ごとに提出しているが、各国が現在のNDCを全て達成しても、「1・5度」目標の実現には及ばないとされる。

途上国には先進国から資金を受け取ることを前提としてNDCを設定している国も多い。途上国は気候変動で被った「損失と損害」への支援も先進国に求めており、温暖化抑止に向けた資金確保の重要性が増している。

先進国は従来、途上国支援のため25年まで年間計1千億ドル(約15兆円)の資金拠出で合意していた。COP29では25年以降の新たな資金拠出のあり方が主要議題となる。

拠出資金の規模は従来の「年間1千億ドル」が下限となるが、途上国は先進国に「年間1兆ドル」の拠出を求めている。これに対し、先進国は大幅な増額に慎重な上、中国やインドなどGHG排出量が多い新興国も資金拠出に参加すべきだとの立場だ。

資金の配分先に関しても、一部の途上国に限定すべきだとする先進国と、特別扱いを求める太平洋島嶼国や後発の開発途上国などの国々で見解が分かれている。

一方で、トランプ氏の米大統領返り咲きは、ただでさえ先進国と途上国の間に横たわる断絶を深めかねない。トランプ氏は前回の大統領任期中、パリ協定から米国を離脱させた。

米国はバイデン政権下で協定に復帰したものの、来年1月に正式に発足するトランプ新政権は再び協定離脱を宣言するとの観測が強い。

ロイター通信はトランプ氏の返り咲きで「(COP29での)合意形成の機運が弱まった」と指摘。「米国の賛同がなければ、より野心的な気候資金の推進はほぼ不可能になる。そうなれば、途上国は欧米諸国の気候問題への野心を真剣に受け止めなくなる」との専門家の見解も伝えた。【11月9日 産経】
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【途上国には先進国の対応への不信感も】
“途上国は欧米諸国の気候問題への野心を真剣に受け止めなくなる”・・・・すでに、そうした動きも。

****パプア、COP29不参加=「空約束許せぬ」****
太平洋の島国パプアニューギニアは31日までに、アゼルバイジャンで11月に開かれる国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)への参加を見送る方針を決めた。

これまでの会議で決定された途上国支援策などが十分履行されていないことを理由としている。温室効果ガスを吸収する熱帯雨林を抱えるパプアの離反は、波紋を広げそうだ。

トカチェンコ外相は声明で、パプアでは気候変動に起因するとみられる自然災害が頻発しているにもかかわらず、会議で表明された資金支援が「われわれには一銭も届いていない」と指摘。「空約束と不作為をこれ以上許すことはできない」と訴えた。また、外相は31日、AFP通信に対し「COPは全くの時間の無駄だ」と酷評した。【10月31日 時事】 
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【トランプ氏周辺では「パリ協定」再離脱の準備】
一方、トランプ前大統領はすでに「パリ協定」からの脱退に向けて準備を始めたとか。

****トランプ氏、気候変動対策「パリ協定」からの脱退に向けて準備か 米メディア****
アメリカ大統領選挙で勝利したトランプ氏は、気候変動対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの脱退に向けて準備を進めているとアメリカメディアが報じました。

ニューヨーク・タイムズによりますと、トランプ氏の政権移行チームは早速、気候変動やエネルギー政策に関する大統領令の草案準備などに取りかかっているということです。この中には「パリ協定」からの脱退も含まれているとしています。

トランプ氏は選挙期間中、「掘って、掘って、掘りまくれ」を合言葉に化石燃料の採掘を積極的に推し進めることを公約に掲げていました。(後略)【11月9日 ABEMA Times】
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「掘って、掘って、掘りまくれ」・・・・気候変動への対応など微塵もなさそう。

アメリカ抜きとなると再生可能エネルギーに力を入れている中国が主導権を握り、中国はこの気候変動対応を影響力拡大の方策とするのでしょう。

ただ、アメリカ抜きでは資金的にも難しく、今後の気候変動対策の停滞も予想されます。

【発電体制には安全保障の視点も】
なお、温室効果ガス削減の主な分野が発電になりますが、日本は石炭火力を多く使用しており、これまでCOPの場では著しく不評でした。

その日本の電力を考える際に、気候変動対策と同時に安全保障面の視点も必要になります。
例えば、台湾有事で中国が海上封鎖した際に、日本の電力はどうなるのか・・・といった話。

****「台湾有事=日本のエネルギー有事」兵糧攻めに耐えられる備えを……専門家が指摘****
政策アナリストの石川和男が11月9日、自身がパーソナリティを務めるニッポン放送Podcast番組「石川和男のポリシーリテラシー」に出演。高まる台湾有事のリスクに日本の備えは万全なのか、専門家と議論した。

中国軍は10月14日、台湾を包囲するかたちで大規模な軍事演習を実施した。1日の数として過去最多となる延べ125機の中国軍機が確認され、「一つの中国」を認めない立場を強調する台湾の頼清徳総統への圧力とみられている。

一方でアメリカ海軍が今年9月、2027年までに中国が台湾に侵攻するリスクについて言及しており、いわゆる「台湾有事」が目の前に迫っているとも考えられている。

もし、台湾有事が起こると日本はどのような影響を受けるのか。番組にゲスト出演したキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏は「中国は、アメリカと日本を介入させたくない。アメリカが介入しないよう、日本の米軍基地を使わせないために日本を脅す。中国は、日本へエネルギーを運ぶ船などを日本近海で狙い、威嚇する。そうすると船が来なくなり、エネルギー入って来なくなる」と言及。

エネルギーのほとんどを輸入に頼り、電源構成ひとつとっても7割以上が火力発電という現状を早急に見直すべきだと指摘した。

具体的には「石油の備蓄は約200日分あるが、タンクが地上に並んでいるだけで破壊されるかもしれない。石炭もガスも1ヶ月分もない。

一方、原子力発電所は普通に運転さえしていれば、そこに積んである燃料と前処理をするために輸入してある燃料を合わせると3年間はもつ。よく原発施設のテロ対策だけが重要視されるが、原発への攻撃は核攻撃と同等に見なされるため、徐々に攻撃内容がエスカレートしていく有事においては最終手段に近い。ウクライナ戦争でも原発は最後まで残り、そのほかの発電所や送電網などが先にやられている」と述べた。

そのうえで杉山氏は「少々やられても、例えば日本は電気が足りなくなりませんよ……そういうふうにしておかないと“日本はすぐ電気なくなって、もうお手上げですってすぐ降参する”これではまずい。戦争の抑止という考え方は大事で、簡単には負けないよってしておかないとやられる」と警鐘を鳴らした。

石川は「起こるか起こらないかの問題ではなく、起こったときに対してどう備えるかという話。中国、台湾は火薬庫で常にリスクがあるということを踏まえた対策を」と訴えた。【11月9日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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化石燃料の搬入がストップするかもしれない・・・・・それに備えて原子力をという話になるのか(ウクライナは確かに火力発電がロシアの攻撃で完全に止まり、原子力発電頼みの状況になっています)、だから再生可能エネルギーをという話になるのかは、またいろいろ立場・考えによるところでしょう。
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メキシコ  未だ続く「麻薬戦争」 メキシコ初の女性大統領は前政権を継承して宥和的政策

2024-11-08 23:49:39 | ラテンアメリカ
(3月6日、メキシコの首都メキシコ市で、大統領府の扉を破壊する(2014年メキシコ・イグアラ市学生集団失踪事件への政府対応に抗議する)デモ隊【3月7日 時事】)

【未だ続く「麻薬戦争」 暴力の蔓延】
これまでも何回も取り上げているメキシコ麻薬戦争。

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メキシコ政府は「麻薬戦争は終わった」としているが、実際の状況は逆であり、2016年頃から抗争が再び激化し始め、2017年には死者数が過去最多となり、2018年にはそれを20%上回り過去最多を更新、更に2019年もそれ以上のペースで殺人事件が増加し、治安は最悪化している。【ウィキペディア】
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そうした「麻薬戦争」が続く状況の中で、6月2日に行われたメキシコ大統領選挙では、事実上与野党の女性候補同氏の対決となり、ロペスオブラドール大統領の路線継続を訴えた左派与党「国家再生運動」のクラウディア・シェインバウム前メキシコ市長が当選し、メキシコ初の女性大統領が誕生しました。

シェインバウム氏は、犯罪組織を強権的に取り締まるよりも、「犯罪の根本に対処する」という現政権の方針を踏襲すると表明。これに対して、対立候補ガルベス氏は「犯罪者を抱擁し、市民に銃弾を向けるものだ」と批判しました。

こうした犯罪組織に宥和的とも言える対応は前政権のロペスオブラドール前大統領に共通するものです。
しかし、ロペスオブラドール前大統領任期中にメキシコ国内の暴力は空前のレベルに達しています。

シェインバウム氏が勝利した今回6月の選挙自体が、殺害された候補者や立候補予定者は30人以上に上るというもので、麻薬組織を含めて蔓延する暴力にどう対処するのかが新大統領の大きな課題となっています。

****メキシコ初の女性大統領に待ち受ける難題...殺害された候補者や立候補予定者は30人以上の「歴史的選挙」****
<メキシコ国内の暴力は空前のレベルに。前メキシコシティ市長のユダヤ系で環境工学の科学者、シェインバウム博士は治安を回復させ、行政権力の抑制と均衡が実現できるのか>

(中略)今回の選挙はメキシコ史上最大の選挙となった。登録有権者数は約9800万人超で、大統領、上下両院議会、数千の地方議席など計2万近いポストが争われた。

同時に、最も暴力的な選挙でもあった。殺害された候補者や立候補予定者は30人以上に上る。

新大統領は今後、2つの重要課題と向き合わなければならない。1つはメキシコ社会に蔓延する暴力と市民生活への軍の関与。もう1つは、行政権力に対するチェックアンドバランス(抑制と均衡)の喪失である。

シェインバウムが師と仰ぐ現大統領のアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドールは、1つ目の問題を解決できず、2つ目の問題を著しく悪化させた。

(対立候補)ガルベスの敗因は、野党連合を構成するPRIやPANの評判が下がったことにある。これらの政党は、88年から2018年の民主化移行期の責任を問われている。

民主化移行に伴い、90年代に選挙でより独立性の高い政策決定を可能にする新法が制定された。だが当時の政権は凡庸な実績しか上げられず、社会の不平等も拡大した。さらに麻薬戦争が激化するなか、治安維持への軍の関与が強まり、社会に暴力が蔓延していった。

前任者の人気が追い風に
(中略)ロペス・オブラドールの支持率はいまだ65%。彼が実現させた低所得者向けの奨学金や年金などの改革は、多くの国民に高く評価されている。シェインバウムの選挙戦は、ロペス・オブラドールの人気に支えられていた。それだけに、その影が今後の政権運営に付きまとうことになる。

麻薬戦争によって命を落としたメキシコ人は、18年時点で約22万7000人に達していた。ロペス・オブラドールは就任当初、軍を治安任務から撤退させると約束し、「銃弾ではなく抱擁を」と繰り返した。

だが、その方針はすぐに変更された。彼は連邦警察を解体し、代わりに主に軍人で構成される「国家警備隊」を創設。その指揮権を大統領直轄の国防省に移管し、文民統制が及ばないようにした。

ロペス・オブラドールは軍の忠誠心と誠実さを信頼できると訴えたが、法的手続きを経ない処刑や汚職など軍が抱える疑惑を考えれば、その主張は極めて疑わしい。

5万人以上が行方不明
しかも、彼の任期中の過去6年間にメキシコ国内の暴力は空前のレベルに達した。
18~23年の殺人の発生件数は17万1000件を超え、そのうち約5000件がフェミサイド(ジェンダーに基づく暴力による女性の殺害)だった。

この期間の行方不明者も5万人以上。これは1時間ごとにおよそ1人のペースだ。

シェインバウムは治安統制への軍の起用を否定している。一方で、国家警備隊を国防省の管轄にしたロペス・オブラドールの判断を支持するとも語っている。

ロペス・オブラドールは大統領への権限集中を徐々に推し進めた。任期後半、野党陣営が法案への不支持を表明すると、与党勢力は野党を無視し、小規模政党の協力を得て改革案を可決した(この立法プロセスは後に最高裁に違憲とされた)。(中略)

今回の大統領選で、メキシコ人女性のレティシア・イダルゴは投票用紙に息子の名前を書いた。といっても、息子が立候補しているわけではない。11年のある日、18歳だった息子は自宅から警察に連れ去られ、今も行方不明だ。
イダルゴは選挙期間中に、失踪した人に投票するよう呼びかける抗議運動を立ち上げた。狙いは、行方不明者の存在を可視化することだ。

シェインバウムには、ロペス・オブラドールの政策と統治スタイルによって二極化された国を率いるという任務が待ち受けている。

彼女が気にかけるべき相手は、イダルゴのような人々──死や失踪の恐怖に怯えることなく、自由で平等で平和な生活を送る手段を提供するよう政府に求める人々──だ。対立候補に投票した人々だけではなく。【6月10日 Newsweek】
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【麻薬組織トップ逮捕で組織内紛の抗争激化の様相】
今年7月、メキシコ麻薬組織の中心人物である2人がアメリカで逮捕されました。
メキシコ麻薬組織の中心人物である「エル・チャポ」の息子(ホアキン・グスマン・ロペス被告)と「エル・マヨ」(イスマエル・サンバダ・ガルシア被告)逮捕で、麻薬組織壊滅に向かうのか・・・・とも普通は考えますが、事態はむしろ悪化しているようです。

組織のトップを逮捕しても、その空白を埋めようとして新たな抗争が始まる・・・というのもよくある話です。

****メキシコ北部で抗争激化、死者150人 広がる残虐手口****
メキシコ北部、シナロア州で麻薬組織の内部抗争による死者が急増している。メキシコメディアによると、9月上旬から約1カ月間の死者は150人を超えた。凶悪な麻薬組織「シナロア・カルテル」の創設メンバーを米国が拘束したのを発端に、内紛が激化した。

米司法省は7月、シナロア・カルテルの創設者の一人とされるイスマエル・サンバダ・ガルシア被告を米南部の空港で逮捕した。合成麻薬「フェンタニル」の製造や密輸などに関与したとして行方を追っていた。プライベート機で自ら米国の空港に降り立った経緯には、裏切りに遭った可能性が浮上していた。

サンバダ被告と同乗していたのはホアキン・グスマン・ロペス被告。同じシナロア・カルテルの創設者で、米国で終身刑に服している「麻薬王」ホアキン・グスマン・ロエラ受刑者の息子だ。ロペス被告は父親の逮捕のいきさつをめぐり、サンバダ被告を恨んでいたとされる。

逮捕されたサンバダ被告は獄中から、ロペス被告に裏切られ、自らの意思に反して米国に引き渡されたと主張した。トップ不在となった組織内では麻薬の密売ルートや化学原料の調達をめぐる利権の争奪戦が起き、相手を威嚇するためにあえて残虐な手段を使う過激な暴力が横行している。

メキシコメディアによると、9月9日からの累計の殺人被害者は8日時点で150人を超えている。行方不明者も160人を超えているとされ、今後の被害拡大は確実とみられる。派閥間の縄張り争いとみられる衝突は50件を超え、殺人被害者は約1カ月で8月(44人)の3倍に急増している。

シナロア州の州都クリアカンでは拷問された痕跡のある遺体や、遺体が焼かれたり、手や首を切断されたりして放置されるケースも報告され、犠牲者には女性や未成年者もいた。「クリアカンへようこそ」と書かれたバンの内部には複数の死体が残されていた。

メキシコ政府は軍隊を派遣して沈静化を図るが、収拾への道は見えていない。

シナロア・カルテルはかつてメキシコで最も凶悪なカルテルとして知られたが、近年は「ハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオン(新世代)カルテル(CJNG)」が台頭。危険な地域が分散し、本拠地を置くシナロア州の治安も比較的落ち着いていた。

1日に就任したメキシコのシェインバウム大統領は過去の政権を批判する中で「麻薬との無責任な戦争には戻らない」と述べた。

メキシコシティ市長時代には監視カメラの増設などで殺人を減らした実績があるが、特に地方部では警察官や司法組織が犯罪集団と結託する腐敗も散見される。取り締まりは一筋縄ではいかない。

シェインバウム氏は8日、4つの柱からなる新政権の安全保障戦略を発表した。殺人や恐喝など重大犯罪の減少や犯罪ネットワークの無力化などを目標に掲げたものの、情報システムの強化や連邦と地方の連携拡充など総花的な内容にとどまった。

独スタティスタによると、2024年の世界の都市における殺人発生率ランキングではワースト1位だったコリマ(コリマ州)をはじめ、10位までの7都市がメキシコの都市だった。

メキシコは南米から米国へ向かうコカインなどの通り道となっており、中国から輸入した原料を加工してフェンタニルを製造する拠点も各地に点在するとされる。

国際リゾート、アカプルコのある太平洋側のゲレロ州では就任したばかりの州都チルパンシンゴのアルコス市長が6日に殺害され、車の上に放置された同氏の首とみられる画像がSNS(交流サイト)上で拡散した。

首都メキシコシティでも大規模デモの際の破壊や略奪行為は日常茶飯事で、治安の改善への道のりは長い。【10月9日 日経】
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最近のニュースでも

“車の上に切断された頭部 メキシコ南西部で就任直後の市長殺害 麻薬カルテル支配地域”【10月8日 ABEMA Times】
“5人の斬首遺体入ったプラスチック袋発見 メキシコ”【10月14日 AFP】
“メキシコで11人の遺体 南部、トラックから発見”【11月8日 共同】

****ハロウィーン「仮面はやめて」=メキシコ、治安悪化の州で規制****
メキシコ北西部シナロア州政府は、31日のハロウィーンの仮装で、仮面をかぶったり、おもちゃの武器を持ったりしないよう呼び掛けた。州内で麻薬カルテルによる凶悪事件が多発する中、カルテルの構成員と間違える恐れがあると警戒している。(後略)【11月1日 時事】
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【“警察官や司法組織が犯罪集団と結託する腐敗”の象徴 43人の学生が行方不明となっている2014年メキシコ・イグアラ市学生集団失踪事件】
これだけ麻薬組織の横行、暴力の蔓延が絶えない最大の原因の一つが“地方部では警察官や司法組織が犯罪集団と結託する腐敗も散見される”という実態。

その象徴が学生の乗ったバスが警官などに襲撃され、43人が行方不明となっている「2014年メキシコ・イグアラ市学生集団失踪事件」でしょう。

*****2014年メキシコ・イグアラ市学生集団失踪事件****
ゲレロ州検察長官イニャーキー・ブランコ=カブレラの発表によると、2014年9月26日夜21時30分に最初の暴力事件が起こった。

イグアラ市警察が、3台のバスに乗って移動中のアヨツィナパ師範学校の学生らに向かって銃撃を始めた。ゲレロ州教育労働者国家コーディネーター(CETEG)に所属する教員らに動員されていた学生らに対して行われた、この最初の銃撃について学生達が抗議の記者会見を行っていた時、警察および見知らぬ複数の人物によって2回目の銃撃を受けたとされる。目撃者の証言によると、彼ら(警察と見知らぬ人物)は学生らに対して突発的に銃撃してきたという。(中略)

メキシコにおける抗議活動の多くは平和的に、行方不明の学生の両親達の先導によって行われている。しかし、暴力に訴える抗議活動もあり、政府関係のビルを破壊する抗議者も出てきている。(中略)

メキシコの麻薬戦争時とは異なり、アヨツィナパにおける失踪事件は他の諸事件の中でもとりわけ際立っている。アヨツィナパの事件は地元政府と警察機関と犯罪組織が、非常に強力な共謀関係にあることを明らかにしているためである。

この日の夕方から、イグアラ市では、市長夫人マリア・デ・ロス・アンヘレス・ピネダの主催する慈善団体の集会とパーティーが行われることになっていた。学生らはこの集会の妨害も企図していたとされている。

当局は、イグアラ市長だったホセ・ルイス・アバルカが、妻のスピーチを妨害されることを恐れて、警察に学生たちの襲撃を命じたとしている。

事件当日深夜、学生43人は警察車両に載せられ、いったん隣町のコクラ警察署に勾留された。これはイグアラ市警の公安部幹部のフランシスコ・サルガド・バジャダレスによる指示とされる。

さらに、コクラ警察署の副署長は犯罪組織「ゲレーロス・ウニドス」に「後始末」を依頼したとされる。

この事件でアバルカ夫妻、警察官36人、ゲレーロス・ウニドスのメンバー数人など74人が逮捕された。
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しかし事件は、上記のような当初考えられたアヨツィナパ師範学校の学生達に対する政治的弾圧事件ではなく、学生たちが使用したバスに絡む麻薬密輸のトラブルと関連があるのではないか、中央政府の関与はなかったのか、43人の学生はどうなったのか・・・などの疑惑・疑問も指摘され、未だにその真相は定かではありません。

学生の親族や支援者らの政府の対応への抗議も続いており、3月6日にはデモ隊の一部が大統領府の出入り口の扉を破壊する騒ぎも起きています。

この地方政府・警察と犯罪組織の癒着の構造が解消されない限り、暴力の蔓延は終わらないでしょう。

【前政権が推し進めた司法改革 裁判官公選で犯罪組織の影響が司法に及ぶ危険性も】
そうしたなかでロペスオブラドール前大統領は司法に犯罪組織の影響が強まる恐れがある裁判官の公選制を導入しようとしています。

****犯罪組織の介入招く? メキシコ、裁判官の「公選制」巡り強まる反発****
メキシコの左派ロペスオブラドール大統領が、市民による選挙で裁判官を選ぶ「判事公選制」を柱とする司法改革を急ピッチで進めている。

自身の政策に反対する最高裁判事を入れ替える狙いがあるが、新制度案で末端の裁判官まで公選制の対象としたことで反発が拡大している。

政党や利益団体のほか、犯罪組織が裁判官選出に介入するとの懸念が浮上。司法の独立性が揺らぐとの警戒感は隣国の米国にも広がっている。

世界でも異例の司法改革
判事を巡る新たな制度案は、軍事法廷など一部を除き、全ての連邦・州・自治体レベルの裁判所の判事を選挙で決める内容だ。米紙ニューヨーク・タイムズによると、全国の7千を超える判事ポストが対象となり、世界的に「異例」(米コーネル大法科大学院のミッチェル・ラサ教授)という。

新制度案では、連邦裁判事に立候補するための要件は、法律の学位と数年の法曹界での実務経験などを求めている。国家試験に合格したうえで経験を積み、能力を認められて初めて判事となる現行制度から、大幅に緩和される。

また、連邦最高裁判事の定数は現行の11から9に削減される。大統領が指名して上院が承認する現行の仕組みが廃止され、大統領府と立法府、司法府が10人ずつ推薦した候補の中から、国民が直接投票で選ぶとされる。

憲法改正へ与党に勢い
ロペスオブラドール氏が司法改革に注力する動機は、「選挙管理当局の改編縮小」「国家警備隊の国防省への指揮移管」といった自身の目玉政策に対し、最高裁が次々と「違憲判断」を下したためだ。

最高裁は、ロペスオブラドール氏のポピュリズム(大衆迎合主義)色が強く、「権力の監視と分散」への関心が薄い政策に反対している。

改革は、反目する最高裁への「意趣返し」(野党議員)という。ロペスオブラドール氏の「まな弟子」と強調して6月の大統領選で勝利し、10月に就任するシェインバウム次期大統領も改革を支持している。(後略)【9月14日 産経】
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後継のシェインバウム政権はロペスオブラドール氏が司法改革を継承しています。

“メキシコ最高裁が判事公選制に合憲判断、新政権の主張に軍配”【11月6日 ロイター】
最高裁が積極的に合憲判断したというのではなく、裁判官11人中7人が違憲判断ということで、最高裁長官としてはなんとか違憲としたかったのですが、違憲判断に必要な8人に1人足りず、結果的に合憲となったということのようです。

“司法改革によると、裁判所判事の直接選挙は2025年6月に実施し、全国で幅広いポストが交代の対象となる。最高裁判事は9人に削減され、同様に選挙で選ぶことを義務付けている。”【同上】
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カタール  「争い」を産む選挙を止めて、議員全員を首長が指名するように憲法改正

2024-11-07 23:25:09 | 民主主義・社会問題

(カタールの首都ドーハで、初の国政選挙となる諮問評議会選に投票する女性=2021年10月(ロイター=共同)【11月7日 共同】)

【憲法改正 選挙は廃止され、今後は首長が全議員を指名する 改正賛成が90.6%】
トランプ圧勝関連ニュースで溢れる(それは当然で、後日、このブログでも取り上げるかもしれませんが)なかで、「おや?」っと思ったのが下記のニュース。

****カタール、議会選挙廃止 憲法改正、首長が全員指名*****
中東カタールで5日に実施された諮問評議会(議会)議員の選出制度を変更する憲法改正の是非を問う国民投票で、国営通信は6日、改正賛成が90.6%だったと伝えた。タミム首長は同日、憲法改正を承認した。

定数45議席のうち30人を直接選挙で選び、残り15人を首長が指名していたが、選挙は廃止され、今後は首長が全議員を指名する。

首長が全権を握るカタールで、2021年に初めて諮問評議会選が実施されたが、一部市民の立候補などが制限され、批判が出ていた。

タミム氏は、選挙により家族や部族間で「争い」が起きているとし、憲法改正が必要だと説明していた。【11月7日 共同】
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2021年に初めての選挙が実施されたばかりなのに、なぜ民主主義の逆行みたいなことが起きるのか?

【カタール人は人口の10% 天然ガスの産む富をもとに、労働力のほとんどを外国人労働者が支える】
そももそカタールでどんな国? 首長制国家(一種の君主制)で、以前、アラブ湾岸諸国と対立して制裁を受けていたとか、ガザの紛争で仲裁国として登場したり・・・ということはありますが。

****中東初のサッカーワールドカップ開催国 カタールってどんな国?****
(2022年)11月20日に開幕する、サッカーのワールドカップ。日本を含む32チームが世界一をかけて競い合います。今回の開催国はカタールです。カタールと言えば、日本サッカー界で今も語り継がれる「ドーハの悲劇」の舞台となった地です。(中略)

そもそもカタールってどんな国?
そんな因縁の地カタールは、産油国が集中する中東ペルシャ湾に面した国です。(中略)そのカタールの国土は、秋田県とほぼ同じ広さで、1930年に始まったワールドカップの開催国としては、もっとも小さい国となります。

外国人労働者が支える社会
カタールの最大の特徴は、人口に占める国民の割合の少なさです。正確なデータは明らかにされていませんが、人口およそ290万人のうち、国民は1割程度と言われています。

高級ブティックやショッピングモールが建ち並ぶ市内中心部では、白い民族衣装を身にまとったカタール人の男性グループがカフェで会話を楽しむ姿を見かけます。

一方、店で働いているのは全員が外国人で、インドやパキスタン、フィリピン、ネパールなどアジア出身の出稼ぎ労働者の姿が目立ちます。

ドーハ郊外には、労働者が集団生活するためのアパートが建ち並び、ベランダには作業服がたくさん干され、歯ブラシや古着などの路上販売がにぎわっています。カタールでは、労働力のほとんどを外国人労働者が支える構図となっているのです。

豊富な天然ガスが莫大な富を
こうした社会構造を支えるのは、豊富な天然ガスです。

カタールの沖合には、世界最大級のノースフィールドガス田があり、ここから産出される天然ガスをLNG=液化天然ガスに加工し、日本など世界中に輸出。人口のわずか1割を占める国民に、ばく大な富をもたらしています。
(後略)【2022年11月18日 NHK】
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当然ながら選挙権は“カフェで会話を楽しむ”カタール人だけで、労働力のほとんどを支える外国人労働者は含まれません。

(“カフェで会話を楽しむ”白い服の男性たち・・・以前、ドバイで見た同様の光景を思い出します。「昼間から優雅だね・・・この人たちは働かないのだろうか?」と思った記憶が)

ただ、“カタール国籍”と言っても、部族絡みで難しい問題があって論争を惹起したようです。

****カタールの選挙の排除条件について論争勃発、逮捕者も=BBC****
BBCの報道によると、カタールの諮問評議会選挙の被選挙権が、カタールのソーシャルメディアで広範な論争を巻き起こしているとのこと。 

シェイク・タミーム・ビン・ハマド・アール・サーニ・カタール首長は、10月実施予定となっている国内初の議会選挙の選挙法を承認した。

新法の下では、「原国籍がカタールで、18歳以上であるすべての人は、諮問評議会の議員を選出する権利を有するものとする。ただし、祖父がカタールで生まれたカタール人であるという条件でカタール国籍を取得した者は、原国籍という条件から除外される」。

この法律はまた、立候補者の「原国籍がカタールでなければならない」と規定しており、年齢は30歳以上でなければならない。

選挙権と被選挙権が、国内のソーシャルメディアにおいて論争を引き起こし、立候補者の「原国籍がカタール」でなければならないという要件が、幅広い人々の怒りを招く事態になっている。

要件を満たしていないアール・ムラ部族の一部が、「自分たちが諮問評議会選挙に立候補できないようにするための恣意的な法律」であると評し、抗議の動画を複数投稿した。

活動家はハッシュタグ#Al_Murrah_Qatari_People_Before_the_Governmentで投稿を開始し、政府が形成される以前からアール・ムラ部族はカタールに居住していたと強調した。

内務省はその後、7人の人物「虚偽のニュースを広め、人種や部族の争いを引き起こす手段としてソーシャルメディアを使用した」として、検察庁に照会したと、発表した。(中略)

議会選挙
諮問評議会の議員の3分の2、つまり45議席中30議席を選出するために、選挙が実施される。残りの議員は首長が任命する。 30の選挙区に分割され、各区を代表する候補者が1名選出される。

2003年の国民投票では、現在首長によって全議員が任命されている諮問評議会の部分的選挙を規定する新憲法が、人口のわずか10%のカタール人によって承認された。【2021年8月10日 ARAB NEWS】
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カタールにおける部族と国家の関係はよく知りません。とにかく“カタール人”といっても難しい問題が付随するものの、人口の10%にとどまるこの“カタール人”だけによって選挙は行われようです。。

【ハマスを含め、アメリカ・イスラエルなどとも関係を持つ全包囲外交 仲介で存在感】
あとカタールはハマスと関係が深いことも特徴のひとつです。
ハマスだけでなく、アメリカ・イスラエルとも関係を持つ全方位外交を行っています。

****イスラエル人質交渉 なぜカタールが仲介?ハマスとの関係は?****
イスラエル軍が地上での軍事行動を拡大させる中、ガザ地区に230人以上いるとされる人質はどうなるのか。人質解放に向けた交渉を仲介していると言われるのが中東のカタールです。

なぜイスラエルとハマスの仲介役になれるのか?そもそもカタールってどんな国?(中略)

カタールの大学で客員研究員を務めた経験もある日本エネルギー経済研究所中東研究センターの堀拔功二主任研究員に話を聞きました。

なぜカタールが仲介役に?
カタールが人質の解放に向けた仲介を担うことは、実はわりと自然なことだったと思います。というのも、カタールはハマスとイスラエル、その両方にコネクションを持つ国だからです。

両方にコネクション、パイプを持つ国というのは、おそらく中東地域ではカタールとエジプト、あとはトルコぐらいだと考えられます。

とりわけハマスに関して、カタールは意思疎通をとれる窓口を持っています。
2012年ごろに、ハマスがドーハに政治事務所を持ったことで、双方の関係はより深まったと考えられます。現在、ハマスの政治局局長のハニーヤ氏もカタールを拠点に活動しています。

イスラエルや各国の意見をハマス側に伝達する一方、ハマス側もカタールを通して自分たちに有利な交渉条件や妥協点を探ろうとしているのだと思います。

人質をとられている国からも、カタールに解放交渉に向けて協力してほしいという依頼が来ています。

例えば、普段はカタールと政治的・外交的にコミュニケーションを目立ってとるような国ではないタイやネパールとも対話が交わされています。そのほか、アメリカ、イギリス、フランス、カナダなどとも密に連絡をとっています。(中略)

仲介はどうやって行われるの?
(中略)
また、カタールは過去に、パレスチナ問題に限らず、さまざまな紛争や対立、人道的な問題に関して、仲介を行ってきました。そうした実績も評価され、今回のイスラエルの人質解放に関しても仲介役としての期待が高まったということが言えると思います。

たとえば、対立するアメリカとイランの間の仲介です。
カタールはアメリカと関係が良く、ドーハ郊外にはアメリカ軍の空軍基地があります。(中略)その一方で、アメリカと敵対するイランとも非常に緊密な関係にあります。

ことし9月にはアメリカとイランの間で囚人交換が行われたのですが、この時、仲介をしたのもカタールでした。

どうしてハマスと関係があるの?
ハマスはもともと「ムスリム同胞団」のパレスチナ支部を母体とする組織です。
そのムスリム同胞団とカタールは良好な関係にあり、カタールは1960年代から同胞団を支援したり、彼らの亡命先となったりしてきました。ハマスとは、2006年にパレスチナで議会選挙が行われた時ぐらいから関係を持ってきたと言われています。

また、カタールがハマスをサポートしている側面もあります。首都ドーハにあるハマスの政治事務所がカタール政府と緊密な連携、コミュニケーションをとっていると考えられています。
現在のハマスの政治局局長のハニーヤ氏のほか、その前の局長のマシャル氏など歴代の幹部もドーハに滞在していました。

カタールはガザ地区へこれまでも人道支援を継続して行ってきました。(中略)

カタールの前の首長が2012年にガザを訪問したり、ハマスの幹部が定期的にカタール政府の幹部と会談したりと、協力・連携は常に行われています。人道支援などの結果、ハマスもカタールを信頼しているわけです。

イスラエルとの関係は?
イスラエルとカタールは公式な外交関係はありません。ただ、1996年頃から2009年にかけてドーハにイスラエルの貿易事務所、通商代表部というものがありました。

その後もパレスチナ情勢への対応やガザ地区への人道支援をめぐって、イスラエルと水面下でのやりとりが続けられました。イスラエル側からしても、ある程度カタールに対する信頼はあったのだと思います。

カタールはパレスチナ問題に関しては基本的にパレスチナ側に寄っていますし、今回の件に関しては、長年ガザを封鎖してきたイスラエル側に完全に非があるという立場の声明を発表しています。

とはいえ現実的に、中東の安定化、色々な経済的な関係を含め、イスラエルとの関係を持つことは決して悪いことではないという認識もあったかと思います。

それが歴史的に、20年ぐらい前にドーハとイスラエルが非公式な経済・外交関係を有していた理由だと思います。

そもそもなぜ仲介に積極的なの?
仲介外交は、小国のカタールが生き延びていくための生存戦略に他なりません。
カタールは色々な国や組織と関係を維持することで、国家としての安全保障や安定的な環境を作ろうとしています。また、その外交戦略はカタールの国際社会におけるプレゼンスや影響力を高めるといった結果があります。

その結果、カタール自身が諸外国から評価され、大事にされることにつながるのです。諸外国と強力な関係を築くことは、内政面でも君主体制の安定化に資すると言えます。(後略)【2023年10月31日 NHK】
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【2021年の選挙では女性28人が立候補するも当選者なし 長が指名枠を使って男女比の不均衡を正す】
話を諮問評議会選挙に戻すと、2021年の選挙では女性28人が立候補して注目されました。

****カタールの国政選挙に女性が立候補「大きな前進」****
カタール初の国政選挙に女性も立候補したが、男性と比較すると女性の候補者数は非常に少ない。
30の議席に対し284人が立候補して選挙戦を争う。そのうち、女性の候補者は28人だ。残る15議席は首長により指名される。

「女性の立候補は非常に大きな、意義のあるステップです」と国際危機グループの湾岸諸国分野のシニアアナリスト、イルハン・ファクロ氏は評価する。

「とはいえ、その影響について過大な期待をすべきではないと考えています。女性の候補者はたった28人ですから。実際、それは特に驚くべきことではないのです」(中略)

ファクロ氏は、女性が選出されないか非常に少数である場合には、「男女比を改善するために」首長が女性を直接指名する可能性もあると示唆した。バーレーンの議会選挙でも同様のことが起きている。

女性の保健相や外務省報道官のいるカタールは、他の湾岸諸国よりも女性の政治参画が進んでいる国だ。
さらに、カタールW杯組織委員会をはじめ、社会貢献事業、芸術、医療、法、ビジネスなど多くの分野で女性が重要な役割を担っている。

カタール憲法には「すべての市民の機会均等」が規定されている。
最新の公式データによれば、カタールは男性が女性より2.6倍多い。主な理由として、カタールに来ている男性の出稼ぎ労働者の存在が挙げられる。

カタール当局はかつて「男女平等と女性の地位向上」は湾岸諸国にとって「成功と将来展望」の鍵だと訴えた。

アナリストのファクロ氏は、湾岸諸国の選挙に女性が立候補することは「これらの諸国で女性の政治参画への態勢が整い、政界への進出が望まれてきている」ことの重要なシグナルだと指摘する。

「湾岸諸国で女性の権利向上、家族法や離婚、そしてあらゆる分野での法の平等が確保される可能性はあります」と述べる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは以前、男性よりも女性の大卒者の数が多く、1人当たりの医師と弁護士の数も女性が上回っていることなどを挙げて、カタールの女性が「さまざまな障壁を打ち破り、大きな進歩を遂げた」と認めた。【2021年10月2日 ARAB NEWS】
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実際のところ、女性の当選者はありませんでした。

****カタール初の国政選挙、女性当選者ゼロ****
カタールで(2021年10月)2日、諮問評議会選が行われた。初の国政選挙だが、首長が全権を掌握する状況は変わらないとみられる。女性候補は一人も当選しなかった。 45議席のうち30人を投票で選び、残る15人を首長が指名する。これまでは首長が全員を指名していた。

内務省の選挙管理委員会によると、当初は女性28人が立候補を認められたが、30議席すべてを男性が占めた。首長が指名枠を使って男女比の不均衡を正すとみられる。

当局によると、最終的な投票率は63.5%で、10%未満だった2019年地方選挙を大きく上回った。

各地の投票所では終日、民族衣装を着た有権者が整然と並んでいた。
ある投票所前では、女性有権者が運転手付きのメルセデス・ベンツ(Mercedes Benz)車やロールスロイス(Rolls-Royce)の白のSUV(スポーツ用多目的車)で乗り付けていた。昼食時も有権者の列は絶えず、投票した人の過半数を女性が占めていた。

これまで何度も先送りされてきた選挙が実施された理由として、来年のサッカーW杯カタール大会(2022 World Cup)を前に、国際社会から厳しい目を向けられていることなどが挙げられている。【2021年10月3日 AFP】
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女性の当選者がなく、首長が指名枠を使って男女比の不均衡を正す・・・初めての国政選挙はそのような実体だったようです。

そして、今回、「選挙により家族や部族間で「争い」が起きている」ということで、選挙をやめ全員を首長が選ぶ・・・という変更。

確かに、アメリカなど選挙によって分断が深まるという面が露呈しています。それでも選挙を行うべき。国民の代理人たる議員を選定するような権限は誰にもなく、国民自身が選ぶ・・・というのが民主主義です。

カタールでは未だ、欧米的な選挙を行うだけの基盤が国民の間にできていなかった・・・というふうにも見られます。

もちろん、首長制(一種の君主制)であるという基本的違いもあります。
ただ、現在のタミル首長が“いい人”なので全部任せてもいいかもしれませんが、“悪い人”が首長になったときは・・・という根本的問題があります。

かつて王制のブータンで議員選挙を導入しようとしたとき、一部の国民から「王様がいればそれでいい。選挙なんか必要ない」という声がありましたが、国王だか前国王だかが「今はいいけど、悪い国王になったらどうすのか?」と説得したという話も。
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アメリカ  トランプ氏復権 大統領の専制独断を誰が抑止できるのか? 各国の反応

2024-11-06 23:19:29 | アメリカ

(6日、集会会場に登場したトランプ前大統領(中央)ら=米南部フロリダ州【11月6日 産経】)

【大統領経験者が返り咲きを果たすのは132年ぶり】
今日はこのニュースしかないので・・・個人的には忸怩たるものがありますが。

****トランプ氏の当選確実 132年ぶりの米大統領「返り咲き」へ****
米大統領選(5日投開票)は6日、共和党のドナルド・トランプ前大統領(78)の当選が確実になった。米メディアが報じた。大統領経験者が返り咲きを果たすのは132年ぶり。

刑事事件の被告が、大統領選で勝利する異例の事態となった。トランプ氏は2025年1月20日に第47代大統領の就任式を迎える。

トランプ氏は選挙戦で「衰退した米国を再び偉大にする」と訴え、過去4年間に進んだインフレ(物価高)、不法移民の増加など、社会や政治の現状への不満に訴えかける戦略を取った。

23年3〜8月には計四つの刑事事件で起訴され、24年5月には不倫関係を主張する女性への口止め料支払いを巡って親族企業の業務記録を改ざんした罪で有罪評決を受けた。しかし、トランプ氏は「政治的な迫害だ」と主張することで、保守層を中心に支持を伸ばした。

民主党は当初、ジョー・バイデン大統領(81)が再選を狙ったが、24年6月の討論会で高齢不安を露呈。党内の圧力を受けて、7月に選挙戦から撤退した。女性初の大統領を目指すカマラ・ハリス副大統領(60)が8月に党候補に指名され、党内の活気は戻ったが、政策の具体化が遅れた。

トランプ氏は内政、外交ともバイデン政権からの政策転換を進める考えだ。不法越境対策として「国境の壁」の建設を再開し、不法移民の国外追放も進める。石油や天然ガスの増産を促し、実業家のイーロン・マスク氏も起用して「連邦政府の効率化」を推進する。

外国製品には10〜20%、中国製品には60%の一律関税を課す。日本には一層の市場開放や防衛費の負担増を求める可能性がある。ロシアのウクライナ侵攻を巡っては、対ウクライナ支援を見直し、早期の和平仲介を目指す姿勢だ。【11月6日 毎日】
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トランプ復権で外交政策は大きく変わります。

****トランプ氏、中露北首脳とディール重視 不透明感も IPEF破棄 有言実行か****
米大統領選で勝利宣言したトランプ前大統領は、再選した場合にバイデン政権の政策を覆すだけでなく、プーチン露大統領や中国の習近平国家主席らとディール(取引)することに意欲を示してきた。地域情勢や世界経済を巡る不透明感が増す可能性がある。

戦争終結を重視
トランプ氏はロシアのウクライナ侵略に関し、就任前にプーチン氏らとの交渉などを通じて「戦争を終わらせる」考えを強調。バイデン政権が日欧などと行ってきたウクライナ支援より、戦争終結を重視している。

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記への対応では「私が(ホワイトハウスに)戻れば、彼とうまくやる」と述べ、1期目に直接会談したという自信をのぞかせる。「彼も私の復帰を望んでいる」と語り、ディールへの秋波を送っている。

中国に対しては、台湾に侵攻すれば「150〜200%」の関税を課すと米紙に述べている。これもディールの一環とみられる。台湾有事の際に軍事力を行使する可能性を問われ、「必要ないだろう。習氏は私を尊敬し、私が何をしでかすか分からないことも知っている」と説明。米国の軍事力をちらつかせて台湾侵攻を牽制した。

中国製品には60%の高関税も
中国製品にも60%の高関税を課す考えを示すなど強気の姿勢だ。実際、大統領1期目は対中貿易赤字を問題視して中国製品へ制裁関税を発動し、貿易戦争を繰り広げた。

米製造業を活性化させるため、各国からの輸入品に10〜20%の関税を課すともしている。日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画には強く反対し、買収阻止に動く可能性がある。

バイデン政権が主導した新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を破棄する意向も示している。1期目には就任前に掲げていた環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の離脱を就任直後に実行した。IPEF破棄は有言実行を再び国内外に示すことができる政策だ。【11月6日 産経】
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【トランプ氏を抑止する者はないという状況にも】
更に、上下両院も共和党が押さえて「トリプルレッド」の可能性も。トランプ大統領は非常にやりやすくなります。おさえが効かなくなる・・・とも。

****米共和党、4年ぶりに上院奪還 「トリプルレッド」の可能性****
米連邦議会選の投開票が5日、大統領選と同時に実施された。米主要メディアによると、共和党は上院で非改選議席を含めて過半数の51議席を確保し、4年ぶりの多数派奪還を決めた。

トランプ前大統領も勝ち、接戦の下院を押さえれば、赤をシンボルカラーとする共和党がホワイトハウスと上下両院を独占する「トリプルレッド」となる。
 
米国では議会に立法権と予算編成権があり、上院は閣僚や大使、連邦最高裁判事の人事承認権を握る。

トリプルレッドが実現すれば、トランプ氏は選挙戦で訴えた国境警備強化や減税を実現しやすくなる。一方、チェック機能は弱まり、同氏による大統領権限強化が進む恐れもある。【共11月6日 共同】
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トランプ氏は議会だけでなく、すでに最高裁も前回大統領時に押さえています。さらに今回選挙戦で、これまで民主党候補支持を打ち出していたメディアが、トランプ復権後の報復を恐れて支持を明確にしないといった現象にみられるようにジャーナリズムもトランプ復権に萎縮しているように見えます。

もはや、議会も、司法も、そしてジャーナリズムもさえぎらないとなったとき、トランプ政治はどうなるのか?憂慮すべきことだと考えています。

【戦々恐々のウクライナ 余裕のロシア】
大きく変わる外交政策に関し、現段階で報じられている各国の反応は以下のとおり。

ウクライナ・ゼレンスキー大統領はトランプ氏がウクライナに不利な形での停戦に走ることを警戒しています。

****ウクライナのゼレンスキー大統領、トランプ氏勝利を祝福も「独断専攻」警戒か 米大統領選****
ロシアの侵略を受けるウクライナのゼレンスキー大統領は6日、米大統領選で勝利を宣言した共和党のトランプ前大統領を祝福する声明をX(旧ツイッター)に投稿した。

ゼレンスキー氏は9月の訪米時にトランプ氏とロシアの侵略を終結させる方法などを協議したと指摘。トランプ氏が国際情勢で「力による平和」を追求すると約束したことに感謝するとし、「それこそがウクライナに早期に平和をもたらす原理だ」と述べた。その上で、ウクライナと米国が今後、そうした政策を共同で進めることを期待していると表明した。

ウクライナ国内では、トランプ氏が米大統領に返り咲いた場合、ウクライナへの軍事支援を停止したり、ウクライナ抜きでロシアと交渉を試みたりする可能性があるとの懸念が強い。ゼレンスキー氏はトランプ氏がそうした独断専行に出ないよう暗にくぎを刺したものとみられる。【11月6日 産経】
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実際のところは、トランプ氏が提示する停戦に応じない場合、軍事支援が停止される事態になることに戦々恐々といったところも。

****戦々恐々のウクライナ、「トランプ政権発足で切り捨てられるのでは?」―仏メディア****
(中略)大統領選に関連する主張でとりわけ注目されたものの一つに、長期化したロシア・ウクライナ戦争について「私だったら24時間以内に終わらせる」としたトランプ氏による2023年5月の発言だ。

そのためウクライナ政府では、トランプ政権が誕生したら「切り捨てられるのでは」という深刻な懸念が発生しているという。フランスメディアのRFIが伝えた。

ウクライナの元駐米大使であるオレフ・シャムシュル氏は、「トランプ氏が勝利すれば深刻なリスクをもたらす」と述べた。シャムシュル氏はさらに、トランプ氏と彼のチームは「ウクライナが勝つとは考えていない」「中国との対決に集中するために、あらゆる代償を惜しまずに(ロシアとウクライナの)衝突を終わらせたいと考えている」と述べた。

西側メディアの報道によると、トランプ氏の計画はロシアにとって極めて有利だ。まずウクライナには、現状でロシア軍に占領されている地域、すなわち領土の20%の支配を断念させて非軍事化する。ウクライナにはさらに、念願だったNATO加盟も断念させる。

シャムシュル氏は同計画について「(ウクライナにとって)潰滅的だ」と表現し、「ロシアは軍隊を再建し、後日再び攻撃してウクライナを完全に抹殺することができる」と指摘した。

ただし、ウクライナ大統領府のある高官は匿名を条件に、9月にウクライナのゼレンスキー大統領が訪米してトランプ氏と会談した時の状況は「非常に良好だった」と説明し、トランプ氏の心情について「米国がプーチンに敗北する原因になった人物にはなりたくないだろう」と分析した。

同高官によると、ウクライナは米大統領選のハリス氏とトランプ氏の両候補と良好な関係を保つよう「努力している」という。【11月5日 レコードチャイナ】
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一方のプーチン大統領とトランプ氏は考え方がよく合うとされるロシアは余裕の静観の構え。

各国政府が続々とトランプ氏への祝意を伝えるなかで、ロシアの大統領報道官は「プーチン大統領が祝意を伝える計画は把握していない」と述べました。

****ロシア大統領府報道官「1月に何が起きるか見てみよう」…トランプ氏「勝利宣言」に反応****
タス通信によると、ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領府報道官は6日、米大統領選でドナルド・トランプ前大統領が勝利宣言したことに関して、米国が「我が国に対する戦争に直接・間接に関与する非友好国であることを忘れてはならない」と指摘した上で、「(トランプ氏が大統領に就任する)1月に何が起きるか見てみよう」と述べた。トランプ氏の今後の発言に注目する考えを示した。

ロシア国旗=ロイター ペスコフ氏は記者団に対し、プーチン政権が「建設的な対話には前向きだ」と改めて主張。米露関係は史上最悪だとして「この先どうなるかは、次の指導者次第だ」と述べた。

選挙期間中の発言と大統領就任後の発言は変化しうるとも指摘し、トランプ氏の言動を注視する考えを強調した。
プーチン大統領が、トランプ氏に祝福のコメントを出すかどうかは「分からない」と述べるにとどめた。ロシアが米大統領選に介入したと批判されていることに関しては、「我々は強く否定する」と語った。【11月6日 読売】
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****トランプ氏勝利宣言でロシア・報道官「米は国内問題に対処を」****
アメリカ大統領選挙でトランプ氏が事実上の勝利宣言をしたことに対し、ロシア外務省のザハロワ報道官はアメリカは国内問題に対処する必要があると述べました。

ザハロワ報道官は6日、国営メディアのインタビューで今回の大統領選を通じてアメリカは深刻な二極化に陥っていると指摘。他国の問題よりも自国の問題に対処するべきだと述べました。

ロシアのウクライナ侵攻を巡り、戦争を一日で終わらせるとするトランプ氏の公約については具体的な行動が必要だと述べ、懐疑的な姿勢を示しました。【11月6日 KHB】
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【盟友復活を喜ぶイスラエル・ネタニヤフ首相】
イスラエル・ネタニヤフ首相は盟友トランプ氏復活をもろ手をあげて歓迎。

****ネタニヤフ首相トランプ氏祝福「歴史上最高のカムバック」一方ハマスは****
アメリカ大統領選挙でトランプ氏が勝利したことを受け、イスラエルのネタニヤフ首相は「歴史上、最高のカムバック」と称賛しました。

ネタニヤフ首相は6日、自身のSNSにトランプ氏と妻メラニア氏に宛てて「歴史上、最高のカムバック。おめでとう」と祝福のメッセージを投稿しました。

そのうえで「あなたのホワイトハウスへの復帰はアメリカにとって新たな始まりであり、イスラエルとの偉大な同盟関係を力強く再確認する意味を持つ」と強調しました。

トランプ氏は前回の任期中に国際的に認められていないエルサレムを首都と認定してアメリカ大使館を移すなど極端な親イスラエル政策を取ってきました。

ガザ地区やレバノンで戦闘を続けるネタニヤフ首相にとっては望んでいた形になったといえます。

一方、ロイター通信の取材に対し、イスラム組織「ハマス」はトランプ氏の勝利演説に触れ、「戦闘を数時間以内に止められると言う彼の発言がどう結果に結び付くかが試される」と述べました。

また、「バイデンの失敗から学ぶように求める」とも訴えました。【11月6日 テレ朝news】
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ガザ地区住民のなかには、トランプ氏のイスラエル支援で戦闘が長引くことへの懸念も。

****ガザ住民「悪夢続く」と落胆 イスラエル首相は祝意*****
「戦闘はすぐに終わらない。悪夢が続く」。米大統領選でトランプ前大統領が勝利したことに、戦闘が長引くパレスチナ自治区ガザでは6日、住民から落胆や懸念の声が上がった。

トランプ氏は勝利演説で「戦争を終わらせる」と宣言したが、これまでの姿勢はイスラエル寄りが鮮明。ネタニヤフ首相は「歴史的に最も偉大な(大統領への)復帰だ」と祝意を示した。

ガザ中部で避難生活を送る無職ファリダ・アルグルさん(27)は電話取材に「トランプ氏はイスラエルを熱狂的に支持している。戦闘はすぐには終わらず、それどころか激化するだろう」と声を落とした。

イスラエルの後ろ盾でガザの停戦交渉を仲介する米国の大統領選は、戦闘の行方も左右するとして結果を気にしていたという。

理学療法士ファトマ・ムサさん(23)は「米国はいつもイスラエルを擁護している。大統領が新しくなっても何も期待することはない」と言い切った。無職のヘシャム・アドナンさん(37)は「2人の子どもを抱え、米国の選挙を気にしている場合ではない」と嘆いた。【11月6日 共同】
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トランプ復権でネタニヤフ首相が更に強気になると思われますが、それに対しハマス・ヒズボラがどのように反応するのか・・・場合によっては停戦が早まることも。

【イランの改革派ペゼシュキアン大統領はアメリカの強力が得られず国内的に苦しい立場に】
イランは表向きは「アメリカの大統領選はイランとは無関係」といった姿勢を見せてはいますが、改革派ペゼシュキアン大統領はトランプ氏相手では核合意復活もならず、制裁解除も引き出せない、その事態に国内保守強硬派から批判される・・・と苦しい立場になると予想されます。

かつて改革派のハタミ大統領はアメリカとの関係改善を梃子にした低迷するイラン経済の活性化を目論みましたが、アメリカがこれに応じなかったことで、国内保守強硬からの突き上げを受け弱体化して、国内の改革も頓挫しました。

****イラン政府の広報官「誰が大統領でもイランの政策変わらない」 米大統領選の結果受け****
アメリカ大統領選挙でトランプ氏が勝利を確実にしたことについて、イラン政府の広報官は「誰が大統領になっても政策は変わらない」と述べました。

イラン国営通信は5日、政府の広報官が「アメリカの大統領選はイランとは無関係で、心配することはない」とコメントしたと報じました。

さらに「アメリカとイランの一般的な外交政策は誰が大統領になるかでは変わらない」とも述べたということです。

ハマスやヒズボラなどのイスラム武装組織を支援しているイランとイスラエルの後ろ盾になっているアメリカとの関係は悪化の一途をたどっています。

2018年には当時のトランプ大統領がイランの核開発を制限する「イラン合意」からの離脱を宣言し、経済制裁を再開したため、反発したイランも核開発を再開したとみられています。【11月6日 テレ朝news】
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【現在は対中国強硬姿勢をみせるトランプ氏に中国は警戒 しかし、「取引」がうまくいけば台湾も手に入る?】
中国への強硬姿勢を示すトランプ氏の復権に中国は当然警戒はしていますが、トランプ氏相手なら「取引」でなんとでもなるという思いもあるのでは? 台湾についても。

****中国はトランプ氏の“勝利宣言”をどう受け止める?注目は「関税」と「台湾」****
中国はトランプ氏の“勝利宣言”をどのように受け止めるでしょうか?中継です。

中国が最も警戒しているのは、トランプ氏が「関税」を武器に中国に再び貿易戦争を仕掛けるのでは、ということです。習近平国家主席はトランプ氏が大統領時代、何度も会談しており、ある意味、よく知っている仲と言えるでしょう。

しかし、トランプ氏は予測不能なところがあり、やりにくいと思っているようです。

トランプ氏の再登場で中国が警戒すること。それは「関税」と「台湾」です。

前回、トランプ政権は中国に対し関税措置を発動し、中国もこれに報復するなど、激しい貿易戦争を繰り広げました。それが再び起きるのではないか。中国は非常に警戒していると言えるでしょう。

もう一つは台湾です。先日、トランプ氏が「中国が台湾に侵攻すれば、最大200%の関税を課す」と発言したことに対し、中国政府はさっそく反応しましたが、どのような台湾政策をとるのか、注視しているものとみられます。【11月6日 TBS NEWS DIG】
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上記の事柄はトランプ氏の当選が確実になって数時間の間の話ですので、これから続々といろんな動きがあるでしょう。

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ドイツ  ナチス・ホロコーストへの反省からイスラエル支持を国是に 一方でナチス的なものの復活も

2024-11-05 22:58:33 | 欧州情勢

(テューリンゲン州議会選に向けたAfDの選挙集会(8月31日)【9月3日 Newsweek】)

【今もナチスの犯罪と向き合い続けるドイツ社会】
日本が戦前軍国主義下の出来事を「昔のこと」としているのに対し、ドイツは今もナチスの犯罪と向き合い続けています。

****99歳元収容所事務員に有罪 「最後のナチス裁判」―独****
ドイツ連邦裁判所は(8月)20日、ナチス・ドイツの強制収容所に事務員として勤務していたことから殺人ほう助罪に問われ、地裁で有罪判決を受けた女(99)の控訴を棄却した。

1万人余りの殺害に加担したとして、2年の禁錮刑を下した地裁判決が確定。女は当時18~19歳の未成年だったため、執行猶予が付いた。ナチス犯罪の当事者は高齢のため公判が難しく、今回が「最後のナチス裁判」になる可能性がある。

確定判決によると、イルムガルト・フルヒナー被告は1943年6月~45年4月、ポーランド北部シュツットホーフ収容所の所長室で唯一の速記係として勤務。業務を通じてガス室での殺害やアウシュビッツ収容所への移送を助け、ユダヤ人など1万505人の殺人と、5人の殺人未遂をほう助した。

弁護側は、被告が収容所の実態を知っていたか証明できていないなどと主張。しかし連邦裁は「従順な部下として、所長らを心理的にも支えた。その働きは官僚的な組織運営にとって極めて重要だった」と結論付けた。収容所の事務員に対する初の有罪判決だった。【8月20日 時事】
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****ドイツ大統領、ナチスが壊滅させた村で「許し」乞う ギリシャ訪問で****
ドイツのフランクワルター・シュタインマイヤー大統領は10月31日、ギリシャ・クレタ島で第2次世界大戦中にナチス・ドイツによって壊滅させられた村を訪問し、ナチスが犯した罪の「許し」を乞うた。
 
シュタインマイヤー氏は同島のカンダノス村で感情のこもった演説を行い、ギリシャ語で「きょう、私はドイツを代表して許しを乞いたい」と述べた。続いてドイツ語で「ドイツがここで犯した重大な犯罪について、生存者と子孫の皆さんに許しを乞いたい」と語った。
 
1941年に連合国軍がドイツ軍の空挺(くうてい)部隊による侵攻を阻止しようとした「クレタ島の戦い」で、住民が参戦したカンダノス村では180人が命を落とし、村は壊滅させられた。
 
シュタインマイヤー氏はドイツ大統領として初めてクレタ島を訪問。虐殺の生存者らに迎えられたが、中にはドイツ政府が戦時賠償金の支払いを拒み続けていることに対する抗議のスローガンを叫ぶ人もいた。 【11月1日 AFP】
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その一方で、ナチス復活を目論むような動きも。

****ナチス建国図り軍事訓練=過激派8人を拘束―独検察****
ドイツ検察は5日、ナチス思想に基づく国家の再建を図りテロ組織を結成した疑いで、過激派グループの男8人を拘束したと発表した。報道によるといずれも20代で、武装して準軍事的な訓練を繰り返していたという。

検察によると、男らは「ザクセン分離主義者」を自称する反ユダヤ主義や終末論的な考えを持つ15〜20人のグループに属し、ザクセン州など東部地域一帯を武力で制圧することを計画。「来たる『Xデー』にドイツが崩壊する」と想定し、市街戦や銃器の使用、夜間行進などの訓練を行っていた。【11月5日 時事】 
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上記のような“ナチス思想に基づく国家の再建を・・・”といったものが、「おかしな考えの人間はどんな社会にもいる」といった類のものなのか、あるいは、ドイツ社会でうごめくものから派生するものなのか・・・

【「イスラエルとその国民の安全はドイツの『国是』だ。」(ショルツ独首相) 一方で、イスラエル批判も拡大】
ナチスのホロコーストへの反省ということから、ドイツはイスラエルを継続的に支援してきました。個人的には“ホロコーストへの反省”と“現在のイスラエルの行っていることへの支持”はイコールではないと思いますが。

ショルツ独首相は「イスラエルとその国民の安全はドイツの『国是』だ。」とも。
しかし、ドイツ国内ではガザでの民間人犠牲を厭わない攻撃に対し、イスラエル批判が高まっています。

****揺れるドイツ イスラエルを守る「国是」がなぜ?どうする?****
「イスラエルの国家の存立と安全のために立ち上がることがわれわれの使命だ」
これはイスラエルと強い同盟関係にあるアメリカ大統領の言葉ではありません。ドイツ・ショルツ首相の言葉です。

イスラム組織ハマスとイスラエルとの軍事衝突で、一貫してイスラエル寄りの姿勢を示すドイツ。そこにあるのは、ナチスによるあの負の歴史です。

しかし、いまその「国是」とするイスラエル寄りの方針に反発の声も高まり始めています。ドイツでいったい何が起きているのでしょうか。

ナチスの反省を受け継ぐドイツ
11月9日、ドイツは「水晶の夜事件」から85年を迎えました。日本人のなかには知らない人もいるかもしれませんが、ドイツ国民の記憶に深く刻み込まれた事件です。

ヒトラー率いるナチス政権下にあった1938年11月9日から10日にかけて、ナチスのメンバーがユダヤ人の住宅や商店を襲撃。ユダヤ教の礼拝所シナゴーグも破壊され、多くのユダヤ人が殺されました。割られて散乱したガラスが月明かりで「水晶」のように光ったとしてその名で呼ばれるようになりました。

のちに600万人にのぼるユダヤ人が虐殺された「ホロコースト」につながった事件として、毎年各地で、追悼行事が開かれています。

ユダヤ人が強制収容所へ送り出された駅のホーム跡(ベルリン郊外)そのひとつ、ベルリンの中心部から少し外れた駅に残る鉄道のホーム跡地で開かれた行事。このホームは、ナチス政権下のベルリンで暮らしていたユダヤ人をアウシュビッツなどの強制収容所に送るために使われました。

9日夜には、地元の高校生など数百人が集まってろうそくをかざし、命を奪われたユダヤ人に祈りを捧げました。ドイツでは、こうした行事が毎年行われ、社会全体でナチスの反省を共有し、「ホロコーストを繰り返さない」という誓いを受け継いできました。

イスラエルの安全は「国是」と語る首相
そのドイツにとって第2次世界大戦後に建国されたユダヤ人国家、イスラエルは特別な存在です。イスラエルを守ることには歴史から生じる特別な責任があるなどと言われ、ドイツ政府は今回の軍事衝突でも一貫してイスラエル寄りの姿勢を示しています。

その姿勢を象徴するのがショルツ首相が使う「国是」という言葉です。ショルツ首相は、10月17日、軍事衝突開始後、G7=主要7か国の首脳として初めてイスラエルを訪れました。そして、イスラエルの安全のために取り組むことは「国是」だと述べました。

「イスラエルとその国民の安全はドイツの『国是』だ。ドイツの歴史とホロコーストから生じたわれわれの責任により、イスラエルの国家の存立と安全のために立ち上がることがわれわれの使命だ」

今回の衝突をめぐりドイツ政府は「イスラエルにはハマスの攻撃に対して自衛の権利がある」と常に強調。民間人の犠牲は避けるべきで、人道物資の搬入を目的とした戦闘休止は支持する一方、停戦については否定的な姿勢を示し、イスラエルに攻撃をやめることまでは求めていません。

国内で上がり始めた反発の声
ただ、ドイツ国内ではイスラエルによるパレスチナのガザ地区への激しい攻撃で民間人の犠牲が増えるにつれ、政府のイスラエル寄りの姿勢への反発の声が上がり始めています。

各地で政府に対して停戦を呼びかけるよう求めるデモや集会が開かれるようになっていて、11月4日にはデュッセルドルフで1万7000人、ベルリンで9000人(いずれも参加者数は地元メディア)が参加しました。ハマスの攻撃以降で最大のパレスチナ寄りのデモでした。

集会の参加者で目についたのが中東などにルーツを持つ人たちでした。多くは、戦後、移民としてやってきた人や移民の子どもとして生まれたドイツ人です。(中略)

(両親がパレスチナの出身で、自身はベルリンで生まれた)サイードさんは、現状についてこう不満を語りましたー。

サイードさん  「ドイツにおいては、ホロコーストの責任を忘れてはならないし、反ユダヤ主義をどんなかたちであっても許してはいけないと思います。ただ、いまの問題は、ドイツ政府や政治家が『反ユダヤ主義』と『イスラエル批判』を混同し、声を上げないことです。民主主義国家として戦争犯罪を非難し、少なくとも停戦を求める責務があるはずです」

さらに、集会には外国にルーツのないドイツ人も参加していました。(中略)

ドイツの世論に変化も?
ドイツの世論の受け止めはどうなっているのでしょうか?

有力紙ウェルトが(23年)10月中旬に行った世論調査では、政府がイスラエル寄りの姿勢を明確に示していることについて、66%が「正しい」、16%が「正しくない」、18%が「わからない」と答え、イスラエル寄りの政府の姿勢には一定の支持が寄せられているとみられます。

しかし、その後の世論調査では軍事行動への厳しい見方も出てきています。
公共放送ARDが(23年)10月下旬から11月上旬に行った調査では、市民の犠牲を伴うイスラエルの軍事行動についての意見を聞いたところ、「正当化できない」と答えた人が61%で「正当化できる」の25%を大きく上回りました。イスラエルがハマスの掃討を掲げて行ってきた大規模な攻撃に懸念が広がっていることも伺えます。(中略)

イスラエルの安全が「国是」だと言い切る首相の言葉からは、ホロコーストの歴史を踏まえた強い責任感や使命感が感じられる一方、政府の対応と国民の受け止めにはズレも生じていて、歴史にとらわれバランスを失いかねない危うさも感じます。

第2次世界大戦後、ナチスの歴史を踏まえ、世界に平和や人権を重んじる国になったとアピールしてきたドイツ。デモや集会に参加する人たちからは、その大方針を貫いて欲しいという思いも感じられます。今回の衝突はイスラエルと強く結びつくドイツを揺らし続けています。【2023年12月1日 NHK】
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上記記事は約1年前のものですが、ドイツ政府の対応は基本的には変わっていません。

連立与党・緑の党のべアボック外相は10月14日にドイツ議会でドイツ政府としてのイスラエル支持・支援に関して、「(パレスチナのイスラム組織の)ハマスが人々や学校の陰に隠れている場合、難しい問題ですが、私達は(そこへ攻撃することを)ためらうことはしません。だからこそ、私は国連に対し『民間人のための場所であっても保護対象から外れる場合がある』『テロリストが悪用しているからだ』と明確にしました。それがドイツがよって立つ理念であり、私達にとって、イスラエルの安全保障が意味するものだからです」と演説。

これはイスラエルが民間人・民間施設を攻撃していることを正当化する発言です。

“ベアボック外相の発言に対しては、国連のパレスチナ問題に関する特別報告者であるフランチェスカ・アルバネーゼ氏も、自身のX(旧ツイッター)に、「国連の独立専門家として、私はドイツがイスラエル/パレスチナに対して取っている立場や、その危険な意味合いと結果を深く懸念している。」と。【10月30日 YAHOO!ニュースより】

シュタインマイヤー大統領も「ドイツはイスラエルを支持する責任がある」と。
しかし、一方でイスラエルの攻撃に抗議するデモも広がっています。

****ドイツ、反ユダヤ主義に警鐘 奇襲1年、イスラエル支持批判も****
ドイツ各地で7日、イスラム組織ハマスによるイスラエル奇襲から1年に合わせ、犠牲者追悼の行事が開かれた。

ベルリンでの式典でシュタインマイヤー大統領は、ナチス・ドイツのホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の過去に触れ「ドイツはイスラエルを支持する責任がある。反ユダヤ主義の台頭を二度と許さない」と警鐘を鳴らした。

ドイツは過去の反省から、第2次大戦後にユダヤ人国家として建国したイスラエルの安全保障を国是とする。

一方、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザやレバノンへの攻撃に抗議するデモもドイツ各地であり、参加者はイスラエルを支持する政府を批判した。【10月8日 共同】
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【極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」台頭に重なるナチスに同調する動き】
ナチス的なものの復活については、特にドイツ東部で極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が台頭していることはこれまでも取り上げてきましたが、その動きと重なる部分もあるようです。

****ナチスの影、街を分断 格差埋まらず極右肥大化―「よそ者」に矛先・ドイツ東部****
ザクセンなど旧東ドイツの3州で、9月に州議会議員選挙が実施される。反移民を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が第1党をうかがう勢いだ。

東西統一から34年近くを経ても旧西ドイツ地域との経済格差は埋まらず、不満の矛先は増加する「よそ者」に向かう。今月中旬訪れたザクセン州では偏狭な民族意識が街に分断を生み、第2次大戦後の独社会で長らくタブーだった、ナチスに同調する動きが顕在化していた。

◇難民待遇に不満
ポーランド国境にあるザクセン州ゲルリッツ。「ドイツで罪を犯した者は、速やかに国外追放されなければならない」。街外れのレストランで、AfDのゼバスティアン・ビッペル州議が熱弁を振るうと、立ち見を含む約100人の聴衆が大きな拍手で賛意を示した。

会場にいた60代の女性は「私は45年間働いたが、年金だけでは生活できない。外国人(難民)は働いていないにもかかわらず、たくさんお金を受け取っている」と不満をあらわにした。

AfDを巡っては、党首側近が今年1月、右翼活動家と移民の大量追放計画を謀議したと報じられた。ナチスのユダヤ人迫害を想起させる内容に社会は震撼(しんかん)した。

AfDは反国家的勢力と結び付いていると認定され、公安当局の監視下にある。それでもゲルリッツ地区では、6月の欧州議会選で40.1%の高い得票率を得た。

ビッペル州議は時事通信の取材に「支持者はわれわれが極右ではないと分かっている」と強調した上で、「住民は国境に関わる犯罪に長年悩まされ、収入は国内で最も低い水準だ。街は変化を望んでいる」と語った。こうした訴えが、多くの外国人を受け入れ、環境保護やウクライナ支援などを優先する政治に置き去りにされたと感じる市民を吸い寄せている。

◇かぎ十字「当たり前」
州都ドレスデンから南西約20キロのピルナでは7月、小学校の児童らがナチスを象徴するかぎ十字を作ったり、右翼の間で流行している「外国人は出ていけ」という替え歌を歌ったりしたことが明るみに出た。

「昔はあり得なかった。今は右翼の憎悪表現が当たり前になっている」。同じ学校に子どもが通っているという自営業の男性は嘆いた。

ピルナでは2月、ドイツで初めてAfDが擁立した市長が就任した。市庁舎では例年、LGBTなど性的少数者のパレードの時期に合わせて多様性を表す虹の旗が掲揚されてきたが、今年は新市長が取りやめた。

パレード主催団体副代表のクラウス・エルグナーさん(37)は、右翼思想を持つ人々から公然と侮蔑されることが増えたと感じている。

「彼らはAfDの存在感の増大に力を得ている。だんだんとそれが『普通』になっている」と危機感を訴えた。ピルナに通う女子学生(17)は「対立するデモが繰り返され、街は分断されている。コミュニケーションが足りていない」と表情を曇らせた。

州議選は9月1日にザクセンとテューリンゲン、22日にブランデンブルクの3州で実施される。直近の世論調査では、AfDが各州25~30%前後の支持率で、優勢を保っている。【8月25日 時事】
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9月1日の東部2州の州議会選挙の結果は“ドイツ東部2州で1日、州議会選挙が行われ、即日開票の結果、テューリンゲン州で移民排斥を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が第1党となった。同党が2013年の結党以来、州議会で第1党となるのは初めて。ザクセン州でも第1党に肉薄した。”【9月2日 産経】と予想されたようにAfDが躍進し、国政与党が大敗しました。

****「ホロコースト記念碑は『恥ずべき記念碑』」****
ドイツの民主主義への脅威を監視する連邦憲法擁護庁(BfV)は昨年、AfDの青年団「ヤング・オルタナティヴ」を極右過激派組織と認定。ザクセン州とテューリンゲン州のAfD支部も極右過激派組織と認定されている。にもかかわらず州議会選で歴史的な大成功を収めたのはなぜか。

テューリンゲン州のビョルン・ヘッケAfD党首はナチス時代のレトリックを使い、極端な民族主義・極右的見解で物議を醸してきた。ベルリンのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)記念碑を「恥ずべき記念碑」と呼び、ナチスの過去を「180度逆転」させるよう提唱した。

ヘッケ氏はナチスの準軍事組織ナチスSA(突撃隊)のスローガン「ドイツのためにすべてを」を使用したとして何度も有罪判決を受け、罰金を科せられている。ドイツの裁判所はヘッケ氏を 「ファシスト 」と呼んでも名誉毀損に当たらないとの判決を下している。【9月3日 木村正人氏“極右「ドイツのための選択肢」が地方選で「歴史的」勝利...東西の分断はドイツに何をもたらすのか?” Newsweek】
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イスラエル支援を国是とするようなホロコーストへの反省と、ナチス的なものの復活が共存するドイツ社会です。

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南アフリカ  失業や犯罪の原因として暴力の対象となる近隣諸国からの移民

2024-11-04 23:15:32 | アフリカ

(2017年2月24日、南アフリカのプレトリアで、さまざまな地域の南アフリカ人が不法移民に対して抗議活動を行ったフォーリン・マーチで、デモ参加者と警察が衝突。警察は状況を鎮圧するためにゴム弾とスタン手榴弾を発砲した。【2017年3月20日 HUFFPOST】 

写真は不法移民抗議者と警官の衝突場面ですが、2017年という日時からわかるように、不法移民へ抗議・・・ときに嫌悪・・・ときに暴力は今に始まった話ではありません。)

【違法採掘移民への「兵糧攻め」】
つい先ほど目にしたニュース。

****金やダイヤモンドなど違法採掘する「ザマザマ」、南ア警察が「兵糧攻め」で565人拘束****
南アフリカの警察は3日、金鉱山などの廃坑を乗っ取って違法採掘する移民「ザマザマ」の取り締まりを行い、565人を拘束したと発表した。廃坑の出入り口を封鎖して水や食料の供給を妨げ、脱水症状や飢餓で地上に出てきたところを拘束したという。
 
警察は北東部オークニーの廃坑で数日間かけて取り締まりを行った。坑道に1000人近くがこもっているとみられ、地下生活を1年以上続けている人もいるという。昨年12月以降のザマザマ対策では、1万3600人以上が拘束され、3200万ランド(約2億7700万円)相当の未加工ダイヤモンドを押収した。

南アでは国内総生産(GDP)の2割超を占めていた鉱業が1980年代以降に衰退し、ザマザマが廃坑で違法に採掘するようになった。隣国モザンビークやジンバブエからの不法移民が多く、危険な労働環境で極貧の生活を強いられている。

ザマザマとはズールー語で「幸運への挑戦者」を意味する。治安悪化の要因とされ、今年5月の総選挙ではザマザマ対策が争点となった。

採掘された金の多くは、国際犯罪組織を通じて中東ドバイなどに送られているという。【11月4日 読売】
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違法採掘の問題はさておき、「兵糧攻め」と言えば多少聞こえはいいですが、“廃坑の出入り口を封鎖して水や食料の供給を妨げ、脱水症状や飢餓で地上に出てきたところを拘束”という場合によっては命の危険もある手段です。

こうした方法が許されるのは、一般的に南アフリカの治安は世界的にも極めて悪く、生ぬるいことはやっていられないということもありますが、特に対象がモザンビークやジンバブエからの不法移民が多いとなると、容赦なくなるのかも・・・・想像ですが。

【貧困に苦しむ黒人若者】
南アフリカでは、10月28日ブログ“南アフリカ  総選挙で想定以上に大敗した与党ANCは白人政党と統一政府  根深い人種間の分断も”でも取り上げたように、人種問題が当然ありますが、人種問題は底辺で暮らす黒人の生活が極めて苦しいという問題でもあります。

****「朝起きて盗んでの繰り返し」抜け出せない貧しさに若者が吐き出す怒り 南アフリカ総選挙 政治不信強まる“ボーン・フリー世代”が鍵****
シリーズ「現場から、」です。BRICS=新興5か国の一角として世界から注目される南アフリカで、きょう総選挙が行われます。今回、結果を左右するとされているのが、その多くが格差に苦しめられている若い世代です。

アフリカ有数の経済大国、南アフリカ。ところが、今も国民の6割が貧困ライン以下で暮らしています。

記者  「駅なんですが、数年前まで電車が運行していたんですけれども、レールや電線が盗まれる被害が相次ぎ、今は電車が運行できなくなっています」
新型コロナ以降、貧しさに追い打ちをかけられた市民による略奪が横行しました。

さらに、街を歩くと…
「(Q.何しているの?)食べ物を買うために、お金を稼ごうと思って」
まさに今、建物から鉄を剝がし、盗んできたという集団がいました。

「朝起きてはここに来て、盗んでの繰り返しです。仕事がないから」 「働いたことがないです。(Q.仕事を探そうとはした?)はい。でも見つからなかった」 「(Q.どうやって生計を立てている?)盗みです」

南アフリカの失業率は30%あまり。全員働き盛りの20代にもかかわらず、仕事がなく犯罪を重ねていると自白します。

南アフリカでは30年前、白人が黒人を差別し統治した「アパルトヘイト=人種隔離政策」が撤廃され、マンデラ大統領率いる初の黒人政権が誕生しました。

以来、与党ANCは国民の絶対的な支持のもと、政権を維持してきました。ところが、30年経った今も人口の1割が富の7割を独占するなど格差は解消されないまま。

国民の支持は失われ、今回の選挙でANCは初めて過半数割れする見通しが強まっています。

特にアパルトヘイト撤廃後に生まれた若い世代は、政治的に自由な「ボーン・フリー世代」と呼ばれ人口の半分にのぼりますが、マンデラ氏やANCに恩義を感じたことがなく、政治不信を強めています。

こうした世代から支持を集めるのが、黒人によるポピュリズム政党「経済的解放の闘士」。

経済的解放の闘士 ンドロジ議員 「EFFは抑圧に耐えてきた人たちの味方です」
白人の土地の強制収用など過激な公約を掲げ、世論調査では支持率は最大野党「民主同盟」に続きます。

今回、初めて投票するという若者に話を聞くと…

初めて投票する人 「多くの人が仕事に就けず、寝る場所や食べるものすらない状況です。そんなのはもう終わるべきなんです。(Q.ANCには投票しない?)投票しないです」 「絶対にありえません」

希望の選挙から30年。若者の選択が注目されます。【5月29日 TBS NEWS DIG】
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【失業・犯罪の原因として暴力の対象となる近隣国からの移民】
南アフリカに限った話ではありませんが、こういう“寝る場所や食べるものすらない”という苦境は移民への攻撃になりがちです。「あいつらがいるせいだ」と。

南アでは、人種問題で苦しむ一方で、同じアフリカの外国人に対する嫌悪が非常に強い国です。

*****外国人嫌悪で南アのミスコン辞退、ナイジェリアで再挑戦の大学生****
南アフリカで激しい外国人嫌悪と中傷によってミスコンテストの出場辞退を余儀なくされた女性が今週、ミス・ユニバースのナイジェリア代表に選ばれるかもしれない。

大学で法学を学ぶチディマ・アデッチーナさんは、南アフリカの最大都市ヨハネスブルク郊外のソウェトで、ナイジェリア人の父のもとに生まれた。

だが、アデッチーナさんがミスコンテストに出場すると、インターネットを中心に反外国人感情が露呈。閣僚さえもが騒動に加わり、アデッチーナさんの母親が素性を偽った可能性があるとする政府調査の結果まで発表された。アデッチーナさんは「家族の安全のため」に辞退することになった。

そうした中、ミス・ユニバースのナイジェリア代表選考会の主催者が救いの手を差し伸べた。
ミス・ユニバース・ナイジェリア創設者のガイ・マレーブルース氏はAFPに対し、「世界は人種差別に満ちあふれている」「私たちは互いに争うべきではない。私はアフリカ、黒い大陸の団結を望んでいる」と語った。(後略)【8月28日 AFP】
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ミスコンテストの出場辞退ならまだいいですが、もっとむき出しの暴力も。

****南アフリカ:襲撃に怯えるジンバブエ移民ら****
4月上旬、南アフリカのヨハネスブルグ北部、ディープスルートで自警団による移民襲撃が繰り返され、ジンバブエ人1人が死亡した。当局は、自警団の暴力から移民を保護する対策を強化しなければならない。

数人の移民がアムネスティに語ったところでは、今、多発する犯罪や増加する失業が移民のせいにされており、移民を敵視する自警団にいつ襲われるかもしれない恐怖の中で生活しているという。

自警団は、「移民の排除は地域社会から犯罪をなくすため」と主張する。当局によれば、3つの自警団によって少なくとも7人が殺された。

シリル・ラマポーザ南アフリカ大統領は、移民、特にジンバブエ人が、自警団の襲撃対象になっているという認識を示している。実際、自警団による移民襲撃は、ディープスルートだけでなく、南アフリカ全体に広がりつつある。

ここ数カ月、ヨハネスブルグのソウェトやヒルブロウでも移民を狙った極めて組織的な襲撃事件が起こっている。

襲撃が続いていることは、警察当局の無策と、襲撃に対する政府内の問題意識の欠如を浮き彫りにしている。いずれの事件も、未然に防止することはできたはずだ。

殺害
ヨハネスブルグで7人が殺害された複数の襲撃がきっかけに、反移民の自警団に対する抗議が始まった。

社会不安が広がる最中、ジンバブエの男性が、自警団から要求された身分証明書を見せることができなかったため、焼き殺された。この殺害をめぐり、犯人が逮捕されたかは明らかになっていない。

その後、ラマポーザ大統領は、相次ぐ襲撃事件の対応に警察力を増強すると約束し、また、外国籍の人たちへの暴力や脅しをやめるよう市民に呼びかけた。

「もはや安心して暮らせない」
ジンバブエやモザンビークから来た人たちは、アムネスティに「大変な恐怖の中で暮らしている」と話す。警察や自警団に、理由や権限もなく身分証明書の提示を要求され、日常的に身の危険を感じているという。(中略)

襲撃の被害者を含む移民の人たちは、昨年末に特別在留許可の期限が切れた後、大統領に「身の安全を保障し、ちゃんとした身分証明書を出してほしい」と訴えてきた。

またモザンビークからの移民は、「自警団に犯罪者扱いされるのが辛い。家族のために働いているだけ。祖国を出たのは、国内の状況が厳しかったから」と話す。

移民への襲撃が始まったのは2008年だが、その年だけで60人以上の移民が犠牲になった。以来、移民襲撃は毎年発生してきた。アムネスティは、南アフリカ政府に対し移民への暴力追放に向けた政策を立て、加害者が罪を問われない状況に終止符を打つことを繰り返し求めてきた。

今回、ラマポーザ大統領が、昨今の襲撃殺害事件を強く非難したことは評価したい。今こそ大統領は、自警団の暴力から移民を保護する具体的な対策を実行し、この憎むべき犯罪を起こした者が必ず法の裁きを受けるようにしなければならない。

背景情報
ジンバブエからの移民は、特別在留許可を発給された上で南アフリカに長年暮らし、働いてきた。だが、反移民感情の圧力に屈した政府は昨年末、在留許可の更新を突然取りやめたため、移民は不法滞在の状況に陥った。

移民排除で組織化する自警団は、#PutSouthAfricaFirst(南アフリカ人第一)などのハッシュタグを使い、ジンバブエや他の国から来た人たちで昨年末に特別在留許可の期限が切れた人たちを標的に襲撃してきた。

その後、政府は方針を転換し、ビザ申請により在留資格を取得できるようにするため、今年末までの在留を認めた。とはいえ、正規の身分がないことに変わりなく、移民は襲撃を受けやすくなっている。

今年2月、ヨハネスブルグの南の町ソウェトと、ビジネスの中心地ヒルブローでも襲撃事件があったが、警察はその場にいたにもかかわらず、取るべき対応を取らなかった。【2022年4月22日 アムネスティ国際ニュース】
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外国人襲撃の加害者は、刃物や棒など身の回りの品を凶器に集団で暴力を行使するようです。一方、標的となるのはモザンビーク、マラウイ、ジンバブエなど近隣国出身の人々である場合が多く、更に西アフリカからやってきたナイジェリア人も襲撃対象にされることが増えています。

世界銀行の2018年の統計によると、南アフリカの移民数は現在約404万人と推定され、総人口約5800万人の7%近くに達しています。国別ではモザンビーク約68万人、ジンバブエ約36万人、レソト約31万人など近隣国出身者が多数を占めており、その多くが鉱山、プランテーション農場、飲食店、建設現場で働いており、富裕層家庭の庭師やメイドとして働いている人も多くいます。

【自らの失政の責任を移民になすりつける政府・政治家】
移民など外国人への暴力は単に自警団や貧困層によるものではなく、「外国人が仕事を奪っている」などと、そうした外国人嫌悪を煽っている政治家の責任もあります。政府・政治家が自分たちの失政を外国人のせいにしている側面も。

****南アフリカ:外国人嫌悪を助長する政府****
南アフリカではこの数週間、移民、難民、庇護希望者への暴力が多発し、外国人が経営する店舗や事務所が略奪や放火される事態が続いている。

特にヨハネスブルグとプレトリアの2都市では、ナイジェリア人をはじめとする外国籍の人たちが経営する複数の事業所が狙われ、在庫や備品類など数百万ドル(数億円)相当が灰になった。

この1週間では、ヨハネスブルグなど各都市で地元住民と移民らの衝突で、確認されただけでも5人が死亡した。
当局は、こうした事態を予測できなかったわけではない。

移民、難民、庇護希望者は、何年にもわたり「外国人」として敵視されてきた。その背景には、恥知らずな政治家たちが、「外国人が仕事を奪っている」などの悪質な強弁を繰り返し、社会問題を取り上げてはその原因を移民らに転嫁し、移民らを格好のスケープゴートに仕立て上げてきたことがある。

2016年、ヨハネスブルグ市長は、「外国人が町を乗っ取り、犯罪を増やしている」と移民らを犯罪者呼ばわりしたし、昨年には、内務大臣が、医療費の負担増の矛先を移民らに向けた。

2008年、市民と移民らの衝突で、60人余りが亡くなった。移民らに対する大規模な排斥の始まりだった。政府がこの時、憎悪問題の根絶に向けて、加害者を処罰するなど適切な対応を取っていれば、事態は変わっていたはずである。

今日の事態は、移民、難民、庇護希望者に対する犯罪に手を打ってこなかった結果である。犯罪を放置してきたことで、移民ら弱者が、ますます無防備な状況に置かれている。

さらに、政治家らが、犯罪の増加、社会保障費の負担増、違法ビジネスの横行などの原因を移民らに転嫁したことで、外国人嫌悪は深まり、衝突が激化した。

事態の収束に向けて、政治家や関係当局は、政治的理由で問題の矛先を移民らに向け、彼らの排撃に油を注ぐのはやめ、人権と法の支配が根付く国家を目指すべきである。

また、難民、庇護希望者、移民らの安全を保障する政策を実施し、襲撃問題に終止符を打たなければならない。そのためにはまず、過去の憎悪犯罪の容疑者を処罰し、再犯への道を断つことである。【2019年9月11日 アムネスティ国際ニュース】
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アメリカ大統領選挙の行方を見守るウクライナ国民とゼレンスキー大統領

2024-11-03 23:23:16 | 欧州情勢

(会談に臨むゼレンスキー大統領とトランプ候補(9月27日、ニューヨーク)【9月28日 BBC】)

【「米大統領選で戦争の重要な方向性が決まるが、私たちは関与できない」】
周知のようにアメリカ大統領選挙は5日に迫っていますが、アメリカ国内での激しい選挙戦だけでなく、その結果が世界の政治経済に及ぼす影響の大きさから、世界中が見守っています。

ハリス候補勝利ならほぼ現状維持ですが、トランプ候補勝利なら大きく変わります。
特に、現在アメリカの支援を生命線としてロシアと戦うウクライナにとっては、米大統領選挙の結果は死活的に重要で、自分たちではいかんともし難いもどかしさを感じながら、その結果を注視しています。

****ウクライナ「命運握られた状況」 兵士や遺族、米大統領選を注視****
ウクライナの戦死者遺族や現役兵士が、5日に迫った米大統領選の行方を注視している。民主党候補のハリス副大統領がウクライナ支援継続を明言する一方、共和党候補トランプ前大統領はロシアによる侵攻を交渉で終結させると主張。遺族らは大国の選挙結果に「命運を握られた状況」だとして無力感にさいなまれている。

「奪われた領土の放棄を迫られるのなら、怒りを感じる」。ビクトリア・ボリシュクさん(50)は涙ながらに訴え、ハリス氏の当選を願った。

夫セルギーさん(48)は今年3月、東部の激戦で亡くなった。2022年の侵攻直後に軍に動員され、帰還後も志願して再び戦地に赴いていた。

「夫は国を愛し、守り抜いた。歴史に名を刻んだ」とボリシュクさん。トランプ氏が当選して「支援がなくなってもウクライナは戦い続ける。だが武器が不足して犠牲は増える」と予想した。

侵攻初期に制圧された東部ドネツク州マリウポリ出身のアンナ・キシリシュナさん(51)は「米大統領選で戦争の重要な方向性が決まるが、私たちは関与できない」と嘆いた。【11月3日 共同】
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【トランプ氏「この戦争は負け戦だ」 トランプ復権なら現状是認で進む停戦交渉】
ロシア・プーチン大統領に好意的とされるトランプ氏はかねてよりウクライナ支援による戦争継続には消極的で、「自分なら1日で戦争を終わらせる」と豪語しています。

****「私なら24時間以内に戦争終わらせる」 ウクライナ巡りトランプ氏****
2024年の米大統領選で返り咲きを目指す共和党のトランプ前大統領は(23年5月)10日、米CNN主催のイベントに登壇した。ロシアによるウクライナ侵攻について「私が大統領なら、24時間以内に終わらせる。勝ち負けではなく、どう決着をつけるかという問題だ。人が殺されるのを止めるのだ」と主張し、ウクライナへの支持を明言しなかった。

トランプ氏は「(ロシアもウクライナも)両国とも弱みと強みがある。終わらせるには(米国の)大統領の力が必要だ」と強調した。

プーチン露大統領については「大きな過ちを犯したが、頭が良く、ずる賢い人物だ」と評価。「(彼は)戦争犯罪人か」との質問には「戦争犯罪人だと言えば、問題解決のためのディール(取引)がずっと難しくなる。後で議論されるべきだ」とかわした。

一方、ウクライナのゼレンスキー大統領とは「非常に良い関係にある」と述べたが、対ウクライナの軍事・財政支援の継続に関しては明言を避けた。その上で「欧州各国はもっとお金を出すべきだ」と主張した。(後略)【2023年5月11日 毎日】
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“24時間以内”はともかく、短期に戦争を収束させるということは、ロシアがウクライナ領土を大きく占領している現状を一定に是認する形ともなり、ウクライナにとっては領土割譲を迫られることにもなります。

最近では、トランプ氏はゼレンスキー大統領をアメリカから多額の資金を引き出すセールスマンだと批判し、ウクライナの戦争についても「負け戦」と断定しています。

****「この戦争は負け戦だ」トランプ氏がゼレンスキー氏を非難****
トランプ前大統領は(10月)17日に公開されたポッドキャスト番組のインタビューで「ゼレンスキー氏はロシアとの戦争を始めさせるべきではなかった。この戦争は負け戦だ」と述べ、戦争の責任がゼレンスキー氏にあるとも受け取れる発言をしました。

また、「ゼレンスキー氏は今まで見た中で最も偉大なセールスマンだ。彼がアメリカに来るたびに我々は1000億ドルを与えている」と非難し、「自分が大統領だったらあの戦争は決して起こらなかった」と、従来の主張を繰り返しました。

トランプ前大統領はウクライナへの軍事支援に消極的で、大統領選挙で勝利すればアメリカのウクライナ政策が大きく変わる可能性があります。【10月18日 ANNニュース】
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“負け戦”と断じる戦争のために資金を投じることはないでしょう。トランプ氏が考える「24時間で終わらせる」という停戦のあり方はおのずと見えてきます。

トランプ氏とは相性のいい、またロシア寄りとされるハンガリー・オルバン首相はトランプ氏の意を受ける形での和平仲介を行う用意があるとしています。

オルバン首相は7月11日、トランプ氏と会談、ウクライナ情勢をめぐり和平などについて協議したとみられます。

****トランプ氏、再選ならウクライナの「和平仲介」する用意 ハンガリー首相が見解****
 ハンガリーのオルバン首相は17日までに、欧州の指導者らに対して、米国のトランプ前大統領が再選された場合には本人自らロシアとウクライナの間に立ち、「和平の仲介役として行動する用意がある」と告げた。

欧州では、トランプ氏が再選すればウクライナ政府に向けてロシアへの領土割譲を迫るのではないかとの懸念が広がっている。

オルバン氏は欧州理事会のミシェル議長と欧州連合(EU)加盟国の全首脳に書簡を送り、トランプ氏が再選を果たせば「大統領就任を待たず、和平の仲介役として行動する準備を即座に整えるだろう」と指摘。同氏にはそのための詳細かつ根拠の十分な計画があるとの見解を示した。【7月17日 CNN】
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【戦況 後退を余儀なくされているウクライナ】
トランプ氏復権の予想と併せてウクライナにとって具合が悪いのは、戦局が思わしくなく、犠牲を顧みないロシアの攻勢で後退を余儀なくされていることです。

****ロシアのウクライナ制圧面積、10月は22年3月以降で最大 データ分析****
ウクライナ侵攻を続けるロシア軍が10月に制圧した面積は27日時点で478平方キロに及び、月間としては、侵攻開始直後の2022年3月以降、最大となった。AFPが28日、米シンクタンクの戦争研究所のデータを基に分析した。
 
ロシア軍はウクライナで今年8月に477平方キロ、9月に459平方キロを掌握したが、10月はそれを上回る。特に戦略的な要衝である東部ドネツク州ポクロウシク周辺で、ロシア軍が戦線を大きく押し込んだことが寄与した。
 
ロシア軍は現在、南・東方面からポクロウシクに向かっており、わずか数キロの地点にまで迫っている。
 
さらに、戦線北方に位置するハルキウ州クピャンスク近郊でも40平方キロ以上を掌握している。
 
戦力で上回るロシア軍を相手に、ウクライナ軍が東部で苦戦を強いられている状況が改めて浮き彫りになった。
 
AFPが分析に使用したのは、ISWが毎日発表しているデータで、ロシア・ウクライナ両軍が公表した情報および衛星画像に基づいている。 【10月29日 AFP】
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****ウ軍、最も強力な攻撃に直面 東部激戦地でロ軍の集落制圧続く****
ウクライナ軍のシルスキー総司令官は2日、2022年のロシアの侵攻以降、最も強力な攻撃の一つに現在直面しているとの見解を示した。チェコ軍幹部との会談後に通信アプリで明らかにした。ウクライナ東部の激戦地でロシア軍の集落制圧が続いている。
 
ロシアによる市民への攻撃も激しく、ゼレンスキー大統領は声明で、10月に無人機シャヘドがほぼ毎日飛来し、計2千機を超えたと説明。欧米や中国が無人機部品を供給しているとして、輸出管理の厳格化を求めた。(後略)【11月3日 共同】
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こうした戦況では、トランプ氏の提案する現状是認的な停戦案を拒むことは難しいでしょう。拒んで、トランプ氏が支援を停止すれば事態は更に悪化します。

ゼレンスキー大統領と9月27日に会談したトランプ氏は「戦争を終わらせるべき時だ」と話したとのこと。

****トランプ候補、ゼレンスキー氏と会談 ロシアとの戦争終わらせるべきと****
米共和党の大統領候補、ドナルド・トランプ前大統領は27日、訪米中のウォロディミル・ゼレンスキー・ウクライナ大統領とニューヨークで会談し、ロシアがウクライナで続ける戦争を終わらせるべき時だと話した。

ニューヨークのトランプ・タワーで記者団を前に、ゼレンスキー氏と並んだトランプ候補は、「我々は双方としっかりやりとりをして、これを収めてまとめるように取り組む」と述べ、「(戦争は)終わらなくてはならない。いずれは終わらなくては。(ゼレンスキー氏は)地獄のような思いをしているし、彼の国も地獄のような経験をしている」のだと話した。

ゼレンスキー大統領はその場で、「ウクライナをいかに強化するか、我々の計画をすべて共有することが大事だ」としたうえで、「もちろんそれは今の時点で決めなくてはならない。というのも、11月以降がどうなるのか私たちにはわからないので。誰が大統領になるか決めるのは、アメリカ人だけだ。

けれども11月まではプーチン(ロシア大統領)を自分たちでは止められないこともわかっている。でもそうしなくては。戦場では果敢な兵士たちが努力する。

けれども11月以降は決断しなくてはならないと理解しているし、アメリカが強力でいてくれることを期待しているし、頼みにしている。だからこそ私は、両候補と会うことにした」のだと話した。

ゼレンスキー氏はさらに、自分とトランプ候補は「この戦争は終わらせなくてはならないし、プーチンには勝たせてはならないのだという認識で一致している」と話し、自分の「勝利計画」について詳細をトランプ候補に説明するつもりだと述べた。【9月28日 BBC】
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「誰が大統領になるか決めるのは、アメリカ人だけだ」というのがゼレンスキー大統領の悩みです。

ハリス氏勝利の場合はゼレンスキー大統領の提示する「勝利計画」、アメリカ供与の長距離兵器の使用制限の解除・緩和などが問題になりますが、それはハリス氏勝利の後に。

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EU・フォン・デア・ライエン委員長とハンガリー・オルバン首相 ウクライナ支援で激しい批判の応酬

2024-11-02 23:16:38 | 欧州情勢

(フランス・ストラスブールの欧州議会で演説するEUのフォンデアライエン欧州委員長(左)を見つめるハンガリーのオルバン首相=9日【共同】)

【フォン・デア・ライエン委員長 公然とハンガリー批判 ハンガリー動乱を念頭に「ソ連による軍事介入で、彼らはハンガリー人に責任があると言うのだろうか」】
常々取り上げているように、EU内にあって、ポーランドとハンガリーはいわゆる西欧的価値観とは異なる価値観を前面に出し、言論の自由への弾圧や司法への介入、移民受入れ・性的少数者の権利の問題での消極姿勢など、EUの方針に反対する“異端児”的な存在となっています。

特にハンガリー・オルバン首相はEUのウクライナ支援についても消極的姿勢ですが、最近そのロシア寄りの姿勢を強め、EU議長国の立場にありながら、EUを公然と批判しています。(ポーランドはロシアとの確執の歴史があって、反ロシアの急先鋒としてウクライナを支援しています)

*****ハンガリー首相「ウクライナは勝てない」 支援巡りEUと対立激化*****
欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は9日の欧州議会で、ウクライナへの支援に消極的でロシア、中国寄りの姿勢を取るハンガリーが「欧州に安全保障上のリスクをもたらしている」と非難した。

ハンガリーのオルバン首相は8日、「ウクライナはロシアとの戦争に勝てない。EUのウクライナ支援は愚かだ」と発言しており、EUとハンガリーの対立が一段と深刻化している。

フォンデアライエン氏は9日の欧州議会で、「ロシアの戦争での残虐行為を世界が目撃している。それでもなお、侵略者よりも侵略された側に責任があると主張する人たちがいる」とハンガリーを念頭に発言。「ならば1956年のソ連による(ハンガリーへの)軍事介入で、彼らはハンガリー人に責任があると言うのだろうか」と皮肉った。

EU各国はロシアの侵攻を受けるウクライナに対し、資金や武器、弾薬を供給するなどし、戦闘継続を支えている。

だが7月1日にEU加盟国で構成する欧州理事会の議長国に就任したオルバン氏は同月、他の加盟国と調整しないままウクライナの首都キーウ(キエフ)でゼレンスキー大統領と会談。その後、モスクワでロシアのプーチン大統領、北京で中国の習近平国家主席と相次いで会談するなど、独自の「仲介外交」でウクライナ、ロシア間の和平交渉を促そうとしている。

また、欧州市場でシェアを拡大する電気自動車(EV)など、政府の補助金を受けた安価な中国製品に対しEUが警戒を強める中、ハンガリーは中国との経済連携を強化している。さらにオルバン政権は今年2月、ハンガリー国内に中国の警察官を受け入れ、巡回などを認めると発表した。

フォンデアライエン氏は9日の欧州議会で「なぜ中国の警察官を受け入れるのか。これは欧州の主権の防衛ではなく、欧州への外交介入につながる」と批判。

また、EUがビザの発給を厳格化しているロシア国民に対してハンガリーが就労許可手続きを簡略化する措置を講じていることについても、「ハンガリーだけでなくEUの全加盟国にとって安全保障上のリスクとなる」と述べた。

オルバン氏は7月、ウクライナ支援に消極的なトランプ前米大統領とも米フロリダ州で会談している。オルバン氏は今月8日、11月の米大統領選に言及し、「トランプ氏が当選したら、就任を待たずに(ウクライナとロシアの)和平に向け動くだろう。欧州の首脳もこれに応じなければならない」と強調。「トランプ氏が大統領に返り咲いたらシャンパン数本で祝おう」と述べた。

オルバン氏と蜜月関係にあるトランプ氏が大統領選で当選すると、ウクライナ支援を巡る欧州の結束が乱れ、米欧の外交関係が混乱する懸念がある。【10月10日 毎日】
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ハンガリーが中国の警察を受け入れたことについては、中国の観光客の増加に対応するためということを名目にしていますが、海外在住の中国人に対する嫌がらせや弾圧に利用されるのではないかとの懸念があります。

****「中国警察の活動許可」 EUがハンガリー非難****
欧州連合(EU)行政執行機関トップのフォンデアライエン欧州委員長は9日、ハンガリーのオルバン政権が自国内で中国警察の活動を許可していると指摘し「欧州の主権を守ることにはならない。外国による干渉を許すことになる」と非難した。フランス・ストラスブールの欧州議会で演説した。

ハンガリー内務省が国内でのパトロールに中国の警察官の同行を認めたことを受けた発言。欧州議会によると、海外在住の中国人に対する嫌がらせや弾圧に利用されるのではないかとの懸念が強まっている。一方、中国の警察署が複数の加盟国に秘密裏に設置されているとの報告もある。【10月9日 共同】
******************

フォンデアライエン欧州委員長のハンガリー批判は、同じEU加盟国同士とは思えない激しいものです。そこまでEU指導部とハンガリー・オルバン首相の間の溝が深まっているということでしょう。

****〈公然とハンガリーを非難するEU〉フォン・デア・ライエン委員長の演説で見せた対立の要因****
10月9日、欧州議会における演説で、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長が、ロシアとの関係を中心にハンガリーのオルバン首相の行動を厳しく非難した。先例のない演説と思われるので、その一部を紹介する。

(ウクライナの戦争)
「世界はロシアの戦争の残虐行為を目撃した。しかるに、今なおこの戦争を侵略者ではなく侵略された者のせいにする向きがある。プーチンの権力の欲望ではなくウクライナの自由への渇望のせいにする向きがある。

よって、彼等に問いたい。彼等は1956年のソ連の侵攻はハンガリー人のせいだというのか? 彼等は68年のソ連による弾圧はチェコ人とスロバキア人のせいだというのか? 彼等は91年のソ連による弾圧はリトアニア人のせいだというのか? 

我々ヨーロッパ人は種々異なる歴史と言語を持っているかも知れないが、平和が降伏と同義語であるヨーロッパの言語はない。主権が占領と同義語である言語もない。ウクライナの人々は、ソ連の支配から中央・東部ヨーロッパを解放した英雄と同じく、自由の戦士である」。

「ウクライナとヨーロッパにとって公正な平和への道は一つしかない。我々は、政治的・財政的・軍事的支援をもってウクライナが抵抗出来るよう助け続けねばならない。

先月、自分は主要7カ国(G7)が約束した500億ドルの融資の一部として最大350億ユーロをウクライナに融資することをキーウで公表した。この融資は凍結されたロシア資産が生む利子をもって償還されることになる。

我々はロシアに損害を弁済させる。我々は、この冬を通じて、そして必要な限り、ウクライナと共にある」。

(ロシアの化石燃料の輸入問題)
「我々は汚いロシアの化石燃料を使い続けるべきだと思っている人達に言いたい。ロシアの戦車がウクライナに侵入して数日のうちにヨーロッパの指導者はベルサイユに参集した。27すべての加盟国が出来るだけ早くロシアの化石燃料から離れて多様化すべきことに合意した。

1000日後の今日、この約束はどうなったか? ヨーロッパは確かに多様化した。――(中略)――しかし、すべての加盟国がベルサイユの約束を実行した訳ではない。その代わり、ある加盟国はロシアの化石燃料を買う別の手段を探しただけだった。

ロシアは何度となく信頼に足る供給者でないことを証明して来た。最早更なる言い訳は許されない。ヨーロッパのエネルギー安全保障を願う者は誰であれ、まずはそれに貢献する必要がある。それが従う必要のあるルールである」。

(移民問題)
「オルバンは、ハンガリーは『その国境を守っており』、ハンガリーでは『犯罪人は拘留されている』と述べた。しかし、昨年、ハンガリー当局が密輸と人身売買の犯罪人を刑期が終わる前に釈放した事実にこの発言はどのように適合するのか訝しく思う。

これはヨーロッパの不法移民と戦うことにならない。これは欧州連合(EU)を守ることにならない。これは隣国とのフェンス越しに問題を投げるだけのことである」。

「我々は皆、域外国境をより良く守りたいと思っている。しかし、それは組織犯罪に共同で対処し我々の結束を示してのみ、成功するであろう。誰が域内に入ることを認めるかについて言えば、ハンガリー政府が追加的なセキュリティー・チェックもしないままロシア国民をEUに招き入れるようなことが、どうして有り得るのか?

ハンガリーの新たなビザのスキームはハンガリーだけでなくすべての加盟国にとっての安全上のリスクとなる。また、ハンガリー政府が中国の警察にその領域で活動を許すようなことが、どうして有り得るのか? これはヨーロッパの主権を防衛することでない。外国の干渉のための裏口である」。

*   *   *
(論評)
ハンガリーと対立する3つの要因
10月9日、欧州議会においてオルバンも出席してハンガリーがEU議長国を務める7月以降本年後半の課題について議論が行われた。ハンガリーとブリュッセルの対立が要因で、時期が今にずれ込んだものらしい。

フォン・デア・ライエンはオルバンに続いて演説したが、オルバンに面と向かって遠慮会釈なく非難を展開したのは、ブリュッセルでオルバンに対する苛立ちが蓄積している現れかと思われる。その要因はいくつかある。

第一に、ロシアの凍結資産を使ったウクライナ支援である。10月9日、EU理事会はG7が合意した最大450億ユーロ(500億ドル)の対ウクライナ融資に対するEUの貢献分として最大350億ユーロの融資を行うことで合意した(今後、欧州議会の承認を要する)。特定多数決で合意を達成しハンガリーの拒否権を回避したが、ハンガリーはルール違反だと不満を表明している。

しかし、問題がもう一つある。それは、ロシア資産(大部分はEUの管轄下にある)の凍結というEUの制裁自体は6カ月毎に更新を要することになっており、そのような先行き不確実な状態では、G7による融資はロシア凍結資産が生む利子収益で償還されるという前提が崩れかねないため、米国が融資への参加の可否およびその規模を決め得ないとしている問題である。

EUは6カ月を36カ月とする解決策を目指しているが、この変更には全加盟国の賛成が必要とされている。問題は、ハンガリーが対ロシア制裁に関する米国の次期政権の方針を見極める必要があるとして、この決定は11月の大統領選挙まで待つべきだと主張していることである。

妨害としか思えず、トランプの立場を慮っているとしか思えない。

第二は、フォン・デア・ライエンも言及しているが、ハンガリーのNational Cardと称するスキームである。就労許可が容易なビザのスキームのようで、元来、対象はウクライナとセルビアの市民が対象だったが、7月にロシアとベラルーシおよびバルカン4カ国にも拡大された。

欧州委員会は現下の地政学的な状況でロシアとベラルーシの市民を招き入れるロジックを疑問視し、そのシェンゲン圏全域に及ぶリスクを重大視しているようである。

ハンガリーが中国の観光客の増加に対応するため、ハンガリーにおける中国警察のパトロールを認めることになった一件も甚だしく胡散臭く思われる。

第三は、「主権防衛法」である。法の支配などを巡るハンガリーとの緊張関係は長期間継続しているが、10月3日、欧州委員会は、この法律(2月に発効)は市民の基本的権利を犯すなどEU法に違反するとして、EU司法裁判所に提訴した。この法律は外国や外国の機関の利益のためと疑われる活動を調査する趣旨で、権威主義的体質の政権が好む種類のものである。

ウクライナに言及しなかったオルバン
オルバンは演説の冒頭、「EUは変わる必要があり、本日はそのことについて諸君を説得したい」と述べたらしい。そうはならなかった。

議員が次々に立って、民主主義の後退とロシア寄りの立場を攻撃した。最大会派の欧州人民党を率いるマンフレート・ヴェーバー(ドイツの政治家)は、オルバンがウクライナに一行たりとも言及しなかったことに衝撃を受けたと述べた。

オルバンは非難に対し、「欧州委員会は権限を逸脱している。欧州委員会は『中立』で『条約の守護者』であるべきなのに、『政治的兵器』になっている」と主張したと報じられている。【11月1日 WEDGE】
******************

フォンデアライエン欧州委員長が取り上げたハンガリー動乱は、ソ連時代のハンガリーの抵抗運動で、ソ連軍侵攻によって鎮圧されました。

****ハンガリー動乱****
1956年10月23日よりハンガリーで起きた、ソビエト連邦(ソ連)や勤労者党政権の権威と支配に反対する民衆による全国規模のデモ行進・蜂起および、ハンガリー政府側がソ連軍に要請した鎮圧によって市民約3,000人が犠牲となり、20万人以上が難民となり国外へ亡命したとされる事件。【ウィキペディア】
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【オルバン首相 国民に「EUへの抵抗」呼び掛け 「外国勢力、今回はEUの意思に屈するのか、それとも抵抗するのか?」】
フォンデアライエン欧州委員長がハンガリーにとって“抑圧に対する闘いの象徴”でもあり、最大の国難でもあったハンガリー動乱を念頭にオルバン路線を批判したことには、オルバン首相は相当に“頭に来た”というか、“地雷を踏んだ”形になったのかも。

オルバン首相は、ハンガリー動乱で旧ソ連に対して行ったようにEUに「抵抗」するよう呼び掛けるという過激な反EU姿勢を明らかにしています。

なお、オルバン首相は今でこそ国粋主義者で親ロシアとされていますが、若かりし頃(未だハンガリーがソ連衛星国として社会主義政権下にあった頃)は社会主義・共産主義への抵抗運動に参加し、ハンガリー動乱で失脚、処刑されたナジ・イムレの再埋葬式で、「共産主義と民主主義は併存し得ない」と社会主義政権打倒を訴える演説を行い、民主化の旗手として名を高めた経歴があります。【ウィキペディアより】

****ハンガリー首相、国民に「EUへの抵抗」呼び掛け 反ソ暴動になぞらえ****
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は1956年に起きた反ソ暴動「ハンガリー動乱」から68年を迎えた23日、国民に対し、ハンガリー動乱で旧ソ連に対して行ったように欧州連合に「抵抗」するよう呼び掛けた。

ハンガリーはEUの輪番議長国を務めているが、国粋主義者のオルバン氏は、EUで最もロシアに近い指導者として知られる。同氏はこれまでも西側諸国とロシアの間で戦争になる恐れがあるとあおり、その原因はEUと北大西洋条約機構にあると主張している。

2010年から実権を握るオルバン氏は現在、与党「フィデス・ハンガリー市民同盟」を離脱して野党指導者となったマジャル・ペテル氏の前例のない挑戦を受け、強まる圧力にさられている。

オルバン氏は首都ブダペストの公園に集まった人々に対し、「外国勢力、今回はEUの意思に屈するのか、それとも抵抗するのか? 私たちの答えは1956年と同じように明白でなければならないのではないか」と呼び掛けた。
「われわれが1956年から得た教訓は、ハンガリーとその自由のために、ただそのために戦わなければならないということだ」と付け加えた。

ハンガリー動乱は1956年10月23日に始まり、旧ソ連によって11月4日に鎮圧された。約3000人が死亡、2万人が負傷し、ハンガリーの抑圧に対する闘いの象徴となった。

同日オルバン氏の発言後に行われたデモ行進で、マジャル氏はオルバン政権がロシアに屈服していると非難。
参加者らに向かって「私たちの国は現在、ハンガリーの自由と立憲主義の基盤である1956年から受け継いだものをほぼすべての言動で冒涜するような男によって導かれている」と訴えた。

オルバン氏は、ウクライナ政府が提案する「勝利計画」の下では「ハンガリー国民がある朝目覚めたら、東から襲来したスラブ兵が再びハンガリー領内に駐留していることになるだろう」と警告した。

オルバン氏は演説で、EUはマジャル氏をトップに据えて、ハンガリーに「かいらい政権」を樹立しようともくろんでいるとも主張。

「EUがハンガリーを戦争に追い込もうとしていることも、移民を押し付けようとしていることも、ハンガリーの子どもたちをジェンダー活動家に引き渡そうとしていることも分かっている」と続けた。

オルバン氏は法の支配から性的少数者の権利に至るさまざまな問題で、EUと頻繁に衝突している。 【10月24日 時事】
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ハンガリー動乱で旧ソ連に対して行ったように欧州連合に「抵抗」するよう呼び掛けた・・・・もはや、EU議長国の立場は全く関係なく、ハンガリーがEUに残存していることさえ疑われるような激しいEU批判です。

フォンデアライエン欧州委員長とオルバン首相、“両者足を止めてリング中央で打ち合い”状態です。

【スロバキア・フィツォ首相もEUのウクライナ支援を批判】
なお、中央スロバキアの左派・親ロシアのフィツォ首相もEUのウクライナ支援を批判しています。

****スロバキア首相、ロシアのテレビに出演 ウクライナ巡りEU批判****
中欧スロバキアのフィツォ首相は30日、ロシア国営テレビ「ロシア1」に出演し、第二次世界大戦で旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利したことを祝う「戦勝記念日」に当たる来年5月9日にモスクワを訪問したいと語り、ウクライナ戦争への欧州連合(EU)のアプローチを批判した。これを受け、国内の野党から批判の声が上がった。

スロバキアのメディアによると、EU加盟国の首脳がロシアのテレビに出演するのは2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降初めて。

フィツォ氏率いる左派の民族主義政権は1年前の発足直後にウクライナへの軍事物資の供給を停止し、武器の供給が紛争を長引かせていると主張してきた。

フィツォ氏はロシア大統領府支持派のテレビ解説者オルガ・スカベエワ氏とのインタビューで、来年の戦勝記念日に訪問したいと述べた。

また、ウクライナの和平計画はもはや実行不可能だとし、ロシア語に翻訳されたコメントで、「これはもう和平策ではなく、突然、勝利計画と呼ばれるようになった」などと指摘した。

最大野党のシメツカ党首は「国内でフィツォ氏のつぎはぎ行政は崩壊しつつある。医療は首相にとって議題ではないが、首相はロシアのプーチン大統領に奉仕する時間は見つけるだろう」と批判した。【10月31日 ロイター】
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カザフスタン  中国との経済関係強化 一方でロシアへの配慮も

2024-11-01 22:24:04 | 中央アジア

(「中欧班列」 中国とヨーロッパ25か国をつなぐ【10月31日 TBS NEWS DIG】)

【2024年「カザフスタン観光年」で、中国ではカザフスタン観光が大きなブームに】
中国と言う国は実に多くの国と国境を接しています・・・北朝鮮、ロシア、モンゴル、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、アフガニスタン、パキスタン、インド、ネパール、ブータン、ミャンマー、ラオス、べトナム

インドとは領有権で衝突していましたが、最近、両国軍が国境から撤収することになっています。
ミャンマーでは、少数民族武装勢力と国軍の内戦が続いていますが、中国はその両方と関係を有しています。
アフガニスタン・タリバン暫定政権とは接近が目立ちますが、アフガニスタンなどからの新疆ウイグル自治区へのイスラム過激派流入を警戒しています。
ロシアとはアムール川国境をめぐってソ連時代に軍事衝突もありましたが、2008年に解決に至っています。
1979年にはベトナムと中越戦争を戦いました。また、かつては北朝鮮を支援して韓国・アメリカと朝鮮戦争を。

島国日本とは、外交・安全保障に対する考えもおのずと異なってくるでしょう。

そうした国境を接する国のひとつがカザフスタン。中央アジアの資源大国であると同時に、「一帯一路」を進める中国にとって欧州へつながる窓口として近年重要性が増しているカザフスタンとの関係が注目されています。

****中国ではカザフスタン観光が大きなブームに****
中国で2024年「カザフスタン観光年」の開始に伴い、カザフスタン観光ブームが大きな盛り上がりを見せています。
 
トリップドットコム・グループ(携程)によると、今年に入ってから中国人によるカザフスタン観光旅行の注文は前年同期比で229%増加し、コロナ禍発生前の2019年比では262%増の状態です。人気が最も高い旅先は、アルマトイ市です。

このほど、中国「カザフスタン観光年」のイベントの一つである「アルマトイ観光日」が西安と北京で相次いで行われました。カザフスタン最大の都市が中国人観光客に歓迎の招待状を出したわけです。

イベントに出席した在中国カザフスタン大使館のシャルカルバエフ参事官は、「両国間には現在、北京-アルマトイ、杭州-アルマトイ、ウルムチ-アルマトイ、そして三亜-アルマトイの航路が開設されている。今後も双方の努力により航路が増えていくと信じる」と述べました。

昨年11月には両国の相互ビザ免除協定が発効し、両国の観光客の往来はより便利になりました。カザフスタン側の調べによると、今年2月には中国からカザフスタンへの観光客数が協定発効前の13倍になりました。昨年11月10日から今年3月末までにカザフスタンを訪れた中国人観光客は12万6000人に達しました。

携程研究院の毛琳研究員は、「アルマトイのほか、カザフスタン首都のアスタナも中国人観光客が必ず訪れる目的地だ。カザフスタンには優れた観光資源がある。カザフスタン観光の知名度が上昇するにつれ、ブームはさらに熱気を帯びる」の見方を示しました。【10月29日 AFP】
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こうした観光振興も、政治的関係強化を背景としたものでしょう。

【上海協力機構(SCO)首脳会議の際、中国・カザフスタン首脳が両国関係強化を確認】
今年7月にはカザフスタン・アスタナで開催された上海協力機構(SCO)首脳会議に習近平国家主席が出席、カザフスタンのトカエフ大統領との会談も行われて両国関係強化が確認されました。

****中国主席、カザフ大統領と夕食=ロシア勢力圏で影響拡大****
中国の習近平国家主席は2日、中ロ主導の上海協力機構(SCO)首脳会議が開かれるカザフスタンの首都アスタナを公式訪問した。カザフ側の発表によると、トカエフ大統領と2日に夕食を共にしながら会談。

3日の中ロ首脳会談に先んじた形で、ロシアのプーチン大統領は対中関係を重視しながらも、自らの勢力圏とする中央アジアへの中国の影響力拡大に内心穏やかではなさそうだ。

習氏は2022年9月、ウズベキスタンで行われたSCO首脳会議の直前にもカザフを公式訪問。これがコロナ禍が始まってから初の外遊となり、巨大経済圏構想「一帯一路」を推し進める姿勢を示していた。【7月3日 時事】 
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中国・カザフスタン両国は、国交樹立30周年だった2022年に続く2023~2053年を「黄金の30年」とし、両国の互恵的関係を強化し、共存共栄を目指すとしているそうです。

****カザフスタンと中国、「黄金の30年」に向けて経済協力を強化****
カザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領と、首都アスタナで開催された上海協力機構首脳会議で同国を公式訪問した中国の習近平国家主席は、7月3日に首脳会談を行った。

続いて両国の代表団を交えた拡大会議が開催され、両首脳共同声明のほか、31件の政党・政府・省庁間の協力文書が署名された。これに先立つ7月2日にはカザフスタン中国ビジネス評議会第7回会合が開催され、中国の大企業約50社の代表を含む500人以上が参加し、再生可能エネルギー、運輸、eコマースなどの分野の40件を超える、合計約37億ドルの協力文書が署名された。

首脳会談でトカエフ大統領は、「(習国家主席が)両国民の利益のために両国関係を新たなレベルに引き上げようと主導していることを全面的に支持する」と述べた。習国家主席は、2023年に北京と西安で行われた2回の首脳会談に言及し、「新たな計画を立案し、『黄金の30年』における急速な2国関係の発展を主導した」と評し、中国は常にカザフスタンの良き隣人・パートナーであり続けると述べた。

トカエフ大統領によると、2023年の2国間貿易は過去最高の410億ドル超で、中国はカザフスタンにとって最大の貿易相手国だ。(後略)【7月11日 JETRO】
********************

【中国にとってカザフスタンは欧州への窓口としての重要拠点 カザフスタンは一方でロシアにも配慮したバランス外交】
従来からカザフスタンを含む中央アジアはロシアの勢力圏であり、「ロシアの裏庭」とも言われていますが、ウクライナ侵攻以降、中央アジア地域にはある種の「経済的な空白地帯」が生まれ、そこに中国が入り込んでいく。「ロシアの裏庭」の国々は今、「ロシア離れ」を起こしているのではないか・・・・そうした見方もありますが、中央アジア諸国にとってロシアの存在感はやはり大きく、ことはそれほど単純ではないようです。

****中国・ロシアで新覇権争い「グレートゲーム」最前線の中央アジア 中国とカザフスタン国境の街を歩いた****
中国とロシア、2つの大国に挟まれた中央アジアの国々。旧ソ連の一員であったことから歴史的にロシアの影響力が強い中央アジアに今、異変が起きている。存在感を増しているのは中国だ。中国とロシアの間で繰り広げられる21世紀の「グレートゲーム」。その現場を歩いた。

中国・カザフスタンの国境で賑わう「自由貿易特区」
「中国からカザフスタンへ、カザフスタンから中国へ、そしてまたカザフスタンへ」
赤と青に塗り分けられた中国とカザフスタンの国境線をスキップしながら大はしゃぎする中国人観光客。

赤は中国・青はカザフスタン中国の首都・北京から飛行機で西に4時間半。ここは中国の新疆ウイグル自治区とカザフスタンの国境の街・ホルゴスにある「自由貿易特区」。両国の経済関係を強化しようと2012年に作られ、習近平国家主席が主導し開発を推し進めてきた。

中国人、カザフスタン人双方がビザなしで入ることができるこの特区。面積は5.6平方Km、東京ドーム100個がすっぽり収まるほどの広さにホテルをはじめ、中国人、カザフスタン人が経営するレストランやお店が立ち並んでいる。今年はすでに両国から500万人が訪れる、人気エリアとなっている。

北京支局のカメラマンとして中国の北京に駐在する私。中国側から出国審査を通過して「自由貿易特区」に入る。パスポートはチェックされるが、スタンプは押されない。手続きはいたって簡単。ただし、「自由貿易特区」を通り抜けてカザフスタン側に行くことはできない。

商品を免税で安く手に入れられるとあって、この日も多くの観光客や貿易商が訪れていた。カザフスタン人に人気なのは中国製の服や化粧品などの日用品。一方、中国人に人気なのはカザフスタン製のはちみつ、チョコレート、タバコなど。(中略)

中国とヨーロッパを結ぶカザフスタンは「一帯一路」の要衝
なぜこの場所に経済特区ができたのか?それは、中国にとってカザフスタンはヨーロッパにつながる要衝であり、中国が推し進める巨大経済圏構想「一帯一路」の中核と位置づけられている「中欧班列」の重要拠点だからだ。

中国とヨーロッパ25か国をつなぐ「中欧班列」とは中国とヨーロッパ25か国を結ぶ鉄道のこと。特にここホルゴスは「中欧班列」の3つのルートのうち最大の運行数を誇る西ルートの重要拠点。

確かに街を歩くとたくさんの貨物を運ぶ列車の往来を間近で見ることができる。貨物の積み替え拠点は増築中で、さらに輸送量を増やそうとしているのがわかる。

「中欧班列」は船での輸送に比べ3分の1の日数で貨物が運べるという利便性から、運行数は10年前に比べ20倍以上に増加し、日々その重要性を増している。

自由貿易特区」と「中欧班列」。その地理的重要性からホルゴスは北京から見て西の果てにあるにも関わらず、たくさんのホテルや商業施設が立ち並び、他省からも出稼ぎ労働者を呼び寄せる、活気のある街として急成長していた。

両国の関係強化にも関わらず厳しい国境警備・・その訳は「ウイグル民族政策」
一方、カザフスタン側にはどんなメリットがあるのだろうか?今回私は「自由貿易特区」のカザフスタン側の責任者に取材のアポを入れていた。てっきり「自由貿易特区」内にいるのだろうと思っていたが前日にインタビューの場所を再確認すると、なんと国境を越えてカザフスタン側に来いという。

「『自由貿易特区』があるくらいだから、中国側から歩いて簡単にカザフスタン側に行けるのだろう」。気楽に考えていた私だったが国境越えは想像以上に大変だった。まず中国側のバスターミナルから指定されたバスに乗り、中国国境へ→徒歩で移動し、出国手続き→再びバスに乗りカザフスタン国境へ移動→バスを降りて入国手続き→再びバスに乗りカザフスタン側の指定するバスターミナルまで移動と、カザフスタンの地に降り立つまで、なんと5時間近くもかかってしまった。

内想定外のバスの旅。しかし、その旅は思いがけず中国とカザフスタンの力関係を考えさせられるものになった。車窓から景色を眺めていると、高層ビルが建ちならぶ中国側の発展ぶりとは対照的にただただ荒野が広がっている。

印象的だったのはカザフスタンから中国に向かうトラックの荷台の多くは空っぽだったこと。中国からの輸入品を運ぶためのトラックであることがうかがえる。実際、バスに乗り合わせた中国人男性は中国で買い付けた日用品をカザフスタン側に売る貿易の仕事をしていると話した。

「自由貿易特区」でも衣類に日用品に電化製品にとあふれんばかりの中国製品に比べ、カザフスタン側の「売り物」ははちみつとチョコレートくらい。

「あまりに貿易不均衡では?」と心配になったが、中国側にももちろんメリットはある。それはカザフスタンの石油、天然ガスや鉱物などの資源だ。そして何度も繰り返すが、中国にとってのカザフスタンの重要性はヨーロッパへの窓口、ということに尽きる。

もうひとつ、バスの旅で気が付いたことがある。異常に厳しい国境管理である。中国とカザフスタンの間には高い鉄条網で囲われた緩衝地帯が延々と設置されている。数キロおきに監視塔もある。

国境越えのルートは先ほど記したバスルートのみ。しかもバスを乗り降りする度に国境警備隊の再三にわたるパスポートチェックがあった。

中国とカザフスタンの関係は良好なはずではなかったのか?厳しい国境警備の理由。それは、ホルゴスが「新疆ウイグル自治区」にあるからだと、  法政大学の熊倉潤教授は話す。

「中国にとってカザフスタンは新疆ウイグル自治区を『統治する』ためにも重要なのです。新疆ウイグル自治区からカザフスタン経由で国外に逃れたウイグルの人たちも多く、また、カザフスタン経由で『ウイグル独立』などの思想の流入を防ぎたい中国にとってカザフスタンは『新疆ウイグル自治区の治安を維持』するためのパートナーとしての意味合いも強いのです」

中国政府に不満をもつウイグルの人たちはカザフスタンなど中央アジアの国々を経由し、国外に亡命してきた。それを防ぐため厳重な国境警備になっているのだという。

近年、新疆ウイグル自治区の人権をめぐり、中国は国際社会から批判を浴び続けているが、ヨーロッパにつながる要衝のカザフスタンに隣接する新疆ウイグル自治区は中国政府にとって絶対に手放せない場所。

だからこそ異常なまでの「漢族との同化政策」をとり、「テロ対策」「貧困対策」の名のもと「強制収容所」に人々を送り込み、独立運動を押さえつけるのだ。思いがけずウイグル問題の本質を、厳しい国境警備から垣間見ることになった。

旧ソ連の一員だったカザフスタンをはじめとする中央アジアの国々は、もともとロシアの影響力が強く「ロシアの裏庭」と呼ばれていた。

しかし今、大きな変化が起きている。転機となったのは2022年のロシアによるウクライナ侵攻。これにより、中央アジアにおけるロシアの経済的な影響力が低下。その隙を突くように影響力を拡大し始めたのが中国だ。

中国は2023年、「中国・中央アジアサミット」を初めて開催。中央アジアの国々に対し約5000億円の融資と無償援助を行うことを表明した。

ヨーロッパへの窓口という地理的な重要性に加えて、中央アジアの国々が持つ石油や天然ガスなど豊富な資源も中国にとって大きな魅力となっている。そしてカザフスタンの最大の貿易相手国は昨年、ついにロシアから中国にとって代わった。

ウクライナ侵攻については聞かないでください」中国とロシアの間で揺れるカザフスタンのしたたかさ
ようやく会えた「自由貿易特区」の責任者。しかし、彼の口から飛び出したのは、思いがけない一言だった。

ホルゴス国際国境協力センター・ヤーゼン・サイノビッチ・クルマシェフ社長
「この自由貿易特区はカザフスタンと中国のビジネス関係の始まりです。この特区はまさにその原点なのです。ここを経由して中国とヨーロッパはつながっているのです」
「ただし、中国の『一帯一路』のプロジェクトに直接の関わりはありません」

「一帯一路とは関係ない」。何度違う角度から質問してみても、社長の言い方は変わらなかった。むしろ「中国だけでなくウズベキスタンやキルギスからのビジネスマンも来ますよ」「この道路はロシアと中国の合意によって作られたものです」など、中国「色」を薄めようとする発言ばかりが繰り返されるインタビューとなった。

さらに、興味深いことがあった。インタビュー直前、カザフスタン人スタッフが「『ロシアのウクライナ侵攻の影響』については質問しないでください」と私に念を押したのだ。

結果、中国にもロシアにもくみしない、慎重な物言いが目立つ、奥歯にものが挟まったようなインタビューとなったが、その姿勢こそが今のカザフスタンの置かれた立場を象徴しているように見えて、私には逆にとても印象深い取材となった。

ロシアによるウクライナ侵攻以降、中央アジア地域にはある種の「経済的な空白地帯」が生まれ、そこに中国が入り込んでいく。「ロシアの裏庭」の国々は今、「ロシア離れ」を起こしているのではないか。そんな見方も広がっているが、専門家はその見方を否定する。

法政大学 熊倉潤 教授  
「ソ連崩壊以降、中央アジアの国々はロシア由来のキリル文字からアルファベットにかえるなど、独立国家としてのアイデンティティーを求めている一面はあります。

しかし、ロシアから離れたいというわけではなく、ロシアの安全保障・経済面における磁力は未だに健在です。一方で、中国と経済関係を強化しつつも中国の『経済的植民地』にはなりたくない、という警戒感もあります。

カザフスタンなどの中央アジア国家は中国と向き合うときはロシアを後ろ盾にし、ロシアに向き合うときは逆に中国を後ろ盾にするなど、バランス外交をしています」

取材後記
中国・カザフスタン両方の国境の街を歩いて感じたこと。それは「中欧班列」の要衝であるこの地域にかける中国の本気度、そしてその中国とつかず離れず付き合う、カザフスタンのしたたかさだった。

習近平国家主席は「ホルゴスを深圳にする」と意気込んだというが、中国の西の端の田舎町がたった10年で高層ビルが立ち並ぶ「都市」になっていることに驚いた。

「一帯一路」の核心である「中欧班列」の推進、そして「ウイグル民族対策」。様々な思惑からカザフスタンとの関係を強化していこうとする中国の強い意思を感じた。

一方のカザフスタン側。古びた木造の平屋が立ち並び、舗装されていない道を中古車が土煙をあげながら走っていた。時間までがゆったりと流れているような、どこか懐かしい、過去にタイムスリップしたような感覚に陥る景色に、中国とのあまりの経済格差を実感しないわけにはいかなかった。

カザフスタンのホルゴス国際国境協力センター社長やそのスタッフが、「カザフスタンは中国とさらに経済関係を深化させていきたい」と話す一方、「ウクライナ侵攻の影響に関わらず、ロシアはあくまで重要なパートナーである」と強調した。カザフスタンを挟む2つの大国に対する配慮が常に感じられ、そのバランス感覚が強く印象に残った。

19世紀以来、大国の覇権争いに巻き込まれ続け、「グレートゲーム」の舞台となってきた中央アジア。時は移ろい、今は中国とロシアという新たなプレーヤーによる勢力争いの渦中にある。

しかし、そこには歴史的、文化的につながりの深いロシアと関係を維持しつつも中国から経済的利益を引き出そうとするしたたかな姿が浮かび上がってきた。21世紀の「グレートゲーム」がどのような展開を見せるのか。その動向から目が離せない。【10月31日 TBS NEWS DIG】
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大国に挟まれた国が、両方に配慮しつつ最大の利益を双方から引き出そうとするバランス外交を展開するのは多く見られるものですが、カザフスタンもまたそのひとつということです。
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